説明

Caricapapayaリパーゼによるα−置換カルボン酸またはそのエステルの酵素分割

【課題】α−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの鏡像体混合物の酵素分割法を提供する。
【解決手段】製薬及び農薬の分野で有用なα−アルキルカルボン酸、α−ハロゲンカルボン酸などあるいはそのエステルまたはチオエステルのR−及びS−鏡像異性体の混合物をCarica papayaリパーゼを生体触媒として使用し、陰イオン交換樹脂担体上に保持した有機塩基と有機溶媒との組み合わせにより処理して分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、台湾出願番号第093119718号「α−置換された酸及びそのエステルの動力学的分割方法」(2004年6月30日出願)に基づく利益を主張する。
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、所望の分割を達成するための生体触媒としてCarica papayaリパーゼが使用される、α−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を酵素分割する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
光学活性であるα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルは、そのα−炭素に立体中心を持つ一群の化合物である。α−(ヘテロ)アリールカルボン酸、α−アリールオキシプロピオン酸、α−アルキルカルボン酸、α−ハロゲンカルボン酸及びα−アミノ酸のような、鏡像異性的に富むα−置換カルボン酸は、製薬及び農薬の分野における合成ユニットとして、または分解剤(resolution agents)として非常に重要である(Sheldon, R. A. “Chirotechnology”, 1993, pp.205−270; Kazlauskas, R. and Bornscheuer, U., “Biotrasnformations with lipases,” Biotechnology, Vol.8a, 1998, pp.103−118; Faber, K., Biotransformations in Organic Chemistry, 2000, pp.94−123 and pp.344−366)。
【0004】
例えば、市販されている(S)−ナプロキセン、(S)−フェノプロフェン、(S)−イブプロフェン、(S)−ケトプロフェン、(S)−フルルビプロフェン及び(S)−スプロフェンのようなα−アリールオキシプロピオン酸は、鎮痛、解熱及び抗炎症作用を持つ非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である(Chang, C.S. et al., “Lipase−catalyzed dynamic resolution of naproxen 2,2,2−trifluoroethyl thioester by hydrolysis in isooctane,” Biotechnology and Bioengineering, 1999, Vol.64, pp.120−126; US 6,201,151 issued to S.−W. Tsai and C.−S. Chang; Sehgal, A.C. and Kelly, R.M., “Strategic selection of hyperthermophilic esterases for resolution of 2−arylpropionic esters,” Biotechnology Progress, 2003, Vol.19, pp.1410−1416; Steenkamp, L. and Brady, D., “Screening of commercial enzymes for the enantioselective hydrolysis of R,S−naproxen ester,” Enzyme and Microbial Technology, 2003, Vol.32, pp.472−477; Lin, H.−Y. and Tsai, S.−W., “Dynamic kinetic resolution of (R,S)−naproxen 2,2,2−trifluoroethyl ester via lipase−catalyzed hydrolysis in micro−aqueous isooctane,” Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, 2003, Vol.24−25, pp.111−120)。
【0005】
(R)−2−フェノキシプロピオン酸、(R)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸、市販されている(R)−メコプロプ及び(R)−ジクロフォップ等のような、(R)−α−アリールオキシプロピオン酸は、除草剤または除草剤合成の中間体として使用され得る(Ujang, Z. et al., “The kinetic resolution of 2−(4−chlorophenoxy)propionic acid using Candida rugosa lipase,” Process Biochemistry, 2003, Vol.38, pp.1483−1488)。さらに、(R)−2−クロロ−2−フェニル酢酸、(R)−2−ブロモ−o−トリル酢酸などのような(R)−2−ハロゲノ−2−アリール酢酸は、上記除草剤または医薬品の中間体として役に立ち得る。(Guieysse, D. et al., “Lipase−catallyzed enantioselective transesterification toward esters of 2−bromo−tolyacetic acids,” Tetrahedron: Asymmetry, 2003, Vol.14, pp.317−323)。
【0006】
(S)−2−メチルヘキサン酸及び(S)−2−メチルブタン酸のような、光学活性である2−メチルアルカン酸は、昆虫フェロモン、香辛料及び人工甘味料の合成のための中間体として役に立ち得る(Heinsman, N. W. J. T. et al., “Lipase−mediated resolution of branched chain fatty acids,” Biocatalysis and Biotransformation, 2002, Vol.20, pp.297−309)。
【0007】
近年、酵素のエンジニアリング技術の大きな進歩により、高エナンチオ選択的及び有機溶媒耐性であるリパーゼを利用し、有機溶媒の存在下/非存在下で、前述のα−アリールプロピオン酸、あるいはその対応するエステル、チオエステルまたはアミド誘導体のラセミ混合物の、加水分解、エステル化、エステル交換またはアミノ化による分割を行う、多くの工業的方法が確立された。酵素に触媒されるラセミ混合物の分割は、光学的に純粋な医薬品、農薬及び他の特殊な薬品を得る有益な方法となった。
【0008】
用途の広い生体触媒としてのリパーゼ(トリアシルグリセロールヒドロラーゼ、 EC 3.1.1.3)は、脂質転化及び様々なラセミ化合物の動力学的分割に広く用いられている(Kazlauskas and Bornscheuer (1998), supra; K. Faber (2000), supra)。現在、大部分の工業用リパーゼは、一般に、微生物(ペニシリウム属、ゲオトリクム属、アスペルギルス属、リゾムコール属、カンジダ属またはシュードモナス属のような)、または動物(反芻動物の膵臓及びプレガストリック(pregastric)組織)から生産される(Steenkamp and Brady(2003), supra)。
【0009】
標準的な動力学的分割方法には、ラセミ体である出発基質に対し、所望の光学活性生成物を最大で50%しか得ることができないという欠点がある。光学純度及び有益な生成物への転化を増大させるため、分割プロセス中の反応混合物に、塩基、有機金属、ハロゲンイオンまたはラセマーゼのようなラセミ化触媒を添加する方法がさらに開発され、これにより、分割酵素による動力学的分割を非常に促進できた(US 6,201,151 issued to S.−W. Tsai and C.−S. Chang; C.−Y. Chen et al. (2002), J. Org. Chem., Vol.67, No.10, pp.3323−3326参照)。
【0010】
特に、米国特許第6,201,151号において本出願人は、(S)−立体選択的なリパーゼ及び塩基、並びに必要であればアルコールの存在下で種々の水性有機溶媒中で、選択されたラセミ体であるα−アリールプロピオン酸のチオエステルのエステル交換または加水分解を行うために実施し得、これにより、所望の(S)−α−アリールプロピオン酸あるいはそのエステルまたはチオエステルを、理論的にはほぼ100%の転化率及び高い光学純度で得ることができる、光学活性の(S)−α−アリールプロピオン酸あるいはそのエステルまたはチオエステルの調製方法を開示した。該方法での使用に適したリパーゼは、アスペルギルス ニガー、カンジダ ルゴサ、ゲオトリクム、シュードモナス セパチア、リゾープス オリザエなどを含む微生物から得られ、好ましくはカンジダ ルゴサから得られる。
【0011】
アルコールやアミンに対する高度なエナンチオ選択性とは対照的に、ほとんどのリパーゼはカルボン酸に対し、低〜中度のエナンチオ選択性を示す(Kazlauskas and Bornscheuer(1998), supra; K.Faber(2000), supra)。通常、反応を行う前に粗製の調製物からのリパーゼ・アイソエンザイムを精製または修飾(modification)することは必須であるにも関わらず、α−アリールプロピオン酸及びα−アリールオキシプロピオン酸に対し高いエナンチオ選択性を示すカンジダ ルゴサ・リパーゼ(Candida rugosa lipase;CRL)の場合にはあてはまらない(I.J. Colton et al. (1995), J. Org. Chem., 60:212−217; J.J. Lalonde et al. (1995), J. Am. Chem. Soc., 117:6845−6852)。しかしながら、一般に、CRLは、極性有機溶媒、極端なpH及び高温に対し、低い耐性を示す。したがって、高い酵素活性、エナンチオ選択性、及び高温下での安定性を持つ、キラル酸に対するリパーゼの選択または発見は、競争の激しい工業的バイオプロセスの発展に、明らかに欠くことのできないものである。
【0012】
植物リパーゼは低コスト、精製の容易さ、及び天然供給源から広く利用可能な点により、非常に魅力的なように思われるにも関わらず、発芽種子、穀物のブラン部分、及び小麦麦芽中のリパーゼ含有量の低さが、実験的または大規模な利用における広範な用途を制限してきた。
【0013】
近年、例えばCaricaceaeまたはEuphorbiaceaeラテックスのような植物ラテックス由来のリパーゼが、大量に得られるようになってきた(C. Dhuique−Mayer et al. (2001), Biotechnol. Lett., 23:1021−1024; C. Palocci et al. (2003), Plant Sci., 165:577−582; P. Villeneuve (2003), . Eur. J. Lipid Sci. Technol., 105:308−317)。パパインの市販名を持つ、噴霧乾燥されたCarica papayaラテックスは、多くのシステインチオールプロテアーゼ、例えばパパイン(EC 34.4.22.2)、キモパパイン A、B1、B2、及びB3、並びにパパイア・ペプチダーゼII、並びにリゾチーム、グルタミニルシクラーゼ、クラスIIキチナーゼ、及びリパーゼのような他のものを含んでいることが良く知られている(Moussaoui AEI et al.(2001),CMLS Cell Mol Life Sci 58:556−570)。リパーゼ活性は、ラテックスの非水溶性の画分(fraction)に局在し、C. papayaリパーゼ(CPL)が非可溶のマトリクスに自然に結合し、固定されることを示唆している。粗製のパパインは豊富に得ることができ、安価であり、例えばSigma社の粗製のカンジダ ルゴサ・リパーゼ(CRL)の約4分の1から3分の1の価格であるため、脂質転化における、微生物リパーゼの有望な代替物と考えられてきた。しかしながら、キラルであるsn−3トリグリセリドの動力学的分割におけるCPLの使用に言及した1つの報告(P. Villeneuve et al. (1995), J. Am. Oil Chem., 72:753−755)を除いて、CPLの性質は、酵素活性、基質選択性、熱安定性などの観点からは、まだ調査されていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要約
本出願人は、実験から、驚くべきことに、Carica papayaリパーゼが、選択されたα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、S−鏡像異性体またはR−鏡像異性体のいずれかに対して、高度にエナンチオ選択的であることを見出した。従って、一つの観点から、本発明は、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を酵素分割する方法を提供する:
【0015】
【化1】

【0016】
ここで、
Xは−O−または−S−を示し、
Yはハロゲンまたはメチル基であり、
は、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基及びアリール基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C20脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、アリールオキシ基または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基を示し;そして、
は、H;ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C12脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基を示し;
ただし、Y及びRは同時にメチルになり得ず;
該方法は、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を、液相中で、Carica papayaリパーゼにより触媒される酵素分割に供することを包含する。
【0017】
本発明に従う方法の好ましい実施形態において、該混合物は、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割は、水溶液、水飽和有機溶媒、及び二相溶液を形成するこれらの組み合わせから選択される溶媒系を含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−型またはS−型のいずれかは、Carica papayaリパーゼにより、エナンチオ選択的に加水分解される。
【0018】
本発明に従う方法の他の好ましい実施形態において、該混合物は、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割は、無水有機溶媒とアルコールの組み合わせを含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−型またはS−型のいずれかは、Carica papayaリパーゼにより、エナンチオ選択的に該アルコールを用いてエステル交換される。
【0019】
本発明に関する方法のさらにもう一つの好ましい実施形態において、該混合物は、式(I)のα−置換カルボン酸の、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割は、無水有機溶媒とアルコールの組み合わせを含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸の、R−型またはS−型のいずれかは、Carica papayaリパーゼにより、エナンチオ選択的に該アルコールを用いてエステル化される。
【0020】
上述される本発明の方法を行う場合、好ましくは有機溶媒系を含む液相は、所望の光学活性生成物の転化を促進するために、ラセミ化触媒の役割をする有機塩基をさらに含み得る。
【0021】
本発明に従う方法の実施により、カンジダ ルゴサ・リパーゼ(Candida rugosa lipase;CRL)を生体触媒として用いる従来の方法に比べ、より効率的及び経済的に、高純度及び高収率の光学活性生成物が得られることが見出された。
【0022】
本発明の、上記及び他の目的、特徴及び利点は、以下の本発明の詳細な説明を参照することにより、明白に理解されるだろう。
【0023】
本発明の詳細な説明
現在利用可能な、α−置換カルボン酸あるいはそのエステルの動力学的分割方法のほとんどは、非常に高価で、得ることが困難なリパーゼを使用する。このような方法を行うのに必要なコストを削減するため、及び分割反応のエナンチオ選択性を増大させるために、本出願人は、α−置換カルボン酸あるいはそのエステルの酵素分割における生体触媒としての使用に適した新たなリパーゼを見出そうと試みた。
【0024】
パパイアは、世界の熱帯・亜熱帯地域において、非常に重要な経済的作物である。カンジダ ルゴサ・リパーゼのような微生物由来のリパーゼとの比較では、Carica papayaリパーゼは比較的安価で入手しやすい。本出願人は、驚くべきことにCarica papayaリパーゼは、選択されたα−置換カルボン酸あるいはそのエステルまたはチオエステルのR−型またはS−型のいずれかの加水分解、エステル化またはエステル交換を、エナンチオ選択的に触媒することができ、所望の光学活性生成物を高収率、高純度及び高転化率で得られることを見出した。さらに、Carica papayaリパーゼは優れた熱安定性及び様々な有機溶媒に対する耐性を示す。
【0025】
従って、本発明は、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を酵素分割する方法を提供する:
【0026】
【化2】

【0027】
ここで、
Xは−O−または−S−を示し、
Yはハロゲンまたはメチル基であり、
は、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基及びアリール基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C20脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、アリールオキシ基または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基を示し;そして、
は、H;ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C12脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基を示し;
ただし、Y及びRは同時にメチルになり得ず、
該方法は、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を、液相中で、Carica papayaリパーゼにより触媒される酵素分割に供することを包含する。
【0028】
本発明によれば、Carica papayaリパーゼは、Carica papaya植物のラテックス浸出物、例えばCarica papaya植物の葉、ステム、未熟な果実または傷ついた表面の浸出ラテックスから調製し得る。パパインの市販名を持つ、噴霧乾燥されたCarica papayaラテックスは、Sigma Co. (St. Louis, Missouri, USA, product code P3375, a cystine protease of 2.1 units/mg solid, product from Sri Lanka)から購入可能である。部分的に精製されたCPL(PCPL)は、市販パパインまたは自家製Carica papayaラテックスを、水溶液または緩衝溶液あるいは有機溶媒に穏やかに攪拌しながら溶解した後、遠心分離または濾過を行って沈殿物を得、続いて該沈殿物を凍結乾燥することにより得られ得る。得られた凍結乾燥生成物は、すぐに使用可能であり、また、さらに純粋な酵素生成物を得るために再び上記の処理を実施し得る。
【0029】
本発明によれば、ここで使用される用語「脂肪族基」は、それぞれがR及びRについて記載されている1〜3個の置換基によって必要に応じて置換され得る、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びシクロアルキル基を含む。
【0030】
本発明によれば、ここで使用される用語「アリール基」は、それぞれがR及びRについて記載されている1〜3個の置換基によって必要に応じて置換され得る、フェニル、フェノキシ、ナフチル、ナフトキシ、テトラヒドロナフチル等を含む。
【0031】
本発明によれば、ここで使用される用語「複素環基」は、それぞれがR及びRについて記載されている1〜3個の置換基によって必要に応じて置換され得る、チエニル、テノイル、フリル、ピリジル、ピラジニル、イミダジル、ピラニル等を含む。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルにおけるRは、それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖のC−C20アルキル基、直鎖または分枝鎖のC−C20アルケニル基、直鎖または分枝鎖のC−C20アルキニル基及び直鎖または分枝鎖のC−C20シクロアルキル基からなる群より選択される。
【0033】
本発明の他の好ましい実施形態において、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルにおけるR基は、それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基並びに、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される。
【0034】
の代表的な例は、ブチル、ヘキシル、オクチル、ペント−3−エニル、フェニル、フェノキシ、2−クロロフェニル、ベンジル、フェニルエチル、ナフチル、6−メトキシ−2−ナフチル、ナフトキシ、(2−フルオロ−3−フェニル)フェニル、4−クロロフェノキシ、2−(2,4−ジクロロフェノキシ)フェニル、m−フェノキシ−フェニル、p−フェノキシ−フェニル、4−イソブチル−フェニル、(2−ベンゾイル)フェニル、p−テノイル−フェニル、N−メチルイミダジル、4−ニトロピリジル、ピラジニル等を含むがこれらに制限されない。
【0035】
好ましくは、R基は、そのC2及び/またはC3の位置に少なくとも1つの電子求引性の置換基を持つ。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルにおけるR基は、水素である。
【0037】
本発明の他の好ましい実施形態において、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルにおけるR基は、それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖のC−C12アルキル基、直鎖または分枝鎖のC−C12アルケニル基、直鎖または分枝鎖のC−C12アルキニル基、及び直鎖または分枝鎖のC−C12シクロアルキルからなる群より選択される。
【0038】
本発明のさらにもう一つの好ましい実施形態において、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルにおけるR基は、それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基並びに、O、S及びNから選択されるヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される。
【0039】
式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルにおけるR基の代表的な例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ビニル、エチニル、2−アリル、2−ブテニル、2−クロロエチル、2−ブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2,2,2−トリブロモエチル、2−クロロプロピル、(トリメチルシリル)メチル、(トリメチルシリル)エチル、ベンジル、ナフチルメチル等を含むが、これらに制限されない。
【0040】
式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの代表的な例は、下記の化合物:
ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸または2−クロロ−2−フェニル酢酸の、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニルまたはトリフルオロエチル エステル;ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸または2−クロロ−2−フェニル酢酸の、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニルまたはトリフルオロエチル チオエステル;及び、ジクロフォッグ(diclofog)メチルエステルを含むがこれらに制限されない。
【0041】
式(I)のα−置換カルボン酸の代表的な例は、ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸、2−クロロ−2−フェニル酢酸、及びジクロフォッグを含むが、これらに制限されない。
【0042】
本発明の方法は、水溶液、無水有機溶媒、水飽和有機溶媒、及び二相溶液を形成するこれらの組み合わせから選択される溶媒系を含む液相中で実施し得る。
【0043】
本発明の方法での使用に適した水溶液は、水及び緩衝水溶液から選択し得る。
【0044】
本発明の方法での使用に適した有機溶媒は、イソオクタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、デカン、トルエン、ベンゼン、四塩化炭素、t−ブタノール、t−ペンタノール、イソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル及びこれらの組み合わせから選択し得る。
【0045】
あるいは、本発明の方法は、水溶液及び1またはそれ以上の混和性(miscible)の有機相を生じる有機溶媒からなる二相溶液を含む液相中で実施し得る。
【0046】
本発明の方法は、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルのラセミ混合物の酵素分割に使用し得る。過剰のR−鏡像異性体またはS−鏡像異性体を含む、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの混合物も、本発明の方法により処理し得る。
【0047】
本発明の方法において、ラセミ化触媒として作用する有機塩基を、所望の光学活性生成物の転化を促進するために、液相に加え得る。
【0048】
本発明の方法における使用に適した有機塩基は、第三級アミン、アミジン、グアニジン、ホスファゼン塩基及びこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。好ましくは、有機塩基は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、1−t−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)−ホスホラニリデンアミノ]−2λ,4λ−カテナジ(ホスファゼン)、ジエチルアミノメチル−ポリスチレン、t−ブチルイミノ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホラン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4,4,0]デカ−5−エン、t−ブチルイミノ−トリス(ピロリジノ)ホスホラン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。さらに、有機塩基は、有機担体及び無機担体から選択されるた担体上に保持され得る。例えば、有機塩基は陰イオン交換樹脂上に保持される。
【0049】
本発明の方法は、Carica papayaリパーゼが、選択された式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルのR−鏡像異性体及びS−鏡像異性体を含む混合物の酵素分割を触媒するのに適した温度で実施し得る。本発明の方法は、好ましくは20℃から90℃の範囲の温度、より好ましくは30℃から70℃の範囲の温度で実施される。
【0050】
本発明に関する方法の好ましい実施形態において、該混合物は、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼをによる該混合物の酵素分割は、水溶液、水飽和有機溶媒、及び二相溶液を形成するこれらの組み合わせから選択される溶媒系を含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−型またはS−型のいずれかは、Carica papayaリパーゼにより、エナンチオ選択的に加水分解される。
【0051】
Carica papayaリパーゼによる、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含む混合物の加水分解は、下記のスキームにより、図示され得る。
【0052】
【化3】

【0053】
さらに、記載されている有機塩基は、液相に添加し得、該有機塩基は、所望の光学活性のR−またはS−α−置換カルボン酸の転化を促進するため、好ましくは有機溶媒を含み得る。
【0054】
本発明に従う方法の他の好ましい実施形態において、該混合物は、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割は、無水有機溶媒とアルコールの組み合わせを含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−型またはS−型のいずれかは、Carica papayaリパーゼにより、該アルコールを用いてエナンチオ選択的にエステル交換される。
【0055】
Carica papayaリパーゼによる、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルのR−及びS−鏡像異性体を含む混合物のエステル交換は、下記のスキームにより、図示され得る。
【0056】
【化4】

【0057】
本発明に従う方法のさらにもう一つの好ましい実施形態において、該混合物は、式(I)のα−置換カルボン酸の、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる該混合物の酵素分割は、無水有機溶媒とアルコールの組み合わせを含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸の、R−型またはS−型のいずれかは、Carica papayaリパーゼにより、該アルコールを用いてエナンチオ選択的にエステル化される。
【0058】
Carica papayaリパーゼによる、式(I)のα−置換カルボン酸のR−及びS−鏡像異性体を含む混合物のエステル化は、下記のスキームにより、図示され得る。
【0059】
【化5】

【0060】
Carica papayaリパーゼにより触媒される混合物の酵素分割に使用するのに適したアルコールは、式ROHであり、
ここで、RはRと異なり、そして:ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C12脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基;
を示す。
【0061】
好ましくは、アルコールは、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、トリメチルシリルメタノール及び2−N−モルホリノエタノールからなる群より選択される。
【0062】
本発明は、下記の実施例により、さらに説明されるだろう。当業者は、これらの実施例及び、本発明の基本的な、新規な、または有利な特性を利用し、この開示を通して示される実施例の変更を可能にする、多くの技術及び教示に精通している。従って、本発明の範囲は、ここで、または他のところで挙げられた特定の実施例によって制限されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
実施例
I.材料:
1.イソオクタン、シクロヘキサン、イソプロパノール及び氷酢酸は、Tedia Co.(Fairfield,Ohio,USA)から購入した。
【0064】
2.トリオクチルアミン及び2,2,2−トリフルオロエタノールは、Aldrich Co.(Milwaukee,Wisconsin,USA)から購入した。
【0065】
3.トリメチルシリルメタノールは、Fluka Co.(Buchs,Switzerland)から購入した。
【0066】
4.ラセミ体である(R,S)−ナプロキセンは、(S)−ナプロキセン(Sigma Co., St. Louis, Missouri, USA)をNaOHを含むエチレングリコール中で140℃でラセミ化することにより得た(S.−W. Tsai and H.−J. Wei (1994), Enzyme Microb. Technol. 16:328−333)。
【0067】
5.ラセミ体である(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルは、(S)−ナプロキセン(Sigma Co., St. Louis, Missouri, USA)をラセミ化した後、生じたラセミ体である(R,S)−ナプロキセンを、2,2,2−トリフルオロエタンチオールでエステル化することにより得た(C.−Y. Chen (2002), J. Org. Chem., 67 (10): 3323−3326)。
【0068】
6.ラセミ体である(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルエステルは、(S)−ナプロキセン(Sigma Co., St. Louis, Missouri, USA)をラセミ化した後、生じたラセミ体である(R,S)−ナプロキセンを、2,2,2−トリフルオロエタノールでエステル化することにより得た(H.−Y. Lin and S.−W. Tsai (2003), J. Mol. Catal. B: Enz., 24:111−20)。
【0069】
7.ラセミ体である(R,S)−フェノプロフェン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルは、ラセミ体である(R,S)−フェノプロフェンのカルシウム塩(Sigma Co., St. Louis, Missouri, USA)を2,2,2−トリフルオロエタンチオールでエステル化することにより得た。
【0070】
8.ラセミ体である(R,S)−イブプロフェン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルは、ラセミ体である(R,S)−イブプロフェン(Sigma Co., St. Louis, Missouri, USA)を2,2,2−トリフルオロエタンチオールでエステル化することにより得た。
【0071】
9.ラセミ体である(R,S)−2−フェニルプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルは、ラセミ体である(R,S)−2−フェニルプロピオン酸(Sigma Co., St. Louis, Missouri, USA)を2,2,2−トリフルオロエタンチオールでエステル化することにより得た。
【0072】
10.ラセミ体である(R,S)−ジクロフォッグメチルエステルは、Riedel−de Haen Co. (Seelve, Germany)から購入した。
【0073】
11.ラセミ体である(R,S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルは、2−クロロフェニルアセチルクロリドを2,2,2−トリフルオロエタンチオールでエステル化することにより得た。
【0074】
12.ラセミ体である(R,S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸は、Sigma Co.(St. Louis, Missouri, USA)から購入した。
【0075】
13.Carica papayaリパーゼ(CPL):
(1)Sigma Co. (St. Louis, Missouri, USA, product code P3375, a cystine protease of 2.1 units/mg solid, product from Sri Lanka)から購入可能な市販製品である、粗製のパパイン;
(2)下記のように調製された、部分的に精製されたCPL(PCPL):
粗製のパパイン1.35gを、15mLの脱イオン水へ、4℃で30分間穏やかに攪拌しながら添加した。得られた溶液を、12,000rpmで10分間、遠心分離した。
【0076】
上澄みを廃棄した後、上記の手順を繰り返して沈殿を得、その沈殿を−40℃、100mmHgで4時間、凍結乾燥し、粗製のパパインの重量に対し、15%の回収率でPCPLを得た。
【0077】
14.他の、市販されている分析用の化学薬品は以下のとおりである:
n−ヘキサン、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、1,2−ジメトキシエタン、無水ピリジン、フェニルジクロロホスフェート、クロロホルム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸マグネシウム、酢酸エチル等。
【0078】
II.一般手順:
1.水飽和有機溶媒の調製:
適切な量の脱イオン水を、イソオクタン及びシクロヘキサンのような選択された有機溶媒へ添加した。24時間以上攪拌した後、有機層を後に使用するために集めた。水飽和有機溶媒の調製は、Carica papayaリパーゼによって触媒される酵素分割が行われるのと同一の温度で行なわれるのが好ましい。
【0079】
2.(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの合成:
氷冷した25mLの無水1,2−ジメトキシエタンに、4.30mmolの(R,S)−ナプロキセン、1.15mLの無水ピリジン、1.07mmolのフェニルジクロロホスフェート及び1000mgの2,2,2−トリフルオロエタンチオールを添加した。得られた混合物を室温で攪拌しながら16時間反応させた後、氷冷した20mLの1M NaOH溶液を添加した。その後、生成物を抽出するために、得られた混合物に25mLのクロロホルムを30分間攪拌しながら添加した。有機層を集め、50mLの1M NaOH溶液で2回、50mLの飽和NaCl溶液で2回の順序で洗浄し、MgSO上で24時間乾燥し、濾過し、真空下で濃縮した。得られたオイルをn−ヘキサン:酢酸エチル(5:1,v/v)の移動相を用いたシリカゲル液体クロマトグラフィーによって精製した後、真空下で濃縮し、白い固形生成物を最初の(R,S)−ナプロキセンに対して62%の収率で得た。
【0080】
以下の実施例で使用される他の(R,S)−プロフェン2,2,2トリフルオロエチルチオエステルは、同様の方法で調製したのに対し、(R、S)−プロフェン2,2,2−トリフルオロエチルエステルはH.−Y. Lin and S.−W. Tsai (2003), J. Mol. Catal. B: Enz., 24:111−20で述べられた手順により調製した。
【0081】
3.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析:
選択された水飽和有機溶媒中での(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルエステルの加水分解及び、n−プロパノールによる(R,S)−ナプロキセンのエステル化は、Regis Co.(Morton Grove,Illinois, USA)から購入した、2−ニトロトルエン、(R)−及び(S)−ナプロキセン並びに(R)−及び(S)−ナプロキセンエステルの内部標準を分割できるキラルカラム(S,S)−WHELK−01を用いたHPLCによってモニターした。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(80:20:0.5,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0082】
異なる(R,S)−プロフェン、2−フェニルプロピオン酸及び2−クロロ−2−フェニル酢酸の、2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの加水分解、並びに選択されたアルコールとの2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸のエステル化は、ニトロトルエン、(R)−及び(S)−チオエステルまたは(R)−及び(S)−エステル、並びに(R)−及び(S)−プロフェンの内部標準を分離できるキラルカラム(キラルセル ODまたはOJH、ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLCによってモニターした。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸の混合物を、流速1mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0083】
実施例1:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルエステルの動力学的分割
水飽和有機溶媒は、一般手順II.1の前記項目で述べられた手順により、イソオクタンまたはシクロヘキサンのいずれかを使用して調製した。
【0084】
ラセミ体(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルエステルを、調製した有機溶媒に添加し、濃度を3mMとした。15mLの得られたラセミ体である(R,S)−ナプロキセンエステル溶液に、粗製のパパイン(75mg)または部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、11.3mg)のいずれかを添加した。得られた混合物を、35℃から70℃の範囲から選択された温度下で、規定の時間、攪拌しながら反応させた。
【0085】
試料のアリコート(200μL)を規定の時間間隔で採取し、(S,S)−WHELK−01カラム(Regis Co.(Morton Grove,Illinois, USA)を用いたHPLC分析に供した。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(80:20:0.5,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0086】
時間tにおける(S)−ナプロキセンエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−ナプロキセンエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−ナプロキセンエステルの転化率(Xで示す)、及び生成物の光学純度(eeで示す)の経時的変化は、下記の計算式に基づいてそれぞれ計算した:
【0087】
【数1】

【0088】
ここで:
(S:時間0における(S)−ナプロキセンエステルの初期濃度(mM)
(S:時間0における(R)−ナプロキセンエステルの初期濃度(mM)
(S:時間t(hr)における(S)−ナプロキセンエステルの濃度(mM);及び
(S:時間t(hr)における(R)−ナプロキセンエステルの濃度(mM)
である。
【0089】
さらに、鏡像異性体比(Eで示す)は、(R)−ナプロキセンエステルの初期反応速度に対する(S)−ナプロキセンエステルの初期反応速度、またはその反対として定義した。
【0090】
式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体のラセミ混合物を酵素基質として用いる場合には、(S=(Sであり、そして、
=1−[(S+(S]/[(S+(S]=(X+X)/2
である。
【0091】
第1表は、種々の溶媒系及び酵素を使用し、種々の温度下において、規定の時間間隔で実施した実験から集めた実験データをまとめたものである。
【0092】
【表1】

【0093】
実施例2:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルを、選択された水飽和有機溶媒に添加し、1mMの濃度にした。15mLの得られたラセミ体(R,S)−ナプロキセンチオエステル溶液に、粗製のパパイン(1350mg)または部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、203mg)のいずれかを添加した。得られた混合物を、35℃から60℃の範囲から選択された温度下で、規定の時間、攪拌しながら反応させた。
【0094】
試料のアリコート(200μL)を規定の時間間隔で採取し、キラルセルODカラム(ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLC分析に供した。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(97:3:1,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0095】
時間tにおける(S)−ナプロキセンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−ナプロキセンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−ナプロキセンチオエステルの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)、及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0096】
第2表は、種々の溶媒系及び酵素を使用し、種々の温度下において、規定の時間間隔で実施した実験から集めた実験データをまとめたものである。
【0097】
【表2】

【0098】
実施例3:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−フェノプロフェン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−フェノプロフェン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルを、水飽和イソオクタンに添加し、1mMの濃度にした。15mLの得られたラセミ体(R,S)−フェノプロフェンチオエステル溶液に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、203mg)を添加した。得られた混合物を、60℃で、170時間、攪拌しながら反応させた。試料のアリコート(200μL)を採取し、キラルセルODカラム(ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLC分析に供した。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(100:1.0:0.5,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0099】
時間tにおける(S)−フェノプロフェンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−フェノプロフェンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−フェノプロフェンチオエステルの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)、及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0100】
この実施例により得られた実験データを第3表にまとめた。Carica papayaリパーゼが、(S)−フェノプロフェンチオエステルではなく、(R)−フェノプロフェンチオエステルの加水分解を触媒することが理解される。
【0101】
実施例4:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−イブプロフェン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−イブプロフェン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルを、水飽和イソオクタンに添加し、1mMの濃度にした。15mLの得られたラセミ体(R,S)−イブプロフェンチオエステル溶液に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、203mg)を添加した。得られた混合物を、45℃で、104時間、攪拌しながら反応させた。試料のアリコート(200μL)を採取し、キラルセルODカラム(ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLC分析に供した。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール(100:0,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0102】
時間tにおける(S)−イブプロフェンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−イブプロフェンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−イブプロフェンチオエステルの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)、及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0103】
この実施例により得られた実験データを第3表にまとめた。
【0104】
実施例5:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−2−フェニルプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−2−フェニルプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルを、水飽和イソオクタンに添加し、1mMの濃度にした。15mLの得られたラセミ体(R,S)−2−フェニルプロピオン酸チオエステル溶液に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、203mg)を添加した。得られた混合物を、45℃で、170時間、攪拌しながら反応させた。試料のアリコート(200μL)を採取し、キラルセルODカラム(ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLC分析に供した。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(100:0.35:0.22,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出をカラム温度25℃で行った。
【0105】
時間tにおける(S)−2−フェニルプロピオン酸チオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−2−フェニルプロピオン酸チオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−2−フェニルプロピオン酸チオエステルの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)、及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0106】
この実施例により得られた実験データを第3表にまとめた。
【0107】
実施例6:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−ジクロフォッグメチルエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−ジクロフォッグメチルエステルを、水飽和イソオクタンに添加し、1.5mMの濃度にした。15mLの得られたラセミ体(R,S)−ジクロフォッグメチルエステル溶液に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、15mg)を添加した。得られた混合物を、45℃で、18.2時間、攪拌しながら反応させた。試料のアリコート(200μL)を採取し、キラルセルOJ−Hカラム(ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLC分析に供した。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(97:3:1,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、270nmでのUV検出をカラム温度25℃で行った。
【0108】
時間tにおける(S)−ジクロフォッグメチルエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−ジクロフォッグメチルエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−ジクロフォッグメチルエステルの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)、及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0109】
この実施例により得られた実験データを第3表にまとめた。Carica papayaリパーゼが、(S)−ジクロフォッグメチルエステルではなく、(R)−ジクロフォッグメチルエステルの加水分解を触媒することが理解され得る。
【0110】
実施例7:Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、ラセミ体(R,S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルを、水飽和イソオクタンに添加し、1mMの濃度にした。15mLの得られたラセミ体(R,S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸チオエステル溶液に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、25mg)を添加した。得られた混合物を、45℃で、48時間、攪拌しながら反応させた。試料のアリコート(200μL)を採取し、キラルセルOJ−Hカラム(ダイセル化学工業、東京、日本)を用いたHPLC分析を行った。移動相は、n−ヘキサン/イソプロパノール/氷酢酸(240:10:1,v/v)の混合物を、流速1.0mL/分で用いた。定量化のため、240nmでのUV検出を、カラム温度25℃で行った。
【0111】
時間tにおける(S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸チオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−2−クロロ−2−フェニル酢酸チオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸チオエステルの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)、及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0112】
この実施例により得られた実験データを第3表にまとめた。Carica papayaリパーゼが、(S)−2−クロロ−2−フェニル酢酸チオエステルではなく、(R)−2−クロロ−2−フェニル酢酸チオエステルの加水分解を触媒することが理解され得る。
【0113】
【表3】

【0114】
実施例8:トリオクチルアミン存在下における、Carica papayaリパーゼを使用した酵素加水分解による、(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルエステルの動力学的分割
上記実施例1に記載の手順により、ラセミ体(R,S)−ナプロキセン2,2,2−トリフルオロエチルチオエステルを、水飽和イソオクタンに添加し、1mMの濃度にした。得られたラセミ体(R,S)−ナプロキセンチオエステル溶液のアリコート(10mL)に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、135mg)及び種々の濃度のトリオクチルアミンをそれぞれ添加した。得られた混合物を、45℃で、規定の時間、攪拌しながら反応させた。その後、試料のアリコート(200μL)を採取し、上記実施例2に記載されているように、HPLC分析に供した。
【0115】
時間tにおける(S)−ナプロキセンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおける(R)−ナプロキセンチオエステルの転化率(Xで示す)、時間tにおけるラセミ体(R,S)−ナプロキセンチオエステルの転化率(Xで示す)、及び生成物の光学純度(eeで示す)の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0116】
この実施例により得られた実験データを第4表にまとめた。トリオクチルアミンの添加により、eeの値がおよそ100%まで増大されることが理解される。
【0117】
【表4】

【0118】
実施例9:Carica papayaリパーゼを使用した酵素的エステル化による、(R,S)−ナプロキセンの動力学的分割
無水イソオクタンに、ラセミ体である(R,S)−ナプロキセン及びn−プロパノールを添加し、それぞれ0.45mM及び15mMの濃度にした。
【0119】
ラセミ体(R,S)−ナプロキセン及びn−プロパノールを含む、得られた溶液のアリコート(15mL)に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、75mg)を添加した。得られた混合物を、45℃で、168時間、攪拌しながら反応させた。その後、試料のアリコート(200μL)を採取し、上記実施例1に記載されているように、HPLC分析に供した。
【0120】
時間tにおけるラセミ体(R,S)−ナプロキセンの転化率(Xで示す)、(R)−ナプロキセンの転化率(Xで示す)、(S)−ナプロキセンの転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0121】
この実施例により得られた実験データを第5表にまとめた。
【0122】
実施例10:Carica papayaリパーゼを使用した酵素的エステル化による、(R,S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸の動力学的分割
無水イソオクタンに、ラセミ体(R,S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸及び選択されたアルコール(n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノールまたはトリメチルシリルメタノール)を添加し、それぞれ1.5mM及び15mMの濃度にした。
【0123】
ラセミ体(R,S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸及び選択されたアルコールを含む、得られた溶液のアリコート(3mL)に、部分的に精製されたCarica papayaリパーゼ(PCPL、3mg)を添加した。得られた混合物を、45℃で、規定の時間、攪拌しながら反応させた。その後、試料のアリコート(200μL)を採取し、上記実施例6に記載されているように、HPLC分析に供した。
【0124】
時間tにおけるラセミ体(R,S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸の転化率(Xで示す)、(R)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸の転化率(Xで示す)、(S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸の転化率(Xで示す)、生成物の光学純度(eeで示す)及びE値の経時的変化は、上記実施例1の記載に従い計算した。
【0125】
この実施例により得られた実験データを第5表にまとめた。Carica papayaリパーゼが、(S)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸ではなく、(R)−2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸のエステル化を触媒することが理解され得る。
【0126】
【表5】

【0127】
結論:
市販されている粗製のパパインまたはその部分的に精製された生成物のいずれかのCarica papayaリパーゼが、無水または水飽和有機溶媒系のような様々な溶媒系において実施される、高収率及び高転化率で所望の光学的に純粋な生成物を与える、α−置換カルボン酸あるいはそのエステルまたはチオエステルのR−及びS−鏡像異性体混合物の酵素分割に使用できることは、上記の実施例の実験結果から明らかである。さらに、上記の実施例において得られたE値のほとんどは30より大きく、100さえも超えており、Carica papayaリパーゼがα−置換カルボン酸あるいはそのエステルまたはチオエステルの酵素分割を活性化する、反応性の高い生体触媒であることを示している。α−置換カルボン酸あるいはそのエステルまたはチオエステルのCarica papayaリパーゼによる酵素分割中の有機塩基の添加は、生成物の光学純度の増大を100%に達する程度までさらにアシストする。
【0128】
本願明細書に引用された特許及び参考文献はすべて、参照によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含め、本願明細書が優先される。
【0129】
本発明が上記の特定の実施形態を参照して記載されている場合であっても、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく多数の改良及び変更を行うことができることは明白である。従って、本発明は、添付の請求項により示される態様でのみ制限されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(ここで、
Xは−O−または−S−を示し、
Yはハロゲンまたはメチル基であり、
は、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基及びアリール基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C20脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、アリールオキシ基または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基を示し;そして、
は、H;ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C12脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基を示し;
ただし、Y及びRは同時にメチルになり得ない)
のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を酵素分割する方法であって、
該方法は、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体の混合物を、液相中で、Carica papayaリパーゼにより触媒される酵素分割に供することを包含する。
【請求項2】
液相が、水溶液、無水有機溶媒、水飽和有機溶媒、及び二相溶液を形成するこれらの組み合わせから選択される溶媒系を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液相が、イソオクタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、デカン、トルエン、ベンゼン、四塩化炭素、t−ブタノール、t−ペンタノール、イソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル及びこれらの組み合わせから選択される有機溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該混合物が、式(I)のα−置換カルボン酸、あるいはそのエステルまたはチオエステルのラセミ混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Carica papayaリパーゼが、Carica papaya植物のラテックス浸出液(latex exudate)から調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割が、有機塩基と組み合わせた有機溶媒を含む液相中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
有機溶媒が、イソオクタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、デカン、トルエン、ベンゼン、四塩化炭素、t−ブタノール、t−ペンタノール、イソプロピルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル及びこれらの組み合わせから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
有機塩基が、第三級アミン、アミジン、グアニジン、ホスファゼン塩基及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
有機塩基が、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4,4,0]デカ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、t−ブチルイミノ−トリス(ピロリジノ)ホスホラン、t−ブチルイミノ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホラン、1−t−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)−ホスホラニリデンアミノ]−2λ,4λ−カテナジ(ホスファゼン)、ジエチルアミノメチル−ポリスチレン及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
有機塩基が、有機担体及び無機担体から選ばれた担体上に保持される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
有機塩基が、陰イオン交換樹脂上で保持される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割が、20℃から90℃の温度範囲で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
混合物が、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割が、水溶液、水飽和有機溶媒、及び二相溶液を形成するこれらの組み合わせから選択される溶媒系を含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−型またはS−型のいずれかを、Carica papayaリパーゼによりエナンチオ選択的に加水分解する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルが、下記の化合物:ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸または2−クロロ−2−フェニル酢酸の、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニルまたはトリフルオロエチル エステル;ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸または2−クロロ−2−フェニル酢酸の、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニルまたはトリフルオロエチル チオエステル;及び、ジクロフォッグ(diclofog)メチルエステル;
の少なくともいずれか1つである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
液相が、第三級アミン、アミジン、グアニジン、ホスファゼン塩基またはこれらの組み合わせからなる群より選択される有機塩基をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
有機塩基が、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4,4,0]デカ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、t−ブチルイミノ−トリス(ピロリジノ)ホスホラン、t−ブチルイミノトリス(ジメチルアミノ)−ホスホラン、1−t−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)−ホスホラニリデンアミノ]−2λ,4λ−カテナジ(ホスファゼン)、ジエチルアミノメチル−ポリスチレン及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項17】
混合物が、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割が、無水有機溶媒とアルコールの組み合わせを含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸エステルまたはチオエステルの、R−型またはS−型のいずれかを、Carica papayaリパーゼによりエナンチオ選択的に、該アルコールを用いてエステル交換する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
式(I)のα−置換カルボン酸エステルが、下記の化合物:
ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸または2−クロロ−2−フェニル酢酸の、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニルまたはトリフルオロエチル エステル;ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸または2−クロロ−2−フェニル酢酸の、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニルまたはトリフルオロエチル チオエステル;及び、ジクロフォッグメチルエステル、
の少なくともいずれか1つである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割に使用するアルコールが、式ROHであり、
ここで、RはRとは異なり、そして:ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C12脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ基、アリール基並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基;
を示す、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
該アルコールが、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、トリメチルシリルメタノール及び2−N−モルホリノエタノールからなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
混合物が、式(I)のα−置換カルボン酸の、R−及びS−鏡像異性体を含み、Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割が、無水有機溶媒とアルコールの組み合わせを含む液相中で行われ、式(I)のα−置換カルボン酸の、R−型またはS−型のいずれかを、Carica papayaリパーゼによりエナンチオ選択的に、該アルコールを用いてエステル化する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
式(I)のα−置換カルボン酸が、下記の化合物:ナプロキセン、フェノプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、フルルビプロフェン、2−フェニルプロピオン酸、ジクロフォッグ、2−(4−クロロフェノキシ)プロピオン酸及び2−クロロ−2−フェニル酢酸、の少なくともいずれか1つである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
Carica papayaリパーゼによる混合物の酵素分割に使用されるアルコールが、式ROHであり、
ここで、RはRとは異なり、そして:ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−CF、−OCF、−SCF、−Si(CH、C−Cアルキルオキシ基、C−Cアルキルチオ基、アリール基、ビニル及び3〜12の炭素原子を有する2−アルケニル基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和のC−C12脂肪族基;それぞれの基が、ハロ、アミノ、シアノ、ヒドロキシ、−SH、−COOH、−CF、−OCF、−SCF、−CONH、C−Cアルコキシ、アリール並びに、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基からなる群より選択される1〜3個の置換基によって必要に応じて置換された、アリール基、または、O、S及びNから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むC−C12複素環基;
を示す、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
該アルコールが、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、トリメチルシリルメタノール及び2−N−モルホリノエタノールからなる群より選択される、請求項23に記載の方法。

【公開番号】特開2006−14737(P2006−14737A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−189373(P2005−189373)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(502250743)國立成功大學 (16)
【Fターム(参考)】