説明

4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物の分離方法

【課題】
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、医薬品や農薬原料として有用なトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を工業的に分離する方法において、有機溶媒の使用量を低減し、経済的かつ安全に分離する方法を提供すること。
【解決手段】
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、前記異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む、分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を選択的に分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を製造する方法としては、例えば、(i)4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、水−溶媒混合物又は複数の溶媒を使用した再結晶化方法によりトランス異性体を得る方法(非特許文献1)、(ii)トランス異性体を多く含む4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸ナトリウム塩を、塩酸存在下で異性化してトランス異性体を得る方法(非特許文献2)、(iii)4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を有機溶媒中で、又は、その反応性誘導体のシス体もしくはシス体及びトランス体の混合物を、水酸化ナトリウム及びカリウムアルコキシドからなる群から選ばれる塩基で処理し、保護基を付与することによりトランス体を得る方法(特許文献1)が報告されている。
【0003】
【非特許文献1】ジャーナル オブ オーガニック・ケミストリー(Journalof Organic Chemistry),1964年,第29巻,p.2585−2587.
【非特許文献2】イズベスチャ・アカデミー・ナウク・SSSR・セリヤ・キミケスカ(Izvestiya Akademii Nauk SSSR Seriya Khimicheskaya),1977年,第1号,p.195−197.
【特許文献1】国際公開第2003/078381号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のいずれも方法も、シス/トランス異性体混合物からトランス異性体を分離する際に多量の有機溶媒を必要とするため、工業的に実施するには溶媒回収設備が必要になる等、経済性、及び安全面において有利な方法とは言えない。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、医薬品や農薬原料として有用なトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を工業的に分離する方法において、有機溶媒の使用量を低減し、経済的かつ安全に分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離する方法において、有機溶媒を殆ど使用しないか、もしくは、実質的に全く使用せず、シス/トランス異性体の溶解度の差を利用した加熱濾過工程と、当該濾液を結晶化させる工程を巧みに組み合わせることにより、安全、かつ、経済的に有利に、高純度のトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、前記異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む、分離方法。
[2]
前記(a)工程における水と水溶性有機溶媒との混合液は、水に対する水溶性有機溶媒の容量比率が80%以下である、上記[1]記載の方法。
[3]
前記(a)工程における水と水溶性有機溶媒との混合液は、水に対する水溶性有機溶媒の容量比率が40%以下である、上記[1]記載の方法。
[4]
前記水溶性有機溶媒は、アルコール、ケトン及びエーテル系溶媒からなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の方法。
[5]
前記水溶性有機溶媒は、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフランからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の方法。
[6]
前記(a)工程において、水を単独で用いる、上記[1]記載の方法。
[7]
前記(b)工程において、不溶物を濾過する際の温度が30℃以上である、上記[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
[8]
前記(b)工程において、不溶物を濾過する際の温度が35℃以上である、上記[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
[9]
前記(b)工程において、不溶物を濾過する際の温度が40℃以上である、上記[1]〜[6]のいずれか記載の方法。
[10]
前記(c)工程において、前記(b)工程で得られた濾液を冷却することによりトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化させる、上記[1]〜[9]のいずれか記載の方法。
[11]
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を製造する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、前記異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、有機溶媒を殆ど使用しないか、もしくは、実質的に全く使用せずに、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、安全かつ経済的に有利に、高純度のトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態の分離方法は、
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む。
【0011】
[(a)工程]
(a)工程は、水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程である。
【0012】
本工程において、原料として用いる4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物は、例えば、下記(1)式で示される4−ニトロ安息香酸や下記(2)式で示される4−アミノ安息香酸を、水素化触媒存在下で水素化することにより得ることができる。また、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸エステル類を加水分解することによっても得ることができる。更には、4−アミノクロヘキサン−1−カルボン酸、及びそのエステル類の精製過程で得られる濾過、蒸留等の残渣、晶析母液から回収して得られる4−アミノクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を用いてもよく、工業用原料や試験研究用途として市場に流通している4−アミノクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物も好適に用いることができる。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
本実施の形態における4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物、又はその他の類縁物質の同定及び定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施することができる。
【0016】
本工程において、原料として用いる4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物のトランス体、シス体の混合比率は、特に限定されないが、重量比率として、通常、トランス体20%、シス体80%〜トランス体95%、シス体5%の範囲であり、好ましくは、トランス体40%、シス体60%〜トランス体95%、シス体5%の範囲であり、より好ましくは、トランス体60%、シス体40%〜トランス体95%、シス体5%の範囲であり、更に好ましくは、トランス体80%、シス体20%〜トランス体95%、シス体5%の範囲である。
【0017】
本実施の形態の方法においては、原料として用いる4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を塩基性化合物で事前に処理し、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス体濃度を調整する工程を含んでいてもよい。当該処理を行うことにより、後述する工程において濾過した不溶物や晶析後の濾液から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を繰り返し回収することが可能になる。
【0018】
また、原料として用いる4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物が不純物として無機、有機の塩、又はそれらの混合物等を含む場合には、イオン交換樹脂等による脱塩処理工程を含むことがより好ましい。
【0019】
原料として用いる4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物のpHは、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス、トランス各々の異性体の溶媒に対する溶解度や精製効率、取得物の純度等を勘案して決定でき、特に限定されないが、好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8、更に好ましくは6〜8、特に好ましくは6.5〜7である。
【0020】
本工程において、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解する溶媒は、経済性や安全性等の観点から、水、もしくは、水と水溶性有機溶媒の混合液であり、好ましくは水を単独で用いる。
【0021】
本工程において、水と水溶性有機溶媒との混合液に、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる場合、水に混合することのできる水溶性有機溶媒種は、経済性や安全性等を勘案して決定され、特に限定されないが、好ましくは、アルコール、ケトン及びエーテル系溶媒からなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、より好ましくは、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフランからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、更に好ましくは、エチルアルコール、メチルアルコール及びアセトンからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、特に好ましくはエチルアルコールである。
【0022】
本工程において、水と水溶性有機溶媒との混合液に、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる場合、水溶性有機溶媒の量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、経済性等の観点から、通常、容量比として水に対して200%以下、好ましくは120%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは40%以下、特に好ましくは0%(水溶性有機溶媒を実質的に含まない)である。
【0023】
本工程において、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解する溶媒の量は、経済性や作業効率等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常、後述する濾過工程((b)工程)の温度下における、シス/トランス異性体混合物の溶媒に対する溶解度相当量以下であり、好ましくは、濾過工程の温度下における、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の溶媒に対する溶解度相当量である。
【0024】
[(b)工程]
(b)工程は、前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程である。
【0025】
本工程において、(a)工程で調製した溶液を加熱する際の温度としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは30℃以上沸点以下、より好ましくは35℃以上沸点以下、更に好ましくは40℃以上沸点以下、特に好ましくは50℃以上沸点以下である。
【0026】
本工程において、(a)工程で調製した溶液を加熱する際の圧力は、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜加圧もしくは減圧してもよいが、好ましくは大気圧〜加圧下、より好ましくは大気圧〜0.1MPa以下、更に好ましくは大気圧下で実施する。
【0027】
本工程において、(a)工程で調製した溶液を加熱する際の加熱時間は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、液温安定後、通常5分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上加熱する。
【0028】
本工程において、(a)工程で調製した溶液を加熱後、不溶物を濾過する際の温度としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、通常30℃以上沸点以下、好ましくは35℃以上沸点以下、より好ましくは40℃以上沸点以下、更に好ましくは50℃以上沸点以下である。
【0029】
本工程において、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物を懸濁及び/又は溶解した溶媒を加熱する際の温度と、不溶物を濾過する際の温度は、作業効率や経済性によって決定され、異なっていてもよいが、同一の温度であることが好ましい。
【0030】
本工程において、不溶物を濾過する際の濾過方法としては、特に限定されず、例えば、減圧、常圧、加圧濾過法、又は遠心分離等の方法を用いることができる。好ましくは、減圧、加圧濾過法、又は遠心分離法、より好ましくは加圧濾過法又は遠心分離法、更に好ましくは加圧濾過法である。
【0031】
[(c)工程]
(c)工程は、前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程である。
【0032】
本工程において、(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノ−シクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する方法としては、経済性や作業効率等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常濾液をそのまま冷却するか、濃縮する、もしくは水溶性有機溶媒を加える等の方法の中から単独もしくは複数の方法を組み合わせて実施する方法が挙げられ、好ましくは濾液をそのまま冷却するか、濃縮する方法を単独もしくは組み合わせて実施され、より好ましくは濾液をそのまま冷却する方法を用いる。
【0033】
本工程においては、(b)工程で得られた濾液に水及び/又は水溶性有機溶媒を加える工程を含んでもよい。その際に使用される水溶性有機溶媒としては、経済性や安全性等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常、アルコール、ケトン及びエーテル系溶媒からなる群から中から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、好ましくは、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、より好ましくは、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトンからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、更に好ましくはエチルアルコールである。
【0034】
本工程において、(b)工程で得られた濾液に水及び/又は水溶性有機溶媒を加える工程を含む場合、水溶性有機溶媒の量は、経済性等を勘案して決定され、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、通常、容量比として水に対し200%以下、好ましくは100%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0035】
本工程においては、濾液から析出したトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の結晶は直ちに濾過してもよいが、一定温度で熟成させることが好ましい。その際の熟成温度としては、取得する結晶の純度や回収量を勘案して決定され、特に限定されないが、通常−20〜40℃、好ましくは−10〜30℃、より好ましくは0℃〜20℃である。熟成時間は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、液温安定後、通常5分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、更に好ましくは90分以上である。
【0036】
濾液から析出したトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の結晶を濾過する際の濾過方法としては、特に限定されず、例えば、減圧、常圧、加圧濾過法、又は遠心分離等の方法が挙げられ、好ましくは、減圧、加圧濾過法、或いは遠心分離法であり、より好ましくは加圧濾過法或いは遠心分離法であり、更に好ましくは加圧濾過法である。
【0037】
本工程において濾取したトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の結晶(以下、一次結晶という)は、そのまま、もしくは、乾燥後、医薬品や農薬原料として用いることができるが、必要に応じて更に精製を加えてもよい。
【0038】
上述したトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶に更に精製を加える場合、一次結晶は乾燥してもよいが、好ましくは、未乾燥のまま次の精製操作を実施する。
【0039】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶に、更に精製を加える場合の精製方法としては、特に限定されないが、通常、一次結晶に水等の溶媒を加え溶解した後、当該溶解液から再度結晶を析出させる方法が用いられ、好ましくは、一次結晶に水等の溶媒を加え溶解した後、当該溶液を冷却して結晶を析出させる方法、より好ましくは、一次結晶に水等の溶媒を加え加熱溶解した後、当該溶液を冷却して結晶を析出させる方法が用いられる。
【0040】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶を溶解させる目的で加えることのできる溶媒は、経済性や安全性等を勘案して決定され、通常、水もしくは水と水溶性有機溶媒の混合液を用いるが、好ましくは水を単独で用いる。
【0041】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶の溶解操作を、水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて実施する場合、水に混合することのできる水溶性有機溶媒種は、経済性や安全性等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常、アルコール、ケトン及びエーテル系溶媒からなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、好ましくは、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、より好ましくは、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトンからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、更に好ましくはエチルアルコールである。
【0042】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶の溶解操作を、水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて実施する場合、水溶性有機溶媒の量は、経済性等を勘案して決定され、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、通常、容量比として水に対して200%以下、好ましくは100%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0043】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶に加えることのできる溶媒の量は、経済性や作業効率等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常、一次結晶に含まれる溶媒量を補正した後の、使用する溶媒に対する溶解度相当量以下であり、好ましくは、一次結晶に含まれる溶媒量を補正した後の、使用する溶媒に対する溶解度相当量である。
【0044】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶に溶媒を加えた後、加熱溶解する場合の加熱温度としては、特に限定されないが、通常30℃以上沸点以下、好ましくは35℃以上沸点以下、より好ましくは40℃以上沸点以下であり、更に好ましくは50℃以上沸点以下である。
【0045】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶に溶媒を加えた後、加熱溶解する場合の圧力としては、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜加圧もしくは減圧下で実施してもよいが、好ましくは大気圧〜加圧下、より好ましくは大気圧〜大気圧+0.1MPa以下、更に好ましくは大気圧下で実施する。
【0046】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶に溶媒を加えた後、加熱する際の加熱時間は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、液温安定後、通常5分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上加熱する。
【0047】
トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶を溶媒に溶解した後、当該溶液から結晶を析出させる方法は、経済性や作業効率等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常当該溶液をそのまま冷却するか、濃縮する、もしくは水溶性有機溶媒を加える等の方法の中から単独もしくは複数の方法を組み合わせて実施する方法が用いられ、好ましくは、濾液をそのまま冷却するか、濃縮する方法を単独もしくは組み合わせて実施され、より好ましくは当該溶液をそのまま冷却する方法が用いられる。
【0048】
本実施の形態において、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶を溶媒に溶解した後、当該溶液に水及び/又は水溶性有機溶媒を加える工程を含む場合、使用する水溶性有機溶媒としては、経済性や安全性等を勘案して決定され、特に限定されないが、通常、アルコール、ケトン及びエーテル系溶媒からなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒が用いられ、好ましくは、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフランからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、より好ましくは、エチルアルコール、メチルアルコール及びアセトンからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒であり、更に好ましくはエチルアルコールである。
【0049】
本実施の形態において、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶を溶媒に溶解した後、当該溶液に水溶性有機溶媒を加える工程を含む場合、水に混合する水溶性有機溶媒の量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、経済性等の観点から、通常、容量比として水に対して200%以下、好ましくは120%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは40%以下、特に好ましくは0%(水溶性有機溶媒を実質的に含まない)である。
【0050】
本実施の形態において、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶を溶媒に溶解した後、当該溶液から析出した結晶は直ちに濾過してもよいが、一定温度で熟成させることが好ましい。その際の熟成温度としては、取得する結晶の純度や回収量を勘案して決定され、特に限定されないが、通常−20〜40℃、好ましくは−10〜30℃、より好ましくは0℃〜20℃である。熟成時間は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、液温安定後、通常5分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、更に好ましくは90分以上である。
【0051】
本実施の形態において、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の一次結晶を溶媒に溶解した後、当該溶液から析出した結晶を濾過する際の濾過方法としては、特に限定されないが、例えば、減圧、常圧、加圧濾過法、又は遠心分離等の方法が挙げられ、好ましくは減圧、加圧濾過法、又は遠心分離法、より好ましくは加圧濾過法或いは遠心分離法、更に好ましくは加圧濾過法が用いられる。
【0052】
更に、本実施の形態は、4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を製造する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、前記異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む、製造方法を包含する。
【0053】
本実施の形態の製造方法における原料、各工程における条件等は、上述した分離方法のものと同一である。
【0054】
本実施の形態における分離方法及び製造方法で得られたトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸の結晶は、必要に応じて乾燥し、医薬品、農薬等の原料として使用可能なトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸が提供される。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明するが、本実施の形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
[HPLC測定条件]
実施例における4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物、又はその他の類縁物質の同定又は定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施した。HPLC条件は、SUPELCO社製 SUPELCOSILTMLC18‐DB(4.6mmI.D.×250mm,5μm)カラムを使用し、カラム温度25℃、流速0.9mL/min、検出波長220nmで分析を行なった。移動相としては、無水リン酸二水素ナトリウム11.0gを水500mLに溶かし,トリエチルアミン5mL及びラウリル硫酸ナトリウム1.4gを加えた。次いで、リン酸でpH を2.5に調整した後、水を加えて500mLとした。この液にメタノール400mLを加え、超音波処理にて充分脱気したものを用いた。
【0056】
(実施例1)
原料として4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス、シス異性体混合物(トランス体74.7%,シス体25.3%)30.0gに水23mLを加え、55℃に加熱し、当該温度にて60分間攪拌した。次いで、得られた懸濁液を減圧濾過し、不溶物を濾別した。更に濾液を5℃に冷却し、当該温度にて60分間攪拌した。濾液から析出した結晶を減圧濾過後、55℃にて一晩乾燥して、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体98.3%,シス体1.7%)の結晶11.7g(収率39.0%)を得た。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、原料として4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス、シス異性体混合物(トランス体74.7%,シス体25.3%)15.0gを用い、水の代わりに水とエタノールの混合液(溶媒中エタノール濃度は、容量百分率として56%)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体94.7%,シス体5.3%)の結晶7.7g(収率51%)を得た。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、原料として4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス、シス異性体混合物(トランス体68.6%,シス体38.4%)15.0gを用い、水の代わりに水とエタノールの混合液(溶媒中エタノール濃度は、容量百分率として45%)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体94.7%,シス体5.3%)の結晶6.1g(収率41%)を得た。
【0059】
(実施例4)
実施例1において、原料として4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス、シス異性体混合物(トランス体68.6%,シス体38.4%)15.2gを用い、水の代わりに水とエタノールの混合液(溶媒中エタノール濃度は、容量百分率として28%)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体98.4%,シス体1.6%)の結晶5.5g(収率36%)を得た。
【0060】
(実施例5)
実施例1において、原料として4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス、シス異性体混合物(トランス体74.1%,シス体25.9%)15.0gを用い、水10mLを加え、更に不溶物濾過後の濾液の冷却温度を20℃としたこと以外は実施例1と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体98.9%,シス体1.1%)の結晶4.4g(収率29%)を得た。
【0061】
実施例5において、水の代わりに水とエタノールの混合液(溶媒中エタノール濃度は、容量百分率として56%)を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体94.9%,シス体5.1%)の結晶5.4g(収率36%)を得た。
【0062】
(実施例7)
実施例5において、水の代わりに水とエタノールの混合液(溶媒中エタノール濃度は、容量百分率として45%)を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体98.7%,シス体1.3%)の結晶4.2g(収率28%)を得た。
【0063】
(実施例8)
実施例5において、水の代わりに水とエタノールの混合液(溶媒中エタノール濃度は、容量百分率として28%)を用いたこと以外は実施例5と同様の方法により、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体98.9%,シス体1.1%)の結晶5.4g(収率36%)を得た。
【0064】
(実施例9)
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のトランス、シス異性体混合物(トランス体71.8%,シス体28.2%)118.0gに水87mLを加え、55℃に加熱し、当該温度にて2時間攪拌した。得られた懸濁液を減圧濾過し、不溶物を濾別した。次いで、濾液を5℃に冷却し、当該温度にて2時間攪拌した。濾液から析出した結晶を減圧濾過して、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体98.8%,シス体1.2%)の湿一次結晶57.0gを得た。得られた湿一次結晶の含水率をカールフィッシャー法にて測定した結果、25.9%(収率36%)であった。
更に上記手順にて得られた湿一次結晶52.0g(水分13.5gを含有)に、水29mLを加え、55℃に加熱溶解後、5℃に冷却した。そのまま2時間攪拌を続けた後、析出した結晶を濾過し、55℃で一晩乾燥して、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸(トランス体99.9%,シス体0.1%)30.9g(収率29%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を分離する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、前記異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む、分離方法。
【請求項2】
前記(a)工程における水と水溶性有機溶媒との混合液は、水に対する水溶性有機溶媒の容量比率が80%以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(a)工程における水と水溶性有機溶媒との混合液は、水に対する水溶性有機溶媒の容量比率が40%以下である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性有機溶媒は、アルコール、ケトン及びエーテル系溶媒からなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記水溶性有機溶媒は、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン及びテトラヒドロフランからなる群から選択される1種もしくは2種以上の混合溶媒である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記(a)工程において、水を単独で用いる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記(b)工程において、不溶物を濾過する際の温度が30℃以上である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記(b)工程において、不溶物を濾過する際の温度が35℃以上である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記(b)工程において、不溶物を濾過する際の温度が40℃以上である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記(c)工程において、前記(b)工程で得られた濾液を冷却することによりトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化させる、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸のシス/トランス異性体混合物から、トランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を製造する方法であって、
(a)水、もしくは、水と水溶性有機溶媒との混合液に、前記異性体混合物を懸濁及び/又は溶解させる工程と、
(b)前記(a)工程で調製した溶液を加熱し、不溶物を濾過する工程と、
(c)前記(b)工程で得られた濾液からトランス−4−アミノシクロヘキサン−1−カルボン酸を結晶化する工程と、
を含む、製造方法。

【公開番号】特開2010−6752(P2010−6752A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168525(P2008−168525)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(591057522)旭化成ファインケム株式会社 (10)
【Fターム(参考)】