説明

DNAとポリカチオンの複合体からのフィルムの製造方法

【課題】加圧成形機を用いることにより、DNAと複合体を形成するポリカチオンであれば、ポリカチオンの種類を限定せずにDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造を可能とする方法を提供すること。
【解決手段】対向する離型面間に、DNAとポリカチオン化合物との複合体を含むフィルム成形用材料を配置し、これらの離型面を介して成形用材料を加熱下で加圧してこれをフィルム化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAとポリカチオンの複合体からのフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAは新規機能材料として注目されている。それはDNAが構造上安定な規則正しい二重らせん(二本鎖)構造をとることに起因している。二重らせん構造を保持したDNAは天然由来の素材であるとともに、電気を通しやすく、また、二重らせん構造中に、色素などの各種化合物を取り込む性質が知られている。このようなことから、DNAは医療用素材、導電性素材、記録素子(CD−RやDVDなど)、有機EL素子など様々な用途での利用が期待されている。
【0003】
その反面、サケ白子等の原材料から二重らせん構造を破壊せずに分離精製したDNAは水溶性であり、そのままの形態で上記用途への適用を考えた場合に安定性を欠くという大きな問題を有している。そのため、ポリアニオンとしてのDNAと、ポリアニオンに静電的に結合するポリカチオンである人工脂質等との複合化による安定化が図られている(特開2001−327591号公報)。また、DNAの安定化のための方法の一つとして、特開平10−77235号公報にはDNAをキトサンとの複合体として安定化させる方法が開示されている。
【0004】
また、特開2005−289852号公報には、DNAとキトサンとの静電的反応物として得られるDNA/キトサン複合体の賦形物であって、当該複合体を形成するDNAには、DNA特有の二重らせん構造が壊されずに保持されており、且つ当該複合体が、水に対する溶解性を実質的に有していないものであることを特徴とする医療用材料および/または歯科用材料が開示されている。同公報にはDNAの水溶液とキトサンの水溶液とを混合してDNA/キトサン複合体を沈殿させ、これを乾燥させることでDNA/キトサン複合体粉末が得られる点、更に、DNA/キトサン複合体をホウ酸緩衝液に入れて流動性のある懸濁液としたうえで、その流動性のある懸濁液から任意の形状に成型してもよいし、DNA/キトサン複合体をフィルター上に置いた成型用リングに注入し、濾過後、凍結乾燥すれば円盤状の形態となる点、が開示されている。
【0005】
一方、DNA複合体はフィルムに成形することにより、その用途の幅が広がることが期待されている。例えば、DNA/脂質複合体フィルムは、導電性を有し、DNAの二重らせん構造に色素をインターカレートするため、有機EL素子等のエレクトロニクス材料としての利用も期待される。その他にも、DNA/脂質複合体フィルムは再生医療やドラッグデリバリーシステム等の医療用素材としての利用も期待される。
【0006】
DNAと脂質との複合体のフィルムの製造については、上記の特開2001−327591号公報に、DNA/人工脂質複合体を有機溶媒に溶解させて得られた溶液をフッ素樹脂板に滴下し、乾燥させてDNA/人工脂質複合体のフィルムを得る方法が開示されている。また、特開2005−278444号公報にも、DNA/脂質複合体を熱による圧着や有機溶媒に溶解して延ばしてフィルム化する方法が開示されている。更に、特開平7−68854号公報には、DNA/脂質複合体を溶媒に溶解させて得た溶液を支持体上にキャストしてフィルムを得るDNA/脂質複合体フィルムの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−327591号公報
【特許文献2】特開平10−77235号公報
【特許文献3】特開2005−278444号公報
【特許文献4】特開平7−68854号公報
【特許文献5】特開2005−289852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで、DNAのようなポリアニオンと、カチオン性脂質ではないキトサンなどのポリカチオンとの複合体をフィルムに成形する方法は従来技術には見当たらない。そこで、本発明の目的は、加圧成形機を用いることを特徴とし、再生医療材料、歯科医療材料、電子材料などへの応用を可能とするDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法は、DNAとポリカチオン化合物との複合体を含むフィルムの製造方法において、
対向する離型面間に、DNAとポリカチオン化合物との複合体と水を含む材料を配置する工程と、
前記離型面を介して前記材料を加熱下で加圧して前記材料をフィルム化する工程と
を有することを特徴とするDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加圧成形機を用いることにより、DNAと複合体を形成するポリカチオンであれば、ポリカチオンの種類を限定せずにフィルムの製造が可能である。その結果、フィルムの用途の拡大を図ることができる。
【0010】
例えば、DNA/キトサン複合体は、生体親和性が良好であり、抗菌性も備えていることから人体を対象とする医療用または歯科用の材料として好適である。特にフィルム化すれば複合体が密になり、細菌や細胞が侵入しにくい性質になるので、感染防止膜、癒着防止膜、創傷被覆材などに好適である。また、DNA/キトサン複合体は成長因子(b−FGF,BMPなど)や抗生物質などの薬物をインターカレートおよびグルーブバインデングできるために、疾患の種類に応じた成長因子や薬物をフィルムに適量に含有させることも可能となる。さらに、フィルムの特性を生かして歯髄保護のための覆髄剤への応用も考えられる。また、DNAには電荷輸送能などの電気的機能あるいは電気化学的機能があり、本発明の方法よれば、導電性フィルムなど電子材料として利用できるDNA/ポリカチオン複合体フィルムを提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法は、DNA/ポリカチオン複合体と水を含むフィルム成形用材料を対向する2つの離型面間に挟んだ状態で、加熱下で加圧してフィルム化することを特徴とする。
【0012】
本発明において用いられるDNA/ポリカチオン複合体は、DNAとポリカチオン化合物との複合体であり、主にDNAのアニオン基とポリカチオンのカチオン基との反応に基づいて得られるものである。
【0013】
DNAとしては、天然DNAおよび合成DNAを利用することができ、医療用または歯科用など成形物の目的用途に応じて選択することができる。天然DNAとしては、細菌ウイルスのλファージDNA、大腸菌染色体DNA、仔牛胸腺DNA、サケ精子DNAを挙げることができる。また、合成DNAは、ポリ(dA)、ポリ(dT)、ポリ(dG)、ポリ(dC)、ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)などを用いて合成装置によって合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成DNA;ポリ(A)、ポリ(T)、ポリ(G)、ポリ(U)、ポリ(A−T)、ポリ(G−U)などを用いて合成装置により合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成RNA;ポリ(dG)、ポリ(U)、ポリ(G)、ポリ(dC)ポリ(dA−dT)、ポリ(A−T)などのDNA/RNAハイブリッドを用いて合成装置によって合成可能な、相補的塩基対を有するDNA/RNAハイブリッドを挙げることができる。これらは必要に応じて単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0014】
このようなDNAは、二重らせんを形成している四種類の塩基[シトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)]に種々の基(例えばリン酸含有基を末端に有する基)などが結合した構造を有しており、このDNA全体としては、例えば上記の末端に結合したリン酸基などに起因してアニオン性を示す。
【0015】
このようなDNA自体は、二重らせん構造を有する紐状物であり、また、このDNAは水に溶解することから、このDNA自体に成形性はない。DNAがアニオン性を有していることを利用して、アニオン性のDNAと、カチオン性のポリカチオン化合物とを静電的に反応させることでDNA/ポリカチオン複合体を得ることができる。このようにして複合体となることで、DNAは実質的に水に溶解しなくなる。また、有機溶剤に対する溶解性も低くなる。
【0016】
ポリカチオンとしては、所望の物性を有するフィルムを得るための成形性をDNA/ポリカチオン複合体に付与できるものであればよく、好ましいものとして、キトサン、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリリジン、プロタミンなどを挙げることができる。
【0017】
キトサンとしては、本発明の方法に従ってフィルム成形可能な複合体を形成できるものであればよい。中でも、医療用材料および歯科用材料等とする場合には、分子量320(グルコサミン残基数2)以上であるキトサンが好ましい。キトサンの分子量の上限は特に限定されないが、30万程度以下、例えば25万程度のキトサンも利用できる。
【0018】
キトサンは、カニやエビの殻、昆虫類、植物、微生物などを原料として調製することができる。分子量320(グルコサミン残基数2)以上のもの、好ましくは分子量1600(グルコサミン残基数10)以上のキトサンを使用することができる。以下にキトサンの分子鎖構造の一例を示す。
【0019】
【化1】

【0020】
このことは、DNAの水に対する不溶性を発現させるために、分子量1万以上のキトサンであることが望ましい。さらに分子量が小さく塩酸等と塩を形成しているキトサンを使用した場合には、DNAとの反応物が水溶性であり、この反応物をDNAの溶媒である水性媒体から分離することが困難なために複合体を形成する目的の場合には適しないからである。
【0021】
DNAとキトサンの反応は、水性媒体中で行うことができる。例えば、DNAの水溶液を攪拌しているキトサン水溶液に添加して混合することによりこれらを反応させることができる。なお、キトサンの水溶液はその溶解状態を確保するために酸やアルカリを用いてpHを調整したものでもよい。例えば、酸性条件(pH1以上7未満)、好ましくはpH5以上7未満、より好ましくはpH5の水溶液が好適に利用できる。
【0022】
DNAとキトサンの配合比は、DNA/キトサン複合体成形物の用途に応じて選択することができる。例えば、1/9から9/1、好ましくは1/1から1/1.5(モル比)の範囲から選択することができる。
【0023】
DNAとキトサンを水性媒体中で反応させることによりDNA/キトサン複合体の沈殿を生じる。この沈殿を水あるいは各種の緩衝液で洗浄し、必要に応じて、更に水洗し、余分な水分を遠心分離などで除去してから、乾燥することでDNA/キトサン複合体の乾燥物を得ることができる。乾燥は、常温乾燥法、加熱乾燥法、凍結乾燥法、減圧乾燥法など目的に応じた乾燥方法を適宜選択して行うことができる。
【0024】
沈殿の洗浄用の緩衝液としては、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グリシン緩衝液、バルビツール酸緩衝液、フタル酸緩衝液、カコジル酸緩衝液、炭酸緩衝液、Bis−トリス緩衝液、Bis−トリスープロパン緩衝液、MES緩衝液、ADA緩衝液、PIPES緩衝液、ACES緩衝液、コラミンクロリド緩衝液、BES緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPPS緩衝液、Tricine緩衝液、グリシンアミド緩衝液、Bicine緩衝液、TAPS緩衝液、CHES緩衝液、CAPS緩衝液、リン酸緩衝液などの中から選択することができる。緩衝液の濃度やpHも目的とするDNA/キトサン複合体の性状や物性が得られるように自由に選択することができる。
【0025】
このようにして得られたDNA/キトサン複合体乾燥物を必要に応じて粉砕して本発明にかかる成形方法に用いることができる。このDNA/キトサン複合体では、DNAの二重らせん構造が破壊されずにほぼ完全に残されているので、このDNA/キトサン複合体を用いることでDNAの機能を安定して効率良く利用することが可能となる。
【0026】
ポリアリルアミン及びポリアミンスルホンとしても、本発明の方法に従ってフィルム成形可能な複合体を形成できるものであればよい。
【0027】
ポリアリルアミンとしては、アルキレン鎖の側鎖に−NH3+が配置された繰り返し単位を有するポリマーを挙げることができる。例えば、以下の繰り返し単位:
【0028】
【化2】

【0029】
を有するポリアリルアミン、例えば、PAA-HCl-01(商品名、日東紡)などを挙げることができる。また、ポリアミンスルホンとしては、それぞれが以下の繰り返し単位:
【0030】
【化3】

【0031】
を有するポリアミンスルホン、例えば、PAS-H-1L、PAS-M-1L及びPAS-J-81L(いずれも商品名、日東紡)などを挙げることができる。
【0032】
これらの化合物の物性をまとめると以下のとおりである。
【0033】
【表1】

【0034】
ポリカチオン化合物としてポリアリルアミンやポリアミンスルホンを用い、上記のキトサンを用いた場合と同様にしてDNA/ポリカチオン複合体を得ることができる。キトサンを用いた場合には、複合体の形成時に、必要に応じてpHを調整することが望ましいが、ポリアリルアミンやポリアミンスルホンを用いる場合はpH調整をせずとも複合体の調製が可能である。
【0035】
ポリリジン及びプロタミンとしても、本発明の方法に従ってフィルム成形可能な複合体を形成できるものであればよく、これらの分子量も任意に選択できる。ポリリジンやプロタミンを用いる場合も、上述したキトサンを用いる場合と同様にして成形性のあるDNA/ポリカチオン複合体を得ることができる。なお、ポリリジン及びプロタミンの場合も、ポリアリルアミンやポリアミンスルホンを用いる場合と同様に、その水溶液のpH調整をせずに複合体の調製に利用可能である。
【0036】
DNA/ポリカチオン複合体の乾燥物を必要に応じて粉砕して、フィルム成形用材料とすることができる。更に、DNA/ポリカチオン複合体の乾燥物、例えば凍結乾燥物に加水してペースト状とし、これを必要に応じて型を用いて予備成型し、得られた予備成型物に緩衝液を加えて処理し、更に乾燥させてフィルム成形用材料とすることもできる。予備成型物へ添加する緩衝液としては先に挙げた沈殿の洗浄用の緩衝液が利用できる。また、予備成型物への緩衝液の添加方法としては、予備成型物を緩衝液に浸漬する方法が好適に利用できる。緩衝液を予備成型物に付与することで、予備成型物自体の成型性が良くなり、予備成型用の型からの予備成型物の取り出し時において予備成型物が崩れにくくなり、取扱性が向上する。
【0037】
本発明においては、DNA/ポリカチオン複合体を含むフィルム成形用材料に加水した状態で、対向する離型面間に挟持し、これらの離型面を介してフィルム成型用材料を加熱下で加圧してフィルム化を行う。加水前にフィルム成形用材料を加圧してシートまたはディスク(円盤)状に予備成形してから、加水し、離型面を介しての加熱、加圧によるフィルム化を行うこともできる。
【0038】
予備成形は、室温(例えば15℃〜25℃)、10〜20 MPa、少なくとも1分間(好ましくは5〜10分間)の条件下で行うことができる。
【0039】
加水は、十分な水分量をDNA/ポリカチオン複合体に供給できればその量は特に限定されない。DNA/ポリカチオン複合体(固体)0.1gに対して、少なくとも0.2 mlの水を添加することが好ましく、0.4 mlの水を添加することが更に好ましい。また、DNA/ポリカチオン複合体(固体)が完全に吸収できない程度の過剰量の水を供給した場合は、余剰した水分をろ紙などを用いて除去する加水方法も利用可能である。
【0040】
フィルム成形時の温度は、フィルム成形用材料に応じて種々設定可能であるが、好ましくは40℃〜200℃、より好ましくは80℃〜100℃の範囲から選択するとよい。また、フィルム成形時のプレス圧は、2〜20 MPaの範囲から選択することができ、好ましくは10〜20 MPaの範囲から選択するとよい。加圧時間は、所望の物性のフィルムが得られる程度でよく、上記の温度およびプレス圧であれば、例えば1〜10分でフィルム化を完了することができる。好ましくは、5〜10分間プレスすることにより、丈夫で破れにくいフィルムを作製可能である。
【0041】
離型面は、離型性を有する面を形成可能な支持体、フィルム、シートなどを用いて形成することができる。例えば、表面をフッ素樹脂加工したホットプレート、フッ素樹脂加工された表面を有するシート、フッ素樹脂からなるシートやフィルムを用いて離型面を形成することができる。加熱下での加圧が可能なプレス装置、例えばホットプレートの加圧のための対向する面の間に加水処理を行ったフィルム成形用材料を配置して、これらの離型面間にフィルム成形用材料を挟持した状態で加熱プレスを行い、所望とする膜厚のDNA/ポリカチオン複合体を含むフィルムを得ることができる。離型面間にフィルム成形用材料を挟持させる際の好ましい態様としては、ポリエチレンシート(例えば、膜厚25〜100μm)を介して離型面を構成するフッ素樹脂シート間にフィルム成形用材料をサンドイッチする構造を挙げることができる。そのような構造の一例を図1に示す。図1は、プレス面4a、4bを有するホットプレート4の間に、ポリエチレンシート3及びフッ素樹脂シート2を介して加水した成型用材料1を挟み込んだ状態を示したものである。この状態で、加熱下でホットプレート4により加圧を行ってフィルム成形を行うことができる。
【0042】
なお、先に述べたとおり、固形(例えば粉末)の成形用材料を、図1のホットプレート4の対向するプレス面4aと4bの間に配置して、非加熱下で加圧することでDNA/ポリカチオン複合体のシートを形成してから、加水を行い、加熱下でのプレス成形を行うこともできる。
【0043】
フィルム形成が完了した段階でホットプレートからポリエチレンシート3及びフッ素樹脂シート2に挟まれた状態のDNA/ポリカチオン複合体フィルムを取り出し、ポリエチレンシート3及びフッ素樹脂シート2から剥離してDNA/ポリカチオン複合体フィルムを得ることができる。本発明によれば、1〜100μm程度の膜厚の透明なDNA/ポリカチオン複合体フィルムを得ることもできる。フィルムの厚さは、プレス時の温度、圧、加圧時間により調節することが可能である。
【0044】
得られたフィルムは、その構成材料であるDNA/ポリカチオン複合体の特性を利用して種々の用途に利用可能である。例えば、DNA/キトサン複合体フィルムは生体親和性が良好であり、細菌や細胞が侵入しにくい性質を持つため、感染防止膜、癒着防止膜、創傷被覆材などに好適である。また、DNA/キトサン複合体は成長因子(b−FGF、BMPなど)や抗生物質などの薬物をインターカレートおよびグルーブバインデングできるために、疾患の種類に応じた成長因子や薬物をフィルムに適量に含有させることも可能となる。さらに、フィルムの特性を生かして歯髄保護のための覆髄剤への応用も考えられる。その他にも、DNAが持つ電荷輸送能などの電気的機能あるいは電気化学的機能により、導電性フィルムなど電子材料としての応用も考えられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)
(DNA/キトサン複合体の製造)
(a)用いた溶液
・DNA溶液;サケ精子由来DNA(300塩基対、ニチロ社製)を蒸留水に溶解する。(5mg/1ml)
・キトサン水溶液;キトサン(分子量13万、ニチロ社製)を0.2N HCl 50mlに溶解した。この溶液に0.2N NaOHと蒸留水を徐々に加え、pH5の溶液100mlとした。(5mg/1ml)
(b)キトサン水溶液とDNA水溶液からの合成
撹拌しているキトサン水溶液100mlにDNA水溶液を加え、1時間反応させた。反応後生じた沈殿物を遠心分離した。得られた沈殿物をトリス塩酸緩衝液(10mM、pH7.2)(以下Tris−HCl緩衝液という)60mlで洗浄し、再度遠心分離した。Tris−HCl緩衝液洗浄は2回行った。次に、蒸留水60mlで洗浄した後、遠心分離を行った。蒸留水洗浄は3回行った。得られた白色沈殿物を凍結乾燥した。収量は600mgで、リンの定量よりDNA/キトサン複合体(サンプルA)の分子量比率(モル比)は0.95/1であった。この凍結乾燥物を以下の実施例2及び3で使用した。
【0046】
上記の製造方法の中で反応物の濃度を変えた場合、すなわちDNA水溶液(7.5mg/1ml)とキトサン水溶液(2.5mg/1ml)あるいはDNA水溶液(2.5mg/1ml)とキトサン水溶液(7.5mg/1ml)を用いるとDNA/キトサン複合体の分子量比率(モル比)は1.28/1と0.88/1で、収量は700mgと300mgであつた。
【0047】
上記の製造方法の中で緩衝液の種類を変えた場合はDNA/キトサン複合体中の気孔率と気孔径が異なる。
【0048】
例えば、リン酸緩衝液(10 mM、pH7.2、0.9%NaCl)(以下PBS緩衝液という)、HEPES緩衝液(10mM、pH7.2)よりTris−HCl緩衝液やホウ酸緩衝液(10mM,pH7.2)で洗浄したDNA/キトサン複合体中の気孔の数は多く、形態も大きい。
【0049】
上記の製造方法の中でDNA/キトサンの分子量比率(モル比)が異なれば、同じ緩衝液で処理してもDNA/キトサン反応物中の気孔率と気孔径が異なる。例えば、Tris−HCl緩衝液で洗浄したDNA/キトサン複合体中のDNA含有量の少ない物の方が気孔率は大きい。
(実施例2)
実施例1で得られたDNA/キトサン複合体粉末を、複合体粉末0.1gに対して0.2mlの水を加えてペースト化した後、図1に示すように、ポリエチレンシート及びフッ素樹脂シート間に挟持させて、20 MPa、80℃で10分間加熱加圧成形して、透明なフィルムを作製した。透明フィルムの平面形状は、概ね直径5cmの円形であった。なお、ポリエチレンシートとしては、帝人デュポンフィルム株式会社の商品名「テイジンテトロンフィルム」を、フッ素樹脂シートとしては、株式会社ユニバーサルの商品名「テフロンフィルムテープ」(厚さ50μm)を用いた。また、加圧成形機としては株式会社井元製作所の小型加熱プレスを用いた。
(実施例3)
実施例1で得られたDNA/キトサン複合体粉末を、複合体粉末1gに対して4mlの水を加えてペースト化し、ろ紙で余剰の水分を除去した。これをポリエチレンシートではさんで、図1に示すホットプレートのプレス面間に配置し、室温、すなわち非加熱下で10分間、20 MPaで加圧した後、凍結乾燥して不透明なシートを得た。シートの平面形状は、概ね直径7cmの円形であった。この不透明なシートを蒸留水中に5分間浸漬して湿らせてから、カッターナイフで1.5cm角に切断した。切断したシート1枚を、図1に示すようにポリエチレンシート及びフッ素樹脂シート間に挟持させて、20 MPa、80℃で10分間加熱加圧成形して、透明なフィルムを得た。透明フィルムの平面形状は、概ね直径5cmの円形であった。
【0050】
(実施例4)
実施例1で得られたDNA/キトサン複合体粉末に蒸留水を加えてペースト化し、図2(A)に示したモールド(型)に填入した。その後、pH7.4のリン酸バッファー(PBS)中に、図2(B)の状態でモールドごと10分間浸漬し、ろ紙で余剰の水分を除去した。更にモールドごと凍結乾燥した後に、モールドからDNA/キトサン複合体からなる直径約1cmのディスクを離型した。
【0051】
上記方法で成型したディスクに、DNA/キトサン複合体0.1g当たり蒸留水0.4mlを加え、厚さ0.2mmのポリエチレンシートではさんで、20 MPa、80℃で10分間加熱加圧成形し、円形状の透明フィルムを得た。
【0052】
(実施例5)
(DNA/ポリアリルアミン複合体、DNA/ポリアミンスルホン複合体の製造)
実施例1(a)で得られたDNA溶液100mlに、蒸留水で10倍に希釈したPAA-HCl-01を10ml加え、5分間反応させた。反応後生じた沈殿物を遠心分離した。得られた沈殿物を蒸留水30mlで洗浄し、再度遠心分離した。蒸留水洗浄は2回行った。得られた沈殿物を凍結乾燥した。ポリアミンスルホン(PAS-H-1L、PAS-M-1L及びPAS-J-81L)に関しても、同様の方法で複合体を製造することができる。収量は500〜600mgで、これらの凍結乾燥物を以下の実施例7で使用した。
(実施例6)
(DNA/プロタミン、DNA/ポリリジン複合体の製造)
実施例1(a)で得られたDNA溶液100mlに、プロタミン塩酸塩(分子量4500、ニチロ社製)2gを蒸留水100mlに溶かした溶液を加え、5分間反応させた。反応後生じた沈殿物を遠心分離した。得られた沈殿物を蒸留水30mlで洗浄し、再度遠心分離した。蒸留水洗浄は2回行った。得られた白色沈殿物を凍結乾燥した。プロタミン塩酸塩をプロタミン硫酸塩(分子量4500、ニチロ社製)、ポリリジン(Poly-L-Lysine Hydrobromide、分子量70000以上、MP Biomedicals, Inc.)で置き換えても、複合体を製造可能である。これらの凍結乾燥物を以下の実施例7で使用した。
(実施例7)
DNA/ポリカチオン複合体として、実施例5及び6で得られたDNA/ポリアリルアミン複合体、DNA/ポリアミンスルホン複合体、DNA/プロタミン複合体、及びDNA/ポリリジン複合体をそれぞれ別々に用いて以下の操作によりフィルムを作成した。DNA/ポリカチオン複合体粉末に、この粉末0.1gに対して0.4mlの割合で水を加えて湿らせた後、図1に示すようにポリエチレンシート及びフッ素樹脂シート間に挟持させて、20 MPa、80℃で10分間加熱加圧成形して、透明なフィルムを作製した。このとき、室温で10分間の加圧成形をしても透明なフィルムが作製可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】DNA/ポリカチオン複合体を含むフィルムの成形工程を説明するための図である。
【図2】DNA/キトサン複合体からなるディスクの成型工程を説明するための図であり、(A)はモールド中にDNA/キトサン複合体を充填した状態を示す図であり、(B)は緩衝液中にモールドごと浸漬する際の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 フィルム成形用材料
2 フッ素樹脂シート
3 ポリエチレンシート
4 ホットプレート
4a、4b プレス面
5 ステンレス板
6 シリコーンリング
7 ナイロンメッシュ








【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAとポリカチオン化合物との複合体を含むフィルムの製造方法において、
対向する離型面間に、DNAとポリカチオン化合物との複合体と水を含む材料を配置する工程と、
前記離型面を介して前記材料を加熱下で加圧して前記材料をフィルム化する工程と
を有することを特徴とするDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記材料が、DNAとポリカチオン化合物との複合体を含む粉末に加水することにより得られたものである請求項1に記載のDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記材料が、DNAとポリカチオン化合物との複合体を含む粉末を加圧して得られたシートまたはディスクに加水することにより得られたものである請求項1に記載のDNA/ポリカチオン複合体フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−110952(P2008−110952A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295981(P2006−295981)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物1(歯科材料・器械、日本歯科理工学会、第48回日本歯科理工学会学術講演会、第25巻、第5号、平成18年10月16日発行)
【出願人】(504131378)
【出願人】(500117624)
【出願人】(000233620)株式会社ニチロ (34)
【Fターム(参考)】