説明

DBF信号処理装置およびDBF信号処理方法

【課題】アンテナ素子数が2のべき乗でない場合であっても、DFT処理を高速に処理することができ、装置の軽量化や製品のコストダウンを図ることが可能なDBF信号処理装置およびDBF信号処理方法を得る。
【解決手段】1以上のアンテナ素子2a〜2jで受信した信号の増幅および復調を行う受信手段3a〜3jと、増幅および復調された信号をA/D変換するA/D変換手段4a〜4jと、A/D変換された信号を、アンテナ素子の数に応じて設けられた加減算器と乗算器とで積和演算処理を行う積和演算手段5と、積和演算手段5の演算結果から信号の到来方向を算出する信号到来角度計算手段6と、得られた信号の到来方向を表示する表示手段7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はDBF(Digital Beam Forming:デジタルビームフォーミング)信号処理装置およびDBF信号処理方法に関し、特に、アレーアンテナを用いたDBF信号処理装置およびDBF信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナは、所定の位置に配置した複数のアンテナ素子からなるアンテナであり、それぞれの素子の励振を制御することによって、ある方向にのみ強い指向性を持たせたり、逆に、ある方向からの信号に対しては感度を0(ヌル)とすることが出来る。また、このアレーアンテナを受信アンテナとして用いた場合、配置されている各々の素子アンテナの物理的な位置の違いにより、受信した平面波の位相が異なってくるため、その位相差を検出して信号の到来方向を推定することも可能である。
【0003】
このようなアレーアンテナを利用して得られる信号の到来角度推定値は、アレーアンテナの適用制御を行う際に、基準信号として用いることが可能であり、従来、様々な到来角度推定方法が提案されている。
【0004】
到来角度推定方法の一つとして、複数のアレーアンテナ素子の各素子出力に対して空間FFT(FFT:Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)を行って得られる直交マルチビームの一つのビームと、それに直交するビームのヌルを利用して信号波到来方向を推定する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記の特許文献1による処理装置は、空間FFT処理を行っており、アンテナ素子数Nが2のべき乗を想定している。しかし、アレーアンテナ素子の数は、装置の大きさ、構成、要求される性能、コスト等により制約を受けるため、素子数Nが2のべき乗にならない場合もありうる。このような場合は、FFTによる離散フーリエ変換(以下、DFTと呼ぶ,DFT:Discrete Fourier Transformation)の高速化が適用できないため、最悪の場合は、N×N回の複素乗算を行う必要が生じる。
【0006】
このような場合の対処方法として、シストリックアレイを用いて、各素子の出力の複素乗算と総和の処理を行う手法が示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平10−290112号公報(図2)
【特許文献2】特開平10−209750号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1による従来例の場合、上述したように、アレーアンテナ素子の数は、装置の大きさ、構成、要求される性能、コスト等により制約を受けるため、素子数Nが2のべき乗にならない場合もあり、そのような場合は、DFTの高速化が適用できないため、最悪の場合は、N×N回の複素乗算を行う必要が生じてしまうという問題点があった。
【0009】
また、上記の特許文献2による従来例の場合には、m=i=アレイ素子数Nとし(ここで、mは形成する合成ビームの個数、iはサブアレイ内の素子数)、重み付け加算の処理の際に、DFTの回転子を乗算すれば、Nの値に関係なく各アレイ素子出力に対するDFTの結果を得ることが出来る。しかしながら、この場合には、N×N個の複素乗算器を必要とするため、ハードウェア回路の規模がNの2乗に比例して大幅に大型化という問題点があった。また、N番目のアレイ素子には、Nτの遅延が生じるため、処理の出力時間がNに比例して遅延するという問題点があった。また、N個のアレイ素子間でN(N−1)本の接続が必要となるため、装置が複雑になるという問題点があった。
【0010】
また、近年の半導体技術の飛躍的な向上により、上記のような多数の乗算を1つないし複数個のLSI等で処理が出来るほど大規模になったが、LSIに接続されている信号線の本数は大きな変化がなく、1つのLSIにデータ転送用として使用できる信号線は多いものでも1000本程度である。このため、例えば、1つのLSIに32bit幅の信号線を10セット入力に使い、10セット出力に使用すると、640本の信号線を使用することになり、信号線が逼迫することになる。このため、LSIにデータを送受信する信号線の本数の制約から装置構成が制限されるという問題点があった。
【0011】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、アンテナ素子数が2のべき乗でない場合であっても、DFT処理を高速に処理することができ、装置の軽量化や製品のコストダウンを図ることが可能なDBF信号処理装置およびDBF信号処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、1以上のアンテナ素子で受信した信号の増幅および復調を行う受信手段と、前記増幅および復調された信号をA/D変換するA/D変換手段と、前記A/D変換された信号を、アンテナ素子の数に応じて設けられた加減算器と乗算器とで積和演算処理を行う積和演算手段と、前記積和演算手段の演算結果から信号の到来方向を算出する信号到来角度計算手段とを備えたDBF信号処理装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、1以上のアンテナ素子で受信した信号の増幅および復調を行う受信手段と、前記増幅および復調された信号をA/D変換するA/D変換手段と、前記A/D変換された信号を、アンテナ素子の数に応じて設けられた加減算器と乗算器とで積和演算処理を行う積和演算手段と、前記積和演算手段の演算結果から信号の到来方向を算出する信号到来角度計算手段とを備えたDBF信号処理装置であるので、DBF信号処理装置およびDBF信号処理方法にアンテナ素子の数に応じて適切な加減算器と乗算器で積和演算処理を行う積和手段を設けたので、アンテナ素子数が2のべき乗でない場合であっても、DFT処理を高速に処理することができ、装置の軽量化や製品のコストダウンを図ることが可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
【0015】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるDBF信号処理装置およびDBF信号処理システムの構成を説明するブロック図である。DBF方式は、アンテナ素子で受信された受信信号をそれぞれデジタル変換し、振幅位相制御した後、加算することによってビーム出力を得る方式である。この方式を用い、高精度な振幅位相制御を行うことにより、特に低サイドローブ化が可能となる。また、各アンテナ素子から得られたデジタル信号を分配し、それぞれ独立に合成することにより、マルチビーム形成が可能となる。図1において、1はDBF信号処理を行うDBF信号処理装置である。DBF信号処理装置1には、図1に示すように、アレイアンテナを構成する1以上のアンテナ素子2a〜2jと、アンテナ素子2a〜2jで受信した到来信号の増幅および復調を行う受信手段3a〜3jと、受信手段3a〜3jからのアナログデータをデジタルデータに変換するA/D変換手段4a〜4jと、A/D変換した受信データを積和演算する積和演算手段5と、積和演算手段5の演算結果から信号の到来方向を算出する信号到来角度計算手段6と、信号到来角度計算手段6で計算された結果から、信号の到来方向を表示する表示手段7とを備えている。
【0016】
なお、図1に示すように、各アンテナ素子2a〜2jには、受信手段3a〜3jがそれぞれ1つずつ接続されている。また、各受信手段3a〜3jには、A/D変換手段4a〜4jがそれぞれ1つずつ接続されている。また、各A/D変換手段4a〜4jは、すべて、1つの積和演算手段5に接続されている。積和演算手段5には、信号到来角度計算手段6が接続され、信号到来角度計算手段6には、表示手段7が接続されている。
【0017】
また、図2は、図1の積和演算手段5の構成を説明するブロック図である。図2に示すように、積和演算手段5は、各アンテナ素子で受信した受信データに係数を乗算する乗算手段11a〜11eと、各乗算手段11a〜11eでの演算結果を加減算する加算減算手段12a〜12eと、加減算後の演算結果に対してWFT(Winograd Fourier Transform)を行う5点WFT演算手段13a〜13bとを備えている。また、図1に示した各A/D変換手段4a〜4jとは、データ出力信号線20a〜20jを介して接続されている。なお、ここで、各乗算手段11a〜11eはそれぞれ1個の乗算器で構成すればよく、各加算減算手段12a〜12eはそれぞれ1個の加減算器で構成すればよい。
【0018】
具体的に接続関係について説明すると、各A/D変換手段4a〜4jに、それぞれ、データ出力信号線20a〜20jが接続されている。このとき、データ出力信号線20aと20fとが乗算手段11aに接続されており、データ出力信号線20bと20gとが乗算手段11bに接続されており、データ出力信号線20cと20hとが乗算手段11cに接続されており、データ出力信号線20dと20iとが乗算手段11dに接続されており、データ出力信号線20eと20jとが乗算手段11eに接続されている。また、乗算手段11a〜11eと加算減算手段12a〜12eとは1対1に接続されている。また、加算減算手段12a〜12eは、それぞれ、5点WFT演算手段13a〜13bの両方に接続されている。
【0019】
なお、図1には記載されていないが、実際にはこのDBF信号処理装置1を全体的に制御する制御手段があり、積和演算手段5、信号到来角度計算手段6、積和演算手段5内の乗算手段11a〜11e、同じく加算減算手段12a〜12e、同じく5点WFT演算手段13a〜13bと、システムバス等を介して接続されており、これらの各手段を制御する。ただし、以下においては説明を簡潔にするために、積和演算手段5等が自らデータ処理を実行するものとして説明する。
【0020】
また、上述の表示手段7は、例えば液晶パネル等であるが、外部の記憶装置や他の信号処理装置、演算装置等への出力であってもよい。また、本実施の形態においては、積和演算手段5での演算結果を信号到来角度計算手段6に渡しているが、積和演算手段5での演算結果をそのまま他の信号処理装置、演算装置等に出力する構成でも良い。
【0021】
次に、全体の動作について説明する。
以下の例では、アンテナ素子が10個の場合について説明する。
図3は、上記DBF信号処理装置およびDBF信号処理システムの図示しない制御手段によって実行される処理プログラムを示す概略のフローチャートである。このプログラムは制御手段のROM等のメモリにあらかじめ記憶されていてもよいが、プログラム自体を装置とは独立に存在するものとし、CD等の外部記憶媒体、又はインターネット等の通信回線を介して、書き込み可能なメモリにインストールするようにしてもよい。この場合には、DBF信号処理装置およびDBF信号処理システムのプログラムの発明として成立する。
【0022】
DBF信号処理装置1では、まず、アンテナ素子2a〜2jで到来信号を受信し、受信手段3a〜3jで増幅や周波数の変換等の処理を行った後、A/D変換手段4a〜4jでA/D変換を行ってデジタルデータに変換する。A/D変換されたデータは積和演算手段5に送られる(ステップST1)。
【0023】
積和演算手段5においては、乗算手段11a〜11eにおいて、A/D変換手段4a〜4jからデータ出力信号線20a〜20jに出力されるデータに、推定到来角度θにより算出される係数を乗算する。例えば、時刻tにデータ出力信号線20aに出力されるデータをD0(t)、データ出力信号線20bに出力されるデータをD1(t)、・・・、データ出力信号線20jに出力されるデータをD9(t)とする。このとき、データD0(t)〜D9(t)に乗算する係数S0〜S9は、次の様になる。
【0024】
Sm = 2(m−1)πdsinθ/λ
ただし、dは素子間隔、λは受信波の波長、m=0〜9の整数、とする。なお、係数S0〜S9は、後述する信号到来角度計算手段6により計算され、乗算手段11a〜11eに入力される。信号到来角度計算手段6は、指定された範囲内で推定到来角度θの値を変化させて、順次、当該θの値における係数S0〜S9を計算して、乗算手段11a〜11eに入力する処理を繰り返す。
【0025】
図2で示すように、乗算手段11aでデータD0(t)と係数S0の乗算と、データD5(t)と係数S5の乗算を行う。同様にして、乗算手段11bでデータD1(t)と係数S1、データD6(t)と係数S6の乗算を行い、乗算手段11cでデータD2(t)と係数S2、データD7(t)と係数S7の乗算を行い、乗算手段11dでデータD3(t)と係数S3、データD8(t)と係数S8の乗算を行い、乗算手段11eでデータD4(t)と係数S4、データD9(t)と係数S9の乗算を行う。D0(t)とS0の乗算結果をE0(t)、D1(t)とS1の乗算結果をE1(t)、・・・、D9(t)とS9の乗算結果をE9(t)、として、加算減算手段12a〜12eに送る(ステップST2)。
【0026】
加算減算手段12a〜12eにおいて、乗算手段11a〜11eで係数を乗算したデータを加減算する。例えば、加算減算手段12aでは、E0(t)とE5(t)の和をF0(t)、E0(t)とE5(t)の差をF5(t)として算出する。同様にして、加算減算手段12bでは、E1(t)とE6(t)の和をF1(t)、E1(t)とE6(t)の差をF6(t)として算出し、・・・、加算減算手段12eでは、E4(t)とE9(t)の和をF4(t)、E4(t)とE9(t)の差をF9(t)として算出する(ステップST3)。
【0027】
5点WFT演算手段13a〜13bにおいて、加算減算手段12a〜12eで得られたデータのDFT(Discrete Fourier Transformation)を行う。例えば、加算減算手段12a〜12eで得られた各加算結果F0(t)〜F4(t)を5点WFT演算手段13aに送り、DFT処理を行い、演算結果G0(t)〜G4(t)を算出する。同様にして、各減算データF5(t)〜F9(t)を5点WFT演算手段13bに送り、DFT処理を行い、演算結果G5(t)〜G9(t)を算出する。演算結果G0(t)〜G9(t)を信号到来角度計算手段6に送る(ステップST4)。
【0028】
信号到来角度計算手段6で、5点WFT演算手段13a,13bでの演算結果から最大出力となるものを算出し、保持する(ステップST5)。信号到来角度計算手段6では、推定到来角度θを変化させて係数S0〜S9を計算し、乗算手段11a〜11eに送る。θを変化させて指定された範囲の全てのθに対する演算結果が得られるまで、ステップST2〜ステップST5の処理を繰り返す(ステップST6)。信号到来角度計算手段6では、θを変化させた場合の5点WFT演算手段13a,13bでの演算結果から最大となる値の情報とそれに対応するθから、信号の到来方向を算出する(ステップST7)。
【0029】
信号到来角度計算手段6で得られた情報から表示手段7に信号の到来方向を表示する(ステップST8)。
DBF信号処理装置では、以上の動作によりアレーアンテナを用いた信号の到来方向を算出する。
【0030】
次に、加算減算手段12a〜12eと5点WFT演算手段13a〜13bの動作について説明する。図4は加算減算手段12a〜12eと5点WFT演算手段13a〜13bでのDFT処理のデータの流れを示したものである。図4で、2つの矢印が交差する箇所は2つのデータの加減算を示し、マイナス符号があるものは減算、マイナス符号がないものは加算を示す。また、図のAで示した箇所はデータと係数の乗算を示す。A部分の白枠の中が乗算する係数である。図4のデータE0(t)〜E9(t)からデータF0(t)〜F9(t)へ移る処理が加算減算手段12a〜12eによる2点DFTを、データF0(t)〜F9(t)からデータG0(t)〜G9(t)に移る処理が5点WFT演算手段13a〜13bによる5点DFT処理を示す。このような処理により、加算減算手段12a〜12eとWFT演算手段13a〜13bで演算を実行する。
【0031】
加算減算手段12a〜12eと5点WFT演算手段13a〜13bでの一連の処理は、10点DFT処理であるが、10点DFT処理は、図4のように2点DFT処理と5点DFT処理に分割することが出来る。
【0032】
また、図4の破線の枠でしめした5点DFT処理は、WFT(Winograd Fourier Transform)と呼ばれる処理である。WFTは、DFTでの乗算を加算に置き換えて乗算を削減する手法である。ハードウエア等でDFT処理を行う場合、乗算のコストが大きいためこの様な方法は有効となる。通常の5点DFTを行う場合、乗算回数は25回となるが、5点WFTでは、乗算回数は6回となり、乗算を削減することが出来る。
【0033】
上記のような構成とすることにより、10点DFT処理での乗算を大幅に削減でき、ハードウェア回路を削減することが出来る。また、上記の例では、10点DFTでの処理を示したが、WFTではデータ数が2,3,4,5,7,8,9,16の場合か、これらの数の中で互いに素となる数の積であれば適用することができる。従って、アンテナ素子の数が2のべき乗以外の場合であっても、DFT処理を高速に実行し、ハードウェアの回路規模や構成数を削減することができる。
【0034】
以上のように、本実施の形態1によれば、アンテナ素子の数が2のべき乗以外の場合であっても、DFT処理での乗算を削減できるため、演算負荷を抑えることが出来るという効果が得られる。これにより、積和演算手段のハードウェア規模を抑えることができるため、省電力化、装置の軽量化や製品のコストダウンなどが可能になるという効果が得られる。また、信号の受信から到来方向の推測までの時間を短縮できるという効果が得られる。
【0035】
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、10点DFT処理を2点DFT処理と5点WFT処理に分割し、加減算手段とWFT演算手段を設けることにより、ハードウェアの演算負荷を削減していた。しかし、この様な構成の場合、複数の加減算手段と5点WFT演算手段の間でデータが交差することになり、処理を複数のLSIや基板で処理する際に信号線が煩雑になる。しかし、処理の最初にデータを分割することにより、積和演算を行うことも出来る。
【0036】
本発明の実施の形態2によるDBF信号処理装置およびDBF信号処理システムの構成は、上述の実施の形態1の図1に示した構成と基本的に同様である。図5は、本実施の形態2におけるDBF信号処理装置およびDBF信号処理システムの内部にある積和演算手段5の構成を説明するブロック図である。図5において、21a〜21jはデータ出力信号線20a〜20jを通して送られてくるデータを分配する分配手段、22a,22bは、図2に示した5つの乗算手段11a〜11eを内部にもち、係数乗算を10並列で行う並列乗算手段、23は、図2に示した加算減算手段12a〜12eのうちの加算手段を5つ内部にもつ並列加算手段、24は、図2に示した加算減算手段12a〜12eのうちの減算手段を5つ内部にもつ並列減算手段である。他の構成は図2と同様である。なお、並列加算手段23および並列減算手段24は、5つの加減算器で構成してもよく、あるいは、それぞれ、5つの加算器および5つの減算器で構成するようにしてもよい。
【0037】
全体の動作については、実施の形態1の動作と基本的に同じである。ただし、実施の形態2では、分配手段21a〜21jにおいて、データ出力信号線20a〜20jから入力されるデータE0(t)〜E9(t)を2つずつコピーして、同一のデータE'0(t)〜E'9(t)及びデータE''0(t)〜E''9(t)を作成し、データE'0(t)〜E'9(t)を並列乗算手段22aに、データE''0(t)〜E''9(t)を並列乗算手段22bに送る。分配手段21a〜21jでの処理遅延をτとすると、データE0(t)〜E9(t)、データE'0(t)〜E'9(t)及びデータE''0(t)〜E''9(t)は以下の式で表せる。
【0038】
Em(t−τ) = E'm(t) = E''m(t)
【0039】
また、並列加算手段23では2点DFT処理の加算部分を、並列減算手段24では2点DFT処理の減算部分の処理を行う。
【0040】
以上のように、本実施の形態2によれば、積和演算手段5の入力部分で、データを2つにコピーしてそれ以降の処理を完全に分けて処理するようにした。この様な構成にすることにより、演算途中でのデータの交換をなくすことが出来、複数のLSIや複数の基板で並列に処理を行うことが容易になり、演算処理の時間を短縮できる。また、信号の受信から到来方向の推測までの時間を短縮できるという効果が得られる。
【0041】
実施の形態3.
上述の実施の形態2では、積和演算手段5の入力部分で、データを2つにコピーしてそれ以降の処理を完全に分けて処理する構成にすることにより、並列処理を容易に行えるようになり、演算処理の時間を短縮していた。しかし、この場合、積和演算手段5を複数のLSIで構成する場合、並列乗算手段22a〜22bへのデータ入力信号線の本数が多くなる。しかし、入出力信号線を考慮した構成にすることにより、積和演算を効率的に行うことも出来る。
【0042】
本発明の実施の形態3によるDBF信号処理装置およびDBF信号処理システムの構成は、上述の実施の形態1の図1に示した構成と基本的に同様である。図6は、本実施の形態3におけるDBF信号処理装置およびDBF信号処理システムの内部にある積和演算手段5の構成を説明するブロック図である。図6において、22c,22dは係数乗算を5並列で処理する並列乗算手段、25aは3つの加算減算手段を内部にもつ並列加算減算手段、25bは2つの加算減算手段を内部にもつ並列加算減算手段である。他の構成は図2と同様である。なお、並列加算減算手段25aおよび並列加算減算手段25bは、それぞれ、上記個数の加減算器で構成すればよい。
【0043】
次に、動作について説明する。全体の動作については、実施の形態1の動作において、ステップST3とステップST4の順番を逆にして処理を行う。10点DFT処理は、前述のように2点DFT処理と5点DFT処理に分けられるが、どちらの処理を先に行っても同じ結果を得ることが出来る。また、5点WFT演算手段13aの演算結果をH0(t)〜H4(t)、5点WFT演算手段13bの演算結果をH5(t)〜H9(t)とすると、並列加算減算手段25aでは、H0(t)とH5(t)、H1(t)とH6(t)、H2(t)とH7(t)、の加減算を実行し、並列加算減算手段25bでは、H3(t)とH8(t)、H4(t)とH9(t)、の加減算を実行する。
【0044】
以上のように、本実施の形態3によれば、上記のような構成とすることにより、演算の途中でデータの交換が生じるものの、並列乗算手段22c,22dに接続される信号線の本数を削減できる。これにより、信号線の制限による制約が緩和され、複数のLSIや複数の基板で並列に処理を行うことが容易になり、演算処理の時間を短縮できる。また、信号の受信から到来方向の推測までの時間を短縮できるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るDBF信号処理装置およびDBF信号処理方法は、DBF信号処理において、WFTを利用した信号処理の高速化を実現できるので、アレーアンテナを用いたDBF信号処理装置およびDBF信号処理方法の分野に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施の形態1におけるDBF信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1における積和演算手段の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるDBF信号処理のプログラムを示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1においてDFTの分割を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2におけるDBF信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3におけるDBF信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1 DBF信号処理装置、2a,2b,2c,2d,2j アンテナ素子、3a,3b,3c,3d,3j 受信手段、4a,4b,4c,4d,4j A/D変換手段、5 積和演算手段、6 信号到来角度計算手段、7 表示手段、11a,11b,11c,11d,11e 乗算手段、12a,12b,12c,12d,12e 加算減算手段、13a,13b 5点WFT演算手段、20a,20b,20c,20d,20e,20f,20g,20h,20i,20j データ出力信号線、21a,21b,21c,21d,21e,21f,21g,21h,21i,21j 分配手段、22a,22b,22c,22d 並列乗算手段、23 並列加算手段、24 並列減算手段、25a,25b 並列加算減算手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のアンテナ素子で受信した信号の増幅および復調を行う受信手段と、
前記増幅および復調された信号をA/D変換するA/D変換手段と、
前記A/D変換された信号を、アンテナ素子の数に応じて設けられた加減算器と乗算器とで積和演算処理を行う積和演算手段と、
前記積和演算手段の演算結果から信号の到来方向を算出する信号到来角度計算手段と
を備えたことを特徴とするDBF信号処理装置。
【請求項2】
前記積和演算手段は、
前記アンテナ素子の数に応じた個数の加減算器で構成され、2以上のアンテナ素子で受信された信号に対応する前記A/D変換手段から出力された信号どうしの加算および減算を行う加算減算手段と、
2以上の前記加算減算手段から出力された加減算結果を用いて、前記アンテナ素子の数に応じたWinogradフーリエ変換処理を行うWFT演算手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のDBF信号処理装置。
【請求項3】
前記積和演算手段は、
前記A/D変換手段から出力された前記信号を少なくとも1つ複写して、元の信号と前記複写により生成した信号とを分配する分配手段と、
前記アンテナ素子の数に応じた個数の加減算器で構成され、2以上の前記分配手段により分配された信号の加算および減算を行う加算減算手段と、
前記加算減算手段から出力された加減算結果を用いて、前記アンテナ素子の数に応じたWinogradフーリエ変換処理を行うWFT演算手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のDBF信号処理装置。
【請求項4】
前記積和演算手段は、
前記A/D変換手段から出力された2以上の前記信号を用いて、前記アンテナ素子の数と信号配線の数とに応じたWinogradフーリエ変換処理を行う並列WFT演算手段と、
前記アンテナ素子の数と信号配線の数とに応じた個数の加減算器で構成され、前記並列WFT演算手段から出力された信号の加算および減算を行う並列加算減算手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のDBF信号処理装置。
【請求項5】
1以上のアンテナ素子で受信した信号の増幅および復調を行う受信ステップと、
前記増幅および復調された信号をA/D変換するA/D変換ステップと、
前記A/D変換された信号を、アンテナ素子の数に応じて設けられた加減算器と乗算器とで積和演算処理を行う積和演算ステップと、
前記積和演算ステップの演算結果から信号の到来方向を算出する信号到来角度計算ステップと
を備えたことを特徴とするDBF信号処理方法。
【請求項6】
前記積和演算ステップは、
前記アンテナ素子の数に応じた個数の加減算器を用いて、2以上のアンテナ素子で受信された信号に対応する前記A/D変換された信号どうしの加算および減算を行う加算減算ステップと、
2以上の前記加算減算ステップの加減算結果を用いて、前記アンテナ素子の数に応じたWinogradフーリエ変換処理を行うWFT演算ステップと
を備えたことを特徴とする請求項5に記載のDBF信号処理方法。
【請求項7】
前記積和演算ステップは、
前記A/D変換された前記信号を少なくとも1つ複写して、元の信号と前記複写により生成した信号とを分配する分配ステップと、
前記アンテナ素子の数に応じた個数の加減算器を用いて、前記分配ステップにより分配された2以上の信号の加算および減算を行う加算減算ステップと、
前記加算減算ステップの加減算結果を用いて、前記アンテナ素子の数に応じたWinogradフーリエ変換処理を行うWFT演算ステップと
を備えたことを特徴とする請求項5に記載のDBF信号処理方法。
【請求項8】
前記積和演算ステップは、
前記A/D変換された2以上の前記信号を用いて、前記アンテナ素子の数と信号配線の数とに応じたWinogradフーリエ変換処理を行う並列WFT演算ステップと、
前記アンテナ素子の数と信号配線の数とに応じた個数の加減算器を用いて、前記並列WFT演算ステップにより得られた信号の加算および減算を行う並列加算減算ステップと
を備えたことを特徴とする請求項5に記載のDBF信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−336164(P2007−336164A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164699(P2006−164699)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】