説明

D−プシコースエピメラーゼによるD−プシコースの生成方法

本発明は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のD-プシコースエピメラーゼを用いたD-プシコースの生成方法を提供する。本発明は、配列番号:1のアミノ酸配列を有し、プシコース3-エピメラーゼ活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換え発現ベクター、および大量に生成した前記タンパク質をD-フルクトースと反応させることによりD-プシコースを生成する方法を提供する。D-プシコースを生成する本方法は、新規の酵素を用いた環境に優しい方法であり、廉価な基質が用いられ、酵素活性を長時間にわたって維持することができる。したがって、本方法は、D-プシコースの大量生成に効率的に用いることができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のD-プシコースエピメラーゼ(以下、プシコース3-エピメラーゼという)を用いるD-プシコースの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
一般に、D-プシコースは、D-フルクトースのエピマーであって、甘味の強度および種類の面において、D-フルクトースに極めて類似している。しかし、D-プシコースは、D-フルクトースと異なり、体内吸収時にほとんど代謝されず、熱量寄与が低い。したがって、D-プシコースは、ダイエット食品の有効成分として用いることができる。非砂糖甘味料として広く利用されている糖アルコール類は、規定量を超えて摂取すると下痢などの副作用を起こすが、D-プシコースは、そのような副作用がない。さらに、D-プシコースは、人体内でほとんど代謝されないため、熱量値はほぼゼロに近く、脂質合成酵素の活性を抑制することで腹部脂肪を減少させる機能を有している。そのため、D-プシコースは、体重減少に有益な甘味料としても使用することができる(たとえば、Matsuo, T., Y. Baba, M. Hashiguchi, K. Takeshita, K. Izumori and H. Suzuki, "Dietary D-psicose, a C-3 epimer of D-fructose, suppresses the activity of hepatic lipogenic enzymes in rats", Asia Pac. J. Clin. Nutr., 10:233-237(2001)(非特許文献1); および Matsuo, T. and K. Izumori, "D-Psicose, a rare sugar that provides no energy and additionally beneficial effects for clinical nutrition", Asia Pac. J. Clin. Nutr., 13:S127(2004)(非特許文献2) を参照)。
【0003】
このような観点から、D-プシコースは、ダイエット甘味料として多くの関心を集めており、食品産業において、D-プシコースの効率的な生成方法の開発に対する必要性が高まっている。これは、D-プシコースが、天然では、糖蜜(theriae)処理過程またはグルコース異性化反応過程中の中間物質として非常に少量存在するのみであり、化学的に合成できないためである。
【0004】
したがって、上記のような問題に対処するために、D-フルクトースを基質として用いて、D-プシコースを酵素的に生成する方法について研究が行われている。
【0005】
しかし、現在までに開発された方法には、D-プシコースの低い収率に起因して生成コストが高いという問題がある。
【0006】
【非特許文献1】Matsuo, T., Y. Baba, M. Hashiguchi, K. Takeshita, K. Izumori and H. Suzuki, "Dietary D-psicose, a C-3 epimer of D-fructose, suppresses the activity of hepatic lipogenic enzymes in rats", Asia Pac. J. Clin. Nutr., 10:233-237(2001)
【非特許文献2】Matsuo, T. and K. Izumori, "D-Psicose, a rare sugar that provides no energy and additionally beneficial effects for clinical nutrition", Asia Pac. J. Clin. Nutr., 13:S127(2004)
【発明の開示】
【0007】
技術的課題
本発明の発明者らは、機能によってではなく単に塩基配列またはアミノ酸配列によって特徴付けられたエピメラーゼ酵素から、D-フルクトースを基質として用いて、高収率でD-プシコースを生成できる酵素を選択することを試み、選択された酵素の特定の効果を立証した。本発明は、選択された酵素を用いて高収率でD-プシコースを生成する新規の方法を提供する。
【0008】
技術的解決法
本発明の一局面により、配列番号:1のアミノ酸配列を有し、かつプシコース3-エピメラーゼ活性を有するタンパク質が提供される。
【0009】
本発明の別の局面により、前記タンパク質をコードする遺伝子が提供される。
【0010】
本発明の別の局面により、前記遺伝子を含む組換え発現ベクターが提供される。
【0011】
本発明の別の局面により、上述したタンパク質をD-フルクトースと反応させてD-プシコースを生成する方法が提供される。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本明細書において用いられる技術用語および科学用語は、他に定義されない限り、当業者によって通常理解されている用語を意味することが理解される。
【0014】
さらに、通常公知である技術的構成および機序と同一の技術的構成および機序についての説明は繰り返されない。
【0015】
本発明者らは、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来のタガトース3-エピメラーゼの遺伝子またはタガトース3-エピメラーゼに対応する遺伝子をクローニングし、該遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した微生物を培養し、タガトース3-エピメラーゼを過剰発現させることで、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来の、特性付けられていないタガトース3-エピメラーゼの特性を調べた。その結果、タガトース3-エピメラーゼは、タガトースよりプシコースに対して高い特異性を有し、したがって、アグロバクテリウム・ツメファシエンス由来の「知られている」タガトース3-エピメラーゼが、実質的にはプシコース3-エピメラーゼであることが見出された。したがって、本発明は、プシコース3-エピメラーゼを用いてD-プシコースを生成する方法を提供する。
【0016】
さらに具体的には、本発明において有用な公知のタガトース3-エピメラーゼの遺伝子を得る目的で、該タガトース3-エピメラーゼの遺伝子を生成することが知られている細胞株が用いられ、該細胞株は、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)、ストレプトマイセス・コエリコーラ(Streptomyces coelicolor)メソリゾビウム・ロティ(Mesorhizobium loti)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス、ロードピレルラ・バルティカ(Rhodopirellula baltica)、ピレルラ(Pirellula)種、フォトラブダス・ルミネセンス(Photorhabdus luminescens )亜種ラモンディ(laumondii)、およびシノリゾビウム・メリロティ(Sinorhizobium meliloti)を含む。アグロバクテリウム・ツメファシエンスATCC33970由来の遺伝子から発現した酵素(NP_535228;配列番号:1)のみがD-フルクトースをD-プシコースに転換させる活性を有するということが、本発明により世界で初めて立証された。
【0017】
タガトース3-エピメラーゼの特性を決定するために、本発明では、タガトース3-エピメラーゼ遺伝子は、酵素的機能の面の特徴付けの結果によってではなく単にDNA塩基配列によって命名されたタガトース3-エピメラーゼ遺伝子を含む細菌株から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を通して大量に獲得された。続いて、得られたタガトース3-エピメラーゼ遺伝子を適切な発現ベクターに挿入して、タガトース3-エピメラーゼ遺伝子を含む組換えベクターを作製し、該組換えベクターを適切な微生物に形質転換した。形質転換した微生物を発酵培地で培養し、タガトース3-エピメラーゼ遺伝子のタンパク質生成物を該微生物内で過剰発現させた。次に、タガトース3-エピメラーゼ遺伝子のタンパク質生成物を使用のために単離し、精製した。
【0018】
本発明のD-プシコースの生成方法は、プシコース3-エピメラーゼ(通常、タガトース3-エピメラーゼとして知られる)を、基質として用いられるフルクトースと反応させる段階を含む。
【0019】
本発明の方法により生成されるプシコース3-エピメラーゼは、配列番号:1のアミノ酸配列に限定されないアミノ酸配列を有してもよく、修飾アミノ酸配列がD-フルクトースをD-プシコースに転換することができるならば、配列番号:1のアミノ酸配列内の一部のアミノ酸残基の置換、挿入、または欠失により生じるアミノ酸配列もまた含んでもよい。
【0020】
本発明の方法において、組換え発現ベクターを生成するために使用することができる発現ベクターは、遺伝子組換え技術において通常使用される任意の発現ベクターであってよく、たとえば、pET-24a()であってよい。組換え発現ベクターで形質転換することができる微生物は、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)であってよい。しかし、該微生物は、所望の遺伝子を含む組換え発現ベクターで形質転換した後に該遺伝子を過剰発現することができる任意の細菌株であるならば、かつ過剰発現の結果として活性タンパク質を生成することもできる任意の細菌株であるならば、限定されない。
【0021】
より詳細には、形質転換された微生物を培養し、本発明のタンパク質の過剰発現を誘発する以下の過程は、下記で説明される本発明の例示的態様により行われてもよい。低温保存された大腸菌BL21(DE3)の種菌をLB培養液50mlが入った250mlフラスコに播種し、600nmでの吸光度が2.0に達するまで、菌株を37℃に維持された振盪培養器で培養する。培養した溶液を、グリセロール10g/L、ペプトン1g/L、酵母抽出物30g/L、二リン酸カリウム0.14g/L、および一リン酸ナトリウム1g/Lからなる発酵培養液5Lが入った7L発酵槽(Biotron, Co., Ltd.、韓国)に加え、混合物を、600nmでの吸光度が2.0に達するまで発酵槽でインキュベートする。続いて、ITPGを1mM加えて、本発明のタンパク質の過剰発現を誘導する。操作の間、攪拌速度は500rpm、通気量は1.0vvm、インキュベーション温度は37℃に維持されてもよく、上記のこのようなインキュベーション条件は、プシコース3-エピメラーゼの大量生成において好ましい。
【0022】
過剰発現により生成されたタンパク質を精製するために、形質転換された菌株の培養溶液を、4℃で30分間、6,000×gで遠心分離した後、0.85%のNaClで2回洗浄する。その後、細胞を、リゾチーム1mg/mlを含む細胞破砕緩衝溶液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、pH8.0)に加え、細胞を含む細胞溶解緩衝溶液を氷内で30分間放置する。細胞溶解緩衝溶液内の細胞をフレンチプレスにより15,000lb/in2で破砕し、破砕細胞を、4℃で20分間、13,000×gで遠心分離に供して除去し、上澄を孔の直径0.45μmの濾紙で濾過し、低温条件下で高速タンパク質クロマトグラフィー(FPLC)により精製する。本発明のタンパク質を含む濾過液を、塩化ナトリウム(NaCl)300mMおよびイミダゾール10mMを含むpH8.0のリン酸緩衝溶液50mMで平衡化したHisTrap HPカラムに適用する。その後、HisTrap HPカラムを同じリン酸緩衝溶液で洗浄し、イミダゾールを含む同じリン酸緩衝溶液により、10mMから200mMの濃度勾配、流速1ml/分で、カラムに付着したタンパク質を溶出する。本発明のタンパク質を含む溶出された断片をpH7.5の50mMのPIPES緩衝溶液に平衡させたHiPrep 16/60脱塩樹脂カラムに加えた後、該タンパク質を6ml/分の速度で洗い出す。このように集められたタンパク質の溶液を、塩化ナトリウム0.15Mを含むpH7.5のPIPES緩衝溶液50mMに平衡させたSephacryl S-100 HRカラムに6.6ml/分の流速で適用して、タンパク質を溶出した。溶出したタンパク質は最終的に50mM PIPES緩衝溶液で透析する。
【0023】
上記のように得た本発明のタンパク質は、32,600Daの分子量を有する単量体であるプシコース3-エピメラーゼである。このプシコース3-エピメラーゼは、金属酵素であり、その活性化は金属イオンによって調節される。
【0024】
本発明の別の態様により、プシコース3-エピメラーゼとD-フルクトースとの間の反応は、D-プシコースの生成収率を向上させるために、マンガン、マグネシウム、鉄、コバルト、およびアルミニウムからなる群より選択された金属イオンの濃度0.5〜5mM、たとえば1mMでの存在下で行われうる。金属イオンの濃度が0.5mM未満の場合、生成収率を向上させる効果は無視でき、一方、金属イオンの濃度が5mMを超える場合、向上は過剰量に対し効果が小さい。
【0025】
プシコース3-エピメラーゼとD-フルクトースとの間の反応は、濃度55〜75%(w/w)の基質(すなわち、D-フルクトース)を、pH7〜8かつ温度55〜65℃で用いて行ってもよい。基質、すなわちD-フルクトースの濃度が55〜75%(w/w)の範囲内である場合、D-プシコースの生成収率は良好であり、上記の範囲のpHおよび温度の条件はプシコース3-エピメラーゼ活性において最適なpHと温度の範囲である。
【0026】
本発明の別の態様により、D-プシコースを生成するための、プシコース3-エピメラーゼとD-フルクトースとの間の反応は、担体に固定されたプシコース3-エピメラーゼは酵素活性を長時間にわたって維持することができるため、反応中にプシコース3-エピメラーゼを担体に固定することによって行われうる。本発明の現在の態様に有用な担体は、酵素固定における使用において公知の任意の担体であってよく、たとえばアルギン酸ナトリウムであってよい。アルギン酸ナトリウムは、藻類の細胞壁に豊富な天然コロイド性多糖類であって、β-1,4連鎖によりランダムに結合するβ-D-マンヌロン酸およびα-L-グルロン酸の残基を含む。したがって、アルギン酸ナトリウムにより、プシコース3-エピメラーゼの安定的な固定が可能になり、D-プシコースの高い収率を得るのに有利である。D-プシコースの最大収率を得る目的で、プシコース3-エピメラーゼの固定のために、1.5〜4.0重量%、たとえば2.5重量%の濃度のアルギン酸ナトリウムを用いてもよい。アルギン酸ナトリウムを、プシコース3-エピメラーゼを固定する担体として用いる場合、プシコース3-エピメラーゼの溶液を1〜2倍体積でアルギン酸ナトリウム水溶液に加えてもよく、続いて、混合物を、注射器ポンプおよび真空ポンプを用いて0.2Mのカルシウムイオン溶液に液滴で加え、プシコース3-エピメラーゼとアルギン酸ナトリウムとの複合体のビーズを形成させる。これらのプシコース3-エピメラーゼとアルギン酸ナトリウムとの複合体のビーズは、D-フルクトースとの反応に直接使用してもよい。
【0027】
本発明の態様によるD-プシコースの生成方法は、微生物由来の酵素を利用するため環境に優しく、簡単な酵素固定過程を必要とし、D-プシコース生成収率を有意に向上させ、したがって生成効率を最大化する一方で生成コストを低減する。
【0028】
このように生成されたD-プシコースは、食品添加物または医薬添加物として有用に用いることができる。
【0029】
効果
上記のように、本発明の態様によるD-プシコースの生成方法は、微生物由来の酵素を利用するため環境に優しく、簡単な酵素固定過程を必要とし、従来の方法で用いられるものより廉価な基質を用い、D-プシコース生成収率を有意に向上させ、したがって生成効率を最大化する一方で生成コストを低減する。
【0030】
このように生成されたD-プシコースは、食品添加物または医薬添加物として有用に用いることができる。
【0031】
最良の形態
以下、具体的な実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は例示的な目的でのみ示され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0032】
実施例
本実験例では、プシコース3-エピメラーゼの分子量を測定するためにMALDI-TOF-MSを使用し、桂皮酸をマトリックスとして用いた。酵素活性は、D-フルクトースを基質として用いて測定した。酵素活性を測定するために、1.0%のD-フルクトースを含む50mM PIPES緩衝溶液でpH7.5、50℃で20分間、プシコース3-エピメラーゼをD-フルクトースと反応させ、その後、反応溶液を100℃で5分間加熱して反応を終了させた。D-フルクトースをPIPES緩衝溶液に60〜70重量%の濃度となるようにpH7〜8で溶解することで、D-フルクトースを含むPIPES緩衝溶液を調製し、該D-フルクトースを含むPIPES緩衝溶液を、40℃〜60℃に維持されたバイオリアクターに連続的に加えた。酵素活性を容易に比較するために、プシコース3-エピメラーゼの1単位は、pH7.5かつ50℃で1分当たり1モルのD-プシコースを生成するのに必要なプシコース3-エピメラーゼの量と定義する。
【0033】
D-フルクトース、D-プシコース、D-ソルボース、D-タガトース、D-キシルロース、およびD-リブロースの濃度をBP-100カルシウムイオン炭水化物カラムおよびRI検出器を備えた高速液体クロマトグラフィ(HPLC)システムを用いて測定した。このとき、カラムは、80℃で0.5ml/分の速度で蒸留水を通過させるように調整された。
【0034】
実施例:プシコース3-エピメラーゼの物理的性質
実施例1:プシコース3-エピメラーゼの大量生成
プシコース3-エピメラーゼ遺伝子は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス ATCC33970のDNAを、アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58のタガトース3-エピメラーゼ遺伝子であることが示唆されているが機能的に特徴付けられてはいない遺伝子のDNA塩基配列をもとに設計されたプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅することにより、大量に得た。獲得されたプシコース3-エピメラーゼ遺伝子は、制限酵素XhoIおよびNdeIを用いて発現ベクターpET-24a()(Novagen, Inc.)に挿入され、組換え発現ベクターpET-24a()/プシコース3-エピメラーゼを生成する(図3参照)。この組換え発現ベクターを、通常の形質転換法を用いて、大腸菌BL21(DE3)に形質転換した。形質転換した大腸菌BL21(DE3)株を、大量生成用に培養する前に液化窒素で低温保存した。
【0035】
次いで、低温保存された大腸菌BL21(DE3)株の種菌を、LB培養液50mlが入った250mlのフラスコに播種し、600nmでの前培養溶液の吸光度が2.0に達するまで37℃の振盪培養器で前培養した。前培養溶液を発酵培養液(グリセロール10g/L、ペプトン1g/L、酵母抽出物30g/L、二リン酸カリウム0.14g/L、および一リン酸ナトリウム1g/L)5Lが入った7L発酵槽(Biotron Co., Ltd.、韓国)に加え、本培養に供した。600nmでの本培養溶液の吸光度が2.0に達したとき、ITPG 1mMを本培養溶液に加えてプシコース3-エピメラーゼの大量生成を誘導した。培養過程中、攪拌速度は500rpm、通気量は1.0vvm(体積/体積/分)、培養温度は37℃を維持した。
【0036】
実施例2:プシコース3-エピメラーゼの精製
プシコース3-エピメラーゼの特徴付けを行うために、アフィニティクロマトグラフィ(HisTrap HPカラム)、脱塩(HiPrep 16/60カラム)、およびゲル濾過(Sephacryl S-100 HRカラム)を用いてプシコース3-エピメラーゼを精製した。
【0037】
精製したプシコース3-エピメラーゼの分子量を測定したところ、プシコース3-エピメラーゼは32,600Daの分子量を有する単量体であることが見出された。プシコース3-エピメラーゼのアミノ酸配列は、NCBIアクセッション番号NP_535228のアミノ酸配列と同一であるということが確認された。
【0038】
実施例3:プシコース3-エピメラーゼの金属特異性
金属イオンを追加する効果を調べるために、プシコース3-エピメラーゼをEDTAで処理した後、または下記の表1に示された金属イオンをプシコース3-エピメラーゼに1mMずつ加えた後に、プシコース3-エピメラーゼの酵素活性を測定した。プシコース3-エピメラーゼの反応を、0.04単位/mlのプシコース3-エピメラーゼと1.0重量%のD-フルクトースとを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、pH7.5、50℃で20分間行い、次に反応溶液を100℃で5分間加熱して反応を終了させた。続いて、プシコース3-エピメラーゼの酵素活性を測定した。
【0039】
結果として、下記の表1に示されるように、マンガンイオンおよびコバルトイオンが酵素活性を増強し、銅イオンおよび亜鉛イオンが活性を阻害することから、プシコース3-エピメラーゼは金属酵素を有するということが見出された。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例4:プシコース3-エピメラーゼの基質特異性
プシコース3-エピメラーゼの反応を、0.04単位/mlのプシコース3-エピメラーゼと下記の表2に示されたそれぞれが独立に10mMの単糖類とを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、pH7.5、50℃で20分間行い、次に各反応溶液を100℃で5分間加熱して反応を終了させた。続いて、各反応溶液のプシコース3-エピメラーゼの酵素活性を測定した。
【0042】
結果として、プシコース3-エピメラーゼは、D-タガトースに対してよりもD-プシコースに対してより高い親和度を有するということが見出された。したがって、このプシコース3-エピメラーゼは、タガトース3-エピメラーゼとしてではなく、プシコースをエピマー化することのできる酵素として、新規に認識された。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例5:pHおよび温度の変化によるプシコース3-エピメラーゼの活性
実施例5では、プシコース3-エピメラーゼを様々なpH値および温度でD-フルクトースと反応させ、様々なpH値および温度において得られた酵素活性を比較した。pH効果を調べるために、プシコース3-エピメラーゼの反応を、0.04単位/mlのプシコース3-エピメラーゼと1.0重量%のD-フルクトースとを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、pH6.5〜7.5の範囲で行い、さらに同様の反応を、0.04単位/mlのプシコース3-エピメラーゼと1.0重量%のD-フルクトースとを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、pH7.5〜8.5の範囲で行った。ここで、各反応は、金属イオンを加えない場合は50℃で、マンガンイオンを加えた場合は60℃で、それぞれ20分間反応させた。続いて、100℃で5分間の熱処理により反応を終了させ、酵素活性を測定した。結果は図1Aに示した。
【0045】
温度効果を調べるために、反応を、0.04単位/mlのプシコース3-エピメラーゼと1.0%のD-フルクトースとを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、30℃〜70℃の温度範囲で20分間、金属イオンを加えない場合はpH7.5で、マンガンイオンを加えた場合はpH7.0で行った。100℃で5分間の熱処理により反応を終了させ、酵素活性を測定した。結果は図1Bに示した。
【0046】
結果として、金属イオンを加えない場合のプシコース3-エピメラーゼにおける最適のpHおよび温度は、それぞれ7.5および50℃であることが見出された。Mn2+イオンを加えた場合のプシコース3-エピメラーゼにおける最適のpHおよび温度は、それぞれ7.0および60℃であった。
【0047】
図1Aは、反応pHに対する本発明の一態様によるプシコース3-エピメラーゼの活性を表すグラフである。図1Aに関して、○は、金属イオン非含有PIPES緩衝溶液で得られた結果を示し、●は、Mn2+イオン含有PIPES緩衝溶液で得られた結果を示し、□は、金属イオン非含有EPPS緩衝溶液で得られた結果を示し、■は、Mn2+イオン含有EPPS緩衝溶液で得られた結果を示す。
【0048】
図1Bは、反応温度に対する本発明の一態様によるプシコース3-エピメラーゼの活性を表すグラフである。図1Bに関して、○は、金属イオンなしで得られた結果を示し、●は、1mMのMn2+イオンの存在下で得られた結果を示す。
【0049】
実施例6:プシコース3-エピメラーゼにより達成される、D-プシコースとD-フルクトースとの間の平衡
実施例6では、プシコース3-エピメラーゼの反応を、0.04単位/mlのプシコース3-エピメラーゼ、1mMのMn2+イオン、ならびに合わせて0.1%のD-プシコースおよびD-フルクトースを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、pH7.0、30℃〜60℃の温度範囲で、反応が十分進むように24時間行い、D-プシコースとD-フルクトースとの間の平衡を求めた。続いて、100℃で5分間の熱処理により反応を終了させ、酵素活性を測定した。
【0050】
図2は、30℃から60℃の温度範囲での、本発明の一態様によるプシコース3-エピメラーゼとD-フルクトースとの反応の後に達成された、D-プシコース(■)とD-フルクトース(□)の平衡比率を示すグラフである。
【0051】
結果として、反応は、D-プシコースとD-フルクトースの5つの初期比率、すなわち0:100、25:75、50:50、75:25、100:0で開始され、D-プシコースとD-フルクトースの最終比率を、図2に示すように、反応の24時間後に測定した。図2に関して、D-プシコースとD-フルクトースとの比率は30℃で32:68であり、同様の比率は60℃で37:63であった。これらの結果は、従来のD-プシコースの生成方法と比べ達成可能な収率が約20%優れていた。
【0052】
実施例7:プシコース3-エピメラーゼによるD-プシコースの生成
D-プシコースを高濃度で生成するために、反応を、14単位/mlのプシコース3-エピメラーゼ、1mMのMn2+イオン、および700g/LのD-フルクトースを含む50mMのPIPES緩衝溶液で、pH7.0、60℃で様々な反応時間で行った。続いて、100℃で5分間の熱処理により反応を終了させ、酵素活性を測定した。反応時間によるD-プシコースの生成率を下記の表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
結果として、120分の培養時間を使って211g/LのD-プシコースが生成され、この生成率は、D-プシコースの転換収率30.2%に相当する。
【0055】
実施例8:酵素固定によるD-プシコースの生成
D-プシコースの生成方法の効率性を調べるために、プシコース3-エピメラーゼを固定した。固定プシコース3-エピメラーゼの生成収率を測定し、非固定(自由)プシコース3-エピメラーゼの生成収率と比較した。
【0056】
担体上に固定したプシコース3-エピメラーゼのために、プシコース3-エピメラーゼとアルギン酸ナトリウムとの複合物のビーズを用いた。このビーズは、プシコース3-エピメラーゼの溶液を、プシコース3-エピメラーゼ溶液の1.5倍の体積を有する2.5%のアルギン酸ナトリウム溶液に加え、この混合物を注射器ポンプおよび真空ポンプで0.2Mのカルシウムイオン溶液に加えることによって作製された。
【0057】
反応は、固定したプシコース3-エピメラーゼを用いたこと以外、実施例7と同一の様式で行った。反応に使用したプシコース3-エピメラーゼの量は、140単位/10mlであり、D-プシコース生成率を測定した。結果を下記の表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
その結果、実施例7の自由プシコース3-エピメラーゼは、120分の反応時間を使って最大転換率211g/Lであった。しかし、本実施例の固定プシコース3-エピメラーゼの場合、生成速度は、自由プシコース3-エピメラーゼの生成速度より低かったが、固定プシコース3-エピメラーゼの熱安定性は高く、D-プシコースの濃度は経時的に増加した。したがって、360分の反応時間の後のD-プシコース生成率は245g/Lであり、この生成率は、転換収率35%に相当する。
【0060】
実施例9:バイオリアクター内でのD-プシコースの生成収率
実施例8の固定プシコース3-エピメラーゼの生成収率を実証するために、バイオリアクターで次の反応を行った。
【0061】
まず、実施例8と同一の様式で、固定プシコース3-エピメラーゼおよびD-フルクトースを調製し、D-フルクトースを固定プシコース3-エピメラーゼに加え、混合物を体積100mlに調整した。次いで、高さ100cm、直径26cmのバイオリアクター(Pharmacia Biotechnologies, Inc., XK26, UK)に固定プシコース3-エピメラーゼとD-フルクトースとの混合物を充填し、流速10ml/h、60℃で反応を行った。プシコース3-エピメラーゼの量は500単位であり、長期間にわたる工程で過剰なD-フルクトースが沈殿する問題があるため、使用したD-フルクトースの濃度は600g/Lに制限した。結果を下記の表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
結果として、プシコース3-エピメラーゼとD-フルクトースとの間の反応は、30日間の実験の全期間にわたって安定しており、生産性が21g/L/h、D-フルクトースからD-プシコースへの転換率が35%、一方、生成率が210g/Lであった。この収率は、糖類の大量生成において卓越した収率値である。
【0064】
したがって、本発明は、産業規模での大量生成が可能である、バイオリアクターを利用したD-プシコースの生成システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1Aは、本発明の一態様によるプシコース3-エピメラーゼの、反応pHに対する活性を示すグラフである。図1Bは、本発明の一態様によるプシコース3-エピメラーゼの、反応温度に対する活性を示すグラフである。
【図2】本発明の一態様によるプシコース3-エピメラーゼを30℃〜60℃の温度範囲でD-フルクトースと反応させた際に得られたD-プシコース(■)とD-フルクトース(□)との間の平衡比率を示すグラフである。
【図3】本発明の一態様による組換え発現ベクターの切断地図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1のアミノ酸配列を有し、かつプシコース3-エピメラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号:1のアミノ酸配列を有し、かつプシコース3-エピメラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項3】
請求項2記載の遺伝子を含む組換え発現ベクター。
【請求項4】
請求項1記載のタンパク質をD-フルクトースと反応させてD-プシコースを生成する方法。
【請求項5】
タンパク質が、請求項3記載の組換え発現ベクターで形質転換した微生物を培養し、該微生物の培養溶液からタンパク質を単離することによって得られるタンパク質生成物である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
反応が、マンガン、マグネシウム、鉄、コバルト、およびアルミニウムからなる群より選択される金属イオンの存在下で行われる、請求項4記載の方法。
【請求項7】
反応で用いられるD-フルクトースの濃度が、55〜75%(w/w)である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
反応が、pH7〜8の間かつ温度55〜65℃の間で行われる、請求項4記載の方法。
【請求項9】
タンパク質を担体上に固定してD-フルクトースと反応させる、請求項4記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−541753(P2008−541753A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514546(P2008−514546)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002075
【国際公開番号】WO2006/129954
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(507394813)シージェイ チェイルジェダン コーポレーション (3)
【Fターム(参考)】