説明

3−キヌクリジノン還元酵素およびこれを用いる(R)−3−キヌクリジノールの製造方法

【課題】3−キヌクリジノンを高い立体選択性で(R)体に還元する酵素、および該酵素を利用し、高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】以下の生化学的性質を有する酵素が提供される:(1)還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する;および(2)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。当該酵素を高発現する形質転換体を用いることにより、高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬および農薬に利用される光学活性な生理活性化合物として有用である(R)−3−キヌクリジノールの製造に関する。より詳細には、本発明は、3−キヌクリジノンを不斉還元して(R)−3−キヌクリジノールを生成する酵素、および該酵素を利用して(R)−3−キヌクリジノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、生理活性を有する多くの化合物は、その光学異性体の混合物として使用されている。しかし、望ましい活性は、一方の光学異性体のみに存在する場合が多い。さらに、所望の活性を有しない他方の光学異性体が、生体に対して毒性を有する場合があることも知られている。したがって、有効かつ安全な医薬または生理活性化合物を提供するためには、その原料または合成中間体として用いられる光学純度の高い光学活性物質の製造方法を開発することが強く要望されている。
【0003】
3−キヌクリジノンの還元生成物である3−キヌクリジノールは、スクアレンシンターゼ阻害作用を有する動脈硬化症の治療剤、またはムスカリン受容体拮抗作用を有する気管支拡張剤、および胃腸運動抑制剤などの合成中間体として知られる化合物である(特許文献1〜5を参照)。
【0004】
不斉炭素原子を有する3−キヌクリジノールには、光学異性体が存在する。従って、合成中間体として有用な光学活性3−キヌクリジノールを分離する必要があり、現在までにいくつかの試みがなされている。
【0005】
光学活性3−キヌクリジノールの製法として、これまでに、例えば、1−ベンジル−3−ヒドロキシキヌクリジウムクロライドをD−酒石酸誘導体で光学分割し、(S)−(+)−3−キヌクリジノールを生産する方法(非特許文献1)、およびD−グルコースからの(S)−(+)−3−キヌクリジノールの合成方法(非特許文献2)が報告されている。ロジウム錯化合物を触媒として3−キヌクリジノンのルイス酸付加物を不斉水素化して、光学活性3−キヌクリジノールを製造する方法(特許文献6)も報告されているが、光学純度が低く、工業的な製造方法ではない。
【0006】
微生物や酵素を利用する方法として、例えば、(R,S)−キヌクリジニルブチレートに、馬血清ブチルコリンエステラーゼを作用させ、光学活性(S)−(+)−3−キヌクリジニルブチレートを残存させる方法(非特許文献3)、バチルス(Bacillus)属に属する微生物由来のプロテアーゼを作用させ、高い光学純度の光学活性(R)−(−)−3−キヌクリジノールを製造する方法(特許文献7)がある。ラセミ体の3−キヌクリジノールエステルを出発物質とする例として、ズブチリシンプロテアーゼを用いて(R)−3−キヌクリジノールを製造する方法(特許文献8)、アスペルギルス(Aspergillus)属またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物に由来するエステル分解酵素を用いてエステルを加水分解し、光学活性(R)−(−)−3−キヌクリジノールおよび(S)−(+)−3−キヌクリジノールを製造する方法(特許文献9)、およびアスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、キャンディダ(Candida)属、またはシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物菌体や酵素などによる不斉加水分解に基づいて、光学活性3−キヌクリジノールまたは光学活性3−キヌクリジノールエステルを製造する方法(特許文献10)も知られている。
【0007】
しかし、これらの方法では、光学純度が低いこと、合成工程の煩雑さから大量生産が容易でないことなどの問題がある。また、いずれの方法も、ラセミ体の3−キヌクリジノールを光学分割して目的の光学異性体を得る手法であるため、目的としない他方の光学異性体が残存する。そのため、これらの方法では、目的としない光学異性体に関して、その不斉炭素の立体配置を反転させて目的の光学異性体へ変換させる工程、あるいは目的としない光学異性体をラセミ化して、再度の光学分割による目的の光学異性体を得る工程を必要とし、生産コストが高くなるという問題がある。
【0008】
さらに、キヌクリジノン(特に、3−キヌクリジノン)を出発物質としてキヌクリジノール(特に、3−キヌクリジノール)の光学活性体を効率よく生成するために、微生物またはその酵素による不斉還元反応を利用することが報告されている(特許文献11〜14)。特許文献11には、3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを生成する微生物として、ナカザワウェア(Nakazawaea)属、キャンディダ(Candida)属、およびプロテウス(Proteus)属が含まれることが記載されている。特許文献12には、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、フィロバシディウム(Filobasidium)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、オーレオバシディウム(Aureobasidium)属、またはヤロウィア(Yarrowia)属に属し、かつ3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを生成する能力を有する微生物を用いることが記載されており、ロドトルラ(Rhodotorula)属の微生物としては、ロドトルラ・アウランティアカ(Rhodotorula aurantica)が具体的に記載されている。特許文献13には、ゲオトリカム(Geotrichum)属、ツカムレラ(Tsukamurella)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、クルチア(Kurthia)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、アクレモニウム(Acremonium)属、またはムコー(Mucor)属に属し、かつ3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを生成する能力を有する微生物を用いることが記載されている。特許文献14には、ロドトルラ(Rhodotorula)属、キャンディダ(Candida)属、スポリディオボルス(Sporidiobolus)属、ロドスポリディウム(Rhodosporidium)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ゴルドナ(Gordona)属、ピキア(Pichia)属、およびノカルディア(Nocardia)属に属する微生物が記載されており、ロドトルラ(Rhodotorula)属の微生物としては、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)が記載されている。ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)が(R)体を生成することも記載されている。これらの方法においては、不斉還元反応のために微生物の菌体を用いている。このような菌体での反応は、その菌体に由来する不純物、他の酵素による副反応などにより、生成物の単離が煩雑になることがしばしばある。
【0009】
植物由来の酵素を利用する不斉還元反応によって、3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを生成する方法が報告されている(特許文献15)。この方法では、ヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)またはヒヨス(Hyoscyamus niger)に由来するトロピノン還元酵素−Iをグルコース脱水素酵素と大腸菌で共発現させて、補酵素の再生系と組み合わせて不斉還元反応により3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを製造している。
【0010】
光学活性3−キヌクリジノールの製造のために、3−キヌクリジノンの不斉還元反応を触媒する新規な酵素を見出したことが報告されている(特許文献16)。この酵素は、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物より産生され、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を補酵素として、3−キヌクリジノンあるいはその塩を還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する;および(2)3−キヌクリジノンを基質とした場合の至適pHが7.0から9.0の範囲内にあるという性質を有する。
【0011】
このように、光学活性3−キヌクリジノールを効率よく製造するために、3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールに不斉還元する作用を有する酵素を発見する試みがなされている。
【特許文献1】特開平8−134067号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第404737号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第424021号公報
【特許文献4】国際特許出願公開第92/04346号公報
【特許文献5】国際特許出願公開第93/06098号公報
【特許文献6】特開平9−194480号公報
【特許文献7】米国特許第5215918号明細書
【特許文献8】独国特許出願第19715465号明細書
【特許文献9】特開平10−210997号公報
【特許文献10】特許第3129663号公報
【特許文献11】特開平10−243795号公報
【特許文献12】特開2000−245495号公報
【特許文献13】特開2002−153293号公報
【特許文献14】特開平11−196890号公報
【特許文献15】特開2003−230398号公報
【特許文献16】特開2003−334069号公報
【非特許文献1】エイ.カリア(A. Kalir)ら、イスラエル・ジャーナル・オブ・ケミストリー(Israel Journal of Chemistry), 1971年、9巻, pp.267-268
【非特許文献2】ジー.ダブリュー.ジェイ.フリート(G. W. J. Fleet)ら、テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters), 1986年, 27巻, pp.3057-3058
【非特許文献3】エム.レハビ(M. Rehavi)ら、ライフ・サイエンシーズ(Life Sciences), 1977年, 21巻, pp.1293-1302
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、3−キヌクリジノンを高い立体選択性で(R)体に還元する酵素、および該酵素を利用し、高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の生化学的性質を有する酵素を提供する:
(1)還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する;および
(2)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。以下、この酵素を、「3−キヌクリジノン不斉還元酵素」という場合がある。
【0014】
1つの実施形態では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、SDS−PAGEで測定した場合のサブユニットの分子量が30,000であり、ゲル濾過クロマトグラフィーで測定した場合の全分子量が93,000である。
【0015】
別の実施形態では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を有する。
【0016】
さらに別の実施形態では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)に由来する。
【0017】
本発明はまた、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0018】
1つの実施形態では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、配列番号40に記載の塩基配列を有する。
【0019】
本発明はまた、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。以下において、便宜上、このベクターを「3−キヌクリジノン不斉還元酵素発現用ベクター」ともいうが、これは、このベクターが、3−キヌクリジノン不斉還元酵素の遺伝子のみを発現することを意図しているわけではない。
【0020】
1つの実施形態では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素発現用ベクターは、tacプロモーターおよびlacIqリプレッサー遺伝子をさらに含み、上記tacプロモーターは、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを制御する。
【0021】
さらなる実施形態では、上記ベクターは、NADPをNADPHに再生する酵素(以下、「NADPH再生酵素」ともいう)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む。このベクターを、以下、「3−キヌクリジノン不斉還元酵素およびNADPH再生酵素同時発現用ベクター」ともいう。
【0022】
1つの実施形態では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素およびNADPH再生酵素同時発現用ベクターは、lacIqリプレッサー遺伝子および2つのtacプロモーターを含み、上記2つのtacプロモーターの一方が、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを制御し、かつ他方が、上記NADPをNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを制御する。
【0023】
別の実施形態では、上記NADPをNADPHに再生する酵素はグルコース脱水素酵素である。
【0024】
さらなる実施形態では、上記グルコース脱水素酵素はバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来である。
【0025】
本発明はまた、上記ベクターを発現可能に保持する形質転換体を提供する。
【0026】
本発明は、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターおよびNADPをNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターをそれぞれ発現可能に保持する形質転換体を提供する。
【0027】
1つの実施形態では、上記形質転換体において、宿主は大腸菌である。
【0028】
さらなる実施形態では、上記大腸菌は、ラクトースオペロンに欠損のない大腸菌である。
【0029】
本発明はまた、(R)−3−キヌクリジノールまたはその塩の製造方法を提供し、該方法は、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素または上記形質転換体、その培養液もしくは処理物を3−キヌクリジノンまたはその塩に作用させる工程を含む。
【0030】
1つの実施形態では、上記作用工程において、NADPがさらに添加される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、3−キヌクリジノンを高い立体選択性で(R)体に還元する酵素が提供される。さらに、該酵素を高発現させることにより、高い光学純度を有する(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明において、酵素とは、精製酵素に限定されず、粗精製物、固定化物なども含まれる。酵素の精製は、例えば、アセトン処理物および細胞破砕物を用いて、硫安沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、疎水相互作用クロマトグラフィーなどの、当業者に周知の方法を用いて行われ、種々の精製度の酵素(ほぼ均一までに精製された酵素を含む)が得られ得る。
【0033】
また、本発明において、形質転換体とは、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードする遺伝子が導入され、該遺伝子が発現した組換え微生物をいう。形質転換体の培養液とは、微生物菌体を含む培養液、および遠心分離などにより微生物菌体を除いた培養液の両方を意味する。微生物菌体の処理物として、例えば、アセトン処理物、超音波処理などによる細胞破砕物、機械的並びに酵素的方法により細胞壁を破砕した無細胞抽出物、界面活性剤、有機溶媒などにより処理したもの、それらの固定化物などが含まれる。これらは、当業者に周知の方法により調製され得る。例えば、アセトン処理物は、培養により得られた微生物菌体またはその懸濁液を、冷却した(例えば、−20℃)アセトン中に攪拌し、その後例えば濾過により得られる、上記の酵素活性を保持した粉体状の菌体処理物である。微生物菌体の固定化は、例えば、微生物菌体の存在下で、カラギーナンまたはアクリルアミドなどのゲル化剤をゲル化することによって行われる。
【0034】
<3−キヌクリジノン不斉還元酵素>
本発明は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を提供する。この酵素は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する能力を有する。この酵素は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。これらの活性を、以下の説明において、「3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性」という。なお、この酵素は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を補酵素として利用できない。
【0035】
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、泳動条件などにより若干変化し得るが、例えば、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)に由来する天然の酵素は、SDS−PAGE測定によるサブユニットの分子量が約30,000、ゲル濾過クロマトグラフィーで測定した分子量が約93,000である。本酵素は、ホモトリマーである。
【0036】
また、本酵素は、3−キヌクリジノンを基質とした場合の至適pHが6.0から8.0の範囲内にある。本酵素は、37℃にて16時間処理した場合、pH6.0からpH8.5の広い範囲で安定である。
【0037】
本酵素の至適温度は、好ましくは、0〜50℃であり、より好ましくは、40℃付近である。本酵素は、例えば、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中で30分間処理した場合、40℃まで安定である。
【0038】
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素の活性は、例えば、以下のようにして確認され得る。活性の測定は、基本的には、0.5Mの3−キヌクリジノン・塩酸塩、0.5mMのNADPH、および酵素溶液50μlを含む200μlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を37℃でインキュベートし、波長340nmの吸光度の減少を測定することにより行われ得る。上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素の酵素量は、1分間に1マイクロモルのNADPHをNADPに変換させる酵素量を1単位(U)として定義される。本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、上記のNADPHをNADHに代えて測定することにより、NADHを補酵素として利用しないことが確認され得る。また、基本的に、0.5Mの(R)−3−キヌクリジノール、0.5mMのNADP、および酵素溶液50μlを含む200μlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を37℃でインキュベートし、波長340nmの吸光度の増加を測定することにより、(R)−3−キヌクリジノールから3−キヌクリジノンへの酸化反応を触媒しないことが確認され得る。
【0039】
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、好ましくは、配列番号41に記載のアミノ酸配列を有する。本酵素は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有する限り、天然型酵素のアミノ酸配列(例えば、配列番号41に記載のアミノ酸配列)に対して1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する酵素であってもよい。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res., 1982年, 10巻, pp.6487;Methods in Enzymol., 1983年, 100巻, pp.448;Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989年;PCR A Practical Approach, IRL Press, 1991年, pp.200)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、タンパク質の構造を改変することができる。本発明において、置換、欠失、挿入、および/または付加することができるアミノ酸残基数は、通常50以下、例えば30以下、あるいは20以下、好ましくは16以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは0〜3アミノ酸残基である。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもあるので、人工的にアミノ酸を変異した酵素のみならず、自然界においてアミノ酸が変異した酵素も、3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有する限り、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素に含まれる。
【0040】
上記天然型酵素のアミノ酸配列(例えば、配列番号41に記載のアミノ酸配列)に対して相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も、3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有する限り、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素に含まれる。本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、好ましくは、配列番号41に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。タンパク質の相同性(ホモロジー)検索は、例えばSWISS-PROT、PIR、DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベース、またはDDBJ、EMBL、あるいはGene-BankなどのDNA配列に関するデータベース、DNA配列を元にした推定アミノ酸配列に関するデータベースなどを対象に、BLAST、FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。タンパク質の活性の確認は、上記に記載の手順を利用して行い得る。
【0041】
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素の供給源は、特に制限されるものではないが、微生物などの生体細胞から得ることができる。そのような微生物としては、ロドトルラ(Rhodotorula)属などに属する微生物が挙げられる。好ましくは、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3785株、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM8113株、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM8117株、ロドトルラ・グルティニス(Rhodotolura glutinis)IFO0389株、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotolura graminis)IFO0190株、ロドトルラ・ミヌタ(Rhodotolura minuta)IFO0879株が挙げられる。特に好ましくは、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株である。なお、IFO番号およびJCM番号が付された菌株は公知であり、それぞれ財団法人発酵研究所および理化学研究所微生物系統保存施設から容易に入手することができる。
【0042】
上記微生物の培養に使用される培地は、日常的に用いられる、当業者に公知の固体培地または液体培地のどちらでもよい。好ましくは、液体培地が用いられる。微生物の培養に使用される培地の炭素源および窒素源として、培養される微生物が利用できる任意の炭素源および窒素源を用いることができる。このような炭素源としては、好ましくは、デンプン、スクロースまたはグルコースなどの糖、グリセロールなどのアルコール類、および有機酸(例えば、酢酸およびクエン酸)またはその塩(例えば、ナトリウム塩)が挙げられる。窒素源としては、好ましくは、酵母エキス、カゼイン、コーンスチープリカー、ペプトン、肉エキスなどの天然窒素源および硫安、塩安、尿素などの無機窒素化合物が挙げられる。炭素源の濃度は1〜20%(w/v)、好ましくは1〜5%(w/v)の範囲である。窒素源の濃度は1〜20%(w/v)、好ましくは1〜5%(w/v)の範囲である。培養温度は、上記の酵素が安定であり、そして培養される微生物が十分に生育できる温度であり、好ましくは20〜30℃である。培養時間は、上記の酵素が十分に産生される時間であり、好ましくは16〜48時間程度である。培養は、好ましくは、好気的な条件下で、例えば、通気攪拌または振盪を用いて行うことができる。
【0043】
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など);陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー;キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適当に組み合わせることにより精製することができる。例えば、上記微生物の菌体を破砕して無細胞抽出液を調製した後、硫安分画、疎水クロマトグラフィー、赤色色素をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー、および青色色素をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーを行うことにより、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)においてほぼ単一バンドにまで精製することができる。
【0044】
<3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチド>
上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドもまた、本発明に含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNAなどの天然のポリヌクレオチドに加え、人工的なヌクレオチド誘導体を含む人工的な分子であり得る。また本発明のポリヌクレオチドは、DNA−RNAのキメラ分子であり得る。本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号40に記載の塩基配列を含む。配列番号40に記載の塩基配列は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしており、このアミノ酸配列を含むタンパク質は、本発明による3−キヌクリジノン不斉還元酵素の好ましい形態を構成する。
【0045】
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドとしては、上記で説明したような配列番号41に記載のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含み、かつ3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドもまた挙げられる。当業者であれば、配列番号40に記載のポリヌクレオチドに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res., 1982年, 10巻, pp.6487;Methods in Enzymol., 1983年, 100巻, pp.448;Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989年;PCR A Practical Approach, IRL Press, 1991年, pp.200)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することによりポリヌクレオチドのホモログを得ることが可能である。
【0046】
また、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号40に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチドに相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドであって、かつ3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドもまた挙げられる。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、本明細書中に記載した塩基配列情報に基づいて、目的とする遺伝子を、上記で説明した微生物から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングが用いられる。また、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成することもできる。上記塩基配列情報に基づいて、上記以外の生物に由来する上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを取得することもできる。例えば、上記塩基配列もしくはその一部の配列を用いてプローブを設計し、他の生物から調製したDNAに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行うことにより、種々の生物由来の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを単離することができる。上記塩基配列情報に基づいて、DNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene-BankなどのDNAに関するデータベースに登録されている配列情報を用いてホモロジーの高い領域からPCR用のプライマーを設計することもできる。このようなプライマーを用い、染色体DNAもしくはcDNAを鋳型としてPCRを行うことにより、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを種々の生物から単離することもできる。
【0048】
ストリンジェントな条件でハイブリダイズできるポリヌクレオチドとは、配列番号40に記載の塩基配列中の任意の少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40個、60個または100個の連続した配列を一つまたは複数選択してプローブを設計し、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham Biosciences社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、洗浄条件:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを指す。
【0049】
より具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1% SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1% SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1% SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては、温度や塩濃度など複数の要素があり、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0050】
さらに、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号41に記載のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であって、かつ3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。タンパク質の相同性(ホモロジー)検索は、上で説明したとおりである。
【0051】
上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドは、遺伝子組換え技術を用いて、同種もしくは異種の宿主中で発現され得る。
【0052】
<ベクターおよび形質転換体>
本発明のベクターは、上記ポリヌクレオチドを含む。本発明の形質転換体は、本発明のベクターを発現可能に保持する。
【0053】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, 1989年参照)。微生物中で、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを発現させるためには、まず微生物中で安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターにこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5’側上流に、より好ましくはターミネーターを3’側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーターおよびターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーターおよびターミネーターが用いられる。これらの各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターなどに関しては、「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng., 1990年, 43巻, pp.75-102;Yeast, 1992年, 8巻, pp.423などに詳細に記述されている。
【0054】
例えば、大腸菌を宿主とする場合は、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドが利用できる。プロモーターとしては、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PRなどに由来するプロモーターなどが利用できる。発現効率の点から、tacプロモーターが好ましい。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどを用いることができる。発現効率を高めるために、リプレッサー遺伝子(例えば、ラクトースリプレッサー遺伝子)をさらに含めることもできる。特に、高発現型であるlacI遺伝子が好ましく使用できる。lacI遺伝子は、lacIリプレッサータンパク質を過剰に発現できるように変異された制御プロモーター部位に接続されたlacI遺伝子である。プラスミド上に配置されたlacI遺伝子が発現することにより、リプレッサータンパク質の生産量が高まるので、プロモーターによる目的遺伝子の発現をより効率よく制御し得る。なお、lacI遺伝子がリプレッサーの遺伝子であることを明確にするために、「lacIリプレッサー遺伝子」と表記する場合もある。
【0055】
本発明の形質転換体は、補酵素NADPのNADPHへの再生系が導入されていることが好ましい。3−キヌクリジノンを還元して(R)−3−キヌクリジノールを生成する過程で、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素はNADPHを要求する。この3−キヌクリジノン不斉還元酵素による還元反応に付随して、NADPHからNADPが生成する。NADPは、適当な基質の酸化反応を利用することによって、再び還元型であるNADPHに再生することができる。したがって、基質の還元反応の効率化のために、本発明の形質転換体では、NADPをNADPHに再生する酵素(「NADPH再生酵素」)が発現されることが好ましい。本発明におけるNADPH再生酵素としては、グルコース脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ホスホグルコン酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、およびグリセロール脱水素酵素が挙げられる。好ましくは、グルコース脱水素酵素(GDH)である。グルコース脱水素酵素は、好ましくは、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)に由来するグルコース脱水素酵素であり、より好ましくは、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株に由来するグルコース脱水素酵素である。バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株に由来するグルコース脱水素酵素をコードする遺伝子は既に単離され、その配列情報は、データベースに登録されている(UniProtKB/Swiss-Prot Accession No. P39482)。データベースに登録されている塩基配列に基づいて、PCRやハイブリダイズスクリーニングによって、当該微生物から取得することもできる。
【0056】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター、ターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結すること、およびラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることが可能である。
【0057】
これらの2つまたはそれ以上の遺伝子の宿主への導入には、不和合性を避けるために複製起源の異なる複数のベクターに別々に遺伝子を導入した組換えベクターにより宿主を形質転換する方法、単一のベクターに両遺伝子を導入する方法、一方もしくは両方の遺伝子を染色体中に導入する方法などを利用することができる。
【0058】
3−キヌクリジノン不斉還元酵素の遺伝子の発現を高めるために、この酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターは、プロモーターとしてtacプロモーターを含み得る。さらに、高発現型であるlacIqリプレッサー遺伝子を含み得る。
【0059】
3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドとNADPH再生酵素をコードするポリヌクレオチドとの宿主への導入について、a)単一のベクターに両遺伝子を導入する方法と、b)複製起源の異なる複数のベクターに別々に遺伝子を導入した組換えベクターにより宿主を形質転換する方法とに分けて説明する。
【0060】
a)の場合は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素とNADPH再生酵素とを同時に大量に発現させるには、それぞれの遺伝子を別々に制御できるように2つの高発現型プロモーターを配置する。すなわち、2つの高発現型プロモーターの一方の下流に、3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドが配置され、そして他方の下流に、NADPH再生酵素をコードするポリヌクレオチドが配置されて、2つの発現ユニットが構成される。このプロモーターは、好ましくは、tacプロモーターである。これらの発現ユニットは、さらにターミネーターを備え得る。さらに、これら2つの発現ユニットを含むベクター上には、ラクトースリプレッサー遺伝子(好ましくは、lacIリプレッサー遺伝子)が配置されることが好ましい。1つの実施形態では、本発明の「3−キヌクリジノン不斉還元酵素およびNADPH再生酵素同時発現用ベクター」は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドおよびNADPH再生酵素をコードするポリヌクレオチドに加えて、lacIqリプレッサー遺伝子および2つのtacプロモーターを含み、上記2つのtacプロモーターの一方が、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを制御し、かつ他方が、上記NADPをNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを制御する。
【0061】
b)の場合は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素発現用ベクターとNADPH再生酵素を発現するためのベクターとを用いる。3−キヌクリジノン不斉還元酵素の遺伝子の発現を高めるために、3−キヌクリジノン不斉還元酵素発現用ベクターは、上記のように、3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドの上流にtacプロモーターを含む発現ユニットを含み得る。この発現ユニットを含むベクター上に、ラクトースリプレッサー遺伝子(好ましくは、lacIqリプレッサー遺伝子)がさらに配置され得る。1つの実施形態では、本発明の「3−キヌクリジノン不斉還元酵素発現用ベクター」は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドに加えて、tacプロモーターおよびlacIqリプレッサーを含み得る。ここで、このtacプロモーターは、3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを制御し得る。NADPH再生酵素を発現するためのベクターは、NADPH再生酵素をコードするポリヌクレオチドの上流に高発現型プロモーターを含む発現ユニットを含むことが好ましい。この高発現型プロモーターは、好ましくは、tacプロモーターである。これらの発現ユニットは、さらにターミネーターを備え得る。
【0062】
上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを発現させるために形質転換の対象となる宿主生物は、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターにより形質転換され、3−キヌクリジノン不斉還元酵素活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)、放線菌(Streptomyces lividans)、麹菌(Aspergillus oryzae)などが利用され得る。遺伝子組換えの操作の容易性から、大腸菌が好ましい。特に、発現効率の点から、ラクトースオペロンに欠損のない大腸菌が好ましい。このような大腸菌としては、大腸菌SCS1株、W3110株、およびBL21株が挙げられる。
【0063】
<(R)−3−キヌクリジノールの製造方法>
上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素または上記形質転換体、その培養液もしくは処理物を3−キヌクリジノンまたはその塩に作用させることにより、(R)−3−キヌクリジノールまたはその塩が効率よく生成される。「3−キヌクリジノンまたはその塩」とは、その窒素原子において有機酸、鉱酸などの塩を形成させたものもまた、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素による3−キヌクリジノンの不斉還元において使用できることを意図する。具体的には、鉱酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、フマル酸、マロン酸、シュウ酸などの脂肪族有機酸塩、安息香酸などの芳香族有機酸塩などが挙げられる。以下の説明においては、「3−キヌクリジノン」とのみ表記しているが、上記のような3−キヌクリジノンの塩もまた使用可能である。
【0064】
本発明の方法では、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素または上記形質転換体、その培養液もしくは処理物(以下では、これらをまとめて「生物学的触媒」ともいう)を含有する適切な反応液中で、例えば、3−キヌクリジノンを不斉還元し、生成物として(R)−3−キヌクリジノールを得る。
【0065】
本発明の方法の1つの実施形態において、(R)−3−キヌクリジノールは、3−キヌクリジノンの存在下、上記の形質転換体を培養することによって得ることができる。培養液に添加する3−キヌクリジノンの量は、0.1〜30%(w/v)、好ましくは0.1〜10%(w/v)である。添加された3−キヌクリジノンは必ずしも完全に溶解させなくてもよい。添加された3−キヌクリジノンが完全に溶解しない場合、例えば、塩(例えば、塩酸塩)として溶解性を向上させてもよく、あるいはエタノールのような有機溶媒を、還元反応を実質的に阻害しない程度(例えば、5%)に添加してもよい。
【0066】
本発明の方法の別の実施形態において、(R)−3−キヌクリジノールは、適切な反応液(水または緩衝液)中で、培養された形質転換体の菌体またはその処理物(例えば、アセトン処理物)を3−キヌクリジノンと接触させることにより得ることができる。反応液に添加する3−キヌクリジノンの量は、0.1〜30%(w/v)、好ましくは0.1〜10%(w/v)である。添加された3−キヌクリジノンは必ずしも完全に溶解しなくてもよい。添加された3−キヌクリジノンが完全に溶解しない場合、例えば、塩(例えば、塩酸塩)として溶解性を向上させてもよく、あるいはエタノールのような溶媒を、生物学的触媒による還元反応を実質的に阻害しない濃度(例えば、5%まで)に添加してもよい。特に菌体処理物を使用する場合、補酵素としてNADPHを添加することが好ましい。この補酵素の添加量は、0.1〜1000mg/l、より好ましくは2〜200mg/lである。
【0067】
反応は、制御されたpHのもとで行われ得る。反応のための至適なpHを保持するために、例えばリン酸緩衝液などの緩衝液が使用される。反応液のpHは、5〜9、好ましくは6〜8である。あるいは、反応の進行に伴って変化するpHをモニターしながら、酸(例えば、硫酸)およびアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)を添加することによって反応液のpHを至適なpHに維持および調節し得る。
【0068】
上記生物学的触媒の量は、その形状およびその活性により適宜決定され、特に制限はない。その基質である3−キヌクリジノンに対して、約0.1〜10g/基質mol、好ましくは約1〜5g/基質molであることが望ましい。
【0069】
反応温度は10℃〜50℃、好ましくは25℃〜35℃である。
【0070】
反応時間は、用いる生物学的触媒の量、反応温度、反応pHなどに依存して変動するが、通常1〜72時間程度である。
【0071】
(R)−3−キヌクリジノールの製造方法においては、上で説明したような補酵素の再生系を組み合わせることが好ましい。NADPからNADPHへの再生は、植物、微生物、形質転換体の含有するNADPからNADPHを再生する酵素によって行うことができる。NADPHの再生反応を触媒する酵素は、単一であっても良いし、複数の酵素で構成される多段階反応であってもよい。複数の酵素によって目的とする酵素反応が支えられているとき、一連の酵素反応を構成する酵素の集合を酵素系と呼ぶ。NADP還元能は、反応系にグルコース、スクロースなどの糖、有機酸、またはエタノール、イソプロパノールなどのアルコールを添加することにより、増強することができる。また、NADPからNADPHを生成する能力を有する酵素を用いてNADPHの再生を行うことができる。NADPHの生成に有用な酵素としては、グルコース脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ホスホグルコン酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、およびグリセロール脱水素酵素が挙げられる。これらの酵素としては、精製酵素のみならず、当該酵素を有する微生物、その処理物、あるいは部分精製酵素を用いることができる。例えば、グルコース脱水素酵素の場合には、グルコースからδ−グルコノラクトンへの酸化に伴ってNADPからNADPHへの再生が行われる。
【0072】
これらのNADPH再生に必要な反応を構成する成分は、本発明を構成する3−キヌクリジノン不斉還元酵素反応系に添加、もしくは固定化したものを添加することができる。あるいはNADPHの交換が可能な膜を介して上記反応系に接触させることができる。
【0073】
(R)−3−キヌクリジノールの製造方法において、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターで形質転換した形質転換体を利用する場合には、NADPH再生のための付加的な反応系を不要とできる場合がある。すなわち、NADPH再生活性の高い生物を宿主として用いることにより、形質転換体を用いた還元反応において、NADPH再生用の酵素を添加することなく効率的な反応を行い得る。あるいは上記NADPH再生に利用可能な酵素の遺伝子を、本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするポリヌクレオチドと同時に導入した宿主を利用することもできる。このような形質転換体の利用によって、NADPH再生酵素および本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素の発現、ならびに基質の還元反応を、より効率的に行うこともできる。
【0074】
補酵素の再生系が組み合わせられる場合、補酵素NADPまたは/およびグルコース、スクロース、エタノール、メタノールなどのエネルギー源が上記培養液または反応液に添加され得る。上記補酵素NADPまたはエネルギー源の添加量は、基質である3−キヌクリジノンおよび上記生物学的触媒の量などに基づいて適宜決定され得る。反応は、上述したように、反応温度、必要により反応液のpHを制御しながら行い得る。場合によっては、反応の途中で反応基質である3−キヌクリジノンまたは/および上記補酵素、エネルギー源を適宜加え、反応を継続させてもよい。
【0075】
本発明の方法では、生成した(R)−3−キヌクリジノールは、必要に応じて、基質の3−キヌクリジノンおよび生成した(R)−3−キヌクリジノールの化学的特性または物理的特性の差異を利用して分離され得る。本発明の方法では、光学純度が99.9%以上の(R)−3−キヌクリジノールが生成するため、(S)体と分離することなく(R)−3−キヌクリジノールを得ることができる。
【0076】
生成した(R)−3−キヌクリジノールは、反応終了後、その性質(例えば、溶解度、疎水性)に依存して、例えば、溶媒抽出法、結晶析出法、カラムクロマトグラフ法などの当該分野で通常用いられる分離操作を用いて、未反応の3−キヌクリジノンと分離される。例えば、溶媒抽出法では、塩基性条件下、トルエンで反応液から未反応の3−キヌクリジノンを抽出した後、クロロホルム、ジクロロメタンなどの溶媒を用い、生成した(R)−3−キヌクリジノールを回収することができる。
【0077】
得られた生成物は、必要に応じて、上記の手段を用いて、さらに精製され得る。この場合、第2の手段は、第1の手段と異なる方が好ましい(例えば、第1の手段として溶媒抽出を用いた場合、第2の手段として、例えばカラムクロマトグラフィーが挙げられる)。
【実施例】
【0078】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1:3−キヌクリジノン不斉還元酵素の精製)
以下の方法に従って、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株より、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を、電気泳動的に単一に精製した。
【0080】
(培養)
YM培地(グルコース1%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、pH5.5)8,400mlを調製し、3L容三角フラスコに600mlずつ分注して、121℃で20分間蒸気殺菌を行った。予め同培地中で前培養しておいたロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株の培養液を3mlずつ接種し、28℃で3日間振盪培養した。この培養液から遠心分離(8,600×g、10分間、4℃)により菌体を集め、脱塩水にて1回洗浄した。このようにして得られた湿菌体460gは、使用直前まで−20℃で凍結保存した。
【0081】
(無細胞抽出液の調製)
湿菌体213gを室温で融解し、220mlの1mM DTTおよびプロテアーゼ阻害剤混合錠剤(Roche製)を溶解させた20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁した。次いで、この菌体をミニモーターミル(アイガージャパン製)で破砕した。この菌体破砕物から遠心分離(11,000×g、10分間、4℃)にて菌体残渣を取り除き、無細胞抽出液250mlを得た。
【0082】
(硫安分画)
無細胞抽出液に35%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、溶解させた。次いで生じた沈殿を遠心分離(12,400×g、30分間、4℃)により除去し、270mlの35%飽和溶液を得た。この溶液に60%飽和となるようにさらに硫酸アンモニウムを添加して、4℃で一夜放置した。次いで、遠心分離(12,400×g、30分間、4℃)により塩析物を集めた。得られた塩析物を300mlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に溶解し、超遠心分離(100,000×g、60分間、4℃)により沈殿物を除去し、清澄な粗酵素液を得た。
【0083】
(疎水クロマトグラフィー)
得られた粗酵素液に100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を添加して、硫酸アンモニウム濃度が30%飽和になるように調整し、550mlの粗酵素液を得た。これを、30%飽和硫酸アンモニウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で予め平衡化したButyl-Toyopearl(東ソー製)カラム100mlに添加し、同緩衝液で洗浄し、次いで硫酸アンモニウム(35%飽和から0%飽和まで)のリニアグラジエントにより、活性画分を溶出させた。
【0084】
(赤色色素をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー)
得られた活性画分(48ml)を集め、限外濾過による脱塩濃縮および20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)への置換を行い、同緩衝液で平衡化したRed-Toyopearl(東ソー製)カラム20mlに添加した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化カリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジエントにより、活性画分を溶出させた。
【0085】
(青色色素をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー)
得られた活性画分(81ml)を集め、限外濾過による脱塩濃縮を行い、予め20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したBlue-Toyopearl(東ソー製)カラム25mlに添加した。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化カリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジエントにより、活性画分を溶出させた。各活性画分をSDS−PAGEにより解析した結果、1画分を除いた残り6画分において単一バンドであることが確認できた。これら6画分を集め、精製酵素標品を得た。
【0086】
(実施例2:3−キヌクリジノン不斉還元酵素の性質の測定)
実施例1において得られた精製酵素標品の酵素学的性質について検討した。
【0087】
酵素活性の測定は、基本的には、以下の標準反応条件で行った:100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中に、0.5Mの基質3−キヌクリジノン・塩酸塩、0.5mMの補酵素NADPH、および酵素溶液50μlを含む200μlの反応液を37℃でインキュベートし、波長340nmの吸光度の減少を測定した。1分間に1マイクロモルのNADPHをNADPに変換させる酵素量を1単位(U)とした。上記の精製酵素標品の酵素学的性質は以下の通りであった。
【0088】
作用:上記標準反応条件にて生成される3−キヌクリジノールの定量および光学純度を、ガスクロマトグラフィー分析により測定した。ガスクロマトグラフィー分析には、検出器として水素炎イオン化検出器およびカラムとしてγ-DEX225キャピラリーカラム(0.25mm(内径)×30m;Spelco社製)を用いた。注入部温度は220℃、カラム温度は150℃(20分)、検出器温度は220℃であった。キャリアーガスとしてヘリウムを流量70KPaで使用した。その結果、NADPHを補酵素として、3−キヌクリジノンに作用し、光学純度99.9%ee以上の(R)−3−キヌクリジノールを生成した。
【0089】
補酵素:補酵素としてNADPHまたはNADHを用いて、上記標準反応条件に従って、(R)−3−キヌクリジノールの生成を測定した。NADPH依存性であり、NADHは補酵素として利用しないことがわかった。また、NADPを補酵素とし、3−キヌクリジノールを基質として、上記標準反応条件に従って(R)−3−キヌクリジノールからの3−キヌクリジノンの生成を調べた場合、NADPを補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応も触媒しなかった。
【0090】
作用至適pH:100mMリン酸カリウム緩衝液を用いてpHを変化させて、3−キヌクリジノン還元活性を測定した。反応の至適pHは7.0であり、pH6.0からpH8.0の広い範囲で最大活性の70%以上の活性を示した。
【0091】
pH安定性:精製酵素をpHの異なる100mMリン酸カリウム緩衝液中で37℃、16時間処理した後、その残存活性を上記の標準反応条件で測定した。pH6.0からpH8.5の広い範囲で80%以上の残存活性を示した。
【0092】
作用至適温度:上記標準反応条件のうち、温度のみを変化させて、3−キヌクリジノン還元活性を測定した。反応の至適温度は40℃付近にあった。
【0093】
温度安定性:精製酵素を100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中で種々の温度で30分間処理し、残存活性を上記の標準反応条件で測定した。40℃までは、処理前の98%以上の活性が残存していた。
【0094】
阻害剤:上記の標準反応条件における反応液に各種金属イオンまたは阻害剤を添加して3−キヌクリジノン還元活性を測定し、添加しない条件を100とした相対活性で示した。塩化水銀およびp−クロロメリクリ安息香酸によって阻害を受けた。
【0095】
分子量:精製酵素のサブユニットの分子量をSDS−PAGEにより求めた結果、約30,000であった。また、スーパーデックスG200カラム(アマシャムバイオサイエンス製)によるゲル濾過クロマトグラフィーで測定した分子量は、約93,000であった。これらの結果より、上記精製酵素標品は、ホモトリマーと予想された。
【0096】
Km値:上記の標準反応条件における反応液中の基質濃度を変化させて反応を行い、ラインウエーバー・バークのプロットにより得られたミカエリ定数Kmは、145mMであった。また、補酵素NADPHの濃度を変化させて求めたミカエリ定数Kmは、0.19mMであった。
【0097】
(実施例3:3−キヌクリジノン不斉還元酵素の部分アミノ酸配列の解析)
実施例1で得られた精製3−キヌクリジノン不斉還元酵素を8M尿素存在下で変性させた後、アクロモバクター由来のリジルエンドペプチダーゼ(和光純薬製)で消化し、得られた消化物をSmartシステム(アマシャムバイオサイエンス製)によって分離した。分取したペプチドピーク4種をペプチドK14、ペプチドK20、ペプチドK24、ペプチドK30とし、それぞれプロテインシーケンサー(Applied Biosystems製、model 476A)によりアミノ酸配列の解析を行った。ペプチドK14、ペプチドK20、ペプチドK24、およびペプチドK30のアミノ酸配列はそれぞれ、配列表中の配列番号1、配列番号2、配列番号3、および配列番号4に示したとおりであった。
【0098】
配列類似性検索プログラムBLASTおよびFASTAを用いることにより、これらのアミノ酸配列を3種類のタンパク質配列データベース(PTR、PRF、およびSWISS-PROT)内の配列と比較した。その結果、K14配列は、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)のソルビトール代謝に関与すると推定される短鎖アルコール脱水素酵素(Nature, 2002年, 415巻, pp.871-880)の部分アミノ酸配列と類似し、そしてK30配列は、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)のペルオキシゾーム2,4−ジエノイル−CoA還元酵素(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1998年, 95巻, pp.5150-5155)の部分アミノ酸配列と類似していた。これらの酵素は、短鎖型脱水素酵素/還元酵素(SDR)ファミリーに属する。しかし、K20およびK24には、データベース上のタンパク質との類似性は認められなかった。
【0099】
(実施例4:3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子のクローニング)
ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株をYM培地で培養し、菌体を調製した。菌体からの染色体DNAの精製は、Appl. Microbiool. Biotechnol., 2000年, 53巻, pp.415-419に記載の方法により行った。3−キヌクリジノン不斉還元酵素の内部ペプチド断片K14およびK30のアミノ酸配列に基づいて、PCR用の縮重オリゴヌクレオチドプライマーQR1(配列番号5)、QR2(配列番号6)、QR3(配列番号7)およびQR4(配列番号8)を設計した。QR1およびQR2は上流のプライマーとして、QR3およびQR4は下流のプライマーとして作製した。QR2およびQR3はそれぞれ、QR1およびQR4の内側のアミノ酸配列に基づいて設計し、QR1およびQR4で増幅したDNA断片の内側を増幅するように設計した。ここで、配列表中のRはAまたはG、Nは任意、HはG以外、YはCまたはTをそれぞれ表す。PCRの反応液組成は、次の通りである:鋳型DNA、10×Ex Taq Buffer10μl、プライマー(QR1またはQR2、各100μM)1μl、プライマー(QR4またはQR3、各100μM)1μl、dNTP混合物(各2.5mM)8μl、およびEX Taq0.5μlであり、蒸留水を100μlになるように添加した。PCR反応条件は、次の通りであった:ステップ1:94℃、10分;ステップ2:94℃、30秒;ステップ3:65℃、30秒;ステップ4:72℃、1分;ステップ5:94℃、30秒;ステップ6:65℃、30秒;ステップ7:72℃、1分;ステップ8:4℃、∞。1サイクル毎にアニーリング温度(ステップ3)を1℃ずつ下げて、ステップ2からステップ4を20サイクル繰り返す。ステップ5からステップ7を20サイクル繰り返した。
【0100】
まず、染色体DNA100ngを鋳型にし、プライマーQR1およびQR4を用いて1st-PCRを行った。次に、1st-PCRで増幅された反応液を10倍希釈した溶液を鋳型とし、プライマーQR2およびQR3を用いてNested-PCRを行い、約500bpの特異的な増幅産物を得た。このPCR反応液についてアガロース電気泳動を行い、目的の約500bpのバンド部分を切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean-up(Promega製)によって精製した。得られたDNA断片をTOPO TA Cloning Kit for Sequencing(Invitrogen製)を用いて、pCR4-TOPOベクターに結合させ、大腸菌TOP10株を形質転換した。形質転換株をアンピシリン50μg/mlを含むLB培地(ペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%、pH7.0)中で培養し、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen製)を用いてDNAシーケンス用のプラスミドを抽出・精製した。続いて、pCR4-TOPOベクターに由来するT7プライマーおよびM13 reverseプライマーを用いて自動シークエンサーによって、挿入断片の塩基配列を決定した。この塩基配列(配列番号38)および推定アミノ酸配列(配列番号39)を図1に示す。図1において、下線で示した塩基配列は、イントロン領域と推定され、そして囲み線付きのアミノ酸配列は、精製酵素のアミノ酸配列解析により得られた配列と一致している。図1に示す配列解析の結果から、PCR産物が489bpのヌクレオチドからなり、推定アミノ酸配列が、実施例1で精製した天然の3−キヌクリジノン不斉還元酵素の内部アミノ酸配列(実施例3に示される)と一致することが明らかになった。また、K20ペプチドをコードする領域は、2つのイントロンにより分断されることも判明した。
【0101】
(実施例5:3−キヌクリジノン不斉還元酵素のcDNAクローニング)
ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株の3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするゲノム領域には、イントロンが複数存在することが示唆された。3−キヌクリジノン不斉還元酵素のコード領域を明らかにするために、以下に示す方法により、3−キヌクリジノン不斉還元酵素のcDNAをクローニングした。
【0102】
(3−キヌクリジノン不斉還元酵素生産菌ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株からのmRNAの抽出)
ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)JCM3782株をYM培地で培養し、得られた菌体を使用直前まで−80℃で凍結保存し、以下の手順で総RNAを調製した。凍結菌体約0.1gに0.5gのガラスビーズ(粒径0.5mm)、1mlのSepasol RNA I試薬(ナカライテスク製)を加え、ミニビードビーター(Biospec製)で破砕した。この溶液に200μlのクロロホルムを加えて撹拌後、遠心分離(16,500×g、15分間、4℃)した。上層の水層を分取して500μlのイソプロパノールを加え、室温で10分静置した。遠心分離(16,500×g、10分間、4℃)した後、上清を除き、1mlの75%エタノールを加えて、再度遠心分離(16,500×g、5分間、4℃)した。沈殿物を風乾してエタノールを完全に除去した後、100μlのRNase非含有水を加え、60℃で10分間インキュベートして総RNAを溶解した。総RNAからFast Track 2.0 kit(Invitrogen製)を用いてmRNAの精製を行った。
【0103】
(3’-RACE法による3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするmRNAの3’末端の塩基配列解析)
3−キヌクリジノン不斉還元酵素のC末端側アミノ酸配列をコードする塩基配列を3’-RACE法によって解析した。総RNAを鋳型として、3’-Full RACE Core Set(タカラバイオ製)を用いて、3’-RACE用の一本鎖cDNAを合成した。実施例4で得られた3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするDNA断片の塩基配列から、イントロン配列を含まない領域のDNA配列に基づいて、プライマーrace-for1(配列番号9)およびプライマーrace-for2(配列番号10)を設計した。これらのプライマーと3’-Full RACE Core Setに含まれる3sites Adaptor Primerとを用いて、PCRを行った。Nested-PCRによって約500bpの特異的な増幅産物が得られたので、これをpCR4-TOPOベクターにサブクローニングし、塩基配列を決定した。
【0104】
(5’-RACE法による3−キヌクリジノン不斉還元酵素mRNAの5’末端の塩基配列解析)
3−キヌクリジノン不斉還元酵素のN末端側アミノ酸配列をコードする塩基配列を5’-RACE法によって解析した。mRNAを鋳型として、Gene Racer Kit(Invitrogen製)を用いて、5’-RACE用の一本鎖cDNAを合成した。実施例4で得られたDNA断片の塩基配列から、イントロン配列を含まない領域のDNA配列に基づいて、プライマー5race−primer1(配列番号11)およびプライマー5race−primer2(配列番号12)を設計した。これらのプライマーとGene Racer Kitに含まれるGeneRacer 5’PrimerおよびGeneRacer 5’Nested Primerとを用いて、PCRを行った。Nested-PCRによって約350bpの特異的な増幅産物が得られたので、pCR4-TOPOベクターにサブクローニングし、塩基配列を決定した。
【0105】
(3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするcDNAのクローニング)
5’-RACEおよび3’-RACEで得られた塩基配列に基づいて、開始コドンあるいは終止コドンを含むプライマーQR-forward-Eco(配列番号13)およびプライマーQR-reverse-Pst(配列番号14)を設計した。総RNAを鋳型として、First-strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ製)を用いて一本鎖cDNAを合成し、この一本鎖cDNAを鋳型としてPCRを行った。このPCRにより約820bpの特異的な増幅産物が得られた。この増幅された断片をEcoRIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpKK223-3(アマシャムバイオサイエンス製)中のtacプロモーターの下流に位置するEcoRI−PstI部位に挿入して、組換えプラスミドpKQを得た。プラスミドpKK223-3上の配列をプライマーにして挿入断片の塩基配列を決定した。得られた3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするcDNAの配列を図2(配列番号40)に、そして該遺伝子がコードする推定アミノ酸配列を図3(配列番号41)に示す。この推定アミノ酸配列を、実施例3で得られたアミノ酸配列解析の結果と比較した。その結果、実施例1で精製した天然の3−キヌクリジノン不斉還元酵素の内部アミノ酸配列(実施例3に示される)が4つとも、cDNAの塩基配列から推定されるアミノ酸配列中に存在し、完全に一致した。
【0106】
(実施例6:グルコース脱水素酵素遺伝子のクローニング)
補酵素NADPの再生用としてバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株由来のグルコース脱水素酵素(以下、「GDHI」ともいう)を用いた。データベースに登録されているGDHI酵素(UniProtKB/Swiss-Prot Accession No. P39482)に対応するDNA配列(DDBJ Accession No. D90043)に基づいて、PCR用にプライマーfwd-gdh-eco(配列番号15)およびプライマーrvs-gdh-pst(配列番号16)を設計した。QIAGEN Genomic-tipおよびGenomic DNA Buffer Set(共にQiagen製)を用いて調製したバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株の染色体DNAを鋳型として、上記の設計した2つのプライマーを用いて、GDHI酵素遺伝子を増幅した。得られたDNA断片をEcoRIおよびPstIで消化し、プラスミドpKK223-3中のtacプロモーターの下流に位置するEcoRI−PstI部位に挿入して、組換えプラスミドpKGを構築した。プラスミドpKK223-3上の配列をプライマーにして挿入断片の塩基配列を解析した結果、データベースに登録されているバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株のグルコース脱水素酵素遺伝子(GDHI)遺伝子と完全に一致した。
【0107】
(実施例7:2遺伝子同時発現用の市販プラスミドを用いた3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌の作製)
市販の2遺伝子同時発現用プラスミドpETDuet-1(Novagen製)を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素およびグルコース脱水素酵素の同時発現用プラスミドのpEQGおよびpEGQを構築し、これらのプラスミドで大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。プラスミドpEQGおよびpEGQは、以下の方法により作製した。当業者が通常用いる方法に従って大腸菌コンピテントセルを作製し、42℃にて30秒から1分間のヒートショック法を用いて、これらのプラスミドで形質転換した(以下の実施例も同様である)。
【0108】
(pEQG)
実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、プライマーQR-forward-Bsa(配列番号17)および上記のプライマーQR-reverse-Pstを用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpETduet-1中の上流側のT7プロモーター1の下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、プラスミドpEQを構築した。続いて、実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、プライマーGDH-forward-Nde(配列番号18)およびプライマーGDH-reverse-Xho(配列番号19)を用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をNdeIおよびXhoIで二重消化し、プラスミドpEQのT7プロモーター2の下流に位置するNdeI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpEQGを構築した。
【0109】
(pEGQ)
実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、プライマーGDH-forward-Bsa(配列番号20)およびプライマーGDH-reverse-Pst(配列番号21)を用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpETduet-1中の上流側のT7プロモーター1の下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、プラスミドpEGを構築した。続いて、実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、プライマーQR-forward-Nde(配列番号22)およびプライマーQR-reverse-Xho(配列番号23)を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をNdeIおよびXhoIで二重消化し、プラスミドpEG中の下流側のT7プロモーター2の下流に位置するNdeI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpEGQを構築した。
【0110】
(実施例8:1つのプロモーターで2遺伝子を制御するプラスミドを用いた3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌の作製)
光学活性な1,3−ブタンジオールの工業生産では、市販の高発現用プラスミドpSE420(trcプロモーターにg10エンハンサーおよびミニシストロン配列を付加して転写量を増強させているものである。また、trcプロモーターの上流にlacIq遺伝子を含む;Invitrogen製)を利用して、種々の還元酵素遺伝子とGDH遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌を作製している(Asymmetric Catalysis on Industrial Scale、2004年, pp.217−231)。また、同様のシステムを用いて、別の還元酵素遺伝子をGDH遺伝子と同時発現させて、(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの生産(Biosci. Biotechnol. Biochem., 2004年, 68巻, pp.638-649)あるいは(R)−3−キヌクリジノールの生産(特許文献15)が可能となっている。これらの事例を参考にして、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現させるためのプラスミドpTrcQG、pTrcQsdG、およびpTrcGsdQを作製し、これらのプラスミドで大腸菌HB101株、W3110株、およびBL21株を形質転換した。共発現プラスミドの構築には、プラスミドpTrcHis(Invitrogen製)を使用した。このpTrcHisは、NcoI−HindIII部位(遺伝子を挿入するためのマルチクローニング部位を含む領域)を除いた部分ではpSE420と完全に一致し、trcプロモーター、g10エンハンサー、およびミニシストロンを含む。プラスミドpTrcQG、pTrcQsdG、およびpTrcGsdQの構築は、以下のようにして実施した。
【0111】
(pTrcQG)
実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、上記QR-forward-Bsaプライマーおよび上記QR-reverse-Pstプライマーを用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpTrcHis中のtrcプロモーター、g10エンハンサー、およびミニシストロンの下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、pTrcQを構築した。続いて、実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、上記プライマーfwd-gdh-ecoおよびプライマーGDH-reverse-Hind(配列番号24)を用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびHindIIIで二重消化し、プラスミドpTrcQ中の3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子の下流に位置するEcoRI−HindIII部位に挿入し、プラスミドpTrcQGを構築した。
【0112】
(pTrcQsdG)
実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、プライマーGDH-forward-EcoW(配列番号25)および上記プライマーGDH-reverse-Hindを用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびHindIIIで二重消化し、プラスミドpTrcQ中の3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子の下流に位置するEcoRI−HindIII部位に挿入し、プラスミドpTrcQsdGを構築した。
【0113】
(pTrcGsdQ)
実施例6で構築したプラスミドpKGを鋳型として、上記プライマーGDH-forward-Bsaおよび上記プライマーGDH-reverse-Pstを用いて、GDHI構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をBsaIおよびPstIで二重消化し、プラスミドpTrcHis中のtrcプロモーター、g10エンハンサー、およびミニシストロンの下流に位置するNcoI−PstI部位に挿入し、pTrcGを構築した。続いて、実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、プライマーQR-forward-EcoW(配列番号26)およびプライマーQR-reverse-Hind(配列番号27)を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびHindIIIで二重消化し、プラスミドpTrcG中のGDHI遺伝子の下流に位置するEcoRI−HindIII部位に挿入し、プラスミドpTrcGsdQを構築した。
【0114】
(実施例9:複製開始点の異なる2種類のプラスミドを用いた3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌の作製)
ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus lteus)由来の還元酵素BRDを利用した(S)−N−ベンジル−3−ピロリジノールの生産(国際特許出願公開第02/010399号公報)あるいはスポロボロマイセス・サルモニカラー(Sporobolomyces salmonicolor)由来のアルデヒド還元酵素ARを利用した(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エステルの生産(Appl. Microbiol. Biotechnol., 1999年, 51巻, pp.486-490)では、1つのプロモーターで2遺伝子を制御するプラスミドを用いる場合よりも、複製開始点の異なる2種類のプラスミドを用いる方が高い活性を示している。これらの事例を参考にして、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子を発現させるためのプラスミドpWKQおよびグルコース脱水素酵素遺伝子を発現させるためのプラスミドpAGを構築し、これらの2つのプラスミドを共に用いて大腸菌JM109を形質転換し、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌JM109(pWKQ, pAG)を得た。以下に、プラスミドpWKQおよびpAGの構築法を記載する。
【0115】
(pWKQ)
実施例5(d)で構築したプラスミドpKQを鋳型として、上記QR-forward-EcoWプライマーおよび上記QR-reverse-Pstプライマーを用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子を増幅した。得られた増幅断片をEcoRIおよびPstIで二重消化し、pBR322の複製開始点を保有するプラスミドpKK223-3中のtacプロモーターの下流に位置するEcoRI−PstI部位に挿入し、プラスミドpWKQを構築した。
【0116】
(pAG)
実施例6で構築したプラスミドpKGをBamHIおよびPstIで二重消化し、tacプロモーターとその下流に連結したGDHI遺伝子とを含む約1kbpの断片を、アガロースゲル電気泳動法を用いて分離・精製した。この断片をpA15の複製開始点を保有するプラスミドpACYC177(ニッポンジーン製)のBamHI−PstI部位に挿入し、プラスミドpAGを構築した。
【0117】
(実施例10:3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌の3−キヌクリジノン還元活性)
実施例7および8のそれぞれで得られた組換え大腸菌を、50μg/mlのアンピシリンとラクトース系プロモーターの発現誘導試薬であるOvernight Expression Kit(Novagen製)とを添加した5mlの2×YT培地(ペプトン1%、酵母エキス2%、塩化ナトリウム1%、pH7.2)あるいはTB培地(ペプトン1.2%、酵母エキス2.4%、グリセロール0.04%、KHPO0.231%、KHPO1.254%)中で培養した。
【0118】
実施例9で得られた大腸菌は、50μg/mlのアンピシリンと50μg/mlのカナマイシンとを添加したTB培地中にて培養した。
【0119】
培養液から遠心分離(16,500×g、10分間、10℃)により菌体を集め、−20℃に30分以上置いて完全に凍結させた。菌体を、反応直前に室温で5〜30分間放置することにより凍結融解処理を施した。この菌体に、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)中に270mMの基質3−キヌクリジノン・塩酸塩、0.75mMの補酵素NADP、0.4mMのグルコースを含む反応溶液を添加して、25℃で振盪反応させた。60分後、反応液の2分の1量の飽和炭酸カリウム溶液を添加し、反応液中の残存基質である3−キヌクリジノンと反応生成物である3−キヌクリジノールとを2.5倍量の2−エチルヘキサノールによって抽出した。これらの抽出物を、実施例2に記載の条件に従って、γ-DEX225キャピラリーカラム(Spelco製)を用いてガスクロマトグラフィー分析した。菌体活性を、この反応条件で培養液1ml分の菌体を使用したときの変換率(%/時間/ml)として表した。各菌体の活性を以下の表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
いずれの反応においても生成した3−キヌクリジノールは(R)−体であり、その光学純度は99.9%ee以上であった。
【0122】
(実施例11:3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌BL21(DE3)(pEGQ)による3−キヌクリジノンからの(R)−3−キヌクリジノールの合成)
実施例7で得られた組換え大腸菌BL21(DE3)(pEGQ)を500ml容バッフル付三角フラスコ中で滅菌した50mlのTB培地(50μg/mlのアンピシリンとOvernight Expression Kitを含む)に接種し、37℃で24時間振盪培養した。この培養液から遠心分離(8,400×g、20分間、10℃)により菌体を集めて−20℃で凍結保存した。30ml容ビーカーに、3−キヌクリジノン・塩酸塩1g、グルコース1.6g、NADP 3mg、および培養液3ml相当の凍結保存菌体を入れ、水道水で容量を10mlにし、25℃でスターラー攪拌しながら反応させた。なお、反応中に生成するグルコン酸を、48%水酸化カリウム溶液を用いて中和することにより、反応液のpHを7.0に保ちながら反応させた。実施例10と同様にして反応抽出液の分析を行った。図4は、組換え大腸菌BL21(DE3)(pEGQ)による3−キヌクリジノンの還元の経時変化を示すグラフである。縦軸に反応率(%)を、そして横軸に反応時間(h:時間)を示す。図4から、21時間後には、変換率14.3%で光学純度99.9%ee以上の(R)−3−キヌクリジノールが生成していたことがわかる。
【0123】
(実施例12:2遺伝子同時発現用プラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2の作製)
大腸菌において3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時に大量発現させるために、2遺伝子同時発現用プラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2を構築した。これらのプラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2は、それぞれの遺伝子を別々に制御できるように配置された2つのtacプロモーターと、lacオペロンによる発現制御をより厳密にするリプレッサーを発現するlacIq遺伝子とを含む。図5は、これらのプラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2の構造を示す模式図である。以下に、プラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2の構築法を説明する。
【0124】
(pKLDuet-1)
2つのtacプロモーターとマルチクローニングサイトとを含む領域を設計した。この領域の配列は、図6(配列番号42)に示す通りである。1つ目の断片である図6のNcoI−HindIII領域を合成するために、それぞれ130merのオリゴヌクレオチドtac-MCS-tacForward(配列番号28)およびtac-MCS-tacReverse(配列番号29)とプライマーtac-MCSF-Nco(配列番号30)およびtac-MCSR-Hind(配列番号31)とを用いて、PCRを行った。PCRにより得られた約230bpの増幅産物をNcoIおよびPstIで二重消化した。2つ目の断片である図6のBamHI−NcoI領域を合成するために、プラスミドpKK223-3を鋳型にして、プライマーtac-upF-Bam(配列番号32)およびプライマーtac-upR-Nco(配列番号33)を用いて、PCRを行った。PCRにより得られた約260bpの増幅断片をBamHIおよびNcoIで二重消化した。3つ目の断片として、プラスミドpKK223-3をBamHIおよびPstIで二重消化し、約4,300bpのDNA断片を生成した。上記3つのDNA断片を結合させてプラスミドpTacDuet-1を合成した。次に、プラスミドpTrcHisを鋳型にしてプライマーBsa-lacI-forward(配列番号34)およびBam-lacI-reverse(配列番号35)を用いてPCRを行った。このPCRによって、その制御プロモーターを含むlacIq遺伝子を含む領域を増幅した。得られた約1400bpの増幅断片をBsaAIおよびBamHIで二重消化した。消化により得られた断片を、プラスミドpTacDuet-1中の上流側のtacプロモーターの上流に位置するBsaAI−BamHI部位に挿入して、プラスミドpKLDuet-1を得た(図5)。
【0125】
(pKLDuet-2)
pKLDuet-1の上流側のマルチクローニングサイトと下流側のtacプロモーターとの間にターミネーターを以下のようにして挿入し、プラスミドpKLDuet-2を合成した。プラスミドpKLDuet-2は、図5に示されるように、高発現に必要なプロモーターからターミネーターまでのユニットを2つ含む。
【0126】
プラスミドpKK223-3を鋳型にして、プライマーtac-MCS-TTF-Not(配列番号36)およびプライマーtac-MCS-TTR-Afl(配列番号37)を用いて、PCRを行った。このPCRによって、ターミネーターrrnBT1T2を含む領域を増幅した。得られた約290bpの増幅断片をNotIおよびAflIIで二重消化した。消化により得られた断片を、プラスミドpTacDuet-1中の2つのtacプロモーターの間に位置するNotI−AflII部位に挿入し、pKLDuet-2を得た(図5)。
【0127】
(実施例13:1つのプラスミドを用いた3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時に発現する組換え大腸菌の作製)
実施例12で構築したプラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2を用いて、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時に発現させるためのプラスミドpKL1GQおよびpKL2GQを構築した。次いで、これらのプラスミドpKL1GQおよびpKL2GQを用いて大腸菌SCS1、W3110、およびBL21を形質転換した。以下に、プラスミドpKL1GQおよびpKL2GQの構築法を記載する。
【0128】
(pKL1GQおよびpKL2GQ)
実施例7のプラスミドpEGQの構築時と同様にして増幅したGDHI遺伝子断片をBsaIおよびXhoIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、上記プラスミドpKLDuet-1中の上流側のtacプロモーターの下流に位置するNcoI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpKL1Gを構築した。続いて、実施例9のプラスミドpWKQの構築時と同様にして増幅した3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子断片をEcoRIおよびPstIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、プラスミドpKL1G中の下流側のtacプロモーターの下流のEcoRI−PstI部位に挿入し、プラスミドpKL1GQを得た。
【0129】
pKL2GQについても、pKL1GQと同様にして作製した。すなわち、実施例7のプラスミドpEGQの構築時と同様にして増幅したGDHI遺伝子断片をBsaIおよびXhoIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、プラスミドpKLDuet-2中の上流側のtacプロモーターの下流に位置するNcoI−XhoI部位に挿入し、プラスミドpKL2Gを構築した。続いて、実施例9のプラスミドpWKQの構築時と同様にして増幅した3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子断片をEcoRIおよびPstIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、プラスミドpKL2G中の下流側のtacプロモーターの下流のEcoRI−PstI部位に挿入し、プラスミドpKL2GQを得た。
【0130】
(実施例14:2種類のプラスミドを用いた3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時に発現する組換え大腸菌の作製)
実施例9で構築した組換え大腸菌のプラスミドpWKQ上にlacIqリプレッサーを挿入することにより、発現抑制を厳密にして発現量を増大させることを計画した。以下のようにしてプラスミドpWKLQを構築し、このプラスミドpWKLQとプラスミドpAGとを同時に用いて大腸菌SCS1、W3110、およびBL21を形質転換した。以下に、プラスミドpWKLQの構築法を記載する。
【0131】
(pWKLQ)
実施例12で増幅したlacIq遺伝子を含む断片をBsaAIおよびBamHIで二重消化した。二重消化により得られた断片を、プラスミドpWKQ中のtacプロモーターの上流に位置するBsaAI−BamHI部位に挿入して、プラスミドpWKLQを得た。
【0132】
(実施例15:3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌の3−キヌクリジノン還元活性)
実施例13で作製したそれぞれの組換え大腸菌を、50μg/mlのアンピシリンとOvernight Expression Kit(Novagen製)とを添加した5mlのTB培地で培養した。実施例14で作製したそれぞれの組換え大腸菌は、さらに50μg/mlのカナマイシンを添加した上記培地にて培養した。得られた培養液を、実施例10と同様にして反応させ、そして3−キヌクリジノン還元活性を測定した。結果を以下の表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
いずれの反応においても生成した3−キヌクリジノールは、(R)−体であり、その光学純度は99.9%ee以上であった。
【0135】
実施例13で作製した組換え大腸菌および実施例14で作製した組換え大腸菌は、既知の方法(実施例7、8、および9)で作製した組換え体の活性(実施例10に示される)に比べて、高い3−キヌクリジノン還元活性を示した。実施例13で作製した組換え大腸菌および実施例14で作製した組換え大腸菌は、以下の3つの条件を全て備えている:(1)2つの遺伝子をそれぞれ独立に制御するようにtacプロモーターが配置されている;(2)高発現型lacIqリプレッサーがプラスミド上に配置されている;および(3)ラクトースオペロンに欠損のない大腸菌宿主である。したがって、上記条件を備えるように作製された組換え体は、既知の方法で作製された組換え体に比べて、高い3−キヌクリジノン還元活性を有することができる。
【0136】
(実施例16:3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とグルコース脱水素酵素遺伝子とを同時発現する組換え大腸菌W3110(pWKLQ, pAG)による3−キヌクリジノンからの(R)−3−キヌクリジノールの合成)
実施例14で得た組換え大腸菌W3110(pWKLQ, pAG)を、実施例11で使用した培地に50μg/mlのカナマイシンを添加して、24時間振盪培養した。培養液を遠心分離(8,400×g、20分間、10℃)により集菌して−20℃で凍結保存した。30ml容ビ−カ−に、3−キヌクリジノン・塩酸塩1g、グルコース1.4g、NADP 1.5mg、リン酸水素二カリウム0.35gおよび培養液3ml相当分の凍結菌体を入れ、水道水で容量を10mlにし、25℃でスターラー攪拌しながら反応させた。なお、反応中に生成するグルコン酸を、48%水酸化カリウム溶液を用いて中和することにより、反応液のpHを7.5に保ちながら反応させた。実施例10と同様にして反応抽出液の分析を行った。図7は、組換え大腸菌W3110(pWKLQ, pAG)による3−キヌクリジノンの還元の経時変化を示すグラフである。縦軸に反応率(%)を、そして横軸に反応時間(h:時間)を示す。図7から、21時間後には、変換率98.6%で光学純度99.9%ee以上の(R)−3−キヌクリジノールが生成したことがわかる。
【0137】
上記の(1)から(3)に示す3つの条件を備えた組換え大腸菌では、実施例11で使用したNADPの添加量を2分の1にした条件でも、21時間の反応でほぼ理論収量の(R)−3−キヌクリジノールが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、(R)−3−キヌクリジノールを高い光学純度で効率よく製造し得る酵素が提供される。本発明の酵素を高発現する形質転換体を用いることにより、高い光学純度を有する(R)−3−キヌクリジノールをさらに高い収率で製造する方法が提供される。得られる(R)−3−キヌクリジノールは、ムスカリン受容体に作用する医薬品の共通中間体として汎用性のある化合物であり、動脈硬化症、気管支喘息、痴呆症、または胃腸運動抑制などの治療剤を製造するための合成中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】プライマーQR2およびQR3によるPCR産物の塩基配列および推定アミノ酸配列を示す図である。
【図2】3−キヌクリジノン不斉還元酵素をコードするcDNAの塩基配列を示す図である。
【図3】3−キヌクリジノン不斉還元酵素構造遺伝子がコードする酵素の推定アミノ酸配列を示す図である。
【図4】組換え大腸菌BL21(DE3)(pEGQ)による3−キヌクリジノンの還元の経時変化を示すグラフである。
【図5】2遺伝子同時発現用プラスミドpKLDuet-1およびpKLDuet-2の構造を示す模式図である。
【図6】プラスミドpKLDuet-1のプロモーターおよびマルチクローニングサイトを含む領域の塩基配列を示す図である。
【図7】組換え大腸菌W3110(pWKLQ, pAG)による3−キヌクリジノンの還元の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の生化学的性質を有する酵素:
(1)還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素として、3−キヌクリジノンまたはその塩を不斉還元し、(R)−3−キヌクリジノールを生成する;および
(2)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とする3−キヌクリジノールの酸化反応を触媒しない。
【請求項2】
SDS−PAGEで測定した場合のサブユニットの分子量が30,000であり、ゲル濾過クロマトグラフィーで測定した場合の分子量が93,000である、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
配列番号41に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1または2に記載の酵素。
【請求項4】
前記酵素が、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotolura rubra)に由来する、請求項1から3のいずれかの項に記載の酵素。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載の酵素をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号40に記載の塩基配列を有する、請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
tacプロモーターおよびlacIqリプレッサー遺伝子をさらに含み、該tacプロモーターが請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを制御する、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
さらに、NADPをNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項7または8に記載のベクター。
【請求項10】
lacIqリプレッサー遺伝子および2つのtacプロモーターを含む請求項9に記載のベクターであって、該2つのtacプロモーターの一方が、請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを制御し、かつ他方が、前記NADPをNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを制御する、ベクター。
【請求項11】
前記NADPをNADPHに再生する酵素がグルコース脱水素酵素である、請求項9または10に記載のベクター。
【請求項12】
前記グルコース脱水素酵素がバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来である、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
請求項7から12のいずれかの項に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
【請求項14】
請求項7または8に記載のベクターおよびNADPをNADPHに再生する酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターをそれぞれ発現可能に保持する形質転換体。
【請求項15】
宿主が大腸菌である、請求項13または14に記載の形質転換体。
【請求項16】
前記大腸菌が、ラクトースオペロンに欠損のない大腸菌である、請求項15に記載の形質転換体。
【請求項17】
(R)−3−キヌクリジノールまたはその塩の製造方法であって、請求項1から4のいずれかの項に記載の酵素または請求項13から16のいずれかの項に記載の形質転換体、その培養液もしくは処理物を3−キヌクリジノンまたはその塩に作用させる工程を含む、方法。
【請求項18】
上記作用工程において、NADPがさらに添加される、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−124922(P2007−124922A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318768(P2005−318768)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】