説明

CNS疾患の治療において使用するためのプレグナンステロイド

【課題】3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイドの特異的遮断薬を同定すること、並びにステロイドに関連する及び/またはステロイドにより誘導されるCNS疾患の治療、緩和または予防のための新規薬剤及び方法の提供。
【解決手段】ヒドロキシまたはサルフェート基のどちらかの形態で3ベータ位置に水素供与体をもつステロイド化合物は3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド作用の有効な遮断薬として機能するので、またはステロイドに関連するCNS疾患の治療物質として有用である。これらの物質の投与をベースとする治療法を開示し、これらの物質を単独または組み合わせて多くの具体的なステロイドにより誘導されるCNS疾患の治療用医薬品の製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、中枢神経系(CNS)のステロイド関連及び/またはステロイド誘導性疾患の治療、緩和または予防に関し、特にこの目的のための特定のステロイド化合物、前記治療のための医薬品の製造に関するそれらの使用、並びに治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
プレグネノロン、プロゲステロン;プレグナノロン類として公知のデスオキシコルチコステロン、コルチゾン及びコルチゾールの代謝産物、並びにテストステロン、アンドロステンジオン及びデヒドロエピアンドロステロンの代謝産物は、全て種々の研究対象となっていて、哺乳類の神経シグナル系での役割が少なくとも部分的に解明されている。
【0003】
本発明において重要なCNSの症状及び疾患を誘発するステロイド類は全て、3アルファ-ヒドロキシ基、5アルファまたは5ベータプレグナンステロイド主部と、17または20の位置にケトンまたはヒドロキシ基とを含む共通の特徴をもつ。
【0004】
3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-20-オン/オールまたは3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-アンドロスタン-17-オン/オール成分を含むステロイド類は全て、ガンマ-アミノ酪酸(A)レセプター(GABA-A)の重要な特異的エンハンサーであることが判明している。これらはGABA-Aレセプターに結合し、このGABA-Aレセプターの開口頻度とその開口期間におけるGABAの作用を促進させることによって作用する。この作用は、ベンゾジアゼピン類及びバルビツール酸塩のいずれの作用にも似ている。しかしながら、このステロイド化合物は、これらの化合物のどちらとも異なる結合部位をもつ。そのようなステロイドの例及びケミカルアブストラクト登録(Chemical Abstract Registry)/シカゴ科学アカデミー(Chicago Academy of Science:CAS)に従った番号を表1に示す。
【0005】
このステロイドの名称は完全には一致しないので、国際純正・応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry:IUPAC)により作成された名称を本明細書で使用することとする。
【0006】
【表1】

【0007】
これらのステロイドの数種は、高い薬用量で知覚麻痺を誘発する能力があることが知見されている。また、これらは抗てんかん薬として、または催眠剤として使用することもできる。これらの化合物の数種は、動物実験で不安緩解作用を持つことも知られている。しかしながら、これらの効果を得るには、高濃度または高用量が必要である。さらに、これらは急性作用として現れる。
【0008】
これらの直接的CNS作用に関しては、これらの化合物はベンゾジアゼピン類及びバルビツール酸塩に似ている。しかしながら、これらは通常ベンゾジアゼピン類及びバルビツール酸塩に関連する同様の副作用ももつ。この内因性の3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-20-オン-ステロイド類または3アルファ-ヒドロキシ-アンドロスタン-ステロイド類の副作用は、これらのステロイドにより誘発される負のCNS作用の根拠である。この3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類と3アルファ-ヒドロキシ-アンドロスタン-ステロイド類は内因的に産生され、その幾つかは生命現象に本質的なステロイドホルモンの代謝物であるので、その産生を容易に妨害することはできない。これらのステロイド類は、月経周期の黄体期、すなわち、妊娠の間及びストレスの間、成熟卵胞から卵子を放出した後の数日間〜数週間に大量に産生される。これらは脳内でも産生される。
【0009】
3アルファ-ヒドロキシ-ステロイド類により生ずる疾患
内因的に産生された3アルファ-ヒドロキシ-5アルファステロイド類または3アルファ-ヒドロキシ-5ベータステロイド類のGABA-Aレセプターに対する作用によって生じる疾患は、十分に特徴付けられ理解されている。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類は、暴露後に自分自身と他の同様の物質とに対する耐性を誘発し、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の使用中止で禁断症状が起きることも公知である。まとめると、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類は、上記の三種類の考え得るメカニズム:a)直接作用、b)耐性誘発及びc)使用中止効果によってCNS疾患を引き起こすことが知られている。これらのメカニズムについて以下、詳細に記載する。
【0010】
a)直接作用
3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類はCNS機能の阻害を直接引き起こし得ることが認められている。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の直接作用により生ずる症状の例としては、鎮静、倦怠感、記憶障害、学習障害、運動機能障害、不器用、食欲増進及び食物渇望、緊張としての負の気分、月経前症候群の主症状である神経過敏及び鬱、並びに小発作の悪化が挙げられる。この直接作用の例は、鎮静と知覚麻痺の作用;運動機能障害;認知機能、記憶及び学習の作用;小発作の悪化;月経前症候群;気分の変化;試験動物における不安の誘発;過食及び食欲増進;食物渇望などに分類することができる。
【0011】
b)耐性
3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドに連続且つ長期にわたって暴露されると、GABA-Aレセプター系の機能不全が引き起こされる。耐性が起き、この耐性は、最終的にはストレス過敏症、集中力欠如並びに、インパルス制御の欠乏及び鬱となるプロセスの初期段階である。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドの作用は、薬物依存症を強める因子であることも知見された。これは広範囲な調査の中心となってきている。以下のテーマ:多量の3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータステロイド類を長期分泌した後のダウンレギュレーション及び低いGABA機能;PMSにおける低いベンゾジアゼピン及び3アルファ-ヒドロキシ-5ベータステロイド感受性;並びに依存性の誘導が、これまでの研究の主題であった。
【0012】
c)禁断
3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類に連続的ではあるが短期間暴露すると、暴露終了時には禁断症状が出る。言い換えれば、この現象は、月経の間に卵巣の黄体による3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の産生が妨害されるときに起きる。この禁断現象は、出産後(分娩後)に胎盤による3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド産生が妨害されるときにも起きる。同じ現象は、ストレス期間が終了するときにも確認される。ストレスに対する応答として、副腎は3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類を産生している。この産生が妨害されると、禁断症状が起きることがある。
【0013】
この使用中止/禁断現象により影響を受ける症状の例としては部分てんかんがあり、患者は大脳皮質にてんかん焦点をもち、月経の間の禁断期間に悪化する。この現象は、「月経随伴性てんかん」という。他の例としては、月経に関連した偏頭痛、ストレスに関連した偏頭痛、及び分娩後の気分の変化がある。禁断は、先に発現した耐性の兆候である。
【0014】
経口避妊薬、閉経後のホルモン補充療法、炎症性疾患のステロイド治療としてステロイドホルモンを使用する治療の間に、及びタンパク質同化/男性ホルモンステロイドの摂取の間に、同様の症候及び症状が誘発される。このメカニズムは、直接作用、耐性発現及び禁断と似ている。
【0015】
従来の技術
プリンス及びシモンズ(Prince & Simmons;ニューロファーマコロジー:Neuropharmacology、第32巻、1部、59〜63ページ、1993年)は、雄のラット脳全体の膜画分に依存したモデルを使用している。全脳のホモジェネートのサブ画分では、著者らはステロイド作用及びGABA-Aレセプターコンフォメーションの変化のモデルとして、ベンゾジアゼピン、3H-フルニトラゼパムの結合を使用した。この試験は、GABA-Aレセプターのアロステリッ
ク調節の指標として提案されている。しかしながら、フルニタゼパム(FNZ)結合における変化と、GABA-刺激における塩化物フローの変化との間の関係は不透明で、結合変化は、GABA-Aレセプターを介する塩化物フローの変化またはGABA-Aレセプター機能における変化の証拠とは見なすことができない。塩化物フローにおける変化は重要な作用である。
【0016】
核心となる問題、すなわちFNZ-結合における変化と神経敏感性との間に関係があるかどうかという問題は、もっとはっきりしておらず、FNZ-結合での結果からはそのような結果は得ることができない。FNZ-結合での変化または結合特性におけるそのような変化が無いことは、GABA-A媒介の塩化物フローまたは神経作用における変化の有無を示唆しない。
【0017】
GABA-Aレセプターが、多様に組み合わせることができる幾つかのサブユニットを含むことも公知である。特定の組み合わせはステロイド認識部位を欠いていることが知られている。痙攣性物質TBPS(t-ブチルビシクロ-ホスホロチオネート)の結合におけるステロイド
の作用は、種々の脳の領域で異なることも公知である。さらに、TBPSの結合は、卵巣ホルモン産生に関連する作用変化を示している雌のラットの発情周期によって変化することが知られている。発情周期に関連するこれらの変化は、プリンス及びシモンズ(上掲)の研究で使用されたように、もちろん雄のラットでは見ることができない。
【0018】
ボルガー(Bolger)らの米国特許第5,232,917号及びウパサニ(Upasani)らの米国特許第5,939,545号は、多くの3アルファ-ヒドロキシステロイド類を開示している。これらの特許はいずれも、GABA-Aレセプターの作動的調節に関する。言い換えれば、この特許は3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類のベンゾジアゼピン様作用に注目している。GABA-Aレセプターの調節剤である全てのステロイドは、一つの3アルファ-ヒドロキシ構造という共通の特徴をもつ。これらの文献で述べられているこの3ベータ-ヒドロキシステロイド類は、この3アルファ-ヒドロキシ-ステロイド類が特異的であることを示すための対照として使用されているだけであった。3ベータ-ヒドロキシ構造だけをもつステロイド類は、GABA-Aレセプター調節作用を持つとは示されたことはなかった。効果的なGABA-Aレセプター-調節作用が認められている全ての場合において、ステロイドは3アルファ-ヒドロキシ基をもつ。
【0019】
PCT国際公開第WO99/45931号(バックストローム及びワング:Backstrom & Wang)は、一つの特定のステロイド、すなわち3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの拮抗作用について開示しているが、本出願で記載されている他の3ベータ-ヒドロキシ-ステロイド類及び3ベータ-サルフェートプレグナンステロイド類については何も記載していない。
【0020】
3アルファ-OH-5アルファ/ベータ-プレグナン-20-オンに対する3ベータ-OH-5アルファ-プレグナン-20-オンの拮抗作用は、最初にワング(Wang)ら[Wang MD.、Backstrom T.及びLandgren S.、(2000年)、The inhibitory effects of allopregnanolone and pregnanolone on the population spike, evoked in the rat hippocampal Cal stratum pyramidale in vitro, can be blocked selectively by epiallopregnanolone.Acta Physiol Scand 169、333〜341ページ]により開示された。この論文では、3アルファ-OH-5アルファ/ベータ-ステロイド類の二種類に対する3ベータ-OH-5アルファ-プレグナン-20-オンの用量依存性拮抗作用が記載されている。
【0021】
生理学的に安全且つ好適であり、さらに生理学的に許容可能な用量で適用可能な、3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイドの特異的遮断薬を見いだすという課題が相変わらず存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、本発明の一つの目的は、そのような特異的遮断薬を同定すること、並びにステロイドに関連する及び/またはステロイドにより誘導されるCNS疾患の治療、緩和または予防のための新規薬剤及び方法を利用できるようにすることである。
【0023】
さらなる目的、関連する問題解決方法及びその好都合な点は、本明細書の記載、実施例及びクレームを把握した当業者には自明であろう。
【課題を解決するための手段】
【0024】
発明の概要
本発明者らは、ヒドロキシ基またはサルフェート基の形で、3ベータの位置に水素供与体をもつステロイド化合物は、意外にも3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド作用の有効な遮断薬として機能し、このことにより、ステロイドに関連するかまたはステロイドにより誘発されるCNS疾患の予防及び/または治療用の治療薬として有用であることを知見した。
【0025】
本発明者らは、ステロイドに関連するかまたはステロイドにより誘発されるCNS疾患の予防及び/または治療に使用するため、及びこの目的に関する薬品を製造するための物質として7種類の化合物、すなわち、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェート(表2)を開示する。
【0026】
本発明の一側面は、3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイドの作用に対する遮断物質として上記化合物を治療で使用することである。さらに、これらの物質は、本明細書に含まれる請求の範囲に従って、ステロイドに関連するか、またはステロイドにより誘発される多くの特定のCNS疾患の治療のための薬品の製造に、及び治療方法に有用であることが示唆される。
【0027】
図面に関する簡単な記載
本明細書に含まれる表と付記図面を参照して、本発明を以下の記載及び実施例で詳細に記載する。
【0028】
図1は、GABAの投与量を増加させた際の塩化物取り込みにおける平均(SEM)パーセント変化を示す。これらの結果は、塩化物の取り込みがGABA依存性であり、且つ使用した方法が目的通り機能していることを示している。
【0029】
図2は、10μMのGABAの存在下での、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン単独(nM、X-軸)の投与量を増加させた際の塩化物取り込みにおける平均(SEM)パーセント変化を示す。二番目の線は、10μMのGABAと、30μMの3ベータ,20ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011(CAS No.516-53-0)の存在下での、3-アルファ-ヒドロキシ5-アルファ-プレグナン-20-オン(nM、X-軸)の投与量を増加させた際の塩化物取り込みにおける平均(SEM)パーセント変化を示す。この図は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンによって誘発される塩化物取り込みの増加が、30μMの3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011(CAS No.516-53-0)によって遮断されたことを示す(p<0.001)。
【0030】
図3は、6日間(X-軸、日)にわたる一連の試験の間のモリスの水迷路(Morris Water Maze)に隠した踏み台を一群のラットが見つけられるまでの平均(SEM)待ち時間(Y-軸、秒)を示す。ラットはそれぞれ1日当たり4回試験する。対照のラットと、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011のみを与えたラットは、学習して訓練3日目に踏み台を見つけ、水に離された際に真っ直ぐ踏み台に泳ぎ着いた。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンを与えられたラットは、6日間でも有意に学習しなかった。この3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの作用を3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011で遮断すると、ラットは訓練4日目で有意に学習し始めた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、GABAの投与量を増加させた際の塩化物取り込みにおける平均(SEM)パーセント変化を示す。
【図2】図2は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの投与量を増加させた際の塩化物取り込みにおける平均(SEM)パーセント変化を示す。
【図3】図3は、モリスの水迷路に隠した踏み台を一群のラットが見つけられるまでの平均(SEM)待ち時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明を記載する前に、本発明の範囲は、請求の範囲とその等価物によってのみ限定されるものであるので、本明細書で使用する用語は、特定の態様を記載する目的だけのものであって、限定するものではないことを理解すべきである。
【0033】
特に、本明細書及び請求の範囲で使用するように、単数形の「a」、「an」及び「the」なる表示は他にはっきりと示さない限り、複数形を含むものとする。
【0034】
以下の記載において、「ステロイドに関連する疾患」などにおけるように、「ステロイドに関連する」及び「ステロイドにより誘発される」なる用語は、中枢神経系に対してステロイドが作用する3つの考えられるメカニズム:a)直接作用、b)耐性誘発及びc)禁断症状を包含するものとする。そのような疾患の例は先に列記したが、これらはそれぞれのメカニズムを説明するものであって、本発明を限定するものではない。
【0035】
「遮断」なる用語は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドがGABA-Rレセプターに作用しないようにする効果を定義する。「遮断」とは、その作用がなお起きているが低い程度またはゆっくりした速度で起きている「調節」若しくは「抑制」または同様の用語によって意味されるものとは全く異なる作用であると考えられる。
【0036】
「医薬組成物」なる用語は、少なくとも一種の活性物質と、任意のキャリヤ、アジュバント、成分などを含む医薬的に適用可能な組成物を全て含む、最も広い意味で使用する。「医薬組成物」なる用語は、誘導体またはプロドラッグ、たとえば医薬的に許容可能な塩、硫酸塩及びエステルの形態で前記活性物質を含む組成物も含む。種々の経路で投与するための医薬組成物の製造も、生薬化学の当業者の能力の範囲内である。
【0037】
「投与」及び「投与形態」並びに「投与経路」なる用語も、最も広い意味で使用する。本発明の医薬組成物は、局部投与、表面投与、または全身投与が治療すべき症状に最適であるかに大きく依存して、多くの方法で投与することができる。これらの種々の投与形態としては、たとえば局所(たとえば皮膚に)、局部(たとえば目、及び種々の粘膜、たとえば膣及び直腸送出)、経口または非経口及び肺、たとえば上下気道がある。
【0038】
そのような組成物及び製剤の製造は、通常、医薬及び製剤業界の当業者に公知であり、本発明の組成物の製造に適用することができる。
【0039】
「拮抗薬」なる用語は、もう一つの物質、すなわち作用薬がその効果を誘導することを妨げる物質を意味する。本明細書において、「拮抗薬」と「遮断薬」とは、同時に使用する。
【0040】
本発明は意外にも、3ベータ位置に水素供与体を持つ医薬的に好適且つ実質的に適用可能な用量のステロイド類は、インビトロで3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の作用を遮断し、したがって3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の負の作用の発現を遮断できることを知見した。CNS疾患の発現における3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の作用のメカニズムと、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類との相互作用における3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナンまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネンステロイド類の作用のメカニズムの両方について取り組んだ。
【0041】
そのような化合物の例を表2に示す。
【表2】

【0042】
本発明は、3ベータの位置に水素供与体、特にヒドロキシ基またはサルフェート基をもつ全てのステロイド類に関し、表2に記載の3ベータ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類及び3ベータ-サルフェート-プレグナン-ステロイド類を例示する。本発明者らは、これらのステロイド類が拮抗薬であり、中枢神経系(CNS)での3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドの作用を遮断し得ることを知見した。意外にも、表2に記載の3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類及び3ベータ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類及び3ベータ-サルフェート-プレグナン-ステロイド類で同時に処理すると、3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイドで誘導されるGABA-Aレセプターを介する取り込み及び塩化物の流動が阻害される。
【0043】
本発明の利点の一つは、3ベータ-ヒドロキシ-及び3ベータ-サルフェート-プレグナン/プレグネン-ステロイド類、特に3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ, 20アルファ-ジヒドロキシ- 5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートは、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類のGABA-Aレセプター調節作用を効果的に遮断し且つ拮抗するということである。この遮断が薬理学的及び生理学的に好適な濃度で達成されることが特に好都合である。
【0044】
3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類及び3ベータ-サルフェート-5アルファ/ベータ-プレグナン/プレグネン-ステロイド類、特に3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン20-オン-サルフェート、ナトリウム塩は、本発明者らによって、塩化物取り込みのGABA-Aレセプターモデルにおいて、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類の作用を阻害することが示された。このGABA-Aレセプターは塩化物のチャネルであり、このGABA-Aレセプターはチャネルを通る塩化物の流入を変化させることによって、その作用を発揮する。GABA-Aレセプターが開放していて、多量の塩化物の流れが細胞内に入ると、脳内でのニューロン活動は低下することは公知である。流入する塩化物の量と、GABA-Aレセプター活性薬剤の臨床作用との間には関係があることも公知である。
【0045】
ベンゾジアゼピン類及びバルビツール酸塩は、このメカニズムを介してその作用を発揮する。しかしながら、このことはこれらの製剤の副作用の原因ともなっている。本発明の新規且つ意外な知見は、薬理学的及び生理学的許容量で3ベータ-ヒドロキシ及び3ベータ-サルフェート-プレグナン/プレグネン-ステロイド類を投与することによって、塩化物取り込みにおける3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮断し得るということである。この実験で使用したGABA-Aレセプターは、ラットの大脳皮質組織から集めたもので、これはGABA-Aレセプター作用を測定するための脳の代表的な部分である。このモデルで得られた結果は、高等哺乳動物及びヒト患者でも確認できることが高い信頼性をもって仮定できる。
【0046】
上記の如く議論してきたように、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類に関連した多くの症候及び症状があり、この3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド作用を遮断すると、問題となっている症状を治療できるだろう。本発明者らは、そのように遮断するための物質及び方法を利用可能にする。
【0047】
プリンス及びシモンズ(上掲)により報告された実験結果では、間接的なリガンド結合アッセイを使用していた。しかしながら、FNZ-結合だけを研究することによっては、インビボの神経活動で同じ作用が見られるとは仮定できない。このことは、プリンス及びシモンズらの論文でも主張されていない。彼らはステロイド類の結合部位の影響と、これらの部位が同一かどうかを議論しているだけである。これは新しい議論ではなく、ステロイド類の幾つかの結合部位の可能性は初期の発表でも示されていたことである。彼らによって引き出された結論と、その実験設計及びモデルを使用して引き出される可能性のある結論は、このステロイドがFNZの結合を変えて、そのFNZ-結合に相互作用を有するということである。プリンス及びシモンズらの結果からは、神経活動および臨床結果における作用の結論を引き出すことができない。
【0048】
本発明者らは、意外にも、医薬的に好適で利用可能な用量の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド及び3ベータ-サルフェート-プレグナン/プレグネン-ステロイド類、特に3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートは、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の作用を遮断し、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の負の作用の発現を遮断し得ることを示した。本発明者らは、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類により生じた疾患の背後の作用メカニズム、及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナンまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドと3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類との相互作用の背後の作用メカニズムのいずれをも決定した。当業界では、この3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類は、三つの起こり得るメカニズム:a)直接作用、b)耐性誘発、及びc)禁断症状によってCNS疾患を引き起こすことが確立されている。
【0049】
また、本発明は、3ベータ位置に水素供与体を持つステロイド類、特に3ベータ-ヒドロ
キシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-20-オン-ステロイド類及び3ベータサルフェート-5アルファ/ベータプレグナンまたはプレグネンステロイド類、たとえば3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの作用の基礎をなすメカニズムに関する。本発明は、これらの特徴を持つ化合物、またはこれらの物質の機能に似た機能的類似体を同定且つ合成することを可能とする。
【0050】
本発明の一態様は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の作用を遮断し、したがって3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類の負の作用の発現を遮断し得る物質である薬剤候補物質をスクリーニング、単離または合成するためのプロセスであって、上記例示の化合物と構造的または機能的類似性をもつ化合物を、スクリーニング若しくは単離における選択基準として、または合成での最終生成物を確認するための基準として使用する工程を含む、前記プロセスである。本発明のもう一つの態様は、このプロセス工程を使用して同定または合成した化合物を包含する。
【0051】
これらの物質は、治療薬として及び、治療用物質の製造の成分として有用である。3ベ
ータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-20-オンの特徴を含む物質は、3アルファ-5アルファ/ベータ-ステロイド類により生じた作用、特にGABA-Aレセプター調節作用に対する遮断薬または拮抗薬として有効である。
【0052】
先に開示された発明、たとえばボルガー(Bolger)らの米国特許第5,232,917号及びウパサニ(Upasani)らの米国特許第5,939,545号と比較して、本発明者らの知る限りでは、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-ステロイド類は、GABA-Aレセプターの調節剤であると示されたことも、正の(促進性)調節剤でも負の(阻害)調節剤であると示されたこともなかった。その上、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類または3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイド類を、GABA-Aレセプターを調節する3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の拮抗薬または遮断薬として使用することは試験されたことがないようである。重要なことは、本発明では、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-20-オン-ステロイド類または3ベータ-サルフェート-5アルファ/ベータ-プレグナン-20-オン-ステロイド類がGABA-Aレセプターの調節剤であるとは提案していない。本発明の重要な特徴は、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナンまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイド類は、拮抗薬または遮断薬として有用であることと、これらは3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類による作用を阻害するということである。
【0053】
ボルガー(Bolger)らの米国特許第5,232,917及びウパサニ(Upasani)らの米国特許第5,939,545号は、その特許でも、その対応する科学刊行物[Lan N.C.、Gee K.W.、BolgerM.B.及びChen J.S.(1991年)、Differential responses of expressed recombinant human gamma-aminobutyric acid A receptors to neurosteroids. Journal of Neurochemistry、57巻(5):1818〜1821ページ]においても、いずれの3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドもGABA-Aレセプターの調節剤であるとは開示していない。
【0054】
従って、本発明の一般的な側面として、本発明者らは、ヒトGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮蔽し得る化合物を利用できるようにする。この化合物は、ヒドロキシ基及びサルフェート基の中から選択される基の形態で3ベータ位置に水素供与体を持つ。好ましくは、この化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。
【0055】
本発明のもう一つの側面は、ヒトGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮蔽し得る化合物を含む医薬組成物であって、この化合物は、ヒドロキシ基及びサルフェート基の中から選択される形態で3ベータの位置に水素供与体を持ち、前記化合物は、場合により医薬的に許容可能なキャリヤと混合して、医薬的に有効量で配合される。好ましくは、前記化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で配合される。
【0056】
本発明のもう一つの側面は、ヒト患者においてステロイドに関連するCNS疾患の治療及び/または予防のための一般的な方法であって、ここでヒトGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮断し得る少なくとも一種の化合物を前記患者に投与する。好ましくは、前記化合物はヒドロキシ基及びサルフェート基の中から選択される基の形態で3ベータの位置に水素供与体をもち、最も好ましくは、前記化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。好ましくは、前記化合物は、医薬的に許容可能な塩の形態で使用され、最も好ましくはナトリウム塩である。
【0057】
本発明に従って、前記少なくとも一種の化合物は、以下の投与経路:静脈内、鼻腔内、経直腸的、膣内、経皮及び経口的の一つによって投与する。好ましい一態様に従って、少なくとも一つの前記ステロイドを静脈投与する。もう一つの好ましい態様に従って、少なくとの一つの前記ステロイドを鼻腔投与する。
【0058】
鼻腔投与は、患者による自己投与の可能性及び容易性という利点があるので、特に有望な選択肢である。自己投与には、患者の症状の主観的な評価に従って、または治療する医師によって処方されたスケジュールに従って、薬物療法の頻度または用量を患者が調節できるという好都合な点がある。「治療する医師によって処方されたスケジュール」なる用語は、質問票または範囲若しくはスケールによる助けを任意に利用して、あるいは次の好適な用量を示すアルゴリズム若しくはコンピュータープログラムを使用して、患者が彼/彼女の症状の主観的評価をする選択肢を含む。
【0059】
クリーム、ゲル及び軟膏または徐放性粘着性薬剤パッチの形態で配合した物質を使用する経皮投与は、同様に自己投与に好適な実行可能な投与形である。上記の自己投与の好都合な点は、経皮投与にも当てはまり、この経皮投与は、たとえば薬剤パッチを剥がすことによって、所望によりまたは必要により、容易に中断することができる。
【0060】
これら及び他の投与経路のいずれにおいても、本発明の組成物の製剤は、慣用され且つ当業者に公知の好適なアジュバント及びビヒクルと一緒に、選択した経路に好適な化学薬品の形態で有効な薬剤を含む、通常の薬理学手順に従って適合または調節することができる。
【0061】
経口投与に好都合に使用されるアジュバント及びビヒクルは、たとえば酸化チタン、無水ラクトース、シリカ、コロイダルシリカ、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶質セルロースなどのフィラーまたは懸濁剤である。
【0062】
静脈投与に好都合に使用されるアジュバント及びビヒクルは、注射用滅菌水(WFI)、滅菌緩衝液(たとえば溶液をpH7.4に緩衝する)などである。
【0063】
経皮投与に好都合に使用されるアジュバント及びビヒクルは、たとえばワセリン、液体パラフィン、グリセロール、水などである。
【0064】
用量は、投与形態、治療すべき特定の症状または所望の効果、患者の性別、年齢、体重及び健康、並びに治療する医師によって判断される他の因子に依存して当然、変動する。本発明に従って、少なくとも一種の前記ステロイドを静脈投与するとき、好適な範囲(interval)は、体重1kg当たり約0.2〜200mgである。動物での予備研究から、静脈投与の好ましい範囲は、体重1kg当たり20〜100mgである。
【0065】
他の投与形態に関する相当する用量範囲は、当業者により容易に計算することができ、必要により、日常的な動物試験または臨床前若しくは臨床研究で検証することができる。
【0066】
本発明の一態様は、ステロイドに関連するか、またはステロイドにより誘発されるCNS疾患、特に月経前症候群の治療方法であって、本発明に従った少なくとも一種の物質を投与することによって耐性の発現を阻害し、且つGABA-Aレセプターのダウンレギュレーションを阻害する。この治療は、このGABA-A系の感受性を保護し、且つ黄体期の間の感受性の低い状態の発現を阻害するだろう。ラットでは長期にわたるプロゲステロン治療の間にGABA-Aレセプターの変化があることが判明している。本発明に従って3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類または3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイド類で治療すると、耐性発現の阻害を開始し、従って3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の使用を辞めたときの禁断症状を止める。
【0067】
耐性が発現すると、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンまたはベンゾジアゼピン類などにより内因的に産生されたGABA-A促進物質に対する感受性を低下させるだろう。薬剤を急に取り除くと、月経周期の黄体期終期のように、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-ステロイド類の使用中止後にリバウンド作用が出る。そのような状況は、ステロイド類の産生終期及び使用中止直後の月経の間に、偏頭痛及びてんかん性発作が多くなることがヒトで知見されている。
【0068】
従って、本発明のもう一つの態様は、本発明に従った少なくとも一種の物質を投与することによって、耐性の発現及び/または禁断症状を治療または予防する方法である。
【0069】
さらに本発明は、上記のヒト患者において、ステロイドに関連するか、またはステロイドにより誘発される疾患の治療及び/または予防のための方法であって、この方法にしたがって、少なくとも一種の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドを前記患者に投与する。好ましい前記ステロイド化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11, 20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。最も好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0070】
好適な投与経路は、たとえば、静脈的、鼻腔、直腸的、膣内、経皮及び経口が挙げられる。
【0071】
しかしながら、多くのCNS疾患の治療のため及び抗麻酔剤として使用するためには、効果的な単数または複数種類の化合物を静脈投与するのが好ましい。
【0072】
静脈投与の場合の本発明の好適な用量は、約0.2〜約200mg/体重kg、好ましくは約20〜約100 mg/kgの範囲の用量である。
【0073】
上記の如く、本発明の製剤は、通常の薬理学的手段に従って適応または調節することができる。さらに、その用量は、投与形態、治療すべき特定の症状または所望の効果、患者の性別、年齢、体重及び健康、並びに治療する医師により判断される他の因子に依存して当然変動する。
【0074】
さらに、本発明は、ヒト患者においてステロイドに関連するか、またはステロイドにより誘発されるCNS疾患の治療及び/または予防のための方法を包含し、この方法にしたがって、一種以上の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類(表2を参照)を前記患者に医薬的且つ生理学的に許容可能な用量で投与する。好ましくは、前記ステロイド化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。最も好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0075】
3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の直接作用により生じた症候及び症状の例としては、鎮静、倦怠感、記憶障害、学習障害、運動機能障害、不器用、食欲増進及び食物渇望、緊張としての負の気分、神経過敏及び鬱があり、これらは月経前症候群の主症状及び小発作の月経前悪化である。
【0076】
長期(日)に3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類に暴露した後の耐性発現により生じた症状及び症候としては、たとえばストレス過敏症、集中力欠如、ストレスまたは月経周期に関係した集中力欠如、睡眠障害、倦怠感、インパルス制御の欠如及び鬱がある。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類は、薬物依存性も高める。本発明に従って、これらの症状または症候は、少なくとも一種の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドを患者に投与することによって、抑制、緩和または治療することができる。好ましくは、前記ステロイド化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。最も好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0077】
3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類に連続的ではあるが短期間暴露すると、暴露を停止したときに禁断症状が出る。この現象は、月経の間に卵巣の黄体によって3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類の産生が中断されるときに起きる。この禁断症状は、出産(分娩)後に胎盤によって3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド産生が中断されるときにも起きる。同じ現象は、ストレス期間が終了し、ストレスの間に副腎によって産生される3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイド類が中断されるときにも見られる。この使用中止/禁断症状により影響を受ける症状の例としては、患者が大脳皮質にてんかん焦点をもつ部分てんかんがあり、月経の間の禁断期間に悪化する。この現象は、「月経随伴性てんかん」という。他の例としては、月経に関連した偏頭痛、ストレスに関連した偏頭痛、及び分娩後の気分の変化がある。禁断は、先に発現した耐性の兆候である。
【0078】
ステロイドに関連するか、またはステロイドにより誘発されると考えられるそのような疾患の例としては、以下のもの:てんかん、月経周期依存性てんかん、鬱、ストレスに関連する鬱、偏頭痛、倦怠感、特にストレスに関連する倦怠感、月経前症候群、月経前不快気分障害、月経周期に関連する気分の変化、月経周期に関連する記憶の変化、ストレスに関連する記憶の変化、月経周期に関連する集中力欠如、月経周期に関連する睡眠障害、及び倦怠感がある。これらは、肥満及び食欲増進、並びに平衡障害のいくつかの症状がステロイドに関連するか、またはステロイドに誘発されるものであるという強い兆候である。従って本発明は、これらの症状の治療、緩和または予防のための物質及び方法を提供する。
【0079】
多くの女性を悩ませる問題に取り組んでいる、本発明の好ましい一態様は、ヒト患者において閉経後の治療の副作用の治療及び/または予防法であって、この方法にしたがって、少なくとも一種の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドを前記患者に投与する。好ましくは、前記ステロイド化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン,3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。最も好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0080】
本発明のもう一つの好ましい態様は、ヒト患者での経口避妊薬の副作用の治療及び/または予防であって、この治療では、少なくとも一種の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドを前記患者に投与する。好ましくは、前記ステロイド化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。最も好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0081】
本出願において、上記列記の3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類または3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイド類の少なくとも一種の有効な組成物を、患者に摂取される経口避妊薬と一緒に投与するのが好ましい。鼻腔及び経皮投与も好適な投与経路である。
【0082】
従って、本発明の特定の一態様は、経口避妊薬と、ヒトGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮断し得る少なくとも一種の化学化合物の治療的好適量とを含む医薬組成物であって、前記単数または複数種類の化合物は、3ベータ位置にヒドロキシ基及びサルフェート基の中から選択される基の形態で水素供与体をもつ。好ましくは、前記化合物は、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される。最も好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0083】
さらに、上記態様の範囲内では、ヒトGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮断し得る化学化合物の量は、ストレスまたは月経期間の間の内因性ステロイド類レベルに調節するのが好ましい。本発明に従って、ヒトGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類の作用を遮断し得る化学化合物は、いずれも経口避妊薬の副作用を緩和若しくは除去するために、内因性ステロイド類の周期的変化の不都合な作用を緩和若しくは除去するために、経口避妊薬に配合することができる。
【0084】
一般に、本発明は、本明細書において記載される3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドに関連するか、またはこれにより誘導される疾患のいずれか一つ、特に以下に記載のもの:てんかん、月経周期依存性てんかん、鬱、ストレスに関連する鬱、偏頭痛、倦怠感、特にストレスに関連する倦怠感、月経前症候群、月経前不快気分障害、月経周期に関連する気分の変化、月経周期に関連する記憶の変化、ストレスに関連する記憶の変化、月経周期に関連する集中力欠如、月経周期に関連する睡眠障害及び倦怠感の一つまたは幾つかを治療または予防するための医薬品を製造するために、単独または組み合わせて、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイドまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイド、特に、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートを使用することを包含する。好ましくは、前記化合物は、好適且つ医薬的に許容可能な塩、最も好ましくはナトリウム塩の形態で使用する。
【0085】
実施例
本発明は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナン-ステロイド類に対する3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナンまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドの遮断作用を確認するために実施したインビトロ実験に基づく。このインビトロ試験からの結果は、本発明者らによって目下計画されたインビボ試験で確認することとなっている。しかしながら、一つの動物実験から既に、生きている実験動物でも驚くべき遮断作用が得られている。
【0086】
皮膚組織ホモジェネート研究
これらの実験では、成熟した雄のラットからの皮膚組織を緩衝液中でホモジェネートした。これらの手順の結果として、小疱(small vesicle)の懸濁液が形成し、この小疱はその表面にGABA-Aレセプターをもっている。放射性の塩化物をこの懸濁液に添加すると、ある特定量が小疱に入る。この量は、GABA-Aレセプターがどれだけ多く開口しているかに関連する。このレセプターを開口させる薬剤は、薬剤の用量に関連して小疱中の塩化物の量を増加させるだろう。同様にGABA-Aレセプターを閉鎖させる薬剤は、小疱に入っていく塩化物の量を低下させる。小疱外部の標識化塩化物を洗い流し、内部の塩化物から分離した。その後、小疱内部の放射活性の塩化物の量を流体シンチレーターで測定し、曲線を引いた。
【0087】
実験毎に、GABAの対照の量を増加させていって、組織サンプルが正しく機能しているかを保証した。そのような多くの対照の結果を図1に示す。第二の対照を使用して、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの量を増加させることにより10μMのGABAの作用を促進させた。そのような幾つかの対照の結果を図2に示す。図2では、遮断するステロイド類の一例を示している。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの作用は遮断され、移動している塩化物の量は、10μMのGABA単独で使用したときの量と差はなかった。
【0088】
表3は、遮断作用を示す3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナンまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイドの概要を示す。このステロイド類の一つ、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン、UC1010は、特許出願第WO99/45931号に開示されたものであるが、完全を期すためだけにここに含めた。もう一種のステロイド、3ベータ-ヒドロキシ-デルタ5-プレグネン-20-オン、サルフェート、ナトリウム塩(UC1018)は、GABA-Aレセプターに加えて他のCNSレセプターに付加作用があるので、ヒトでの薬物治療には適しておらず、完全を期すためだけにここにも含めた。
【0089】
表3は、公知のGABA-A作動薬である3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンのみを使用して試験したときの、GABA-Aレセプターを介して取り込まれた塩化物における結果を示す。さらに、表3は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンにより誘発される塩化物取り込みにおける変化の3ベータ-ヒドロキシ及び3ベータサルフェート-プレグナン/プレグネン-ステロイド類による遮断作用を示す。作用は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンを使用せず10μMのGABAだけを使用した取り込み(この場合には測定値100%となる)からの変化の割合で示す。3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンを加えたときの塩化物取り込みの平均の増加は167.7%であり、一方、拮抗薬の存在下での変化は100%の値に対し有意差がなかったことは注目に値する。このことは、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-プレグナンまたは3ベータ-サルフェート-5アルファ/デルタ5-プレグナン/プレグネン-ステロイド類が、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの作用を効果的に遮断したことを示す。
【0090】
全ての場合において、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンは、量を増加させて、1=0、2=50、3=100、4=150、5=200、6=1000、7=3000nM+10μM GABA+相互作用するステロイド30μMで行った。H=高い、S=有意差あり、NS=有意差なし。繰り返し測定で実施した統計試験ANOVAの後、LSD法(lest significant difference test)を行った。
【0091】
【表3】

【0092】
インビボ動物試験
モリス水迷路モデルを使用する動物実験を実施した。モリスの水迷路モデルでは、試験動物の学習能力を観察することができる。試験動物、通常はラットを、一箇所に台がある、水の入った容器に入れる。この台は水面より少し下にあり、台を見つけるまでラットは泳がなければならない。次の試験セットでは、ラットは部屋の壁のマークを見ることによってどこに台があるかを学習するだろう。CNS抑制性の3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-ステロイド類を投与することによって、この学習プロセスは負の影響を受けることは公知である。(Johansson I.M.、Birzniece、Lindblad C.、Olsson T及びBackstrom T.(2002年)、Allopregnanolone inhibits learning in the Morris water maze.Brain Res 934巻、125〜131ページ)。
【0093】
この結果(図3)は、本発明の化合物を投与することによって、この負の作用が除去または軽減することを示している。3アルファ-ヒドロキシ-プレグナン-20-オンを学習阻害物
質(CAS番号516-54-1、表1)として、及び3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011(CAS番号516-53-0、表2及び3)を遮断物質として使用して実験を実施した。ラット(n=46)に毎日、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011 20mg/kg(n=14)、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン 2mg/kg(n=14)、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン+3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC10112 20mg/kg(n=14)またはビヒクル(n=4)を(静脈)注射した。動物は毎日4回の水泳試験を受けて、試験毎の最大水泳時間は120秒とした。ラットは、6日間にわたり、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン注射を注射した8分間後に泳ぎを開始した。ラットの動作性をビデオカメラでモニターし、データを偏差(ANOVA)分析、続いて後の試験で分析した。
【0094】
先に示したように、化合物3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンは、空間学習を阻害する。台を見つけるまでの待ち時間は、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン群で実施したものに関しては6日後でも80秒を超えていた。この3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの群と比較して、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011+3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンの混合物を注射したラットは、待ち時間が短く(p<0.05、4〜6日)、このことは、この群のラットが学習できたことを示している。3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、UC1011だけを投与した群は、対照群(ビヒクル)と同程度に、そして3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オンで処理したラットより早く(p<0.05、3〜6日)学習して台を見つけた。4つの群の速度には有意差は無かった(図3)。
【0095】
本発明をその好ましい態様に関して説明してきたが、この好ましい態様は本発明の最適態様を構成するものであって、本明細書の請求の範囲である本発明の範囲を逸脱することなく、当業者には種々の変更及び修正ができよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者においてステロイド関連CNS疾患を治療、緩和及び/または予防するための方法であって、以下のもの:3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される少なくとも一種類の化合物を前記患者に投与することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記少なくとも一種の化合物を医薬的に許容可能な誘導体の形で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬的に許容可能な誘導体が、前記化合物のナトリウム塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも一種の化合物を、以下の投与経路:静脈内、鼻腔、経直腸的、膣内、経皮及び経口的の一つによって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種のステロイドを静脈投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一種のステロイドを鼻腔投与する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも一種のステロイドを、体重1kg当たり約0.2〜200mgの範囲の用量で静脈投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一種のステロイドを、体重1kg当たり約20〜100mgの範囲の用量で静脈投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ステロイド関連CNS疾患がステロイド関連の気分障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ステロイド関連CNS疾患が、ヒト患者における閉経後のホルモン治療の副作用である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ステロイド関連CNS疾患が、ヒト患者における経口避妊薬の副作用である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ステロイド関連CNS疾患が、ヒト患者におけるステロイド関連の倦怠感である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ステロイド関連CNS疾患が、ヒト患者におけるステロイド関連の記憶障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ステロイド関連CNS疾患が、以下のステロイド関連疾患:てんかん、月経周期依存性のてんかん、鬱、ストレスに関連する鬱、偏頭痛、倦怠感及び特にストレスに関連する倦怠感、月経前症候群、月経前不快気分障害、月経周期に関連した気分の変化、月経周期に関連した記憶の変化、ストレスに関連した記憶の変化、アルツハイマー痴呆、月経周期に関連した集中力欠如、月経周期に関連した睡眠障害及び倦怠感の一つまたはその組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ヒト患者におけるステロイド感覚麻痺の制御及び/または停止方法であって、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファプレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータプレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータプレグナン20オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択される少なくとも一種の化合物を特徴とする、前記方法。
【請求項16】
治療薬を製造するための、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択されるステロイドの使用。
【請求項17】
ステロイドに関連するCNS疾患の治療薬を製造するための、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ- プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択されるステロイドの使用。
【請求項18】
ステロイドに関連する気分障害の治療及び/または予防用治療薬を製造するための、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートから選択されるステロイドの使用。
【請求項19】
閉経後の治療のステロイドに関連する副作用を治療及びまたは予防するための治療薬を製造するための、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択されるステロイドの使用。
【請求項20】
経口避妊薬の副作用の治療及び/または予防のための治療薬を製造するための、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択されるステロイドの使用。
【請求項21】
以下のステロイド関連疾患:てんかん、偏頭痛、鬱、摂食障害、認識障害、運動障害、睡眠障害、ストレスに関連する疾患、月経周期に関連する疾患、月経前症候群、月経前不快気分障害、月経周期に関連する疾患:鎮静、倦怠感、記憶障害、学習障害、集中力欠如、運動機能障害、不器用、食欲増進及び食物渇望、緊張としての負の気分、神経過敏及び鬱、月経前症候群、小発作の月経前悪化、ストレス過敏症、集中力欠如、並びにインパルス制御の欠乏及び鬱;物質依存症、月経周期に関連するてんかん;ストレスに関連する疾患、たとえばストレスに関連する気分の変化、鬱、偏頭痛、倦怠感、特にストレスに関連する倦怠感、ストレスに関連する記憶の変化、鎮静、記憶障害、学習障害、集中力欠如、運動機能障害、不器用、食欲増進及び食物渇望、緊張としての負の気分、神経過敏及び鬱、小発作の月経前悪化、ストレス過敏症、集中力欠如、インパルス制御の欠乏、物質依存症、ストレスに関連するてんかん、アルツハイマー痴呆のストレスに関連する悪化、産後の気分変化のいずれか一つ、またはこれらの組み合わせを治療及び/または予防するための治療薬を製造するための、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択されるステロイドの使用。
【請求項22】
経口避妊薬としてのステロイドホルモンの治療、閉経後のホルモン補充療法、炎症性疾患のステロイド治療及びタンパク質同化/男性ホルモンステロイドの摂取の間の副作用を予防するための治療薬の製造用の、3ベータ,20ベータ-ジヒドロキシ-5アルファ-プレグナン、3ベータ,20アルファ-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン、3ベータ-ヒドロキシ-5ベータ-プレグナン20-オン、3ベータ,21-ジヒドロキシ-5ベータ-プレグナン-20-オン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-11,20-ジオン、3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-アセテート及び3ベータ-ヒドロキシ-5アルファ-プレグナン-20-オン-サルフェートの中から選択されるステロイドの使用。
【請求項23】
薬剤候補をスクリーニング及び同定するための方法であって、薬剤候補の物質をGABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドの作用を遮断する能力に関してスクリーニングして、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドの負の作用の発現を遮断する工程を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項24】
薬剤候補をスクリーニング及び同定するための方法であって、GABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドの作用を遮断し、3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドの負の作用の発現を遮断し得る物質と構造的または機能的に似た物質を選択基準として使用する工程を含む、前記方法。
【請求項25】
GABA-Aレセプターに対する3アルファ-ヒドロキシ-5アルファ/ベータ-ステロイドの作用を遮断する能力を、合成の最終生成物を確認するための基準として使用することを特徴とする、薬剤候補を合成するための方法。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか1項に記載の方法により製造される化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65052(P2010−65052A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256620(P2009−256620)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【分割の表示】特願2003−559519(P2003−559519)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(509347088)ウメクライン コグニション アーベー (1)
【Fターム(参考)】