説明

DL−tert−ロイシンアミドの製造方法

【課題】
医薬品原料として重要なDL−tert−ロイシンアミドの工業的に実施可能で反応液をゲル化させることのない、操作性に優れた製造方法を確立し提供する。
【解決手段】
光学活性tert−ロイシンアミドを、有機溶媒中、塩基性触媒の存在下に反応させてラセミ化した後、酢酸根を有する酸性物質を反応液に添加することによって、反応液をゲル化させることのなく、光学活性tert−ロイシンアミドからDL−tert−ロイシンアミドを製造し提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性tert−ロイシンアミドをラセミ化して、医農薬中間体として大変重要なDL−tert−ロイシンアミドを、高純度かつ高収率で取得するための操作性に優れた製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、立体選択性を有する酵素または該酵素を有する微生物若しくはその処理物を、DL−tert−ロイシンアミドに作用させてL体選択的加水分解を行うことにより、光学活性L−tert−ロイシンを生成させた後、未反応のD−tert−ロイシンアミドを有機溶媒に溶解させ、光学活性L−tert−ロイシンを有機溶媒から析出させる方法が知られている(例えば、特許文献1,2,3参照)。この際、未反応のD−tert−ロイシンアミドは有機溶媒の溶液として得られるが、原料の有効な利用法として、D−tert−ロイシンアミドをラセミ化してDL−tert−ロイシンアミドとし立体選択的加水分解反応に循環利用することが重要である。
【0003】
従来、光学活性アミノ酸アミドのラセミ化方法として、光学活性アミノ酸アミドとカルボキシル化合物を反応させてシッフ塩基とし、続いてラセミ化する方法(例えば、特許文献4参照)、光学活性アミノ酸アミド溶液に強塩基を触媒として添加して加熱する方法(例えば、特許文献3,5,6参照)、酵素を使用してラセミ化する方法(例えば、特許文献7参照)が知られている。これらの中でより簡便な方法は、光学活性アミノ酸アミド溶液に強塩基を触媒として添加して加熱する方法であり、ラセミ化反応の後、ラセミ体アミノ酸アミドは再結晶等により分離される。ラセミ体アミノ酸アミドを分離する方法として、強塩基性条件で溶液中からラセミ体アミノ酸アミドを析出させる方法(例えば、特許文献5参照)、塩基性触媒を中和剤で不活性化してからその塩を系外に除去しラセミ体のアミノ酸アミドを析出させる方法(例えば、特許文献6参照)等がある。
【0004】
しかし、特許文献5に示された、ラセミ化条件である強塩基性溶液中からDL−tert−ロイシンアミドを析出させる方法では、DL−tert−ロイシンアミド中にtert−ロイシンが0.9%混入するため、tert−ロイシンアミドの純度が低い。
【0005】
一方で、塩基性触媒を中和剤で不活性化してからDL−アミノ酸アミドを析出させる方法(例えば、特許文献6参照)をDL−tert−ロイシンアミドに適用した場合、塩酸、硫酸をはじめとする無機酸や、蟻酸、プロピオン酸をはじめとする有機酸による中和を行うと、反応液がゲル化する問題が生じた。反応液の流動性が失われると、実験室レベルでは操作可能な場合もあるものの、工業的スケールの操作においては反応液の混合や移送が著しく困難となる。この問題を解決するため、反応液に有機溶媒を加えれば流動性は多少改善するが、多量の有機溶媒を使用することは工業的に好ましくない。
【0006】
また、高純度のDL−tert−ロイシンアミドを取得したい場合には、塩基性触媒の塩を除去する必要がある。しかし、塩基性触媒の塩を除去する操作を濾過や遠心分離などの固液分離法で行う場合には、ゲル化した反応液からの固液分離が困難となり、DL−tert−ロイシンアミドに塩が混入して純度を低下させる原因となる。さらに、塩基性触媒の塩を除去するために再結晶を行う場合には、塩基性触媒の中和剤として塩酸、硫酸などの酸を使用すると塩基性触媒の塩の再結晶溶媒に対する溶解度が低いことが多く、DL−tert−ロイシンアミドに塩が混入しやすい。DL−tert−ロイシンアミドの取得効率の面からも次工程以降への影響の面からも、塩の混入は最小限に抑えることが望ましいが、通常の方法では困難である。
このように、文献記載の方法では、光学活性tert−ロイシンアミドのラセミ化方法として工業的に実施することが困難であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−11034号公報
【特許文献2】特開2001−328970号公報
【特許文献3】特開2002−253293号公報
【特許文献4】特開2002−37767号公報
【特許文献5】特開2002−328971号公報
【特許文献6】特開昭61−197530号公報
【特許文献7】特表2005−529611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、医薬品原料として重要なtert−ロイシンアミドの工業的に実施可能で反応液をゲル化させることのない、操作性に優れた製造方法を確立し提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは工業的に実施可能で、ラセミ化後に塩基性触媒を中和し不活性化する工程において反応液がゲル化することのない、DL−tert−ロイシンアミドの製造方法に関して鋭意検討した結果、光学活性tert−ロイシンアミドに塩基性化合物を添加し加熱してラセミ化した後、酸を加えて中和し塩基性触媒を不活性化するに当たり、添加剤として酢酸を使用することにより、反応液のゲル化を生じることなく高収率、高純度のDL−tert−ロイシンアミドを工業的に容易に取得できる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、DL−tert−ロイシンアミドを得るための(1)〜(3)に示す製造方法に関する。
(1)光学活性tert−ロイシンアミドを、有機溶媒中、塩基性触媒の存在下に反応させてラセミ化し、DL−tert−ロイシンアミドを取得する方法において、ラセミ化反応後、酢酸根を有する酸性物質を反応液に添加することによって塩基性触媒を不活性化することを特徴とする、光学活性tert−ロイシンアミドからのDL−tert−ロイシンアミドの製造方法。
(2)有機溶媒が2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノールおよび2−ブタノールから選ばれる一種以上である、(1)に記載のDL−tert−ロイシンアミドの製造方法。
(3)塩基性触媒の50mol%以上が酢酸塩となるように酢酸根を有する酸性物質を反応液に添加する、(1)に記載のDL−tert−ロイシンアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、光学活性tert−ロイシンアミドを塩基性触媒によりラセミ化して、DL−tert−ロイシンアミドに変換する製造方法において、反応液をゲル化させることなくDL−tert−ロイシンアミドを高純度かつ高収率に取得することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の目的は、医薬品原料として重要なtert−ロイシンアミドの工業的に実施可能で反応液をゲル化させることのない、操作性に優れ、簡便かつ経済的な製造方法を確立し提供することにある。
【0012】
本発明で用いる光学活性tert−ロイシンアミドは精製されたものでも、DL−tert−ロイシンアミドのL体またはD体選択的加水分解反応後、溶媒置換を経て有機溶媒の溶液として分離取得されるものでもよい。有機溶媒としては光学活性tert−ロイシンアミドを溶解させるもので、沸点においてラセミ化が進行するものであればよく、特に制限はないが、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノールまたは2−ブタノール等のアルコール類が好適に使用される。
【0013】
ラセミ化反応に使用される塩基性触媒は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコラートのうち少なくとも1種類が選ばれる。例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、カリウムメチラート、カリウムt−ブチラート等が挙げられる。加えられる塩基性触媒の量は、ラセミ化反応液中のtert−ロイシンアミドに対して0.01〜1.0モル当量、好ましくは0.05〜0.5モル当量、さらに好ましくは0.05〜0.2モル当量である。塩基性触媒の添加量がこの範囲よりも少ない場合には、ラセミ化の進行が非常に遅くなり、多い場合にはtert−ロイシンアミドの加水分解によるtert−ロイシンの生成が多くなるため不適当である。また、溶媒または塩基性触媒により反応液に持ち込まれた水分は、ラセミ化反応に先立って蒸留などの水分除去操作を行うことで1重量%以下まで除去することが好ましく、これによって水分の存在で副生しやすくなるtert−ロイシンの生成を抑制することが可能である。
【0014】
光学活性tert−ロイシンアミドのラセミ化反応を行う際の反応温度および反応時間は塩基性触媒の種類、tert−ロイシンアミドの濃度、溶媒等の諸要因により異なり、特に限定されないが、例えば2−メチル−1プロパノールでは、反応温度100〜130℃で10分〜48時間行うのが好ましい。
【0015】
ラセミ化反応後、塩基性触媒を不活性化するため、酢酸根を有する酸性物質を中和剤として添加する。中和剤の組成は、ゲル化を生じない範囲として、塩基性触媒の50モル%以上が酢酸塩となるようにすることが望ましい。中和剤の添加条件は特に限定されないが、局所的にtert−ロイシンアミドの塩が析出すると操作が困難になるため、反応液を撹拌しながら滴下することが好ましい。
【0016】
中和剤の添加後、アルカリ金属酢酸塩を除去する必要があれば、再結晶の前に濾過または遠心分離等の通常の固液分離法によって分離することが可能である。必要に応じて反応液を濃縮し、tert−ロイシンアミドの貧溶媒を添加する。貧溶媒としては、温度によるtert−ロイシンアミドの溶解度差が大きく、かつtert−ロイシンおよび金属酢酸塩の溶解度が再結晶温度において高いものであればよく、好適には、アルコール系溶媒、その一例としてメタノールを20%以上含む溶媒とするのが好ましい。例えば溶媒として2−メチル−1−プロパノールのみを使用した場合にはtert−ロイシンアミドにtert−ロイシンや金属酢酸塩等の不純物が混入して純度を低下させるため、固液分離法によりこれらの不純物を除去することが必要になり、収率の低下も免れない。しかし、アルコール系溶媒を加えることでこれら不純物を溶媒に溶解させることが可能になり、再結晶前にtert−ロイシンおよび金属酢酸塩を除去しなくても再結晶で純度の高いDL−tert−ロイシンアミドを取得することができる。結晶として析出するDL−tert−ロイシンアミドは、一般的な固液分離法、例えば濾過または遠心分離等によって分離し、不純物を溶解する溶媒によって洗浄、続いて乾燥することによって取得される。
【0017】
ゲル化が生じる理由の詳細は明らかではないが、tert−ロイシン類似の構造を有するアミノ酸は、水素結合の分子間相互作用により低分子でありながらゲルを生成する性質が知られている(英謙二, 高分子論文集, 52,773(1995)、英謙二, 高分子論文集, 55,585(1998))。例えば、tert−ロイシンの構造異性体であるイソロイシンの誘導体では、水素結合の分子間相互作用によりイソロイシンの超分子的なネットワークを形成し、溶媒分子をネットワーク中に閉じ込めるために、溶媒の流動性を低下させると言われている。tert−ロイシンアミドラセミ化後の反応液には微量のtert−ロイシンが含まれており、従って、tert−ロイシンにおいても同様の現象が起こっていると考えられる。ゆえに、有機溶媒のゲル化が生じていると考えられる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例および比較例をもってより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
なお、tert−ロイシンまたはtert−ロイシンアミドの分析は、以下に示す高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で行った。
HPLC分析条件1:
カラム:スミキラルOA−5000(4.6φ×50mm)
溶離液:硫酸銅1mM水溶液
流速:0.8ml/min
検出:UV 254nm
HPLC分析条件2:
カラム:Lichrosorb RP−18(4.6φ×250mm)
溶離液:過塩素酸50mM水溶液
流速:0.5ml/min
検出:RI
ラセミ化率は以下に示す式1のように定義した。
式1
ラセミ化率(%)=L−tert−ロイシンアミド(mol)/(L−tert−ロイシンアミド+D−tert−ロイシンアミド)(mol)×200
また、ナトリウムイオンの分析はICP(VALIAN VISTA−PRO)で行った。
【0019】
実施例1
D−tert−ロイシンアミド64.3g(0.494mol)を含む2−メチル―1−プロパノール溶液824gに水酸化ナトリウム1.90g(0.0474mol)を添加し、110℃で常圧蒸留して158gまで濃縮した。続いて反応液を117℃で4.5時間還流し、ラセミ化反応を行った。ラセミ化反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析条件1で分析した。反応液中のtert−ロイシンアミドのラセミ化率は96.6%であった。
ラセミ化反応終了後、反応液を撹拌しながら酢酸2.85g(0.0474mol)を添加した。反応液のゲル化は認められなかった。この反応液を、110℃で常圧蒸留して反応液重量が96gとなるまで濃縮し、メタノール70mlを加え、マイナス20℃で再結晶させた。析出した結晶を濾取し、メタノール108mlで洗浄、真空乾燥し、DL−tert−ロイシンアミド56.6g(0.434mol)を取得した。得られたDL−tert−ロイシンアミドの純度をHPLC分析条件2で分析した結果、DL−tert−ロイシンアミドの純度は99.9%、収率87.5%であった。また、HPLC分析条件1で分析した結果、tert−ロイシンアミドのラセミ化率は100%であった。このDL−tert−ロイシンアミド中に含まれるナトリウムイオンは0.02%、tert−ロイシンは検出されなかった。
【0020】
実施例2
D−tert−ロイシンアミド64.3g(0.494mol)を2−プロパノール160gに溶解し、水酸化ナトリウム1.90g(0.0474mol)を添加した。この反応液を84℃で10時間還流し、ラセミ化反応を行った。反応液中のtert−ロイシンアミドのラセミ化率は88.3%であった。
ラセミ化反応終了後、反応液を撹拌しながら酢酸2.85g(0.0474mol)を添加した。反応液のゲル化は認められなかった。この反応液を、84℃で常圧蒸留して反応液重量が96gとなるまで濃縮し、メタノール70mlを加え、マイナス20℃で再結晶させた。析出した結晶を濾取し、メタノール110mlで洗浄、真空乾燥し、DL−tert−ロイシンアミド48.9g(0.375mol)を取得した。得られたDL−tert−ロイシンアミドの純度は99.9%、収率76.0%であった。また、tert−ロイシンアミドのラセミ化率は100%であった。このDL−tert−ロイシンアミド中に含まれるナトリウムイオンは0.02%、tert−ロイシンは検出されなかった。
【0021】
実施例3
D−tert−ロイシンアミド64.3g(0.494mol)を1−ブタノール160gに溶解し、水酸化ナトリウム1.90g(0.0474mol)を添加した。この反応液を117℃で5時間還流し、ラセミ化反応を行った。反応液中のtert−ロイシンアミドのラセミ化率は97.2%であった。
ラセミ化反応終了後、反応液を撹拌しながら酢酸2.85g(0.0474mol)を添加した。反応液のゲル化は認められなかった。この反応液を、117℃で常圧蒸留して反応液重量が96gとなるまで濃縮し、メタノール70mlを加え、マイナス20℃で再結晶させた。析出した結晶を濾取し、メタノール110mlで洗浄、真空乾燥し、DL−tert−ロイシンアミド55.4g(0.426mol)を取得した。得られたDL−tert−ロイシンアミドの純度は99.9%、収率86.2%であった。また、tert−ロイシンアミドのラセミ化率は100%であった。このDL−tert−ロイシンアミド中に含まれるナトリウムイオンは0.02%、tert−ロイシンは検出されなかった。
【0022】
実施例4
D−tert−ロイシンアミド64.3g(0.494mol)を2−ブタノール160gに溶解し、水酸化ナトリウム1.90g(0.0474mol)を添加した。この反応液を100℃で8時間還流し、ラセミ化反応を行った。反応液中のtert−ロイシンアミドのラセミ化率は96.3%であった。
ラセミ化反応終了後、反応液を撹拌しながら酢酸2.85g(0.0474mol)を添加した。反応液のゲル化は認められなかった。この反応液を、100℃で常圧蒸留して反応液重量が96gとなるまで濃縮し、メタノール70mlを加え、マイナス20℃で再結晶させた。析出した結晶を濾取し、メタノール110mlで洗浄、真空乾燥し、DL−tert−ロイシンアミド52.9g(0.406mol)を取得した。得られたDL−tert−ロイシンアミドの純度は99.9%、収率82.3%であった。また、tert−ロイシンアミドのラセミ化率は100%であった。このDL−tert−ロイシンアミド中に含まれるナトリウムイオンは0.02%、tert−ロイシンは検出されなかった。
【0023】
実施例5
D−tert−ロイシンアミド10.71g(0.0823mol)を含む2−メチル―1−プロパノール溶液135gに水酸化ナトリウム0.33g(0.0082mol)を添加し、110℃で常圧蒸留して26gまで濃縮した。続いて反応液を117℃で4.5時間還流し、ラセミ化反応を行った。反応液中のtert−ロイシンアミドのラセミ化率は96.2%であった。
ラセミ化反応終了後、反応液を撹拌しながら酢酸:塩酸=50:50mol比で混合した酸0.67g(0.0082mol)を添加した。反応液のゲル化は認められなかった。この反応液を、110℃で常圧蒸留して反応液重量が16gとなるまで濃縮し、メタノール12mlを加え、マイナス20℃で再結晶させた。析出した結晶を濾取し、メタノール18mlで洗浄、真空乾燥し、DL−tert−ロイシンアミド9.13g(0.0701mol)を取得した。得られたDL−tert−ロイシンアミドの純度は98.0%、収率85.2%であった。また、tert−ロイシンアミドのラセミ化率は100%であった。このDL−tert−ロイシンアミド中に含まれるナトリウムイオンは0.79%、tert−ロイシンは検出されなかった。
【0024】
比較例1
D−tert−ロイシンアミド3.01g(0.023mol)を含む2−メチル―1−プロパノール溶液60.01gに水酸化ナトリウム0.113g(0.00283mol)を添加し、110℃で常圧蒸留して反応液重量が12.96gとなるまで濃縮した。続いて反応液を117℃で5.3時間還流し、ラセミ化反応を行った。ラセミ化率は89.0%であった。110℃で常圧蒸留して反応液重量が4.83gとなるまで濃縮し、メタノール4mlを加え、マイナス20℃で再結晶させた。析出した結晶を濾取し、メタノールで洗浄、真空乾燥し、DL−tert−ロイシンアミド2.50g(0.0193mol)を取得した。収率83.5%。このDL−tert−ロイシンアミド中に含まれるナトリウムイオンは0.25%、tert−ロイシンは0.15%であった。
【0025】
比較例2
D−tert−ロイシンアミド2.27g(0.0174mol)を含む2−メチル―1−プロパノール溶液39.56gに水酸化ナトリウム0.0736g(0.00184mol)を添加し、110℃で常圧蒸留して9.84gまで濃縮した。続いて反応液を110℃で6.8時間還流し、ラセミ化反応を行った。ラセミ化率は97.2%であった。ラセミ化反応終了後、反応液を撹拌しながら塩化アンモニウム0.0987g(0.00185mol)を添加した。30分後、反応液全体がゲル化した。
【0026】
比較例3〜10
D−tert−ロイシンアミド35.19g(0.2703mol)を含む2−メチル―1−プロパノール溶液125.21gに水酸化ナトリウム1.14g(0.0286mol)を添加し、反応液を112℃で6時間還流し、ラセミ化反応を行った。ラセミ化率は97.8%、tert−ロイシン含有率はtert−ロイシンアミド仕込み量に対し3.9%であった。この反応液を5gずつに分け、2−メチル―1−プロパノール7gを加えた後、表1に示す中和剤それぞれを反応液に含まれる水酸化ナトリウムと等モル量加えて30分間撹拌した。その後、反応液の外観観察を行った結果を表1に示す。いずれの中和剤でもゲル化が観測された。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性tert−ロイシンアミドを、有機溶媒中、塩基性触媒の存在下に反応させてラセミ化し、DL−tert−ロイシンアミドを取得する方法において、ラセミ化反応後、酢酸根を有する酸性物質を反応液に添加することによって塩基性触媒を不活性化することを特徴とする、光学活性tert−ロイシンアミドからのDL−tert−ロイシンアミドの製造方法。
【請求項2】
有機溶媒が2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノールおよび2−ブタノールから選ばれる一種以上である、請求項1に記載のDL−tert−ロイシンアミドの製造方法。
【請求項3】
塩基性触媒の50mol%以上が酢酸塩となるように酢酸根を有する酸性物質を反応液に添加する、請求項1に記載のDL−tert−ロイシンアミドの製造方法。

【公開番号】特開2010−235547(P2010−235547A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87423(P2009−87423)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】