説明

DNA含有インク組成物

【課題】 含有されているDNAが紫外線、熱、酸、アルカリ等の外部刺激によっても分解されにくいインクを提供する。また、簡単にインク組成物中のDNAを分析する方法を提供する。
【解決手段】 DNAを含み、一定以上の耐水性を有するインク組成物を調製する。さらに、このようなインク組成物を用いて作成した印字中のDNAを、水または水溶液を用いて、迅速に抽出し分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字、画像、各種コードを記載または印刷する際に使用され得るDNA含有インク組成物に関する。より詳細には、例えば、有価証券、カードなどの印刷に用いられ、朱肉、各種着色具による個人認証や真贋鑑定に好適なDNA含有インク組成物、およびそれを用いた簡易なDNA抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、DNAを用いて、その識別力の高い特有な部分による犯罪捜査や親子鑑定などの個人認証が行われている。近年、このような用途に加え、DNAを含んだインクで小切手、紙幣、各種証明書、カード類を印刷等して偽造に対処する、真贋鑑定方法も考えられている。例えば、DNA分子とカチオン性界面活性剤とを混合した個人識別用DNAインクを用いて薄膜パターンを形成し、形成されるパターンを個人識別情報として利用することが開示されている(特許文献1参照)。この方法では、DNA分子が薄膜状に展開されて形成する複雑な薄膜パターンを識別情報として光学的に検知するものであり、DNA分子の有する固有の生体情報を利用するものではない。
【0003】
予め塩基配列が判明している特定のDNA断片の塩基配列を指標に、押印、あるいは筆跡の真贋を鑑定する方法も開示されている(例えば、特許文献2)。一方、界面重合法などによってプラスチック樹脂製のマイクロカプセルやゲル物質の中にDNAを封入したものやプラスチック樹脂の超微粒子の表面にDNAを結合させたものを予め作製し、これらをインクに混ぜ込むようにしたものもある(特許文献3および4)。
【0004】
上記のようなDNA含有インクを用いた技術は、いずれもDNAを利用する点において従来の認証システムと異なり注目すべきであるが、印刷されたインク内のDNAが光、紫外線、熱、酸、アルカリ等の外部刺激により分解されてしまう場合が多い。その為、DNAを直接インクに含有させると印字後すぐにDNA量が減少して検出が難しくなる。また、マイクロカプセルなどに封入したり、粒子などの担体に担持させて含有させる方法によれば、外部刺激への耐性はあがるものの、例えば印字後のインク内のDNAの検出に1日以上の時間がかかるのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2002−167530号公報
【特許文献2】特開2005−247900号公報
【特許文献3】特開2004−175922号公報
【特許文献4】特開2004−331832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、DNAは、紫外線、熱、酸、アルカリ等の作用で分解しやすい問題があり、インクに混ぜて印刷物の作成に使用すると、分析時に識別可能な状態ではなくなる可能性がある。さらに、印字後のDNAの回収には複数の工程が必要で困難を伴う。印字後DNAの識別力を良好に保持し、分析するにあたっては迅速かつ簡単な方法が適用できるようなDNAインク組成物およびその分析方法の確立の必要性があったにもかかわらず、DNAを確実に検出する為のインク組成物およびその方法は見出されていない。そのため、この解決法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、紫外線、熱、酸、アルカリ等の外部刺激にも耐えうるDNA含有インク組成物および簡便なDNA検出方法を提供すべく鋭意研究を行った結果、外部刺激に強く、しかも印字後簡単にDNAを抽出し得るインク組成物を見出し、これを用いた検出方法等を確立して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明では、DNAを含む耐水性インク組成物を提供する。
【0009】
上記耐水性インク組成物は、耐水性インクとDNAとの混合物であり得る。
【0010】
上記耐水性インク組成物は、水、着色料、樹脂、およびDNAを含む、組成物であり得る。
【0011】
上記樹脂は、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、およびエポキシ系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【0012】
上記DNAの含有量は、インク組成物1μl当たり3x10-10μg以上20μg以下であり得る。
【0013】
本発明はまた、媒体上の印字からDNAを抽出する方法であって、上記のいずれかのインク組成物を用いて作成された印字と水または水溶液とを接触させる工程を含む方法を提供する。
【0014】
上記媒体は、紙、プラスチック樹脂、または布地であり得る。
【0015】
本発明はまた、媒体上の印字の真贋を鑑定する方法であって、上記のインク組成物を用いて作成された印字と水または水溶液とを接触させる工程;該印字と水または水溶液とを接触させることによって得られるDNA含有水溶液を調製する工程;および、調製したDNA含有水溶液中のDNAを分析する工程、を含む、方法を提供する。
【0016】
上記媒体は、紙、プラスチック樹脂、または布地であり得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインク組成物は、紫外線、熱、酸、アルカリ等の外部刺激に強く、印字後、長時間放置してもDNAが分解される割合を低く抑えることができる。また、水または水溶液により短時間で簡単にインク組成物中のDNAが抽出され得る。さらに、本発明のインク組成物を使用すれば、同じ印刷物から数回に渡りDNAを回収することが可能である。従って、本発明のインク組成物を用いて、例えば、非常に優れた印刷物の真贋鑑定系の確立が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の用語「耐水性インク組成物」とは、従来の水性インクや油性インクのカテゴリーに入らない、「耐水性」と表示され得るようなインク組成物を言う。本明細書で「耐水性インク組成物」という時は、DNA、染料または顔料等の着色料、染料または顔料定着材用の樹脂および水を含み、適宜、防腐剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、pH緩衝剤等その他の添加物を含む組成物であって、かつ、以下の条件を満たす。
【0020】
すなわち、常温(25℃)の水をインク組成物に対して5重量%以上含む(混和する)ことができ、常温(25℃)の水(水道水、蒸留水、脱イオン水など)中に印刷物を48時間浸漬後取り出し、ポリエステル100%の布でこすり、インクの剥落を調べた場合に、ポリエステルの布にインクが浸透せず、印刷物の滲みが観察されないようなインク組成物である。容易にポリエステルの布にインクが浸透するか、印刷物が滲む場合は、「水性インク組成物」となる。
【0021】
本発明のインク組成物に含まれるDNAは、限定はされず、例えば人間の遺伝子、動物または微生物の遺伝子に由来する天然由来のDNA、あるいは合成DNAのいずれも使用でき、1本鎖または2本鎖のいずれも使用できる。分子量も限定されず、10bp程度の短鎖から、200bpあるいはそれ以上の中長鎖のDNA断片でもよい。通常は、20bpから100bp程度のDNA断片が使い易く、その中から目的に応じて適宜選択することができる。天然由来のDNAを用いる場合は、細胞の全DNAの塩基配列の内、遺伝子領域あるいは例えばマイクロサテライト領域などの遺伝子間領域を利用し得る。合成DNAを用いる場合は、例えば所望のDNAを市販のDNA合成機で合成し、精製して得ることができる。所望のDNAは、天然由来のDNAと同じあるいは類似の配列でも、全く異なる配列でも、本発明に好適に用いられ得る。
【0022】
本発明のDNA断片の含有量は、インク組成物1μl当たり3x10-10μg以上20μg以下であり、好ましくは、1ng〜1μgであり、より好ましくは、10 ng 〜5000ngである。
【0023】
本発明の耐水性インク組成物は、限定はされないが、市販の耐水性インクにDNAを混合して調製することができる。あるいは、DNA、染料または顔料などの着色料、染料または顔料定着材用の樹脂、水および適宜、防腐剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、pH緩衝剤等その他の添加物を混合し、耐水性インク組成物とする。
【0024】
ここで、本発明の用語「耐水性インク」とは、従来の水性インクや油性インクのカテゴリーに入らない、「耐水性」と表示され得るような耐水性インクを言う。好ましくは、本明細書で「耐水性インク」という時は、着色料、染料または顔料定着材用の樹脂および水を含み、適宜、防腐剤、水溶性有機溶剤、界面活性剤、pH緩衝剤等その他の添加物を含むインクを指す。本明細書における「耐水性インク」は、以下のパラメータを満たす。
【0025】
すなわち、常温(25℃)の水をインクに対して5重量%以上含む(混和する)ことができ、常温(25℃)の水(水道水、蒸留水、脱イオン水など)中に印刷物を48時間浸漬後取り出し、ポリエステル100%の布でこすり、インクの剥落を調べた場合に、ポリエステルの布にインクが浸透せず、印刷物の滲みが観察されないようなインクである。容易にポリエステルの布にインクが浸透するか、印刷物が滲む場合は、「水性インク」となる。
【0026】
また、特に限定はされないが、「耐水性インク」は、例えば、不揮発成分を44.0〜46.0(Wt%)含み、粘度が75〜700 (CP/25℃)であり、かつpH: 7.5〜9.0 (25℃)であり得る。この時の粘度は、TOKIMEC社製BH型回転粘度計を用いて、25℃に温度調整した組成物の粘度を回転ローターを回転数20rpmとして測定する。
【0027】
本発明の耐水性インク組成物に含まれる着色剤としては、染料あるいは顔料が使用できる。顔料の種類を選択することで、透明のインクも用いられうる。
【0028】
染料は、インクの組成分として直接溶解して用いてもよいし、無機質または有機質の微粒子に担持あるいは含ませて用いてもよい。
【0029】
本発明の耐水性インク組成物に含まれる染料としては、必要に応じて他の色材と混合して用いることができる。用いられる水溶性染料としては、カラ−インデックスにおいて酸性染料、直接性染料、塩基性染料、反応性染料、食用染料に分類される染料で耐水、耐光性が優れたものが用いられる。
【0030】
本発明の耐水性インク組成物に含まれる着色材は、有機顔料または無機顔料でもよい。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ロ−ダミンBレ−キ顔料、カ−ボンブラック等が挙げられ、無機顔料としては、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロ−、紺青、カドミウムレッド、クロムイエロ−、金属粉が挙げられる。
【0031】
本発明に用いられる染料または顔料定着材用の樹脂は、耐水性インクの製造に通常使用され得る樹脂であれば特に限定されないが、好ましくは、ウレタン系樹脂またはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂である。樹脂の含有割合は、好ましくは、インク組成物全体の3重量%から70重量%、より好ましくは、5重量%から50重量%である。
【0032】
本発明のDNAインク組成物の組成分として、界面活性剤を使用することができ、界面活性剤によって記録紙への濡れ性を改善することができる。好ましい界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。
【0033】
更に、本発明の界面活性剤の対イオンとして、リチウムイオン、あるいは第4級アンモニウム、第4級ホスホニウムを用いることにより、界面活性剤が優れた溶解安定性を示す。
【0034】
更に、本発明のDNAインク組成物の組成分として、表面張力を調整する目的から浸透剤を用いることもできる。
【0035】
その他pH調整剤としては、調合されるインク に悪影響をおよぼさずにpHを適宜調整できるものであれば、任意の物質を使用することができる。その例として、ジエタノ−ルアミン、トリエタノ−ルアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0036】
また、本発明のDNAインク組成物には、従来から知られている防腐防黴剤、防錆剤や他の添加剤を加えることができる。例えば、防腐防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオ−ル−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノ−ルナトリウム、イソチアゾリン等が本発明に使用できる。
【0037】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコ−ル酸アンモン、ジイソプロピルアンモニイウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリト−ル、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等がある。
【0038】
その他目的に応じて、水溶性紫外線吸収剤、水溶性赤外線吸収剤、消泡剤を添加することもできる。
【0039】
消泡剤としては、油脂系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、アルコール系、リン酸エステル系、アミン系、アミド系、金属石鹸系、硫酸エステル系、シリコーン系等が挙げられる。これらは単独でもまたは二種以上で用いることができる。この中でも、シロキサン結合を有するシリコーン系消泡剤が、インク タンクのスポンジ吸収体負圧制御の容易性から好ましい。特にポリエチレンオキサイド及び/又はポリプロピレンオキサイドを付加したポリシロキサン系消泡剤が有効である。
【0040】
さらに本発明のインク組成物は、アルコール類を含んでいてもよい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、含有割合は、インク組成物全体の0重量%から70重量%の範囲であればいずれでもよい。
【0041】
このようにして調製される本発明のDNA含有インク組成物を適宜媒体上に印字することにより、識別可能な文書、印刷物等を作成することが可能である。ここで、「印字する」とは、インクを使用して印刷するような態様のみならず、媒体にインクを塗りつける、あるいはインクで媒体に文字等を手書きするような態様もすべて含む。このときの媒体は、紙、プラスチック樹脂、布地などが挙げられるが限定はされず、通常の印刷物に使用し得る媒体はすべて使用できる。こうして得られた印刷物等は、従来と同様に扱っても長期にわたりDNAを安定して保持できる。しかも回収も簡単で迅速な検出が可能である。
【0042】
すなわち、例えば、本発明においては、このようにして得られた媒体上の印字を水または水溶液と接触させることによって簡単にDNAを抽出または分析することができる。ここで、水溶液とは、インクに含まれる樹脂成分に影響を与えないような成分を水に加えた各種緩衝液、PCR用溶液、DNAハイブリダイゼーション用溶液あるいはそれと等価物を指す。
【0043】
水または水溶液との接触は、印字上に直接水滴を垂らし、1秒以上1時間以下のような短い時間、より簡便に行う場合には10秒から1分程度放置することで行い得る。水または水溶液との接触は、必要に応じて、48時間以下の時間であれば、より長い時間を設定することも可能である。
【0044】
放置後水または水溶液を回収し、含まれるDNAをPCR法などで増幅させて短時間で分析することが可能である。また、回収液を直接プローブにハイブリなども可能である。
【0045】
あるいは、印字した箇所を紙などの媒体ごと切り取り、直接PCR用の溶液などに加え、PCRを行うことも可能である。
【0046】
本発明のDNAを含有するインク組成物を用いた印字では、印字の真贋を、DNAの識別力を利用して鑑定することができる。この方法は、本発明のインク組成物を用いて作成された印字と水または緩衝液などの水溶液とを接触させること、得られるDNA含有水溶液を回収すること、水溶液中のDNAを分析することが含まれる。
【0047】
分析は、限定はされないが、PCR法によってDNAを増幅させた後、アガロースゲル電気泳動にてDNA断片の大きさを確認する方法や、塩基配列を決定して所定のDNAであることを確認する方法によって行うことができる。あるいはより簡便に、標識プローブなどを用いたハイブリダイゼーション法を用いて検出するのも好ましい。具体的には、対象のDNAの一部と相補的な配列を有する合成DNAを予め用意し、一定条件下でハイブリダイゼーションを行わせ、2本鎖の形成の有無を、例えば、金コロイド溶液による変色の有無で識別することもでき、またサイバーグリーン、サイバーセーフのような蛍光試薬で識別することができる。
【0048】
PCR法自体は周知であり、そのためのキット及び装置も市販されているので、用いるフォワード側プライマー、リバース側プライマーを合成すれば、容易に実施できる。さらに識別プローブも周知であり、対象DNAの配列に応じて適宜合成すれば、容易に実施することができる。その具体的な方法は、下記実施例にも具体的に記載されている。
【0049】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例および比較例に用いたDNAは、配列表の配列番号1に示す85Merの(ATTAACCCTCACTAAAGGGATCAATAAAACAAAACAAAACGCGCGGCTCACGGGCGCCTAGGAGTGCCCTATAGTGAGTCGTATT)を逆相カートリッジカラムを用いて精製、脱塩したものである。また、PCRは、すべてBioline社Bio Taq DNA ポリメラーゼを用いて、Bioline社推奨の条件下にて行った。
【0051】
(実施例1)
耐水性インク組成物の調製
耐水性インク(透明:大阪シーリング印刷株式会社より入手)とDNA溶液(10μg/μl、1μg /μl、100 ng /μl、10 ng /μl) のDNA濃度でTE(10 mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH 8.8)を1:1の割合で混合し、最終的なDNAの濃度が5μg/μl、500 ng/μl、50 ng/μl、5 ng/μlとなる耐水性インク組成物をそれぞれ得た。
【0052】
(実施例2)
耐水性インク組成物の調製
耐水性インク(透明:大阪シーリング印刷株式会社より入手)とDNA溶液(10μg/μl、1μg /μl)のDNA濃度でTE(10 mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH 8.8))を99:1の割合で混合し、最終的なDNAの濃度が100 ng/μl、10 ng/μlとなる耐水性インク組成物をそれぞれ得た。
【0053】
(実施例3)
耐水性インクとして黒(DELETER製のコミック用黒インク耐水性BLACK4を用い、実施例1と同様にして耐水性インク組成物を得た。
(実施例4)
耐水性インクとして黒(DELETER製のコミック用黒インク耐水性BLACK4を用い、実施例2と同様にして耐水性インク組成物を得た。
【0054】
(比較例1)
油性インクおよびDNAを含むインク組成物の調製
油性透明インク(坂田インク 油性透明インクブラウン 油性透明インクホワイト)3gにDNA溶液((10μgDNA/μl TE(10 mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH 8.8))10μlを混合し、最終的なDNAの濃度が33 μg/g となる油性インク組成物を得た。
【0055】
(比較例2)
油性インクおよびDNAを含むインク組成物の調製
比較例1の油性インク組成物10mgにトルエンを200μl加え、混ぜ合わせ最終的なDNAの濃度が1.15 ng/μlとなる油性DNAインク組成物を得た。
(比較例3)
油性透明インク(坂田インク 油性透明インクブラウン 油性透明インクホワイト)10 mgにトルエン200 μlを加え、良く混ぜ、そこへDNA溶液((1μgDNA/μl TE(10 mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH 8.8))を0.33μlを混合し、最終的なDNAの濃度が1.15 ng
/μl となる油性インク組成物を得た。
【0056】
(比較例4)
水性インクおよびDNAを含むインク組成物の調製
原液の水性黒色インク(DELETER製のコミック用黒インク水性BLACK3)にDNA溶液(10μg/μl、1μg /μl、100 ng /μl、10 ng /μl のDNA濃度でTE(10 mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH 8.8))を1:1の割合で混合し、最終的なDNAの濃度が5μg/μl、500 ng/μl、50 ng/μl、5 ng/μl となる水性インク組成物を得た。
(比較例5)
水性インクとして黒(DELETER製のコミック用黒インク水性BLACK3を用い、DNA溶液(10μg/μl、TE(10 mM Tris-HCl, 1mM EDTA, pH 8.8))と99:1で混ぜ合わせ、最終的なDNA濃度が100 ng/μlの耐水性インク組成物を得た。
【0057】
各実施例および各比較例におけるインクの種類、DNA含有量は、表1に示す通りである。
【表1】

【0058】
実施例および比較例で得られたインク組成物を用いて、印刷物からのDNAの回収率比較、DNA抽出時間と回収率の評価、耐紫外線分析、DNAの複数回収評価を行った。
【0059】
(DNAの回収率比較)
まず、それぞれのインク組成物に刷毛を使用して紙(コピー用紙 ジャスト)に塗布し、 室温暗所にて一晩よく乾燥させた。しかし、比較例1の油性インク組成物の場合は、インクの粘性が非常に高いため塗布してもうまく紙になじまず、操作を施すこと自体が難しかった。
【0060】
次に、得られたDNAインク印刷物から、DNAを回収し、精製を試みた。まず、塗布した部分の1cm2を使い捨ての剃刀で切り出し、さらに細かく切りながら切片を集めた。
【0061】
ここへ500μlの水を加え、さらに400μlのトルエン、100μlのメチルイソブチルケトンを加えよく混ぜた。30分室温に置き、5分間遠心、有機層、水層に分かれたところで、水層部分(下層)を回収し、フェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿法により精製した。操作は室温で行った。この回収物に目的のDNAが含まれているかどうかをPCRを用いて確認した。
【0062】
その結果、耐性インク組成物を用いた実施例1の場合には、室温の操作では、元のDNA重量と比較して、25%から30%程度のDNAを回収することができたが、比較例2、3の場合は、DNAの回収が確認される場合もあるが、時に回収が確認されない場合(比較例2:4回中1回比較例3:2回中1回)も生じた。さらに、比較例2、3の回収方法改良を目的に、市販されているシンナー(アサヒペン ペイントうすめ液S)を用いて回収したが、結果に大きな変化は見られず、回収自体の確実性に乏しかった。油性インクと有機溶媒を使用したインクには極性の違いにより均一に溶かすことができず、インク中のDNA濃度にムラが生じると考えられる。
【0063】
次に、有機溶媒を使用せず、切り出した切片に水500μlを加え、30分室温に置いた後、その溶液をフェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿法により精製し、含まれるDNA量を測定することで回収量を調べた。水のみで回収した場合、実施例1の場合について、室温の操作では、元のDNA重量と比較して、35%から40%程度のDNAを回収することができたが、比較例2および3の場合は、DNAの回収は確認できなかった。
【0064】
(DNA抽出時間と回収率の評価)
次に水による回収について、抽出時間を変化させ調べた。実施例1のインク組成物について、抽出時間を2分、5分、10分、20分、30分とした場合を(30分については4回、他は2回)調べ、平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【表2】

また、実施例2、4では、最終DNA濃度100 ng/μlの調製物0.2 μlを4mm2にスポットし、60℃16時間で乾燥させ、10分室温に置き、冷ましたスポットに10μlの水を置き、10秒静置、ピペッティングをスポット上で行い、一度水を回収し20秒待ち、同じ水をもう一度スポット上にのせ、ピペッティングを行い、この水に含まれるDNA量を測定した。実施例2では5回調べ、平均値を算出したところ36.8 %のDNAが回収された。この回収液1μlを使用してPCRを行ったところ、実施例2,4ともに5回調べたうち全てで増幅は観察された。比較例5で同様の実験を行ったところ、PCRによる増幅は観察されなかった。
【0065】
この結果、本発明のインク組成物を用いた場合のDNAの抽出時間は数分でも十分であり、抽出に必要とされる時間は数分で十分であることがわかった。この結果は、逆に印刷されたDNAが容易に漏れ出ていくことを示唆するものでもある。そこで、以下の評価を行った。
【0066】
(DNAの複数回にわたる回収)
実施例2、4の最終DNA濃度100 ng/μlの調製物0.2 μlを4mm2にスポットし、150℃10分で乾燥させ、一度1μlの水でスポットよりDNAを回収し、もう一度スポットを150℃10分で乾燥させ、別の1μlの水でDNAを回収、この操作を5回繰り返し、何回までPCRにより回収液中のDNAの増幅が可能であるのか調べた。この結果、実施例2の耐水性透明インクでは5回目の回収液からも1回目と同様の増幅量が観察された。これに対し、実施例4での耐水性黒色インクの場合では4回目の抽出物を使用したPCRから増幅量が極端に落ち、5回目の抽出物からはバンドが確認されない場合が生じた。耐水性透明インクでは6回目の抽出物からも増幅は観察されるが、耐水性黒色インクでは6回目でも観察される場合は多いものの、観察されない場合、観察されても量が少ない場合に分かれることが判明した。この結果、耐水性透明インクは何回も同一印刷面より解析することが可能であり、耐水性黒色インクについても3、4回の解析は可能であると思われる。また、特に耐水性透明インクにおいては、少量の水により処理した場合には少量のDNAが漏れ出てしまいはするが、解析に不可能となるほどに流出していくわけではないと考えられる。特に、耐水性透明インクの場合では(実施例2)耐水性検証により、スポットを48時間流水(水道水)により処理し、ポリエチレンの布で擦った後、もう一度乾燥させ、20μlの水によりスポットからDNAを回収しPCRにより確認すると、3回の検証のうち、3回全てにおいて、観察された。
【0067】
(印字からの直接的なPCR法の実施)
次に、実施例1と4までの組成物をそれぞれ、2μlずつ1 cm2にできるだけ均一になるようにピペットマンを使用しながら塗り、一晩室温、暗所で乾燥させた後、剃刀を利用して、4mm2ずつ切り出し、この紙片を用いてPCRを行った。各々のPCRチューブには実施例1、3では0.4 ng、4ng、40 ng、400 ngのDNAが、実施例2、4では0.8ng、8 ng鋳型として加わったと想定される。PCR産物をアガロース電気泳動により調べると、実施例1,2,3では全ての場合において、増幅が確認されたが、実施例4では全ての場合において増幅は観察されなかった。この結果、耐水性透明DNAインクを塗布された4mm2の紙片自体を鋳型にPCRによるDNAの増幅が可能であることが判明し、耐水性黒色DNAインクでは、DNAの濃度が極端に低いと、不可能であることが判明した。また、比較例4でも同様にPCRチューブに0.4 ng、4ng、40 ng、400 ngのDNAが鋳型として加わったと想定される条件で、全ての場合において増幅は観察されなかった。
【0068】
(耐環境性評価)
さらに、実際にインクの含量を上げたことで耐環境性の向上が期待できるのかどうかを調べるため、最もDNAに影響を及ぼすであろうと考えられる紫外線に対する耐性を調べた。実施例1〜3のインク組成物を、もしくは60度で16時間乾燥させた後、紫外線照射を開始し、数時間おきに4mm2ずつ使い捨ての剃刀で切り出し、この紙片をPCRチューブに加えた。実施例4では、紙片を加えたPCRが不可能であるので、0.2 μlを4mm2にスポットし、紫外線照射を開始し、数時間おきにスポットに対し水1μl10秒のせ、その4mm2上で軽くピペッティングを行なった後、液を回収しPCRチューブに加え、PCRにより目的のDNAの増幅が可能であるかどうかを判断の基準とした。その結果、実施例1および3では24時間で増幅されない場合が生じるのに対し、耐水性透明インクの場合では、4mm2当たりに8 ngさらにその1/10量の0.8 ngの場合(実施例2)であっても、24時間紫外線照射ではPCRによる増幅は確実に確認され、72時間照射後にはバンドが確認されなくなるものの、48時間後でも確認される場合も生じた。さらに黒色耐水性DNAインクでは、4mm2当たり20 ng、2 ngの場合を調べたところ(実施例4)、紫外線照射48時間後でも確実にPCRによる増幅が確認でき、さらに72時間後でも増幅が確実に確認できた。
【0069】
一方、比較として、そのままDNA溶液を水で希釈し、最終DNA量100 ng/μl、10ng/μlとし、これを0.2 μlを4mm2にスポットし、紫外線照射を開始し、数時間おきにスポットに対し水1μl10秒のせ、その4mm2上で軽くピペッティングを行なった後、液を回収しPCRチューブに加え、PCRにより目的のDNAの増幅が可能であるかどうか調べたところ、24時間紫外線照射でバンドが確認されなく場合が生じることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAを含む耐水性インク組成物。
【請求項2】
前記耐水性インク組成物が、耐水性インクとDNAとの混合物である請求項1記載の耐水性インク組成物。
【請求項3】
水、着色料、樹脂、およびDNAを含む、請求項1または2記載の耐水性インク組成物。
【請求項4】
前記樹脂が、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、およびエポキシ系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3記載の耐水性インク組成物。
【請求項5】
DNAの含有量が、インク組成物1μl当たり3x10-10μg以上20μg以下である、請求項1から4までのいずれかに記載のインク組成物。
【請求項6】
媒体上の印字からDNAを抽出する方法であって、請求項1から5までのいずれかに記載のインク組成物を用いて作成された印字と水または水溶液とを接触させる工程を含む方法。
【請求項7】
前記媒体が、紙、プラスチック樹脂、または布地である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
媒体上の印字の真贋を鑑定する方法であって、
・ 請求項1から5までのいずれかに記載のインク組成物を用いて作成された印字と水または水溶液とを接触させる工程;
・ 該印字と水または水溶液とを接触させることによって得られるDNA含有水溶液を調製する工程;および
・ 調製したDNA含有水溶液中のDNAを分析する工程、
を含む、方法。
【請求項9】
前記媒体が紙、プラスチック樹脂、または布地である、請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2008−222966(P2008−222966A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66961(P2007−66961)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(507085667)長浜バイオラボラトリー株式会社 (4)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【Fターム(参考)】