説明

7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体

7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドを含むアモルファス固体分散体配合物が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢型ベンゾジアゼピン受容体に高い親和性を有する薬理作用物質である7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体に関する。
【0002】
本発明は、これらアモルファス固体分散体の調製プロセス、このような分散体を含む薬学的組成物、および末梢型ベンゾジアゼピン受容体に関連する疾患の予防および治療のためのこれらの使用法にも関する。
【背景技術】
【0003】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、式(I):
【0004】
【化1】

の構造を有し、末梢型ベンゾジアゼピン受容体に対して高い親和性を有する。7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドの調製、物性、および有益な薬理学的性質は、例えば、米国特許第6,262,045号に、特に米国特許第6,395,729号に記載される(これらは両方とも本明細書で参照として組み込まれる)。
【0005】
米国特許第6,395,729号の実施例1に従って調製された結晶の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、水溶液と非水性配合溶媒のどちらにも溶解性が限られており、この化合物を含有する配合物の投与および貯蔵を困難にしている。この結晶体を用いた従来の配合物(当業者に周知の標準的な賦形剤を用いる湿式顆粒化または乾式混合プロセスで調製された配合物など)で行われた予備試験では、薬の吸収の限界が導かれた。
【0006】
例えば7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス形を調製して用いることなどにより、純粋な薬物質の溶解性を改善しようとする試みでは、薬物質の物理的安定性が限られる結果になった。例えば、このような薬物質は時間が経つと結晶化した。
【0007】
現在、ある種の重合体が、従来の配合物に勝る有意義な溶解性の改善がありアモルファスの薬物質単独に勝る有意義な物理的安定性の改善もある、固体アモルファス7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドの分散体を調製するのに有用であることが見いだされている。溶解性の乏しい薬を重合体に分散させた固体アモルファス分散体は、一般に製剤の溶解性を改善することが知られている。しかしながら、このような分散体は一般に経時的に不安定である。薬を重合体に分散させたアモルファス分散体は、経時的に結晶形に変化する傾向があり、結晶質薬物質の生体利用能および溶解性がアモルファス薬物質と比較して異なっているために不適切な投薬になる恐れがある。当業者には、特定の製剤の安定なアモルファス分散体を調製するのに、もしあるとすれば、どの重合体が有用であるかを予測することはできない。しかしながら、本発明は、改善された溶解性を持つこのような安定アモルファス分散体を提供する。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、活性薬剤、7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドの安定アモルファス固体分散体を提供する。
【0009】
本発明はまた、本発明のアモルファス固体分散体を含む組成物の調製プロセス、この組成物、およびこの使用法も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
定義および略称
上記、および本発明の記載全体を通じて用いられるとおり、以下の略称は、他に指定がない限り、以下の意味を有すると理解されるはずである。
CAP セルロースアセタートフタラート
CA クエン酸
DCM ジクロロメタン
EtOH エタノール
HPC ヒドロキシプロピルセルロース
HPMCAS ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート
HPMCP ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート
PVP ポリビニルピロリドン
上記、および本発明の記載全体を通じて用いられるとおり、以下の用語は、他に指定がない限り、以下の意味を有すると理解されるはずである。
【0011】
本明細書において使用される場合、「薬物質」という用語は、7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドを指す。
【0012】
一般に、「固体分散体」という用語は、少なくとも2種の構成要素を含む固体状態にある系を指し、1つの構成要素がその他の構成要素全体に分散している。本明細書において使用される場合、「アモルファス固体分散体」という用語は、アモルファス薬物質および安定化重合体を含む安定な固体分散体を指す。「アモルファス薬物質」により、アモルファス固体分散体が薬物質を実質的にアモルファス固体状態の形で含有することを意味する。実質的にアモルファス固体状態の形とは、分散体中の薬物質の少なくとも80%がアモルファス形にあることである。より好ましくは、分散体中の薬物質の少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%がアモルファス形にある。
【0013】
「アモルファス」固体状態の形にある固体とは、これが非晶質状態にあることを意味する。アモルファス固体は、一般に、結晶様の短い間隔での分子配列を有するが、結晶体で見いだされるような長い間隔での分子パッキングを有さない。アモルファス分散体中の薬物質などの固体の固体状態形は、偏光光学顕微鏡、粉末X線回折(XPRD)、示差走査熱量計(DSC)、または当業者に既知の他の標準的な技法で求めることができる。
【0014】
本発明のアモルファス分散体中の薬物質の量は、安定化重合体に対して約0.1重量%から約30重量%の範囲である。好ましい実施形態において、薬物質の量は、安定化重合体に対して約1重量%から約25重量%、より好ましくは約5重量%から約20重量%の範囲である。
【0015】
請求項も含めて本明細書において使用される場合、「安定化重合体」という用語は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート(HPMCPおよび/またはヒプロメロースフタラートとしても既知)、セルロースアセタートフタラート(CAPとしても既知)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート(HPMCASとしても既知)、およびEUDRAGIT(登録商標)L100などの重合体ポリメタクリラートの任意の1種を示す。この用語が上記の重合体の任意の2種以上の混合物を意味することも理解されるべきである。本発明の好ましい重合体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、セルロースアセタートフタラート、および重合体ポリメタクリラートを含む。
【0016】
本発明の特に好ましいアモルファス分散体において、薬物質は安定化重合体に対して約5重量%から約20重量%の量で存在し、および安定化重合体はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートである。
【0017】
アモルファス固体分散体は、好ましくは、薬物質および安定化重合体を適した溶媒に溶解させて供給液を形成し、およびこの供給液を噴霧乾燥させてアモルファス固体分散体を粉末として得ることにより調製される。本明細書において使用される場合、「適した溶媒」とは、薬物質と重合体の両方が適した溶解性、例えば約1mg/mlより大きい溶解性を有する溶媒、または溶媒混合物である。所望の溶解性を得るために、薬物質および安定化重合体が異なる溶媒を必要とする場合は、溶媒混合物が好ましい。適した溶媒の例として、ジクロロメタン、クロロホルム、エタノール、メタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、アセトン、水、またはこれらの混合物が挙げられる。好ましい溶媒は、ジクロロメタンとエタノールの混合物である。
【0018】
噴霧乾燥は、固体分散体を調製するための当業者に周知のプロセスである。本発明の好ましい噴霧乾燥プロセスにおいて、アモルファス分散体は、薬物質および安定化重合体を適した溶媒に分散または溶解させて供給液を形成し、この供給液を、アトマイザーを通して乾燥チャンバに噴霧し、および溶媒を除去してアモルファス固体分散体粉末を乾燥チャンバ内で形成させることにより形成される。乾燥チャンバは、粒子を乾燥させるのに強制風、窒素、窒素富化空気、またはアルゴンなどのホットガスを用いる。供給液は、二流体超音波振動ノズルおよび二流体非超音波振動ノズルなどの当分野で既知の従来の手段により噴霧することができる。
【0019】
本発明のアモルファス分散体は好ましくは従来の噴霧乾燥技法を用いて調製されるが、溶融押出、凍結乾燥、ロータリーエバポレーション、ドラム乾燥、または他の溶媒除去プロセスなどの当業者に既知の他の従来技法を利用して適したアモルファス固体分散体を形成することもできると理解される。
【0020】
本発明の別の態様において、薬学的組成物を形成するのに、当分野で一般に用いられる医薬的に許容される賦形剤が、単離されたアモルファス固体分散体粉末と組み合わされる。このような医薬的に許容される賦形剤は、1種または複数の充填剤、希釈剤(例えば、微結晶セルロース、ラクトース、マンニトール、アルファ化デンプンなど)、分散剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウムなど)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリルフマル酸ナトリウムなど)、甘味剤(例えば、スクロース、サッカリンなど)、香味剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香料など)、着色剤、保存料、緩衝液、および/または用いられる剤形に依存して他の賦形剤を含んでもよい。
【0021】
本発明の薬学的組成物は、好ましくは、治療上有効量の薬物質を含有する。本明細書において使用される場合、「治療上有効量」という用語は、投与されるアモルファス分散体または薬学的組成物中に存在する薬物質の量であり、処置される疾患の1つまたは複数の症状の進行を阻止するかある程度緩和するのに十分な量を示す。同様に、薬学的組成物の治療上有効量とは、このような組成物の、処置される疾患の1つまたは複数の症状の進行を阻止するかある程度緩和するのに十分な量を示す。有効量または用量の決定では、担当医は多数の要因を考慮する。要因として、哺乳類の種、この大きさ、年齢、および総体的な健康状態、関係する特定の疾患、疾患の関係度合いまたは重篤度、個々の患者の応答、投与される特定の分散体、投与の様式、投与される製剤の生体利用能特性、選択される投薬レジメン、併用薬の使用、および他の関連する状況が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明の薬学的組成物は、一般に、ヒトなどの哺乳類を含む患者(ただしこれらに限定されない)に、例えば、硬質または軟質ゼラチンカプセル、錠剤、カプレット、丸剤、顆粒、または懸濁液の形で経口投与される。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、本明細書中記載される薬学的組成物を含む剤形に関する。剤形として、丸剤、硬質または軟質カプセル剤、カプレット、錠剤、顆粒、および懸濁液からなる群より選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。各用量は、所望の治療効果をもたらすように計算された量の薬物質を含有するはずである。代表的には、薬学的組成物は、組成物の重量で約2mgから約2000mgの薬物質を含有する用量単位で投与され、約10mgから約1000mgの範囲が好ましい。
【0024】
本発明の薬学的組成物が、他の治療薬および/または予防薬および/または医薬的にこれと不適合ではない医薬とともに投与できることも、当業者に明らかである。
【0025】
本組成物の構成要素は全て、医薬的に許容されなければならない。本明細書において使用される場合、「医薬的に許容される」構成要素とは、ひどい副作用(毒性、炎症、およびアレルギー反応など)がなく、妥当な損益比に見合った、ヒトおよび/または他の動物に使うのに適したものである。
【0026】
本発明は、さらに、本発明の薬学的組成物の医薬への使用に関する。
【0027】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、選択的および強力な末梢ベンゾジアゼピン受容体(PBR)リガンドであり、そうであるので、様々な種類の末梢神経障害(外傷関連または虚血性神経障害、感染性、アルコール関連、薬関連または遺伝的神経障害、ならびに脊柱筋萎縮症および筋萎縮性側索硬化症などの運動ニューロンの症状など)の予防または治療に用いることができる。
【0028】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、脳血管障害および頭蓋外傷および延髄外傷などの急性型、または自己免疫疾患(多発性硬化症)、アルツハイマー病、パーキンソン病、および神経栄養因子の投与に治療効果があると期待される他の疾患などの慢性型いずれかの中枢神経系の神経変性疾患の予防または治療にも用いることができる。
【0029】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、急性または慢性腎不全、糸球体腎炎、糖尿病性腎障害の予防または治療に;慢性心不全、心虚血および心不全、心筋梗塞、下肢の虚血、冠動脈血管収縮、狭心症、心臓弁に付随する病態、炎症性心疾患、心毒性のある薬物によるか心臓手術の後遺症による副作用、粥状動脈硬化およびこの血栓塞栓性合併症、再狭窄、移植拒絶反応、平滑筋細胞の誤増殖または移動と関連した症状などの心疾患または心臓障害の治療または予防にも用いることができる。
【0030】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、関節リウマチの動物モデルで免疫応答を調節することによる薬理活性を示しており、したがって関節リウマチの予防または治療にも有用である。
【0031】
文献のデータは、末梢型ベンゾジアゼピン受容体が細胞増殖および癌化プロセスを調節するのに基本的役割を果たし得ることを示している。一般に、正常組織と比較して、様々な種類の腫瘍および癌において末梢型ベンゾジアゼピン受容体の密度上昇が観測される。したがって、7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、腫瘍および癌の予防または治療にも用いることができる。
【0032】
末梢型ベンゾジアゼピン受容体は、皮膚にも存在するので、これらのおかげで、7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、皮膚ストレスの予防または治療に用いることができる。発現皮膚ストレスは、このストレスを引き起こす薬剤に関わらず、特に表皮に損傷を与え得る様々な状況を意味すると理解される。この薬剤は、体内にあってもおよび/または体外にあってもよく、化学薬剤またはフリーラジカル薬剤など、または体外ならば紫外線などである。
【0033】
したがって、本発明は、末梢型ベンゾジアゼピン受容体に関連する疾患の治療および/または予防法に関し、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0034】
1つの実施形態において、本発明は、神経変性疾患の治療または予防法に関し、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0035】
本発明の別の実施形態は、神経障害の治療または予防法であり、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0036】
別の実施形態において、本発明は、癌または腫瘍の治療または予防法に関し、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0037】
本発明の別の実施形態は、皮膚ストレスの治療または予防法であり、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0038】
本発明の好ましい実施形態は、関節リウマチの治療または予防法であり、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0039】
本発明の別の好ましい実施形態は、心疾患または心障害の治療または予防法であり、この方法は、このような治療または予防を必要とする患者に治療上有効量の本発明のアモルファス分散体、または治療上有効量の本発明の薬学的組成物を投与することを含む。
【0040】
本発明の目的は、本発明のアモルファス固体分散体を、神経変性疾患、神経障害、癌または腫瘍、皮膚ストレス、心疾患または心臓障害、もしくは関節リウマチなどの末梢型ベンゾジアゼピン受容体関連疾患の治療用医薬品の製造に用いることである。
【0041】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するが、これにより本発明を制限しない。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート中薬物質20%のアモルファス分散体の調製
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート(HP−55として市販されているHPMCP、Shin−Etsu Chemical.Co.Ltd.,Tokyo,Japan)3.2gおよび薬物質(当分野で既知の方法、例えば、米国特許第6,395,729号に記載されるように調製することができる)0.8gを、ジクロロメタン(DCM)72mlとエタノール(EtOH)72mlの混合物に加えた。得られる透明な供給液を、Harvardシリンジポンプを用いて2.2ml/分の供給速度で、超音波振動アトマイザー(Sonotekから市販されている、入り口ガス温度20℃および出口ガス温度18℃で、トップ噴霧モードにおいて60Hzの周波数で操作)から乾燥チャンバ内へ噴霧した。溶媒を除去して、アモルファス固体分散体を得た。
【0043】
(実施例2から4)
表1に列挙したパラメータを用いて、基本的に実施例1に記載の手順に従って、実施例2、3、および4のアモルファス固体分散体を調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
(比較例5から8)
表2に列挙したパラメータを用いて、基本的に実施例1に記載の手順に従って、比較例5、6、7、および8のアモルファス固体分散体を調製した。
【0046】
【表2】

【0047】
(実施例9)
HPMCPに分散した20%アモルファス薬物質
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート(約400g)と薬物質(約100g)とを、ジクロロメタン(約3.56L)とエタノール(約3.55L)の混合物に加えた。得られる透明な供給液を、約35g/分の供給速度で入り口ガス温度44℃および出口ガス温度25℃で、2流体ノズルアトマイザーから乾燥チャンバ内へ噴霧した。溶媒を除去して、約500gのアモルファス分散体を得た。この生成物の組成は、20%薬物質/80%HPMCP(HP−55)であった。
【0048】
実験
粉末(Power)X線回折法(XRPD)(図1から図9)
実施例1から4および9のXRPDパターン(それぞれ図1から図4および図9)および比較例5から8のXRPDパターン(それぞれ図5から図8)を、銅Kα線照射を用いてBruker D8(登録商標)ADVANCE粉末X線回折装置で得た。装置には、平行ビーム光学系が備えられ、管電圧およびアンペア数は、それぞれ、40kVおよび40mAに設定した。0.1度/分または2−θ角で1.0度/分のいずれかの速度で試料を走査した。
【0049】
実施例1から4および9ならびに比較例5から8について得られる初期(ストレスなし)XRPDパターンは全て、薬物質が実質的にアモルファス形にあることを示す。
【0050】
安定性の研究(図1から図8)
試料を40℃/15%相対湿度で3ヶ月間貯蔵した後、実施例1から4および比較例5から8の安定性を求めた。さらに別の試料も40℃/75%相対湿度で3ヶ月間高湿度チャンバで貯蔵した。高湿度チャンバ用に塩化ナトリウム飽和水溶液を用いて所望の湿度にした。アモルファス固体分散体を大きさ0の硬質ゼラチンカプセルに詰め、これから高密度ポリエチレン瓶に入れて、これを40℃のチャンバに置いた。
【0051】
図1から図8は、初期に、40℃/15%相対湿度で3ヶ月後、および40℃/75%相対湿度で3ヶ月後に得られた実施例のXRPDパターンを示す。これらのパターンは、実施例1から4(図1から図4)がストレスのかかる条件下であっても予期し得ないほど安定したままであった(すなわち目に見える結晶化はなかった)のに対し、比較例5から8は図5から図8のXRPDパターンに示されるとおりストレスのかかる条件下で結晶化し始めたことを示す。
【0052】
溶解性研究(図10および図11)
以下の溶解性研究に用いられた純粋な結晶の薬物質は、7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドを熱N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に溶解させ、エタノールを加えて沈殿を形成し、固体を単離することにより調製した。
【0053】
実施例1から4および比較例5から8ならびに純粋な結晶の薬物質の溶解性試験を、75RPMのパドル型薬溶解試験浴(Distek Inc.から入手可能)で波長320nmのHP8453UV分光光度計を用いて行った。以下のパラメータを用いた。薬物質濃度は20mg/媒体500mlであり、ここで媒体はラウリル硫酸ナトリウム0.25%水溶液/0.01Mホスフェート緩衝液(pH7)であり、温度は37℃であり、および試料採取間隔は10分であった。各試料について2個の容器を用いた。
【0054】
溶解性試験の結果を図10に示すが、これは、本発明のアモルファス固体分散体が純粋な結晶の薬物質および比較例5から8と比較して明らかに溶解速度が大きいことを示す。
【0055】
実施例1から4および比較例5から8の溶解性研究について記載されたのと基本的に同じ手順を用いて、実施例9について溶解性研究を繰り返した。実施例9のアモルファス固体分散体は、純粋な結晶の薬物質と比較して溶解速度に顕著な増加を示した。この実験結果を図11に示す。
【0056】
生体利用能研究
絶食条件下、従来の配合物に対する本発明による固体分散体配合物の生体利用能を求めるため以下の研究を行った。
【0057】
従来の配合物および本発明の固体分散体を以下のように調製した。
【0058】
従来の配合物
材料 量(mg/カプセル)
活性薬物質(微粉末化) 20
ポリソルベート80 2.00
微結晶セルロース 125
アルファ化デンプン 249
クロスカルメロースナトリウム 2.00
ステアリン酸マグネシウム 2.00
この従来の配合物が参照物質として用いられ、標準的な湿式顆粒化プロセスを用いて製造して大きさ0の硬質ゼラチンカプセルに詰めた。
【0059】
固体分散体
材料 量(mg/カプセル)
ヒドロキシルプロピルメチルセルロースフタラート 100
活性薬物質 25
固体分散体を、上記の実施例9に従って調製し、大きさ0の硬質ゼラチンカプセルに詰めた。
【0060】
従来の配合物(n=7)または固体分散体(n=8)のいずれかの経口投薬量1回につき活性薬物質100mgをヒトに投与し、0.5、1、1.5、2、3、4、6、8、12、24、36、および48時間で血液試料を採取した。試料をLC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析)で分析した。
【0061】
結果を表3に示す。Cmax(最大血中濃度)およびAUC(濃度対時間曲線下面積)は、対照の従来の配合物と比較して固体分散体の方が明らかに高く、したがって、本発明のアモルファス分散体の生体利用能が改善されていることを示す。
【0062】
【表3】

【0063】
(実施例10)
以下の組成を有する本発明の薬学的組成物を含有する錠剤およびカプセル剤は、従来様式で製造することができる。
【0064】
錠剤またはカプセル剤あたりのmg
実施例9に従って調製した分散体 300
微結晶セルロース 80
デンプングリコール酸ナトリウム 16
ステアリン酸マグネシウム 4
錠剤またはカプセル剤の総重量 400
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】ストレス条件下および非ストレス条件下での、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図2】ストレス条件下および非ストレス条件下での、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図3】ストレス条件下および非ストレス条件下での、セルロースアセタートフタラート中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図4】ストレス条件下および非ストレス条件下での、重合体ポリメタクリラート、EUDRAGIT(登録商標)L100中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図5】ストレス条件下および非ストレス条件下での、ヒドロキシプロピルセルロース中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図6】ストレス条件下および非ストレス条件下での、ポリビニルピロリドン中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図7】ストレス条件下および非ストレス条件下での、ポリビニルピロリドン+10%クエン酸中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図8】ストレス条件下および非ストレス条件下での、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図9】ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体の粉末X線回折図形である。
【図10】水性0.25%ラウリル硫酸ナトリウム/0.01Mホスフェート緩衝液(pH7)中の本発明のアモルファス固体分散体、比較アモルファス固体分散体、および純粋な結晶の薬物質の溶解性/溶解速度を示す溶解試験結果を示す。
【図11】本発明のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート中の7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドのアモルファス固体分散体および水性0.25%ラウリル硫酸ナトリウム/0.01Mホスフェート緩衝液(pH7)中の純粋な結晶の薬物質の溶解性/溶解速度を比較する溶解試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にアモルファスの7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドおよび安定化重合体を含む固体分散体。
【請求項2】
安定化重合体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、セルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート、およびポリメタクリラートからなる群より選択される1種または複数の重合体である、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項3】
安定化重合体はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートである、請求項2に記載の固体分散体。
【請求項4】
安定化重合体はセルロースアセタートフタラートである、請求項2に記載の固体分散体。
【請求項5】
安定化重合体はポリメタクリラートである、請求項2に記載の固体分散体。
【請求項6】
ポリメタクリラートはEUDRAGIT(登録商標)L100である、請求項5に記載の固体分散体。
【請求項7】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、安定化重合体の重量に対して、約0.1重量%から約30重量%の量で存在する、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項8】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、安定化重合体の重量に対して、約1重量%から約25重量%の量で存在する、請求項7に記載の固体分散体。
【請求項9】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドは、安定化重合体の重量に対して、約5%重量%から約20重量%の量で存在する、請求項8に記載の固体分散体。
【請求項10】
安定化重合体はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートである、請求項9に記載の固体分散体。
【請求項11】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドの少なくとも80%はアモルファス形にある、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項12】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドの少なくとも90%はアモルファス形にある、請求項11に記載の固体分散体。
【請求項13】
7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドの少なくとも95%はアモルファス形にある、請求項12に記載の固体分散体。
【請求項14】
請求項1に記載の固体分散体および1種または複数の医薬的に許容される賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項10に記載の固体分散体および1種または複数の医薬的に許容される賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
末梢型ベンゾジアゼピン受容体の機能不全に関連した疾患または障害の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、末梢型ベンゾジアゼピン受容体の機能不全に関連した疾患または障害の治療または予防法。
【請求項17】
末梢型ベンゾジアゼピン受容体の機能不全に関連した疾患または障害の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、末梢型ベンゾジアゼピン受容体の機能不全に関連した疾患または障害の治療または予防法。
【請求項18】
神経変性疾患の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、神経変性疾患の治療または予防法。
【請求項19】
神経変性疾患の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、神経変性疾患の治療または予防法。
【請求項20】
神経障害の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、神経障害の治療または予防法。
【請求項21】
神経障害の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、神経障害の治療または予防法。
【請求項22】
癌または腫瘍の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、癌または腫瘍の治療または予防法。
【請求項23】
癌または腫瘍の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、癌または腫瘍の治療または予防法。
【請求項24】
皮膚ストレスの治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、皮膚ストレスの治療または予防法。
【請求項25】
皮膚ストレスの治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、皮膚ストレスの治療または予防法。
【請求項26】
関節リウマチの治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、関節リウマチの治療または予防法。
【請求項27】
関節リウマチの治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、関節リウマチの治療または予防法。
【請求項28】
心疾患または心障害の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項1に記載の固体分散体を投与することを含む、心疾患または心障害の治療または予防法。
【請求項29】
心疾患または心障害の治療または予防を必要としている患者に、治療上有効量の請求項14に記載の薬学的組成物を投与することを含む、心疾患または心障害の治療または予防法。
【請求項30】
a)7−クロロ−N,N,5−トリメチル−4−オキソ−3−フェニル−3,5−ジヒドロ−4H−ピリダジノ[4,5−b]インドール−1−アセトアミドおよび安定化重合体を適した溶媒に溶解させて供給液を形成する工程、
b)前記供給液をアトマイザーを通して噴霧する工程、および
c)前記溶媒を除去して固体分散体を形成する工程、を含む請求項1に記載の固体分散体の調製プロセス。
【請求項31】
適した溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、エタノール、メタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、アセトン、および水からなる群より選択される1種または複数の溶媒である、請求項30に記載のプロセス。
【請求項32】
安定化重合体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、セルロースアセタートフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートスクシナート、およびポリメタクリラートからなる群より選択される、請求項30に記載のプロセス。
【請求項33】
安定化重合体はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラートであり、適した溶媒はジクロロメタンとエタノールの体積で50:50混合物である、請求項30に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−506114(P2009−506114A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529117(P2008−529117)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/033022
【国際公開番号】WO2007/027494
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508062063)サノフイ−アベンテイス・ユー・エス・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】