ALCパネルの製造方法
【課題】 原料スラリーの配合組成を調整することで、半硬化体に発生する沈下キレツや下部キレツを防止し、これによりパネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止するALCパネルの製造方法を提供する。
【解決手段】 補強筋を型枠内に配設し、該型枠内に原料スラリーを打設し、この原料スラリーから得られる半硬化体を型枠から脱型した後、高温高圧蒸気養生してALCパネルの製造するに際して、原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、型枠内で変化する補強筋の高さ位置が最高となる最高高さ位置HHと、該水和反応の進行に伴って補強筋が原料スラリー内に保持され、その高さ位置が変化しなくなる安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整するようにした。
【解決手段】 補強筋を型枠内に配設し、該型枠内に原料スラリーを打設し、この原料スラリーから得られる半硬化体を型枠から脱型した後、高温高圧蒸気養生してALCパネルの製造するに際して、原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、型枠内で変化する補強筋の高さ位置が最高となる最高高さ位置HHと、該水和反応の進行に伴って補強筋が原料スラリー内に保持され、その高さ位置が変化しなくなる安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原料スラリーの配合組成を調整することで、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れの発生を防止するALCパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、一般的にケイ酸質原料、石灰質原料、水およびアルミニウム粉末等を混合して得た原料スラリーを、補強筋を予め配設した型枠内に打設して得られる半硬化体から製造される。原料スラリーは、アルミニウム粉末が原料スラリー中のアルカリ成分と接触して起こる発泡反応と、石灰質原料が原料スラリー中の水と接触して起こる水和反応とによって半硬化体となる。そして、この半硬化体をピアノ線等で所定寸法に切断し、オートクレープによる高温高圧蒸気養生を数時間行なうことでALCパネルが得られる。
【0003】
型枠に打設された原料スラリーは、発泡反応の進行に伴って体積膨張を始めるとともに、水和反応の進行に伴って硬度増加(硬化)を始める。
ここで、原料スラリーの体積は、発泡反応が完了した後も水和反応の進行に伴う発熱によってさらに膨張(増大)を続けて最大となり、その後は体積収縮(減少)に転じて、最終的には安定した所定の値となる。
この原料スラリーの体積の変化を、原料スラリーの上面高さ位置(以下、原料スラリーの高さ位置と云う)で表すと、図8(横軸に時間の経過を示し、左縦軸に原料スラリーの高さ位置を示している)のようになる。すなわち、原料スラリーの高さ位置は、スラリー打設後から高くなり始め、原料スラリーの体積が最大となったときに最高(図8における「SH」)となり、原料スラリーの体積が安定した所定の値となったときに所定の安定した値(図8における「Ss」)になる。
【0004】
一方、原料スラリーの硬度は、水和反応の進行に伴って増加し続け、原料スラリーの体積が最終的に安定したときに、補強筋が容易に遊動できない程度に半硬化した状態(以下、遊動不可半硬化状態と云う)に至る。これは、原料スラリーの硬度が遊動不可半硬化状態に到ることで、原料スラリーの体積が変化できなくなって安定するためである。
この原料スラリーの硬度の変化を、図8(右縦軸は原料スラリーの硬度を示している)を用いて説明すると、硬度は原料スラリーの打設後から増加を始め、原料スラリーの体積が安定した所定の値となったときに、補強筋を原料スラリー内で遊動不可に保持する程度に半硬化した(硬度の)値(図8における「HDs」)となり、その後も増加を続ける。なお、以後、補強筋40を原料スラリー内で遊動不可に保持する程度に半硬化した値「HDs」となった原料スラリーの状態を遊動不可半硬化状態と云う。
【0005】
原料スラリーが打設される型枠30内には、図9に示すように、製造されるALCパネル毎に補強筋40が準備されている。型枠30上には、所定間隔をおいて複数個懸架されたブリッジ(図示せず)からそれぞれ複数のロッドピン54から吊り下げられている。ここでブリッジに吊り下げられたロッドピン54は、吊り下げられた位置から下方に対して移動できず、上方に対してだけ移動可能に構成されている。
そして補強筋40はその下端を、ブリッジに吊り下げられたロッドピン54に掛止され、このロッドピン54に対して相対移動しない状態で、型枠30内に配設されている。すなわち、ロッドピン54に掛止された補強筋40は、ロッドピン54とともに上方に移動可能である一方で、ブリッジに吊り下げられたロッドピン54によって型枠30内に配設された位置(原料スラリー打設前の位置)より下方には変位できないようになっている。
【0006】
この補強筋40の変位を、原料スラリーの高さ位置の変化および硬度の変化に合わせて図8に示す。なお、図8における左縦軸には、原料スラリーの高さ位置とともに、補強筋40の最上部(型枠内で補強筋40のうち最上部に位置し、型枠30の水平方向に延在する最上部補強筋(主筋40a)40aa)の高さ位置(以後、最上部補強筋40aaの高さ位置と云う)を示している。以後、補強筋40の高さ位置として、最上部補強筋40aaの高さ位置を用いる。
原料スラリー打設前における補強筋40の高さ位置は、原料スラリー打設前の高さ位置(図8における「H0」)である。そして、原料スラリーの体積が膨張を始めて、その高さ位置が最上部補強筋40aaの高さ位置を超えると、補強筋40は上方に変位を始め、補強筋40の高さ位置も上方に変化(上昇)を始める。その後、原料スラリーの高さ位置が最高(「SH」)となったときに、補強筋40の高さ位置も最高(図8における「HH」)になり、最終的に原料スラリーの高さ位置が下がって所定の値(「SL」)に安定したときに、補強筋40の高さ位置も同様に下方に変化(下降)して所定の安定した値(図8における「HS」)となる。
【0007】
ところで、このように原料スラリーから半硬化体が製造されると、図10に示すように半硬化体における最上部補強筋40aaの下方に隙間(以下、沈下キレツと云う)が発生したり、図11(b)に示すように補強筋40の最下部(型枠内で補強筋のうち最下部に位置し、水平方向に延在する最下部補強筋(主筋40a)40ab)の下方に隙間(以下、下部キレツと云う)が発生することがあった。これら沈下キレツや下部キレツが発生した半硬化体から得られたALCパネルは、これらの各キレツに起因するクラックや割れ等が発生して不良品となっていた。沈下キレツや下部キレツは、以下の機構によって発生すると考えられる。
【0008】
・沈下キレツについて:
原料スラリーの体積が膨張して最大値に至った後の収縮に伴って下降し始めた補強筋40の高さ位置が、それ以上、下降できない原料スラリー打設前の高さ位置(「H0」)まで戻りきっても、原料スラリーの高さ位置が所定の値に安定していないときに起こる。
これは、原料スラリーの硬化が遅く、補強筋40の高さ位置が原料スラリー打設前の位高さ位置(「H0」)に戻り切るまでに遊動不可半硬化状態に到らないことによって、補強筋40が下方に対して変位できなくなっても原料スラリーの高さ位置は下がり続けることが原因と考えられる。
このため、図10に示すように、最上部補強筋40aaの上方にある原料スラリーは補強筋40の上部に溜まり、最上部補強筋40aaの下部にある原料スラリーは下方に流動・沈降してしまう。その結果、最上部補強筋40aaと、その下方にある原料スラリーとの間に沈下キレツが発生してしまう。
従って、補強筋40の高さ位置が原料スラリー打設前の高さ位置に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になれば沈下キレツは発生しない。
【0009】
・下部キレツについて:
補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置から下降する前に、原料スラリーの高さ位置が所定の値に安定したときに起こる。
これは、硬化が早く、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置(「HH」)に至るまでの間に硬度が一定以上に高くなった原料スラリーが、上方へ変位する補強筋40によって押しのけられることが原因と考えられる。押しのけられた原料スラリーは、硬度が一定以上に高くなって流動性が低くなっているため、元の位置に完全に戻ることができず、図11(a)に示すように、上方へ変位する補強筋40の下側に集まって隙間を形成してしまう。そして、原料スラリーが半硬化体となって、型枠30から脱型された後に衝撃が加わると、図11(b)に示すように、複数の隙間が連続してしまって下部キレツが発生する。
従って、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置(「HH」)に至った後に、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になれば下部キレツは発生しない。
【0010】
このように沈下キレツや下部キレツは、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生するものであり、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まっていれば発生しない。
一方、上記の条件を満たさなければ、沈下キレツや下部キレツが発生し、沈下キレツや下部キレツが発生した半硬化体に高温高圧蒸気養生を施して得られたALCパネルには、沈下キレツや下部キレツに起因するクラックや割れが発生する。このため、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生した場合、最終的に得られるALCパネルが不良品となってしまう。
【0011】
このような問題を防止するため、以下のような方法が提案されている。
(1)特許文献1(発明「ALCパネルの製造方法」):所定の特性を有するアルミニウム粉末を発泡剤として使用することで、最上部補強鉄筋の下方におけるクラックの発生と、気泡むらとを解消する方法。
(2)特許文献2(発明「軽量気泡コンクリートの製造方法」):アルミニウム粉末として、乾式粉砕物と湿式粉砕物とを混合使用することで、最上部補強鉄筋の下方における空洞状クラックの発生をなくす方法。
これらの方法は何れも、原料スラリーの配合組成の一つであるアルミニウム粉末の特性を変えることで原料スラリーの体積膨張を制御し、これにより原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの体積が一定の範囲に収めるようにしたものである。
【特許文献1】特開平8−277177号公報
【特許文献2】特開2001−261466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、が前述した(1)および(2)の方法では、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生しているか否かは、原料スラリーから得られた半硬化体に高温高圧蒸気養生を施してALCパネルとなった後でなければ確認できなかった。すなわち、ALCパネルのクラックや割れの発生に対して防止対策が講じられるのは、少なくとも原料スラリーを最初に打設して数時間が経過した後となってしまうため、早期に防止対策を講じることができず、その間にクラックや割れが発生したALCパネルが多数ロット生産されてしまう問題があった。
【0013】
この問題を解決する手段として、型枠30内における原料スラリーの高さ位置を計測することで、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーが体積が一定範囲に入っているか否かを検知して、沈下キレツや下部キレツの発生を防止する方法がある。この方法は、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に伴って変化する原料スラリーの高さ位置を計測することで、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生する沈下キレツや下部キレツを防止するものである。また、この方法によれば、原料スラリー高さ位置の変化から、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まっているかを検知しているので、原料スラリーがALCパネルになる前の半硬化体の形成段階で沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定することで、ALCパネルにクラックや割れが発生するか否かを知ることができる。
【0014】
しかし、原料スラリーの高さ位置を計測する場合、部位によって計測される原料スラリーの高さ位置にばらつきがあって一定しない問題があった。例えば補強筋が存在する真上の部位では、補強筋によって原料スラリーの体積膨張が阻害されて、他の部位に比べて原料スラリーの高さ位置の変化が小さくなる(高さ位置が低く計測される)現象が起こるからである。すなわち、原料スラリーの高さ位置を計測する部位によって、その数値がばらついて異なってしまい、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まっているか否かが検知できず、結果として、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定できなかった。
また、この方法は、原料スラリーの高さ位置を計測することで、あくまで間接的に沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定しているに過ぎないので、部位によって計測される原料スラリーの高さ位置にばらつきが少しでもあると、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定する精度が大きく低下してしまう問題もあった。この場合、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを正確に判定できないので、沈下キレツや下部キレツが発生を防止する対応策も不確実なものとなってしまう。
さらに、原料スラリーの高さ位置は、原料スラリーに発生する予測できない突沸、陥没等によっても影響を受けてしまう問題も指摘される。
そこでこれらの問題を回避すべく、原料スラリーの高さ位置を複数箇所で計測する方法が考えられるが、この場合、計測装置のコストが嵩むとともに、配置スペースの増大を招く問題があった。
【0015】
すなわち本発明は、従来の技術に係る課題を解決するものであって、原料スラリーの配合組成を調整することで、半硬化体に発生する沈下キレツや下部キレツを防止し、これによりパネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止するALCパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明に係るALCパネルの製造方法は、補強筋を型枠内に配設し、該型枠内にケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤を混合した原料スラリーを打設し、この原料スラリーから得られる半硬化体を該型枠から脱型した後、高温高圧蒸気養生するALCパネルの製造方法において、
前記原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、前記型枠内で変化する補強筋の高さ位置が最高となる最高高さ位置と、該水和反応の進行に伴って補強筋が原料スラリー内に保持され、その高さ位置が変化しなくなる安定時高さ位置との差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整するようにした。
【0017】
なお、本発明のALCパネルの製造方法においては、
(1)最高高さ位置と安定時高さ位置との差は、安定時高さ位置を変化させることで一定範囲に収めるようにしたこと。
(2)安定時高さ位置は、界面活性剤の混合量を増減することで変化させられること。
(3)界面活性剤としてアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤が使用されること。
(4)アニオン系界面活性剤としてn−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用され、非イオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用されること。
(5)補強筋の高さ位置は、ロッドピンを介して補強筋を型枠内に配設しているロッドフレームの高さ位置により計測されること、
(6)補強筋の高さ位置は、レーザーで計測されること。
(7)石灰質原料は、その重量の半分以上が生石灰であること。
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るALCパネルの製造方法によれば、補強筋の高さ位置を計測することで、原料スラリーの高さ位置を計測する場合に比較して沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定する精度を高めているから、原料スラリーの配合組成を正確に調整して、半硬化体における沈下キレツや下部キレツの発生を確実に防止し、これによりパネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を確実に防止できる。
また、原料スラリーからALCパネルが製造されるのを待つことなく、半硬化体の形成段階で沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定できるから、原料スラリーの配合組成の調整が短時間のうちに可能となって、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を早期に防止できる。従って、クラックや割れが発生したALCパネルが多数ロット生産されてしまうこともない。
さらにこれまでALCパネルの製造に使用されていた型枠等をほぼそのまま利用できるので、導入コスト等が嵩むこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係るALC(軽量気泡コンクリート)パネルの製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、背景技術に既出した図8〜図11に同じ参照番号で示される各部材は、背景技術と同じであるので詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0020】
本実施例に係るALCパネルの製造方法は、ケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤等の各原料から準備される原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って型枠内で上下に変化する補強筋の高さ位置を計測することで、原料スラリーの最高高さ位置と、安定時高さ位置との差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整し、これにより半硬化体における沈下キレツおよび下部キレツの発生を防止して、得られるALCパネルにクラックや割れ等が発生しないようにするものである。
【0021】
(型枠30について)
まず、原料スラリーが打設される型枠について以下説明する。図1および図2に示すように、型枠30にはロッドフレーム32に挿通・位置決めされた複数のロッドピン34に掛止された複数組の補強筋40が、型枠30内の所定位置に配置されている。ここで、ロッドピン34の先端部36は略直角に屈曲しており、この屈曲によって補強筋40が掛止されるようになっている。
本実施例で用いられる型枠30の内寸は、長さ6140mm(図1参照)、幅1340mm(図2参照)、高さ655mm(図2参照)であり、ALCパネルは型枠30の長さ方向をパネル長辺方向とするとともに、高さ方向をパネル短辺方向とし、幅方向を厚さ方向として複数整列した形で製造される。なお、図1においては補強筋40の記載を省略している。
【0022】
(ロッドフレーム32について)
図1に示すように、ロッドフレーム32は、型枠30における周縁部の上端面30aを上方から覆う略ロ字形状の枠材32aと、この枠材32aの内部に架設される複数のホルダ32bとを備え、さらに枠材32aの四隅で下方に突出した複数(本実施例では4つ)の突出部32cを備えており、上端面30aに対して突出部32cの下面を当接させて型枠30上に載置された状態になっている。従って、ロッドフレーム32の高さ位置が上方に変化すれば、上端面30aと突出部32cとは離間することになるので、ロッドフレーム32の高さ位置の変化は、上端面30aと突出部32cとの離間距離の変化によって確認でき、さらにその変化量は離間距離として正確に計測可能となっている。
また、ホルダ32bには、ロッドピン34を挿通・位置決めするための多数の貫通孔32dが、ホルダ32bの長手方向に沿って一定間隔毎に穿設されている。このホルダ32bに挿通・位置決めされたロッドピン34は、ホルダ32bに対してロックされた状態になり、このロックによってロッドピン34はホルダ32b(ロッドフレーム32)と一体的に変位するようになる。
【0023】
(補強筋40について)
補強筋40は、型枠30の長さ方向(パネル長辺方向)に水平に延在する主筋40aと、型枠30の高さ方向(パネル短辺方向)に沿って延在する副筋40bとで格子状に組まれた鉄筋マットの上下をそれぞれ連結部材40cで2枚連結することで、全体としてかご形状に構成されている。ここで、ロッドピン34は、補強筋40を構成する2枚の鉄筋マットの間から、下部の連結部材40cに通して回転させるこで、略直角に屈曲したロッドピン34の先端部36が下部の連結部材40cの下側に掛止されるようになっている(図2参照)。
そして、ロッドピン34に掛止された補強筋40は、ロッドピン34に対して相対移動しないようになっており、ロッドピン34と補強筋40とは一体的に変位する。すなわち、ロッドピン34がホルダ32bにロックされ、かつ補強筋40がロッドピン34に掛止されていると、補強筋40が変位すると、ロッドピン34を介してホルダ32b(ロッドフレーム32)も同じように変位する(補強筋40、ロッドピン34およびホルダ32b(ロッドフレーム32)が一体的に変位する)。
【0024】
なお、本実施例で用いられている型枠30等の重量は、以下の通りである。ロッドフレーム32の重量は約500kgであり、一つのロッドフレーム32(ホルダ32b)に挿通・位置決められる多数のロッドピン34の総重量は50〜150kg程度となっている。また、主筋40aには7mm、副筋40bおよび連結部材40cにはそれぞれ5mmの鉄筋が用いられており、一組のカゴをなす補強筋40の重量は約1〜3kgである。そして型枠30内には、40〜120組の補強筋40がセットされるから、その総重量は40〜360kg程度となっている。
【0025】
(原料スラリーについて)
補強筋40が配置された型枠30内に打設される原料スラリーは、前述したようにケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤等の各原料から準備される。この原料スラリーは、アルミニウム粉末および石灰質原料(アルカリ成分)の接触による発泡反応と、石灰質原料および水との接触による水和反応とに伴う体積膨張および硬度増加(硬化)によって半硬化体を形成する。
なお、ケイ酸質原料および石灰質原料としてクラストを使用してもよい。クラストとは、水和反応が進行して半硬化した原料スラリーや、あるいはALCパネルの製造工程で発生する半硬化体を解砕したものを指す。
【0026】
なお、一つの型枠30内に打設される原料スラリーの重量部一例を挙げると、3500〜3800kg程度である。本実施例で使用される原料スラリーは、ケイ酸質原料としての珪石粉末40〜42質量部、石灰質原料としてのポルトランドセメント11〜12質量部および生石灰(酸化カルシウム)13〜14質量部、クラスト22質量部並びにALCの破砕粉末12質量部からなる固形分に対し、外割で60〜70重量部の水と、0.05〜0.07質量部のアルミニウム粉末と、0.00002〜0.00012質量部(好適には00004〜0.00006質量部)の界面活性剤とを添加した組成物である。水を除いた原料スラリーの重量は、2200〜2300kgである。このクラストの使用量は、ALCパネルの強度低下防止の観点から、好ましくは40%以下、更に好ましくは20%以下とされる。
【0027】
(生石灰について)
本実施例で原料スラリーの一部として使用される生石灰は、石灰質原料として用いられる原料の1つである。この生石灰の使用量が石灰質原料の半分以上になると、原料スラリーの硬化が30分以内(上記配合組成の場合、20〜25分程度)という短時間で完了するため、全製造工程の実施に必要とされる時間を短縮できる。
【0028】
(原料スラリーが半硬化体になる際の体積および硬度の変化について)
型枠30内に打設された原料スラリーは、発泡反応および水和反応の進行に伴って体積を膨張させるとともに硬度を増加させる。以下にこの原料スラリーの体積の変化と硬度の変化とについて、図3を用いて個別に説明する。
なお、図3において、横軸は時間の経過を示し、左縦軸に原料スラリーの高さ位置および補強筋40り高さ位置を併せて示し、右縦軸は原料スラリーの硬度を示している。また、補強筋40の高さ位置は、補強筋40における最上部補強筋(主筋40a)40aaの高さ位置で表し、原料スラリー打設前における補強筋40の高さ位置は、原料スラリー打設前の高さ位置(以下、打設前高さ位置と云う)H0である。
【0029】
(体積の変化について)
原料スラリーの体積は、発泡反応および水和反応の進行に伴って膨張(増大)する。これは、発泡反応の進行に伴って発生する水素ガスによって原料スラリー内に気泡が生成され、さらに水和反応の進行に伴う発熱によって生成した気泡が膨張するためである。
原料スラリーの体積は膨張を続けて、その上面の高さ位置が、補強筋40の打設前高さ位置H0(原料スラリー打設前の最上部補強筋(主筋40a)40aaの高さ位置)を超える。
その後、原料スラリーの体積は最大(原料スラリーの高さ位置=SH)となってから収縮(減少)し初めて、最終的には所定の安定した値(原料スラリーの高さ位置=Ss)となる。これは、水和反応の進行に伴って、原料スラリーの内部の水分が減少することで、原料スラリーに存在する気泡が保持されなくなって破泡して気泡内の水素ガスが大気中に離脱したり、他の気泡と合一して大きくなった気泡が原料スラリーの重さで潰れたりするためである。
【0030】
(硬度の変化について)
一方、原料スラリーの硬度は、水和反応の進行に伴って増加し、原料スラリーの体積が所定の値に安定したときに遊動不可半硬化状態(原料スラリーの硬度=HDs)に至り、その後も増加を続ける。すなわち、原料スラリーの体積が膨張して最大値に至った後に収縮するのに対して、原料スラリーの硬度は増加し続ける。
【0031】
(原料スラリーの体積変化および硬度変化の補強筋40への作用について)
次に、図4〜図7を用いて型枠30内で体積および硬度が変化する原料スラリーの、(型枠30内に配置される)補強筋40に対する作用を説明する。なお、図4〜図7において、各図の左側には原料スラリーの高さ位置およびその変化(矢印)を記載し、各図の右側には補強筋40の高さ位置およびその変化(矢印)を記載し、さらにロッドフレーム32の高さ位置が変化する図6および図7においては、各図の中心付近にその高さ位置の変化(矢印)をそれぞれ記載している。
【0032】
型枠30内に打設された原料スラリーの体積が膨張を始め、図4に示すように、その高さ位置が補強筋40の打設前高さ位置H0を超えるまでは、補強筋40が原料スラリー打設前の位置から変位することはなく、その高さ位置も原料スラリー打設前の高さ位置H0から変化することはない。これは、補強筋40全体が原料スラリーに埋もれるまでは、補強筋40が原料スラリーから受ける浮力が、補強筋40を変位させるには不充分だからである。
そして、図5に示すように、原料スラリーの体積が膨張して、その高さ位置が補強筋40の打設前高さ位置H0を超えると、補強筋40は全体が原料スラリー内に埋もれた状態になる。すると、補強筋40が原料スラリーから受ける浮力が大きくなって、補強筋40が原料スラリーの体積の膨張に伴って上方に変位することになり、その高さ位置も上方に変化(上昇)する。
【0033】
この補強筋40の高さ位置の上方への変化は、原料スラリーの高さ位置が最高(原料スラリーの高さ位置=SH:図3および図6参照)になるまで続き、図6に示すように、原料スラリーの高さ位置が最高になったときに、補強筋40の高さ位置も最高の高さ位置(以下、最高高さ位置と云う)HHになる。
その後、図7に示すように、原料スラリーの体積が収縮し始め、原料スラリーの高さ位置が、最高の高さ位置から下がって所定の値(原料スラリーの高さ位置=SS:図3および図7参照)に安定するのに伴って補強筋40の高さ位置は最高高さ位置HHから下方に変化(下降)し、これ以上は下降しない安定した高さ位置(以下、安定時高さ位置)HSに安定する。このとき、原料スラリーは遊動不可半硬化状態(原料スラリーの硬度=HDs:図3参照)になっているので、補強筋40は遊動不可半硬化状態になった原料スラリー内に、安定時高さ位置HSのまま保持される。
【0034】
そして、前述したように、沈下キレツや下部キレツは発生させないためには、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置HHに至った後から、打設前高さ位置H0に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になればよいのであるから、以下の(1)および(2)条件が成り立つ。
【0035】
(1)補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置HHに到るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態(原料スラリーの硬度=HDs)になってはいけない。言い換えると、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置HHに到った直後に、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になればよいので、最高の高さ位置HHに比較して、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの補強筋40の高さ位置である安定時高さ位置HSが、少しでも低い状態(最高高さ位置HH>安定時高さ位置HS)となっていればよい。
これを、計測できる補強筋40の高さ位置である最高高さ位置HHおよび安定時高さ位置HSで表すと、最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS>0(式1)となる。
【0036】
(2)補強筋40の高さ位置が打設前高さ位置H0に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態なればよい。言い換えると、補強筋40が打設前高さ位置H0に到るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態なればよいので、打設前高さ位置H0に比較して、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの補強筋40の高さ位置である安定時高さ位置HSが少しでも高い状態(安定時高さ位置HS>打設前高さ位置H0)となっていればよい。
これを、計測できる補強筋40の高さ位置である最高高さ位置HHおよび安定時高さ位置HSで表すと、最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS<最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0(式2)となる。
【0037】
従って、本発明において、沈下キレツや下部キレツは発生させないためには、0<最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS<最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0の条件、すなわち、最高高さ位置HH−安定時高さ位置HSが0を超えて、最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0未満の範囲内になっていればよい。
【0038】
また、補強筋40の高さ位置の変化をみることで、原料スラリーの高さ位置の変化として現れている原料スラリーの体積および硬度の双方の変化が確認できる。このとき、補強筋40は、型枠30の長さ方向および高さ方向の双方にそれぞれ延在する主筋40aおよび副筋40bから格子状に組まれた鉄筋マットが2枚連結されたものであるため、補強筋40の高さ位置の変化は、少なくとも型枠30の長さ方向および高さ方向に一定の拡がりを持った領域に存在する原料スラリーの平均的な高さ位置の変化を現したものと云える。
従って、補強筋40の配設位置や予測できない突沸・陥没に起因する原料スラリーの一部分で起こる高さ位置の異常な変化を排除できるので、原料スラリーの高さ位置の変化を、補強筋40の高さ位置の変化から安定的に確認できる。
【0039】
このように、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化が現れる原料スラリーの高さ位置の変化を、補強筋40の高さ位置の変化を用いることで安定的に確認できるから、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化も安定的に確認することができる。このように、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化を安定的に確認できるので、これまで原料スラリーの高さ位置から間接的に検知することに起因して精度が低かった沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定を、精度を高めて行うことができる。
また、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化が現れる原料スラリーの高さ位置の変化を、原料スラリーから半硬化体が形成される間に高さ位置の変化する補強筋40を用いて確認できるから、原料スラリーから半硬化体が形成されるまでの短時間に沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定できる。
【0040】
(補強筋40の変位とロッドフレーム32の変位との関係について)
前述したようにロッドフレーム32は、その突出部32cを型枠30の上端面30aに当接させることで、型枠30上に載置されているだけなので、押し上げられる力が加われば上方に変位する。従って、ロッドピン34に掛止されている補強筋40が上方に変位すれば、これに伴ってロッドフレーム32は上方に変位する。また上方に変位した補強筋40が、その後に下方に変位すればこれに伴ってロッドフレーム32も下方に変位する(図3〜7参照)。
【0041】
すなわち、補強筋40の高さ位置が上方に変化して最高高さ位置HHになれば、これに伴ってロッドフレーム32の高さ位置も上方に変化して最高になる。そして、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHから下方に変化して安定時高さ位置HSに安定すれば、これに伴ってロッドフレーム32の高さ位置も最高の高さ位置から下方に変化して(安定時高さ位置HSに対応した)一定の高さ位置に安定する(図7参照)。
従って、補強筋40の高さ位置の変化は、ロッドフレーム32の高さ位置の変化によって確認できる。そして、ロッドフレーム32には、ホルダ32bおよびロッドピン34を介して、型枠30の幅方向に沿って整列した複数の補強筋40が取り付けられているため、ロッドフレーム32の高さ方向の変化は、型枠30の長さ方向、高さ方向および幅方向の全てに一定の拡がりを持った領域に存在する原料スラリーの平均的な高さ位置の変化を現したものと云える。従って、ロッドフレーム32の高さ位置の変化を用いた場合、補強筋40の高さ位置の変化から確認するよりもさらに安定的に原料スラリーの高さ位置の変化を確認できる。
【0042】
また、ロッドフレーム32の高さ位置の変化は、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとの離間距離(以下、単に離間距離と云う)Dの変化として確認できるから、補強筋40の高さ位置の変化は離間距離Dの変化として確認できる。そして、補強筋40とロッドフレーム32とは同じように一体的に変位するから、補強筋40の高さ位置の変化量は、ロッドフレーム32の高さ位置の変化量である離間距離Dから確認できる。すなわち、離間距離Dを計測することで、補強筋40の高さ位置および高さ位置の変化量を数値化して、明確に確認できる。
【0043】
(レーザー変位センサについて)
本実施例において離間距離Dの計測は、補強筋40の高さ位置が変化するALCパネル製造工程、すなわち型枠30内に打設された原料スラリーから半硬化体が形成される発泡・養生ヤードで実施される。そして発泡・養生ヤードには、離間距離Dを計測する離間距離計測装置としてのレーザー変位センサが設けられている。このレーザー変位センサは、本実施例では上端面30aと突出部32cとの間の絶対距離を計測するものであり、上端面30aと突出部32cとが当接している場合(具体的には、補強筋40の高さ位置の変化がない場合)には、離間距離Dは「0(ゼロ)」となる。
【0044】
(補強筋40の高さ位置の変化と離間距離Dとの関係について)
原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴う補強筋40の高さ位置の変化と、離間距離Dの変化との関係を、図3〜図7を用いて以下説明する。
原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、補強筋40の高さ位置が上方に変化すると、補強筋40と同様に変位するロッドフレーム32の高さ位置も上方に変化するため、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとが離間し始めて離間距離Dが「0」から大きくなる。そして、原料スラリーの高さ位置が最高になるのに伴って、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHになると、ロッドフレーム32の高さも最大となり、離間距離Dが最大離間距離DHになる(図3および図6参照)。
【0045】
その後、最大となった原料スラリーの体積が収縮を始めるのに伴って、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHから下方に変化すると、補強筋40と同様に変位するロッドフレーム32の高さ位置も下方に変化するため、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとが接近し始めて離間距離Dが最大離間距離DHから減少し始める。
そして、原料スラリーの体積が安定するのに伴って、補強筋40の高さ位置が安定時高さ位置HSに安定すると、補強筋40と同様に変位するロッドフレーム32の高さ位置も安定時高さ位置HSに対応した一定の値に安定するため、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとが離間も接近もしなくなって、離間距離Dが安定時離間距離DSに安定する(図3および図7参照)。
【0046】
そして、前述したように、沈下キレツや下部キレツは発生しないのは、補強筋40の高さ位置が、(1)最高高さ位置HH>安定時高さ位置HS(最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS>0)(式1)と、(2)打設前高さ位置H0>安定時高さ位置HS(式2−2:最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS<最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0(式2)の変形)との双方の条件を満たすときであり、この補強筋40の高さ位置の関係を離間距離Dを用いて表すと、以下のようになる。 すなわち、
(1)最大離間距離DH−安定時離間距離DS>0(式3)
(2)安定時離間距離DS>0(式4)
従って、本発明において、沈下キレツや下部キレツは発生させないためには、最大離間距離DH>安定時離間距離DS>0、の関係を満たしていればよい。
【0047】
次に、図3を用いて、型枠30内に原料スラリーが打設されてから、時間の経過の伴う補強筋40の高さ位置の変化について、離間距離Dの変化とともに説明する。
型枠30への打設後の原料スラリーの状態は、離間距離Dを計測することにより、次の3つ( a期間,b期間,c期間)の各期間に区分される。
【0048】
a期間:体積膨張期間:原料スラリーの体積が膨張を開始(離間距離D=0mm)してから、その体積膨張により上方に変化する補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHとなるまでの期間。
b期間:体積収縮期間:原料スラリーに存在する気泡が破泡したり、気泡と合一した結果、原料スラリーの重さで潰れることにより、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHから下降していく期間。
c期間:体積安定期間:遊動不可半硬化状態になることで、原料スラリーの体積収縮が安定するとともに、半硬化体となった原料スラリー内に補強筋40が保持され、補強筋40の高さ位置が安定時高さ位置HSに安定したあとの期間。
そして、沈下キレツや下部キレツの発生に関連する原料スラリーの体積および硬度の双方の変化を表している上記3つの各期間の推移と、離間距離Dとの関係が明確になっていることにより、発泡反応および水和反応が進行して半硬化体となるまでの間の原料スラリーの状態を、離間距離Dを計測することによって、簡便に把握することが可能となっている。
【0049】
ところで、前述の補強筋40の高さ位置の条件(1)最高高さ位置HH>安定時高さ位置HS(式1)と、(2)打設前高さ位置H0>安定時高さ位置HS(式2−2)とから、最高高さ位置HHの数値に関係なく、安定時高さ位置HSの数値だけを制御すれば、沈下キレツや下部キレツを発生させないようにすることが可能であることが分かる。従って、本実施例では、安定時高さ位置HSを変化させることで、最高高さ位置HHと安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めるようにしている。
【0050】
ここで、最高高さ位置HHを変化させることで、最高高さ位置HHと安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めることは可能であるが、以下の点で不利となる。すなわち、安定時高さ位置HSは、原料スラリーの膨張が最大となった後に決まるので、原料スラリーを膨張つせる発泡反応の影響を余り受けないのに対して、最高高さ位置HHは、発泡反応および水和反応の双方の影響を受けるので、その変化の制御が困難である。従って、最高高さ位置HHと安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めることが難しく、結果として、半硬化体の沈下キレツや下部キレツの発生の防止することが困難となる
【0051】
ここで、離間距離Dは全てリアルタイムに確認できるもので、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを瞬時に把握し得るため、次回以降の製造ロットに係る原料スラリーの配合組成の決定が即座に可能である。ここで、次回以降の製造ロットとは、現在、離間距離Dが計測されている原料スラリーより後に製造される原料スラリーに関する製造ロットであって、未だ原料等が準備されていないものを指す。
【0052】
そして、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が短く、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHに至る前に原料スラリーが遊動不可半硬化状態になってしまって、下部キレツが発生すると考えられるとき、すなわち(1)最大離間距離DH−安定時離間距離DS>0(式3)の条件が満たされないときには、原料スラリーの硬化を遅くする対応が採られる。
一方、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が長く、補強筋40の高さ位置が打設前高さ位置H0に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態にならずに沈下キレツが発生すると考えられるとき、すなわち(2)安定時離間距離DS>0(式4)が満たされないときには、原料スラリーの硬化を早くする対応が採られる。
【0053】
このような対応を採ることで、離間距離Dを指標として用い、次回以降の製造ロットに係る原料スラリーの配合組成を変えることで、次回以降の製造ロットで原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まるようにすることで、言い換えれば遊動不可半硬化状態になるまでの時間を変えることで、半硬化体の形成段階で沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定し、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止するようにしている。
【0054】
すなわち、本発明によれば、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定を、精度を高めて行うことができるから、補強筋40の高さ位置の変化を用いることで、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを決める原料スラリーの配合組成を正確に調整できる。
また、沈下キレツや下部キレツの発生に関連する原料スラリーの体積および硬度の双方の変化を表している上記3つの各期間の推移との関係が明確である離間距離Dを計測することによって、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生しないように、原料スラリーの配合組成の調整を容易かつ正確に行うことができる
【0055】
本実施例においては、例えば、前述のロッドフレーム32、ロッドピン34および補強筋40等の総重量が500kgを超えている本実施例の場合、0mm<安定時離間距離DS<6mmとなるようにされている。
この安定時離間距離DSの数値が6mm以上の場合、下部キレツが発生する虞がある。また、この数値が0mm以下の場合、下部キレツが発生する虞がある。
【0056】
本実施例においては、アニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の混合物の原料スラリーへの混合量を増減させて、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間を調整している。これは、アニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の混合物が、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間に変化させる要素のうち、原料スラリーの水和反応の進行に影響を与えて、発泡反応その他の要素には余り影響を与えないからである。すなわち、沈下キレツや下部キレツの発生に関連する原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に影響を与える多くの要素のうち、水和反応の進行だけに変化を与えるので、原料スラリーの体積および硬度の双方に予想外の変化を与えることがなく、確実に遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積を一定の範囲に収めることができる。
この他、界面活性剤として、前述のアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の混合物以外の物質(例えばカチオン系や両性界面活性剤)も選択できるが、この場合、この界面活性剤を原料スラリーに混合することで、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間に変化させる要素のうち、水和反応だけでなく、発泡反応その他の要素にも影響を与えるため、界面活性剤の増減と、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間の変化との関係が複雑になって、沈下キレツや下部キレツの発生を防止するための原料スラリーの配合組成の調整が困難になる。
【0057】
ここでアニオン系界面活性剤としては、例えばn−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用され、非イオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用され、n−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびポリオキシエチレンアルキルエーテルを混合した界面活性剤(例えばティーポール(ジョンソンディバーシー株式会社製))の使用が好適である。
具体的には、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が短い場合には、界面活性剤の混合量を増やし、反対に原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が長い場合には、界面活性剤の混合量を減らしている。
【0058】
従って、本実施例において、安定時離間距離DSが6mm以上の場合、下部キレツが発生する虞があるので、界面活性剤の混合量を増やされる。また、安定時離間距離DSが0mm以下の場合、下部キレツが発生する虞があるので、界面活性剤の混合量を減らされる。そして、発泡反応および水和反応のバランスが崩れた場合を説明したが、0mm<安定時離間距離DS<6mmの場合には、界面活性剤の混合量を変える必要、すなわち次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成を変える必要はない。
なお、界面活性剤の混合量は、前述した通り、原料スラリーの固形分に対し、外割で0.00002〜0.00012質量部であるので、2200〜2300kgの原料スラリーに対して、約50〜270g程度となる。そして、通常は原料スラリーの固形分に対して、100〜130g程度の界面活性剤を混合し、0mm<安定時離間距離DS<6mmの範囲から外れる場合、界面活性剤の混合量を15〜30g程度増減させることで安定時離間距離DSを変化させている。
【0059】
また、ティーポールの混合量の増減範囲は、増減前の混合量に対して60%程度を上限としている。この割合を超えると、水和反応の進行に与える影響が大きくなり過ぎてしまい、沈下キレツの発生を防止しようとした場合には、沈下キレツの発生は防止できるものの下部キレツの発生が防止できなくなり、反対に下部キレツの発生を防止しようとした場合には、下部キレツの発生は防止できるものの沈下キレツの発生が防止できなくなる。
なお、アニオン系界面活性剤と非イオン系界面活性剤との重量混合比は、75:25〜85:15、好適には79:21〜83:17が好適である。
【0060】
なお、補強筋40の高さ位置は、補強筋40の変位によるものであるので、補強筋40の変位に影響を与えるロッドフレーム32の重量等によって変わることが考えられる。本実施例では、前述したように、型枠30内に位置決めされる全ての補強筋40と、補強筋40を位置決めする全てロッドピン34と、ロッドフレーム32とを合わせた総重量が500kg程度となっている。また、型枠30内に打設される原料スラリー全体の体積膨張によって発生する浮力は非常に大きく、少なくとも2000kg以上であるので、総重量が500〜2000kgの範囲であれば、本発明に係るALCパネルの製造方法の実施に問題はない。
実際に総重量が2000kgを超える場合であっても、安定時離間距離DSを同様の数値範囲とすることで、半硬化体の形成段階での沈下キレツや下部キレツの発生し、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止することが可能である。
【0061】
また、本実施例において離間距離Dは、10秒毎に計測されるように設定されている。これは、硬化体が原料スラリーから形成される過程の補強筋40の高さ位置の変化に追従して、離間距離Dの正確な計測を達成するためである。従って、この離間距離Dが10秒を上回る間隔でサンプリングされると、半硬化体が原料スラリーから形成される過程の補強筋40の高さ位置の変化に追従できなくなって、離間距離Dの正確な計測が困難となる。
【0062】
(実施例の効果)
本実施例は、ケイ酸質原料および石灰質原料の一部としてクラストを使用しているので、各原料の使用量を減少させて効率的な製造をなし得る。そして、クラストは、アルミニウム粉末の発泡を安定させる機能を有しているため、得られるALCパネルの品質が向上する。
また本実施例は、レーザー変位センサのような離間距離計測装置を使用して離間距離Dを計測しており、これは型枠内30の部位によって結果がばらつく原料スラリーの上面高さ位置の計測と異なり、以下の利点がある。すなわち、
(1)原料スラリーの上面高さ位置は、型枠30内の部位によって結果がばらついた曖昧な数値であり、また数値以外にも部位による凸凹の状態等の多くの要素を判断する必要があり、例えば人間に目視によって平均化するか、多数の計測装置を使用して平均化する等の手間が必要となるのに対して、離間距離Dは決まった部材間(ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとの間)の距離を計測しているだけなので、機械化が可能となる。
(2)離間距離Dの計測を機械化することで、少なくもと離間距離Dの計測自体と、離間距離Dから得られる計測結果を利用する次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成の調整とを自動化して、ALCパネルの製造工程に必要な人手を省いて省力化できる。
【0063】
ところで本実施例は、生石灰の使用量が石灰質原料の半分以上とされていることにより、ALCパネルの製造工程の実施に必要とされる時間を短縮しているため、原料スラリーから半硬化体になるまでの時間が短かくなっている。しかし、このような利点がある一方、原料スラリーから半硬化体になるまでの時間が短いと、その間に起こる発泡反応および水和反応の進行も早いために、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積を一定の範囲に納める制御も困難となり、従って、半硬化体の沈下キレツや下部キレツの発生の防止も難しく、ALCパネルにクラックや割れ等の不良品の割合が高くなり、ALCパネルの歩留まりが悪くなる問題もある。
これに対し、本実施例のALCパネルの製造方法では、原料スラリーの高さ位置の変化を補強筋40の高さ位置の変化から安定的に確認することで、次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成を正確に調整して、半硬化体における沈下キレツや下部キレツの発生を確実に防止できるため、ALCパネルの製造工程の実施に必要とされる時間を短縮するとともに、ALCパネルにクラックや割れ等の不良品の割合を低く抑え、ALCパネルの歩留まりを高くできる。
【0064】
(変更例)
本発明は、前述の実施例に限定されず、以下の如く変更することも可能である。
(1)前述の実施例では補強筋として、所謂鉄筋カゴを使用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ラス網を使用する薄物のALCパネルの製造にも適用し得る。
(2)前述の実施例では、補強筋を型枠内に位置決めするロッドフレームの高さ位置の変化によって、補強筋の高さ位置の変化を計測するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各補強筋の高さ位置の変化を直接計測するようにしてもよい。この場合、発泡反応および水和反応の進行の型枠内の部位における差異を反映した制御や、1つの補強筋から製造される1枚のALCパネル毎の緻密な制御が可能になる。
(3)前述の実施例では、酸化カルシウムを半分以上含有する石灰質原料を使用していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、石灰質原料として各種セメントだけを使用した配合組成から原料スラリーを得てもよい。この場合、原料スラリーの発泡反応および水和反応の双方の進行が穏やかになるため、補強筋の高さ位置の変化を計測し易くなり、結果として、半硬化体の沈下キレツや下部キレツの発生の防止して、ALCパネルにクラックや割れ等の不良品をなくすため、次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成の調整が容易になる。
(4)前述の実施例では、離間距離計測装置としてのレーザー変位センサを使用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、ロッドフレームに直接的に加速度センサー・力覚センサーを取り付ける等、補強筋の高さ位置の変化を計測し得るものであれば採用可能である。
(5)前述の本実施例では、上端面30aと突出部32cとが当接している場合の離間距離Dを「0」としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、ALCパネルの製造工程における原料スラリーの型枠への打設を行う打設ヤードと、打設された原料スラリーから半硬化体が形成される発泡・養生ヤードとが離れており、このヤード間を移動する間に、打設ヤードで型枠内に打設された原料スラリーの発泡反応および水和反応の双方の進行し、上端面30aと突出部32cとが離間し始めてから、原料スラリーを打設した型枠が発泡・養生ヤードに到ったときの離間距離D(上端面30aと突出部32cとが離間している状態)を「0」としてもよい。この場合、上端面30aと突出部32cとの離間距離Dの計測に代えて、突出部32cの高さ位置だけを計測することで、実施例と同様の効果を得ることができる。従って、突出部32cの高さ位置を計測するだけでよいので、より簡易なセンサ等を利用する等の多様な機器が利用可能となり、製造工程の状態等に合わせて最適かつ安価な機器が選択可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例に係るALCパネルの製造方法において使用される型枠を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す型枠を幅方向に沿って切り欠いて示す断面図である。
【図3】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーが打設された後の時間の経過の伴う原料スラリーの高さ位置および硬度、補強筋の高さ位置並びに離間距離の変化を示すグラフ図である。
【図4】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が補強筋の高さ位置を超える前の、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図5】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が補強筋の高さ位置を超えたときの、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図6】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が最大に至り、補強筋の高さ位置が最大高さ位置になったときの、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図7】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が安定し、補強筋の高さ位置が安定時高さ位置になったときの、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図8】ALCパネルの製造方法において、原料スラリーが打設された後の時間の経過の伴う原料スラリーの高さ位置および硬度、補強筋の高さ位置の変化を示すグラフ図である。
【図9】従来技術に係るALCパネルの製造方法において使用される型枠を幅方向に沿って切り欠いて示す断面図である。
【図10】従来技術に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生する沈下キレツの様子を示す断面図である。
【図11】従来技術に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生する下部キレツの様子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
30 型枠
32 ロッドフレーム
34 ロッドピン
40 補強筋
HH 最高高さ位置
HS 安定時高さ位置
【技術分野】
【0001】
この発明は、原料スラリーの配合組成を調整することで、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れの発生を防止するALCパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、一般的にケイ酸質原料、石灰質原料、水およびアルミニウム粉末等を混合して得た原料スラリーを、補強筋を予め配設した型枠内に打設して得られる半硬化体から製造される。原料スラリーは、アルミニウム粉末が原料スラリー中のアルカリ成分と接触して起こる発泡反応と、石灰質原料が原料スラリー中の水と接触して起こる水和反応とによって半硬化体となる。そして、この半硬化体をピアノ線等で所定寸法に切断し、オートクレープによる高温高圧蒸気養生を数時間行なうことでALCパネルが得られる。
【0003】
型枠に打設された原料スラリーは、発泡反応の進行に伴って体積膨張を始めるとともに、水和反応の進行に伴って硬度増加(硬化)を始める。
ここで、原料スラリーの体積は、発泡反応が完了した後も水和反応の進行に伴う発熱によってさらに膨張(増大)を続けて最大となり、その後は体積収縮(減少)に転じて、最終的には安定した所定の値となる。
この原料スラリーの体積の変化を、原料スラリーの上面高さ位置(以下、原料スラリーの高さ位置と云う)で表すと、図8(横軸に時間の経過を示し、左縦軸に原料スラリーの高さ位置を示している)のようになる。すなわち、原料スラリーの高さ位置は、スラリー打設後から高くなり始め、原料スラリーの体積が最大となったときに最高(図8における「SH」)となり、原料スラリーの体積が安定した所定の値となったときに所定の安定した値(図8における「Ss」)になる。
【0004】
一方、原料スラリーの硬度は、水和反応の進行に伴って増加し続け、原料スラリーの体積が最終的に安定したときに、補強筋が容易に遊動できない程度に半硬化した状態(以下、遊動不可半硬化状態と云う)に至る。これは、原料スラリーの硬度が遊動不可半硬化状態に到ることで、原料スラリーの体積が変化できなくなって安定するためである。
この原料スラリーの硬度の変化を、図8(右縦軸は原料スラリーの硬度を示している)を用いて説明すると、硬度は原料スラリーの打設後から増加を始め、原料スラリーの体積が安定した所定の値となったときに、補強筋を原料スラリー内で遊動不可に保持する程度に半硬化した(硬度の)値(図8における「HDs」)となり、その後も増加を続ける。なお、以後、補強筋40を原料スラリー内で遊動不可に保持する程度に半硬化した値「HDs」となった原料スラリーの状態を遊動不可半硬化状態と云う。
【0005】
原料スラリーが打設される型枠30内には、図9に示すように、製造されるALCパネル毎に補強筋40が準備されている。型枠30上には、所定間隔をおいて複数個懸架されたブリッジ(図示せず)からそれぞれ複数のロッドピン54から吊り下げられている。ここでブリッジに吊り下げられたロッドピン54は、吊り下げられた位置から下方に対して移動できず、上方に対してだけ移動可能に構成されている。
そして補強筋40はその下端を、ブリッジに吊り下げられたロッドピン54に掛止され、このロッドピン54に対して相対移動しない状態で、型枠30内に配設されている。すなわち、ロッドピン54に掛止された補強筋40は、ロッドピン54とともに上方に移動可能である一方で、ブリッジに吊り下げられたロッドピン54によって型枠30内に配設された位置(原料スラリー打設前の位置)より下方には変位できないようになっている。
【0006】
この補強筋40の変位を、原料スラリーの高さ位置の変化および硬度の変化に合わせて図8に示す。なお、図8における左縦軸には、原料スラリーの高さ位置とともに、補強筋40の最上部(型枠内で補強筋40のうち最上部に位置し、型枠30の水平方向に延在する最上部補強筋(主筋40a)40aa)の高さ位置(以後、最上部補強筋40aaの高さ位置と云う)を示している。以後、補強筋40の高さ位置として、最上部補強筋40aaの高さ位置を用いる。
原料スラリー打設前における補強筋40の高さ位置は、原料スラリー打設前の高さ位置(図8における「H0」)である。そして、原料スラリーの体積が膨張を始めて、その高さ位置が最上部補強筋40aaの高さ位置を超えると、補強筋40は上方に変位を始め、補強筋40の高さ位置も上方に変化(上昇)を始める。その後、原料スラリーの高さ位置が最高(「SH」)となったときに、補強筋40の高さ位置も最高(図8における「HH」)になり、最終的に原料スラリーの高さ位置が下がって所定の値(「SL」)に安定したときに、補強筋40の高さ位置も同様に下方に変化(下降)して所定の安定した値(図8における「HS」)となる。
【0007】
ところで、このように原料スラリーから半硬化体が製造されると、図10に示すように半硬化体における最上部補強筋40aaの下方に隙間(以下、沈下キレツと云う)が発生したり、図11(b)に示すように補強筋40の最下部(型枠内で補強筋のうち最下部に位置し、水平方向に延在する最下部補強筋(主筋40a)40ab)の下方に隙間(以下、下部キレツと云う)が発生することがあった。これら沈下キレツや下部キレツが発生した半硬化体から得られたALCパネルは、これらの各キレツに起因するクラックや割れ等が発生して不良品となっていた。沈下キレツや下部キレツは、以下の機構によって発生すると考えられる。
【0008】
・沈下キレツについて:
原料スラリーの体積が膨張して最大値に至った後の収縮に伴って下降し始めた補強筋40の高さ位置が、それ以上、下降できない原料スラリー打設前の高さ位置(「H0」)まで戻りきっても、原料スラリーの高さ位置が所定の値に安定していないときに起こる。
これは、原料スラリーの硬化が遅く、補強筋40の高さ位置が原料スラリー打設前の位高さ位置(「H0」)に戻り切るまでに遊動不可半硬化状態に到らないことによって、補強筋40が下方に対して変位できなくなっても原料スラリーの高さ位置は下がり続けることが原因と考えられる。
このため、図10に示すように、最上部補強筋40aaの上方にある原料スラリーは補強筋40の上部に溜まり、最上部補強筋40aaの下部にある原料スラリーは下方に流動・沈降してしまう。その結果、最上部補強筋40aaと、その下方にある原料スラリーとの間に沈下キレツが発生してしまう。
従って、補強筋40の高さ位置が原料スラリー打設前の高さ位置に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になれば沈下キレツは発生しない。
【0009】
・下部キレツについて:
補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置から下降する前に、原料スラリーの高さ位置が所定の値に安定したときに起こる。
これは、硬化が早く、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置(「HH」)に至るまでの間に硬度が一定以上に高くなった原料スラリーが、上方へ変位する補強筋40によって押しのけられることが原因と考えられる。押しのけられた原料スラリーは、硬度が一定以上に高くなって流動性が低くなっているため、元の位置に完全に戻ることができず、図11(a)に示すように、上方へ変位する補強筋40の下側に集まって隙間を形成してしまう。そして、原料スラリーが半硬化体となって、型枠30から脱型された後に衝撃が加わると、図11(b)に示すように、複数の隙間が連続してしまって下部キレツが発生する。
従って、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置(「HH」)に至った後に、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になれば下部キレツは発生しない。
【0010】
このように沈下キレツや下部キレツは、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生するものであり、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まっていれば発生しない。
一方、上記の条件を満たさなければ、沈下キレツや下部キレツが発生し、沈下キレツや下部キレツが発生した半硬化体に高温高圧蒸気養生を施して得られたALCパネルには、沈下キレツや下部キレツに起因するクラックや割れが発生する。このため、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生した場合、最終的に得られるALCパネルが不良品となってしまう。
【0011】
このような問題を防止するため、以下のような方法が提案されている。
(1)特許文献1(発明「ALCパネルの製造方法」):所定の特性を有するアルミニウム粉末を発泡剤として使用することで、最上部補強鉄筋の下方におけるクラックの発生と、気泡むらとを解消する方法。
(2)特許文献2(発明「軽量気泡コンクリートの製造方法」):アルミニウム粉末として、乾式粉砕物と湿式粉砕物とを混合使用することで、最上部補強鉄筋の下方における空洞状クラックの発生をなくす方法。
これらの方法は何れも、原料スラリーの配合組成の一つであるアルミニウム粉末の特性を変えることで原料スラリーの体積膨張を制御し、これにより原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの体積が一定の範囲に収めるようにしたものである。
【特許文献1】特開平8−277177号公報
【特許文献2】特開2001−261466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、が前述した(1)および(2)の方法では、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生しているか否かは、原料スラリーから得られた半硬化体に高温高圧蒸気養生を施してALCパネルとなった後でなければ確認できなかった。すなわち、ALCパネルのクラックや割れの発生に対して防止対策が講じられるのは、少なくとも原料スラリーを最初に打設して数時間が経過した後となってしまうため、早期に防止対策を講じることができず、その間にクラックや割れが発生したALCパネルが多数ロット生産されてしまう問題があった。
【0013】
この問題を解決する手段として、型枠30内における原料スラリーの高さ位置を計測することで、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーが体積が一定範囲に入っているか否かを検知して、沈下キレツや下部キレツの発生を防止する方法がある。この方法は、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に伴って変化する原料スラリーの高さ位置を計測することで、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生する沈下キレツや下部キレツを防止するものである。また、この方法によれば、原料スラリー高さ位置の変化から、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まっているかを検知しているので、原料スラリーがALCパネルになる前の半硬化体の形成段階で沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定することで、ALCパネルにクラックや割れが発生するか否かを知ることができる。
【0014】
しかし、原料スラリーの高さ位置を計測する場合、部位によって計測される原料スラリーの高さ位置にばらつきがあって一定しない問題があった。例えば補強筋が存在する真上の部位では、補強筋によって原料スラリーの体積膨張が阻害されて、他の部位に比べて原料スラリーの高さ位置の変化が小さくなる(高さ位置が低く計測される)現象が起こるからである。すなわち、原料スラリーの高さ位置を計測する部位によって、その数値がばらついて異なってしまい、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まっているか否かが検知できず、結果として、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定できなかった。
また、この方法は、原料スラリーの高さ位置を計測することで、あくまで間接的に沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定しているに過ぎないので、部位によって計測される原料スラリーの高さ位置にばらつきが少しでもあると、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定する精度が大きく低下してしまう問題もあった。この場合、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを正確に判定できないので、沈下キレツや下部キレツが発生を防止する対応策も不確実なものとなってしまう。
さらに、原料スラリーの高さ位置は、原料スラリーに発生する予測できない突沸、陥没等によっても影響を受けてしまう問題も指摘される。
そこでこれらの問題を回避すべく、原料スラリーの高さ位置を複数箇所で計測する方法が考えられるが、この場合、計測装置のコストが嵩むとともに、配置スペースの増大を招く問題があった。
【0015】
すなわち本発明は、従来の技術に係る課題を解決するものであって、原料スラリーの配合組成を調整することで、半硬化体に発生する沈下キレツや下部キレツを防止し、これによりパネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止するALCパネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明に係るALCパネルの製造方法は、補強筋を型枠内に配設し、該型枠内にケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤を混合した原料スラリーを打設し、この原料スラリーから得られる半硬化体を該型枠から脱型した後、高温高圧蒸気養生するALCパネルの製造方法において、
前記原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、前記型枠内で変化する補強筋の高さ位置が最高となる最高高さ位置と、該水和反応の進行に伴って補強筋が原料スラリー内に保持され、その高さ位置が変化しなくなる安定時高さ位置との差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整するようにした。
【0017】
なお、本発明のALCパネルの製造方法においては、
(1)最高高さ位置と安定時高さ位置との差は、安定時高さ位置を変化させることで一定範囲に収めるようにしたこと。
(2)安定時高さ位置は、界面活性剤の混合量を増減することで変化させられること。
(3)界面活性剤としてアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤が使用されること。
(4)アニオン系界面活性剤としてn−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用され、非イオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用されること。
(5)補強筋の高さ位置は、ロッドピンを介して補強筋を型枠内に配設しているロッドフレームの高さ位置により計測されること、
(6)補強筋の高さ位置は、レーザーで計測されること。
(7)石灰質原料は、その重量の半分以上が生石灰であること。
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るALCパネルの製造方法によれば、補強筋の高さ位置を計測することで、原料スラリーの高さ位置を計測する場合に比較して沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定する精度を高めているから、原料スラリーの配合組成を正確に調整して、半硬化体における沈下キレツや下部キレツの発生を確実に防止し、これによりパネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を確実に防止できる。
また、原料スラリーからALCパネルが製造されるのを待つことなく、半硬化体の形成段階で沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定できるから、原料スラリーの配合組成の調整が短時間のうちに可能となって、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を早期に防止できる。従って、クラックや割れが発生したALCパネルが多数ロット生産されてしまうこともない。
さらにこれまでALCパネルの製造に使用されていた型枠等をほぼそのまま利用できるので、導入コスト等が嵩むこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係るALC(軽量気泡コンクリート)パネルの製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、背景技術に既出した図8〜図11に同じ参照番号で示される各部材は、背景技術と同じであるので詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0020】
本実施例に係るALCパネルの製造方法は、ケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤等の各原料から準備される原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って型枠内で上下に変化する補強筋の高さ位置を計測することで、原料スラリーの最高高さ位置と、安定時高さ位置との差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整し、これにより半硬化体における沈下キレツおよび下部キレツの発生を防止して、得られるALCパネルにクラックや割れ等が発生しないようにするものである。
【0021】
(型枠30について)
まず、原料スラリーが打設される型枠について以下説明する。図1および図2に示すように、型枠30にはロッドフレーム32に挿通・位置決めされた複数のロッドピン34に掛止された複数組の補強筋40が、型枠30内の所定位置に配置されている。ここで、ロッドピン34の先端部36は略直角に屈曲しており、この屈曲によって補強筋40が掛止されるようになっている。
本実施例で用いられる型枠30の内寸は、長さ6140mm(図1参照)、幅1340mm(図2参照)、高さ655mm(図2参照)であり、ALCパネルは型枠30の長さ方向をパネル長辺方向とするとともに、高さ方向をパネル短辺方向とし、幅方向を厚さ方向として複数整列した形で製造される。なお、図1においては補強筋40の記載を省略している。
【0022】
(ロッドフレーム32について)
図1に示すように、ロッドフレーム32は、型枠30における周縁部の上端面30aを上方から覆う略ロ字形状の枠材32aと、この枠材32aの内部に架設される複数のホルダ32bとを備え、さらに枠材32aの四隅で下方に突出した複数(本実施例では4つ)の突出部32cを備えており、上端面30aに対して突出部32cの下面を当接させて型枠30上に載置された状態になっている。従って、ロッドフレーム32の高さ位置が上方に変化すれば、上端面30aと突出部32cとは離間することになるので、ロッドフレーム32の高さ位置の変化は、上端面30aと突出部32cとの離間距離の変化によって確認でき、さらにその変化量は離間距離として正確に計測可能となっている。
また、ホルダ32bには、ロッドピン34を挿通・位置決めするための多数の貫通孔32dが、ホルダ32bの長手方向に沿って一定間隔毎に穿設されている。このホルダ32bに挿通・位置決めされたロッドピン34は、ホルダ32bに対してロックされた状態になり、このロックによってロッドピン34はホルダ32b(ロッドフレーム32)と一体的に変位するようになる。
【0023】
(補強筋40について)
補強筋40は、型枠30の長さ方向(パネル長辺方向)に水平に延在する主筋40aと、型枠30の高さ方向(パネル短辺方向)に沿って延在する副筋40bとで格子状に組まれた鉄筋マットの上下をそれぞれ連結部材40cで2枚連結することで、全体としてかご形状に構成されている。ここで、ロッドピン34は、補強筋40を構成する2枚の鉄筋マットの間から、下部の連結部材40cに通して回転させるこで、略直角に屈曲したロッドピン34の先端部36が下部の連結部材40cの下側に掛止されるようになっている(図2参照)。
そして、ロッドピン34に掛止された補強筋40は、ロッドピン34に対して相対移動しないようになっており、ロッドピン34と補強筋40とは一体的に変位する。すなわち、ロッドピン34がホルダ32bにロックされ、かつ補強筋40がロッドピン34に掛止されていると、補強筋40が変位すると、ロッドピン34を介してホルダ32b(ロッドフレーム32)も同じように変位する(補強筋40、ロッドピン34およびホルダ32b(ロッドフレーム32)が一体的に変位する)。
【0024】
なお、本実施例で用いられている型枠30等の重量は、以下の通りである。ロッドフレーム32の重量は約500kgであり、一つのロッドフレーム32(ホルダ32b)に挿通・位置決められる多数のロッドピン34の総重量は50〜150kg程度となっている。また、主筋40aには7mm、副筋40bおよび連結部材40cにはそれぞれ5mmの鉄筋が用いられており、一組のカゴをなす補強筋40の重量は約1〜3kgである。そして型枠30内には、40〜120組の補強筋40がセットされるから、その総重量は40〜360kg程度となっている。
【0025】
(原料スラリーについて)
補強筋40が配置された型枠30内に打設される原料スラリーは、前述したようにケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤等の各原料から準備される。この原料スラリーは、アルミニウム粉末および石灰質原料(アルカリ成分)の接触による発泡反応と、石灰質原料および水との接触による水和反応とに伴う体積膨張および硬度増加(硬化)によって半硬化体を形成する。
なお、ケイ酸質原料および石灰質原料としてクラストを使用してもよい。クラストとは、水和反応が進行して半硬化した原料スラリーや、あるいはALCパネルの製造工程で発生する半硬化体を解砕したものを指す。
【0026】
なお、一つの型枠30内に打設される原料スラリーの重量部一例を挙げると、3500〜3800kg程度である。本実施例で使用される原料スラリーは、ケイ酸質原料としての珪石粉末40〜42質量部、石灰質原料としてのポルトランドセメント11〜12質量部および生石灰(酸化カルシウム)13〜14質量部、クラスト22質量部並びにALCの破砕粉末12質量部からなる固形分に対し、外割で60〜70重量部の水と、0.05〜0.07質量部のアルミニウム粉末と、0.00002〜0.00012質量部(好適には00004〜0.00006質量部)の界面活性剤とを添加した組成物である。水を除いた原料スラリーの重量は、2200〜2300kgである。このクラストの使用量は、ALCパネルの強度低下防止の観点から、好ましくは40%以下、更に好ましくは20%以下とされる。
【0027】
(生石灰について)
本実施例で原料スラリーの一部として使用される生石灰は、石灰質原料として用いられる原料の1つである。この生石灰の使用量が石灰質原料の半分以上になると、原料スラリーの硬化が30分以内(上記配合組成の場合、20〜25分程度)という短時間で完了するため、全製造工程の実施に必要とされる時間を短縮できる。
【0028】
(原料スラリーが半硬化体になる際の体積および硬度の変化について)
型枠30内に打設された原料スラリーは、発泡反応および水和反応の進行に伴って体積を膨張させるとともに硬度を増加させる。以下にこの原料スラリーの体積の変化と硬度の変化とについて、図3を用いて個別に説明する。
なお、図3において、横軸は時間の経過を示し、左縦軸に原料スラリーの高さ位置および補強筋40り高さ位置を併せて示し、右縦軸は原料スラリーの硬度を示している。また、補強筋40の高さ位置は、補強筋40における最上部補強筋(主筋40a)40aaの高さ位置で表し、原料スラリー打設前における補強筋40の高さ位置は、原料スラリー打設前の高さ位置(以下、打設前高さ位置と云う)H0である。
【0029】
(体積の変化について)
原料スラリーの体積は、発泡反応および水和反応の進行に伴って膨張(増大)する。これは、発泡反応の進行に伴って発生する水素ガスによって原料スラリー内に気泡が生成され、さらに水和反応の進行に伴う発熱によって生成した気泡が膨張するためである。
原料スラリーの体積は膨張を続けて、その上面の高さ位置が、補強筋40の打設前高さ位置H0(原料スラリー打設前の最上部補強筋(主筋40a)40aaの高さ位置)を超える。
その後、原料スラリーの体積は最大(原料スラリーの高さ位置=SH)となってから収縮(減少)し初めて、最終的には所定の安定した値(原料スラリーの高さ位置=Ss)となる。これは、水和反応の進行に伴って、原料スラリーの内部の水分が減少することで、原料スラリーに存在する気泡が保持されなくなって破泡して気泡内の水素ガスが大気中に離脱したり、他の気泡と合一して大きくなった気泡が原料スラリーの重さで潰れたりするためである。
【0030】
(硬度の変化について)
一方、原料スラリーの硬度は、水和反応の進行に伴って増加し、原料スラリーの体積が所定の値に安定したときに遊動不可半硬化状態(原料スラリーの硬度=HDs)に至り、その後も増加を続ける。すなわち、原料スラリーの体積が膨張して最大値に至った後に収縮するのに対して、原料スラリーの硬度は増加し続ける。
【0031】
(原料スラリーの体積変化および硬度変化の補強筋40への作用について)
次に、図4〜図7を用いて型枠30内で体積および硬度が変化する原料スラリーの、(型枠30内に配置される)補強筋40に対する作用を説明する。なお、図4〜図7において、各図の左側には原料スラリーの高さ位置およびその変化(矢印)を記載し、各図の右側には補強筋40の高さ位置およびその変化(矢印)を記載し、さらにロッドフレーム32の高さ位置が変化する図6および図7においては、各図の中心付近にその高さ位置の変化(矢印)をそれぞれ記載している。
【0032】
型枠30内に打設された原料スラリーの体積が膨張を始め、図4に示すように、その高さ位置が補強筋40の打設前高さ位置H0を超えるまでは、補強筋40が原料スラリー打設前の位置から変位することはなく、その高さ位置も原料スラリー打設前の高さ位置H0から変化することはない。これは、補強筋40全体が原料スラリーに埋もれるまでは、補強筋40が原料スラリーから受ける浮力が、補強筋40を変位させるには不充分だからである。
そして、図5に示すように、原料スラリーの体積が膨張して、その高さ位置が補強筋40の打設前高さ位置H0を超えると、補強筋40は全体が原料スラリー内に埋もれた状態になる。すると、補強筋40が原料スラリーから受ける浮力が大きくなって、補強筋40が原料スラリーの体積の膨張に伴って上方に変位することになり、その高さ位置も上方に変化(上昇)する。
【0033】
この補強筋40の高さ位置の上方への変化は、原料スラリーの高さ位置が最高(原料スラリーの高さ位置=SH:図3および図6参照)になるまで続き、図6に示すように、原料スラリーの高さ位置が最高になったときに、補強筋40の高さ位置も最高の高さ位置(以下、最高高さ位置と云う)HHになる。
その後、図7に示すように、原料スラリーの体積が収縮し始め、原料スラリーの高さ位置が、最高の高さ位置から下がって所定の値(原料スラリーの高さ位置=SS:図3および図7参照)に安定するのに伴って補強筋40の高さ位置は最高高さ位置HHから下方に変化(下降)し、これ以上は下降しない安定した高さ位置(以下、安定時高さ位置)HSに安定する。このとき、原料スラリーは遊動不可半硬化状態(原料スラリーの硬度=HDs:図3参照)になっているので、補強筋40は遊動不可半硬化状態になった原料スラリー内に、安定時高さ位置HSのまま保持される。
【0034】
そして、前述したように、沈下キレツや下部キレツは発生させないためには、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置HHに至った後から、打設前高さ位置H0に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になればよいのであるから、以下の(1)および(2)条件が成り立つ。
【0035】
(1)補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置HHに到るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態(原料スラリーの硬度=HDs)になってはいけない。言い換えると、補強筋40の高さ位置が最高の高さ位置HHに到った直後に、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になればよいので、最高の高さ位置HHに比較して、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの補強筋40の高さ位置である安定時高さ位置HSが、少しでも低い状態(最高高さ位置HH>安定時高さ位置HS)となっていればよい。
これを、計測できる補強筋40の高さ位置である最高高さ位置HHおよび安定時高さ位置HSで表すと、最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS>0(式1)となる。
【0036】
(2)補強筋40の高さ位置が打設前高さ位置H0に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態なればよい。言い換えると、補強筋40が打設前高さ位置H0に到るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態なればよいので、打設前高さ位置H0に比較して、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの補強筋40の高さ位置である安定時高さ位置HSが少しでも高い状態(安定時高さ位置HS>打設前高さ位置H0)となっていればよい。
これを、計測できる補強筋40の高さ位置である最高高さ位置HHおよび安定時高さ位置HSで表すと、最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS<最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0(式2)となる。
【0037】
従って、本発明において、沈下キレツや下部キレツは発生させないためには、0<最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS<最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0の条件、すなわち、最高高さ位置HH−安定時高さ位置HSが0を超えて、最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0未満の範囲内になっていればよい。
【0038】
また、補強筋40の高さ位置の変化をみることで、原料スラリーの高さ位置の変化として現れている原料スラリーの体積および硬度の双方の変化が確認できる。このとき、補強筋40は、型枠30の長さ方向および高さ方向の双方にそれぞれ延在する主筋40aおよび副筋40bから格子状に組まれた鉄筋マットが2枚連結されたものであるため、補強筋40の高さ位置の変化は、少なくとも型枠30の長さ方向および高さ方向に一定の拡がりを持った領域に存在する原料スラリーの平均的な高さ位置の変化を現したものと云える。
従って、補強筋40の配設位置や予測できない突沸・陥没に起因する原料スラリーの一部分で起こる高さ位置の異常な変化を排除できるので、原料スラリーの高さ位置の変化を、補強筋40の高さ位置の変化から安定的に確認できる。
【0039】
このように、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化が現れる原料スラリーの高さ位置の変化を、補強筋40の高さ位置の変化を用いることで安定的に確認できるから、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化も安定的に確認することができる。このように、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化を安定的に確認できるので、これまで原料スラリーの高さ位置から間接的に検知することに起因して精度が低かった沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定を、精度を高めて行うことができる。
また、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化が現れる原料スラリーの高さ位置の変化を、原料スラリーから半硬化体が形成される間に高さ位置の変化する補強筋40を用いて確認できるから、原料スラリーから半硬化体が形成されるまでの短時間に沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定できる。
【0040】
(補強筋40の変位とロッドフレーム32の変位との関係について)
前述したようにロッドフレーム32は、その突出部32cを型枠30の上端面30aに当接させることで、型枠30上に載置されているだけなので、押し上げられる力が加われば上方に変位する。従って、ロッドピン34に掛止されている補強筋40が上方に変位すれば、これに伴ってロッドフレーム32は上方に変位する。また上方に変位した補強筋40が、その後に下方に変位すればこれに伴ってロッドフレーム32も下方に変位する(図3〜7参照)。
【0041】
すなわち、補強筋40の高さ位置が上方に変化して最高高さ位置HHになれば、これに伴ってロッドフレーム32の高さ位置も上方に変化して最高になる。そして、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHから下方に変化して安定時高さ位置HSに安定すれば、これに伴ってロッドフレーム32の高さ位置も最高の高さ位置から下方に変化して(安定時高さ位置HSに対応した)一定の高さ位置に安定する(図7参照)。
従って、補強筋40の高さ位置の変化は、ロッドフレーム32の高さ位置の変化によって確認できる。そして、ロッドフレーム32には、ホルダ32bおよびロッドピン34を介して、型枠30の幅方向に沿って整列した複数の補強筋40が取り付けられているため、ロッドフレーム32の高さ方向の変化は、型枠30の長さ方向、高さ方向および幅方向の全てに一定の拡がりを持った領域に存在する原料スラリーの平均的な高さ位置の変化を現したものと云える。従って、ロッドフレーム32の高さ位置の変化を用いた場合、補強筋40の高さ位置の変化から確認するよりもさらに安定的に原料スラリーの高さ位置の変化を確認できる。
【0042】
また、ロッドフレーム32の高さ位置の変化は、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとの離間距離(以下、単に離間距離と云う)Dの変化として確認できるから、補強筋40の高さ位置の変化は離間距離Dの変化として確認できる。そして、補強筋40とロッドフレーム32とは同じように一体的に変位するから、補強筋40の高さ位置の変化量は、ロッドフレーム32の高さ位置の変化量である離間距離Dから確認できる。すなわち、離間距離Dを計測することで、補強筋40の高さ位置および高さ位置の変化量を数値化して、明確に確認できる。
【0043】
(レーザー変位センサについて)
本実施例において離間距離Dの計測は、補強筋40の高さ位置が変化するALCパネル製造工程、すなわち型枠30内に打設された原料スラリーから半硬化体が形成される発泡・養生ヤードで実施される。そして発泡・養生ヤードには、離間距離Dを計測する離間距離計測装置としてのレーザー変位センサが設けられている。このレーザー変位センサは、本実施例では上端面30aと突出部32cとの間の絶対距離を計測するものであり、上端面30aと突出部32cとが当接している場合(具体的には、補強筋40の高さ位置の変化がない場合)には、離間距離Dは「0(ゼロ)」となる。
【0044】
(補強筋40の高さ位置の変化と離間距離Dとの関係について)
原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴う補強筋40の高さ位置の変化と、離間距離Dの変化との関係を、図3〜図7を用いて以下説明する。
原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、補強筋40の高さ位置が上方に変化すると、補強筋40と同様に変位するロッドフレーム32の高さ位置も上方に変化するため、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとが離間し始めて離間距離Dが「0」から大きくなる。そして、原料スラリーの高さ位置が最高になるのに伴って、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHになると、ロッドフレーム32の高さも最大となり、離間距離Dが最大離間距離DHになる(図3および図6参照)。
【0045】
その後、最大となった原料スラリーの体積が収縮を始めるのに伴って、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHから下方に変化すると、補強筋40と同様に変位するロッドフレーム32の高さ位置も下方に変化するため、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとが接近し始めて離間距離Dが最大離間距離DHから減少し始める。
そして、原料スラリーの体積が安定するのに伴って、補強筋40の高さ位置が安定時高さ位置HSに安定すると、補強筋40と同様に変位するロッドフレーム32の高さ位置も安定時高さ位置HSに対応した一定の値に安定するため、ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとが離間も接近もしなくなって、離間距離Dが安定時離間距離DSに安定する(図3および図7参照)。
【0046】
そして、前述したように、沈下キレツや下部キレツは発生しないのは、補強筋40の高さ位置が、(1)最高高さ位置HH>安定時高さ位置HS(最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS>0)(式1)と、(2)打設前高さ位置H0>安定時高さ位置HS(式2−2:最高高さ位置HH−安定時高さ位置HS<最高高さ位置HH−打設前高さ位置H0(式2)の変形)との双方の条件を満たすときであり、この補強筋40の高さ位置の関係を離間距離Dを用いて表すと、以下のようになる。 すなわち、
(1)最大離間距離DH−安定時離間距離DS>0(式3)
(2)安定時離間距離DS>0(式4)
従って、本発明において、沈下キレツや下部キレツは発生させないためには、最大離間距離DH>安定時離間距離DS>0、の関係を満たしていればよい。
【0047】
次に、図3を用いて、型枠30内に原料スラリーが打設されてから、時間の経過の伴う補強筋40の高さ位置の変化について、離間距離Dの変化とともに説明する。
型枠30への打設後の原料スラリーの状態は、離間距離Dを計測することにより、次の3つ( a期間,b期間,c期間)の各期間に区分される。
【0048】
a期間:体積膨張期間:原料スラリーの体積が膨張を開始(離間距離D=0mm)してから、その体積膨張により上方に変化する補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHとなるまでの期間。
b期間:体積収縮期間:原料スラリーに存在する気泡が破泡したり、気泡と合一した結果、原料スラリーの重さで潰れることにより、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHから下降していく期間。
c期間:体積安定期間:遊動不可半硬化状態になることで、原料スラリーの体積収縮が安定するとともに、半硬化体となった原料スラリー内に補強筋40が保持され、補強筋40の高さ位置が安定時高さ位置HSに安定したあとの期間。
そして、沈下キレツや下部キレツの発生に関連する原料スラリーの体積および硬度の双方の変化を表している上記3つの各期間の推移と、離間距離Dとの関係が明確になっていることにより、発泡反応および水和反応が進行して半硬化体となるまでの間の原料スラリーの状態を、離間距離Dを計測することによって、簡便に把握することが可能となっている。
【0049】
ところで、前述の補強筋40の高さ位置の条件(1)最高高さ位置HH>安定時高さ位置HS(式1)と、(2)打設前高さ位置H0>安定時高さ位置HS(式2−2)とから、最高高さ位置HHの数値に関係なく、安定時高さ位置HSの数値だけを制御すれば、沈下キレツや下部キレツを発生させないようにすることが可能であることが分かる。従って、本実施例では、安定時高さ位置HSを変化させることで、最高高さ位置HHと安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めるようにしている。
【0050】
ここで、最高高さ位置HHを変化させることで、最高高さ位置HHと安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めることは可能であるが、以下の点で不利となる。すなわち、安定時高さ位置HSは、原料スラリーの膨張が最大となった後に決まるので、原料スラリーを膨張つせる発泡反応の影響を余り受けないのに対して、最高高さ位置HHは、発泡反応および水和反応の双方の影響を受けるので、その変化の制御が困難である。従って、最高高さ位置HHと安定時高さ位置HSとの差を一定範囲に収めることが難しく、結果として、半硬化体の沈下キレツや下部キレツの発生の防止することが困難となる
【0051】
ここで、離間距離Dは全てリアルタイムに確認できるもので、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを瞬時に把握し得るため、次回以降の製造ロットに係る原料スラリーの配合組成の決定が即座に可能である。ここで、次回以降の製造ロットとは、現在、離間距離Dが計測されている原料スラリーより後に製造される原料スラリーに関する製造ロットであって、未だ原料等が準備されていないものを指す。
【0052】
そして、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が短く、補強筋40の高さ位置が最高高さ位置HHに至る前に原料スラリーが遊動不可半硬化状態になってしまって、下部キレツが発生すると考えられるとき、すなわち(1)最大離間距離DH−安定時離間距離DS>0(式3)の条件が満たされないときには、原料スラリーの硬化を遅くする対応が採られる。
一方、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が長く、補強筋40の高さ位置が打設前高さ位置H0に戻り切るまでに、原料スラリーが遊動不可半硬化状態にならずに沈下キレツが発生すると考えられるとき、すなわち(2)安定時離間距離DS>0(式4)が満たされないときには、原料スラリーの硬化を早くする対応が採られる。
【0053】
このような対応を採ることで、離間距離Dを指標として用い、次回以降の製造ロットに係る原料スラリーの配合組成を変えることで、次回以降の製造ロットで原料スラリーが遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積が一定の範囲に収まるようにすることで、言い換えれば遊動不可半硬化状態になるまでの時間を変えることで、半硬化体の形成段階で沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定し、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止するようにしている。
【0054】
すなわち、本発明によれば、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを判定を、精度を高めて行うことができるから、補強筋40の高さ位置の変化を用いることで、沈下キレツや下部キレツが発生するか否かを決める原料スラリーの配合組成を正確に調整できる。
また、沈下キレツや下部キレツの発生に関連する原料スラリーの体積および硬度の双方の変化を表している上記3つの各期間の推移との関係が明確である離間距離Dを計測することによって、半硬化体に沈下キレツや下部キレツが発生しないように、原料スラリーの配合組成の調整を容易かつ正確に行うことができる
【0055】
本実施例においては、例えば、前述のロッドフレーム32、ロッドピン34および補強筋40等の総重量が500kgを超えている本実施例の場合、0mm<安定時離間距離DS<6mmとなるようにされている。
この安定時離間距離DSの数値が6mm以上の場合、下部キレツが発生する虞がある。また、この数値が0mm以下の場合、下部キレツが発生する虞がある。
【0056】
本実施例においては、アニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の混合物の原料スラリーへの混合量を増減させて、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間を調整している。これは、アニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の混合物が、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間に変化させる要素のうち、原料スラリーの水和反応の進行に影響を与えて、発泡反応その他の要素には余り影響を与えないからである。すなわち、沈下キレツや下部キレツの発生に関連する原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に影響を与える多くの要素のうち、水和反応の進行だけに変化を与えるので、原料スラリーの体積および硬度の双方に予想外の変化を与えることがなく、確実に遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積を一定の範囲に収めることができる。
この他、界面活性剤として、前述のアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤の混合物以外の物質(例えばカチオン系や両性界面活性剤)も選択できるが、この場合、この界面活性剤を原料スラリーに混合することで、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間に変化させる要素のうち、水和反応だけでなく、発泡反応その他の要素にも影響を与えるため、界面活性剤の増減と、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間の変化との関係が複雑になって、沈下キレツや下部キレツの発生を防止するための原料スラリーの配合組成の調整が困難になる。
【0057】
ここでアニオン系界面活性剤としては、例えばn−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用され、非イオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用され、n−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびポリオキシエチレンアルキルエーテルを混合した界面活性剤(例えばティーポール(ジョンソンディバーシー株式会社製))の使用が好適である。
具体的には、原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が短い場合には、界面活性剤の混合量を増やし、反対に原料スラリーが遊動不可半硬化状態になるまでの時間が長い場合には、界面活性剤の混合量を減らしている。
【0058】
従って、本実施例において、安定時離間距離DSが6mm以上の場合、下部キレツが発生する虞があるので、界面活性剤の混合量を増やされる。また、安定時離間距離DSが0mm以下の場合、下部キレツが発生する虞があるので、界面活性剤の混合量を減らされる。そして、発泡反応および水和反応のバランスが崩れた場合を説明したが、0mm<安定時離間距離DS<6mmの場合には、界面活性剤の混合量を変える必要、すなわち次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成を変える必要はない。
なお、界面活性剤の混合量は、前述した通り、原料スラリーの固形分に対し、外割で0.00002〜0.00012質量部であるので、2200〜2300kgの原料スラリーに対して、約50〜270g程度となる。そして、通常は原料スラリーの固形分に対して、100〜130g程度の界面活性剤を混合し、0mm<安定時離間距離DS<6mmの範囲から外れる場合、界面活性剤の混合量を15〜30g程度増減させることで安定時離間距離DSを変化させている。
【0059】
また、ティーポールの混合量の増減範囲は、増減前の混合量に対して60%程度を上限としている。この割合を超えると、水和反応の進行に与える影響が大きくなり過ぎてしまい、沈下キレツの発生を防止しようとした場合には、沈下キレツの発生は防止できるものの下部キレツの発生が防止できなくなり、反対に下部キレツの発生を防止しようとした場合には、下部キレツの発生は防止できるものの沈下キレツの発生が防止できなくなる。
なお、アニオン系界面活性剤と非イオン系界面活性剤との重量混合比は、75:25〜85:15、好適には79:21〜83:17が好適である。
【0060】
なお、補強筋40の高さ位置は、補強筋40の変位によるものであるので、補強筋40の変位に影響を与えるロッドフレーム32の重量等によって変わることが考えられる。本実施例では、前述したように、型枠30内に位置決めされる全ての補強筋40と、補強筋40を位置決めする全てロッドピン34と、ロッドフレーム32とを合わせた総重量が500kg程度となっている。また、型枠30内に打設される原料スラリー全体の体積膨張によって発生する浮力は非常に大きく、少なくとも2000kg以上であるので、総重量が500〜2000kgの範囲であれば、本発明に係るALCパネルの製造方法の実施に問題はない。
実際に総重量が2000kgを超える場合であっても、安定時離間距離DSを同様の数値範囲とすることで、半硬化体の形成段階での沈下キレツや下部キレツの発生し、パネル母材の補強筋近傍におけるクラックや割れ等の発生を防止することが可能である。
【0061】
また、本実施例において離間距離Dは、10秒毎に計測されるように設定されている。これは、硬化体が原料スラリーから形成される過程の補強筋40の高さ位置の変化に追従して、離間距離Dの正確な計測を達成するためである。従って、この離間距離Dが10秒を上回る間隔でサンプリングされると、半硬化体が原料スラリーから形成される過程の補強筋40の高さ位置の変化に追従できなくなって、離間距離Dの正確な計測が困難となる。
【0062】
(実施例の効果)
本実施例は、ケイ酸質原料および石灰質原料の一部としてクラストを使用しているので、各原料の使用量を減少させて効率的な製造をなし得る。そして、クラストは、アルミニウム粉末の発泡を安定させる機能を有しているため、得られるALCパネルの品質が向上する。
また本実施例は、レーザー変位センサのような離間距離計測装置を使用して離間距離Dを計測しており、これは型枠内30の部位によって結果がばらつく原料スラリーの上面高さ位置の計測と異なり、以下の利点がある。すなわち、
(1)原料スラリーの上面高さ位置は、型枠30内の部位によって結果がばらついた曖昧な数値であり、また数値以外にも部位による凸凹の状態等の多くの要素を判断する必要があり、例えば人間に目視によって平均化するか、多数の計測装置を使用して平均化する等の手間が必要となるのに対して、離間距離Dは決まった部材間(ロッドフレーム32の突出部32cと型枠30の上端面30aとの間)の距離を計測しているだけなので、機械化が可能となる。
(2)離間距離Dの計測を機械化することで、少なくもと離間距離Dの計測自体と、離間距離Dから得られる計測結果を利用する次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成の調整とを自動化して、ALCパネルの製造工程に必要な人手を省いて省力化できる。
【0063】
ところで本実施例は、生石灰の使用量が石灰質原料の半分以上とされていることにより、ALCパネルの製造工程の実施に必要とされる時間を短縮しているため、原料スラリーから半硬化体になるまでの時間が短かくなっている。しかし、このような利点がある一方、原料スラリーから半硬化体になるまでの時間が短いと、その間に起こる発泡反応および水和反応の進行も早いために、遊動不可半硬化状態になったときの原料スラリーの体積を一定の範囲に納める制御も困難となり、従って、半硬化体の沈下キレツや下部キレツの発生の防止も難しく、ALCパネルにクラックや割れ等の不良品の割合が高くなり、ALCパネルの歩留まりが悪くなる問題もある。
これに対し、本実施例のALCパネルの製造方法では、原料スラリーの高さ位置の変化を補強筋40の高さ位置の変化から安定的に確認することで、次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成を正確に調整して、半硬化体における沈下キレツや下部キレツの発生を確実に防止できるため、ALCパネルの製造工程の実施に必要とされる時間を短縮するとともに、ALCパネルにクラックや割れ等の不良品の割合を低く抑え、ALCパネルの歩留まりを高くできる。
【0064】
(変更例)
本発明は、前述の実施例に限定されず、以下の如く変更することも可能である。
(1)前述の実施例では補強筋として、所謂鉄筋カゴを使用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ラス網を使用する薄物のALCパネルの製造にも適用し得る。
(2)前述の実施例では、補強筋を型枠内に位置決めするロッドフレームの高さ位置の変化によって、補強筋の高さ位置の変化を計測するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各補強筋の高さ位置の変化を直接計測するようにしてもよい。この場合、発泡反応および水和反応の進行の型枠内の部位における差異を反映した制御や、1つの補強筋から製造される1枚のALCパネル毎の緻密な制御が可能になる。
(3)前述の実施例では、酸化カルシウムを半分以上含有する石灰質原料を使用していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、石灰質原料として各種セメントだけを使用した配合組成から原料スラリーを得てもよい。この場合、原料スラリーの発泡反応および水和反応の双方の進行が穏やかになるため、補強筋の高さ位置の変化を計測し易くなり、結果として、半硬化体の沈下キレツや下部キレツの発生の防止して、ALCパネルにクラックや割れ等の不良品をなくすため、次回以降の製造ロットにおける原料スラリーの配合組成の調整が容易になる。
(4)前述の実施例では、離間距離計測装置としてのレーザー変位センサを使用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、ロッドフレームに直接的に加速度センサー・力覚センサーを取り付ける等、補強筋の高さ位置の変化を計測し得るものであれば採用可能である。
(5)前述の本実施例では、上端面30aと突出部32cとが当接している場合の離間距離Dを「0」としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、ALCパネルの製造工程における原料スラリーの型枠への打設を行う打設ヤードと、打設された原料スラリーから半硬化体が形成される発泡・養生ヤードとが離れており、このヤード間を移動する間に、打設ヤードで型枠内に打設された原料スラリーの発泡反応および水和反応の双方の進行し、上端面30aと突出部32cとが離間し始めてから、原料スラリーを打設した型枠が発泡・養生ヤードに到ったときの離間距離D(上端面30aと突出部32cとが離間している状態)を「0」としてもよい。この場合、上端面30aと突出部32cとの離間距離Dの計測に代えて、突出部32cの高さ位置だけを計測することで、実施例と同様の効果を得ることができる。従って、突出部32cの高さ位置を計測するだけでよいので、より簡易なセンサ等を利用する等の多様な機器が利用可能となり、製造工程の状態等に合わせて最適かつ安価な機器が選択可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例に係るALCパネルの製造方法において使用される型枠を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す型枠を幅方向に沿って切り欠いて示す断面図である。
【図3】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーが打設された後の時間の経過の伴う原料スラリーの高さ位置および硬度、補強筋の高さ位置並びに離間距離の変化を示すグラフ図である。
【図4】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が補強筋の高さ位置を超える前の、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図5】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が補強筋の高さ位置を超えたときの、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図6】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が最大に至り、補強筋の高さ位置が最大高さ位置になったときの、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図7】実施例に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの高さ位置が安定し、補強筋の高さ位置が安定時高さ位置になったときの、原料スラリーおよび補強筋の様子を示した状態図である。
【図8】ALCパネルの製造方法において、原料スラリーが打設された後の時間の経過の伴う原料スラリーの高さ位置および硬度、補強筋の高さ位置の変化を示すグラフ図である。
【図9】従来技術に係るALCパネルの製造方法において使用される型枠を幅方向に沿って切り欠いて示す断面図である。
【図10】従来技術に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生する沈下キレツの様子を示す断面図である。
【図11】従来技術に係るALCパネルの製造方法において、原料スラリーの体積および硬度の双方の変化に関連して発生する下部キレツの様子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0066】
30 型枠
32 ロッドフレーム
34 ロッドピン
40 補強筋
HH 最高高さ位置
HS 安定時高さ位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強筋(40)を型枠(30)内に配設し、該型枠(30)内にケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤を混合した原料スラリーを打設し、この原料スラリーから得られる半硬化体を該型枠(30)から脱型した後、高温高圧蒸気養生するALCパネルの製造方法において、
前記原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、前記型枠(30)内で変化する補強筋(40)の高さ位置が最高となる最高高さ位置(HH)と、該水和反応の進行に伴って補強筋(40)が原料スラリー内に保持され、その高さ位置が変化しなくなる安定時高さ位置(HS)との差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整することを特徴とするALCパネルの製造方法。
【請求項2】
前記最高高さ位置(HH)と安定時高さ位置(HS)との差は、前記安定時高さ位置(Hs)を変化させることで一定範囲に収められる請求項1記載のALCパネルの製造方法。
【請求項3】
前記安定時高さ位置(HS)は、前記界面活性剤の混合量を増減することで変化させられる請求項2記載のALCパネルの製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤としてアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤が使用される請求項3記載のALCパネルの製造方法。
【請求項5】
前記アニオン系界面活性剤としてn−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用され、前記非イオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用される請求項4記載のALCパネルの製造方法。
【請求項6】
前記補強筋(40)の最高高さ位置(HH)および安定時高さ位置(HS)は、ロッドピン(34)を介して該補強筋(40)を前記型枠(30)内に配設しているロッドフレーム(32)の高さ位置により計測される請求項1〜5の何れか一項に記載のALCパネルの製造方法。
【請求項7】
前記補強筋(40)の最高高さ位置(HH)および安定時高さ位置(HS)は、レーザーで計測される請求項6記載のALCパネルの製造方法。
【請求項8】
前記石灰質原料は、その重量の半分以上が生石灰である請求項1〜7の何れか一項に記載のALCパネルの製造方法。
【請求項1】
補強筋(40)を型枠(30)内に配設し、該型枠(30)内にケイ酸質原料、石灰質原料、水、アルミニウム粉末および界面活性剤を混合した原料スラリーを打設し、この原料スラリーから得られる半硬化体を該型枠(30)から脱型した後、高温高圧蒸気養生するALCパネルの製造方法において、
前記原料スラリーの発泡反応および水和反応の進行に伴って、前記型枠(30)内で変化する補強筋(40)の高さ位置が最高となる最高高さ位置(HH)と、該水和反応の進行に伴って補強筋(40)が原料スラリー内に保持され、その高さ位置が変化しなくなる安定時高さ位置(HS)との差を一定範囲に収めるように、前記原料スラリーの配合組成を調整することを特徴とするALCパネルの製造方法。
【請求項2】
前記最高高さ位置(HH)と安定時高さ位置(HS)との差は、前記安定時高さ位置(Hs)を変化させることで一定範囲に収められる請求項1記載のALCパネルの製造方法。
【請求項3】
前記安定時高さ位置(HS)は、前記界面活性剤の混合量を増減することで変化させられる請求項2記載のALCパネルの製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤としてアニオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤が使用される請求項3記載のALCパネルの製造方法。
【請求項5】
前記アニオン系界面活性剤としてn−アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用され、前記非イオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルが使用される請求項4記載のALCパネルの製造方法。
【請求項6】
前記補強筋(40)の最高高さ位置(HH)および安定時高さ位置(HS)は、ロッドピン(34)を介して該補強筋(40)を前記型枠(30)内に配設しているロッドフレーム(32)の高さ位置により計測される請求項1〜5の何れか一項に記載のALCパネルの製造方法。
【請求項7】
前記補強筋(40)の最高高さ位置(HH)および安定時高さ位置(HS)は、レーザーで計測される請求項6記載のALCパネルの製造方法。
【請求項8】
前記石灰質原料は、その重量の半分以上が生石灰である請求項1〜7の何れか一項に記載のALCパネルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−235418(P2010−235418A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87675(P2009−87675)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
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