説明

3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム中間体の製造方法

【課題】不安定なイミデート中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを経由することなく、直接3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造できる方法を提供する。
【解決手段】アセトニトリルとC1〜C3のアルコールとを、塩酸の存在化で混合し、前記アセトニトリルと前記アルコールとの混合物に、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを添加して撹拌し、次いで、前記混合物に、ヒドロキシルアミンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム中間体の製造方法に関し、より詳細には、アゾメチン染料のカプラーである1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールを合成する際の有用な中間体である、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム中間体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱昇華転写方式は、昇華性染料 をバインダー樹脂に溶解又は分散させた染料層を基材に担持した熱転写フィルムを使用し、この熱転写フィルムを受像フィルムに重ねてサーマルヘッド等の加熱デバイスに画像情報に応じたエネルギーを印加することにより、熱転写フィルム上の染料層中に含まれる昇華性染料を受像フィルムに移行させて画像を形成する方法である。
【0003】
この感熱昇華転写方式は、熱転写フィルムに印加するエネルギー量によってドット単位で染料の移行量を制御できるため、階調性画像の形成に優れるとともに、文字や記号等の形成が簡便である等の利点を有している。このような熱転写方式において得られる画像は銀塩写真と同様に高画質なものが形成可能となっており、それにつれて、画像の光・熱・湿度などの因子による画質劣化防止への要求が極めて高くなってきており、画像保存性を改良するための種々の昇華性染料の開発が行われている。
【0004】
例えば、転写性や保存性に優れる感熱転写用の色素として、特許第3013137号(特許文献1)や特許第3078308号(特許文献2)には、1H−ピラゾロ〔5,1−C〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとし、ピリジル基が窒素原子を介してカプラーと結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。また、特許第2840901号(特許文献3)には、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとし、フェニルアミノ基が窒素原子を介してカプラーに結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。さらに、特開平5−239367号公報(特許文献4)には、両者を組み合わせた構造である、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーに、ピリジル基が窒素原子を介してカプラーと結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。
【0005】
上記の特許第3013137号や特許第3078308号に開示されているアゾメチン色素は、耐光性に優れるものの、1H−ピラゾロ〔5,1−C〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとするため、コスト上の問題がある。また、原料カプラーとして1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環化合物を用いる特許第2840901号に記載のアゾメチン色素は、比較的安価に製造できるメリットはあるものの、耐光性が不十分な場合がある。
【0006】
一方、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーとピリジル基とを組み合わせた特開平5−239367号公報に記載の色素は、安価に製造でき、かつ耐光性にも優れるという利点がある。特に、特開平5−239367号公報中で提案されている、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環の置換基Rとしてフェニル基を導入したもの(9,10,11,22,112の化合物)は、その色素の色調が要求される色再現域に近くなるという点において優れるものである。
【0007】
しかしながら、特開平5−239367号公報に記載の化合物、とりわけトリアゾール環の置換基Rとして無置換のピリジル基を導入した化合物は、製造コストや耐光性の点で優れるものの、カップリング反応の反応率が低く、特開平5−239367号公報にも記載のように、概ね20%程度の収率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3013137号
【特許文献2】特許第3078308号
【特許文献3】特許第2840901号
【特許文献4】特開平5−239367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、先の出願(特願2009−85637、出願日:平成21年3月31日)において、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物において、特定の置換基を有するアゾメチン化合物は、耐光性と製造コストの観点から優れるとともに、純度も高く、かつ溶解性や色素とした場合の感度にも優れることを提案している。そして、その先願において、本発明者らは、出発物質として安息香酸エステル化合物に、カリウム−t−ブトキシドの存在下でアセトニトリルを反応させて2−ベンゾイルアセトニトリルを得て、次いで得られた2−ベンゾイルアセトニトリルにヒドラジンを反応させて3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を得て、この中間体にイミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とした後、これにヒドロキシルアミンを作用させてアミドオキシム誘導体とし、次いで、得られたアミドオキシム誘導体にp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーが得られることも提案している。
【0010】
上記の反応において、アセトニトリルを出発物質として、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを経て、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を合成する際に、反応中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールの反応収率が低いため精製を行う必要があった。しかしながら、この反応中間体は、水分等に対して不安定であるため、次反応工程に使用する際の取扱いに注意を要するものであった。
【0011】
本発明者らは、今般、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを出発物質として、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を経て、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成する際に、不安定なイミデート中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを経由することなく、直接3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を得て、目的の化合物である1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成することができる合成方法を見出した。本発明はかかる知見によるものである。
【0012】
したがって、本発明の目的は、不安定なイミデート中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを経由することなく、直接3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造できる方法を提供することである。
【0013】
また、本発明の別の目的は、上記の製造方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体から、色素化合物であるアゾメチン化合物を合成する際に有用な中間体である1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールから、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造する方法であって、
アセトニトリルとC1〜C3のアルコールとを、塩酸の存在化で混合し、
前記アセトニトリルと前記アルコールとの混合物に、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを添加して撹拌し、次いで、
前記混合物に、ヒドロキシルアミンを添加して、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造する、ことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の態様においては、前記アルコールが、メタノールまたはエタノールであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様においては、前記3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールの添加を、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールの、トリエチルアミン溶液、無水酢酸ナトリウム溶液、または酢酸ナトリウム3水和物溶液として行うことが好ましい。
【0017】
また、本発明の態様においては、前記3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールが、3−(2−メトキシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−プロポキシフェニル)−5−アミノピラゾール、または3−(2−イソプロポキシフェニル)−5−アミノピラゾールであることが好ましい。
【0018】
本発明の別の態様においては、上記の製造方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体も提供される。
【0019】
また、本発明の別の態様における、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を用いて、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを製造する方法は、
上記の製造方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体に、p−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、下記式(I)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを得る、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【化1】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【0020】
また、本発明の本発明の別の態様における、アゾメチン化合物を製造する方法は、上記の製造方法により得られた前記式(I)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーと、下記式(II)で表されるピリジルジアミノ誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させて、下記式(III)で表されるアゾメチン化合物を得ることを含んでなることを特徴とするものである。
【化2】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【化3】

(式中、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【0021】
さらに、本発明の別の態様においては、上記の製造方法により得られたアゾメチン化合物からなる、感熱転写記録用色素も提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールから、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造する際に、アセトニトリルとアルコールとを、塩酸の存在化で混合し、前記アセトニトリルとアルコールとの混合物に、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを添加して撹拌し、次いで、前記混合物に、ヒドロキシルアミンを添加することにより、不安定なイミデート中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを経由することなく、直接3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体>
3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体は、上記したように、下記式(IV)で表されるアゾメチン化合物のカプラー材料である1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーを合成する際の中間体として有用な材料である。
【化4】

(式中、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【0024】
本発明において、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体は、アセトニトリルとアルコールとを、塩酸の存在化で混合し、前記アセトニトリルとアルコールとの混合物に、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを添加して撹拌し、次いで、前記混合物に、ヒドロキシルアミンを添加することにより、製造される。本発明においては、従来のように、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールにイミデート塩酸塩に作用させて3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを生成し、得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールにヒドロキシルアミンを作用させて3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造する場合、反応中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールの反応収率が低いために一旦精製を行った後にヒドロキシルアミンを作用させる必要があったが、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールが水分等に対して不安定であるため、次工程の反応に進む際に取扱いに注意を要していた。本発明の製造方法によれば、上記のように、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールから、直接不安定なイミデート中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールを経由することなく、直接3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、目的の生成物である3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体の収率を向上させることができる。一旦精製したイミデート中間体を使用して目的生成物を合成するよりも、本発明のように、イミデート中間体を経ずに直接、目的生成物を合成することにより、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体の収率が向上することは驚くべきことであった。
【0025】
上記の反応工程において、アセトニトリルとアルコールとの混合物への、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールの添加は、氷温度下で行われることが好ましい。
【0026】
また、使用するアルコールとしては、メタノールまたはエタノールを好適に使用することができる。また、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールの添加は、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを適当な溶媒に溶解させて溶液とし、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール溶液をアセトニトリルとアルコールとの混合物を氷温化で滴下して撹拌することが好ましい。溶媒としては、特に制限されるものではないが、本発明においては、トリエチルアミン、無水酢酸ナトリウム、またはナトリウム3水和物溶液等を好適に使用することができる。
【0027】
3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体の製造の出発物質として使用される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールは、例えば、下記合成スキームのように、先ず、出発物質として安息香酸エステル化合物に、カリウム−t−ブトキシドの存在下でアセトニトリルを反応さて、下記式(V)の化合物を合成する。
【化5】

(式中、Rはメチル基、プロピル基等のアルキル基であり、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基を示す。)
【0028】
上記式(V)の2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルと反応させるヒドラジンは、1.0〜1.1mol/lの濃度で反応系に添加されることが好ましい。
【0029】
次に、上記のようにして得られた2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルに、ヒドラジンを反応させることにより下記式(VI)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを得ることができる。
【化6】

(Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基を示す。)
【0030】
本発明において、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールは、式中のRが炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である、3−(2−メトキシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−プロポキシフェニル)−5−アミノピラゾール、または3−(2−イソプロポキシフェニル)−5−アミノピラゾールが好ましく使用できる。これらの中でも、特に、3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−プロポキシフェニル)−5−アミノピラゾールが好ましく使用できる。後記するようにしてアゾメチン色素を合成する際のピラゾロトリアゾール母核の6位がエトキシフェニル基またはプロポキシフェニル基であることにより、色素の溶解性および耐光性がより一層優れたものになる。より好ましいRはエチル基である。
【0031】
<1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラー>
上記のようにして製造された下記式(VII)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体に、p−トルエンスルホン酸クロライドを反応させ、ピリジンの存在下で加熱還流することにより、下記式(I)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを得ることができる。
【化7】

(Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基を示す。)
【0032】
<アゾメチン化合物>
上記式(I)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーと、下記式(II)で表されるピリジルジアミン誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させてカップリングすることにより、下記式(III)で表されるような、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物を合成することができる。この反応は、例えば水冷下40℃以内で、約1時間行う。得られるアゾメチン化合物は、アゾメチン化合物は、製造コストや耐光性の観点で優れるだけでなく、色相感度や溶解性の観点からも優れるものである。
【化8】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【化9】

【0033】
上記式(II)で表されるピリジルジアミン誘導体は、例えば、6−クロロ−3−ニトロ−2−ピコリンと炭酸カリウムとをアセトニトリルに溶解させた溶液にジアルキルアミンを滴下して攪拌し、油層を分離することにより、化合物bを得る。次いで、下記のスキームに示すように、得られた化合物bのエタノール溶液中にパラジウム−炭素を加え、1気圧下で水素ガスと反応させた後、反応液をろ過し、ろ液に塩酸ジオキサンを加えて攪拌することにより、下記式(VIII)の塩酸塩化合物を得ることができる。このように、RおよびRが、いずれもエチル基、プロピル基またはブチル基であるピリジルジアミン誘導体を用いて合成されたアゾメチン化合物は、製造コストや耐光性の観点で優れるだけでなく、色相感度や溶解性の観点からも優れるものである。
【化10】

【0034】
上記したアゾメチン化合物は、感熱熱転写材料として有用である。例えば、上記式(III)で表されるアゾメチン化合物は、昇華型熱転写用のマゼンタ色素として使用でき、他の公知のイエロー色素、シアン色素、その他の色素等と組み合わせて、好適に使用できる。このマゼンタ色素に加えイエロー、シアン、ブラック等複数の染料層を面順次に基材上に設けて熱転写シートとすることができる。また、上記複数の染料層に加え転写性保護層を面順次に設けたもの等であってもよい。なお、さらに熱溶融性インキ層のブラックを設けてもよい。イエロー、シアン、ブラック等の昇華型熱転写用色素や熱溶融性色素としては、従来公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
<3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾールの準備>
1000ml4頭フラスコに、100gの2−エトキシ安息香酸エチル(0.52 mol)とトルエン500mlと21.1gのアセトニトリル(0.52mol)とを加え、氷浴中で攪拌した。その後、57.7gのカリウム−t−ブトキシド(0.52mol)を約10分かけて投入した。反応液は白色のスラリー状態であった。その後、反応系を室温に戻し1時間攪拌した。水浴中反応系に水100mlを3分かけて滴下したところ、反応液が2層に分離した。水層を回収し、油層を50mlの水で2回洗浄し、洗浄水も水層として回収した。
得られた水層に、11.1Mの濃塩酸50ml(0.55 mol)を用いて水浴中でpH1程度まで中和すると結晶が析出した。これをろ過し結晶を60℃で一晩乾燥させて目的の化合物A1を57.2g(0.32 mol)得た。収率は59%であり、純度はHPLC単純面積比94%であった。合成スキームを以下に示す。
【0037】
【化11】

【0038】
次いで、500ml4頭フラスコに、89.0gの化合物A1(0.47mol)と、メタノール90mlとを加えた。その際に、反応系は溶液に着色が見られるもののスラリー状態であった。次いで、反応系に、0.282gの酢酸(0.0048mol)を加え、その後、23.5gのヒドラジン水和物(0.47mol)を5分かけてフラスコ内に滴下し、続いて3時間の加熱還流を行った。その後、反応液を、ロータリーエバポレーターを用いて50℃で減圧回収を行った後、300mlの酢酸エチルで溶解し、100mlの飽和重曹水を用いて分液した。続いて、飽和食塩水を用いて乾燥し、油層をロータリーエバポレーターにて50℃で濃縮して、褐色オイル状の3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾールを得た。この化合物をHPLCにて分析を行ったところ、純度は95.77%であった(単純面積法により算出)。
【0039】
<3−(2−エトキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体の合成>
アセトニトリル3.08g(75mmol)に、メタノール4.11g(129mmol)を加えて0℃に冷却した。次いで、反応系に塩酸ガス3.99g(112.6mmol)導入してそのまま0℃で一晩撹拌した。その後、反応系にメタノール10.2mlを加え、上記で得られた3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾール18.71g(50mmol)とメタノール10.2mlとトリエチルアミン17.08g(168.8mmol)とからなる混合溶液に、反応液を滴下して、室温で一晩撹拌した。
続いて、反応液を滴下した混合溶液に、ヒドロキシルアミン5.21g(74.97mmol)を添加して室温で一晩撹拌した。その後、水を80ml加えることにより、溶液中から結晶を析出させ、ろ集することにより、目的の化合物である3−(2−エトキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を得た。得られた化合物は8.90gであり、3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾールを基準とした収率は77%であった。
【0040】
実施例2
トリエチルアミンを無水酢酸ナトリウム(13.84g、168.8mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして3−(2−エトキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を得た。得られた化合物は7.85gであり、収率は68%であった。
【0041】
実施例3
トリエチルアミンを酢酸ナトリウム3水和物(22.96g、168.8mmol)に変更した以外は、実施例1と同様にして3−(2−エトキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を得た。得られた化合物は7.63gであり、収率は66%であった。
【0042】
比較例1
アセトニトリル3.08g(75mmol)に、メタノール4.11g(129mmol)を加えて0℃に冷却した。次いで、反応系に塩酸ガス3.99g(112.6mmol)導入してそのまま0℃で一晩撹拌した。その後、反応系に析出した結晶をろ集することによりイミデート化合物を得た。得られたイミデート化合物は4.93gであり、収率は60%であった。
【0043】
4頭フラスコ中に、上記で得られた3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾールを94g(0.46mol)、メタノール500ml、トリエチルアミン15.71g(152.3mmol)を加え、次いで、水浴中で、反応系に上記で得られたイミデート化合物50.39g(0.46mol)を加えた。反応系では、固体が析出した。反応系を室温で30分攪拌し、HPLCで反応系を追跡すると3−(2−エトキシフェニル)−5−アミジニルピラゾールが単純面積比76%で生成しているのが確認でき、また、出発物質である3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾールは単純面積比約4%まで消失しているのが確認できた。
【0044】
次いで、上記の反応系に別途調整した34.5gの塩酸ヒドロキシルアミン(0.46mol)と、44.4gの28%ソジウムメチラートメタノール溶液(0.23mol)と、メタノール350mlとからなる溶液をろ過したものを、水浴中で約5分かけて滴下した。その後、反応系を加熱還流(65℃)下5時間攪拌した。反応液をそのまま室温まで冷却し1晩(12.5時間)攪拌を続けた。その後、反応液に2.4Lの水を加えると反応液から固体が析出し、スラリー状態となった。このスラリーをろ過し、得られた結晶をメタノール40mlにて1時間加熱環流中懸濁した。その後、攪拌を続けながら放冷した。室温まで冷えたところで、氷浴中にて冷却しながら攪拌し溶液中から結晶を析出させ、ろ集することにより、目的の化合物である3−(2−エトキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を得た。得られた化合物は8.09gであり、収率は70%であった。
【0045】
実施例1〜3では不安定なイミデート中間体を経由することなく、直接3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体が得られたが、比較例1ではイミデート中間体を単離する必要があるため、2工程の操作を必要とした。
【0046】
また、実施例1では、出発原料であるアセトニトリルを基準とした最終生成物の収率は、51.3%(38.5mmol/75mmol×100)であり、比較例のようにイミデート中間体を精製した場合の最終生成物の収率(60%×70%=42%)と比較して、最終生成物の収率が向上していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールから、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造する方法であって、
アセトニトリルとC1〜C3のアルコールとを、塩酸の存在化で混合し、
前記アセトニトリルと前記アルコールとの混合物に、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを添加して撹拌し、次いで、
前記混合物に、ヒドロキシルアミンを添加して、3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を製造する、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アルコールが、メタノールまたはエタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールの添加を、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールの、トリエチルアミン溶液、無水酢酸ナトリウム溶液、または酢酸ナトリウム3水和物溶液として行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールが、3−(2−メトキシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール、3−(2−プロポキシフェニル)−5−アミノピラゾール、または3−(2−イソプロポキシフェニル)−5−アミノピラゾールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体。
【請求項6】
3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体を用いて、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−ピラゾリルアミドオキシム誘導体に、p−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、下記式(I)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを得る、ことを含んでなることを特徴とする方法:
【化1】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【請求項7】
アゾメチン化合物を製造する方法であって、請求項6に記載の製造方法により得られた前記式(I)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーと、下記式(II)で表されるピリジルジアミノ誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させて、下記式(III)で表されるアゾメチン化合物を得ることを含んでなることを特徴とする、方法。
【化2】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【化3】

(式中、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られたアゾメチン化合物からなる、感熱転写記録用色素。

【公開番号】特開2012−211087(P2012−211087A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76213(P2011−76213)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】