説明

Au−Sn合金のめっき皮膜

【課題】 溶融・冷却後の凝固組織にボイドが発生しないAu−Sn合金のめっき皮膜を提供する。
【解決手段】 被めっき材の表面に電気めっき法で形成されたAu−Sn合金のめっき組織から成るAu−Sn合金めっき皮膜において、そのめっき組織を溶融したのち冷却して得られた凝固組織にはボイド発生が認められず、そのAu−Sn合金は、Au:75〜86質量%、残部がSnであることを基本組成とし、更に、C、SおよびNの群から選ばれる少なくとも1種が不純物として含有されていてもよく、その場合、Cは多くても0.06質量%、Sは多くても0.0006質量%、Nは多くても0.06質量%にそれぞれの含有量が規制されているAu−Sn合金のめっき皮膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAu−Sn合金のめっき皮膜に関し、更に詳しくは、電子部品や光部品の封着工程に適用して有用なAu−Sn合金のめっき皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
Au−Sn合金は、Au80質量%(Sn20質量%)の組成で共晶点をもち、その融点は278℃であるが、合金組成を変化させることにより、高融点にすることができるので、電子部品や光部品を組み立てるときの封着材料として使用されている。
例えば、水晶振動子デバイスを組み立てる場合には、上部が開口する筐体の中に水晶振動子を収容したのち蓋をかぶせて開口を密閉する際に、筐体と蓋の間に例えば枠体形状をしたAu−Sn合金の箔体を配置し、ついで全体に所定温度で加熱処理を行って当該箔体を溶融したのち冷却して凝固させることにより、筐体と蓋の間を気密に封着している。
【0003】
また光モジュールと光ファイバ線を接続する場合には、例えば光モジュールのハウジングの壁面に形成した孔にコバールから成るフェルールを配置し、そのコバールに光ファイバ線を挿通し、ハウジングとコバールの間およびフェルールと光ファイバ心線の間にAu−Sn合金のリング箔を配置し、全体に加熱・冷却処理を施すことにより、ハウジング−フェルール−光ファイバ線の間を気密に封着している。
【0004】
このような溶着材料として使用されているAu−Sn合金の箔体は、一般に次のようにして製造されてきた。
まず、例えば真空溶解炉で所望組成、したがって所望する融点を有するAu−Sn合金を溶製し、得られたインゴットに例えばロール圧延を行って所望厚みの合金シートを製造する。そして、この合金シートに対し、例えば打ち抜き加工を行って、溶着対象の部材形状に合わせた寸法形状の例えば枠体の箔やリング箔にする。
【0005】
しかしながら、このAu−Sn合金は脆性を有する難加工性の材料である。そのため、合金箔の打ち抜き加工時に、ワレ、欠けなどの破損が起こりやすい。とくに、合金箔が薄い場合や、加工材の形状が小型化すればするほど加工は困難になり、加工時における破損不良は増加する。
このことは次の点で不都合である。すなわち、例えば上記した水晶振動子デバイスの場合、その形状小型化に伴い、溶着材料である箔体に対しても寸法形状の小型化や厚みの薄肉化などが要請されているが、この要請に応えられないからである。
【0006】
このようなことから、最近では、溶着対象の部材表面に電気めっき法で直接Au−Sn合金のめっき皮膜を形成することが試みられている。電気めっき法によれば、めっき皮膜の成膜速度は大きく、また膜厚も広範囲に変化させることができ、膜厚制御も容易であり、微細で複雑形状の箇所にも容易にめっき皮膜を形成することができるからである。
そして、Au−Sn合金のめっき皮膜の形成に関しては、従来からシアン化第一金カリウム、シアン化第二金カリウム、塩化第一金カリウム、塩化第二金カリウムのようなAu源と、スルファミン酸すず、硫酸第一すず、塩化第二すず、フッ化第一すずのようなSn源を含み、更に、応力緩和剤、安定化剤、pH調整剤、酸化防止剤、分散剤、光沢剤など、電気めっきの分野では公知の各種添加剤の所定量を含むめっき浴が使用されている。
【0007】
例えば、Au源としてKAuCl4を用い、Sn源としてSnCl2・2H2Oを用い、添加剤としてNa2SO3、L−アスコルビン酸(Sn源の安定化剤)を含有するクエン酸アンモニウムベースのめっき浴を用いたパルスめっき方法が開示されている(特許文献1を参照)。
この先行技術によれば、安定してAu−Sn合金のめっき作業を行うことができ、また共晶点組成を含む広い組成範囲で均質なAu−Sn合金のめっき皮膜を形成できるとされている。
【0008】
しかしながら、この先行技術では、形成されためっき皮膜を実際に溶着材料として使用した場合、すなわち溶融したのち、冷却して凝固させたときの挙動に関する検証は行われていない。
また、Au源がシアン化金カリウム、Sn源がメタンスルホン酸すずである市販のめっき浴を用いて、Ni面に成膜した共晶点組成のAu−Sn合金のめっき皮膜(厚み40μm)が報告されている(非特許文献1を参照)。
【0009】
このめっき皮膜は、めっき上がりの時点ではNi面との密着性は良好である。しかし、これを温度280℃でリフロー処理すると、得られた凝固組織の皮膜とNi面との界面で剥離現象が発生している。
しかも、凝固後の皮膜には、最大でも10μm程度の大きなボイドが複数個発生している。
【0010】
なお、合金を溶製して製造したAu−Sn合金箔の場合は、溶融・冷却後の再凝固組織に上記したようなボイドが発生することはない。
【特許文献1】米国特許第6,245,208B1
【非特許文献1】第11回マイクロエレクトロニクスシンポジウム報告、83〜86頁、2001年10月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
溶融後の凝固組織に大きなボイドの発生するめっき皮膜は、それを溶着材料として使用した場合には次のような点で不都合である。
まず、溶着後に得られた製品の溶着部において、ボイドは溶着に寄与していないので、その溶着部の強度低下が引き起こされる。また、溶着部にボイドが存在するということは、溶着部における気密性の確保の阻害要因となる。とくに、水晶振動子デバイスの場合、その振動数の安定化を確保するためにデバイス内を真空状態に維持することが必要とされるのであるが、筐体と蓋の間の溶着部にボイドが発生しているとするならば、そのことはデバイスの気密性を破壊することになる。
【0012】
また、凝固組織にボイドが発生するめっき皮膜の場合、溶着処理の加熱過程でボイドの原因となるガスが発生し、それが筐体に収容させている水晶振動子の表面に付着して水晶振動子の所定の発振周波数を変化させるという不都合が生ずる。
したがって、Au−Sn合金のめっき皮膜を溶着材料として使用する場合、とりわけ気密性の確保が要求される溶着材料として使用する場合には、そのめっき皮膜は溶融後の凝固組織にボイドを発生せず、溶着時にガスを発生しないことが必要条件となる。
【0013】
前記したように、Au−Sn合金のめっき皮膜は、溶製されたAu−Sn合金箔に比べて多くの点で優れた溶着材料であることは事実であるが、この材料を高い信頼性の下で安定使用できるためには、溶融・冷却後の凝固組織にボイド発生が起こらず、また溶着時にガス発生が起こらないめっき皮膜であることが要求される。
本発明はAu−Sn合金のめっき皮膜に関する上記要求に対処するために、溶融−冷却−凝固後にあっても、その凝固組織にはボイドが発生せず、そのため、溶着処理後の製品における溶着部の強度低下を招かず、気密性の確保も可能とし、水晶振動子デバイスの組み立て時に水晶振動子の発振周波数にも影響を与えない高純度なAu−Sn合金のめっき皮膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
被めっき材の表面に電気めっき法で形成されたAu−Sn合金のめっき組織から成るAu−Sn合金のめっき皮膜において、
前記めっき組織を溶融したのち冷却して得られた凝固組織にはボイド発生が認められないことを特徴とするAu−Sn合金のめっき皮膜が提供される。
【0015】
具体的には、前記めっき組織は直流めっき法で形成されためっき組織であって、膜厚方向に延びる柱状構造のめっき粒子が膜面方向に集合した組織になっているか、または、パルスめっき法で形成されためっき組織であって、微細なめっき粒子の集合体から成る層を基本単位とし、前記基本単位の複数層が膜厚方向に積層された組織になっているAu−Sn合金のめっき皮膜が提供される。
【0016】
その場合、これら両者のめっき皮膜を構成する前記Au−Sn合金は、Au:75〜86質量%、残部がSnであることを基本組成とし、更に、C、SおよびNの群から選ばれる少なくとも1種が不純物として含有されていてもよく、その場合、Cは多くても0.06質量%、Sは多くても0.0006質量%、Nは多くても0.06質量%にそれぞれの含有量が規制されている。
【0017】
また、直流めっき法で形成されためっき組織の場合は、前記柱状構造のめっき粒子の長軸長と短軸長を、それぞれ、a、bとしたとき、b/aは、次式:0.0017≦b/a≦0.5の関係を満たしているAu−Sn合金のめっき皮膜が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のめっき皮膜では、不純物であるC、S、Nの量が規制されている。これら不純物は、めっき浴に添加される各種の添加剤(主として有機化合物である)から、めっき作業の過程でめっき皮膜に混入する成分である。
したがって、本発明のめっき皮膜の場合、有機化合物の混入量が少ないか、または混入していないので、このめっき皮膜を溶融しても有機化合物の熱分解に基因するガスの発生や冷却後の凝固組織におけるボイドは発生しないことになる。
【0019】
また本発明のめっき皮膜の場合、めっき粒子が微細化しているので、めっき粒子の合金組成におけるAu−Sn系状態図の融点より低い温度で溶融する。したがって、溶着作業時の溶着温度は、状態図が示す融点より低い温度にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のめっき皮膜は、Au−Sn合金から成り、かつ、溶融・冷却後の凝固組織にボイドは発生しない。
なお、本発明でいうボイドとは、その大きさが0.1〜20μm程度のもののことをいう。
ところで、凝固組織のボイドは、次のようなメカニズムで発生するものと考えられる。
【0021】
一般にめっき技術の分野では、めっき皮膜の特性を向上させるために、応力緩和剤、安定化剤、pH調整剤、酸化防止剤、分散剤、光沢剤など、各種の有機化合物が添加剤としてめっき浴に添加される。そして、これら有機化合物はめっきの過程で分解し、一部がめっき皮膜の中に混入するものと考えられる。
Au−Sn合金のめっき皮膜の場合も、用いためっき浴に配合した添加剤の一部が混入しているものと考えられる。例えば、特許文献1のめっき浴の場合、L−アスコルビン酸やクエン酸アンモニウムのような有機化合物が添加されているが、やはり、これら添加物の一部は、形成されたAu−Sn合金のめっき皮膜に混入されているものと考えられる。
【0022】
このようなめっき皮膜を溶融すると、混入している有機化合物が熱分解してガス化する。そして冷却後の凝固組織には、ガス化した根跡がボイドとして残存することになる。
その場合、めっき皮膜に混入している有機化合物の量が多ければ多いほど、それがガス化する度合いは激しくなるので、凝固組織におけるボイドも大きくなり、またボイドの発生個数も増加するものと考えられる。そして、水晶振動子デバイスの組み立て時に、有機化合物(添加物)が分解したガスが水晶振動子の表面に付着して、その発振周波数に影響を与える。
【0023】
ボイド発生のメカニズムを上記のように理解すれば、めっき皮膜の凝固組織にボイドを発生させないためには、めっき作業時の過程で、形成されためっき組織に有機化合物(添加剤)を混入させないことが最良である。
しかしながら、実際問題としては、めっき皮膜の特性の確保または向上のために、適切な添加剤をめっき浴に配合することが必要になる。その場合、成膜されためっき皮膜に添加剤の一部が混入して凝固組織にボイドを発生させる要因が形づくられることになる。
【0024】
本発明のめっき皮膜は、上記した考察を踏まえて開発されたものであり、めっき仕上がり時におけるめっき組織が、Au:75〜86質量%、残部がSnから成る合金組成になっていることを最良とする。
しかし、用いるめっき浴との関係で、すなわちめっき浴の添加剤の種類と量との関係で、C、S、Nの1種または2種以上が不純物として含まれることもある。例えば、ベンゼンスルホン酸ソーダ、ナフタリンスルホン酸ソーダ、ゼラチン、サッカリンなどの光沢剤や、アスコルビン酸のような安定化剤、エタノールアミンのような応力緩和剤など、各種の添加剤を使用することにより、C、S、Nなどが混入してくる。
【0025】
その場合でも、これら不純物のめっき皮膜における含有量は、Cの場合は多くても0.06質量%、Sの場合は多くても0.0006質量%、Nの場合は多くても0.06質量%に規制されている。これら不純物の含有量が、それぞれ、上記した値より多くなると、そのめっき皮膜を溶融して冷却したときに得られた凝固組織にボイドが発生するようになるからである。
【0026】
このめっき皮膜は、直流めっき法またはパルスめっき法で形成することができるが、その場合、めっき組織に違いが生じてくる。
直流めっき法で形成した場合、そのめっき組織は、膜厚方向に延びる柱状構造のめっき粒子が膜面方向に密集して集合した組織になる。また、パルスめっき法で形成した場合は、微細なめっき粒子の集合体から成る層を基本単位とし、この基本単位の複数層が膜厚方向に積層された組織になっている。
【0027】
いずれの場合であっても、めっき皮膜全体の合金組成は上記した条件を満たしており、混入している不純物の量も上記した量に規制されている。
直流めっき法で形成しためっき皮膜の場合、そのめっき組織を構成する個々のめっき粒子は、膜厚方向、すなわち被めっき材の表面からめっき皮膜の表面まで延びる柱状構造になっているが、その柱状構造は次のような形状であることが好ましい。
【0028】
すなわち、柱状構造の長軸長(膜厚方向の長さ)をa、短軸長(膜面方向の長さ)をbとしたとき、b/aが0.0017〜0.5の範囲内の値になっていることが好ましい。換言すれば、個々のめっき粒子は、針状のデンドライトになっていることが好ましい。その理由は以下のとおりである。
個々のめっき粒子のb/a値が上記範囲にあると、そのめっき粒子の集合体であるめっき組織の融点は、そのめっき粒子の合金組成におけるAu−Sn系状態図が示す融点よりも大幅に低下するからである。
【0029】
このことは、このめっき皮膜を溶着材料として使用する場合に、溶着作業を状態図の合金組成が指定する融点よりも低温で行うことができるという点で有用である。
この柱状構造におけるb/a値は、用いるめっき浴に例えば適量のクエン酸を添加することにより調整することができる。
めっき皮膜の形成時に用いるめっき浴において、Au源としては、例えば、シアン化第一金カリウム、Sn源としては、例えば、塩化第一すず、塩化第二すずが用いられる。両者の配合割合は、所望する合金組成のめっき皮膜に対応して適宜に決められる。
【0030】
なお、Sn源として塩化第一すずのような2価のSn塩だけであると、めっき浴の保管中または使用時に2価のSnの4価への酸化が進み、4価のSnの不溶性化合物が生成することによりSn濃度が変化してめっき浴は劣化する。そのため、本発明で用いるめっき浴は、最初から2価のSn塩と4価のSn塩を併用して建浴することが好ましい。その場合、Sn2+濃度とSn4+濃度が次式:0.02<Sn2+/(Sn2++Sn4+)<0.6の関係を満たすように両方のSn塩を併用することが好ましい。
【0031】
また、用いるめっき浴には、有機化合物の添加剤を添加しないことが好ましく、添加剤としてはできるだけ無機化合物を使用することが好ましい。例えば、浴のpH調整に際しては、HCl、NaOH、KOHなどを用いることが好ましい。
有機化合物の添加剤を添加する場合、その添加量は、成膜されためっき皮膜におけるC、S、Nの含有量がそれぞれの規制値よりも少なくなるように設定される。なお、添加量は、事前の予備実験で、添加剤の濃度とめっき皮膜中における不純物の含有量の関係を把握しておき、その関係から選定することができる。
【0032】
このようなめっき浴を用い、浴温を30〜70℃に調整し、pHを3.5〜5.5程度に調整し、電流密度0.1〜1.5A/dm2のめっき条件下で所望時間のめっき作業を行うことにより、所望厚みのめっき皮膜が形成される。
次に、パルスめっき法を適用する場合は、上記しためっき浴に被めっき材を陰極、不溶性電極を陽極として浸漬し、両極間にパルス電力を所望時間印加すればよい。
【0033】
その場合、陽極と陰極の間に非ファラデー電流を流し、しかも1回のパルス周期は、オン時間を非ファラデー電流が流れる時間帯よりも長い時間とし、オフ時間を非ファラデー電流が流れる時間帯内の時間にするようなパルス電力を印加することが好ましい。
このような態様のパルス電力を印加すると、個々のめっき粒子は粒径がnmオーダの微細粒となり、そのため、めっき皮膜の融点は、めっき粒子の合金組成におけるAu−Sn系状態図の融点よりも低くなる。勿論、既に述べためっき浴を用いるので、めっき皮膜のC、S、Nなどの不純物は規制値よりも少なくなっていて、例えば溶着材料に用いたとしても、その凝固組織にボイドが発生することはない。
【実施例1】
【0034】
1.めっき皮膜の形成
An源として、シアン化第一金カリウム、Sn源として塩化第一すずと塩化第二すずを用意した。これらAu源とSn源の濃度をそれぞれ変化させ、更に粒径調整剤としてクエン酸を添加(添加濃度:100g/L)してめっき浴を建浴した。なお、Sn2+/(Sn2++Sn4+)値は0.3に調整した。HClを用いてpHを4.5に調整した。
【0035】
各種のめっき浴に、Ni箔を浸漬して陰極とし、陽極としてはPt板を用い、浴温を50℃に調整し、撹拌しながら電流密度0.5A/dm2で約70分間の直流めっきを行った。それぞれのNi箔の表面には、浴組成に対応して合金組成が異なるAu−Sn合金のめっき皮膜(厚み約20μm)が形成された。
比較のため、シアン化第一金カリウム6g/L、クエン酸50g/L、クエン酸ナトリウム150g/L、メタンスルホン酸すず(Sn換算量)2g/Lを混合しためっき浴を建浴し、メタンスルホン酸でpHを4.5に調整してNi箔の表面に厚み約20μmのめっき皮膜を形成した。
【0036】
各めっき皮膜の断面をSEM観察した。いずれのめっき皮膜の場合も、Ni箔の表面から膜厚方向に延びる柱状構造のめっき粒子が膜面方向に密集するめっき組織になっていた。
この柱状構造の長軸長(a)と短軸長(b)の平均値(n=50)をそれぞれ測定し、b/a値を算出した。また、各めっき皮膜の組成を蛍光X線で分析し、また不純物を定量分析した。以上の結果を表1に示した。
なお、各合金組成のAu−Sn系状態図における融点も表1に併記した。
【0037】
【表1】

【0038】
2.溶融試験
各試料を、各温度に制御された溶着炉に入れて約60秒間放置したのち取り出して、めっき皮膜の溶融状態を観察した。
完全に溶融している場合を◎、溶融しているが若干溶融状態にムラが認められる場合を○、溶融しない場合を×とした。
また、各試料を室温まで冷却したのち、皮膜の凝固組織におけるボイド発生の有無を観察した。以上の結果を表2に示した。
【0039】
【表2】

【0040】
なお、各試験料が一旦溶融して冷却したのちの凝固組織を再度溶融する場合には、状態図が示す融点以上の温度にその凝固組織を加熱することが必要であることが確認された。
参考のために、試料6と比較試料の凝固組織のSEM写真を、それぞれ、図1、図2として示す。図1は試料6の場合、図2は比較試料の場合である。
以上の結果から次のことが明らかである。
(1)試料6と比較試料を対比して明らかなように、両者はAuの組成が同じであるにもかかわらず、試料6の凝固組織にはボイド発生していないが、比較試料には大きなボイドが発生している。
【0041】
試料6と比較試料を対比すると、めっき皮膜中の不純物の濃度は比較試料の方が超かに高い(Sn濃度が10倍)。これは、比較試料の製造時に用いためっき浴がSn源も含めて多くの有機化合物を含んでいるからであると考えてよい。
このようなことから、凝固組織にボイドを発生させないためには、めっき組織における不純物の含有量を規制することが必要になり、そのためには用いるめっき浴に有機化合物を含有させないことが好適である。
(2)Au組成が75〜86質量%のめっき皮膜(試料3〜試料8)は、溶着時に採用されている温度(260〜340℃)で確実に溶融している。しかも、その後の凝固組織にはボイドが発生していないので、充分に溶着試料として使用可能である。
【実施例2】
【0042】
試料4のめっき皮膜の形成時に、粒径調整剤であるクエン酸の添加量を変化させたほかは、試料4と同じめっき条件でめっき皮膜を成膜した。
得られた各試料のめっき皮膜の断面をSEM観察してめっき粒子のb/a値を求めた。また、各試料を溶着炉内で加熱してめっき皮膜の溶融温度を測定した。その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
なお、試料4aの場合、溶融温度は280℃であるが、そのめっき皮膜とNi箔との密着強度が劣化してめっき皮膜の剥離現象が表れはじめている。
このようなことから、めっき皮膜を、基板から剥離させることなく形成し、そして通常の溶着作業で採用されている280〜320℃の温度域で溶融させるためには、めっき粒子の柱状構造をb/a値が0.0017〜0.5となるようにすべきであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のめっき皮膜は、溶融時にガスの発生はなく、溶融・冷却後の凝固組織にボイドが発生しない。そのため、溶着後における溶着部の強度や気密性を確保できる溶着材料として有用であり、例えば、水晶振動子デバイス組み立て時の溶着材料、光部品の溶着材料として使用することができる。
また、プリント配線板に電子部品を実装するときのはんだ材料、例えばバンプとしても有用である。
【0046】
このめっき皮膜の融点は、表2で示したように合金組成におけるAu−Sn系状態図が示す融点(T)よりも低い。しかし、溶融−冷却後の凝固組織の融点は、Au−Sn系状態図が示す融点(To)と略同じになる。すなわち、溶融温度よりも高温になる。
したがって、ある温度のリフロー処理で例えば3個の部材を溶着する場合に最初は融点(To)が高い組成のめっき皮膜を用いて2個の部材を溶着しておけば、その溶着部の溶融温度は、Toに変化している。そして更に、3番目の部材の溶着を前回と同じ温度のリフロー処理で行っても、既に溶着した2個の部材の溶着部は溶融することなく固定状態を維持しているので、溶着作業は非常に行いやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】試料6の凝固組織のSEM写真である。
【図2】比較試料の凝固組織のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき材の表面に電気めっき法で形成されたAu−Sn合金のめっき組織から成るAu−Sn合金のめっき皮膜において、
前記めっき組織を溶融したのち冷却して得られた凝固組織にはボイド発生が認められないことを特徴とするAu−Sn合金のめっき皮膜。
【請求項2】
前記めっき組織は直流めっき法で形成されためっき組織であって、膜厚方向に延びる柱状構造のめっき粒子が膜面方向に集合した組織になっている請求項1のAu−Sn合金のめっき皮膜。
【請求項3】
前記柱状構造のめっき粒子の長軸長と短軸長を、それぞれ、a、bとしたとき、b/aは、次式:0.0017≦b/a≦0.5の関係を満たしている請求項2のAu−Sn合金のめっき皮膜。
【請求項4】
前記めっき組織は、パルスめっき法で形成されためっき組織であって、微細なめっき粒子の集合体から成る層を基本単位とし、前記基本単位の複数層が膜厚方向に積層された組織になっている請求項1のAu−Sn合金のめっき皮膜。
【請求項5】
前記Au−Sn合金は、Au:75〜86質量%、残部がSnであることを基本組成とする請求項1〜4のいずれかのAu−Sn合金のめっき皮膜。
【請求項6】
前記Au−Sn合金には、更に、C、SおよびNの群から選ばれる少なくとも1種が不純物として含有されていてもよく、その場合、Cは多くても0.06質量%、Sは多くても0.0006質量%、Nは多くても0.06質量%にそれぞれの含有量が規制されている請求項5のAu−Sn合金のめっき皮膜。


【図1】
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【図2】
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