説明

CNF−Mg合金複合材およびその製造方法

【課題】耐腐食性に優れ、高い強度を有し、また優れた伸びを有して靭性にも優れるCNF-Mg合金複合材を提供する。
【解決手段】本発明に係るCNF−Mg合金複合材は、CNF−Mg合金複合材であって、CNF(カーボンナノファイバー)が多数本集合した集合部14によりMg合金部12が取り囲まれた構造体が多数三次元的に連続していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNF−Mg合金複合材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(Al)合金やマグネシウム(Mg)合金中に、炭素繊維、金属繊維、セラミックス等の強化材を混入させた複合材が各種用途に用いられている。特に強化材としてカーボンナノファイバー(CNF)を用いたものは、高い強度を有し、耐熱性に優れ、しかも軽量であるという優れた特性を有している。
【0003】
これら複合材の製法としては溶湯攪拌法、スクイズキャスト法、粉末冶金法などが知られている。
溶湯攪拌法は、溶融金属中に攪拌しながら強化材を混合し、しかる後固化する製法である。
また、スクイズキャスト法は、強化材をバインダで固定成形してプリフォームを形成し、溶融させた金属をプリフォームに加圧して含浸させ、その後固化する製法である(例えば特開2007−16286)。
また、粉末冶金法は、金属合金粉末と強化材との混合粉を圧縮成形し、この成形物をホットプレスし、次いで圧延や押出成形などを行う製法である(例えば特開2004−15261)。
【特許文献1】特開2007−16286
【特許文献2】特開2004−15261
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記溶湯攪拌法は、簡便で大量生産向きであるが、強化材が微細なカーボンナノファイバー(CNF)の場合、CNFが凝集しやすいことや溶融金属と濡れ難い性質から溶湯中に均一に混入しにくいという課題がある。
また、スクイズキャスト法の場合も、強化材の均一分散添加が困難であるという課題がある。
一方粉末冶金法は製造コストが高いという課題がある。
【0005】
また、上記いずれの方法も、理論的には得られる製品は高い強度と耐熱性に優れ、また軽量であるという優れた特性を有するものの、CNFの分散性の問題があり、強度および耐腐食性に課題があった。特にマグネシウム合金は耐腐食性が常に問題とされている。耐腐食性を向上させるには、CNFの含有量を多くすればそれなりに改善されるが、コストが高くなり、また強度が低下するという課題がある。
また、Mg合金の廃材において、Fe成分が不純物として含有すると、耐腐食性が著しく劣化し、リサイクル性に問題があった。
【0006】
本発明は、CNFとMg合金との複合材であって、CNFの少量の添加であっても耐腐食性に優れ、高い強度を有し、また優れた伸びを有して靭性にも優れる複合材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るCNF−Mg合金複合材は、CNF−Mg合金複合材であって、CNF(カーボンナノファイバー)が多数本集合した集合部によりMg合金部が取り囲まれた構造体が多数三次元的に連続していることを特徴とする。
Mg合金部がCNFの集合部により取り囲まれているので耐腐食性に優れる。また、CNF集合部がシェル構造をなすことから強度的に優れるとともに、CNFが混在しない、あるいはごく少量しか混在しないMg合金部の存在により伸び性(靭性)にも優れている。
【0008】
また、Mg合金部が多数点在するCNFの集合部により取り囲まれていることを特徴とする。
また、炭素分布のEPMAイメージにおいて、前記CNFの集合部が、Mg合金部を囲む変形した輪状部上に列をなして点在していることを特徴とする。
【0009】
CNFの集合部に炭素粒子が混在していることを特徴とする。これにより強度に優れ、また耐腐食性がさらに向上される。
CNFの混入量が、0.5〜5wt%であることを特徴とする。
CNFの混入量が、0.5〜1.5wt%であると強度的に特に好適である。
CNFの長さが20μm以下であると好適である。
粉砕して粒状の材料とすると好適である。これにより、インジェクション成形等の材料などに用いることができるので、種々の用途に用いることができる。
【0010】
また、本発明に係るCNF−Mg合金複合材の製造方法は、粒子状のMg合金材とCNFとを混合し、CNFをMg合金材表面に付着させる工程と、表面にCNFを付着させたMg合金材を真空中でホットプレスして複合材に形成するホットプレス工程を含むことを特徴とする。
ホットプレスして得られた複合材を粒状に粉砕すると使い勝手がよくなる。
また、ホットプレスして得られた複合材を真空中で熱間押出し成形して熱間押出し成形品として種々の用途に用いることができる。
この熱間押出し成形品を粒状に粉砕すると使い勝手がよくなる。
【0011】
粒子状のMg合金材とCNFとを混合機によりCNFとMg合金材とがぶつかり合うようにして混合すると好適である。特に、粒子状のMg合金材の表面にCNFを、CNFの端部がMg合金材の表面に突き刺さるように付着させると好適である。
混合機としては、容器が、鉛直面内で往復円弧動すると共に、軸線が、該鉛直面に対して両側に所要角度で往復回動する三軸方向加振型ボールミル等のボールミルを用いることができる。
【0012】
また、長さが20μm以下のCNFを用いると好適である。
また、直径が1〜400μmの粒状のMg合金材を用いるとよく、特に、直径が10〜200μmのMg合金材を用いると好適である。
また、CNFを0.5〜5wt%混入させるとよい。
Fe成分が不純物として混入したMg合金材を用いることで、当該Mg合金材のリサイクルを図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Mg合金部がCNF集合部により取り囲まれているので耐腐食性に優れ、また、CNF集合部がシェル構造をなすことから、CNFの少量添加でも強度的に優れるとともに、CNFが混在しない、もしくは混在してもごく少量のMg合金部の存在により伸び性(靭性)にも優れるCNF−Mg合金複合材を提供できる。また、Mg合金部にFe成分が混入していても耐腐食性を向上させることができ、したがって、Mg合金の廃材のリサイクルも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明における最良の実施の形態を詳細に説明する。
まず製法について実施例とともに説明する。
本発明における複合材の製法は粉末冶金法の一種である。
Mg合金として、市販されているAZ91D合金を用いた。AZ91D合金は、機械的性質、鋳造性などバランスのとれた代表的ダイカスト合金であり、耐食Mg合金として、自動車、コンピューター、携帯電話、スポーツ用品等の各種分野に用いられている。
AZ91D合金の成分(wt%)は、Al:8.3〜9.7、Zn:0.35〜1.0、Mn:0.15〜0.5、Si:≦0.01、Cu:≦0.030、Ni:≦0.002、Fe:≦0.005、他成分:≦0.02、Mg:残り、である。
【0015】
なお、上記のように、AZ91D合金そのものが既に50ppm程度のFe成分を含んでいるが、廃材のMg合金材であって、Fe成分を200ppm程度含むものであっても、後記するように、本発明によれば、CNFを混入させることで耐腐食性を向上させうるので、廃材のリサイクルが可能となる。
【0016】
上記AZ91D合金のインゴットを内田機械工業(株)製の形削り盤を用いて長さ5mm程度の切粉状のものに切断した。
この切粉状物を、ボールミルにより粒子状の形状に形成した。
ボールミルは振動ボールミルを好適に用いることができる。
実施例として用いた振動ボールミル((株)トポロジックシステムズ製TKMAC-2000L)は、容積125mlのジルコニア製の容器を有するもので、直径10mmのジルコニア製のボールを使用し、800rpmの振動下で、5時間の処理を行った。なお、このボールミルでの処理は上記AZ91D合金の酸化を抑制し、かつ燃焼反応の予防などの安全性を考慮してアルゴン雰囲気下で行った。
【0017】
得られたMg合金粒子を篩にかけ、100μm以下の粒子を選別した。なお、Mg合金粒子の大きさは、CNF−Mg合金複合材の、後記する伸び(靭性)に大きく関係するので重要であり、概ね1〜400μm程度が好適であり、特には、10〜200μmが好適である。
【0018】
次に、100μm以下のMg合金粒子とCNFとの混合処理を行った。CNFを0.5wt%、1wt%、3wt%、5wt%混入させた4種類の混合紛を作成した。
なお、CNFは、直径が10〜200nm、好適には60〜160nmのカーボンナノチューブ(昭和電工(株)製、VGCF(商品名)、直径150nm、Feの含有量200ppm以下)を用いた。このCNFを、容器内の底部で、水平面内で高速(刃先の周速:40m/sec程度)で回転するブレードを有するブレンダーマシンにより切断し、長さが20μm以下程度となるようにあらかじめ長さ調整したものを用いた。
【0019】
上記混合紛の作成も振動ボールミル等の混合機を用いるとよい。
実施例として用いた振動ボールミル((株)トポロジックシステムズ製TKMAC-2000L)は、容積125mlのジルコニア製の容器を有するもので、直径1mmのジルコニア製のボールを使用し、800rpmの振動下で、3時間の処理を行った。なお、このボールミルでの処理も酸化の抑制と安全性を考慮してアルゴン雰囲気下で行った。
【0020】
なお、振動ボールミルは、例えば特開2005−82832に示される三軸方向加振型ボールミルを用いると好適である。この三軸方向加振型ボールミルは、容器10が、鉛直面内で往復円弧動すると共に(図1)、軸線が、該鉛直面に対して垂直方向となる面内で両側に所要角度で往復回動する(図2)ように設定されている。
【0021】
振動ボールミルを用いて、Mg合金粒子とCNFとが激しくぶつかり合うようにし、図3に模式的に示すように、CNFが、Mg合金粒子の表面に一端側で突き刺さった状態となるようにして均一に付着させるように、ミリング条件を設定するとよい。上記三軸方向加振型ボールミルは、内容物を三軸方向に加振することができるので、CNF端部がMg合金粒子の表面に突き刺さる状態にすることが容易にできる。上記TKMAC-2000Lの振動ボールミルを用い、直径1mmのジルコニア製のボールを使用し、800rpmの振動下で、3時間の処理を行ったところ、図3に模式的に示すようなMg合金粒子が得られた。
【0022】
なお、このようにCNFが一端側で粒子表面に突き刺さった状態となるのは、上記のように容器内で内容物が激しくぶつかり合うこと、およびCNFが20μm以下の長さに調整されているからと考えられる。CNFの長さが20μmより長いと、Mg粒子表面に対して寝た状態となり、粒子表面に突き刺さりにくくなると考えられる。CNFの長さは5〜10μm程度がさらに好適であった。
【0023】
次に、上記のようにしてCNFが付着したMg合金粒子の所要量をホットプレス機により真空中でホットプレスしてCNF−Mg合金複合材を形成した。
このホットプレスは、真空中、550℃、10MPa下で4時間保持して行い、直径20mm、高さ20mmほどの円柱状の複合材とした。上記のように高圧下で長時間保持されることにより、Mg合金粒子間の拡散が進行し、ブロック状となる。
なお、このホットプレス条件は上記に限定されないことはもちろんである。
【0024】
この複合材の断面を図4に模式的に示す。
図4に示すように、複合材は、Mg合金部12がCNFが多数本集合した集合部14により取り囲まれた構造体が多数二次元的に連続している。断面でなく、三次元的に見れば、複合材は、CNF集合部14によりMg合金部12が取り囲まれた構造体が多数三次元的に連続している構造をなしていることがわかる。すなわち、CNF集合部14は、三次元的に連続するネットワーク構造をなしている。
【0025】
すなわち、CNFは、Mg合金粒子の表面に付着したままの状態で複合材内に止まっている状態となっている。これは、CNFが、一端側でMg合金粒子の表面に突き刺さった状態に強固に保持されたままホットプレスされることにより、Mg合金粒子同士が拡散してもこれらMg合金粒子の表面の位置から容易に移動しないことによる。Mg合金粒子同士は、CNF集合部14におけるCNFの隙間から互いに拡散し、一体に接合することになる。
【0026】
なお、CNFが付着したMg合金粒子の所要量と、カーボンブラック等の炭素粒子の所要量(例えば3wt%)とを均一に混合し、この混合物をホットプレスして複合材を形成するようにしてもよい。このように炭素粒子を配合することで、CNF集合部14における炭素の密度をより高くすることができ、耐腐食性をさらに向上させることができる。
なお、CNFとカーボンブラック等の炭素粒子とを予め混合して、この混合物をMg合金材に付着させるようにしてもよい。
【0027】
上記混合物をホットプレスして形成した複合材を各種用途の材料に用いることができる。この複合材は、CNF集合部14によりMg合金部12が取り囲まれた構造体が多数三次元的に連続している構造をなしているので、後記するように強度的に優れ、また、耐腐食性にも優れる。なお、上記複合材は、直径1〜5mm程度の粒子状に粉砕した複合材料とすることで、使い勝手がよくなり、インジェクションの材料等、広範な用途に用いることが可能となる。
【0028】
上記のように、ホットプレスして形成した複合材をそのまま各種用途の材料に用いることができるが、この複合材を、圧延処理もしくは真空中で熱間押出し成形して改質したCNF−Mg合金の複合材として用いることもできる。
以下では、熱間押出し成形を例として説明する。
熱間押出し工程は、真空中、450℃の温度下で、直径約6mmの細い押出し口から一気に押出して行った(押出速度5〜50mm/sec)。
図5、図6は、CNFを1wt%混入したもので、上記のように熱間押出し成形した複合材の断面構造を示すEPMAイメージであり、図7はそのTEMイメージである。図7でCNFの集合部が確認できる。なお、図5は、Mg金属分布のEPMAイメージであり、黒い部分がMg金属部分である。また、図6は、炭素分布のEPMAイメージであり、黒い部分が炭素部分である。
【0029】
図5、特に図6でわかるように、図4に示すCNF集合部14の形状は、押出し成形における部材の押出し方向(図の右上方向)に伸びる扁平な形状となっているが、三次元的に連続するネットワーク構造は維持され、CNF集合部によりMg合金部が取り囲まれた状態をなしている。なお、具体的には、CNF集合部14は、一定厚さの層をなすというものではなく、Mg合金部が多数点在するCNF集合部14により取り囲まれている。すなわち、このCNF集合部14は完全に連続するというものではなく、独立したものがMg合金部の周りに間隔をおいて点在しているといえる。
【0030】
また、図6のEPMAイメージでは、CNF集合部14が、Mg合金部を囲む変形した輪状部上に列をなして点在しているように見える。また、図6において、CNF集合部(黒い点)の大きさは、概ね1〜十数μm程度である。
【0031】
上記のように棒状に押出されて形成されたCNF−Mg合金複合材は、そのままネジ等に加工できる。あるいは棒状体を用いて様々な形状の製品に加工できる。
また、棒状体のままでは用途に限界があるので、この棒状の押出し成形体を適宜装置により粉砕し、粒状の材料に加工すると好適である。このように粒状の材料とすることによって、インジェクション成形の材料等に用いることができ、種々の用途に用いることが可能となる。なお、この粉砕による粒状物の大きさは特に限定されないが、1〜5mm程度の大きさが好適である。
【0032】
図8は、上記押出し成形体の引張強度試験結果を示すグラフである。横軸に伸び、縦軸に引張強度(MPa)を示す。試験片は、直径6mm×長さ60mmの棒状体であり(試験部は、直径4mm×長さ15mm)、引張速度は0.5mm/minとした。
図8に示すように、CNFを混入させた試験片はいずれも強度が増大し、CNFを1wt%混入させた試験片は400MPaの高い強度が得られた。また、CNFを0.5wt%および1wt%混入させた試験片は、7〜8%の伸びを示し、優れた靭性を示した。従来、CNFを混入させた金属複合材で400MPa程度の高い強度を示すものも存在するが、伸びがほとんどなく、したがって、実用上、信頼性に優れた材料とはいえなかった。
【0033】
なお、本実施の形態で重要なことは、1wt%程度の少ないCNFの使用量で高い強度が得られている点である。
このような少ないCNFの使用量でも高い強度が得られるのは、図9に模式的に示すように、CNF集合部によりシェル構造(三次元ネットワーク構造)が形成されるからと考えられる。このようなシェル構造をなすことによって、CNFを1wt%混入させた場合、計算上、3.7wt%のCNFを均一に混入させた場合と実質的に同程度の強度が得られる。このような少ないCNFの量で高い強度が得られるので、コストの低減化が可能となる。
【0034】
しかも、CNF集合部によりMg合金部が取り囲まれ、CNFが混入していない、あるいはCNFが混入していたとしてもごく僅かな、柔らかいMg合金部が存在することによって上記のように大きな伸びが得られ、靭性に優れる材料が得られるのである。図10は、CNF混入量と引張強度との関係を示すグラフである。強度と伸び特性の点においては、CNFの混入量は0.5〜1.5wt%程度が好ましい。
図11、図12は引張破断面組織を示すSEMイメージである。CNFとMg合金部との間に隙間がなく、CNFに対するMg合金部の濡れ性は良好であり、これにより高い強度が得られている。
【0035】
図13は圧縮試験結果を示すグラフである。試験片は直径6mm×長さ10mmの棒状をなし、圧縮速度は0.5mm/minとした。CNFが混入した試験片はいずれも高い圧縮強度が得られている。
【0036】
次に耐腐食性は、塩水腐食性試験を行ない検討した。
Mg合金材にFe成分が含有されることによって複合材の耐腐食性に大きな影響が及ぼされるので、Mg合金材として、AZ91D合金材(pure材:Fe成分約20ppm)と、Fe成分が不純物として約200ppm含有するMg合金材とで試験した。
まずpure材による試験を行った。試験片は、CNFの添加量無し、1wt%添加、5wt%添加の3種類とした。
上記試験片の棒材を長さ約5mmに切断して1400番ペーパーで表面を軽く仕上げ、試験はハルセル槽(500ml)内で循環対流させた濃度3wt%のNaCl水溶液中、常温(約27℃)の条件で浸漬し、腐食減量の推移を測定した。この結果を図14に示す。
図14より明らかなように、CNFを混入した試験片の場合、腐食による減量が少なく、特にCNF5wt%添加のものの腐食減量が少なくなっている。三次元的なネットワーク構造をなすCNF集合部により腐食の進行が食い止められるからである。
【0037】
次にFe成分が不純物として約200ppm含有するMg合金材で試験した。
塩水腐食性試験は温度以外上記と同じ方法である。温度は常温(約20℃)で行った。この結果を図15に示す。
図15より明らかなように、pure材同様にCNFを混入した試験片の場合、腐食による減量が少なく、特にCNF5wt%添加のものの腐食減量が少なくなっている。三次元的なネットワーク構造をなすCNF集合部により腐食の進行が食い止められるからである。一方、Fe成分が混入しCNFの混入の無い試験片は耐腐食性が極めて悪く、20時間程度で塩水に溶解してしまった。
このように、Fe成分が含まれるMg廃材であっても、Mg合金部をCNF集合部で取り囲むようにした本発明によれば、耐腐食性を向上させることができ、これら廃材のリサイクルが可能となる。
【0038】
以上のように、耐腐食性の点からは、CNFの混入量は3〜5wt%程度が好適である。5wt%よりも多く混入させてもよいが、前記のように強度が低下するおそれがある。
前記のように、CNFの添加量は、強度、および伸びの点からは0.5〜1.5wt%程度が好ましく、一方、耐腐食性の点からは3〜5wt%程度が好ましい。
用途に応じてCNFの添加量を調整するとよい。
【0039】
なお、前記のように、CNFを付着させたMg合金粒子とカーボンブラック等の炭素粒子とを混合して用い、CNF添加量が0.5〜1.5wt%で炭素総量が3〜5wt%程度となるようにすれば、耐腐食性、強度、伸び性が共に優れる複合材を形成することができる。強度に寄与するのはCNFであり、一方、カーボンブラック等の炭素粒子は強度にそれほど寄与しないが、耐腐食性には寄与するからである。
【0040】
上記のように、Fe成分を不純物に含むMg合金材は耐腐食性が極めて悪く、したがって、廃材からFe成分を如何にして除去するかが大きな課題となっている。しかし、ppmオーダーの微量のFe成分の除去は極めて困難である。
発明者等は、Fe成分を不純物に含むMg合金材のリサイクルを目指し、CNFの腐食抑制効果の試験を行った。
Fe成分が約200ppm混在するMg合金材を用いたほかは上記実施例と同様にして、CNFの混入無し、1wt%混入、5wt%混入の複合材の試験片を作成した。
【0041】
先ず、上記、Fe成分が不純物として約200ppm含有する試験片の水濡れ性の試験をした。
試験片の破断面を湿式研磨によって荒研磨後、最終4000番ペーパーによって仕上げ研磨した後に水切り乾燥を行い、純水(pH7.7)をマイクロシリンジで2μl滴下し、濡れ面積(直径:横、縦の平均値を算出)で比較した。
結果を表1に示す。
【0042】
表1

【0043】
次に、上記Fe成分を不純物として含む試験片の水腐食性試験を行った。
上記と同じ試験片の破断面を湿式研磨によって荒研磨後、最終4000番ペーパーによって仕上げ研磨した後に水切り乾燥を行い、純水(pH7.7)をマイクロシリンジで2μl滴下し、滴下5分後の気泡(水素)発生数を計測した。
結果を表2に示す。
【0044】
表2

表1、表2より、CNFを5wt%添加したものは濡れにくくて撥水性を有し、錆びにくい傾向を示している。
【0045】
引き続いて、この試験片を純水に浸漬した場合の腐食性試験を行った。
試験片の破断面を湿式研磨によって荒研磨後、最終4000番ペーパーによって仕上げ研磨した後に水切り乾燥を行い、純水(pH7.7)100mlに20時間浸漬し、表面から深さ方向の腐食発生状況を見た。
図16〜図18は、浸漬後の試験片の表面に樹脂膜を形成して補強後、深さ方向に切断して、切断面の状況を見た断面写真である。
【0046】
図16はCNF添加無しの断面写真であるが、深さ250μm位までに腐食空洞が見られる。Mg合金は水腐食により酸化皮膜(MgO)を形成するが、FeはMgに対して貴な金属で激しく局部腐食が進行すると考えられる。
図17はCNF1wt%添加のもので、試験片表面が深さ方向に彫り下がっており、若干腐食の影響が見られる。
図18はCNF5wt%添加のもので、深さ方向に若干腐食しているが、腐食の進行が停止している。これは、三次元的なネットワーク構造をなすCNF集合部により腐食の進行が食い止められるからと考えられる。
【0047】
更に、Fe成分を不純物として含む試験片の、Mgの腐食電流試験を行った。
図19はその実験装置であり、上記Mgの試験片とより貴なCu片とを電極として用い、Mg→Mg2++2eで生じた腐食電流を測定した。
試験片は表面を4000番サンドペーパーで研磨して用いた。
水循環・ハルセル槽に500ml採水して実験浴とした。水は水道水(温度20℃に調整)を循環使用した。Mg極(+)は表面積約2cm、対極はCu板(-)で表面積約1.8cmとした。電極間距離は約10mm、電極位置は液の上部域とした。なお、銅板は塩酸で活性化してから用いた。電流計は、(株)エスコ製EA707−CB−25(デジタルマルチメーター)を用いた。
【0048】
測定結果を図20に示す。
図20から明らかなように、CNFを5wt%添加した試験片は、4時間後に腐食電流が完全に停止した。これは、Mgの表面に安定な酸化物が形成されたことによって腐食が停止したからと考えられる。また、CNFの撥水性がこの安定性に寄与している。
CNF添加がゼロの試験片は、24時間後でも腐食電流が流れていることから腐食が継続して進行していることがわかる。CNF1wt%添加したものは上記の中間で、腐食電流は24時間後も継続しているが、CNF添加無しのものの半分以下であり、腐食速度が半分以下に抑制されている。
なお、通常のMg合金廃材におけるFe成分の混入量は100ppm程度と考えられる。上記のように、本発明に従えば200ppmものFe成分が含有していても耐腐食性は向上しているので、Mg合金廃材のリサイクルは十分可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】三軸方向加振型ボールミルの容器の動きを示す正面図である。
【図2】三軸方向加振型ボールミルの容器の動きを示す平面図である。
【図3】CNFがMg合金粒子に突き刺さった状態で付着している様子を模式的に示した説明図である。
【図4】予備成形体の断面を模式的に示した説明図である。
【図5】熱間押出し成形した複合材のMg分布を示すEPMAイメージである。
【図6】熱間押出し成形した複合材の炭素成分の分布を示すEPMAイメージである。
【図7】図6の複合材のTEMイメージである。
【図8】押出し成形体の引張強度試験結果を示すグラフである。
【図9】CNF集合部のシェル構造を模式的に示す説明図である。
【図10】CNF混入量と引張強度との関係を示すグラフである。
【図11】引張破断面組織を示すSEMイメージである。
【図12】引張破断面組織を示すSEMイメージである。
【図13】圧縮試験結果を示すグラフである。
【図14】塩水腐食性試験における腐食減量の推移を測定したグラフである。
【図15】Fe成分を含むMg合金材を用いた試験片の塩水腐食性試験における腐食減量の推移を測定したグラフである。
【図16】Fe成分を含むMg合金材を用いた、CNF(VGCF)添加ゼロ(pure材)の試験片の断面写真である。
【図17】Fe成分を含むMg合金材を用いた、CNF1wt%添加した試験片の断面写真である。
【図18】Fe成分を含むMg合金材を用いた、CNF5wt%添加した試験片の断面写真である。
【図19】Mgの腐食電流試験の実験装置を示す説明図である。
【図20】Fe成分を含むMg合金材の腐食電流の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 容器
12 Mg合金部
14 CNF集合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CNF−Mg合金複合材であって、CNF(カーボンナノファイバー)が多数本集合した集合部によりMg合金部が取り囲まれた構造体が多数三次元的に連続していることを特徴とするCNF−Mg合金複合材。
【請求項2】
Mg合金部が多数点在するCNFの集合部により取り囲まれていることを特徴とする請求項1記載のCNF−Mg合金複合材。
【請求項3】
炭素分布のEPMAイメージにおいて、前記CNFの集合部が、Mg合金部を囲む変形した輪状部上に列をなして点在していることを特徴とする請求項1または2記載のCNF−Mg合金複合材。
【請求項4】
CNFの集合部に炭素粒子が混在していることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材。
【請求項5】
CNFの混入量が0.5〜5wt%であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材。
【請求項6】
粒状に粉砕されていることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材。
【請求項7】
粒子状のMg合金材とCNFとを混合し、CNFをMg合金材表面に付着させる工程と、
表面にCNFを付着させたMg合金材を真空中でホットプレスして複合材に形成するホットプレス工程を含むことを特徴とするCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項8】
ホットプレスして得られた複合材を粒状に粉砕する工程を含むことを特徴とする請求項7記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項9】
ホットプレスして得られた複合材を真空中で熱間押出し成形する熱間押出し工程を含むことを特徴とする請求項7記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項10】
熱間押出し成形品を粒状に粉砕する工程を含むことを特徴とする請求項9記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項11】
粒子状のMg合金材とCNFとを混合機によりCNFとMg合金材とがぶつかり合うようにして混合することを特徴とする請求項7〜10いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項12】
粒子状のMg合金材の表面にCNFを、CNFの端部がMg合金材の表面に突き刺さるように付着させることを特徴とする請求項7〜11いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項13】
混合機にボールミルを用いることを特徴とする請求項11または12記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項14】
ボールミルに、容器が、鉛直面内で往復円弧動すると共に、軸線が、該鉛直面に対して両側に所要角度で往復回動する三軸方向加振型ボールミルを用いることを特徴とする請求項13記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項15】
直径が1〜400μmのMg合金材を用いることを特徴とする請求項7〜14いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項16】
CNFを0.5〜5wt%混入させることを特徴とする請求項7〜15いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。
【請求項17】
Fe成分が不純物として混入したMg合金材を用いることを特徴とする請求項7〜16いずれか1項記載のCNF−Mg合金複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−52077(P2009−52077A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218960(P2007−218960)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月1日 長野県、財団法人長野県テクノ財団、国立大学法人信州大学、ナノテク・フォーラム長野主催の「長野・上田地域知的クラスター創成事業報告会」において発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【出願人】(504469776)MEFS株式会社 (13)
【Fターム(参考)】