説明

CO2固定化方法及びCO2固定化用藻類培養装置

【課題】工場排出ガス中や空気中などに含まれるCO2を効率よく工業レベルで固定化する方法、およびそれに使用する藻類培養装置を提供すること。
【解決手段】藻類を入れた培養槽にCO2を供給し、人工光を照射しながら、培養槽内で藻類を培養してCO2を固定化するCO2固定化方法であって、
前記人工光は、波長が380〜780nmであり、強度が1〜400μmol photons/m2/秒となるように制御されることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排出ガス中や空気中などに含まれるCO2を藻類を用いて効率よく工業レベルで固定化する方法、CO2を固定化して目的物質を製造する方法、およびそれらに使用する藻類培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における地球温暖化現象の主要原因の1つとして、産業活動における化石燃料燃焼に由来するCO2の排出が指摘されている。これまでに様々な方法での対策が検討されているが、その1つに光合成生物の培養によるCO2の固定が挙げられる。
【0003】
光合成生物の培養によるCO2の固定は、例えば栄養素を含む培養液を入れた培養槽中に藻体を分散させ、培養槽の底部からCO2を送り込み、太陽光や人工光を利用して藻体を増殖させることにより行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、光合成生物が浮遊性菌体であり、液中の光合成生物の濃度が低く、光合成生物単体では十分にCO2を固定できないことから、光合成生物を無機性または有機性の担持体に付着させることも検討されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
さらに、上述したような液相中での光合成生物の培養に対して、気相中で光合成生物を培養し、二酸化炭素を固定することも検討されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
しかしながら、上述したような光合成生物の培養方法においては要求されるCO2の固定量とそれに必要なコストとの折り合いをつけることが容易でなく、光合成生物の培養によりCO2を固定するプラントの商用的な運用は未だ実現されていない。
【0007】
また、特許文献4には、光合成生物を保持するための培養槽と、前記培養槽に炭酸イオンを含有する培養液を供給する培養液供給手段と、前記培養槽に前記光合成生物の培養に必要な栄養素を供給する補助栄養素供給手段と、前記培養槽から培養液を排出する排出手段とを具備してなる空気中あるいは排気ガス中のCO2を低コストで効率的に生物固定することのできるバイオマス培養槽が開示されている。しかしながら、この培養槽を用いても工業レベルでCO2を効率よく固定化することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−231538号公報
【特許文献2】特開平6−319520号公報
【特許文献3】特開平6−023389号公報
【特許文献4】特開2005−000121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
工場排出ガス中や空気中などに含まれるCO2を効率よく工業レベルで固定化する方法、CO2を固定化して目的物質を製造する方法、およびそれらに使用する藻類培養装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、藻類を入れた培養槽にCO2を供給し、人工光を照射しながら、培養槽内で藻類を培養してCO2を固定化するCO2固定化方法において、人工光の波長を380〜780nmとし、強度が1〜400μmol
photons/m2/秒となるように制御することによって、CO2を効率よく固定化できることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
(1)藻類を入れた培養槽にCO2を供給し、人工光を照射しながら、培養槽内で藻類を培養してCO2を固定化するCO2固定化方法であって、
前記人工光は、波長が380〜780nmであり、強度が1〜400μmol photons/m2/秒となるように制御されることを特徴とする方法。
(2)培養槽に供給されるCO2が、2〜90%のCO2を含有する工場の排出ガスである(1)の方法。
(3)培養液中のCO2濃度が0.01%〜10%となるようにCO2を供給する、(1)または(2)の方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかの方法によりCO2を固定化することによって藻類に目的物質を生成させ、該目的物質を藻類から分離精製して該目的物質を得る、目的物質の製造方法。
(5)藻類を収容して培養可能な培養槽と、前記培養槽にCO2を供給するCO2供給手段と、前記培養槽に前記藻類の培養に必要な補助栄養素を供給する補助栄養素供給手段と、前記培養槽に人工光を照射する薄板状の人工光照射手段とを具備するCO2固定化用藻類培養装置であって、前記人工光照射手段は波長が380〜780nmであり、強度が1〜400μmol photons/m2/秒の光を照射することを特徴とする、CO2固定化用藻類培養装置。
(6)さらに、藻類から目的物質を分離・精製する手段を備えた、(5)のCO2固定化用藻類培養装置。
(7)前記培養槽は、並列又は直列に連結された複数の培養器からなる、(5)または(6)のCO2固定化用藻類培養装置。
(8)前記複数の培養器は、攪拌機能を有する槽型培養器、自然流下を伴う棚段型培養器、布型培養器のいずれかを含む、(7)のCO2固定化用藻類培養装置。
(9)前記人工光照射手段は、人工光源と該人工光源からの人工光を培養器の所定の部位に供給する導光路からなる、(7)または(8)のCO2固定化用藻類培養装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工場排出ガス中又は大気中のCO2の削減に貢献できる。また、藻類が光合成を高効率で行うための最適な光供給条件を実現でき、自然光単独の場合と比べて季節、昼夜、気候の制約無く培養できる。また、需要が低下する夜間の電力活用により発電効率を高めて、省エネルギー、CO2削減に資することができる。
また、本発明の方法によってCO2を固定化することによって藻類により生成された生成物はバイオ由来の原燃料等として、地球温暖化防止、CO2削減に寄与する有益なものである。さらに、培養に使用した藻類は、化学原料、発酵原料、食料、飼料、燃料として利用することもでき、資源の有効利用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法の一態様を説明するブロックフローダイアグラム。
【図2】本発明に使用される培養器の態様を示す図。(A):攪拌機能を有する槽型培養器、(B):自然流下を伴う棚段型培養器、(C):布型培養器。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のCO2固定化方法は、藻類を入れた培養槽にCO2を供給し、人工光を照射しながら、培養槽内で藻類を培養してCO2を固定化する方法であって、前記人工光は、波長が380〜780nmであり、強度が1〜400μmol photons/m2/秒となるように制御されることを特徴とする方法である。
また、本発明の目的物質の製造方法は、前記方法によってCO2を固定化することによって藻類に目的物質を生成させ、該目的物質を藻類から分離精製して該目的物質を得る方法である。
【0015】
以下、図1のブロックフローダイアグラムを参照しながら本発明のCO2固定化方法および目的物質の製造方法について説明する。
【0016】
培養槽は、藻類を収容して培養可能なものであり、当該培養槽にCO2を供給するCO2供給手段と、藻類の培養に必要な補助栄養素を供給する補助栄養素供給手段と、人工光を照射する人工光照射手段が接続されている。培養槽は単一の培養器からなるものであってもよいし、複数の培養器からなるものであってもよい。図1の場合、培養槽は、培養物(藻類および培養液)の移送が可能なように直列に接続された1次培養器、2次培養器および3次培養器からなり、1次培養器で藻類を増殖させ、得られた藻類を2次培養器に移送して2次培養器でさらに増殖させ、2次培養器で得られた藻類を3次培養器に移送して3次培養器でさらに増殖させる。これにより、順次、藻類の数を増加させながらCO2固定を行うことができ、CO2固定の効率がよい。なお、1次培養器と2次培養器を並列にし、それぞれを3次培養器に接続するように培養槽を構成してもよい。
1次培養器から2次培養器に、あるいは、2次培養器から3次培養器に培養物が移送されると1次培養器あるいは2次培養器の液量が減少するので、移送の際には、2次培養器から1次培養器に、あるいは、3次培養器から2次培養器に、循環液が還流する。
【0017】
培養槽(培養器)は藻類を収容して培養可能なものであればよいが、内部を無菌に保つことのできるものが好ましく、また、人工光に加えて自然光も利用する場合は、透明な素材で構成されることが好ましい。無菌に保つことができる培養槽として、具体的には、例えば、培養槽自体を無菌室に収容するもの等が挙げられる。
培養器の形状は特に制限されないが、図2に示すような、攪拌機能を有する槽型培養器、自然流下を伴う棚段型培養器、布型培養器などが例示される。
【0018】
攪拌機能を有する槽型培養器の形状は特に制限されず、一般に使用される槽型培養器を用いることができる。攪拌機能としては、外部磁力により回転する攪拌子や電力で旋回する攪拌翼などが例示される。
【0019】
棚段培養器としては、培養棚と人工光供給棚を交互に多段に配置した培養器が挙げられ、設置面積の制約を解消し、工場敷地を有効活用できる。培養棚と人工光供給棚を交互に配置されているので、培養液で光源の放熱を冷却し、熱回収することができる。
棚段培養器の培養棚1段当たりの培養液深さは1〜500mmが好ましく、培養液濃度は、0.1〜50藻類乾燥wt%とすることが好ましい。また、反射光の活用のため、培養器の内面を反射層、外面を光透過層で囲うことが好ましい。この場合、反射光を培養器内面に配置した蛍光体で、藻類に好ましい波長に変換することが好ましい。上記培養棚及び人工光供給棚は、横向きで積層しても縦向きで積層してもよい。
さらに、この培養棚と人工光供給棚が一体となった、後述する薄板状照明の表面で藻類を培養する態様(以下、これを「薄板培養器」と称することがある)も好ましく用いられる。薄板培養器の培養液の深さは、0.01〜50mmが好ましく、蒸発により減少した水分は適宜補給して、上記培養液の深さを保つことが好ましい。この場合、予め藻類を担持した支持体を上記薄板状照明の上に設置することが好ましい。また、藻類を上記薄板状照明上に所望のパターンと厚みで印刷して種付けすることもできる。
【0020】
布型培養器としては、布の片面または両面に藻類を付着させて培養することのできるものが挙げられ、布状の搬送帯を、培養液に浸漬又は培養液を散布し、次に培養液からこれを取り出し、搬送帯上の藻類に光を当てて培養し且つ搬送する培養器が好ましい。
布状の搬送帯をローラー等を介して折り返して使用すると、培養面積を増やすことができて好ましい。そして、布状の搬送帯の折り返し部の間に人工光照射手段を挿入すると、効率よくCO2固定を行うことができる。また、培養液で光源の放熱を冷却し、熱回収することも可能となる。
布型培養器における培養液濃度は、0.5〜80藻類乾燥wt%とすることが好ましい。布状の搬送帯は無限軌道として循環しても良い。
【0021】
上記のような自然流下を伴う棚段型培養器や布型培養器は藻類を培養する面積を大きくすることができ、CO2固定化量を増やすことができて好ましい。1次培養器として攪拌機能を有する槽型培養器、2次培養器として自然流下を伴う棚段型培養器、3次培養器として布型培養器を用いると、順次、培養面積を増加させることができるので、藻類の数を増加させながらCO2固定を行うのに適している。なお、培養槽は、温度やpHをモニターしたり、制御したりできる機能を備えたものであることが好ましい。温度制御は例えば、特開2005−328732に開示された温度制御ペルチェモジュールを用いて行うことができる。
【0022】
CO2供給手段としては、2〜90%のCO2を含有する工場排出ガス中又は/且つ空気中のCO2を培養層に供給することのできる、圧入管等が挙げられる。また、特開平08-38159に開示されたようなCO2気液混合エジェクターも利用できる。具体的には、例えば、工場排出ガス又は/且つ空気から不純物を分離し、昇圧して配管移送し、培養器前で減圧及び/または冷却して供給して、培養液に吸収させてCO2を供給するものが挙げられる。この冷却により生じた熱は、下述する藻類により生成され回収する回収物の乾燥処理等に用いることも好ましい。不純物を分離するために、工場排出ガス中又は/且つ空気中の窒素酸化物、イオウ、雑菌などの不純物を吸着する樹脂、フィルター等を備えたものであることが好ましい。
CO2は、培養液中のCO2濃度が0.01%〜10%となるように供給されることが好ましい。さらに分離膜によってCO2濃度を高めたものを用いることも好ましい。この際、分離膜非透過側のガスを、下述する藻類により生成され回収する回収物の乾燥処理等に用いることも好ましい。
なお、CO2を供給する際に減圧タービンを用いてエネルギーを回収し、培養液の移送又は光合成で発生した酸素の圧縮・移送に利用するとエネルギーを再利用することができて好ましい。
【0023】
人工光照射手段としては、人工光源と該人工光源からの人工光を介して培養器の所定の部位に供給する導光路からなるものが好ましい。人工光源としては、発光ダイオード、冷陰極管、有機EL照明、蛍光燈、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ及びキセノンランプ等が挙げられる。
なお、WO02/067660やWO01/062070に開示されたように、パルス光を利用して、光の照射時間又は/且つ点滅間隔を制御することが好ましい。
なお、昼間は自然光を人工光源と併用することが好ましい。
照射する人工光の波長は、380〜780nmであり、白色光、赤色光等が用いられる。光源又は/且つ蛍光体により光の波長を上記範囲に調節する。照射する人工光の強度は、1〜400μmol photons/m2/秒で、好ましくは20〜150μmol photons/m2/秒である。
【0024】
導光路の形状は特に制限されず、光ファイバーのようなものでもよいが、効率よく光を藻類に照射するために、平板状の導光手段としての導光板とすることが好ましい。導光板の厚みは、設置面積を小さくするためには薄いことが好ましいが、通常は、0.5〜30mmの範囲の薄板状のものが用いられる。また、この場合、培養器(棚段培養器の場合には、培養棚)の間に設置されることが好ましい。
導光板としては、液晶ディスプレイのバックライトの技術が応用できる。液晶バックライトは、例えば、画面と略同一形状の透明アクリル板の上端部を受光部とし、背面に乱反射機能を持たせるために、直径、間隔を工夫した小円盤半透明膜材を全面に印刷等の方法で配置し、その上から白色紙を張り付け、更に透明アクリル板の両端部及び下端部にも同様の白色紙を張り付け、表面には画面輝度の均質性を得るために、光拡散シートを張り付けた構成の導光板が用いられる(例えば、特開平3−9306号公報、特開平6−317796号公報、実開平6−69903号公報、特開平5−34687号公報などに記載の技術を用いることができる)。ただし、本発明において用いる導光手段としては、液晶バックライトに要求されるような光の均質性は必ずしも必要でなく、光拡散シートでの光の吸収による効率の低下を抑制するために、光拡散シートを張り付けない構成の導光板を用いることも好ましい。
導光板は、上述したような棚段式培養器や布型培養器に好適に使用できる。この場合、導光板は、且つ同一平面上に間隔を空けて複数列配置されることが好ましい。また、薄板状の人工光照射手段は、有機EL照明等でもよい。
【0025】
光源のエネルギー源としては、非化石資源由来の電力又は/且つ夜間余剰電力をエネルギー源とすることが好ましい。非化石資源由来の電力としては、太陽電池、風力発電、波力発電、地熱発電、水力発電のいずれか、または、これらの発電エネルギーを組み合わせが挙げられる。また、CO2排出量が極小である原子力を利用しても良い。
【0026】
藻類の培養に必要な補助栄養素を供給する補助栄養素供給手段としては、培養槽に窒素源、リン、ミネラルなどの栄養素を供給する手段が挙げられる。補助栄養素は粉体として供給されてもよいが、培養液として供給されることが好ましい。補助栄養素としては、例えば、以下の組成の改変岡本培地(以下、MOM培地という):NaCl 30g、CaCl2・2H2O 200mg、MgSO4・7H2O 250mg、FeSO4・7H2O 20mg、KH2PO4 40.8mg、K2HPO4 495mg、ビタミンB1 100μg、ビタミンB12 1μg、1M NH4Cl 5ml、微量金属混合物Arnon's
A5 1.0ml、蒸留水 1000ml(pH8.0)も用いられる。
ここで、微量金属混合物Arnon's A5の組成は、以下の通りである。
3BO4 2.85g、MnCl2・4H2O 1.81g、ZnSO4・7H2O 0.22g、CuSO4・5H2O 0.08g、Na2MoO4 0.021g、CaCl2・6H2O 0.01g、EDTA・2Na 50g、蒸留水 1000ml。
なお、クロレラやシアノバクテリアの培養には、ビタミン類を加えない培地、例えば、ガンボーグB5培地やBG11培地も用いられる。ガンボーグB5培地の組成は以下のとおりである。
KNO3 2.5g、MnSO4・H2O 10mg、MgSO4・7H2O 250mg、H3BO3 3mg、NaH2PO4・H2O 150mg、ZnSO4・7H2O 2mg、CaCl2・2H2O 150mg、KI 0.75mg、(NH42SO2 134mg、Na2MoO2・2H2O 0.25mg、Na2・EDTA 37.3mg、CuSO4・5H2O 0.025mg、FeSO4・7H2O 27.8mg、CoCl2・6H2O 0.025mg/1L。
【0027】
なお、図1には示していないが、培養槽には、光合成により発生した酸素を大気中へ放出せしめる放気管を突設することが好ましい。酸素は回収及び必要に応じて昇圧して有効利用することも可能である。利用例としては、工場の酸素富化反応や、酸素富化燃焼等がある。
本発明に使用することのできる藻類は、CO2を固定化できるものであれば特に制限されないが、例えば、以下のようなものが挙げられる。なお、以下の藻類は天然に存在する株でもよいし、遺伝子組み換えや変異処理などがされた誘導株であってもよい。
【0028】
シアノバクテリア
原核生物で、単細胞性と糸状性(スピルリナなど)がある。
なお、シアノバクテリアは、一般にアルカリ性の培養液で培養される。
シアノバクテリアとして具体的には、Chroococcacae、Stigonematacae、Mastigocladacae及びOscillatroriacaeが挙げられる。その例には、Synechococcuslividus及びSynechococcus elongatusなどのSynechococcus; Synechocystis minervaeなどのSynechocystis; Mastigocladus laminosusなどのMastigocladus; Phormidium laminosusなどのPhormidium; Symploca ther
malisなどのSymploca; Aphanocapsa thermalisなどのAphanocapsa; またはFisherellaなどが有る。
【0029】
さらには、アナべナ属(Anabaena)に属するアナべナ・バリアビリス(Anabanena variabilis)ATCC 29413、シアノテセ(Cyanothece)属の Cyanothece sp. ATCC 51142、シネノコッカス(Synechococcus)属に属するSynechococcus sp. PCC 7942およびアナシスティス(Anacystis)属に属するアナシスティス ニデュランス(Anacystisnidulans)および好熱性シアノバクテリア等を用いることができ、これらの1種または複数種を用いることができる。
【0030】
緑藻及びトレボキシア
これらは、真核微細藻としてよく利用され、クロレラ(系統学的に分けられたパラクロレラを含む)、クラミドモナス、ドナリエラ、セネデスムス、ボトリオコッカス、スティココッカス、ナンノクロリス、及びデスモデスムス等の気生藻(木やコンクリート上で生育)などが含まれる。具体例としては、Chlorella vulgaris及びChlorella saccharophilaなどのクロレラ(Chlorella)、Dunaliella salina、Dunaliella tertiolectaなどのDunaliella、並びに光合成等の基本的な性質は同じであるが、分子系統解析によりトレボキシア藻網として分類されるParachlorella kessleri(Chlorella kessleri)を挙げることができる。
また、クラミドモナス(Chlamydomonas)属に属するクラミドモナス ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、クラミドモナス モエブシイ(Chlamydomonas moewusii)、クラミドモナス ユーガメタス(Chlamydomonas eugametos)、クラミドモナス セグニス(Chlamydomonassegnis)、セネデスムス(Senedesmus)属に属するセネデスムス オブリクス(Senedesmus obliquus)、スティココッカス(Shichococcus)属に属するスティココッカス アンプリフォルミス(Shichococcus ampliformis)、ナンノクロリス(Nannochloris)属に属するナンノクロリス バシラリス(Nannochloris bacillaris)、及びデスモデスムス(Desmodesmus)属に属するデスモデスムス スブスピカツス(Desmodesmus subspicatus)等が挙げられる。
【0031】
ユーグレナ(ミドリムシ)
【0032】
プラシノ藻(緑色藻類)
マニトールを蓄積する藻類であり、テトラセルミスなどが挙げられる。
【0033】
原始紅藻類
シアニディオシゾン、シアニディウム、ガルディエリア、ポルフィリディウムなどが挙げられる。
【0034】
その他
珪藻、円石藻、渦べん毛藻、真眼点藻、黄金色藻等
【0035】
なお、藻類は、担体に担持した状態で培養しても良い。ここで、使用できる担体の材質としては、例えば、多孔質ガラスビーズ、ポリビニルアルコール、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニール、ポリビニルホルマール樹脂多孔質体、シリコンフォーム、セルロース多孔質体等の発泡体あるいは樹脂が好ましい。なお、多孔質体の開口部の大きさは、約10μm〜500μmが好適である。また、担体の形状は問わないが、担体の強度、培養効率等を考慮すると、球状あるいは立方体状で、大きさは、球状の場合、直径が0.1mm〜50mm、立方体状の場合、0.1mm〜50mm角が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法によって得られる目的物質としては、用いる藻類の種類にもよるが、例えば、以下のようなものが挙げられる。
<デンプン>
生物材料:クロレラ、セネデスムスなど真核微細藻類
<グリコーゲン>
生物材料:シアノバクテリア
<グリセロール>
生物材料:ドナリエラ(NaClを多く含む培養液)
なお、光合成能力を有する細菌を用いれば、グリセロールから水素を発生させることもできる(特開2004-097116号公報、特開2004-057045号公報)。
<ショ糖>
生物材料:緑藻、シアノバクテリアなど
<脂肪酸>
生物材料:種々の微細藻類、シアノバクテリア
<クロロフィル>
生物材料:真核微細藻類(クロレラ、セネデスムスなど)
<カロテノイド>
生物材料:真核微細藻類(ドナリエラ、クロレラ、セネデスムスなど)
<フィコシアニン>
生物材料:シアノバクテリア
【0037】
また、生物材料としてシアノバクテリア、真核微細藻類を用いて、遺伝子工学を利用すれば、リボース(五炭糖)、グリセルアルデヒド(三炭糖)、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸、核酸、アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸、リシン、トレオニン等)も生産可能である。
【0038】
なお、図1においては、3次培養終了時点でCO2の固定化は達成されているが、CO2の固定化により藻類の細胞内に生成した物質を回収して目的物質を得る場合には、当該目的物質を単離、精製するプロセスを行う。
具体的には、培養物から、藻類と液体を分離する固液分離プロセス、藻類の細胞壁を破壊するプロセス、溶媒を用いて目的物質を抽出するプロセス、および溶媒を分離して目的物質を生成するプロセスを行う。
すなわち、本発明のCO2固定化用藻類培養装置は、さらに、藻類から目的物質を分離・精製する手段を備えたものであってもよい。
【0039】
固液分離手段としては、沈降・濾過・遠心力によって固液分離を行う手段が挙げられる。なお、固液分離した液体は循環利用すると好ましい。循環利用されなかった液体は活性汚泥等を使用した通常の廃水処理に供された後に排水として廃棄される。上記固液分離手段に先立って、薄板培養器の場合には、表面で培養された藻類を掻き取っておく。
【0040】
固液分離した藻類の細胞壁を破壊する手段としては、加圧装置やビーズミルなどによる物理的破壊手段や、クロロウイルス、シアノファージ等のウイルス、あるいは藻類細胞壁を溶解するバクテリアおよびその生産物を用いた生物化学的破壊手段が挙げられる。
また、培養器に布型搬送体を使用したときは、藻類を搬送体から剥離させたのちに、藻類の細胞壁を破壊する。なお、布型搬送体は巻き取って再使用することができる。
【0041】
溶媒抽出手段としては、水又は/且つ溶剤による抽出により、可溶性物質と非可溶性物質に分離する手段が挙げられ、溶解には溶解力又は浸透力の強い溶剤、例えば、メタノールなどを使用することができる。抽出残渣は燃焼処理に供され、窒素やリンなどの必要な成分は回収されて再利用される。
溶媒分離手段としては、溶媒に応じた手段を用いることができるが、アルコールを溶媒としたときには、加熱によって分離する手段が挙げられる。
【0042】
水を抽出溶媒とした可溶性物質中には糖質が含まれ、溶剤を抽出溶媒とした可溶性物質中には脂質が含まれるので、これらをそれ自体周知の精製手段を用いて分離取得する。また、非可溶性物質には、タンパク質等が含まれるので、これを適宜精製等の処理をして利用することができる。
かくして得られた糖質、脂質及びタンパク質等は、バイオ由来の原燃料等として、地球温暖化防止、CO2削減に寄与する有益なものである。さらに、培養に使用した藻類は、化学原料、発酵原料、食料、飼料原料、燃料として利用することもでき、資源の有効利用ができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>クロレラの人工光による培養
(1)白色光照射
クロレラ(Chlorella kessleri 11h株、旧IAMカルチャーコレクションではC-531、NIESカルチャーコレクションではParachlorella kessleri 2160株)を蛍光灯照射(約10 W/m2、約50μmol photons/m2/秒)下の前培養にて増殖させ、これを濃縮して酸素電極OD730値25.0の濁度の細胞懸濁液を作製する。次に、電力150Wに設定した光プロジェクターにて白色光(アイ映写用ハロゲンランプ、波長400nm〜赤外部、光強度 40W/m2(約200μmol photons/m2/秒))を照射し、酸素電極(ランクブラザーズ社製)にて光合成活性を測定したところ、3回の実験の結果、70〜212μmol/L/minの酸素が発生した。尚、微量栄養素及びCO2通気量については十分与えた。ここで70μmol/L/minの酸素の発生は、4.4kgCO2/m3/日の固定に相当し、液深を0.01mで100段の棚段型培養器を採用すると32万tonCO2固定/地表面20万m2/年に相当する。
これは、100万m2級大規模工場における20%の緑地20万m2を活用して、当該藻類培養装置を設置すると、年間32万tonCO2固定/年に相当する。
上記の場合、前培養で増殖させた後、新たに5倍濃縮の培養液を添加し照射光強度を高め(20 W/m2、約100μmol photons/m2/秒)て増殖させた場合は濃縮しないでも、55μmol/L/minの速度で酸素が発生した。この値で、年間25万tonCO2固定/年に相当する。
次に、白色LED光照射条件で光合成における光強度依存性を調べたところ、細胞濃度34 mg chlorophyll/Lで測定した場合、30 W/m2の時の光合成活性(50μmol O2/mg chlorophyll.hr)を100とすると、10W/m2(約50μmol photons/m2/秒)の光強度で最大活性の45%、20 W/m2 (約100μmol photons/m2/秒)で82%の活性を示した。細胞濃度が低い条件(2.1mg chlorophyll/L、最大光合成活性130μmol O2/mg chlorophyll.hr)で光合成を行った時には、7 W/m2(約35μmol photons/m2/秒)で最大活性の65%であった。
以上の結果から、細胞濃度の影響はあるものの、光強度の低い条件では、1 W/m2の上昇につき50〜75μmol /L/hの割合で酸素発生量が増加し、最大光合成速度(飽和速度)に達する光強度は30 W/m2(約150μmol photons/m2/秒)であることが明らかとなった。細胞濃度がさらに高い場合には、照射装置の仕組みによって、その値はさらに高まると考えられる。なお、光合成において、発生する酸素と吸収される二酸化炭素の比は、分子数にしてほぼ1:1であることが知られている。
上記(1)と同様にクロレラ(Chlorella kessleri 11h株、旧IAMカルチャーコレクションではC-531、NIESカルチャーコレクションではParachlorella kessleri 2160株)を用いて、CCS社製赤色LEDで赤色光(波長660nm)を照射し、外部からの光を遮断し、温度28℃、50 mlの培養液、直径約30 mmの試験管に底から2% CO2を含む空気を通気して培養した。培養液は、植物組織培養用の培養液(ガンボーグB5の5倍希釈液、和光純薬工業社製)を用いた。また、光強度は3 W/m2 (約17μmol photons/m2/秒)(容器の内部にアルミホイルを貼ることにより反射させ、容器外からの光の進入を完全に抑えた)とした。このときの細胞量を、730nmの濁度(OD730)として測定したところ、培養開始時0.04であったが、24時間の培養後、3.23にまで増殖した。赤色光のみの照射で約10倍増殖したことから、クロレラでは赤色光のみで増殖可能であることがわかった。なお、赤色光条件で生育したクロレラ細胞のクロロフィル含量は、白色蛍光灯照射下で生育した細胞に比べて、やや低い(1〜2割程度)ことも明らかとなった。なお、高等植物の場合、赤色光のみでは十分な生長ができず、微量の青色光を必要とする。上記の場合、光強度を増加すると、6.7 W/m2 (約37μmol photons/m2/秒)では24時間後のOD730値は4.0となり、11 W/m2 (約61μmol photons/m2/秒)では6.0に達した。増殖に対する光強度依存性は弱光ほど強く、光強度の増加に伴って、その依存性は低下したといえる。
【0045】
(3)人工照明の点滅周期の検討
上記(1)とほぼ同じ条件とし、10 W/m2(光量子数としては約50μmol photons/m2/秒)の光強度条件下で光合成を行わせ、照射光量子数を同じとする条件で、連続光で照射する場合と点滅周期を変化させる場合を比較した。なお、この時、Duty比を25%、すなわち1/4期間光パルス、3/4期間暗中の周期で行った。その結果、連続光では850 μmol O2発生/L.hrの活性であったのに対し、1000 Hzで750、2500 Hzで1050、100,000 Hzで1000の活性が得られた。また、100 Hz、10 Hzでは低い活性を示した。
点滅周期光条件での光合成活性が、連続光で得られる光合成活性より高い値を示す条件は限られているが、点滅周期条件の中では、周期が2500 Hzで高い活性が得られやすかった。
【0046】
<実施例2>シアノバクテリアの人工光による培養
(1)白色光及び赤色光の照射
シアノバクテリアSynechococcus PCC 7942株を、CCS社製LEDパネル(型式ISL-150x150-WR)で白色と赤色光 (660 nm、225μmol photons/m2/sec)を連続照射しながら、空気 (0.04% CO2) を十分通気供給し、硬質ガラス三角フラスコに100 ml液体培地 (種付けは、1%v/v) を液深さ12 mmで培養した。培養開始 (種付け開始)後、0日目から7日目まで経時的に菌体培養液の濁度(吸光度 OD730, OD660或はKlett Unitとして)を測定した。その結果、OD730, OD660, ならびにKlett Unitいずれも白色光で培養した方が、赤色光で培養した時よりも吸光度値が高く、これは本菌株細胞の増殖は、白色光照射の方が赤色光のそれよりも有効である事を示している。また赤色光で培養した場合、3日目あたりから培養液の色が緑色から黄色に徐々に変化していった。この事は、LED赤色光照射が白色光のそれに比べ、PCC7942のクロロフィルaの蓄積には阻害要因になっていることを示唆している。
【0047】
(2)人工照明の光強度の検討
シアノバクテリアSynechococcus PCC 7942株を、CCS社製LEDパネル(型式ISL-150x150-FRあるいはISL-305x302-WRGB)で白色光(波長は460nm+550nm周辺)70, 100, 170あるいは320μmol photons/m2/secを連続 (または点滅) 照射しながら、空気(0.04% あるいは2% CO2) を十分通気供給し、硬質ガラス三角フラスコに30から100 mlのBG11液体培地 (種付けは、1から10% v/v) を液深さ11または12 mmで培養した。培養開始 (種付け開始)後、0日目から11日目まで経時的に菌体培養液の濁度(吸光度 OD730, OD660, ならびにOD649, OD665, OD750)を測定した。同時に、クロロフィルa (μg/ml培養液)の蓄積量を測定した。その値からCO2固定量を試算した結果、最大値は0.526 kg CO2固定/m3培養液/日 (38.52万トンCO2固定/20ha平地面積/年, 目標値25万トンの154 %)あるいは38.1μg/ml クロロフィルa (53.1 g CO2固定/m2平地面積/日)であった。したがって3.42 kg CO2固定を目標値として設定すると100μmol photons/m2/secの白色LED光照射の場合、液深0.01m ×64段に相当する。
【0048】
(3)人工照明の点滅周期の検討
シアノバクテリアSynechococcus PCC 7942株を、CCS社製LEDパネル(型式ISL-305x302-WRGB)で白色光(波長は460nm+550nm周辺)100μmol photons/m2/secのduty比50 (明:暗 = 50:50)点滅照射 (10, 1000, または100000 Hz)しながら、2% CO2を通気供給し、硬質ガラス三角フラスコに30 ml BG11液体培地 (種付けは10% v/v) を液深さ11mmで培養した。培養開始 (種付け開始)後、0日目から11日目まで経時的に菌体培養液の濁度(吸光度 OD730, OD660)を測定した。同時に、クロロフィルa (μg/ml培養液)の蓄積量を測定した。その値からCO2固定量を試算した結果、最大値は1000 Hz周期の点滅照射条件下で得られ、0.526 kg CO2固定/m3培養液/日 (38.52万トンCO2固定/20ha平地面積/年, 目標値25万トンの154 %)あるいは38.1μg/ml クロロフィルa (53.1 g CO2固定/m2平地面積/日)であった。したがって3.42 kg CO2固定を目標値として設定すると100μmol photons/m2/secの白色LED光照射の場合、液深0.01m x 64段に相当する。
一方、上記培養条件下で周期を1000 Hzとしてduty比を50から25 (明:暗 =25:75)に落とした場合、CO2固定量は0.219 kg CO2固定/m3培養液/日 (16.07万トンCO2固定/20ha平地面積/年, 目標値25万トンの64 %)と減少したが、クロロフィルa の蓄積量は過去データの最高値69.15μg/ml を記録した。この値は、3.42 kg CO2固定を目標値として設定すると100μmol photons/m2/secの白色LED光照射の場合、液深0.01m x 49段に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を入れた培養槽にCO2を供給し、人工光を照射しながら、培養槽内で藻類を培養してCO2を固定化するCO2固定化方法であって、前記人工光は、波長が380〜780nmであり、強度が1〜400μmol photons/m2/秒となるように制御されることを特徴とする方法。
【請求項2】
培養槽に供給されるCO2が、2〜90%のCO2を含有する工場の排出ガスである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培養液中のCO2濃度が0.01%〜10%となるようにCO2を供給する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によりCO2を固定化することによって藻類に目的物質を生成させ、該目的物質を藻類から分離精製して該目的物質を得る、目的物質の製造方法。
【請求項5】
藻類を収容して培養可能な培養槽と、前記培養槽にCO2を供給するCO2供給手段と、前記培養槽に前記藻類の培養に必要な補助栄養素を供給する補助栄養素供給手段と、前記培養槽に人工光を照射する薄板状の人工光照射手段とを具備するCO2固定化用藻類培養装置であって、前記人工光照射手段は波長が380〜780nmであり、強度が1〜400μmol photons/m2/秒の光を照射することを特徴とする、CO2固定化用藻類培養装置。
【請求項6】
さらに、藻類から目的物質を分離・精製する手段を備えた、請求項5に記載のCO2固定化用藻類培養装置。
【請求項7】
前記培養槽は、並列又は直列に連結された複数の培養器からなる、請求項5または6に記載のCO2固定化用藻類培養装置。
【請求項8】
前記複数の培養器は、攪拌機能を有する槽型培養器、自然流下を伴う棚段型培養器、布型培養器のいずれかを含む、請求項7に記載のCO2固定化用藻類培養装置。
【請求項9】
前記人工光照射手段は、人工光源と該人工光源からの人工光を培養器の所定の部位に供給する導光路からなる、請求項7または8に記載のCO2固定化用藻類培養装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−57485(P2010−57485A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185042(P2009−185042)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】