説明

B型肝炎ワクチンの免疫応答を促進するタンパク質およびその遺伝子

【課題】B型肝炎ワクチンを増強するタンパク質およびそれをコードする遺伝子、それを発現する方法およびそのタンパク質の応用を提供する。
【解決手段】ヒト肝臓cDNAライブラリーから、このタンパク質のcDNAをスクリーニングし、配列決定し、およびそれをこのcDNAでコードされるタンパク質の発現のために原核細胞あるいは真核(動物あるいは植物)細胞にクローン化し、得られたタンパク質を精製する。得られたタンパク質は、HBワクチンと共に用いる場合、ワクチンの効果を顕著に増強し、HBVキャリアの免疫力を高め、そして、抗体の力価を高める。このタンパク質はまた、HBワクチンのアジュバントとして用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV)に、高い特異性で結合し、そしてB型肝炎ウイルスワクチンの免疫応答を促進するタンパク質、そのタンパク質をコードする遺伝子、およびそのタンパク質を、関連する疾患の予防、診断、および治療に応用すること、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎は、高頻発で、重大な結果をもたらす伝染性の疾患であり、公共の健康にとって、重大な脅威である。ワクチン接種が、HBV感染予防およびHBVのキャリアの割合を減少させる最も効果的な対策である。しかし、B型肝炎ワクチンへの免疫反応は、個人により様々である。標準の6ヶ月3用量を受ける多くの人の中で、保護できるほどの多くの抗体が産生されない。従って、B型肝炎ワクチンの免疫原性を効果的に増強し、免疫応答を高める分子を見つけることは、この問題を解決するのに重要な方法である。
【0003】
原核発現システム(例えば大腸菌)または真核発現システム(例えば哺乳類細胞)のいずれかを用いた遺伝子操作は、特定のタンパク質を大量に得る為に最も効果的な方法である。遺伝子は、cDNA発現ライブラリーをスクリーニングすることで、同定される。その遺伝子によりコードされるタンパク質は、遺伝子クローニング、発現および精製によって得られる。得られたタンパク質は、B型肝炎ワクチンとの組合せで、動物を免疫するのに用いる。免疫された動物におけるB型肝炎表面抗体の力価は、ELISAで検出される。これは、タンパク質が、HBVワクチンへの免疫応答を促進できるかを決めるのに都合がよく、従って、ヒトへの使用の可能性もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明では、B型肝炎ワクチンを強化するタンパク質、その遺伝子、およびこのタンパク質の発現および利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
HBワクチンを強化するタンパク質の遺伝子配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、配列表の配列番号1および2である。
【0006】
本発明者は、遺伝子操作方法を用いて、上記の遺伝子を、ヒト肝臓cDNA発現ライブラリーから得て、それを発現させた。アプローチは、以下の通りである。
【0007】
目的のタンパク質およびそのタンパク質をコードするcDNAを得る。ヒト肝臓cDNA発現ライブラリーを、B型肝炎表面抗原に対するイムノブロットにてスクリーニングすることで、ポジティブcDNAクローンを得る。cDNA配列の分析により、1035bpの独立したオープンリーディングフレーム(ORF)の存在が明らかになった。さらなる実験により、cDNAでコードされたタンパク質が、B型肝炎表面抗原に特異的に結合することが証明された。このタンパク質は、B型肝炎ウイルス表面抗原結合タンパク質(HBsAg結合タンパク質、SBP)と名づけられる。
【0008】
このcDNAのORFは、N末端上にある6×ヒス精製タグおよびエンテロキナーゼ開裂部位DDDDKに付加され、原核発現システムpBV220にクローン化した。タンパク質発現は、大腸菌中にて、最適温度で誘導された。大腸菌は、回収および溶菌に供され、封入体を抽出した。そして、大まかに精製し、Ni−NTAアガロースおよびアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。透析方法を用いてリフォールディングを行った後、標的タンパク質を得た。
【0009】
SBPが、B型肝炎ワクチンに対する免疫応答に与える影響:実験用動物は、テストグループおよびコントロールグループに分けられた。例えば、マウスに、従来の方法で、B型肝炎ワクチンを免疫した。2回のブーストワクチン接種を、最初の用量の10日後および17日後に皮下注射した。テストグループは、SBPを3日おきに皮下注射された。コントロールは、SBPを受けなかった。最初の用量の20日後に、尾静脈から血液を得た。血清中のB型肝炎表面抗原に対する抗体の力価をELISAで検出した。SPSSソフトウエアを、グループの相違の分析に用いた。その結果、このタンパク質は、マウスにおいて、抗体の力価を著しく増加させた。すなわち、タンパク質は、B型肝炎ワクチンの免疫応答を強化することができる。
【0010】
従って、SBPは、B型肝炎ウイルスワクチンの免疫原性を促進することに用いられ得る。そして、B型肝炎表面抗原に対する抗体の力価を高めることに用いられ得る。その結果、SBPは、B型肝炎ウイルスワクチンのアジュバントとして用い得る。SBPのB型肝炎ウイルスワクチンとの組合せの使用により、B型肝炎ウイルスワクチンに対する免疫反応を増強することができ、ワクチン接種の用量および頻度を減少させることができる。SBPが、高い特異性でB型肝炎表面抗原に結合することができ、抗表面抗体の力価を増加させるという事実は、SBPが、患者/キャリアーの治療の効率を高めるのに使用することができること、および治療的なワクチンとして開発できることを示す。さらに、SBPは、研究目的に使用することができる。例えば、これらのSBPは、内因性のSBPを免疫機能のインデックスとして検出する為のモノクローナル抗体の生産にも用い得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
遺伝子配列の調製
B型肝炎表面抗原結合タンパク質をコードするcDNAクローンは、ヒト肝臓cDNAファージ発現ライブラリーを、イムノブロッティングにより、ヒトプラズマから精製した完全B型肝炎表面抗原(プレS1、プレS2、およびSゾーンを含む)でスクリーニングすることによって得られた。遺伝子配列決定の結果により、1035bpの独立したオープンリーディングフレーム(ORF)が解明された(配列表の配列番号1)。このcDNAでは、344個のアミノ酸残基がコードされ、理論上の分子量は、38kuであった。等電点(PI)は、8.0であった。推定配列により、典型的な膜貫通領域が示唆され、およびイムノグロブリンスーパーファミリーへの分類が示唆された。ORFによりコードされるタンパク質の配列は、配列表の配列番号2に示される通りである。
【0012】
発現および精製
タンパク質の発現および精製は、上述の遺伝子が、原核または真核発現ベクター中でクローン化された後になされた。全遺伝子は、pBV220原核発現ベクター中にクローン化された。大腸菌に組換えベクターをトランスフェクトした。ポジティブモノクローンを、液体培養培地中で培養した。タンパク質発現は、最初に37℃にて、次に42℃にて、5時間誘導した。タンパク質を、Ni−NTAアガロースアフィニティーカラムで精製された。精製されたタンパク質は、透析によって、リネイチャーされた。タンパク質とターゲットとの相互作用は、ELISAおよびウエスタンブロッティングにて確認された。
【0013】
HBワクチンでの調製されたタンパク質の影響の評価:Balb/cマウス(7週齢;半数は雄および半数は雌)を、テストグループとコントロールグループとに分ける。HBワクチンは、マウスの皮下に、常法にて注入される。注入のプロトコールは、以下の表に示す。
【表1】


血液を最初の免疫の20日後に尾静脈から得た。血清中のB型肝炎表面抗原に対する抗体のレベルは、ELISAによって決定した。SPSSソフトウエアをグループの相違を分析する為に用いた。
【0014】
その結果、図1および図2に示す通り、最初の免疫の20日後のテストグループの抗表面抗体力価は、9.24×10であり、コントロールの数値(2.68×10)よりも顕著に高かった。この結果から、タンパク質が、マウス内での抗表面抗体のレベルを顕著にアップレギュレートし、B型肝炎ワクチンの免疫応答を増強することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
B型肝炎ワクチンの免疫応答は、異なる個人により様々である。標準の6ヶ月3用量ワクチン接種の処方を受けた多くの人において、保護が確保できるほどの十分な抗体が産生されない。本発明のタンパク質は、顕著にB型肝炎ワクチンの免疫応答を増強することができる。従って、これらのタンパク質は、B型肝炎ワクチンのアジュバントの開発に、あるいは、直接、現在市販されているB型肝炎ワクチンと組み合わせて、用いられ得る。B型肝炎ワクチンと同時にSBPの一定量を使用することで、ワクチンの免疫原性が上がり、中和抗体の力価が増加する。SBPは、B型肝炎表面抗原に対して、特異的な親和性を有し、B型肝炎表面抗原に対する抗体の産生を増加させることができる。その結果、SBPは、B型肝炎ウイルスの患者およびキャリアの治療に用い得る。SBPは、治療目的のB型肝炎ワクチンの開発の研究にも価値を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Balb/cマウス(I)中の抗HBsAg抗体の力価に与えるSBPの影響。
【図2】Balb/cマウス(□)中の抗HBsAg抗体の力価に与えるSBPの影響。治療を受けない同年齢のBalb/cマウスを、コントロールとして用いた。コントロールの値(0.13)と比較してOD495値が10倍高い場合には、ポジティブと考えられた。抗HBsAg抗体の力価は、1次元回帰を用いたOD値および血清希釈率によって計算した。テストグループ(n=5)の、抗HBsAg抗体の力価は、9.24×10であった。コントロールマウス(n=5)の力価は、2.68×10であった。独立サンプルのt−テストにおいて、違いは顕著であった(P<0.04)。従って、SBPは、マウス中で、HBsAg抗体力価を増加させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する、B型肝炎ワクチンの効果を増強するタンパク質。
【請求項2】
配列表の配列番号1に記載の配列である、B型肝炎ワクチンの効果を増強するタンパク質をコードする遺伝子のポリヌクレオチド配列。
【請求項3】
請求項1記載のタンパク質をスクリーニングする方法であって、ヒト肝臓cDNA発現ライブラリーを、ウエスタンブロットにてHBsAgをプローブ分子として使用してスクリーニングすること、ポジティブcDNAクローンを得て、塩基配列を決定すること、その結果1035bpの独立したオープンリーディングフレームを有するcDNAを得ることを含む、方法。
【請求項4】
請求項1記載のB型肝炎ワクチンの効果を増強するタンパク質を発現する方法であって、該タンパク質のN末端上にある6×ヒスタグ領域およびエンテロキナーゼ開裂部位をクローンし、pBV220発現システム中にサブクローンし、大腸菌中でタンパク質を発現させ、大腸菌を集菌し、溶菌し、混合体を単離し、粗精製を行い、標的タンパク質を、最終的に、Ni−NTAアガロースゲルおよびアフィニティークロマトグラフィーを用いて集中的に精製し、最終的に透析を行ってタンパク質を得る工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項1記載の配列表の配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質のHBワクチンのアジュバントとしての使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−529334(P2009−529334A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558624(P2008−558624)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【国際出願番号】PCT/CN2007/000844
【国際公開番号】WO2007/104263
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(505294816)▲復▼旦大学 (4)
【氏名又は名称原語表記】Fundan University
【住所又は居所原語表記】220 Handan Road,Shanghai P.R.China
【Fターム(参考)】