説明

4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤およびその製造法

【課題】 本発明は、微生物が生産する生理活性物質を有効成分とする細胞周期阻害剤およびその製造法の提供を目的とする。
【解決手段】
ペニシリウム属に属するBAUA−2322株が生産する下記式(I)で表される4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤および同株を用いたその製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞周期阻害剤として有用な4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンおよびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を構成する細胞は、生体の恒常性を維持するために増殖と分化が厳密に制御されている。細胞は、M期・G1期・S期・G2期という一連の過程からなる細胞周期の進行により分裂・増殖を繰り返す。この細胞周期の制御機構に異常が生じると恒常性に乱れが生じ、癌になる可能性が高まる。最近では、細胞周期の調節機構が分子レベルで解明されつつあり、細胞周期を調節する物質には抗腫瘍剤の可能性が示されつつある。これらの用途のため種々の細胞周囲阻害剤が提案されているが、従来の薬剤の中には毒性や副作用などで不十分な面があり、これらの用途に適する化合物の開発が要望されている。
【特許文献1】 特開平9−87296公報
【特許文献2】 特開平10−237043公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、微生物が生産する生理活性物質を有効成分とする細胞周期阻害剤およびその製造法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、有用な生理活性物質を得ることを目的として、種々の微生物を分離し、その生産物について研究を行った結果、秋田県の土壌から分離したPenicillium sp.BAUA2322株の培養液中に細胞周期阻害作用を有する物質が生産されることを見出し、本発明を完成したものである。本発明は、以下の式(I)で表される4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを提供するものである。
【0005】
【化2】

【0006】
本発明の4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンは、ペニシリウム属に属する、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボン生産菌を培地に培養し、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを生成蓄積せしめ、これを採取することにより製造することができる。本発明で使用する4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボン生産菌の好ましい例としては、Penicillium sp.BAUA2322株が挙げられる。本発明はさらに、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンは細胞周期阻害作用を有し、優れた細胞周期阻害剤の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用される上記の4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを生産する微生物は、ペニシリウム属に属するが、その中で例えば本発明者らが分離したペニシリウム属に属するPeniicillium sp.BAUA−2322株は、本発明の最も有効に使用される菌株の一例であって、本菌株の菌学的性状を示すと次の通りである。
【0009】
(1)各種培地上での生育形態
培養はすべて25℃で行い、寒天平板培地上での生育形成を記載した。
(1−1)PDA寒天培地生育は良好であり、25℃、7日間の培養でコロニーの直径は65mmである。コロニーはビロード状に生育して多くの分生子を形成し、分生子は乳白色である。コロニーの裏面は淡黄色である。分泌液は認められない。
(1−2)OMA寒天培地生育は良好であり、25℃、7日間の培養でコロニーの直径は60mmである。コロニーはビロード状に生育して多くの分生子を形成し、分生子は緑白色である。コロニーの裏面は淡黄色である。分泌液は認められない。
(1−3)MEA寒天培地生育は良好であり、25℃、7日間の培養でコロニーの直径は40mmである。コロニーはビロード状に生育して分生子を形成し、分生子は乳白色である。コロニーの裏面は淡黄色である。分泌液は認められない。
【0010】
(2)形態的性質
25℃、7日間、PDA寒天培地上での形態的性質は以下のとおりであった。菌糸に隔壁を有している。分生子柄の幅は1〜3μm、長さは20〜100μmで、分生子柄先端に幅1〜2μm、長さ5〜10μmの複数のフィアライドを形成する。分生子形成はフィアロ型であり、直径2〜3.5μmの球状または楕円形で1細胞により形成される。また、分生子は連鎖し、塊状とならない。以上の菌学的性状から、本菌株はペニシリウム(Penicillium)属に属する一菌株と同定し、ペニシリウムエスピーBAUA−2322株(Penicillium sp.BAUA−2322)と命名した。なお、当該菌株Penicillium sp.BAUA−2322は平成19年1月に生命工学工業技術研究所に受託番号FERM AP−21163として寄託されている。
【0011】
上記菌株BAUA−2322株を培養し、当該培養物から4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを採取する方法は、具体的には後述する製造例に記載するが、概ねペニシリウム属に属する菌の培養方法に従って実施することができる。培養終了後、培養液から4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを単離・精製するには、一般に微生物代謝産物を採取するのに通常用いられる手段を適宜利用して行うことができる。例えば、各種イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、または活性炭、アルミナ、シリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィー、或いは結晶化、減圧濃縮、凍結乾燥などの手段をそれぞれ単独または適宜組み合わせて、或いは反復して使用することが可能である。
【0012】
以上のようにして製造される4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンは、後述の試験例に示すように細胞周期阻害作用を有する。4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤は、その使用目的に合わせて、使用方法、剤型、投与量(使用量)が適宜決定される。例えば、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤を生化学試験用試薬として使用する場合、有機溶剤または含水有機溶剤に溶解して各種培養細胞系へ直接投与すると、細胞周期の進行をG2/M期で停止する。使用可能な有機溶剤としては、例えば、メタノールやジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。剤型としては、例えば、粉末または顆粒などの固形剤もしくは有機溶剤または含水有機溶剤に溶解した液体剤などを挙げることができる。通常、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤の効果的な使用量範囲は30〜100μmol/lであるが、適切な使用量は培養細胞系の種類や使用目的により異なる。また、必要により上記の範囲外の量を用いることもできる。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を記載して本発明を具体的に記載するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲内で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0014】
[製造例]
グルコース3.5%、コーンスターチ1%、大豆粉2%、ペプトン0.5%、肉エキス0.5%、酵母エキス0.3%、塩化ナトリウム0.2%、リン酸二水素カリウム0.05%、および硫酸マグネシウム(七水和物)0.05%、さらに消泡剤としてCB442が0.01%含んだ培地(pH5.8)を10ml含んだ大試験管に、前記本発明菌株BAUA−2322株を接種して28℃で5日間振盪培養を行った。この培養液を、同組成の培地を100ml含んだ500ml三角フラスコに1ml接種し、28℃、毎分200回転下で6日間回転振盪培養を行った。この培養液を、同組成の培地を500ml含んだ2000ml三角フラスコ5本に5mlずつ接種し、28℃、毎分200回転下で9日間回転振盪培養を行った。上記培養液を酢酸エチル2.5リットルを用いて2回抽出した。酢酸エチル抽出液を減圧濃縮して、褐色の油状物8gを得た。得られた油状物をヘキサンで洗浄し、ヘキサン不溶物430mgを得た。このヘキサン不溶物を、0DSカラム(直径2cm、長さ25cm;カプセルパック、資生堂社製)を用いた分取高速液体クロマトグラフィーにより分離した。溶出溶媒にはアセトニトリル:水を35:65の割合(容量比)で配合したものを用い、流速10ml/分、検出波長210nmの条件下で分取高速液体クロマトグラフィーを行った。その結果、本発明化合物4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンの純品46mg得た。
【0015】
尚、上記のようにして得られた純品の構造は、各種機器分析(質量分析、核磁気共嗚分析等)の結果から、分子量が270.分子式がC1510の4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンであることを確認した。
【0016】
本発明化合物の活性は以下の方法に従って測定した。
【0017】
[試験例]
細胞周期阻害活性には、T細胞性白血病細胞株Jurkat細胞を用いた。Jurkat細胞は、通常37℃で10%牛胎児血清を含むRPMI−1640培地にて5%炭酸ガスと水蒸気を飽和させた培養器内で培養する。Jurkat細胞を被験試料が含まれる培地中で20時間培養し、培地を除去後、DNA染色液(50μg/mlヨウ化プロピジウム、20μg/mlRNaseA、0.1%クエン酸ナトリウム、0.3%Nonident P−40)でDNAを染色する。染色後、フローサイトメーターを用いて細胞周期の分布を解析した。これらの結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すデータから明らかなように、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンによるG2/M期停止作用が検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを有効成分とする細胞周期阻害剤。
【化1】

【請求項2】
ペニシリウム属に属する、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボン生産菌を培地に培養し、4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンを生産蓄積せしめ、これを採取することを特徴とする4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンの製造法。
【請求項3】
4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボン生産菌が、ペニシリウムエスピーBAUA−2322株である請求項2に記載の4’、7、8−トリハイドロキシイソフラボンの製造法。

【公開番号】特開2009−7320(P2009−7320A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193926(P2007−193926)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「日本薬学会第127年会要旨集」,2007年3月5日,社団法人日本薬学会 「日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会講演要旨集」,2007年3月5日,社団法人日本農芸化学会
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(593061905)株式会社 秋田今野商店 (4)
【Fターム(参考)】