説明

50Hz/60Hz共用送受信器を用いたATC信号周波数切替機能

【課題】架線周波数を切替える区間でもATC信号送受信器を共用送受信器とすることで、システム構成を簡潔化する。
【解決手段】複数の変調基準周波数に対応できる共用のATC信号送受信器105を採用し、架線周波数切替区間でのき電区分所101の架線周波数の切替えに合わせ、ATC地上装置の架線条件切替器103とパイロット切替器104により共用のATC信号送受信器105へ入力されるパイロット周波数を、切替後の架線周波数に適したATC信号周波数へ自動で切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明したシステムは、架線周波数が変化した場合、ATC信号周波数を自動で切り替えるATC地上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同一線区の複数の軌道に分割された軌道回路において、各軌道回路にはATC信号送受信器が設置され、車上装置へ搬送するATC信号を送信している。架線周波数の切替区間では、電源高調波によるノイズを避けるため、それぞれの架線周波数に適したATC信号を送信する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、パイロット信号によらなくてもATC信号が編成できるとともに一組の送受信器によってキ電区分制御軌道回路装置と共用できる自動列車制御装置の地上装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−213202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のATC地上装置では、通常、耐ノイズ性を高めるため、電源同期方式を採用しており,架線周波数を降圧したパイロット信号と呼ばれる信号をATC信号送受信器が取り込んでいる。ATC信号送受信器はパイロット信号を基準とし、ATC信号の変調を行い、ATC信号を軌道回路へ送信している。
【0006】
ATC信号送受信器は1つの変調基準周波数にのみ対応しているため、電源周波数の異なる架線周波数切替区間ではそれぞれの架線周波数に対応したATC信号送信器と受信器が必要となり、1つの軌道回路に2式のATC信号送受信器が設備されており、さらに、送信側、受信側ともに切替器が必要となるため、システム全体が長大化するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のATC地上装置は、同一線区の複数の軌道に分割された軌道回路の各軌道に設けられ、前記各軌道にて車上装置へ搬送するATC信号を送信するATC信号送受信器を備えたATC地上装置において、架線周波数が変化した際、ATC信号送受信器に入力されるパイロット信号周波数を切替え、前記ATC信号送受信器は前記ATC信号周波数を変化後の架線周波数に合致した周波数へと変化させる機能を有することを特徴とする。
【0008】
また、ATC地上装置において、前記架線周波数の変化に対して前記ATC信号送受信器に入力される前記パイロット信号周波数を常に前記架線周波数と合致させるため、前記架線周波数の切替えによって接続を切り変えるパイロット切替器を組み込む構成を有することが望ましい。
【0009】
また、ATC地上装置において、前記パイロット切替器の装備位置を集約することにより、現行方式と比較して、前記パイロット切替器の設備数が削減され、故障率を低減させていることが望ましい。
【0010】
また、本発明のATC地上装置は、更に制御部を備えており、前記制御部は前記架線条件切替器の状態を監視し、前記架線条件切替器の状態により架線周波数を認識し、前記架線条件切替器の状態変化により架線周波数の切替えを検知する機能を有することができる。
【0011】
また、ATC地上装置において、前記制御部は架線周波数の切替えを検知すると、前記ATC信号送受信器に対し、ATC信号周波数の切替を指示する機能を有することができる。
【0012】
また、ATC地上装置において、既存する他の地上装置の制御周波数帯域と重複しない周波数帯が選定されることが望ましい。
【0013】
また、ATC地上装置において、ATC信号送受信器は当該軌道における他の地上装置の制御に影響がない周波数帯域のATC信号を送信可能であることが望ましい。
【0014】
また、ATC地上装置において、ATC地上装置から送信されたATC信号を受信する車上装置が前記地上ATC信号送受信器に準備された複数の周波数帯域ATC信号のいずれも受信できる周波数が選定されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ATC信号送受信器を共用送受信器とすることで、架線周波数を切替える区間でも1つの軌道回路に1台のATC信号送受信器のみとなり、システム構成は簡潔なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の実施例1のATC地上装置のシステム構成を示した説明図である。
【図2】図2は本発明の実施例1のATC地上装置の動作フローを示した説明図である。
【図3】図3は本発明の実施例2のATC地上装置のシステム構成を示した説明図である。
【図4】図4は本発明の実施例2のATC地上装置の動作フローを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明システムの構成、動作について図面を用いて説明する。図1、2は本発明の実施例1のATC地上装置のシステム構成及び動作フローを示した説明図であり、図3,4は本発明の実施例2のATC地上装置のシステム構成及び動作フローを示した説明図である。
【実施例1】
【0018】
[構成の説明]
図1において、同一線区内の軌道回路111は複数の軌道に分割され、各軌道には軌道回路111上に存在する列車112にATC信号114を搬送するためのATC信号送受信器105を設備したATC地上装置が接続されている。
【0019】
き電区分所101は異なる複数の非同期電源を有している。き電区分所101は軌道回路111内の切替軌道108に列車112が進入したことを検知すると、電源の切替えを行い、架線113に送電される電力が切替り、ATC地上装置に架線切替情報102を出力する。
【0020】
列車112は軌道回路111からATC信号114を受信している。列車112は上下線、架線113の周波数によって異なる複数の周波数帯域のATC信号114を受信でき、ATC信号114の復調は架線113の周波数を基準に行っている。
【0021】
受信したATC信号114の周波数が架線113の周波数と合致しない場合は、正常な信号の復調ができず、列車112は緊急停止を行う。
【0022】
リレー架110はATC地上装置内に設備され、架線条件切替器103とパイロット切替器104が実装されている。架線条件切替器103はき電区分所101からの架線切替情報102によりパイロット切替器104に切替トリガーを出力する。
【0023】
パイロット切替器104にはパイロット信号(F1)106とパイロット信号(F2)107が入力されている。架線条件切替器103からの切替トリガーによりATC信号送受信器105に出力するパイロット信号の切替えを行う。ATC信号送受信器105には常に架線113に送電されている周波数と一致したパイロット信号が出力されている。
【0024】
ATC信号送受信器105は分割された切替軌道108に対し1軌道当り1台設備されている。ATC信号送受信器105は上下線、架線113の周波数によって異なる複数の周波数帯域のATC信号114を出力することができる。ATC信号送受信器105には架線条件切替器103とパイロット切替器104により、常に架線113と同一の周波数のパイロット信号、即ち、列車112がATC信号114の復調の基準としている周波数が入力されている。
【0025】
ATC信号送受信器105は入力されたパイロット信号を基準にATC信号114を変調し、切替軌道108へ出力する。ATC信号送受信器105は入力されるパイロット信号の周波数が変化すると、出力するATC信号14の周波数をパイロット信号周波数に追従するように変化させる。
【0026】
ATC信号送受信器105から出力されるATC信号114は常に列車112にて正常に復調が行われている。ATC信号114の周波数は切替軌道108を含む軌道回路111に接続されている他の地上装置の制御に影響を与えないように、軌道回路111に接続されている他の地上装置の制御周波数帯域と重複しない周波数帯が選定される。
【0027】
[動作フローの説明]
図2は本発明の実施例1のATC地上装置の動作フローを示している。図2において、き電区分所101が列車112の切替軌道108への侵入を検知すると、架線113に送電する電力を切替える。き電区分所101は電源を切替えると同時に架線切替情報2をATC地上装置へ出力する(S201)。
【0028】
ATC地上装置内のリレー架110に設備された架線条件切替器103は周波数切替情報102を受け、パイロット切替器104へ切替トリガーを出力する(S202)。
【0029】
パイロット切替器104は架線条件切替器103からの切替トリガーを受け、パイロット切替器104の接続先がパイロット信号(F1)106側からパイロット信号(F2)107側へ切替る(S203)。
【0030】
パイロット切替器104の接続が切替るため、ATC信号送受信器105へのパイロット信号周波数はパイロット信号(F1)106からパイロット信号(F2)107となる(S204)。
【0031】
ATC信号送受信器105はパイロット信号の切替を検知すると、パイロット信号(F2)107を基準にATC信号周波数の変調を開始する(S205)。
【0032】
切替軌道108にはATC信号送受信器105から、パイロット信号(F2)107に適応した周波数のATC信号が出力される(S206)。
【実施例2】
【0033】
[構成の説明]
図3は本発明の実施例2のATC地上装置のシステム構成を示している。図3において、同一線区内の軌道回路311は複数の軌道に分割され、各軌道には軌道回路311上に存在する列車312にATC信号314を搬送するためのATC信号送受信器305を設備したATC地上装置が接続されている。
【0034】
き電区分所301は異なる複数の非同期電源を有している。き電区分所301は軌道回路311内の切替軌道308に列車312が進入したことを検知すると、電源の切替えを行い、架線313に送電される電力が切替り、ATC地上装置に架線切替情報302を出力する。
【0035】
列車312は軌道回路311からATC信号314を受信している。列車312は上下線、架線313の周波数によって異なる複数の周波数帯域のATC信号314を受信でき、ATC信号314の復調は架線313の周波数を基準に行っている。
【0036】
受信したATC信号314の周波数が架線313の周波数と合致しない場合は、正常な信号の復調ができず、列車312は緊急停止を行う。
【0037】
リレー架310はATC地上装置内に設備され、架線条件切替器303とパイロット切替器304が実装されている。架線条件切替器303はき電区分所301からの架線切替情報302によりパイロット切替器304に切替トリガーを出力する。
【0038】
パイロット切替器304にはパイロット信号(F1)306とパイロット信号(F2)307が入力されている。架線条件切替器303からの切替トリガーによりATC信号送受信器305に出力するパイロット信号の切替えを行う。ATC信号送受信器305には常に架線313に送電されている周波数と一致したパイロット信号が出力されている。
【0039】
ATC地上装置の制御部309は架線条件切替器303の状態を監視することで、架線313の周波数状態を認識し、架線条件切替器303の状態変化により、架線313の周波数の変化を検知する機能を持つ。
【0040】
また、制御部309は架線条件切替器303の状態変化により架線313の周波数変化を検知すると、ATC信号送受信器305に対し、ATC信号周波数の切替えを指示する。制御部309ではパイロット信号(F1)306とパイロット信号(F2)307の状態の監視も行っている。
【0041】
ATC信号送受信器305は分割された切替軌道308に対し1軌道当り1台設備されている。ATC信号送受信器305は上下線、架線313の周波数によって異なる複数の周波数帯域のATC信号314を出力することができる。
【0042】
ATC信号送受信器305には架線条件切替器303とパイロット切替器304により、常に架線313と同一の周波数のパイロット信号、即ち、列車312がATC信号314の復調の基準としている周波数が入力されている。
【0043】
ATC信号送受信器305は入力されたパイロット信号を基準にATC信号314を変調し、切替軌道308へ出力する。
【0044】
ATC信号送受信器305は、制御部309からのATC周波数切替の指示に応答して、出力するATC信号314の周波数をパイロット信号周波数に変化させる。ATC信号送受信器305から出力されるATC信号314は常に列車312にて正常に復調が行われている。ATC信号314の周波数は切替軌道308を含む軌道回路311に接続されている他の地上装置の制御に影響を与えないように、軌道回路111に接続されている他の地上装置の制御周波数帯域と重複しない周波数帯が選定される。
【0045】
[動作フローの説明]
図4は本発明の実施例2のATC地上装置の動作フローを示している。図4において、き電区分所301が列車312の切替軌道308への侵入を検知すると、架線313に送電する電力を切替える。き電区分所301は電源を切替えると同時に架線切替情報302をATC地上装置へ出力する(S401)。
【0046】
ATC地上装置内のリレー架310に設備された架線条件切替器303は周波数切替情報2を受け、パイロット切替器304へ切替トリガーを出力する(S402)。
【0047】
パイロット切替器304は架線条件切替器303からの切替トリガーを受け、パイロット切替器304の接続先がパイロット信号(F1)306側からパイロット信号(F2)307側へ切替る(S403)。
【0048】
パイロット切替器304の接続が切替るため、ATC信号送受信器305へのパイロット信号周波数はパイロット信号(F1)306からパイロット信号(F2)307となる(S404)。
【0049】
ATC地上装置の制御部309は、パイロット信号(F1)306とパイロット信号(F2)307の状態の監視と架線条件切替器303の状態を監視している(S405)。
【0050】
制御部309は架線条件切替器303の状態変化により架線313の周波数変化を検知する(S406)と、ATC信号送受信器305に対し、ATC信号周波数の切替えを指示する(S407)。
【0051】
ATC信号送受信器305は、制御部309からのATC周波数切替の指示に応答して、出力するATC信号314をパイロット信号(F2)308に適応した周波数のATC信号に切り替える(S408)。
【0052】
切替軌道308にはATC信号送受信器305から、パイロット信号(F2)307に適応した周波数のATC信号が出力される。ATC信号送受信器305から出力されるATC信号314は常に列車312にて正常に復調が行われている。
【符号の説明】
【0053】
101 き電区分所
102 架線切替情報
103 架線条件切替器
104 パイロット切替器
105 ATC信号送受信器
106 パイロット信号(F1)
107 パイロット信号(F2)
108 切替軌道
110 リレー架
111 軌道回路
112 列車
113 架線
114 ATC信号
301 き電区分所
302 架線切替情報
303 架線条件切替器
304 パイロット切替器
305 ATC信号送受信器
306 パイロット信号(F1)
307 パイロット信号(F2)
308 切替軌道
309 制御部
310 リレー架
311 軌道回路
312 列車
313 架線
314 ATC信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一線区の複数の軌道に分割された軌道回路の各軌道に設けられ、前記各軌道にて車上装置へ搬送するATC信号を送受信するATC信号送受信器を備えたATC地上装置において、架線周波数が変化した際、ATC信号送受信器に入力されるパイロット信号周波数を切替え、前記ATC信号送受信器は前記ATC信号周波数を変化後の架線周波数に合致した周波数へ切替える架線条件切替器を有することを特徴とするATC地上装置。
【請求項2】
請求項1に記載のATC地上装置において、前記架線周波数の変化に対して前記ATC信号送受信器に入力される前記パイロット信号周波数を切替えるパイロット切替器を有することを特徴とするATC地上装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のATC地上装置において、更に制御部を備えており、前記制御部は前記架線条件切替器の状態変化により架線周波数の切替えを検知することを特徴とするATC地上装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のATC地上装置において、前記制御部は架線周波数の切替えを検知すると、前記ATC信号送受信器に対し、ATC信号周波数の切替えを指示することを特徴とするATC地上装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のATC地上装置において、ATC信号送受信器は当該軌道における他の地上装置の制御に用いる制御信号周波数と異なる周波数帯域のATC信号を送信可能であることを特徴とするATC地上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−197035(P2012−197035A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62666(P2011−62666)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】