説明

CAD/CAMによる個々の義歯の製造およびデジタル印象データからのラピッドマニュファクチャリング/ラピッドプロトタイピング

本発明は、義歯の自動化された製造のための方法に関し、該方法は、製造すべき個々の義歯のデジタルデータセットを用意するステップと、モデルを歯列弓と歯肉とにデジタル的に分離するステップと、切削技術を用いて、セラミックまたはプラスチックから歯列弓を形成するステップと、主として(メタ)アクリレート系プラスチック材料から生成的または除去的処理により義歯床を製造するステップと、前記歯列弓および前記歯肉を、接着、接合あるいは接着および接合の組み合わせにより接続するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
総義歯または部分義歯は、基本的に既知の方法により製造される。このような方法としては、たとえば、液体/粉末技術を用いる従来の方法が挙げられ、これらは長く知られており、文献に記載されている(EP1243230A2、US6,881,360B2、"Dental Materials"(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry Copyright 2002 by Wiley-VCH Verlag))。
【0002】
一般に、総義歯の製造に関する3つの異なる主な材料の分類が知られている。これらは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系の2成分材料[市販の、Palapress(登録商標)、Paladur(登録商標)(Heraeus Kulzer社(独))、SR3/60 Quick(Ivoclar社(リヒテンシュタイン))、Degupress(Degussa−Huels社(独))]、PMMAフリーの熱硬化性材料[市販の、たとえば、Paladon(登録商標)65(Heraeus Kulzer社(独))、SR3/60、SR Ivocap(Ivoclar社(リヒテンシュタイン))、Lucitone(Dentsply(米))]、および、熱可塑性処理用の射出成形素材である。
【0003】
熱可塑性材料は、加熱されて、通常は射出成型法によって空間に注入される。Bredent社(独、Senden)による"Polyapress"と呼ばれる既知の方法がとりわけ広く用いられている。PVC、ポリウレタン、ポリアミドまたはポリカーボネートなどのポリマーを用いる試みがなされてきた(上述のUllmannの5.1.5章他の義歯用樹脂)。
【0004】
さらに、光硬化性またはマイクロ波硬化性の1成分材料に基づく方法がある(たとえば、Heraeus Kulzer社のVersyo(登録商標).com(上述のUllmannの5.1.3章光硬化性ポリマー、5.1.4章マイクロ波硬化性ポリマー))。
【0005】
プラスチック材料の処理の準備に必要とされる作業工程は、これら全ての材料について同じである。
【0006】
さらに、積層技術が歯科技術において知られている。これらは通常、たとえば前装冠や義歯形成のために、光硬化性材料と組み合わされるものである。これらの方法の利点としては、高い審美性を実現するために、処理が制御しやすいことおよび色の変更が可能であることがあげられる。
【0007】
歯科技術におけるラピッドプロトタイピング法の使用も提案されている。これには、ポリマー化可能層(DE10114290A1、DE10150256A1)やインクジェットパウダープリント(US6,322,728B1)を用いた処理が含まれる。
【0008】
なお、ラピッドプロトタイピング(Rapid prototyping、Schneller Prototypenbau)とは、設計データに基づくモデル要素の高速生成のための方法である。したがって、ラピッドプロトタイピング法は、できるかぎり人の間でのやりとりや型を用いることなく、既存のCADデータを直接かつ高速に加工物に実現することを目的とした製造方法である。このような方法に関連するデータインタフェースはSTLフォーマットである。1980年代から、ラピッドプロトタイピングの名で知られているこの方法は、通常、形のないまたは不定形の材料から、物理的および/または化学的効果を利用して多層の加工物を形成する一般的な生成方法である。
【0009】
基本的に、総義歯の製造には、以下の工程が含まれる:
・歯科医によるシリコーン型印象の取得。
・歯科技工士による顎の形状を反映した石膏モデルの作成。
・ワックスへの人口歯の排列および歯肉の形成。
・歯科医または歯科技工室における試適および、場合により、修正。
・石膏、シリコーン型または寒天への修正したワックスモデルの埋没。
・熱湯でのワックスの除去。
・形成した型への人口歯の挿入。
・義歯用プラスチック材料(たとえばPalaXpress)の形成された空間への充填。
・ポリマー化、最終的な義歯の仕上げ研磨。
【0010】
この複雑な処置を簡単にする試みが次第に多く行われている。その結果、Heraeus Kulzer社はIDS2005において製品Filou 28(EP1704831A1)を発表した。これは、ワックスへの人口歯の排列に要する時間を削減する初めての試みであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP1243230A2
【特許文献2】US6,881,360B2
【特許文献3】DE10114290A1
【特許文献4】DE10150256A1
【特許文献5】US6,322,728B1
【特許文献6】EP1704831A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】"Dental Materials"(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry Copyright 2002 by Wiley-VCH Verlag)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
切削技術(CAD/CAM)の分野における継続的な発展およびラピッドプロトタイピングおよびラピッドマニュファクチャリングの生成的製造技術が、補綴に導入されている。これは「歯科技術のデジタル化」と呼ばれている。この方法(たとえば、光造形法や選択的レーザ溶融)には、この技術がこれまでただ1つのすなわち単色の出発材料しか用いることができないため、使用材料の審美性に関して従来満足できるものではなかったという欠点があった。しかし、特に人口歯の製造には、自然な外観とするため、最終製品について複数の色の単一成分を用いる必要があった。
【0014】
なお、ラピッドマニュファクチャリング(Rapid Manufacturing, Schnelle Fertigung)の語は、CADデータに直接基づく工具を用いない製造による、部品およびシリーズの高速かつ柔軟な製造のための方法および製造方法である。用いられる材料には、ガラス、金属、セラミック、プラスチックおよび新規材料(UV硬化性ゾルゲル(Multi Jet Modeling等を参照))[…]。ラピッドマニュファクチャリングでは、常に最終製品に直接集中しているため、基本的には、ラピッドプロトタイピングおよびラピッドツーリング(Rapid Tooling、Schneller Werkzeugbau)とは異なる。
【0015】
CAD/CAM切削技術の領域により、今日では、最終的な歯、即ち最終的な補綴物を非常に自然な外観とする、多色の積層プラスチック材料(たとえば、Vita(登録商標) CAD−Temp Multicolor)やセラミック材料(たとえばVitablocs(登録商標) Triluxe)を処理することができる。
【0016】
上述した近年の技術開発には、スキャン技術(3M Espe社のLava C.O.S、Sirona社のBluecam(登録商標)、Hint ELS社のdirectScan)やバーチャル咬合器および/またはバーチャル歯排列などのデジタル印象取得も含まれる。
【0017】
上述の従来の製造工程をさらに簡単にすることをその課題とする。さらに、複数の色または色相の複数の層を有する、審美的に洗練された義歯の製造を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、請求項1に記載の特徴により解決される。好ましい実施形態は、他の請求項から明らかとされる。好ましくは、以下の工程が、上述の工程における適切な時間に行われる:
1.デジタル印象取得からのデータまたは一般的なシリコーン型機能印象のデジタル化からのデータの用意。
2.CAD/CAMによる、多色積層したプラスチックまたはセラミックの歯列弓の形成。多色積層により、歯列弓は要求される洗練された審美性を満たすものとできる。
3.歯肉モデルの形成および製造。
【0019】
この工程は、現在の製造工程を非常に簡単なものとし、したがって、時間と費用の節約となる。2つの主要な部材である歯列弓と歯肉は、製造後速やかに、確立された接合方法(同じ歯肉の色の、Signum(登録商標) zirconia bond、Signum(登録商標) ceramic bondまたはPalabondおよび光硬化性versyo(登録商標)またはPalabondおよび自動ポリマー化補綴材料(Paladur(登録商標)、PalaXpress))によって互いにしっかりと接続される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る製造方法の例示的実施形態のフロー図を示す。
【図2】従来技術における方法を示す別のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細には、図1における本発明に係る方法の実施形態の各工程は、以下である:
・シリコーン型または口内スキャナを用いた歯科医による従来の印象取得(1)。
・歯科技工室へのデジタルモデルの送付および歯のデジタル排列(2)。
・(任意)医用製品として承認されている歯科用ワックスによる光造形法などを用いたRPによるワックスモデルの製造(3)。
・(任意)患者へのワックスモデルの試適および、場合により、修正(4)。
・(任意)3Dスキャンによる再デジタル化。
・歯列弓、および、歯列弓に対応する凹みを有する歯肉素材におけるモデルのデジタル上の分離およびその個別の製造(5)。
・既知の歯科的な接着または接合方法による2つの主要部材の組み合わせ。
・(任意)切削および研磨などの再処理。
・顧客への引き渡し。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯の自動化された製造のための方法であって、
製造すべき個々の義歯のデジタルデータセットを用意するステップと、
モデルを歯列弓と歯肉とにデジタル的に分離するステップと、
切削技術を用いて、セラミックまたはプラスチックから歯列弓を形成するステップと、
主として(メタ)アクリレート系プラスチック材料から生成的または除去的処理により義歯床を製造するステップと、
前記歯列弓および前記歯肉を、接着、接合あるいは接着および接合の組み合わせにより接続するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記製造すべき義歯のデジタルデータセットを用意するステップに必要とされる、無歯の顎のデータセットを、口内スキャン、シリコーン型印象の3Dスキャン、3DスキャンとX線データとの組み合わせ、または、歯科用石膏モデルの3Dスキャン、のいずれかにより取得する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記製造すべき個々の義歯のデジタルデータセットを、バーチャル歯排列(バーチャル咬合)により用意する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記デジタルモデルの切削可能な歯列弓および人工歯肉への分離を、ソフトウェアによりデジタル的に行う、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記歯列弓を除去的処理により製造する、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記歯列弓の除去的処理による製造を、歯の色を有する、積層型プラスチック材料を用いて行う、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記歯列弓の除去的処理による製造を、歯の色を有する、積層型セラミック材料を用いて行う、請求項1から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記義歯床を切削技術により製造する、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記義歯床を光造形法により製造する、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記義歯床を3Dインクジェットプリントにより製造する、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
生成的ラピッドマニュファクチャリングによる前記義歯床の製造のために、短鎖、中鎖または長鎖脂肪族ポリ(エチレングリコール)系骨格またはデンドリマー系骨格を有する、液状または低粘度乃至高粘度の、一官能性または多官能性アクリレートまたはメタクリレート、あるいは、これらの単一成分の混合物を用いる、請求項1から10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記歯列弓および前記歯肉ベースの接着を、材料に依存して、セラミック−プラスチック接着剤またはプラスチック−プラスチック接着剤を用いて行う、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記歯列弓および前記歯肉ベースの接着を、機械的部材、たとえば、ガイドレール、溝、および、適切な固定部材により行う、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−512695(P2013−512695A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541332(P2012−541332)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006753
【国際公開番号】WO2011/066895
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】