説明

Alめっき鋼線およびその製造方法

【課題】ワイヤーハーネスの素線に適した細径の線材であって、高強度、低抵抗を具備し、かつリサイクル性にも優れた線材を提供する。
【解決手段】直径(円相当径)が0.1〜0.5mmである鋼芯線の表面に、Fe−Al系合金層を介して、溶融Alめっき層を有するAlめっき鋼線であって、長手方向に垂直な断面において、(1)溶融Alめっき層中には、断片状Fe−Al系合金相が分散しており、溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率が40%以下であり、(2)断面全体に占める溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積率が30%以上である、Alめっき鋼線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼芯線の表面にAlめっき被覆層を有するAlめっき鋼線であって、特に自動車のワイヤーハーネス等の導電部材(素線)に適したAlめっき鋼線、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイヤーハーネスは多数の導線により構成されており、それぞれの導線はさらに数本〜数十本の「素線」を束ねることによって作られている。近年、軽量化、コンパクト化のニーズが高まり、ワイヤーハーネスにも細線化の要求が強くなっている。また、自動車解体時の分別回収作業をできるだけ不要にするために、ワイヤーハーネス用の導線にはリサイクル性の良い構成のものが強く望まれるようになってきた。
【0003】
ワイヤーハーネスを構成する各導線は端子に「かしめ加工」で締結されることが多く、かしめ部で容易に破断することがないように、個々の素線にはある程度の強度が要求される。現状の信号用ワイヤーハーネス導線用の素線には、Cu素線の場合は直径約0.3mm以上、Al素線の場合には直径1mm以上の線径を確保することが必要とされる。それより細い場合は強度不足により「かしめ加工部」での破断が問題となりやすい。
【0004】
リサイクル性の観点では、鉄のリサイクルにとって阻害元素となるCuよりも、鉄スクラップとともに溶解可能なAlの方が優れている。電気伝導性の面では、AlはCuに比べ体積抵抗率が大きいが、微弱電流を流す信号用ワイヤーハーネスの場合、Al素線でも問題ない。しかしながら、Al素線は上記のように強度不足を解消するために太い線径のものを採用せざるを得ず、コンパクト化のニーズに十分応えられない。
【0005】
一方、高強度・高耐食性が要求される用途において、鋼線を芯線とするAlめっき鋼線が知られている(特許文献1、2)。特許文献1には漁網ロープ用、送電線の補強用、海底光ファイバーケーブル補強用等のワイヤーに使用するAlめっき鋼線が記載されている。特許文献1の実施例に開示されている鋼線は線径2〜13mmと太いものであり、Alめっきの目的は耐食性改善である。特許文献2のAlめっき線材は高強度ボルト用であり、その図2には7mm径のものが示されている。ワイヤーハーネスの素線に使用できるような低抵抗かつ細径のAlめっき鋼線はまだ実現されていない。
【0006】
鋼材に溶融Alめっきを施す場合、通常、前処理として鋼の表面を活性化する処理が行われる。活性化の手法としては、フラックス法と、ガス還元法が一般的である。フラックス法は、鋼材を塩化ナトリウム、塩化亜鉛などを主成分としたフラックスに浸漬するものである。この手法は鋼板や線径が比較的太い鋼線には適用しやすいが、線径が例えば1mm以下の細い鋼線の場合には、鋼線の全体にフラックスを付着させることが難しいという問題がある。また、白煙の発生が多く、換気などの設備に多大な費用がかかる。他方、ガス還元法は、めっき浴に浸漬する前に鋼材を窒素と水素を主成分とする高温還元雰囲気に曝して表面を加熱還元するものである。この手法は、線径が例えば1mm以下の細い鋼線の場合、高温加熱により鋼線の強度が低下し、断線を生じる恐れがあるので、適用が難しい。このように、従来一般的な手法により、ワイヤーハーネスの素線に適した細径の鋼線にAlめっきを施すことは、容易ではない。
【0007】
【特許文献1】特開平3−219025号公報
【特許文献2】特開2004−360022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ワイヤーハーネスの素線に適した細径の線材であって、高強度、低抵抗を具備し、かつリサイクル性にも優れた線材を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、直径(円相当径)が0.1〜0.5mmである鋼芯線の表面に、Fe−Al系合金層を介して、溶融Alめっき層を有するAlめっき鋼線であって、長手方向に垂直な断面において、
(1)溶融Alめっき層中には、断片状Fe−Al系合金相が分散しており、溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率が40%以下であり、
(2)断面全体に占める溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積率が30%以上である、
Alめっき鋼線が提供される。
【0010】
ここで、当該Alめっき鋼線の長手方向に垂直な断面に存在する鋼芯線の断面積をS(mm)、円周率をπとするとき、S=πD2/4によって定まるD(mm)を鋼芯線の円相当径という。「溶融Alめっき層」は、Si含有量が0(無添加)〜15質量%の溶融Alめっき浴に浸漬することにより形成されるめっき層である。Fe−Al系合金層と、断片状Fe−Al系合金相は、ともにFe−Al合金のθ相あるいはη相に比較的近い組成の合金相であり、めっき浴中にSiが含まれる場合には通常これらの合金相中にもSiが含まれる。Fe−Al系合金層と断片状Fe−Al系合金相とは、必ずしも組成が近似するとは限らない。調査の結果、断片状Fe−Al系合金相の方がAl濃度が高くなる傾向が見られる。
【0011】
上記(1)(2)に加え、さらに、
(3)溶融Alめっき層中の断片状Fe−Al系合金相を除くマトリクス部分のSi含有量が9質量%以下である、
Alめっき鋼線が、より好適な対象となる。
【0012】
また本発明では、上記のAlめっき鋼線において、特に、当該Alめっき鋼線の単位長さあたりの電気抵抗ρ1(Ω/m)と、当該Alめっき鋼線を構成する鋼芯線(溶融Alめっきを施していない状態を想定したもの)の単位長さあたりの電気抵抗ρ0(Ω/m)の比ρ1/ρ0が0.55以下であるものが提供される。
【0013】
ここで、鋼芯線の単位長さあたりの電気抵抗ρ0は、上述した鋼芯線の円相当径D(mm)の値と、当該鋼芯線の体積抵抗値から算出することができる。また、実際に測定する場合には、例えばAlめっき鋼線のAlめっき層を溶融除去して鋼芯線だけを取り出し、これについて測定すればよい。このρ0は、溶融Alめっきに供するZnめっき鋼線についての単位長さあたりの電気抵抗の測定値とほぼ同一であるとみなすことができる。
【0014】
本発明のAlめっき鋼線は、Znめっき鋼線(鋼芯線の表面にZnめっき層を有する鋼線)に対して、溶融Alめっきを施すことによって得ることができる。その際、Alめっき浴への浸漬時間を調整することを利用して前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」および前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率」を所望範囲にコントロールすることができる。浸漬時間の調整の他、電磁ワイピング等による付着量制御手段を併用しても構わない。前記Znめっき鋼線としては、鋼素線にZnめっきを施した後、伸線加工されたものを採用してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細径であるにもかかわらずAlめっき付着量を十分に確保した、低抵抗のAlめっき鋼線が提供された。このAlめっき鋼線は、鉄スクラップと一緒に処理することができるので、Cu線に比べリサイクル性に優れている。また、従来のAl素線より高強度を有するため、細径化を図っても「かしめ加工部」等での耐久性を確保することができる。したがって、本発明のAlめっき鋼線は、自動車のワイヤーハーネス用素線に適したものである。また、そのAlめっき鋼線は、Znめっき鋼線に対して直接、溶融Alめっきを施すことによって製造することができるので、溶融Alめっきに際しフラックス法やガス還元法による前処理を省略することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に、本発明のAlめっき鋼線における長手方向に垂直な断面の構造を模式的に示す。鋼芯線の表面には、連続的なFe−Al系合金層が形成され、その上にAlめっき層が形成されている。Alめっき層の中には断片状Fe−Al系合金相が分散している。Alめっきを施す前のZnめっき鋼線に由来するZnめっき層は、通常、この断面内において明確に識別することはできない。Fe−Al系合金層や断片状Fe−Al系合金相中にはZnを検出できる場合がある。
【0017】
本発明のAlめっき鋼線は、Znめっき鋼線に対して溶融Alめっきを施すことにより製造することができる。Alめっき前の鋼材表面がZnで被覆されていることにより、フラックス法やガス還元法による前処理を行うことなく、密着性の良い溶融Alめっき層を形成することが可能になる。
【0018】
また、発明者らの検討によると、溶融Alめっき前に存在していたZnめっき層は、断片状Fe−Al系合金相の形成に寄与していると考えられる。そして、断片状Fe−Al系合金相の形成は、Alめっき付着量の増大に寄与することもわかってきた。これらのメカニズムについては解明されていないが、以下のようなことが考えられる。
【0019】
すなわち、Znめっき鋼線を溶融Alめっき浴に浸漬すると、表面のZnは急速に溶融して、その大部分は浴中に溶解すると考えられる。しかし、一部のZnは鋼芯線の表面から結晶粒界中に入り込み、鋼の表面でFeとAlが反応してFe−Al系合金層が形成される際、そのFe−Al系合金層の一部が鋼の表面から剥離しやすい状況を作り出すのではないかと考えられる。そのFe−Al系合金層の剥離片が、断片状Fe−Al系合金相を形成しているものと考えられる。溶融Alめっきに供するZnめっき鋼線のZnめっき層厚さは、概ね0.3〜25μm、好ましくは1〜15μm、さらに好ましくは3〜10μmの範囲とすればよい。
【0020】
一般に、線径の細い鋼線に溶融めっきを施す場合は、鋼板や線径の太い鋼線の場合と異なり、豊富なめっき付着量を確保することが難しい。すなわち、鋼線を溶融Alめっき浴から引き上げる際に、めっき浴を出たあと、鋼線に随伴して持ち上げられた未凝固のAlが鋼線表面から流れ落ちやすく、結果的に凝固後に付着するAlめっき層の量は減少しやすい。ところが、溶融めっき浴に浸漬中あるいはめっき浴からの引き上げ途中において断片状Fe−Al系合金相が形成されると、めっき浴を出たあと、鋼線に随伴して持ち上げられた溶融状態のAl中に存在する断片状Fe−Al系合金相が、Alの流れ落ちに対する抵抗となり、線径が細いにもかかわらず豊富なめっき付着量の確保に寄与しているものと推察される。
【0021】
本発明のAlめっき鋼線は、鋼芯線の直径(円相当径)が0.1〜0.5mmの範囲に調整されていることが望ましい。細すぎると、ワイヤーハーネスの素線としての強度を十分に確保することが難しくなる。逆に太すぎると、Alめっき層の断面割合が相対的に減少し、ワイヤーハーネスの素線として十分な導電性を確保することが難しくなる。なお、鋼芯線の径を調整するために、鋼素線にZnめっきを施した後、適宜、引き抜きによる伸線加工を行う手法を採用することができる。
【0022】
このAlめっき鋼線においては、長手方向に垂直な断面において、以下の2点を充足していることが肝要である。
(1)溶融Alめっき層中には、断片状Fe−Al系合金相が分散しており、溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率が40%以下であること。
(2)断面全体に占める溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積率が30%以上であること。
【0023】
(1)の断片状Fe−Al系合金相は、上述のように、豊富なAlめっき付着量を確保するために必要であるが、反面、多すぎると、ワイヤーハーネスの素線として十分な導電性を確保することが難しくなる。種々検討の結果、溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率が40%以下とする必要がある。下限についてはAlめっきの付着量が(2)の要件を満たす限り、特に限定されるものではないが、合計面積率で5%以上であることが望ましい。なお、断片状Fe−Al系合金相の断面内の面積は、0.012mm2以上であることがより好ましい。
【0024】
(2)の断面全体に占める溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積率が少なすぎると、ワイヤーハーネスの素線として十分な導電性を確保することが難しくなる。種々検討の結果、上記(1)の要件を満たした上で、30%以上の面積率で溶融Alめっき層が存在している必要がある。
【0025】
断片状Fe−Al系合金相の生成量、および断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率は、溶融Alめっき浴中への浸漬時間によって変動する。すなわち浸漬時間を長くすれば断片状Fe−Al系合金相の生成量を増大させることができ、それによって鋼線に随伴して持ち上げられた未凝固のAlが鋼線表面から流れ落ちることを効果的に抑制することができるという面では、溶融Alめっきの付着量増大に有利となる。ところが、この場合、浸漬時間を長くするために必然的にライン速度が低くなるので、鋼線に随伴して浴から持ち上げられる溶融Alの量が低減するという面では、溶融Alめっきの付着量増大にマイナスとなる。したがって、溶融Alめっきの操業条件に応じて、浸漬時間を調整することにより、前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」および前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率」をコントロールすることが可能となる。ただし、より精度良く所望のめっき付着量にコントロールするためには、浸漬時間を調整することを利用するとともに、電磁ワイピング等の公知の付着量制御手段を併用することが望ましい。
【0026】
本発明のAlめっき鋼線は、上記(1)(2)に加えてさらに以下の点を充足していることが望ましい。
(3)溶融Alめっき層中の断片状Fe−Al系合金相を除くマトリクス部分のSi含有量が9質量%以下であること。
【0027】
溶融Alめっき浴にSiを添加するとめっき浴の融点が低下するので、めっき浴温を低くすることができる点で有利となる。Alめっき浴にSiを添加する場合は、通常、Si含有量15質量%以下の範囲で行われる。しかし、Alめっき層中におけるSiは、めっき層の加工性を低下させる要因となる。また、導電性低下にも繋がる。したがって、ワイヤーハーネスとして特に高い加工性が要求される場合には、溶融Alめっき層中の断片状Fe−Al系合金相を除くマトリクス部分のSi含有量が9質量%以下であることが望ましく、6質量%以下であることがより望ましい。
【0028】
本発明のAlめっき鋼線は、ワイヤーハーネスの素線として十分な導電性を有していることが必要であるが、Cu素線やAl素線と同等の極めて低い電気抵抗であることまでは要求されない。その適正範囲は素線の線径によって変動するが、発明者らは、鋼芯線自体の電気抵抗に対し、Alめっきを施したことにより、どの程度電気抵抗が低減するか、という効果(電気抵抗低減効果)を表現する指標により比較的良好に導電性を評価することができることを見出した。具体的には、当該Alめっき鋼線の単位長さあたりの電気抵抗ρ1(Ω/m)と、当該Alめっき鋼線を構成する鋼芯線(溶融Alめっきを施していない状態を想定したもの)の単位長さあたりの電気抵抗ρ0(Ω/m)の比ρ1/ρ0が0.55以下である場合に、ワイヤーハーネスの素線として十分に適用できる。ρ1/ρ0が0.30以下であることがより好ましい。
【0029】
芯線となる鋼線については、例えばJIS G3505に規定される軟鋼線材、G3532に規定される鉄線、G3506に規定される硬鋼線材などが適用可能である。
【実施例】
【0030】
直径0.43mmおよび0.20mmの2種類のZnめっき鋼線(芯線はJIS G3505の軟鋼線相当)を入手し、直径0.43mmのものについては引き抜きによる伸線加工に供して、直径0.40mmのZnめっき鋼線に仕上げた。すなわち、直径0.40mmおよび0.20mmの2種類のZnめっき鋼線を用意した。これらのZnめっき鋼線のZnめっき層厚さは、直径0.40mm線材で約7μm、直径0.20mm線材で約4μmである。
【0031】
伸線加工された上記Znめっき鋼線を、そのまま前処理することなく、溶融Alめっき浴に浸漬した後、垂直に引き上げる方法で溶融Alめっきに供した。溶融Alめっき浴の組成は、Si含有量を種々変えたAl−Si浴とし、AlとSi以外の成分は不可避的不純物である。浸漬時間はライン速度を変えることにより調整した。浸漬時間の調整および電磁ワイピングにより、前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」および前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率」を種々の値にコントロールした。
【0032】
得られたAlめっき鋼線について、長手方向に垂直な断面を観察した。鋼芯線の直径(円相当径)は、伸線加工されたZnめっき鋼線の直径(0.2mmまたは0.4mm)とほぼ同等であることが確認されたので、ここでは鋼芯線の直径(円相当径)を0.2mmまたは0.4mmと表示する。断面の光学顕微鏡像を画像処理することにより、断面全体の面積、溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積、および断片状Fe−Al系合金相の合計面積を測定し、前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」、および前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積率」を求めた。
【0033】
上記断面について、前記(3)の「溶融Alめっき層中の断片状Fe−Al系合金相を除くマトリクス部分のSi含有量」を、EDXにより測定した。
【0034】
Alめっき付着量は、長さ1mのAlめっき鋼線のAlめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相および連続的なFe−Al系合金層を含む)について溶解法で測定した。
【0035】
予め溶融Alめっき前に測定しておいた溶融Alめっきに供するZnめっき鋼線の単位長さあたりの電気抵抗ρ0(Ω/m)と、得られたAlめっき鋼線の単位長さあたりの電気抵抗ρ1(Ω/m)の測定値から、ρ1/ρ0の値を求めた。電気抵抗の測定は常温で測定長さ100mm、測定電流100mAの4端子法により行った。ここで、ρ0の値は、直径0.40mmのもので0.97Ω/m、直径0.20mmのもので3.88Ω/mであった。
電気抵抗低減効果の指標であるρ1/ρ0の値が0.30以下のものを◎(非常に良好)、0.30超え〜0.55以下のものを○(良好)、0.55を超えるものを×(不良)と評価し、○評価以上を合格とした。
【0036】
各Alめっき鋼線を先端R=1mmの90°曲げ冶具を用いて90°曲げ試験に供し、曲げ各部のAlめっき層にクラックが観察されなかったものを○(良好)、観察されたものを×(不良)と評価し、○評価を合格とした。
結果を表1、表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1からわかるように、本発明例のものは、前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」および前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率」が規定範囲にコントロールされたことにより、電気抵抗低減効果に優れていた。また、No.1〜24の本発明例は前記(3)の「溶融Alめっき層中の断片状Fe−Al系合金相を除くマトリクス部分のSi含有量」が十分に低いので、曲げ加工性も良好であり、ワイヤーハーネスの「かしめ加工部」での耐久性にも一層優れている。
【0040】
これに対し、表2からわかるように、比較例No.51〜57は前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」が大きすぎるか、または前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率」が不足するため、電気抵抗低減効果に劣った。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のAlめっき鋼線における長手方向に垂直な断面の構造を模式的に示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径(円相当径)が0.1〜0.5mmである鋼芯線の表面に、Fe−Al系合金層を介して、溶融Alめっき層を有するAlめっき鋼線であって、長手方向に垂直な断面において、
(1)溶融Alめっき層中には、断片状Fe−Al系合金相が分散しており、溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率が40%以下であり、
(2)断面全体に占める溶融Alめっき層(その中に分散している断片状Fe−Al系合金相を含む)の面積率が30%以上である、
Alめっき鋼線。
【請求項2】
さらに、
(3)溶融Alめっき層中の断片状Fe−Al系合金相を除くマトリクス部分のSi含有量が9質量%以下である、
請求項1に記載のAlめっき鋼線。
【請求項3】
当該Alめっき鋼線の単位長さあたりの電気抵抗ρ1(Ω/m)と、当該Alめっき鋼線を構成する鋼芯線(溶融Alめっきを施していない状態を想定したもの)の単位長さあたりの電気抵抗ρ0(Ω/m)の比ρ1/ρ0が0.55以下である請求項1または2に記載のAlめっき鋼線。
【請求項4】
Znめっき鋼線を溶融Alめっき浴に連続的に浸漬することによりAlめっき鋼線を製造する方法であって、Alめっき浴への浸漬時間を調整することを利用して前記(1)の「溶融Alめっき層中に占める断片状Fe−Al系合金相の合計面積率」および前記(2)の「断面全体に占める溶融Alめっき層の面積率」をコントロールする請求項1〜3のいずれかに記載のAlめっき鋼線の製造方法。
【請求項5】
前記Znめっき鋼線は、鋼素線にZnめっきを施した後、伸線加工されたものである請求項4に記載のAlめっき鋼線の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−179865(P2009−179865A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21472(P2008−21472)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】