説明

Au25クラスターの選択的大量合成方法

【課題】
本発明は、反応試薬、触媒、ナノデバイス構成要素となる原子数の制御されたAu25クラスターの選択的で、かつ大量に製造する方法を提供するものである。
【解決手段】
本発明は、水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターを選択的に製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、水不溶性の有機溶媒に溶解したAu11クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により配位子交換させ、次いで水相の溶媒を留去して生成物を得ることからなる、Au25クラスターを選択的に製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターを選択的に製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、水不溶性の有機溶媒に溶解したAu11クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により配位子交換させ、次いで水相の溶媒を留去して生成物を得ることからなる、Au25クラスターを選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属をはじめとする金属の微粒子は、金属表面積を大きくとることができることから、金属の超微粒子化が行われてきた。また、金属によっては超微粒子化することにより、通常の状態では見られない新たな化学的、又は物理的な性質を示すことがある。例えば、金は、粒径が5nm以下になると融点が急激に減少することが知られている。また、酸化チタン上の金では、その粒径が10nm以下になると、一酸化炭素の酸化反応に触媒活性を示すようになることも知られている。さらに、金のナノ粒子は、粒子サイズが小さくなると強く発光することも知られており、装飾品の深紅色を安定に保つために金クラスターを使用する方法も提案されている(特許文献1参照)。このように、金のナノクラスターは、金の超微粒子として、従来の金が有していた性質だけでなく、超微粒子特有の性質を生かした分子素子、ナノ機能素子などのナノデバイスへの応用も期待される。例えば、粒径がナノメートルオーダーの金属超微粒子(金属クラスター)では、量子サイズ効果が顕著に現れ、新しいマイクロデバイスとして期待されている。例えば、量子メカニカルスイッチの材料としての金属クラスター(特許文献2参照)、光記録材料として10nm以下の金属クラスターを使用(特許文献3参照)、バイオセンサーとして核酸などの標識化への金属クラスターの適用(特許文献4参照)、磁性記録媒体として磁性金属をナノクラスターとして使用することによるノイズが低減された磁性記録材料(特許文献5参照)、マイクロ−コンタクトプリンティング法により基板上に導電性の金属パターンを形成させるためのインクの材料としての金属ナノクラスター(特許文献6参照)などが開発されてきている。また、金属における従来からの触媒活性においても、金属ナノクラスターの使用が注目されてきている。例えば、排気ガスの浄化触媒においても、触媒活性と金属クラスターのサイズに相関があることが知られており、カーボンナノチューブによりナノ金属クラスターのサイズを調整した排気ガス浄化用触媒(特許文献7参照)、ナノ金属クラスターを用いた空気汚染物質除去触媒(特許文献8参照)、一酸化炭素除去材料としてのナノ金属クラスターの使用(特許文献9参照)などが報告されている。
【0003】
金のサブナノメータ−サイズのチオール保護Auクラスターの製造方法としては、NaBH還元による直接製造法と配位子交換法が知られている。一般に、NaBH還元によるAuクラスターの直接製造法では速度論的要因が支配的であり、一方、配位子交換法では、熱力学的要因が支配的であることが知られている。
本発明者らは、Au(III)イオンの直接還元により、Au10(SG)10、Au15(SG)13、Au18(SG)14、Au22(SG)16、Au22(SG)17、Au25(SG)18、Au29(SG)20、Au33(SG)22、及びAu39(SG)24(式中、SGはグルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)(GSH)のメルカプト基(−SH)から水素原子を除いた基を示す。)の製造方法を開発してきたが(非特許文献1参照)、収率が低く僅かに数mg程度が得られるに過ぎなかった。
一方、配位子交換法としては、Au11クラスターであるウンデカゴールド(登録商標)のホスフィン配位子をチオール化合物により、コアサイズを変更することなくチオール化金クラスターを製造する方法が報告されている(非特許文献2参照)。また、Au55(PPh12l6からの配位子交換法によるAu75クラスターの製造法も報告されている(非特許文献3参照)。
このように種々の製造方法が開発されてきているが、反応試薬、触媒、ナノデバイス構成要素となる原子数の制御されたAu25クラスターの選択的な大量の製造方法の開発が求められてきていた。
【0004】
【特許文献1】特開平11−171536号
【特許文献2】特開2005−39103号
【特許文献3】特開2004−326956号
【特許文献4】特開2005−168号
【特許文献5】特開2004−52068号
【特許文献6】特開2003−288812号
【特許文献7】特開2003−181288号
【特許文献8】特開2004−188390号
【特許文献9】特開2003−313009号
【非特許文献1】Y. Negishi et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 5261.
【非特許文献2】Woehrle,G.H., Hutchison,J.E., et al., J. Phys. Chem. B, 2002, 106, 9979.
【非特許文献3】R. Balasubramanian et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8126.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、反応試薬、触媒、ナノデバイス構成要素となる原子数の制御されたAu25クラスターの選択的で、かつ大量に製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、原子数の制御されたAu25クラスターの選択的な製造について検討してきた。Au(III)イオンの直接還元法では、Auクラスターの原子数制御は困難であり、また配位子交換反応でも、構成原子数の少ないAuクラスターの選択的な製造方法を開発することは困難であった。そこで、本発明者らは、非混和性の2種類の溶媒による界面反応による製造法を試みた結果、Au11クラスターの有機溶媒溶液と水溶性チオール化合物の水溶液を混合するだけで、Au25クラスターからなる金クラスター(金超微粒子)を選択的かつ大量に製造できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターを選択的に製造する方法、より詳細には、水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により配位子交換させ、次いで水相の溶媒を留去して生成物を得ることからなる、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターを選択的に製造する方法に関する。さらに詳細には、本発明は、水不溶性の有機溶媒に溶解したAu11クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により配位子交換させ、次いで水相の溶媒を留去して生成物を得ることからなる、Au25クラスターを選択的に製造する方法に関する。
本発明をより具体的に説明すれば、本発明は以下のとおりとなる。
(1)水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターを選択的に製造する方法。
(2)原料の金クラスターが、Au11クラスターであり、生成物の金クラスターがAu25クラスターである前記(1)に記載の方法。
(3)Au11クラスターが、ホスフィン保護Au11クラスターである前記(2)に記載の方法。
(4)ホスフィン保護Au11クラスターが、Au11(PPh)Clである前記(3)に記載の方法。
(5)水溶性チオール化合物が、グルタチオンである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)Au25クラスターが、Au25(SG)18(式中、SGはグルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)(GSH)のメルカプト基(−SH)から水素原子を除いた基を示す。)である前記(5)に記載の方法。
(7)水不溶性の有機溶媒が、クロロホルムである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0008】
本発明は、特定の原子数を有する金クラスター(金超微粒子)を選択的かつ大量に製造する方法を提供するものであり、その特徴とすることころは、配位子交換反応によること、及び非混和性の2種類の溶媒による界面反応による製造法であること、並びに原料の金クラスターとは異なるクラスターサイズの金クラスターを製造することが挙げられる。
本発明における原料の金クラスターとしては、金の原子数が10〜22の金クラスターであって、交換できる配位子を有するものであり、配位子としては、例えば、ホスフィン、チオール化合物、ペプチドなどが挙げられる。好ましい金クラスターとしては、入手の容易性から、金の原子数が11のAu11クラスターが挙げられる。より具体的には、ホスフィン保護金クラスターが挙げられ、Au11クラスターとしてはホスフィン保護Au11クラスターが挙げられる。当該ホスフィン保護Au11クラスターとしては、例えば、Au11(PPh)Clなどが挙げられる。また、ウンデカゴールド(登録商標)(ナノプローブ社(Nanoprobe Inc.))として市販されているAu11クラスターを使用することもできる。
本発明における「水不溶性の有機溶媒」としては、前記したAu11クラスターを溶解することができ、水に不溶性の有機溶媒であればよく、好ましくは沸点が30℃以上、又は50℃以上のものが挙げられる。本発明における水に不溶性とは、反応条件下において有機溶媒による有機相と水からなる水相の二つの相を形成でき、これらの相を通常の分液ロートなどの手段により分離できるものであればよい。好ましい有機溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒などが挙げられる。特に好ましい有機溶媒としては、クロロホルムが挙げられる。使用する有機溶媒は、予め凍結脱気などにより溶存酸素を除去するのが好ましい。
【0009】
本発明の「水溶性チオール化合物」としては、メルカプト基(−SH基)を有する有機化合物であって水溶性のものであればよいが、好ましくは分子量が比較的大きなもの、例えば、分子量が100〜5000、100〜1000、より好ましくは150〜5000、150〜1000の有機化合物が挙げられる。水溶性とするために水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基などの極性の官能基をさらに有する有機化合物が好ましい。本発明における好ましい「水溶性チオール化合物」の具体例としては、例えば、3−メルカプト安息香酸、3−メルカプト−l−プロパンスルホン酸ナトリウム、16−メルカプトヘキサデカン酸などのメルカプト有機酸又はその塩、(N,N−ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩などのメルカプトアミン又はその塩、グルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)(GSH)などのメルカプト基を有するペプチドなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明の「水溶性チオール化合物」は、水溶性とするために、これをアルカリ金属塩や塩酸塩などの塩として使用することもできる。水溶性チオール化合物の使用量は、原料の金クラスター1モルに対して、30モル〜1000モル、好ましくは50モル〜600モル、又は60モル〜600モル程度である。
本発明の方法において使用される水は、蒸留水、脱イオン水などが好ましい。使用する水についても、予め凍結脱気などにより溶存酸素を除去するのが好ましい。
【0010】
本発明の方法は、水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターの有機溶媒溶液と、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応を行うものである。両者の接触は撹拌するなどにより、接触面積を拡大して行うのが好ましい。このときに、溶媒を凍結脱気などにより溶存酸素を除去することもできる。反応は、室温以上で、好ましくは30℃〜95℃、より好ましくは50℃〜95℃程度で、溶媒の沸点以下の温度で行うのが好ましい。反応は大気雰囲気下でもよいが、好ましくはアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、常圧又は加圧のいずれでもよいが常圧が好ましい。
本発明の方法は、生成物が水相に移行することを特徴のひとつとするものである。配位子交換反応において、生成物が水溶性となり、このために選択的な反応が行われるものと考えられる。金クラスターは一般に着色、特に深赤色に着色したものが多く、本発明の方法における最初の段階では、有機相に着色が見られるが、反応の進行と共に水相に着色が移行する。したがって、有機相の着色の消失により反応の終結を見ることができる。反応時間は、温度にもよるが、通常は5〜30時間、好ましくは5〜20時間程度である。
本発明の方法における、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターとしては、金の原子数が15〜30の金クラスターが挙げられる。好ましい生成物としては、金の原子数が25のAu25クラスターが挙げられる。本発明の方法における好ましい特徴のひとつは、生成物が水溶性であり、金の原子数が50以上となるような大きなクラスターが実質的に生成しないことである。本発明の他の特徴のひとつは、実質的にAu25クラスターを選択的かつ大量に製造できることである。
【0011】
以下では、本発明の方法をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの具体的な説明に限定されるものではない。
本発明者らは、エタノールに溶かしたAuCl(PPh)をNaBHで還元して、これを精製して、Au11(PPh)Cl で示されるホスフィン保護Au11クラスターを製造した。得られたAu11(PPh)Cl で示されるホスフィン保護Au11クラスターの粒径は、0.6〜1.6nmで、約50%のものが0.8nmであった。
得られたAu11クラスターを有機相(クロロホルム)に、水相にグルタチオン(GSH)を溶かし、両者をバス温度55℃で1時間攪拌することで水相にAu:SGクラスターを抽出し、空気導入後4時間攪拌した。この配位子交換反応により生成したAu:SGクラスター(以下、これをクラスター1と呼ぶ。)の吸収スペクトルを測定した。結果を図1に示す。図1の横軸は光の波長(nm)を示し、縦軸は吸収を示す。図1の上側は本発明の方法で製造されたクラスター1のスペクトルを示し、下側は既知のAu25(SG)18(式中、SGはグルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)(GSH)のメルカプト基(−SH)から水素原子を除いた基を示す。以下同じ。)のスペクトルを示す。図1では、両者のスペクトルを見やすくするために離して示している。この結果、本発明の方法におけるクラスター1は、既知のAu25(SG)18のスペクトルと一致した。
次に、これらのエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を同様に測定した結果を図2に示す。図2の横軸は質量分析におけるm/zを示し、縦軸はイオン強度を示す。図2の上側は本発明の方法で製造されたクラスター1のスペクトルを示し、下側は既知のAu25(SG)18のスペクトルを示す。図2では、両者のスペクトルを見やすくするために離して示している。この結果、本発明の方法におけるクラスター1は、既知のAu25(SG)18のスペクトルとほぼ一致することがわかった。
さらに、ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)により、本発明の方法で製造されたクラスター1と、既知の金クラスターを比較した結果、クラスター1は、主成分がAu25核をもつAu25(SG)18であり、Au11核をもつクラスターは存在しないことがわかった。
【0012】
また、他のチオールを用いて本発明の方法により、Auクラスターを製造した場合にもAu25(SG)18と類似した吸収スペクトルが得られた。これらのことから、ホスフィン保護Au11クラスターの配位子交換は、クラスターの凝集とチオールによるエッチングを伴って進行し、熱力学的に安定なチオール保護Au25クラスターが選択的に生成したものと考えられた。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、原子数の小さな金クラスターから原子数が少し多くなった金クラスターを、より具体的には、Au11クラスターからAu25クラスターを、有機溶媒の溶液と水溶液を撹拌混合するという簡便な手法で、選択的かつ高収率で、大量に製造することができる方法を提供するものである。
本発明の方法では、出発物質と反応条件により最終生成物の選択率・収率を制御することができるため、両者を変化させることにより、熱力学的に安定な他のAuクラスターの選択的に大量に製造することができ、粒径の揃った金超微粒子を選択的に製造することができる新たな方法を提供するものである。また、本発明の方法で製造される金クラスターは、構成原子数が極めて少ないため、水溶性酸化触媒やナノ電子・光デバイスの構成単位として利用できる。
【0014】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0015】
製造例1 Au11(PPh)Clクラスターの製造
ハッチソンらの方法(非特許文献2参照)に準じて製造した。
無水エタノール55mLにAuCl(PPh)(1.00g、2.0mmol)を溶解し、この溶液にNaBH(76mg、2.0mmol)を約15分かけてゆっくりと添加した。次いで、室温で2時間撹拌した後、反応光厳物をヘキサン1L中に注いだ。これを20時間放置した後、0.1μmの膜を用いて濾過して、褐色の固体を得た。これを15mのヘキサンで4回、15mLの塩化メチレンとヘキサンの混合溶媒(1:1)で4回洗浄した。次いで、この固体を塩化メチレンに溶解し、無機物の不純物を濾過して除去した後、溶媒を留去して目的のAu11クラスター210mgを褐色固体として得た。
【実施例1】
【0016】
製造例1で得られたAu11(PPh)Clクラスター5.7mgを含むクロロホルム10mLに400倍モルのグルタチオンを含む水溶液10mLを添加する。凍結脱気後、窒素雰囲気下にて溶液を1時間激しく攪拌する。その後空気を系内に導入し、さらに4時間攪拌することで、配位子交換によるAuクラスターの水相への抽出を完了した。
図1に、得られたAu25クラスター(Au25(SG)18)の吸収スペクトルを示し、図2にその質量スペクトル(ESI−MS)を示す。
【実施例2】
【0017】
製造例1で得られたAu11(PPh)Clクラスター67mgのクロロホルム100mLの溶液を、三口フラスコにとり、これにグルタチオン(GSH)1.88gを含むミリQグレード(milliQ grade)の水100mLの水溶液を入れた。混合物を激しく撹拌しながら、大気圧下で、55℃のオイルバスで加熱した。15時間加熱撹拌を行った後、水相を分離して、水を留去して褐色の固体を得た。これを200mLのメタノールで分散・精製を3回した後、これを19.2mMのグリシン及び2.5mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む緩衝溶液30mLに溶解して、5kDaのカットオフフィルターを用いて超遠心濾過(4000g)により微量の不純物を除去した。
残渣を減圧乾燥して、粉体状のAu25クラスター(Au25(SG)18)72mgを得た。
【実施例3】
【0018】
使用するグルタチオンの量を、製造例1で得られたAu11(PPh)Clクラスター1モルに対して、60モル、200モル、又は400モルと変化させた以外は、実施例2と同様にして目的のAu25クラスター(Au25(SG)18)を製造した。
55℃で反応させた、それぞれの反応時間における670nmの光学密度(OD)を測定した結果を図3に示す。図3の横軸は時間(時間)であり、縦軸は670nmにおける吸収を示す。図3中の黒丸印(●)はグルタチオンが400モルの場合を示し、黒四角印(■)はグルタチオンが200モルの場合を示し、黒三角印(▲)はグルタチオンが60モルの場合を示す。
【実施例4】
【0019】
チオール化合物としてグルタチオンに代えて3−メルカプト安息香酸、3−メルカプト−l−プロパンスルホン酸ナトリウム、16−メルカプトヘキサデカン酸、又は(N,N−ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩をそれぞれ使用した以外は実施例2と同様にして、それぞれに対応したAu25クラスターを得た。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、試薬、触媒、触媒前駆体、単電子トンネル素子構成要素、発光材料(Au11クラスターはウンデカゴールドという商標ですでに市販されている。)などの材料として有用な金クラスター、特に金の原子数が均一な金クラスターの選択的かつ効率的な製造方法を提供するものであり、金超微粒子を用いる産業分野に多大な貢献をするものであり、産業上の利用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の方法で製造された金クラスターの例であるAu25クラスター(Au25(SG)18)の吸収スペクトルを示す。
【図2】図2は、本発明の方法で製造された金クラスターの例であるAu25クラスター(Au25(SG)18)のエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)のスペクトルを示す。
【図3】図3は、本発明の方法における、チオール化合物の使用量に対する反応時間と670nmにおける光学密度の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性の有機溶媒に溶解した金クラスターと、水溶性チオール化合物の水溶液とを接触させて、配位子交換反応により、原料の金クラスターとはクラスターサイズの異なる金クラスターを選択的に製造する方法。
【請求項2】
原料の金クラスターが、Au11クラスターであり、生成物の金クラスターがAu25クラスターである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Au11クラスターが、ホスフィン保護Au11クラスターである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ホスフィン保護Au11クラスターが、Au11(PPh)Clである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
水溶性チオール化合物が、グルタチオンである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
Au25クラスターが、Au25(SG)18(式中、SGはグルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)(GSH)のメルカプト基(−SH)から水素原子を除いた基を示す。)である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水不溶性の有機溶媒が、クロロホルムである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−45791(P2007−45791A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234252(P2005−234252)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】