説明

9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法

【課題】 生産性やコスト面などにおいて工業的に優れた、9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明にかかる9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法は、水素化触媒の存在下でフェナンスレンの水素化を行う工程と、前記水素化により得られる反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する工程と、前記分離後の残存物に対して脱水素化触媒の存在下で脱水素化を行うことによりフェナンスレンを再生する工程と、を含み、前記再生したフェナンスレンを前記水素化の原料として再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,10−ジヒドロフェナンスレンを工業的に製造する方法に関する。詳しくは、製造の際に発生する副生物を有効利用できる、9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,10−ジヒドロフェナンスレンは、例えば、耐熱性高分子や液晶高分子等の原料となる9,10−ジヒドロフェナンスレン−2,7−ジカルボン酸エステルを得る際の原料としてなど、各種工業用途に有用な化合物として知られている。
従来、9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法としては、フェナンスレンを水素化触媒の存在下で水素化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平1−238545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、フェナンスレンを水素化触媒の存在下で水素化すると、通常、目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレンのほかに、例えば、1,2,3,4−テトラヒドロフェナンスレン(以下「THP」と略する)、1,2,3,4,4a,9,10,10a−オクタヒドロフェナンスレン(以下「aOHP」と略する)、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナンスレン(以下「OHP」と略する)等の副生物が多種類生成する。これら9,10−ジヒドロフェナンスレン以外の副生物の生成量はかなり多く、しかも、これらの副生物と9,10−ジヒドロフェナンスレンとの分離、精製は極めて難しいので、工業的に9,10−ジヒドロフェナンスレンを製造しようとする場合、収率が非常に低く生産性が極めて悪いという問題があった。詳しくは、従来から、フェナンスレンを水素化した後に得られた反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを単離する方法としては、一般に、反応液を分留し、得られた留分のうち9,10−ジヒドロフェナンスレンを含む留分を結晶化に供する方法が採用されているが、この方法において、副生物を厳密に排除して純度の高い9,10−ジヒドロフェナンスレンを得るためには、分留した留分のうち9,10−ジヒドロフェナンスレンを若干含むが副生物をも含む留分は結晶化に供さないで廃棄せざるを得ず、分留した留分のうちの大部分は廃棄されることになっていたのである。
【0004】
前記特許文献1では、特定の水素化触媒を用いることにより、水素化反応における選択率を高め、目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレンの収率向上を試みてはいるが、それでもなお、副生物の生成を完全に抑制することは実質的に困難であり、得られた反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離、精製することを考慮すると、工業的には生産性の点で充分に満足しうる製造方法とは言えなかった。しかも、前記特許文献1に開示された方法は、特殊な水素化触媒を必要とするため、その入手容易性やコスト面等でも、工業的に採用しがたい場合があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、生産性やコスト面などにおいて工業的に優れた、9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、フェナンスレンの水素化反応において生じる副生物の大部分がフェナンスレンの水素化物であることに着目し、得られた反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離、精製する際に生じる残存物(例えば、反応液を分留したのちに結晶化することで9,10−ジヒドロフェナンスレンの分離する場合においては、該結晶化に供さなかった全ての留分や、結晶化後に得られた母液)を廃棄することなく、これを再利用することを考えた。そして、反応液から目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離したのち、通常は廃棄されることとなる前記残存物に対して脱水素化を施すことにより原料であるフェナンスレンを容易に再生できること、しかも、副生物である9,10−ジヒドロフェナンスレン以外の水素化物はどのような形で水素化されたものであっても(すなわち、THP、aOHP、OHP等のいずれであっても)脱水素化により同じフェナンスレンが得られること、を見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明にかかる9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法は、水素化触媒の存在下でフェナンスレンの水素化を行う工程と、前記水素化により得られる反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する工程と、前記分離後の残存物に対して脱水素化触媒の存在下で脱水素化を行うことによりフェナンスレンを再生する工程と、を含み、前記再生したフェナンスレンを前記水素化の原料として再利用する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生産性やコスト面などにおいて工業的に優れた、9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明にかかる9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明の製造方法は、水素化触媒の存在下でフェナンスレンの水素化を行う工程(以下「水素化工程」と称することもある)と、前記水素化により得られる反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する工程(以下「分離工程」と称することもある)と、前記分離後の残存物に対して脱水素化触媒の存在下で脱水素化を行うことによりフェナンスレンを再生する工程(以下「再生工程」と称することもある)とを含み、前記再生したフェナンスレンを前記水素化の原料として再利用するものである。
【0009】
水素化工程は、フェナンスレンを原料とし、目的物たる9,10−ジヒドロフェナンスレンを合成するために水素化反応を行う工程である。該水素化工程においては、通常、目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレン以外に、副生物が相当量生成する。副生物としては、主として、THP、aOHP、OHP等の水素化物が挙げられる。水素化工程において、目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレンの反応収率は、用いる反応方法やその他の条件等により異なるものの、通常、43〜90%程度であることが多いが、本発明によれば、副生物として生成した前記水素化物をフェナンスレンに再生し、新たな原料として再利用するものであるので、製造プロセス全体としての原料の転化率が損なわれることはなく、工業的にも良好な生産性を維持できる。
【0010】
水素化工程における水素化反応の方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、フェナンスレンと水素化触媒とを溶媒中で、水素加圧下、高温で反応させるようにすればよい。
水素化工程において用い得る水素化触媒としては、特に限定はなく、公知の水素化触媒のなかから、入手容易性やコスト等を考慮して、適宜選択すればよいのであるが、9,10−ジヒドロフェナンスレンを効率よく生成させるには、反応選択性の点から、例えば、銅クロム触媒、ラネーニッケル触媒等が好ましく挙げられ、特に好ましくは、銅クロム触媒がよい。これら触媒(特に、銅クロム触媒)は、助触媒として、亜鉛、マンガン、バリウム等を含んでいてもよい。水素化触媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
前記水素化触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、原料とするフェナンスレンに対して、0.05〜200重量%とするのが好ましく、より好ましくは1〜100重量%とするのがよい。
水素化工程において用い得る溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、n−プロピルアルコール、メチルシクロヘキサン等が好ましく用いられる。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、原料とするフェナンスレン1gに対して溶媒が100mL以下となるようにするのが好ましい。
【0012】
前記水素化反応における反応温度や反応時間は、特に限定されないが、例えば、反応温度は100〜250℃とすることが好ましく、反応時間は10〜50時間とすることが好ましい。また、前記水素化反応における水素圧は、特に限定されないが、例えば、0.2〜30MPaとすることが好ましい。
分離工程は、前記水素化工程で得られた反応液から目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離して単離する工程である。9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する具体的手段は、特に限定されないが、例えば、前記反応液を分留してその一部の分留液(留分)から結晶化により9,10−ジヒドロフェナンスレンを得るようにすることが、好ましい手段として挙げられる。
【0013】
前記分留は、反応液を蒸留し、沸点の差によって分離する手段であり、分留を行う際には、できるだけ多くの留分に分け、そして、得られた複数の留分のうち9,10−ジヒドロフェナンスレンを主として含む留分を纏めて結晶化に供することが、副生物を厳密に排除して得られる9,10−ジヒドロフェナンスレンの純度を高めるうえで、好ましい。なお、純度の高い9,10−ジヒドロフェナンスレンを得るために、分留した留分のうち副生物を主として含むが9,10−ジヒドロフェナンスレンをも若干含む留分を結晶化に供さないことは、収率の低下に繋がることになるが、本発明においては、副生物を主とする留分を含め、結晶化に供さない全ての留分からフェナンスレンを再生し、新たな原料として再利用するので、製造プロセス全体としての原料の転化率が損なわれることはなく、工業的にも良好な生産性を維持できる。
【0014】
前記分留を行う際の条件は、特に限定されず、公知の条件を採用することができる。例えば、0.1〜50mmHg(0.013〜6.7kPa)、塔上温度100〜300℃の条件下で蒸留すればよい。分留に用い得る装置としては、特に限定されず、公知の蒸留装置を用いればよいのであるが、例えば、精密蒸留塔等が好ましく用いられる。
前記結晶化を行う際の条件は、特に限定されず、公知の条件を採用することができる。例えば、溶媒としてn−ヘキサン、メタノール等を用いて再結晶化すればよい。なお、結晶化により9,10−ジヒドロフェナンスレンを結晶として析出させたのち、必要に応じて、濾過、洗浄、乾燥等を施してもよい。
【0015】
再生工程は、前記分離工程で得られた分離後の残存物を脱水素化触媒の存在下で脱水素化することにより、9,10−ジヒドロフェナンスレンを再生する工程である。ここで、前記分離後の残存物とは、前記分離工程で反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する際に派生した物であり、例えば、分離工程における好ましい手段として前述したように、分留したのちに結晶化することで9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する場合においては、前記分離後の残存物は、前記結晶化に供さなかった全ての分留液(留分)と前記結晶化後に得られた母液とからなる。詳しくは、前記残存物中には、先に述べた副生物、すなわち、本発明の製造方法の目的物以外の水素化物が含まれるが、特に、THP、aOHP、OHPから選ばれる少なくとも1種を含むことが通常である。本発明においては、この副生物たる水素化物を含む残存物を脱水素化することにより、フェナンスレンを生成(再生)させることを特徴としており、前記脱水素化により、残存物中に含まれる水素化物はその種類に関わらず、同じフェナンスレンに再生されるのである。なお、前記残存物中には、目的物である9,10−ジヒドロフェナンスレンが一部残存していたり、未反応の原料であるフェナンスレンが含まれていることもあるが、そのような残存物を脱水素化に供しても差し支えない。
【0016】
前記脱水素化反応の方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、前記残存物と脱水素化触媒と高温で反応させるようにすればよい。なお、脱水素化反応に供する前に、あらかじめ前記残存物を濃縮するなどして、該残存物中に含まれる水素化物の濃度を調整することもできる。
再生工程において用い得る脱水素化触媒としては、特に限定はなく、公知の脱水素化触媒を用いることができる。例えば、パラジウムカーボン、白金アルミナ等が好ましく用いられる。脱水素化触媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記脱水素化触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、脱水素化反応に供する前記残存物に含まれる全成分のうち溶媒を除く成分(前記残存物から溶媒のみを除去した残渣)に対して、0.1〜50重量%とするのが好ましく、より好ましくは1〜20重量%とするのがよい。
【0017】
前記脱水素化反応における反応温度や反応時間は、特に限定されないが、例えば、反応温度は150〜300℃とすることが好ましく、反応時間は10〜150時間とすることが好ましい。
前記脱水素化反応により生成したフェナンスレンを回収する方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、脱水素化触媒を濾別したのちに再結晶化すればよい。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
150L振盪式オートクレーブにフェナンスレン10kg、銅クロム触媒3kg、n−プロピルアルコール65Lを仕込み、150℃、水素加圧下(4〜6MPa)で振盪しながら15時間水素化反応を行い、反応後、得られた反応液から触媒を除去した。該反応液について、ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、各成分の面積比は以下の通りであった。
【0019】
9,10−ジヒドロフェナンスレン(DHP):89.0%
aOHP:0.4%
OHP:1.3%
THP:6.0%
フェナンスレン(PHT):2.8%
その他:0.5%
次いで、温度計、精密蒸留塔(高さ70cm、内径2cm)を備えた5Lガラス製4つ口フラスコに、前記触媒を除去して得た反応液の一部2190gを入れ、精密蒸留塔内には充填材((株)相互理化硝子製作所製「ヘリパック」)を高さ30cm、内径2cmで充填した。そして、15mmHg(2kPa)で減圧下、塔底温度185〜195℃、塔上温度167〜173℃で分留を行い、留去された留分を10分画に分けて採取した(留去し始めから順に、No.1、No.2、No.3、・・・と番号を付けた)。各留分についてガスクロマトグラフィー分析(GC)を行ったところ、各成分の面積比は表1に示す通りであった。
【0020】
【表1】

【0021】
次に、表1中のNo.3〜No.8の留分の混合物2015.4gに、n−ヘキサン2015.4mLを加えて1〜5℃で10時間晶析させ、生成した結晶を濾過して、1620.3gの湿結晶(純度99.1%)を得た。この湿結晶にメタノール2015.4mLを加えて1〜3℃で10時間晶析させ、生成した結晶を濾過したのち、25℃で50時間、減圧下で乾燥して、白色結晶として純度99.3%の精製9,10−ジヒドロフェナンスレン1269.7gを得た(精製収率63.0%)。
他方、表1中のNo.3〜No.8以外の留分(No.1、No.2、No.9、およびNo.10の留分)の全て計55.0gと、前記湿結晶を得る際および精製9,10−ジヒドロフェナンスレンを得る際に得られた母液の全て計3374gとを混合し、該混合物(9,10−ジヒドロフェナンスレン分離後の残存物)から337gを採り81.1gになるまで濃縮した。濃縮後の混合物から10gを100mLガラス製フラスコに採り、7.5重量%のパラジウムカーボン800mgを加えて200℃で99時間攪拌して、脱水素化反応を行った。得られた反応液にn−プロピルアルコール40mLを加えて80℃に加温し、加温下でパラジウムカーボンを除去した。この反応液について、ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、フェナンスレン(PHT)の面積比は98.9%であった。次いで、得られた反応液からパラジウムカーボンを除去した反応液を10.8gになるまで濃縮し、この濃縮物にn−プロピルアルコール50mLを加えて再結晶化を行うことにより、再生フェナンスレン8.8gを回収した。
【0022】
次に、回収した再生フェナンスレンを用いて、水素化反応を行った。すなわち、120mL攪拌式オートクレーブに再生フェナンスレン6.25g、銅クロム触媒0.313g、n−プロピルアルコール100mLを仕込み、150℃、水素加圧下(4〜6MPa)で攪拌しながら22時間水素化反応を行い、反応後、得られた反応液から触媒を除去した。該反応液について、ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、各成分の面積比は以下の通りであった。
9,10−ジヒドロフェナンスレン(DHP):83.1%
aOHP:0.3%
OHP:1.6%
THP:11.7%
フェナンスレン(PHT):2.7%
その他:0.6%
〔実施例2〕
フェナンスレンの水素化反応を行うにあたり、反応時間を20時間および11時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、2バッチの水素化反応を行った。反応後、得られた2バッチの反応液を混合し、混合反応液から触媒を除去した。該混合反応液について、ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、各成分の面積比は以下の通りであった。
【0023】
9,10−ジヒドロフェナンスレン(DHP):88.8%
aOHP:0.4%
OHP:1.6%
THP:5.3%
フェナンスレン(PHT):3.1%
その他:0.8%
次いで、温度計、精密蒸留塔(高さ90cm、内径5cm)を備えた10L蒸留缶に、前記触媒を除去して得た混合反応液の一部7865gを入れ、精密蒸留塔内には充填材((株)相互理化硝子製作所製「ヘリパック」)を高さ50cm、内径5cmで充填した。そして、15mmHg(2kPa)で減圧下、塔底温度184〜195℃、塔上温度167〜170℃で分留を行い、留去された留分を3分画に分けて採取した(留去し始めから順に、No.1、No.2、No.3と番号を付けた)。各留分についてガスクロマトグラフィー分析(GC)を行ったところ、各成分の面積比は表2に示す通りであった。
【0024】
【表2】

【0025】
なお、前記触媒を除去して得た混合反応液の残部についても、該残部を4分割し、それぞれを前記と同様にして分留し、各回とも留去された留分を3分画に分けて採取した(留去し始めから順に、No.1、No.2、No.3と番号を付けた)。そして、各回で得られたNo.1、No.2、No.3の留分をそれぞれ番号毎に混合し、各留分についてガスクロマトグラフィー分析(GC)を行ったところ、各成分の面積比は表3に示す通りであった。
【0026】
【表3】

【0027】
次に、表2中のNo.2の留分7.3kgに、n−ヘキサン1.7Lを加えて6〜9℃で10時間晶析させ、生成した結晶を冷却したメタノール3.8Lで洗浄しながら濾過したのち、25℃で70時間、減圧下で乾燥して、白色結晶として純度99.6%の精製9,10−ジヒドロフェナンスレン4.4kgを得た(精製収率60.3%)。
他方、表2中のNo.2以外の留分(No.1およびNo.3の留分)の全て計436.5gと、前記精製9,10−ジヒドロフェナンスレンを得る際に得られた母液の全て計6.9kgとを混合し、該混合物(9,10−ジヒドロフェナンスレン分離後の残存物)を3.33kgになるまで濃縮した。濃縮後の混合物から1.2kgを2L反応器に採り、7.5重量%の白金アルミナ0.12kgを加えて240℃で92時間攪拌して、脱水素化反応を行った。得られた反応液にn−プロピルアルコール4.8Lを加えて80℃に加温し、加温下で白金アルミナを除去した。この反応液について、ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、フェナンスレン(PHT)の面積比は98.7%であった。次いで、得られた反応液から白金アルミナを除去した反応液を1.27kgになるまで濃縮し、この濃縮物にn−プロピルアルコール6Lを加えて再結晶化を行うことにより、再生フェナンスレン1.08kgを回収した。
【0028】
次に、回収した再生フェナンスレンを用いて、水素化反応を行った。すなわち、2L攪拌式オートクレーブに再生フェナンスレン100g、銅クロム触媒5g、n−プロピルアルコール600mLを仕込み、150℃、水素加圧下(4〜6MPa)で攪拌しながら22時間水素化反応を行い、反応後、得られた反応液から触媒を除去した。該反応液について、ガスクロマトグラフィー分析を行ったところ、各成分の面積比は以下の通りであった。
9,10−ジヒドロフェナンスレン(DHP):86.0%
aOHP:0.3%
OHP:1.0%
THP:5.9%
フェナンスレン(PHT):6.0%
その他:0.8%
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかる9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法は、例えば、耐熱性高分子や液晶高分子等の原料となる9,10−ジヒドロフェナンスレン−2,7−ジカルボン酸エステルを得る際の原料の製造などに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒の存在下でフェナンスレンの水素化を行う工程と、前記水素化により得られる反応液から9,10−ジヒドロフェナンスレンを分離する工程と、前記分離後の残存物に対して脱水素化触媒の存在下で脱水素化を行うことによりフェナンスレンを再生する工程と、を含み、前記再生したフェナンスレンを前記水素化の原料として再利用する、9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法。
【請求項2】
9,10−ジヒドロフェナンスレンの分離工程は、前記反応液を分留してその一部の分留液から結晶化により9,10−ジヒドロフェナンスレンを得るようにし、かつ、前記脱水素化に供する残存物は、前記結晶化に供さなかった全ての分留液と前記結晶化後に得られた母液とからなる、請求項1に記載の9,10−ジヒドロフェナンスレンの製造方法。

【公開番号】特開2006−62975(P2006−62975A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244096(P2004−244096)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(591100297)株式会社日生化学工業所 (5)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】