説明

4−ヒドロキシタモキシフェンによる過剰瘢痕化の治療及び予防

本発明は、過剰瘢痕化、又は過剰瘢痕化に発達する虞のある創傷を有する患者に4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することによって、ケロイド及び肥厚性瘢痕を含む過剰瘢痕化を治療又は予防する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシタモキシフェンによるケロイド及び肥厚性瘢痕を含む過剰瘢痕化の治療及び予防に関する。
【背景技術】
【0002】
ケロイド瘢痕、又はケロイドは、正常な創傷治癒過程の変異によって生じたち密線維組織が過剰に増殖したものである。ケロイドのち密線維組織は、元々の創傷の範囲を超えて拡大し、通常は自然には退縮しない。従って、ケロイドの瘢痕は、それを生じさせた創傷の程度とは不相応なものである。
【0003】
同様に、肥厚性瘢痕もまた、創傷治癒の異常によりち密線維組織が過剰に増殖したものである。しかしながら、肥厚性瘢痕は元々の創傷の範囲を超えて拡大しない。また、肥厚性瘢痕はケロイドとは異なり、ある大きさに達した後、安定化するか又は退縮する。
【0004】
正常な創傷治癒過程は1から2年の期間に亘り、また概念的に3つの異なる段階から構成される。第一期、即ち炎症の段階では、分解作用が強く起こる。第一期は受傷の直後から開始し、損傷組織と異物とを創傷から除去する手段を提供する。受傷から数日後、第二期である増殖及び基質合成期が開始する。この時期に、周辺組織にあった神経芽細胞が創傷内に移動し、増殖する。神経芽細胞は活発にコラーゲンを産生し、細胞外基質に向かってそれを分泌してゆく。新たに合成されたコラーゲンは架橋結合した線維を形成して、創傷に構造的な統合性を付与する。数週間後、最終期である再形成期が開始する。再形成期に、それまでは任意の方向に並んでいたコラーゲン原線維が、機械的張力の方向に並びかえられ、創傷に更なる機械的な強度を付与するようになる。これら全ての過程が完了すると、皮膚はその化学的及び物理的な障壁機能を回復する。
【0005】
正常な創傷治癒過程に入ってから6〜8週間後、同化及び異化プロセスが平衡に到達する。この時点で瘢痕の強度は、健康な皮膚の強度の約30〜40%であり、瘢痕は通常、充血して肥厚している。その後数ヶ月間、同化及び異化プロセスは源弱して、進行するコラーゲン線維の架橋結合が創傷の張力を改善していく。また、平坦で、白色の、柔軟な成熟した瘢痕が形成されるまでは、充血と肥厚は消退する。
【0006】
過剰瘢痕化は、創傷治癒過程における同化及び異化の不均衡を原因とする。過剰瘢痕形成中、コラーゲンは、それが分解される量よりも多量に生成される。その結果、細胞、コラーゲン及びプロテオグリカンの過剰な産生を伴って、瘢痕は創傷治癒に必要な程度を超えて大きく増殖する。ケロイドは全方向に増殖し、皮膚面から隆起し、充血したままとなる。過剰瘢痕化の正確な機序はよく理解されていないが、ケロイド及び肥厚性瘢痕の形成には、共通の機序が関与しているものと信じられている。過剰瘢痕化には、トランスフォーミング成長因子β1(TGF−β1)の発現の亢進が関与していることを示す証拠が報告されている。TGF−β1は細胞外基質の生成を促進し、また、ケロイドの線維芽細胞によって高いレベルで産生される。
【0007】
ケロイド及び肥厚性瘢痕は、主として美容上の問題を呈するが、拘縮を起こす場合があり、もし関節上に起これば機能の損失に繋がることもある。更に、過剰瘢痕化により疼痛、痒み、及び灼熱感が生じる場合もある。一旦ケロイド病変が形成されると、数週間から数ヶ月、あるいは数年にも亘って増大し続ける傾向がある。ケロイドの増大は通常緩除であるが、ときに急速に増大する場合があり、数ヶ月で3倍にも増大することもある。肥厚性瘢痕は安定化する傾向があり、時間の経過により退縮する。しかしながら、この退縮は極めて緩慢で、しばしば不完全な場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケロイド及び肥厚性瘢痕の管理は、未解決な臨床上の主要な問題である。多種の治療が行われてきたが、確実に信頼できる治療法として証明されたものは未だ一つも存在しない。現在行われている治療は、閉鎖包帯、圧迫療法、病変への副腎皮質ステロイドの注入、放射線治療、及び外科的治療を含む。
【0009】
閉鎖包帯や圧迫器具は効果不確実な治療であり、これらの手段で治療を受けた患者の大多数は、殆どあるいは全く改善を得られていない。加えて、これらの治療に対してコンプライアンスを得ることは非現実的であり得る。例えば、閉鎖包帯や圧迫器具は、1日24時間、最長12ヶ月間に亘って装着する必要がある場合がある。可視の又は敏感な箇所の損傷に関しては、これらの治療は単純に不可能であり得る。
【0010】
ケロイド治療の主流は、病変内への副腎皮質ステロイドの注入である。副腎皮質ステロイドは、創傷治癒過程において、コラーゲン合成を阻害したり、グルコサミノグリカン合成を変異させたり、炎症性メディエータ産生を抑制したりすること、及び線維芽細胞の増殖によって、過剰瘢痕化を抑制する。しかしながら、全ケロイドの約半数は副腎皮質ステロイド治療に反応せず、また副腎皮質ステロイド治療で完全に消退した瘢痕の約半数は再発する。更に、副腎皮質ステロイドの注入は、萎縮、毛細血管拡張の形成、皮膚の色素脱失等、いくつかの副作用を起こす場合がある。
【0011】
現在利用可能で、効果を期待できる唯一のケロイド治療法は、放射線治療であり得る。しかしながら、この治療法は癌を発生させる可能性があるため、一般的にはケロイド治療として推奨又は受容されていない。更に、放射線治療単独で治療されたケロイドの約20パーセントは、1年以内に再発する。
【0012】
切除、凍結手術及びレーザー治療等の外科手技によって効果的にケロイド組織を除去できる場合があり、現在、肥厚性瘢痕治療の選択肢として挙げられている。しかし、これらの外科処置ではしばしば組織損傷を起こし、その結果、更なる肥厚性又はケロイドの瘢痕を形成する結果となる場合がある。実際、外科切除、凍結手術、及びレーザー治療で治療された患者の優に半数を超える例で、ケロイドが再発する。加えて、これらの処置は痛みを伴い、感染の危険がある。更に、凍結手術では、少数の患者で皮膚の色素脱失を起こす場合がある。
【0013】
代替的なケロイド治療として、幾人かの研究者は乳癌の治療薬タモキシフェンを使用することを提唱している(Hu,1998;Hu2002)。インビトロにおいて、タモキシフェンはケロイドの線維芽細胞の増殖を抑制し、コラーゲン産生を減少させた。明らかに、タモキシフェンは、コラーゲン形成を促進するTGF−β1発現のダウンレギュレーションによって、その抑制効果を発揮する(Chau,1998;Mikulec,2001)。
【0014】
しかしながら、瘢痕治療のためのインビボでのタモキシフェンの使用には、不都合が存在し得る。タモキシフェンは現在、経口薬としての利用のみが可能で、この経路によるタモキシフェンの投与は健康上のリスクを有し、また好ましくない重大な副作用を引き起こす。タモキシフェンは、体内の全てのエストロゲン受容体に作用を及ぼす可能性があり、作動薬及び拮抗薬の双方として広範囲な全身作用を引き起こし得る。この全身作用には、子宮内膜癌、子宮内膜の過形成及びポリープ、深部静脈血栓症、並びに肺塞栓のリスクの増大、肝酵素値の変化、及び白内障を含む眼の障害等が含まれる。加えて、タモキシフェンの経口投与で治療された患者が、顔面紅潮、帯下、鬱、無月経、及び吐き気を起こした例が報告されている(Fentiman 1986;Fentiman 1988;fentiman 1989;Ibis,2002)。タモキシフェンの局所投与は、比較的リスクが少ないものと想定されるが、タモキシフェンをその活性代謝産物に変化させる初回通過肝代謝を免れる。タモキシフェンは、肝代謝を受けない場合、効果が弱くなる可能性がある。
【0015】
以上より、過剰瘢痕化の予防又は治療は多岐に渡るが、広く認められ、効果が期待できる手段は存在しない。従って、全身的な副作用が殆ど生じないならば、ケロイド及び肥厚性瘢痕を減少させる有効なアプローチは、大きな利益をもたらす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ケロイド瘢痕及び肥厚性瘢痕を含む過剰瘢痕化を最小にするか、又は予防するための方法に関する。本方法は、有効量の4−ヒドロキシタモキシフェンを、瘢痕を最小にするか、又は瘢痕の形成を予防するに十分な期間、投与することを含む。この治療的アプローチは、他の瘢痕治療と比較して(1)全身性の副作用が殆どない、(2)安全性プロフィールがより良好である、(3)患者のコンプライアンスが容易である、等を含む数々の利点を提供する。更に、過剰瘢痕の形成を予防又は最小限にするために、4−ヒドロキシタモキシフェンは創傷に対して予防的に投与することもできる。
【0017】
本方法を実施する際には、4−ヒドロキシタモキシフェンは、それをインビボにて創傷又は瘢痕の組織に送達する任意の手段によって投与され得る。投与は4−ヒドロキシタモキシフェンを局所的に送達し、薬物の全身暴露を制限する手段によって実行されることが好ましい。そのようなモードの例には(1)創傷又は瘢痕部位に対する局所投与、(2)創傷又は瘢痕部位内への直接注入、(3)4−ヒドロキシタモキシフェンを組み込んだ制御放出ポリマー、又は他の送達装置の埋込がある。本発明の方法は、治療又は予防の単独形態で、又は他の形態と組み合わせて実行され得る。
【0018】
本方法を実施する際、多様な局所製剤が適しているが、水性アルコール溶液及び水性アルコールジェルが好ましい。製剤中の4−ヒドロキシタモキシフェンの濃度は様々であり得るが、その用量は、神経芽細胞の増殖及びコラーゲンの生成を効果的に抑制する4−ヒドロキシタモキシフェンの局所濃度を与える量である必要がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者等は、薬剤的有効量の4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することによって、望ましくない副作用が比較的少なく、過剰瘢痕を治療又は予防できることを見出した。従って、本発明の方法は、他の治療及び予防方法と比較して優れた安全性プロフィール及び患者のコンプライアンスの容易性を提供する。
【0020】
本発明にて、用語“過剰瘢痕”又は“過剰瘢痕化”は、異常な創傷治癒過程を原因とするち密線維組織の過剰増殖を意味する。過剰瘢痕は、正常な創傷治癒に必要とされる以上大きく増殖したものであり、細胞、コラーゲン及び/又はプロテオグリカンの過剰産生により特徴付けられる。
【0021】
“ケロイド瘢痕”は、元々の創傷又は外科的創の範囲を超えてち密線維組織が拡大した過剰瘢痕であり、通常は自然には退縮しない。ケロイドは他の肥厚性瘢痕と外見上類似しているため、瘢痕がケロイドであるか否かを判断することは困難な場合がある。しかしながら、ケロイドには明らかな組織学的特徴がある。その特徴の一つは、高密度の神経芽細胞と、高度に組織化され明確な方向性を有する一方向性のコラーゲン原線維とを含むコラーゲン小瘤(nodule)である。また、ケロイドは多数の血管を有し、間葉細胞の密度が高く、かつ表皮細胞層が厚くなっている。
【0022】
ケロイド形成と相互に関係する皮膚色及び遺伝学的特徴も、瘢痕のケロイドであるか否かの判断の補助となり得る。16%もの黒人アフリカ人がケロイドを有する一方、ポリネシア人、中国人、インド人及びマレーシア人では比較的少ない。白人とアルビノは、最も少ない。ケロイド瘢痕を有する患者は、関連する強い家族歴を有する傾向があり、常染色体優性、及び常染色体劣性の双方の伝達モードが報告されている。
【0023】
ケロイド形成と相互に関係する因子は、4−ヒドロキシタモキシフェンの予防的投与が患者に有効であるか否かを決定する際の補助にもなる。本発明の一局面によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは、創傷を有する患者に対して、該患者のケロイド形成の危険性が増大した際に投与される。危険性増大の決定の際に特に有用な因子は、個人歴及び家族歴である。
【0024】
“肥厚性瘢痕”は、ち密線維組織が元々の創傷又は外科的創の範囲を超えて拡張していない過剰瘢痕である。肥厚性瘢痕は、正常な創傷治癒に要求されるよりも幅広く形成される傾向にある。組織学的には、肥厚性瘢痕は、ケロイドと比較して、組織化されたコラーゲン線維が多く、粘液様基質が乏しい。肥厚性病変は、単一軸線方向に並んだ細胞外基質と細胞とから構成された、ランダムに分配された組織束に特徴付けられる。
【0025】
化合物4−ヒドロキシタモキシフェン、即ち1−[4−(2−N−ジメチルアミノエトキシ)フェニル]−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルブタ−1−エンは、よく特徴付けされている抗エストロゲン化合物であるタモキシフェンの活性代謝産物である。タモキシフェンはE及びZ異性体の双方が存在し、本発明によればこれらは単独又は組合せて有用である。Z異性体が好ましい。
【0026】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容組織のための組織特異性を示す選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)として作用することが周知である。研究によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン関連受容体の転写活動を調節できることが証明されており、このことは4−ヒドロキシタモキシフェンの組織特異的な作用に寄与し得る。インビトロにて、エストロゲン受容体、即ちERに対する結合親和性による測定によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは、タモキシフェンと比較して高い力価を示し、またエストロゲン受容体に対するエストラジオールと同様の結合親和性を有する(Robertson等、1982;Kuiper等、1997)。Z−4−ヒドロキシタモキシフェンは、培養下における正常なヒト乳腺上皮細胞の増殖を、Z−タモキシフェンと比較して100倍抑制する(Malet等、1988)。
【0027】
4−ヒドロキシタモキシフェンはタモキシフェンの代謝産物であるが、その過剰瘢痕の治療及び予防における有用性は、タモキシフェン自体による以前の経験から予測し得るものではない。図1に示すように、タモキシフェンはヒト体内で広範囲に代謝される。従って、タモキシフェンのインビボにおける作用は、標的組織内で受容体を占有するために競合する親化合物及びその代謝化合物の個々の作用の正味の結果である。例えば、Jordan,1982を参照されたい。これら各化合物は、受容体構造(conformation)に対する各化合物の個々の効果により一部決定されて、異なる細胞内で異なった、かつ予測不可能な生物学的活性を示す。即ち、受容体に対する各化合物の結合が、独特な受容体−リガンド構造を生成させ、これらが異なる補助因子を漸加して、その結果、異なる化合物にて様々な薬理作用が生じる(Wijayaratne等、1999;Giambiagi等、1988)。
【0028】
これら異なる効果の数個の例が報告されている。たとえば、タモキシフェンは、ラット肝臓の強力な発ガン性物質であるが、4−ヒドロキシタモキシフェンはそうではない(Carthew等、2001;Sauvez等、1999)。また、タモキシフェンは、p53(−)正常ヒト乳腺上皮細胞にてアポトーシスを開始させるが、4−ヒドロキシタモキシフェンはそれを行わない(Dietze等、2001)。対照的に、4−ヒドロキシタモキシフェンは、哺乳動物の癌細胞株にてエストロンスルファターゼ活性の有意な抑制効果を示すが、タモキシフェンはこの点で殆ど、又は全く効果を示さない(Chetrite等、1993)。
【0029】
4−ヒドロキシタモキシフェンの製造方法は、公知である。例えば、Mauvais−Jarvis等に付与された米国特許第4,919,937号には、Robertson及びKatzenellenbogen、1982から導かれた合成が記載されている。その合成は、数段階にて実行される:
【0030】
段階1 4−(β−ジメチルアミノエトキシ)−α−エチルデオキシベンゾインとp−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)フェニルマグネシウムブロミドとを反応させる;
段階2 段階1とは別に、1,2−ジフェニル−1−ブタノンをヒドロキシル化して1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニル−1−ブタノンを形成する;
段階3 段階1と段階2の生成物とを反応させて、1−(4−ジメチルアミノエトキシフェニル)−1−[p−2−テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル]−2−フェニルブタン−1−オールを形成する;
段階4 メタノール/塩酸を用いて脱水して、1−[p−(β−ジメチルアミノエトキシ)フェニル]−Z−1−(p−ヒドロキシフェニル)−2−フェニル−1−ブタ−1−エン=4−OH−タモキシフェン、E及びZ異性体混合物を製造する;
段階5 クロマトグラフィー及び結晶化によりE及びZ異性体を分離して、一定の比活性度を得る。
【0031】
本発明では、4−ヒドロキシタモキシフェンは、インビボで活性化合物を創傷又は瘢痕に送達する任意の剤形及び任意のシステムにて投与され得る。4−ヒドロキシタモキシフェンを局所的に送達して、薬物による全身暴露を制限する手段によって投与されることが好ましい。例えば、4−ヒドロキシタモキシフェンは、単独で又は薬学的に許容される輸送手段と組み合わせて、創傷又は瘢痕部位表面に局所適用されても、創傷又は瘢痕部位内に注入されても、又は制御放出ポリマー中に組み込まれて、治療するべき領域内に手術により埋め込まれてもよい。瘢痕化を最小にする許容可能な用量の最適な投与方法は、瘢痕の位置及び瘢痕化の大きさに依存するであろう。
【0032】
好ましくは、4−ヒドロキシタモキシフェンは、例えば患者の皮膚表面から、角質層、表皮、及び真皮層を介して、微小循環内に薬物を送達するモードの全てを意味する“皮膚適用”によって局所投与される。局所投与は、一般に、拡散により濃度勾配を形成して達成される。拡散は、(細胞を介した)細胞内浸透、(細胞間の)細胞内浸透、付属物経由の(transappendageal)浸透、(毛嚢、汗腺、及び皮脂腺を介した)、又はこれらの任意の組合せにより発生し得る。局所適用は、非侵襲性であるという明確な利点を有する。
【0033】
投与のための最適な用量は、重大な副作用を引き起こさずに線維芽細胞の増殖及びコラーゲン産生を効果的に抑制する4−ヒドロキシタモキシフェンの局所濃度を提供する必要がある。本発明は、特定の理論のいずれにも裏付けされていないが、薬剤が標的ではない組織内のエストラジオールを除去すると、抗エストロゲン剤による臨床的に重大な副作用が発生する。4−ヒドロキシタモキシフェン及びエストラジオールは、エストロゲン受容体に対して類似する結合親和性を有するため、各化合物の濃度が他方の濃度に近い場合、受容体結合における化合物間の競合がほぼ等しくなり得る。4−ヒドロキシタモキシフェン濃度がエストラジオール濃度を超える場合、4−ヒドロキシタモキシフェンがエストロゲン受容体に対して優位に結合し、逆もまた同様である。
【0034】
従って、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿中濃度がエストラジオールの血漿中濃度と比較して小さくなる4−ヒドロキシタモキシフェンの投与量が好ましい。投与するべき一日投与量は、最初は4−ヒドロキシタモキシフェンの吸収係数と、所望の組織濃度と、超えるべきではない血漿中濃度とに基づいて概算され得る。4−ヒドロキシタモキシフェンを局所的に投与することにより、同時に4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿中レベルを、エストラジオール受容体に対する重大な全身的競合が発生するまで上昇させることなく、標的となる組織において高い濃度を達成することができる。勿論、最初の投与量は、個々の応答に応じて各患者で最適にされ得る。
【0035】
局所製剤では、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25〜3μg/cm/日のオーダーの投与量が所望の結果を達成し得るが、投与量は、約0.5〜2.5μg/cm/日が好ましい。約1.0及び2.0μg/cm/日の投与量が極めて好ましい。
【0036】
皮膚適用は、主として二つの異なる方法で実施され得る:(i)治療活性を有する化合物、又はその薬剤的に許容される非毒性塩を、適当な医薬担体、及び任意にて浸透促進剤と混合して軟膏、乳剤、ローション、溶液、クリーム、ジェル又は同様物を形成し、その製剤の一定量を創傷又は瘢痕部位上に適用する。又は(ii)公知の技術に従って、治療活性を有する物質を、パッチ又は経皮送達システム内に組み込む。
【0037】
薬物皮膚適用の効果は、薬物の濃度、適用表面積、適用の時間及び継続期間、皮膚の水分、薬物の物理化学的性質、及び製剤皮膚間の薬物の分配を含む多数の要因に依存する。皮膚使用を目的とする薬物製剤は、これらの要因を利用して最適な送達を達成する。かような製剤は、多くの場合、浸透促進剤を含有する。浸透促進剤は、角質層の生理化学的性質を可逆的に変更し、角質層中の水分を変更し、共溶媒として作用し、又は細胞間隙の脂質及びタンパク質の組織を変化させることによって、角質層の抵抗を軽減して皮膚吸収を改善する。このような皮膚吸収促進剤には、界面活性剤、DMSO、アルコール、アセトン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、脂肪酸、脂肪アルコール及び関連する分子、ピロリドン、尿素、及びエッセンシャルオイルがある。化学的促進剤に加えて、物理的方法もまた皮膚吸収を増大し得る。例えば、閉鎖包帯は、皮膚の加湿を招く。他の物理的方法には、イオン導入法及び超音波導入法があり、これらは各々、電界及び高周波超音波を用いて、その大きさ及びイオン的性質を原因として十分に吸収されない薬物の吸収を促進する。
【0038】
薬物の皮膚送達に関係する多数の因子及び方法は、REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY,Alfonso R.Gennaro(Lippincott Williams&Wilkins,2000)、836〜58ページ、及びPERCUTANEOUS ABSORPTION:DRUGS COSMETICS MECHANISMS METHODOLOGY,Bronaugh及びMaibach(Marcel Dekker,1999)にて概説される。これら刊行物が明示するように、医薬分野の当業者は、様々な因子及び方法を操作することにより、効果的な皮膚送達を達成することができる。
【0039】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、巨大な、高い脂肪親和性を有する分子であるため、浸透促進剤の補助なしでは皮膚に対して十分に浸透しない。従って、本発明で使用される4−ヒドロキシタモキシフェン製剤は、一種又は二種以上の浸透促進剤を含有していることが好ましい。4−ヒドロキシタモキシフェンはアルコールに可溶であるため、アルコールは好ましい促進剤である。イソプロピルミリステートもまた好ましい促進剤である。
【0040】
皮膚適用の際には、4−ヒドロキシタモキシフェンは軟膏、クリーム、ジェル、乳剤(ローション)、散剤、オイル又は同様の製剤にて送達され得る。そのために、製剤は、アーモンド油、オリーブ油、ピーチカーネル油、グラウンドナッツ油、ヒマシ油等の植物性油脂、動物性油脂、DMSO、脂肪及び脂肪様物質、ラノリン油、リン脂質、パラフィンのような炭化水素、ワセリン、鑞、界面活性剤、乳化剤、レシチン、アルコール、カロチン、グリセロール、グリセロールエーテル、グリコール、グリコールエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、非揮発性脂肪アルコール、酸、エステル、揮発性アルコール化合物、尿素、タルク、セルロース誘導体、及び保存剤を含む習慣的な賦形剤添加物を含有してもよい。
【0041】
本発明の実施において、好ましい製剤は、水性アルコールジェル中に4−ヒドロキシタモキシフェンを含む。ジェル100グラム当たりの4−ヒドロキシタモキシフェンの量は、約0.001グラム〜約1.0グラムの範囲内であり得る。4−ヒドロキシタモキシフェンの量は、約0.01グラム〜約0.1グラムの範囲内にあることが好ましい。表1に、二つの非常に好ましい4−ヒドロキシタモキシフェンジェル製剤の組成を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは、経皮パッチを介して送達することもできる。一実施の形態にて、経皮パッチは、4−ヒドロキシタモキシフェン製剤の貯蔵部を備えている。パッチは、(a)溶液不浸透性の支持フォイル、(b)空洞を有する層状要素、(c)多孔性又は半浸透性薄膜、(d)自己粘着層、及び(e)任意にて、除去可能な支持フィルムを有し得る。空洞を有する層状要素は、支持フォイル及び薄膜から形成されていてもよい。代替的に、経皮パッチは(a)溶液不浸透性の支持フォイル、(b)貯蔵部としての、開放孔を有する発泡体、閉鎖孔を有する発泡体、組織状の層、又は線維性のウエブ状の層、(c)(b)に従った層が自己粘着性でない場合、自己粘着層、及び(d)任意にて、除去可能な支持フィルムを備えていてもよい。
【0044】
4−ヒドロキシタモキシフェンの適用を、他のケロイド治療と組み合わせることも想定し得る。従って、本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンの適用は、閉鎖包帯の使用、圧迫療法、病変への副腎皮質ステロイドの注入、放射線治療、及び凍結療法及びレーザー治療を含む外科的治療に附随することができる。
【0045】
以下を参照すると、本発明は概略的な実施例の補助により、より徹底的に理解されるであろう。
【0046】
実施例1:4−ヒドロキシタモキシフェン皮膚適用の実証
【0047】
乳癌を罹患している4人の患者の乳房に対して[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンのアルコール溶液を、疾患組織の摘出手術前の12時間〜7日間の特定の間隔を置いて、直接適用した。手術後、摘出した組織と、腫瘍を包囲する正常な乳房組織との双方が、放射能を含んでいた(Kuttenn等、1985)。
【0048】
追跡研究にて、ホルモン依存性乳癌の外科的切除を予定されている12人の患者のうち9人がZ−[H]−4−ヒドロキシタモキシフェン(80μCi)の60%アルコール溶液を受け、比較のため3人の患者がZ−[H]−タモキシフェン(80pCi)を受けた。患者は、病変組織を摘出するため、手術前12時間〜7日の特定の間隔にて乳房患部への直接適用によって[H]標識薬物を受けた。三領域由来の乳房組織、即ち腫瘍、腫瘍を直に包囲する組織、及び正常組織を摘出して、直ちに液体窒素中で冷凍した。更に、予定していた間隔にて血漿及び尿サンプルを採取して、分析時まで冷凍した。
【0049】
表2に、実施した分析の結果を示す。4−ヒドロキシタモキシフェンはその大部分が、エストロゲン受容体が存在する乳房組織の細胞質ゾル及び核画分中に集中していた。これら細胞内部位において、4−ヒドロキシタモキシフェンは、Z形からE形へ僅かに異性化したものを除いて、未代謝のままであった。4−ヒドロキシタモキシフェンのグループでは乳房内の滞留時間は約4日であったが、タモキシフェンのグループではそれより短時間で、かつ遙かに弱かった。
【0050】
【表2】

【0051】
皮膚適用後、乳房組織中の[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンと確認された放射能の百分率は、7日間でゆっくりと減少した(97%から65%)。この期間中、Z異性体からE異性体への連続的な異性化が起こり、7日目には同様の百分率が観察された(32%及び33%)。
【0052】
[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンによる血中放射能は徐々に上昇し、4〜6日目に安定状態に達した。これは、血中に急速に出現して2日目に安定状態に達する[H]−タモキシフェンとは対照的である。[H]−4−ヒドロキシタモキシフェン皮膚適用から36時間後、適用された放射能は血中で0.5%のみ示された。
【0053】
4−ヒドロキシタモキシフェンは血中で顕著に代謝されたが、対照的に乳房組織中ではそのような代謝は殆ど行われなかった。適用から24時間後、血中放射能の68%が4−ヒドロキシタモキシフェンを示し、18%がN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェンを示し、11%がビスフェノールを示した。
【0054】
4−ヒドロキシタモキシフェンの皮膚適用後、タモキシフェンの皮膚適用と比較して後の時間に、尿除去のピークが生じた。4−ヒドロキシタモキシフェン適用後、尿中にて殆どN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェン及びビスフェノールである代謝産物の連続的な増加が観察された。
【0055】
この実施例は、4−ヒドロキシタモキシフェンの皮膚適用は、最小限の代謝、安定した非常に低い血漿中濃度、及び遅い尿除去を伴った、薬物の十分かつ継続的な局所組織濃度を提供することを示している。
【0056】
実施例2:タモキシフェン20mgの経口投与と比較した、4−ヒドロキシタモキシフェン皮膚適用の薬物動態学及び薬力学の実証
【0057】
この研究では、水性アルコールジェルによる皮膚適用後の4−ヒドロキシタモキシフェンの組織及び血漿中濃度を、タモキシフェン経口投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンの組織及び血漿中濃度と比較した(Pujol等)。
【0058】
乳癌手術を予定している31人の患者を、無作為にて1〜5のグループに割り当てた。患者は、表3で概略したように、経口タモキシフェン又は皮膚4−ヒドロキシタモキシフェンのいずれかによる処置を受けた。手術前に、処置は毎日、3〜4週間継続された。この研究では、4−ヒドロキシタモキシフェンの三つの異なる投与量(0.5,1,又は2mg/日)及び二つの適用範囲(両方の乳房、又は腕、前腕、及び肩を含む広い皮膚表面のいずれか)について評価した。患者の一グループは、20mg/日(10mg b.i.d)の経口タモキシフェン(Nolvaldex(登録商標))を受けた。
【0059】
【表3】

【0060】
4−ヒドロキシタモキシフェンジェル(4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/水性アルコールジェル100g;Besins−Iscovesco Laboratories)は、ジェル1.25g/定量(即ち、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/投与量)を供給する加圧定量ポンプ内にて包装された。
【0061】
手術中、二つの乳房組織サンプル(各1cm)を摘出し、一方は腫瘍性、他方は顕微鏡的に正常であった。これらを液体窒素中で直ちに冷凍し、分析時まで保持した。外科手術当日及び前日に、血液サンプルを採取した。組織及び血漿サンプル全部の4−ヒドロキシタモキシフェン濃度を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)により分析した。
【0062】
処置前及び処置後の血液サンプルを、全血球算定(CBC)、ビリルビン、血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(SGOT)、アルカリフォスファターゼ、クレアチニン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、コレステロール、高密度リポ蛋白(HDL)、低密度リポ蛋白(LDL)、トリグリセリド、フィブリノゲン、及びアンチトロンビンについて分析した。
【0063】
下記の表4に、乳房組織及び血漿中に見出された4−ヒドロキシタモキシフェンの濃度を示す。五つの処置グループの全てにおいて、正常組織及び腫瘍乳房組織は同様の濃度の4−ヒドロキシタモキシフェンを含んでいた。4−ヒドロキシタモキシフェンは、ジェルが他の広い皮膚表面に適用された場合と比較して、直接乳房に適用された場合に、より多量に乳房組織中に集中した。
【0064】
副作用は重大な問題を生じなかった。皮膚処置は、局所的な炎症を全く引き起こさなかった。処置から7日目、グループ2(4−ヒドロキシタモキシフェンジェル0.5mg/日)の女性一人がめまい、膀胱炎及び軽い膣炎を報告した。処置から5日目、グループ1(経口タモキシフェン)の女性一人が顔面紅潮及び軽い膣炎を報告した。
【0065】
4−ヒドロキシタモキシフェンジェルを受けた患者において、血液学又は血清化学的な評価のいずれによっても処置前及び処置後の血液サンプル間で差異は認められなかった。しかしながら、経口タモキシフェングループにおいては、アンチトロンビンIII及びフィブリノゲンにて統計的に有意な減少が、また血小板及びリンパ球数にて統計的に有意な増加が観察された。これは、他の研究で観察されたこの薬物の生物学的効果と矛盾しない。
【0066】
【表4】

【0067】
実施例3:健康な女性に対する4−ヒドロキシタモキシフェン皮膚適用の耐性及び薬物動態学の実証
【0068】
この研究では、18〜45歳の閉経前の健康な女性における、局所適用された4−ヒドロキシタモキシフェンジェルの耐性及び薬物動態学を実証する。各参加者にジェルを毎日、2月経周期間、適用した。
【0069】
表5に概略したように、三つの投与量及び二つのジェル濃度について試験した。グループA〜Cでは、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/投与量を供給する加圧定量ポンプから、4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/100gのジェルが分配された。グループCの研究は、一つの乳房に対して適用されるべきジェル量が多すぎるため中止した。グループD及びEは、ほぼ3倍の4−ヒドロキシタモキシフェン量、即ちジェル100g中4−ヒドロキシタモキシフェン57mg、又はジェル100ml中4−ヒドロキシタモキシフェン50mgを含有する、より高い濃度のジェルを受容した。この高濃度ジェルも、同様に4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/投与量を付与する定量ポンプによって供給された。
【0070】
【表5】

月経周期の終わりに各患者は一回投与量を受け、その後、0、0.5、1、1.5、2、3、4、6、12、18、24、36、48、及び72時間にて連続的な血液サンプルを収集した。
【0071】
次の月経の第一日目に、ジェルを2月経周期に亘り毎日適用する処置を開始した。第一周期及び第二周期の7、20及び25日目の朝のジェル適用から24時間後、血液サンプルを収集した。適用最終日、即ち第二月経周期の25日目、ジェル適用前、及びジェル適用後0.5、1、1.5、2、3、4、6、12、18、24、36、48及び72時間にて連続的な血液サンプルを収集した。サンプルの4−ヒドロキシタモキシフェン、エストラジオール、プロゲステロン、FSH及びLHについて分析した。
【0072】
最終ジェル適用から72時間後、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿中濃度は、検出可能にて維持された。従って、血中で4−ヒドロキシタモキシフェンが検出不可能となる迄データポイントを得たことを確実にするため、最終ジェル適用後92日まで間隔を置いて、数名の患者から追加の血液サンプルを収集した。
【0073】
表6に、4−ヒドロキシタモキシフェンの平均±標準偏差(SD)血漿中濃度を括弧内の範囲と共に示す。一回の0.5mg投与では、検出可能な4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿中濃度を生成しなかったが、6〜12人の患者は、一回の1mgの投与後、検出可能な血漿中濃度(>5pg/mL)を有した。
【0074】
【表6】


【0075】
図2に、第二月経周期の25日目における最終適用後の血漿中濃度−時間曲線を示す。表7に、第二月経周期の25日目における最終適用に関連した平均薬物動態学パラメータを示す。
【0076】
【表7】

【0077】
データは、試験した3つの投与量(0.5、1、及び2mg)とも、用量反応と一致した。AUC及びCavによれば、高濃度ジェルは、低濃度ジェルと比較して約二倍吸収された。
【0078】
生物学的耐性は、36人の全患者において卓越していた。月経周期中、処置はFSH、LH、エストラジオール、又はプロゲステロンホルモンレベルに影響を与えなかった。更に、処置の終わりにおける卵巣の超音波検査は全ての患者で正常であり、正常な大きさの発育卵胞を示した。一人の患者がジェルにアレルギー反応を起こし、10人の患者が顔面にきびを発症した。
【0079】
要約すれば、この研究によって、局所適用後の4−ヒドロキシタモキシフェンに対する暴露は、投与量と共に上昇し、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿中濃度は、通常のエストラジオール濃度(80pg/mL)よりも低く、また検出可能な全身的影響の実験による又は臨床的証拠は存在しないことが示される。
【0080】
実施例4:ケロイド瘢痕治療における4−ヒドロキシタモキシフェンの皮膚反応に対する有効性を証明するための研究
【0081】
本研究の主な目的は、皮膚適用された際、4−ヒドロキシタモキシフェンがケロイド瘢痕を効果的に治療することを実証することにある。
【0082】
ケロイド瘢痕と診断された患者は、プラセボ又は4−ヒドロキシタモキシフェンジェルのいずれかを6ヶ月間受けた。処置グループについては、一日2回、1〜2mgジェルg/cm(57mg 4−OHT/100gジェル)、即ち0.5〜1μg 4−OHT/cmを適用した。多数の臨床効果指標を評価した。(1)各患者のケロイドによる痛み、不快感、及び痒みを評価した、(2)バンクーバー瘢痕スケールを用いて瘢痕の段階を決定した、(3)組織学的分析により、ベースライン及び処置から6ヶ月後の生検材料を比較した、(4)TGF−βアイソフォーム及びコラーゲン発現の分子分析を行った。処置グループの患者は、これら指標において、プラセボグループの患者と比較して統計的に有意な改善を示した。
【0083】
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【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ヒト中のタモキシフェンの広範囲な代謝を示す図である。
【図2】健康な女性に対する4−ヒドロキシタモキシフェン皮膚適用後の血漿中濃度−時間曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瘢痕、又は過剰瘢痕に発達する危険を有する創傷又は外科的創を治療又は予防する薬剤組成物の製造における、4−ヒドロキシタモキシフェンの使用。
【請求項2】
前記瘢痕はケロイド瘢痕である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記瘢痕はケロイド瘢痕に発達する危険を有する、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記瘢痕は肥厚性瘢痕である、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記瘢痕は肥厚性瘢痕に発達する危険を有する、請求項1記載の使用。
【請求項6】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、皮膚適用可能な形態を有する請求項1乃至5のいずれか記載の使用。
【請求項7】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、注入投与可能な形態を有する請求項1乃至5のいずれか記載の使用。
【請求項8】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、浸透促進剤を含有する輸送手段中に存在する請求項1乃至6のいずれか記載の使用。
【請求項9】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、Z異性体及びE異性体の混合物である請求項1乃至8のいずれか記載の使用。
【請求項10】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンの大部分がZ異性体である、請求項1乃至8のいずれか記載の使用。
【請求項11】
一日につき瘢痕1cm毎に、約0.25〜3.0μgの前記4−ヒドロキシタモキシフェンが投与される、請求項1乃至10のいずれか記載の使用。
【請求項12】
前記薬剤組成物は、一日につき瘢痕1cm毎に、約0.5〜2.5μgの前記4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することが可能である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記薬剤組成物は、一日につき瘢痕1cm毎に、約1.0μgの前記4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することが可能である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
前記薬剤組成物は、一日につき瘢痕1cm毎に、約2.0μgの前記4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することが可能である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、軟膏、クリーム、パッチ、ジェル、乳剤、散剤、及びオイルから選択された経皮投与形態に調製される、請求項1乃至6及び請求項8乃至14のいずれか記載の使用。
【請求項16】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、水性アルコールジェルに調製される請求項1乃至6及び請求項8乃至14のいずれか記載の使用。
【請求項17】
前記水性アルコールジェルは、エチルアルコール、イソプロピルミリステート及びヒドロキシプロピルセルロースを含む請求項16記載の使用。
【請求項18】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンは、水性アルコール溶液に調製される請求項1乃至6及び請求項8乃至14のいずれか記載の使用。
【請求項19】
前記水性アルコール溶液は、エチルアルコール、イソプロピルミリステート及びヒドロキシプロピルセルロースを含む請求項18記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−527234(P2006−527234A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515986(P2006−515986)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006583
【国際公開番号】WO2004/110420
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(505454421)アセンド セラピュティクス インコーポレイテッド (2)
【出願人】(505454269)ノースウェスタン ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】