説明

Bi系超電導体およびその製造方法、超電導線材ならびに超電導機器

【課題】臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本Bi系超電導体は、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高い超電導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi系超電導体およびその製造方法、超電導線材ならびに超電導機器に関し、特に、臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導相としてBi2212(Bi2Sr2Ca1Cu28+δをいう、以下同じ)、Bi2223(Bi2Sr2Ca2Cu310+δをいう、以下同じ)などを含むBi系超電導体は、臨界温度が高く、高温酸化物超電導体の代表的なものとして、超電導線材などの用途に用いられている。
【0003】
かかるBi系超電導体の中でも、Bi2223は臨界温度が高いものとして知られている。しかし、Bi2223の単相を得ることが非常に難しい。一方、このBi2223のBiサイト(超電導体結晶においてBiが配置される場所をいう、以下同じ)にPbを多量にドーピングすることによりBiサイトのBi原子の一部がPb原子により置換された(Bi,Pb)2223((Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ、ここで0<p<0.25、以下同じ)は、容易に単相が得られることが確認され、かかる(Bi,Pb)2223について臨界温度を向上させるための検討が進められている(たとえば、非特許文献1〜4を参照)。
【0004】
ここで、非特許文献2、3においては、(Bi,Pb)2223について110K以上の臨界温度を示すデータが見られる。しかし、これらのデータの再現性については疑問があり、現在までに(Bi,Pb)2223において報告されている信頼性のある臨界温度の最高は110Kであり、(Bi,Pb)2223においては臨界温度を110Kより高くすることは極めて困難であると考えられている。
【0005】
また、(Bi,Pb)2223にSbがドーピングされたBi1.9-qPbqSb0.1Sr2Ca2Cu310+δ(ここで、q=0.3およびq=0.4)について132Kの臨界温度が観測されたという報告がある(たとえば、非特許文献4)。しかし、この報告についても、その再現性に疑問があり、近年同様の系についてそのような高い臨界温度は報告されていない。また、(Bi,Pb)2223にSbがドーピングされた(Bi,Pb,Sb)2223は、臨界電流を高めにくいと考えられている。
【0006】
したがって、安定な単相が得られやすい(Bi,Pb)2223を用いて、Bi系超電導体の臨界温度をより高める(たとえば、110Kより高くする)ことが望まれていた。
【非特許文献1】J.L. TALLON,他3名,“SINGLE-PHASE Pb-SUBSTITUTED Bi2+yCan-1Sr2CunO2n+4+δ,n=2 AND 3:STRUCTURE, Tc,AND EFFECTS OF OXYGEN STOICHIOMETRY”, Physica C 158,(1989),p247-254
【非特許文献2】Satoshi KOYAMA,他2名,“Preparation of Single 110K Phase of Bi-Pb-Sr-Ca-Cu-O Superconductor”,Japanese Journal of Applied Physics,vol.27,No.10,October,(1988),pL1861-L1863
【非特許文献3】Eiji YANAGISAWA,他5名,“Properties of Pb-Doped Bi-Sr-Ca-Cu-O Superconductors”,Japanese Journal of Applied Physics,vol.27,No.8,August,(1988),pL1460-L1462
【非特許文献4】Liu Hongbao,他11名,“Zero Resistance at 132K in the Multiphase System of Bi1.9-xPbxSb0.1Sr2Ca2Cu3Oywith x=0.3,0.4”,Solid State Communications,vol.69,No.8,(1989),p867-868
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体およびその製造方法、超電導線材ならびに超電導機器を提供することを目的とする。ここで、Bi系超電導体の臨界温度を高めることにより、所定の温度(たとえば、液体窒素温度(77K))における臨界電流密度、臨界磁場を高めることができ、Bi系超電導体のより広い応用が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高いBi系超電導体である。
【0009】
また、本発明は、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高く、この磁化率が−0.1となる第2の臨界温度が108.8Kより高いBi系超電導体である。
【0010】
また、本発明は、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高く、この磁化率が−0.1となる第2の臨界温度が108.8Kより高く、この磁化率が−0.5となる第3の臨界温度が108.2Kより高いBi系超電導体である。
【0011】
本発明にかかるBi系超電導体において、(Bi,Pb)2223の単位格子のc軸長さを3.71nm以上とすることができる。
【0012】
また、本発明にかかるBi系超電導体において、超電導相は(Bi,Pb)2223内に形成された(Bi,Pb)2212を含み、(Bi,Pb)2212の臨界温度が80.0K以上とすることができる。
【0013】
また、本発明は、上記Bi系超電導体を含む超電導線材である。さらに、本発明は、上記超電導線材を含む超電導機器である。
【0014】
また、本発明は、原材料を熱処理して(Bi,Pb)2223を形成する工程と、形成した(Bi,Pb)2223を酸素の存在雰囲気下550℃以上825℃以下でアニールする工程とを含むBi系超電導体の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、原材料を熱処理して(Bi,Pb)2223を形成する工程と、形成した(Bi,Pb)2223を8kPa以下の酸素分圧雰囲気下550℃以上825℃以下でアニールする工程とを含むBi系超電導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、臨界温度が110Kよりも高いBi系超電導体およびその製造方法、超電導線材ならびに超電導機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
本発明にかかる1つのBi系超電導体は、図1および図2を参照して、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率(以下、−M/M(95K)という)が−0.001となる第1の臨界温度(以下、T1Cと表わす)が110.0Kより高い。
【0018】
(Bi,Pb)2223などの高温超電導物質においては、その物質の一部が常電導体から超電導体に転移(以下、超電導転移という)し始める温度(以下、転移開始温度という)と、その物質の全部が超電導体となる温度(以下、転移終了温度という)に差が生じる。超電導体になる臨界温度は、その物質の電気抵抗を測定する他に、その物質の磁化率を測定することによっても求めることができる。磁化率測定による臨界温度は、物質が常電導体から超電導体に変化する際に、その物質の磁化率が0からその物質固有の磁化率Mに変化する現象を利用して算出されるものである。電気抵抗測定による臨界温度は、抵抗が減少を開始する温度の判断が難しく、また抵抗が0になる温度が試料の状態に依存するという問題点がある。これに対して、磁化率測定による臨界温度には、電気抵抗測定による臨界温度の場合の上記問題点がなく、容易に正確な測定が行なえる。
【0019】
ここで、(Bi,Pb)2223を含む超電導体の磁化率の測定においては、(Bi,Pb)2223のc軸に対して、平行な方向の磁場(以下、c軸に平行な方向の磁場という)が印加されている状態で測定する方法と、垂直な方向の磁場(以下、c軸に垂直な方向の磁場という)が印加されている状態で測定する方法とがある。(Bi,Pb)2223は、その結晶構造から、c軸に平行な方向の量子化磁束のピニング力がc軸に垂直な方向の量子化磁束のピニング力に比べて弱い。このため、c軸に平行な方向の磁場が印加されている状態で測定された超電導体の磁化率から算出された臨界温度は、c軸に垂直な方向の磁場が印加されている状態で測定された超電導体の磁化率から算出された臨界温度より低くなる。すなわち、(Bi,Pb)2223を含む超電導体においては、c軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定された磁化率から算出された臨界温度は、より厳しい条件で測定された臨界温度といえる。
【0020】
ここで、−M/M(95K)が−0.001となる第1の臨界温度とは、物質の一部が常電導体から超電導体に転移し始める転移開始温度に相当する。また、95Kで規格化するとは、その物質の任意の温度における磁化率の大きさを95Kにおける磁化率に対する比で表すことをいう。
【0021】
1Cが110Kより高いBi系超電導体は、たとえば、以下の方法により製造することができる。まず、Bi原子、Pb原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含み、粉末全体として(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する原材料の粉末を熱処理して、(Bi,Pb)2223を形成する。次に、この(Bi,Pb)2223を、酸素の存在雰囲気下550℃以上825℃以下で、たとえば5時間以上、アニール(熱処理)する。ここで、アニール温度は、T1C上昇の観点から、600℃以上800℃以下が好ましい。また、上記アニールにおいて、アニール時間を長くするほどT1Cが高くなる。一方、上記アニールにおける酸素分圧が高いほど、アニール温度が高いほど、または、アニール時間が長いほど超電導転移が鈍化する(転移開始温度と転移終了温度との差が大きくなる)。
【0022】
1Cが110Kより高くなる詳細な理由は不明であるが、上記のアニールにより、(Bi,Pb)2223の一部に(Bi,Pb)3221の生成および(Bi,Pb)2223の単位格子のc軸長さ(以下、c軸長ともいう)の伸びがX線回折法による解析から確認された。このことから、T1Cの上昇は(Bi,Pb)2223結晶粒内の金属組成の変化によるもの、超電導転移の鈍化は異相(たとえば、(Bi,Pb)3221相)の析出による(Bi,Pb)2223結晶粒間の結合の劣化によるものと考えられる。
【0023】
また、T1Cを110.0Kより高くする観点から、(Bi,Pb)2223のc軸長は3.71nm以上であることが好ましい。ここで、c軸長は、XRD(X線回折)法により測定することができる。
【0024】
(実施形態2)
本発明にかかる他のBi系超電導体は、図1および図2を参照して、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、−M/M(95K)が−0.001となる第1の臨界温度(T1C)が110.0Kより高く、−M/M(95K)が−0.1となる第2の臨界温度(以下、T2Cと表す)が108.8Kより高い。
【0025】
すなわち、本実施形態のBi系超電導体は、T1Cが110.0Kより高く、かつ、T2Cが108.8Kより高い超電導体であり、超電導転移初期の−M/M(95K)の変化が大きいものである。T1CとT2Cとの差が小さいほどより急峻な超電導転移が達成される。
【0026】
1Cが110Kより高く、かつ、T2Cが108.8Kより高いBi系超電導体は、たとえば、以下の方法により製造することができる。まず、Bi原子、Pb原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含み、粉末全体として(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する原材料の粉末を熱処理して、(Bi,Pb)2223を形成する。次に、この(Bi,Pb)2223を、酸素の存在雰囲気下で、たとえば、650℃以上825℃以下で、5時間以上、アニールする。
【0027】
ここで、上記アニールにおいて、酸素分圧を低くするほど、T1CとT2Cとの差をより小さく、すなわち、より急峻な超電導転移が可能となる。これは、上記アニール条件によれば、(Bi,Pb)3221の生成を抑制することができ、(Bi,Pb)2223結晶粒間の結合の劣化が抑制されるためと考えられる。
【0028】
(実施形態3)
本発明にかかるさらに他のBi系超電導体は、図1および図2を参照して、超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、−M/M(95K)が−0.001となる第1の臨界温度(T1C)が110.0Kより高く、−M/M(95K)が−0.1となる第2の臨界温度(T2C)が108.8Kより高く、−M/M(95K)が−0.5となる第3の臨界温度(以下、T3Cと表す)が108.2Kより高い。
【0029】
すなわち、本実施形態のBi系超電導体は、T1Cが110.0Kより高く、T2Cが108.8Kより高く、かつ、T3Cが108.2Kより高い超電導体であり、超電導転移における−M/M(95K)の変化が大きいものである。T1CとT2Cとの差、T2CとT3Cとの差、およびT1CとT3Cとの差が小さいほどさらに急峻な超電導転移が達成される。
【0030】
1Cが110Kより高く、T2Cが108.8Kより高く、かつ、T3Cが108.2Kより高いBi系超電導体は、たとえば、以下の方法により製造することができる。まず、Bi原子、Pb原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含み、粉末全体として(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する原材料の粉末を熱処理して、(Bi,Pb)2223を形成する。次に、この(Bi,Pb)2223を、8kPa以下の酸素分圧雰囲気下550℃以上825℃以下で、たとえば5時間以上、アニールする。
【0031】
ここで、上記アニールにおいて、酸素分圧を低くするほど、またはアニール時間を長くするほど、T1CとT2Cとの差、T2CとT3Cとの差、およびT1CとT3Cとの差をより小さく、すなわち、より急峻な超電導転移が可能となる。これは、上記アニール条件によれば、(Bi,Pb)3221の生成を抑制することができ、(Bi,Pb)2223結晶粒間の結合の劣化が抑制されるためと考えられる。
【0032】
(実施形態4)
本発明にかかるさらに他のBi系超電導体は、実施形態1に示すT1C、実施形態2に示すT1CおよびT2C、または実施形態3に示すT1C、T2CおよびT3Cを有するBi系超電導体であり、かつ、このBi系超電導体中の超電導相は(Bi,Pb)2223内に形成された(Bi,Pb)2212を含み、(Bi,Pb)2212の臨界温度が80.0K以上である。
【0033】
Bi系超電導体においては、超電導相の(Bi,Pb)2223結晶内に他の超電導相である(Bi,Pb)2212の結晶が成長している場合が多い。かかる場合には、(Bi,Pb)2223結晶内にインターグロースしている(Bi,Pb)2212結晶の臨界温度(TC-2212という、以下同じ)が高いほど、Bi系超電導体の全体としての臨界電流密度JCなどが高くなる。
【0034】
(Bi,Pb)2223結晶内にインターグロースしている(Bi,Pb)2212結晶は、TEM(透過型電子顕微鏡)により観察することができる。(Bi,Pb)2223内に形成された(Bi,Pb)2212の臨界温度TC-2212は、(Bi,Pb)2212結晶がインターグロースしている(Bi,Pb)2223結晶を含むBi系超電導体を砕いてその磁化率を測定することにより得られる。本実施形態における磁化率測定は、破砕されたBi系超電導体を用いて行なわれるため、各々の(Bi,Pb)2223および(Bi,Pb)2212のc軸の方向がランダムであり、各々の(Bi,Pb)2223および(Bi,Pb)2212ついてBi系超電導体に印加される磁場の方向はランダムとなる。本発明において、(Bi,Pb)2212の臨界温度TC-2212は、5Kで規格化された磁化率曲線において変曲点として現われ、より詳しくは、この変曲点に高温側から近づく点の接線と、低温側から近づく点の接線との交点として算出される。
【0035】
本実施形態のBi系超電導体は、たとえば、以下の方法により製造することができる。たとえば、以下の方法により製造することができる。まず、Bi原子、Pb原子、Sr原子、Ca原子、Cu原子およびO原子を含み、粉末全体として(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する原材料の粉末を熱処理して、(Bi,Pb)2212がインターグロースしている(Bi,Pb)2223を形成する。
【0036】
次に、この(Bi,Pb)2223を、以下の条件でアニールする。図4を参照して、このアニール条件は、酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)とが以下の式(1−1)〜式(1−6)の線分で囲まれる領域(各式の線分を含む)に存在し、
x=0.01 (650≦y≦680) ・・・(1−1)
y=34.744×ln(x)+840 (0.01≦x≦0.1)
・・・(1−2)
y=10.085×ln(x)+783.99 (0.1≦x≦5)
・・・(1−3)
y=17.372×ln(x)+730 (0.01≦x≦0.1)
・・・(1−4)
y=−0.0023x4+0.1451x3−3.3054x2+33.254x+689.22 (0.1≦x≦5) ・・・(1−5)
x=5 (790≦y≦800) ・・・(1−6)
かつ、アニール時間が1時間以上であることが好ましい。
【0037】
(実施形態5)
本発明にかかる1つの超電導線材は、上記実施形態1から実施形態3までのいずれかのBi系超電導体を含む線材である。実施形態1から実施形態3までのBi系超電導体は、110Kより高いT1C(第1の臨界温度)を有しているため、かかるBi系超電導体を含む超電導線材は、臨界温度の高い線材が得られる。
【0038】
本実施形態の超電導線材の製造方法は、特に制限はなく、以下のようにして行なうことができる。まず、原料としてBi23、SrCO3、CaCO3、CuOおよびPbOを、(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成となるように配合、混合した後、700℃〜860℃の温度で焼成し、得られた多結晶体を粉砕して原材料の粉末を得る。ここで、原材料の粉末は、粉末全体として、(Bi1-pPbp2Sr2Ca2Cu310+δ(0<p<0.25)の化学組成を有する。
【0039】
次に、上記の方法により得られた原材料粉末をAgなどの金属管に充填し伸線する。伸線した線材を圧延した後、800℃〜850℃の熱処理を加えて、(Bi,Pb)2223を形成させる(これを1次焼結という、以下同じ)。
【0040】
次に、熱処理後の線材を2次圧延した後、800℃〜850℃の熱処理を加えて、(Bi,Pb)2223の結晶を粒接合させる(これを2次焼結という、以下同じ)。さらに、酸素の存在雰囲気下550℃以上825℃以下で、たとえば5時間以上の熱処理を加えて、(Bi,Pb)2223をアニールする。ここで、アニール温度は、T1C上昇の観点から、600℃以上800℃以下が好ましい。また、超電導転移を急峻にする観点から、酸素分圧は、8kPa以下が好ましく、5kPa以下がより好ましく、2kPa以下がさらに好ましい。
【0041】
1Cを上昇させるための上記アニールの後、高い酸素分圧(20kPa以上が好ましい)下200℃〜400℃程度の低温で、超電導線材を高酸素アニールすることにより、超電導線材の臨界電流の増大、特に、20K程度の極低温雰囲気下、磁場雰囲気中における臨界電流の増大が期待できる。T1Cを上昇させるアニールにより、超電導線材中のBi系超電導体((Bi,Pb)2223など)の酸素含有量が減少し、Bi系超電導体の結晶粒界における結合が弱くなる。このようなBi系超電導体の結晶粒界における結合を高め、臨界電流を増大させるために、超電導線材の上記高酸素アニールが有効である。
【0042】
(実施形態6)
本発明にかかる超電導機器は、臨界温度が高い実施形態4の超電導線材を含んでいるため、優れた超電導特性を有する。ここで、超電導機器は、上記超電導線材を含むものであれば特に制限なく、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、比較例および実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
(比較例1)
5種類の原料粉末(Bi23、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuO)をBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.3:2.0:2.0:3.0の組成となるような化学量論比で配合、混合した後、700℃〜850℃、10時間〜40時間、大気雰囲気または減圧雰囲気下にて少なくとも1回熱処理することにより、超電導原料粉末を得た。具体的には、上記5種類の原料粉末を混合した粉末を大気中で700℃×8時間、800℃×10時間、840℃×4時間の熱処理をして超電導原料粉末を作製した。なお、各熱処理後には粉砕を行なった。こうしてBi2212相が主たる相となっている超電導原料粉末が得られた。この超電導原材料粉末を直径46mmの銀管に充填した後、伸線加工して、直径4.4mmのクラッド線を得た。このクラッド線61本を束ねて再び直径46mmの銀管に挿入し、伸線加工して、原材料粉末がフィラメント状となった多芯線を得た。
【0044】
なお、5種類の原料粉末が溶解した硝酸水溶液を加熱された炉内に噴射することにより、金属硝酸塩水溶液中の水分の蒸発、各金属硝酸塩の熱分解による各金属酸化物の生成、各金属酸化物間の反応および合成による複合酸化物の生成を瞬時に起こさせる噴霧熱分解法により、超電導原料粉末を作製してもよい。かかる噴霧熱分解法によっても、Bi2212相が主たる相となっている超電導原料粉末が得られる。
【0045】
次に、上記多芯線について1次圧延、1次焼結、2次圧延および2次焼結を行い、銀比1.5で61芯のフィラメントで構成された幅4.2mm、厚さ0.24mmのテープ状の超電導線材を得た。ここで、1次および2次の焼結は、820℃〜850℃で行なった。これらの焼結により、上記フィラメント状の原材料粉末から(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体が形成される。なお、銀比とは、線材の横断面(幅×厚さ方向の断面)におけるフィラメント部分の面積に対する銀部分の面積の比をいう。
【0046】
得られた超電導線材を液体窒素温度から昇温させながら、その磁化率をSQUID(超電導量子干渉計)型磁束計(Quantum Design社製MPMS-XL5S)を用いて、超電導線材のテープ面(幅4.2mmの面)に垂直な方向(これは、(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向である)に0.2Oe(15.8A/m)の磁界を印加した環境下で測定し、超電導線材のT1C、T2C、およびT3Cを算出した。また、XRD測定により、c軸長を算出した。ここで、超電導線材の昇温速度は、0.3K/minとしていたため、T1C、T2C、およびT3Cのいずれの精度も±0.1K以内と考えられる。結果を表1にまとめた。
【0047】
(実施例1〜14,比較例2)
比較例1と同様にして、(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体のフィラメントを有する超電導線材(以下、(Bi,Pb)2223を含む超電導線材という)を形成した後、この超電導線材を表1に示す条件で、それぞれアニールをした後、比較例1と同様にして、アニール後のそれぞれの超電導線材の磁化率を測定することにより、それぞれの超電導線材のT1C、T2C、およびT3Cを算出した。また、実施例の一部についてc軸長を算出した。ここで、アニールの際には、室温(たとえば20℃)から10℃/minで昇温させて、表1に示すアニール温度およびアニール時間のアニールを行った後、15℃/minで降温させて室温とした。結果を表1にまとめた。
【0048】
【表1】

【0049】
表1で得られた結果に基づいて、いくつかの(Bi,Pb)2223を含む超電導線材の温度と−M/M(95K)との関係(超電導転移曲線)を図1に示し、アニール条件とT1C、T2CおよびT3Cとの関係を図2に示した。また、他のデータも含めて、空気中アニールにおけるアニール温度およびアニール時間とT1Cとの関係を図3に示した。
【0050】
表1、図1および図2を参照して、実施例1〜6に示すように、空気(全圧101kPa、酸素分圧21kPa)中で700℃以上825℃以下で5時間アニールすることにより、T1Cを110.4K〜112.8Kとすることができ、T2Cを109.0K〜110.3Kとすることができ、実施例6を除きT3Cを108.5K〜109.0Kとすることができた。
【0051】
また、実施例7〜11に示すように、空気(全圧101kPa、酸素分圧21kPa)中で600℃以上725℃以下で100時間アニールすることにより、比較例2を除きT1Cを111.9K〜114.8Kとすることができ、実施例7および実施例8を除きT2Cを109.1K〜111.2K以上とすることができた。しかし、T3Cは108.2Kより低くなった。
【0052】
また、実施例12〜14に示すように、酸素分圧が1kPaの雰囲気下(全圧は101kPa)で650℃以上735℃以下で100時間アニールすることにより、T1Cを113.0K〜113.6Kとすることができ、T2Cを111.0K〜111.8K以上とすることができ、T3Cを110.2K〜111.2Kとすることができた。また、アニール前の臨界電流が120A(測定条件:77K、0T)の超電導線材を、酸素分圧1kPa(全圧は101kPa)、730℃の雰囲気下で200時間アニールすることにより、臨界電流ICが150A(測定条件:77K、0T)に向上した。
【0053】
なお、上記の実施例1〜12および比較例1、2については、全圧が101kPa(大気圧)の雰囲気下でアニールを行なったが、全圧が異なっても(たとえば、101kPaを超える加圧下においても)、酸素分圧が同一である限り、上記と同様の結果が得られることが期待される。
【0054】
また、表1から、単位格子のc軸長さ(c軸長)が3.71nm以上のBi系超電導体を含む超電導線材のT1Cは、110Kを大きく超えていることがわかる。
【0055】
また、図3を参照して、空気中で、アニール温度が560℃〜810℃で、アニール時間が1時間以上において、T1Cが111K以上の領域が広がっていることがわかる。また、空気中で、アニール温度が570℃〜780℃、アニール時間が3時間以上において、T1Cが112K以上の領域が広がっていることがわかる。また、空気中で、アニール温度が590℃〜770℃、アニール時間が15時間以上において、T1Cが113K以上の領域が広がっていることがわかる。また、空気中で、アニール温度が610℃〜730℃、アニール時間が40時間以上において、T1Cが114K以上の領域が広がっていることがわかる。
【0056】
したがって、形成した(Bi,Pb)2223を含む超電導線材を酸素の存在雰囲気下550℃以上825℃以下でアニールすることによりT1Cが110.0Kより高いBi系超電導体を含む超電導線材が得られることがわかる。また、形成した(Bi,Pb)2223を8kPa以下の酸素分圧雰囲気下550℃以上825℃以下でアニールすることにより、T1Cが110.0Kより高く、さらに、T2Cが108.8Kより高く、T3Cが108.2Kより高い(すなわち、超電導転移が急峻な)Bi系超電導体を含む超電導線材が得られることがわかる。
【0057】
(比較例2)
5種類の原料粉末(Bi23、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuO)をBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.3:1.9:2.0:3.0の組成となるような化学量論比で配合、混合した後、大気中で830℃×24時間の熱処理をして得られた多結晶体を粉砕した超電導原料粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、Bi系超電導体を含む超電導線材を得た。
【0058】
得られた超電導線材の磁化率を比較例1と同様にして測定することにより、超電導線材のT1C、T2C、およびT3Cを算出した。さらに、この超電導線材を砕いてその磁化率を測定することにより、線材中の(Bi,Pb)2223内にインターグロースしている(Bi,Pb)2212の臨界温度TC-2212を算出した。具体的には、5Kで規格化された磁化率曲線に現われた変曲点に高温側から近づけた点の接線と、低温側から近づけた点の接線との交点の温度をTC-2212とした。また、77K、0T雰囲気下における超電導線材の臨界電流ICを四端子法により電流−電圧特性を測定し、超電導線材の横断面におけるフィラメント面積0.388mm2で除して臨界電流密度JCを算出した。結果を表2にまとめた。
【0059】
(実施例15〜20)
比較例2で得られた超電導線材を表2に示す条件で、それぞれアニールをした後、比較例2と同様にして、それぞれの超電導線材のT1C、T2C、T3CおよびTC-2212を算出した。結果を表2にまとめた。また、実施例15〜20のアニール工程における酸素分圧およびアニール温度を図4に黒丸の点として示した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2および図4を参照して、実施例15〜20に示すように、各実施例のアニールにおける酸素分圧x(kPa)とアニール温度y(℃)とが上記の式(1−1)から式(1−6)の線分で囲まれる領域(各式の線分を含む)内に存在し、アニール時間が1時間以上の範囲内に存在することにより、JC>310A/mm2、かつ、T1C>110.0Kである超電導線材が得られた。
【0062】
(実施例21〜28、比較例3〜6)
比較例2で得られた超電導線材、および比較例2で得られた超電導線材を表3に示す条件でアニールして得られた超電導線材について、77K(比較例3、実施例21,22)、70K(比較例4、実施例23,24)、60K(比較例5、実施例25,26)および50K(比較例6、実施例27,28)のそれぞれにおける不可逆磁場Birr(抵抗ゼロの超電導状態が破壊される外部磁場をいう、以下同じ)を測定した。ここで、不可逆磁場Birrの測定は、四端子法により臨界電流Icを様々な磁場B下で測定し、磁場Bに対するf(B,Ic)=Ic1/2×B1/4のグラフを描くと、このグラフ中に直線でフィッティングできる領域がある。かかるフィッティング直線におけるIc=0AのときのBの値がBirrと定義される(Kramer Plot、経験式)。結果を表3にまとめた。
【0063】
【表3】

【0064】
表3を参照して、実施例21〜28および比較例3〜6に示すように、(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体の臨界温度が高くなることにより、不可逆磁場Birrが高くなることが確認できた。具体的には、Bi系超電導体のT1Cを110.0Kより高くすることにより、77KにおけるBirrを0.80Tより高く、70KにおけるBirrを1.35Tより高く、60KにおけるBirrを2.50Tより高く、50KにおけるBirrを4.39Tより高くすることができた。すなわち、Bi系超電導体のT1Cを110.0Kより高くすることにより、超電導状態が破壊される磁場である臨界磁場を高めることができる。
【0065】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(Bi,Pb)2223を含む超電導線材の温度と−M/M(95K)との関係(超電導転移曲線)を示す図である。
【図2】(Bi,Pb)2223を含む超電導線材のアニール条件とT1C、T2CおよびT3Cとの関係を示す図である。
【図3】(Bi,Pb)2223を含む超電導線材の空気中アニールにおけるアニール温度およびアニール時間とT1Cとの関係を示す図である。
【図4】(Bi,Pb)2223を含む超電導線材の好ましいアニール条件を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、
前記(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高いBi系超電導体。
【請求項2】
超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、
前記(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高く、
前記磁化率が−0.1となる第2の臨界温度が108.8Kより高いBi系超電導体。
【請求項3】
超電導相として(Bi,Pb)2223を含むBi系超電導体であって、
前記(Bi,Pb)2223のc軸に平行な方向に磁場が印加されている状態で測定され95Kで規格化された磁化率が−0.001となる第1の臨界温度が110.0Kより高く、
前記磁化率が−0.1となる第2の臨界温度が108.8Kより高く、
前記磁化率が−0.5となる第3の臨界温度が108.2Kより高いBi系超電導体。
【請求項4】
前記(Bi,Pb)2223の単位格子のc軸長さが3.71nm以上である請求項1から請求項3までのいずれかに記載のBi系超電導体。
【請求項5】
前記超電導相は前記(Bi,Pb)2223内に形成された(Bi,Pb)2212を含み、前記(Bi,Pb)2212の臨界温度が80.0K以上である請求項1から請求項4までのいずれかに記載のBi系超電導体。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のBi系超電導体を含む超電導線材。
【請求項7】
請求項6に記載の超電導線材を含む超電導機器。
【請求項8】
原材料を熱処理して(Bi,Pb)2223を形成する工程と、形成した(Bi,Pb)2223を酸素の存在雰囲気下550℃以上825℃以下でアニールする工程とを含むBi系超電導体の製造方法。
【請求項9】
原材料を熱処理して(Bi,Pb)2223を形成する工程と、形成した(Bi,Pb)2223を8kPa以下の酸素分圧雰囲気下550℃以上825℃以下でアニールする工程とを含むBi系超電導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−31266(P2007−31266A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163869(P2006−163869)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】