説明

DO計測定補助具

【課題】曝気槽内に浸漬したDO計の測定値は、気泡が当たったり、微生物が付着して、測定値がばらつく。簡単な補助具を装備することで、安定した測定値が得られるようにする。
【解決手段】曝気槽内の活性汚泥混合液のDOを測定するDO計の電極面近傍に装備する測定補助具であって、混合液が流入する入口と、流出する出口を有し、入口の開口面積Sinと出口の開口面積Soutの面積比Sin/Soutが30以上であることを特徴とする測定補助具。また、流入口と流出口の方法を変えられるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水浄化装置の曝気槽内の活性汚泥混合液の溶存酸素濃度測定に用いる溶存酸素濃度計の測定補助器具に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に気液混相流状態にある液体中の溶存酸素濃度を測定するニーズのある工学的分野は多岐に亘っているが、代表的な分野として好気性微生物を利用する廃水処理があり、なかでも活性汚泥処理法は最も代表的なプロセスである。活性汚泥法は、好気性微生物を高濃度に含む活性汚泥混合液に廃水を入れ、空気を曝気することにより混合液中に溶解した溶存酸素を利用して微生物が廃水中の汚濁物を分解浄化するものである。
曝気槽に供給する酸素は、曝気ブロアーから曝気槽内に敷設した散気管から曝気槽内の混合液を曝気することにより供給しており、その供給量制御は曝気槽内の溶存酸素濃度(以下、DOと称す)を測定し、過不足を管理することにより行っている。
【0003】
DOを測定する方法は、曝気槽内にDO計を浸漬して測定するのが一般的である。隔膜ポーラログラフ式のDO計は、正確に測定するためには、電極面に当たる流速が、概ね10cm/sec以上必要である。その他方式のDO計においても、活性汚泥混合液は滞留するとDO値が変化するため、また電極面に微生物が付着するのを防止するため、ある程度の流速が必要である。
図5は従来の曝気槽内DO測定装置100を示し、曝気槽101内は、散気管102からの気泡により、同図矢印のように、気液混相流として激しく旋回流動しており、固定設置型のDO計103は通常、旋回流の下降流側に浸漬設置する。また、可搬型のDO計の場合でも電極を、旋回流の下降流側の投げ込み測定する。
【0004】
旋回流の上昇流側に設置すると、DO計103の電極面104に流動による動圧がかかるとともに、直接気泡があたり、測定値が中心値に対し大きくバラツキ変動し、正確な測定ができない。このため、同図のように、DO計103を下降流に平行または若干傾けて、気泡が直接あたらないように、電極面104を下向きに設置する。曝気槽内の流動は激しく乱れているので、下向きに設置しても電極面104に流速は確保され、測定は可能である。
【0005】
しかしながら、下向きに設置したDO計の電極面でも、直接電極面にあたる気泡は皆無ではなく、また、電極面での流速は、十分強いものではないので、細かい気泡が付着滞留する。また、特に活性汚泥のように高濃度の微生物や汚濁物を含む液体に浸漬した状態では、電極面に汚れが付着する。このため、測定値は平均値に対しかなりの大きさでバラツキ、また汚れなどで長時間安定した測定ができなくなる。
【0006】
図6は、従来のDO測定装置によるDO計の測定値(DO値)が、測定時刻(横軸)に対してどのようにバラツクかを示したものである。同図に示すように、DO測定値は、短時間の平均値DOav(ti)に対し、個々のDO測定値はかなりのバラツキがあり、さらに短時間の平均値DOav(ti)自体も真の値と思われる長時間の平均値DOavに対して変動している。
このため、測定値を平均化する演算を組み込んだり、電極面を自動洗浄する高価な装置を取り付けるなどの対策が採られている。
より正確で安定性のある測定値を得るために、DO計の設置方法や流速の確保のための工夫がなされており、例えば、電極のそばに水中プロペラを設置し、DO計に水流をあてることで、流速を確保する技術が開示されている(特許文献1)。
【0007】
近年、大型の活性汚泥では、曝気槽のDOを一定の値に自動制御する装置がかなり導入されており、正確でバラツキのないDOの測定値が求められているが、測定値のバラツキはやむを得ないものとして、平均値をとったり、制御のスパンを広くすることにより対応しているのが現状である。通常、曝気槽におけるDO制御値は1mg/lから3mg/l程度であり、DOの制御値の許容幅が広いため、多少の変動があっても曝気槽の一定制御としての目的は達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−232658
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、低DO運転によるBODと脱窒同時処理では、DO<1.0mg/lの範囲で、0.1mg/l 程度の差の制御を必要とするため、現在行われている浸漬型のDO計の測定値では、バラツキが大きく、平均値をとったにしても、0.1mg/lの精度は得られない。
このため、低DO運転のようなシビアな精度要求に対しては、DO計を浸漬せずに混合液を揚液し、気泡を分離してからDOを測定することが必要になる。そのためには、揚液ポンプや測定容器などの付帯装置が必要になり、設備コストがかかり、またストレーナの目詰まり防止などメンテナンスに手間がかかる。
本発明は、バラツキのないDO測定ができ、かつ、電極面の洗浄効果が高く、安価な測定補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究の結果、上記目的を達成できる以下の発明を完成させた。すなわち、本発明に係るDO計測定補助具は、
(1)好気性微生物を用いた廃水浄化装置において、曝気槽内の活性汚泥混合液(以下、混合液と称す)の溶存酸素濃度(以下、DOと称す)を測定するDO計の電極面近傍に装備するDO計測定補助具であって、流入口から混合液を導入して気泡分離する気泡分離部と、気泡分離部に接続し、気泡分離された混合液を流出口から電極面に噴出させる配管部と、を備えて成り、該流入口の開口面積(Sin)と、該流出口の開口面積(Sout)の面積比(Sin/Sout)が30以上であり、該流入口を、混合液の流動方向に対して直角方向に向けて配置可能、かつ、該流出口を、電極面の下側に近接させて配置可能、に構成したことを特徴とする。
(2)上記発明において、前記配管部は、前記流出口の開口方向を変更自在に構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明の作用は以下の通りである。
曝気槽内の流動により、補助具開口部にはそれぞれ動圧がかかるが、流入口を流動に対し直角に設置し、流出口をDO計の電極面の下側に近接させて設置するため、DO電極で下降流が妨げられて、流出口には動圧が直接あたらない。このため、流入口と流出口間に差圧が生じて、補助具内の混合液は、流入口から流出口へ流れる。この場合、開口部の面積比により流出口からの流速は加速され、混合液はDO計電極面に噴出する。噴出流速は、流入口から流出口までの圧損と流速による圧損の合計が動圧差とバランスする値となる。
【0012】
気泡分離部では、流出口が絞られているため、噴出する流量とSout/Sinにしたがって、気液分離部の混合液の流速が決まり、その流速は下降流より低下する。気液分離部で流速が低下することにより、下降流の流速では同伴される粗大な気泡は浮上分離される。これにより、開口部出口から噴出される混合液には粗大な気泡は含まれなくなり、DO計のDO測定値はバラツキが非常に少なくなり、且つ、平均値自体の変動も小さくなり、安定した値を得ることができる。
【0013】
曝気槽内の循環流動の大きさは、散気管方式や表面曝気方式などの曝気の方式や曝気の強さで異なるが、活性汚泥が沈降せずに均一に流動するだけの大きさは最低限保たれている。したがって、流入口が循環流動の下降流の方向に対し直角で、流出口に直接動圧が当たらないようにすることで、補助具内の流動は確保される。
概念的には、Sin/Soutを大きくすれば、より高流速の噴出しが得られるが、Soutを小さくしすぎると圧損が大きくなり、噴出流量が小さくなるとともに、閉塞の危険性が大きくなる。またSoutを大きくするとSinも大きなものが必要になるので、補助具全体が大きくなってしまう。
開口部出口からの必要噴出流速および流量は、DO計電極面との距離との関係で決まるものであるが、距離が大きければ、噴出し流速および流量は大きなものが必要であり、逆に、ごく近傍まで近づければ小さくてよいが、噴出流が直接DO電極面にあたるため、動圧の変動で測定値が変動するようになる。このため、DO計の電極面から0.5cm〜2.0cm程度離れた位置が適当である。
【0014】
電極面に当たる流速は、DO計の性能によるが、市販の隔膜ポーラログラフ方式のDO計電極では、最低10cm/secは必要とされるため、この流速は確保する必要がある。さらに微生物の汚れの付着を防止するためには、30cm/sec以上の流速が好ましいが、これは汚泥の濃度や粘性などの汚泥の性状によりかなり異なるものである。混合液に活性炭などの異物が混入している場合などは、流速が大きすぎると、電極面の隔膜を傷つけることになる。噴出流速や流量および電極面までの距離は、汚泥の性状にあわせ設定されるものである。
【0015】
補助具の気泡分離部の長さは、粗大気泡を分離するに必要な滞留時間を確保するためのものである。どの程度まで粗大気泡を分離する必要があるかは、ニーズにより異なる。単に曝気槽内のDOがどの程度かを目安としてみる場合は、気泡分離の機能より電極面の洗浄機能を重視すればよく、従来型のDO一定制御のDO制御値が2mg/l程度であれば、さほど細かい気泡まで分離する必要はないが、DOが1mg/l以下のBOD・脱窒同時処理に供する低DO制御に使用する測定値であれば、かなり細かい気泡を分離する必要がある。
どの程度の粒径の気泡がどのくらいの個数、循環流量の下降流に含まれているかは、散気管方式か表面曝気方式などの曝気方式や散気管方式でも膜式か否かなどで全く異なる。DO計の指示値をばらつかせる程度の粒径の気泡を分離するには、気泡分離部の線流速は、1cm/sec程度以下にすることが適当であり、気泡分離部の混合液の滞留時間は15秒程度以上あることが好ましい。
【0016】
DO計電極面の流速を速くする意味では、補助具の流入口を下降流に直角にして、流出口をDO計電極面に対面させれば、下降流の方向をかえることで、下降流の流速までは確保できるので、Sin/Soutは1以上であれば効果がある。
しかしながら、本補助具の目的達成のためには、電極面の微生物汚れの防止と気泡の分離があり、微生物汚れ防止には、電極面に30cm/sec以上の流速で、水量としては10 cc/sec程度以上が好ましい。気泡分離のためには気泡分離部の線流速として1cm/sec程度以下であることが必要なので、Sin/Sout>30であることが必要となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、浸漬したDO計電極で、気液混相流の混合液のDOを、バラツキのない安定した精度のよいDO値が測定できる。
また、曝気槽の形状や曝気の方式は種々あり、曝気槽内の流動状態は一定ではない。DO計の取付方法も、現場のニーズにあわせ千差万別であるが、本発明によれば、流入口と流出口をそれぞれ独立した方向にセットできるので、現場の状況に対応可能である。
さらに、混合液が高速でDO計の電極面にあたるため、電極面が常に洗浄され、電極面の洗浄のメンテナンスの間隔が延びたり、高価な自動洗浄装置が不要になる。これらのことは、低DO運転によるBOD・脱窒同時処理に必要なDO測定の安定性と精度確保に資する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一の実施形態に係るDO計測定補助具1を示す図である。
【図2】DO計測定補助具1をDO計10に取り付け、曝気槽内に浸漬した状態を示す図である。
【図3】第二の実施形態に係る可搬型のDO測定装置20を示す図である。
【図4】測定補助具1を装備した浸漬DO計で測定したDO値の例を示す図である。
【図5】従来の曝気槽内DO測定装置100を示す図である。
【図6】従来DO測定装置によるDO値測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るDO計測定補助具の実施形態について、図1乃至4を参照してさらに詳細に説明する。重複説明を回避するため、各図において同一構成には同一符号を用いて示している。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0020】
(第一の実施形態)
図1、2を参照して、本実施形態に係るDO計測定補助具1は、上端側に流入口3を有する円筒形状の気泡分離部2と、気泡分離部の下端部に接続されるレジューサー部4と、レジューサー部4に接続され、末端側に流出口6を備えたフレキシブルパイプ5と、を備えて構成されている。フレキシブルパイプ5は、流出口6の向きを自在に変更できるように構成されている。流入口3と流出口6の断面積比(Sin/Sout)は、Sin/Sout>30となるように設定されている。
固定設置型DO計7は、本体7aと、本体の先端部に設けられた電極7bと、測定値を表示するための変換器7cと、電極7bと変換器7cを結ぶコード7cと、を主要構成として備えている。DO計7は支柱8に固定され、一体として曝気槽10内に浸漬される。
補助具1は、支持具9によりDO計7と一体として支柱8に固定されており、混合液の流動によりDO計7に対して相対位置が変らないように構成されている。さらに、流出口6と電極面7bとの位置関係は、流出口6からの混合液の噴出し方向が電極面7bに対してほぼ直角、かつ、少し離れた位置(0.5cm〜2.0cm)となるように設定されている。
【0021】
次に、固定設置型DO計7及びDO計測定補助具1の曝気槽10内への設置について説明する。
DO計7は、補助具1の流入口3が流動方向に対してほぼ直角となるように、曝気槽10内に浸漬される。
曝気槽10内は、散気管11からの気泡12により、同図矢印のように気液混相流として激しく旋回流動しており、DO計7は旋回流の下降流側に浸漬設置される。DO計7は、槽内混合液の流動の下降流になっている位置に、電極面が下降流に直接あたらないように、概ね下向きに設置される。上述のように、補助具1の流出口6がDO計7の電極7bと近接して配置されるため、電極7bが下降流を妨げて流出口に気泡を含む下降流が直接あたることがない。
このようにして、固定設置型DO計7による正確な計測が可能となる。
【0022】
(第二の実施形態)
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態は、上述のDO計測定補助具1を可搬型DO計に適用する際に好適な治具に関する。
図3を参照して、本実施形態に係るDO測定装置20は、DO計21と、DO計測定補助具1と、DO計21及びDO計測定補助具1を固定する治具21と、を主要構成として備えている。DO計21は、電極21a、表示部21c、これらを結ぶコード21bにより構成されている。
治具22は本体22aの一端側に、電極21aを収納するホルダー22bと、ホルダー22bを本体22aに固定する支持具22cと、DO計測定補助具1を本体22に固定する支持具22dと、本体22の他端側に手でもって治具を曝気槽内に浸漬するためのハンドル22eと、により構成されている。
支持具22bは、DO測定装置20を曝気槽に浸漬した際に、測定補助具1の流入口3が下降流に直角になるように、また流出口6がDO電極面21aに対面し、かつ、適正な距離を保つように固定される。
以上の構成により、DO測定装置20を曝気槽に浸漬することにより、DO値の正確な測定が可能となる。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明によるDO計測定補助具を用いて曝気槽中のDO値を測定した結果について説明する。
補助具の流入口の面積Sinは直径5cmの円形で、面積Sinは約19cm2である。流出口は直径0.5cmのノズルで、面積Soutは約0.19cm2である。Sin/Sout≒100である。気泡分離部8は、長さ15cmの円筒状のパイプで、断面積は流入口と同じSinである。気泡分離部の終わりからレジューサーで口径を絞り、方向を自由に曲げられるフレキシブルパイプを経て流出口に至る構造である。
幅6m、長さ6m、有効水深5mの曝気槽の片側に水深4.5m位置に170mmのディスクタイプ散気管を配置して、300m3/hrの空気曝気を行い、反対側の下降流になっている場所に本発明の補助具を装着したDO計を浸漬して、DO値の変動推移を測定した。
図4にDO計測定結果を示す。上述の図6(補助具を用いない場合の測定結果)と比較してバラツキが非常に少なくなり、且つ平均値自体の変動も小さくなり、安定した値が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、活性汚泥などの好気性微生物を用いる排水処理のDOを測定する場合のみならず、気泡を含む液体のDOを、DO計の電極を対象液中に浸漬して測定する場合に適用できる。
また、DO計は隔膜ポーラログラフ方式に限らず、蛍光式溶存酸素計など測定に流速が必要ないとされる方式のDO計でも、流速が弱いと、被測定廃液に濃度分布が生じる場合や、汚れが付着するような廃液を測定する場合は、本補助具が有効である。
【符号の説明】
【0025】
1・・・・DO計測定補助具
2・・・・気泡分離部
3・・・・流入口
4・・・・レジューサー部
5・・・・フレキシブルパイプ
6・・・・流出口
7・・・・DO計
7b・・・電極面
8・・・・気泡分離部
20・・・DO測定装置
22・・・治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性微生物を用いた廃水浄化装置において、曝気槽内の活性汚泥混合液(以下、混合液と称す)の溶存酸素濃度(以下、DOと称す)を測定するDO計の電極面近傍に配置するDO計測定補助具であって、
流入口から混合液を導入して気泡分離する気泡分離部と、
気泡分離部に接続し、気泡分離された混合液を流出口から電極面に噴出させる配管部と、を備えて成り、
該流入口の開口面積(Sin)と、該流出口の開口面積(Sout)の面積比(Sin/Sout)が30以上であり、
該流入口を、混合液の流動方向に対して直角方向に向けて配置可能、かつ、
該流出口を、電極面の下側に近接させて配置可能、
に構成したことを特徴とするDO計測定補助具。
【請求項2】
前記配管部は、前記流出口の開口方向を変更自在に構成したことを特徴とする請求項1に記載のDO計測定補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−64560(P2011−64560A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215138(P2009−215138)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(591067185)株式会社 小川環境研究所 (10)
【Fターム(参考)】