説明

Bi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材

【課題】Bi2223超電導線材の製造方法において臨界電流密度を向上するために、超電導相結晶の配向性を向上させ、その製造方法及び超電導線材を提供する。
【解決手段】主超電導相としてBi2201相を含む前駆体粉末を金属管に充填する充填工程と、前記前駆体粉末が充填された金属管を伸線する伸線工程と、前記伸線工程後の線材を圧延する圧延工程と、前記圧延工程後の線材を熱処理する熱処理工程とを備え、前記伸線工程と前記圧延工程との間において、中間熱処理を加えることにより前記前駆体粉末中のBi2201相をBi2212相へと反応させて、主超電導相がBi2212相となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材に関し、たとえば超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。Bi2223超電導線材は、比較的安価で入手できる液体窒素等の冷却下でも高い臨界電流値を示す有用な線材である。
【0003】
このようなBi2223超電導線材の製造方法は、たとえば特開2007−26773号公報(特許文献1)および特表平11−506866号公報(特許文献2)に記載されている。具体的には、まず、Bi2212相を主成分とする前駆体粉末を金属管に充填した後に、伸線加工して単芯材を形成する。その後に、単芯材を複数束ねて金属管に挿入し、伸線加工して多芯構造の多芯材を形成する。その多芯材を1次圧延して、テープ状線材を形成する。続いて、テープ状線材の熱処理を行ない、Bi2212相をBi2223相に相変態させて1次線材を得る。次に、1次線材を2次圧延した後に、2回目の熱処理を行ない、Bi2223超電導線材を製造している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−26773号公報
【特許文献2】特表平11−506866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1および2のBi2223超電導線材の製造方法では、2回目の熱処理後においてBi2223相の結晶の配向性が不十分の場合があり、超電導特性に向上の余地がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、超電導特性を向上できるBi2223超電導線材の製造方法を提供することである。
【0007】
具体的には、超電導特性すなわち臨界電流密度を向上するために、超電導相からなる結晶をより高度に配向させる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法は、以下の工程を実施する。
【0009】
主超電導相としてBi2201相を含む前駆体粉末を金属管に充填する充填工程と、前記前駆体粉末が充填された金属管を伸線し線材を得る伸線工程と、前記伸線工程後の線材を圧延する圧延工程と、前記圧延工程後の線材を熱処理する熱処理工程とを備え、前記伸線工程と前記圧延工程との間において、中間熱処理を加えることにより前記前駆体粉末中のBi2201相をBi2212相へと反応させて、主超電導相がBi2212相となるようにする。
【0010】
本発明によれば、主超電導相がBi2201相である前駆体粉末を含む伸線後の線材を熱処理することで、Bi2212相が主超電導相である前駆体粉末を充填粉末として使用するより、伸線後の線材中に粒径の大きなBi2212相を発生させることができる。これはBi2201相が周囲に存在する非超電導相と反応し、大きなBi2212相結晶に成長しやすいことに起因する。
【0011】
このような大きなBi2212相結晶を含む線材を圧延すると、Bi2212相結晶をa−b面(CuOの結晶面)方向へ倒しやすい。よって圧延後の線材はBi2212相結晶の配向が高いものとなる。高配向させたBi2212相を含む圧延線材を熱処理すると、Bi2212相の配向性を維持して、Bi2223相に変態するため、最終目的とするBi2223相も高い配向性を有し、高い臨界電流密度を実現できる。
【0012】
なお、上記「Bi2201相」とは、ビスマスとストロンチウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマス(Bi):ストロンチウム(Sr):銅(Cu)が2:2:1と近似して表される酸化物超電導相、およびビスマスおよび鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマスおよび鉛(Bi+Pb):ストロンチウム(Sr):銅(Cu)が2:2:1と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、BiSrCu6+δおよび(BiPb)SrCu6+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0013】
また、上記「Bi2212相」とは、ビスマスとストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマス(Bi):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)が2:2:1:2と近似して表される酸化物超電導相、およびビスマスおよび鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)としてビスマスおよび鉛(Bi+Pb):ストロンチウム(Sr):カルシウム(Ca):銅(Cu)が2:2:1:2と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、BiSrCaCu8+δおよび(BiPb)SrCaCu8+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0014】
また、上記「Bi2223相」とは、ビスマスと鉛とストロンチウムとカルシウムと銅と酸素とを含み、その原子比(酸素を除く)として(ビスマス+鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅が2:2:2:3と近似して表される酸化物超電導相のことである。より具体的には、(BiPb)SrCaCu10+δ(δは0.1に近い数)という化学式で示されるものが含まれる。
【0015】
また、上記前駆体粉末中や熱処理後の主超電導相は以下のように判定する。X線回折θ/2θスキャン法によって同定されたBi2201(1.1.5)のピーク強度I2201、Bi2212(1.1.5)のピーク強度I2212とBi2223(1.1.9)のピーク強度I2223とから(式1)にしたがって判断する。例えばBi2201相に着目した場合は、
Bi2201の体積分率=I2201/(I2201+I2212+I2223)×100・・・(式1)
(式1)の値を体積分率と定義し、この値が60(単位は%)以上であれば、Bi2201相が主超電導相であるという。
【0016】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、前記前駆体粉末中の前記Bi2201相の主超電導相としての体積分率が80%以上である。
【0017】
これにより、圧延する工程で結晶をより配向させることができるので、超電導特性をより向上できる。
【0018】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、前記中間熱処理を700℃以上、800℃以下の温度範囲で行う。
【0019】
熱処理温度が700℃未満では、Bi2201相からBi2212相への変態が少なく、800℃を超えると中間熱処理段階では発生してほしくないBi2223相が生成するからである。
【0020】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、前記中間熱処理を30分以上行う。
【0021】
熱処理時間が30分未満では、Bi2201相からBi2212相への変態が充分起こらない。30分以上熱処理を行うと、ほぼ100%Bi2212相へ変態する。以後同条件で熱処理を続けても超電導相の割合は変化しない。
【0022】
上記Bi2223超電導線材の製造方法において好ましくは、前記中間熱処理を酸素濃度6%以上、10%以下の雰囲気で行う。
【0023】
熱処理中の酸素濃度が6%未満、あるいは10%を超える場合はBi2212相への変態より、非超電導相が大きく成長する傾向にあるため好ましくない。
【0024】
本発明のBi2223超電導線材は、上記Bi2223超電導線材の製造方法により製造される。これにより、超電導特性を向上したBi2223超電導線材が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法およびBi2223超電導線材によれば、超電導特性、いわゆる臨界電流密度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法により製造されたBi2223超電導線材を示す概略斜視図である。図1を参照して、本実施の形態におけるBi2223超電導線材を説明する。図1に示すように、本実施の形態におけるBi2223超電導線材11は、長手方向に延びる複数本の超電導体であるフィラメント12と、それらを被覆するシース部3とを備えている。複数本のフィラメント12の各々の材質は、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表わされるBi2223相で形成されており、若干のBi2212相および不可避的不純物を含むこともある。シース部13の材質は、たとえば銀や銀合金などの金属よりなっている。フィラメント12は複数に特に限定されず、単芯構造であってもよい。
【0028】
続いて、図2〜図7を参照して、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法について説明する。なお、図2は、本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。図3は本発明の実施の形態における単芯母線を得る工程を示す概略斜視図である。図4は本発明の実施の形態における単芯母線を伸線する工程を示す概略斜視図である。図5は本発明の実施の形態における多芯嵌合する工程を示す概略斜視図である。図6は本発明の実施の形態における多芯母線の伸線をする工程を示す概略斜視図である。図7は本発明の実施の形態における熱処理された多芯線を圧延する工程を示す概略斜視図である。
【0029】
まず、図2および図3に示すように、Bi2201相((BiPb)SrCu6+δまたはBiSrCu6+δ)を主超電導相とし、残部がBi2212相((BiPb)SrCaCu8+δまたはBiSrCaCu8+δ)および非超電導相である前駆体粉末31を金属管32に充填することにより、単芯母線33を得る(ステップS1)。また、非超電導相とは、たとえば(Ca,Sr)CuO、(Ca,Sr)CuOおよび(Ca,Sr)14Cu2441等のアルカリ土類酸化物や、CaPbOおよび(Bi,Pb)SrCaCu等のPb酸化物などが例示される。
【0030】
具体的には、原料粉末としてBi、Pb、Sr、CaおよびCuを用い、たとえばBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.4:1.9:2.0:3.0の組成比になるように原料粉末を混合する。これに700℃〜860℃程度の熱処理を複数回施し、主超電導相としてBi2201相が含まれ、少量のBi2212相、および非超電導相から構成される前駆体粉末31を準備する。前駆体粉末は、たとえば金属硝酸塩水溶液の粒子の水分を蒸発させて、硝酸塩の熱分解、金属酸化物同士の反応および合成を瞬時に起こさせる噴霧熱分解法などにより作製される。そして、銀などからなる金属管32を準備する。その後、たとえば供給部材34を用い、前駆体粉末31の自重を利用して、前駆体粉末31を金属管32に充填し単芯母線33とする。また、前駆体粉末31を金属管32に充填した後に、加熱および加圧などを行なってもよい。
【0031】
なお、金属管32は、銀や銀合金などからなることが好ましい。これにより、前駆体粉末31と金属管32とが反応して化合物を形成することにより、前駆体粉末31の組成ずれを防止できる。
【0032】
次に、図2および図4に示すように、単芯母線33を伸線する(ステップS2)。具体的には、伸線機41を用いて、単芯母線33の径を細くし、かつ長さを伸ばす伸線加工をする。この伸線加工では、ステップS1で前駆体粉末31が充填された金属管の直径が、たとえば1/10〜1/100程度の縮径変形を受ける。これにより、前駆体粉末31を芯材として金属管12で被覆された、断面形状が円形または多角形状の単芯線42が作製される。
【0033】
次に、図2および図5に示すように、この単芯線42を多数束ねて、たとえば銀などの金属よりなる金属管51内に嵌合する(多芯嵌合:ステップS3)。これにより、前駆体粉末31を芯材として多数有する多芯母線52が得られる。
【0034】
次に、図2および図6に示すように、多芯母線52を伸線する(多芯母線の伸線:ステップS4)。具体的には、伸線機61を用いて、多芯母線52から伸線された多芯線62に加工する。
【0035】
次に、図2に示すように、多芯母線の伸線工程(ステップS4)後の多芯線62を熱処理する(中間熱処理:ステップS5)。ステップS5では、前駆体粉末31を熱処理することにより前駆体粉末31中のBi2201相をBi2212相へと変態させる。これにより、前駆体粉末31は結晶が大きく成長したBi2212相が主超電導相となる。
【0036】
具体的には、ステップS5では、酸素濃度が6%以上10%以下の雰囲気で、温度が700℃〜800℃、時間が30分以上の条件で多芯線62に熱処理を行なうことが好ましい。これにより、前駆体粉末31中のBi2201相の結晶が粒径の大きなBi2212相の結晶へ変態する。
【0037】
次に、図2および図7に示すように、中間熱処理工程(ステップS5)後の多芯線62を圧延することにより、テープ材72を得る(1次圧延:ステップS6)。具体的には、図7に示すように、多芯線62の長手方向と垂直になる方向から2つの圧延部材71で挟み込むようにして、多芯線62に圧力を加えて、テープ材72に形成する。
【0038】
次に、テープ状を熱処理する(1次熱処理:ステップS7)。この熱処理は、たとえば大気圧下、または1MPa以上50MPa以下の加圧雰囲気において約830℃の温度で行われる。この熱処理によって前駆体粉末中に目的とするBi2223相が生成される。
【0039】
その後、再び線材を圧延する(2次圧延:ステップS8)。このように、2次圧延を行うことにより、1次熱処理で生じたボイドが除去される。
【0040】
続いて、例えば830℃の温度で線材を熱処理する(2次熱処理:ステップS9)。このときも、大気圧下、または加圧雰囲気で熱処理する。以上の製造工程により、図1に示すBi2223超電導線材11が得られる。
【0041】
本実施の形態で得られるBi2223超電導線材11において、Bi2223相よりなる超電導結晶のXRDロッキングカーブで測定された(0.0.24)ピークのFWHM(Full Width at Half Maximum:半波高全幅値)は10°以下であり配向性が向上している。なお、FWHMとは、XRDロッキングカーブで測定された(0.0.24)ピークの半価幅を意味し、面内配向性を示す指標となる。FWHMは、超電導線材11の延びる方向(超電導線材11に電流が流れる方向)に対するBi2223相からなる超電導結晶の延びる方向の傾角である。FWHMの値が小さいほど面内での配向性が良好であることを示す。
【0042】
以下、本発明の特徴であるステップS5の中間熱処理について詳細を記す。酸化物超電導線材において高臨界電流密度化を図るには超電導結晶粒の高度な配向化が重要である。最終的には、目的とするBi2223相のa−b面方向がテープ面と平行になるよう配向すればよい。
【0043】
主として配向化が行われるのは、ステップS6の1次圧延工程である。1次圧延前には前駆体粉末は主超電導相としてBi2212相を含んでいる。1次圧延ではこのBi2212相結晶を配向化させている。Bi2212相結晶が高度に配向している圧延線材を熱処理しBi2223相を発生させることで、Bi2212相結晶の高配向性を引き継いだBi2223相の組織が得られる。
【0044】
Bi2212相結晶の高配向化のためには、圧延前にBi2212相結晶を大きく成長させることが重要である。それは以下の理由による。
【0045】
断面形状が円状の線材を圧延した際の、線材内部の結晶方位の変化を模式的に表した線材断面図を図8に示す。図8では単芯線のケースをモデルとして表す。図8(a)はBi2212相結晶が大きい場合である。断面が円形状の線材81においては金属管82中に平板状のBi2212相結晶83が存在している。そのような状況において、Bi2212相結晶83が圧延する前に充分大きいサイズを有していれば圧延操作により、各結晶は長手方向(a−b面方向)が圧延時の外力方向に対して垂直になるように倒れてその方向がそろったテープ材84になる。一方、図8(b)に示すようにBi2212相結晶サイズ83が小さい場合、Bi2212相結晶83は倒れにくく配向化もおこりにくく、Bi2212相結晶83があまり配向していないテープ材84になる。よって、圧延前にできる限りBi2212相結晶83のサイズを大きくした方が、配向化には有利である。
【0046】
圧延前のBi2212相結晶サイズを大きくすることが本発明の目的である。前駆体粉末に主超電導相としてBi2212相を含むものを使用して、それに熱処理を加えBi2212相結晶サイズを大きくする方法もある。しかしながらこの手法では、Bi2212相結晶サイズは長手方向(a−b面方向)でせいぜい3μm程度である。一方、本発明のようにBi2201相からBi2212相へ変態させる手法では、Bi2212相結晶サイズが5μm以上になる。これはBi2201相が周囲の非超電導相を取り込み、Bi2212相へ成長する反応であることに起因する。
【0047】
本発明の手法で作製された線材の配向性を、圧延後テープ材のBi2212相ロッキングカーブで評価すると、Bi2212相(0.0.12)ピークのFWHMにおいて従来製法の17°から15°以下に改善される。また最終目的のBi2223相のロッキングカーブも、従来の12°程度から10°以下に改善される。
【0048】
さらに、Bi2212相結晶サイズを大きくするために、前駆体粉末中に含まれる非超電導相の粒径は小さいほうが好ましい。非超電導相の粒径が大きいとBi2201相からBi2212相への反応がスムーズに起こらず、Bi2212相結晶が大きく成長しにくい。非超電導相の粒径としては、非超電導相のみで形成された二次粒子の最大長径の平均値が1μm以下であることが好ましい。
【0049】
上記のようにして、大きな超電導結晶粒を含む線材を圧延することにより、高度な配向化組織が得られる。この高度に配向化された線材をベースにステップS6以降の加工処理を行うと、高い臨界電流値を有する超電導線材を製造することができる。
【0050】
[実施例]
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
(主超電導相割合の効果:実施例1〜5、比較例1〜3)
原料として、Bi、PbO、SrCO、CaCOおよびCuOをBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.3:2:2:3の比率になるように混合した原料粉末を、大気中で700℃で8時間の熱処理、粉砕、800℃で10時間の熱処理、粉砕、750℃〜820℃で1〜5時間の種々の熱処理を加え主超電導相がBi2201相あるいはBi2212相となる8種の前駆体粉末を準備した。この段階ではBi2223相は発生しない。8種の前駆体粉末中に含まれるBi2201相とBi2212相の割合(Bi2201相:Bi2212相)は以下のとおりである。比較例1(0:10、Bi2201相の体積分率0%)、比較例2(2:8、Bi2201相の体積分率20%)、比較例3(5:5、Bi2201相の体積分率50%)、実施例1(6:4、Bi2201相の体積分率60%)、実施例2(7:3、Bi2201相の体積分率70%)、実施例3(8:2、Bi2201相の体積分率80%)、実施例4(9:1、Bi2201相の体積分率90%)、実施例5(10:0、Bi2201相の体積分率100%)。これら粉末に粉砕を施して、充填用前駆体粉末とした。8種の充填用前駆体粉末をそれぞれ外径25mm、内径22mmの銀からなる金属管に充填した。
【0052】
次に、前駆体粉末を充填した金属管を伸線加工して、直径2.4mmの単芯線を作製した。次に、この単芯線を55本束ねて、外径が25mm、内径が22mmの銀からなる金属管内に嵌合して多芯母線を得た。さらにこの多芯母線に伸線加工を施し、直径1.1mmの多芯線を得た。
【0053】
上記で作製された8種の多芯線に対し、Bi2201相をBi2212相に変態させるため、酸素濃度10%残りは窒素の雰囲気中、750℃、1時間の熱処理を行なった。熱処理後の多芯線を切断し、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、Bi2212相結晶のサイズを測定した。測定方法は断面に表れたBi2212相結晶を任意に100個選び、その長い方向のサイズを結晶サイズとしてカウントし、それらの平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0054】
次に各多芯線を圧延し、0.23mm厚のテープ材とした。それらテープ材のロッキングカーブFWHMを測定した。ロッキングカーブFWHMは、テープ材の銀被覆をはがし、前駆体粉末のXRD測定から求めた。使用されたXRDピークはBi2212相の(0.0.12)ピークである。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1からわかるように、前駆体粉末中の主超電導相(60%以上の割合で存在する)がBi2201相である実施例は、多芯線熱処理後のBi2212相結晶サイズが大きい。そのため結晶配向性の指標であるBi2212相(0.0.12)ピークのFWHMも小さい。すなわちBi2212相の配向性がよいということである。
【0057】
(中間熱処理温度の効果:実施例3、6〜9)
上記実施例3に用いられた多芯線に対し、熱処理温度を650℃(実施例6)、700℃(実施例7)、750℃(実施例3)、800℃(実施例8)、850℃(実施例9)として中間熱処理を施した。熱処理時間は1時間である。熱処理後の前駆体粉末中をX線回折θ/2θスキャン法で評価し、超電導相割合を(式1)を用いて算出した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2からわかるように、熱処理温度が700℃未満の場合、Bi2201相からBi2212相へ完全に変態しない。また800℃を超えるとこの段階では生成して欲しくないBi2223相が発生している。よって中間熱処理温度は700℃以上800℃以下が好ましいといえる。
【0060】
(中間熱処理時間の効果:実施例3、10〜13)
上記実施例3に用いられた多芯線に対し、熱処理温度750℃にして、その時間を10分(実施例10)、20分(実施例11)、30分(実施例12)、60分(実施例3)、90分(実施例13)として中間熱処理を施した。熱処理後の前駆体粉末中の超電導相割合を上記と同様に評価した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3からわかるように、熱処理時間が30分未満の場合、Bi2201相からBi2212相へ完全に変態しない。一方、30分以上ではBi2212相が100%となり、Bi2223相が現れることもなく変化がない。よって熱処理時間としては、30分以上で充分である。
【0063】
(中間熱処理雰囲気の効果:実施例3、10〜13)
上記実施例3に用いられた多芯線に対し、熱処理温度750℃、1時間の条件で熱処理時の酸素濃度を2%(実施例14)、4%(実施例15)、6%(実施例16)、8%(実施例17)、10%(実施例3)、12%(実施例18)、14%(実施例19)として中間熱処理を施した。熱処理後の前駆体粉末中の非超電導相結晶のサイズを、多芯線の断面をSEM観察することによって評価した。評価は任意の10個の非超電導結晶を選びその長径をサイズとカウントし、その平均値を算出した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
表4からわかるように、熱処理雰囲気の酸素濃度が6%未満の場合、非超電導相結晶のサイズが3μm以上である。この非超電導相は主にCa−Cu−O系の化合物である。また、酸素濃度が10%越えた場合でも非超電導相結晶サイズが大きくなっている。この場合の非超電導相は主にCa−Pb−O系の化合物が析出していた。これらの結果からBi2201相からBi2212相へ変態は熱処理雰囲気の酸素濃度が6%以上10%以下の条件で良好に進行することがわかる。
【0066】
(超電導線材:比較例4、実施例20)
上記比較例1および実施例3において圧延されたテープ材に対し、830℃で50時間、酸素分圧が8kPaで大気圧下の条件で熱処理を行なった。それらに対し、厚みが0.22mmとなるよう再度圧延工程を施した。再度圧延されたテープ材に対し、830℃で50時間、酸素分圧が8kPaで全圧30MPaの条件で熱処理を行ない最終的な超電導線材とした。比較例1を用いた超電導線材を比較例4とし、実施例3を用いた超電導線材を実施例20とする。
【0067】
実施例20および比較例4の超電導線材についてロッキングカーブのFWHMおよび臨界電流値Icを測定した。ロッキングカーブのFWHMは、Bi2223相の(0.0.24)ピークを測定することにより求めた。また、臨界電流値は、温度が77Kで、自己磁場中において、臨界電流値を測定した。臨界電流値は、10−6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。
【0068】
実施例20の臨界電流値は250A、FWHMは9°であり、比較例4の臨界電流値は210A、FWHMは12°であった。これらの結果から、本発明に従って製造された超電導線材は、従来技術によって製造された線材にくらべ高い超電導特性をもつことがわかる。
【0069】
以上より、主超電導相としてBi2201相を含む前駆体粉末を使用し、その前駆体粉末を含む線材を熱処理することにより、前駆体粉末中のBi2201相をBi2212相へと変態させる工程を有することで超電導特性を向上できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のBi2223超電導線材の製造方法により製造されるBi2223超電導線材は、超電導特性を向上できる。そのため、本発明のBi2223超電導線材の製造方法により製造されるBi2223超電導線材は、たとえば超電導ケーブル、超電導変圧器、超電導限流器、および電力貯蔵装置などの超電導機器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法により製造されたBi2223超電導線材を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるBi2223超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における単芯母線を得る工程を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態における単芯母線を伸線する工程を示す概略斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態における多芯嵌合する工程を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態における多芯母線を伸線する工程を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態における熱処理された多芯線を圧延する工程を示す概略斜視図である。
【図8】圧延時における、金属管内部の結晶方位の変化を模式的に表した線材断面図である。
【符号の説明】
【0072】
11 超電導線材
12 フィラメント
13 シース部
31 前駆体粉末
32 金属管
33 単芯母線
34 供給部材
41 伸線機
42 単芯線
51 金属管
52 多芯母線
61 伸線機
62 多芯線
71 圧延部材
72 テープ材
81 円形状の線材
82 金属管
83 結晶
84 テープ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主超電導相としてBi2201相を含む前駆体粉末を金属管に充填する充填工程と、
前記前駆体粉末が充填された金属管を伸線し線材を得る伸線工程と、
前記伸線工程後の線材を圧延する圧延工程と、
前記圧延工程後の線材を熱処理する熱処理工程とを備え、
前記伸線工程と前記圧延工程との間において、中間熱処理を加えることにより前記前駆体粉末中のBi2201相をBi2212相へと反応させて、主超電導相がBi2212相となるようにすることを特徴とする、Bi2223超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体粉末中の前記Bi2201相の主超電導相としての体積分率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記中間熱処理は700℃以上、800℃以下の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1または2に記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記中間熱処理は30分以上行われることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記中間熱処理は酸素濃度6%以上、10%以下の雰囲気で行われることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のBi2223超電導線材の製造方法により製造された、Bi2223超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−170276(P2009−170276A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7532(P2008−7532)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】