説明

3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素の結晶形態およびその塩

本発明の技術は、3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素の新規な無水および水和結晶形態、その二水和物を含めてのそのモノリン酸塩および塩酸塩の非晶質および無水結晶性多形を提供する。本発明の技術は、それらを含有する、多様な形態、組成物を調製するための方法、およびそれらを用いる治療の方法をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の技術は、3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素の無水多形、水和多形および非晶質形態、その塩、それらを調製するための方法、それらを含有する組成物、およびそれらを用いる治療法に関する。
【0002】
背景
3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素(2005年6月23日に出願され、その全体の参照により本明細書に組み込まれているUSSN 11/570983に記載されている)は、式Iの構造を有する。
【0003】
【化1】

式Iの化合物は、タンパク質キナーゼ阻害剤であり、タンパク質キナーゼによって媒介される増殖性疾患の治療において有用である。詳細には、式Iの化合物は、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、KDR、HER1、HER2、Bcr−Abl、Tie2およびRetキナーゼを阻害する。したがって、これは、AML、メラニン細胞性新生物、乳癌、結腸癌、肺癌(特に、小細胞肺癌)、前立腺癌またはカポジ肉腫を含めた癌の治療において有用である。
【0004】
特定の薬物の活性医薬成分(API)の結晶形態は、しばしば、薬物の調製の容易度、吸湿性、安定性、溶解度、貯蔵安定性、製剤化の容易度、胃腸液への溶解速度およびin vivo生体利用効率の重要な決定因子であることは周知である。結晶形態は、物質の同じ組成物が、特定の結晶形態に特異的である異なる熱力学的特性および安定性をもたらす異なる格子配列として結晶化する場合に生ずる。結晶形態にはまた、同じ化合物の異なる水和物または溶媒和物が含まれてもよい。どの形態が好ましいかを決定する場合、形態の多くの特性が比較され、好ましい形態が、多数の物理特性変数に基づいて選定される。調製の容易度、安定性など一定の態様が重要であると見なされる一部の状況下では、ある形態が好ましい場合があるということは、全く当然である。他の状況では、溶解速度がより大きく、および/または生体利用効率がより優れているという理由で、異なる形態が好ましい場合がある。特定の化合物またはある化合物の塩が多形を形成するかどうか、任意のかかる多形が治療組成物における商業的な使用に適しているかどうか、またどの多形がかかる望ましい特性を示すかを予想することは現状では不可能である。
【0005】
概要
本明細書では、式Iの化合物の結晶形態および非晶質形態、結晶形態および非晶質形態を含む組成物、ならびに結晶形態および非晶質形態および組成物を調製する方法が提供される。本発明の技術は、限定されないが、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、KDR、HER1、HER2、Bcr−Abl、Tie2、およびRetキナーゼから選択されるキナーゼ活性を阻害することによって予防、阻害または改善できるものを含め、多様な疾患を治療するために、式Iの化合物の結晶形態または非晶質形態およびその組成物を使用する方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】図1A〜Eは、式Iの化合物の遊離塩基(図1A)およびそのリン酸塩:形態A(図1B);および形態B(図1C)、遊離塩基一水和物(図1D)、ならびに塩酸塩二水和物(図1E)のXRPDを示す図である。
【図1B】(上記の通り)
【図1C】(上記の通り)
【図1D】(上記の通り)
【図1E】(上記の通り)
【図2A】図2AおよびBは、無水遊離塩基としての(図2A)およびリン酸塩としての(形態A、図2B)式Iの化合物に対するDSCサーモグラムを示す図である。
【図2B】(上記の通り)
【図3A】図3A〜3Cは、無水遊離塩基としての(図3A)、リン酸塩としての(形態A、図3B)、および塩酸塩としての(二水和物、図3C)式Iの化合物に対するTGAサーモグラムを示す図である。
【図3B】(上記の通り)
【図3C】(上記の通り)
【図4A】図4A〜4Cは、25℃でDVSによって集められた、無水遊離塩基としての(図4A)、リン酸塩としての(形態A、図4B)および一水和物遊離塩基としての(図4C)式Iの化合物に対する収着−脱着等温線を示す図である。
【図4B】(上記の通り)
【図4C】(上記の通り)
【図5A】図5Aおよび5Bは、結晶性遊離塩基としての(図5A)およびリン酸塩としての(形態A、図5B)式Iの化合物のSEM顕微鏡写真である。
【図5B】(上記の通り)
【図6】図6は、式Iの化合物のリン酸塩(形態A)のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、遊離塩基一水和物のDSCおよびTGAサーモグラムを示す図である。
【図8A】図8Aおよび8Bは、無水遊離塩基としての(図8A)および遊離塩基の一水和物としての(図8B)式Iの化合物のラマンスペクトルを示す図である。
【図8B】(上記の通り)
【図9】図9は、式Iの化合物の遊離塩基一水和物形態の基本セルの単結晶X線構造を示す図である。
【0007】
詳細な説明
一態様では、本発明の技術は、式Iの化合物の無水および水和結晶形態(遊離塩基)ならびにそのリン酸塩を提供する。
【0008】
【化2】

【0009】
一実施形態では、本発明の技術は、2θを単位として約12°に特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する遊離塩基の無水結晶形態を提供する。別の実施形態では、X線粉末回折図形は、2θを単位として約10.5°、約15.2°、約19.5°、および約21.0°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む。したがって、遊離塩基の無水形態に対するX線粉末回折図形は、2θを単位として約10.5°、約12.0°、約15.2°、約19.5°、および約21.0°のピークから選択される1つ、2つ、3つ、4つ、または5つの特性ピークを含むことがある。X線粉末回折図形は、2θを単位として約11.9°、約21.3°、および約22.6°のピークから選択される1つ、2つ、または3つの追加の特性ピークをさらに含むことがある。別の実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、実質的に図1Aに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する。本明細書では、2θの値に関して「約」および「実質的に」という用語は、個々のピークに対するかかる値が±0.4°の変動を許されることを示す。一部の実施形態では、個々のピークに対する2θの値は、±0.2°の変動が許される。
【0010】
遊離塩基の無水結晶形態は、熱的に特徴づけることができる。一実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、約217℃に吸熱の開始を示す示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを有する。別の実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、実質的に図2Aに示すのと同様な示差走査熱量測定サーモグラムを有する。本明細書では、吸熱、発熱、ベースラインシフトなどの特性に関して「約」および「実質的に」という用語は、それらの値が±2°変動し得ることを示す。DSCの場合、観察される温度変動は、温度変化の速度、および試料調製の技法、および用いた特定の装置によって決まる。したがって、DSCサーモグラムに関連して本明細書に報告された値は、±4°の変動が許される。
【0011】
遊離塩基の無水結晶形態はまた、ラマン分光法によって特徴づけることができる。一実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、約2950、約1619、約1539、約1297、約1233、約1191、および約998cm−1に特性ラマンピークを示す。一部の実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、約3067、約2927、約2828、約1690、約1585、約1458、約1385、約1358、約1098、約1062、約819、約778、約695、約668、約637、約498、約468、および約420cm−1に1つまたは複数の特性ラマンピークをさらに示す。別の実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、実質的に図8Aに示すのと同様なラマンスペクトルを有する。本明細書では、波数値に関して「約」および「実質的に」という用語は、個々のピークに対するかかる値に±2cm−1の変動が許されることを示す。
【0012】
一態様では、本発明の技術は、2θを単位として約20.3°に特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する遊離塩基の結晶性一水和物を提供する。別の実施形態では、X線粉末回折図形は、2θを単位として約21.2°および19°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む。別の実施形態では、X線粉末回折図形は、2θを単位として約4.7°、約9.4°、および約11.0°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む。したがって、遊離塩基の一水和物形態に対するX線粉末回折図形は、2θを単位として約4.7°、約9.4°、約11.0°、約18.8°、約20.3°、および約21.2°のピークから選択される1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つの特性ピークを含むことができる。遊離塩基の一水和物形態に対するX線粉末回折図形は、2θを単位として約11.8°、約15.3°、約16.2°、約19.1°、約22.3°、約22.8°および約25.3°のピークから選択される1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたは7つの特性ピークをさらに含むことができる。別の実施形態では、遊離塩基の結晶性一水和物形態は、実質的に図1Dに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する。
【0013】
遊離塩基の結晶性一水和物形態は、熱的に特徴づけることができる。一実施形態では、遊離塩基の結晶性一水和物形態は、約211℃に吸熱の開始を示すDSCサーモグラムを有する。別の実施形態では、遊離塩基の結晶性一水和物形態は、実質的に図7に示すのと同様なDSCサーモグラムおよび/またはTGAサーモグラムを有する。図7のTGAサーモグラムは、試料の質量6.7mgから約0.2mgの減少、または重量の3.1%の減少をベースにして、水分子(分子量18)が一水和物から減少した(分子量578;および18/578×100=3.1%)ことを実証している。
【0014】
遊離塩基の一水和物結晶形態はまた、ラマン分光法によっても特徴づけることができる。一実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、約2957、約2831、約1618、約1511、約1465、約1361、約1229、約1186、および約994cm−1に特性ラマンピークを示す。一部の実施形態では、遊離塩基の無水結晶形態は、約1580、約1415、約1312、約1284、約1184、約1057、約854、約721、約661、および約624cm−1に特性ラマンピークをさらに示す。別の実施形態では、遊離塩基の一水和物結晶形態は、実質的に図8Bに示すのと同様なラマンスペクトルを有する。
【0015】
別の態様では、本発明の技術は、式Iの化合物の無水結晶性モノリン酸塩(またはリン酸塩)を提供する。
【0016】
【化3】

【0017】
別の実施形態では、無水結晶性モノリン酸塩は、2θを単位として約15°に特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する形態Aである。別の実施形態では、X線粉末回折図形は、2θを単位として約13.7°、約16.8°、約21.3°および約22.4°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む。別の実施形態では、X線粉末回折図形は、2θを単位として約9.2°、約9.6°、約18.7°、約20.0°、約22.9°および約27.2°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む。別の実施形態では、式Iの化合物のモノリン酸塩(またはリン酸塩)の無水結晶形態(形態A)は、2θを単位として約13.7°、約15°、約16.8°、約21.3°および約22.4°のピークから選択される少なくとも3つの特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する。したがって、リン酸塩の形態Aに対するX線粉末回折図形は、2θを単位として約9.2°、約9.6°、約13.7°、約15°、約16.8°、約18.7°、約20.0°、約21.3°、および約22.4°、約22.9°、および約27.2°のピークから選択される1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、または11個の特性ピークを含むことができる。別の実施形態では、リン酸塩の無水結晶形態(形態A)は、実質的に図1Bに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する。
【0018】
リン酸塩の無水結晶形態(形態A)は、熱的に特徴づけることができる。一実施形態では、リン酸塩の無水結晶形態(形態A)は、約184℃に吸熱の開始を示す示差走査熱量測定サーモグラムを有する。別の実施形態では、リン酸塩の無水結晶形態(形態A)は、実質的に図2Bに示すのと同様な示差走査熱量測定サーモグラムを有する。
【0019】
別の態様では、本発明の技術は、2θを単位として約9.3°、約12.5°、約13.4°、約15.8°、および約17°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する形態Bの無水結晶性モノリン酸塩を提供する。一実施形態では、リン酸塩の形態Bは、実質的に図1Cに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する。
【0020】
一態様では、本発明の技術は、式Iの化合物のモノリン酸塩の非晶質形態を提供する。
【0021】
【化4】

【0022】
式Iの化合物のモノリン酸塩の非晶質形態のXRPDは、特性ピークを示さない。非晶質形態に対しては、明確なガラス転移はDSCによって観察されなかったが、TGA中に、試料は、結晶性リン酸塩の形態Aよりはるかに低い温度である約115℃で分解を開始した。
【0023】
さらに別の態様では、本発明の技術は、式Iの化合物の塩酸塩(またはヒドロクロリド)を提供する。
【0024】
【化5】

【0025】
一実施形態では、塩酸塩は結晶性二水和物である。二水和物は、2θを単位として約10.9°、約12.1°、約14.8°、約20.5°、約22°および約25.1°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークを含むX線粉末回折図形を有することがある。一部の実施形態では、塩酸塩は、実質的に図1Eに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する。
【0026】
本発明の技術の結晶形態を特徴づけるための上記の技法に加えて、XRPD、単結晶X線回折、DSC、動的蒸気収着法(DVS)、結晶形態学、固体状態核磁気共鳴法、ラマン散乱法、赤外(IR)分光法もまた、本発明の技術の他の結晶性または非晶質形態を特徴づけるのに有用であり得る。
【0027】
別の態様では、本発明の技術は、式Iの化合物(遊離塩基)の懸濁液をリン酸と接触させることによって形態Aのリン酸塩の無水結晶形態を提供するステップを含む、形態Aのリン酸塩の無水結晶形態を作製する方法を提供する。
【0028】
【化6】

一実施形態では、式Iの化合物の懸濁液は、イソプロパノールを含む。別の実施形態では、本方法は、懸濁液から形態Aのリン酸塩の無水結晶形態を結晶化させるステップをさらに含む。別の実施形態では、本方法は、結晶化した無水結晶形態Aを単離するステップをさらに含む。
【0029】
本方法のある種の実施形態では、接触するリン酸は、接触する遊離塩基のモル量に対して、約1当量〜約10当量、約2当量〜約9当量、約3当量〜約8当量、または約4当量〜約7当量の量で存在する。他の実施形態では、接触するリン酸は、接触する遊離塩基のモル量に対して、約2当量〜約4当量、または約3当量の量で存在する。ある種の実施形態では、遊離塩基の懸濁液とリン酸は、約2時間〜約40時間、約4時間〜約20時間、または約8時間〜約10時間反応または接触する。ある種の実施形態では、遊離塩基とリン酸は、約25℃〜約100℃、約40℃〜約85℃、または約55℃〜約70℃の範囲の温度で反応する。ある種の実施形態では、遊離塩基とリン酸は、反応に用いた溶媒が還流する温度で反応する。ある種の実施形態では、反応は、反応物質、および実質的に水を含まない(すなわち、ほとんど完全に水を含まない)1つまたは複数の溶媒を使用することによって実施される。
【0030】
本発明の技術の方法によって得られた形態Aのリン酸塩の無水結晶形態は、例えば、乾燥、精製などのステップにさらにかけることができる。単離された結晶は、適切な温度で乾燥にかけることができる。一実施形態では、結晶は、約20℃〜約80℃の範囲の温度で乾燥される。一部の実施形態では、結晶は、約30℃〜約70℃の範囲の温度で乾燥される。一部の実施形態では、結晶は、約40℃〜約60℃の範囲の温度で乾燥される。一実施形態では、結晶は、例えば、約10mbar〜約40mbarの範囲の減圧下で乾燥される。乾燥ステップは、適切な時間で実施することができる。したがって、一実施形態では、結晶は、約1〜約72時間、約2〜約36時間、または約4〜約18時間という期間で乾燥される。一部の実施形態では、結晶は、約48時間乾燥される。
【0031】
式Iの化合物のリン酸塩を使用することによって遊離塩基の一水和物を調製することができる。例えば、リン酸塩は、水酸化アンモニウム水溶液などの無機塩基の水溶液中に溶解することができる。時間と共に、遊離塩基は、結晶性一水和物として析出する。任意選択で、濾過、洗浄および乾燥などの追加のステップを使用することによって、リン酸塩が上記のように単離されたのと同様に、遊離塩基の結晶性一水和物を単離することができる。
【0032】
本発明の技術の結晶形は、実質的に純粋な形態で単離することができる。「実質的に純粋な」とは、50重量%超の3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素が、本明細書で開示の結晶形態のうちの1つの中に存在することを意味する。本発明の技術の単離された、または実質的に純粋な結晶形態の一部の実施形態では、3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素は、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%の指定の形態として存在する。例えば、ある種の実施形態では、本発明の技術は、遊離塩基のリン酸塩であって、遊離塩基の全リン酸塩の少なくとも約50重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%が形態A,形態Bまたは非晶質形態で存在する遊離塩基のリン酸塩を提供する。他の実施形態では、本発明の技術は、全遊離塩基の少なくとも約50重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%が、結晶性無水遊離塩基、遊離塩基の結晶性一水和物、または遊離塩基の非晶質形態で存在するように遊離塩基を提供する。さらなる他の実施形態では、本発明の技術は、遊離塩基の塩酸塩であって、全体の少なくとも約50重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%が、塩酸塩の非晶質または結晶性の二水和物形態である遊離塩基の塩酸塩を提供する。
【0033】
本発明の技術はまた、本明細書に記載されたようなある種の疾患を治療するために、本発明の技術の1つまたは複数の無水もしくは水和の結晶性または非晶質形態(例えば、遊離塩基、そのリン酸塩または塩酸塩の)を薬学的に許容される担体、添加剤、結合剤、賦形剤などと混合することによって調製できる医薬組成物および医薬を提供する。
【0034】
したがって、別の態様では、本発明の技術は、本発明の技術の無水もしくは水和の結晶形態または非晶質形態、および薬学的に許容される担体、添加剤、および/または賦形剤を含む組成物を提供する。一実施形態では、無水結晶形態は、遊離塩基としての式Iの化合物である。一実施形態では、水和結晶形態は、遊離塩基としての式Iの化合物の一水和物である。別の実施形態では、無水結晶形態は、式Iの化合物のモノリン酸塩である。別の実施形態では、モノリン酸塩の無水結晶形態は、形態Aである。別の実施形態では、モノリン酸塩の無水結晶形態は、形態Bである。一実施形態では、式Iの化合物のモノリン酸塩は、非晶質である。別の実施形態では、形態は、式Iの化合物の塩酸塩である。例示的な実施形態では、塩酸塩は、結晶性二水和物または非晶質形態である。
【0035】
かかる組成物は、例えば、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、乳剤、エリキシル剤、懸濁剤または溶液剤の形態であってよい。一実施形態では、組成物は、実質的に水を含まない。本発明の組成物は、例えば、経口および非経口投与による多様な投与経路のために製剤化することができる。非経口または全身投与として、限定されないが、皮下、静脈、腹腔、および筋肉注射が挙げられる。以下の投与形態が、例として提供されるが、本発明の技術を限定するものとして見なすべきではない。
【0036】
注射用投与形態は、一般に、油性懸濁液または水性懸濁液を含み、該懸濁液は、適切な分散もしくは湿潤剤および懸濁化剤を使用することによって調製することができる。注射用形態は、溶液相であってもよく、懸濁液の形態であってもよく、これらは、溶媒または賦形剤を用いて調製される。許容される溶媒またはビヒクルとして、滅菌水、リンゲル溶液、または等張性の生理食塩水が挙げられる。ある種の実施形態では、かかる水性の注射用形態は、対象へ投与する直前に調製される(またはもどされる)。あるいは、滅菌油を、溶媒または懸濁化剤として用いることもできる。通常、天然または合成油、脂肪酸、モノ−、ジ−もしくはトリ−グリセリドを含め、油または脂肪酸は、不揮発性である。
【0037】
注射用として、医薬組成物および/または医薬は、上記のような適切な溶液でもどすのに適した粉末であってよい。こうした粉末の例として、限定されないが、凍結乾燥、ロータリー乾燥もしくはスプレー乾燥粉末、非晶質粉末、顆粒、沈殿物または微粒子が挙げられる。注射用として、医薬組成物は、任意選択で、安定剤、pH調節剤、界面活性剤、生物利用能調節剤、および、それらの組合せを含有することができる。
【0038】
経口、口腔、および舌下投与用として、散剤、懸濁剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、ジェルキャップ剤、およびカプレット剤は、固体投与形態として許容される。これらは、例えば、本発明の技術の1つまたは複数の無水結晶形態をデンプンや他の添加物などの少なくとも1つの添加物と混合することによって調製することができる。適切な添加物は、スクロース、ラクトース、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン、寒天、アルギン酸塩、キチン、キトサン、ペクチン、トラガカントガム、アラビアガム、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、合成もしくは半合成ポリマーまたはグリセリドである。任意選択で、経口投与形態は、投与を補助するために、不活性賦形剤、またはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、またはパラベンやソルビン酸などの保存剤、またはアスコルビン酸、トコフェロールまたはシステインなどの酸化防止剤、崩壊剤、結合剤、増粘剤、緩衝剤、甘味剤、香味剤、または芳香剤などの他の成分を含有することができる。錠剤および丸剤は、当技術分野で公知の適切なコーティング材料でさらに処理することができる。
【0039】
経口投与のための液体投与形態は、薬学的に許容される乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、懸濁剤、および溶液剤の形態であってよく、これらは、水などの不活性賦形剤を含有することもできる。医薬組成物および医薬は、限定されないが、油、水、アルコール、およびそれらの組合せなどの滅菌液体を使用することによって液状懸濁液または溶液として調製することができる。医薬として適切な、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤は、経口または非経口投与用として添加することができる。ある種の実施形態では、特に遊離塩基モノリン酸塩の結晶形態の液体投与形態は、実質的に水を含まない。
【0040】
以上で注記したように、懸濁剤は、油を含むことができる。かかる油として、限定されないが、落花生油、ゴマ油、綿実油、コーン油およびオリーブ油が挙げられる。懸濁液の調製にはまた、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、脂肪酸グリセリドおよびアセチル化脂肪酸グリセリドなど脂肪酸エステルを含有することもできる。医薬組成物の懸濁液は、限定されないが、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサデシルアルコール、グリセリンおよびプロピレングリコールなどのアルコールを含むことができる。限定されないが、ポリ(エチレングリコール)などのエーテル、鉱油や石油などの石油系炭化水素;および水を懸濁医薬組成物で使用することもできる。
【0041】
上記の代表的な投与形態の他に、薬学的に許容される添加剤および担体が、一般に、当業者に公知であり、したがって、本発明の技術に含まれる。かかる添加剤および担体は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている「Remingtons Pharmaceutical Sciences」Mack Pub.Co.、New Jersey(1991)に記載されている。
【0042】
本発明の技術の医薬組成物は、以下に記載するように、短時間作用型、迅速放出型、長時間作用型、および徐放型になるように設計することができる。したがって、医薬組成物はまた、放出制御型または放出遅延型として調製することもできる。
【0043】
本発明の組成物は、放出延長型形態で投与することによって長期間の貯蔵および/または送達効果をもたらすことができる。したがって、医薬組成物および医薬は、圧縮してペレットまたはシリンダーにすることができ、デポ注射としてまたはステントなどのインプラントとして筋肉内または皮下にインプラントすることができる。かかるインプラントは、シリコーンや生分解性ポリマーなど公知の不活性材料を用いることもできる。
【0044】
具体的な用量は、対象の疾患の状態、年齢、体重、全体の健康状態、性別、および食事、薬物の投与間隔、投与経路、排泄率、および薬物の組合せに応じて調整することができる。治療有効量を含有する上記の投与形態のいかなるものも、十分に日常の実験の限界内であり、したがって、十分に本発明の技術の範囲内である。
【0045】
ある種の他の実施形態では、本発明の技術は、式Iの化合物の遊離塩基であって、組成物中の全遊離塩基の少なくとも約50重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%が、無水形態としてまたは一水和物形態として存在する式Iの化合物の遊離塩基を含む組成物を提供する。さらなる実施形態では、本発明の技術の組成物は、遊離塩基であって、遊離塩基の少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%が、無水形態としてまたは一水和物形態として組成物中に存在する遊離塩基から本質的になる。
【0046】
ある種の他の実施形態では、本発明の技術は、遊離塩基のリン酸塩であって、組成物中の遊離塩基の全リン酸塩の少なくとも約50重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%が、形態Aとして、形態Bとして、または非晶質形態として存在する遊離塩基のリン酸塩を含む組成物を提供する。さらなる実施形態では、本発明の技術の組成物は、遊離塩基のリン酸塩であって、遊離塩基のリン酸塩の少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%が、形態Aとして、形態Bとして、または非晶質形態として組成物中に存在する遊離塩基のリン酸塩から本質的になる。
【0047】
一部の実施形態では、本発明の技術は、遊離塩基の塩酸塩であって、組成物中の遊離塩基の全塩酸塩の少なくとも約50重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%が、二水和物として、または非晶質形態として存在する遊離塩基の塩酸塩を含む組成物を提供する。さらなる実施形態では、本発明の技術の組成物は、遊離塩基の塩酸塩であって、遊離塩基のリン酸塩の少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%が、二水和物として、または非晶質形態として組成物中に存在する遊離塩基の塩酸塩から本質的になる。
【0048】
別の態様では、本発明の技術は、疾患に罹患している対象に本発明の技術の無水もしくは水和結晶形態、または非晶質形態、または無水もしくは水和結晶形態または非晶質形態を含む組成物の治療有効量を投与するステップを含む治療方法であって、疾患の病状および/または症状が、キナーゼ活性を阻害することによって予防、阻害または改善することができ、キナーゼが、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、KDR、HER1、HER2、Bcr−Abl、Tie2、およびRetからなる群から選択される方法を提供する。別の実施形態では、本発明の技術は、対象の疾患を治療するための医薬を製造するに際して本発明の技術の無水もしくは水和結晶形態、または非晶質形態、または無水もしくは水和結晶形態または非晶質形態を含む組成物の使用であって、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、KDR、HER1、HER2、Bcr−Abl、Tie2、およびRetのキナーゼ活性が、疾患の病状および/または症状に寄与する使用を提供する。本発明の技術の一部の実施形態では、キナーゼは、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4からなる群から選択される。
【0049】
本発明の技術の文脈内の治療とは、障害または疾患に伴う症状の全部または一部の緩和、またはそうした症状のさらなる進行または悪化の遅延または停止、または疾患または障害が発症する危険にある対象における疾患または障害を予防または回避する傾向を意味する。かかる疾患または障害として、限定されないが、腎臓、肝臓、副腎、膀胱、乳、胃、卵巣、結腸、直腸、前立腺、すい臓、肺、膣または甲状腺の癌腫;肉腫;グリア芽腫;白血病;頸部または頭部の腫瘍;乾癬;前立腺肥大;または新生物が挙げられる。
【0050】
例えば、上述のキナーゼ媒介障害を含む疾患を治療するという文脈内では、成功した治療として、1つまたは複数の対応するキナーゼのレベルまたは活性の低減によって測定した場合に、症状の緩和、または疾患の進行の遅延または停止を挙げることができる。本明細書では、「治療有効量」は、治療される障害または疾患に伴う症状の全部または一部を緩和し、またはその症状のさらなる進行または悪化を遅延または停止させ、または疾患または障害が発症する危険にある対象における疾患または障害を予防しまたは予防するための方法を提供する、式Iの化合物の無水もしくは水和結晶形態または非晶質形態(遊離塩基を含む)、または式Iの化合物のリン酸塩の無水結晶形態または非晶質形態、式Iの化合物の塩酸塩(二水和物または非晶質形態を含む)、またはそれらを含む組成物の量を指す。対象は、本明細書に開示された、式Iの化合物の任意の形態またはそれを含む組成物の投与から利益を得ることができる任意の動物である。一部の実施形態では、対象は、哺乳類、例えば、ヒト、霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、例えばラットやマウスなどのげっ歯類である。通常、哺乳類はヒトである。
【0051】
無水もしくは水和結晶形態、または非晶質形態、または本発明の技術の任意のかかる形態を含む組成物の治療有効量は、投与経路および投与形態に応じて変えることができる。式Iの化合物の無水もしくは水和結晶形態、または非晶質形態の有効量は、通常、約0.01から最大100mg/kg/日の範囲、より通常には、約0.05から最大25mg/kg/日の範囲に入る。通常、無水もしくは水和結晶形態、非晶質形態および本発明の技術のかかる形態を含む組成物は、高い治療指数を示す医薬組成物が提供されるように選択される。治療指数は、毒性効果と治療効果の間の用量比であり、該比は、LD50とED50の間の比として表すことができる。LD50は、集団の50%に対して致死的な用量であり、ED50は、集団の50%で治療に有効な用量である。LD50およびED50は、動物細胞培地または実験動物における標準医薬手順によって決定される。
【0052】
本明細書で参照されたすべての刊行物、特許出願、交付済み特許、および他の文書は、参照により本明細書に組み込まれているが、これは、それぞれの個別の刊行物、特許出願、交付済み特許、および他の文書を、全体の参照により本明細書に組み込むように具体的にかつ個別的に指示されているのと同等である。参照により組込まれているテキスト中に含まれている定義は、本開示の定義と矛盾する場合には排除される。
【0053】
このように総括的に説明された本発明の技術は、以下の実施例を参照することによってより容易に理解されようが、該実施例は、例示するために提供されるものであり、本発明の技術を限定するものではない。
【0054】
実施例
化学および生物学の用語に関して、以下の短縮形を本開示全体を通して使用する。
DCM: ジクロロメタン
DMSO: ジメチルスルホキシド
DSC: 示差走査熱量測定法
DVS: 動的蒸気収着法
ESI−MS: エレクトロスプレイイオン化質量分光法
FT−IR: フーリエ変換赤外
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
IPA: イソプロパノール
M: モルの
MeOH: メタノール
N HCl: 1規定HCl
NMR: 核磁気共鳴分光法
RH: 相対湿度
RT: 室温
SEM: 走査型電子顕微鏡法
TGA: 熱重量分析法
UV: 紫外
XRPD: X線粉末回折
【0055】
用いた一般的方法、装置、および標準
pH値
溶液のpHを例示のように決定した:遊離塩基またはその塩約10mgを20mlバイアルに移し、対応する緩衝液または水10mlをそれに加えた。溶液を連続撹拌しながら、pHを測定した。pH測定は、マイクロPH電極を使用することなど、多様な方法によって実施することができる。
【0056】
溶解度の決定
過剰の遊離塩基(式Iの遊離塩基)、そのリン酸塩(遊離塩基のモノリン酸塩)、または別の酸塩を25±0.5℃で1日間溶媒中で平衡させた。得られたスラリーを濾過し、ろ液をHPLCによる溶解度決定のために使用した。
【0057】
固有溶解
固有溶解速度測定を、ペレット圧力2000ポンドで0.5cmVanKelパンチおよびダイ集合体において実施した。撹拌速度200rpmでファイバー光学溶解システム(C technologies Inc.)およびCary UV/VIS分光光度計を使用することによって溶解を測定した。溶液媒体を37±0.5℃に保持し、濃度測定を260nmで行った。
【0058】
吸湿性
25±0.5℃でSurface Measurement System DVS−1を使用することによって収着/脱着等温線から吸湿性を測定した。75%、85%および95%を含めて多様な湿度で試料を評価した。
【0059】
多形性状
試料のスラリーを25±0.5℃で24時間高速で撹拌し、濾過し、集めた固体をXRPDによって分析した。
【0060】
HPLC法
装置:水;カラム:シンメトリC18、粒子径3.5μm、4.6×75mm;カラム温度:35度;流速:1mL/分;移動相:A=水中0.1%TFAおよびB=アセトニトリル;検出:UV254nm;注入量:約2μg;賦形剤:60:40(v/v)アセトニトリル/0.2%リン酸水溶液;および勾配:10分にわたり10〜70%B。
【0061】
TG法
装置:TA装置Q500;温度範囲:室温〜300℃;走査速度:10℃/分;窒素流:60ml/分。Mettler TGA850;温度範囲:室温〜300℃;走査速度:20℃/分;窒素流:40ml/分。
【0062】
SEM法
装置:Jeol JSM6300。
【0063】
DSC法
装置:TA装置Q1000;温度範囲:室温〜210℃;走査速度:10℃/分;窒素流:60mL/分。
【0064】
X線結晶学的方法
グラファイト−単色Cu(Kα)−精密焦点密封管発生器からの放射線およびSMARTソフトウェアを使用するSmart 6000CCD検出器を備えたBruker AXSスリーサークル回折計。データ処理およびグローバルセルリファインメントをSaintで実施した。異なる角度設定で測定された対称関連反射の強度に基づいて、準経験的吸収補正を適用した。デュアルスペースリサイクリング法および続いてのDF合成によって構造を解析し、SHELXTLプログラム一式を使用することによるFについてのフルマトリックス最小二乗法に基づいて精密化した。
【0065】
XRPD法
装置:Bruker D8 Advance;照射:CuKα(30kV、40mA);可変スリットV12mm;走査範囲2〜40°(2θ値);走査速度ステップ当り0.3秒。あるいは、Scintag,Inc製のXDS2000を使用した;照射:CuKα(45kV、40mA);ダイバージェンススライス:3mmおよび2mm;測定スライス:0.3mmおよび0.2mm;チョッパー0.02grd;走査時間:6分(フレーム当り3分);走査範囲:2°〜35°または40°(2θ値);走査速度0.5°/分(2θ値)。
【0066】
IR法
装置:Thermo Magna560;モード:透過;走査範囲:4000cm−1〜600cm−1
【0067】
ラマン法
装置: Bruker Vertex70 FTIR;APT:3.5mm;64スキャン;RES2。
塩のスクリーニング
【実施例1】
【0068】
式Iの遊離塩基の酸塩のスクリーニング
式Iの遊離塩基(以下の実施例2に記載されたのと同様にして調製した)および多様な異なる酸:酢酸、安息香酸、クエン酸、フマル酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、乳酸(D、L)マレイン酸、リンゴ酸(L)、マロン酸、メタンスルホン酸、リン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸(D)、および酒石酸(L)を用いて塩のスクリーニング実験を実施した。遊離塩基(30mg)をTHF12mLに溶解した。この溶液の分取液0.1mlずつを96ウェルフォーマット(Zinsser Crissyブロック)結晶化ブロックに分配した。遊離塩基約0.25mgをそれぞれのウェルに送達した;また、対応する酸のアセトン中0.01M溶液0.044mlをそれぞれのウェルに添加した。ブロックをプレスリット蓋で覆い、次いで、溶媒混合物を室温で約10時間蒸発させた。
【0069】
酢酸、安息香酸、クエン酸、馬尿酸、乳酸、マレイン酸、およびリンゴ酸を用いた試行は、遊離塩基または非晶質固体と同じXRPD図形を有する固体をもたらした。フマル酸、臭化水素酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、硫酸、または酒石酸では低結晶性の固体を得た。リン酸では、190プルーフエタノールから塩の結晶形態を得た。結晶性または実際の合成の容易さのために、リン酸、塩酸、マロン酸、メタンスルホン酸、およびコハク酸から形成された固体を結晶性および吸湿性に関してさらに評価した。
【0070】
リン酸塩が非常に結晶性がよいことが判明した。DVS収着/脱着等温線によって評価された吸湿性は、RH95%でも、水の吸収による重量増加が2%未満であることが観察されることを示した。RH75%および85%では、重量増加が1%未満であることが観察された。
【0071】
塩酸塩では、複数の多形の存在を示す数種のXRPD図形が観察された。こうした塩の大部分は、結晶性が低かった。二水和物は、もっとも結晶性がよいことが確認された。塩酸塩は、リン酸塩より吸湿性が大きかった。塩酸塩の一形態では、DVSによって約4.1%(RH75%)〜約16.9%(RH95%)の重量増加が観察された。
【0072】
マロン酸塩では、観察されたXRPD図形に基づき、4つの形態を確認した。さらに評価された1つは、結晶が壊れ易いことを示し、一度のみ作製され、湿潤パターンを有し、吸湿性であった(試験されたすべての湿度で重量増が約10%)。
【0073】
メタンスルホン酸(またはメシル酸)塩では、数種のXRPD図形を観察し、そのうちの1つのみが安定的に作製することができたが、吸湿性であった(DVSによって約2.6%〜10%の重量増を示す)。同様に、コハク酸塩もまた吸湿性であった(DVSによって約4.1%〜10%の重量増を示す)。
【0074】
pH3の緩衝液および水における初期溶解度試験の結果を以下の表1に示す。pH3の緩衝液および水において、リン酸塩は、メタンスルホン酸塩、マロン酸塩、およびコハク酸塩より溶解性が大きかった。リン酸塩はまた、遊離塩基より水溶性が大きかった。
【0075】
【表1】

化学合成
【実施例2】
【0076】
式Iの化合物の遊離塩基の製造
【0077】
【化7】

A.N−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニル]−N’−メチル−ピリミジン−4,6−ジアミン
4−(4−エチルピペラジン−1−イル)−アニリン(1g、4.88mmol)、(6−クロロ−ピリミジン−4−イル)−メチル−アミン(1.81g、12.68mmol、1.3当量)およびジオキサン中の4N HCl(15ml)の混合物を密封管で150℃まで5時間加熱する。この反応混合物を濃縮し、DCMおよび重炭酸ナトリムの飽和水溶液で希釈する。水性層を分離し、DCMで抽出する。有機相をブラインで洗浄し、乾燥し(硫酸ナトリウム)、濾過し、濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH、93:7)によって残渣を精製し、続いて、ジエチルエーテル中ですり混ぜることによって白色固体として標題化合物を得る:ESI−MS:313.2[MH];t=1.10分(勾配J);TLC:R=0.21(DCM/MeOH、93:7)。
【0078】
B.4−(4−エチルピペラジン−1−イル)−アニリン
1−エチル−4−(4−ニトロ−フェニル)−ピペラジン(6.2g、26.35mmol)とラネーニッケル(2g)のMeOH中懸濁液(120mL)を水素雰囲気下でRTで7時間撹拌する。反応混合物をセライトパッドで濾過し、濃縮することによって紫色固体として標題化合物5.3gを得る:ESI−MS:206.1[MH];TLC:R=0.15(DCM/MeOH+1%NH水性、9:1)。
【0079】
C.1−エチル−4−(4−ニトロ−フェニル)−ピペラジン
1−ブロモ−4−ニトロベンゼン(6g、29.7mmol)と1−エチルピペラジン(7.6ml、59.4mmol、2当量)の混合物を80℃まで15時間加熱する。RTまで冷却後、反応混合物を水およびDCM/MeOH、9:1で希釈する。水性層を分離し、DCM/MeOH、9:1で抽出する。有機相をブラインで洗浄し、乾燥し(硫酸ナトリウム)、濾過し、濃縮する。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH+1%NH水性、9:1)によって残渣を精製することによって黄色固体として標題化合物6.2gを得る:ESI−MS:236.0[MH];t=2.35分(純度:100%、勾配J);TLC:R=0.50(DCM/MeOH+1%NH水性、9:1)。
【0080】
D.(6−クロロ−ピリミジン−4−イル)−メチル−アミン
この材料を文献(J.Appl.Chem.1955、5、358)に発表された改良手順によって調製した:市販の4,6−ジクロロピリミジン(20g、131.6mmol、1.0当量)のイソプロパノール中の懸濁液(60ml)を、内部温度が50℃を超えて上昇しないような速度でエタノール中33%メチルアミン(40.1ml、328.9mmol、2.5当量)に添加する。添加の完了後、反応混合物を室温で1時間撹拌した。次いで、水(50ml)を加え、形成された懸濁液を氷浴で5℃まで冷却する。沈殿生成物をろ別し、冷イソプロパノール/水2:1(45ml)および水で洗浄する。集めた材料を45℃で終夜真空乾燥することによって無色粉末として標題化合物を得る:t=3.57分(純度:>99%、勾配A)、ESI−MS:144.3/146.2[MH]
【0081】
E.(3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシ−フェニル)−1−{6−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素)
N−[4−(4−エチル−ピペラジン−1−イル)−フェニル]−N’−メチル−ピリミジン−4,6−ジアミン(2.39g、7.7mmol、1当量)のトルエン中溶液に2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシフェニル−イソシアナート(1.25当量)を添加し、反応混合物を還流で1.5時間撹拌することによって標題化合物を調製した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH+1%NH水性、95:5)によって粗生成物を精製することによって白色固体として標題化合物を得る:ESI−MS:560.0/561.9[MH];t=3.54分(純度:100%、勾配J);TLC:R=0.28(DCM/MeOH+1%NH水性、95:5)。分析:C2631Cl、計算値 C 55.72% H 5.57% N 17.49% O 8.56% Cl 12.65%;実測値 C 55.96% H 5.84% N 17.17% O 8.46% Cl 12.57%。標題化合物を下記とするような、XRPD、熱的および他の方法によって特徴づけた。
【実施例3】
【0082】
式Iの化合物のモノリン酸塩形態Aの製造
3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシフェニル)−1−{6−[4−(4−エチルピペラジン−1−イル)フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素(134g、240mmol)およびIPA(2000ml)を丸底フラスコに加えた。懸濁液を撹拌し、50℃まで加熱し、リン酸(73.5g、750mmol)水溶液(2000ml)を上記に少しずつ加えた。混合物を60℃で30分間撹拌し、ポリプロピレンパッドで濾過した。パッドを温IPA/水(1:1、200ml)で洗浄し、ろ液を合わせた。この清澄な溶液に、IPA(6000ml)を添加し、混合物を還流下で20分間撹拌し、ゆっくりと室温(25℃)まで冷却し、24時間撹拌した。白色塩生成物を濾過によって集め、IPA(2×500ml)で洗浄し、減圧下で2日間60℃でオーブンで乾燥することによってリン酸塩(形態A)110gを得た。収率70%。純度はHPLCにより>98%。分析:C2634ClP、計算値 C 47.42% H 5.20% N 14.89% O 17.01% Cl 10.77% P 4.70%;実測値 C 47.40% H 5.11% N 14.71% O 17.18% Cl 10.73% P 4.87%。標題化合物を下記とするような、XRPD、熱的および他の方法によって特徴づけた。
【実施例4】
【0083】
式Iの化合物の遊離塩基一水和物形態の製造
15M水酸化アンモニウム(10L、15mole)を窒素雰囲気下18℃で22lの4つ首丸底フラスコに装入した。その溶液に、固体としての3−(2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシフェニル)−1−{6−[4−(4−エチルピペラジン−1−イル)フェニルアミノ]−ピリミジン−4−イル}−1−メチル−尿素(660g、1.002mole;実施例3の方法によって調製された)を1時間にわたり18℃で少しずつ加えた。生成した白色懸濁液を18℃で16時間撹拌した。リン酸塩が完全に遊離塩基に転換したことを確認するために、試料を取り出し、H NMRによって調べた。NMRは、完全に遊離塩基に転換したことを示した。混合物を粗いフリット(40〜60ASTM)を備えた3L焼結ガラス漏斗で濾過した。固体の遊離塩基の粒径が微細であるために濾過は遅く、約3時間を要した。固体を脱イオン水(1L)で洗浄した。この洗浄も非常に遅かった(1.5時間を要した)。固体を60℃の真空(5トール)下で16時間乾燥することによって遊離塩基642gを得た(理論値の114%、理論値=561.1g)。乾燥固体を18℃で3時間脱イオン水(10.5L)で再スラリー化した。固体を粗いフリット(40〜60ASTM)を備えた3Lの粗フリット焼結ガラス漏斗で濾過した。濾過ケーキを脱イオン水(2L)ですすいだ。固体を真空(5トール)下60℃で16時間乾燥することによって一水和物としての遊離塩基(559g、一水和物の理論量の96.7%)を得た。
結晶形態の特徴づけ
【実施例5】
【0084】
遊離塩基、リン酸塩(形態A)および塩酸塩の物理化学的特性A
A.遊離塩基
無水遊離塩基は、良好な結晶性を示した(XRPDスペクトルについては図1Aを参照されたい)。これはわずかに吸湿性であり、10C/分で加熱すると、217℃(開始)で溶融し、次いで分解した(DSCサーモグラムについては、図2Aを参照されたい)。無水塩基に対するTGAを図3Aに示し、観察された重量減は、無水形態と一致する。これは、高pHで水性媒体に不溶性(pH6.8の緩衝液で約0.00004mg/mLおよびpH6.67の水で約0.00009mg/mL)であり、普通の有機溶媒ではやや溶けにくいから溶けにくいである。0.1−N HClでは、無水遊離塩基は別の形態(塩酸塩形態のように)に変わる。遊離塩基の一水和物形態はまた、良好な結晶性を示した(XRPDスペクトルについては、図1Dを参照されたい)。無水遊離塩基のSEM顕微鏡写真を図5Aに示す。
【0085】
B.リン酸塩(形態A)
リン酸塩は、良好な結晶性を示した(XRPDスペクトルについては図1Bを参照されたい(リン酸塩(形態A)))。これはわずかに吸湿性であり、10C/分で加熱すると、184.0℃(開始)で溶融し、次いで分解した(図2Bを参照されたい(リン酸塩(形態A)))。リン酸塩のTGAを図3Bに示し、観察された重量減は、無水形態と一致する。これは、pH6.8の緩衝液に不溶性(約0.00009mg/mL)であるが、遊離塩基と異なり、水に可溶性であった(1.3mg/mL)。これは、普通の有機溶媒ではやや溶けにくかった。追加の溶解度の調査を以下に示す。リン酸塩(形態A)のFT−IRスペクトルを図6に示す。最大0.6%の残留溶媒(イソプロパノール)をリン酸塩中に検出した。リン酸塩、形態AのSEM顕微鏡写真を図5Bに示す。
【0086】
C.遊離塩基の塩酸塩
塩酸塩は、二水和物の形態において中程度の結晶性を示した(XRPDスペクトルについては図1Eを参照されたい)。TGAを図3Cに示し、観察された重量減は、二水和物形態と一致する。塩酸塩は吸湿性であり、本発明の形態は、二水和物である。溶解度の調査結果を、実施例8、表3Dに示す。
【実施例6】
【0087】
遊離塩基のリン酸塩の非晶質形態
リン酸塩(形態A)約40mgを25℃でテトラヒドロフラン/水(1:1)と混合した。終夜撹拌した後、溶液を濾過した。撹拌をしないで、清澄なろ液を窒素流下に置くことによって乾燥させた。溶媒を蒸発させた後に得られた固体をDSCおよびTGAによってさらに評価した。−40℃〜140℃に加熱した場合に、DSCサーモグラフ上に明確なガラス転移は観察されなかった。TGAサーモグラフ上で、試料は約115℃で分解を開始することが観察されたが、この温度は、結晶性リン酸塩の形態Aよりはるかに低い。以下の実施例15も参照されたい。
【実施例7】
【0088】
固有の溶解速度の決定
水中の固有の溶解速度をリン酸塩については、pH=6.8および0.1N HClで、遊離塩基一水和物については、pH=6.8、4.5および0.1N HClで決定した。Cary UV/VIS分光光度計を使用することによってVanKelの装置で測定を実施した(表2)。リン酸塩は、水と0.1N HClで遊離塩基よりも速やかな固有の溶解速度を実証した。
【0089】
【表2】

【実施例8】
【0090】
水性媒体における溶解度
無水および一水和物遊離塩基の一水和物の溶解度を、模擬および実際のヒト体液を含めての多様な水性媒体(例えば、pH6.8の緩衝液、pH4.5の緩衝液、pH1の緩衝液)で測定した。模擬体液の組成を以下の表3A〜3Cに示す。
【0091】
【表3A】

【表3B】

【表3C】

【0092】
ヒト体液を12人のヒト対象から集めた。溶解度を上記と同様に24時間後に評価した。結果を表4Aおよび4Bで以下に作表する。
【0093】
【表4A】

【表4B】

【0094】
リン酸塩の溶解度の調査を水性媒体およびヒト体液で24時間実施した。pH1のHClで24時間にわたる事前の平衡化なし(表4C)および平衡化あり(表4D)のリン酸塩に対する結果。後者の条件は、この時間でリン酸塩がHCl塩に転換することを示した。
【0095】
【表4C】

【表4D】

【実施例9】
【0096】
式Iの化合物の遊離塩基のFT−ラマン分光法
式Iの化合物の一水和物および無水結晶性遊離塩基形態のFT−ラマン分光法を上記のように実施した。式Iの化合物の無水遊離塩基形態に対するラマンスペクトルを図8Aに示す。図8Aのピークとして、3067、2950、2927、2854、2828、1690、1619、1585、1539、1458、1409、1385、1358、1297、1233、1191、1098、1062、998、819、778、742、695、668、637、498、468、420cm−1が挙げられる。一水和物遊離塩基に対するラマンスペクトルを図8Bに示す。図8Bのピークとして、2957、2831、1618、1580、1511、1465、1415、1361、1312、1284、1229、1186、1148、1057、994、854、721、661、624cm−1が挙げられる。
【実施例10】
【0097】
式Iの化合物の遊離塩基の結晶性一水和物形態の単結晶X線結晶解析
式Iの化合物の遊離塩基の結晶性一水和物形態の単結晶X線結晶解析を上記のように実施した。解析の結果を以下の表5よび図9に示す。
【0098】
【表5】

結晶形態の安定性の実証
【実施例11】
【0099】
溶液安定性
遊離塩基の溶液安定性をpH1〜pH9の範囲の緩衝液で50℃で1週間試験した。pH5以上では、遊離塩基は安定であり、最初からの微量不純物を考慮後は、分解は2%未満であった。pH3では、分解は約4%、pH1では、分解は約15%であった。安定性を、水中および数種の有機溶媒中でも試験した(50℃で1週間)。イソプロパノール中では、遊離塩基は、安定であり、アセトニトリルおよびメタノール中では約6〜7%の分解を示した。
【0100】
リン酸塩、形態Aは、イソプロパノールおよびアセトニトリル中で安定であり、メタノール中で約8%の分解を示した。水中では、遊離塩基は安定であるが、リン酸塩は、約45%の分解を示した。このことは、リン酸塩を経口で投与することに影響を与えるものではない;事実、以下で実証されるように、リン酸塩は、遊離塩基より約2倍高い生物利用能を有する。機構に拘泥するものではないが、遊離塩基とリン酸塩の間の安定性の相違は、遊離塩基に比べてより大きいリン酸塩の水溶性、および分解速度を増進できる、リン酸塩によって水のpHが低下する傾向のためであるという可能性がある。遊離塩基とリン酸塩の両方が、1:1アセトニトリル/水中で最大の分解を示した(それぞれ、約8%および70%)。
【0101】
HPLC−MS分析に基づいて、遊離塩基の尿素官能基が以下に示すように加水分解し、それによって2つの主たる加水分解生成物がもたらされると思われる。HPLC−MSによる2つの主たる分解ピークは、予想された分子イオン(2.1分のHPLCピークに対してMH=313、および8.6分のHPLCピークに対してMH=222)を示した。さらなる確認として、2,6−ジクロロ−3,5−ジメトキシアニリンの真正試料をまたHPLC内に注入したが、滞留時間およびUVスペクトルは、後で溶離するHPLC分解ピークとの満足な一致を示した。
【0102】
【化8】

【実施例12】
【0103】
固体状態の安定性
固体状態で、試料を80℃で1週間、密封容器中および相対湿度75%下でストレスを加えた。無水遊離塩基およびリン酸塩(形態A)の結晶形態は、単独でおよび1%混合物としての添加剤の存在下で、固体状態で安定であることが実証された。HPLCによって評価された場合に、無水遊離塩基の分解生成物の量は、1%以下であったが(ピーク面積に基づいて)リン酸塩の分解量は、1.4%以下であった。それぞれの多形のXRPDは、形態の変化を示さなかった。
【実施例13】
【0104】
溶媒との平衡化の効果
A.室温
リン酸塩(形態A)約20mgを、室温で少なくとも24時間、多様な溶媒2mlと平衡させた。次いで、溶液を濾過し、残渣を家庭用吸引機下で50℃で終夜乾燥した。得られた固体をXRPDによって調査した。表6に列挙された溶媒については新規なXRPD図形は観察されなかった。こうした結果は、リン酸塩(形態A)の多形安定性を実証する。
【0105】
遊離塩基を水、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、およびアセトン中で平衡させ、上記のように、XRPDによって分析した。新規なXRPD図形は観察されなかった。
【0106】
【表6】

【0107】
B.50℃
リン酸塩(形態A)約20mgもまた少なくとも24時間約50℃で溶媒2mlと平衡させた。次いで、溶液を濾過し、残渣を家庭用吸引機下で50℃で終夜乾燥した。得られた固体をXRPDによって調査した。新規なXRPD図形は、表7に列挙されたいかなる溶媒についても観察されなかった。こうした結果は、リン酸塩(形態A)の多形安定性を実証する。
【0108】
【表7】

【実施例14】
【0109】
熱飽和溶液からの結晶化の効果
リン酸塩(形態A)約20mgを60℃で溶媒2mlに溶解した。溶液を濾過した。得られた清澄ろ液を氷浴中で冷却し、かき混ぜた。沈殿物をフィルター上に集め、乾燥し、XRPDによって調査した。水とメタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、およびテトラヒドロフランの1:1溶液からの結晶化に際していかなる多形形態の変化も観察されなかった。DMSOを使用した場合にのみ、形態の変化がXRPDによって認められた。こうした結果は、リン酸塩(形態A)の多形安定性を実証する。
【実施例15】
【0110】
蒸発による結晶化の効果
A.25℃
リン酸塩(形態A)約20mgを25℃で溶媒2mlと混合した。終夜撹拌した後、溶液を濾過した。ろ液を窒素流下に置き、溶媒を蒸発させた。残留固体を集め、調査した。上記の蒸発を撹拌なしで実施した。撹拌なしでTHF/水(1:1)から蒸発させると、形態Bに類似のXRPD図形を有する(図1Cを参照されたい)固体が一度に得られた。次いで、こうした条件下で、形態Bと異なる非晶質材料を得た。同様に、水とエタノール、2−プロパノール、アセトン、およびテトラヒドロフランの1:1溶液からの蒸発結晶化によって非晶質材料を得た。溶液を蒸発中に撹拌した場合、形態Aを常に得た;これは、リン酸塩(形態A)の結晶形態の多形安定性を実証する。
【0111】
B.50℃
同じ実験(25℃での蒸発に対して上記で説明したような)を50℃で実施した。こうした条件下で、非晶質材料を一部の非撹拌溶液のみから得た。表8に示すように、他の非撹拌溶液は、形態Aをもたらした。溶液を撹拌した場合、やはり形態Aを得たが、これは、リン酸塩(形態A)の結晶形態の多形安定性を実証する。
【0112】
【表8】

【実施例16】
【0113】
溶媒の添加による沈殿の効果
異なる溶媒の2つの組合せを試験した。リン酸塩(形態A)を溶解度が大きいDMSOに溶解した。形態Aが、極めて不溶性である溶媒(アンチ溶媒)を溶液に添加した。沈殿物をフィルター上に集め、乾燥し、XRPDによって調査した。以下の溶媒:メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、THF、酢酸エチル、酢酸プロピル、トルエン、メチルt−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、塩化メチレンのいずれの場合も形態の変化は観察されなかった。こうした結果は、リン酸塩(形態A)の結晶形態の多形安定性を実証した。
【実施例17】
【0114】
圧縮下の安定性
リン酸塩(形態A、300mg)を油圧プレスを用いて4000ポンドで5分間圧縮した(錠剤の直径8mm)。XRPDによって結晶の改変による変化は観察されなかった。こうした結果は、リン酸塩(形態A)の結晶形態の多形安定性を実証した。
【実施例18】
【0115】
造粒下の安定性
溶媒(水またはエタノール)を乳鉢中の固体が十分に湿るまで乳鉢中に置かれたリン酸塩(形態A)に滴下し、ペースト状コンシステンシーが得られるまで乳棒を使用して粉砕した。ペーストを約40℃および減圧下で8時間超乾燥した。固体をXRPDによって評価し、XRPDスペクトルの変化は観察されなかった。こうした結果は、リン酸塩(形態A)の結晶形態の多形安定性を実証した。
【実施例19】
【0116】
加熱および冷却下の安定性
溶融急冷後の2番目のDSCランに続いてこれを観察した。溶融の開始を183.2℃で認めた。溶融の開始の直後に、試料は、185.9℃で分解を開始した。これ以上の試験を実施しなかった。
【実施例20】
【0117】
水の収着および脱着の実験
遊離塩基(無水および一水和物)およびそのリン酸塩(形態A)をVTIブランドの装置を使用することによって収着および脱着サイクルにかけた。実験後に固体を集め、分析した。図3A(遊離塩基)および3B(リン酸塩(形態A))は、TGA装置に記録された水の収着−脱着等温線を示す。DVSプロットを図4A(遊離塩基、無水)、4B(リン酸塩(形態A))および4C(遊離塩基、一水和物)に示す。リン酸塩(形態A)の場合の最大水吸収量は、25℃、最大95%の相対湿度(rh)で2%未満であった(すなわち、0.7%)(表9を参照されたい)。一水和物の場合の最大の水吸収量は、25℃、最大RH95%で1.4%未満であった。水含量約3%を有する一水和物は、実験中に完全に乾燥することができなかったが、除去できた水は、可逆的に再吸収された。一水和物形態が存在する水平域は、RH10%〜95%の範囲内であり、2番目の脱着サイクルにわずかなヒステリシスがあることが判明した。
【0118】
【表9】

リン酸塩の優れた治療特性
【実施例21】
【0119】
リン酸塩の薬物動態特性
遊離塩基(および上記で説明したような他の酸塩)に比べてリン酸塩の水溶性が大きいために、溶液製剤(または組成物)が開発された。これは、遊離塩基では、溶解度の制限のために不可能であろうと思われる。この実験では、リン酸塩を以下のようにして調製した。ガラスバイアルで、遊離塩基10.7mgをTHF4mlに溶解した。アセトン中のリン酸(1.76ml)(0.01M)を加えた。混合物を約2分間で50℃まで温めた。室温で部分蒸発させるためにバイアルを開放しておいた。終夜、懸濁液を形成し、これを濾過し、灰白色粉末約5.5mgを得た。多様に製剤化された活性薬剤(遊離塩基およびそのリン酸塩)のラットにおける生物利用能を以下に作表する(表10)。
【0120】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2θを単位として約12°に特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する、式Iの化合物の無水結晶形態。
【化9】

【請求項2】
X線粉末回折図形が、2θを単位として約10.5°、約15.2°、約19.5°、および約21.0°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む、請求項1に記載の無水結晶形態。
【請求項3】
実質的に図1Aに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する、請求項1に記載の無水結晶形態。
【請求項4】
約217℃に吸熱の開始を示す示差走査熱量測定サーモグラムを有する、請求項1に記載の無水結晶形態。
【請求項5】
実質的に図2Aに示すのと同様な示差走査熱量測定サーモグラムを有する、請求項1に記載の無水結晶形態。
【請求項6】
2θを単位として約20.3°に特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する、式Iの化合物の結晶性一水和物形態。
【化10】

【請求項7】
X線粉末回折図形が、2θを単位として約21.3°、および約18.8°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む、請求項6に記載の結晶性一水和物形態。
【請求項8】
X線粉末回折図形が、2θを単位として約4.7°、約9.4°、および約11.0°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む、請求項7に記載の結晶性一水和物形態。
【請求項9】
実質的に図1Dに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の結晶性一水和物形態。
【請求項10】
約211℃に吸熱の開始を示す示差走査熱量測定サーモグラムを有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の結晶性一水和物形態。
【請求項11】
実質的に図7に示すのと同様な示差走査熱量測定サーモグラムを有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の結晶性一水和物形態。
【請求項12】
約2957、約2831、約1618、約1511、約1465、約1361、約1229、約1186、および約994cm−1に特性ラマンピークを示す、請求項6〜8のいずれか一項に記載の結晶性一水和物形態。
【請求項13】
式Iの化合物のモノリン酸塩。
【化11】

【請求項14】
無水結晶性モノリン酸塩である、請求項13に記載のモノリン酸塩。
【請求項15】
2θを単位として約15°に特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する形態Aを有する、請求項14に記載の無水結晶性モノリン酸塩。
【請求項16】
X線粉末回折図形が、2θを単位として約13.7°、約16.8°、約21.3°および約22.4°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む、請求項15に記載の形態Aの無水結晶性モノリン酸塩。
【請求項17】
X線粉末回折図形が、2θを単位として約9.2°、約9.6°、約18.7°、約20.0°、約22.9°および約27.2°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークをさらに含む、請求項16に記載の形態Aの無水結晶性モノリン酸塩。
【請求項18】
無水結晶形態Aが、2θを単位として約13.7°、約15°、約16.8°、約21.3°および約22.4°のピークから選択される少なくとも3つの特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する、式Iの化合物のモノリン酸塩の無水結晶形態(形態A)。
【化12】

【請求項19】
実質的に図1Bに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する、請求項15〜18のいずれか一項に記載の無水結晶形態。
【請求項20】
約184℃に吸熱の開始を示す示差走査熱量測定サーモグラムを有する、請求項15〜18のいずれか一項に記載の無水結晶形態。
【請求項21】
実質的に図2Bに示すのと同様な示差走査熱量測定サーモグラムを有する、請求項15〜18のいずれか一項に記載の無水結晶形態。
【請求項22】
約2950、約1619、約1539、約1297、約1233、約1191、および約998cm−1に特性ラマンピークを示す、請求項15〜18のいずれか一項に記載の無水結晶形態。
【請求項23】
2θを単位として約9.3°、約12.5°、約13.4°、約15.8°、および約17°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する形態Bを有する、請求項14に記載の無水結晶性モノリン酸塩。
【請求項24】
実質的に図1Cに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する、請求項23に記載の無水結晶形態。
【請求項25】
式Iの化合物のモノリン酸塩の非晶質形態。
【化13】

【請求項26】
式Iの化合物の塩酸塩。
【化14】

【請求項27】
結晶性二水和物である、請求項26に記載の塩酸塩。
【請求項28】
2θを単位として約10.9°、約12.1°、約14.8°、約20.5°、約22°および約25.1°のピークから選択される1つまたは複数の特性ピークを含むX線粉末回折図形を有する、請求項26または27に記載の結晶性塩酸塩。
【請求項29】
実質的に図1Eに示すのと同様なX線粉末回折図形を有する、請求項26または27に記載の結晶性塩酸塩。
【請求項30】
非晶質形態である、請求項26に記載の塩酸塩。
【請求項31】
式Iの化合物の懸濁液をリン酸と接触させることによって無水結晶形態Aを提供するステップを含む、請求項14〜18のいずれか一項に記載の無水結晶形態Aを作製する方法。
【化15】

【請求項32】
懸濁液から無水結晶形態Aを結晶化させるステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
式Iの化合物の懸濁液が、イソプロパノールを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
結晶化した無水結晶形態Aを単離するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
請求項1〜30のいずれか一項に記載の結晶性または非晶質形態、および薬学的に許容される担体、添加剤、または賦形剤を含む組成物。
【請求項36】
疾患に罹患している対象に、請求項1〜30のいずれか一項に記載の結晶性もしくは非晶質形態、または請求項35に記載の組成物の治療有効量を投与するステップを含む治療方法であって、疾患の病状および/または症状が、キナーゼ活性を阻害することによって予防、阻害または改善することができ、キナーゼが、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、KDR、HER1、HER2、Bcr−Abl、Tie2、およびRetからなる群から選択される方法。
【請求項37】
疾患が、腎臓、肝臓、副腎、膀胱、乳、胃、卵巣、結腸、直腸、前立腺、すい臓、肺、膣または甲状腺の癌腫;肉腫;グリア芽腫;白血病;頸部または頭部の腫瘍;乾癬;前立腺肥大;または新生物から選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
対象の疾患を治療するための医薬を製造するに際して請求項1〜30のいずれか一項に記載の結晶性もしくは非晶質形態、または請求項35に記載の組成物の使用であって、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4、KDR、HER1、HER2、Bcr−Abl、Tie2、および/またはRetのキナーゼ活性が、疾患の病状および/または症状に寄与する使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−512956(P2013−512956A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543183(P2012−543183)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/059108
【国際公開番号】WO2011/071821
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】