説明

DPP−IV阻害剤の固体酒石酸塩およびクエン酸塩

本発明は、周囲条件下で物理的および化学的に安定で、実質的に非潮解性の固体である、ピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物のDPP−IV阻害性のクエン酸塩または酒石酸塩に関する。式(I)の化合物のクエン酸塩および酒石酸塩は、実質的に非潮解性の固体であり、周囲条件下で少なくとも12カ月間、変質を伴わずに保管できる。この塩形態を調製する方法、この塩形態を使用する方法、この塩形態を含む医薬組成物、および、この塩形態を含む薬学的組み合わせも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する優先権の主張)
本願は、2006年に8月30日に出願された米国仮特許出願第60/841,097号の優先権を主張し、この仮特許出願の全体を本明細書中で参考として援用する。
【0002】
(発明の分野)
本発明の分野は、ジペプチジルペプチダーゼIVの特定の選択的阻害剤の新規の固形塩形態である。本発明は、DPP−IVの強力で選択的な阻害剤であるピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物の酒石酸塩およびクエン酸塩に関する。少なくとも12カ月の期間にわたり化学的および物理的に安定なこれら新規の塩は、実質的に非潮解性の固体であり、医薬としての製剤に適している。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)は、DPP−VII、DPP−VIII、DPP−IXおよび線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を含むアミノジペプチダーゼの群に属するセリンプロテアーゼである。タンパク質からのN末端ジペプチドの放出を触媒するDPP−IVは、糖代謝の制御に関与していると考えられる。DPP−IVの合成阻害剤をin vivo投与すると、インスリン分泌促進ホルモンであるグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)および胃抑制ペプチド(GIP)のN末端分解が妨げられ、その結果、インスリン分泌の増加および耐糖能の改善がもたらされる。置換されたアミノアセチルピロリジンボロン酸は、糖尿病などの血糖制御障害および関連の状態を有する患者の治療用の阻害剤として開発されてきた。その結果、使用しやすい固体の製薬材料としての前記阻害剤を製剤することが求められている。多くの医薬化合物の遊離塩基および塩は、そのような典型的な医薬製剤である。しかし、アミノアセチルピロリジンボロン酸の遊離塩基形態の中には、安定した固体ではなく、大気中水分を容易に吸収するものがある。また、このような遊離塩基の塩の中にも、同様に安定な固体ではないものがある。
【0004】
「Heterocyclic Boronic Acid Compounds」の名称で2004年11月15日に出願され、2007年3月15日付で特許文献1として公開された、米国特許出願第10/514,575号には、ジペプチジルペプチダーゼIVを阻害する、大規模な一群のピロリジンボロン酸化合物が開示されている。また、「Pyrrolidine Compounds and Methods for Selective Inhibition of Dipeptidyl Peptidase−IV」の名称で2006年5月1日に出願され、2006年11月23日付で特許文献2として公開された、米国仮特許出願第11/381,085号には、DPP−IVを選択的に阻害する、より特異的な一群のピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物が開示されている。その発明の一実施形態は、医薬としての特段の有望性を示している。しかしながら、遊離塩基として生物学的に有効ではあるものの、この遊離塩基化合物は、保管時に固体として物理的または化学的に安定ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0060547号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0264400号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、DPP−IVの選択的な阻害が医学的に指示される病態の治療用の医薬製剤において使用するための、この化合物の化学的に安定な塩形態が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、DPP−IV阻害性のピロリジニルアミノアセチルピロリジン−2−ボロン酸の物理的および化学的に安定な有機塩形態、すなわち、本明細書で定義する式(I)の化合物に関する。式(I)の化合物のクエン酸塩および酒石酸塩は、実質的に非潮解性の固体であり、周囲条件下で少なくとも12カ月間、変質を伴わずに保管できる。こうした化合物の固体形態は、DPP−IV阻害剤の加工、製剤、保管および投与に適しており、経口摂取する糖尿病治療用の医薬として有用である可能性がある。この塩形態を調製する方法、この塩形態を使用する方法、この塩形態を含む医薬組成物、および、この塩形態を含む薬学的組み合わせも提供される。
【0008】
本発明による一実施形態は、式(I)
【0009】
【化1】

のピロリジン化合物のクエン酸塩もしくは酒石酸塩、その環状異性体、またはその任意の水和物もしくは溶媒和物[式中、RおよびRは、独立に、−OH、−Oであるか(このときMは、陽イオン、ボロン酸保護基を有するヒドロキシル、または、生理的pHの水溶液中もしくは生体液中で加水分解されてヒドロキシル基になることが可能な基である)、または、RおよびRはそれらが結合するホウ素原子と一緒になって、加水分解されてボロン酸基になることが可能な環状基を形成し、不斉炭素CおよびC部分の波線は、全ての立体異性体および全ての立体異性混合物が包含されるように、各不斉炭素についてR立体配置、S立体配置、または両方の立体配置の混合を独立に示しており、また、タートレート部分は任意の立体異性配置またはその混合を有する]を提供する。
【0010】
本発明の一実施形態では、タートレート部分は、L−タートレート、D−タートレート、メソタートレート、またはその任意の組合せであってよい。別の実施形態では、タートレート部分はL−タートレートである。
【0011】
一実施形態では、ホウ素原子がピロリジンの2位に結合したボロン酸基、要するにボロプロリン部分中に含有されるように、RおよびRの基は両方ともヒドロキシル基であってよい。別の実施形態では、式(I)のRおよびRは両方ともヒドロキシル基であってよく、酒石酸塩はL−酒石酸塩であってよい。
【0012】
一実施形態では、特許請求対象の塩は、その任意の水和物または溶媒和物であってよい。
【0013】
別の実施形態は、式(V)
【0014】
【化2】

の環状異性体(式中、CおよびCは、全ての立体異性体および全ての立体異性混合物が包含されるように、それぞれ独立にR立体配置、S立体配置、または両方の立体配置の混合を有する)を対象としている。
【0015】
別の実施形態は、式(V)の化合物のL−酒石酸塩を対象としている。さらに別の実施形態は、RおよびRが両方ともヒドロキシル基である、式(V)の化合物のL−酒石酸塩を対象としている。
【0016】
本発明の別の実施形態は、立体異性純度が少なくとも約55%、または少なくとも約90%、または少なくとも約98%である、式(IA)
【0017】
【化3】

の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩を対象としている。一実施形態は、RおよびRが両方ともヒドロキシル基である塩を提供する。別の実施形態は、式(IA)の化合物のL−酒石酸塩を提供する。別の実施形態は、RおよびRが両方ともヒドロキシル基である式(IA)の化合物のL−酒石酸塩を提供する。
【0018】
本発明の別の実施形態は、立体異性純度が少なくとも約55%、または少なくとも約90%、または少なくとも約98%である、(IB)
【0019】
【化4】

の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩を対象としている。一実施形態は、RおよびRが両方ともヒドロキシル基である塩を提供する。別の実施形態は、式(IB)の化合物のL−酒石酸塩を提供する。別の実施形態は、RおよびRが両方ともヒドロキシル基である式(IB)の化合物のL−酒石酸塩を提供する。
【0020】
本発明の別の実施形態は、式(I)、(IA)、(IB)または(V)のいずれか1種の化合物のクエン酸塩および酒石酸塩の実質的に非潮解性の固体形態、または、その環状形態、水和物もしくは溶媒和物を提供する。
【0021】
さらに本発明の一実施形態は、本発明のクエン酸塩または酒石酸塩と薬学上許容される担体とを含有する医薬組成物も対象としている。この医薬組成物は、非経口注射、経口、経口腔、経直腸などを非限定的に含む任意の投与経路により投薬されるように処方してよい。
【0022】
本発明の一実施形態は、DPP−IVの阻害を介して調整または正常化できる病態の治療の方法を対象としている。この方法は、DPP−IVの阻害を介して調整または正常化できる病態に作用するように、有効量の本発明のクエン酸塩または酒石酸塩をヒトなどの哺乳動物に投与することを含む。
【0023】
本発明の一実施形態は、本発明のクエン酸塩または酒石酸塩と、インスリン分泌を増加させる、インスリン感受性を高める、胃腸経路からの糖の取込みを減らす、血糖制御に作用する内因性のペプチドもしくはタンパク質の効果を高める、血糖制御に作用する内因性のペプチドもしくはタンパク質の補充をもたらす、または前記作用の任意の組合せをもたらす1種もしくは複数種の他の医薬との薬学的組み合わせを対象としている。本発明により医薬組成物として薬学的組み合わせを処方してもよい。
【0024】
本発明は、本発明のクエン酸塩または酒石酸塩を調製するプロセス、本発明の医薬組成物を調製する方法、および、DPP−IVの阻害を介して調整または正常化できる病態を治療するための医薬の調製の方法における本発明のクエン酸塩または酒石酸塩の使用も対象としている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−酒石酸塩の形成を示す模式図である。
【図2】相対湿度の上昇に伴い(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−酒石酸塩が湿気を吸収する様子を示すグラフである。
【図3】L−タートレートの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析から得られたクロマトグラムである。
【図4】ピロリジン化合物のHPLC分析から得られたクロマトグラムである。
【図5】ピロリジン化合物のL−酒石酸塩のHPLC分析から得られたクロマトグラムである。
【図6】ピロリジン化合物のL−酒石酸塩に相当するピークの拡大図である。
【図7】噴霧乾燥した生成物のHPLC分析から得られたクロマトグラムであり、本発明のL−酒石酸塩が噴霧乾燥により生成物の分解を伴わずに単離されたことが示されている。
【図8】45%、58%、63%および76%の相対湿度で5日間にわたり本発明の酒石酸塩が湿気を吸収する典型的な様子を示すグラフである。
【図9】相対湿度45%のチャンバー中で2カ月間インキュベーションする前の、本発明のL−酒石酸塩のHPLC分析から得られたクロマトグラムである。
【図10】相対湿度45%のチャンバー中で2カ月間インキュベーションした後の、本発明のL−酒石酸塩のHPLC分析から得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
定義
別に定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって普通に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料は本発明を実践するために使用できるが、適当な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及する全ての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。本明細書には、特定の用語について選択した定義を記載しているが、食い違いがある場合には、ここに記載の定義が他の定義より優先される。また、材料、方法および例は、例示的なものであるにすぎず、限定的であることを意図していない。
【0027】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から自明であろう。
【0028】
不斉炭素との関連での「絶対配置」という用語は、不斉炭素結合の四面体形状を考え、最も大きい原子番号を有する基が第1の優先順位を有するように、不斉炭素に結合している基のそれぞれに第1から第4の優先順位を割り当てることにより決定される。この四面体を第4の基から離れた側から見た場合、第1〜第3の基が時計回りの配列にあるときはR絶対配置が割り当てられ、第1〜第3の基が反時計回りの配列にあるときはS絶対配置が割り当てられる。
【0029】
本明細書で使用する「および/または」、「ならびに/あるいは」という用語は、名前を挙げた群の1つの構成物またはその任意の組合せを意味する。別に指示がない限り、「もしくは」、「または」、「あるいは」という用語は、包括的な「もしくは」、「または」、「あるいは」である。
【0030】
「周囲条件」という用語は、20℃、25℃、30℃、35℃など、約15℃から約45℃の範囲の温度、ならびに、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%および60%など、約20%から約65%の範囲の相対湿度を含む。
【0031】
「不斉炭素」という用語は、4つの異なる基に共有結合した炭素原子を意味する。
【0032】
「β細胞変性」という用語は、β細胞機能の喪失、β細胞機能不全、および、β細胞の壊死またはアポトーシスなどのβ細胞死を意味することを意図している。
【0033】
「糖尿病および関連の状態」という用語は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、MODY、耐糖能障害、空腹時血糖値の異常、高血糖、糖代謝障害、インスリン抵抗性、肥満、糖尿病合併症などを指す。
【0034】
「糖尿病合併症」という用語は、網膜症、神経障害、腎症、心筋症、皮膚症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患および他の公知の糖尿病合併症など、糖尿病に伴う状態、疾患および病気を指す。
【0035】
「ジアステレオマー」という用語は、少なくとも2個の不斉炭素を有する2種以上の立体異性体群(これらの立体異性体が互いの鏡像でないような)の1つの構成要素を意味する。
【0036】
「DPP−VII、DPP−VIII、DPP−IXおよびFAP」という用語は、それぞれアミノジペプチジルペプチダーゼVII、VIII、IXおよび線維芽細胞活性化タンパク質を意味する。DPP酵素は、ジペプチド部分を、そのタンパク質またはオリゴペプチドの基質のN末端で切断する。中でも、「DPP−IV」という用語は、ジペプチジルペプチダーゼIV(EC3.4.14.5、DPP−IV)、別名「CD−26」を表す。DPP−IVは、最後から2番目の位置にプロリン残基またはアラニン残基を含有するポリペプチド鎖のN末端からジペプチドを優先的に切断する。
【0037】
「エナンチオマー」という用語は、同じ分子構造および少なくとも1個の不斉炭素を有する一対の立体異性体(その対の立体異性体が互いの鏡像であるような)の一方の構成要素を意味する。エナンチオマーが2個以上の不斉炭素を含有する場合、エナンチオマー対は各不斉炭素において逆の不斉性を有することになる。
【0038】
「遊離塩基」という用語は、アミン基がプロトン化されていない、式IまたはVのピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物を指す。
【0039】
本明細書で使用する「加水分解されてヒドロキシルになることができる基」という用語は、脂肪族または芳香族のアルコールまたはジオールとボロン酸との組合せから形成されるエステル基を指す。
【0040】
「阻害剤」という用語(ならびに、それに対応する動詞および動名詞)は、酵素と可逆的、非可逆的または一時的に相互作用して、酵素の正常な基質に対するその酵素活性を低下、改変、減速または遮断すると考えられる化合物(その塩を含む)を意味する。そのような相互作用は、酵素部位の内部もしくはその部位で、または当該酵素に関連するアロステリック部位で生じると考えられる。
【0041】
本明細書で使用する「N保護基」または「N保護された」という用語は、合成手順中の望ましくない反応からアミノ酸もしくはペプチドのN末端を保護し、またはアミノ基を保護するように意図されたような基を指す。一般に使用されるN保護基は、T.W.Greene、P.G.Wuts、「Protective Groups In Organic Synthesis」、第3版(John Wiley & Sons、New York(1999年))中に開示されており、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。N保護基としては、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ピバロイル、t−ブチルアセチル、2−クロロアセチル、2−ブロモアセチル、トリフルオロアセチル、トリクロロアセチル、フタリル、o−ニトロフェノキシアセチル、α−クロロブチリル、ベンゾイル、4−クロロベンゾイル、4−ブロモベンゾイル、4−ニトロベンゾイルなどのアシル基、例えばベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニルなどのスルホニル基、例えばベンジルオキシカルボニル、p−クロロベンジルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、p−ニトロベンジルオキシカルボニル、2−ニトロベンジルオキシカルボニル、p−ブロモベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、2,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、2−ニトロ−4,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、3,4,5−トリメトキシベンジルオキシカルボニル、1−(p−ビフェニリル)−1−メチルエトキシカルボニル、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、ベンズヒドリルオキシカルボニル、t−ブチルオキシカルボニル、ジイソプロピルメトキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、エトキシカルボニル、メトキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、2,2,2,−トリクロロエトキシカルボニル、フェノキシカルボニル、4−ニトロフェノキシカルボニル、フルオレニル−9−メトキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、フェニルチオカルボニルなどのカルバメート形成基、例えばベンジル、トリフェニルメチル、ベンジルオキシメチルなどのアルキル基、および、例えばトリメチルシリルなどのシリル基が挙げられる。好ましいN保護基は、ホルミル、アセチル、ベンゾイル、ピバロイル、t−ブチルアセチル、フェニルスルホニル、ベンジル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)およびベンジルオキシカルボニル(Cbz)である。
【0042】
「光学活性の」という用語は、有機化合物の溶液が直線偏光を回転させるような、少なくとも1個の不斉炭素を含有する有機化合物を意味する。
【0043】
「光学活性混合物」という用語は、直線偏光を回転させる、溶液中の光学活性化合物の混合物を意味する。光学活性混合物は、ジアステレオマーの混合物またはエナンチオマーの不均等な混合物であってよい。
【0044】
「プロドラッグ」という用語は、そのプロドラッグを生物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに投与すると活性成分またはその活性代謝物に変換する、薬学上許容される化合物を意味する。この変換は、酵素作用、化学的加水分解、酸化、還元、または、化学的もしくは生化学的な反応の他の任意のin vivoでの生理的過程により生じ得る。
【0045】
「ラセミ混合物」という用語は、エナンチオマー同士が互いの直線偏光の回転を打ち消し合うような、均等な比率のエナンチオマー対を意味する。
【0046】
本明細書で使用する場合、「本発明の塩」という語句は、式IまたはVのピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物のクエン酸塩ならびに酒石酸塩を指す。本明細書で使用する場合、単数形の用語は複数形を包含し、同様に、複数形の用語は単数形を包含する。したがって、「本発明の塩(a salt of the invention)」という語句は、単一の立体異性体種、多様な立体異性体種、およびその混合物を指す。本発明の塩の非限定的な例としては、(a)(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−、D−またはメソ酒石酸塩およびその混合物、ならびに(b)(2R)−1−{7−[(9S)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−、D−またはメソ酒石酸塩およびその混合物が挙げられる。さらに本発明の塩としては、(a)(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のクエン酸塩、(b)(2R)−1−{7−[(9S)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のクエン酸塩、および(c)その任意の組合せのクエン酸塩も挙げられる。
【0047】
本明細書で使用される「吸湿性の」という用語は、自身に接触している湿った空気または気体から水蒸気を自然に吸収する固体物質の性質を指す。固体物質は、それが吸湿性であり、十分な水蒸気を吸収した際に自らが吸収した水の中で溶解するとき、「潮解する」か、または「潮解性」である。
【0048】
「立体異性体」という用語は、少なくとも1個の不斉炭素を有する単一の有機分子の絶対配置の1つを意味する。立体異性体の定義内に含まれるのは、エナンチオマーおよびジアステレオマーである。1種の立体異性体は、有機分子の不斉炭素のそれぞれのまわりに1つの絶対配置を有する。1個の不斉炭素を有する有機分子には、2種の立体異性体がある。2個の不斉炭素を有する有機分子には、4種の立体異性体がある。3個の不斉炭素を有する有機分子には、8種の立体異性体がある。1種の立体異性体を含有する溶液を通して直線偏光を入射すると、偏光面の回転が生じる。
【0049】
「立体異性混合物」という用語は2種以上の立体異性体の混合物を意味し、エナンチオマー、ジアステレオマーおよびその組合せを包含する。この立体異性混合物は、光学活性であってもなくてもよい。
【0050】
所与の比率(%)での「立体異性純度」という用語は、立体異性体の混合物中で、指定された立体異性体が、その所与の比率(%)で優勢であることを意味する。
【0051】
別に具体的に明言しない限り、本明細書に記載の、化学基、官能基、部分および化学反応についての用語の定義は、「Basic Principles of Organic Chemistry」、Roberts and Caserio、W.A.Benjamin & Co.New York、N.Y.、1965年、「Advanced Organic Chemistry」、第4版、Jerry March、Wiley Interscience、New York、N.Y.、1992年、T.W.Greene、P.G.Wuts、「Protective Groups In Organic Synthesis」、第3版(John Wiley & Sons、New York(1999年)、およびHawley’s Condensed Chemical Dictionary、第11版、Sax and Lewis、Van Nostrand、Reinhold、New York、N.Y.、1987年などの有機化学の教科書および専門書に記載された定義に従っている。さらに、立体化学用語の定義は、「Stereochemistry of Carbon Compounds」、Ernest Eliel、McGraw−Hill publisher、New York、N.Y.、1962年に基づいている。このような教科書の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0052】
詳細な説明
本明細書で「本発明の塩」という、式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩(その環状異性体、水和物および溶媒和物を含む)は、それらを有用に、中でも糖尿病の治療用の医薬製剤の調製において有用にする、有益な性質を有する。このような性質としては、例えば、DPP−IVをin vivoで阻害するための生物活性、調製時の高収率、水または体液中での良好な溶解性および溶解速度、ならびに、本発明の塩の容易な加工、製剤、保管および投与を可能にする、周囲条件下での長期間の物理的および化学的な安定性が挙げられる。
【0053】
本発明は、ピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物のクエン酸塩または酒石酸塩、例えば、1−{7−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のクエン酸塩または酒石酸塩、すなわち選択的なジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤である式(I)の化合物が、加工、製剤、保管および投与にとって好ましい、固体としての良好な物理的安定性を有するという予想外の発見を含んでいる。式(IA)および(IB)の化合物など式(I)の化合物の遊離塩基ならびにさまざまな他の塩形態は、周囲条件下で物理的安定性に乏しいことが見出された。この遊離塩基、および、さまざまな有機酸を有する遊離塩基の塩は、油または潮解性の高い固体のいずれかであることが見出された。
【0054】
以下の表1を参照すれば、式(I)の化合物(式中、RおよびRは両方ともヒドロキシル基である)の遊離塩基形態および他の多様な塩は、いずれも容易に固体を形成しなかったこと、または、固体が形成された場合でも、その固体は周囲条件下で潮解し、したがって固体剤形の開発には使用できなかったことは明らかである。本発明のクエン酸塩および酒石酸塩は、容易に固体を形成した。さらに、この固体は潮解せず、周囲条件下で加工可能な状態を維持した。室温で湿度70%未満、例えば相対湿度63%では、本発明の塩は、最初はいくらか水を吸収することがあるが水吸収は横ばいであり、平衡状態では塩はその固体粉末の形態を維持することから、固体剤形の開発が可能になる。要するに、本発明のクエン酸塩および酒石酸塩は、大気中水分をある程度吸収するものの物理的および化学的に安定な固体の状態を維持するという点において、望ましい物理的安定性を有する。この理由から、それらの塩は、錠剤およびカプセルならびに他の固体医薬製剤の調製にとりわけよく適合する。さらに、こうした本発明の塩は、粘着性でないという点において、良好な加工性も有する。結果として、それらの塩は、正確で再現可能な量で測定および分取できる。したがって、本発明の塩は、多様な医薬製剤の調製を容易にする性質を有している。また、表5に示すと共に以下で論考するように、本発明の塩は、大気中水分が存在する周囲条件下で長期間、少なくとも12カ月間、顕著な変質を一切生じることなく保管できる。
【0055】
本発明の一実施形態は、式(I)のピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸化合物のクエン酸塩または酒石酸塩、すなわち本発明の塩を提供する。本発明の塩は、酸および遊離塩基の任意の立体異性体の組合せであってよい。本明細書で使用する場合、「酸」という用語はシトレート(citrate)またはタートレート(tartrate)に言及し、一方「遊離塩基」または「ピロリジン化合物」という用語はピロリジニルアミノアセチルピロリジンボロン酸に言及する。シトレートはキラルではないがタートレートはキラルであり、また、タートレートは、例えば、L−タートレート、D−タートレート、メソタートレートだけでなく、ラセミ混合物、ジアステレオ異性体混合物、エナンチオマー対およびジアステレオマーの混合物、または少なくとも2種の立体異性体の光学活性混合物などの立体混合物も含む。ピロリジン化合物は、それぞれ式(I)または(V)の構造を有する直鎖状または環状の形態であってよい。好ましいピロリジン化合物は、(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸または(2R)−1−{7−[(9S)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸であってよい。したがって、好ましい本発明の塩としては、(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸または(2R)−1−{7−[(9S)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のクエン酸塩または酒石酸塩が挙げられる。より具体的には、好ましい本発明の塩は、(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−酒石酸塩、つまり、構造(IA)
【0056】
【化5】

(式中、RおよびRは両方ともヒドロキシル基である)のL−酒石酸塩である。
【0057】
本発明の塩は、固体の素早い単離と、それに次ぐ固体剤形への製剤を可能にする、向上した物性を呈する。逆に、対応する遊離塩基は、周囲条件下で潮解することが見出された。評価した塩の多く(表1を参照)は、いずれも容易に固体を形成せず、または、固体が形成された場合でも、周囲条件下では潮解するか、またはゴム状で扱いにくい材料になることも見出された。
【0058】
驚くべきことに、2種の有機酸塩、すなわちこの遊離塩基の酒石酸塩およびクエン酸塩は、他の塩と同様の物理的および化学的な不安定性を示さないことが見出された。本発明の塩、例えば、1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸の好ましいモノ(2R,3R)−酒石酸(L−酒石酸)の塩は、容易に固体を形成し、また、周囲条件下で潮解しないことが見出された。本発明の塩は、温度および湿度が高い条件下での物理的安定性など、向上した物理的安定性を呈した。
【0059】
以下の表5を参照すれば、(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−酒石酸塩の試料は、相対湿度(RH)が適度に高い中で長期間保管でき、例えばRH75%で6カ月間保管してもRH60%で12カ月間保管しても(いずれも25℃で)、検出可能な変質は生じず、統計誤差内であることが観察されたことがわかる。
【0060】
本発明の酒石酸塩またはクエン酸塩を水和させた形態は、剤形の調製において使用できる。このような形態を調製するためには、本発明の塩を周囲条件下で平衡化させて水和物を得る。この水和物中で吸収される水の量は測定できるので、以後の任意の調製においてその水の重量が適切に考慮され、これにより塩の所望の投与量を正確に測定することが可能になる。製造工程を通して正確で再現可能な量の活性化合物を確実に計量するため、医薬剤形を調製する際の大気条件を適切に制御する。剤形を一旦調製すれば、個々の固体剤形の実際の総重量が以後の水の吸収または脱着により変化することがあったとしても、湿度の変化に曝された場合に塩の所望の用量の送達に影響が及ぶことはない。例えば、以下の実施例5および表3は、吸水量の関数としての、正確な製剤調製の取扱い方を示している。
【0061】
本発明は、式(I)のピロリジン化合物の全ての立体異性体(エナンチオマー、ジアステレオマーの他にラセミ化合物および立体異性混合物も含む)のクエン酸塩および酒石酸塩を包含する。この混合物は、光学活性であってもなくてもよい。いくつかの実施形態では、本発明の塩は、少なくとも約55%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは98%の光学純度を有してよい。他の実施形態では、この塩は、タートレートおよび/またはピロリジン化合物の光学性に富むエナンチオマーである。さらに他の実施形態では、この塩は、エナンチオマーの不均等な混合物、ならびに/あるいは、タートレートおよび/またはピロリジン化合物のジアステレオマーの混合物を非限定的に含む、立体異性体の混合物である。
【0062】
治療の方法
本発明の一実施形態は、上述のような塩の形態のいずれかの本発明の塩を酵素、ジペプチジルペプチダーゼIVに接触させることを含む、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害の方法を提供する。この接触は、診断的試験もしくはスクリーニング試験などによりin vitroで、または以下に論考するような適切な投与経路によりin vivoで、実現し得る。
【0063】
本発明によるin vivo法は、DPP−IVの選択的阻害剤としての役割で本発明の塩を関与させる。例えば、本発明は、DPP−IVの阻害を介して調整または正常化できる病態を患っている哺乳動物(ヒトなど)の治療の方法を提供する。本発明の方法は、病態を治療、制御、改善または防止するために、有効量の本発明の塩を哺乳動物(例えば、ヒト)に投与することにより実現される。治療は、DPP−IVの阻害により達成される。投与は、本発明の塩を含有する医薬組成物の使用により典型的に実現される。DPP−IV阻害剤としてin vivoで使用するために、本発明の塩は、本明細書に記載の任意の様式で処方してよい。
【0064】
本発明の塩を用いて治療できる病態は、DPP−IVの阻害により調整または正常化できるものである。このような病態は、少なくとも部分的には、酵素DPP−IVにより調整(特に血糖制御におけるその生理的役割という点で)されるペプチドの存在の減少もしくは不在の結果、または活性の変化の結果であることが知られている。したがって、このような病態としては、糖尿病などの血糖制御障害および関連の状態により特徴付けられるものが挙げられる。例えば、この病態は、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、MODY、耐糖能障害、空腹時血糖値の異常、高血糖、糖代謝障害、耐糖能障害(IGT)および2型糖尿病へのその進行、高インスリン血症、肥満、β細胞変性(とりわけβ細胞のアポトーシス)、インスリン不要の2型糖尿病から要インスリンの2型糖尿病への進行、哺乳動物対象におけるβ細胞の数および/または大きさの低下、および、網膜症、神経障害、腎症、心筋症、皮膚症、糖尿病関連の感染症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、脳卒中などの糖尿病合併症ならびに同様の病態であってよい。
【0065】
本発明による治療方法の他の実施形態では、インスリン抵抗性は、DPP−IVの阻害により調整または正常化できる病態の要素である。例えば、この病態は、空腹時血糖値の異常、耐糖能障害、多嚢胞性卵巣症候群などであってよい。さらに他の実施形態では、DPP−IVの阻害により調整または正常化できる病態は、膵島新生、β細胞生存またはインスリン生合成の低下を含む。
【0066】
本発明の塩は、哺乳動物、特に上述の多様な病態のそうした治療、防止、排除、緩和または改善を必要とするヒトに投与してよい。そのような哺乳動物としては、家庭のペットおよび家畜などの飼育動物、ならびに野生動物などの非飼育動物が非限定的に挙げられる。
【0067】
患者に投与する塩の量は、患者に対して状態の治療および有益な効果をもたらす、DPP−IVを阻害するのに適切な任意の量であってよい。投与する塩の量は、その有効用量またはその適切な割合であってよい。そのような量は、年齢、体調、大きさ、体重、治療の対象となる状態、状態の重症度、および、平行して行われる治療があればその治療など、個々の患者のパラメーターに依存すると考えられる。適切な投与量を決定する要因は当業者には周知であり、処方する医師の技能を用い、慣例的な実験法で対処してよい。例えば、薬物動態上および薬力学上の性質の決定は、標準的な化学的および生物学的な分析を用いて、また、薬理技術分野で公知の数学モデル法の使用により行ってよい。治療上の有用性および投与計画は、そのような手法の結果から、また、適切な薬物動態的および/または薬力学的なモデルの使用により、外挿してよい。
【0068】
本発明のピロリジン化合物の投与用量は、患者の年齢、体重および状態、ならびに、投与経路、剤形および投与計画および所望の結果により調節してよい。投与量、経路および医薬製剤の最終的な選択は患者の担当医が決定してよく、この過程は同医師の知識および判断により進められることになろう。しかし、患者は、医学的な理由や心理的な理由から、または他にも実質的にあらゆる理由から、用量の低下またはより負担の少ない用量を要求してくる可能性がある。
【0069】
好ましくは、本発明の塩は、哺乳動物の体重1kg当り塩0.1から30mg、より好ましくは哺乳動物の体重当り2から15mg/kgの用量で投与してよい。成人向けの用量範囲は一般に、約0.5から約2,400mg/日、好ましくは約10mgから約1,050mg/日、より好ましくは約50mgから約750mg/日である。この塩は、単回用量で、または1日当り最大4回与えられる複数回用の用量の形で投与してよい。この用量は、遊離塩基のみの重量に基づいている。投与する塩が水和された形態の実際の重量を明らかにするために、酒石酸塩またはクエン酸塩の成分と水和水との重量比の補正がなされることもあろう。場合によっては、高めの投与量から始めて、状態が制御されているときに投与量を減らすことが有用であると考えられる。したがって、初日に約70mgから約2,400mgの初回用量を、次いでそれより後の日に約20から約1,200mgの低めの用量を投与することが有利であると考えられる。他の場合には、低めの用量での療法を開始して、必要に応じ投与量を増やすことが有用である可能性もある。正確な投与量は、投与様式に、また、望ましい療法、投与される形態、治療対象、および治療対象の体重、ならびに担当の医師または獣医の好みおよび経験に依存すると考えられる。投与量は、遊離塩基について記載してあるため、クエン酸塩または酒石酸塩に合わせて調節する。
【0070】
本発明の塩の使用は、医薬の製造およびそうした医薬を薬学的組み合わせおよび/または医薬組成物の形態で用いる治療の方法も含む。
【0071】
薬学的組み合わせおよび治療におけるその使用
本発明の塩は、本発明の薬学的組み合わせを形成するために、第2の医薬と組み合わせてよい。第2の医薬は、DPP−IVの阻害を介して調整または正常化できる病態を治療、制御または防止するための公知の薬剤である。そのような薬学的組み合わせにより治療する病態は、DPP−IVの阻害を介して調整または正常化できるものである。
【0072】
第2の医薬は、抗糖尿病剤として公知の治療上有効な量の医薬も含んでよく、それには、インスリン分泌を増加させる薬剤、インスリン感受性を高める薬剤、胃腸経路からの糖の取込みを減らす薬剤、血糖制御において役割を果たす内因性のペプチドもしくはタンパク質の効果を高める薬剤、または血糖制御において公知の役割を有する内因性のペプチドもしくはタンパク質の補充療法に役立つ薬剤が含まれるが、限定されない。そのような薬剤としては、グリブリド(例えばMicronaseおよびDiabeta)、グリピジド(例えばGlucotrol)、ナテグリニド(例えばStarlix)、レパグリニド(例えばPrandin)、メトホルミン(例えばGlucophage)、ロシグリタゾン(例えばAvandia)、アカルボース(例えばPrecose)、ミグリトール(例えばGlyset)、エキセナチド(例えばByetta)およびインスリン(例えばHumulinおよびNovolin)が挙げられるが、限定されない。それ以外の例示的な薬剤としては、ビグアニド、クロルプロパミド、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)またはLY315902もしくはLY307161などその模倣剤、グリメピリド、メグリチニド、フェンホルミン、ピオグリタゾン、スルホニルウレア、トログリタゾン、Gl−262570、イサグリタゾン、JTT−501、NN−2344、L895645、YM−440、R−119702、AJ9677、KAD1129、APR−HO39242、GW−409544、KRP297、AC2993、Exendin−4およびNN2211が挙げられるが、限定されない。文字および数字により示した前記の化合物の化学構造、慣用名および薬理学的研究は、例えばGOOGLE検索ウェブサイトで検索語として文字/数字による名称を入力することにより、インターネットで容易に入手できる。
【0073】
本発明の塩は、抗糖尿病剤(糖尿病および関連の疾患を治療するために用いられる)として有用な1種または複数種の第2の医薬と組み合わせて使用してよい。第2の医薬は、本発明の塩と同じ投与量で、または別々の経口剤形で経口投与してよい。本発明の塩および第2の医薬は、例えば注射により、別々に、同時に、または混合物として投与してもよい。
【0074】
本発明の薬学的組み合わせは、薬学上許容される担体の医薬組成物として、本発明の塩および1種または複数種の第2の医薬と一緒に処方してよい。
【0075】
本発明の薬学的組み合わせでは、本発明の塩は、第2の医薬に対し約0.01:1から約200:1の重量比で典型的に存在するが、この比率は第2の医薬の個性に依存する。
【0076】
1種または複数種の他の抗糖尿病剤と組み合わせて本発明の塩を使用すると、これら単独の抗糖尿病剤のそれぞれから得られるより大きい抗高血糖効果を生み出すことができる。その抗高血糖効果は、これらの抗糖尿病剤により生み出される、組み合わされた相加的な抗高血糖作用より大きいと考えられることから、1種または複数種の他の抗糖尿病剤と組み合わせて本発明の塩を使用すれば、相乗効果を生み出すこともできる。
【0077】
本発明の薬学的組み合わせの成分として調合される第2の医薬の有効量は、第2の医薬の製造者の推奨および担当医の判断に従うことになり、また、「PHYSICIAN’S DESK REFERENCE(PDR)」に示されているような量および投薬のためのプロトコールおよび調整要素により導かれることになろう。
【0078】
薬学的組み合わせ内の本発明の塩の投与用量は、患者の年齢、体重および状態、ならびに、投与経路、剤形および投与計画および所望の結果により慎重に調節されることになろう。投与量、経路および医薬製剤の最終的な選択は患者の担当医により決定されるだろうが、この過程は同医師の知識および判断により進められることになろう。
【0079】
上述の組成物は、上述のような剤形で単回用量または1日1回から4回の分割用量で投与してよい。患者への投与は、低用量の組合せから始めて徐々に高用量の組合せに増やすことが賢明と考えられる。
【0080】
本発明の医薬組成物
本発明は、医薬担体と合わせて本発明の塩を含有する医薬組成物を含み、これには上述のような別の医薬を含有していてもいなくてもよい。この医薬組成物は、従来の固体もしくは液体のビヒクルまたは希釈剤など、1種または複数種の担体、および、所望の投与の様式に適した種類の医薬添加剤と共に処方してよい。医薬組成物中の本発明の塩は、哺乳動物種、特にヒトに、経口、経口腔、経直腸、経肺または同様の経路により、例えば、錠剤、カプセル、顆粒または粉末の形態で投与してよい。注射用製剤の形態で非経口経路により投与してもよい。経皮送達用の薬剤放出パッチまたは適切な送達器具を用いた電気的輸送のいずれかにより、経皮経路により投与してもよい。
【0081】
本発明の塩を含有する医薬組成物は、例えば、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」、第19版、1995年に記載のような従来の手法により調製してよい。組成物の外観は、例えば、カプセル、錠剤、エアロゾル、溶液、懸濁液などの従来の形態で、または局所施用に適した形態であってよい。
【0082】
典型的な医薬組成物は、薬学上許容される担体(賦形剤または希釈剤であってよい)を用いて製剤された本発明の塩を含み、または、担体(液体、カプセル、サシェ、錠剤、紙または他の容器の形態であってよい)の中に封入されていてもよい。組成物の作製に際しては、医薬組成物の調製のための従来の手法を用いてよい。
【0083】
例えば、本発明の塩は、担体と混合され、または担体により希釈され、または担体内に封入されていてよく、この担体は、アンプル、カプセル、錠剤、サシェ、紙、または他の容器の形態をしていてよい。担体が希釈剤になるときは、担体は、活性化合物用のビヒクル、賦形剤または媒体として作用する固体、半固体または液体の材料であってよい。塩は、顆粒状の固体容器の表面上、例えばサシェ中に吸着していてよい。適切な担体のいくつかの例としては、水、食塩水、アルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエトキシル化したヒマシ油、ピーナッツ油、オリーブ油、ゼラチン、乳糖、白土、ショ糖、デキストリン、炭酸マグネシウム、砂糖、シクロデキストリン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸、またはセルロースの低級アルキルエーテル、ケイ酸、脂肪酸、脂肪酸アミン、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、ペンタエリトリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ヒドロキシメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンが非限定的に挙げられる。同様に、担体または希釈剤としては、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの当技術分野で公知の、単独の、または蝋と混合された、任意の徐放性材料を挙げ得る。
【0084】
製剤は、ピロリジン化合物と有害な反応を起こさない補助的な薬剤と混合してよい。そのような添加剤としては、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤および/または着色物質、保存剤、甘味剤または香味剤を非限定的に挙げ得る。医薬組成物は、必要に応じ滅菌することもできる。
【0085】
投与経路は、経口、経鼻、経肺、経口腔、経直腸、皮下、皮内、経皮またはデポ、皮膚下、静脈内、尿道内、筋肉内、鼻腔内、眼用の溶液または軟膏など、適切な、または所望の作用部位に本発明の塩を効果的に輸送する任意の経路であってよいが、経口経路が好ましい。
【0086】
経口投与用に固体担体を使用する場合、製剤は錠剤化するか、粉末もしくはペレットの形態で硬質のゼラチンカプセル中に入れてよく、または、この製剤はトローチもしくはドロップの形態であってもよい。液体担体を使用する場合、製剤は、シロップ、乳剤、軟質のゼラチンカプセル、または、水性もしくは非水性の液体懸濁液もしくは溶液などの滅菌済みの注射用液体の形態であってよい。
【0087】
注射用剤形としては一般に、水性懸濁液または油性懸濁液が挙げられ、これらは適当な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて調製し得る。注射用剤形は、溶液相中にあるかまたは懸濁液の形態であってよく、溶媒または希釈剤を用いて調製される。許容される溶媒またはビヒクルとしては、滅菌水、リンゲル液または等張性の食塩水溶液が挙げられる。あるいは、滅菌油を溶媒または懸濁剤として採用してもよい。好ましくは、この油または脂肪酸は非揮発性であり、天然もしくは合成の油、脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドを含む。
【0088】
注射用としては、医薬組成物は、上述のような適切な溶液を用いた、再構成に適した粉末であってよい。これらの例としては、凍結乾燥、回転乾燥もしくは噴霧乾燥した粉末、非晶質粉末、顆粒、沈殿物または微粒子が挙げられるが、限定されない。注射用としては、医薬組成物は、安定化剤、pH調節剤、界面活性剤、生体利用性調節剤およびこれらの組合せを場合により含有していてもよい。本発明の塩は、ボーラス注射または持続注入によるなど注射による非経口投与用に製剤してもよい。注射用の単位剤形は、アンプル中に、または複数回用量の容器中に入っていてよい。
【0089】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知の手順を採用することにより患者に投与した後で活性成分の迅速な、持続的なまたは遅延型の放出がもたらされるように設計してよい。したがって、医薬組成物は、制御放出用または徐放用に製剤してもよい。
【0090】
本発明の医薬組成物は、例えば、ミセルもしくはリポソーム、または他の何らかの封入形態を含んでもよく、あるいは、貯蔵および/または送達効果の長期化が得られるように、持続放出形態または腸溶性コーティングを施した形態で投与してもよい。したがって、この医薬組成物は、圧縮してペレットまたは円柱にしてもよいし、デポ注射として、またはステントなどのインプラントとして、筋肉内または皮膚下に埋め込んでもよい。そのようなインプラントは、シリコーンなどの公知の不活性材料、および、例えばポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマーを採用してもよい。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。
【0091】
本発明の塩は、相当な期間にわたる連続投与に適した持続放出用インプラントまたは埋込用材料として製剤してもよい。典型的な持続放出用インプラントは、乳酸、ラクチド、グリコール酸、グリコリド、カプロン酸およびカプロラクトンのポリマーおよびコポリマーなどの薬学上許容される生分解性ポリマーから形成される。インプラント内の本発明の塩の用量および量は、所望の単回用量血中濃度の塩が送達されるように計算されることになる。
【0092】
経鼻投与用としては、医薬組成物は、エアロゾル施用のために、液体担体、とりわけ水性の担体中に溶解または懸濁された本発明の塩を含有してよい。この担体は、例えばプロピレングリコールなどの可溶化剤、界面活性剤、レシチン(ホスファチジルコリン)もしくはシクロデキストリンなどの吸収促進剤、またはパラベンなどの保存剤といった添加剤を含有してよい。
【0093】
非経口施用にとりわけ適しているのは、ポリヒドロキシル化したヒマシ油中に溶解された本発明の塩を有する、注射用の溶液または懸濁液、好ましくは水溶液である。
【0094】
タルクおよび/または炭水化物の担体または結合剤などを有する錠剤、糖衣錠またはカプセルは、経口施用にとりわけ適している。錠剤、糖衣錠またはカプセル用に好ましい担体としては、乳糖、コーンスターチおよび/またはジャガイモデンプンが挙げられる。甘味のあるビヒクルを採用できる場合には、シロップまたはエリキシルを使用してよい。
【0095】
典型的な錠剤は、以下のような従来の錠剤化法により調製してよい。
【0096】
400mg遊離塩基当量の強度を有する典型的な錠剤は、L−酒石酸塩650mg、微結晶セルロース215mg、第二リン酸カルシウム50mg、コポリビドン20mg、クロスポビドン50mg、コロイド状二酸化ケイ素10mg、ステアリン酸マグネシウム5mgおよび3%固体のOpadry AMBを調合することにより調製してよい。50mg遊離塩基当量の強度を有する別の典型的な錠剤組成物は、L−酒石酸塩80mg、微結晶セルロース815mg、第二リン酸カルシウム50mg、コポリビドン20mg、クロスポビドン20mg、コロイド状二酸化ケイ素10mg、ステアリン酸マグネシウム5mgおよび3%固体のOpadry AMBを合わせることにより処方してよい。塩は、粉砕して20メッシュのふるいを通した選別に供することができる。粉砕および選別した塩を適当なV字型シェルブレンダーに入れ、適切な時間および回転数で、微結晶セルロース、コポリビドン、クロスポビドンおよびコロイド状二酸化ケイ素とブレンドしてよい。その結果得られる組成物を、滑沢剤のステアリン酸マグネシウムと混合してよい。理論上の錠剤重量である1000mgの滑らかにしたブレンドを用いて、錠剤を圧縮してよい。圧縮した錠剤の一部を、Opadry AMBを用いてコーティングしてよい。コーティングは、固体の適切な重量増加が達成されるまで続けてよい。
【0097】
経口投与用のさらに典型的なカプセルは、本発明の塩(200mg遊離塩基当量)、乳糖(75mg)およびステアリン酸マグネシウム(15mg)を含有する。この混合物を、60メッシュのふるいを通過させてから、1番のゼラチンカプセル中に詰める。
【0098】
典型的な注射用製剤は、本発明の塩(200mg遊離塩基当量で)を、バイアル中に無菌状態で入れ、無菌状態で凍結乾燥して密封することにより作製する。使用するには、バイアルの中身を生理食塩水2mLと混合して、注射用製剤を作製する。
【0099】
本発明の塩は、単位投与量当りの薬学上許容される担体と合わせた活性成分約0.5から約2000mgが単位剤形中に分散されていてよい。通常、経口、経鼻、経肺または経皮での投与に適した剤形は、薬学上許容される担体または希釈剤と混合された塩を約0.5mgから約2000mg、好ましくは1日当り約10mgから約1000mg、より好ましくは約50mgから約750mg(遊離塩基当量で測定)含む。
【0100】
本発明により作製した錠剤の薬剤放出特性は、ピロリジン化合物の適切な送達を示した。錠剤の試料を、流速、硬さ、崩壊および薬剤放出について試験した。とりわけ、妥当な流速を、Carrの指標と、滑らかにしたブレンドについての目視観察とにより推定した。圧縮した錠剤は、約12kPの許容される硬さであった。錠剤の崩壊時間(15分未満)も許容されるものであった。対照比較を伴わないデータでは、妥当なin vitro放出(30分で90%超)が示された。
【0101】
本発明の塩を含有する医薬製剤を調製する際には、その塩の物性を考慮すべきである。例えば、このL−酒石酸塩は、周囲温度および相対湿度75%で、加工可能な固体の状態を数日間維持した。さらに、このL−酒石酸塩は、25℃/RH60%、40℃/RH75%、および60℃/周囲湿度では、遊離塩基と比較して化学的安定性が向上しており、相対湿度63%および室温で、加工可能な固体の状態を2カ月間維持した。したがって、適切な温度および相対湿度を選択して、本発明の塩を含有する医薬製剤の調製の間、維持すべきである。周囲温度を選択すると、例えば、本発明の塩は、適度な湿度、すなわち相対湿度65%未満、または好ましくは相対湿度60%未満で維持できる。
【0102】
また、本発明の塩は周囲条件において物理的に安定であるが、その吸湿性は考慮すべきである。したがって、本発明の塩を含有する医薬製剤を調製する際は、この塩の吸湿性が安定な形態を使用すべきである。本発明の塩は、その重量が適切な温度および相対湿度のもとで安定であるとき、吸湿性が安定している。したがって、計量前に、本発明の塩を適切な温度および湿度に平衡化させるべきである。
【0103】
さらに、医薬組成物の調製において本発明の塩を秤量または他の方法で計量するときは、吸収された水の量を考慮すべきである。例えば、適切な有効用量を達成するには、選択された温度および湿度に平衡化された本発明の塩を調製して、水和水の重量を測定できる。この水を測定し、その結果として重量を相関させることにより、選択された有効用量に対する塩の実際の量が得られるであろう。
【0104】
錠剤またはカプセルの製剤中に崩壊剤が含まれる場合は、この製剤は、塩により吸収された水との崩壊剤の反応の結果生じる錠剤またはカプセルの早すぎる分解および崩壊を避けるような様式で設計および調製すべきである。
【0105】
本発明の薬学的組み合わせは、塩のみの医薬組成物の製剤について上述した実施形態、担体、経路設計などの全てを取り入れた医薬組成物として処方してよい。
【0106】
さらに本発明は、投与すると代謝過程による化学的変換を起こしてから活性のある薬理物質になる、本発明の塩のプロドラッグも包含する。一般にそのようなプロドラッグは、in vivoで本発明の塩に容易に変換される、本発明の塩の官能性誘導体であると考えられる。適当なプロドラッグ誘導体の選択および調製のための従来の手順は、例えば「Design of Prodrugs」、H.Bundgaard編、Elsevier、1985年に記載されている。
【0107】
したがって、本発明の別の態様は、本発明の塩の医薬組成物を、単独で、または、別の種類の抗糖尿病剤および/または他の種類の治療剤と組み合わせて提供する。
【0108】
本発明のさらなる実施形態は、(1)上述のような本発明の塩を、少なくとも1種の薬学上許容される担体または希釈剤と共に含む医薬組成物と、(2)この薬学上許容される担体または希釈剤が経口投与に適している、本発明の塩の医薬組成物を作製する方法と、(3)この組成物を錠剤またはカプセルに製剤するステップをさらに含む、経口投与に適した本発明の塩の医薬組成物を作製する方法と、(4)この薬学上許容される担体または希釈剤が非経口投与に適している、本発明の塩の医薬組成物を作製する方法と、(5)この組成物を凍結乾燥して凍結乾燥製剤を形成するステップをさらに含む、非経口投与に適した本発明の塩の医薬組成物を作製する方法とで表される。
【0109】
本発明の塩のDPP−IV阻害活性は、in vitro分析システムの使用により測定し得る。本発明のDPP−IV阻害剤の阻害定数(KまたはIC50値)は、以下の方法により測定し得る。
【0110】
本発明の塩を調製する方法
本発明の一実施形態は、本発明の塩を調製する方法も提供する。遊離塩基ピロリジン化合物の調製は、2005年8月1日に出願された米国特許出願第60/704,380号と、2004年11月15日に出願された米国特許出願第10/514,575号とに提供されている。本発明の酒石酸塩の調製のための一般的な合成スキームを、以下にスキーム1として示す。
【0111】
【化6】


【0112】
本発明の塩は、上の合成スキーム(ステップ8を参照)に例示し以下の実施例4に詳細に記載するような化合物合成の直接生成物として得てよい。選択的には、遊離塩基は適当な溶媒中に溶解されていてもよく、次いでこの溶媒を蒸発させることにより塩を単離できる。適当な溶媒は、例えば、ヒドロキシル性の有機溶媒または極性非プロトン性の有機溶媒または水であってよい。この溶媒は、噴霧乾燥もしくは凍結乾燥すること、または、塩および溶媒を別の形で、例えば沈殿により分離することによる様式を非限定的に含む、多数の様式で蒸発させてよい。したがって、本発明の塩を調製する方法の例としては、適切な量の適切な酸、例えば化学量論的な量のクエン酸または酒石酸を含有する、炭素が1から6個のアルカノール中に遊離塩基を溶解させることが非限定的に挙げられ、次いで溶媒を蒸発させることにより塩を単離してよい。あるいは、遊離塩基の溶液に酸を加えてもよく、次いで溶媒の除去により塩を単離する。また、本発明のピロリジン化合物などのアミン化合物から薬学上許容される塩を形成する方法は、当技術分野で周知である。例えば「The Practice of Medicinal Chemistry」、第2版、Camille G.Wermuth著、Academic Press、New York、N.Y.、1996年を参照。
【0113】
以下の実施例において本発明をさらに説明するが、この実施例は、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0114】
遊離塩基の調製および生物活性は、2006年5月1日に出願された米国特許出願第11/381,085号に記載されており、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
(実施例1)
塩の調製
以下の手順を用いて、式Iのピロリジン化合物の多様な塩を調製し、または調製を試みた(図1を参照)。窒素ブランケット下の1Lフラスコに遊離塩基化合物50mmolを加え、次いでイソプロピルアルコール(IPA)250mLを加えた。この混合物を20〜30分間撹拌して、固体を完全に溶解させた。窒素ブランケット下の第2の500mLフラスコに、所望の酸(酒石酸またはクエン酸)50mmolを加え、次いでIPA250mLを加えた。この混合物を穏やかに30℃まで温め、固体が溶解するまで10〜20分間撹拌した。この酸溶液を遊離塩基溶液に素早く加え、この混合物を室温で0.5時間撹拌してから濾過した。その結果生じる塊があればこれを0.5時間風乾させてから、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)150mLで洗浄し、1〜2時間風乾させ、次いで40〜50℃の真空オーブンに入れて一晩乾燥させた。
【0116】
ピロリジン化合物の酢酸塩、アジピン酸塩、10−樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、デカン酸塩、臭化水素酸塩、L−アスコルビン酸塩、L−グルタミン酸塩、L−乳酸塩、L−およびR−酒石酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、パルミチン酸塩、ならびにコハク酸塩を作り出す試みを実施した。結果を以下の表1にまとめる。
【0117】
【表1】


【0118】
クエン酸塩ならびにL−、D−およびDL−酒石酸塩のみ単離できた。他の塩は、固体を生じないか、または濾過に際して液化する固体を生じるかのいずれかであった。全ての塩は、示差走査熱量測定(DSC)によれば非晶質であった。クエン酸塩およびD−酒石酸塩は、相対湿度(RH)75%に曝したときは安定でなかったが、RH63%では安定であった。一方、RH75%に曝したとき、L−酒石酸塩は安定であった。L−酒石酸塩については、理論値の92.6%に当る合計18.12gのクリーム色の固体が得られた。
【0119】
(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−酒石酸塩の分子式はC1020BN−C、分子量は391.25g/モルである。この塩は、水およびアルコール中によく溶ける(>2000mg/mL)、白色から薄い褐色の非晶質の固体である。この塩は中程度に吸湿性であり、周囲条件下で、加工可能な固体状態を維持する。この酒石酸塩の水分収着を図2に示す。
【0120】
(実施例2)
噴霧乾燥の手順
噴霧乾燥用に、2流体ノズルを備える実験室規模の噴霧乾燥機SD011(BUCHI、型式B−290 Advanced)を使用した。ノズルのキャップおよび直径は、それぞれ1.5mmおよび0.7mmであった。高性能の集塵機を用いて、乾燥した生成物を収集した。
【0121】
乾燥用窒素の流速は、ファンの速度(F_drying)により制御した。この試験では、ファンは能力の100%で窒素を循環させた(流速およそ35kg/時間)。ニードル弁により制御される微粒化窒素の流速(F−atm)を、357L/時間に設定した(ロータメーター中で高さ30mm)。各試験を開始する前に、脱イオン水を用いて乾燥機を安定化させた。溶液流速(F−feed)を9mL/分(蠕動式供給ポンプの速度の30%)に設定した。入口温度(T_in)を電熱器(HX)により制御し、目的の出口温度(T_out)(100℃)が得られるように調節した。操作パラメーターは、SD011において17DC01(MAR−001−026)について事前に実施された1つの使用試験に基づいて規定した。
【0122】
集塵機から、および乾燥チャンバーの底から回収した生成物を合わせた。
【0123】
(実施例3)
噴霧乾燥によるL−酒石酸塩の調製
遊離塩基化合物1.00gと脱イオン水4.06gとの溶液、およびL−酒石酸0.62gと脱イオン水2.44gとの溶液を、20〜25℃で15分間撹拌した。次いで、L−酒石酸溶液を遊離塩基化合物の溶液に加え、この混合物を20〜25℃で15分間撹拌した。噴霧乾燥の前の時点で、反応混合物の固体含有量は、およそ25%(w/w)であった。この手順を拡大して、遊離塩基500gを3つのバッチのL−酒石酸塩に変換した。
【0124】
3つの異なる反応から得た噴霧乾燥生成物についての結果を表2にまとめる。
【0125】
【表2】

噴霧乾燥生成物は、集塵機中(大部分)または乾燥チャンバーの底で回収できた(温度感受性の生成物は、高めの温度に長めの期間曝されることにより、チャンバー中では純度が低い場合がある)。このバッチでは、チャンバー中で回収された量があまりに少量であったため、分析しなかった。
【0126】
また、噴霧前の溶液および噴霧乾燥生成物の純度を、以下の方法を用いてHPLCにより分析した。Waters Symmetry C18(3.0×150mm、3.5μm)のカラムを使用した。移動相Aは、90:10の水:メタノール中のオクタンスルホン酸ナトリウム25mM、0.1%TFAで構成されていた。移動相Bは、25:75の水:メタノール中のオクタンスルホン酸ナトリウム25mM、0.1%TFAで構成されていた。カラムの温度は60℃であり、検出波長は210nmであった。注入量は15μLであり、流速は70分の通液時間について1.0mL/分であった。勾配は以下のとおりであった。
【0127】
【表2A】

注:カラムが平衡化して60℃になるまで、0.1mL/分でカラムに通液した。
【0128】
図3から6に示す、結果のクロマトグラムは、それぞれ酒石酸塩、ピロリジン化合物およびL−酒石酸塩についてのものに相当する。
【0129】
3つの反応バッチからの噴霧乾燥生成物を合わせ、合わせた噴霧乾燥生成物のHPLC分析により得られたクロマトグラムを図7に示す。
【0130】
要するに、噴霧乾燥により単離された(2R)−1−{7−[(9R)−ピロリジン−9−イルアミノ]アセチル}ピロリジン−2−ボロン酸のL−酒石酸塩は、生成物の分解が最低限であったか、または全く分解しなかった。
【0131】
(実施例4)
化合物合成の直接生成物としての本発明の酒石酸塩の調製
本発明の酒石酸塩を、以下のような保護された遊離塩基から調製した。保護された遊離塩基1.0kg、酒石酸0.40kgおよび精製水2.0kg(2L)を反応器に投入した。この混合物を1時間以上かき混ぜたが、初期反応は発熱を伴うことがあるため、反応器の中身を30℃未満に維持した。次に、フェニルボロン酸0.33kgおよびメチル−tert−ブチルエーテル3.7kg(5L)を加え、この混合物を2時間以上15℃から25℃で撹拌した。試料を回収し、HPLCにより分析した。反応混合物が0.5%超の遊離塩基を有していた場合は、さらに1〜3時間撹拌してから再度試料を回収した。混合物が0.5%以下の遊離塩基を有していた場合は、かき混ぜるのをやめ、15分間以上かけて層を分離させた。有機相を捨て、底の水相を次のステップにおいて使用した。
【0132】
2−メチルテトラヒドロフラン4.3kg(5L)を用い、10分間以上かき混ぜることによりこの水相を抽出してから、水層と有機層とを15分以上かけて分離させた。有機相を再び捨ててから、説明したように2−メチルテトラヒドロフラン4.3kg(5L)を用いた抽出サイクルにさらに2回、水相を供した。
【0133】
その結果得られた水相をメチル−tert−ブチルエーテル3.7kg(5L)と反応させてから、この混合物を10分間以上かき混ぜた。次に、この層を15分以上かけて分離させた。再び有機相を捨ててから、底の水相を回収した。HPLC分析用に試料を回収した。
【0134】
その結果得られた水相を仕上濾過してからHPLCにより試料を分析した。35℃から50℃で2時間、−0.8から−0.9バールの真空処理を施すことにより、残留溶媒を除去した。結果得られた溶液の試料をHPLC分析用に回収した。
【0135】
この溶液の一部を凍結乾燥機のトレーに移して冷凍した。次に、冷凍したこのトレーを取り出して、生成物用の冷凍庫中に入れて維持した。生成物溶液の残りを凍結乾燥機のトレーの中に入れて、凍結乾燥に供した。次に、予め冷凍しておいたトレーを凍結乾燥に供した。
【0136】
(実施例5)
酒石酸塩の性質
湿度チャンバー中での物理的安定性。50mmol規模で酒石酸塩を調製し、クリーム色の固体18.12gを得た。この塩の1.0gの4試料を、周囲温度(68°Fから72°F)で相対湿度45%、58%、63%および76%の4つの別々の湿度チャンバー中に置いた。最初は1時間毎、次いで1日毎に試料を秤量した。結果を図8に示す。
【0137】
5日後、試料は、RH45%から63%の条件下で、9%から13%の間の水を獲得したが、獲得の大部分は最初の3日以内に生じている。水の吸収速度は相対湿度に比例し、RH58%とRH63%との間に差はほとんどなかった。要するに、室温でRH63%までは酒石酸塩は物理的に安定であった(すなわち、流動性のある固体の状態を維持した)。
【0138】
酒石酸塩の試料を蓋のない容器に入れて、室温、RH45%で2カ月間保管した。2カ月後、この材料は良好な流動性を維持していた。
【0139】
化学的安定性。HPLCを用いて化学的安定性を測定した。L−酒石酸塩をRH45%のチャンバー中で続けて2カ月間維持した。図9および10は、RH45%での2カ月の期間の前後の塩についてのHPLCクロマトグラムである。純度の変化は、ほとんどまたは全く観察されなかった。
【0140】
酒石酸塩および遊離塩基の化学的安定性も、25℃、40℃および60℃の条件で1カ月後および3カ月後に測定した。結果を以下の表にまとめる。
【0141】
【表3】


【0142】
(実施例6)
DPP−VII、DPP−VIII、DPP−IXおよびFAPの分析
遊離塩基の生物活性および選択性の分析は、2006年5月1日に出願された米国特許出願第11/381,085号に記載されており、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。酒石酸塩の生物活性および選択性を、第10/381,085号の出願に記載されているのと同じ方法を用いて遊離塩基のものと比較した。結果は、遊離塩基とL−酒石酸塩とは、試験した多様なDPPに対し、匹敵する効力および選択性を有することを示している。厳密には、遊離塩基同様、酒石酸塩はDPP−VIIIに対してよりもDPP−IVに対して優れた選択性を示した。
【0143】
(実施例7)
錠剤の形成
本発明の塩を400mg有する錠剤と50mg有する錠剤とを以下のように調製した。塩を粉砕し、20メッシュのふるいを通して選別してから、適当なV字型シェルブレンダー中で微結晶セルロース、コポリビドン、クロスポビドンおよびコロイド状二酸化ケイ素と共に25rpmで10分間ブレンドした。その結果得られる組成物を25rpmで2分間、滑沢剤ステアリン酸マグネシウムと混合した。錠剤は、理論上の錠剤重量1000mgの滑らかにしたブレンドを使用し、0.785”×0.370”の変形カプセル型の錠剤金型を用いて圧縮した。圧縮した錠剤の一部を、Opadry AMBを用いてコーティングした。コーティングは、およそ3%の固体重量増加が達成されるまで続けた。錠剤の組成は、以下のとおりである。
【0144】
【表4】

【0145】
【表5】

表5は、式(IA)の化合物(式中、RおよびRは両方ともOHである)のL−酒石酸塩についてのいくつかの温度および相対湿度での12カ月安定性試験の結果を示している。見てわかるように、試験したいずれの条件下でも化学的純度の変化は実質的に全く観察されず、物理的な外観は、わずかに黄変が観察された25℃での12カ月目の時点を除き、オフホワイトの固体の外観から変化していなかった。
【0146】
詳細な説明と併せて本発明を説明してきたが、前述の説明は、本発明の範囲を例示することを意図しているのであり限定を意図しておらず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により定義される。他の態様、利点および改変形は、添付の特許請求の範囲内に記載してある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化7】

のピロリジン化合物のクエン酸塩もしくは酒石酸塩、その環状異性体、またはその任意の水和物もしくは溶媒和物であって、
式中、RおよびRは、独立に、−OH、−Oであるか、または、RおよびRはそれらが結合するホウ素原子と一緒になって、加水分解されてボロン酸基になることが可能な環状基を形成し、このときMは、陽イオン、ボロン酸保護基を有するヒドロキシル、または、生理的pHの水溶液中もしくは生体液中で加水分解されてヒドロキシル基になることが可能な基であり、
不斉炭素CおよびCの波線は、全ての立体異性体および全ての立体異性混合物が包含されるように、各不斉炭素についてR立体配置、S立体配置、または両方の立体配置の混合を独立に示しており、そして、
タートレート部分は任意の立体異性配置またはその混合を有する、塩。
【請求項2】
およびRが両方ともOHである、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
およびCに(R)絶対配置を有する、請求項1または2に記載の塩。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のクエン酸塩。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の酒石酸塩。
【請求項6】
前記タートレートが光学性に富む立体異性体である、請求項5に記載の酒石酸塩。
【請求項7】
前記タートレートがL−タートレートである、請求項6に記載の酒石酸塩。
【請求項8】
前記タートレートが、L−タートレートおよびD−タートレートの立体異性体に富む混合物、L−タートレートおよびD−タートレートのラセミ混合物、L−タートレート、D−タートレートおよびメソタートレートの混合物、またはタートレートの少なくとも2種の立体異性体の光学活性混合物を含む、請求項5に記載の酒石酸塩。
【請求項9】
前記式(I)の化合物が、少なくとも約55%の立体異性純度を有する式(IA)
【化8】

の化合物である、請求項1または2に記載のピロリジン化合物のクエン酸塩または酒石酸塩。
【請求項10】
前記式(IA)の化合物が、少なくとも約90%の立体異性純度を有する、請求項9に記載の塩。
【請求項11】
前記式(IA)の化合物が、少なくとも約98%の立体異性純度を有する、請求項9に記載の塩。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の酒石酸塩。
【請求項13】
請求項9から11のいずれか一項に記載のL−酒石酸塩。
【請求項14】
前記式(I)の化合物が、少なくとも約55%の立体異性純度を有する式(IB)
【化9】

の化合物である、請求項1または2に記載のピロリジン化合物のクエン酸塩または酒石酸塩。
【請求項15】
前記立体異性純度が少なくとも約90%である、請求項14に記載の式(IB)の化合物。
【請求項16】
前記立体異性純度が少なくとも約98%である、請求項14に記載の式(IB)の化合物。
【請求項17】
請求項1または2に記載のピロリジン化合物のクエン酸塩または酒石酸塩であって、
前記環状異性体が式(V)の化合物であり、
【化10】

式中、CおよびCは、全ての立体異性体および全ての立体異性混合物が包含されるように、R立体配置、S立体配置、または両方の立体配置の混合をそれぞれ独立に有する
、塩。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の塩の実質的に非潮解性の固体形態。
【請求項19】
周囲条件下で少なくとも約12カ月間安定な、請求項18に記載の固体形態。
【請求項20】
水和物または溶媒和物である、請求項1から19のいずれか一項に記載の塩。
【請求項21】
請求項1または18に記載の式(I)の化合物のクエン酸塩もしくは酒石酸塩、その環状異性体、またはその任意の水和物もしくは溶媒和物と、インスリン分泌を増加させる、インスリン感受性を高める、胃腸経路からの糖の取込みを減らす、血糖制御に作用する内因性のペプチドもしくはタンパク質の効果を高める、血糖制御に作用する内因性のペプチドもしくはタンパク質の補充をもたらす、または前記作用の任意の組合せをもたらす公知の第2の医薬とを含む薬学的組み合わせ。
【請求項22】
前記塩が、L−酒石酸塩、D−酒石酸塩もしくはメソ酒石酸塩、またはその任意の組合せである、請求項21に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項23】
前記第2の医薬が抗糖尿病剤である、請求項21に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項24】
前記式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩と前記抗糖尿病剤との重量比が約0.01:1から約200:1である、請求項23に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項25】
(a)請求項1または18に記載の前記式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩、またはその環状異性体、またはその任意の水和物もしくは溶媒和物と、
(b)薬学上許容される担体と
を含む医薬組成物。
【請求項26】
(c)インスリン分泌を増加させる、インスリン感受性を高める、胃腸経路からの糖の取込みを減らす、血糖制御に作用する内因性のペプチドもしくはタンパク質の効果を高める、または血糖制御に作用する内因性ペプチドもしくはタンパク質の補充をもたらす、または前記作用の任意の組合せをもたらす公知の第2の医薬から成る群から選択される第2の医薬をさらに含む、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ジペプチジルペプチダーゼIVを有効量の請求項1または18に記載の式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩、またはその環状異性体、またはその任意の水和物もしくは溶媒和物に接触させることを含む、ジペプチジルペプチダーゼIVを阻害する方法。
【請求項28】
前記ジペプチジルペプチダーゼIVが、ジペプチジルペプチダーゼIVの阻害を介して調整または正常化できる病態の治療が必要な哺乳動物の体内にあり、前記接触させるステップが、治療有効量の前記式(I)の化合物のクエン酸塩もしくは酒石酸塩、またはその環状異性体、またはその任意の水和物もしくは溶媒和物を前記哺乳動物に投与することを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記病態が血糖制御障害である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記病態が糖尿病である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
インスリン分泌を増加させる、インスリン感受性を高める、胃腸経路からの糖の取込みを減らす、血糖制御に作用する内因性のペプチドもしくはタンパク質の効果を高める、または血糖制御に作用する内因性ペプチドまたはタンパク質の補充をもたらす、または前記作用の任意の組合せをもたらす公知の第2の医薬から成る群から選択される、治療有効量の第2の医薬を投与することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
請求項1に記載の式(I)のピロリジン化合物のクエン酸塩または酒石酸塩を調製する方法であって、遊離塩基としての式(I)のピロリジン化合物と、クエン酸または酒石酸と、フェニルボロン酸とを接触させ、水溶液中で前記式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩をそれぞれ供給する工程を含み、
式(I)中、RおよびRはそれぞれ酸性条件下で外れ得るボロン酸保護基であるか、または、RおよびRはそれらが結合する前記ホウ素原子と一緒になって水溶液中で環状ボロン酸エステルを形成する、方法。
【請求項33】
前記式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩の前記水溶液を噴霧乾燥または凍結乾燥させて前記式(I)の化合物のクエン酸塩または酒石酸塩の固体形態を提供することをさらに含む、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−502610(P2010−502610A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526645(P2009−526645)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/018629
【国際公開番号】WO2008/027273
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(506159943)フェノミックス コーポレーション (8)
【氏名又は名称原語表記】PHENOMIX CORPORATION
【Fターム(参考)】