説明

4−ケト−D−アラボン酸、4−ケト−D−アラビノース及びそれらの製造方法

【課題】新規化合物である4−ケト−D−アラボン酸やその製造方法、及び4−ケト−D−アラボン酸の中間生成物である4−ケト−D−アラビノースやその製造方法を提供すること。
【解決手段】グルコンアセトバクター属又はグルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌、例えば4−ケト−D−アラボン酸生産能を有するグルコンアセトバクター・リクェファシエンスを、D−グルコース、D−グルコン酸、又は2−ケト−D−グルコン酸を含有する培地で培養すると、代謝産物として生成された2,5−ジケト−D−グルコン酸(25DKA)がさらに代謝されて4−ケト−D−アラボン酸が生成される。また、グルコンアセトバクター・リクェファシエンスの洗浄細胞や細胞膜画分を単離した後、かかる洗浄細胞や細胞膜画分と25DKAとを反応させると、4−ケト−D−アラボン酸に加えて4−ケト−D−アラボン酸の中間生成物である4−ケト−D−アラビノースを生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ケト−D−アラボン酸若しくはその塩、又はそれらの誘導体や、4−ケト−D−アラボン酸又はその塩の製造方法や、4−ケト−D−アラビノース又はその誘導体や、4−ケト−D−アラビノースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノプロテインD−グルコースデヒドロゲナーゼ(quinoprotein D-glucose dehydrogenase;GDH)がD−グルコースを酸化することによりD−グルコン酸(GA)を生成し、またフラボプロテインGAデヒドロゲナーゼ(flavoprotein GA dehydrogenase;GADH)がGAを酸化することにより2−ケト−D−グルコン酸(2KGA)を生成し、さらに2KGAデヒドロゲナーゼ(2KGA dehydrogenase;2KGDH)が2KGAを酸化することにより2,5−ジケト−D−グルコン酸(25DKA)を生成する、D−グルコースを多段階的に酸化する経路が酢酸菌にあることが知られている(例えば非特許文献1、図1参照)。また、キノプロテイングリセロールデヒドロゲナーゼがGAを酸化することにより5−ケトグルコン酸(5KGA)を生成することも知られている(例えば非特許文献2参照)。グルコース酸化反応に関与するこれらの酵素は、すべて細胞膜タンパク質であり、かかる酵素が有する酵素活性領域は細胞質周辺に露出していることが知られている。上記D−グルコースの酸化産物、すなわちD−グルコースの代謝産物は、L−アスコルビン酸(ビタミンC)と同様に様々な化学製品及び製薬品を製造する過程において、広く利用されている重要な化合物であることが知られている。また、ライヒシュタイン法によるビタミンCの工業的生産において、ビタミンCの合成原料として2−ケト−L−ギュロン酸が使用されるが、かかる2−ケト−L−ギュロン酸は、NADPH依存的な25DKAリダクターゼ(NADPH-dependent 25DKA reductase)が立体構造特異的に25DKAを還元することにより生成されることが知られている。
【0003】
他方、25DKA以降の代謝産物に関する研究は、様々な菌株を用いて盛んに行われているものの、十分な知見又は成果が得られていないのが現状である。例えば、酢酸菌としてアセトバクター・メラノゲナム(Acetobacter melanogenum;A.Melanogenum)を用いた場合、D−グルコースの代謝産物としてD−リキシウロン酸(D-lyxuronic acid)が生成されることが報告されており(例えば非特許文献3)、かかる非特許文献3においてD−リキシウロン酸の生成過程における25DKAの代謝産物として、4−ケト−D−アラボン酸が示唆されているが、4−ケト−D−アラボン酸は精製又は単離はおろか、その存在すら確認できていない。すなわち、4−ケト−D−アラボン酸の存在についてはこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Matsushita et al. Academic Press, London, pp. 247-301 (1994).
【非特許文献2】Matsushita et al. Appl. Environ. Microbiol., 69, 1959-1966 (2003).
【非特許文献3】Ameyama M and Kondo K, Bull. Agr. Chem. Soc. Jpn., 22, 271-272, 380-386, (1958).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、4−ケト−D−アラボン酸やその製造方法、及び4−ケト−D−アラボン酸の中間生成物である4−ケト−D−アラビノースやその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この分野の研究者は、25DKA以降の代謝経路の研究に誰もが関心を持ちながらも、実際にかかる代謝経路を有する菌株に出会うことができなかった。本発明者らはアルゼンチン産のケフィア水から単離した酢酸菌であるグルコンアセトバクター・リケファシエンス(Gluconacetobacter liquefaciens:Ga.liquefaciens)4株を、D−グルコース、D−グルコン酸又は2−ケト−D−グルコン酸を含有する培地で培養を行った結果、対数増殖期において高効率で25DKAを代謝産物として生成する能力があることを見いだした。また、かかる4株を定常状態でさらに培養を重ねた結果、25DKAが代謝されて4−ケト−D−アラボン酸が生成されることを見いだした。さらに、4株の細胞膜画分を単離した後、かかる細胞膜画分と25DKAとを反応させると、4−ケト−D−アラボン酸に加えて4−ケト−D−アラボン酸の中間生成物である4−ケト−D−アラビノースが生成されることも見いだした。すなわち、本発明者らは30年近く25DKA以降の代謝経路について関心を持ち続けて、これまで数多くの菌を用いて研究を行ってきたが、遂に25DKA以降の代謝経路を有する菌株として上記アルゼンチン産の4株に出会うことができ、かかる4株を用いて25DKAの新規代謝産物として4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースの生成を確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)以下の式[1]で表される4−ケト−D−アラボン酸若しくはその塩、又はそれらの誘導体や、(2)4−ケト−D−アラボン酸の塩が、カルシウム塩であることを特徴とする上記(1)記載の4−ケト−D−アラボン酸若しくはその塩、又はそれらの誘導体に関する。
【0008】
【化1】

【0009】
また本発明は、(3)グルコンアセトバクター属又はグルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌を、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、D−アラビノース又はD−アラボン酸を含有する培地で培養することを特徴とする式[1]で表される4−ケト−D−アラボン酸又はその塩の製造方法や、(4)グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌又はその細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させることを特徴とする式[1]で表される4−ケト−D−アラボン酸又はその塩の製造方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、(5)4−ケト−D−アラボン酸カルシウム塩として単離することを特徴とする上記(3)又は(4)記載の製造方法や、(6)4−ケト−D−アラボン酸生産菌が、グルコンアセトバクター・リケファシエンスであることを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれか記載の製造方法に関する。
【0011】
本発明はまた、(7)以下の式[2]で表される4−ケト−D−アラビノース又はその誘導体に関する。
【0012】
【化2】

【0013】
本発明はさらに、(8)グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌の細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させることを特徴とする式[2]で表される4−ケト−D−アラビノースの製造方法や、(9)4−ケト−D−アラビノース生産菌が、グルコンアセトバクター・リケファシエンスであることを特徴とする上記(8)記載の製造方法に関する。
【0014】
本発明はまた、(10)グルコンアセトバクター属又はグルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌を、D−アラビノースを含有する培地で培養することを特徴とする式[2]で表される4−ケト−D−アラビノースの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、新規物質である4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースを提供することができる。また本発明によると、2,5−ジケト−D−グルコン酸の80%以上が4−ケト−D−アラボン酸に変換していることから、高効率で4−ケト−D−アラボン酸を製造することができる。また、4−ケト−D−アラボン酸は、D−グルコース代謝やD−アラビノース代謝やD−アラボン酸代謝における新規化合物であり、4−ケト−D−アラビノースは、D−グルコース代謝やD−アラビノース代謝における新規化合物であることから、他のD−グルコース代謝化合物やD−アラビノース代謝化合物やD−アラボン酸代謝化合物と同様、試薬としての利用や様々な化学製品及び製薬品開発における合成原料としての利用や、4位の炭素が反応性豊かなケトンである点を考慮すると、種々な置換基の導入が可能であり、容易に創薬ブロックとして利用できるほか、易生物分解性の高分子合成素材となることが期待される。すなわち、4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースは、ケトンを持たない通常の五炭糖と異なって、4位に反応性が豊かなケトンを有していることからさまざまな置換基を導入することができるので、アデニンアラビノシド等の従来の五炭糖の応用例よりも、遥かに拡大した応用範囲を提供できる。また、ケトンをもつカルボン酸であるピルビン酸と同様に、4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースを原料とするポリマー合成への展開が期待できる。さらに、近年抗生物質耐性菌が病院等で重篤な問題とされていることから、これらの問題を解決する医薬中間体原料、すなわち新しい抗生物質創製のための側鎖材料への展開も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌におけるD−グルコース代謝経路を示す図である。
【図2】グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌を、25DKAを含む培地で培養することにより、4−ケト−D−アラボン酸が生成した結果を示す図である。
【図3】16SrDNA配列を用いて作成したグルコンアセトバクター属の進化系統樹を示す図である。
【図4】グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌の細胞膜画分を、25DKAに接触させることにより4−ケト−D−アラボン酸及び4−ケト−D−アラビノースが生成した結果を示す図である。
【図5】4−ケト−D−アラボン酸生産菌を、D−アラビノースを含む培地で培養することにより、4−ケト−D−アラビノース及び4−ケト−D−アラボン酸が生成した結果を示す図である。BM培養液(0.2%グリセロール、0.3%酵母エキス[オリエンタル酵母社製 東京]、0.2%ポリペプトン)、D体(D−アラビノース)及びL体(L−アラビノース)は、コントロールとして用いている。また、図中のDHA(ジヒドロキシアセトン)は、培地に含まれる炭素源であるグリセロールの反応物として検出される。
【図6】4−ケト−D−アラボン酸生産菌におけるD−アラビノース代謝経路を示す図である。
【図7】4−ケト−D−アラボン酸生産菌を、D−アラボン酸を含む培地で培養することにより、4−ケト−D−アラボン酸が生成した結果を示す図である。図中のDHAは、培地に含まれる炭素源であるグリセロールの反応物として検出されている。
【図8】4−ケト−D−アラボン酸生産菌におけるD−アラボン酸代謝経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の4−ケト−D−アラボン酸若しくはその塩は、グルコンアセトバクター属若しくはグルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌を、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、D−アラビノース若しくはD−アラボン酸を含有する培地で培養することにより、又は、グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌若しくはその細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させることにより製造することができる。また、本発明の4−ケト−D−アラビノースは、グルコンアセトバクター属若しくはグルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌を、D−アラビノースを含有する培地で培養することにより、又は、グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌の細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させることにより製造することができる。
【0018】
上記4−ケト−D−アラボン酸の塩としては、4−ケト−D−アラボン酸が酸性であることからアルカリ塩であればよく、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩や、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩や、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩や、アンモニウム塩等の無機塩や、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩等の有機アミン塩や、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩等のアミノ酸塩を挙げることができ、これらの中でも取り扱いが容易なことから、カルシウム塩を好適に例示することができる。また、4−ケト−D−アラボン酸又はその塩の誘導体としては、カルボキシル基がエステルに置換したものや、水酸基がエーテルに置換した誘導体を例示することができ、4−ケト−D−アラビノースの誘導体としては、水酸基がエーテルに置換した誘導体を例示することができる。
【0019】
上記グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌としては、4−ケト−D−アラボン酸生産能を有するグルコンアセトバクター・リケファシエンスを例示することができ、グルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌としては、4−ケト−D−アラボン酸生産能を有するグルコノバクター・オキシダンス(G.oxydans)やグルコノバクター・メラノゲナス(G.melanogenus)やグルコノバクター・サブオキシダンス(G.suboxydans)を例示することができる。また、上記グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌としては、4−ケト−D−アラビノース生産能を有するグルコンアセトバクター・リケファシエンスを例示することができ、グルコノバクター属に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌としては、4−ケト−D−アラビノース生産能を有するグルコノバクター・サブオキシダンスを例示することができる。より具体的には、アルゼンチン産のケフィア水から単離したグルコンアセトバクター・リケファシエンス(寄託番号:RCTMR9、RCTMR10、RCTMR11及びRCTMR12)やグルコノバクター・オキシダンス(寄託番号:IFO3244)やグルコノバクター・メラノゲナス(寄託番号:IFO3294)やグルコノバクター・サブオキシダンス(寄託番号:IFO12528[NBRC12528])を挙げることができるが、これらの中でも高効率で4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースを生成できるグルコンアセトバクター・リケファシエンス(寄託番号:RCTMR9、RCTMR10、RCTMR11及びRCTMR12)やグルコノバクター・サブオキシダンスを好適に挙げることができる。なお、上記グルコンアセトバクター・リケファシエンス(寄託番号:RCTMR9、RCTMR10、RCTMR11及びRCTMR12)は、山口大学の耐熱性微生物資源研究センター(Research Center for Thermotolerant Microbial Resources:RCTMR)に寄託されており、一定の条件の下で分譲が保証されている。
【0020】
上記D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、D−アラビノース又はD−アラボン酸としては、市販のものを購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。2,5−ジケト−D−グルコン酸を自ら調製する場合、例えばグルコノバクター属やグルコンアセトバクター属に属する酢酸菌等から2,5−ジケト−D−グルコン酸を効率良く生成することができる酢酸菌を適宜選択し、かかる選択した酢酸菌をD−グルコース、D−グルコン酸又は2−ケト−D−グルコン酸を含有する培地中で培養し、生成した2,5−ジケト−D−グルコン酸を抽出、カラム分離等の一般的な分離方法を用いて単離精製することができる。
【0021】
上記D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、D−アラビノース又はD−アラボン酸を含有する培地としては、少なくともD−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、D−アラビノース若しくはD−アラボン酸のいずれか1つを含有し、4−ケト−D−アラボン酸生産菌又は4−ケト−D−アラビノース生産菌の生育に必要な栄養源を適当量含んだ培地を用いることができ、4−ケト−D−アラボン酸の生成効率が高く、安価な培地素材であるD−グルコース及び/又はD−グルコン酸を含有する培地が好ましい。培地は、合成培地でも天然培地でもよく、栄養源としては、ペプトン、酵母エキス等を用いることができる。
【0022】
また、上記4−ケト−D−アラボン酸生産菌又は4−ケト−D−アラビノース生産菌の培養条件としては、あらかじめペーパークロマトグラフィー法等を用いて4−ケト−D−アラボン酸の生成量を確認するなどして、最適な培養条件を適宜選択することができる。例えば、培養温度としては、20〜40℃の範囲から選択することができ、培養pHとしては、pH2.0〜7.0の範囲から選択することができる。また培養は、振盪培養法、通気攪拌培養法等の好気的条件下で行なうことができる。
【0023】
上記グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌の生菌体をD−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースと接触させる場合は、菌体を回収、洗浄した洗浄細胞を有利に用いることができる。また、グルコンアセトバクター属に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌の細胞膜画分や4−ケト−D−アラビノース生産菌の細胞膜画分を、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースと接触させる場合は、GADH、2KGDH等のD−グルコース代謝系に関与する細胞膜タンパク質酵素活性が維持された菌体処理物を有利に用いることができる。かかる菌体処理物を得るためには、細胞膜タンパク質酵素活性を有した状態で細胞膜と一体化したものとして回収することが好ましい。例えば、フレンチプレス、ビーズホモジナイザー、超音波破砕機やガラスビーズ等を用いて物理的に4−ケト−D−アラボン酸生産菌を破砕処理した後、細胞質成分を含んだ細胞質画分を遠心操作などにより除去することにより、上記細胞膜画分を有利に調製することができる。
【0024】
上記生菌体や細胞膜画分は、繰り返し使用することができるため担体に固定化するのがよく、担体に固定化する方法としては、例えばセルロース担体、セラミック担体、ガラスビーズ担体等に吸着させて固定化する方法や、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン等の格子構造をもつゲル状微粒子に包埋させて固定化する方法などを例示することができ、これらの中でもアルギン酸カルシウムゲル状微粒子に包埋させて固定化する方法が好ましい。
【0025】
上記生菌体や細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させる方法は、両者を溶液等の生化学的な反応が可能な条件下で接触させる方法がよく、溶液、pH、時間、温度等の反応条件は、あらかじめペーパークロマトグラフィー法等を用いて4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースの生成量を確認することで最適な条件を適宜選択することができる。例えば4−ケト−D−アラボン酸の場合、pH3.0〜pH6.5、特にpH4.0〜6.0の酢酸緩衝液(10〜50mM)中で、数時間〜一夜、25〜35℃で反応させることが好ましく、また、4−ケト−D−アラビノースの場合、pH3.0〜pH6.5、特にpH5.0〜6.5の酢酸緩衝液(10〜50mM)中で、数時間〜一夜、25〜35℃で反応させることが好ましい。
【0026】
以上のような反応条件により生成した4−ケト−D−アラボン酸や4−ケト−D−アラビノースを単離精製するためには、抽出、カラム分離等の一般的な分離方法を適宜選択することができ、例えばエタノールを反応液に添加して、4−ケト−D−アラボン酸を沈殿し回収する方法、活性炭や、多孔性有機樹脂粒子を用いた吸着クロマトグラフィーや、ゲルろ過、イオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いることができる。
【0027】
以下に、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これら実施例等により限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[アルゼンチン産グルコンアセトバクター・リケファシエンスの菌学的性質]
アルゼンチン産のケフィア水から単離した4株(寄託番号:RCTMR9、RCTMR10、RCTMR11及びRCTMR12)の同定を、従来技術(例えばAsai et al. J.Gen. Appl. Microbiol., 10, 95-126 (1964)、Yamada et al. J. Gen. Appl. Microbiol., 22, 237-245 (1976)、Gossele et al. Int. J. Syst. Bacteriol., 33, 65-81 (1983)参照)の基準に従って行った。すなわち、上記4株の細胞(菌)は、棒状の楕円形であり、およそ0.8〜1.0×1〜3μmの大きさであり、単在、2連鎖又は短い連鎖を呈しており、好気性のグラム陰性菌であり、カタラーゼ陽性である。また、上記4株の細胞(菌)のコロニーは平坦な凸状の円形であり、不透明な白色を呈していた。さらに、上記4株の細胞(菌)は、水溶性の茶色の色素を産出しており、酢酸及び乳酸を酸化することができ、30%D−グルコース存在下でゆっくり増殖することができ、D−マンニトールとL−グルタミン酸寒天培地で増殖することができる。また、上記4株の細胞(菌)は、グリセロールからジオキシアセトンを生成することができ、D−アラビトール、L−アラビノース、meso−エリトリトール、D−フルクトース、D−グルコース、グリセロール、D−マンノース及びD−キシロースから酸を生成することができるが、L−アラビトール、ガラクチトール、D−ガラクトース、ラクトース、マルトース、D−マンニトール、メリビオース、ラフィノース、L−ラムノース、リビトール、D−ソルビトール、L−ソルボース及びスクロースからは酸を生成することができない。これら4株の細胞(菌)の菌学的性質は、グルコンアセトバクター・リケファシエンスNBRC12388の細胞(菌)の菌学的性質とよく類似している(表1)ことから、アルゼンチン産のケフィア水から単離した4株はグルコンアセトバクター・リケファシエンスと同定した。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
[D−グルコース及びD−グルコン酸を含有する培地を用いた培養による4−ケト−D−アラボン酸の製造]
上記4株のグルコンアセトバクター・リケファシエンス(RCTMR10及びRCTMR11)の他、グルコノバクター・オキシダンス(IFO3244)及びグルコノバクター・メラノゲナス(IFO3294)を300mlの培養液(0.5%D−グルコース、2.0%D−グルコン酸ナトリウム、0.3%グリセロール、0.3%酵母エキス[オリエンタル酵母社製 東京]、0.2%ポリペプトン)に、濁度計(クレットーサマーソン社製)の値が350〜450になるまで30℃で培養を行った。2日、4日、6日及び8日後の培養液の一部を採取し、その後溶媒(t-butanol:formic acid:H2O=4:1:1.5)を用いたペーパークロマトグラフィーを行った後、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)溶液で染色した(図2)。グルコンアセトバクター・リケファシエンスを用いた場合、対数増殖期である2日目までは2,5−ジケト−D−グルコン酸(25DKA)が検出されていたが、定常増殖期の後半に相当する6日目以降には、25DKAの大部分が25DKAと異なる化合物、すなわち後の構造解析により新規化合物であることが判明した4−ケト−D−アラボン酸に変換していた。TTC染色により検出されたスポットの強度を元に、かかる変換効率を算出すると、25DKAの80%以上が4−ケト−D−アラボン酸に変換していることがわかった。他方、グルコノバクター・オキシダンスとグルコノバクター・メラノゲナスを用いた場合、培養後8日まで多くが25DKAであり、非常にわずかな量の4−ケト−D−アラボン酸しか検出されなかった。なお、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(RCTMR9及びRCTMR12)を用いた場合でも、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(寄託番号:RCTMR10及びRCTMR11)を用いた場合と同レベルの4−ケト−D−アラボン酸が検出された。これらの結果から、上記4株のグルコンアセトバクター・リケファシエンス等の4−ケト−D−アラボン酸生産菌を定常増殖期で培養を行うと、25DKAを基にして4−ケト−D−アラボン酸が生成されることがわかった。また、培地中における炭酸カルシウムの有無に関わらず4−ケト−D−アラボン酸は生成されることがわかった。
【実施例3】
【0031】
[16SrDNA配列を用いたグルコンアセトバクター属の進化系統樹の作成]
本発明者らの以前の研究により、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(IFO12388、IFO12257)、グルコノバクター・スフェリカス(G.sphaericus)(IFO12467)及びグルコノバクター・オキシダンス(IFO3293)を用いて培養を行った場合、25DKAは生成されるが、4−ケト−D−アラボン酸は生成されないことがわかっていた。特に上記4株は、4−ケト−D−アラボン酸を生成しないグルコンアセトバクター・リケファシエンス(IFO12388)等と同一種であるにもかかわらず、4−ケト−D−アラボン酸を生成することは意外であった。そこで、この原因を探索するために、上記4株を含めたグルコンアセトバクターにおける進化系統樹を作成した。かかる進化系統樹の作成は、16SrDNA配列を基にして、先行技術文献(例えばYukphan et al. Int. J.Syst. Evol. Microbiol., 54, 313-316 2004、Yukphan et al. J. Gen. Appl. Microbiol., 52, 241-247 2006参照)に記載の方法に従って行った。すなわち、各々の16SrDNA配列として、1420bp(Escherichia coli numbering systemにおける[Accession no. V00348]の28−1472ポジションに相当)を選択した。かかる16SrDNA配列のマルチプルアライメント処理は、CLUSTALX(version 1.81)を用いて、ギャップや不明確な配列は類似性を示さないものとして処理した後、ペアワイズ(2つの配列間)における配列の相同性を算出した。さらに、進化距離の算出は、キムラ法(Knuc)の2つのパラメーター(例えばThompson et al. Nucleic Acids Res., 25, 4876-4882 1997参照)に基づき行った。また、系統樹の作成は、近接結合法(例えばSaitou et al. Mol. Biol. Evol., 4, 406-425 1987参照)により行った。さらに、系統樹の各々の分岐におけるロバストネスは、1000個の配列を元にしたブートストラップ法を用いて作成した(図3)。なお、ブートストラップ値が、50%未満のものはここでは表示していない。以上のような方法により作成した進化系統樹から、4−ケト−D−アラボン酸を生成する上記4株の16SrDNA配列は、互いに相同性が100%であることがわかった。さらに、かかる上記4株と、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(IFO12388)との16SrDNA配列を比較したところ、99.8%の同一性があることがわかった。これらの結果から、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(IFO12388)において4−ケト−D−アラボン酸を生成しない原因は未だ不明ではあるが、少なくとも4−ケト−D−アラボン酸を生成する上記4株と進化的に離れている(ゲノム情報が大きく異なる)ことが原因である可能性は低いと考えられる。
【実施例4】
【0032】
[4−ケト−D−アラボン酸の精製及び同定]
4−ケト−D−アラボン酸を精製するために、上記実施例1により作製した4株の培養液のうち、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(RCTMR10)における6日後の培養液300mlを回収した後、遠心操作により菌を除いた培養液をイオン交換カラム(Dowex 1×4[ダウ・ケミカル社製])に通すことにより、培養液に含有する4−ケト−D−アラボン酸を含んだ成分をかかるカラムに吸着させた。脱イオン水でカラムを洗浄後、0.5M酢酸でカラムを洗浄し、その後0.5M〜2.5M酢酸の濃度勾配溶出法により溶出した。溶出した分画のペーパークロマトグラフィーを行った後、TTC染色による検出を行ったところ、0.7M〜1.5M酢酸により抽出した分画には4−ケト−D−アラボン酸と思われるシグナルが検出され、このうち特にシングルスポットとして検出された0.9M酢酸による分画サンプルを、4−ケト−D−アラボン酸同定のために用いた。
【0033】
上記分画サンプル中に含まれる酢酸を蒸発処理により除去した。なお、気圧を下げるために50℃条件下で処理を行った。蒸発処理後の粘性が高まった溶液に、粉末状の特級CaCOを加えることにより溶液を中和し、その後活性炭を少量加えることにより茶褐色に着色した色素や不純物を除去した後、結晶が認められるまで溶液を徐々に蒸発させた。
【0034】
得られた白色結晶の構造解析を行った。すなわち、高感度ナノ−エレクトロスプレイ質量分析装置(HR−ESI−MS)(negative mode)(ウオーターズ社製)を用いて解析したところ、実測値は163.0240(M[分子量]−1)-になり、分子式Cに相当した。また、H−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法による解析から、4.46(d,J)=2.0Hz)、4.57(s)、4.63(s)及び4.69(d,J)=2.0Hz)の計4つのシグナルが得られた。さらに、13C−NMR法とDEPT(Distorsionless Enhancement by Polarization Transfer)法による解析から、5つの炭素のシグナルのうち、65.99,73.07,76.88の計3つのシグナルはヒドロキシル基を有し、177.13の1つのシグナルはカルボキシル基であり、212.38の1つのシグナルはケトン基であることがわかった。また、HMBC(Heteronuclear Multiple Bound Correlation spectroscopy)法により、Hと13Cとの相関を解析した。一般的にHMBC法により、プロトン(H)から3bondの距離にある炭素原子への相関を測定することができ、今回の解析では、少なくともH−5とC−4、H−5とC−3、及びH−2とC−1に相関が認められた。これらのデータを総合すると、新規化合物は4−ケト−D−アラボン酸であることが判明した。
【実施例5】
【0035】
[単離した細胞膜を用いた4−ケト−D−アラボン酸及び4−ケト−D−アラビノースの製造]
次に、25DKAから4−ケト−D−アラボン酸への化学反応に、グルコンアセトバクター・リケファシエンスの細胞膜成分が関わっているかどうかを検証した。上記実施例2により作製したグルコンアセトバクター・リケファシエンス(RCTMR10)における6日後の培養液300mlから細胞(菌)を遠心操作により回収した後、かかる細胞(菌)を20mlの0.2M酢酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、その後フレンチプレス(エス エル エム[SLM]アミンコ[AMINCO]社製)により細胞(菌)を破壊した。破壊未処理の細胞を低速遠心により除去した後、細胞質画分と細胞膜画分とを、高速遠心(100,000g)を60分間行うことにより分離し、その後かかる細胞膜画分を凍結乾燥処理した。凍結乾燥処理した細胞膜画分を、50mMトリス−酢酸緩衝液(TAB)(pH7.0)溶液に50mg/mlになるように懸濁した後、ペリスタポンプ(アトー[ATTO]社製)を用いて、かかる細胞膜画分溶液とアルギン酸ナトリウム水溶液とを、CaCl溶液中へ滴下して球状ゲル化し、少なくとも5時間、4℃条件下で攪拌しながら混合することにより、アルギン酸カルシウムゲル微小粒子の中に細胞膜画分を包括させて固定化した。かかる固定化した細胞膜画分を50mMTAB(pH7.0)溶液に置換した後、アルギン酸カルシウムゲル微小粒子外のOD280が0.05以下になるまで穏やかに攪拌しながら100mMTAB(pH7.0)溶液で何回か置換する操作を行った。かかる操作により、細胞膜画分に混入した細胞質の可溶性タンパク質を除去することができる。アルギン酸カルシウムゲル微小粒子内に包括させて固定化した細胞膜画分と、50〜100mMの25DKAとを、異なるpH(3.0、4.0、5.0、6.0及び6.5)で調製した20mM酢酸緩衝液中に混合し、数時間〜一夜反応させた後、反応液の一部を採取し、その後上記実施例1と同様の操作によりペーパークロマトグラフィー及びTTC染色を行った(図4)。その結果、25DKAに加えて4−ケト−D−アラボン酸が検出された。また、pHが高くなるほど検出される4−ケト−D−アラボン酸の量は増加していた。さらに、25DKA及び4−ケト−D−アラボン酸に加えて、4−ケト−D−アラボン酸の中間生成物である4−ケト−D−アラビノースも生成することがわかった。これらの結果は、25DKAから4−ケト−D−アラボン酸への化学反応には、上記グルコンアセトバクター・リケファシエンスの細胞膜画分に含まれる成分が関わっていることを示しているだけでなく、かかる化学反応の過程には、4−ケト−D−アラボン酸の中間生成物である4−ケト−D−アラビノースが生成されるステップが含まれることも示している。
【実施例6】
【0036】
[D−アラビノースを含有する培地を用いた培養による4−ケト−D−アラビノース及び4−ケト−D−アラボン酸の製造]
上記グルコンアセトバクター・リケファシエンス(RCTMR10)及びグルコノバクター・サブオキシダンス(IFO12528[NBRC12528])を300mlの培養液(1%D−アラビノース、0.2%グリセロール、0.3%酵母エキス[オリエンタル酵母社製 東京]、0.2%ポリペプトン)に、濁度計(クレットーサマーソン社製)の値が350〜450になるまで30℃で培養を行った。1日〜6日後の培養液の一部を採取し、その後溶媒(t-butanol:formic acid:H2O=4:1:1.5)を用いたペーパークロマトグラフィーを行った後、TTC溶液で染色した(図5)。グルコンアセトバクター・リケファシエンスを用いた場合、対数増殖期である2日目までは4−ケト−D−アラビノース及び4−ケト−D−アラボン酸は検出されなかったが、3日目以降には、4−ケト−D−アラビノース及び4−ケト−D−アラボン酸が検出された。他方、グルコノバクター・サブオキシダンスを用いた場合、培養後2日で4−ケト−D−アラビノース及び4−ケト−D−アラボン酸が検出された。これらの結果から、上記グルコンアセトバクター・リケファシエンス及びグルコノバクター・サブオキシダンス等の4−ケト−D−アラボン酸生産菌を対数増殖期の後期まで培養を行うと、D−アラビノースを基にして4−ケト−D−アラビノース及び4−ケト−D−アラボン酸が生成されることがわかった(図6)。また、培地中における炭酸カルシウムの有無に関わらず4−ケト−D−アラボン酸は生成されることがわかった。さらに、L−アラビノースを用いた場合、4−ケト−D−アラビノースや4−ケト−D−アラボン酸を含め、TTC染色により検出されるものは生成されなかった。
【実施例7】
【0037】
[D−アラボン酸を含有する培地を用いた培養による4−ケト−D−アラボン酸の製造]
上記グルコノバクター・サブオキシダンス(IFO12528[NBRC12528])を300mlの培養液(1%D−アラボン酸、0.2%グリセロール、0.3%酵母エキス[オリエンタル酵母社製 東京]、0.2%ポリペプトン)に、濁度計(クレットーサマーソン社製)の値が350〜450になるまで30℃で培養を行った。1日〜6日後の培養液の一部を採取し、その後溶媒(t-butanol:formic acid:H2O=4:1:1.5)を用いたペーパークロマトグラフィーを行った後、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)溶液で染色した(図7)。3日目までは4−ケト−D−アラボン酸は検出されなかったが、4日目以降には4−ケト−D−アラボン酸が検出された。これらの結果から、上記グルコノバクター・サブオキシダンス等の4−ケト−D−アラボン酸生産菌を4日目まで培養を行うと、D−アラボン酸を基にして4−ケト−D−アラボン酸が生成されることがわかった(図8)。また、培地中における炭酸カルシウムの有無に関わらず4−ケト−D−アラボン酸は生成されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の4−ケト−D−アラボン酸は、D−グルコース代謝やD−アラビノース代謝やD−アラボン酸代謝における新規化合物であり、4−ケト−D−アラビノースは、D−グルコース代謝やD−アラビノース代謝における新規化合物であることから、他のD−グルコース代謝化合物やD−アラビノース代謝化合物やD−アラボン酸代謝化合物と同様、様々な化学製品及び製薬品開発における合成原料として有用されることや、4位の炭素がケトンである点を考慮すると、さまざまな置換基を容易に導入できるので、創薬ブロックとしての用途や易生物分解性の高分子合成素材となることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式[1]で表される4−ケト−D−アラボン酸若しくはその塩、又はそれらの誘導体。
【化1】

【請求項2】
4−ケト−D−アラボン酸の塩が、カルシウム塩であることを特徴とする請求項1記載の4−ケト−D−アラボン酸若しくはその塩、又はそれらの誘導体。
【請求項3】
グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)又はグルコノバクター属(Gluconobacter)に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌を、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸、D−アラビノース又はD−アラボン酸を含有する培地で培養することを特徴とする以下の式[1]で表される4−ケト−D−アラボン酸又はその塩の製造方法。
【化2】

【請求項4】
グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)に属する4−ケト−D−アラボン酸生産菌又はその細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させることを特徴とする以下の式[1]で表される4−ケト−D−アラボン酸又はその塩の製造方法。
【化3】

【請求項5】
4−ケト−D−アラボン酸カルシウム塩として単離することを特徴とする請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
4−ケト−D−アラボン酸生産菌が、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(Ga.liquefaciens)であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
以下の式[2]で表される4−ケト−D−アラビノース又はその誘導体。
【化4】

【請求項8】
グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌の細胞膜画分と、D−グルコース、D−グルコン酸、2−ケト−D−グルコン酸、2,5−ジケト−D−グルコン酸又はD−アラビノースとを接触させることを特徴とする以下の式[2]で表される4−ケト−D−アラビノースの製造方法。
【化5】

【請求項9】
4−ケト−D−アラビノース生産菌が、グルコンアセトバクター・リケファシエンス(Ga.liquefaciens)であることを特徴とする請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)又はグルコノバクター属(Gluconobacter)に属する4−ケト−D−アラビノース生産菌を、D−アラビノースを含有する培地で培養することを特徴とする以下の式[2]で表される4−ケト−D−アラビノースの製造方法。
【化6】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−131765(P2012−131765A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42459(P2011−42459)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】