説明

BMC成形体およびその製造方法ならびに製造に用いる補強シート

【課題】全体的にBMC材料による人造大理石調の高級感が出て、強度が必要な部位ではSMCと同等の強度を確保できるBMC成形体を得ることができる。
【解決手段】BMC材料6の塊を下型8の中央部に置いてプレスすることにより、BMC材料6を型の端側へ向かって流動させて型内でBMC成形体を製造する方法であって、下型8内の端側の補強必要部位の内側に、長繊維ガラス含有率の高い補強シート5を予めチャージしておき、補強シート5がプレス時にBMC材料6で外側へ押し流されて、補強必要部位に配置一体化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級感のある人造大理石調のBMC成形体およびその製造方法、ならびにBMC成形体の製造に用いる補強シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、底面に連続ガラス繊維を所定の寸法で敷き、その上にプレス原料をセットして一体プレス成形する浴槽の製造方法がある。
【特許文献1】特開2002−143018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の製造方法では、連続ガラス繊維で浴槽底面の補強ができるが、底面しか補強できないという問題点があった。
なお、浴槽の水切り片等を補強する場合に、プレス成形品の裏面に、ガラス繊維入りゲルコートを塗布して補強する方法があるが、このようなガラス繊維入りゲルコート塗装では、塗膜厚みが確保できる浴槽底面や上縁面には補強効果があるが、浴槽の側面や水切り片等の勾配のある面では、ゲルコート塗膜が垂れて、塗膜の十分な厚みを確保できないために、補強効果は小さいという問題点がある。
また、浴槽の水切り片等を補強するために、型内の水切り片の部位に、連続ガラスを含有した樹脂板をセットして一体プレス成形し、連続ガラスを含有した樹脂板による補強層を表面層の裏側に形成させる場合もあるが、表面層と補強層との二層構造となるため、肉厚が薄い場合には、補強層により十分補強ができずに、表面層の硬度は低いためにクラックが発生しやすくなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、全体的にはBMC材料による人造大理石調の高級感が出て、しかも強度が必要な部位では十分な強度が確保できるBMC成形体およびその製造方法ならびに製造に用いる補強シートの提供を目的の1つとし、この目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明のBMC成形体の製造に用いる補強シートは、略2インチ程度の連続しない長繊維ガラスを糸で縫い合わせたガラスマットに、充填剤を添加しないBMC材料を用いて調製したコンパウンドを含浸させ、長繊維ガラス含有率を10〜40%に調整して増粘させたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の補強シートでは、連続繊維ではないカット品である長繊維ガラスを糸で縫い合わせたガラスマットに、コンパウンドを含浸させたものであるため、金型内部で補強シートは流動性を保ちながら糸で縫い合わされているため長繊維が分離することなく、プレス成形時に狙った部位に補強シートを配置させることができて、補強シートにより補強必要部位の長繊維ガラス含有率を高めて補強できるものとなる。
【0006】
また、本発明のBMC成形体の製造方法は、BMC材料の塊を型の中央部に置いてプレスすることにより、該BMC材料を型の端側へ向かって流動させて型内でBMC成形体を製造するBMC成形体の製造方法において、前記型内の端側の補強必要部位の内側または補強必要部位のうちの内側に前記請求項1に記載の補強シートを予めチャージしておき、該補強シートがプレス時に前記BMC材料で外側へ押し流され前記補強必要部位を補強するように構成したことを要旨とする。
こうすれば、プレス型内の補強必要部位の内側または補強必要部位のうちの内側に補強シートを予めチャージしておけば、プレス時にBMC材料により補強シートが外側へ押し流されて、良好に狙った補強必要部位に補強シートを配置させることができ、補強必要部位に長繊維ガラスの含有率の高い部分が良好に形成されることとなる。
【0007】
また、本発明のBMC成形体は、前記請求項2の製造方法により製造された補強必要部位の長繊維ガラス含有率が高いことを要旨とする。
こうすれば、補強必要部位では長繊維ガラス含有率が高く十分な強度が確保され、全体的にはBMC材料による人造大理石調の高級感のあるBMC成形体となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
図1は、浴槽の配置概略断面構成図であり、浴槽1は洗い場パン3とともに浴室を形成し、浴槽1と洗い場パン3間にはエプロン2が立設される。
本例の浴槽1は、図2に斜視図で示すような形状となっており、底面1aから上方へ上傾して側面1bが一体形成され、側面1bの上端では略水平に外側へ延びてフランジ部1cが一体形成され、フランジ部1cの洗い場パン3側の辺には、エプロン2を取り付けるための垂下片1gが垂下状に形成されている。この垂下片1gのある辺を除く3辺にはフランジ部1cから上方へ一体状に立ち上げて立上片1dと、立上片1dの上端から略水平に外側へ延びる壁載置面1eと、壁載置面1eの外端から一体状に立ち上げて水切り片1fが形成されている。この水切り片1fの内側の壁載置面1e上に壁パネル4が立設されて浴室の壁面が形成されるものである。
【0009】
本例の浴槽1は、全体がBMC(バルクモールディングコンパウンド)材料で高級感のある人造大理石調に成形されており、BMC材料は6mm以下の短いガラス繊維を10%以下含有するものであり、強度的には弱く、水切り片1fの内側に壁パネル4を建て付ける場合には、この水切り片1f付近の部分の強度を確保する必要があり、本例では、この補強必要部位である水切り片1f付近の部分を補強するために、図2に示すように、垂下片1g側の水切り片1f部分に長繊維ガラスで構成された補強シート5が一体化されている。
例えば、短尺側の水切り片1fの寸法aが800mmである場合に、この垂下片1g側の補強シート5で補強された部分の寸法bは130mm程度である。
【0010】
このように本例の浴槽1では、補強シート5が一体化されて、この部分では長繊維ガラスの含有率が高く、壁パネル4を載置した時にも十分な強度が確保されるものとなり、しかも全体的にはBMC材料による人造大理石調の高級感のある浴槽1となっている。
なお、補強シート5はBMC材料と一体化されて、水切り片1f付近の断面は一層構造となっており、従来のように裏側をガラスを含有した樹脂板で補強した二層構造のものとは異なり、水切り片1f付近の部分を強度を確保しながら肉薄にすることができ、水切り片1fの肉厚を薄く設定できるため、浴槽1の内側の容積はそのままで外寸法を小さくできて、狭い空間にも良好に設置することができる高級感のある浴槽1となっている。
【0011】
このような浴槽1の補強必要部位を補強する補強シート5は、図3に概略図で示すような構成のものである。
補強シート5は、図3に示すように、2インチ程度の連続しないカット品である長繊維ガラス5a,5a,5aをランダムにバインダーでくっつけ、長繊維ガラス5a,5a,5aをポリエステル糸5bで規則的に縫い合わせてガラスマット5cを形成し、このガラスマット5cに対し、充填剤を添加しないBMC材料を用いて調整したコンパウンドを、ローラー等で圧力を掛けて含浸させ、長繊維ガラス含有率が10〜40%好ましくは20〜30%になるように調整し、増粘させて固定状態としたものである。
【0012】
長繊維ガラス含有率を20〜30%に調整する場合、例えば、ガラスマット5cには450g/mの長繊維ガラスが存在するため、1500〜2300g/mのコンパウンドを含浸させると良い。即ち、長繊維ガラスに対しコンパウンドの量を4.5倍位にすることで、良好に狙った長繊維ガラス含有率を有する補強シート5を得ることができる。
【0013】
なお、ガラスマット5cに含浸させるコンパウンドはBMC材料とほぼ同等のものであるが、充填剤は添加されていないものであり、含浸させるコンパウンドは、樹脂と、硬化剤と、禁止剤と、内部離型剤と、増粘剤と、トナーの混合物で構成されている。
樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂,ビニルエステル樹脂,アクリル樹脂などであり、硬化剤としては、t−アミルパ−オキシイソプロピルカーボネート,t−ヘキシルパ−オキシイソプロピルカーボネート,t−ブチルオパ−オキシベンゾエート,およびこれらの混合品などであり、禁止剤としては、パラベンゾキノン,ハイドロキノンなどである。また、内部離型剤としては金属石鹸などが挙げられる。また増粘剤として酸化マグネシウムなどがある。
さらにこれらの配合例としては、例えば樹脂100に対し硬化剤は0.5〜2.0%、禁止剤は0.5〜2.0%、内部離型剤は2〜6%、増粘剤は1〜5%、トナーは2〜6%とすることができる。
【0014】
このように構成された補強シート5を水切り片1f付近の補強必要部位に良好に配置一体化させるために、図4〜図6に示す工程によりプレス成形金型内で浴槽1が製造される。
プレス成形金型は図4に示すように、上型7と下型8で構成されており、上型7は、底面形成部7aの左右端側に上傾状に側面形成部7bが形成され、側面形成部7bの上端に略水平に外側へ延びるフランジ部形成部7cが形成され、フランジ部形成部7cから上方へ立ち上げて立上片形成部7dと、立上片形成部7dの上端から略水平に外側へ延びる壁載置面形成部7eと、壁載置面形成部7eの外端から立ち上げて水切り片形成部7fが形成され、水切り片形成部7fの上端に略水平に外側へ延びる当接部7gが形成されている。
また、下型8は凹み状に形成した底面形成部8aの左右端側に上傾状に側面形成部8bが形成され、側面形成部8bの上端に外側へ略水平に延びてフランジ部形成部8cが形成され、フランジ部形成部8cから上方へ立ち上げて立上片形成部8dと、立上片形成部8dの上端から略水平に外側へ延びる壁載置面形成部8eと、壁載置面形成部8eの外端から立ち上げて水切り片形成部8fが形成されている。
【0015】
このような構造の下型8の底面形成部8aのほぼ中央部にBMC材料6の塊をチャージしておき、また、下型8の壁載置面形成部8eに補強シート5を予めチャージしておく。
この状態で図5に示すように上型7を下降させて、上型7の底面形成部7aをBMC材料6に押し付けて、BMC材料6を外側へ押し出すようにする。即ち、BMC材料6は側面形成部8b,8b側へ押し出され、さらにフランジ部形成部8cに向かって押し流されることとなり、BMC材料に押し流されて補強シート5は流動性を保ちながら、立上片形成部8d、壁載置面形成部8e、水切り片形成部8f側へ移動されてゆく。
【0016】
この図5の型締め途中の状態から図6の型締め完了状態となると、上型7の当接部7gが下型8の水切り片形成部8fの上端に当接し、この状態では、補強シート5は、下型8の立上片形成部8d、壁載置面形成部8e、水切り片形成部8fと、上型7の立上片形成部7d、壁載置面形成部7e、水切り片形成部7f間に挟み込まれて、補強シート5は充填状態となるBMC材料6と混ざり合って、その境目がぼけた状態となり、BMC材料6と補強シート5が境目のない状態で一層構造に一体化される。
【0017】
このようにして補強シート5をBMC材料6で押し流して補強必要部位に良好に配置させ、補強必要部位をこの長繊維ガラスの含有率の高い補強シート5で補強し、強度を高めることができる。
なお、図7の変更例で示すように、補強シート5は、下型8の壁載置面形成部8eと水切り片形成部8fとにチャージしておいても良く、さらに図8の変更例で示すように、補強シート5は、下型8の水切り片形成部8fにチャージしておいても良い。
【0018】
なお、BMC材料6は一般的にはカット長さが6mm以下の短繊維ガラスを10%以下含有しており、このようなBMC材料のみの場合には、図9に示すように、シャルピー衝撃試験による衝撃強度値Aは小さく、強度的には弱いものとなる。また、BMC材料の裏側に補強シートを当てて二層構造とした場合でも、図9でBに示すように、強度的には十分なものではない。
これに対し、本願発明の補強シート5を一層構造に一体化させた場合は、図9でCに示すように、高い強度が確保され、この強度は、連続した長繊維ガラスからなるSMC(シートモールディングコンパウンド)成形品Dとほぼ同等の強度であることが確認されている。
【0019】
なお、金型内にチャージする補強シート5のチャージ量を変えることで、補強可能な面積を制御することが可能であり、適宜必要量の補強シート5を型内にチャージして、補強部位の面積を拡大させることができるものである。
なお、BMC材料6と補強シート5の色を同一の色に設定しておけば、成形後に補強シート5の境目が判らなくなり、より意匠性に優れた浴槽1が得られるものである。
なお、色が同じであれば境目が判らないために、水切り片1f付近の部位のみならず、他の補強必要部位においても、このように補強シート5を型内にチャージすることで良好にその部位を補強できるものとなる。
【0020】
なお、本例においては、浴槽1の製造について例示しているが、人造大理石調のバックガードを有するカウンターや人造大理石調の洗面器等においても、同様に補強シート5を型内にチャージして、補強必要部位を良好に補強したBMC成形体を得ることができるものであり、このような人造大理石調のBMC成形体は高級感があり、しかも強度が必要な部位ではSMC成形品と同程度の強度が確保されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】浴室に設置される浴槽の設置状態の概略配置構成図である。
【図2】図1の浴槽の斜視構成図である。
【図3】浴槽の補強必要部位を補強するために使用される補強シートの平面拡大概略構成図である。
【図4】浴槽を成形する型内にBMC材料と補強シートをチャージした状態の金型の分解図である。
【図5】上型を下降させた型締め途中の説明図である。
【図6】型締め完了状態の金型の断面図である。
【図7】変更例を示し、浴槽を成形する型内にBMC材料と補強シートをチャージした状態の金型の分解図である。
【図8】変更例を示し、浴槽を成形する型内にBMC材料と補強シートをチャージした状態の金型の分解図である。
【図9】材料強度を確認したシャルピー衝撃試験のグラフである。
【符号の説明】
【0022】
1 浴槽
1a 底面
1b 側面
1c フランジ部
1d 立上片
1e 壁載置面
1f 水切り片
1g 垂下片
4 壁パネル
5 補強シート
5a 長繊維ガラス
5b ポリエステル糸
5c ガラスマット
6 BMC材料
7 上型
8 下型
7a,8a 底面形成部
7b,8b 側面形成部
7c,8c フランジ部形成部
7d,8d 立上片形成部
7e,8e 壁載置面形成部
7f,8f 水切り片形成部
7g 当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略2インチ程度の連続しない長繊維ガラスを糸で縫い合わせたガラスマットに、充填剤を添加しないBMC材料を用いて調製したコンパウンドを含浸させ、長繊維ガラス含有率を10〜40%に調整して増粘させたことを特徴とするBMC成形体の製造に用いる補強シート。
【請求項2】
BMC材料の塊を型の中央部に置いてプレスすることにより、該BMC材料を型の端側へ向かって流動させて型内でBMC成形体を製造するBMC成形体の製造方法において、前記型内の端側の補強必要部位の内側または補強必要部位のうちの内側に前記請求項1に記載の補強シートを予めチャージしておき、該補強シートがプレス時に前記BMC材料で外側へ押し流され前記補強必要部位を補強するように構成したことを特徴とするBMC成形体の製造方法。
【請求項3】
前記請求項2の製造方法により製造された補強必要部位の長繊維ガラス含有率が高いBMC成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−226816(P2009−226816A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76789(P2008−76789)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】