説明

Al−O系粒子を分散質とするゾル及びその製造方法並びにアルミナ粒子

【課題】高いBET比表面積を有するアルミナ粒子を再現性良く提供する。
【解決手段】線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを製造する方法であって、(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程、(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を生成させる第2工程を含むことを特徴とする製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−O系粒子を分散質とするゾル及びその製造方法並びにアルミナ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車触媒担体、工業用触媒等の分野において、高いBET比表面積を有するアルミナ粒子が求められている。このとき、アルミナ粒子を製造するための原料として、ゾル状態の原料(以下「ゾル原料」ともいう。)が用いられている。ゾル原料は、分散,混合及び成型が容易であるというゾル特有の利点を有するため、工業的なプロセスを設計しやすい材料である。
【0003】
しかしながら、従来のゾル原料を高温で熱処理すると、高いBET比表面積を有するアルミナ粒子を得ることが困難となる。このとき、ゾル原料中の粒子の形状、大きさ等が、後に得られるアルミナ粒子のBET比表面積を左右することが知られている。
【0004】
従来、下記のようなゾル原料又はアルミナに関する開示がある。
【0005】
特許文献1には、酸性の水溶性アルミニウム正塩または後の水熱処理の際共存させる一価の有機酸の可溶性塩基性アルミニウム塩の少なくとも1種をアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニアの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、亜硫酸塩、ホウ酸塩の少なくとも1種のアルカリ性物質により中和して得られるアルミナゲルを酸根/Alのモル比が0.001〜0.12となる量の一価の有機酸またはこれらの酸の水溶性アルミニウム塩の存在下に水熱処理することを特徴とするアルミナゾルの製造法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、一般式、Al(OH)aXbYc・mHO(式中、Xは一価陰イオン、Yは二価陰イオンを示し、a,b,c及びmはそれぞれ、2.4<a<2.8,0.1<b,0≦c,b+2c<1.0,m>50である)で表される水酸化アルミニウム・ゲルを酸溶液に添加することなく熟成することを特徴とするアルミナ・ゾルが開示されている。
特許文献3には、擬ベーマイト結晶からなるアルミナゾルであって、Al濃度3重量%の時、700nmの波長における透過率が85%以上であるアルミナゾル、および、擬ベーマイト結晶が、径が10mμ以下で長さが200mμ以下の針状結晶である前記のアルミナゾルが開示されている。
【0007】
特許文献4には、40〜100ミリミクロンの範囲のそろった太さと、この太さの5〜10倍であって200〜500ミリミクロンの範囲の揃った長さを有する無定形アルミナ粒子の安定な水性ゾルが開示されている。
【0008】
特許文献5には、少なくとも部分的に再水和性を有すρ―及びχ―結晶構造を示すアルミナに、ベーマイトより溶解度の高いアルミナを酸化物基準で0%乃至95%の範囲で混合し、無機−塩基性酸、若しくはそれらのアルミニウム塩の解離で生ずる酸の少なくとも一種類の酸を含有させ、水分の存在下で、化学組成のモル比が有効な酸の和をHAとして、モル比をaAl・bHA・cHOで表した場合に、a,b,cが次の式で表され、k=(b/a)・(b/c)かつ、k値が0.0005〜0.01の範囲に有る調製物を、70℃〜350℃の温度で水熱処理を行うとともに、前記水熱処理を、該水熱処理工程の昇温時及び反応初期の段階を除いて、実質的に剪断作用のすくない攪拌若しくは無攪拌、及びこれらの組み合わせで行うことを特徴とするアルミナゾルの製造方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜5に記載のアルミナゾルの製造方法では、一次粒子の凝集の制御が困難であるため、アルミナゾル中の粒子が大きくなりすぎてしまう。その結果、前記アルミナゾルを原料として得られるアルミナ粒子のBET比表面積は低いものとなる。
【0010】
また、特許文献1及び2に記載のアルミナゾル中の粒子は線形状ではないため、高温領域において、より焼結が促進されやすい。そのため、特許文献1及び2に記載のアルミナゾルを用いて得られるアルミナ粒子のBET比表面積はより低いものとなってしまう。
【0011】
さらに、特許文献1及び4に記載のアルミナゾルの製造法は複数の原料を用いるため、それら原料のバラツキによって品質の安定が損なわれるおそれがある。
【特許文献1】特公昭60−34496
【特許文献2】特公昭63−54648
【特許文献3】特公平3−72571
【特許文献4】特許第3119270号
【特許文献5】特許第3304360号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは高いBET比表面積を有するアルミナ粒子を再現性良く提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、特定の大きさに制御された線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル及びその製造方法並びにアルミナ粒子に係る。
1. 長さが20〜200nmであり、かつ、太さが1〜30nmである線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル。
2. 長さが30〜500nmであり、かつ、太さが5〜50nmである線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル。
3. 線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを製造する方法であって、
(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程、
(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル生成させる第2工程
を含むことを特徴とする製造方法。
4. 第2工程に先立って、前記ゲルを水に分散させることにより、Al濃度がAl換算で0.1〜10重量%である分散液を調製する工程をさらに含む、前記項3に記載の製造方法。
5. 第2工程として、オートクレーブ中100〜200℃の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる、前記項3又は4に記載の製造方法。
6. 前記項3〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られる、線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル。
7. 線形状アルミナ粒子を製造する方法であって、
(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程、
(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる第2工程
(3)前記ゾルを200〜800℃で焼成することにより線形状アルミナ粒子を得る第3工程
を含むことを特徴とする製造方法。
8. 第2工程に先立って、前記ゲルを水に分散させることにより、Al濃度がAl換算で0.1〜10重量%である分散液を調製する工程をさらに含む、前記項7に記載の製造方法。
9. 第2工程として、オートクレーブ中100〜200℃の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる、前記項7又は8に記載の製造方法。
10. 前記項7〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる線形状アルミナ粒子。
11. BET比表面積が200m/g以上である、前記項10に記載の線形状アルミナ粒子。
12. 酸化性雰囲気中1000℃で1時間焼成したときのBET比表面積が80m/g以上であるアルミナ粒子。
13. 前記項12に記載のアルミナ粒子を含む触媒材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るAl−O系粒子を分散質とするゾルは、特定の大きさに制御された線形状粒子を分散質とするため、高いBET比表面積を有するアルミナ粒子を再現性良く提供することができる。このような高いBET比表面積を有するアルミナ粒子は触媒材料として好適である。
【0016】
また、本発明に係る線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法は、特定の工程を含むため、一次粒子を線形状に精度よく凝集させることができる。その結果、特定の大きさに制御された線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを提供できる。
【0017】
さらに、本発明に係る線形状アルミナ粒子の製造方法は、上記ゾルを経由する工程を含むため、BET比表面積の高い線形状アルミナ粒子を効果的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル
本発明のゾルは、下記の第1ゾル及び第2ゾルを包含する。
【0019】
第1ゾルは、長さが20〜200nmであり、かつ、太さが1〜30nmである線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルである。
【0020】
第2ゾルは、長さが30〜500nmであり、かつ、太さが5〜50nmである線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルである。
【0021】
以下、第1ゾル及び第2ゾルについて説明するが、両者における線形状Al−O系粒子の形態(長さ及び太さ)以外は、共通するのでこれらはまとめて説明する。単に「線形状Al−O系粒子」という場合は、両ゾルの線形状Al−O系粒子の総称を指す。
【0022】
(1)第1ゾルの線形状Al−O系粒子の形態について
第1ゾルにおける線形状Al−O系粒子(以下、粒子1とする)の長さは、20〜200nmであればよいが、20〜150nmが好ましい。また、粒子1の太さは、1〜30nmであればよいが、3〜20nmが好ましい。
【0023】
粒子1は、一次粒子の凝集体であっても良い。このとき、前記一次粒子の平均粒径は、特に限定されないが、1〜2nm程度であることが好ましい。
【0024】
粒子1の形状は、線形状であればよく、特に限定されるものではない。例えば針状、繊維状、棒状等を例示できる。この場合のアスペクト比としては、2〜100程度、特に5〜50とすることが望ましい。
【0025】
(2)第2ゾルの線形状Al−O系粒子の形態について
第2ゾルにおける線形状Al−O系粒子(以下、粒子2とする)の長さは、30〜500nmであればよいが、50〜200nmが好ましい。また、粒子2の太さは、5〜50nmであればよいが、10〜30nmが好ましい。
【0026】
粒子2は、一次粒子の凝集体であっても良い。このとき、前記一次粒子の平均粒径は、特に限定されないが、1〜2nm程度であることが好ましい。
【0027】
粒子2の形状は、線形状であればよく、特に限定されるものではない。例えば針状、繊維状、棒状等を例示できる。この場合のアスペクト比としては、2〜50程度、特に3〜20とすることが望ましい。
【0028】
(3)第1ゾル及び第2ゾルにおける線形状Al−O系粒子の形態以外の特徴について
線形状Al−O系粒子1の材質としては、少なくともAl及びOを含むものであれば良く、例えば無水物、水和物、水酸化物等のいずれであっても良い。特に、水和物及び/又は水酸化物であることが望ましい。例えば、水酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、ベーマイト、ギブサイト等が挙げられる。
【0029】
第1ゾル及び第2ゾルの分散媒としては、特に限定されず、例えば水、メタノール、エタノール、エーテル等が挙げられる。この中でも、特に水が好ましい。
【0030】
上記分散媒には、本発明の効果が得られる範囲であれば、他の無機化合物及び有機化合物が含まれていてもよい。このとき、ゾル中において線形状Al−O系粒子が解膠しやすくなる点で、酸を含むことが好ましい。酸としては、特に限定されず、塩酸、硫酸、硝酸等を例示できる。この中でも特に、塩酸が好ましい。
【0031】
上記分散媒の量は、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。例えば、前記分散媒として水を用いた場合、ゾルの含水率は、85〜97重量%とすることが好ましい。85重量%未満であれば、ゾルが不安定となるおそれがある。また、97重量%を超えても、効果はほとんど変わらない。
【0032】
第1ゾル及び第2ゾルにおけるpH値は、本発明の目的を達成できる範囲であればよく、特に限定されない。また、これらのゾルの粘度も、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。
【0033】
第1ゾル及び第2ゾルは、ゾルとしての分散、混合及び成型の容易さに加え、高いBET比表面積を有するアルミナ粒子を再現性良く提供できる。
【0034】
線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルの製造方法
本発明の製造方法は、(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程及び(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系ゾルを生成させる第2工程を含むことを特徴とする。
【0035】
第1工程
第1工程では、アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る。
【0036】
前記アルミニウム塩としては、特に限定されず、例えば硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。この中でも特に、後に得られる塩基性アルミニウム塩ゲルのゾル化しやすさの点で、塩化アルミニウムが好ましい。
【0037】
前記アルミニウム塩の水溶液中のAl濃度は、特に限定されないが、Al換算で0.1〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましく、3〜8重量%が最も好ましい。0.1重量%未満であれば、ゾルを効率よく製造できない。また、20重量%を超えると、一次粒子の凝集を制御し難くなる。
【0038】
前記アルミニウム塩の水溶液のpH値は、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。
【0039】
アルカリとしては、特に限定されず、例えばアンモニア水、苛性ソーダ、ソーダ灰等が挙げられる。この中でも、特にアンモニア水が好ましい。苛性ソーダ等の金属イオンを含むアルカリを用いた場合、得られる塩基性アルミニウム塩ゲル中に金属イオンが混入するおそれがある。
【0040】
前記アルカリの濃度は、特に限定されないが、0.1〜30重量%が好ましい。
【0041】
前記アルカリの使用量は、特に限定されず、アルカリの種類等に応じて適宜調整すればよい。例えば、アルカリとして、アンモニア水を用いた場合、アンモニア水の使用量は、NH/Alモル比で2〜5が好ましく、2.5〜4がより好ましい。前記アルカリの使用量が少なすぎると、塩基性アルミニウム塩の析出量が低下する。また、アルカリが多すぎると、前記塩基性アルミニウム塩の析出量の低下に加え、前記ゲルがゾル化し難くなる。
【0042】
前記アルミニウム塩の水溶液を前記アルカリと接触させる方法としては、特に限定されず、アルミニウム塩の水溶液にアルカリを添加してもよいし、アルカリにアルミニウム塩の水溶液を添加してもよい。このとき、攪拌しながらアルカリにアルミニウム塩の水溶液を添加するのが好ましい。攪拌することにより、前記ゲルが均一になりやすい。その結果、後に生成する一次粒子の大きさが均一になりやすくなる。撹拌する時間は、特に限定されないが、前記ゲルを均質化させるため、中和後1時間以上攪拌することが好ましい。
【0043】
中和後の雰囲気温度は、特に限定されないが、前記ゲルの変性を防ぐため、30℃以下とするのが望ましい。
【0044】
さらに、必要に応じて、前記ゲルの後処理を行ってもよい。後処理の方法としては、特に限定されず、例えば、前記ゲルを静置した後、デカンテーションし、ろ過すればよい。静置時間は、特に限定されないが、12〜24時間程度が好ましい。ろ過後、さらに純水を用いて洗浄してもよい。この後処理により、前記ゲルの不純物を除去することができる。
【0045】
前記ゲル中の塩基性アルミニウム塩としては、特に限定されるものではなく、前記アルミニウム塩水溶液、アルカリの種類等によって異なる。
【0046】
前記ゲルのAl濃度は、特に限定されないが、Al換算で0.1〜10重量%が好ましい。0.1重量%未満であれば、目的とするゾルを生成させる上で効率が悪い。また、10重量%を越えれば、一次粒子を線形状に精度よく凝集させることが困難となるおそれがある。なお、Al濃度を上記範囲内に設定するために、後述する第2工程に先立って、前記ゲルを水に分散させることにより、分散液を調製してもよい。前記調製の際には、撹拌することが望ましい。撹拌することにより、前記分散液が均質化する。
【0047】
前記分散液のpH値は、特に限定されないが、3〜10が好ましく、4〜9がより好ましい。pH値が3未満であると、線形状Al−O系粒子を生成させる際、一次粒子の凝集を制御しにくくなる。また、pH値が10を超えると、一次粒子の凝集を制御しにくいことに加え、後述する第2工程において、溶媒中に生成する酸の量が減少し、ゾル中において、目的とする線形状Al−O系粒子が解膠し難くなる。
【0048】
第2工程
第2工程では、前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより、線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる。
【0049】
保持温度は、40℃以上であればよく、目的に応じて適宜設定できる。例えば、第1ゾルを生成させる場合には、40〜100℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。保持温度が100℃を超えると、一次粒子の凝集が加速され、第1ゾルを効率よく得ることができない。また、第2ゾルを生成させる場合の保持温度としては、100〜200℃が好ましい。200℃を超えると、一次粒子が平面的又は立体的に凝集しやすくなる。
【0050】
このとき、上記保持温度は、前記ゾル中の粒子の大きさ及び形状に影響を与える。まず、上記保持温度が前記ゾル中の粒子の大きさに与える影響について説明する。
【0051】
上記ゲルを40℃以上の温度下で保持すると、一次粒子が生成する。さらに、上記ゲル中の水分子は熱運動をする。この熱運動する水分子の衝突によって、一次粒子には運動エネルギーが与えられると考えられる。この運動エネルギーは、一次粒子間における凝集反応の活性化エネルギーとして消費されると考えられる。つまり、上記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより、所定量の運動エネルギーが与えられ、一次粒子の凝集が進行する。このとき、保持温度が高い場合には、一次粒子の生成速度は増大し高濃度となるので、衝突頻度の増大から凝集反応はより速く進行する。従って、保持温度が高すぎると、ゾル中の粒子は大きくなりすぎてしまう。逆に言うと、保持温度を制御することで、微細な粒子を得ることができる。また、粒子の大きさを均一にすることもできる。
【0052】
次に、上記保持温度が前記ゾル中の粒子の形状に与える影響について説明する。
【0053】
上記ゲルを40℃以上の温度下で保持すると、一次粒子の生成と同時に酸が生成すると考えられる。そして、この酸によって供給されるプロトンが一次粒子の表面上に存在する酸素原子に吸着すると考えられる。前記プロトンの吸着により、一次粒子の表面上に電位が生じると考えられる。このとき、一次粒子の表面上において、酸素原子密度は均一ではない。従って、一次粒子の表面上において、プロトンの吸着量に差が生じうる。その結果、一次粒子の表面上で電位が異なるものとなり、電位差が生じる。この電位差は、一次粒子同士が衝突するうえで、エネルギー障壁の差となる。すなわち、衝突に関与する一次粒子の表面上で、一次粒子の凝集反応の活性化エネルギーは異なると考えられる。従って、上記運動エネルギーを変化させる、即ち保持温度を変化させることにより、一次粒子の凝集反応を制御し、線形状の凝集とそれ以外の凝集を選択的に起こすことができる。例えば、保持温度を高くしすぎると、平面的、立体的な凝集が起こりやすくなる。
【0054】
保持時間は、特に限定されないが、1〜48時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。保持時間を1〜48時間とすることにより、一次粒子の凝集をより確実に制御することができる。保持方法は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択できる。例えば、前記ゲルを100〜200℃で保持する場合、水の蒸発を防ぐ観点から、オートクレーブを用いることが好ましい。保持する間は、反応系にかかる温度を均等にするため攪拌を行うことが望ましい。
【0055】
保持前に、前記ゲルは、予め水に分散させておいてもよい。
【0056】
保持後は、特に限定されないが、室温にて放熱すればよい。得られたゾルは、例えばメンブランフィルター等を用いて限外ろ過することにより任意の濃度に調整することができる。
【0057】
本発明の製造方法によれば、例えば第1ゾル及び第2ゾルを効果的に得ることができる。 また、上記一次粒子の生成と同時に生じる酸により、ゾル中の線形状Al−O系粒子は解膠しやすくなる。
【0058】
線形状アルミナ粒子の製造方法
本発明の線形状アルミナ粒子の製造方法は、(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程、(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる第2工程及び(3)前記ゾルを200〜800℃で焼成することによりアルミナ線形状粒子を得る第3工程を含むことを特徴とする。
【0059】
第1工程
第1工程では、アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る。具体的には、上記ゾルの製造方法における第1工程と同様に行えばよい。
【0060】
第2工程
第2工程では、前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより、線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる。具体的には、上記アルミナゾルの製造方法における第2工程と同様に行えばよい。
【0061】
第3工程
第3工程では、前記ゾルを200〜800℃で焼成することにより線形状アルミナ粒子を得る。
【0062】
焼成時間は、前記ゾルの量、焼成温度等に応じて適宜設定することができる。
【0063】
焼成雰囲気としては、特に限定されないが、酸化性雰囲気中又は大気中で行うことが好ましい。
【0064】
焼成に先立って、前記ゾルに乾燥処理を施してもよい。乾燥温度は特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。また、乾燥時間は、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。乾燥方法は、公知の方法に従えばよい。
【0065】
上記製造方法により得られた線形状アルミナ粒子のBET比表面積は、特に限定されるものではないが、200m/g以上であることが望ましい。上記第2工程において生成したゾル中のAl−O系粒子は、線形状であり、かつ、大きさが特定の範囲に制御されている。従って、200〜800℃で焼成しても、前記Al−O系粒子の焼結が抑制される。その結果、BET比表面積の高い線形状アルミナ粒子を得ることができる。
【0066】
アルミナ粒子
本発明のアルミナ粒子は、酸化性雰囲気中1000℃で1時間焼成したときのBET比表面積が80m/g以上である。
【0067】
具体的には、酸化性雰囲気中1000℃〜1100℃で1時間焼成して得られるアルミナ粒子のBET比表面積は80m/g以上の高い値を示す。従って、前記アルミナ粒子は、触媒材料として好適である。
【0068】
前記アルミナ粒子の製造方法としては、Al−O系粒子を分散質とするゾルを焼成すればよく、特に限定されるものではない。このようなゾルとしては、特に限定されないが、前記の第1ゾル及び第2ゾルが好ましい。これらゾル中の粒子は、線形状であり、かつ大きさが特定の範囲に制御されているため、高温で焼成しても焼結が抑制される。その結果、高いBET比表面積を有するアルミナ粒子を得ることができる。
【0069】
焼成温度は、特に限定されないが、900〜1200℃が好ましく、1000〜1100℃がより好ましい。焼成温度が1200℃を越える場合は、高いBET比表面積を維持できないおそれがある。焼成時間は、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。焼成雰囲気としては、特に限定されないが、酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0070】
焼成に先立って、前記ゾルをゲル化してもよい。ゲル化する方法としては、特に限定されず、例えば前記第1ゾル又は第2ゾルを乾燥すればよい。乾燥温度は、特に限定されないが、50〜150℃が好ましい。乾燥時間は、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0072】
実施例1
塩化アルミニウム水溶液(Alの含有量はAlO換算で10g、Al濃度はAlO換算で5重量%、pH値は1.6)200gを、攪拌しているアンモニア水(濃度は0.5重量%)1760gへゆっくりと滴下した。1時間攪拌を継続した後、攪拌を終了し25〜30℃の雰囲気温度で一昼夜静置した。その後、ろ過し、さらに純水で洗浄することにより、塩基性塩化アルミニウムゲル240gを得た。得られたゲルを各10gずつふたつき試験管3本に充填し、それを1Lの純水を満たしたオートクレーブ容器の中に入れた。そして、オートクレーブ容器を密閉し、150℃まで昇温した後、150℃で72時間保持した。その後、室温(25℃〜30℃)下で放熱し、ゾル(pH値は3.4)を得た。得られたゾルの透過電子顕微鏡像(TEM像)を図1に示す。図1において、ゾル中の粒子の長さは50〜100nmであり、また、太さは20〜30nmであることがわかる。
【0073】
次に、得られたゾルを40℃で恒量になるまで乾燥した。得られた乾燥処理物のX線回折を図2に示す。図2より、40℃で乾燥したとき前記ゾルはベーマイトの回折パターンを示すことがわかる。従って、本実施例で得られたゾル中の線形状Al−O系粒子はベーマイトであることが確認された。
【0074】
また、前記ゾルを100℃で48時間乾燥し、酸化性雰囲気中1000℃、1100℃及び1200℃で1時間焼成し、アルミナ粒子を得た。1000℃で焼成した後に得られたアルミナ粒子のBET比表面積は113m/gであった。また、1100℃で焼成した後に得られたアルミナ粒子のBET比表面積は102m/gであった。得られたアルミナ粒子のX線回折を図2に示す。図2より、焼成温度を1200℃としても一般にBET比表面積が低いとされるα−アルミナ相への完全な転移が抑制されることがわかる。
【0075】
実施例2
塩化アルミニウム水溶液(Alの含有量はAlO換算で10g、Al濃度はAlO換算で5重量%、pH値は1.6)200gを、攪拌しているアンモニア水(濃度は0.5重量%)1760gへゆっくりと滴下した。1時間攪拌を継続した後、攪拌を終了し25〜30℃の雰囲気温度で一昼夜静置した。その後、ろ過し、さらに純水で洗浄することにより、塩基性塩化アルミニウムゲル240gを得た。得られたゲルを純水760gに分散した後、30分攪拌し、80℃まで昇温した。80℃で3時間保持した後、室温(25〜30℃)下で放熱し、ゾル(pH値は3.5)を得た。このゾルのTEM像を図3に示す。図3において、ゾル中の線形状粒子の長さは30〜50nmであり、また、太さは1〜5nmであることがわかる。
【0076】
このゾルについて、実施例1と同様にしてX線回折分析を行ったところ、ブロードパターンを示した。従って、本実施例で得られたゾル中の線形状Al−O系粒子はアモルファスであることが確認された。
【0077】
次に、得られたゾルを100℃で48時間乾燥し、酸化性雰囲気中200℃又は800℃で1時間焼成し、アルミナ線形状粒子を得た。200℃で焼成した後に得られた線形状アルミナ粒子のBET比表面積は300m/gであった。また、800℃で焼成した後に得られた線形状アルミナ粒子のBET比表面積は200m/gであった。
【0078】
前記ゾルを100℃で48時間乾燥し、酸化性雰囲気中1000℃で1時間焼成し、アルミナ粒子を得た。得られたアルミナ粒子のBET比表面積は84m/gであった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1で得られたゾルのTEM像である。
【図2】実施例1で得られたゾル及びアルミナ粒子のX線回折を示す図である。
【図3】実施例2で得られたゾルのTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが20〜200nmであり、かつ、太さが1〜30nmである線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項2】
長さが30〜500nmであり、かつ、太さが5〜50nmである線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項3】
線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを製造する方法であって、
(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程、
(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル生成させる第2工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
第2工程に先立って、前記ゲルを水に分散させることにより、Al濃度がAl換算で0.1〜10重量%である分散液を調製する工程をさらに含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
第2工程として、オートクレーブ中100〜200℃の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られる、線形状Al−O系粒子を分散質とするゾル。
【請求項7】
線形状アルミナ粒子を製造する方法であって、
(1)アルミニウム塩の水溶液をアルカリで中和することによって、塩基性アルミニウム塩ゲルを得る第1工程、
(2)前記ゲルを40℃以上の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる第2工程
(3)前記ゾルを200〜800℃で焼成することにより線形状アルミナ粒子を得る第3工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
第2工程に先立って、前記ゲルを水に分散させることにより、Al濃度がAl換算で0.1〜10重量%である分散液を調製する工程をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
第2工程として、オートクレーブ中100〜200℃の温度下で保持することにより線形状Al−O系粒子を分散質とするゾルを生成させる、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる線形状アルミナ粒子。
【請求項11】
BET比表面積が200m/g以上である、請求項10に記載の線形状アルミナ粒子。
【請求項12】
酸化性雰囲気中1000℃で1時間焼成したときのBET比表面積が80m/g以上であるアルミナ粒子。
【請求項13】
請求項12に記載のアルミナ粒子を含む触媒材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−248862(P2006−248862A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69875(P2005−69875)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】