説明

4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩を有効成分として含有する視神経障害の予防又は治療剤

【課題】視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤として有用な化合物を見出すことは興味深い課題であり、特に経口投与により該薬理効果を発現する化合物を見出すことは非常に興味深い課題である。
【解決手段】4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩は、NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおける経口投与において、その網膜神経細胞層中の細胞数の減少を有意に抑制し、また、同モデルにおける硝子体内投与(眼局所投与)において、網膜中のニューロフィラメント軽鎖の発現量の減少を回復させる。よって、視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層および網膜色素上皮層の10層から成る、厚さ0.1〜0.5mmの組織であり、その中には視細胞、双極細胞、神経節細胞、水平細胞およびアマクリン細胞という網膜神経細胞が存在する。
【0003】
網膜神経細胞は光刺激を電気信号に変換して、脳へ伝達するといった視覚情報の受容と伝達において重要な役割を果たしている。
【0004】
その伝達メカニズムについて詳述すると、目から入った視覚情報は視細胞により電気信号化されて、水平細胞、双極細胞および/又はアマクリン細胞を経由した後に神経節細胞に伝達される。次いで、その電気信号は神経節細胞の軸索を含む視神経線維の束である視神経を経由して脳に伝達される。
【0005】
ところで、視神経が種々の原因により障害を受けると視神経の恒常性が維持できなくなり、視覚情報の脳への伝達が妨げられて、失明、視野狭窄等の視野障害を生じる。
【0006】
視神経を障害する原因は種々考えられるが、主な原因としては、1)眼圧上昇、2)網膜血流循環障害・網膜虚血、3)興奮性アミノ酸上昇等が挙げられ、それらの病態に伴うグルタミン酸シグナルカスケードの活性化や網膜神経節細胞の軸索障害とそれらにつづく網膜神経細胞のアポトーシスにより、視神経が障害されるものと考えられている。
【0007】
従って、グルタミン酸シグナルカスケードの一部を遮断することで、網膜神経細胞のアポトーシスを抑制して、網膜神経細胞を保護する薬剤、すなわち、グルタミン酸神経毒性抑制薬、N−メチル−D−アスパラギン酸(以下、「NMDA」ともいう)受容体遮断薬、一酸化窒素合成阻害薬等の薬物が視神経障害およびそれに伴う眼疾患の予防又は治療剤として有用であると考えられ、現在、種々の検討がなされている。
【0008】
例えば、特許文献1にはβ遮断薬の一つであるニプラジロールを有効成分として含む網膜神経細胞保護剤が、特許文献2にはインターロイキン−1受容体アンタゴニストタンパクを有効成分として含む視神経節細胞保護剤が、特許文献3にはブナゾシン等のα受容体遮断薬を有効成分として含む視神経節細胞保護剤が、特許文献4には含フッ素プロスタグランジンF2α誘導体を有効成分とする網膜神経細胞保護剤が、特許文献5にはインダゾール誘導体を有効成分として含む網膜神経細胞保護剤が開示されている。
【0009】
また、視神経障害を伴う代表的な眼疾患として、緑内障、緑内障性視野狭窄、緑内障性視神経萎縮、緑内障性視神経症、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、糖尿病性網膜症、黄斑変性(萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性等の加齢黄斑変性)、網膜色素変性症、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、レーベル病、虚血性視神経症等の緑内障性疾患、網膜疾患、虚血性障害等が挙げられる。
【0010】
一方、4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩の一つである(E)−4,6−ジクロロ−3−(3−オキソ−3−(フェニルアミノ)−1−プロペニル)−1H−インドール−2−カルボン酸 一ナトリウム塩(GV−150526A)が、アルツハイマー、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症等の治療剤として有用な興奮性アミノ酸の拮抗剤として特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0011】
また、4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩の一つである(E)−4,6−ジクロロ−3−(3−オキソ−3−(フェニルアミノ)−1−プロペニル)−1H−インドール−2−カルボン酸 一ナトリウム塩(GV−196771A)が、アルツハイマー、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症等の治療剤として有用なNMDAのアンタゴニストとして特許文献3に記載されている。
【0012】
さらに、4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩がスフィンゴシン−1−フォスフェイト(以下、「S1P」ともいう)受容体アゴニストおよび/又はアンタゴニスト活性を有し、緑内障、ドライアイ、血管新生、心臓血管疾患等の治療剤として有用なインドール誘導体が特許文献4に記載されている。
【0013】
しかしながら、いずれの特許文献にも、4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩の視神経障害の予防又は治療効果について、明示的、かつ、具体的な記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6-49027号公報
【特許文献2】国際公開93/21153号パンフレット
【特許文献3】国際公開95/10517号パンフレット
【特許文献4】国際公開2007/112322号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤として有用な化合物を見出すこと、特に経口投与又は眼局所投与により該薬理効果を発現する化合物を見出すことは非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明者等は視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤として有用な化合物を見出すべく、膨大な数の化合物について、NMDA誘発ラット網膜障害モデルに対する効果を検討した。その結果、4,6−ジクロロ−1H−インドール−2−カルボン酸誘導体又はその塩が、
1.NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおける経口投与において、その網膜神経細胞層中の細胞数の減少を抑制すること、
2.NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおける硝子体内投与において、網膜中のニューロフィラメント軽鎖(視神経軸索の主構成成分の一つであり、視神経軸索の形態維持に重要な成分)の発現量の減少を回復させること、
3.メマンチン等の他のNMDA受容体遮断薬で見られる体重増加抑制効果等の、副作用を有しない、および/又は副作用を軽減すること、
を見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩(以下、「本化合物」ともいう)の少なくとも一つを有効成分として含有する視神経障害の予防又は治療剤であり、特に体重増加抑制効果等の、副作用を有しない、および/又は副作用を軽減した予防又は治療剤に関する。
【0018】
【化1】

【0019】
[式中、R1は水素原子又は低級アルキル基を示し;
2は水素原子又は低級アルキル基を示し;
1とR2が一緒になって、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環又はアゼパン環を形成してもよく;
3がカルボキシ基又はそのエステル若しくはそのアミドを示す。以下、同じ。]
本明細書中で使用される文言の定義について以下に詳しく説明する。
【0020】
「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子を示す。
【0021】
「低級アルキル基」とは、炭素原子数が1〜8個、好ましくは1〜6個、特に好ましくは1〜4個の直鎖又は分枝のアルキル基を示す。具体例として、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル基等が挙げられる。
【0022】
「ハロゲノ低級アルキル基」とは、1又は複数(好ましくは2又は3個)のハロゲン原子で置換された低級アルキル基を示す。具体例として、トリフルオロメチル、ジフルオロメチル基等が挙げられる。
【0023】
「アリール基」とは、炭素原子数が6〜14個の単環式芳香族炭化水素又は2環式若しくは3環式の縮合多環式芳香族炭化水素から水素1原子を除いた残基を示す。具体例として、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等が挙げられる。
【0024】
「低級アルコキシ基」とは、ヒドロキシ基の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例として、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシルオキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、イソペントキシ基等が挙げられる。
【0025】
「ハロゲノ低級アルコキシ基」とは、1又は複数(好ましくは2又は3個)のハロゲン原子で置換された低級アルコキシ基を示す。具体例として、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ基等が挙げられる。
【0026】
「置換基を有してもよい低級アルキル基」とは、無置換の低級アルキル基および置換基を有する低級アルキル基を示す。置換基を有する低級アルキル基とは、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノ低級アルキル基、アリール基、低級アルコキシ基およびハロゲノ低級アルコキシ基からなる群から選択される1又は複数の基(好ましくは2又は3個)で置換された低級アルキル基を示す。
【0027】
「置換基を有してもよいアリール」とは、無置換のアリール基および置換基を有するアリール基を示す。置換基を有するアリール基とは、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノ低級アルキル基、低級アルコキシ基およびハロゲノ低級アルコキシ基からなる群から選択される1又は複数の基(好ましくは2又は3個)で置換されたアリール基を示す。
【0028】
「カルボキシ基のエステル」とは、以下の一般式(2)で示される基を示す。
【0029】
【化2】

【0030】
「式中、R4は、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示す。」
「カルボキシ基のアミド」とは、以下の一般式(3)で示される基を示す。
【0031】
【化3】

【0032】
「式中、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示す。」
【0033】
本発明における「複数」とは、夫々が同一であっても異なるものであってもよく、その個数は、2又は3個の場合が好ましく、特に2個の場合が好ましい。
【0034】
本化合物における「塩」とは、医薬として許容される塩であれば、特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等の有機酸との塩、臭化メチル、ヨウ化メチル等との四級アンモニウム塩、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオンとの塩、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、鉄、亜鉛等との金属塩、アンモニアとの塩、トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0035】
本化合物に幾何異性体および/又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本化合物の範囲に含まれる。
【0036】
本化合物にプロトン互変異性が存在する場合は、それらの互変異性体(ケト体、エノール体)も本化合物の範囲に含まれる。
【0037】
本化合物に水和物および/又は溶媒和物が存在する場合は、それらの水和物および/又は溶媒和物も本化合物の範囲に含まれる。
【0038】
本化合物に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合は、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本化合物の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存等の条件および状態(尚、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が種々変化する場合の各段階における結晶形およびその過程全体を意味する。
【0039】
(a)本化合物の例として、下記一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が以下に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0040】
【化4】

【0041】
(a1)R1は水素原子又は低級アルキル基を示し;および/又は
(a2)R2は水素原子又は低級アルキル基を示し;および/又は
(a3)R1とR2が一緒になって、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環又はアゼパン環を形成してもよく;および/又は
(a4)R3がカルボキシ基又はそのエステル若しくはそのアミドを示す。
【0042】
すなわち、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、上記(1a)、(2a)、[又は(3a)]および(4a)から選択される各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0043】
(b)本化合物における好ましい例として、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が以下に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0044】
(1b)R1は水素原子を示し;および/又は
(2b)R2は水素原子を示し;;および/又は
(3b)R1とR2が一緒になって、ピロリジン環を形成してもよく;
(4b)R3がカルボキシ基を示す。
【0045】
すなわち、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、上記(1b)、(2b)[又は(3b)]および(4b)から選択される各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0046】
尚、この(b)の条件と前記(a)の条件との組み合わせを充足する化合物又はその塩も本化合物の範囲である。
【0047】
本化合物における好ましい具体例として、以下の化合物又はその塩を挙げることができる。
【0048】
・(E)−4,6−ジクロロ−3−(3−オキソ−3−(フェニルアミノ)−1−プロペニル)−1H−インドール−2−カルボン酸(化合物A)、又は
・(E)−4,6−ジクロロ−3−((2−オキソ−1−フェニル−3−ピロリジニリデン)メチル)−1H−インドール−2−カルボン酸(化合物B)。
【0049】
【化5】

【0050】
【化6】

【0051】
本化合物における特に好ましい具体例として、以下の化合物の塩を挙げることができる。
【0052】
・(E)−4,6−ジクロロ−3−(3−オキソ−3−(フェニルアミノ)−1−プロペニル)−1H−インドール−2−カルボン酸 一ナトリウム塩(化合物A’、GV−150526A)、又は
・(E)−4,6−ジクロロ−3−((2−オキソ−1−フェニル−3−ピロリジニリデン)メチル)−1H−インドール−2−カルボン酸 一ナトリウム塩(化合物B’、GV−196771A)。
【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
本化合物の少なくとも一つ、好ましくは本化合物の一つ、を有効成分として含有する視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤が本発明である。
【0056】
本発明における「視神経障害」とは、視神経障害および/又は視神経障害を伴う眼疾患を意味する。
【0057】
ここで「視神経障害を伴う眼疾患」とは、視神経障害を伴う眼疾患であれば、特に制限はないが、緑内障性疾患、網膜疾患、虚血性障害等が例示され、具体的には、緑内障、緑内障性視野狭窄、緑内障性視神経萎縮、緑内障性視神経症、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、糖尿病性網膜症、黄斑変性(萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性等の加齢黄斑変性)、網膜色素変性症、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、レーベル病、虚血性視神経症等が挙げられる。
【0058】
本発明における「緑内障性視神経障害」とは、緑内障に起因する視神経障害であれば特に制限はないが、具体的には、緑内障および/又は緑内障に伴う眼疾患を意味し、より具体的には、緑内障および緑内障性視野狭窄、緑内障性視神経萎縮、緑内障性視神経症等の緑内障性眼疾患が挙げられる。
【0059】
本発明における「網膜神経細胞」とは視覚信号の脳への伝達に関与する神経細胞を意味し、具体的には視細胞、水平細胞、双極細胞、視神経節細胞、アマクリン細胞等を意味する。
【0060】
本発明における「網膜神経細胞死」とは、網膜神経細胞のアポトーシスおよび/又はネクローシスを意味する。
【0061】
本発明における「ニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤」とは、網膜中のニューロフィラメント軽鎖の発現量の減少を抑制および/又は増加させる薬剤を意味する。尚、このニューロフィラメント軽鎖は、視神経軸索の主構成成分の一つであり、視神経軸索の形態維持に重要な成分である。
【0062】
本化合物は経口でも、非経口でも投与することができる。投与形態としては、経口投与、眼局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて医薬として許容される添加剤を適宜選択して使用し、投与形態に適した剤形に製剤化することができる。
【0063】
投与剤形としては、経口剤の場合、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口剤としては、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル、挿入剤等が挙げられる。
【0064】
例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤の場合、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤、等を必要に応じて適宜選択して使用し、製剤化することができる。
【0065】
注射剤(水性、油性、懸濁性)は、塩化ナトリウム等の等張化剤;大豆油、マクロゴール等の溶剤又は溶解補助剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリソルベート80等の界面活性剤;カルメロースナトリウム、メチルセルロース等の増粘剤等、ベンジルアルコール等の無痛化剤、等を必要に応じて適宜選択して使用し、製剤化することができ、そのpHは注射剤に許容される範囲内であれば特に問題はなく、好ましくはpH4〜8の範囲が望ましい。
【0066】
点眼剤(水性、油性、懸濁性)は、ヒマシ油、グリセロール、アルコール、ポリグリセロールとアルコールとのエーテル化合物等の溶剤又は溶解補助剤、塩化ナトリウム、濃グリセリン等の等張化剤;リン酸塩、炭酸塩等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤、懸濁性点眼剤においては、水溶性高分子等の分散剤、塩化ナトリウム、濃グリセリン等の等張化剤;リン酸塩、炭酸塩等の緩衝化剤;ポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤、等を必要に応じて適宜選択して使用し、製剤化することができ、そのpHは眼科用の点眼剤に許容される範囲内であれば特に問題はなく、好ましくはpH4〜8の範囲が望ましい。
【0067】
眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を使用し、製剤化することができる。
【0068】
挿入剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを使用して、製剤化することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤等を必要に応じて適宜選択して使用することができる。
【0069】
眼内インプラント用製剤は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリアンハイドライド、ポリオルソエステル、ポリイプシロンカプロラクトン等の生体分解性ポリマーを使用して製剤化することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤等を必要に応じて適宜選択して使用することができる。また、エチレンビニルアセテート共重合体等の生体非分解性ポリマーを使用しても製剤化することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤等を必要に応じて適宜選択して使用することができる。
【0070】
本化合物の投与量は、剤形、患者の症状、年令、体重等に応じて適宜選択できる。例えば、経口投与の場合、0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、特に好ましくは0.5から1000mgのものを1日あたり1〜数回に分けて投与することができる。注射剤の場合、0.00001〜2000mg、好ましくは0.0001〜1500mg、特に好ましくは0.001から500mgのものを1日あたり1〜数回に分けて投与することができる。点眼剤の場合、0.00001〜10%(w/v)、好ましくは0.0001〜5%(w/v)、特に好ましくは0.001〜1%のものを1日1〜数回点眼することができる。眼軟膏剤の場合、0.0001〜2000mgを含有するものを塗布することができる。挿入剤又は眼内インプラント用製剤の場合、0.0001〜2000mgを含有するものを挿入又はインプラントすることができる。
【発明の効果】
【0071】
後述の薬理試験の項で詳細に説明するが、本化合物は、NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおける経口投与試験において、その網膜神経細胞層中の細胞数の減少を抑制した。また、同モデルにおける硝子体内投与試験において、網膜中のニューロフィラメント軽鎖の発現量の減少を回復させた。
【0072】
以上より、本化合物は、視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤として有用であり、特に緑内障性視神経障害の予防又は治療剤、より具体的には緑内障、緑内障性視野狭窄、緑内障性視神経萎縮、緑内障性視神経症等の緑内障性眼疾患の予防又は治療剤として有用であり、メマンチン等の他のNMDA受容体遮断薬で見られる体重増加抑制効果等の、副作用を有しない、および/又は軽減した予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下に本発明の薬理試験の結果および製剤例を示す。尚、これらの例示は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0074】
[薬理試験]
【実施例1】
【0075】
1.NMDA誘発ラット網膜障害モデルを用いた試験
(被験化合物の経口投与による網膜切片評価)
視神経障害モデルとして汎用されるNMDA誘発ラット網膜障害モデル(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2003; 44: 385-392)を用いて、本化合物の有用性(網膜神経細胞死抑制効果)を評価した。
【0076】
(NMDA誘発ラット網膜障害モデルの作製方法)
ラット[Slc:SD、雄性、約7週齢]に空気 1〜1.5L/分で3−4%(V/V)イソフルランを気化させたガスを吸入させて全身導入麻酔し、2−3%(V/V)イソフルランの条件で維持麻酔した。その後、2mmol/Lとなるようにリン酸緩衝液(以下、「PBS」ともいう)に溶解したNMDA(Sigma製、[カタログ番号:M3262])溶液 5μL(NMDAとして10nmol)を硝子体内に投与した。
【0077】
(網膜切片の作製・評価方法)
NMDA溶液の硝子体内投与3日後のラットに100mg/kgペントバルビタールナトリウム注射液を腹腔内投与して全身麻酔し、眼球を摘出した。摘出した眼球を25%(W/V)グルタルアルデヒド:10%(W/V)中性緩衝ホルマリン=1:9の混合液で固定した。固定した眼球をパラフィンで包埋した後に、薄切を行い網膜切片(3μm厚)を作製し、ヘマトキシリン−エオジンで染色した。網膜切片は1眼につき視神経乳頭部が入るように45μm間隔で8切片作製した。その8切片から任意に3切片を選択し、選択した切片について、視神経乳頭から約1.25mmを中心にして左右700〜900μmの網膜の写真撮影を行い、網膜神経節細胞層中の細胞数(以下、「GCL細胞数」ともいう)を算出した(平均値)。得られたGCL細胞数から、式1に従い、無処置群を100%、10nmolNMDA硝子体内投与+基剤を経口投与した群を0%とした場合の各被験化合物のGCL細胞数減少抑制率(%)を算出した。尚、各群の例数は4匹(7〜8眼)である。
【0078】
[式1]
GCL細胞数減少抑制率(%)=(N−N)/(N−N)×100
:無処置群のGCL細胞数
:10nmolNMDA硝子体内投与+基剤を経口投与した群のGCL細胞数
:10nmolNMDA硝子体内投与+各被験化合物を経口投与した群のGCL細胞数
(体重の評価方法)
NMDA硝子体内投与当日から眼球摘出日まで、毎日1回各個体の体重測定を実施した。各個体のNMDA硝子体内投与当日の体重を基準として、眼球摘出日の体重との差分を計算し、各個体の体重増加量を算出した(平均値)。尚、各群の例数は4匹である。
【0079】
(投与方法)
[NMDA硝子体内投与+基剤経口投与群]
PBSに溶解したNMDA溶液 5μL(NMDAとして10nmol)を硝子体内に投与した。また、0.5%(W/V)メチルセルロース水溶液を、NMDA硝子体内投与日から2日後までの3日間、10mL/kgの投与液量で1日2回反復経口投与した。尚、NMDA硝子体内投与日はNMDA硝子体内投与約1時間前および1〜2時間の2回、0.5%(W/V)メチルセルロース水溶液を経口投与した。
【0080】
[NMDA硝子体内投与+各被験化合物経口投与群]
PBSに溶解したNMDA溶液 5μL(NMDAとして10nmol)を硝子体内に投与した。また、0.5%(W/V)メチルセルロース液に懸濁させた各被験化合物を30mg/kgの用量で、NMDA硝子体内投与日から2日後までの3日間、10mL/kgの投与液量で1日2回反復経口投与した。なお、NMDA硝子体内投与日はNMDA投与約1時間前および1〜2時間の2回、0.5%(W/V)メチルセルロース液に懸濁させた各被験化合物を30mg/kgの用量で、経口投与した。
【0081】
[NMDA硝子体内投与+対照化合物経口投与群]
対照化合物としてメマンチンを用いた。PBSに溶解したNMDA溶液 5μL(NMDAとして10nmol)を硝子体内に投与した。また、0.5%(W/V)メチルセルロース液に溶解させたメマンチンを30mg/kgの用量で、NMDA硝子体内投与日から2日後までの3日間、10mL/kgの投与液量で1日2回反復経口投与した。なお、NMDA硝子体内投与日はNMDA投与約1時間前および1〜2時間後の2回、0.5%(W/V)メチルセルロース液に溶解させたメマンチンを30mg/kgの用量で、経口投与した。
【0082】
(試験結果)
被験化合物の例として、化合物A’および化合物B’を用いた場合の試験結果を表1に示す。表1から明らかなように、化合物A’、化合物B’および対照化合物であるメマンチンはNMDA誘発ラット網膜障害モデルにおいて生じる、網膜におけるGCL細胞数の減少を抑制した。
【0083】
【表1】

【0084】
体重増加量の試験結果を表2に示す。表2から明らかなように、化合物A’および化合物B’は無処置群とほぼ同等の体重増加量を示したが、メマンチンは無処置群に比べ、体重増加量を抑制した。
【0085】
【表2】

【0086】
(考察)
試験結果から、化合物A’および化合物B’を含む本化合物は経口投与等の全身暴露の投与形態において、体重増加抑制の副作用を示さずに、視神経障害の予防又は治療効果および網膜神経細胞死の抑制効果を有する。特に緑内障性視神経障害の予防又は治療効果を有する。一方、メマンチンは同様の視神経障害の予防又は治療効果及び網膜神経細胞死の抑制効果を有するが、体重増加抑制の副作用を示すため、上述の抑制効果には本化合物がより有用であることが示唆される。
【実施例2】
【0087】
2.NMDA誘発ラット網膜障害モデルを用いた試験
(被験化合物の硝子体内投与による定量的Polymerase chain reaction(以下、「PCR」ともいう)評価)
(定量的PCRでの評価方法)
NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおいて、視神経軸索の主構成成分であり、軸索の形態維持に重要とされるニューロフィラメント軽鎖(以下、「NFL」ともいう)の網膜組織中での発現量を指標に、被験化合物の有効性を評価した。
【0088】
(評価方法)
NMDAの硝子体内投与1日後のラットに100mg/kgペントバルビタールナトリウム注射液を腹腔内投与して全身麻酔した後に眼球を摘出、網膜を単離した。単離した網膜をホモジナイズし、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN製[カタログ番号:79306])およびRNeasy 96 Kit(250)(QIAGEN製[カタログ番号:74106])を用いてtotalRNAを抽出し、PrimeScript(登録商標) RT reagent Kit(TAKARA製[カタログ番号:RR037B])を用いてcDNAを合成した。QuantiTect Multiplex PCR Kit(1000)(QIAGEN製、[カタログ番号:204545])に添付されている説明書に従い、QuantiTect Multiplex PCR Master Mix、合成したcDNA、NFLのプライマー・プローブ(Sigma製[オーダーメード])およびグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「GAPDH」ともいう)のプライマー・プローブ(AppliedBiosystems製、[カタログ番号:4352338E])を混合し、定量的PCR装置(AppliedBiosystems製[カタログ番号:7500−03])でPCR反応を実施し、NFLおよびGAPDHの発現量を測定した。
【0089】
得られたNFLおよびGAPDHの発現量から、式2に従いNFLの発現量をハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現量で補正する事により、相対的NFL発現量を算出した。その後、式3に従い、無処置群を100%、10nmolNMDA硝子体内投与を行った群を0%とした場合の被験化合物のNMDAによるNFL減少に対するNFL回復率(%)を算出した。尚、各群の例数は1匹(2眼)である。
【0090】
尚、本発明に用いたNFLのプライマー・プローブ配列は以下の通りである。
【0091】
【表3】

【0092】
[式2]
相対的NFL発現量=(NFL発現量/GAPDH発現量)
[式3]
NFL回復率(%)=(E−E)/(E−E)×100
:無処置群の相対的NFL発現量
:10nmolNMDA硝子体内投与を行った群の相対的NFL発現量
:10nmolNMDAに各化合物を混合し、硝子体内投与を行った群の相対的NFL発現量
(投与方法)
[NMDA硝子体内投与群]
30%(V/V)DMSO含有精製水に溶解したNMDA溶液 5μL(NMDAとして10nmol)を硝子体内に投与した。
【0093】
[各化合物硝子体内投与群]
30%(V/V)DMSO含有精製水に溶解したNMDAと被験化合物の混合溶液 5μL(NMDAとして10nmol、被験化合物として15nmol)を硝子体内に投与した。
【0094】
(結果)
被験化合物の例として、化合物A’および化合物B’を用いた場合の試験結果を表4に示す。表4から明らかなように、化合物A’および化合物B’は、NMDA誘発ラット網膜障害モデルにおいて生じるNFLの発現量の減少を回復させた。一方、同一用量のメマンチンもNFL発現量の減少を回復させたが、その強度は化合物A’および化合物B’に比べ、明らかに弱かった。
【0095】
【表4】

【0096】
(考察)
試験結果から、化合物A’又は化合物B’を含む本化合物は局所投与の形態においても視神経障害の予防又は治療効果予防又は治療効果を有し、また、NFLの発現量の回復効果も有する。一方、メマンチンは視神経障害の予防又は治療効果及び網膜神経細胞死の抑制効果を有するが、同一用量の局所投与では化合物A’又は化合物B’の効果よりも明らかに弱いことから、化合物自体が保有するポテンシャルは本化合物がより強力であることが示唆される。
【0097】
[製剤例]
本化合物の代表的な製剤例を以下に示す。
【実施例3】
【0098】
1)錠剤(150mg中)
本化合物 10mg
乳糖 90mg
トウモロコシデンプン 40mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 5.5mg
ヒドロキシプロピルセルロース 4mg
ステアリン酸マグネシウム 0.5mg
上記処方の錠剤にコーティング剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、タルク、酸化チタン、シリコーン樹脂等のコーティング剤)3mgを用いてコーティングを施し、目的とする錠剤を得ることができる。また、本化合物並びに添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の錠剤を得ることもできる。
【実施例4】
【0099】
2)カプセル剤(150mg中)
本化合物 50mg
乳糖 90mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 4.5mg
ヒドロキシプロピルセルロース 4mg
ステアリン酸マグネシウム 1.5mg
本発明化合物並びに添加剤の種類および又は量を適宜変更することで、所望のカプセル剤を得ることができる。
【実施例5】
【0100】
3)水溶性点眼液(100ml中)
本化合物 100mg
1-O-n-ドデシル-3-O-メチル-2-O-2’,3’-ジヒドロキシプロピルグリセロール
7000mg
エタノール 5mL
塩化ナトリウム 900mg
滅菌精製水 適量
本化合物および添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の水性点眼剤を得ることができる。
【実施例6】
【0101】
4)油性点眼液 (100ml中)
本化合物 100mg
ヒマシ油 適量
本化合物および添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の油性点眼剤を得ることができる。
【実施例7】
【0102】
5)懸濁性点眼液(100ml中)
本化合物 100mg
塩化ナトリウム 750mg
塩化ベンザルコニウム 5mg
ポリソルベート80 適量
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 適量
エデト酸ナトリウム 適量
リン酸水素ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
本化合物および添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の懸濁性点眼剤を得ることができる。
【実施例8】
【0103】
6)水性注射剤(100ml中)
本化合物 100mg
塩化ナトリウム 750mg
マクロゴール400 1000mg
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量
本化合物および添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の水性注射剤を得ることができる。
【実施例9】
【0104】
7)油性注射剤(100ml中)
本化合物 100mg
大豆油 適量
本化合物および添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の油性注射剤を得ることができる。
【実施例10】
【0105】
8)懸濁性注射剤(100ml中)
本化合物 100mg
塩化ナトリウム 750mg
カルメロースナトリウム 750mg
ポリソルベート80 40mg
ベンジルアルコール 40mg
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量
本化合物および添加物の種類および/又は量を適宜変更することで、所望の懸濁性注射剤を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本化合物は、視神経障害の予防又は治療剤、網膜神経細胞死の抑制剤、又はニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤として有用であり、特に緑内障性視神経障害の予防又は治療剤、より具体的には緑内障、緑内障性視野狭窄、緑内障性視神経萎縮、緑内障性視神経症等の緑内障性眼疾患の予防又は治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の少なくとも一つを有効成分として含有する視神経障害の予防又は治療剤。
【化1】

[式中、R1は水素原子又は低級アルキル基を示し;
2は水素原子又は低級アルキル基を示し;
1とR2が一緒になって、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環又はアゼパン環を形成してもよく;
3がカルボキシ基又はそのエステル若しくはそのアミドを示す。]
【請求項2】
一般式(1)において、
1は水素原子を示し;
2は水素原子を示し;
1とR2が一緒になって、ピロリジン環を形成してもよく;
3がカルボキシ基を示す、
請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物が、
・(E)−4,6−ジクロロ−3−(3−オキソ−3−(フェニルアミノ)−1−プロペニル)−1H−インドール−2−カルボン酸、又は
・(E)−4,6−ジクロロ−3−((2−オキソ−1−フェニル−3−ピロリジニリデン)メチル)−1H−インドール−2−カルボン酸である請求項2記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
(E)−4,6−ジクロロ−3−(3−オキソ−3−(フェニルアミノ)−1−プロペニル)−1H−インドール−2−カルボン酸 一ナトリウム塩(GV−150526A)を有効成分として含有する視神経障害の予防又は治療剤。
【請求項5】
(E)−4,6−ジクロロ−3−((2−オキソ−1−フェニル−3−ピロリジニリデン)メチル)−1H−インドール−2−カルボン酸 一ナトリウム塩(GV−196771A)を有効成分として含有する視神経障害の予防又は治療剤。
【請求項6】
視神経障害が緑内障性視神経障害である請求項1〜5記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
緑内障性視神経障害が緑内障、緑内障性視野狭窄、緑内障性視神経萎縮又は緑内障性視神経症である請求項6記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
視神経障害が網膜神経節細胞の軸索流障害である請求項1〜5記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
請求項1〜5いずれか記載の化合物又はその塩の少なくとも一つを有効成分として含有する網膜神経細胞死の抑制剤。
【請求項10】
網膜神経細胞が網膜神経節細胞である請求項9記載の抑制剤。
【請求項11】
請求項1〜5いずれか記載の化合物又はその塩の少なくとも一つを有効成分として含有するニューロフィラメント軽鎖の発現量回復剤。
【請求項12】
経口投与により薬効を奏することを特徴とする請求項1〜7記載の予防又は治療剤。
【請求項13】
眼局所投与により薬効を奏することを特徴とする請求項1〜7記載の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2010−235597(P2010−235597A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52469(P2010−52469)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】