説明

3級アミンの製造方法

【課題】アルコールと2級アミンとを原料として、対応する3級アミンを高い効率で製造する方法を提供する。
【解決手段】アルコールと1級アミンを触媒の存在下で反応させて3級アミンを製造した後、当該反応に用いた当該触媒の存在下にアルコールと2級アミンを反応させる、3級アミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3級アミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛脂、ヤシ油、パーム油等を原料とする脂肪族アミンは、家庭用、工業用分野において重要な中間体である。特に脂肪族3級アミンは、第4級アンモニウム塩等に誘導されて、繊維柔軟仕上げ剤、帯電防止剤、リンス基剤等幅広い用途に利用されている。
【0003】
3級アミンを製造する方法としては、アルコールと1級もしくは2級アミンとを触媒の存在下で反応させて、対応する3級アミンを製造する方法が知られている。
【0004】
しかしながらこの種の方法を用いる場合でも、特に2級アミンを原料にして、対応する3級アミン、すなわち2級アミンの窒素原子に結合する1個の水素原子がアルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基で置換されたモノ置換体の3級アミンを製造する場合には、副生物が少なからず生じて製品の歩留まりを下げるという問題があった。
【0005】
このような副生物としては、原料である2級アミンの副反応により生じた1級アミンやアンモニアが、アルコールとの反応に関与して生じる3級アミン、すなわち原料アルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基が2個窒素原子に結合したジ置換体や、3個結合したトリ置換体の3級アミンが挙げられる。目的とする3級アミンの収率を向上するためには、これら副生物の発生を抑える事が重要である。
【0006】
例えば、特許文献1には、銅−ニッケル−第8族(旧IUPACのVIII族を意味し、現行IUPACの第8〜10族に当たる)白金族元素触媒を用いて、3級アミンを得る方法が開示されている。
【0007】
また特許文献2には、粉末状の触媒を使って3級アミンを製造する時に生じる、スラリーの撹拌や反応終了後のスラリーからの触媒の濾過分離等の複雑な操作を省略できる製造プロセスとして、厚さ500μm以下の薄いフィルム状の形態の固定化触媒を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−15865号公報
【特許文献2】国際公開第2005/035122号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の製造方法では、2級アミンを原料にして3級アミンを製造した場合、目的とするモノ置換体3級アミン以外の副生物が生じることを十分に抑制できないため、製品の収率は不十分であった。
【0010】
特許文献2の製造方法においても、2級アミンを原料にして3級アミンを製造した場合、目的とするモノ置換体3級アミン以外の副生物が生じることがあった。また、2級アミンを原料とする場合の工業的により有利な方法への展開については更なる検討が望まれる。
【0011】
本発明の課題は、アルコールと2級アミンとを原料として、対応する3級アミンを高い効率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アルコールと1級アミンを触媒の存在下で反応させて3級アミンを製造した後、当該反応に用いた当該触媒の存在下にアルコールと2級アミンを反応させる、3級アミンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、目的とする3級アミンを高い効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に用いられる循環固定床型反応装置の一例を示す略示図である。
【0015】
【図2】本発明に用いられる攪拌槽型反応装置の一例を示す略示図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で用いる原料のアルコールは、いずれの反応においても、直鎖状又は分岐鎖状で炭素数8〜36の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、例えばオクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール等並びにこれらの混合アルコール等、又チーグラー法によって得られるチーグラーアルコールや、オキソ法によって得られるオキソアルコール及びゲルべアルコール等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いる原料の1級アミンとしては、脂肪族1級アミンが好ましく、炭素数1〜18、更に1〜4のアルキル基を1つ有するものが挙げられ、例えばモノメチルアミン、モノエチルアミン、モノドデシルアミン等が挙げられる。これらのうち、モノメチルアミン及びモノエチルアミンから選ばれる1級アミンが好ましい。
【0018】
本発明で用いる原料の2級アミンとしては、脂肪族2級アミンが好ましく、炭素数1〜18、更に1〜4のアルキル基を2つ有するものが挙げられ、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジドデシルアミン等が挙げられる。これらのうち、ジメチルアミン及びジエチルアミンから選ばれる2級アミンが好ましい。
【0019】
これら原料となるアルコールと1級又は2級アミンから得られる、対応する3級アミンは、1級又は2級アミンの窒素原子に結合する水素原子がアルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基で置換されたものである。例えばラウリルアルコールとジメチルアミンから得られる、対応する3級アミンはN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンである。これは、ジメチルアミンの副反応で生じたメチルアミン及びアンモニアがラウリルアルコールと反応した時に、それぞれ副生する3級アミンのN,N−ジドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンと区別される。
【0020】
本発明で用いる触媒としては、1級アミン又は2級アミンとアルコールとを反応させて3級アミンを製造できるものであれば特に限定されるものではなく、公知のものを利用する事ができるが、一般にCu系の金属等を好適に用いることができる。例えばCu単独あるいはこれにCr、Co、Ni、Fe、Mn等の遷移金属元素を加えた2成分、あるいは3成分以上の金属を含むものが挙げられる。またこれらをさらにシリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト等に担持させたもの等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる触媒は、Cu及び/又はNiを含むことが好ましい。更に、具体的な組成として、Cu、Ni及び、第8〜10族の白金族元素としてPt、Pd、Ru及びRhから選ばれる1種以上のものを含み、金属原子のモル比がCu:Niは1:9ないし9:1であり、第8〜10族の白金族元素はCuとNiの合計に対してモル比で0.0001ないし0.1であるものが、触媒の高活性、高選択性及び高耐久性の観点から好ましい。
【0022】
触媒の形態は、粒状もしくは粉末状、あるいはペレット状、ヌードル状、ハニカム状、モノリス状等の固定化触媒等、種々のものを用いる事が出来る。粒状もしくは粉末状の触媒は原料を含む流体中に懸濁させて用いる事が出来る。固定化触媒は、原料を含む流体が供給される反応器内部に充填して用いる事が出来る。
【0023】
固定化触媒の種々の形態の中では、フィルム型の触媒を好適に用いる事が出来る。フィルム型触媒としては、特許文献2に記載されているものが挙げられる。すなわち、従来型の数mm程度の大きさを持つ不規則充填物タイプとは異なり、厚さ500μm以下の薄いフィルム状の形態の触媒を指す。フィルム型触媒を用いれば、触媒の分離操作を必要としない簡易なプロセスにより、目的とする3級アミンを効率良く製造する事ができる。フィルム型触媒を製造する方法としては、粉末状の触媒活物質とこれを固定化するための合成樹脂等のバインダーとを含有する塗料を、支持体の上に成膜する方法が、好適に用いられる。
【0024】
フィルム型触媒の厚さは、触媒体内部での中間反応物の過反応を抑制できるだけでなく、触媒質量当たりの反応活性が高くなることから、100μm以下、更に50μm以下が好ましい。また、厚さの下限は、触媒層の強度確保及び強度面の耐久性を得るために0.01μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
【0025】
反応器の形式は、従来公知のものを含めて種々のものを採用する事ができる。例えば、管状の流通式反応器や、槽型反応器等が挙げられる。管状の場合、管内部の固定化触媒に反応物を供給しながら生成物を連続的に回収する流通方式や、反応物を含む粒状触媒の懸濁流体を管に供給・通過させて生成物を含む触媒懸濁流体を連続的に回収する方式により、単回流通もしくは循環供給して連続あるいはバッチ式で反応を進行させる事ができる。また槽型の場合、内部の反応物を含む流体を撹拌等で混合して、やはり連続あるいはバッチ式で反応を進行させる事ができる。
【0026】
アルコールと1級もしくは2級アミンの反応を行う前に、触媒を還元して活性化するための還元処理を好適に実施する事が出来る。触媒の還元は、触媒を投入した反応器に水素ガスを供給することにより行うことが好ましく、原料アルコールの存在下で還元を行うことが更に好ましい。具体的には、粒状もしくは粉末状触媒を懸濁した原料アルコールを反応器に仕込み、これに水素ガスを供給しながら還元を行う方法、フィルム型触媒を装填した反応器に、水素ガスと原料アルコールを供給しながら還元を行う方法、フィルム型触媒を装填した反応器に原料アルコールを仕込んだ後、水素ガスを供給しながら還元を行う方法等が挙げられる。
【0027】
触媒の存在下にアルコールを反応させる条件は、反応物、生成物及び触媒の種類により異なる。反応物は気相に存在してもよいし、液相でもよい。気液2相の反応系において、アルコールと1級又は2級アミンとがそれぞれ異なる相に存在する場合、液中へのガスバブリング等によって相間での物質移動を促進する事が望ましい。反応系には、水素を供給して反応させる事が、触媒の活性を保つ等、3級アミンの生成反応を有利に導く上で望ましい。またこの他、窒素や希ガス等のアミノ化反応に対して不活性なガスを供給してもよい。1級又は2級アミンの供給量は、過剰な1級又は2級アミンの量を低減するために反応の進行に応じて調整する事が、製品アミンの品質と収率を良くする観点で望ましい。具体的には、反応系外へ排気される生成水を除いたガス中の1級又は2級アミンの量を50容量%以下(対排ガス)とする事が望ましく、30容量%以下とする事がより望ましい。系内の圧力は常圧を超えて著しく高くならないことが望ましい。反応温度は触媒の種類により異なるが、150〜300℃の温度で反応させる事が好ましい。また反応の過程で副生する水分を反応系外に排出する事で、反応の進行を促進し、触媒の活性を保つ事ができる。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフにより追跡する事ができる。
【0028】
本発明では、アルコールと2級アミンを触媒の存在下に反応させて3級アミンを製造するのに先立ち、当該触媒の存在下にアルコールと1級アミンを反応させて3級アミンを製造しておく事で、目的とするモノ置換体の3級アミンを高い収率で得る事が可能になる。
【0029】
アルコールと2級アミンの反応に先立って実施するアルコールと1級アミンの反応において、原料となるアルコールはその後の2級アミンとの反応で用いられるものと同一種類の化合物であってもよいし、異なる種類の化合物でもよい。製造されるジ置換体の3級アミンが製品として有効に利用出来るものである事が望ましく、そのためのアルキル及び/又はアルケニル基を供給出来るアルコールを適宜選択する事が出来る。この観点から、アルコールと1級アミンとの反応の好ましい条件として、両者の仕込みモル比が1級アミン/アルコールで0.5〜3、更に0.5〜1.5であり、反応温度100〜250℃、更に180〜230℃、反応圧力大気圧〜10気圧、更に大気圧〜5気圧、反応時間1〜10時間、更に2〜8時間、特に2〜7時間とすることが挙げられる。そして、触媒として、組成がCu、Ni及び、第8〜10族の白金族元素としてPt、Pd、Ru及びRhから選ばれる1種以上のものを含み、金属原子のモル比がCu:Niは1:9ないし9:1であり、第8〜10族の白金族元素はCuとNiの合計に対してモル比で0.0001ないし0.1であるもの、好ましくはフィルム型触媒を、有効分として原料アルコール仕込み量に対して、0.1〜10質量%の量で用いることが挙げられる。
【0030】
また、アルコールと2級アミンとの反応の好ましい条件として、両者の仕込みモル比が2級アミン/アルコールで1〜5、更に1〜3であり、反応温度100〜250℃、更に180〜230℃、反応圧力大気圧〜10気圧、更に大気圧〜5気圧、反応時間1〜10時間、更に2〜6時間とすることが挙げられる。そして、触媒として、組成がCu、Ni及び、第8〜10族の白金族元素としてPt、Pd、Ru及びRhから選ばれる1種以上のものを含み、金属原子のモル比がCu:Niは1:9ないし9:1であり、第8〜10族の白金族元素はCuとNiの合計に対してモル比で0.0001ないし0.1であるもの、好ましくはフィルム型触媒を、有効分として原料アルコール仕込み量に対して、0.1〜10質量%の量で用いることが挙げられる。本発明は、アルコールと1級アミンを触媒の存在下で反応させて3級アミン(イ)の製造を行い、当該反応に用いた当該触媒を用いて別途用意した他のアルコールと2級アミンを反応させて目的とする3級アミン(ロ)を製造するものである。3級アミン(イ)はアルコールの炭化水素基が2つ導入されたものであり、3級アミン(ロ)はアルコールの炭化水素基が1つ導入されたものである。
【0031】
アルコールと1級アミンの反応を事前に実施した触媒を用いる事で、アルコールと2級アミンの反応において目的とする3級アミンの収率が向上するメカニズムについては明らかになっていないが、アルコールと1級アミンの反応を経る事で、触媒に何らかの化学的な変化がもたらされるものと考えられる。例えば、2級アミンの副反応で1級アミンを生じる触媒の活性点に、予め1級アミンが強固に吸着した状態を作る事で、新たに2級アミンが副反応するのを妨げる効果である事が予想される。このような観点からは、触媒を1級アミンに曝露するだけで、アルコールと1級アミンの反応を実施するのと同様の効果が得られる可能性がある。また別のメカニズムとして、アルコールと1級アミンの反応で生じるジ置換体の3級アミンが触媒表面に強固に吸着した状態を作る事で、ジ置換体の3級アミンが有する2個のアルキル及び/又はアルケニル基による立体障害により、触媒表面上で新たにジ置換体の3級アミンが生じるのを妨げているとも予想される。この観点からは、触媒をジ置換体の3級アミンに曝露するだけで、アルコールと1級アミンの反応を実施するのと同様の効果が得られる可能性もある。
【0032】
アルコールと1級アミンの反応で3級アミンを製造した後、次いで実施するアルコールと2級アミンの反応は、触媒だけでなく同じ反応設備をそのまま用いて実施してもよいし、触媒だけ回収して別の反応設備にて実施してもよい。触媒は全量回収して使用してもよいし、一部だけ用いてもよい。あるいは数回に分けたアルコールと1級アミンの反応で別々に用いられた触媒を回収してマスターバッチとし、マスターバッチの一部もしくは全部を使ってアルコールと2級アミンの反応を実施してもよい。これら触媒の回収方法と使用量については、アルコールと1級アミンの反応、及びアルコールと2級アミンの反応について、各々の反応バッチサイズもしくは一連の連続反応の処理量や必要な触媒量、3級アミンの製造数量並びに製造出荷時期等に鑑み、適宜選択する事が出来る。
【0033】
フィルム型触媒等の固定化触媒を使用する場合には、アルコールと1級アミンの反応で3級アミンを製造した後、引き続いて同じ設備にてアルコールと2級アミンの反応を好適に実施する事が出来る。
【0034】
アルコールと2級アミンの反応に先立って実施するアルコールと1級アミンの反応において、製造されるジ置換体の3級アミンは、次いで実施される反応で目的とするモノ置換体の3級アミンとは異なる化合物である。従って、このジ置換体の3級アミンを含む反応終了物を、反応装置及び触媒濾過回収等の付帯設備を含む当該反応系から回収した後の設備内残渣は、引き続いて実施される反応で目的とする3級アミンの純度を低下させる原因となり得る。特にアルコールと2級アミンの反応で得られるモノ置換体の3級アミンの精製工程において、このジ置換体の3級アミンの分離除去が困難な場合には、アルコールと2級アミンの反応に先立って、この反応終了物を可能な限り高い回収率で当該反応系より回収する事が望ましい。また当該設備内残渣の影響が十分小さくなるように、アルコールと2級アミンの反応を十分な期間連続して実施し、相当量のモノ置換体の3級アミンを製造する事が望ましい。
【0035】
また、反応設備が同じ場合、アルコールと2級アミンの反応における原料アルコールと、これに先立って実施するアルコールと1級アミンの反応における原料アルコールとが、異なる化合物である場合、原料供給系の残渣が引き続いて実施される反応の原料アルコールの純度を低下させる原因となり得る。原料アルコールの純度の低下は、これと2級アミンとの反応で製造されるモノ置換体の3級アミンの純度低下を引き起こす。原料供給系の残渣の影響をなくすためには、アルコールと2級アミンの反応における原料アルコールと、これに先立って実施するアルコールと1級アミンの反応における原料アルコールとが、同一の化合物である事が望ましい。また原料供給系の残渣の影響が十分小さくなるように、アルコールと2級アミンの反応を十分な期間連続して実施し、相当量のモノ置換体の3級アミンを製造する事が望ましい。
【0036】
本発明の方法により、アルコールと2級アミンとを原料として3級アミンを製造することで、対応する3級アミンを高い効率で得ることが可能になる。また、アルコールと1級アミンの反応により製造された3級アミンも工業上利用できるものが多いため、2つの異なる3級アミンを入手する方法としても有用である。
【実施例】
【0037】
製造例1:フィルム型触媒Aの製造
フェノール樹脂をバインダーとして粉末状触媒を固定化した、フィルム型触媒Aを以下のように調製した。
【0038】
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅と硝酸ニッケル及び塩化ルテニウムを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。90℃で10質量%炭酸ナトリウム水溶液をpH9〜10にコントロールしながら徐々に滴下した。1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における金属酸化物の割合は50質量%、合成ゼオライトの割合は50質量%であった。
【0039】
上記粉末状触媒100質量部に、バインダーとしてフェノール樹脂(住友ベークライト製PR−9480、不揮発分58%)を加え、フェノール樹脂の不揮発分が25質量部になるようにした。さらに溶剤としてMIBK(メチルイソブチルケトン)を加え、固形分(粉末状触媒及びフェノール樹脂の不揮発分)の割合が60%となるようにした。これをディスパにて30分間予備混合した後、バスケットミル(浅田鉄工製SS−10、1.6mm径のガラスビーズ4.8L、7.2kgを充填)にて600rpmで40分間混合分散処理して塗料化した。銅箔(厚さ40μm)を支持体とし、上記塗料をグラビア式コーターにより、塗工速度20m/min、厚さ13μmで塗工し、乾燥炉(温度130℃滞留時間15秒間)を通して巻き取り、再度裏面も同様にして塗布膜を形成し銅箔の両面に塗布膜を形成した。
【0040】
得られた銅箔上の乾燥塗布膜のうち、片面の面積にして0.266m2分を、複数枚の幅130mmの短冊状片に裁断し、うち半数に波板状の折り曲げ加工を施した。
【0041】
その後、折り曲げ加工したもの、平板状のものと合せて熱風循環式乾燥器にて150℃で90分間硬化処理して、フィルム型触媒を上記銅箔の両面に固定化した。得られたフィルム型触媒について、その銅箔を除いた片面当りの厚さは13μmであり、銅箔を除いた全質量は、片面1m2当り20.9gであった。
【0042】
以下の実施例1及び比較例1では、図1に示す循環固定床型反応装置を用いて、ラウリルアルコールとジメチルアミンとを原料としてN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンを製造した。実施例1については、上記反応に先立ち、同じ装置を用いて、デシルアルコールとモノメチルアミンを原料としてN,N−ジデシル−N−メチルアミンを製造した。なお以下の%は特に断りのないものは質量%を表す。表1に、実施例1と比較例1におけるアルコールと2級アミンの反応条件等を示した。
【0043】
なお、図1において、フィルム型触媒を装填した管型反応器1は、直立円管型固定床反応器で、内部に触媒が装填され、外部からの加熱によってその温度を制御できる。緩衝槽2は、液状の反応物、及び/又は生成物の混合物の貯槽であり、外部循環用ポンプ3によって反応器1との間でこれらを循環させる。外部循環用導管4を通じて反応器1の下端から反応物、及び/又は生成物の混合物と、ガス状の1級もしくは2級アミン及び水素ガスを連続的に供給し、上端から未反応物、及び/又は生成物の混合物と水素ガスを連続的に回収して、緩衝槽2に導入する。充填塔用導管5を通して未反応のガス状1級もしくは2級アミン、及び水分を連続的に排出する。導管5から排出される成分中には、上記の他にアルコール、及び/又は生成3級アミンの蒸気もしくはミスト状成分等が含まれることがあり、充填塔6にてこれらを液化させて緩衝槽2に戻し、残りのガス成分を系外に排出する。反応系内はほぼ常圧に保たれる。
【0044】
実施例1
製造例1で得たフィルム型触媒Aを、内径28.4mmの反応器1の内部に装填した。フィルム型触媒の装填された部分の体積は0.25Lで、反応器1の軸方向に連通した、断面積0.1cm2程度の複数の流路がフィルム型触媒によって形成された。
【0045】
《触媒の還元処理》
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)600gを緩衝槽2に仕込み、水素ガスを標準状態体積換算で16.5L/Hrの流量で供給しながら、緩衝槽2と反応器1との間で液を5.92L/Hrで循環させた。この状態で反応器1内部の温度を130℃まで昇温した後6時間保持して、触媒の還元処理を行った。その後全系を冷却してから、液を全量抜き出した。
【0046】
《デシルアルコールとモノメチルアミンを原料としたN,N−ジデシル−N−メチルアミンの製造》
デシルアルコール(花王(株)製カルコール1098)660gを緩衝槽2に仕込み、水素ガスを標準状態体積換算で9.9L/Hrの流量で供給しながら、緩衝槽2と反応器1との間で液を5.92L/Hrで循環させた。反応器1内部の温度を165℃まで昇温してからモノメチルアミンを反応器1に供給し、さらに反応器1内部の温度を192℃まで昇温して反応を開始した。モノメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整し、反応時間平均で17g/Hrであった。反応開始から7時間後にモノメチルアミンの供給を停止し、全系を冷却して緩衝槽2及び反応器1内部の液全量を抜き出した。ガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のデシルアルコールは2.6%、生成したN,N−ジデシル−N−メチルアミンは89.6%、N−デシル−N,N−ジメチルアミンは0.7%、N,N,N−トリデシルアミンは0.8%であった。
【0047】
《ラウリルアルコールとジメチルアミンを原料としたN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造》
上記の反応器1内部に装填されたフィルム型触媒はそのままで、ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)600gを緩衝槽2に仕込み、水素ガスを標準状態体積換算で16.5L/Hrの流量で供給しながら、緩衝槽2と反応器1との間で液を5.92L/Hrで循環させた。反応器1内部の温度を185℃まで昇温してからジメチルアミンを反応器に供給し、さらに反応器1内部の温度を220℃まで昇温して、反応を開始した。ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整し、反応時間平均で51g/Hrであった。反応開始から2.6時間後にジメチルアミンの供給を停止し、全系を冷却して緩衝槽2及び反応器1内部の液全量を抜き出した。ガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のラウリルアルコールは0.8%、生成したN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンは91.2%、N,N−ジドデシル−N−メチルアミンは4.7%であった。N,N,N−トリドデシルアミンは検出されなかった。
【0048】
比較例1
実施例1と同じく、製造例1で得たフィルム型触媒Aを反応器1の内部に装填し、実施例1と同様の操作にて触媒の還元処理を行った。
【0049】
《ラウリルアルコールとジメチルアミンを原料としたN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造》
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)600gを緩衝槽2に仕込み、水素ガスを標準状態体積換算で16.5L/Hrの流量で供給しながら、緩衝槽2と反応器1との間で液を5.92L/Hrで循環させた。反応器1内部の温度を185℃まで昇温してからジメチルアミンを反応器に供給し、さらに反応器1内部の温度を220℃まで昇温して、反応を開始した。ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整し、反応時間平均で42g/Hrであった。反応開始から3.3時間後にジメチルアミンの供給を停止し、全系を冷却して緩衝槽2及び反応器1内部の液全量を抜き出した。ガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のラウリルアルコールは0.5%、生成したN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンは78.9%、N,N−ジドデシル−N−メチルアミンは17.2%であった。N,N,N−トリドデシルアミンは検出されなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
表中、「前反応」は、アルコールと1級アミンの反応であり、「DM体」は、ジメチル型3級アミンであり、本例では「N−ドデシル−N,N−ジメチルアミン」である。また、「M2体」は、ジ長鎖アルキル型3級アミンであり、本例では「N,N−ジドデシル−N−メチルアミン」である。また、「M体」は、モノメチル−モノ長鎖アルキル型2級アミンであり、本例では「N−ドデシル−N−メチルアミン」である。なお、表中、触媒量の「対原料質量%」は、対原料アルコール質量%の意味である。
【0052】
製造例2:粉末状触媒Bの製造
粉末状触媒Bを以下のように調製した。
【0053】
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅と硝酸ニッケル及び塩化ルテニウムを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。90℃で10質量%炭酸ナトリウム水溶液をpH9〜10にコントロールしながら徐々に滴下した。1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における金属酸化物の割合は50質量%、合成ゼオライトの割合は50質量%であった。
【0054】
以下の実施例2及び比較例2では、図2に示す攪拌槽型反応装置を用いて、ラウリルアルコールとジメチルアミンとを原料としてN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンを製造した。実施例2については、上記反応に先立ち、同じ装置を用いて、デシルアルコールとモノメチルアミンを原料としてN,N−ジデシル−N−メチルアミンを製造した。なお以下の%は特に断りのないものは質量%を表す。表2に、実施例2と比較例2におけるアルコールと2級アミンの反応条件等を示した。
【0055】
なお、図2において、粉末状触媒を懸濁させた液状の反応物、及び/又は生成物の混合物のスラリーが入った攪拌槽21は、攪拌機22に接続された攪拌翼23によって内容物が混合されると共に、外部からの加熱によってその温度を制御できる。ガス吹込み管24を通じて攪拌槽21の内部にガス状の1級もしくは2級アミン及び水素ガスを連続的に供給する。充填塔用導管25を通して未反応のガス状1級もしくは2級アミン、及び水分を連続的に排出する。導管25から排出される成分中には、上記の他にアルコール、及び/又は生成3級アミンの蒸気もしくはミスト状成分等が含まれることがあり、充填塔26にてこれらを液化させて攪拌槽21に戻し、残りのガス成分を系外に排出する。反応系内はほぼ常圧に保たれる。
【0056】
実施例2
《触媒の還元処理》
デシルアルコール(花王(株)製カルコール1098)1200gを攪拌槽21に仕込み、さらに製造例2で得た粉末状触媒Bを6.0g仕込んで、水素ガスを標準状態体積換算で18L/Hrの流量で供給しながら、攪拌槽21内部を攪拌翼23によって1000rpmで攪拌混合した。この状態で攪拌槽21内部の温度を180℃まで昇温した後1時間保持して、触媒の還元処理を行った。
【0057】
《デシルアルコールとモノメチルアミンを原料としたN,N−ジデシル−N−メチルアミンの製造》
上記の粉末状触媒Bの還元処理に引き続いて、水素ガスを標準状態体積換算で18L/Hrの流量で攪拌槽21に供給しながら、さらにモノメチルアミンを供給し、攪拌槽21内部の温度を192℃まで昇温して反応を開始した。モノメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整し、反応時間平均で26g/Hrであった。反応開始から3.9時間後にモノメチルアミンの供給を停止し、全系を冷却して攪拌槽21内部の液及び触媒全量を抜き出し、触媒を濾過分離した。濾過した液についてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のデシルアルコールは3.2%、生成したN,N−ジデシル−N−メチルアミンは93.1%、N−デシル−N,N−ジメチルアミンは0.3%、N,N,N−トリデシルアミンは0.5%であった。
【0058】
《ラウリルアルコールとジメチルアミンを原料としたN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造》
上記のN,N−ジデシル−N−メチルアミンの製造に使用して濾過分離した粉末状触媒の2/3量(4.0g相当量)と、新たにラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)1200gを攪拌槽21に仕込み、水素ガスを標準状態体積換算で13L/Hrの流量で供給しながら、攪拌槽21内部を攪拌翼23によって1000rpmで攪拌混合した。攪拌槽21内部の温度を190℃まで昇温してからジメチルアミンを反応器に供給して反応を開始し、さらに攪拌槽21内部の温度を220℃まで昇温しながら水素ガスの流量を標準状態体積換算で27L/Hrまで増加した。ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整し、反応時間平均で93g/Hrであった。反応開始から2.3時間後に攪拌槽21内部の液をサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のラウリルアルコールは1.7%、生成したN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンは93.3%、N,N−ジドデシル−N−メチルアミンは3.7%であった。N−ドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンは検出されなかった。さらに反応を継続して反応開始から2.6時間後にジメチルアミンの供給を停止し、全系を冷却して攪拌槽21内部の液全量を抜き出し、触媒を濾過分離した。濾過した液についてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のラウリルアルコールは1.0%、生成したN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンは93.8%、N,N−ジドデシル−N−メチルアミンは3.8%であった。N−ドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンは検出されなかった。
【0059】
比較例2
《触媒の還元処理》
実施例2と同じく、製造例2で得た粉末状触媒Bを4.0g攪拌槽21に仕込み、実施例2と同様の操作にて触媒の還元処理を行った。
【0060】
《ラウリルアルコールとジメチルアミンを原料としたN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンの製造》
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール20)1200gを攪拌槽21に仕込み、さらに上記還元処理した粉末状触媒Bの全量を仕込んで、水素ガスを標準状態体積換算で13L/Hrの流量で供給しながら、攪拌槽21内部を攪拌翼23によって1000rpmで攪拌混合した。攪拌槽21内部の温度を190℃まで昇温してからジメチルアミンを反応器に供給して反応を開始し、さらに攪拌槽21内部の温度を220℃まで昇温しながら水素ガスの流量を標準状態体積換算で27L/Hrまで増加した。ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整し、反応時間平均で98g/Hrであった。反応開始から2.3時間後にジメチルアミンの供給を停止し、全系を冷却して攪拌槽21内部の液全量を抜き出し、触媒を濾過分離した。濾過した液についてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて定量した結果、未反応のラウリルアルコールは1.0%、生成したN−ドデシル−N,N−ジメチルアミンは93.1%、N,N−ジドデシル−N−メチルアミンは5.5%であった。N−ドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンは検出されなかった。
【0061】
【表2】

【0062】
表中、「前反応」は、アルコールと1級アミンの反応であり、「DM体」は、ジメチル型3級アミンであり、本例では「N−ドデシル−N,N−ジメチルアミン」である。また、「M2体」は、ジ長鎖アルキル型3級アミンであり、本例では「N,N−ジドデシル−N−メチルアミン」である。なお、表中、触媒量の「対原料質量%」は、対原料アルコール質量%の意味である。
【符号の説明】
【0063】
1:フィルム型触媒を装填した管型反応器
2:緩衝槽
3:外部循環用ポンプ
4:外部循環用導管
5:充填塔用導管
6:充填塔
21:攪拌槽
22:攪拌機
23:攪拌翼
24:ガス吹込み管
25:充填塔用導管
26:充填塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールと1級アミンを触媒の存在下で反応させて3級アミンを製造した後、当該反応に用いた当該触媒の存在下にアルコールと2級アミンを反応させる、3級アミンの製造方法。
【請求項2】
触媒がCu及び/又はNiを含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
1級アミンがモノメチルアミン又はモノエチルアミン、2級アミンがジメチルアミン又はジエチルアミンである、請求項1又は2記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−148768(P2011−148768A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273331(P2010−273331)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】