説明

3,4−アルキレンジオキシチオフェン化合物及びそのポリマー

【化1】


式(I)により示され:ここでAは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示すチオフェン化合物;式(I)により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマー;式(I)により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーの製造のための、場合により化学的又は電気化学的であることができる方法;ならびにそのようなポリマーを含有する溶液、分散液、ペースト及び層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な3,4−アルキレンジオキシチオフェン化合物、そのモノマー単位を含有するポリマー及びそのようなポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多数のポリチオフェンが、それらの興味深い電気的及び/又は光学的性質の故に広範囲に研究されてきた。ポリチオフェンは化学的もしくは電気化学的に酸化もしくは還元されると電気伝導性となる。
【0003】
特許文献1は、式:
【0004】
【化1】

【0005】
[式中、Aは場合により置換されていることができるC1−4−アルキレン基を示す]
の構造単位を含有するポリチオフェン及び対応するチオフェンの酸化重合によるその製造を開示している。
【0006】
特許文献2は、ポリアニオンの存在下における式(I):
【0007】
【化2】

【0008】
[式中、R及びRは互いに独立して水素又はC1−4−アルキル基を示すか、あるいは一緒になって場合により置換されていることができるC1−4−アルキレン残基を形成する]
の構造単位から構築されるポリチオフェンの分散液を開示している。
【0009】
ポリ(フッ素化3−アルキルチオフェン)の製造は、1990年にBuchner et al.により非特許文献1において最初に報告され、彼らはペルフルオロアルキル鎖の強い誘起電子吸引効果が非−フッ素化アルキルチオフェンと比較してチオフェン環の酸化電位を向上させることを見出し、そのようなポリマーにおける3次光学的非線形性が1993年に同グループにより非特許文献2において報告された。
【0010】
Zhang et al.は、1996年に非特許文献3において、3−フルオロアルコキシ及び3−フルオロエーテルチオフェンの電気化学的重合を報告し、1997年に非特許文献4において、チオフェン環の3−位におけるフルオロエーテル官能基の導入がモノマーの酸化電位の向上及び、スペーサーとしてメチレン基を用いても、得られるポリマーの伝導度の低下に導くことを報告した。
【0011】
1998年から2002年の期間にわたり、Collard et al.はセミフルオロアルキル−置換ポリチオフェンの合成及び性質に関する複数の研究を報告した。1998年に非特許文献5において、彼らは共役ポリマーの表面性及び自己−集合(self−assembly)へのペルフルオロアルキル置換基の効果を報告し;1999年に非特許文献6において、彼らはそのようなポリマーの合成を報告し;2000年に非特許文献7において、彼らはアルキル及びフルオロアルキル置換基を交互にすることによりポリ(3−アルキルチオフェン)の巨大分子構造を制御することを報告し、非特許文献8において彼らは液晶性位置規則性セミフルオロアルキル−置換ポリチオフェンを報告し;2002年に非特許文献9において、彼らは位置規則性ポリ[3−アルキルチオフェン−alt−3−(セミフルオロアルキル)−チオフェン]が二層アセンブリに相当する中間層スペーシングを有する高度に規則的な固体状態層状構造を形成することを報告した。
【0012】
さらに1998年にIrvin及びReynoldsは非特許文献10において、1,4−ビス[2−(3,4−エチレンジオキシ)−チエニル]−2,5−ジフルオロベンゼン及び1,4−ビス(2−チエニル)−2,5−ジフルオロペンゼンの合成、特性化及び電気化学的重合を報告し、得られるポリマーは電気活性レドックススィッチング可能なフィルムであり、より電子の豊富なエチレンジオキシチオフェン誘導体がより低い電位でスィッチングし、薄フィルムのようにエレクトロクロミック挙動を示すことが見出された。しかしながら我々の知識では、フッ素原子又はペルフルオロ基で置換されたアルキル基で直接置換された3,4−アルキレンジオキシチオフェン[XDOT’s]又はそれに由来するポリマーは文献において報告されていない。
【0013】
光学的性質及び電気的性質の独特の組み合わせを有する新規な伝導性ポリマーに対する一般的必要性がある。
【特許文献1】欧州特許出願公開第339340号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第440957号明細書
【非特許文献1】Buchner et al.著,Journal of Electroanalytical Chemistry and Interfacial Electrochemistry,volume 277,1990年,pages 355−358
【非特許文献2】Buchner et al.著,Optical Engineering,volume 32,1993年,pages 2246−2254
【非特許文献3】Zhang et al.著,Chinese Journal of Organic Chemistry,volume 14,1996年,pages 330−337
【非特許文献4】Zhang et al.著,Chinese Journal of Organic Chemistry,volume 15,1997年,lines 15−23
【非特許文献5】Collard et al.著,Polymer Preprints,volume 39,1998年,pages 155−156
【非特許文献6】Collard et al.著,Macromolecules,volume 32,1999年,pages 4232−4239
【非特許文献7】Collard et al.著,Macromolecules,volume 33,2000年,pages 6916−6917
【非特許文献8】Collard et al.著,Macromolecules,volume 33,2000年,pages 3502−3504
【非特許文献9】Collard et al.著,Polymeric Materials Science and Engineering,volume 86,2002年,pages 38−39
【非特許文献10】Irvin and Reynolds著,Polymers for Advanced Technologies,volume 9,1998年,pages 260−265
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明の側面
従って、本発明の側面は、新規な3,4−アルキレンジオキシチオフェンを提供することである。
【0015】
従って、本発明の他の側面は、向上した光学的性質を示す新規な3,4−アルキレンジオキシチオフェンのポリマーを提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の側面及び利点は、下記の記述から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の概略
驚くべきことに、ポリ[2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメチルエステル](PEDOT−F)が、比較的低い酸化電位、速いスィッチング時間、高い可視コントラストを示し、且つ濡れ時の非常に高い接触角及び高い電気伝導度と組み合わされた最高で63%の透過率及び輝度における変化を伴って、容易に得られ得るレドックススィッチング電位において、暗青色中性状態から透過性灰−青色状態の間でスィッチングする能力を有することが見出された。
【0018】
PEDOT−F及びPBEDOT−NMeCz{ポリ[3,6−ビス(2−エチレンジオキシチエニル)−N−メチル−カルバゾール]}相補的ポリマー(complementary polymers)に基づく二成分ポリマーエレクトロクロミック装置(dual polymer electrochromic devices)は、低い適用電圧(±1.2V)で働く能力を有し、両フィルムは同じ電気化学的環境内で適合性である。それらはλmaxにおいて最高で60%の光学的コントラストならびに60%の全体的輝度変化を示した。輝度及び透過率における変化に関する同じ値は驚くべきことであり、それはほとんどのエレクトロクロミック装置において、λmaxにおける透過率が全体的輝度の値よりずっと高いからである。これは、装置が暗状態において、目が最も敏感な領域を強調しながら広帯域吸収(broadband absorption)を示すことを意味し、かくしてエレクトロクロミック装置構築における新規な次元(dimention)を導入する。
【0019】
本発明の側面は、式(I):
【0020】
【化3】

【0021】
[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物を用いて実現される。
【0022】
本発明の側面は、上記のチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーによっても実現される。
【0023】
本発明の側面は、上記のポリマーの製造法によっても実現される。
【0024】
本発明の側面は、液体媒体中に上記のポリマーを含有する溶液又は分散液によっても実現される。
【0025】
本発明の側面は、物体のコーティングのための上記の溶液又は分散液の使用によっても実現される。
【0026】
本発明の側面は、上記のポリマーを含有するインキ又はペーストによっても実現され、インキ又はペーストは印刷されることができる。
【0027】
本発明の側面は、上記のポリマーを含有する第1の層によっても実現され、第1の層は電気伝導性を示す。
【0028】
本発明の側面は、上記のポリマーを含有する第2の層によっても実現され、第2の層は帯電防止性を示す。
【0029】
本発明の側面は、上記のポリマーを含有する装置によっても実現され、装置はエレクトロクロミック性を示す。
【0030】
本発明のさらに別の側面は従属クレイムにおいて開示される。
発明の詳細な記述
図の説明文
図1Aは、PEDOT−Fに関するAg/Agに対するボルトおける適用電位Pの関数としての相対的輝度[L]のプロットを示す。
【0031】
図1Bは、ポリマーをAg/Agに対して−0.7〜+0.7Vの範囲の電位に保ちながら記録されたCIE 1931 x−y図を示す。
【0032】
図2Aは、PBEDOT−NMeCz/PEDOT−Fエレクトロクロミック装置に関するnmにおける波長[λ]の関数としての+1.2(破線)、漂白状態(bleached state)及び−1.2V(連続線)、着色状態の適用電位の場合の%における透過率[T]を示す。
【0033】
図2Bは、PBEDOT−NMeCz/PEDOT−Fエレクトロクロミック装置に関する秒における時間の関数としての580nmの波長での%における透過率[T]を示し、スィッチング時間を示す。
【0034】
図3は、PBEDOT−NMeCz/PEDOT−F装置に関するボルトにおける適用電位[P]の関数としての相対的輝度[L]を示す。
【0035】
図4は、ジクロロメタン中の0.1M テトラ−n−ブチル−アンモニウムホスホラスヘキサフルオリドの溶液中の0.01M 3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)の連続的CV−特性を示し、図ではアンペアにおける電流がフェロセン/フェロセニウムに対する電圧に対してプロットされている。
【0036】
定義
1−5−アルキレン基という用語は、メチレンジオキシ、1,2−エチレンジオキシ、1,3−プロピレンジオキシ、1,4−ブチレンジオキシ及び1,5−ペンチレンジオキシ基を示す。
【0037】
アルキルという用語は、アルキル基中の炭素原子のそれぞれの数に関して可能なすべての変形、すなわち3個の炭素原子の場合:n−プロピル及びイソプロピル;4個の炭素原子の場合:n−ブチル、イソブチル及び第3級−ブチル;5個の炭素原子の場合:n−ペンチル、1,1−ジメチル−プロピル、2,2−ジメチルプロピル及び2−メチル−ブチルなどを意味する。
【0038】
ポリマーという用語は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、グラフトポリマー及びブロックコポリマーならびに連鎖(chain)及び縮合ポリマーの両方を含む。
【0039】
本発明の開示において用いられるペルフルオロ基という用語は、炭素原子に結合するすべての水素原子がフッ素原子により置き換えられている基を指す。
【0040】
本発明の目的のための水性という用語は、少なくとも60容量%の水、好ましくは少なくとも80容量%の水を含有し、且つ場合により水−混和性有機溶媒、例えばアルコール類、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、イソ−アミルアルコール、オクタノール、セチルアルコールなど;グリコール類、例えばエチレングリコール;グリセリン;N−メチルピロリドン;メトキシプロパノール;ならびにケトン類、例えば2−プロパノン及び2−ブタノンなどを含有することができることを意味する。
【0041】
本発明の開示において用いられる伝導層という用語は、電気伝導性コーティング及び帯電防止層の両方を含む。
【0042】
電気伝導性という用語は、10Ω/平方より低い表面抵抗を有することを意味する。
【0043】
帯電防止性という用語は、10〜1011Ω/平方の範囲内の表面抵抗を有することを意味し、それを電極として用いることができないことを意味する。
【0044】
「伝導度強化」という用語は、例えば1種もしくはそれより多い高沸点液、例えばジ−もしくはポリヒドロキシ−及び/又はカルボキシ基あるいはアミド又はラクタム基を含有する有機化合物と接触させ、場合により続いて高められた温度で、好ましくは100〜250℃で、好ましくは1〜90秒間加熱し、伝導性を上昇させることにより、伝導度が強化されるプロセスを指す。あるいはまた、≧15の誘電定数を有する非プロトン性化合物、例えばN−メチル−ピロリジノンの場合、100℃未満の温度を用いることができる。そのような伝導度強化はポリチオフェンを用いて観察され、最外層の調製の間、又はそれに続いて起こり得る。そのような処理のために特に好ましい液体は、欧州特許出願公開第686662号明細書及び欧州特許出願公開第1003179号明細書に開示されているようなN−メチル−ピロリジノン及びジエチレングリコールである。
【0045】
本開示において用いられるEDOTは3,4−エチレンジオキシチオフェンを示す。
【0046】
本開示において用いられるEDOT−CHOHは2−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシンを示す。
【0047】
本開示において用いられるEDOT−Fは2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメチルエステルを示す。
【0048】
本開示において用いられるPEDOT−Fはポリ[2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメチルエステル]を示す。
【0049】
本開示において用いられるPEDOTはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を示す。
【0050】
本開示において用いられるProDOTは3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピンを示す。
【0051】
本開示において用いられるBEDOT−NMeCzは3,6−ビス(2−エチレンジオキシチエニル)−N−メチルカルバゾールを示す。
【0052】
本開示において用いられるPBEDOT−NMeCzはポリ[3,6−ビス(2−エチレンジオキシチエニル)−N−メチルカルバゾール]を示す。
【0053】
本開示において用いられるPSSはポリ(スチレンスルホン酸)又はポリ(スチレンスルホネート)を示す。
【0054】
本開示において用いられるPETはポリ(エチレンテレフタレート)を示す。
【0055】
式(I)により示されるチオフェン化合物
本発明の側面は、式(I):
【0056】
【化4】

【0057】
[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物を用いて実現される。フッ素含有基の例はペルフルオロ−アルキルスルホニル、ペルフルオロ−アリールスルホニル、ペルフルオロ−アルキルスルフィニル、ペルフルオロ−アリールスルフィニル、ペルフルオロアルコキシ、ペルフルオロアリールオキシ、ペルフルオロチオアルコキシ、ペルフルオロチオアリールオキシ、ペルフルオロアルキルカルボナト、ペルフルオロアリールカルボナト、ペルフルオロアルキルカルボキシ、ペルフルオロアリールカルボキシ、ペルフルオロアルキルオキソ、ペルフルオロアリールオキソ、ペルフルオロアルキルチオキソ、ペルフルオロアリールチオキソ、ペルフルオロアルキルアミノ、ペルフルオロアリールアミノ、ペルフルオロアルキルアミノカルボキシ、ペルフルオロアリールアミノカルボキシ、ペルフルオロアルキルアミノチオカルボキシ、ペルフルオロアリールアミノチオカルボキシ、ペルフルオロアルキル及びペルフルオロアリールである。
【0058】
本発明に従うチオフェン化合物の第1の態様に従うと、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はペルフルオロ基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたエチレン基を示す。
【0059】
本発明に従うチオフェン化合物の第2の態様に従うと、Aはメチレン−オキシ−ペルフルオロ基で置換されたエチレン基を示す。
【0060】
本発明に従うチオフェン化合物の第3の態様に従うと、チオフェン化合物はペルフルオロアルキルカルボン酸2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメチルエステルである。
【0061】
本発明に従うチオフェン化合物の第4の態様に従うと、チオフェン化合物は2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ(3,4−b)(1,4)ジオキシン−2−イルメチルエステルである。
【0062】
本発明に従うチオフェン化合物の第5の態様に従うと、チオフェン化合物は3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピンである。
【0063】
本発明に従う適したチオフェン化合物には:
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
が含まれる。
【0070】
M1及びM2のような3,4−ペルフルオロ−アルキレンジオキシチオフェンは、第1級もしくは第2級ジヒドロキシ−ペルフルオロ−アルカンを用いて製造することができず、それは、そのような化合物が安定ではなく、CFOH又はCFOH基がCOF基に変化するようであり、例えばペルフルオロブチロラクトンは水によりペルフルオロコハク酸に加水分解されるからである。しかしながらジブロモ−ペルフルオロ−アルカンのような過フッ素化ジハライドは安定であり、従ってM1〜M3のような3,4−ペルフルオロ−アルキレンジオキシ−チオフェンを二重Williamson合成[チオフェン誘導体に関してPei et al.著,Polymer,volume 35,1994年,pages 1347−1351ならびにピロール誘導体に関してJ.R.Reynolds et al.著,Journal of Organic Chemistry,volume 66,2001年,pages 6873−6882及びA.Merz et al.著,Synthesis,1995年,pages 795−800を参照されたい]を用いて、Dallacker and Mues著,Chemische Berichte,volume 108,1975年,page 576により報告されたアルキル化法を、ブロモクロロメタンの代わりに1,2−ジブロモエタンを用いることにより修正したHalfpenny et al.著,Journal Chemistry Society,Perkins Transaction I,2001年,pages 2595−2603により報告されたアルキル化法を介して、ならびに3,4−ジメトキシチオフェンのエーテル交換反応を介して(Reinolds et al.著,Advanced Materials,volume 11,1999年,pages 1379−1382を参照されたい)製造することができる。例えばジブロモジフルオロメタン、1,2−ジクロロ−テトラフルオロ−エタン、1,2−ジブロモ−テトラフルオロ−エタン,商業的に入手可能な消火剤、1,2−ジブロモヘキサフルオロ−n−プロパン及び1,4−ジクロロ−オクタフルオロ−n−ブタン、適した(good)麻酔薬はすべて用いられ得る。
【0071】
あるいはまたペルフルオロ−C1−5−アルキレン架橋を有するチオフェン化合物、例えばM1及びM2を3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエステルから、無水フッ化水素中において電気化学的に過フッ素化し、そうするとC1−5−アルキレン架橋が過フッ素化され、チオフェン環がフッ素付加により飽和され、続いて気相中で500〜600℃において鉄網(iron gauze)により生成物を芳香族化することにより製造することができる。
【0072】
部分的にフッ素化されたC1−5−アルキレン架橋を有するチオフェン化合物、例えばM3及びM4は、HO−CH(CFCH−OH化合物から、Mitsunobu反応においてトリアリール−もしくはトリアルキルホスフィン及びアゾジオキソ−化合物のレドックスカップルを用い、−40℃〜160℃の温度において3,4−ジアルコキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステル又は3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステルと縮合させることにより製造することができる。
【0073】
あるいはまた、独国特許第3804522号明細書及びHOUBEN−WEYL,volume VI/3,part 3,1971年,pages 171−173において開示されている通り、チオフェン誘導体、例えば3,4−(2’,2’−ジメチル)−プロピレンジオキシチオフェン及び3,4−(2’,2’−ジエチル)プロピレンジオキシチオフェンの合成に関してD.M.Welsh et al.著,Polymer Preprints,volume 40(2),1999年,page 1206により、3,4−(2’,2’−ジエチル)プロピレンジオキシチオフェン、3,4−(2’,2’−ジブチル)プロピレン−ジオキシチオフェン及び3,4−(2’,2’−ジオクチル)プロピレン−ジオキシチオフェンの合成に関してL.J.Kloeppner et al.著,Polymer Preprints,volume 40(2),1999年,page 792により、Reynolds et al.著,Advanced Materials,volume 11,1999年,pages 1379−1382により、ならびにチエノ[3,4−b]−1,4−オキサチアンの合成に関してRoncali et al.著,Organic Letters,volume 4,2002年,pages 607−609により記載されているような3,4−ジメトキシチオフェンを用いて、エーテル交換反応を用いることができる。
【0074】
M5、M6及びM7は対応するヒドロキシ−化合物から、P.Dionne et al.著,Journal of the American Chemical Society,volume 109,1987年,pages 2616−2623に記載されている2H−2,3−ジヒドロ−3−フルオロ−1,5−ベンゾジオキセピンの製造に類似して、メシルクロリドを用いる処理によりヒドロキシ−化合物を対応するメシル−化合物に転換し、次いで対応するメシル化合物を例えばジエチレングリコール中でフッ化カリウムを用いて処理することにより製造することができる。
【0075】
ペルフルオロアルキルスルホナト、ペルフルオロアリール−スルホナト、ペルフルオロアルキルスルフィニル、ペルフルオロアリールスルフィニル、ペルフルオロ−アルキルスルフィニル、ペルフルオロアリールスルフィニル、ペルフルオロアルコキシ、ペルフルオロ−アルキルカルボナト、ペルフルオロアリールカルボナト、ペルフルオロアルキルカルボキシ、ペルフルオロアリールカルボキシ、ペルフルオロアリールアミノカルボキシ及びペルフルオロアルキル−アミノカルボキシ基を有するチオフェン化合物、例えばM8〜M14、M16〜M22及びM24は、−CHOH基で置換されたC1−5−アルキレン架橋、例えば2−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン[EDOT−CHOH]から、通常の有機合成法、例えばペルフルオロ−アルコールを用いるエーテル生成、ホスゲン及びペルフルオロ−アルコールを用いるカルボナト生成、ペルフルオロ−アルキルスルフィニルクロリドを用いるスルホニル生成、ペルフルオロアシルクロリドを用いるカルボキシ生成及びペルフルオロアルキルイソシアナートを用いるアミノカルボキシ生成により製造することができる。
【0076】
M25は、A.L.Henne et al.著,Journal of the American Chemical Society,volume 67,1945年,Page 1639により記載されている方法に類似して、二酸化鉛及びフッ化水素からその場で生成する四フッ化鉛を用い、2H−チエニル[3,4−b][1,4]ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸ジエチルエステルの二重結合にフッ素の分子を付加し:
【0077】
【化5】

【0078】
次いでKumar et al.著,Chemistry of Materials,volume 10,1998年,pages 896−902に記載されている方法に従って生成物を加水分解し、最後に脱カルボキシル化し、純粋な3,4−[1,2−ジフルオロプロピレン]ジオキシチオフェン、M25を得ることにより製造することができる。196〜8℃の融点を有する2H−チエニル[3,4−b][1,4]ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸ジエチルエステル自身は、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステルの二ナトリウム塩をエピブロモヒドリンと縮合させることにより、54%の収率で製造することができる:
【0079】
【化6】

【0080】
このジエチルエステルをKumar et al.著,Chemistry of Materials,volume 10,1998年,pages 896−902に記載されている方法に従って加水分解し、脱カルボキシル化し、純粋な2H−チエニル[3,4−b][1,4]ジオキセピンを得ることができる。
【0081】
過フッ素化ジハライドは、ペルフルオロ−アルキルジカルボン酸からHunsdieker反応を介して製造することができ、その反応ではそれらの銀塩を適したハロゲンと一緒に加熱し、二酸化炭素を失い、例えばペルフルオロ−アジピン酸の二−銀塩は、100℃でヨウ素と一緒に加熱されると1,4−ジ−ヨーダイドを与える[Henne et al.著,J.Am.Chem.Soc.72,1950年,3806及びHaszeldine,Nature 166,1950年,192]。
【0082】
HO−CH(CFCH−OH化合物は、ClOC−(CH−COCl化合物を無水フッ化水素中で電気化学的に過フッ素化し、FOC−(CF−COF生成物を加水分解し、ついで得られる二酸をHO−CH(CFCH−OHに還元することにより製造することができる。フルオロマロン酸ジメチル、フルオロマロン酸ジエチル、ジフルオロマロン酸ジエチル、テトラフルオロコハク酸ジメチル、ヘキサフルオログルタル酸ジメチル、オクタフルオロアジピン酸ジメチル、ペルフルオロアジピン酸、ペルフルオロセバシン酸及びペルフルオロスベリン酸はすべてInterchim又はBAYERから商業的に入手可能である。ペルフルオロマロン酸はクロロトリフルオロエチレンから[England et al.著,J.Am.Chem.Soc.80,1958年,6533]又はペルクロリルフルオリドを用いるマロン酸ジエチルのフッ素化により[Inman et al.著,J.Am.Chem.Soc.80,1958年,6533]製造することができ、ペルフルオロコハク酸はペルフルオロシクロブタンの過マンガン酸塩酸化により製造することができる。
【0083】
式(I)により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマー
本発明の側面は、式(I):
【0084】
【化7】

【0085】
[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを用いて実現される。
【0086】
本発明に従うポリマーの第1の態様に従うと、ポリマーは、Aが少なくとも1個のフッ素原子及び/又はペルフルオロ基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す式(I)により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有する。
【0087】
本発明に従う式(I)により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーの第2の態様に従うと、ポリマーは:ポリ(3,4−ペルフルオロ−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ペルフルオロ−プロピレンジオキシ−チオフェン)、ポリ[3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン]、ポリ[3,4−(2’,2’,3’,3’−テトラフルオロ−ブチレン)ジオキシチオフェン]及びポリ[2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメチルエステル]より成る群から選ばれる。
【0088】
重合法
本発明の側面は、式(I):
【0089】
【化8】

【0090】
[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はペルフルオロ基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーの製造法を用いても実現される。
【0091】
本発明に従う方法の第1の態様に従うと、方法は化学的又は電気化学的方法である。
【0092】
化学的重合
本発明に従う化学的重合は、酸化的又は還元的に行なうことができる。チオフェンの酸化重合のために、例えばJournal of the American Chemical Society,volume 85,1963年,pages 454−458及びJ.Polymer Science Part A Polymer Chemistry,volume 26,1988年,pages 1287−1294に記載されているような、ピロールの酸化重合のために用いられる酸化剤を用いることができる。
【0093】
本発明に従う重合法の第2の態様に従うと、方法は、FeCl、有機酸の鉄(III)塩、例えばFe(OTs)のような鉄(III)塩、H、KCr、過硫酸アルカリ及びアンモニウム、過ホウ酸アルカリ及び過マンガン酸カリウムのような安価且つ容易に入手可能な酸化剤がそこで重合の開始のために用いられる化学的方法である。
【0094】
チオフェンの酸化重合は、理論的に式(I)のチオフェンのモル当たり2.25当量の酸化剤を必要とする[例えばJ.Polymer Science Part A Polymer Chemistry,volume 26,1988年,pages 1287−1294を参照されたい]。実際には、重合可能な単位当たり0.1〜2当量過剰の酸化剤が用いられる。過硫酸塩及び鉄(III)塩の使用は、それらが腐蝕的に作用しないという大きな技術的利点を有する。さらに、特定の添加剤の存在下で、式(I)に従うチオフェン化合物の酸化重合は非常にゆっくり進行するので、チオフェン及び酸化剤を溶液又はペーストとして一緒にし、処理されるべき基質に適用することができる。そのような溶液又はペーストの適用後、引用することによりその記載事項が本明細書の内容となる米国特許第6,001,281号明細書及び国際公開第00/14139号パンフレットに開示されている通り、コーティングされた基質を加熱することによって酸化重合を加速することができる。
【0095】
2002年にAppperloo et al.によりChem.Eur.Journal,volume 8,pages 2384−2396に記載され、且つそれぞれ2001年にTetrahedron Letters,volume 42,pages 155−157において、及び1998年にMacromolecules,volume 31,pages 2047−2056において開示された通り、Stille(有機錫)又はSuzuki(有機ホウ素)経路を用いて、あるいは1999年にBull.Chem.Soc.Japan,volume 72,page 621において、及び1998年にAdvanced Materials,volume 10,pages 93−116において開示された通りニッケル錯体を用いて還元重合を行なうことができる。
【0096】
電気化学的重合
式(I)に従うチオフェン化合物を電気化学的に重合させることができる。−78℃から用いられる溶媒の沸点までの温度、−20℃〜60℃の温度で行なわれる式(I)に従うチオフェン化合物の電気化学的酸化重合が好ましい。特定のチオフェンに依存する反応時間は一般に数秒〜数時間である。チオフェン化合物の電気化学的重合は、Dietrich et al.著,Journal Electroanalytical Chemistry,volume 369,1994年,pages 87−92に記載された。
【0097】
式(I)に従うチオフェン化合物の電気化学的酸化の間に用いられるのに適した不活性液体は:水、アルコール類、例えばメタノール及びエタノール、ケトン類、例えばアセトフェノン、ハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化メタン及びフルオロ炭化水素、エステル類、例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン及びキシレン、脂肪族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びシクロヘキサン、ニトリル類、例えばアセトニトリル及びベンゾニトリル、スルホキシド類、例えばジメチルスルホキシド、スルホン類、例えばジメチルスルホン、フェニルメチルスルホン及びスルホラン、液体脂肪族アミド類、例えばメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、カプロラクタム、N−メチル−カプロラクタム、脂肪族及び混合脂肪族及び芳香族エーテル類、例えばジエチルエーテル及びアニソール、液体ウレア類、例えばテトラメチルウレア又はN,N−ジメチル−イミダゾリジノンである。
【0098】
式(I)に従うチオフェン化合物の電気化学的重合において用いるための電解質添加物は、好ましくは用いられる溶媒中である程度の溶解性を示す遊離の酸又は通常の伝導性塩である。特に適した電解質は、パークロレート、トシレート、テトラフルオロボレート又はヘキサフルオロホスホネートアニオンと組み合わされたアルカリ、アルカリ土類又は場合によりアルキル化されていることができるアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム又はオキソにウムカチオンである。
【0099】
電解質添加物は、電気化学的酸化の間に少なくとも0.1mAの電流が流れるような量で用いられる。
【0100】
電気化学的重合は、連続的又は断続的に行なわれ得る。既知の電極材料はITOで覆われたガラス、貴金属又はスチールメッシュ、炭素入りポリマー、蒸発金属がコーティングされた絶縁層及び炭素フェルト(carbon felt)である。
【0101】
電気化学的酸化の間の電流密度は広い限度内で変わることができる。本発明の第8の態様に従うと、電流密度は0.0001〜100mA/cmである。本発明に従う方法の第3の態様に従うと、電流密度は0.01〜40mA/cmである。これらの電流密度において約0.1〜50Vの電圧が設定される(set up)。
【0102】
式(I)に従うチオフェン化合物を他の重合可能な複素環式化合物、例えばピロールと電気化学的に共重合させることもできる。
【0103】
式(I)により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有する
ポリマーを含有する溶液又は分散液
本発明に従う溶液又は分散液の第1の態様に従うと、溶液又は分散液はさらにポリアニオンを含有する。
【0104】
本発明に従う溶液又は分散液の第2の態様に従うと、溶液又は分散液はさらにポリ(スチレンスルホン酸)を含有する。
【0105】
本発明に従う溶液又は分散液の第3の態様に従うと、媒体は水性媒体である。
【0106】
ポリアニオン
本発明に従う溶液又は分散液中で用いるためのポリアニオン化合物は欧州特許出願公開第440957号明細書に開示されており、高分子カルボン酸、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はポリマレイン酸及びポリスルホン酸、例えばポリ(スチレンスルホン酸)を含む。これらのポリカルボン酸及びポリスルホン酸は、ビニルカルボン酸及びビニルスルホン酸と他の重合可能なモノマー、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及びスチレンとのコポリマーであることもできる。
【0107】
工業的用途
式(I)により示されるチオフェン化合物に由来する化学的又は電気化学的に製造されるポリマーは、可視光の低い吸収及び赤外線への高い吸収と一緒に高い電気伝導度を示す。従ってその層は高度に電気伝導性であり、高度に可視光に透明であり、且つ熱遮断性である。そのようなポリチオフェンを、印刷法を含む多様な方法により多様な剛性及び柔軟性基質、例えばセラミックス、ガラス及びプラスチックに適用することができ、印刷法ではポリチオフェンが例えば標準的方法を用いてインキ又はペーストとして適用され、ペースト又はインキの性質は、1種もしくはそれより多い有機溶媒、結合剤、界面活性剤及び保湿剤の添加により特定の印刷法に適合させられ、そのようなポリチオフェンはプラスチックシートのような柔軟性基質に特に適しており、ポリチオフェン層にその電気伝導度を失わせることなく基質を実質的に曲げ且つ変形させることができる。高い電気伝導度と濡れ時の高い接触角の組み合わせを見ると、そのようなポリマーは特に電気伝導性パターンの製造に有用である。
【0108】
従って、そのようなポリチオフェンを、例えばエレクトロクロミック装置、光起電力装置,電池、コンデンサーならびに有機及び無機エレクトロルミネセント装置において、電磁遮蔽層中で、熱遮断層中で、写真フィルム、サーモグラフィー記録材料及びフォトサーモグラフィー記録材料を含む多様な製品のための帯電防止コーティング中で、スマートウインドウズ(smart windows)において、有機及び生物−有機材料のためのセンサーにおいて、電界効果型トランジスタにおいて、印刷版において、伝導性樹脂接着剤において、及び自立性(free−standing)電気伝導性フィルムにおいて用いることができる[Handbook of Oligo− and Polythiophenes,D.Fichou編集,Wiley−VCH,Weinheim(1999)の10章も参照されたい]。
【0109】
下記で本発明を比較実施例及び本発明の実施例により例示する。これらの実施例において示されるパーセンテージ及び比率は、他にことわらなければ重量による。
【実施例】
【0110】
モノマーの合成
(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)−メタノール(EDOT−CHOH)及び3,6−ビス(2−エチレンジオキシチエニル)−N−メチル−カルバゾール(BEDOT−NMeCz)の合成
EDOT−CHOH及びBEDOT−NMeCzは既知の方法に従って製造された[Reddinger et al.著,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1996年,1777]。
【0111】
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イルメチルエステル(EDOT−F)(M8)の合成
テフロン攪拌棒及びアルゴンの入口が供えられた乾燥丸底フラスコに塩化メチレン(20mL)、EDOT−MeOH(0.5g,2.9ミリモル)及びトリエチルアミン(0.31g,3.1ミリモル)を加えた。攪拌された溶液に塩化メチレン(20mL)及び2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸クロリド(1.35g,3.13ミリモル)の溶液を、滴下ロートを介して滴下した。黄色溶液を2時間攪拌し(30分で十分である)、その時点にそれを100mLの1M HCl中に注いだ。有機層を単離し、濃NaHCO(3回)、続いてブライン(3回)で洗浄した。次いで有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、減圧下で濃縮してオフ−ホワイト/黄色の固体を得た。固体をシリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し(ヘキサン:塩化メチレン,7:3)、白色の粉末を得た(0.82g,50%)。融点=64−65。UV−可視(THF):λmax=257nm,ε=5984。
H NMR(CDCl):δ 4.09(dd,1H,J=6.3,11.8Hz),4.25(dd,1H,J=2.4,11.8),4.49(m,1H),4.60(m,2H),6.39(s,2H)ppm。13C NMR(CDCl):δ 65.1,65.7,70.6,100.7,100.8,140.5,141.0,158.2ppm。19F NMR(CDCl)δ −81.6(C),−118.8(C−CO),−122.0,−122.4,−123.0,−123.2,−126.6(C−CF)ppm。
1517Sに関して計算された高分解能質量分析:567.9826,測定値:567.9825。C1515SOに関して計算された元素分析:C,31.70%;H,1.24%;F,50.15%;S,5.64%。測定値:C,31.69%;H,1.28%;F,47.91%;S,6.52%。
【0112】
精製の後、EDOT−Fは分解を防ぐために不活性雰囲気下で扱われた。
【0113】
2,2−ジフルオロ−1,3−プロパンジオールの合成
200mLのテトラヒドロフラン中の10g(51.0ミリモル)のジフルオロマロン酸ジエチルエステルを100mLの50%エタノール水溶液中の19.0g(505ミリモル)の水素化ホウ素ナトリウムの混合物に、水/氷冷却を用いて室温で攪拌しながら滴下し、続いて室温で3時間攪拌した。冷却しながら60mLの飽和溶液を注意深く加えた後、得られる混合物をpH7〜8で濾過して固体から液相を分離した。次いで固体をtert−ブチルメチルエーテルで洗浄し、洗浄液を液相に加えた。この増量した液相中のこの有機溶媒を次いで回転蒸発器中で除去し、残る水相をtert−ブチルメチルエーテルで4回抽出し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、蒸発乾固した。粗収量は2.12gであった。220℃及び800Pa(6トール)の真空における分別蒸留は27%の収率に相当する1.57gの2,2−ジフルオロ−1,3−プロパンジオールを大部分固体の生成物として与え:
H NMR(CDCl):1.148,1.150,1.171,1.173,1.195,1.196,1.905,1.906,1.985,2.088,2.494,2.500,2.506,2.512,2.538,3.560,3.605,3.652,3.694,3.742,3.788,3.833,4.015,4.039,4.628,5.306ppm
により特性化された。
【0114】
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸ジエチルエステルの合成
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸ジエチルエステルは、3.4mL(17.2ミリモル)のアゾジカルボン酸ジイソプロピルエステル(ADC)を、12mLの無水テトラヒドロフラン中の1.77g(6.67ミリモル)の3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ジエチルエステル、748mgの2,2−ジフルオロ−1,3−プロパンジオール及び4.3mLのトリブチルホスフィンの混合物に、氷−冷却しながら20℃においてアルゴン下で滴下することにより合成された。ADCの滴下の完了後、得られる混合物を室温で4日間放置した。次いでテトラヒドロフランを蒸留し、残留物を100℃で12.5時間加熱し、その後それを酢酸エチル中に溶解した。酢酸エチル溶液を飽和重炭酸ナトリウム溶液で3回、次いで脱イオン水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、濃縮し、残留物をkieselgel 60 カラム上で、溶離剤としてヘプタン/酢酸エチルを用いてクロマトグラフィーにより精製した。335mg(15%の収率に相当する)の所望の生成物が121〜122℃の融点を以って得られ:
H NMR(CDCl):δ 1.370,1.394,1.418,1.574,4.338,4.361,4.364,4.408,4.512,4.550,4.588,7.290;
13C NMR(CDCl):δ 14.194,64.624,71.545,72.003,72.452,76.582,77.000,77.205,77.422,116.687,116.917,119.868,123.148,149.687及び160.054ppm
により特性化された。
【0115】
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸の合成
75mLのエタノール中の953mg(3.67ミリモル)の3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸ジエチルエステルを1.10g(27.5ミリモル)の水酸化ナトリウム顆粒と混合し、窒素下に、室温において2時間攪拌した。得られる混合物を2N塩酸で酸性化した後、回転蒸発器を用いてエタノールを大部分蒸発させ、固体を濾過し、濾液を水で3回洗浄し、次いで空気中で乾燥した。736gの3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸が得られ、それは92%の収率に相当し、288〜293℃の融点を有し:
H NMR(CDCl):δ 1.169,1.193,1.216,1.302,1.325,1.350,1.959,1.961,2.035,2.043,2.050,2.057,2.065,4.036,4.059,4.298,4.321,4.597,4.603,4.637,4.643,4.676及び4.681ppm(未精製生成物について行なわれた)
により特性化された。
【0116】
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)の合成
300mg(1.07ミリモル)の3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸を、3.0mLのキノリン中で77mgの亜クロム酸銅と一緒に175℃で1.5時間加熱した。冷却し、35mLのtert−ブチルメチルエーテルと混合した後、得られる混合物を2N塩酸で3回、次いで脱イオン水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、最後に蒸発乾固して138mgの粗生成物を得た。粗生成物をKieselgel 60及び溶離剤としてシクロヘキサンを用いるカラムクロマトグラフィーにより精製した。82mgの3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)が66〜67℃の融点を以って得られ、それは40%の収率に相当し:
H NMR(DMSO):δ 4.258,4.297,4.335,6.574及び7.259ppm;
13NMR(DMSO):δ 71.244,71.694,72.144,76.582,77.000,77.422,106.437,116.993,120.266,123.538及び147.420ppm
により特性化された。
【0117】
2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン−6,8−ジカルボン酸ジエチルエステルの合成
25mLのエタノール中の6.08g(20ミリモル)の3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸のナトリウム塩及び3.7g(27ミリモル)のエピブロモヒドリンを攪拌しながら48時間還流させた。2時間後、透明な溶液が得られた。冷却後、半−固化した塊を酢酸及び2N塩酸と混合し、振り、沈殿する白色の結晶を減圧下で濾過した。脱イオン水を用いる洗浄及び乾燥の後、3.22g(54%の収率に相当する)の196〜198℃の融点を有する所望の生成物が得られた。ジオキサンからの再結晶は、198〜200℃の融点を有する所望の無色の生成物を与え:
H NMR(DMSO):δ 1.105,1.182,1.205,1.229,2.488,2.494,2.500,2.506,2.512,2.524,4.076,4.089,4.099,4.112,4.130,4.136,4.142,4.150,4.154,4.178,4.190,4.201,4.214,4.477,5.840,5.889,6.958,7.007ppm;
13NMR(DMSO):δ 14.344,38.676,38.949,39.227,39.777,40.055,40.328,59.901,60.419,87.625,120.528,150.954,160.670,168.939ppm
により特性化された。
【0118】
この化合物の表面は、数日にわたり空気に暴露すると黄色に変化した。
【0119】
このジエチルエステルを、Kumar et al.著,Chemistry of Materials,volume 10,1998年,pages 896−902により記載されている方法に従って加水分解し、且つ脱カルボキシル化し、純粋な2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン:
【0120】
【化9】

【0121】
を得ることができる。
【0122】
EDOT−F(M8)の電気化学的重合
EG&G Princeton Applied Researchモデル273Aポテンシオスタット/ガルバノスタットを用い、アセトニトリル(ACN)中で、電解質として0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)を用いて、EDOT−F(M8)の酸化的電気化学的重合を行なった。電気重合のために、Pt−ディスク作用電極(面積=0.02cm)、Ptフラッグ対極及びAg/Ag参照電極から成る3−電極電池を用いた。0.1M TBAP/CAN中の10mMのモノマー溶液から20mV/秒の走査速度において、繰り返し酸化を介してPt−ディスク上に電析を行なった。
【0123】
電気重合の間、+1.0V(Ag/Agに対して、これから後のすべての電位はこの参照に対して報告される)より負の電位において電気化学的応答は明らかでなかった。+1.0Vにおいて電流が急速に増加し、+1.2Vでピークとなった。これらの値はそれぞれ重合の開始及びピークモノマー酸化電位(Ep,m)を示し、EDOTと比較してわずかにより正の電位に移動していた。
【0124】
電気化学的重合が完了したら、ポリマーがコーティングされた電極をACNで洗浄し、電気化学的特性化のためにモノマーを含有しない電解質中に入れた。
【0125】
電気化学的に重合したPEDOT−F薄フィルムのサイクリックボルタモグラムを、モノマーを含有しない電解質のみ中(0.1M TBAP/ACN中)の同じ電極構成を用い、50、100、150、200及び250mV/秒の走査速度で行なった。ポリマーは、−0.10Vの半波酸化電位を有する非常に良好に明確化され(very well−defined)且つ可逆的なレドックスプロセスを示し、データ取得のためにScribner AssociatesからのCorrware 2が用いられた。
【0126】
電気重合したPEDOT−F(M8)の特性化
光学的性質
ITOがコーティングされたガラス基質(面積=1.0cm)上にPEDOT−Fを+1.2Vにおいてポテンシオスタティクに(potentiostatically)電気合成し、Varian Cary 500 UV−可視−NIR分光光度計を用い、作用電極としてITOがコーティングされたガラス、対極としてPtワイア及び擬−参照電極としてAgワイアを用いる3電極電池において、PEDOT−Fの分光電気化学系列を調べた。10Ω未満の表面抵抗を有するITOがコーティングされたガラス電極はDalta Technologies,Ltdから購入された。フィルム厚さはDektak Sloan 3030プロフィロメーターを用いて測定され、示される厚さはフィルムの4つの領域で測定された厚さの平均である。
【0127】
PEDOT−Fは1.65eVのE(中性のポリマーのπ−π遷移の開始を背景の吸光度に外挿することにより取得)及び608nmの中性形態におけるピーク吸光度を有し、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)[PEDOT]に似ていることが見出された。中間のドーピングレベルにおいて、π−π遷移の故の吸光度は約1,000nm(1.24eV)を中心とする遷移を失って減少した。より高いドーピングレベルにおいて、このピークは低下し、スペクトルの近−IR領域の波長まで延びるもっとずっと広い吸収が優勢となった。
【0128】
中性及びドーピングされた状態の間のPEDOT−Fのスィッチング
中性及びドーピングされた状態の間のPEDOT−Fのスィッチングについてのデータを、繰り返しレドックスステッピング(redox stepping)実験の間のλmaxにおける単色光の透過を監視することにより得た。PEDOT−Fは着色中性状態と高度に透過性のドーピングされた状態の間で迅速に(95%において0.6秒)スィッチングすることが見出された。ポリマーに関するスィッチング時間はフルスィッチ(full switch)の95%において測定され、それは、この点を越えると裸眼でそれ以上の色変化を感知するのが困難だからである。
【0129】
複合着色効率(composite coloration efficiency)(CCE)及びドーピングレベル
エレクトロクロミック材料の間の比較のための重要なパラメーターは、それらの複合着色効率(CCE)である。光学濃度変化の95%において着色効率[CE]値を測定するために、タンデムクロノアブソープトメトリー/クロノクーロメトリー(tandem chronoabsorptometry/chronocoulometry)実験が開発された。
【0130】
標準的3−電極系を用い、Ag/Ag参照電極に対して+1.2Vにおいて、特定の厚さ(150nm,光学的コントラストを最大にするためにプロフィロメトリーにより決定される)及び面積(電荷密度値のため)まで、ITOがコーティングされたガラススライド上にEDOT−Fを定電位的に電気重合させた。重合の直後にPEDOT−Fを濯ぎ、続いてドーピングされた状態と中性の状態の間で10回スィッチングさせ(モノマーを含有しない電解質溶液中で)、ポリマーフィルムレドックス化学を平衡化させた。平衡化したら、モノマーを含有しない電解質溶液にフィルムを移し、完全に還元され且つ吸収性の状態(Ag/Agに対して−1.0Vで5秒間)から完全に酸化され且つ透過性の状態(+1.0Vで5秒間)に、そして最後に完全に還元された状態(−1.0Vで5秒間)に戻して電位を段階的に変化させながら、クロノアブソープトメトリー(λmaxにおけるポリマーの吸光度を監視するために用いられる)及びクロノクーロメトリーを用いて精査した。注入される電荷の関数としての光学濃度における変化(ΔOD)を決定し、CCE値を計算した。
【0131】
CCEは、レドックス段階の間の光学濃度における変化対電極面積の関数としての注入される電荷の比率の関数である。ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)群の伝導性ポリマーは一般に100〜300cm/CのCCE値を示す。全透過率変化の95%において測定される最高で586cm/CのCCE値がPEDOT−Fの場合に見出された。驚くべきことに、この値はPEDOTのそれより2倍高く(a factor of two higher)、PEDOT−Fをエレクトロクロミック装置型の用途に非常に適したものとした。透過率変化がPEDOTの場合のそれに似ていても、p−ドーピングに必要な電荷はずっと小さかった。
【0132】
相対的輝度測定
Minolta CS−100 Chroma Meter及び透過率測定のためのCIE推奨ノーマル/ノーマル(normal/normal)(0/0)イルミネーション/ビュウイングジオメトリー(illuminating/viewing geometry)を用いて輝度測定値を得た。外部の光を排除するために特別に設計されたライトブース(light booth)中で、D50(5000 K)光源により試料を背後から照射した。標準的石英キュベット中に保持された電解質溶液中のブランクITOスライドを用い、背景測定値を得た。標準的発光体(illuminant)のYxy値を測定し、標準的光源のX、Y、Z3刺激値に変換した。
【0133】
電気化学的に重合した層の電気伝導性
プロピレンカーボネート中に0.01Mのモノマー及び0.1MのTBAPFを含有する溶液から、定電流析出により自立性フィルムを合成した。電気化学的電池はガラス状炭素作用電極及びステンレススチール対極から成った。フィルムは0.04mA/cmの定電流におけるゆっくりした定電流析出により調製され、温度は−5℃に保たれた。最適伝導度の値は典型的に低温(0〜5℃)において、得られるフィルムの可塑剤として働くプロピレンカーボネートのような低蒸気圧溶媒中で電解質としてTBAPFを用いて得られた。それにより、マイクロメーターを用いて測定される15μmの範囲内の厚さを有する黒く光った自立性フィルムが電気合成された。フィルムを電極から剥がし、アセトニトリルで洗浄し、24時間乾燥した。
【0134】
Signatone S−301−4と呼ばれる4−点プローブ装置を用い、最高で65S/cmの伝導度が測定された。
【0135】
接触角及び接触エネルギー測定
ITO/ガラス電極上における定電位析出により得られるPEDOT及びPEDOT−Fの薄くて(約200nm)ClOがドーピングされたフィルムにつき、接触角測定を行なった。調製の後、フィルムをアセトニトリルで厳重に洗浄し、次いで真空下で24時間乾燥した。測定はTantec.Inc.からのContact Angle MeterモデルCam−Plusを用いて行なわれ、2つの材料の疎水性における顕著な差を明らかにした。PEDOT表面は濡れ可能であり、すなわち30未満の接触角を有したが、PEDOT−F表面は高度に疎水性であり、110の接触角を示した。この増強された疎水性は中性のフィルムの環境的安定性に有益な効果を有すると期待される。さらに、ポリマーがそれらの電気的活性を失わずに中性の状態で保存される必要がある用途にそれを導くことができる。
【0136】
250mCを用いて1.1Vにおいて、GPES4.9ソフトウェアを有するEcochemie AutolabポテンシオスタットPgstat 20型を用い、電解質として0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウムを含むアセトニトリル中のEDOT−Fの2.5x10−3M溶液を用い、且つ対極として4x9cmの白金グリッドを用いるクロノ−アンペリメトロメトリーにより、60Ω/平方の表面抵抗を有するアセトンで清浄化された3x6cmのITO−ガラス電極上で、窒素を用いて15分間ガス抜きした後に電気重合させた酸化状態におけるパークロレート対イオンを有するPEDOT−Fにつき、接触エネルギー測定を行なった。アセトニトリル中の0.1M Agを参照電極として用いた。表面エネルギー測定は傾斜板配置(tilted plate configuration)を用いて行なわれ、20〜30μLの液滴をPEDOT−F表面上に付着させ、この場合は85の角度において、液滴が動き出す直前に静止前進及び後退角(static advancing and receding angles)を測定した。湿し液(wetting liquids)として脱イオン水及びトリクレシルホスフェートを用いた。表面エネルギーγは18.1nM/mであることが見出され、静止及び後退角の平均からOwens−Wendt関係式[D.K.Owens and R.C.Wendt著,J.Appl.Polymer Science 13,1969年,1741]を用いて計算される表面エネルギーの極性(polar)、γ及び分散性(dispersive)、γ成分はそれぞれ0mN/m及び18.1mN/mであった。
【0137】
測色法
PEDOT−Fの光学的性質を研究するために測色法を用いた。輝度は、スペクトルの全可視領域に及ぶ試料の感知される透明性についての情報を与える。図1Aは、PEDOT−Fに関する適用電位への輝度の依存性を示す。酸化されると、π−π遷移の強度を低下させながら輝度は16%から79%に向上した。図1BはPEDOT−Fに関するCIE 1931 x−y図を示し、ポリマーが−0.5Vにおける非常に暗い青色の中性状態から1Vにおける透過性の灰色−スカイブルー酸化状態にスィッチングすることを示す。
【0138】
PEDOT−Fを含有するエレクトロクロミック装置
PEDOT−Fの驚くべき広い吸光度特性は、その向上した疎水性及び予測される強化された溶解性と組み合わされ、それをエレクトロクロミック装置用途のための生き残り得る候補にする。
【0139】
エレクトロクロミック装置は、陰極的着色層としてPEDOT−Fに基づく透過性ウィンドウ(windows)及び陽極的着色層としてPBEDOT−NMeCzを用いて構築された。2つのポリマーフィルムを最初に、新しく蒸留されたアセトニトリルで濯がれたITO/ガラス上に電着させた(electrochemically deposited)。
【0140】
次いでプロピレンカーボネート[PC]を用いて可塑化されたポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)マトリックス中にLiN(CFSOを溶解することにより粘性のゲル電解質を調製し、高度に透明且つ伝導性のゲルを形成した。ゲル成分の容易な混合を可能にするために、アセトニトリル[ACN]を高蒸気圧溶媒として含んだ。ACN:PC:PMMA:Li[N(CFSO]の重量比による流延溶液の組成は70:20:7:3であった。
【0141】
選ばれた陰極的及び陽極的着色電極に次いで粘性ゲル電解質を、ポリマー表面全体が電解質の均一且つ薄い層で覆われるまでコーティングし、次いで互いに適用して粘性ゲル電解質サンドイッチを形成し、次いで24時間乾燥した。ゲル電解質は端の回りにシールを形成し、装置は自己−封入された状態となった。装置の構築は酸化的にドーピングされた一方のポリマーを用いて行なわれ、他方は中性であった。
【0142】
電圧の適用はドーピングされたポリマーを中和し、相補的ポリマーを同時に酸化し、着色又は白化を誘起した。相補的ポリマーの厚さを調和させることにより各フィルム中のレドックス部位の数を調和させ、吸収及び透過の両極端を得ることを可能にすることによって、装置のコントラストを最適化した。
【0143】
図2Aは、Dektrak Sloan 3030プロフィロメーターを用いて決定される150nmの厚さのポリマーフィルムを用いて組み立てられた装置の透過率を示す。装置は±1.2Vのバイアス電圧(bias voltage)が適用されると、590nmにおいて60%のコントラストを示した。驚くべきことに、装置は各ポリマーのみより高いコントラストを示した。
【0144】
エレクトロクロミック装置の最も重要な特性の1つは、透過性から不透明へ、及びその逆のスィッチングを行うのに必要な応答時間である。これらのウィンドウズのスィッチング特性の分析のために、繰り返しレドックススィッチング実験の間に580nmでの透過率における変化を監視した。図2Bに示される通り、装置は約300ミリ秒内に全透過率変化の95%を達成した。
【0145】
輝度及びx−y色度図の両方は、装置の色及び/又は輝きにおける変化を理解するために価値のある情報を与える。図3に示される相対的輝度における電位依存性は、暗状態においてウィンドウが32%の相対的輝度を示すことを示している。徐々に増す陽極電位の適用は、92%まで相対的輝度を上昇させ、60%のD%Yを有する高度に透過性のフィルムを生ずる。残留する黄色はPBEDOT−NMeCz層の中性状態に対応する。
【0146】
PEDOT−F及びPBEDOT−NMeCzの性質の組み合わせは、不透明状態と高度に透過性の状態の間で可逆的にスィッチングできる装置を与える。色空間の暗青色領域と高度に透過性の黄色の間に及ぶ線が観察される。これは実質的輝度及び透過率変化ならびに速いスィッチング時間と一緒になって、驚くべきことにPEDOT−Fに基づく装置を有機エレクトロクロミックウィンドウの最先端に置く。
【0147】
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)の電気化学的重合
Princeton Applied Research Potentiostat/Galvanostat Model 273Aならびに0.02cmのPtボタン作用電極、Ptワイア対極及びAgワイア擬参照電極を用いて3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)の電気化学的重合を行い、Agワイア擬参照電極は次いでモノマーを含有しない電解質溶液中のフェロセン溶液を用いてキャリブレーションされた。すべての電位はフェロセン/フェリシニウムに対して報告される。
【0148】
図4は、ジクロロメタン中のM3において0.01M及びテトラ−n−ブチルアンモニウムホスホラスヘキサフルオリド溶液において0.1Mの溶液のCV特性を示す。第1サイクルは、M3のピーク酸化電位がフェロセン−フェロシニウムに対して1.6Vであることを示し、それはフェロセン−フェロシニウムに対して1.26−0.07=1.19VのProDOTに関する値(L.Groenendaal et al.著,Adv.Mater.15,2003年,855)と比較して驚くほど高い。
【0149】
図4は、CV−特性の不可逆性により示される通り、M3が電気化学的に重合することも明白に示す。
【0150】
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)のEDOT及びProDOTとの電気化学的共重合
3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)のEDOT及びProDOTとの混合物を電気化学的に重合させると、重合の明らかな証拠が見出された。
【0151】
本発明は、暗黙にもしくは明白に本明細書中で開示されているいずれの特徴又は特徴の組み合わせあるいはそれらの一般化をも、それが現在特許請求されている発明に関連するかどうかに無関係に含むことができる。前記の記述を見て、本発明の範囲内で種々の修正を成し得ることが当該技術分野における熟練者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1A】PEDOT−Fに関するAg/Agに対するボルトにおける適用電位Pの関数としての相対的輝度[L]のプロットを示す図。
【図1B】ポリマーをAg/Agに対して−0.7〜+0.7Vの範囲の電位に保ちながら記録されたCIE 1931 x−y図を示す図。
【図2A】PBEDOT−NMeCz/PEDOT−Fエレクトロクロミック装置に関するnmにおける波長[λ]の関数としての+1.2及び−1.2Vの適用電位の場合の%における透過率[T]を示す図。
【図2B】PBEDOT−NMeCz/PEDOT−Fエレクトロクロミック装置に関する秒における時間の関数としての580nmの波長での%における透過率[T]を示し、スィッチング時間を示す図。
【図3】PBEDOT−NMeCz/PEDOT−F装置に関するボルトにおける適用電位[P]の関数としての相対的輝度[L]を示す図。
【図4】ジクロロメタン中の0.1M テトラ−n−ブチル−アンモニウムホスホラスヘキサフルオリドの溶液中の0.01M 3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピン(M3)の連続的CV−特性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物。
【請求項2】
Aが少なくとも1個のフッ素原子及び/又はペルフルオロ基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す請求項1に従うチオフェン化合物。
【請求項3】
Aが少なくとも1個のフッ素原子及び/又はペルフルオロ基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたエチレン基を示す請求項1又は2に従うチオフェン化合物。
【請求項4】
Aがメチレンオキシ−ペルフルオロ基で置換されたエチレン基を示す請求項1〜3のいずれかに従うチオフェン化合物。
【請求項5】
該チオフェン化合物がペルフルオロカルボン酸2,3−ジヒドロ−チエノ(3,4−b)(1,4)ジオキシン−2−イルメチルエステルである請求項1〜4のいずれかに従うチオフェン化合物。
【請求項6】
該チオフェン化合物が2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ(3,4−b)(1,4)ジオキシン−2−イルメチルエステルである請求項1〜4のいずれかに従うチオフェン化合物。
【請求項7】
該チオフェンが3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピンである請求項1〜6のいずれかに従うチオフェン化合物。
【請求項8】
式(I):
【化2】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマー。
【請求項9】
該チオフェン化合物が2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−オクタン酸2,3−ジヒドロ−チエノ(3,4−b)(1,4)ジオキシン−2−イルメチルエステルである請求項8に従うポリマー。
【請求項10】
該チオフェン化合物が3,3−ジフルオロ−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]−ジオキセピンである請求項8に従うポリマー。
【請求項11】
式(I):
【化3】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーの製造法。
【請求項12】
該方法が化学的又は電気化学的方法である請求項11に従う方法。
【請求項13】
式(I):
【化4】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを液体媒体中に含有する溶液又は分散液。
【請求項14】
ポリアニオンをさらに含有する請求項13に従う溶液又は分散液。
【請求項15】
該ポリアニオンがポリ(スチレンスルホン酸)である請求項14に従う溶液又は分散液。
【請求項16】
該液体媒体が水性媒体である請求項13〜15のいずれかに従う溶液又は分散液。
【請求項17】
式(I):
【化5】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを液体媒体中に含有する溶液又は分散液の、物体のコーティングのための使用法。
【請求項18】
式(I):
【化6】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを含有する、印刷可能なインキ又はペースト。
【請求項19】
式(I):
【化7】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを含有する電気伝導性を示す第1の層。
【請求項20】
式(I):
【化8】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを含有する帯電防止性を示す第2の層。
【請求項21】
式(I):
【化9】

[式中、Aは少なくとも1個のフッ素原子及び/又はフッ素含有基で置換された少なくとも1個のアルキル基で置換されたC1−5−アルキレン架橋を示す]
により示されるチオフェン化合物のモノマー単位を含有するポリマーを含有するエレクトロクロミック性を示す装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A−B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−515315(P2006−515315A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500034(P2005−500034)
【出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050649
【国際公開番号】WO2004/031192
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(504376795)アグフア−ゲヴエルト (24)
【Fターム(参考)】