説明

3層押出成形体

【課題】切断乃至切削に際してバリを発生せず、優れた切断性乃至切削性を有する発泡ポリスチレンの押出成形体を提供する。
【解決手段】発泡ポリスチレン系ベース層(A)とアクリルスチレン系中間層(B)とアクリロニトリルスチレン系表層(C)との3層を共押出しすることにより形成された3層押出成形体において、ベース層(A)は、ポリスチレン、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系樹脂を含み、且つ1.1乃至5.0倍の発泡倍率を有しており、中間層(B)は、少なくともアクリレート単位とスチレン単位とを有するアクリルスチレン系共重合樹脂から形成されており、アクリロニトリルスチレン系表層(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位とを有するアクリロニトリルスチレン系共重合樹脂から形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系のベース層上にアクリルスチレン系の中間層を介して表層が形成されている3層押出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂は、透明性や成形加工性に優れ、しかも安価であることから種々の用途に使用されており、例えば発泡ポリスチレンの押出成形体は、加工性が高く、軽量であることから、建築の分野で広く使用されている。一方、ポリスチレン系樹脂は、反面、表面硬度、表面光沢性、耐候性などが不十分であることから、その表面にポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂層を設けて使用に供されることが多い。この場合、ポリスチレン系樹脂のベース層とPMMA樹脂層との間には、両層を接着するための中間層が設けられる。例えば、特許文献1には、ポリスチレン系樹脂発泡体の基材層と、メチルメタクリレートスチレン共重合樹脂(MS樹脂)からなる中間層と、PMMA樹脂の表面層とからなり、3層共押出成形により得られた建築用内外装材が提案されている。
【0003】
ところで、現在では、石油資源の枯渇化を防止するため、各種プラスチック製品の再使用が検討されている。特にポリスチレンは、最近では入手が困難となり、その価格も上昇していることから、その再利用が望まれており、実際、特許文献2には、リサイクル発泡ポリスチレンを用いた瓦桟が提案されている。
【0004】
また、ポリスチレンを用いた木工用合成樹脂組成物として、特許文献3には、メルトフローレート(MFR)が0.3〜30のポリオレフィン系樹脂をMFRが0〜30のポリスチレンと組み合わせたものが提案されている。
【特許文献1】特許第3905642号
【特許文献2】特開2004−218307号
【特許文献3】特開平10−101812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、従来公知のポリスチレン成形体は、切断性乃至切削性が悪いという問題があり、例えば電動ノコギリなどを用いて切断したときにバリが発生するという欠点があり、特にリサイクルポリスチレンでは、この切断性もしくは切削性が一層悪化している傾向がある。例えば、特許文献1の3層押出成形体や特許文献2の瓦桟においても、このような切断性乃至切削性は改善されておらず、さらに、特許文献3の木工用樹脂組成物を用いた押出成形体でも切断性等は改善されておらず、その切断乃至切削を慎重に行わなければならず、特に建築の分野では、作業性が悪いという問題が生じたり、目に見えない場所に使用しなければならないなどの制限を受けてしまう。また、特許文献1の3層押出成形体では、切断乃至切削に際して、表面のPMMA樹脂層に割れを生じやすいという欠点もある。
【0006】
従って、本発明の目的は、切断乃至切削に際してバリを発生せず、優れた切断性乃至切削性(以下、切削加工性と呼ぶ)を有する発泡ポリスチレンの押出成形体を提供することにある。
本発明の他の目的は、ポリスチレンの耐候性などの特性が改善され、さらにはリサイクルポリスチレンを用いた場合にも優れた切削加工性を示す3層押出成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、発泡ポリスチレン系ベース層(A)とアクリルスチレン系中間層(B)とアクリロニトリルスチレン系表層(C)との3層を共押出しすることにより形成された3層押出成形体において、
前記発泡ポリスチレン系ベース層(A)は、
(A1)メルトフローレート(MFR)が0.1乃至20g/10minの
ポリスチレン 100重量部、
(A2)スチレン系エラストマー 5乃至30重量部、
(A3)ポリオレフィン系樹脂2.5乃至30重量部、
を含み、且つ1.1乃至5.0倍の発泡倍率を有しており、
前記アクリルスチレン系中間層(B)は、少なくともアクリレート単位とスチレン単位とを有するアクリルスチレン系共重合樹脂から形成されており、
前記アクリロニトリルスチレン系表層(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位とを有するアクリロニトリルスチレン系共重合樹脂から形成されていること、
を特徴とする3層押出成形体が提供される。
【0008】
本発明において、好適な態様は以下の通りである。
(1)前記ポリオレフィン系樹脂(A3)は、MFRが0.1乃至20g/10minの範囲で且つ前記ポリスチレンのMFRの0.1乃至10倍の範囲にあること。
(2)前記ポリオレフィン系樹脂(A3)の50重量%以上はポリエチレンであること。
(3)前記ポリオレフィン系樹脂(A3)は、ポリエチレン(PE)とポリプロピレンとを、PE/PP=75/25乃至25/75の重量比で含有していること。
(4)前記アクリルスチレン系共重合樹脂が、アクリル単位を50重量%以上含み且つスチレン単位を20重量%以上含むものであること。
(5)前記アクリルスチレン系共重合樹脂がメチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂であること。
(6)前記アクリルスチレン系中間層(B)が、前記アクリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り2.5乃至25重量部の量でアクリル系エラストマーを含有していること。
(7)前記アクリロニトリルスチレン系共重合樹脂が、アクリレート単位とスチレン単位とアクリロニトリル単位とを有する共重合樹脂またはシリコーン単位とアクリレート単位とアクリロニトリル単位とスチレン単位とを有する共重合樹脂であること。
(8)前記アクリルスチレン系中間層(B)が、前記アクリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り30重量部以下の量で着色剤を含有しており、前記アクリロニトリルスチレン系表層(C)が、前記アクリロニトリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り20重量部以下の量で着色剤を含有していること。
(9)前記ベース層(A)が3乃至50mmの厚みを有し、前記中間層(B)が0.1乃至1.0mmの厚みを有し、前記表層(C)が0.5乃至2.0mmの厚みを有していること。
(10)建築用内装材もしくは外装材として使用すること。
【発明の効果】
【0009】
発泡ポリスチレンの成形体をベース層とする本発明の3層押出成形体は、軽量性に優れており、しかも表面硬度が高く、耐殺傷性、耐薬品性に優れているばかりか、後述する実施例から明らかなように、優れた切削加工性を有しており、電動ノコギリなどを用いて切断を行った場合にも、ほとんどバリを発生せず、このため、建築用の内外装材として極めて有用である。また、上記のような切削加工性は、ベース層形成用のポリスチレンとしてリサイクル品を用いた場合にも損なわれることがなく、従って、省資源や経済性の点でも優れている。さらには、各層の密着性にも優れており、層間剥離等の不都合が有効に防止されている。
【0010】
また、中間層(B)及び表面層(C)に着色剤が配合されているものは、ベース層(A)の隠ぺい性にも優れている。例えば、リサイクルポリスチレンが使用されている場合には、ベース層(A)は濃色となる場合が多いが、このような場合において、中間層(B)及び表面層(C)に着色剤を配合すれば、下層のベース層(A)の色を効果的に隠ぺいすることができる。例えば、着色剤として白色系の着色剤を用いてもベース層(A)の濃色を隠ぺいできるため、リサイクル品使用による制限を有効に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の三層押出成形体は、発泡ポリスチレン系ベース層(A)とアクリルスチレン系中間層(B)とアクリロニトリルスチレン系表層(C)との3層を共押出しすることにより形成されるものであり、以下、各層について説明する。
【0012】
<発泡ポリスチレン系ベース層(A)>
発泡ポリスチレンベース層(A)は、ポリスチレン(A1)を主成分として含有する樹脂組成物を、他の層(B)及び(C)と共押出しすることにより形成されるものであり、押出に際して1.1乃至5.0倍の倍率に発泡される。即ち、このような倍率に発泡されることにより、軽量性が確保されると同時に、切削加工性も高められる。
【0013】
また、上記の樹脂組成物には、主成分のポリスチレン(A1)以外に、スチレン系エラストマー(A2)及びポリオレフィン系樹脂(A3)が配合され、さらには発泡剤(A4)も配合される。
【0014】
ポリスチレン(A1):
ポリスチレンは、ベース層(A)を形成する基材成分であり、ポリスチレンを基材として用いることにより、強度等の機械的特性を確保することができる。
【0015】
本発明において、かかるポリスチレンのメルトフローレート(MFR:JISK 7210,200℃、5kg)は、0.1乃至20g/10min、特に1.0乃至10g/10minの範囲にあることが必要である。MFRが上記範囲よりも大きいと成形が困難となり、またMFRが上記範囲よりも小さいと、強度等の特性が低下したり、発泡が困難となったりする。
【0016】
また、上記のようなMFRを有している限り、リサイクルポリスチレンも好適に使用することができる。むしろ、このようなリサイクルポリスチレンを使用したときにも、物性低下を回避でき、切削加工性等の優れた特性が得られることが本発明の最大の利点とも言える。
【0017】
スチレン系エラストマー(A2):
スチレン系エラストマーは、耐衝撃性の向上に寄与する成分であるが、後述するポリオレフィン系樹脂と基材成分であるポリスチレン(A1)との相溶化を向上させ、しかも後述するアクリルスチレン系中間層(B)との密着性を向上させるための成分でもある。即ち、スチレン系エラストマー以外の他のゴム成分(例えばアクリル系ゴム)を用いた場合には、ポリスチレンとポリエチレン或いはポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂との相溶性が著しく低いため、分散不良などを生じ、各種の特性が低下してしまい、また、スチレンアクリル系中間層(B)との密着性が損なわれ、ベース層(A)と中間層(B)との間で剥離を生じ易くなってしまう。
【0018】
このようなスチレン系エラストマーは、両末端相にポリスチレン相を持つブロックコポリマーで、中間層にポリブタジエンやポリイソプレン層などを持っており、常温では、加硫ゴムのような優れた弾性を示すとともに高温で可塑化され、一般のプラスチック成形機などで容易に加工が可能である。このようなスチレン系エラストマーには、ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)などがあり、耐衝撃性向上効果が大きく、樹脂改質などの観点から、SEBSが最適である。ポリブタジエンの含有量が、一般に5乃至80重量%、特に50乃至70重量%の範囲にあるものが入手容易である。
【0019】
このスチレン系エラストマーは、ポリスチレン(A1)100重量部当り、5乃至30重量部、特に10乃至20重量部の量で使用される。この量が、上記範囲よりも少ないと、後述するポリオレフィン系樹脂の分散不良が生じ、3層押出成形体の各種特性が全体的に低下してしまうばかりか、樹脂組成物の成形性も低下してしまう。また、上記範囲よりも多量の使用は、剛性の低下をもたらす。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂(A3):
ポリオレフィン系樹脂は、耐衝撃性を付与し、さらには切削加工性を向上させる成分であり、ポリスチレン(A1)100重量部当り2.5乃至30重量部、特に8乃至20重量部の量で使用される。この量が、上記範囲よりも少ないと、耐衝撃性が低下するばかりか、切削加工性も低下してしまい、例えば電動ノコギリで成形体を切断したときに、多くのバリが発生してしまうこととなる。
【0021】
このようなポリオレフィン系樹脂のMFR(JIS K 7210,230℃、2.16kg)は、上記のポリスチレンと同様、0.1乃至20g/10min、特に1.0乃至10g/10minの範囲にあることが必要であり、さらに、前記ポリスチレンのMFRの0.1乃至10倍の範囲にあることが好ましい。即ち、両者のMFRがかけ離れると、成形加工性が低下してしまうおそれがあるからである。
【0022】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂としては、種々のオレフィン系樹脂を使用することができるが、特に柔軟性を高め、耐衝撃性を付与し、しかも切削加工性を大きく向上させるという観点から、ポリエチレン、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が好適であり、かかるポリオレフィン系樹脂の少なくとも25重量%以上がポリエチレンであることが好適である。
【0023】
また、本発明においては、上記のポリエチレンと共にポリプロピレンを併用することが最も好適である。即ち、ポリプロピレンの併用により、剛性が付与され、この結果、適度なバランスで剛性と柔軟性が付与され、曲げ強度等の強度が高められるばかりか、切削加工性がさらに向上するものである。例えば、上記のポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)とを、PE/PP=75/25乃至25/75の重量比で使用することが、優れた切削加工性等を確保する上で最適である。この場合、ポリプロピレンを上記範囲よりも多量に使用すると、発泡を十分に行うことが困難となる場合がある。
【0024】
尚、ポリプロピレンとしては、前述したMFRを有しているものであれば、アイソタクティック構造のものでも、シンジオタクティック構造のものでも使用でき、さらには、ホモポリプロピレンの他に、ランダム共重合ポリプロピレンや、ブロック共重合ポリプロピレンを使用することもできる。これらの共重合体におけるコモノマーとしては、プロピレン以外のオレフィン類、例えばエチレン、1−ブテンの1種或いは2種以上の組合せが挙げられる。本発明においては、特に剛性の観点から、ホモポリプロピレンが最も好適である。
【0025】
発泡剤(A4):
発泡剤としては、種々のタイプがあるが、本発明では、特に化学発泡剤が使用される。即ち、ガスの含浸及び膨張を利用した物理発泡では、発泡のために特別の設備が必要となったりして、経済性、生産性の点で不利となってしまう。
【0026】
本発明において使用される発泡剤としては、これに限定されるものではないが、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウムなどの無機発泡剤;N,N'−ジメチル−N,N'−ジニトロソ・テレフタルアミド、N,N'−ジニトロソ・ペンタメチレン・テトラミンなどのニトロソ化合物;アゾジカルボンアミド、アゾジカルボキサミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウム・アゾジカルボキシレートなどのアゾ化合物;ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、P,P'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン−3,3'−ジスルホニルヒドラジドなどのスルホニルヒドラジド化合物;カルシウムアジド、4,4'−ジフェニルジスルホニルアジド、p−トルエンスルホニルアジドなどのアジド化合物などをあげることができ、これらは、それぞれ、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0027】
このような発泡剤は、用いる(A1)〜(A3)成分の種類、物性及び配合量に応じて、発泡倍率が1.1〜5.0倍となるような量で使用され、具体的には、ポリスチレン(A1)100重量部当り0.1乃至3重量部の量で使用される。これよりも少量の場合には、発泡が不十分となり、成形される押出成形体は、軽量性や加工性などの点で不満足なものとなってしまう。また、上記範囲よりも多量に使用すると、発泡が過剰となり、押出成形体の剛性が不満足となってしまい、特に、ノコギリで切断したときに多量のバリが発生するようになってしまう。
【0028】
その他の添加剤:
また、本発明において、上記のベース層形成用樹脂組成物には、成形される押出成形体の剛性や耐衝撃性等の特性が損なわれない限りの量で、それ自体公知の各種添加剤を配合することができる。
【0029】
例えば、発泡剤の分解温度の低下、分解促進、気泡の均一化などのために、発泡助剤を配合することができる。このような発泡助剤としては、サルチル酸、フタル酸、ステアリン酸などの有機酸;尿素およびその誘導体などをあげることができる。また、気泡調節の目的で、無機微粉末、例えばタルク、各種クレイ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等を配合することができる。また、加工性や成形性の向上を目的として、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属石鹸、脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の滑剤を配合することもできる。さらに、軽量化のために、適宜木粉を配合することもできる。このような木粉としては、粒径が100メッシュサイズ以下(150μm以下)のものが使用され、例えば針葉樹、広葉樹、ラワン材等の任意の木材の粉末が使用され、製材の際副生する鋸屑、鉋屑等もボールミル粉砕等で粉末化して使用できる。また、これらの添加剤以外にも、必要に応じて、充填剤、着色剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等も、必要に応じて、適宜配合することができる。
【0030】
上述した樹脂組成物を、中間層(B)及び表層(C)とともに共押出し、発泡することにより形成されるベース層(A)の厚みは、特に制限されるものではなく、その用途に応じて適宜の厚みとすることができるが、一般に、ポリスチレンの特性を最大限に活かし、しかも発泡による軽量化や加工性の向上を確保するという観点から、3乃至50mmの範囲にあるのがよい。
【0031】
<アクリルスチレン系中間層(B)>
アクリルスチレン系中間層(B)は、上述した発泡ポリスチレン系のベース層(A)と後述するアクリロニトリルスチレン系表層(C)との間に介在し、両層を接着するために設けられる層であり、アクリレート単位とスチレン系単位とを有するアクリルスチレン系共重合体樹脂により形成される。
【0032】
上記のようなアクリルスチレン系共重合樹脂としては、(メタ)アクリレートとスチレン系モノマー(スチレンやα−メチルスチレンなど)との共重合体が好適であるが、ベース層(A)と表層(C)に対して良好な接着性を有しているという観点から、アクリレート単位を50重量%以上含み且つスチレン系単位(特にスチレン単位)を20重量%以上含むアクリルスチレン系共重合樹脂が好適であり、特にメチルメタクリレート(MMA)を50乃至80重量%、スチレンを20乃至50重量%の量で含むメチルメタクリレート/スチレン共重合体樹脂(MS樹脂)が最適である。
【0033】
また、上記のようなアクリルスチレン系共重合樹脂は、押出成形性の観点から、そのムーニー粘度(MVR;ISO 1133,220℃、10kg)が3乃至10cmg/10minの範囲にあることが好ましい。
【0034】
上記のアクリルスチレン系共重合樹脂から形成される中間層(B)の厚みは、一般に0.1乃至1.0mmの範囲にあることが好ましい。即ち、この厚みが薄すぎると、ベース層(A)と表層(C)との接着性が不満足となってしまい、表層(C)の剥がれなどを生じ易くなってしまう。また、必要以上に厚く形成しても、ベース層(A)と表層(C)との接着強度が一定値以上に向上することはなく、むしろポリスチレンを主成分として含むベース層(A)の物性低下を来たし、さらには切削加工性も低下してしまうおそれがあるからである。
【0035】
また、本発明においては、かかる中間層(B)に着色剤を配合することもでき、着色剤の配合により、ベース層(A)の色の隠ぺいを図ることができる。即ち、前述したベース層(A)の形成にリサイクルポリスチレンを用いた場合、ベース層(A)が濃色を呈することがある。このような場合には、着色剤の配合により、ベース層(A)の色を隠ぺいし、任意の色を発現させることができ、成形体の商品価値を高めることができる。このような着色剤として、一般に、白色乃至黒色、或いはカラーの色を呈する無機顔料が、発現させる色に応じて使用される。
【0036】
尚、このような着色剤の使用量は、中間層(B)の接着性を損なわない程度の量とすべきであり、一般に、前記アクリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り30重量部以下とするのがよい。
【0037】
また、上記のアクリルスチレン系中間層(B)には、前記アクリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り2.5乃至25重量部、特に8乃至20重量部の量でアクリル系エラストマーが配合されていてもよい。このような量でアクリル系エラストマーを配合することにより、特に表層(C)との密着性を向上させ、さらには、該中間層(B)の柔軟性を高め、成形体の切削加工性を一層向上させることができる。
【0038】
上記のようなアクリル系エラストマーとしては、それ自体公知のものが使用され、例えば、炭素数が1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステルをアクリル単位として含むエラストマー、例えばアクリル酸エステル/クロルメチルスチレン共重合体エラストマー、アクリル酸エステル/アリルグリシジルエーテル共重合体エラストマー、アクリル酸エステル/グリシジルメタクリレート共重合体エラストマー、アクリル酸エステル/クロルエチルビニルエーテル共重合体エラストマーなどが代表的であり、特にアクリル酸エステルを50重量%以上の量で含むものが好適である。
【0039】
<アクリロニトリルスチレン系表層(C)>
本発明の押出成形体において、表面に形成されるアクリロニトリルスチレン系表層(C)は、アクリロニトリル単位とスチレン単位とを有するアクリロニトリルスチレン系共重合樹脂から形成されるものであり、このような表層を設けることにより、ポリスチレンから形成されているベース層(A)の特性を損なわずに、耐殺傷性や耐候性を高め、また耐薬品性も向上させることができる。
【0040】
上記のようなアクリロニトリルスチレン系共重合樹脂としては、アクリルゴムとアクリロニトリル/スチレンを共重合させたアクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン共重合樹脂(ASA樹脂)が好適である。また、アクリロニトリル単位とスチレン単位に加えてシリコーン単位(SiO単位)を有する共重合樹脂、例えばアクリロニトリル/シリコーン変性アクリルゴム/スチレン共重合樹脂(SAS樹脂)も好適に使用することができる。更に、アクリル樹脂との密着性が高い類似の樹脂としてアクリロニトリル/EPDM/スチレン共重合樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)も好適に使用することができる。
【0041】
尚、ASA樹脂やSAS樹脂における各成分の共重合比は、目的とする特性等に応じて適宜の量比とすればよく、例えば耐衝撃性を高めようとする場合には、ゴム成分の量を多くすればよい。
【0042】
また、上記のようなアクリロニトリルスチレン系共重合樹脂は、押出成形性の観点から、そのMVR(ISO 1133,220℃、10kg)が1乃至20cmg/10minの範囲にあることが好ましい。
【0043】
本発明において、表層(C)の厚みは、一般に0.5乃至2.0mmの範囲にあることが好ましい。即ち、この厚みが薄すぎると、耐殺傷性や耐候性などの特性が不満足となってしまい、例えば建築分野での使用が制限されてしまうおそれがある。また、必要以上に厚く形成しても、殺傷性等の特性が向上することはなく、かえって経済性が損なわれたり、或いは発泡ポリスチレンに由来するベース層(A)の低下が生じたり、切削加工性の低下も生じてしまうおそれがある。
【0044】
また、本発明においては、かかる表層(C)も着色剤を配合することもでき、例えば、前述した中間層(B)に着色剤を配合すると同時に、表層(A)にも着色剤を配合することにより、隠ぺい性を高め、ベース層(A)の色の隠ぺいを確実なものとすることができる。
【0045】
尚、このような着色剤の使用量は、表層(C)の特性を損なわない程度の量とすべきであり、特に、前述した中間層(B)と比較すると、表層(C)では、着色剤の配合が耐擦傷性等の表面特性に及ぼす影響が大きいため、その量は中間層(B)よりも少ないことが好ましく、一般に前記アクリロニトリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り20重量部以下とするのがよい。
【0046】
尚、本発明において、中間層(B)及び表層(C)に着色剤を配合する場合、着色剤の配合量は、各層の厚みに応じて、前述した範囲内で調整するのがよい。即ち、各層の厚みが厚いほど、隠ぺい力は高くなるため、着色剤の配合量を少なくして隠ぺい性を高めることができる。
【0047】
<押出成形体の製造>
本発明においては、前述した各層を形成する樹脂組成物乃至は樹脂を用いての3層共押出しにより、目的とする押出成形体を製造することができる。
【0048】
例えば、ベース層形成用押出機、中間層形成用押出機、及び表層形成用押出機を用意し、各層を形成する樹脂組成物や樹脂等を、必要によりドライブレンドした後、押出機のホッパーに供給し、押出機中で溶融混練し、所定のダイを介して共押出しして目的とする形状の押出成形体を得ることができる。押出機としては、単軸或いは二軸のスクリューを備えたそれ自体公知の押出機が使用される。
【0049】
また、ベース層(A)に関しては、発泡を、予め押出機外部で行うこともできるが、一般には、押出機内で発泡剤の分解温度よりも高温で溶融混練を行って押出しと同時に発泡を行うことが好適である。
【0050】
このようにして発泡倍率が1.1〜5.0倍と軽量性に富んだベース層(A)に中間層(B)を介して表層(C)が形成された本発明の押出成形体が得られる。かかる押出成形体は、軽量性に優れ、耐擦傷性や耐薬品性に優れているばかりか、切削加工性にも優れ、例えば電動ノコギリなどを用いての切断を行った場合にも殆どバリを生じない。従って、かかる押出成形体は、建築用内装材や外装材としの用途に最適である。
【実施例】
【0051】
本発明を次の実施例で更に説明する。次の実施例は、説明のためのものであり、いかなる意味においても本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分は、以下の通りである。
【0052】
<ベース層形成用成分>
(A1)ポリスチレン(PS)
リサイクル品
MFR:5.0g/10min
(A2)スチレン系エラストマー
スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体
(SEBS)
(A3)ポリエチレン系樹脂
MFR:3.5g/10min
(A4)ポリプロピレン系樹脂(PP)
MFR:3.5g/10min
(A5)発泡剤
重曹
アゾジカルボアミド(ADCA)
【0053】
<中間層形成用成分>
MS1;メチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂(プラネロイKM−6A)
MVR:10cm3/10min
メチルメタクリル含量:60%
スチレン含量:40%
MS2;メチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂(デンカTX−800F)
MVR:25cm3/10min
メチルメタクリル含量:50%
スチレン含量:50%
MS3;メチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂(セビアン MAS30)
MVR:13cm3/10min
メチルメタクリル含量:60%
スチレン含量:40%
MS4;メチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂(セビアン MAS10)
MVR:22cm3/10min
メチルメタクリル含量:20%
スチレン含量:80%
アクリル系TPE;アクリルエラストマー(プラステク株式会社製アムゼルAZ1803
N)
【0054】
<表層形成用成分>
ASA;UMG−ABS株式会社製アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン共重
合樹脂:ダイヤラックE310
MVR: 13cm3/10min
SAS;UMG−ABS株式会社製アクリロニトリル/シリコーン変性アクリルゴム
/スチレン共重合樹脂:ダイヤラックE359A
MVR: 4.5cm3/10min
PMMA;メチルメタクリレート樹脂 住友化学製HT01Y
MFR: 2g/10min
【0055】
(実験例1〜9)
表1に示す重量割合で各種成分をベース層形成用押出機、中間層形成用押出機及び表層形成用押出機中に投入し、それぞれ、180〜230℃のシリンダー温度で溶融混練し、共押出しして10×100×1000mmの形状の3層押出成形体を作製した(各層の厚みは表1に示す)。
得られた成形体について、以下の方法で、ベース層の発泡倍率、密着性、切削加工性、隠ぺい性を測定し、その結果を表1に示した。
【0056】
(1)発泡倍率
比重及び密度から算出した。
尚、比重は、各材料からも計算値を採用し、密度はJISK7112の水中置換法に準拠して測定した。
(2)密着性
面剥離試験により剥離面を観察して評価した。
○:ベース層が材破する。
×:樹脂層間で剥離する。
(3)切削性
木工用電動ノコギリにより成形体を切断し、切断面のバリの発生量を目視で評価した。
○:バリの発生がほとんどない。
×:多量のバリが発生した。
(4)隠ぺい性
表1に示す各成分の処方に加え、中間層に白色着色剤を5重量部乃至15重量部、及び表層に、同じ白色着色剤を2重量部配合し、ベース層の色を表層側から見て判定した。
○:ベース層の色が全く見えない。
△:ベース層の色が若干見える。
×:ベース層の色がはっきりと見える。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ポリスチレン系ベース層(A)とアクリルスチレン系中間層(B)とアクリロニトリルスチレン系表層(C)との3層を共押出しすることにより形成された3層押出成形体において、
前記発泡ポリスチレン系ベース層(A)は、
(A1)メルトフローレート(MFR)が0.1乃至20g/10minの
ポリスチレン 100重量部、
(A2)スチレン系エラストマー 5乃至30重量部、
(A3)ポリオレフィン系樹脂2.5乃至30重量部、
を含み、且つ1.1乃至5.0倍の発泡倍率を有しており、
前記アクリルスチレン系中間層(B)は、少なくともアクリレート単位とスチレン単位とを有するアクリルスチレン系共重合樹脂から形成されており、
前記アクリロニトリルスチレン系表層(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位とを有するアクリロニトリルスチレン系共重合樹脂から形成されていること、
を特徴とする3層押出成形体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂(A3)は、MFRが0.1乃至20g/10minの範囲で且つ前記ポリスチレンのMFRの0.1乃至10倍の範囲にある請求項1に記載の3層押出成形体。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂(A3)の25重量%以上はポリエチレンである請求項2に記載の3層押出成形体。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂(A3)は、ポリエチレン(PE)とポリプロピレンとを、PE/PP=75/25乃至25/75の重量比で含有している請求項3に記載の3層押出成形体。
【請求項5】
前記アクリルスチレン系共重合樹脂が、アクリル単位を50重量%以上含み且つスチレン単位を20重量%以上含むものである請求項1に記載の3層押出成形体。
【請求項6】
前記アクリルスチレン系共重合樹脂がメチルメタクリレート/スチレン共重合樹脂である請求項5に記載の3層押出成形体。
【請求項7】
前記アクリルスチレン系中間層(B)が、前記アクリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り2.5乃至25重量部の量でアクリル系エラストマーを含有している請求項1に記載の3層押出成形体。
【請求項8】
前記アクリロニトリルスチレン系共重合樹脂が、アクリレート単位とスチレン単位とアクリロニトリル単位とを有する共重合樹脂またはシリコーン単位とアクリレート単位とアクリロニトリル単位とスチレン単位とを有する共重合樹脂である請求項1に記載の3層押出成形体。
【請求項9】
前記アクリルスチレン系中間層(B)が、前記アクリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り30重量部以下の量で着色剤を含有しており、前記アクリロニトリルスチレン系表層(C)が、前記アクリロニトリルスチレン系共重合樹脂100重量部当り20重量部以下の量で着色剤を含有している請求項1に記載の3層押出成形体。
【請求項10】
前記ベース層(A)が3乃至50mmの厚みを有し、前記中間層(B)が0.1乃至1.0mmの厚みを有し、前記表層(C)が0.5乃至2.0mmの厚みを有している請求項1に記載の3層押出成形体。
【請求項11】
建築用内装材もしくは外装材として使用する請求項1に記載の3層押出成形体。

【公開番号】特開2009−154440(P2009−154440A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336418(P2007−336418)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】