説明

5−アザシトシンヌクレオシド及びその誘導体の製造方法

【課題】5-アザシトシンヌクレオシド、例えば、アザシチジンやデシタビンを合成する方法を提供する。
【解決手段】スルホン酸触媒の存在下にシリル化5-アザシトシンと式の保護D-リボフラノースとをカップリングする工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年8月8日に出願された米国仮特許出願第61/188,431号の優先権を主張する。この明細書の全体の内容は本願明細書に含まれるものとする。
発明の分野
本発明は、1-グリコシル-5-アザシトシン(以後5-アザシトシンヌクレオシドと呼ぶ)の効率的な商業的合成に関する。本発明の方法は、5-アザシトシンヌクレオシド、例えば、5-アザシチジン(アザシチジン)、2'-デオキシ-5-アザシチジン(デシタビン)を調製するのに特に有効である。アザシチジン及びそのリボデオキシ誘導体デシタビンが疾患、特に骨髄異形成症候群(MDS)の治療に有効であることはよく知られている。
【背景技術】
【0002】
5-アザシトシンヌクレオシド及びその合成の例は、すでに報告されている。アザシチジン(5-アザシチジン、5-AC、VidazaTMとしても知られる)及びそのリボデオキシ誘導体デシタビン(2'-デオキシ-5-アザシチジン、5-アザ-2'-デオキシシチジン、DAC、Dacogen(登録商標)としても知られる)は、最初は癌に対する潜在的な化学療法剤として合成された。多くの方法がこれらを製造するために開発されてきたが、これらの方法は、概して、効率が悪く、商業的生産に望ましくない。1つの重要な問題は、5-アザシトシン環(s-トリアジン環)が炭水化物に結合した場合、水による(中性、塩基性及び酸性条件で)分解に感受性があり、実際に、水性製剤において、水性エマルジョンにおいて、水溶液において、また、合成での水系後処理において水分にさらされたときに簡易加水分解を受けることであり、商業的製造の課題である。[1],[13] それ故、これらのヌクレオシドと水との接触を制限するか又は避ける製造工程を開発することが望ましい。
【0003】
例えば、以下の参考文献を参照のこと:
(1) J. A. Beisler, J. Med. Chem., 1978, 21, 204.
(2) US3350388 (1967) and DE1922702 (1969), Sorm and Piskala (Ceskosl Ovenska Akademieved); A. Piskala and F. Sorm, Collect. Czech. Chem. Commun. 1964, 29, 2060.
(3) M. W. Winkley and R. K. Robins, J. Org. Chem., 1970, 35, 491.
(4) A. Piskala and F. Sorm, Nucl. Acid Chem., 1978, 1, 435.
(5) DE2012888 (1971), Vorbrueggen and Niedballa (Schering AG).
(6) U. Niedballa and H. Vorbrueggen, J. Org. Chem., 1974, 39, 3672-3674.
(7) US7038038 (2006), Ionescu and Blumbergs (Pharmion Corporation).
(8) H. Vorbrueggen, K. Krolikiewicz and B. Bennua, Chem. Ber., 1981, 114, 1234-1255.
(9) US4082911 (1978), Vorbrueggen (Schering Aktiengesellschaft).
(10) US6887855 (2005), Ionescu and Blumbergs and Silvey (Pharmion Corporation, Ash Stevens, Inc.).
(11) US6943249 (2005), Ionescu and Blumbergs and Silvey (Ash Stevens, Inc., Pharmion Corporation).
(12) J. Ben-Hatter and J. Jiricny, J. Org. Chem., 1986, 51, 3211-3213.
(13) L. D. Kissinger and N. L. Stemm, J. Chromatography, 1986, 353, 309-318.
(14) U. Niedballa and H. Vorbrueggen, J. Org. Chem., 1974, 39, 3654-3660.
上記参考文献の各々の内容は全て、本願明細書に含まれるものとする。
【0004】
Piskala and Sorm[2]は、1-β-配置を有する反応性N-グリコシルイソシアネート中間体の使用を含むアザシチジン及びデシタビンの合成のための長い方法を教示している。合成プロセス(スキーム1)は、ペルアシルグリコシルイソシアネートとS-アルキルイソチウレアとを反応させて、ペルアシルグリコシルイソチオウレアを得る工程、後者を高温(135℃)で脂肪酸のオルトエステルで凝結して、ヒドロキシ保護グリコシル-4-アルキルメルカプト-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-1,3,5-トリアジンを得、続いて密封容器においてメタノール(MeOH)中アンモニア(NH3)で12-24時間脱保護する工程を含む。イソシアネートに基づき、アザシチジンの全収率は43%であり、デシタビンの全収率は33%であるが、イソシアネートを保存することは難しいものであり得、その使用は健康上のリスクを与えることになる。経路にはまた、発癌性のICHクラスI溶媒ベンゼンの使用、及び脱保護工程における圧力容器のための要求を含む、スケールアップ工程が難しい他の欠点がある。
【0005】
【化1】

【0006】
アザシチジン及びデシタビンのための他の可能性のあるプロセスは、Winkley and Robins[3](スキーム2)によって報告された。この方法は、おそらくSN2機序を介して進行する1-ハロ糖類と2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(シリル5-アザシトシン)との非触媒カップリングを用いる。Piskala and Sorm[4]は、また、アザシチジンの合成に1-クロロ糖を用いる同様のプロセスを報告した(スキーム2)が、1-クロロ糖の合成においてガス状塩化水素が必要なこと、全収率が非常に低いこと(全収率アザシチジン11%、デシタビン7%[3])、反応時間が長いこと(3-7日間)、脱保護工程において圧力容器が必要なこと、ハロ糖類の不安定性、複雑なカラムクロマトグラフィ及び長い処理と分離の手順の欠点がある。
【0007】
【化2】

【0008】
Niedballa and Vorbrueggen[5,6]は、ジクロロエタン(DCE)又はアセトニトリル(MeCN)中多量の塩化スズを用いて5-アザシトシンと保護された糖部分のカップリングを促進させるアザシチジン及びデシタビンを含む保護(遮断)ヌクレオシドの合成を教示している(スキーム3)。Ionescu and Blumbergs[7]によれば、このプロセスには多くの主要な欠点がある: 第1に、APIからスズの除去が難しい。第2に、カップリング混合物の処理の間にエマルジョンが生じた。第3に、不溶のスズ塩を分離するために難しいろ過工程が行われることを必要とする。これらの理由により、このプロセスはアザシチジンの商業的製造に適していないことが結論されるべきである。[7]
【0009】
【化3】

【0010】
Vorbrueggen[9]は、ベンゼン、DCE又はMeCN中シリル化塩基及びヌクレオシド塩基(シトシン、ピリジントリアゾール、及びピリミジンを含むが、5-アザシトシンを含まない)と保護1-O-アシル、1-O-アルキル又は1-ハロ糖類(すなわち、リボース、デオキシリボース、アラビノース及びグルコース誘導体)とをカップリングして保護ヌクレオシドを製造するための一般法を教示している(スキーム4)。カップリングは、トリメチルシリルトリフレート(TMSOTf)、TMSOClO3、TMSOSO2Fを含む、エステル化性鉱酸又は強スルホン酸のトリメチルシリル(TMS)エステルによって促進される。水系後処理のための要求が、この方法をアザシチジン及びデシタビンの合成に望ましくないものにしている。
【0011】
【化4】

【0012】
Ionescu and Blumbergs[7]は、特にVorbrueggenが発明した一般的トリメチルシリルエステル促進カップリング方法に基づくアザシチジンの合成のための製造プロセス(スキーム5)を教示している。[9] 5-アザシトシンのシリル化は、過剰なヘキサメチルジシリザン(HMDS)及び触媒の量の硫酸アンモニウムを用いて行われる。1-O-アシル-炭水化物とシリル化ヌクレオシド塩基のカップリング反応は、理論量を超える非金属ルイス酸触媒TMSOTfの存在下にジクロロメタン(DCM)のような「水難溶性を有する溶媒」中で行われる。水系後処理が使われ、有害な水を除去するとともに溶媒を脱保護工程に適している条件に切り替えるのに費用のかかる多くの工程が必要である。
【0013】
【化5】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それ故、5-アザシトシンヌクレオシド化合物を大規模に製造するより効率的なプロセスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願の一態様は、下記式I:
【0016】
【化6】

【0017】
(式中、R1は、水素、ヒドロキシ又はハロゲンであり; R2は、水素又はハロゲンである)
により表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物の調製方法であって:
a) 5-アザシトシンとシリル化剤とを反応させて、下記式II:
【0018】
【化7】

【0019】
(式中、R3は、各々独立して、置換されていてもよいC1-C20アルキル基又はアリール基である)
により表されるシリル化5-アザシトシンを含有する反応混合物を得る工程;
b) 式IIにより表されるシリル化5-アザシトシンと、下記式III:
【0020】
【化8】

【0021】
(式中、R1'は、水素、ハロゲン又はOR4であり; R4は、ヒドロキシル保護基を示す)
により表される保護D-リボフラノースとを、第一の有機溶媒中で、スルホン酸触媒の存在下にカップリングして、下記式IV:
【0022】
【化9】

【0023】
(式中、R5及びR6は、各々独立して、水素又はSi(R3)3であり、R3、R1'及びR2は、上で定義された通りである)
により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを含む液体反応混合物を得る工程;及び
c) 式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを、式(I)により表される5-アザシトシンヌクレオシドに変換する工程
を含む。
好ましくは、上記方法は、触媒を急冷するか又は除去する水系後処理を含まない。
本出願の他の態様によれば、上記方法において、触媒はスルホン酸に限定されず、適切な触媒であってもよいが、方法は触媒を急冷するか又は除去する水系後処理を含まない。
本発明の更に他の態様によれば、上記のように、式(I)により表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物の製造方法は:
i)極性非プロトン性溶媒中で、少なくとも極性非プロトン性溶媒及び式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを含む均質溶液を形成する工程; 及び
ii)均質溶液中で式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを、式(I)により表される5-アザシトシンヌクレオシドに変換する工程を含む。好ましくは、工程ii)の前に、この方法は、実質量の水、例えば、式(IV)により表される化合物の100質量%未満、より好ましくは式(IV)により表される化合物の10質量%未満、最も好ましくは式(IV)により表される化合物の1質量%未満の存在下に行われる工程を含まない。
実施態様として、上述した形成する工程i)は、好ましくは、式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを含む、すでに存在する溶液及び式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを製造する反応の間に用いられる有機溶媒に、極性非プロトン性溶媒を添加することによって達成される。
【0024】
本発明において用いられるC1-C20アルキル基は、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、又は環状アルキル基、好ましくはメチルであり得る。
本発明において用いられるシリル化剤は、適切な物質、例えば、ヘキサメチルジシリザン(HMDS)、トリメチルシリルクロライド(TMSCl)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)又はトリメチルシリルトリフレート(TMSOTf)であり得る。HMDSは、本発明のシリル化剤で最も好ましい実施態様である。
ヒドロキシル保護基R4は、D-リボフラノースに対するヒドロキシル基を不必要な反応から保護し得る適切な基であり得る。例えば、ヒドロキシル保護基R4は、置換されていてもよいC1-C20アルキルアシル又はアリールアシル基、特にベンゾイル基又はアセチル基であり得る。
b)の工程の前に、本出願の方法は、好ましくは、工程a)の反応混合物から固形のシリル化5-アザシトシン化合物を分離する工程を含む。例えば、分離工程は、シリル化5-アザシトシンを結晶化し(より好ましくは有効量のシリル化5-アザシトシン種晶を添加して結晶化を促進させ)、結晶化シリル化5-アザシトシンをろ別することによって達成され得る。あるいはまた、分離工程は、工程a)の反応混合物中の溶媒を蒸発させることによって達成され得る。結晶化を用いてシリル化化合物を分離することがより好ましい。
カップリングする工程b)は、好ましくは実質的な量を存在させずに、又はより好ましくはシリル化5-アザシトシン化合物のモル量に対して1モル%未満の量のシリル化剤の存在下に行われる。
本発明の一実施態様によれば、方法は、工程b)において得られる式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを含む液体反応混合物を第二の有機溶媒で希釈する工程を含む。好ましくは、第一の有機溶媒の少なくとも一部が第二の有機溶媒によって置き換えられるので、式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドは第二の有機溶媒に溶解されたままである。より好ましくは、工程b)に用いられる第一の有機溶媒の少なくとも60容積%は、その後、工程c)の前に除去される。好ましくは、第二の有機溶媒は、第一の有機溶媒より高い沸点を有する溶媒である。
【0025】
第一の有機溶媒は、水溶性極性溶媒、特にアセトニトリルである。好ましくは、第一の有機溶媒は、非反応性でなければならず、工程b)に用いられる触媒の存在下に安定でなければならず、c)の工程の間は安定でなければならない。第一の有機溶媒が、上記のように、大部分が工程b)の後と工程c)の前に蒸発によって除去され得るので、沸点は高すぎてはならない。一方、工程b)の反応がやや高い温度で行われ得るので、第一の有機溶媒は第一の有機溶媒を蒸発させずに反応混合物が必要とされた反応温度に加熱することができる適切な高沸点を有しなければならない。
第二の有機溶媒は、好ましくは極性非プロトン性溶媒、より好ましくはジメチルスルホキシドである。第二の有機溶媒は、第一の有機溶媒より高い沸点を有する。これは、また、c)の工程の間は安定でなければならない。好ましくは、第二の有機溶媒は、第一の有機溶媒と第二の有機溶媒の混合物を蒸発に供した場合に第一の有機溶媒の前に除去されないように充分高い沸点を有する(「溶媒交換/部分的溶媒交換」)。第二の有機溶媒は、また、好ましくは、c)の工程の前と間に溶解した式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを保持し得るように充分な極性である。すなわち、この高極性が好ましくは工程c)の反応を均質に保持し、これが我々が発見した1つの技術革新であった。工程c)が完全な均質溶液で行われない場合は、5-アザシトシンヌクレオシドを製造する方法を再現するのが比較的難しい。更に、不均一なスラリーにおける反応と比較して、工程c)を均質に保持することは、反応を非常に高速にした。更に、工程c)が高沸点極性溶媒の使用による均質媒体中で行われる場合、工程c)から固体として沈殿後の最終生成物の純度は優れていた。
好ましくは、式Iにより表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物は、アザシチジン
【0026】
【化10】

【0027】
であり、式IIIにより表される保護D-リボフラノースは、
【0028】
【化11】

【0029】
からなる群より選ばれる。
あるいはまた、好ましくは、式Iにより表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物は、デシタビン
【0030】
【化12】

【0031】
であり、保護D-リボフラノース式IIIは、以下に示される2-デオキシ-D-リボフラノース
【0032】
【化13】

【0033】
である。
好ましくは、工程b)における触媒、特にスルホン酸の量は、式IIIにより表される保護D-リボフラノースのモル量に対して、1モル当量未満、特に10-30モルパーセントである。
スルホン酸触媒は、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸である。
シリル化剤は、好ましくはヘキサメチルジシリザンである。
好ましくは、本出願の工程c)は、塩基性脱遮断剤の存在下に式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを脱保護する段階を含む。塩基性脱遮断剤は、好ましくは金属アルコキシド、特にメタノール中ナトリウムメトキシドである。工程c)は、好ましくは20℃〜30℃の温度で行われる。
好ましくは、カップリングする工程b)は、ジクロロメタン(DCM)のような水と混和しない溶媒を存在させずに行われる。
好ましくは、工程b)及びc)は、1つの反応容器内で行われる。
好ましい実施態様として、工程c)は、MeOH中で行われる。より好ましくは、工程c)は、MeCN、DMSO及びMeOHの混合物、特に約0-2容積のMeCN、3容積のDMSO、及び2-3容積のMeOH中で行われる。
【0034】
保護□-D-リボフラノース(III)が1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノースである場合、カップリングする工程b)は、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜60℃の温度で行われる。
好ましくは、本出願の方法は、液体混合物から式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを分離する工程を含まない。
工程c)の後、式(I)により表される5-アザシトシンヌクレオシドは、有機溶媒で沈殿し、続いてろ過することによって反応混合物から分離することができる。式(I)により表される5-アザシトシンヌクレオシドは、また、APIグレードの物質を与えるために、結晶化によって精製することができる。
先行技術と比較して、本発明の方法は、1)水系後処理を必要としない; 2)多量の触媒の添加を必要としない; 3)工程b)及びc)は、より効率的に基本的には1つのリアクタ容器(「ワンポット」)内で行われ得る; 4)時間を節約する; 及び/又は5)製造規模合成に適している。
本発明を特徴づける新規性の種々の特徴は、開示内容に添付され且つその一部をなしている特許請求の範囲に詳細に指摘されている。本発明、その作用効果及び使用によって達成される個々の物体をより良く理解するために、本発明の好ましい実施態様に図示され説明されている図面及び記述内容を参照しなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下は、本発明の好ましい実施態様を記載するものであるが、本発明の範囲を制限するために用いられるべきではない。
本発明は、非常に効率的であり且つ高収量高純度を生じるアザシトシンヌクレオシドの製造方法を示すものである。本発明の鍵となる態様は、シリル5-アザシトシンと保護1-O-アシルリボフラノース又は1-O-アシル-2-デオキシリボフラノース糖類のカップリングにおける触媒として、スルホン酸を好ましくは化学量論量未満で(シリル5-アザシトシンと保護糖に対して)用いる予想外の能力に関する。このことは、5-アザシトシン誘導ヌクレオシドの製造の前には記載されてなく、1当量未満のスルホン酸の使用が最終的に先行技術の方法におけるものより一連の主要プロセスの改善、例えば、水系後処理を省略することができることや反応容器のより効率的な使用につながる。新規な方法は、工業的に適用でき、先行技術で報告されたものより著しく高い収率のアザシチジンを得る製造装置へ拡大されている。[2,3,7]
本発明の実施態様によれば、下記式:
【0036】
【化14】

【0037】
(式中、R1は、水素、ヒドロキシ又はフッ素であり; R2は、水素又はフッ素である)
により表される5-アザシトシンヌクレオシド及びその誘導体の調製方法が示される。シリル5-アザシトシンと保護(遮断)D-リボース糖類とが、好ましくは1当量未満のスルホン酸の触媒下でカップリングされる。カップリングが完了したときに、反応混合物は、5-アザシトシン部分に有害である水あるいは水溶液を添加せずに次の合成工程において用いられる。保護5-アザシトシンヌクレオシドが均質溶液中に残るようにより高い沸点溶媒が添加され、脱保護生成物を形成するとともに強酸触媒を除去するためにメタノール中ナトリウムメトキシドのような脱遮断剤が添加され得る。沈殿後、次に、生成物をろ過によって高収率高純度で集めることができる。この方法において、5-アザシトシンヌクレオチドの非常に効率的な大規模な商業的調製方法が誘導され得る。
本発明の一実施態様において、本発明者らは、特に、シリル化5-アザシトシンとヒドロキシ保護β-D-リボフラノース、2-デオキシ-□,□-D-リボフラノース、2-デオキシ-2-フルオロ-□-D-リボフラノース又は2-デオキシ-2,2-ジフルオロ-□-D-リボフラノースとを化学量論量未満のトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)の存在下に反応させる方法を開発した。該方法は、化学量論量未満のTfOHの使用に限定される必要はないが、影響が大きく、化学量論量未満のTfOHの使用は、他の方法に用いられる標準の水系後処理の完全な省略を可能にする。[6,7,8,9,12] 触媒は、脱保護工程自体で都合よく急冷され、ろ液中の沈殿した生成物から除去される。これにより、水感受性のある生成物を水にさらすことが完全に避けられるように、カップリング反応、触媒の急冷及び脱保護反応が1つのリアクタ内ですべて行うことができる。したがって、カップリング触媒の化学量論量未満の使用が方法全体に大きな影響を有することは明らかである。水系後処理の完全な省略は、特に処理持続時間が研究室規模より非常に長い製造規模に対して他の方法より著しく改善される。水系後処理の間に水感受性のあるグリコシル化5-アザシトシン環の加水分解のために生じ得る収率低下が避けられ、より良好な全体の品質及び収率が可能である。
【0038】
本発明者らは、カップリング反応後にDMSOのような極性溶媒を添加すると、好ましくはMeOH中のNaOMeの溶液において行われる脱保護(脱遮断)反応が、均質溶液として急速に進行することを発見した。この均質溶液は、MeCN、DMSO及びMeOHの混合物である。脱保護工程が完了したときに、多量のMeOHを添加すると沈澱に粗ヌクレオシドAPI生成物を沈殿させ、それを直接集めることができる。APIグレード(HPLC純度≧99.0%、≧0.1%不純物なし)のアザシチジンが、わずか単一の精製工程後に85〜90%の回収率で得られた。カップリング工程で水系後処理を存在させずに反応溶媒としてのMeCNの使用は、他の参考文献に示されるように、水と混和しない溶媒への費用のかかる溶媒交換の要求を排除した。[7,14]]
本発明の実施態様の方法は、他の方法に対していくつかの鍵となる改善を包含する。塩化スズ又はトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(TMS-トリフレート、TMSOTfとしても知られる)の代わりに触媒として強いスルホン酸の使用は、シリル5-アザシトシンと保護糖類との有効なカップリングを可能にする。多くのアルキル又はアリールスルホン酸が使うことができるが、最も好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸が提唱される。触媒は、保護D-リボフラノースのモル量に対して10%〜100%、最も好ましくは20%の範囲で、1モル当量未満から1当量まで使うことができる。シリル5-アザシトシンは、適切なシリル基を含有することができるが、トリメチルシリルが最も好ましい。遮断された糖は、適切なヒドロキシ遮断基、例えば、アルキル基又はアリールアシル基を含有することができる。溶媒は、適切な有機溶媒、好ましくは水混和性有機溶媒、最も好ましくはアセトニトリルである。
【0039】
カップリング反応が完了したときに、好ましくは、水性条件を使わず、代わりに、リアクタの内容物が可溶化されたままであり且つ溶媒が脱遮断条件に安定であるような沸点がより高い極性溶媒が添加される。適切な溶媒は、スルホキシド、アミド、グリコール等であり得る。最も好ましくは、溶媒はDMSOである。最後に、方法は、脱遮断剤を添加し、続いてろ過によって集めることができる生成物の沈殿によって完了する。遮断基がアシルである場合にはアルコキシドが好ましい脱遮断剤であり、一般にアルコール溶液で添加される。典型的には、メタノール中のナトリウムメトキシドが用いられる。この工程が完了したときに、メタノールのような貧溶媒を添加ことによって沈殿させ、ろ過によって高収量高純度で集めることができる。多くの有効なヌクレオシドがこの方法によって合成され得るが、これはアザシチジンの合成に最も適切である。
以下の実施例は、更に例示するために提供され、開示された本発明に対して限定するものではないない。
【実施例】
【0040】
実施例1
2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(シリル5-アザシトシン)の調製
【0041】
【化15】

【0042】
5-アザシトシン(7.33Kg)、HMDS(33.9Kg)及び硫酸アンモニウム(0.44Kg)の混合物を、加熱還流(約115-135℃)し、16時間撹拌した。反応が完了した後、スラリーを118℃に冷却し、次にセライト床でろ過し、HMDS(5.6Kg)ですすいだ。シリル化5-アザシトシン溶液を35℃に冷却し、この溶液を18℃に冷却し、18℃で6.5時間以上撹拌し、次にろ過した。固形物をHMDS(それぞれ5.6Kg)で2回洗浄し、≦70℃で9.5時間減圧下で乾燥して、14.19Kgの白色のシリル5-アザシトシン(87%)を得た。
【0043】
実施例2
シリル5-アザシトシンと糖とのカップリング及び脱保護
【0044】
【化16】

【0045】
2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(4.5Kg)、1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノース(8.8Kg)、無水MeCN(34.6Kg)及びTfOH(600g)の混合物を55℃で12.5時間加熱した。反応混合物を45℃に冷却し、DMSO(29Kg)を添加し、MeCNを約54Lの溶液まで<50℃の内部温度で減圧下に蒸発させた。この溶液を23℃に冷却した。MeOH(13.9Kg)を添加し、続いてMeOH(7.0Kg)で予め希釈したMeOH溶液(2.5Kg)中の30% NaOMeの溶液を添加した。溶液を23℃で35分間撹拌した。反応が完了したときに、MeOH(90.4Kg)を添加し、得られたスラリーを22℃で3時間10分間撹拌し、次にろ過し、MeOH(それぞれ7.0Kg)で3回洗浄した。ケークを70℃よりも低い温度で9時間20分間減圧下で乾燥して、3.2Kgの98.89%純度の粗アザシチジン(1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノースに基づく収率71%)を得た。
【0046】
実施例3
粗アザシチジンの精製
粗アザシチジン(3.2Kg)を20-40℃でDMSO(11.8Kg)に溶解し、ろ過し、集めた固形物をDMSO(10.1Kg)ですすいだ。ろ液を20-25℃に冷却し、MeOH(9.7Kg)を30分かけて添加し、次に、アザシチジン種結晶(30.6g)を添加し、混合物を23℃で約1時間撹拌した。更にMeOHを4時間13分かけて添加し、混合物を20-25℃で少なくとも10時間撹拌し、ろ過し、MeOH(それぞれ10Kg)で3回洗浄した。フィルタケークを≦70℃未満で33時間減圧下で乾燥して、2.6KgのAPIグレードアザシチジン(粗アザシチジンに基づく収率86%)を得た。
【0047】
実施例4
粗デシタビンのワンポット調製方法
【0048】
【化17】

【0049】
MeCN(45mL)、1-O-アセチル-3,5-ジ-O-(4-クロロベンゾイル)-2-デオキシ-D-リボフラノース(3.0g)、2-[(トリメチルシリル)アミノ]-4-[(トリメチルシリル)オキシ]-s-トリアジン(1.78g)及びTfOH(0.5g)の混合物を約0℃で24時間撹拌した。DMSO(6mL)を添加し、この混合物を30〜50℃で減圧下に蒸発させて、MeCNを除去した。29%MeONa/MeOH(1.8g、9.9ミリモル、1.5当量)溶液を約20〜25℃で撹拌しつつ添加した。反応が完了した後、MeOHを添加して沈殿させ、固形物をろ過し、洗浄し、乾燥して、粗デシタビンを得た。粗デシタビンをMeOHから再結晶し、MeOHで3回洗浄し、40℃で減圧下に乾燥することによって、APIグレードデシタビン(HPLC純度>99.0)を調製する。
本発明をそのある種の具体的な実施態様に関して記載し説明してきたが、当業者は手順及びプロトコールの種々の適応、変更、修正、置換、削除、又は追加が本発明の真意と範囲から逸脱することなく行うことができることを理解するであろう。例えば、上記本明細書に示される具体的な条件以外の反応条件も、上述した本発明の方法から化合物を調製する試薬又は方法における変化の結果として適用され得る。それ故、本発明が以下の特許請求の範囲によって限定され且つこの特許請求の範囲が合理的である限り広く解釈されることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I:
【化1】

(式中、R1は、水素、ヒドロキシ又はハロゲンであり; R2は、水素又はハロゲンである)
により表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物の調製方法であって:
a. 5-アザシトシンとシリル化剤とを反応させて、下記式II:
【化2】

(式中、R3は、各々独立して、置換されていてもよいC1-C20アルキル基又はアリール基である)
により表されるシリル化5-アザシトシンを含有する反応混合物を得る工程;
b. 式IIにより表されるシリル化5-アザシトシンと、下記式III:
【化3】

(式中、R1'は、水素、ハロゲン又はOR4であり; R4は、ヒドロキシル保護基を示す)
により表される保護D-リボフラノースとを、第一の有機溶媒中で、スルホン酸触媒の存在下にカップリングして、下記式IV:
【化4】

(式中、R5及びR6は、各々独立して、水素又はSi(R3)3であり、R3は、置換されていてもよいC1-C20アルキル基又はアリール基であり、R1'及びR2は、上で定義された通りである)
により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドの溶液を得る工程; 及び
c. 式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを、式(I)の5-アザシトシンヌクレオシドに変換する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
b)工程の前に、シリル化5-アザシトシン化合物が、工程a)の反応混合物から、固形状の形態で分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カップリングする工程b)が、シリル化5-アザシトシン化合物のモル量に対して1モル%未満の量のシリル化剤の存在下に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において得られた式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドの溶液を第二の有機溶媒で希釈する工程を含み、第二の有機溶媒が、第一の有機溶媒より沸点が高い溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第二の有機溶媒が、極性非プロトン性溶媒である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第二の有機溶媒が、ジメチルスルホキシドである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
式IIIの前記保護D-リボフラノースが
【化5】

からなる群より選ばれ、式Iにより表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物が、アザシチジン
【化6】

である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記保護D-リボフラノース式IIIが、以下に示される2-デオキシ-D-リボフラノース
【化7】

であり、式Iにより表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物が、デシタビン
【化8】

である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第一の有機溶媒が、水溶性極性溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第一の有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
スルホン酸の量が、式IIIにより表される保護D-リボフラノースに対して1モル当量未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
スルホン酸の量が、式IIIにより表される保護D-リボフラノースのモル量の10-30モルパーセントである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
スルホン酸が、トリフルオロメタンスルホン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
シリル化剤が、ヘキサメチルジシリザンである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
工程c)が、塩基性脱遮断剤の存在下に式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを脱保護する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
塩基性脱遮断剤が、金属アルコキシドである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
金属アルコキシドが、メタノール中のナトリウムメトキシドである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
カップリングする工程b)が、水と混和しない溶媒を存在させずに行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
工程b)及び工程c)が、1つの反応容器内で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを液体混合物から分離する工程を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
スルホン酸触媒を急冷するか又は除去する水系後処理工程を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
ヒドロキシル保護基が、置換されていてもよいC1-C20アルキルアシル基又はアリールアシル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
工程c)が、20℃〜30℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
下記式(IV):
【化9】

(式中、R1'は、水素、ハロゲン、又はOR4であり、R4は、ヒドロキシル保護基を示し、R2は、水素又はハロゲンであり; R5及びR6は、各々独立して、水素又はSi(R3)3であり、R3は、置換されていてもよいC1-C20アルキル基又はアリール基である)
により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドの調製方法であって、シリル化5-アザシトシンと、下記式(III):
【化10】

(式中、R1'、R2及びR4は、上で定義した通りである)
により表される保護□-D-リボフラノース又は2-デオキシ-D-リボフラノースとを、有機溶媒中で、有効量の触媒の存在下にカップリングして、式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを得る工程を含み; 触媒を急冷するか又は除去する水系後処理工程を含まない、前記方法。
【請求項25】
式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドが、更に、下記式(I):
【化11】

(式中、R1は水素、ヒドロキシル、又はハロゲンであり、R2は、水素又はハロゲンである)
により表される5-アザシトシンヌクレオシドに変換される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
下記式(I):
【化12】

(式中、R1は、水素、ヒドロキシ又はハロゲンであり; R2は、水素又はハロゲンである)
により表される5-アザシトシンヌクレオシド化合物の調製方法であって;
i) 少なくとも極性非プロトン性溶媒及び下記式(IV):
【化13】

(式中、R5及びR6は、各々独立して、水素又はSi(R3)3であり、R3は、置換されていてもよいC1-C20アルキル基又はアリール基であり、R1'及びR2は、上で定義した通りである)
により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを含む均質溶液を形成する工程; 及び
ii)均質溶液中で式(IV)により表される保護5-アザシトシンヌクレオシドを、式(I)により表される5-アザシトシンヌクレオシドに変換する工程
を含む、前記方法。
【請求項27】
工程ii)の前に、実質的な量の水の存在下に行われる工程を含まない、請求項24に記載の方法。

【公表番号】特表2011−530538(P2011−530538A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522304(P2011−522304)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/053276
【国際公開番号】WO2010/017547
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(503345569)サイノファーム タイワン リミテッド (18)
【Fターム(参考)】