Al濃度センサー
【課題】センサーを構成する材質的な誤差や温度条件による誤差を最小限とし、かつ浸漬時における応答性、特に金属浴の浴温変動時における応答性を改善するとともに、センサー寿命の延長を図ることができるAl濃度センサーを提供する。
【解決手段】電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成することで材質的な誤差や温度条件による誤差、金属浴の浴温変動時における応答性を改善できる。
【解決手段】電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成することで材質的な誤差や温度条件による誤差、金属浴の浴温変動時における応答性を改善できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき浴等の金属浴中のAl濃度を検出するために用いられる化学電池型のAl濃度センサーの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴中には、品質向上のために少量のAlが添加されており、その濃度を一定に保つためにAl濃度センサーが用いられている。このようなAl濃度センサーとしては、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
このAl濃度センサーは、ガラス管の下方部に電解質を充填するとともにその内部に純Al製の標準電極を設置し、その外周を黒鉛、耐熱合金等の円筒からなる保護管で覆ったものである。ガラス管の下端部は保護管よりも下方に突出しており、使用時にはその先端のくびれ部を切断して金属浴中に浸漬し、電解質が金属浴の溶湯と接触可能とする。そして電解質を挟んだ両側の、溶湯中のAl濃度と純Al製の標準電極との濃度差により形成される化学電池の起電力を検出し、溶湯中のAl濃度を測定するようになっている。
【0004】
図1はその測定概要を電気回路的に示した図であり、金属浴の電位は保護管1(図1では別体として表示)により検出されている。4はガラス管、5は電解質、6は電位差測定用のコンピュータである。E0、E1、E3、E4、E5は各点の起電力であり、E3、E4は浴外であり温度条件は同一であるが、
E3+E4=E(Al/リード線)+E(リード線/保護管)≠0・・・(1)
となり回路の材質が一巡せず、この部分で材質的な誤差が生じる。同様に溶融亜鉛浴内で温度条件が同じE0、E1、E5の各点の起電力についても、
E0+E1+E5=E(Zn/電解質)+E(電解質/Al)+E(保護管/Zn)≠0・・・(2)
でやはり回路の材質が一巡せず材質的な誤差が生じる。
【0005】
またこのAl濃度センサーは、ガラス管4の先端部を切断して直ちに金属浴に浸漬されるものであるが、溶融亜鉛めっき浴等の金属浴の表面にはトップドロスと呼ばれる金属化合物が浮上しており、Al濃度センサーを浸漬する際にトップドロスがガラス管4の内部の電解質5に付着することが多い。このため溶湯と電解質5との有効接触面積が小さくなって応答性が悪くなり、浸漬後に正常な起電力を発生するまでに半日以上を要するという問題があった。また、溶湯が電解質5に局部的に接触することによってAl濃度センサーの寿命が短縮され、従来は4日程度で新品と交換せざるを得ないという問題もあった。
【特許文献1】特公平8−27252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、センサーを構成する材質的な誤差や温度条件による誤差を最小限とし、かつ浸漬時における応答性、特に金属浴の浴温変動時における応答性を改善するとともに、センサー寿命の延長を図ることができるAl濃度センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を解決するためになされた請求項1の発明は、電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成したことを特徴とするものである。なお、金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部は、標準電極上部の接合点を中心として±100mmの範囲に形成されていることが好ましい。さらに電解質が露出されたガラス管の先端に金属箔製のシールカバーを装着することも好ましく、このシールカバーの材質は金属浴への浸漬後に溶融・分解する金属であり、金属浴が溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴である場合には、AlまたはZnであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のAl濃度センサーは、電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成したものであるので、溶湯温度が変動した場合にもこの部分(図2のE2点)の温度は浴温と同温になり易くなる。このため標準電極上部の接合点を保護管の内部に封入した従来品よりも、応答性を大幅に改善することが可能となる。特にこの開口部を標準電極上部の接合点を中心として±100mmの範囲に形成しておけば、応答時間の大幅な短縮が可能となる。
【0009】
また、ガラス管の先端部を覆う金属箔製のシールカバーを備えれば、金属浴の表面に存在するトップドロスはこのシールカバーにより遮断され、浸漬時にトップドロスが電解質の表面に付着することがなくなる。このため、溶湯と電解質との反応面積を十分に確保することができ、応答性が改善されるとともに、局部接触もなくなるので、寿命も従来品の2倍以上に延長される。なお、金属箔製のシールカバー自体は溶湯に浸漬された後は速やかに溶融または分解されるので、浸漬後1時間以内に正常な起電力に達する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図2は図1に対し材質的な誤差を最小限にするための変更を加えられたAl濃度センサーの測定概要を電気回路的に示した図であり、図3はこれの実機イメージ図である。1はSUSまたは鉄製の導電性金属の保護管、4はその内部に収納され、耐熱ガラス製のガラス管である。ガラス管4の下方部には電解質5が充填されており、その内部に純Al製の標準電極2が設置されて化学電池型濃淡センサーを構成している。標準電極2の上部には保護管と同じ導電性金属による導線3が接合されており、上端のシール部8を貫通して上方に延びている。なお図3においてガラス管4の先端部7にはアンプルのようなくびれ部9を設けてあり、使用時には図3のようにその部分から切断して金属浴の内部に浸漬する。尚、保護管1と導線3に用いられる導電性金属は、通電性があり溶融金属12より融点が高いものが好ましく、具体的には前記のSUSや鉄製であれば融点や衝撃性、コスト的にも問題なく好ましい。
【0011】
しかしながらこの変更を実施しても、金属浴の浴温変動が生じた場合に濃度検出誤差を生じ易いという別の問題もあった。本発明者の検討によれば、その理由は図2におけるE2点とE5点の温度差に起因する熱起電力が、Al濃度差による起電力の外乱となるためと考えられる。ここでE5点は金属浴と接しているために浴温と同温であるが、E2点すなわち標準電極2と導線3との接合点E2は保護管1の内部にあり、保護管1とガラス管4の間に金属浴も侵入しにくいため、浴温変動よりも遅れて温度変化が生じ、浴温と温度差を生じる。従って金属浴の浴温変動時にはE2点とE5点との間に温度差が生じ、応答性が悪化するものと考えられる。
【0012】
このため金属浴の浴温変動時における応答性改善の解決策として、図4に示すように標準電極2と導線3との接合点E2近傍の保護管1に、溶湯を内部に浸入させるための開口部11を形成した。この開口部11は例えば直径が2mm以上の丸孔であるが、溶湯が浸入することができるものであれば、スリット状であっても、角孔状であってもよい。しかし目の細かい金網状であると溶湯が浸入しにくいため、好ましくない。
【0013】
このように標準電極2と導線3との接合点E2近傍の保護管1に開口部11を形成しておけば、溶湯が保護管1の内部に侵入して図2のE2点の温度が溶湯温度と等しくなる。このため溶湯温度が変動した場合にも図2のE2点とE5点との温度差が従来品よりも小さくなり、応答性が改善される。
【0014】
図5は浴温変動時における起電力の変動を示すグラフであり、上段に示す従来品は、浴温が約20℃変動した後に元の起電力に復帰するまでに約1時間を要している。しかし下段に示す本発明品(穴あけ改造型、直径20mmの丸孔を前記E2点を中心に5mm間隔で6個配置)では20〜30分で元の起電力に復帰しており、応答性の改善が確認できた。
【0015】
尚、金属浴溶湯を保護管1の内部に浸入させる開口部11は前記接合点E2近傍、具体的には標準電極2と導線3との接点を中心として±100mmの範囲に形成されていることが好ましく、±75mmの範囲であればより好ましい。前記接点E2近傍に開口部11が形成されていれば、その範囲外に開口部があっても温度の応答性に対する影響は概ね変わらない。また開口部11は前記範囲に1ヶ所でも構わないが複数形成すればさらに好ましい。
【0016】
また前記接合点E2と開口部の距離と温度の応答性の関係を示すものとして、図6に前記E2点と開口部の距離を6種類示し、図7にはそれぞれの応答時間を示す。このように、接合点E2を中心として±100mmの範囲に形成されていれば応答時間を開口部なしの応答時間よりも短縮でき、特に75mm以内とすれば応答時間を従来よりも大幅に短縮することができる。また開口部の範囲はE2点を中心に上下に不均等に配置しても、前記範囲内であれば構わない。
【0017】
本発明のAl濃度センサーは、さらに付属品として金属箔製のシールカバー10を備えたものである。このシールカバー10はキャップ状のものであり、図8、図9のようにくびれ部9から下方を切断されたガラス管4の先端部7に嵌め込み、ガラス管2の先端部7を覆うものである。これによって前記アンプルのようなくびれ部9を折るか切断し、本センサーを使用可能な状態とした後、金属浴への浸漬時に、金属浴の表面のトップドロスが電解質5に付着することを防止する役割を持つ。
【0018】
このためシールカバー10は金属浴への浸漬時にのみ機能すればよく、浸漬後は速やかに溶融・分解して溶湯を電解質5に十分に接触させる必要がある。従ってシールカバー10の材質は金属浴への浸漬後に溶融・分解する金属であることが好ましく、金属浴が溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴である場合には、めっき浴の成分であるAlまたはZnであることが好ましい。
【0019】
なお、この溶融亜鉛めっき浴の浴温は450℃前後であってAlの融点よりも低温であるが、亜鉛浴中で亜鉛とAlとの反応により溶解するため、支障はない。その他の金属を用いることも可能ではあるが、溶融亜鉛めっき浴中に溶解することによりめっき品質を低下させるおそれのある金属は避けるべきである。
【0020】
金属浴への浸漬時にはシールカバー10に浮力が作用するため、シールカバー10はガラス管2の先端部7に強固に固定するための手段を必要とせず、浸漬させるまでに空中で脱落しない程度にはめ込めれば十分である。
【0021】
図10はこのようなシールカバー10のない従来型のセンサーと、本発明のセンサーとの性能を比較したグラフであり、横軸は溶融亜鉛めっき浴への浸漬後の経過時間である。なおシールカバー10の材質はAl箔である。シールカバー10のない従来型のセンサーは浸漬後、14時間を経過するまで起電力が単調増加傾向を示して安定しないが、本発明のセンサーでは浸漬後、1時間程度で起電力が安定する。これはトップドロスが電解質に付着しないためと考えられる。
【0022】
また、図11は従来型のセンサーと本発明のセンサーとの使用寿命を比較したグラフであり、改造♯1と表示されているのが開口部11のないシールカバー10のみの事例である。従来品の寿命は4日程度であったが、本発明のセンサーは9日と従来品の2倍以上の寿命を示した。これはトップドロスに妨害されることなく、溶湯と電解質5とが均等に接触するためと考えられる。
【0023】
また、開口部11を形成するとともにシールカバー10を備えた本発明のAl濃度センサーは、図11に改造♯2と表示したように改造♯1よりもさらに寿命が大幅に延びており、2週間の連続使用が可能となった。これは、図2における標準電極2と導線3との接合点E2点と、保護管E5点の温度が浴温とほぼ同一であるため熱起電力がほとんど発生せず、異種金属接合点であるE2点で局所的な電位差が発生せず、標準電極2の腐食進行が妨げられ、E2点での接合不良による寿命低下が抑制されたためと考えられる。よって溶融亜鉛めっき浴のAl濃度管理に使用する場合には、応答性の向上及び使用寿命の向上によって、大きな実用的価値を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のAl濃度センサーの測定概要を電気回路的に示した図である。
【図2】図1に対し材質的な誤差を最小限にするための変更を加えられたAl濃度センサーの測定概要を電気回路的に示した図である。
【図3】図2の実施形態の実機イメージの断面図である。
【図4】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図5】金属浴への浸漬後の起電力を示すグラフであり、上段が従来のセンサー、下段が本発明のセンサーである。
【図6】接点と開口部の距離を6種類示した断面図である。
【図7】それぞれの応答時間を示すグラフである。
【図8】請求項4の発明の実施形態を示す断面図である。
【図9】請求項4の発明の実施形態を示す断面図で、ガラス管先端を折るか切断した断面図ある。
【図10】センサーの寿命を示すグラフである。
【図11】センサーの寿命を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 保護管
2 標準電極
3 導線
4 ガラス管
5 電解質
6 電位差測定用のコンピュータ
7 先端部
8 シール部
9 くびれ部
10 シールカバー
11 開口部
12 溶融亜鉛浴
13 リード線
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき浴等の金属浴中のAl濃度を検出するために用いられる化学電池型のAl濃度センサーの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴中には、品質向上のために少量のAlが添加されており、その濃度を一定に保つためにAl濃度センサーが用いられている。このようなAl濃度センサーとしては、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
このAl濃度センサーは、ガラス管の下方部に電解質を充填するとともにその内部に純Al製の標準電極を設置し、その外周を黒鉛、耐熱合金等の円筒からなる保護管で覆ったものである。ガラス管の下端部は保護管よりも下方に突出しており、使用時にはその先端のくびれ部を切断して金属浴中に浸漬し、電解質が金属浴の溶湯と接触可能とする。そして電解質を挟んだ両側の、溶湯中のAl濃度と純Al製の標準電極との濃度差により形成される化学電池の起電力を検出し、溶湯中のAl濃度を測定するようになっている。
【0004】
図1はその測定概要を電気回路的に示した図であり、金属浴の電位は保護管1(図1では別体として表示)により検出されている。4はガラス管、5は電解質、6は電位差測定用のコンピュータである。E0、E1、E3、E4、E5は各点の起電力であり、E3、E4は浴外であり温度条件は同一であるが、
E3+E4=E(Al/リード線)+E(リード線/保護管)≠0・・・(1)
となり回路の材質が一巡せず、この部分で材質的な誤差が生じる。同様に溶融亜鉛浴内で温度条件が同じE0、E1、E5の各点の起電力についても、
E0+E1+E5=E(Zn/電解質)+E(電解質/Al)+E(保護管/Zn)≠0・・・(2)
でやはり回路の材質が一巡せず材質的な誤差が生じる。
【0005】
またこのAl濃度センサーは、ガラス管4の先端部を切断して直ちに金属浴に浸漬されるものであるが、溶融亜鉛めっき浴等の金属浴の表面にはトップドロスと呼ばれる金属化合物が浮上しており、Al濃度センサーを浸漬する際にトップドロスがガラス管4の内部の電解質5に付着することが多い。このため溶湯と電解質5との有効接触面積が小さくなって応答性が悪くなり、浸漬後に正常な起電力を発生するまでに半日以上を要するという問題があった。また、溶湯が電解質5に局部的に接触することによってAl濃度センサーの寿命が短縮され、従来は4日程度で新品と交換せざるを得ないという問題もあった。
【特許文献1】特公平8−27252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、センサーを構成する材質的な誤差や温度条件による誤差を最小限とし、かつ浸漬時における応答性、特に金属浴の浴温変動時における応答性を改善するとともに、センサー寿命の延長を図ることができるAl濃度センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を解決するためになされた請求項1の発明は、電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成したことを特徴とするものである。なお、金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部は、標準電極上部の接合点を中心として±100mmの範囲に形成されていることが好ましい。さらに電解質が露出されたガラス管の先端に金属箔製のシールカバーを装着することも好ましく、このシールカバーの材質は金属浴への浸漬後に溶融・分解する金属であり、金属浴が溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴である場合には、AlまたはZnであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のAl濃度センサーは、電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成したものであるので、溶湯温度が変動した場合にもこの部分(図2のE2点)の温度は浴温と同温になり易くなる。このため標準電極上部の接合点を保護管の内部に封入した従来品よりも、応答性を大幅に改善することが可能となる。特にこの開口部を標準電極上部の接合点を中心として±100mmの範囲に形成しておけば、応答時間の大幅な短縮が可能となる。
【0009】
また、ガラス管の先端部を覆う金属箔製のシールカバーを備えれば、金属浴の表面に存在するトップドロスはこのシールカバーにより遮断され、浸漬時にトップドロスが電解質の表面に付着することがなくなる。このため、溶湯と電解質との反応面積を十分に確保することができ、応答性が改善されるとともに、局部接触もなくなるので、寿命も従来品の2倍以上に延長される。なお、金属箔製のシールカバー自体は溶湯に浸漬された後は速やかに溶融または分解されるので、浸漬後1時間以内に正常な起電力に達する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図2は図1に対し材質的な誤差を最小限にするための変更を加えられたAl濃度センサーの測定概要を電気回路的に示した図であり、図3はこれの実機イメージ図である。1はSUSまたは鉄製の導電性金属の保護管、4はその内部に収納され、耐熱ガラス製のガラス管である。ガラス管4の下方部には電解質5が充填されており、その内部に純Al製の標準電極2が設置されて化学電池型濃淡センサーを構成している。標準電極2の上部には保護管と同じ導電性金属による導線3が接合されており、上端のシール部8を貫通して上方に延びている。なお図3においてガラス管4の先端部7にはアンプルのようなくびれ部9を設けてあり、使用時には図3のようにその部分から切断して金属浴の内部に浸漬する。尚、保護管1と導線3に用いられる導電性金属は、通電性があり溶融金属12より融点が高いものが好ましく、具体的には前記のSUSや鉄製であれば融点や衝撃性、コスト的にも問題なく好ましい。
【0011】
しかしながらこの変更を実施しても、金属浴の浴温変動が生じた場合に濃度検出誤差を生じ易いという別の問題もあった。本発明者の検討によれば、その理由は図2におけるE2点とE5点の温度差に起因する熱起電力が、Al濃度差による起電力の外乱となるためと考えられる。ここでE5点は金属浴と接しているために浴温と同温であるが、E2点すなわち標準電極2と導線3との接合点E2は保護管1の内部にあり、保護管1とガラス管4の間に金属浴も侵入しにくいため、浴温変動よりも遅れて温度変化が生じ、浴温と温度差を生じる。従って金属浴の浴温変動時にはE2点とE5点との間に温度差が生じ、応答性が悪化するものと考えられる。
【0012】
このため金属浴の浴温変動時における応答性改善の解決策として、図4に示すように標準電極2と導線3との接合点E2近傍の保護管1に、溶湯を内部に浸入させるための開口部11を形成した。この開口部11は例えば直径が2mm以上の丸孔であるが、溶湯が浸入することができるものであれば、スリット状であっても、角孔状であってもよい。しかし目の細かい金網状であると溶湯が浸入しにくいため、好ましくない。
【0013】
このように標準電極2と導線3との接合点E2近傍の保護管1に開口部11を形成しておけば、溶湯が保護管1の内部に侵入して図2のE2点の温度が溶湯温度と等しくなる。このため溶湯温度が変動した場合にも図2のE2点とE5点との温度差が従来品よりも小さくなり、応答性が改善される。
【0014】
図5は浴温変動時における起電力の変動を示すグラフであり、上段に示す従来品は、浴温が約20℃変動した後に元の起電力に復帰するまでに約1時間を要している。しかし下段に示す本発明品(穴あけ改造型、直径20mmの丸孔を前記E2点を中心に5mm間隔で6個配置)では20〜30分で元の起電力に復帰しており、応答性の改善が確認できた。
【0015】
尚、金属浴溶湯を保護管1の内部に浸入させる開口部11は前記接合点E2近傍、具体的には標準電極2と導線3との接点を中心として±100mmの範囲に形成されていることが好ましく、±75mmの範囲であればより好ましい。前記接点E2近傍に開口部11が形成されていれば、その範囲外に開口部があっても温度の応答性に対する影響は概ね変わらない。また開口部11は前記範囲に1ヶ所でも構わないが複数形成すればさらに好ましい。
【0016】
また前記接合点E2と開口部の距離と温度の応答性の関係を示すものとして、図6に前記E2点と開口部の距離を6種類示し、図7にはそれぞれの応答時間を示す。このように、接合点E2を中心として±100mmの範囲に形成されていれば応答時間を開口部なしの応答時間よりも短縮でき、特に75mm以内とすれば応答時間を従来よりも大幅に短縮することができる。また開口部の範囲はE2点を中心に上下に不均等に配置しても、前記範囲内であれば構わない。
【0017】
本発明のAl濃度センサーは、さらに付属品として金属箔製のシールカバー10を備えたものである。このシールカバー10はキャップ状のものであり、図8、図9のようにくびれ部9から下方を切断されたガラス管4の先端部7に嵌め込み、ガラス管2の先端部7を覆うものである。これによって前記アンプルのようなくびれ部9を折るか切断し、本センサーを使用可能な状態とした後、金属浴への浸漬時に、金属浴の表面のトップドロスが電解質5に付着することを防止する役割を持つ。
【0018】
このためシールカバー10は金属浴への浸漬時にのみ機能すればよく、浸漬後は速やかに溶融・分解して溶湯を電解質5に十分に接触させる必要がある。従ってシールカバー10の材質は金属浴への浸漬後に溶融・分解する金属であることが好ましく、金属浴が溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴である場合には、めっき浴の成分であるAlまたはZnであることが好ましい。
【0019】
なお、この溶融亜鉛めっき浴の浴温は450℃前後であってAlの融点よりも低温であるが、亜鉛浴中で亜鉛とAlとの反応により溶解するため、支障はない。その他の金属を用いることも可能ではあるが、溶融亜鉛めっき浴中に溶解することによりめっき品質を低下させるおそれのある金属は避けるべきである。
【0020】
金属浴への浸漬時にはシールカバー10に浮力が作用するため、シールカバー10はガラス管2の先端部7に強固に固定するための手段を必要とせず、浸漬させるまでに空中で脱落しない程度にはめ込めれば十分である。
【0021】
図10はこのようなシールカバー10のない従来型のセンサーと、本発明のセンサーとの性能を比較したグラフであり、横軸は溶融亜鉛めっき浴への浸漬後の経過時間である。なおシールカバー10の材質はAl箔である。シールカバー10のない従来型のセンサーは浸漬後、14時間を経過するまで起電力が単調増加傾向を示して安定しないが、本発明のセンサーでは浸漬後、1時間程度で起電力が安定する。これはトップドロスが電解質に付着しないためと考えられる。
【0022】
また、図11は従来型のセンサーと本発明のセンサーとの使用寿命を比較したグラフであり、改造♯1と表示されているのが開口部11のないシールカバー10のみの事例である。従来品の寿命は4日程度であったが、本発明のセンサーは9日と従来品の2倍以上の寿命を示した。これはトップドロスに妨害されることなく、溶湯と電解質5とが均等に接触するためと考えられる。
【0023】
また、開口部11を形成するとともにシールカバー10を備えた本発明のAl濃度センサーは、図11に改造♯2と表示したように改造♯1よりもさらに寿命が大幅に延びており、2週間の連続使用が可能となった。これは、図2における標準電極2と導線3との接合点E2点と、保護管E5点の温度が浴温とほぼ同一であるため熱起電力がほとんど発生せず、異種金属接合点であるE2点で局所的な電位差が発生せず、標準電極2の腐食進行が妨げられ、E2点での接合不良による寿命低下が抑制されたためと考えられる。よって溶融亜鉛めっき浴のAl濃度管理に使用する場合には、応答性の向上及び使用寿命の向上によって、大きな実用的価値を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のAl濃度センサーの測定概要を電気回路的に示した図である。
【図2】図1に対し材質的な誤差を最小限にするための変更を加えられたAl濃度センサーの測定概要を電気回路的に示した図である。
【図3】図2の実施形態の実機イメージの断面図である。
【図4】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図5】金属浴への浸漬後の起電力を示すグラフであり、上段が従来のセンサー、下段が本発明のセンサーである。
【図6】接点と開口部の距離を6種類示した断面図である。
【図7】それぞれの応答時間を示すグラフである。
【図8】請求項4の発明の実施形態を示す断面図である。
【図9】請求項4の発明の実施形態を示す断面図で、ガラス管先端を折るか切断した断面図ある。
【図10】センサーの寿命を示すグラフである。
【図11】センサーの寿命を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 保護管
2 標準電極
3 導線
4 ガラス管
5 電解質
6 電位差測定用のコンピュータ
7 先端部
8 シール部
9 くびれ部
10 シールカバー
11 開口部
12 溶融亜鉛浴
13 リード線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成したことを特徴とするAl濃度センサー。
【請求項2】
金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部は、標準電極上部の接合点を中心として±100mmの範囲に形成されていることを特徴とする請求項1記載のAl濃度センサー。
【請求項3】
金属浴が溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴であることを特徴とする請求項2記載のAl濃度センサー。
【請求項4】
Al製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端が金属浴に浸漬される直前に折られるか切断されるかして電解質が露出させられ、電解質が露出させられたガラス管の先端部を覆う金属箔製のシールカバーが装着されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のAl濃度センサー。
【請求項5】
シールカバーの材質が、金属浴への浸漬後に溶融・分解する金属であることを特徴とする請求項4記載のAl濃度センサー。
【請求項6】
シールカバーの材質が、AlまたはZnであることを特徴とする請求項5記載のAl濃度センサー。
【請求項1】
電極の一方は導電性金属の保護管とし、もう一方の電極はAl製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端から電解質を露出させたものが前記保護管の内部に備わり、前記ガラス管の内部には保護管と同じ導電性金属からなる導線とAl製の標準電極との接合点を金属浴表面以下になるよう配置し、接合点近傍の保護管に金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部を形成したことを特徴とするAl濃度センサー。
【請求項2】
金属浴溶湯を保護管の内部に浸入させる開口部は、標準電極上部の接合点を中心として±100mmの範囲に形成されていることを特徴とする請求項1記載のAl濃度センサー。
【請求項3】
金属浴が溶融亜鉛めっき鋼板製造用の溶融亜鉛めっき浴であることを特徴とする請求項2記載のAl濃度センサー。
【請求項4】
Al製の標準電極と電解質とを内部に収納したガラス管の先端が金属浴に浸漬される直前に折られるか切断されるかして電解質が露出させられ、電解質が露出させられたガラス管の先端部を覆う金属箔製のシールカバーが装着されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のAl濃度センサー。
【請求項5】
シールカバーの材質が、金属浴への浸漬後に溶融・分解する金属であることを特徴とする請求項4記載のAl濃度センサー。
【請求項6】
シールカバーの材質が、AlまたはZnであることを特徴とする請求項5記載のAl濃度センサー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−47674(P2009−47674A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285714(P2007−285714)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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