説明

DNA3’末端の修飾基除去用酵素試薬

【課題】耐熱性のDNAポリメラーゼの、未知の機能を生かした新たな用途、あるいはその利用方法を提供する。
【解決手段】DNA3’末端のデオキシリボース-3’-リン酸エステルを切断する機能を有し、該切断機能は、該エステルのリン酸基に結合する置換基の種類によらず、その基質特異性が低い、DNAポリメラーゼの活性を利用し、プローブ兼用プライマーを用いたPCR遺伝子増幅、リアルタイムPCRあるいは古代生物の損傷遺伝子の修復、増幅を行う方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAポリメラーゼからなるDNA3’末端の修飾基除去用酵素試薬及び該試薬の使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼは、1本鎖の核酸を鋳型として、それに相補のDNAを合成する酵素であり、現在まで、アミノ酸配列の共通性から大きく6つのファミリーに分類されている。
DNAポリメラーゼは、DNAシークエンス反応、遺伝子増幅反応、DNAの放射活性標識、変異遺伝子の試験管内合成等に有用であり、遺伝子等を扱う生物、医療、食品等の分野において欠かせないものとなっている。
その中で、一般的に用いられている酵素試薬としては、大腸菌DNAポリメラーゼIや、好熱菌サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ)に代表されるファミリーAのDNAポリメラーゼ、あるいはT4ファージDNAポリメラーゼに代表されるファミリーBのDNAポリメラーゼが挙げられる。このほか、現在まで種々のDNAポリメラーゼが細菌、動植物から発見されているが、これらはその多くが常温生物由来にDNAポリメラーゼであるため耐熱性が乏しく、94℃以上での熱変性反応を含むPCR反応等には不適当であった。一方、上記好熱菌サーマス・アクアティクスDNAポリメラーゼ(Taq DNAポリメラーゼ)は耐熱性ではあるが、3’-5’校正エキソヌクレアーゼ活性を欠くため、PCR反応においてエラーを誘発しやすく、PCR反応等に不向きであった。
【0003】
一方、このような状況下、本出願人は、超好熱細菌パイロコッカス・ホリコシ由来の、耐熱性で、かつ3’-5’校正エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼとして、775アミノ酸残基からなるDNAポリメラーゼ(特許文献1参照)、同じく小サブユニットと、インテイン配列が除去されたヘテロダイマーDNAポリメラーゼ(特許文献2参照)、及び該ヘテロダイマーDNAポリメラーゼの変異体(特許文献3参照)を提案している。
このほか、DNAポリメラーゼの中には、5’-3校正エキソヌクレアーゼ作用あるいは損傷乗り越え修復機能を有するものも知られている。
しかし、DNAポリメラーゼの有する作用、機能、性質についての全容は未だ明らかになってはおらず、未知の作用、機能を有する可能性は否定できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3015878号公報
【特許文献2】特許第3829174号公報
【特許文献3】特開平2007−228897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、DNAポリメラーゼ、特に耐熱性のDNAポリメラーゼの未知の機能を探索、発見し、該機能を生かしたDNAポリメラーゼの新たな用途、あるいはその利用法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、DNAポリメラーゼが、DNA3’末端のデオキシリボース-3’-リン酸エステルを切断する機能を有すること、および、該切断機能は、該エステルのリン酸基に結合する置換基の種類によらず、その基質特異性が低いことを見いだし、新たなDNAポリメラーゼの用途及びその利用法を創出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
(1)DNAポリメラーゼからなる、DNA3’末端ヌクレオチド3’ 位に結合した遊離または修飾リン酸エステルの切断用酵素試薬。

(2)修飾リン酸エステルの切断後のDNA3’ 末端から、テンプレートDNA配列に対応する相補鎖伸長作用を有することを特徴とする、上記(1)に記載の酵素試薬。

(3)DNAポリメラーゼが耐熱性であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の酵素試薬。

(4)DNAポリメラーゼが、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつDNAポリメラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする、上記(3)に記載の酵素試薬。

(5)DNAポリメラーゼが、小サブユニットと、大サブユニットとからなるDNAポリメラーゼ活性を有するヘテロダイマー酵素であって、
小サブユニットが配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、あるいは該アミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であり、大サブユニットが配列番号5に示されるアミノ酸配列中インテイン配列によりコードされるアミノ酸配列(955番目〜1120番目)を除去した配列を有するタンパク質であるか、あるいは該配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、上記(3)に記載の酵素試薬。

(6)小サブユニットが、さらに、配列番号9に示すアミノ酸配列において、少なくとも167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸配列を有するか、あるいは該削除されたアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、上記(5)に記載の酵素試薬。

(7)修飾リン酸エステルが、リン酸残基を介して蛍光色素、ビオチンまたは酵素と結合していることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の酵素試薬。

(8)修飾リン酸エステルが、損傷ヌクレオチド由来のリン酸エステルであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の酵素試薬。

(9)テンプレートDNA配列に該配列と一部相補の配列を有するプライマーがハイブリダイズしたDNAに、DNAポリメラーゼを作用させて、プライマー配列の3’末端伸長反応を行い、2本鎖DNAを調製する方法であって、プライマーDNA配列の3’末端ヌクレオチドにおけるデオキシリボース3’ 位水酸基が、遊離または修飾リン酸によりエステル化されていることを特徴とする、上記方法。

(10)増幅対象のDNAを、アッパー及びローワープライマー並びにDNAポリメラーゼを用いるPCR法により増幅する方法であって、少なくとも一方のプライマーの3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がりン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して標識化合物と結合していることを特徴とする、上記方法。

(11)標識化合物が、蛍光化合物、ビオチン、または酵素であることを特徴とする、上記(10)に記載の方法。

(12)測定対象のDNAを、アッパー及びローワープライマーDNA並びにDNAポリメラーゼを用いるリアルタイムPCR法により定量する方法であって、少なくとも一方のプライマーDNAの3’末端ヌクレオチドの3’水酸基がリン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して蛍光色素が結合しており、5’末端がクエンチャーにより標識されていることを特徴とする上記(11)に記載の方法。

(13)古代生物試料中の、DNAの3’末端ヌクレオチドの3’水酸基が損傷に伴うヌクレオチド分解によって生じた置換基により修飾されたリン酸または遊離リン酸によりエステル化されて、相補鎖の一方が中断した部分を有する損傷遺伝子DNAの修復法であって、該損傷遺伝子DNAに対し、デネイチャー及びアニーリングを行った後、DNAポリメラーゼを作用させて、修飾リン酸エステルの切断及び相補鎖伸長反応を行うことを特徴とする、古代生物試料中の損傷遺伝子の修復方法。

(14)DNAポリメラーゼが耐熱性であることを特徴とする、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の方法。

(15)DNAポリメラーゼが、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつDNAポリメラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする、上記(14)に記載の方法。

(16)DNAポリメラーゼが、小サブユニットと、大サブユニットとからなるDNAポリメラーゼ活性を有するヘテロダイマー酵素であって、
小サブユニットが配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、あるいは該アミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含むタンパク質であり、大サブユニットが配列番号5に示されるアミノ酸配列中インテイン配列によりコードされるアミノ酸配列(955番目〜1120番目)を除去した配列を有するタンパク質であるか、あるいは該配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、上記(14)に記載の方法。

(17)小サブユニットが、さらに、配列番号9に示すアミノ酸配列において、少なくとも167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸配列を有するか、あるいは該削除されたアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、上記(14)に記載の方法。

(18)増幅対象のDNAの各末端側配列と相補の配列を有する、アッパー及びローワープライマーDNA、およびDNAポリメラーゼを少なくとも含む、PCR用試薬キットであって、少なくとも一方のプライマーDNAの3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がりン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して標識化合物と結合していることを特徴とする、上記試薬キット。

(19)測定対象のDNAの各末端側配列と相補の配列を有するアッパー及びローワープライマーDNA、およびDNAポリメラーゼを少なくとも含む、DNAのリアルタイムPCR定量用試薬キットであって、一方のプライマーDNAが、その3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がりン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して蛍光色素と結合しており、5’末端がクエンチャーで標識されていることを特徴とする、上記試薬キット。

【発明の効果】
【0008】
本発明は、DNAポリメラーゼが、DNA3’末端ヌクレオチド3’ 位に結合した遊離または修飾リン酸エステルを切断し、その3’末端ヌクレオチド3’ 位に結合した遊離または修飾リン酸エステルを有するDNAが、テンプレートDNAとハイブリダイズしたとき該配列に対応する相補鎖伸長作用を有し、しかも、その基質特性は極めて低いことを見いだしてなされたものであり、DNA3’末端に蛍光、ビオチン、酵素等の標識リン酸エステル基あるいは他の修飾リン酸エステル基を有していても、そのほとんどを切除し、3’末端からの相補鎖伸長が可能となる。このようなDNAポリメラーゼの基質特異性の低い修飾リン酸エステルの切断活性およびその後の相補鎖伸長活性を利用することにより、例えばPCRによる遺伝子増幅法あるいは古代生物の損傷遺伝子の修復、増幅が極めて簡便に行えるようになる。
【0009】
例えば、PCRにおいて、蛍光色素等で標識リンエステルを3’末端に有するDNAをプライマーとして使用すれば、該プライマーはプローブを兼用させることできるから、従来のようにプライマーとプローブを別途合成する必要がなくなるほか、実験操作も簡便化する。特にパイロコッカス・ホリコシ由来のポリメラーゼB、ポリメラーゼDおよびポリメラーゼD変異体は、耐熱性が高く、3’−5’校正エキソヌクレアーゼ活性を有し、しかも、3’末端リン酸エステル基の切断活性は高く、PCRによる遺伝子増幅、リアルタイムPCRにおける上記プローブ兼用プライマーを使用する手法において、特に有利に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】DNAポリメラーゼを用いた本発明の遺伝子の探査、増幅法の概要を示す図である。
【図2】DNAポリメラーゼを用いた本発明のリアルタイムPCR法の概要を示す図である。
【図3】DNAポリメラーゼを用いた本発明の古代生物由来の損傷遺伝子の修復、増幅法の概要を示す図である。
【図4】3’末端に修飾リン酸エステルを有する各オリゴヌクレオチドの構造の概略を示す図である。
【図5】3’末端にFITC修飾リン酸エステルを有するオリゴヌクレオチド、及び3’末端に3-アミノ−プロピル基修飾リン酸エステルを有し、5’末端FAMで修飾されたオリゴヌクレオチドを基質として用い、PhPolB及びPhPolDを作用させて、修飾リン酸エステルの切断試験を行った結果を示す図である。
【図6】3’末端にビオチン、3-アミノ-プロピル基、3-ヒドロキシ-プロピル基、遊離リン酸基で修飾されたリン酸エステルを有し、5’末端FAMで修飾された各オリゴヌクレオチドを基質として用い、PhPolB及びPhPolDを作用させて、修飾リン酸エステルの切断試験を行った結果を示す図である。
【図7】3’末端にFITC修飾リン酸エステルを有し、5’末端TAMRAで修飾されたオリゴヌクレオチドを基質として、PhPolB及びPhPolDを作用させて修飾リン酸エステルの切断試験及び相補鎖伸長活性を試験した結果を示す図である。
【図8】3’末端にビオチン、3-アミノ-プロピル基、3-ヒドロキシ-プロピル基、遊離リン酸基で修飾されたリン酸エステルを有し、5’末端FAMで修飾された各オリゴヌクレオチドを基質として用い、PhPolB及びPhPolDを作用させて、修飾リン酸エステルの切断試験及び相補鎖伸長活性を試験した結果を示す図である。
【図9】3’末端にFITC修飾リン酸エステルを有するオリゴヌクレオチドを基質として用い、各温度下におけるPhPolB及びPhPolDの修飾リン酸エステルの切断試験を行った結果を示す図である。
【図10】DNAポリメラーゼとしてKlenow Fragment , T4 DNA polymeraseを用い、FITC標識リン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチド、及び遊離リン酸エステル基 を3末端に有し、5’FAMで修飾されたオリゴヌクレオチドの3’末端修飾リン酸エステル基の切断活性を試験した結果を示す図である。
【図11】3’末端にFITC修飾リン酸エステルを有するオリゴヌクレオチド、及び3’末端にビオチンで修飾されたリン酸エステルを有し、5’末端FAMで修飾された各オリゴヌクレオチドを基質とを基質として用い、PhPolD およびPhPolD変異体の切断活性を試験した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、DNAポリメラーゼからなる、DNA3’末端ヌクレオチド3’ 位に結合した遊離または修飾リン酸エステルの切断用酵素試薬に関し、DNAポリメラーゼに見いだされたホスホエステラーゼ活性により、DNAの3’末端におけるヌクレオチドのデオキシリボース3’の水酸基が修飾リン酸基によりエステル化されたエステル部分を加水分解するために用いるものである。
DNAポリメラーゼによる修飾リン酸エステルの加水分解は、テンプレートDNAの非存在化でも進行するが、テンプレートとなるDNAと上記修飾リン酸エステルを3’末端に有するDNAとがハイブリダイズしている場合、DNAポリメラーゼは、基質となるヌクレオシド三リン酸(dNTP)の存在下、修飾燐酸エステルを切断し、3’末端からテンプレートDNAの配列に対応する相補鎖を伸長し2本鎖DNAを形成する。
【0012】
このようなDNAポリメラーゼとしては、例えばKlenow FragmentあるいはT4 DNA polymerase等を挙げることができるが、その中でも好熱性古細菌である、パイロコッカス・ホリコシ由来の耐熱性DNAポリメラーゼが、他のDNAポリメラーゼと比べて修飾エステル基の加水分解が特に高く、また修飾基の種類によらず基質特異性が広い点で好ましく用いられる。
【0013】
このようなパイロコッカス・ホリコシ由来のDNAポリメラーゼとしては、本出願人の出願に係る以下の(a)〜(c)のものが挙げられる。
(a)配列番号1のアミノ酸配列(その遺伝子塩基配列は配列番号2に示される)からなるタンパク質中のインテインを除去した、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼ(特許第301587号公報)。このDNAポリメラーゼについて、以下PhPolBという。
(b)小サブユニットと、大サブユニットとからなるヘテロダイマー酵素であって、小サブユニットが配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、大サブユニットが配列番号5に示されるアミノ酸配列中インテイン配列によりコードされるアミノ酸配列(955番目〜1120番目)を除去した配列(配列番号7)を有するタンパク質である、DNAポリメラーゼ(特許第3829174号公報)。このDNAポリメラーゼについて、以下、PhPolDという。
(c)上記(b)のDNAポリメラーゼにおける、小サブユニットのアミノ酸配列(配列番号9)において、さらに、少なくとも167〜200番目の領域であって、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性抑制領域が削除されたアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼが挙げられ、変異体の種類としては、小サブユットのN末端から1−200番目のアミノ酸を欠損した変異体(配列番号11)、小サブユットのN末端から1−65番目のアミノ酸を欠損した変異体、小サブユットのN末端から167−200番目のアミノ酸を欠損した変異体、あるいは小サブユットのN末端から140−200番目のアミノ酸を欠損した変異体が挙げられ、これらはいずれも3’−5’エキソヌクレアーゼ活性が増大している(特開2007−228897号公報)。このDNAポリメラーゼについて、以下 PhPolD変異体という。
【0014】
一方、上記PolBの遺伝子の塩基配列は、配列番号4に示され、PolDの大サブユニット及び小サブユニットの塩基配列、およびインテイン配列除去後の大サブユニットの遺伝子の塩基配列は、それぞれ順に配列番号6、10,8に示される。また、PolD変異体における、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性抑制領域として1〜200番目が削除された小サブユニットのアミノ酸配列及びその遺伝子の塩基配列は、それぞれ配列番号12に示される。
また、これらPolB、polD及びpolD変異体は、DNAポリメラーゼ活性を有する限り、本発明においては、上記(a)〜(c)のDNAポリメラーゼあるいは各サブユニットのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものも包含する。
これらDNAポリメラーゼのDNA3’末端修飾リン酸エステルの切断活性を比較すると、PhPolD,あるいはPhpolD変異体がより高い活性を有する。
【0015】
PhPolB、PhPolD、PhPolD変異体は、上記PhPolB遺伝子の塩基配列に基づき合成したプライマー、あるいはPhPolD、PhPolDの小サブユニット、大サブユニットの各遺伝子の塩基配列及び残存させる領域の塩基配列を基に合成したプライマーを使用し、パイロコッカス・ホリコシのゲノム由来のDNAを鋳型としてPCR増幅することにより得た各遺伝子を用いて、大腸菌等の宿主を形質転換し、該形質転換体からたやすく得ることが可能である。なお、PhPolD、PhPolD変異体の場合においては、小サブユニット遺伝子と大サブユニットを形質転換体において共発現することが好ましい。この製法の詳細は上記公報において明らかにされている。
【0016】
本発明のDNAポリメラーゼの利用法について以下説明する。
DNAポリメラーゼのホスホエステラーゼ活性の基質特異性は非常に広く、遊離または様々な修飾基で修飾されたリン酸エステルを切断する。例えば、蛍光色素、ビオチン、酵素等で標識されたリン酸エステルであっても切断除去可能であり、標識が除去されたDNA3’末端から、テンプレートDNAに対応する相補鎖を伸長することができる。
このような特性を生かした利用法として、プラーマーにプローブ機能を兼用させたPCR法が挙げられ、この方法は以下に例示される。
【0017】
目的遺伝子の探査、増幅(図1)
1)まず、目的とする遺伝子に対応する一対のプライマーDNAを合成し、少なくともそのうちの一方の3’末端のデオキシリボース3’水酸基にリン酸基を介して上記蛍光色素等の標識化合物が結合した、3’末端標識プライマーを作成する。
2)この3’末端標識プライマーはプローブ機能を有し、例えば、候補遺伝子試料が固定化されたPCR用ウエルに、この3’末端標識プライマーを加え、ハイブリダイズしなかった3’末端標識プライマーを洗浄除去し、3’末端標識プライマーがハイブリダイズした候補遺伝子試料を蛍光検出し、選別する。
【0018】
3)次いで、使用した3’末端標識プライマーが、目的遺伝子の一方端部に対応するもののみの場合には、選別されたウエルに、他方の端部に対応するプライマーを加え、また、目的遺伝子の両端部に対応する一対の3’末端標識プライマーを使用した場合には、そのまま、DNAポリメラーゼ及びdNTP試薬を加え、PCR反応を行う。このとき3’末端標識プライマーの標識は、DNAポリメラーゼのホスホエステラーゼ作用により除去されて相補鎖が伸長され、目的遺伝子は増幅される。
4)増幅された目的遺伝子は、ベクターに導入し、クローニングを行う。
この方法においては、PCR増幅用プライマーがプローブ機能を有しているため、従来のように、プローブとプライマーの作成、使用を別々に行うことなく、PCRを極めて簡便に行うことが可能となる。
【0019】
リアルタイムPCR(図2)
測定対象の遺伝子に対応する一対のプライマーDNAを合成し、一方のプライマーDNAの3’末端のデオキシリボース3’水酸基にリン酸基を介して上記蛍光色素等の標識化合物が結合させ、5’末端にBHQ−1等のクエンチャーを結合させて、両末端標識プライマーを作成し、測定対象遺伝子含有試料に該標識プライマー及びもう一方のプライマー、並びにdNTPおよびDNAポリメラーゼを加えて、PCR反応を行う。
両末端標識プライマーは、測定対象遺伝子とハイブリダイズするが、このハイブリダイズした時点では、3’末端の蛍光標識は、クエンチャーにより励起光を照射しても蛍光の発生は抑制されている。しかし、PCR反応において、DNAポリメラーゼのホスホエステラーゼ活性により、蛍光標識は除去されて、クエンチャーによる蛍光抑制の解除により、蛍光を発生するようになる。
【0020】
この蛍光強度は、PCRサイクル数に対応して増幅したPCR産物量を反映し、PCR産物量は当初の測定対象遺伝子の量(濃度)に依存するから、各サイクルにおける蛍光強度をリアルタイムモニタリングすることにより、各サイクル数に対応する測定対象遺伝子の増幅曲線を求めることができ、段階希釈した測定対象遺伝子を用いて得られた増幅曲線から、Ct(Threshold Cycle)値と当初の測定対象遺伝子量に関する検量線を作成できる。
本発明においては、濃度未知の測定対象遺伝子試料について得られたCt値から、上記検量線を用いて。測定遺伝子を定量することができる。このような検量線の作成及び遺伝子の定量手法自体、従来のTagManプローブを用いるリアルタイムPCR法と変わらないが、本発明のリアルタイム法は、従来法と比べ、プライマーとプローブを別途作成する必要がない点で極めて簡便に対象遺伝子の定量を行うことができる。
【0021】
本発明においては、上記した、目的とする遺伝子の探査、増幅及びリアルタイムPCR法による特定遺伝子の定量を行うための、試薬キットの提供を含む。
目的とする遺伝子の探査、増幅を行うための試薬キットは、少なくとも、探査、増幅対象の遺伝子DNAの各末端側配列と相補の配列を有する、アッパー及びローワープライマーDNA、およびDNAポリメラーゼを含むが、少なくとも、一方のプライマーDNAとして、3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がリン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して標識化合物と結合しているプライマーを含む。この試薬キットにおいては、さらに、dNTP(ATP、GTP 、TTP、CTPの等量混合物)、緩衝液作成材料、MgSO4,等のマグネシウム剤、 KCl, (NH4)2SO4,等の酵素安定化剤、Triton X100等の界面活性化剤、PCNA,RFC等の複製因子、DNAポリメラーゼの抗体等を含めても良い。さらに、DNAポリメラーゼは、混合物でもよい。
【0022】
DNAポリメラーゼとしては、上記PhPolB、PhPolD及びPhPolD変異体が、PCR条件下でも充分な耐熱性を有し、かつ他3’−5’校正エキソヌクレアーゼ活性を有している点で、いずれも望ましいが、酵素活性の点で後2者がもっとも好ましい。
標識化合物としては、例えば、FITC,FAM,TET,JOE,Cy3,Cy5,等の蛍光色素、ビオチン、ビオチンとアビジンの複合体、あるいはペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等の酵素、蛍光タンパク質等が挙げられる。また、同位元素で放射能標識しリン酸を3’末端の3水酸基にエステル結合させても良い。酵素等のタンパク質を標識する場合、例えば、後記実施例に示されるような末端にアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基等の官能基を有する修飾基をリンカーとして、標識するタンパク質のカルボキシル基、アミノ基を利用して結合させることができる。
【0023】
また、リアルタイムPCR法による特定遺伝子の定量を行うための、試薬キットは、測定対象のDNAの各末端側配列と相補の配列を有するアッパー及びローワープライマーDNA、およびDNAポリメラーゼを少なくとも含むが、一方のプライマーDNAが、その3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がリン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して蛍光色素と結合しており、5’末端がクエンチャーで標識されていることが必要である。
この試薬キットには、さらに、dNTP(ATP、GTP 、TTP、CTPの等量混合物)、緩衝液作成材料MgSO4,等のマグネシウム剤、 KCl, (NH4)2SO4,等の酵素安定化剤、Triton X100等の界面活性化剤、PCNA, RFC等の複製因子、DNAポリメラーゼの抗体等を含めてもよい。使用する蛍光色素としては、上記例示した蛍光色素と同様なものが用いられ、クエンチャーとしてはTAMRA、dabcyl, Black Hole Quencher Dyes (BHQ-0, BHQ-1, BHQ-2, BHQ-3)等が挙げられる。
DNAポリメラーゼとしては、上記と同様にPhPolB、PhPolD及びPhPolD変異体が望ましいが、PhPolD及びPhPolD変異体がさらに好ましい。
【0024】
古代生物試料中の損傷遺伝子の修復、増幅(図3)
本発明のDNAポリメラーゼの他の利用法としては、古代生物試料に含まれる損傷遺伝子DNAの修復、増幅が挙げられる。
化石や古い骨などの、古代生物試料に含まれる遺伝子DNAは損傷を受けており、損傷を受けた部分は、損傷特異的なAPヌクレアーゼ等で、切断され、3’末端や、5’末端に損傷が残る場合がある。さらに、これら遺伝子DNAは、紫外線等にさらされて細かく切断されている。このために、PCR法でのDNA増幅は極めて困難とされてきた。例えば、このような古代生物試料に含まれる遺伝子DNAにおいては、遺伝子の相補鎖の一方が途中で欠落し、その3’末端ヌクレオチドがさらに損傷している場合が多々ある。このような損傷遺伝子DNAにおいては、該損傷に伴うヌクレオチド分解産物を置換基とするリン酸エステルあるいは遊離リン酸エステルにより修飾された3’水酸基を有するヌクレオチドを3’末端に有している。
【0025】
この3’末端ヌクレオチドの損傷としては、例えば、以下の場合が挙げられる。
1)塩基が損傷されて、次にDNAグルコシラーゼで損傷塩基が除かれ、次にAPエンドヌクレアーゼ等で損傷部位の5’側が切断された時に、3’末端にデオキシリボースリン酸が残る。これらが、さらに分解されて、アルファー、ベーター不飽和アルデヒドができる。2)活性酸素による一本鎖切断、電離放射線、ブレオマイシン等で、3’末端にホスホグリコール酸ができる。3)活性酸素による一本鎖切断で3’末端にリン酸が残る。このような場合、3’末端はブロックされていることになり、3’末端からの相補鎖伸長は困難とされてきた。
【0026】
しかし、上記の場合であっても、DNAポリメラーゼは、このような3’末端の損傷ヌクレオチドを修飾リン酸エステルとみなして、切断除去し、損傷ヌクレオチドが除去された新たな3’末端から、残存する一方のDNA鎖を鋳型として、 相補鎖を伸長して、損傷を修復する。
【0027】
DNAポリメララーゼを用いて、古代生物試料中の損傷遺伝子DNAの修復、増幅を使って、PCRを使って行う方法について以下説明する。
始めに、試料DNAを、高温でデイネイチャーさせ、アニーリングを行う。断片化されているDNAは、色々な組み合わせでアニーリングされ、長いテンプレートの、上流域に3’末端が損傷されていているプライマーが結合しているような組み合わせが一部できる。次に伸長反応を行う、DNAポリメラーゼは、3’末端の損傷を除去し、DNA鎖を5’方向に伸ばし、ダブルストランドDNAができる。これを、繰り返し行うことで、より長いダブルストランドDNAができる。次に、これを、ベクターに入れ、クローニングを行う。ベクターのマルチクローニングサイトのプライマーを使って、PCR増幅させ、シークエンスを行う。得られた、大量のシークエンスデータをコンピューター解析し遺伝子解析を行う。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例 1
1)FITC修飾オリゴヌクレオタイドの合成
3’-フルオレセインCPG [1-ジメトキシトリチルオキシ-2-(N-チオウレア-(ジ-O-ピバロイル-フルオレセイン)-4-アミノブチル)-プロピル-3-O-スクシノイル-長鎖アルキルアミノ-CPG] に、dC-CEホスホアミダイド[5’-ジメトキシトリチル-N-イソブチリル-2’-デオキシシチジン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド]を加えて、3’末端にリン酸基のついたデオキシシチジンのリン酸基とフルオロセインに結合しているリンカーのDMTをはずして、エステル結合を作った。次に、ホスホアミダイド試薬(dT-CEホスホアミダイド {5’-ジメトキシトリチル-2’-デオキシチミジン,3’-[(2-シアノエチル)-,(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド} ・dG-CEホスホアミダイド{5’-ジメトキシトリチル-N-イソブチリル-2’-デオキシグアノシン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド}・dA-CEホスホアミダイド{5’-ジメトキシトリチル-N-ベンゾイル-2’-デオキシアデノシン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド}・dC-CEホスホアミダイド{5’-ジメトキシトリチル-N-ベンゾイル-2’-デオキシシチジン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド})を、合成する順番に順次加えてオリゴヌクレオタイドを合成した。合成終了後に、CPGから切り出しと脱保護(室温下、水酸化アンモニウムで2時間反応)を行い、スクシノイル-長鎖アルキルアミノ-CPGを外し、3’FITC修飾オリゴヌクレオタイドを得た。
【0029】
上記合成に用いた化合物の構造を以下に示す。
【化1】

1-ジメトキシトリチルオキシ-2-(N-チオウレア-(ジ-O-ピバロイル-フルオレセイン)-4-アミノブチル)-プロピル-3-O-スクシノイル-長鎖アルキルアミノ-CPG
【0030】
【化2】

【0031】
2)ビオチン修飾オリゴヌクレオタイドの合成
以下の構造式で示される、3'-ビオチンTEG CPG {1-ジメトキシトリチルオキシ-3-O-(N-ビオチニル-3-アミノプロピル)-トリエチレングリコリル-グリセリル-2-O-スクシニル-長鎖アルキルアミノ-CPG}に dC-CEホスホアミダイド[5’-ジメトキシトリチル-N-イソブチリル-2’-デオキシシチジン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド]を加えて、3’末端にリン酸基のついたデオキシシチジンのリン酸基とビオチンに結合しているリンカーのDMTを外して、エステル結合を作った。次に、ホスホアミダイド試薬(dT-CE,dA-CG,dC-CA,dG-CAホスホアミダイド)を、合成する順番に順次加えてオリゴヌクレオタイドを合成した。合成終了後に、切り出しと脱保護(室温下、水酸化アンモニウムで2時間反応)を行い、スクシノイル-長鎖アルキルアミノ-CPGを外す。3’ビオチン修飾オリゴヌクレオタイドを得た。
【0032】
【化3】

1-ジメトキシトリチルオキシ-3-O-(N-ビオチニル-3-アミノプロピル)-トリエチレングリコリル-グリセリル-2-O-スクシニル-長鎖アルキルアミノ-CPG
【0033】
3)3’アミノプロピル基修飾オリゴヌクレオタイドの合成
以下の構造式で示される3'-PT-アミノ修飾C3 CPG {N-(3-(O-ジメトキシトリチル)-プロピル)-(2-カルボキシアミン)-フタルイミジル-lcaa-CPG}に dC-CEホスホアミダイド [5’-ジメトキシトリチル-N-イソブチリル-2’-デオキシシチジン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド]を加えて、3’末端にリン酸基のついたデオキシシチジンのリン酸基と{N-(3-(O-ジメトキシトリチル)-プロピル)-(2-カルボキシアミン)-フタルイミジル-lcaa-CPG}のDMT基を外して、エステル結合を作った。次に、ホスホアミダイド試薬(dT-CE,dA-CG,dC-CA,dG-CAホスホアミダイド)を、合成する順番に順次加えてオリゴヌクレオタイドを合成する。合成終了後に、切り出しを行い(55°C、水酸化アンモニウムで一晩;同時に核酸塩基の脱保護もできる。)、3’末端にアミノプロピル基修飾オリゴヌクレオチドを得た。
【0034】
【化4】

N-(3-(O-ジメトキシトリチル)-プロピル)-(2-カルボキシアミン)-フタルイミジル-lcaa-CPG
【0035】
4)3’-ヒドロキシ-プロピル基修飾オリゴヌクレオタイドの合成
以下の構造式で示される3'-スペーサーC3 CPG {(1-ジメトキシトリチルオキシ-プロパンジオール-3-スクシノイル)-長鎖アルキルアミノ-CPG}に dC-CEホスホアミダイド[5’-ジメトキシトリチル-N-イソブチリル-2’-デオキシシチジン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド]を加えて、3’末端にリン酸基のついたデオキシシチジンのリン酸基とCPGに結合しているプロピル基のDMTをはずして、エステル結合を作った。次に、ホスホアミダイド試薬(dT-CE,dA-CG,dC-CA,dG-CAホスホアミダイド)を、合成する順番に順次加えてオリゴヌクレオタイドを合成した。合成終了後に、切り出しと脱保護を行い(室温下、水酸化アンモニウムで2時間反応)、スクシノイル-長鎖アルキルアミノ-CPGが外れ、3’末端にプロパノール基のついたオリゴヌクレオチドを得た。
【0036】
【化5】

(1-ジメトキシトリチルオキシ-プロパンジオール-3-スクシノイル)-長鎖アルキルアミノ-CPG
【0037】
5)3’末端に修飾リン酸エステル基を有するオリゴヌクレオチドの合成
以下の構造式で示される3'-リン酸エステルCPG {2-[2-(4,4'-ジメトキシトリチルオキシ)エチルスルホニル]エチル-2-スクシノイル)-長鎖アルキルアミノ-CPG}に dC-CEホスホアミダイド[5’-ジメトキシトリチル-N-イソブチリル-2’-デオキシシチジン,3’-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホアミダイド]を加えて、デオキシシチジンに結合している3‘リン酸基と2-[2-(4,4'-ジメトキシトリチルオキシ)エチルスルホニル]エチル-2-スクシノイル)-長鎖アルキルアミノ-CPGの DMT基をはずして、エステル結合を作った。次に、ホスホアミダイド試薬(dT-CE,dA-CG,dC-CA,dG-CAホスホアミダイド)を、合成する順番に順次加えてオリゴヌクレオタイドを合成した。合成終了後に、CPGからの切り出しを行い(室温下、水酸化アンモニウムで2時間反応)、次に、脱保護を行う(55°Cにて水酸化アンモニウムで4時間)。最終的に、3’末端にリン酸エステル基がついたヌクレオチドを得た。
【0038】
【化6】

2-[2-(4,4'-ジメトキシトリチルオキシ)エチルスルホニル]エチル-2-スクシノイル)-長鎖アルキルアミノ-CPG
【0039】
なお、ビオチン修飾、アミノプロピル基修飾、3’-ヒドロキシ-プロピル基修飾及び遊離リン酸修飾の場合、切断活性を蛍光検出するため、5’末端ヌクレオチド残基のデオキシリボースの5位にリン酸基を介して検出用の蛍光基FAMを結合させ、修飾した。
上記FAM標識は以下のように行った。
ホスホアミダイド法でオリゴヌクレオチドを3’末端から合成し、最後に、以下の構造式で示される5'-フルオレセインホスホアミダイド 化学名[(3',6'-ジピバロイルフルオレセインイル)-6-カルボキシアミドヘキシル]-1-O-(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)-ホスホアミダイドを加え、カップリングを行い、切り出し、脱保護をおこなった。
【0040】
【化7】

[(3',6'-ジピバロイルフルオレセインイル)-6-カルボキシアミドヘキシル]-1-O-(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)-ホスホアミダイド
【0041】
得られた3’末端に修飾リン酸エステル基を有する各オリゴヌクレオチドの化学構造の概略は、図4に示される。なお、このFAM標識は、コントロールとして3’末端に修飾リン酸エステル基を有しない(3’水酸基)オリゴヌクレオチドについても行った。
上記3’末端に修飾リン酸エステル基を有する各オリゴヌクレオチドおよび3’末端未修飾のオリゴヌクレオチド部分の塩基配列は以下に示される。
FITC標識オリゴヌクレオタイドの配列;27mer, CTTGAGGCAGAGTCCGACATCTAGCTC(配列番号13)
ビオチン修飾、アミノプロピル基修飾、3−ハイドロキシープロピル基修飾、及び遊離リン酸基修飾を有する各ヌクレオチド、及び3’末端未修飾オリゴヌクレオタイドの配列;34mer
GTAACGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTA(配列番号16)
【0042】
実施例2
テンプレート非存在下での修飾リン酸エステルの切断
10μlの50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0, 15mMMgCl2,)に、基質として、1pmolesの実施例1で合成したFITC標識リン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチドおよび3-アミノプロピルリン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチドそれぞれ加え、これらの各基質毎にPhPolB(Pyrococcus horikoshii DNA Polymerase B)2μg、PhPolD(Pyrococcus horikoshii DNA Polymerase)0.4μgをそれぞれ加え、60度で10分反応させた。次に10μlの95%ホルムアミド、10mM EDTA, 1mg/mlキシレンシアノールを加え酵素反応を停止させた。これを、100度加熱、氷中急冷後、7M尿素を含む12%olyacrylamide gel電気泳動(PAGE)で分析した。FITC標識基質は、10cm x 10cnサイズ、3-アミノプロピルリン酸修飾基質は、20cm x 50cm サイズのgelを使用した。
この電気泳動パターンをphosphoImager (Bio-Rad 社製)でオートラジオグラフィー化した。
【0043】
結果をこれらDNAポリメラーゼの使用しない場合を含めて図5、6に示す。これによれば、PhPolBとPhPolDはともに、FITC標識リン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチド(図中、3’FITC)を基質とする場合において、オリゴヌクレオタイドの3’末端に結合している蛍光色素(FITC)を切断し切り離すことが明らかとなった。切断産物は、オリゴヌクレオタイドを含まない蛍光色素(FITC)である(図5−1)。また、3-アミノ-プロピルリン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチド(図中、3’AMI5’FAM)を基質にして、PhPol B とPhPol Dを使って、部分分解した結果、PhPolBとPhPolDはともに、3’末端未修飾のオリゴヌクレオタイドと移動度が同じ位置にバンドが検出された。これは、3-アミノ-プロピルリン酸エステル基が外れたものである。
以上のことから、リン酸エステルは切断されることが明らかとなった(図5−2)。
また、ビオチン修飾、アミノプロピル基修飾、ヒドロキシープロピル基修飾、遊離リン酸でエステルについて、PhPolB, PhPol Dの活性を観たみた結果、5’末端ラベルの分子量の小さなヌクレオチドが検出された(図6)。これは、3’末端のビオチン、アミノプロピル基、ヒドリキシープロピル基で修飾されたリン酸エステル結合が切断され、修飾基が外れた後に、3’-5’エキソヌクレアーゼで分解された結果であると推測される。
【0044】
実施例3
DNAポリメラーゼによる3’末端の修飾リン酸エステルの切断及び3’末端からのDNA鎖の伸長
テンプレートDNAとして、ホスホアミダイド法により以下の配列のDNAを合成した。
Template strand 1;GAGCTAGATGTCGGACTCTGCCTCAAGACGGTAGTCAACGTGCACTCGAGGTCA(配列番号14)

Template strand 2; TCCTCTAGAGTCGACCTGCAGGCATGCAAGCTTGGCACTGGCCGTCCTTTTACAACGTCGTGACTGGGAAAACCCTGGCGTTAC(配列番号15)
【0045】
一方、プライマーとして実施例で合成した以下の修飾プライマーを用いた。
プライマーDNA1;
3’FITC 5’TAMRA修飾オリゴヌクレオタイド
プライマーDNA1(27mer)の塩基配列; CTTGAGGCAGAGTCCGACATCTAGCTC(配列番号13)

プラーマーDNA2;3’末端ビオチン修飾リン酸、5’末端FAM、修飾
プライマーDNA3;3’ 末端3-アミノプロピルリン酸、5’末端FAM、修飾
プライマーDNA4;3’ 末端3’-ヒドロキシ-プロピルリン酸、5’末端FAM、修飾
プライマーDNA5;3’ 末端遊離リン酸, 5’末端FAM、修飾
上記プライマー2−5(34mer)の塩基配列;
GTAACGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTA(配列番号16)
【0046】
上記プライマーDNA1はtemplate strand 1とアニールし、プラーマーDNA2−5は、template strand 2とアニールさせ、以下のようにDNAポリメラーゼによる、3’末端の修飾リン酸エステルの切断及び3’末端からのDNA鎖の伸長活性を調べた。
10μlの50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0, 15mMMgCl2、)に0.25mMdNTPを加え、1pmolesの上記アニールさせたテンプレートと各オリゴヌクレオチドをそれぞれ加え、さらに各オリゴヌクレオチド毎にPhPolB(Pyrococcus horikoshii DNA Polymerase B)2μg、PhPolD(Pyrococcus horikoshii DNA Polymerase )0.4μgをそれぞれ加え、60度で10分反応させた。次に10μlの95%ホルムアミド、10mM EDTA, 1mg/mlキシレンシアノールを加え酵素反応を停止させた。これを、100℃加熱、氷中急冷後、7M尿素を含む12%olyacrylamide gel電気泳動(PAGE)で分析した。この電気泳動パターンをphosphoImager (Bio-Rad 社製)でオートラジオグラフィー化した。結果をDNAポリメラーゼを使用しなかった場合を含め、図7,8に示す。
この結果によれば、プライマーとして、FITC修飾リン酸エステル基を3’末端に有するオりゴヌクレオチドを使用した場合において、FITC蛍光色素成分と、該プライマーとして使用した該オリゴヌクレオチドの分子長よりも長く伸長した5’末端にTAMRAの付いたオリゴヌクレオタイドを検出した。PhPolB、PhPolDは、dNTP存在下であっても、3’末端の修飾基を切断して、DNA鎖を伸ばした。(図7)
【0047】
一方、プライマーとして、ビオチン修飾リン酸、3-アミノプロピルリン酸、3’-ヒドロキシ-プロピルリン酸及び遊離のリン酸の各エステル基 を3末端に有する各オリゴヌクレオチドを使用した場合の結果は、図8に示される。(なお、図8中、Amino基は3-アミノ-プロピルリン酸、BIOTINはビオチン修飾リン酸、C3は3-ヒドロキシ-プロピルリン酸、リン酸基は遊離のリン酸を示す。)
この結果から明らかなように、これらの各エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた場合も、3’末端修飾リン酸基が外され、DNA鎖を伸長させることができた。以上のことから、どのような修飾基であっても、dNTP存在下で、外されて、DNA鎖が伸長することが可能であるといえる。
【0048】
実施例4
各温度条件におけるPhPolB、及びPhPolDのオリゴヌクレオチド3’末端修飾基切除活性
実施例1、2)で合成したFITC標識リン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチドを基質として、PhPolB及びPhPolDによる3’末端修飾エステル基の切除活性を各反応温度条件下で調べた。酵素反応条件は、温度条件の他は、実施例2に記載したものと同様であり、反応温度条件は、60度、70度、80度に設定した結果を図9に示す。この結果によれば、Pol B, Pol Dともに、80℃においても、切断されたFITC成分が、基質と切り離されて検出されいることが明らかであり、80度まで3’ 末端修飾基切除活性が存在した。
【0049】
実施例5
他のポリメラーゼの3’末端修飾基の切断活性
DNAポリメラーゼとして、PhPolB及びPhPolDをKlenow Fragment , T4 DNA polymeraseに代え、実施例2と同様の酵素反応条件で、FITC標識リン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチド、及び遊離リン酸エステル基を3末端に有するオリゴヌクレオチドを基質として、3’末端修飾リン酸エステル基の切断活性を調べた。
結果を図10に示す。これによれば、上記いずれのDNAポリメラーゼも3’末端修飾リン酸エステル基の切断活性を示した。しかし、基質が残存しており、これらDNAポリメラーゼ3’末端修飾リン酸エステル基の切断活性はPhPolB及びPhPolDよりも低いと考えられる。
【0050】
実施例6
DNAポリメラーゼとしてPhPolDとPhPolD変異体(小サブユットのN末端から1−200番目のアミノ酸を欠損した変異体)を同じ濃度使用し、実施例2と同様の酵素反応条件で、FITC標識リン酸エステル基を3’末端に有するオリゴヌクレオチド、及びビオチン標識リン酸エステル基 を3末端に有するオリゴヌクレオチドを基質として、3’末端修飾リン酸エステル基の切断活性を調べた。
結果を図11に示す。これによれば、変異体DNAも3’末端修飾リン酸エステル基の切断活性を示し、さらに、PhPolDと同じ程度の活性が存在すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAポリメラーゼからなる、DNA3’末端ヌクレオチド3’ 位に結合した遊離または修飾リン酸エステルの切断用酵素試薬。
【請求項2】
修飾リン酸エステルの切断後のDNA3’ 末端から、テンプレートDNA配列に対応する相補鎖伸長作用を有することを特徴とする、請求項1に記載の酵素試薬。
【請求項3】
DNAポリメラーゼが耐熱性であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酵素試薬。
【請求項4】
DNAポリメラーゼが、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつDNAポリメラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする、請求項3に記載の酵素試薬。
【請求項5】
DNAポリメラーゼが、小サブユニットと、大サブユニットとからなるDNAポリメラーゼ活性を有するヘテロダイマー酵素であって、
小サブユニットが配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、あるいは該アミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であり、大サブユニットが配列番号5に示されるアミノ酸配列中インテイン配列によりコードされるアミノ酸配列(955番目〜1120番目)を除去した配列を有するタンパク質であるか、あるいは該配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、請求項3に記載の酵素試薬。
【請求項6】
小サブユニットが、さらに、配列番号9に示すアミノ酸配列において、少なくとも167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸を有するか、あるいは該削除されたアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、請求項5に記載の酵素試薬。
【請求項7】
修飾リン酸エステルが、リン酸残基を介して蛍光色素、ビオチン、または酵素と結合していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の酵素試薬。
【請求項8】
修飾リン酸エステルが、損傷ヌクレオチド由来のリン酸エステルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の酵素試薬。
【請求項9】
テンプレートDNA配列に該配列と一部相補の配列を有するプライマーがハイブリダイズしたDNAに、DNAポリメラーゼを作用させて、プライマー配列の3’末端伸長反応を行い、2本鎖DNAを調製する方法であって、プライマーDNA配列の3’末端ヌクレオチドにおけるデオキシリボース3’ 位水酸基が、遊離または修飾リン酸によりエステル化されていることを特徴とする、上記方法。
【請求項10】
増幅対象のDNAを、アッパー及びローワープライマー並びにDNAポリメラーゼを用いるPCR法により増幅する方法であって、少なくとも一方のプライマーの3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がりン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して標識化合物と結合していることを特徴とする、上記方法。
【請求項11】
標識化合物が、蛍光化合物、ビオチン、または酵素であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
測定対象のDNAを、アッパー及びローワープライマーDNA並びにDNAポリメラーゼを用いるリアルタイムPCR法により定量する方法であって、少なくとも一方のプライマーDNAの3’末端ヌクレオチドの3’水酸基がリン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して蛍光色素が結合しており、5’末端がクエンチャーにより標識されていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
古代生物試料中の、DNAの3’末端ヌクレオチドの3’水酸基が損傷に伴うヌクレオチド分解によって生じた置換基により修飾されたリン酸または遊離リン酸によりエステル化されて、相補鎖の一方が中断した部分を有する損傷遺伝子DNAの修復法であって、該損傷遺伝子DNAに対し、デネイチャー及びアニーリングを行った後、DNAポリメラーゼを作用させて。修飾リン酸エステルの切断及び相補鎖伸長反応を行うことを特徴とする、古代生物試料中の損傷遺伝子の修復方法。
【請求項14】
DNAポリメラーゼが耐熱性であることを特徴とする、上記請求項9〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
DNAポリメラーゼが、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するか、あるいは該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつDNAポリメラーゼ活性を有する酵素であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
DNAポリメラーゼが、小サブユニットと、大サブユニットとからなるDNAポリメラーゼ活性を有するヘテロダイマー酵素であって、
小サブユニットが配列番号9に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、あるいは該アミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含むタンパク質であり、大サブユニットが配列番号5に示されるアミノ酸配列中インテイン配列によりコードされるアミノ酸配列(955番目〜1120番目)を除去した配列を有するタンパク質であるか、あるいは該配列において1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
小サブユニットが、さらに、配列番号9に示すアミノ酸配列において、少なくとも167〜200番目の領域が削除されたアミノ酸配列を有するか、あるいは該削除されたアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を含む蛋白質であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
増幅対象のDNAの各末端側配列と相補の配列を有する、アッパー及びローワープライマーDNA、およびDNAポリメラーゼを少なくとも含む、PCR用試薬キットであって、少なくとも一方のプライマーDNAの3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がりン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して標識化合物と結合していることを特徴とする、上記試薬キット。
【請求項19】
測定対象のDNAの各末端側配列と相補の配列を有するアッパー及びローワープライマーDNA、およびDNAポリメラーゼを少なくとも含む、DNAのリアルタイムPCR定量用試薬キットであって、一方のプライマーDNAが、その3’末端ヌクレオチドの3’ 水酸基がりン酸基とのエステルを形成し、該リン酸基を介して蛍光色素と結合しており、5’末端がクエンチャーで標識されていることを特徴とする、上記試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−207160(P2010−207160A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57877(P2009−57877)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】