説明

3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法

【課題】3,3,3−トリフルオロプロピンの工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、塩基を反応させることを特徴とする、3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法。穏和な条件下、高収率で3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることが可能で、また、廃棄物処理も容易で工業的に有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒、エッチング剤、エアゾール等の機能材料又は生理活性物質、機能性材料の中間体、高分子化合物のモノマーとなりうる、3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,3,3−トリフルオロプロピンはトリフルオロメチル基および三重結合を分子内に有し、特異な性質を有するため単体の用途ならびにその誘導体が数多く研究されてきた。
【0003】
3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法として、例えば、非特許文献1−3では2,3−ジブロモ−1,1,1−トリフルオロプロペンから得る方法、非特許文献4では、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンから誘導する方法が開示されている。
【0004】
また、非特許文献5では1−ヨード−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ化カリウム(KF)と反応させる方法や、非特許文献6ではアセチレンカルボン酸(HC≡CCOOH)と四フッ化イオウ(SF4)を反応させる方法が報告されている。
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society,1951,73,1042-3.
【非特許文献2】Journal of the Chemical Society,1951,2495-504.
【非特許文献3】Journal of the Chemical Society,1952,3483-90.
【非特許文献4】Journal of Organic Chemistry,1963,28,1139-40.
【非特許文献5】Journal of Fluorine Chemistry,1978,12(4),321-4.
【非特許文献6】Journal of the American Chemical Society,1959,81,3165-6.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1−3に記載の方法は、以下のスキームに示すとおり、3,3,3−トリフルオロプロペンを出発原料として、3,3,3−トリフルオロプロピンを製造する方法である。
【0006】
【化2】

【0007】
しかしながら、この方法は一般に多段階の工程を要するため、煩雑となる。さらに、腐食性の激しい臭素を使用するために、腐食に耐えうる反応容器が必要となり、工業的に採用するのは難しい。
【0008】
また、非特許文献4の方法では、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対し、亜鉛化合物を用いている為、亜鉛廃液の処理が問題となる。
【0009】
また、非特許文献5の方法では、原料が高価であることや、目的物と共に副生物が多く生成すること、そして目的物が極めて低収率(20%)であることから、工業的な方法としては採用することは難しい。
【0010】
非特許文献6の方法では、原料であるアセチレンカルボン酸が高価であり、更に、取り扱いが難しい四フッ化硫黄を用いることから、必ずしも工業的な方法とは言えなかった。
【0011】
上述の様に、本発明の目的物である3,3,3−トリフルオロプロピンを大量生産に採用される工業的製造法としては必ずしも満足できる方法ではなく、該目的物を工業的規模で実施容易である製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペン
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Xはフッ素、塩素、臭素を表す。)
に、塩基を反応させることで、3,3,3−トリフルオロプロピンを高収率かつ高選択的に得ることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明7]に記載する、3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法を提供する。
[発明1]
式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、塩基を反応させることを特徴とする、3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法。
[発明2]
塩基が、アンモニア、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機塩基である、発明1に記載の方法。
[発明3]
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムである、発明2に記載の方法。
[発明4]
式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンが、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン又は(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、塩基が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
[発明5](Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを塩基と反応させる際、系内に相間移動触媒を添加することにより行うことを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
[発明6]相間移動触媒が、クラウンエーテル、クリプタンド、又はオニウム塩である、発明5に記載の方法。
[発明7]
液相中で反応を行うことを特徴とする、発明1乃至6の何れかに記載の方法。
【0016】
本発明は、(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを用いることに特徴がある。1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、反応系内に二重結合を有する為、シス(Z)体及びトランス(E)体が存在する。
【0017】
【化4】

【0018】
例えば、出発原料としてトランス体、すなわち、(E)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを用いて本発明と同様に実施した場合、反応は全く進行せず(変換率0%)、対応する3,3,3−トリフルオロプロピンは全く得られない(後述の参考例1参照)。
【0019】
このことから、発明者らはシス体、すなわち、(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを出発原料として用いた場合も、同様に反応が進行せず、3,3,3−トリフルオロプロピンを効率的に製造することは困難であるものと当初予想していた。
【0020】
ところが本発明者らは、出発原料として(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを用いたところ、従来技術と比べて高収率かつ高選択的に3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることができるという、工業的規模で製造する方法としてきわめて簡便で、実用的に有利な知見を得た(後述の実施例1−7参照)。
【0021】
(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンはトリフルオロメチル基(CF3)を有する。トリフルオロメチル基の強い電子求引性のために、二重結合近傍にトリフルオロメチル基を持つ化合物の反応性が、それを持たない基質と比べて大きく異なり、(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを原料として用いた際に、好適な効果を得たものと推測される。
【0022】
また、本発明者らは、詳細は後述するが、溶媒を共存させない条件、すなわち(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペン及び塩基を用いるだけでも充分反応が進行する知見も得た。
【0023】
このように、本発明は工業的に実施可能で容易な反応条件において、従来技術よりも高い収率で目的化合物が製造可能である。また、有機溶媒を共存させない条件でも良好に反応が進行するため、環境負荷がかからず、高い生産性で目的とする3,3,3−トリフルオロプロピンを製造できることとなった。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、穏和な条件下、(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに塩基を反応させることで、高収率で3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることが可能である。また、溶媒を用いた場合でも、使用した溶媒も回収してリサイクル可能であり、廃棄物処理も容易なことからも、工業的に有利な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明は式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに、塩基を反応させることを特徴とする、3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法である。以下にスキーム2として示す。
【0026】
【化5】

【0027】
本発明の出発原料である、式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、具体的には、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、(Z)−1−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロペンが挙げられる。これらの中でも、入手の容易さや、得られる化合物の有用性などから、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンや、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが好ましく用いられる。
【0028】
なお、本発明で用いられる(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンのうち、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンについては、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをクロム触媒による気相フッ素化反応又は無触媒で液相フッ素化反応を行うことにより、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとともに得ることができる。両者の異性体は、蒸留により容易に分離することができる。
【0029】
また、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンをアルカリ分解することにより、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンとともに得ることができ、両者は蒸留により分離することができる。
【0030】
本発明の方法において使用する塩基としては、アルキルアミン類、ピリジン類、アニリン類、グアニジン類、ピリジン類、ルチジン類、モルホリン類、ピペリジン類、ピロリジン類、ピリミジン類、ピリダジン類などの有機塩基や、アンモニア、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のカルボン酸塩、アルカリ土類金属のカルボン酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物などの無機塩基を用いることができる。
【0031】
有機塩基の具体例として、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミン、グアニジン、N,N−ジエチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、2,6−ルチジン、2−メチルピリジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ピリミジン、ピリダジン、モルホリンが挙げられる。
【0032】
有機塩基のうち、高い塩基性度を持つ塩基、例えばグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等を用いることは、反応時間が短縮されることからも、好ましい態様の一つである。なお、ここで言う「高い塩基性度」とは、塩基としてはpHが8以上であるが、主としてpHが10以上を持つものを言う。
【0033】
なお、中程度の強度を有する塩基である、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、2,6−ルチジン、2−メチルピリジン、2,6−ルチジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ピリミジン、ピリダジン、モルホリン等でも反応は進行するが、高い塩基性度を持つ塩基と比べて更に反応時間を要することからも、特に用いるメリットは少ない。
【0034】
無機塩基の上記の例の内、経済性及び取り扱いが容易であることから、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。なお、ここでアルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属とは、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムのことを言う。
【0035】
アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物の、具体的な化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウムなどが挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムが好ましく、さらに安価で工業的に大量に入手できることから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリ金属アルコキシドの具体的な化合物としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどが挙げられる。
【0036】
なお、中程度の塩基度を持つ無機塩基として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムなど)、カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど)を用いて反応を行うこともできるが、前述した高い塩基性度を持つ塩基と比べて更に反応時間を要することから、特に用いるメリットは少ない。
【0037】
なお、本発明で用いる塩基は、1種類又は2種類以上を併用して使用することもできる。
【0038】
本発明で用いる塩基の量は、式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モルに対し、少なくとも1モルを必要とし、式[1]の化合物1モル当たり、通常1〜10モルの範囲を適宜選択できるが、好ましくは1〜4モルであり、更に好ましくは1〜2モルである。また、10モルより多く塩基を使用することも可能であるが、特に大量使用するメリットもない。
【0039】
なお、本発明において、式[1]の化合物1モルに対して、1モルより少ない塩基を用いた場合、反応の変換率が低下することがある。その際、反応後の精製操作の際に未反応の(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを回収し、次の反応にリサイクルすることも可能である。
【0040】
本発明において、溶媒を別途加えることができる。溶媒としては反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチルニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート等のグリコール類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、そして水などが例示できる。また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0041】
本発明に使用される塩基は、作業性の容易さから、塩基が常温・常圧で固体の場合、上述の溶媒を別途加えて溶液として添加することも可能である。また、その溶液の濃度は充分反応が進行する程度に、また、塩基が充分溶媒に溶解する程度に当業者が適宜調整することができる。塩基により異なるが、例えば水酸化カリウム水溶液の場合、通常は5〜85重量%とし、20〜60重量%が好ましく、25〜50重量%の範囲がより好ましい。
【0042】
なお、本発明で用いる塩基については、無機塩基及び有機塩基の種類や常温・常圧における様態(固体・液体)に応じて、溶媒を入れずに無溶媒下で用いたり(詳細は後述)、少なくとも1種類以上の溶媒に別途加えて溶液として反応させることも可能であり、当業者が適宜選択することができる。
【0043】
例えば、実施例1−7に示すように、(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対し、塩基として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、溶媒として水、メタノール、エタノールを用いることは、本発明において特に好ましい態様の一つである。
【0044】
また、本発明では、出発原料の(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、常温・常圧下にて液体であるため、それ自身溶媒としても兼ねることから、溶媒を特に必要としない条件、すなわち、反応系に溶媒を共存させない条件下で反応させることにより、高選択率及び高収率で目的物である3,3,3−トリフルオロプロピンを得る知見も得た。例えば、実施例7において、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに対し、溶媒を共存させない条件下で反応させることは、特に好ましい態様の一つである。
【0045】
なお、ここで言う「溶媒を共存させない」条件下とは、実質的に溶媒を系内に存在させないことを指し、具体的には、(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに対して、3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下の量をいう。これらの物質を積極的に系内に加えずに反応を実施する限り、溶媒を共存させないという条件を達成することは容易である。
【0046】
本発明において、溶媒の他に、添加剤として相間移動触媒を用いることもできる。相間移動触媒を用いる場合、塩基として、特にアルカリ金属の水酸化物を用いた場合に、反応が促進することからも、好ましく用いられる。
【0047】
相間移動触媒としては、クラウンエーテル、クリプタンド、又はオニウム塩を用いることができる。クラウンエーテルは金属カチオンを包摂して反応性を高めることができ、Kカチオンと18−クラウン−6、Naカチオンと15−クラウン−5、Liカチオンと12−クラウン−4の組み合わせ等が挙げられる。また、クラウンエーテルのジベンゾまたはジシクロヘキサノ誘導体等も有用である。
【0048】
クリプタンドは多環式大環状キレート化剤で、例えばKカチオン、Naカチオン、Csカチオン、Liカチオンと錯体(クリプテート)を形成し、反応を活性化することができ、4,7,13,18−テトラオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.5.5]イコサン(クリプタンド211)、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(クリプタンド222)等が挙げられる。
【0049】
オニウム塩は、4級アンモニウム塩あるいは4級ホスホニウム塩があり、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルホスホニウムクロリド、テトラn−ブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリドが挙げられる。
【0050】
本発明において、反応圧力は特に限定はなく、常圧または加圧条件下で、0〜2MPa(絶対圧基準。以下同じ)、好ましくは0〜0.5MPaで操作できる。
【0051】
反応温度は特に限定することなく、反応圧力との関係で反応系として液相状態または気相状態を選択でき、0〜80℃、好ましくは常温付近の25℃〜40℃である。
【0052】
また、本発明は、液相中で反応を行うことが特に好ましい。出発原料の(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、常温・常圧下で液体であるが、反応系内を気相状態にし、反応容器を密閉して反応を行うことができる。しかしながら、気相状態で本反応を行う場合、出発原料の(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンの反応性が殆どない、より安定なE体に変換しやすく、収率が低下するため、本発明は、液相中で本反応を行うことが特に好ましい特徴の一つである。
【0053】
本発明の方法では、腐食性ガスの発生がないため反応器の材質としては、常圧又は加圧下で反応を行う際、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、一般的なステンレス、ガラス、フッ素樹脂からなるか、または、ガラスもしくはフッ素樹脂によりライニングされた材料の反応容器を使用することができる。
【0054】
なお、耐圧反応容器を用いることもできるが、液化状態の場合でも、反応系内の圧力がそれ程上がることなく反応が進行する為、常圧でも十分に実施できることから、特に耐圧反応容器を用いるメリットは大きくない。
【0055】
また、本発明の方法で得られた3,3,3−トリフルオロプロピンは、常温・常圧で気体として存在する。反応後に得られた気体を、冷却したコンデンサーに流通させた後、該気体を捕集容器で捕集させて液化させた後、後処理をすることなく、さらに精密蒸留することで高純度の3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることができる。
【0056】
なお、本発明では連続的、又は半連続的もしくはバッチ式で行っても良く、当業者が適宜調整することができる。
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施態様に限られない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【実施例1】
【0058】
−20℃の冷媒を循環させたガラス製冷却器と−40℃に調整したジュワー瓶型凝縮器からなる2段冷却搭および熱電対投入用ガラス製保護管を取り付けた500mlガラス製三口丸底フラスコに、水酸化カリウム56.11g(1.0モル)、水84.21g、およびメタノール84.21gを仕込み、冷却しながらマグネチックスターラーにて撹拌溶解させた後、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを入れた滴下漏斗を取り付け、水浴にて内温を38℃まで加熱し、保持した。内温が安定したところで、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130.5g(1.0モル)を2時間かけて滴下した。反応で発生した高濃度の3,3,3−トリフルオロプロピンガスは、凝縮器出口に導かれた回収トラップ(メタノール+ドライアイスで冷却)に液化して捕集した。(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン滴下終了後、さらに30分加熱を続けてから反応器を冷却し、反応を終了した。
【0059】
反応終了後、回収トラップ側で捕集液92.17gを得た。
【0060】
一方、フラスコ内の釜残液は二層分離およびフラッシュ蒸留操作を実施し、使用溶媒以外の有機物を回収したところ、未反応原料および高沸物を3.53g得た。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの変換率は98.6%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は98.3%、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は96.9%であった。
【実施例2】
【0061】
(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130.5g(1.0モル)を用い、水酸化カリウム61.7g(1.1モル)、水92.6gおよびメタノール92.6gを使用した以外、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、回収トラップ側で捕集液92.6gを、フラスコ内の釜残液から回収した使用溶媒以外の有機物で2.9gを得た。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの変換率は99.2%、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は98.4%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は97.6%であった。
【実施例3】
【0062】
(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130.5g(1.0モル)を用い、水酸化カリウム61.7g(1.1モル)、水92.6gおよびエタノール92.6gを使用した以外、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、回収トラップ側で捕集液86.0gを、フラスコ内の釜残液から回収した使用溶媒以外の有機物で15.5gを得た。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの変換率は96.4%、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は94.0%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は90.6%であった。
【実施例4】
【0063】
(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130.5g(1.0モル)を用い、水酸化ナトリウム44.00g(1.1モル)、水66.00gおよびメタノール66.00gを使用した以外、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、回収トラップ側で捕集液79.2gを、フラスコ内の釜残液から回収した使用溶媒以外の有機物で25.7gを得た。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの変換率は95.6%、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は87.7%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は83.8%であった。
【実施例5】
【0064】
(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130.5g(1.0モル)を用い、水酸化カリウム67.34g(1.2モル)、水157.13gおよびクラウンエーテル(18−クラウン−6)1.6g(5.9ミリモル)を用い、メタノールを加えない以外は、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、回収トラップ側での捕集液で4.0gを、釜残液から回収した使用溶媒以外の有機物で124.8gを得た。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの変換率は75.0%、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は88.0%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は66.0%であった。
【実施例6】
【0065】
(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン114.0g(1.0モル)を用いた以外、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、回収トラップ側での捕集液で51.7gを、釜残液から回収した使用溶媒以外の有機物で62.2gを得た。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの変換率は54.0%、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は84.0%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は45.4%であった。
【実施例7】
【0066】
圧力計および抜き出しバルブを取り付けた、500ml容量のSUS−316反応器に、粉砕した水酸化カリウム16.80g(0.3モル)および(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン26.10g(0.2モル)を仕込み、密閉後、マグネチックスターラーにて撹拌しつつ、70℃で9時間加熱した。その時の最終圧力は0.5MPaであった。反応終了後、抜き出しバルブを開き、有機物を回収トラップ(メタノール+ドライアイスで冷却)に液化して捕集した。回収した有機物は21.44gであった。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの変換率は64.5%、3,3,3−トリフルオロプロピンの選択率は98.4%であり、3,3,3−トリフルオロプロピンの収率は63.5%であった。
[参考例1]
(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン130.5g(1.0モル)を用い、水酸化カリウム56.11g(1.0モル)、水84.21g、およびメタノール84.21gを用い、反応温度25℃に設定した以外、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、釜残液から回収した使用溶媒以外の有機物で130.50gを得たが、回収トラップ側での捕集液は0gであった。これらの回収液をガスクロマトグラフで分析したところ、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは全く反応せず、3,3,3−トリフルオロプロピンの生成は認められなかった。
【0067】
このように、実施例1−7及び参考例1の結果から、(E/Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを用いる場合、シス体(Z体)を用いるほうが、良好に反応が進行し、高選択的に該目的物を得ることが可能であるが、トランス体(E体)の場合は、反応が全く進行しないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペン
【化1】

(式中、Xはフッ素、塩素、臭素を表す。)
に、塩基を反応させることを特徴とする、3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法。
【請求項2】
塩基が、アンモニア、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機塩基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式[1]で表される(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンが、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン又は(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、塩基が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
(Z)−1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンに塩基を反応させる際、系内に相間移動触媒を添加することにより行うことを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
相間移動触媒が、クラウンエーテル、クリプタンド、又はオニウム塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
液相中で反応を行うことを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2008−285471(P2008−285471A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96726(P2008−96726)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】