説明

DME地上装置

【課題】構成簡易にして回復時間を確実に測定することの可能なDME地上装置を提供すること。
【解決手段】高速PINスイッチを用いた減衰器40により、試験用の微弱なパルスペアと、これにマイクロ秒オーダで先行する強大なシングルパルスとをDME装置内部で生成することが可能になる。これにより外付けの複雑な試験用計測器などを不要にでき、回復時間の測定を容易に行うことができるとともに、調整時間の削減及びコスト低減が可能となる。これらのことから、構成簡易にして回復時間を確実に測定することの可能なDME地上装置を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線航法施設であるDME(Distance Measuring Equipment)地上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DME地上装置は、航空機からの質問パルスを受けたのち一定時間の経過後に応答パルスを送信する。航空機は質問パルスの送信から応答パルスの受信までの時間に基づき、DME地上装置からの距離を測定することができる。このほか各パルスにはコード化された種々の情報が含まれており、航空機の安全運行には欠かせない装置である。DME地上装置に関連する技術が例えば特許文献1として出願されている。
【0003】
DME地上装置は、電波圏内に存在する複数の航空機からの質問信号を処理しなくてはならない。航空機と地上装置との間の距離は至近距離から数マイルまでと幅広く、これに応じて電波の受信強度も大幅に変わる。これに対応すべく、システムとして最小受信感度ぎりぎりの微弱な質問信号から最大受信感度の強い質問信号までを確実に受信処理できる性能が求められる。
【0004】
DME地上装置の性能を示す指標の一つに、回復時間がある。この回復時間とは、強大なパルスを受信してから微弱なパルスを受信処理できるようになるまでに要する時間であり、具体的には、微弱な受信パルスペアに8マイクロ秒先行する強いシングルパルスがあった場合でも確実に応答可能であることが規定されている。
【特許文献1】特願2007−145282号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでDME地上装置は、送信パルス(応答パルス)の波形や送信レベル、システム遅延時間、応答効率などを自ら監視する機能を持ち、この機能によりトランスポンダの正常性などが確認される。この機能の実現のためトランスポンダ部とは別に監視制御部が設けられる。例えば回復時間の規定を満たすか否かを試験するためには、監視制御部により航空機の質問パルスに見立てた擬似質問パルスを生成するのに加え、パルスジェネレータによりシングルパルスを生成する必要がある。
【0006】
しかしながらこの試験を実施するためには、パルスジェネレータといった専用の計測器を要するので、その分、装置が複雑になる。このことはシステムコストの上昇にも繋がるので何らかの対策を講じる必要がある。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、構成簡易にして回復時間を確実に測定することの可能なDME地上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、受信した質問パルスに対する応答パルスを送出するトランスポンダ部を備えるDME地上装置において、シングルパルスとこのシングルパルスよりも低レベルかつ規定間隔で後続するパルスペアとを生成して、これらのシングルパルスおよびパルスペアを前記トランスポンダ部に転送するパルス生成部と、前記トランスポンダ部に転送されたパルスペアに対する応答パルスをモニタして前記トランスポンダ部の回復時間を試験する試験制御部とを具備することを特徴とするDME地上装置が提供される。
【0008】
このような手段を講じることにより、回復時間を試験するためのパルスがDME装置内で内部的に生成されるので、簡易な構成で回復時間を試験することができる。特に、同レベルのシングルパルスとパルスペアとを連続して生成したのち、シングルパルスの送出直後にPINダイオードなどを用いた高速のスイッチング素子によりパルスペアのレベルを急激に減衰させることで、回復時間を確実に測定することのできるパルスを生成することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、構成簡易にして回復時間を確実に測定することの可能なDME地上装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、この発明に関わるDME地上装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。このDME地上装置10は、受信した質問パルスに対する応答パルスを送出するトランスポンダ部20と、このトランスポンダ部20の状態をモニタする監視制御部30とを備える。このうちトランスポンダ部20はアンテナ11を介して航空機(図示せず)と無線通信を行う。監視制御部30はトランスポンダ部20の回復時間を試験するためのパルスを生成する。このパルスはシングルパルスとこれに続くパルスペアとからなり、装置内部の方向性結合器12を介してトランスポンダ部20に転送される。その際、転送経路の途中に設けられた減衰機40によりパルスペアの転送レベルが減衰される。
【0011】
図1において、航空機からの質問パルスはアンテナ11、方向性結合器12を介してトランスポンダ部20に達し、さらにサーキュレータ21を介してIF変換部22に送られる。IF変換部22は受信したパルスをIF(Intermediate Frequency)信号に変換し、このIF信号はアナログ/ディジタル(AD)変換部23でデータ化されたのち処理部24で処理される。処理部24は受信した質問信号に対する応答パルスを生成し、この応答パルスはパルス送信部25で増幅されてサーキュレータ21、方向性結合器12、アンテナ11を介して航空機に返送される。
【0012】
ところで、監視制御部30はこの実施形態に係わる処理機能として試験制御部30aとパルス発生部30bと、D/A変換部30cとを備える。このうちパルス発生部30bは、シングルパルスおよびパルスペアを生成する。これらのパルスに適切なレベル差と適切な時間間隔とを持たせることができれば、トランスポンダ部20の回復時間を試験するためのパルスを内部的に生成することができる。シングルパルスはトランスポンダ部20の最大受信感度に相当するレベルとし、逆にパルスペアは最小受信感度ぎりぎりの微弱なレベルにする。さらに両パルスの時間間隔をほぼ1マイクロ秒の程度とする。
【0013】
パルス発生部30bは内部の波形メモリ(図示せず)などにディジタルの波形データを記憶しており、これを読み出してD/A(ディジタル/アナログ)変換部30cでアナログ波形に戻すことでシングルパルスおよびパルスペアを生成する。このうちパルスペアに、擬似質問パルスのパターンが書き込まれる。これらのパルスのレベル差は、減衰器40の減衰量を瞬時に可変することで実現する。
【0014】
試験制御部30aは、パルス発生部30bによりトランスポンダ部20に転送されたパルスペア(擬似質問パルス)に対する応答パルスをモニタする。この応答パルスが無ければ、シングルパルスの到来からトランスポンダ部20が回復していないことがわかる。シングルパルスとパルスペアとの規定間隔、およびレベル差を規定の値にすることで、要求される仕様をトランスポンダ部20が満たすか否かを試験することができる。
【0015】
図2は、トランスポンダ部20の回復時間を測定するためのパルスを示す模式図である。回復時間を試験するには、規定によれば擬似質問パルスの8マイクロ秒前にシングルパルスを発生する必要がある。またシングルパルスの送信レベルを、トランスポンダ部20の最小受信感度よりも60dB程度にまで高くする必要がある。このように瞬時に急激なレベル変化を示すパルスをD/A変換器30cにより生成することは難しい。
【0016】
そこでこの実施形態では、PINダイオードを用いたスイッチング素子により減衰器40を形成し、D/A変換器40から出力された後のパルスレベルを制御するようにする。回復時間の試験ではシングルパルスの発生開始から8マイクロ秒後にパルスペアを生成する必要がある。シングルパルスのパルス幅が7マイクロ秒以下であるので、減衰器40のスイッチング(レベル切換)を1マイクロ秒以下で実現する必要がある。これはPINダイオードを用いることで初めて可能になる。
【0017】
図2に示すように回復時間の試験においては、シングルパルスが有る場合と無い場合とで、擬似質問信号の最小受信感度がどの程度劣化するかが測定される。この劣化分の差をdBで表し、その値が規定値を満たすか否かを検証することでトランスポンダ部20の回復時間を試験することが可能になる。なお擬似質問信号のレベルはトランスポンダ部20の応答効率(70%以上)に応じて可変されることもあり、そのようなモードではその最小レベル(最小受信感度)との差を測定すれば良い。
【0018】
以上説明したようにこの実施形態では、高速PINスイッチを用いた減衰器40により、試験用の微弱なパルスペアと、これにマイクロ秒オーダで先行する強大なシングルパルスとをDME装置内部で生成することが可能になる。これにより外付けの複雑な試験用計測器などを不要にでき、回復時間の測定を容易に行うことができるとともに、調整時間の削減及びコスト低減が可能となる。これらのことから、構成簡易にして回復時間を確実に測定することの可能なDME地上装置を提供することが可能となる。
【0019】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に関わるDME地上装置の実施の形態を示す機能ブロック図。
【図2】トランスポンダ部20の回復時間を測定するためのパルスを示す模式図。
【符号の説明】
【0021】
10…DME地上装置、20…トランスポンダ部、30…監視制御部、11…アンテナ、12…方向性結合器、21…サーキュレータ、22…IF変換部、23…アナログ/ディジタル変換部、24…処理部、25…パルス送信部、30a…試験制御部、30b…パルス発生部、30c…D/A(ディジタル/アナログ)変換部、40…減衰器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した質問パルスに対する応答パルスを送出するトランスポンダ部を備えるDME(Distance Measuring Equipment)地上装置において、
シングルパルスとこのシングルパルスよりも低レベルかつ規定間隔で後続するパルスペアとを生成して、これらのシングルパルスおよびパルスペアを前記トランスポンダ部に転送するパルス生成部と、
前記トランスポンダ部に転送されたパルスペアに対する応答パルスをモニタして前記トランスポンダ部の回復時間を試験する試験制御部とを具備することを特徴とするDME地上装置。
【請求項2】
前記パルス生成部は、前記シングルパルスおよびパルスペアが前記トランスポンダ部に転送される経路途中に設けられる減衰器を備え、前記規定間隔の期間内で前記減衰器の減衰量を増加させて前記シングルパルスと前記パルスペアとの間に規定のレベル差を設けることを特徴とする請求項1に記載のDME地上装置。
【請求項3】
前記規定間隔は1マイクロ秒以下であり、
前記規定のレベル差は、60dB以上であることを特徴とする請求項2に記載のDME地上装置。
【請求項4】
前記減衰器は、PINダイオード(p-intrinsic-n Diode)を用いたスイッチング素子であることを特徴とする請求項3に記載のDME地上装置。

【図1】
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【図2】
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