説明

3次元造形装置、制御装置、制御方法及び造形物

【課題】実物に近い印象を与える造形物を造ることができる3次元造形装置、その制御装置、制御方法、及びその3次元造形装置により造られた造形物を提供する。
【解決手段】ステップ102では、画像処理コンピュータは、記憶されたDICOMデータの輝度に関して少なくとも2値化以上の多値化処理を実行する。ステップ103では、その多値化に対応した複数段階の輝度情報に基づき、その複数段階の輝度情報に対応した複数の色で着色された画像が生成される。3次元造形装置は、着色された画像に基づいて、1層分の粉体層に2色以上のインクを吐出することで粉体に画像を描き(ステップ107)、これを複数層繰り返す(ステップ108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面データの積層により3次元形状を形成する3次元造形装置、その制御装置、制御方法、及びその3次元造形装置により造られた造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の3次元造形装置は、ラピッドプロトタイピングと呼ばれる装置として知られており、業務用として広く使われている。3次元造形装置の主な方式として、光造形方式、シート積層造形方式、そして、粉体造形方式がある。
【0003】
光造形方式は、光硬化型の樹脂に高出力レーザを照射して、断面形状を形成し、その積層によって3次元形状を造るものである。シート積層造形方式は、薄厚シートを層状に切り抜き、接着して積層して、3次元形状を造るものである。粉体造形方式は、粉体材料を層状に敷き詰めて、断面形状を作り、それを積層して3次元形状を造るものである。
【0004】
粉体造形方式は、更に、粉体を溶融または焼結するものと、接着剤を使って粉体を固化させるものに大分される。後者は、石膏を主成分とする粉末に、印刷機等に用いられるインクジェットのヘッドを用いて、接着剤を吐出して固化させ、断面層を形成し、それを積層することによって3次元形状を造るものである。
【0005】
インクジェットヘッドを利用した粉体造形方式では、インクジェットプリンタのヘッドが、石膏の粉体が敷き詰められたシート上であたかも印刷をするように移動しながら、粉体を結合させる結合剤溶液を吐出する。粉体造形方式では、光硬化方式のように高出力レーザが用いられないため、装置の取り扱いが簡単である。また、光硬化樹脂が用いられないので、環境に対する負荷は相対的に小さく、樹脂の管理などが面倒なことが少ない(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ところで、最近の画像処理技術の大幅な向上により、従来の医療用に用いられているCT(Computed Tomography)画像を処理し、医者の病理判断を支援する手法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2では、X線CTにより得られた被検体の2次元画像中の、例えば脂肪部分の画像に着色することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平07−507508号公報(明細書ページ9、10等に記載)
【特許文献2】特開2007−68844号公報(明細書段落[0045]に記載)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近では、安価な3次元CADが市場に普及しているため、モデルの実体化に有用な上記3次元造形装置が用いられている。3次元造形装置が3次元CADデータを扱う場合、ソリッド形式(モデルの内部に質量のあるもの)またはサーフェス形式(モデルの内部に質量はなく表面のみ、つまり外形だけで現されたもの)のデータ形式が用いられる。したがって、モデルの内部の詳しい情報はなく、外形データのみで定義される。この場合、3次元造形装置では、外側のサーフェスデータに、色またはテクスチャーが貼り付けられた造形物が得られる。
【0009】
しかしながら、モデルの内部の情報が造形物に反映されないため、例えばこの造形物を切断した場合に、この造形物は、実物とは異なる印象を見る者に与える。これを回避するために、内部のデータを逐一定義することも考えられるが、これには多大な時間と手間がかかることになる。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、実物に近い印象を与える造形物を造ることができる3次元造形装置、その制御装置、制御方法、及びその3次元造形装置により造られた造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る3次元造形装置は、ステージと、ヘッドと、調整機構と、吐出指令手段と、制御手段とを具備する。
前記ステージには、粉体材料が堆積される。
前記ヘッドは、前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出する。
前記調整機構は、前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する。
前記吐出指令手段は、造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる。
前記制御手段は、前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記吐出指令手段を制御する。
【0012】
本発明における吐出指令手段は、多値化画像を描くために、複数の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で粉体材料を着色するように、所定の層厚分の粉体材料にヘッドにより吐出させる。これを、多値化画像群を構成する1つ1つの多値化画像ごとに繰り返す。これにより、内部まで着色された造形物を造ることができ、この造形物を扱う者に、実物に近い印象を与えることができる。
【0013】
多値化処理とは、1つの閾値による2値化処理、異なる2つの段階的な閾値による3値化処理、あるいは4値化以上の処理も含む意味である。
【0014】
「複数色」のうちの1つの色は、白または無色の場合もある。着色すべき色の情報は、予め設定されていればよい。
【0015】
前記ヘッドは、前記粉体材料を硬化させるための液体を吐出可能であってもよい。その場合、前記吐出指令手段は、前記造形物の硬度を調整するために、前記ヘッドから吐出される前記液体の量を制御する。
【0016】
これにより、所望の硬度を有する造形物を造ることができる。
【0017】
前記吐出指令手段は、前記造形物中の領域ごとに異なる量の前記液体を前記ヘッドから吐出させてもよい。
【0018】
これにより、例えば造形物中の少なくとも2つの領域でそれぞれ異なる硬度を有する造形物を造ることができる。
【0019】
前記吐出指令手段は、前記複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記多値化画像が着色されることにより生成された画像に応じて前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させてもよい。
【0020】
多値化画像を着色する処理の手段としては、人間の行為が介在したコンピュータの処理、あるいはコンピュータの自動処理がある。
【0021】
この場合のコンピュータの自動処理は、例えば、予め設定された複数色の情報に基づいて、多値化画像中のどの輝度部分にどの色を割り当てるかがプログラムされたソフトウェアの処理により行われる。色の割り当て(色割り当て)の方法としては、所定の色の順序またはランダムに色が割り当てられればよい。また、色の割り当ての対象となる輝度への割り当て(輝度割り当て)の方法としては、その輝度の段階に応じてまたはランダムに、上記色割り当ての方法により色が割り当てられればよい。この処理手段は、上記したような人間の行為を介在させて、色割り当て及び/または輝度割り当てを実行することができるようなものであってもよい。
【0022】
本発明では、このような処理手段は、3次元造形装置とは別体のコンピュータにより実現されるが、3次元造形装置がこの処理手段を備えていてもよい。
【0023】
前記対象物体の断層化画像の積層ピッチが、前記粉体材料の所定の層厚より大きい場合に、前記吐出指令手段は、前記積層ピッチ間で前記断層化画像が積層されたときの外形に、前記多値化画像の外形が対応するように補間処理が実行された前記多値化画像に応じて、前記インクを吐出させてもよい。
【0024】
これにより、対象物体の外形を精度よく造形物に反映させることができる。
【0025】
前記粉体材料は、塩化ナトリウムを主成分として含むものであってもよい。これにより、例えば金属またはプラスチック等の材料を用いる場合に比べ、粉体材料の抽出や加工等に要するエネルギーが低いので環境に良い。
【0026】
前記対象物体は、生物体の断層化画像群であってもよい。
【0027】
これにより、生物体、例えば人体の断層化画像を基にそれらの全部または一部の造形物が得られる。例えば断層化画像群が、生物体のものである場合、特に医療分野においてこの3次元造形装置が有用となる。
【0028】
本発明に係る制御装置は、粉体材料が堆積されるステージと、前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出するヘッドと、前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する調整機構とを備えた3次元造形装置の制御装置であって、吐出指令手段と、制御手段とを具備する。
前記吐出指令手段は、造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる。
前記制御手段は、前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記吐出指令手段を制御する。
【0029】
本発明に係る制御方法は、粉体材料が堆積されるステージと、前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出するヘッドと、前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する調整機構とを備えた3次元造形装置の制御方法である。
前記制御方法は、造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる。
また、前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記ヘッドによる前記インクの供給が制御される。
本発明に係る造形物は、ステージと、ヘッドと、調整機構と、吐出指令手段と、制御手段とを具備する3次元造形装置により得られたものである。
前記ステージには、粉体材料が堆積される。
前記ヘッドは、前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出する。
前記調整機構は、前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する。
前記吐出指令手段は、造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる。
前記制御手段は、前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記吐出指令手段を制御する。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、実物に近い印象を与える造形物を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る3次元造形装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示す3次元造形装置の平面図である。
【図3】図1に示す3次元造形装置の側面図である。
【図4】一実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図である。
【図5】他の実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図である。
【図6】主に3次元造形装置の制御系を示すブロック図である。
【図7】3次元造形装置(及び画像処理コンピュータ)の動作を示すフローチャートである
【図8】人体の大腿骨(の一部または全部)を造形の対象物体とし、この大腿骨の造形物が形成される場合について説明する。
【図9】図7のステップ106以降における3次元造形装置の機械的な動作を順に示す、側面から見た模式図である。
【図10】歯科インプラント手術前のシミュレーションのために、顎骨付近の造形物を造る例を示す図である。
【図11】DICOMデータ中のヒストグラムを示す図である。
【図12】頚椎インプラント手術前のシミュレーションのために、頚椎付近の造形物を造る例を示す図である。
【図13】本実施形態に係る3次元造形装置で設定される色と、実際に造られた造形物サンプルの光学濃度等(グレースケール)等の実測値を示した表である。
【図14】図13の表に基づいた、RGBの設定値(横軸)に対する光学濃度の値を示すグラフである。
【図15】5つの同じ重量の粉体層に、それぞれ異なる量のインクが供給されて形成された造形物(テストピース)の、それらテストピースの重量を表す実測のグラフである。
【図16】図15に示した5つのテストピースの硬度を表す実測のグラフである。
【図17】3次元造形装置により造形物が造られた後、あるテストピースで、所定の硬度が得られるまで造形物を加熱装置で加熱する場合の、加熱温度と時間との関係を示すグラフである。
【図18】断層面に垂直な面で見た、対象物体の画像の一部の外形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0033】
(3次元造形装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る3次元造形装置を示す斜視図である。図2は、図1に示す3次元造形装置100の平面図であり、図3は、その側面図である。
【0034】
3次元造形装置100は、立体格子状のフレーム1と、このフレーム1上に固定されたプレート2とを備える。プレート2の中央部には、プレート2の長手方向であるY方向に沿って造形作業用の開口部2aが設けられている。その開口部2aの下部には、粉体材料(以下、単に粉体4という。)の供給部10、粉体4による造形物が形成される造形部20、粉体4の回収ボックス31が配置されている。これら供給部10、造形部20及び回収ボックス31は、図2及び図3に示すように、それらの図中左側からY方向に沿って順に並ぶように配置されている。
【0035】
供給部10は、粉体4を貯留することが可能な供給ボックス11、供給ボックス11内に配置され供給ボックス11に貯留された粉体4を下から押し上げることで、開口部2aを介してプレート2上に粉体4を供給する供給ステージ12、供給ステージ12を昇降させる昇降シリンダ13を有する。
【0036】
粉体4としては、水溶性の材料が用いられ、例えば、食塩、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの無機物が用いられる。塩化ナトリウムとにがり成分(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなど)が混合されたものが用いられてもよい。すなわち、これは塩化ナトリウムを主成分とするものである。あるいは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸アンモニウム、メタアクリル酸ナトリウムやその共重合体などの有機物を用いることもできる。粉体4の平均粒子径は、典型的には10μm以上100μm以下である。食塩が用いられることにより、例えば金属またはプラスチック等の粉体材料を用いる場合に比べ、粉体材料の抽出や加工等に要するエネルギーが低いので環境に良い。
【0037】
供給部10に隣接して配置された造形部20は、粉体4を貯留することが可能な造形ボックス21、造形ボックス21内に配置され、粉体4が堆積され、形成される造形物を下から支持する造形ステージ22、造形ステージ22を昇降させる昇降シリンダ23を有する。昇降シリンダ13及び23は、例えばボイスコイルモータを利用するもの、あるいは流体圧を利用するものが用いられる。
【0038】
図2で見て、造形ボックス21のX方向の長さは10〜30cm、そのY方向の長さは20〜50cmに設定されるが、この範囲に限られない。
【0039】
供給ボックス11及び造形ボックス21のそれぞれの底面には、余剰な粉体4を排出するための排出口12a及び22aが設けられている。排出口12a及び22aには、粉体4の排出路を形成する部材5が接続されている。それらの部材5の下方には、排出口12a及び22a及びその排出路を形成する部材5を介して自重により排出されてきた粉体4を回収するボックス6がそれぞれ配置されている。
【0040】
各ボックス11、12及び31の上部は開口され、それらの開口面は、プレート2の開口部2aにそれぞれ対面するように配置されている。
【0041】
プレート2の開口部2aの供給部10側の端部付近には、供給部10から供給された粉体4を造形部20に搬送するローラ16が配置されている。ローラ16は、各ボックス11、12及び31の配列方向とは水平面内で直交する方向、すなわちX方向に沿って設けられた回転軸17を有する。また、プレート2上にはローラ16をY方向に移動させる移動機構26が設けられている。
【0042】
移動機構26は、開口部2aのX方向での両側でY方向に沿って延設されたガイドレール25と、これらのガイドレール25の上部に配置された駆動機構とを有する。駆動機構としては、例えばラックアンドピニオンによる駆動機構が用いられる。この場合、図6に示すように、駆動機構は、移動モータ32、この移動モータ32により駆動されるギア28、このギア28と噛み合うラックギア27を有する。ラックギア27は、ガイドレール25またはプレート2上の適切な位置に配置されている。
【0043】
また、図6に示すように、3次元造形装置100は、ローラ16を回転させるための回転モータ29を備えている。ローラ16を回転させるために、移動モータ32の駆動力が図示しないギア等を介してローラ16の回転軸17に伝達されるようにしてもよい。
【0044】
上記駆動機構として、ラックアンドピニオン駆動機構に限られず、ボールネジ駆動機構、ベルト駆動機構、チェーン駆動機構、電磁的または静電気的な作用によるリニアモータ駆動機構が用いられもよい。
【0045】
また、造形部20において造形ステージ22上の粉体4にインクを吐出することが可能なインクジェットヘッド41が、プレート2上で移動可能に設けられている。インクジェットヘッド41は、移動機構26に接続された駆動ユニット40に搭載されており、駆動ユニット40は、移動機構26によりY方向に移動可能に設けられている。例えば、駆動ユニット40は、図6に示すように、Y方向移動モータ33、このY方向移動33により駆動されるギア48、及び上記ラックギア27によりY方向に移動する。このような構成により、インクジェットヘッド41は、プレート2の開口部2a上で、X−Y平面内でスキャン移動が可能となる。
【0046】
駆動ユニット40は、移動体43と、移動体43上に搭載されたボールネジ42とを備えている。インクジェットヘッド41は、このボールネジ42により移動体43上をX方向に移動可能とされている。駆動ユニット40は、ボールネジ駆動機構に代えて、上記した他の駆動機構を有していてもよい。
【0047】
図4は、一実施形態に係るインクジェットヘッド41を示す斜視図である。
【0048】
このインクジェットヘッド41は、一般的なプリンタ用のインクジェットヘッド41の構成及び機能と同様のものが用いられればよい。例えば、インクジェットヘッド41のケース44内には、複数のインクタンク45が設けられている。各インクタンク45は、シアン、マゼンダ及びイエローの各色(以下CMYという。)のインクを貯溜するタンク45C、45M及び45Yである。この例では、シアン用インクタンク45C、マゼンダ用インクタンク45Mが所定の方向に並ぶように設けられ、それらのタンク45C及び45Mの端部側に、イエロー用インクタンク45Yが配置されている。
【0049】
各インクタンク45の下部にはインクを排出する排出穴45aが設けられ、各排出穴45aは、図示しないインクのバッファ室及びインクジェットの発生機構を介してケース44の下部に設けられた各吐出口44aとそれぞれ連通している。インクジェットの発生機構としては、ピエゾ型やサーマル型が挙げられる。
【0050】
図5は、他の実施形態に係るインクジェットヘッドを示す斜視図である。このインクジェットヘッド141では、ケース144内に一方向にマゼンダ用インクタンク145M、イエロー用インクタンク145Y、シアン用インクタンク145Cが配列されている。また、ケース144の底部の所定位置には、各インクの吐出口144aが設けられている。
【0051】
図4及び図5に示したインクジェットヘッド41及び141のほか、CMYの3色に加え、黒、白または無色のインクタンクが備えられていてもよい。特に、黒、白または無色のインクタンクを有するインクジェットヘッドは、粉体4自体の色に応じて適宜設置されればよい。本実施形態では、例えばインク中の水分により粉体4が硬化するような、インク及び粉体4の各材料が選定される。粉体4が白である場合であって、造形物に白色を着色したい(白色を残したい)場合には、その残したい箇所に、無色のインクか、または白色のインクが吐出される。
【0052】
また、インクの材料としては、例えば水性インクが用いられ、市販のインクジェットプリンタ用のインクを用いることも可能である。インクは、粉体4の材料に応じて油性であってもよい。無色インクには、例えば、純水とエチルアルコールを重量比で1対1で混合したもの、純水にグリセリンを重量比20%混合したもの、これらの混合物にさらに微量の界面活性剤を混合したものが用いられる。
【0053】
図6は、主に3次元造形装置100の制御系を示すブロック図である。
【0054】
この制御系は、ホストコンピュータ51(制御手段)、メモリ52、画像処理コンピュータ90、粉体供給コントローラ53、造形ステージコントローラ54、回転モータコントローラ56、移動モータコントローラ55、ヘッド駆動コントローラ57、ヘッドスキャンコントローラ58を備える。
【0055】
ホストコンピュータ51は、上記メモリ52及び各種コントローラの駆動を統括的に制御する。メモリ52は、ホストコンピュータ51に接続され、揮発性または不揮発性のどちらでもよい。
【0056】
画像処理コンピュータ90は、後述するように造形の対象物体の断層化画像としてCT(Computed Tomography)の画像データを取り込み、このCT画像データについてBMP(Basic Multilingual Plane)形式に変換する等の画像処理を実行する。画像処理コンピュータ90は、典型的には3次元造形装置100とは別体のコンピュータであり、ホストコンピュータ51に例えばUSB(Universal Serial Bus)により接続され、記憶された画像処理後の画像データをホストコンピュータ51に送信する。
【0057】
ホストコンピュータ51と画像処理コンピュータ90の接続形態は、USBに限られず、SCSI(Small Computer System Interface)、その他の形態でもよい。また、有線及び無線のどちらでもよい。なお、画像処理コンピュータ90は、3次元造形装置100内に搭載された画像処理用のデバイスであってもよい。また、画像処理コンピュータ90が3次元造形装置100と別体の装置である場合、画像処理コンピュータ90は、CT装置であってもよい。
【0058】
粉体供給コントローラ53は、供給ステージ12の昇降駆動を制御することで、プレート2の開口部2aを介してプレート2上に盛り出る粉体4の量を制御するため、昇降シリンダ13の昇降駆動量を制御する。
【0059】
造形ステージコントローラ54は、インクジェットヘッド41による粉体4へのプリント時に、後述するように造形ステージ22を所定の高さ単位で下降させていくために、昇降シリンダ13の昇降駆動量を制御する。
【0060】
ヘッド駆動コントローラ57は、ヘッドのX−Y平面内での駆動信号をヘッドスキャンコントローラ58に出力する。また、ヘッド駆動コントローラ57は、各色のインクの吐出量を制御するために、インクジェットヘッド41内のインクジェットの発生機構に駆動信号を出力する。
【0061】
ヘッドスキャンコントローラ58は、Y方向移動モータ33及び駆動ユニット40に搭載された、上記ボールネジ駆動機構のX方向駆動用のモータの駆動を制御する。
【0062】
上記ホストコンピュータ51、画像処理コンピュータ90、造形ステージコントローラ54、粉体供給コントローラ53、回転モータコントローラ56、移動モータコントローラ55、ヘッド駆動コントローラ57及びヘッドスキャンコントローラ58は、例えば次のようなハードウェア、または、そのハードウェアとソフトウェアとの組み合わせにより実現されればよい。そのハードウェアは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、あるいはこれらに類するものが用いられる。
【0063】
メモリ52は、固体(半導体、誘電体または磁気抵抗)メモリのほか、磁気ディスク、光ディスク等の記憶デバイスでもよい。
【0064】
(3次元造形装置の動作)
以上のように構成された3次元造形装置100(及び画像処理コンピュータ90)の動作について説明する。図7は、その動作を示すフローチャートである。
【0065】
ステップ101では、画像処理コンピュータ90により、例えばCT画像データが読み込まれる。CT画像データは、医療分野において、典型的にはDICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)データとして扱われる。
【0066】
CTとは、X線を用いたCTに限られず、SPECT(Single Photon Emission CT)、PET(Positron Emission Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)等を含む広義のCTを意味する。
【0067】
ここで図8を参照して、例えば、人体の大腿骨(の一部または全部)を造形の対象物体とし、この大腿骨の造形物が形成される場合について説明する。図8(A)は、大腿骨の所定箇所の(一枚の)DICOMデータである。このような断層化画像データであるDICOMデータが、例えば対象物体に対して1mmのピッチで複数用意され、1つの対象物体に対応した1つのCT画像データ群として画像処理コンピュータ90内のメモリ52に記憶される。DICOMの画像データは、典型的にはJPEG(Joint Photographic Expert Group)形式である。
【0068】
ステップ102では、画像処理コンピュータ90は、記憶されたDICOMデータの輝度に関して多値化処理を実行する。多値化処理とは、輝度の1つの閾値による2値化処理、異なる2つの段階的な閾値による3値化処理、あるいは4値化以上の処理も含む意味である。
【0069】
画像処理コンピュータ90は、ステップ102における多値化処理後、ステップ103では、例えば図8(B)に示すように、その多値化に対応した複数段階の輝度情報に基づき、その複数段階の輝度情報に対応した複数の色で着色された画像を生成する。図8(A)に示すように、例えば骨の外側の部分の明るい部分は、その内側の暗い部分に比べ、骨密度が高い領域である。例えば、図8(B)に示す多値化画像では、骨密度の高い部分である外側が黄や青で着色され、低い部分である内側が赤で着色されている。各輝度情報に対応する色は何でもよい。なお、着色された多値化画像は、典型的にはBMP形式で生成されるが、それ以外の形式であってもよい。
【0070】
多値化画像を着色する処理の手段としては、人間の行為が介在した画像処理コンピュータ90の処理、あるいは画像処理コンピュータ90の自動処理がある。
【0071】
この場合の画像処理コンピュータ90による自動処理は、例えば、予め設定された複数色の情報に基づいて、多値化画像中のどの輝度部分にどの色を割り当てるかがプログラムされたソフトウェアの処理により行われる。色の割り当て(色割り当て)の方法としては、所定の色の順序またはランダムに色が割り当てられればよい。また、色の割り当ての対象となる輝度への割り当て(輝度割り当て)の方法としては、その輝度の段階に応じてまたはランダムに、上記色割り当ての方法により色が割り当てられればよい。
【0072】
この処理手段は、上記したような人間の行為を介在させて、色割り当て及び/または輝度割り当てを実行することができるようなものであってもよい。
【0073】
多値化画像が着色された後、ステップ104において、画像処理コンピュータ90は、1つの対象物体に対応したすべての着色処理が終了したかを確認する。終了の場合、ステップ105において、画像処理コンピュータ90はその着色された多値化画像データ群がホストコンピュータ51に出力し、ホストコンピュータ51はこれをメモリ52に記憶する。
【0074】
なお、DICOMデータや多値化画像データは、説明を理解しやすいように図8(A)、(B)のように図示しないモニタ等に可視化された画像として説明したが、モニタに表示されなくてもよい。しかし、例えばDICOMデータに基づき生成された多値化画像を作業者(医者等)が目視で確認等できるように、画像処理コンピュータ90はモニタにその多値化画像を表示させてもよい。
【0075】
ここで、着色された多値化画像データの数は、1つの対象物体の画像を構成する上記DICOMデータの画像数と一致していてもよいし、一致していなくてもよい。上記したように、断層化画像であるDICOMデータは、例えば対象物体に対して1mmの積層ピッチで読み込まれる。粉体層に描かれる多値化画像のピッチも1mmピッチであってもよいし、後述するように1mmそれより小さい(または大きい)ピッチで描かれるようにしてもよい。
【0076】
図9は、ステップ106以降における3次元造形装置100の機械的な動作を順に示す、側面から見た模式図である。図9(A)〜(E)では、後述するように、インクが吐出されることで粉体4が硬化される層が1層分(所定の層厚分)形成される工程が示されている。粉体4及び未硬化の粉体4がドットのハッチングで示され、硬化層が黒塗りで示されている。
【0077】
図9(A)に示すように、造形部20の造形ステージ22には、硬化層及び未硬化の粉体層が積層された状態となっており、この状態から、硬化層を1層形成する工程が開始される。図9(A)において、ローラ16及びインクジェットヘッド41が示されている位置が、ぞれぞれの待機位置とされる。
【0078】
まず、図9(B)に示すように、供給部10の供給ステージ12に堆積している粉体4が昇降シリンダ13により押し上げられ、1層分の粉体層よりも少し過剰な量の粉体4が、プレート2の上面2aより高い位置まで供給される。また、造形部20において、造形ステージ22が降下することで、硬化層及び未硬化の粉体層の上面とプレート2の上面2aとの間に、粉体層(硬化層)の1層分の厚みの間隔が設けられる。この場合、造形ステージコントローラ54、昇降シリンダ13は、調整機構として機能する。
【0079】
図9(B)において粉体層の1層分の厚みuは、典型的には、DICOMデータの1mmピッチの1/10であり0.1mmとされるが、1mmより大きくてもよいし、0.1mmより小さくてもよい。粉体層の1層分の厚みがDICOMデータのピッチより小さい場合の、多値化画像データの生成方法については後述する。
【0080】
図9(C)に示すように、図9(C)においてローラ16が反時計回りに回転しつつ、白抜きの矢印の方向に移動することにより、供給部10から供給された粉体4が搬送される。ここで、ローラ16の回転方向は、ローラ16を回転自在にして(ローラ16の回転軸にかかる回転力をフリーにして)白抜きの矢印の方向に移動させたとしたときに、ローラ16と造形部20との摩擦によりローラ16が回転するであろう方向に対して逆の方向である。このようなローラ16の回転により粉体4が搬送されることで、造形部20の硬化層及び未硬化の粉体層の上面に設けられた間隔に粉体4が充填されて、均一に均された粉体層が形成される(ステップ107)。
【0081】
図9(D)に示すように、ローラ16が造形部20を通過して、過剰な量の粉体4を回収ボックス31に排出して待機位置まで戻る動作と連動するように、インクジェットヘッド41が移動しながら、上記着色された多値化画像を描くようにインクを吐出する。この場合、ホストコンピュータ51、ヘッド駆動コントローラ57等は、吐出指令手段として機能する。粉体層に水性インクが浸透し、インクが吐出された部分の粉体4が互いに接着され、硬化層が形成される。
【0082】
なお、ローラ16が粉体4を搬送し終えて待機位置に戻った後に、ヘッド駆動コントローラ57は、インクジェットヘッド41の移動を開始し、インクの吐出を開始させてもよい。しかし、上記のように、ローラ16の戻り動作の時間帯とヘッドの移動動作の時間帯とが重なることにより、処理時間を短縮することができる。
【0083】
図9(D)においては、ヘッド駆動コントローラ57は、図8(B)に示すような多値化画像に対応して、粉体層に着色された画像を描くために、カラーインクを吐出させる。もちろん、CMYカラーに限られず、白及び黒を含む画像であってもよい。また、2値化画像の場合、白及び黒の2色だけでもよい。あるいは、2値化画像の場合であって、上述したように粉体4の色が白の場合、無色とその他の1色のみが用いられてもよい。
【0084】
インクジェットヘッド41が待機位置まで戻ると、図9(A)に示す状態に戻り、1層分の着色された多値化画像に対応する、造形物が形成される(例えば図8(C)参照)。そして、次の層の多値化画像が、図9(B)〜(C)の示した動作により、粉体4に描かれ、硬化層が積層される。
【0085】
このように、ホストコンピュータ51及び各種のコントローラの制御に応じて、粉体4の所定の層厚ごとに、粉体4に多値化画像が描かれることにより、硬化層が積層されていく。そして対象物体のすべての画像の印刷が終了したか否かが判定される(ステップ108)。終了の場合、造形物は未硬化の粉体層に覆われており、造形ボックス21内の余分な粉体4が除去され(ステップ109)、人手または図示しないロボットにより造形物が取り出される(ステップ110)。これにより、造形物の外面及び内部において2色以上の色を有する造形物を形成することができる(例えば図8(D)参照)。
【0086】
造形物が取り出された後、3次元造形装置100とは別の、図示しない加熱装置により造形物が加熱され、さらに硬度の高い造形物を得るようにしてもよい。
【0087】
以上のように、本実施形態では、多値化画像を描くために、複数の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で粉体4を着色するように、所定の層厚分の粉体材料にヘッドにより吐出させる。これにより、内部まで着色された造形物を造ることができ、この造形物を扱う者はその内部状態も容易に把握することができ、実物に近い印象を与えることができる。
【0088】
造形物の対象物体が生物体、特に人体であり、3次元造形装置100が医療分野で利用される場合に、特にメリットが大きい。
【0089】
従来では、医者が一枚一枚のCT画像を精査して病巣の有無などを判断しなければならなかった。医者の中には、2次元であるCT画像を基に頭の中で、内部状態も含めた3次元の対象物体を構築することができる者もいるが、これには熟練が必要である。すなわち、2次元画像であるCT画像からの正確な診断には、時間と手間がかかるものであった。
【0090】
また、従来では、コンピュータ上でCT画像データ群を合成して画面上で3次元形状を観察する試みもあるが、データ量が大きすぎて動きが鈍いなど、扱いに苦慮することが多かった。データを軽くするため、
【0091】
結局、どちらの場合も、医者がモニタ上の画像を見ながら診断を行うことに代わりはない。これらの手法を手術のシミュレーションに使おうとしても画像のみでは、実物の感覚を得ることは難しく、実際に使われることはほとんどない。
【0092】
これに対して本実施形態では、造形物を基に、例えば造形物を所望の位置で切断するなどすることで、医者は容易に病巣などを見つけることが可能となり、頭の中で、内部状態も含めた3次元形状を構築する、といった熟練の技も必要ない。
【0093】
また本実施形態では、後でも述べるように、造形物の内部まで着色することができるので、複雑な骨の構造体が造形対象物体である場合、医者は、その構造体の内部にある血管の位置を把握することが容易となる。
【0094】
また、本実施形態に係る造形物を用いての医療シミュレーションも行うことができるようになる。本造形物は、例えば手術前のシミュレーションや、研修医の教材としても有用である。
【0095】
次に、図7におけるステップ101〜103について、例えば医療分野においてインプラント手術前のシミュレーションを行うために造形物が造られる例について説明する。
【0096】
図10は、歯科インプラント手術前のシミュレーションのために、顎骨付近の造形物を造る例を示す図である。図10(A)は、対象物体である頭骨の一部(頭骨の下方部)を構成するCT画像群から、市販のアプリケーションソフトウェアを用いて、その対象物体の3次元画像が構築された例を示している。図10(B)は、CT画像データであるDICOMデータである。画像処理コンピュータ90は、図10(C)に示すように、このDICOMデータについて例えば2値化処理を実行する。これにより骨部が強調された画像を得ることができる。
【0097】
図11は、DICOMデータ中のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムから、作業者が2値化処理のための輝度の閾値を設定し、画像処理コンピュータ90は、その閾値に応じた2値化処理を実行する。上述のように、画像処理コンピュータ90が自動で、予め設定された閾値に応じて2値化処理を実行してもよい。
【0098】
図10(D)は、神経管を例えば赤に着色した画像の例を示す図である。画像処理コンピュータ90は、人間の神経管の位置が特定された顎骨の画像が複数集められて構成されたデータベースや、顎骨中の神経管の位置を特定するためのソフトウェアを有していることにより、多値化画像中の神経管の着色をすることが可能となる。この着色処理は、もちろん人間が行うことも可能である。図10(E)は、図10(D)に示した着色された多値化画像群に基づき、3次元造形装置100で形成された造形物の3次元画像を示す図である。この図から、顎部に神経管(例えば赤色)が通っていることがわかる。なお、図10(E)に示すように、ホストコンピュータ51または画像処理コンピュータ90は、造形物の3次元画像もモニタに表示させるようにしてもよい。
【0099】
なお、図10(C)及び(D)に示すように、顎骨以外のノイズ部分は微小な体積であり、3次元造形装置100で造形物が形成されたとしても、ほとんどそのノイズ部分は反映されないか、または、反映されたとしてもごく微小なものである。例えば図10(C)が生成された時に、公知の画像処理技術によりそのようなノイズが予め除去されてもよい。
【0100】
図12は、頚椎インプラント手術前のシミュレーションのために、頚椎付近の造形物を造る例を示す図である。図12(A)は、頚椎の位置を示す画像(例えば四角で囲んだ領域)である。図12(B)は、着色された多値化画像を示す図である。ここでは、大動脈の位置が赤で着色されている。図12(C)は、3次元造形装置100により造られた、頚椎の造形物の3次元画像を示す図である。ここでは、白色の頚椎の内部に赤色の大動脈が透けて見えるのがわかる。このように、本実施形態によれば、見る者に実物に近い印象を与える造形物を造ることができる。
【0101】
図13は、本実施形態に係る3次元造形装置100で設定される色と、実際に造られた造形物サンプルの光学濃度等(グレースケール)等の実測値を示した表である。造形物サンプルは円板状であり、例えばその円板の表面の周方向に、設定値G1〜G256により着色された。粉体材料は、食塩90重量%以上であり、その他、ポリビニルピロリドン等の材料でなる。
【0102】
この表は、G1、G32、・・・、G256の合計9色であって、これらの設定色ごとにRGB同じ値のグレースケールにより表されている。G1である最も暗い黒は、RGB(0,0,0)で表され、最も明るい白は、RGB(255,255,255)で表される。これは、例えば図11に示したヒストグラムでの出力レベルと同じ設定である。
【0103】
光学濃度(OD)は、下記の式で表される。
【0104】
OD=−log10(I'/I)
I:造形物への入射光強度、I':造形物からの反射光強度
【0105】
つまり、反射率が10%の場合、OD=−log10(0.1)=1となる。
【0106】
図14は、図13の表に基づいた、RGBの設定値(横軸)に対する光学濃度(OD)の値を示すグラフである。RGBの設定値である横軸は、RGBがともに同じ値であるグレースケールである。
【0107】
図15は、同じ重量の粉体ピースに、それぞれ異なる量のインクが供給されて形成された5つの造形物(テストピース)において、それらテストピースの重量を表す実測のグラフである。このグラフにおいて、「最終造形物」は、造形物が加熱装置で加熱されて乾燥し、インクの水分が抜けた後の造形物を意味する。このグラフからわかるように、水分量が多い、すなわち水性インクの濃度が高いテストピースほど、最終造形物の重量も大きくなることがわかる。
【0108】
図16は、図15に示した5つのテストピースの硬度を表す実測のグラフである。グラフ中の左側の単位は「デュロメータ」で計測されたときの硬度である。最も硬いものが100とされる。グラフ中右側の単位[kgf]は、そのデュロメータで計測されたときのテストピースへの押圧力である。このグラフから、水性インクの濃度が高いテストピースほど、硬度が高いことがわかる。したがって、市販されている水性インクは、粉体材料を硬化させるための液体となり得る。また、粉体材料によっては、例えば粉体4が上記した有機物との共重合体の場合は、水がその粉体材料を硬化させるための液体となる。
【0109】
図15及び図16のグラフから次のようなことが言える。例えば5つのテストピースのうち比較的低いインク濃度のテストピースに無色のインク、例えば水(純粋や蒸留水)を補充するように供給することで、比較的高いインク濃度のテストピースの硬度に実質的に同じにすることができる。また、あるいは、意図的に硬度を異ならせることが可能となる。すなわち、ヘッドからの吐出される上記液体の量を制御することによって、所望の硬度を有する造形物を造ることができる。
【0110】
このような考察により、以下に説明するような2つの実施形態が実現する。
【0111】
1つ目として、例えば、1つの造形物のうち、第1の領域には第1の濃度により着色され、第1の領域と異なる第2の領域には第1の濃度と異なる第2の濃度で着色される。これにより、造形物の部位によって異なる硬度を有する造形物を得ることができる。例えば人体の一部を対象物体とした造形物について、骨部の硬度を高くし、臓器部分、血管、または神経管の硬度を低くするといったことも可能である。あるいは、骨の部位によっても硬度が異なるので、そのような骨の造形物を再現することができる。その結果、医療関係者が手術シミュレーションで造形物を切断するときに、現物の対象物体に近い感触を得ることができ、実践的なシミュレーションを行うことができる。
【0112】
2つ目として、意図的に造形物全体の硬度を均一にすることが可能となる。造形物の各領域によって色が異なり、インク濃度も異なる場合には、例えばインク濃度が低い領域に水等の無色のインクが所定量供給されることにより、そのインク濃度が低い領域の硬度を高い領域と実質的に同じ硬度にすることができる。
【0113】
図17は、3次元造形装置100により造形物が造られた後、あるテストピースで、所定の硬度が得られるまで造形物を加熱装置で加熱する場合の、加熱温度と時間との関係を示すグラフである。加熱温度が高い場合、所定の硬度が得られるまでの加熱時間を短くすることができる。造形物が乾燥すると硬化して水分が抜け、重量の変化がなくなるので、造形物の重量変化を監視することで、硬化終了時、つまり造形物の完成時を判断することができる。
【0114】
ところで、粉体層の1層分の厚みは、上記したようにDICOMデータのピッチより小さい0.1mmである。図18(A)は、対象物体の画像の一部の外形画像を示す模式図である。この対象物体75の画像の、紙面に垂直な面が、DICOMの断層ごとの切断面(断層面)であるとする。すなわち、対象物体75の画像中の実線A1、A2、A3、・・・で表す線がその断層面であるとする。この対象物体75の外形画像も、CTにより得られる、対象物体75における所定の位置での断層化画像であってもよい。
【0115】
ここで、画像処理コンピュータ90は、図18(A)に示したこの対象物体75の外形画像を取り込む。画像処理コンピュータ90は、DICOMデータの積層ピッチ間(例えばA1及びA2の間)の外形に、多値化画像が積層されたときの対象物体75の外形(断層面に垂直な面で見た外形)が対応するように補間する。例えば図18(B)に示すように、画像処理コンピュータ90は、断層線A1及びA2のDICOMデータの間の、断層線A10、A11、・・・A18の9枚の断面画像(多値化画像)を生成する。これら9枚の断層線A10、A11、・・・A18における多値化画像の内部は、画像A1におけるDICOMデータから得られる多値化画像の内部画像と同様である。また、9枚の断層線A20、A21、・・・A28における多値化画像の内部は、画像A2におけるDICOMデータから得られる多値化画像の内部画像と同様である。そして、画像処理コンピュータ90は、それら9枚の多値化画像が積層されたときの各外形を、取り込まれた外形画像の、断層線A10、A11、・・・A18の対応する位置における対象物体75の外形に合わせるように、9枚の多値化画像を生成する。
【0116】
3次元造形装置100は、このように補間により生成された多値化画像ごとにインクを吐出して例えば0.1mmピッチで粉体層(硬化層)を積層させていけばよい。これにより、対象物体75の、断層面に垂直な面で見た外形を精度よく造形物に反映させることができる。
【0117】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0118】
上記実施形態では、造形部20において、昇降シリンダ13により造形ステージ22が昇降される形態を示した。しかし、造形ステージ22が固定で、造形ボックス21またはインクジェットヘッド41が昇降する形態であってもよい。
【0119】
インクジェットヘッド41は、インクの吐出時に一方向にのみ移動するライン型ヘッド、あるいは、インクの吐出時に移動しない面型ヘッドであってもよい。面型ヘッドとは、例えば造形ボックス21において造形物が形成される範囲に対応した、インクの吐出範囲を持つヘッドである。
【0120】
上記実施形態では、CT画像データが取り扱われる分野として医療分野を例に挙げた。しかし、3次元造形装置100は、例えば建築分野、機械工学分野等、医療分野以外のCT画像データを扱うようにしてもよい。
【0121】
上記実施形態では、DICOMデータから得られた多値化画像に着色処理が実行され、その着色された多値化画像が、3次元画像装置に送信される形態を説明した。しかし、画像処理コンピュータ90で得られた着色されていない多値化画像データを3次元画像装置が取り込み、その多値化画像データそのものに応じて、予め定められた各色のインクを吐出するようにしてもよい。
【0122】
上記実施形態では、多値化処理の対象画像がDICOM形式であったが、他の形式であってもよい。
【0123】
上記した最終造形物に、UV硬化樹脂、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、またはシアノアクリレート系接着剤を含浸させることにより、最終造形物の硬度を増加させることが可能である。これら接着剤が含浸された最終造形物は、硬度のみならず、耐水性、耐熱性、または耐薬品性を著しく向上させることができ、手術用のシミュレーションやインプラント手術等に特に有効である。
【符号の説明】
【0124】
4…粉体
10…供給部
11…供給ボックス
12…供給ステージ
13、23…昇降シリンダ
16…ローラ
20…造形部
21…造形ボックス
22…造形ステージ
26…移動機構
40…駆動ユニット
41、141…インクジェットヘッド
45、145…インクタンク(45C、145C…シアン用インクタンク、45M、145M…マゼンダ用インクタンク、45Y、145Y…イエロー用インクタンク)
51…ホストコンピュータ
100…3次元造形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体材料が堆積されるステージと、
前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出するヘッドと、
前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する調整機構と、
造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる吐出指令手段と、
前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記吐出指令手段を制御する制御手段と
を具備する3次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記ヘッドは、前記粉体材料を硬化させるための液体を吐出可能であり、
前記吐出指令手段は、前記造形物の硬度を調整するために、前記ヘッドから吐出される前記液体の量を制御する3次元造形装置。
【請求項3】
請求項2に記載の3次元造形装置であって、
前記吐出指令手段は、前記造形物中の領域ごとに異なる量の前記液体を前記ヘッドから吐出させる3次元造形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記吐出指令手段は、前記複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記多値化画像中が着色されることにより生成された画像に応じて前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる3次元造形装置。
【請求項5】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記対象物体の断層化画像の積層ピッチが、前記粉体材料の所定の層厚より大きい場合に、前記吐出指令手段は、前記積層ピッチ間で前記断層化画像が積層されたときの外形に、前記多値化画像の外形が対応するように補間処理が実行された前記多値化画像に応じて、前記インクを吐出させる3次元造形装置。
【請求項6】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記粉体材料は、塩化ナトリウムを主成分として含むものである3次元造形装置。
【請求項7】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記対象物体は、生物体の断層化画像群である3次元造形装置。
【請求項8】
粉体材料が堆積されるステージと、前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出するヘッドと、前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する調整機構とを備えた3次元造形装置の制御装置であって、
造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる吐出指令手段と、
前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記吐出指令手段を制御する制御手段と
を具備する制御装置。
【請求項9】
粉体材料が堆積されるステージと、前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出するヘッドと、前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する調整機構とを備えた3次元造形装置の制御方法であって、
造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させ、
前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記ヘッドによる前記インクの供給を制御する
制御方法。
【請求項10】
粉体材料が堆積されるステージと、
前記ステージ上の前記粉体材料にインクを吐出するヘッドと、
前記粉体材料の所定の層厚ごとに前記ステージ上に造形物を形成するために、前記ステージと前記ヘッドとの相対的な高さ位置を前記層厚ごとに調整する調整機構と、
造形の対象物体の断層化画像である2次元の画像データが輝度に関して少なくとも2値化の処理である多値化処理が実行されることにより得られた多値化画像中の、複数段階の輝度情報にそれぞれ対応した複数色で前記粉体材料に着色するように、前記ヘッドにより前記インクを吐出させる吐出指令手段と、
前記層厚ごとに前記多値化画像を描くように、前記調整機構及び前記吐出指令手段を制御する制御手段と
を具備する3次元造形装置により得られた造形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−194942(P2010−194942A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44097(P2009−44097)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】