説明

5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(DAPBI)含有ポリアラミドの重合のための大スケールプロセス

本発明は、−溶媒としてのN−メチルピロリドン中に少なくともモノマー(i)〜(iii)を加え:(i)は0〜30モル%のパラ−フェニレンジアミン(PPD)であり;(ii)は20〜50モル%の5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(DABPI)であり;(iii)は49.05〜50.05モル%のテレフタル酸ジクロリド(TDC)である;および任意的に塩化カルシウムを加えてモル比0.5未満のCaCl/芳香族ジアミンを得て、そして芳香族ジアミン/芳香族二酸塩化物の比は0.99〜1.01の間である;−上記モノマーおよび任意的に塩化カルシウムを混合してモノマー濃度5〜12重量%の均一な混合物とし、次いで−この均一な混合物に塩化カルシウムを加えてモル比0.6〜1.0のCaCl/芳香族ジアミンを得て、そして−上記混合物を重合することにより、芳香族ジアミンおよび芳香族二酸塩化物から芳香族ポリアミドクラム、ただしこの芳香族ポリアミドは5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール テレフタルアミド単位を有し、そして相対粘度ηrelが3以上である、を得る方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(DAPBI)および任意的にパラ−フェニレンジアミン(PPD)と、テレフタル酸ジクロリド(TDC)とを、N−メチルピロリドン(NMP)および塩化カルシウムの混合物中で共重合することによる、芳香族ジアミンおよび芳香族二酸塩化物からの芳香族ポリアミド、ただしこの芳香族ポリアミドは5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール テレフタルアミド単位を有し、そして相対粘度ηrelが3以上である、を含有する、クラム形状にある組成物を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合混合物中または重合プロセスの開始後の溶媒に塩化カルシウムを加える方法は、US4,172,938によって知られている。該文献は、実施例34においてPPD/DABPI/TDC混合物の重合を開示している。しかし該文献によると、モノマーの添加に先立って塩化カルシウムの全部がNMP溶媒に加えられる。さらに、DABPI含量の低い(10モル%)ポリマーが製造される。このプロセスは、クラムの生成に至るものではなく、ペースト状の生成物を与えるのみである。該文献はこのこと以上には、溶液にモノマーを添加した後に塩化カルシウムの全部を添加することができること、およびクラムを得るためには塩化カルシウムの一部を重合プロセスの開始後のどの時点で添加し、CaCl/芳香族ジアミンのモル比を0.6〜1.0としなければならないことについてのいかなるヒントをも与えるものではない。
【0003】
このような重合反応を行うが、しかしクラムまたはクラム状材料の形状の組成物を得られる方法が、WO2005/054337に記載されている。この方法によれば、繊維またはフィルムに直接成形することのできる好適なポリマー溶液を、例えばPPDおよびTDCとの重合の直後に得る目的で、興味対象のモノマーDAPBI(5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール)が芳香族ジアミン混合物に加えられる。このことによって、DAPBIはアラミドポリマーを溶液中に維持するために好適なコモノマーだと思われる。PPD、DAPBIおよびCaClの特定のモル比を選択することにより、粉末、ペースト、パン生地状物などの形成が妨げられることが分かった。従って上記方法は、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール テレフタルアミド単位を含有し、相対粘度ηrelが4以上であるクラムとしての芳香族ポリアミドを得る方法に関する。
最終の溶媒系(CaCl/NMP)にモノマーを加えるこの方法は、該特許出願に示されたスケール、すなわち2Lの小さな反応フラスコ中、で行った場合にクラムおよびクラム状の材料を得るのに非常に好適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この方法は不幸にも、プロセスをスケールアップしたときには奏効しないことが明らかとなった。従って、160LのDrais反応器の如き、50Lを超える容量を有する反応器における工業的製造条件下ではクラムは形成されず、材料はスターラーの周りに固着した大きな塊として得られる。これは後の加工に相応しくない。従って本発明の目的は、相対粘度が高く、好適な材料堅さの、DAPBI単位を有するアラミドポリマーを得るための大スケールの製造に好適な方法を提供することである。もちろんこの方法はDAPBI単位を有するアラミドポリマーの小スケールの製造にも利用することができる。このような小スケール重合反応を利用した場合、本発明の方法は、重合前に溶媒を加えるWO2005/054337の方法を代替するものと考えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のために、従来技術の方法における問題点を解消する方法を見い出した。要するに本発明はここに、
−溶媒としてのN−メチルピロリドン中に少なくともモノマー(i)〜(iii)を加え:
(i)は0〜30モル%のパラ−フェニレンジアミン(PPD)であり;
(ii)は20〜50モル%の5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(DABPI)であり;
(iii)は49.05〜50.05モル%のテレフタル酸ジクロリド(TDC)である;および任意的に塩化カルシウムを加えてモル比0.5未満のCaCl/芳香族ジアミンを得て、そして芳香族ジアミン/芳香族二酸塩化物の比は0.99〜1.01の間である;
−上記モノマーおよび任意的に塩化カルシウムを混合してモノマー濃度5〜12重量%の均一な混合物とし、次いで
−この均一な混合物に塩化カルシウムを加えてモル比0.6〜1.0のCaCl/芳香族ジアミンを得て、そして
−上記混合物を重合することにより、
芳香族ジアミンおよび芳香族二酸塩化物から芳香族ポリアミドクラム、ただしこの芳香族ポリアミドは5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール テレフタルアミド単位を有し、そして相対粘度ηrelが3以上である、
を得る方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
このように得られた、凝固および水洗され、次いで任意的に乾燥された後のクラム材料は、例えば硫酸、NMP、NMP/CaCl、N−メチルアセトアミドなどの溶媒中に溶解することによりスピンドープを作るのに好適である。このドープは、繊維、フィルムなどの成形品を製造するために使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で使用されるクラムまたはクラム状という用語は、重合後の混合物中のポリマーが、完全にまたは実質的に完全に、粘着性を持たず(すなわちスターラーの周りに塊を形成せず)、そして平均粒径が100μmを超え、通常は1mmを超える、壊れ易い凝集塊または粒子の形状にあることを意味する。PPTAクラムが濡れたおがくず状物の堅牢体の粒子として定義されている、Encyclopedia of Polymer Science and Technology,Vol.3,565ページ(John Wiley & Sons)におけるPPTAアラミドクラムの定義も参照。
【0008】
本発明の好ましい実施態様によると、均一混合物中のCaCl/芳香族ジアミンのモル比は0.6〜1.0、好ましくは0.70〜0.80である。
モノマーが溶媒中で均一化された後に、塩化カルシウムの量が特許請求されたモル比に到達することが不可欠である。しかし、均一化される前のモノマーの混合に先んじてまたは混合中に少量の塩化カルシウムを加えてもよく、モル比CaCl/芳香族ジアミンが0.5未満、すなわち0と0.5との間、である限り、例えばモノマーの1種以上をNMP(N−メチルピロリドン)および塩化カルシウムに加えてもよい。次いでモノマーが溶媒中で均一化された後に、0.6〜1.0の間の比とするための残余の塩化カルシウムが、好ましくは塩化カルシウムとNMPとの混合物として加えられる。好ましい実施態様では、モノマーを溶解するための溶媒中には塩化カルシウムは存在せず、塩化カルシウムは均一な混合物に対してのみ、好ましくはNMP/CaCl混合物として加えられる。塩化カルシウムを加えるこの方法は、NMP/CaClが溶媒であり(すなわちCaClはNMPの溶解力を増大する)、重合反応の促進剤であるから、極めて特異的である。塩化カルシウムを重合反応の開始時に直ちに加えたときにクラムが生成しないのに対し、塩化カルシウムをプロセスの後半の段階において加えたときに、該反応が異なる生成物を与えること、すなわちクラムを与えることの明確な理由または予測はない。
【0009】
従って本発明の実施態様は、第1にDABPIを含む芳香族ジアミンをN−メチルピロリドン中でCaCl/芳香族ジアミンのモル比を0として1〜180分間、好ましくは3〜30分間混合し、次いでTDCを加えて1〜180分間、好ましくは3〜30分間さらに混合し、その後で塩化カルシウムを加えてCaCl/芳香族ジアミンのモス比を0.6〜1.0とする。
溶媒中のモノマー濃度は、クラムを得るために5〜12重量%とすべきである。最適の濃度はモノマー混合物中のDABPI含量に依存するが、熟練者により容易に決定することができる。大雑把には、DABPI含量が高いほど溶媒中のモノマー濃度は低い。
芳香族ジアミンはDABPIを含有する。任意的に30モル%までのPPDを他のモノマーとして加えるが、パラ−クロロフェニレンジアミン(Cl−PPD)およびパラ−メチルフェニレンジアミン(Me−PPD)の如き芳香族ジアミンモノマーを加えてもよい。
芳香族二酸塩化物はTDCを含有するが、少量の(1.2モル%までの)他の芳香族二酸塩化物が存在していてもよい。
【0010】
「モル%」という語は、芳香族ジアミンおよび芳香族二酸塩化物モノマーの合計についてのモノマーのモル百分率に関する。
「均一な混合物」および「均一化された」という語は、モノマーが溶媒中に溶液、乳化液または懸濁液として均一に分配されていることを意味する。
モノマーが均一化されたとき、塩化カルシウムを加えて所望のモル比を得る。塩化カルシウムは、そのまま、またはNMP/CaCl混合物の形態の如き混合物、懸濁液もしくは溶液として加えることができる。
本方法は、クラムとしてのポリマーを工業的な大スケールで製造するのに特に好適である。上記の大スケールプロセスは、通常は容量50L以上、通常はこれよりも遥かに大きく、EP0743964に記載された如く、例えば2,500L〜10,000Lの反応器中で実施される。
【0011】
本方法は、DraisのFlugelmischwerkによる乱流高速ミキサー(Turbulent−Schnellmischer mit Flugelmischwerk)の場合の如き、スターラーとして使用される単一の混合装置および造粒器を装着した測定容量(measure capacity)50L以上の円筒型反応器中で使用するのに特に好適である。本方法は、連続プロセスにおいて使用することも可能である。
160Lおよび2,500LのDrais反応器中でDAPBIが20〜50モル%の数バッチのポリアラミドを調製して、良好な再現性が示された。相対粘度が4を超えるコポリマーは、紡糸ヤーンに好適であることが分かった。
【0012】
本発明の方法は、一般に以下の各工程を含む:
反応器中に溶媒NMPを加える工程;
PPDおよびDAPBIを加え(そして1〜180分間、好ましくは3〜30分間混合す)る工程;
約5℃に冷却する工程;
TDCを加え(そして1〜180分間、好ましくは3〜30分間混合す)る工程;
NMP/CaClを(CaCl/(PPD+DAPBI)のモル比が0.6〜1.0、好ましくは0.70〜0.80まで)加える工程。
約15分〜2時間後に得られるポリマーのηrelは3以上である。
【実施例】
【0013】
以下の実施例において本発明の態様を例示する。
一般的重合手順
原料:
DAPBI、5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール、融点=235℃、純度>99.9%
PPD(p−フェニレンジアミン)、融点=140℃、純度>99.9%、Teijin Aramid製
TDC(テレフタル酸ジクロリド)、融点=80℃、純度>99.9%、Teijin Aramid製
NMP/CaClおよびNMP(水含量<200ppm)、Teijin Aramid製
全体のコポリマー組成がTDC50モル%、PPD15〜35モル%およびDAPBI35〜15モル%である、DAPBI20〜50モル%のコポリマーを製造するための標準Teijin Aramid(Twaron(登録商標))重合方法。
重合後、得られた反応生成物を凝固し、脱イオン水で洗浄し、そして流動床乾燥器中で乾燥した(於150℃)。
ここで得られたDAPBI単位を有するポリアラミドの定性的表示は相対粘度(ηrel)である。相対粘度は、96%硫酸中の0.25重量%ポリアラミド溶液の、ポリマーを含有しない溶媒(96%HSO)に対する粘度比として定義される。この比はキャピラリ粘度計(ウベローデ)を用いて25℃において測定した。
【0014】
結果
実施例1
DAPBI単位35モル%を有するポリアラミドの調製
NMPならびにアミン(PPDおよびDAPBI)を、測定容量160Lを有する水平円筒型パドル混合機(Drais)中で30分間混合し、得られた混合物を5℃に冷却してTDCを加えた。混合物を5℃に冷却後、NMP/CaClを加えてモル比0.72のCaCl/(PPD+DAPBI)を得た。1時間の反応時間の後、相対粘度13.6のクラム状小粒子からなる反応生成物を得た。溶媒中にCaClを含有しない重合からは、ηrelが最大1.2であるPPTA−DAPBI粉末を得た(比較;表1)。
【0015】
実施例2
DAPBI単位35モル%に代えて25モル%を使用し、実施例1の方法に準拠してポリアラミドを調製した。
比較として、WO2005/054337の方法に準拠して、25および35モル%のDAPBIならびに種々のモノマー濃度を使用して、アラミドコポリマーを製造する従来技術の例を実施した。
表1は、従来技術の方法はスターラーの周りに固着した塊状物を与えるのに対し、本発明の例がクラムを与えることを示している。
【0016】
実施例3
測定容量2,500Lの“Flugelmischwerkによる乱流高速ミキサー”Drais反応器中で、DAPBI単位25モル%を有するポリアラミドを調製した。
NMP897Lに、PPD11.99kgおよびDAPBI24.87kgを加え、これを60分間混合した。次いで、混合物を5℃に冷却し、TDC(固体)45.08kgを加え、50rpmで66分間混合した。この混合物にNMP/CaCl(10.2重量%CaCl)145Lを加え、スターラー速度160rpmにて125分間反応を行った。クラム状の反応生成物を凝固し、脱イオン水で洗浄した。乾燥後、得られたDAPBIコポリマーの相対粘度は5.1であった。
【0017】
実施例4
DAPBI単位25モル%を有するポリアラミドの調製
CaCl/(PPDおよびDAPBI)のモル比が0.30のNMP/CaClならびにアミン(PPDおよびDAPBI)を、測定容量160Lを有するDraisの水平円筒型パドル混合機中で30分間混合し、得られた混合物を5℃に冷却してTDCを加えた。混合物を5℃に冷却後、NMP/CaClを加えてモル比0.71のCaCl/(PPD+DAPBI)を得た。1時間の反応時間の後、相対粘度7.1のクラム状小粒子からなる反応生成物を得た。
【0018】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
−溶媒としてのN−メチルピロリドン中に少なくともモノマー(i)〜(iii)を加え:
(i)は0〜30モル%のパラ−フェニレンジアミン(PPD)であり;
(ii)は20〜50モル%の5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(DABPI)であり;
(iii)は49.05〜50.05モル%のテレフタル酸ジクロリド(TDC)である;および任意的に塩化カルシウムを加えてモル比0.5未満のCaCl/芳香族ジアミンを得て、そして芳香族ジアミン/芳香族二酸塩化物の比は0.99〜1.01の間である;
−上記モノマーおよび任意的に塩化カルシウムを混合してモノマー濃度5〜12重量%の均一な混合物とし、次いで
−この均一な混合物に塩化カルシウムを加えてモル比0.6〜1.0のCaCl/芳香族ジアミンを得て、そして
−上記混合物を重合することにより、
芳香族ジアミンおよび芳香族二酸塩化物から芳香族ポリアミドクラム、ただしこの芳香族ポリアミドは5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール テレフタルアミド単位を有し、そして相対粘度ηrelが3以上である、
を得る方法。
【請求項2】
上記均一な混合物中のCaCl/芳香族ジアミンのモル比が0.65〜0.85である、請求項1の方法。
【請求項3】
上記均一な混合物中のCaCl/芳香族ジアミンのモル比が0.70〜0.80である、請求項2の方法。
【請求項4】
先ず芳香族ジアミンの複数を、CaCl/芳香族ジアミンのモル比が0であるN−メチルピロリドン中で1〜180分間、好ましくは3〜30分間混合し、その後芳香族二酸塩化物を加えてさらに1〜180分間、好ましくは3〜30分間混合し、次いで塩化カルシウムを加えてモル比0.6〜1.0のCaCl/芳香族ジアミンを得る、請求項1〜3のいずれかの方法。
【請求項5】
塩化カルシウムをNMP/CaCl混合物として加える、請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項6】
測定容量50L以上の反応器中で行われる、請求項1〜5のいずれかの方法。
【請求項7】
スターラーとして使用される単一の混合装置および造粒器を装着した測定容量50L以上の円筒型反応器中で行われる、請求項1〜6のいずれかの方法。

【公表番号】特表2011−516710(P2011−516710A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504426(P2011−504426)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054277
【国際公開番号】WO2009/127586
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(501469803)テイジン・アラミド・ビー.ブイ. (48)
【Fターム(参考)】