説明

4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]−フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸の水性医薬製剤

本発明は、4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸またはその塩を含む水性医薬製剤に関する。本発明は、特に、4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸およびアミノ−2(ヒドロキシメチル)−2−プロパンジオール−1,3(トロメタモール)を含む水性医薬製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸またはその塩を含む水性医薬製剤に関する。本発明は、特に、4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸および2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)を含む水性医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸(化合物1)は、心血管系に効果のある可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化剤であり、下式に相当する:
【化1】

【0003】
化合物1およびその可溶性グアニル酸シクラーゼに対する効果は、WO01/19780に最初に記載された。しかしながら、WO01/19780は、非経腸投与に適する医薬製剤を記載していない。特に集中治療室にいる経口摂取できない患者の処置のために、非経腸投与できるそのような点滴用液剤への要望がある。
【0004】
非経腸の使用を支持する理由が特に2つある:
1)この物質の半減期は短いので、1日数回の摂取によってのみ、この物質の経口使用が可能である。同時に、常套の持続放出製剤の開発は、この物質が胃腸管の上部からしか十分な量で吸収されないという事実により妨げられる。
2)化合物1は、急性心不全に使用するために開発されている。この場合、有効成分は、通常、集中治療の設定で投与される。薬物の経口投与は、対応する集中治療の患者において困難である。対照的に、i.v.点滴剤の投与は、コンプライアンスを保証し、正確で個別に適応した投薬を可能にする。従って、i.v.液剤は、この場合に選択される製剤である。
【0005】
開発作業中に、常套の生理的溶媒における溶解性は、生理的に安定な液剤を得るには不十分であることが見出された。
【0006】
この問題にも関わらず、目的は、耐容され、同時に保存時に安定な点滴用液剤を製剤化することである。これに関して、補助剤の使用は、世界中の非経腸医薬の承認に適する物質に限定される。
【0007】
pHを常套のバッファーで調節することは、十分な溶解性を有する安定な製剤を導かないことが見出された。
【発明の概要】
【0008】
驚くべきことに、化合物1は、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)と共に、9.0より低いpHで十分な溶解性を有する塩を形成し、従って、安定かつ生理的に耐容される製剤の基礎として役立ち得る。トロメタモールは、当業者に知られている。同時に、トロメタモールの使用には、保存中のpHの低下およびそれに伴う有効成分の沈殿(溶解性の低下のため)が、8−9のpH範囲でのトロメタモールの良好な緩衝作用によって防止されるという利点がある。
【0009】
化合物1の合理的な一日量は、50ml瓶で2ないし20mgの範囲にある。有効成分の用量に関するこれらの合理的な仕様(50ml中2−20mg)は、0.04ないし0.4mg/mlの範囲の溶液中の標的有効成分濃度となる。適する媒体における室温での有効成分の溶解性は、特に、溶解性が低すぎて寒冷下での保存中に液剤から沈殿するのを回避するためにも、少なくともこれより3倍は高くあるべきである(安全域)。
【0010】
化合物1は複数のイオン化できる基を有するので(pKa1:4.0/pKa2:4.7/pKa3:8.3)、pHをpH7.4より高い値に調節することにより溶解性を改善する実験を実施した。しかしながら、点滴剤として使用するために、pHを上昇させることには制限がある。pH9.0より高いpH値は、生理的耐容性に関するボーダーラインである。常套のバッファーおよび塩基の使用は、使用可能な製剤をもたらさなかった。表1は、様々なバッファー媒体中での化合物1の溶解性を示す。
【0011】
表1:様々なバッファー媒体における化合物1の溶解性
【表1】

【0012】
トロメタモールは、原則として、0.002ないし0.2Mの濃度で製剤中に用いることができる。濃度0.01Mは、特に有益であると明らかになった。濃度が低すぎると、緩衝作用は、安定な製剤を保証するには不十分である。濃度が高すぎると、生理的血液緩衝に対するバッファーの負荷が大きすぎるために、望まざる薬理的作用の見込みが高まるに違いない。トロメタモールは、酸過剰に対抗する活性物質として、比較的高濃度で静脈内に用いられる。これに関して、製造業者(Braun, Melsungen)は、点滴で0.3Mの濃度を超えないことを推奨している。従って、薬理学/毒性学の見地から、目標は、可能な限り低いトロメタモール濃度であろう。
【0013】
化合物1の0.5mg/mlの濃度は、0.001Mのモル濃度に相当するので、0.5mg/mlまでの濃度では、トロメタモール濃度0.0015M以上により完全な塩形成が保証される。
【0014】
液剤中のトロメタモールの使用は、約0.2ないし0.5mg/mlの範囲の濃度の化合物1の溶解性に必須であるが、これより低い濃度の化合物1の溶液を用いる点滴用液剤の補助剤としてトロメタモールを用いることも有利である。
【0015】
有効成分含有量0.05mg/mlの液剤の希釈実験により、これらは、十分な量のトロメタモールで緩衝化される場合のみ、安定なpHで、従って問題なく、幅広い範囲にわたって希釈され得ることが示された。
【0016】
トロメタモールを使用しないと、そして、0.001Mのみの濃度でトロメタモールを使用すると、僅かな希釈(1+5)でさえpHは大幅に低下する。この場合、他の点滴用液剤による希釈時に有効成分が沈殿するリスクが高い(表2a−c)。
【0017】
表2:化合物1を含む液剤の希釈可能性(dilutability)
a)トロメタモールなし:
【表2】

【0018】
b)トロメタモール0.001モル濃度を含む:
【表3】

【0019】
c)トロメタモール0.001モル濃度を含む:
【表4】

【0020】
滴定実験において、トロメタモールを含まない液剤における0.01N塩酸の酸負荷は、全量50mlの点滴瓶に対して1ml未満の添加でさえ、有効成分が沈殿するほどの大幅なpHの低下を導くと示すことができた。0.001Mトロメタモールバッファーを添加すると、沈殿は、0.01N塩酸約5mlの添加で観察される。一方、トロメタモール含有量0.01Mの溶液は、0.01N塩酸35mlを超えるまで酸を添加しても、沈殿に対して安定である。
【0021】
0.05mg/mlの濃度の化合物1および0.01Mの濃度のトロメタモールを含む液剤は、幅広い範囲にわたり、標準的点滴用液剤で問題なく希釈できる。表3に示す希釈実験は、これに関して実施した:
表3:化合物1を含む液剤の希釈可能性
a)塩化ナトリウム溶液による希釈:
【表5】

【0022】
b)他の媒体による希釈:
【表6】

【0023】
全ての希釈実験は、デュプリケートで実施した。調べた液剤のいずれでも、沈殿は起こらなかった。1:40より大きい希釈でのみ、8.0より低い領域へのpH値の顕著な低下があることが判明した。そのような大きい希釈では、有効成分の沈殿はもはや心配ではない。なぜなら、大量の希釈媒体のために、化合物1の溶解度の限界には、もはや到達しないからである。
【0024】
本発明は、安定かつ耐容される化合物1を含む点滴用液剤を製造することを可能にする。この点滴用液剤は、希釈せずに、または、希釈して、例えば、等張塩化ナトリウムまたはグルコース溶液などの他の標準的点滴用液剤による側管点滴(bypass infusion)として、投与できる。
【0025】
希釈投与は、患者に個別に合わせた最適な薬物療法のための濃度および投与量の調節の許容範囲が比較的大きい点で、有利である。
【0026】
従って、本発明は、4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸(化合物1)またはその塩を含む水性医薬製剤に関する。本発明は、特に、4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸(化合物1)またはその塩および2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)を含む水性医薬製剤に関する。
【0027】
生理的に許容し得る塩は、化合物(1)の金属またはアンモニウム塩であり得る。特に好ましい例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウム塩、および、アンモニアまたは有機アミン(例えば、エチルアミン、ジ−またはトリエチルアミン、ジ−またはトリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジメチルアミノエタノール、アルギニン、リジンまたはエチレンジアミン)から誘導されるアンモニウム塩である。
【0028】
本発明に関して、水性医薬製剤は、実質的に水を溶媒として含む製剤である。しかしながら、投与しようとする点滴量によっては、製剤の生理的耐容性の減損を導かない限り、水混和性有機溶媒を、50%(M/V)まで、好ましくは30%(M/V)未満の割合で、必要に応じて含み得る。本発明の水性医薬製剤が実質的に有機溶媒を含まないことが、特に好ましい。
【0029】
本発明の水性医薬製剤は、好都合には、0.0005%(M/V)(0.0001%M/Vは、0.001g/100mlを意味する)ないし1%(M/V)、好ましくは0.0025ないし0.25%(M/V)、特に好ましくは0.005ないし0.025%(M/V)の化合物(1)またはその塩を含む。これらの重量による量は、製剤の全体積に対するものである。
【0030】
本発明に従い使用される浸透圧調整物質(tonicity agent)の量は、好都合には、430mOsmol/kgまで、好ましくは250ないし330mOsmol/kgの浸透圧を有する製剤が得られるように選択する。
【0031】
本発明の水性医薬製剤は、有利には、非経腸投与に使用する。非経腸投与には、例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内および腹腔内投与が含まれ、静脈内投与が最大の重要性を有する。用量として、1日1回の静脈内点滴には、有効成分24μgないし24mgが好都合であるとみなされる。1日に投与される点滴の体積は、200mlを超えるべきではない。
【0032】
本発明の水性医薬製剤は、本発明に従い使用される成分に加えて、非経腸投与形態の分野で常套のさらなる補助剤、例えば、pHを調節するための酸および塩基、並びに、常套の防腐剤、可溶化剤および抗酸化剤を含み得る。
【0033】
本発明は、化合物(1)の有効成分を含む、安定かつ耐容される点滴用液剤の製造を可能にする。すぐに点滴に使用できる取扱いが容易な液剤を製剤化できる。これらの液剤は、ガラスの点滴瓶またはアンプルの形態で、そして、可撓性の点滴袋またはブロー式(blown)のbottelpack(登録商標)のパックなどの形態で、提供できる。
【実施例】
【0034】
実施例
実施例1:0.5mg/ml点滴用液剤
50lのバルクのバッチは、以下を含む:
【表7】

【0035】
有効成分をガラスまたはスチールの容器中で、上述の量の水酸化ナトリウム溶液に溶解する。
【0036】
次いで、トロメタモール、塩酸および総量の5%の水を混合し、トロメタモールが溶解するまで撹拌する。この溶液のpHは、8.6ないし8.8であるべきである。
【0037】
これと並行して、塩化ナトリウムを90%の量の水に溶解する。この溶液を水酸化ナトリウム溶液でpH8.0−8.5に調節する。これに必要とされる0.1N NaOHの量を記録する。
【0038】
最後に、撹拌しながら、最初にトロメタモール溶液を、次いで有効成分の濃縮液を添加する。溶液のpHを確認し、1M塩酸または0.1M水酸化ナトリウム溶液でpH8.8に調節する。透明な溶液が得られるまで、撹拌を継続する。
【0039】
完成した溶液を、孔の幅が0.22μmのフィルター(Pall Ultipor Nylon 66)を通して、窒素のゲージ圧1.6bar下で濾過滅菌し、50mlのガラスの点滴瓶に瓶詰めし、PTFE積層したクロロブチルゴムの点滴ストッパーおよびアルミニウムのクリンプキャップで密封する。瓶詰めされた化合物(1)を含有する溶液を、121℃で少なくとも20分間オートクレーブする。
【0040】
実施例2:0.05mg/ml点滴用液剤
50mlの点滴瓶は、以下を含有する:
【表8】

製造は、実施例1と同様に行う。
【0041】
実施例3:0.125mg/ml点滴用液剤
バルクの液剤1lは、以下を含む:
【表9】

*pHをpH8.8に調節する。量は変動し得る。
製造は実施例1と同様に行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸(化合物1)またはその塩、および、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)を含む、水性医薬製剤。
【請求項2】
化合物(1)またはその塩を、0.0005ないし1%(化合物1の量を基準とする)の量で含むことを特徴とする、請求項1に記載の水性医薬製剤。
【請求項3】
浸透圧調整物質を、250ないし430mOsmol/kgの浸透圧を有する溶液が得られる量で含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水性医薬製剤。
【請求項4】
0.1ないし300mmol/lの2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)を含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水性医薬製剤。
【請求項5】
ヒトおよび動物における非経腸投与用の、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水性医薬製剤。
【請求項6】
化合物(1)またはその塩の水性医薬製剤を製造するための、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)の使用。
【請求項7】
2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)を製剤化に使用することを特徴とする、化合物(1)またはその塩の水性医薬製剤の製造方法。
【請求項8】
化合物(1)またはその塩の水性製剤の製造方法であって、0.0005%(M/V)より高く化合物1またはその塩の室温での飽和濃度までの化合物(1)またはその塩の濃度を有する化合物(1)またはその塩の溶液を、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(トロメタモール)を含む点滴媒体溶液で、非経腸投与に適する使用濃度にする、方法。
【請求項9】
0.0005%(M/V)より高く1%(M/V)までの濃度(化合物1の量を基準とする)の化合物(1)の溶液を使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非経腸投与用の医薬を製造するための、0.0005%(M/V)より高く1%(M/V)までの化合物(1)の濃度(化合物1の量を基準とする)を有する化合物(1)の水溶液の使用。

【公表番号】特表2009−542589(P2009−542589A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516971(P2009−516971)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005625
【国際公開番号】WO2008/003414
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(503412148)バイエル・ヘルスケア・アクチェンゲゼルシャフト (206)
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare AG
【Fターム(参考)】