3次元咬合コンタクト測定器
【課題】上下顎模型(咬合模型)を取り付けることのできる咬合器と組み合わせて使用することが可能で、患者の咬合時における歯の接触点(「咬合コンタクト」という)を工学的に正確に測定することができる測定器具を提供すること。
【解決手段】患者から採取した上下顎模型に関連して咬合時のベクトル方向を表現する方向に設けられた支持軸と、水平方向の角度を表す目盛が表示された水平目盛板と、縦方向の角度を表す目盛が表示された垂直目盛板と、咬合器に保持された上下顎模型の咬合点を指示する咬合点指針と、該咬合点指針と同軸上に設けられ該咬合点指針の回動とともに回動して前記垂直目盛板の角度目盛を指示する垂直角度指針と、前記咬合点指針の水平面内における回動と共に回動し、前記水平目盛板上の角度目盛を指示する水平角度指針とを備える。
【解決手段】患者から採取した上下顎模型に関連して咬合時のベクトル方向を表現する方向に設けられた支持軸と、水平方向の角度を表す目盛が表示された水平目盛板と、縦方向の角度を表す目盛が表示された垂直目盛板と、咬合器に保持された上下顎模型の咬合点を指示する咬合点指針と、該咬合点指針と同軸上に設けられ該咬合点指針の回動とともに回動して前記垂直目盛板の角度目盛を指示する垂直角度指針と、前記咬合点指針の水平面内における回動と共に回動し、前記水平目盛板上の角度目盛を指示する水平角度指針とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無歯顎症や多数歯欠損症等に対する歯科治療に使用するに適した咬合コンタクト測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数歯欠損症等に対する義歯床治療やインプラント治療では、義歯や架工歯に理想的な咬合を付与することがきわめて重要である。従来は、この咬合付与を、口腔や口腔周囲の主として硬組織の解剖学的形態と、その平均値を割り出し、いくつかの仮想基準線や平面と合わせて下顎骨の普遍的な咀嚼運動を捉えようとしてきた。そして、実際の治療では、このような普遍的咀嚼運動に基づいて、医師や技工士が各患者の咬合を再構築しているのが現状である。
【0003】
上記医師や技工士による各患者の咬合の再構築は、主として医師や技工士の経験と勘に頼って行われているが、実際の咬合時における強力な噛み締め力の方向と大きさに対する基準となるものがないので、患者の個別の理想的な咬合を定量的に構築することはきわめて困難であり、例えば多数歯欠損症患者用の義歯を製作する場合に、上顎に対する下顎の相対的動きと、それぞれ14本の歯の凹凸形態とによってその咬合時に生じなければならないせん断機能がうまく働かないという問題がある。このため、患者がなんとか満足する義歯を製作するにはかなりの長時間と、しばしば手間を要するという問題点があった。
【0004】
咬合時に作用する筋肉は、図9に示すように、咬筋(M.masseter)Mmと側頭筋(M.temporlis)Mtである。これらによって生じる力は、正常な状態では左右対称である筈であり、所定の方向と大きさを有するベクトルであり、本発明者の研究によると、これらの合力は、個々の患者によって若干の差はあるが、標準的には、図10及び図11に示すように、前頭洞の前縁部(ナジオンの直上部)付近の点(「N点」と呼ぶ)に向かうことがわかっている。
【0005】
頭部側面を2次元的に表した図11において、Paは前歯の咬合点、Pbは奥歯の咬合点、Pcは関節頭の点をそれぞれ表す。同図において、奥歯の咬合点Pbに作用する咬合力と関節頭の点Pcに作用する咬合力は図のLで示す方向を有するベクトルであり、これらの力とその合力Fとの関係は、次式に示すとおりである。図中の0は、前記N点を表す。
N1sinθ1=N2sinθ2
N1cosθ2+N2cosθ2=F
2N1cosφ1・sinθ1=2N2cosφ2・sinθ2
2N1cosφ1・cosθ1+2N2cosφ2・cosφ2=F
【0006】
なお、すべての患者の咬合時の合力が必ずしも0(N点)に向かうわけではなく、奇形や加齢による骨の老化・吸収等により、咬合時の合力の向かう点は、上記N点と下顎角の点Pとを結ぶ線L(「合力線」又は「ベクトル軸」と呼ぶ)上を点P側へ徐々に近づくこともわかっている。
【0007】
そこで、上記合力線L上の点(患者によってその位置は多少異なる)を中心とする円弧(実際は球面である)を描けば、理想的な咬合における各咬合点は当該円弧上に左右対称的に並ぶはずである。
【0008】
本発明者は、このような知見に基づいて、下記特許文献に詳述しているような咬合器(プロッター)を開発し、広く実用に供している。この咬合器は、患者の咬合模型上に理想的な咬合曲線を描くことのできるもので、すでに多くの症例において好評を博している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2001−215816号
【特許文献2】特願2001−392174号
【特許文献3】特願2002−046657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、理想的な咬合状態では、咬合時における上下の歯の接触点は顔の中心線を挟んで左右対称な位置にあることになるが、患者の現在の咬合時における歯の接触点を正確に把握し、これを咬合器上に再現できる器具はなかった。このため、左右非対称状態のまま治療を完了し、患者の不評を買うのみならず、患者に日常生活上の忍耐を強いたりすることが多かった。本発明が解決しようとする課題は、上下顎模型(咬合模型)を取り付けることのできる咬合器と組み合わせて使用することが可能で、患者の咬合時における歯の接触点(「咬合コンタクト」という)を工学的に正確に測定することができ、正常な状態における咬合状態を再現して、理想的な咬合を構築することのできる測定器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、本発明にかかる3次元咬合コンタクト測定器は、患者から採取した上下顎模型を、その患者が咬み締めたときの合力軸を基準に所定の角度で保持する咬合器に取り付けて使用される咬合点の測定器であって、前記上下顎模型に関連して咬合時のベクトル方向を表現する方向に設けられた支持軸と、水平方向における角度を表す目盛が表示された水平目盛板と、垂直方向に対する角度を表す目盛が表示された垂直目盛板と、前記咬合器に保持された上下顎模型の咬合点を指示する咬合点指針と、該咬合点指針と同軸上に設けられ該咬合点指針の回動とともに回動して前記垂直目盛板の角度目盛を指示する垂直角度指針と、前記咬合点指針の水平面内における回動と共に回動し、前記水平目盛板上の角度目盛を指示する水平角度指針とを備えていることを特徴とする3次元咬合コンタクト測定器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の3次元咬合コンタクト測定器は、縦横一対の目盛板とこれら目盛板上の目盛を指示する一対の指針により、患者の咬合点を3次元的に正確に測定することができるので、各患者に対する理想的な咬合を簡単に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の咬合コンタクト測定器を咬合器に取り付けた状態を表わす斜視図である。
【図2】水平目盛板の平面図(a)、側面図(b)、底面図(c)、異なる実施例を表す平面図(d)である。
【図3】垂直目盛板の正面図(a)、側面図(b)、底面図(c)である。
【図4】咬合器の一部を省略した正面図である。
【図5】その要部の平面図である。
【図6】フェイスボウの使用状態を表わす外観図である。
【図7】フェイスボウベースの斜視図である。
【図8】上下顎模型を咬合器に取り付けた状態を表わす外観図である。
【図9】人間の咬合筋を表す外観図である。
【図10】頭蓋骨の正面図である。
【図11】咬合力の作用方向を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかる咬合コンタクト測定器は、互いに交差する方向に設けた二つの目盛板と二つの指針とにより、簡単な構成で、咬合コンタクトを3次元的に正確に測定でき、各患者の咬合状態を咬合器上に正確に再現することが可能となり、咬合治療の目安を簡単に得ることが可能となった。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の測定器の1実施例を咬合器に取り付けた状態を表す外観図であり、図2、図3は、水平目盛板2と垂直目盛板3の分解図である。この3次元咬合コンタクト測定器(以下「測定器」と略称することもある)1は、水平目盛板2と垂直目盛板3を備えている。なお、これら目盛板2,3における「水平」、「垂直」の文言は、地面に対し厳密な水平、垂直の意味を表すものではなく、ベクトル軸に対し厳密に水平であり、その水平面に対し垂直という意味である。
【0016】
水平目盛板2は、円弧状のフレーム4と、該円弧状のフレームの内径方向に沿う直線状の支持フレーム5を組み合わせてなり、前記直線状フレーム5のほぼ中央部に、該測定器1を咬合器101に取り付けるための基部6が一体に設けられている。
【0017】
円弧状のフレーム4には、その円周に沿って角度を表す目盛4aが表示されている。目盛4aは、左右中心位置Cが0となっており、そこから左右両側に対称的に目盛が表示されている。図示例では、最も外側の目盛Sは75となっている。すなわち、水平目盛板2には0度から75度までの目盛が左右対称的に表示されている。
【0018】
この水平目盛板2には咬合器に対する取り付け手段が設けられている。図示例では、取り付け手段として、直線状フレーム5に左右一対の取り付け穴7,7が設けられ、この穴7,7に咬合器に設けた上下方向のピンを挿通することにより、水平目盛板2を咬合器に取り付けるようになっている。なお、前記基部6には、湾曲状の凹部8と、水平目盛板2を咬合器に固定するためのロック手段としての止めねじ10が設けられている。
【0019】
図2(d)は上記と若干異なる実施例を表すもので、この水平目盛板2は、円弧状のフレーム4の内側から中心部に向かって突出する左右一対の支持フレーム5’,5’が設けられている。この支持フレーム5’に取り付け穴7が設けられている点は上記と同様である。
【0020】
一方、垂直目盛板3は、概略扇状に形成され、その要の部分にブラケット12が一体に設けられている。ブラケット12は、一対の細長い板13,13と、これら一対の板13,13の下部を結合するブロック14とからなり、該ブロック14には、前記垂直目盛板3の基線3b側の片のほぼ延長上に位置するように支持軸15が設けられている。垂直目盛板3にも角度を表す目盛3aがその円弧部の円周に沿って表示されている。この目盛3aは前記基線3bの位置Dが0であり、反対側の外端線Sの位置が60となっている。すなわち、垂直目盛板3には、0度から60度までの目盛が表示されている。
【0021】
垂直目盛板3の前記ブロック14には、横向指針20と縦向指針30が取り付けられている。横向指針20は、概略U字状の支持部21と、該支持部21の先端部(U字の底に当たる部分)に固着された針22とからなり、前記支持部21の開口側端部が軸23によって前記ブロック14に上下に回動自在に支持されている。
【0022】
上記縦向指針30は、長手方向の溝31が形成された細長い支持体32の両端部に長短二つの指針33,34を一体に設けてなる。一方の長い指針33は、患者の歯列が転写された模型における咬合接触点を指示するための咬合接触点指示指針であり、他方の短い指針34は、垂直目盛板3の目盛を指示する目盛指示指針である。これら二つの指針33,34は、同一直線上にある。
【0023】
前記細長い支持体32の溝31には、ブロック14に取り付けた軸35が挿通されている。この軸35の径は前記溝31の幅とほぼ等しく、溝31の内面に摺接している。このため、支持体32はブロック14に対し、軸方向に円滑に移動可能かつ軸35回りに回動可能である。なお、図中の36は軸35に設けたツマミであり、これを回すことにより軸35をブロック14から抜き取り、縦向指針30を取り外すことができる。
【0024】
垂直目盛板3には、咬合器101に対する取り付け手段として、前記軸15が設けられている。この長い軸15は、その上端部が前記ブロック14の中心に回転自在かつ逸脱不能に取り付けられている。この軸15を咬合器101に設けられている垂直方向の軸穴に挿通することにより、垂直目盛板3を縦向きに、かつ水平面内で回転自在に取り付けることができる。
【0025】
つぎに、この咬合コンタクト測定器1とともに使用するに適した咬合器とフェイスボウ(コンパス)について説明する。
【0026】
まず、この咬合器101は、患者から採取した上下顎模型(石膏模型400等)をセットして義歯等を取り付ける位置を決めるためのもので、平面上に設置されるベース102を備え、該ベース102の後端部には支柱103が立設され、前端部には下顎支持部材104が設けられている。下顎支持部材104は、ベース102に前後位置調節可能に取り付けられており、軸106の操作によってその前後位置及び咬合器の前後方向の中心軸に対する傾きを調節することができるようになっている。104aは、咬合模型を取り付けるためのマグネットである。
【0027】
支柱103は、所定の間隔をおいて並設した左右1対のフレームからなり、支柱103の間隔部に回動部材(移動支柱)107の基軸108が軸110によって回動可能に支持されている。このため、回動部材107は、軸110を中心に上下に回動可能である。回動部材107には、前後動部材109が前後移動可能に取り付けられている。この前後動部材109を回動部材107に固定するためのロック手段として、レバー付きのねじ(図示を省略)が設けられている。
【0028】
前記市中103の上下中間部には、フェイスボウを取り付ける際に、患者の耳穴に相当する指示ピン115,115が設けられている。
【0029】
上記回動部材107の上部には溝部107aが形成され、この溝部に前記前後動部材109が摺動自在に嵌り込んでいる。前後動部材109には、前記水平目盛板2と垂直目盛板3を取り付けるための取り付け手段が設けられている。
【0030】
すなわち、前記水平目盛板2の取付け手段として、該目盛板2の穴7,7に挿入されるピン120,120が上向きに突設されている。また、その左右中央部に前記縦向目盛板3の軸15が挿通される支持孔122付きの支持部材123が設けられている。支持部材123は、中央部に前記支持孔122が形成されるとともに、該支持孔122の一部が切り欠かれて端部が開放された溝124となった平面視概略U字状の弾性部材からなり、該溝124の部分に挿通されたねじ棒125をレバー126で回すことにより、支持孔122を開いたり狭めたりすることができるようになっている。
【0031】
つぎに、図6に表されたフェイスボウの1例について具体的に説明する。このフェイスボウ200は、患者の頭部に取り付けて、当該患者の咬合曲線を求めるためのもので、金属、プラスチック等ある程度の剛性と強度を有する材料で作られた基枠201を備えている。
【0032】
基枠201は、患者の頭部の左右両側にそれぞれ配置される左右一対の側部フレーム202,202と、これら左右の側部フレームの上端部を互いに接続する横フレーム203を備えた概略コ字状に形成されている。上記側部フレーム202は、咬合時の力の方向を側面視で表す側面ベクトル軸として使用される。
【0033】
基枠201には、概略コ字形の回動枠205が軸206,206によって回動自在に取り付けられている。回動枠205の側部フレーム205aには該側部フレームに沿って移動可能なブラケット207が設けられ、これにロックナット208が取り付けられている。回動枠205は、基枠201に任意の角度に設定することができる。すなわち、ブラケット207を移動させて、後述のブラケット215に対する当接位置を変化させることにより、回動枠205の角度が設定される。
【0034】
回動枠205の横フレーム205bの中央部にはマウスピース固着用の取付け部材210が固着されている。この取付け部材210には歯列カーブ用基準片212(マウスピース)がボルト等の固定手段で取付けられる。この歯列カーブ基準片212は、種々の形状・寸法のものを選択的に取り付けるようになっている。
【0035】
なお、回動枠205は、基枠201に固着したブラケット215,215に設けられている複数のねじ穴215a,…に螺着される螺子によって患者に適応する位置に取り付けられる。また、回動枠205の両側には、該回動枠205に対し回動自在な回動枠高さ指示具が取り付けられている。この指示具を回動させた時にその指示ピンの移動軌跡が患者の側頭部の所定の範囲内、すなわち、イヤホールと関節頭の間にあるように回動枠205を基枠に取り付けることにより、適正な歯列カーブが測定できる。
【0036】
横フーム203の中央部には、ブラケット230が固着されている。このブラケット230には、基枠201を患者の頭部に正しく装着するための突出長さ調節可能な基準点指示具231と、患者の眉間付近にあてがわれて基枠201を支持する上下位置調節可能なパット部材232とが取り付けられている。パット232としては、患者の肌に接するゆるく湾曲した板状のパットを用いることもできるが、このようなパットは、患者の顔面に装着する時に患者の肌に接して苦痛を与えたり、肌を傷付たりする恐れがあるので、そのような恐れの無いもの、例えば回転球面体からなるパットを用いるのが好ましい。
【0037】
上記基準点指示具231は、患者の咬合時の合力軸が患者の前頭骨表面と交わる点(N点)を指示するためのもので、この咬合力集中部は、左右の下顎角中間点より発し、人間の頭部のナジオン上部付近に位置することが判明しているので、実際的には患者の左右の眉毛の中間点を指示するように基枠を患者に装着すればよい。
【0038】
また、基枠201の両側の側部フレーム202,202には、該側部フレームと直角方向に突出するイヤピース支持部材235がそれぞれ取り付けられている。このイヤピース支持部材235はその突出長さが調節可能であり、その先端部に該支持部材235と直角方向に伸びるイヤピース240が取り付けられている。イヤピース240は、滑らかな先端部を有するもので、これを患者の耳穴に挿入することにより、基枠201を患者の頭部に支持することができる。
【0039】
このフェイスボウ200は、前記パット部材232とイヤピース240によって患者の頭部に装着されるが、この装着状態では、基枠201の側部フレーム202が咬合力ベクトル軸の側部から見た投影線と重なる状態となる。すなわち、両側部フレーム202,202によって決定される面と前記合力の方向とが重なるように患者の頭部に取り付ける。この状態で、回動フレーム205を基枠201に取り付け、該回動フレーム205を回動させることによって該回動フレーム205に取り付けたマウスピースを患者の口腔内に挿入し、基準片で患者の歯列を調べたり、あるいは患者がくわえているワックスリムを回動フレームを介してフェイスボウ200に固定保持することができる。ワックスリムを固定保持した回動フレーム205の基枠202に対する角度を確定することにより、最適な咬合状態を再現することができるのである。
【0040】
つぎに、上記この咬合器101とフェイスボウ200を用いて、患者に義歯床を製作する方法を具体的に説明すると、概略つぎのようになる。
【0041】
まず、公知の方法で床を製作する。床の製作方法は、まず、所定のトレイに印象剤を載せて患者の上下の歯茎の形状の印象をとる。この印象の上から石膏を流し込み、石膏模型を作製する。この石膏模型の上にレジン床を作り、ワックスでおおよその上下のワックスリム(歯槽堤またはロウ堤)を製作する。
【0042】
このワックスリム(ロウ堤)を患者の口腔内に入れて、実際に咬み合わせてもらい、上下顎のセントリックポジションを確定する。ワックスリムを咬んだ状態で上下のワックスリム(ロウ堤)をワックスで互いに接合一体化する。この状態で、頬粘膜とのなじみ具合や美観等を調整し、該ロウ堤をフェイスボウ200に取り付ける。この取付けは、患者の口腔内にあるロウ堤の前面にワックスリム固定保持具(バイトフォーク)を押し当て、尖った先端部をワックスリムに挿入して固定し、ブラケット207の固定用ロックナット208によって側部フレーム202との角度を咬合トランスファのために一定に保つ。
【0043】
つぎに、フェイスボウ200を患者から取り外し、図7に示すようなフェースボウベース250によって保持する。このベース250には基枠201の側部フレーム202の下端部が嵌合する凹部251,251が設けられているので、この凹部251に側部フレーム202,202の下端部を嵌合することにより、フェイスボウ200を起立状態で支持することができる。ベースをテーブル面等の水平面上に載置しておくことにより、側部ベクトル軸を表す側部フレーム202が垂直状態に支持される。
【0044】
咬合器101に対するフェイスボウ200のセットは、上記垂直状態に支持されているフェイスボウ200の側部フレーム202,202の間に咬合器101を配置する。この場合、咬合器101のベクトル軸を表す軸15は垂直であるから、基枠の側部フレーム202を垂直に支持したフェイスボウに示された基準点指示具231(ベクトル軸ポイント)と垂直線上に一致し、うまく適合するのである。そして、ワックスリムの上側に石膏を流し込んで固化させ、石膏模型400とする。
【0045】
図8は、咬合器101に石膏模型400を取り付けた状態を表す。石膏模型400を咬合器101にセットした状態で、咬合器101に取り付け本発明の咬合コンタクト測定器1で当該咬合模型である石膏模型400における咬合コンタクトを測定する。
【0046】
この場合、図8に示すように、水平目盛板2を咬合器101に取り付けておくが、この取り付けは、咬合器101の取り付け部に突設した上向きのピン120,120を水平目盛板2の取り付け穴7,7に挿通することにより行う。このピンと取り付け穴7,7との嵌合により、水平目盛板2を簡単かつ確実に咬合器101に水平に取り付けることができる。水平目盛板2を咬合器101に取り付けたら、止めねじ10を締め付けて両者を固定する。
【0047】
つぎに、垂直目盛板3を咬合器101に取り付ける。この取付けは、上下方向の長い軸15を咬合器1の支持孔122に完全に挿通することにより行う。この取付け状態では、垂直目盛板3が縦横の指針20,30と共に水平面内で回転可能である。
【0048】
この状態で、指針33を咬合模型上の咬合点を指示する点に移動させると、短い指針34によってその垂直方向、すなわち軸15の方向に対する角度が指示される。また、横向き指針20は、前記指針33とともに水平面内で回転し、しかも指針33と指針20とは平面視で重なっているので、この指針20が当該咬合点の平面上の角度を指示する。なお、縦向きの軸15は、咬合のベクトル軸を表すので、これによって、当該ベクトル軸に対する当該咬合点の水平面内での角度と垂直面内での傾斜角度を知ることができるのである。
【0049】
このように、模型上に再現された患者の咬合点を咬合のベクトル軸を基準として3次元的に検知することができるので、当該患者の複数の咬合点が正規の咬合曲線上に配列しているかどうかを簡単に知ることができ、もし左右の咬合点が左右非対称的であれば、これを左右対称的に位置するように治療することが可能となる。
【0050】
従来、現実の患者の咬合点を咬合力が向かう点(N点)を基準として把握することができず、このため理想的な咬合を構築することができなかったが、本発明の咬合コンタクト測定器1を使用することにより、簡単かつ正確に現実の咬合点を検知することが可能となり、これに基づいて、理想的な咬合を再構築することが可能となったのである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上の説明から明らかなように、本発明にかかる3次元咬合コンタクト測定器は、工業的に製作することが可能であり、これを用いれば、各患者にとって最も好ましいと考えられる咬合が得られるように治療することが可能となった。なお、以上の説明では主に樹脂製の義歯床について説明したが、金属製の義歯床の場合も同様の原理で製作することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 3次元咬合コンタクト測定器
2 水平目盛板
3 垂直目盛板
20 横向指針
30 縦向指針
101 咬合器
200 フェイスボウ
【技術分野】
【0001】
本発明は、無歯顎症や多数歯欠損症等に対する歯科治療に使用するに適した咬合コンタクト測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数歯欠損症等に対する義歯床治療やインプラント治療では、義歯や架工歯に理想的な咬合を付与することがきわめて重要である。従来は、この咬合付与を、口腔や口腔周囲の主として硬組織の解剖学的形態と、その平均値を割り出し、いくつかの仮想基準線や平面と合わせて下顎骨の普遍的な咀嚼運動を捉えようとしてきた。そして、実際の治療では、このような普遍的咀嚼運動に基づいて、医師や技工士が各患者の咬合を再構築しているのが現状である。
【0003】
上記医師や技工士による各患者の咬合の再構築は、主として医師や技工士の経験と勘に頼って行われているが、実際の咬合時における強力な噛み締め力の方向と大きさに対する基準となるものがないので、患者の個別の理想的な咬合を定量的に構築することはきわめて困難であり、例えば多数歯欠損症患者用の義歯を製作する場合に、上顎に対する下顎の相対的動きと、それぞれ14本の歯の凹凸形態とによってその咬合時に生じなければならないせん断機能がうまく働かないという問題がある。このため、患者がなんとか満足する義歯を製作するにはかなりの長時間と、しばしば手間を要するという問題点があった。
【0004】
咬合時に作用する筋肉は、図9に示すように、咬筋(M.masseter)Mmと側頭筋(M.temporlis)Mtである。これらによって生じる力は、正常な状態では左右対称である筈であり、所定の方向と大きさを有するベクトルであり、本発明者の研究によると、これらの合力は、個々の患者によって若干の差はあるが、標準的には、図10及び図11に示すように、前頭洞の前縁部(ナジオンの直上部)付近の点(「N点」と呼ぶ)に向かうことがわかっている。
【0005】
頭部側面を2次元的に表した図11において、Paは前歯の咬合点、Pbは奥歯の咬合点、Pcは関節頭の点をそれぞれ表す。同図において、奥歯の咬合点Pbに作用する咬合力と関節頭の点Pcに作用する咬合力は図のLで示す方向を有するベクトルであり、これらの力とその合力Fとの関係は、次式に示すとおりである。図中の0は、前記N点を表す。
N1sinθ1=N2sinθ2
N1cosθ2+N2cosθ2=F
2N1cosφ1・sinθ1=2N2cosφ2・sinθ2
2N1cosφ1・cosθ1+2N2cosφ2・cosφ2=F
【0006】
なお、すべての患者の咬合時の合力が必ずしも0(N点)に向かうわけではなく、奇形や加齢による骨の老化・吸収等により、咬合時の合力の向かう点は、上記N点と下顎角の点Pとを結ぶ線L(「合力線」又は「ベクトル軸」と呼ぶ)上を点P側へ徐々に近づくこともわかっている。
【0007】
そこで、上記合力線L上の点(患者によってその位置は多少異なる)を中心とする円弧(実際は球面である)を描けば、理想的な咬合における各咬合点は当該円弧上に左右対称的に並ぶはずである。
【0008】
本発明者は、このような知見に基づいて、下記特許文献に詳述しているような咬合器(プロッター)を開発し、広く実用に供している。この咬合器は、患者の咬合模型上に理想的な咬合曲線を描くことのできるもので、すでに多くの症例において好評を博している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2001−215816号
【特許文献2】特願2001−392174号
【特許文献3】特願2002−046657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、理想的な咬合状態では、咬合時における上下の歯の接触点は顔の中心線を挟んで左右対称な位置にあることになるが、患者の現在の咬合時における歯の接触点を正確に把握し、これを咬合器上に再現できる器具はなかった。このため、左右非対称状態のまま治療を完了し、患者の不評を買うのみならず、患者に日常生活上の忍耐を強いたりすることが多かった。本発明が解決しようとする課題は、上下顎模型(咬合模型)を取り付けることのできる咬合器と組み合わせて使用することが可能で、患者の咬合時における歯の接触点(「咬合コンタクト」という)を工学的に正確に測定することができ、正常な状態における咬合状態を再現して、理想的な咬合を構築することのできる測定器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、本発明にかかる3次元咬合コンタクト測定器は、患者から採取した上下顎模型を、その患者が咬み締めたときの合力軸を基準に所定の角度で保持する咬合器に取り付けて使用される咬合点の測定器であって、前記上下顎模型に関連して咬合時のベクトル方向を表現する方向に設けられた支持軸と、水平方向における角度を表す目盛が表示された水平目盛板と、垂直方向に対する角度を表す目盛が表示された垂直目盛板と、前記咬合器に保持された上下顎模型の咬合点を指示する咬合点指針と、該咬合点指針と同軸上に設けられ該咬合点指針の回動とともに回動して前記垂直目盛板の角度目盛を指示する垂直角度指針と、前記咬合点指針の水平面内における回動と共に回動し、前記水平目盛板上の角度目盛を指示する水平角度指針とを備えていることを特徴とする3次元咬合コンタクト測定器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の3次元咬合コンタクト測定器は、縦横一対の目盛板とこれら目盛板上の目盛を指示する一対の指針により、患者の咬合点を3次元的に正確に測定することができるので、各患者に対する理想的な咬合を簡単に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の咬合コンタクト測定器を咬合器に取り付けた状態を表わす斜視図である。
【図2】水平目盛板の平面図(a)、側面図(b)、底面図(c)、異なる実施例を表す平面図(d)である。
【図3】垂直目盛板の正面図(a)、側面図(b)、底面図(c)である。
【図4】咬合器の一部を省略した正面図である。
【図5】その要部の平面図である。
【図6】フェイスボウの使用状態を表わす外観図である。
【図7】フェイスボウベースの斜視図である。
【図8】上下顎模型を咬合器に取り付けた状態を表わす外観図である。
【図9】人間の咬合筋を表す外観図である。
【図10】頭蓋骨の正面図である。
【図11】咬合力の作用方向を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかる咬合コンタクト測定器は、互いに交差する方向に設けた二つの目盛板と二つの指針とにより、簡単な構成で、咬合コンタクトを3次元的に正確に測定でき、各患者の咬合状態を咬合器上に正確に再現することが可能となり、咬合治療の目安を簡単に得ることが可能となった。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の測定器の1実施例を咬合器に取り付けた状態を表す外観図であり、図2、図3は、水平目盛板2と垂直目盛板3の分解図である。この3次元咬合コンタクト測定器(以下「測定器」と略称することもある)1は、水平目盛板2と垂直目盛板3を備えている。なお、これら目盛板2,3における「水平」、「垂直」の文言は、地面に対し厳密な水平、垂直の意味を表すものではなく、ベクトル軸に対し厳密に水平であり、その水平面に対し垂直という意味である。
【0016】
水平目盛板2は、円弧状のフレーム4と、該円弧状のフレームの内径方向に沿う直線状の支持フレーム5を組み合わせてなり、前記直線状フレーム5のほぼ中央部に、該測定器1を咬合器101に取り付けるための基部6が一体に設けられている。
【0017】
円弧状のフレーム4には、その円周に沿って角度を表す目盛4aが表示されている。目盛4aは、左右中心位置Cが0となっており、そこから左右両側に対称的に目盛が表示されている。図示例では、最も外側の目盛Sは75となっている。すなわち、水平目盛板2には0度から75度までの目盛が左右対称的に表示されている。
【0018】
この水平目盛板2には咬合器に対する取り付け手段が設けられている。図示例では、取り付け手段として、直線状フレーム5に左右一対の取り付け穴7,7が設けられ、この穴7,7に咬合器に設けた上下方向のピンを挿通することにより、水平目盛板2を咬合器に取り付けるようになっている。なお、前記基部6には、湾曲状の凹部8と、水平目盛板2を咬合器に固定するためのロック手段としての止めねじ10が設けられている。
【0019】
図2(d)は上記と若干異なる実施例を表すもので、この水平目盛板2は、円弧状のフレーム4の内側から中心部に向かって突出する左右一対の支持フレーム5’,5’が設けられている。この支持フレーム5’に取り付け穴7が設けられている点は上記と同様である。
【0020】
一方、垂直目盛板3は、概略扇状に形成され、その要の部分にブラケット12が一体に設けられている。ブラケット12は、一対の細長い板13,13と、これら一対の板13,13の下部を結合するブロック14とからなり、該ブロック14には、前記垂直目盛板3の基線3b側の片のほぼ延長上に位置するように支持軸15が設けられている。垂直目盛板3にも角度を表す目盛3aがその円弧部の円周に沿って表示されている。この目盛3aは前記基線3bの位置Dが0であり、反対側の外端線Sの位置が60となっている。すなわち、垂直目盛板3には、0度から60度までの目盛が表示されている。
【0021】
垂直目盛板3の前記ブロック14には、横向指針20と縦向指針30が取り付けられている。横向指針20は、概略U字状の支持部21と、該支持部21の先端部(U字の底に当たる部分)に固着された針22とからなり、前記支持部21の開口側端部が軸23によって前記ブロック14に上下に回動自在に支持されている。
【0022】
上記縦向指針30は、長手方向の溝31が形成された細長い支持体32の両端部に長短二つの指針33,34を一体に設けてなる。一方の長い指針33は、患者の歯列が転写された模型における咬合接触点を指示するための咬合接触点指示指針であり、他方の短い指針34は、垂直目盛板3の目盛を指示する目盛指示指針である。これら二つの指針33,34は、同一直線上にある。
【0023】
前記細長い支持体32の溝31には、ブロック14に取り付けた軸35が挿通されている。この軸35の径は前記溝31の幅とほぼ等しく、溝31の内面に摺接している。このため、支持体32はブロック14に対し、軸方向に円滑に移動可能かつ軸35回りに回動可能である。なお、図中の36は軸35に設けたツマミであり、これを回すことにより軸35をブロック14から抜き取り、縦向指針30を取り外すことができる。
【0024】
垂直目盛板3には、咬合器101に対する取り付け手段として、前記軸15が設けられている。この長い軸15は、その上端部が前記ブロック14の中心に回転自在かつ逸脱不能に取り付けられている。この軸15を咬合器101に設けられている垂直方向の軸穴に挿通することにより、垂直目盛板3を縦向きに、かつ水平面内で回転自在に取り付けることができる。
【0025】
つぎに、この咬合コンタクト測定器1とともに使用するに適した咬合器とフェイスボウ(コンパス)について説明する。
【0026】
まず、この咬合器101は、患者から採取した上下顎模型(石膏模型400等)をセットして義歯等を取り付ける位置を決めるためのもので、平面上に設置されるベース102を備え、該ベース102の後端部には支柱103が立設され、前端部には下顎支持部材104が設けられている。下顎支持部材104は、ベース102に前後位置調節可能に取り付けられており、軸106の操作によってその前後位置及び咬合器の前後方向の中心軸に対する傾きを調節することができるようになっている。104aは、咬合模型を取り付けるためのマグネットである。
【0027】
支柱103は、所定の間隔をおいて並設した左右1対のフレームからなり、支柱103の間隔部に回動部材(移動支柱)107の基軸108が軸110によって回動可能に支持されている。このため、回動部材107は、軸110を中心に上下に回動可能である。回動部材107には、前後動部材109が前後移動可能に取り付けられている。この前後動部材109を回動部材107に固定するためのロック手段として、レバー付きのねじ(図示を省略)が設けられている。
【0028】
前記市中103の上下中間部には、フェイスボウを取り付ける際に、患者の耳穴に相当する指示ピン115,115が設けられている。
【0029】
上記回動部材107の上部には溝部107aが形成され、この溝部に前記前後動部材109が摺動自在に嵌り込んでいる。前後動部材109には、前記水平目盛板2と垂直目盛板3を取り付けるための取り付け手段が設けられている。
【0030】
すなわち、前記水平目盛板2の取付け手段として、該目盛板2の穴7,7に挿入されるピン120,120が上向きに突設されている。また、その左右中央部に前記縦向目盛板3の軸15が挿通される支持孔122付きの支持部材123が設けられている。支持部材123は、中央部に前記支持孔122が形成されるとともに、該支持孔122の一部が切り欠かれて端部が開放された溝124となった平面視概略U字状の弾性部材からなり、該溝124の部分に挿通されたねじ棒125をレバー126で回すことにより、支持孔122を開いたり狭めたりすることができるようになっている。
【0031】
つぎに、図6に表されたフェイスボウの1例について具体的に説明する。このフェイスボウ200は、患者の頭部に取り付けて、当該患者の咬合曲線を求めるためのもので、金属、プラスチック等ある程度の剛性と強度を有する材料で作られた基枠201を備えている。
【0032】
基枠201は、患者の頭部の左右両側にそれぞれ配置される左右一対の側部フレーム202,202と、これら左右の側部フレームの上端部を互いに接続する横フレーム203を備えた概略コ字状に形成されている。上記側部フレーム202は、咬合時の力の方向を側面視で表す側面ベクトル軸として使用される。
【0033】
基枠201には、概略コ字形の回動枠205が軸206,206によって回動自在に取り付けられている。回動枠205の側部フレーム205aには該側部フレームに沿って移動可能なブラケット207が設けられ、これにロックナット208が取り付けられている。回動枠205は、基枠201に任意の角度に設定することができる。すなわち、ブラケット207を移動させて、後述のブラケット215に対する当接位置を変化させることにより、回動枠205の角度が設定される。
【0034】
回動枠205の横フレーム205bの中央部にはマウスピース固着用の取付け部材210が固着されている。この取付け部材210には歯列カーブ用基準片212(マウスピース)がボルト等の固定手段で取付けられる。この歯列カーブ基準片212は、種々の形状・寸法のものを選択的に取り付けるようになっている。
【0035】
なお、回動枠205は、基枠201に固着したブラケット215,215に設けられている複数のねじ穴215a,…に螺着される螺子によって患者に適応する位置に取り付けられる。また、回動枠205の両側には、該回動枠205に対し回動自在な回動枠高さ指示具が取り付けられている。この指示具を回動させた時にその指示ピンの移動軌跡が患者の側頭部の所定の範囲内、すなわち、イヤホールと関節頭の間にあるように回動枠205を基枠に取り付けることにより、適正な歯列カーブが測定できる。
【0036】
横フーム203の中央部には、ブラケット230が固着されている。このブラケット230には、基枠201を患者の頭部に正しく装着するための突出長さ調節可能な基準点指示具231と、患者の眉間付近にあてがわれて基枠201を支持する上下位置調節可能なパット部材232とが取り付けられている。パット232としては、患者の肌に接するゆるく湾曲した板状のパットを用いることもできるが、このようなパットは、患者の顔面に装着する時に患者の肌に接して苦痛を与えたり、肌を傷付たりする恐れがあるので、そのような恐れの無いもの、例えば回転球面体からなるパットを用いるのが好ましい。
【0037】
上記基準点指示具231は、患者の咬合時の合力軸が患者の前頭骨表面と交わる点(N点)を指示するためのもので、この咬合力集中部は、左右の下顎角中間点より発し、人間の頭部のナジオン上部付近に位置することが判明しているので、実際的には患者の左右の眉毛の中間点を指示するように基枠を患者に装着すればよい。
【0038】
また、基枠201の両側の側部フレーム202,202には、該側部フレームと直角方向に突出するイヤピース支持部材235がそれぞれ取り付けられている。このイヤピース支持部材235はその突出長さが調節可能であり、その先端部に該支持部材235と直角方向に伸びるイヤピース240が取り付けられている。イヤピース240は、滑らかな先端部を有するもので、これを患者の耳穴に挿入することにより、基枠201を患者の頭部に支持することができる。
【0039】
このフェイスボウ200は、前記パット部材232とイヤピース240によって患者の頭部に装着されるが、この装着状態では、基枠201の側部フレーム202が咬合力ベクトル軸の側部から見た投影線と重なる状態となる。すなわち、両側部フレーム202,202によって決定される面と前記合力の方向とが重なるように患者の頭部に取り付ける。この状態で、回動フレーム205を基枠201に取り付け、該回動フレーム205を回動させることによって該回動フレーム205に取り付けたマウスピースを患者の口腔内に挿入し、基準片で患者の歯列を調べたり、あるいは患者がくわえているワックスリムを回動フレームを介してフェイスボウ200に固定保持することができる。ワックスリムを固定保持した回動フレーム205の基枠202に対する角度を確定することにより、最適な咬合状態を再現することができるのである。
【0040】
つぎに、上記この咬合器101とフェイスボウ200を用いて、患者に義歯床を製作する方法を具体的に説明すると、概略つぎのようになる。
【0041】
まず、公知の方法で床を製作する。床の製作方法は、まず、所定のトレイに印象剤を載せて患者の上下の歯茎の形状の印象をとる。この印象の上から石膏を流し込み、石膏模型を作製する。この石膏模型の上にレジン床を作り、ワックスでおおよその上下のワックスリム(歯槽堤またはロウ堤)を製作する。
【0042】
このワックスリム(ロウ堤)を患者の口腔内に入れて、実際に咬み合わせてもらい、上下顎のセントリックポジションを確定する。ワックスリムを咬んだ状態で上下のワックスリム(ロウ堤)をワックスで互いに接合一体化する。この状態で、頬粘膜とのなじみ具合や美観等を調整し、該ロウ堤をフェイスボウ200に取り付ける。この取付けは、患者の口腔内にあるロウ堤の前面にワックスリム固定保持具(バイトフォーク)を押し当て、尖った先端部をワックスリムに挿入して固定し、ブラケット207の固定用ロックナット208によって側部フレーム202との角度を咬合トランスファのために一定に保つ。
【0043】
つぎに、フェイスボウ200を患者から取り外し、図7に示すようなフェースボウベース250によって保持する。このベース250には基枠201の側部フレーム202の下端部が嵌合する凹部251,251が設けられているので、この凹部251に側部フレーム202,202の下端部を嵌合することにより、フェイスボウ200を起立状態で支持することができる。ベースをテーブル面等の水平面上に載置しておくことにより、側部ベクトル軸を表す側部フレーム202が垂直状態に支持される。
【0044】
咬合器101に対するフェイスボウ200のセットは、上記垂直状態に支持されているフェイスボウ200の側部フレーム202,202の間に咬合器101を配置する。この場合、咬合器101のベクトル軸を表す軸15は垂直であるから、基枠の側部フレーム202を垂直に支持したフェイスボウに示された基準点指示具231(ベクトル軸ポイント)と垂直線上に一致し、うまく適合するのである。そして、ワックスリムの上側に石膏を流し込んで固化させ、石膏模型400とする。
【0045】
図8は、咬合器101に石膏模型400を取り付けた状態を表す。石膏模型400を咬合器101にセットした状態で、咬合器101に取り付け本発明の咬合コンタクト測定器1で当該咬合模型である石膏模型400における咬合コンタクトを測定する。
【0046】
この場合、図8に示すように、水平目盛板2を咬合器101に取り付けておくが、この取り付けは、咬合器101の取り付け部に突設した上向きのピン120,120を水平目盛板2の取り付け穴7,7に挿通することにより行う。このピンと取り付け穴7,7との嵌合により、水平目盛板2を簡単かつ確実に咬合器101に水平に取り付けることができる。水平目盛板2を咬合器101に取り付けたら、止めねじ10を締め付けて両者を固定する。
【0047】
つぎに、垂直目盛板3を咬合器101に取り付ける。この取付けは、上下方向の長い軸15を咬合器1の支持孔122に完全に挿通することにより行う。この取付け状態では、垂直目盛板3が縦横の指針20,30と共に水平面内で回転可能である。
【0048】
この状態で、指針33を咬合模型上の咬合点を指示する点に移動させると、短い指針34によってその垂直方向、すなわち軸15の方向に対する角度が指示される。また、横向き指針20は、前記指針33とともに水平面内で回転し、しかも指針33と指針20とは平面視で重なっているので、この指針20が当該咬合点の平面上の角度を指示する。なお、縦向きの軸15は、咬合のベクトル軸を表すので、これによって、当該ベクトル軸に対する当該咬合点の水平面内での角度と垂直面内での傾斜角度を知ることができるのである。
【0049】
このように、模型上に再現された患者の咬合点を咬合のベクトル軸を基準として3次元的に検知することができるので、当該患者の複数の咬合点が正規の咬合曲線上に配列しているかどうかを簡単に知ることができ、もし左右の咬合点が左右非対称的であれば、これを左右対称的に位置するように治療することが可能となる。
【0050】
従来、現実の患者の咬合点を咬合力が向かう点(N点)を基準として把握することができず、このため理想的な咬合を構築することができなかったが、本発明の咬合コンタクト測定器1を使用することにより、簡単かつ正確に現実の咬合点を検知することが可能となり、これに基づいて、理想的な咬合を再構築することが可能となったのである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上の説明から明らかなように、本発明にかかる3次元咬合コンタクト測定器は、工業的に製作することが可能であり、これを用いれば、各患者にとって最も好ましいと考えられる咬合が得られるように治療することが可能となった。なお、以上の説明では主に樹脂製の義歯床について説明したが、金属製の義歯床の場合も同様の原理で製作することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 3次元咬合コンタクト測定器
2 水平目盛板
3 垂直目盛板
20 横向指針
30 縦向指針
101 咬合器
200 フェイスボウ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から採取した上下顎模型を、その患者が咬み締めたときの合力軸を基準に所定の角度で保持する咬合器に取り付けて使用される咬合点の測定器であって、前記上下顎模型に関連して咬合時のベクトル方向を表現する方向に設けられた支持軸と、水平方向における角度を表す目盛が表示された水平目盛板と、垂直方向に対する角度を表す目盛が表示された垂直目盛板と、前記咬合器に保持された上下顎模型の咬合点を指示する咬合点指針と、該咬合点指針と同軸上に設けられ該咬合点指針の回動とともに回動して前記垂直目盛板の角度目盛を指示する垂直角度指針と、前記咬合点指針の水平面内における回動と共に回動し、前記水平目盛板上の角度目盛を指示する水平角度指針とを備えていることを特徴とする3次元咬合コンタクト測定器。
【請求項1】
患者から採取した上下顎模型を、その患者が咬み締めたときの合力軸を基準に所定の角度で保持する咬合器に取り付けて使用される咬合点の測定器であって、前記上下顎模型に関連して咬合時のベクトル方向を表現する方向に設けられた支持軸と、水平方向における角度を表す目盛が表示された水平目盛板と、垂直方向に対する角度を表す目盛が表示された垂直目盛板と、前記咬合器に保持された上下顎模型の咬合点を指示する咬合点指針と、該咬合点指針と同軸上に設けられ該咬合点指針の回動とともに回動して前記垂直目盛板の角度目盛を指示する垂直角度指針と、前記咬合点指針の水平面内における回動と共に回動し、前記水平目盛板上の角度目盛を指示する水平角度指針とを備えていることを特徴とする3次元咬合コンタクト測定器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−254232(P2012−254232A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129809(P2011−129809)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(501283416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(501283416)
【Fターム(参考)】
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