説明

A/D変換器および温度調節器

【課題】 コストの増大を招くことなく、オフセット誤差を低減したA/D変換器を提供する。
【解決手段】 入力電圧をt0からt1までの一定時間積分した後、入力電圧とは逆極性の基準電圧を積分し、t1で基準電圧の積分を開始してから積分回路の出力が所定のレベルに達するt2までの時間を、クロックパルスでカウントすることによりA/D変換する二重積分型のA/D変換器において、積分回路の出力が所定のレベルに達した後、次のアナログ入力の積分を開始するt0までの期間に、積分回路の出力の誤差を補正する誤差補正用の積分を行うようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器およびそれを用いた温度調節器に関し、更に詳しくは、二重積分型のA/D変換器およびそれを用いた温度調節器に関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器には、入力電圧を一定時間積分した後、入力電圧とは逆極性の基準電圧を積分し、基準電圧の積分を開始してから積分回路の出力が所定のレベルに達するまでの時間を、クロックパルスでカウントすることによりA/D変換する、いわゆる二重積分型のA/D変換器がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−224766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図7は、二重積分型のA/D変換器の動作波形を示すものであり、同図(a)は積分回路の出力、同図(b)は積分時間を計測するカウンタの計測状態をそれぞれ示している。
【0004】
先ず、入力電圧を、t0からt1までの一定時間積分し、次に、逆極性の基準電圧に切換えて積分を継続し、所定のレベル、例えば、グラウンド(0V)になった時点t2で積分を終了する。カウンタによって、逆極性の基準電圧の積分を開始した時点t1から所定のレベルになって積分を停止するt2までの時間のクロックパルスを計数することにより、入力電圧の大きさに比例したデジタル値が得られることになる。
【0005】
かかるA/D変換器では、所定のレベルになって積分を停止した時点t2からサンプリング周期に対応する次の入力電圧の積分の開始t0までの期間において、該A/D変換器を構成するアナログスイッチやオペアンプ等の漏れ電流によって、積分回路の出力電圧が徐々に上昇し、次の入力電圧のA/D変換の開始の際t0には、Aで示すように、初期値が所定のレベルからずれてオフセット誤差が生じるという課題がある。
【0006】
かかるオフセット誤差を低減するには、漏れ電流が少ないアナログスイッチやオペアンプ等を使用することが考えられるが、これらは高価であり、コストが増大するという課題がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、コストの増大を招くことなく、オフセット誤差を低減したA/D変換器およびそれを用いた温度調節器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0009】
すなわち、本発明のA/D変換器は、アナログ入力を一定時間積分した後、前記アナログ入力とは逆極性の基準電圧を積分する積分回路を備え、前記基準電圧の積分を開始してから前記積分回路の出力が所定のレベルに達するまで時間を計測することにより、前記アナログ入力値をデジタル値に変換する二重積分型のA/D変換器であって、前記積分回路の出力が前記所定のレベルに達した後、前記アナログ入力の積分を開始するまでの期間に、前記積分回路の出力の誤差を補正する誤差補正用の積分を行うものである。
【0010】
本発明によると、基準電圧の積分を停止して次の入力電圧の積分を開始するまでの期間において、漏れ電流等によって積分回路の出力に誤差が生じても、その誤差を補正するように積分を行うので、誤差が低減されることになり、これによって、A/D変換の精度が向上する。
【0011】
本発明の一実施態様においては、前記誤差補正用の積分を、前記アナログ入力の積分を開始する直前で行うものである。
【0012】
この実施態様によると、誤差補正用の積分を、次のアナログ入力の積分が開始される直前で行うので、誤差が補正された後、次のアナログ入力の積分開始までの期間に、誤差が殆んど生じることがない。
【0013】
本発明の他の実施態様においては、前記誤差補正用の積分が、前記アナログ入力の積分および前記基準電圧の積分である。
【0014】
この実施態様によると、アナログ入力の積分および基準電圧の積分を行うことにより、積分回路の出力を、再び所定のレベルにして誤差を補正できることになる。
【0015】
本発明の好ましい実施態様においては、前記積分回路に対して、前記アナログ入力または前記基準電圧を与える切替えスイッチと、前記積分回路の出力と前記所定のレベルとを比較するコンパレータと、クロックパルスを発生するクロックパルス発生回路と、前記積分回路が前記基準電圧の積分を開始してからその出力が所定のレベルに達するまでの前記クロックパルス数を計数するカウンタ回路とを備えている。
【0016】
この実施態様によると、切替えスイッチを介して与えられるアナログ入力を積分回路で一定時間積分し、次に、切替えスイッチを介して与えられる基準電圧の積分を開始するとともに、カウンタ回路でクロックパルスの計数を開始し、積分回路の出力が所定のレベルに達したことを示すコンパレータの出力によってカウンタ回路の計数を停止することにより、アナログ入力に比例した計数値が得られることになる。
【0017】
本発明の温度調節器は、本発明に係るA/D変換器を備え、前記アナログ入力が温度入力であって、該温度入力に対応するA/D変換器の出力に基づいて、制御対象の温度を制御するものである。
【0018】
本発明によると、制御対象の温度を、温度入力としてA/D変換器に与えることにより、高い精度でデジタル値に変換されるので、かかるデジタル値に基づく温度制御の精度が高くなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基準電圧の積分を停止して次の入力電圧の積分を開始するまでの期間において、漏れ電流等によって積分回路の出力に誤差が生じても、その誤差を補正するように積分を行うので、誤差が低減されることになり、これによって、コストの増大を招くことなく、A/D変換の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面によって本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一つの実施の形態に係る温度調節器の要部のブロック図である。
【0022】
この実施の形態の温度調節器は、図示しない加熱炉などの制御対象の温度を検出する温度センサ等からの温度入力を、A/D変換するA/D変換器1と、このA/D変換器1からのA/D変換された温度入力および設定温度に基づいて、PID演算を行って操作信号を、図示しないSSR等に出力してヒータの通電を制御することにより、制御対象の温度を設定温度に一致させるように制御するPID制御部2とを備えている。
【0023】
この実施の形態のA/D変換器1は、温度入力と基準電圧とを切り替える入力切替えスイッチ3と、この切替えスイッチ3を介して与えられる温度入力または基準電圧を積分する積分回路4と、この積分回路4の出力電圧と所定のレベルとを比較するコンパレータ5と、このコンパレータ5の出力が与えられるとともに、入力切替えスイッチ3およびカウンタ6を制御する制御回路7と、この制御回路7の制御出力に基づいて、クロックパルス発生回路8からのクロックパルスを計数するカウンタ6とを備えている。
【0024】
積分回路4は、図5に示すように、オペアンプ10、コンデンサ11および抵抗12を備えている。
【0025】
PID制御部2、カウンタ6、制御回路7およびクロックパルス発生回路8は、例えば、マイクロコンピュータによって構成される。
【0026】
図2は、図1のA/D変換器1の動作波形を示す図であり、同図(a)は、積分回路4の出力、同図(b)はカウンタ6の計測状態をそれぞれ示している。
【0027】
先ず、t0になると、制御回路7よって、入力切替えスイッチ3が温度入力側とされ、温度入力の積分が開始される。この時、積分回路4のコンデンサは、充電されて積分回路4の出力は、同図(a)に示すように変化する。
【0028】
次に、温度入力の積分を開始して一定時間が経過してt1になると、制御回路7よって、入力切替えスイッチ3が、温度入力とは逆極性の基準電圧側に切替えられ、基準電圧の積分が開始されるとともに、同図(b)に示すようにカウンタ6によってクロックパルスの計数が開始される。
【0029】
基準電圧は、温度入力とは逆極性であるので、基準電圧の積分が開始されると、積分回路4のコンデンサは、放電し、積分回路4の出力は、同図(a)に示すように変化する。
【0030】
次に、t2において、積分回路4の出力電圧が所定のレベル(例えば、グラウンド)になると、コンパレータ5から制御回路7に信号が出力され、制御回路7は、同図(b)に示すようにカウンタ6のクロックパルスの計数を停止させるとともに、入力切替えスイッチ3を、いずれの側でもない中立の状態にする。
【0031】
この時カウンタ6の計数値は、t1で基準電圧の積分を開始してからt2で積分回路4の出力が所定のレベルになるまでに入ったクロックパルスの数を示しており、このクロックパルス数が、温度入力に比例したものとなり、温度入力がクロックパルス数にA/D変換されることになる。
【0032】
かかるA/D変換器1では、t2で積分回路4の出力がグラウンドになって積分を停止した後、サンプリング周期に対応する次の温度入力の積分を開始するt0までの期間において、アナログスイッチやオペアンプ等の漏れ電流によって、上述の図7のように積分回路4の出力電圧が徐々に上昇し、次の温度入力の積分の開始の際には、初期値が所定のレベルであるグラウンドからずれてオフセット誤差が生じることになる。
【0033】
そこで、この実施の形態では、t2で積分を停止した後、次の温度入力の積分を開始するt0までの期間において、オフセット誤差を補正するための誤差補正用の積分を行うようにしている。
【0034】
すなわち、同図(a)に示すように、t3において、切替えスイッチ3を温度入力側として温度入力の積分を開始し、t4において、切替えスイッチ3を基準電圧側に切替えて、逆極性の基準電圧の積分を行い、積分回路4の出力電圧が、所定のレベルであるグラウンドになったときに、積分を停止するようにしている。
【0035】
この誤差補正用の積分について、図3に基づいて、更に詳細に説明する。同図(a)は、温度入力の積分動作に対応する信号であり、この信号がハイレベルの期間で、温度入力の積分が行われる。また、同図(b)は積分回路4の出力電圧を拡大して示すものであり、図2に対応する動作タイミングには、同一の参照符号t0〜t4を付す。
【0036】
この実施の形態では、サンプリング周期、すなわち、温度入力の積分を開始してから次の温度入力の積分を開始するまでの周期Tは、例えば、250msであり、その内、温度入力の積分を行う一定期間T1は、例えば、100msであり、基準電圧の積分の開始から次の温度入力の積分を開始するまでの期間T2は、例えば、150msである。
【0037】
この実施の形態では、上述のように、積分回路4の出力電圧が所定のレベルであるグラウンドとなって基準電圧の積分を終了した後、次の温度入力の積分が開始されるまでの期間において、誤差補正用の積分を行うものである。
【0038】
この実施の形態では、温度入力の積分が終了して期間T3、例えば、144msの期間が経過した後に、誤差補正用の積分を開始し、一定期間T4、例えば、2msの期間、温度入力を積分し、その後、基準電圧の積分を行い、積分回路4の出力が所定のレベルに達したときに、積分を停止するようにしている。
【0039】
誤差を補正するために温度入力を積分する期間T4は、漏れ電流等によって生じる最大のオフセット誤差を考慮して予め決定されるものであり、また、誤差を補正するための温度入力の積分を停止してから次の温度入力の積分を開始するまでの期間T5、例えば、4msは、前記一定期間T4で充電された最大の電荷を放電するに必要な期間として予め決定されるものである。
【0040】
図4は、この実施の形態の動作説明に供するフローチャートである。
【0041】
タイマの割り込み処理によって、動作タイミングを判別し(S1)、温度入力の積分を開始する動作タイミング、すなわち、上述の図2および図3のt0のタイミングであるときには、温度入力の積分を開始し(S2)、タイマを、一定期間T1、例えば、100msにセットし(S3)、動作タイミングを、次の動作タイミングである温度入力の積分の停止および基準電圧の積分の開始のタイミングt1に設定して終了する(S4)。
【0042】
タイマの割り込み処理によって判別した動作タイミングが、温度入力の積分の停止および基準電圧の積分の開始の動作タイミング、すなわち、図2および図3のt1のタイミングであるときには、温度入力の積分を停止して基準電圧の積分を開始し(S5)、タイマを一定期間T3、例えば、144msにセットし(S6)、動作タイミングを、次の動作タイミングである誤差補正用の温度入力の積分の開始のタイミングt3に設定して終了する(S7)。
【0043】
タイマの割り込み処理によって判別した動作タイミングが、誤差補正用の温度入力の積分開始の動作タイミング、すなわち、図2及び図3のt3のタイミングであるときには、誤差補正用の温度入力の積分を開始し(S8)、上述の図2および図3の動作タイミングt1からt2までの期間においてカウンタ6でクロックパルスを計数したA/Dカウント値を取り込み(S9)、タイマを一定期間T4、例えば、2msにセットし(S10)、動作タイミングを、次の動作タイミングである誤差補正用の温度入力の積分の停止および誤差補正用の基準電圧の積分の開始のタイミングt4に設定して終了する(S11)。
【0044】
タイマの割り込み処理によって判別した動作タイミングが、誤差補正用の温度入力の積分の停止および誤差補正用の基準電圧の積分の開始の動作タイミング、すなわち、図2および図3のt4のタイミングであるときには、誤差補正用の温度入力の積分を停止して基準電圧の積分を開始し(S12)、タイマを、一定期間T5、例えば、4msにセットし(S13)、動作タイミングを、次の動作タイミングである温度入力の積分の開始のタイミングt0に設定して終了する(S14)。
【0045】
このように、次の温度入力の積分が開始される直前に、誤差補正用の積分を行っているので、オフセット誤差を低減することができ、コストの増大を招くことなく、A/D変換の精度を高めることができる。
【0046】
上述の実施の形態では、誤差補正用の積分を行うことによって、オフセット誤差を低減したけれども、図5に示すように、積分回路4のコンデンサ11に並列にスイッチ13を設け、温度入力の積分を開始する直前に、スイッチ13をオンして漏れ電流等によってコンデンサ11に蓄積された電荷を放出させ、積分回路4の出力を、所定のレベルであるグラウンドとし、その後、スイッチ13をオフして温度入力の積分を開始するようにしてもよい。この場合の図2に対応する動作波形を、図6に示す。なお、図6において、T6は、スイッチ13をオンする期間を示している。
【0047】
上述の実施の形態では、温度調節器に適用して説明したけれども、本発明は、温度調節器に限らず、デジタルパネルメータのような計測機器やその他の機器にも適用できるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、温度調節器などの機器のA/D変換器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係る温度調節器の要部のブロック図である。
【図2】図1の動作説明に供する波形図である。
【図3】図1の動作説明に供する波形図である。
【図4】図1の動作説明に供するフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施の形態の要部の回路図である。
【図6】図5の動作説明に供する波形図である。
【図7】従来例の動作説明に供する波形図である。
【符号の説明】
【0050】
1 A/D変換器 2 PID制御部
3 入力切替えスイッチ 4 積分回路
5 コンパレータ 6 カウンタ
7 制御回路 8 クロックパルス発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力を一定時間積分した後、前記アナログ入力とは逆極性の基準電圧を積分する積分回路を備え、前記基準電圧の積分を開始してから前記積分回路の出力が所定のレベルに達するまで時間を計測することにより、前記アナログ入力値をデジタル値に変換する二重積分型のA/D変換器であって、
前記積分回路の出力が前記所定のレベルに達した後、前記アナログ入力の積分を開始するまでの期間に、前記積分回路の出力の誤差を補正する誤差補正用の積分を行うことを特徴とするA/D変換器。
【請求項2】
前記誤差補正用の積分を、前記アナログ入力の積分を開始する直前で行うことを特徴とする請求項1記載のA/D変換器。
【請求項3】
前記誤差補正用の積分が、前記アナログ入力の積分および前記基準電圧の積分であることを特徴とする請求項1または2記載の記載のA/D変換器。
【請求項4】
前記積分回路に対して、前記アナログ入力または前記基準電圧を与える切替えスイッチと、前記積分回路の出力と前記所定のレベルとを比較するコンパレータと、クロックパルスを発生するクロックパルス発生回路と、前記積分回路が前記基準電圧の積分を開始してからその出力が前記所定のレベルに達するまでの前記クロックパルス数を計数するカウンタ回路とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のA/D変換器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のA/D変換器を備え、前記アナログ入力が温度入力であって、該温度入力に対応するA/D変換器の出力に基づいて、制御対象の温度を制御することを特徴とする温度調節器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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