説明

4−置換フェノールポリマー及び4−置換フェノールポリマーの製造方法

【課題】低分子量で分子量分布が狭い4−置換フェノールポリマー、及び酵素を用いたその製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(3)で表される化合物を、酸化還元酵素存在下に酸化重合する工程1と、重合反応生成物を溶媒抽出する工程2と、を有する、一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有する4−置換フェノールポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子中のヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が特定の範囲内で任意に制御された低分子量の4−置換フェノールポリマー、及び酸化還元酵素を用いた該4−置換フェノールポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール誘導体を重合して得られるフェノールポリマーは、エンジニアリングプラスチックとして有用であり、他のポリマー、添加剤等と混合することで、さらに機械的強度、耐熱性、電気的特性及び化学的特性に優れた樹脂とすることができる。このようにして得られた樹脂は、加工適性に優れており、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等、広範な用途に用いられる。
【0003】
このようなフェノールポリマーは、通常、モノマーであるフェノール誘導体がその芳香環上の炭素原子間で結合し、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有するフェニレンユニット(以下、ヒドロキシフェニレンユニットと略記)と、モノマーである一方のフェノール誘導体の芳香環上の炭素原子と他方のフェノール誘導体のフェノール性水酸基との間で結合が生じ、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有しないオキシフェニレンユニット(以下、オキシフェニレンユニットと略記)の両方を構成単位とするものである。
【0004】
従来、フェノールポリマーの化学合成による製造方法としては、種々のものが提案されてきているが、得られるフェノールポリマー中のヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの比率を制御できるものではなく、副生成物も多く生じてしまい、さらに、反応を無水条件下で行う必要がある上、反応時に大きな発熱を伴い、製造時に多量のエネルギーを必要とするなど、多くの問題点を抱えている。
【0005】
このような化学合成による製造方法に代わるものとして、酵素を用いた製造方法が提案されている。生体触媒である酵素を利用した反応は、酵素の高い基質特異性を利用した反応であることから目的物を効率よく製造でき、コスト低減に有利である。また、温和な条件下での反応であるため、消費するエネルギーが少なく、環境負荷を低くすることができるなど優れた方法である。
酵素を用いてフェノールポリマーを製造する方法としては、例えば、芳香環のフェノール性水酸基に対して4位の水素原子が置換基で置換されたフェノール誘導体(以下、4−置換フェノールと略記)を、有機溶媒と水とを有機溶媒が30〜70体積%の割合となるように含む混合溶媒中で重合する際に、この混合比を変化させることで、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの比率が制御されたフェノールポリマー(以下、4−置換フェノールポリマーと略記)を得、得られた重合反応生成物をアルコールと水との混合溶媒を加えて析出させることにより取り出す製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−155132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の、有機溶媒と水とを有機溶媒が30〜70体積%の割合となるように含む混合溶媒中で重合する方法で得られる4−置換フェノールポリマーは分子量分布が広く、この為、均質な物性の4−置換フェノールポリマーが得られないばかりか、ロット毎に分子量分布が偏りやすく、ロット毎に均一な物性の4−置換フェノールポリマーが得られないことがあった。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、低分子量で加工適性に優れつつ、かつ、分子量分布が狭くてより均質な分子量を有する4−置換フェノールポリマー、及び酵素を用いたその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の4−置換フェノールを原料とし、特定の溶媒中で酸化還元酵素の存在下に重合反応を行い、得られた重合反応生成物を溶媒抽出することで、分子中のヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が制御された、質量平均分子量が1500以下と低分子量で、かつ質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であって、分子量分布が狭くてより均質な分子量を有する4−置換フェノールポリマー、およびその製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明の第一の発明は、下記一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有する4−置換フェノールポリマーであって、該ポリマー中の、一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であり、質量平均分子量(Mw)が1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする4−置換フェノールポリマーである。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【0014】
また、本発明の第二の発明は、下記一般式(3)で表される化合物を、水若しくは水溶液、又は水若しくは水溶液と有機溶媒とを含み有機溶媒が5体積%未満である混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程1と、工程1で得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程2と、を有する、下記一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有する4−置換フェノールポリマーの製造方法であって、該ポリマー中の、一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であり、質量平均分子量(Mw)が1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする4−置換フェノールポリマーの製造方法である。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分子中のヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が40/60〜60/40の範囲内で任意に制御された4−置換フェノールポリマーを、簡便且つ低コスト、低エネルギーで製造することができる。このようにして得られる4−置換フェノールポリマーは、質量平均分子量が1500以下と小さく、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であるため、加工適性に優れつつ、かつ分子量分布が狭くてより均質な分子量を有する。このことから、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等としてより一層優れた物性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の4−置換フェノールポリマーは、前記一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有し、該ポリマー中の、一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であり、質量平均分子量(Mw)が1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする。
分子中の一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比、質量平均分子量、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が上記範囲であると、加工適性に優れ、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等としてより一層優れた4−置換フェノールポリマーとなる。
【0023】
ここで、Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。これらは、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも良い。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基及びシクロブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、あるいは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基及びtert−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。なかでも、メチル基及びメトキシ基が好ましい。
【0024】
本発明の4−置換フェノールポリマーは、質量平均分子量は1500以下であり、より好ましくは200〜1500である。また、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.3以下であり、より好ましくは1.05〜1.3である。
【0025】
本発明の4−置換フェノールポリマーが有する一般式(1)及び(2)で表される構成単位の、該ポリマー中における結合順序は、特に限定されない。
【0026】
本発明の4−置換フェノールポリマーの製造方法は、前記一般式(3)で表される化合物を、水若しくは水溶液、又は水若しくは水溶液と有機溶媒とを含み有機溶媒が5体積%未満である混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程1と、工程1で得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程2と、を有しており、得られる4−置換フェノールポリマーは、前記一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有し、該ポリマー中の、一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であって、質量平均分子量(Mw)が1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする。ここで、Rは、前記と同一である。
【0027】
◎工程1
本発明において、酸化還元酵素を用いた重合反応は、従来公知の方法に従って行うことができる。
反応溶媒としては、水若しくは水溶液又は水若しくは水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いるが、水溶液としては緩衝液を好ましいものとして挙げることができる。
緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液及びコハク酸緩衝液等が挙げられるが、なかでも、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液が好ましい。
【0028】
また、有機溶媒としては、種々のものを用いることができるが、アセトン又はアルコールが好ましく、なかでも、アセトン、イソプロパノールがより好ましい。これら有機溶媒は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
本発明においては、混合溶媒中の有機溶媒の量がごく少量、あるいは水又は水溶液のみでも、4−置換フェノールの重合反応を行うことができる。前記混合溶媒中の有機溶媒の量は、5体積%未満であるが、1体積%以下が好ましい。
【0029】
本発明で用いる酸化還元酵素は、酸化重合能を有する酵素であり、オキシダーゼ又はペルオキシダーゼが好ましい。これらオキシダーゼ、ペルオキシダーゼは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
オキシダーゼとしては、例えば、ラッカーゼ、カテコールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、チロシナーゼ及びポリフェノールオキシダーゼ等を挙げることができ、これらの中でも、ラッカーゼが好ましい。本発明においてオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ラッカーゼは、植物、動物及び微生物に広く存在することが知られており、種々の起源のものを用いることができるが、植物由来、微生物由来のラッカーゼが好ましい。
植物由来のラッカーゼとしては、漆の木由来のラッカーゼが好ましい。また、微生物由来のラッカーゼとしては、細菌、真菌(糸状菌及び酵母を含む)に由来するものが好ましいものとして挙げられるが、真菌のうち白色腐朽菌等の担子菌類や子のう菌類に由来するラッカーゼが、特に好ましいものとして挙げられる。
【0032】
このような、特に好ましいラッカーゼとしては、アスペルギルス(Aspergillus)属;ニューロスポラ(Neurospora)属;ピリキュラリア・オリザエ(P.oryzae)等のピリキュラリア(Pyricularia)属;トラメテス・ビローサ(T.villosa)、トラメテス・バーシカラー(T.versicolor)等のホウロクタケ(Trametes)属;リゾクトニア・ソラニ(R.solani)等のリゾクトニア(Rhizoctonia)属;コプリヌス・シネレウス(C.cinereus)等のコプリヌス(Coprinus)属;コリオルス・ヒルスツス(C.hirsutus)、コリオルス・バーシカラー(C.versicolor)等のコリオルス(Coriolus)属に由来するものが挙げられる。
また、市販されているラッカーゼとしては、例えば、「ラッカーゼダイワ EC−Y120」(商品名;大和化成株式会社製)等が挙げられる。
本発明において、これらのラッカーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ペルオキシダーゼとしては、前記と同様種々の起源のものを用いることできるが、植物由来、細菌由来あるいは担子菌由来のものが好ましく、西洋ワサビ由来又は担子菌由来のものが特に好ましい。このようなペルオキシダーゼとして、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼが好ましく、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼが特に好ましい。
また、本発明において、これらのペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
マンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明において、酸化還元酵素としてマンガンペルオキシダーゼを用いる場合には、重合反応時に2価マンガンを用いる必要がある。
2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
また、2価マンガンの添加量は、用いる基質の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
西洋ワサビペルオキシダーゼとしては、例えば、SIGMA−ALDRICH社製P6140,P9568,P2649,P2088等、Fluka社製77330,77332等、和光純薬株式会社製169−10791等を挙げることができる。これらの西洋ワサビペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
これら酸化還元酵素の使用量は、用いる該酵素の酵素活性により適宜調整すればよいが、原料である4−置換フェノールに対して、過剰量使用することが、後述する工程2における抽出分が多くなるため好ましい。酸化還元酵素の反応液中での濃度は2μmol/l以上が好ましく、20μmol/l以上が特に好ましい。
【0038】
また、反応条件は、基質濃度、酸化還元酵素の種類及び濃度に応じて適宜調整すればよいが、反応温度は比較的低温に設定することができ、5〜70℃とすることが好ましく、20〜60℃とすることが特に好ましい。pHは酸化還元酵素の種類に応じて適宜調整すればよいが、pH3.0〜8.0が好ましく、pH3.5〜7.0がより好ましい。また反応時間は30分〜24時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましい。また、反応時の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。本工程は、前記の条件を満たす攪拌条件であれば、水浴中又は気流中のいずれでおこなってもよい。
【0039】
◎工程2
本発明においては、工程1に続いて、工程1で得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程2を行う。
工程1で得られた反応生成物は、目的物である4−置換フェノールポリマーとその他の不純物との混合物である。工程2では、この混合物から4−置換フェノールポリマーを溶媒抽出する。
工程2で用いる抽出溶媒は、有機溶媒が好ましい。具体的には、例えば、アセトン又はアルコールが好ましく、なかでも、アセトン、イソプロパノールがより好ましい。
【0040】
4−置換フェノールポリマーの抽出は、例えば、工程1終了後の反応生成物に、前記抽出溶媒を添加して撹拌し、有機溶媒層を分離することで行うことができる。
この時の抽出溶媒の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、得られた4−置換フェノールポリマーに対して5〜100倍量(v/w)であることが好ましく、抽出温度は室温であることが好ましい。
また、抽出溶媒添加後の溶液の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。
【0041】
一方、工程1終了後に反応液が二層分離する場合は、有機溶媒層をそのまま抽出液としてもよい。すなわち、反応に用いた有機溶媒をそのまま抽出溶媒とすることができる。
この場合の抽出温度、抽出時の撹拌方法等の抽出条件は、工程1終了後に抽出溶媒を添加した場合と同じ条件を適用すればよい。
【0042】
◎工程3
本発明においては、工程1と工程2との間に、酸化重合で得られた生成物を還元する工程3を行うことが好ましい。
重合反応に用いる原料が、4−置換フェノールのような芳香族ヒドロキシ化合物である場合、前記工程1で得られる反応生成物中には、酸化反応によりフェノール性水酸基がカルボニル基に変換されたものが含まれていることがある。このようなものはそのままでは副生成物となってしまうため、これらを還元することで、4−置換フェノールポリマーの収率をより向上させることができる。
この時用いる還元剤は特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0044】
(ラッカーゼを用いたp−クレゾールの重合反応)
反応溶媒として、50mMリン酸緩衝液(pH4.5)にアセトンを1体積%となるように混合した混合溶媒600mLを調製した。この混合溶媒に、原料としてp−クレゾールを649mg(10mM)、ラッカーゼを12g添加して、反応温度30℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、遠心分離により沈殿を回収、水洗の後、この沈殿を凍結乾燥した後、アセトン50mlに室温にて溶解し、アセトンを留去して、目的物である4−メチルフェノールポリマーを417mg得た(収率60%)。
得られた4−メチルフェノールポリマー100mgをアセトン10mlに溶解し、解析を行ったところ、質量平均分子量(Mw)590、質量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.294で、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率は50/50であった。
【0045】
以上述べたように、本発明の製造方法により、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率が40/60〜60/40の範囲内で任意に制御された4−置換フェノールポリマーを簡便に製造できることが確認され、得られる4−置換フェノールポリマーは、質量平均分子量が1500以下であり、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.3以下となっており、分子量分布が狭く、より均質な分子量を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製造方法により、質量平均分子量、及び質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が小さい4−置換フェノールポリマーを、ヒドロキシフェニレンユニットとオキシフェニレンユニットとの構成比率を任意に制御して提供できるため、本発明は、エンジニアリングプラスチックの開発に有用である。特に、加工適性に優れつつ、分子量分布が狭く、より均質な分子量を有することから、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等としてより一層優れた物性を有するエンジニアリングプラスチックの開発に有用である。また、温和な条件下で、高い基質特異性に基づき、省エネルギーで4−置換フェノールポリマーを製造できるため、本発明は、低コストでかつ環境負荷の小さい優れた製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有する4−置換フェノールポリマーであって、
該ポリマー中の、一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であり、質量平均分子量(Mw)が1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする4−置換フェノールポリマー。
【化1】

(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【化2】

(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(3)で表される化合物を、水若しくは水溶液、又は水若しくは水溶液と有機溶媒とを含み有機溶媒が5体積%未満である混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程1と、
工程1で得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程2と、
を有する、下記一般式(1)及び(2)で表される繰返し単位を有する4−置換フェノールポリマーの製造方法であって、
該ポリマー中の、一般式(1)で表される繰返し単位の数と一般式(2)で表される繰返し単位の数との比が40/60〜60/40であり、質量平均分子量(Mw)が1500以下で、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.3以下であることを特徴とする4−置換フェノールポリマーの製造方法。
【化3】

(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【化4】

(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【化5】

(式中Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項3】
前記酸化還元酵素が、オキシダーゼ及び/又はペルオキシダーゼである請求項2に記載の4−置換フェノールポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記酸化還元酵素が、マンガンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ及びラッカーゼからなる群より選ばれる一種以上である請求項2に記載の4−置換フェノールポリマーの製造方法。
【請求項5】
工程1と工程2との間に、酸化重合で得られた生成物を還元する工程3を有する請求項2〜4のいずれか一項に記載の4−置換フェノールポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記溶媒抽出に用いる溶媒がアセトンである請求項2〜5のいずれか一項に記載の4−置換フェノールポリマーの製造方法。


【公開番号】特開2007−169482(P2007−169482A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369556(P2005−369556)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】