説明

EGFR阻害薬への応答に関する遺伝子発現マーカー

本発明は、癌に関連する予後マーカーに関する。特に、本発明は、パラフィン包埋した固定した癌組織のサンプルにおける遺伝子発現の分子的特徴付けに基づいた診断方法に関し、この方法は、EGFRインヒビターによる処置に患者が良好に応答する可能性があるか否かを、医師が予測することを可能にする。本発明は、被験体がEGFRインヒビターを用いる処置に応答する可能性を予測するための方法であって、該方法は、患者から得られる癌細胞を含む生物学的サンプルにおいて、1種以上の予後RNA転写物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、治療用EGFRインヒビターによる処置の候補者である患者から得られた遺伝子発現プロファイリングに関する。より具体的には、本発明は、パラフィン包埋固定癌組織サンプルにおける遺伝子発現の分子的特徴付けに基づく方法を提供する。この方法は、EGFRインヒビターによる処置に患者が良好に応答する可能性があるか否かを、医師が予測することを可能にする。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
癌専門医は、彼らに利用可能な多くの処置上の選択肢を有する。これらの選択肢としては、「治療標準」として特徴付けられている化学療法薬と、特定の癌に関する効能を持たないがその癌における有効性の証拠が存在する多くの薬物との、種々の組合せが挙げられる。良好な治療結果の可能性を最大にするには、患者が最適な利用できる癌処置を与えられること、およびこの処置が、診断後可能な限り迅速になされることを必要とする。
【0003】
現在のところ、治療で使用される診断試験は、単一の検体であり、ゆえに、多くの異なるマーカー間での公知の関係の潜在的価値を捕捉していない。さらに、診断試験は、多くの場合定量的でなく、免疫組織化学に依存している。この方法は、多くの場合、異なる研究室において異なる結果を生じる。これは、一部には、試薬が標準化されていないためであり、一部には、解釈が主観的で、容易に定量化できないからである。RNAベースの試験は、多くの場合使用されてこなかった。なぜなら、経時的なRNA分解の問題、および分析対象の患者から新鮮な組織サンプルを得ることが困難であるという事実のためである。固定パラフィン包埋組織は、より容易に入手可能である。固定組織は、インサイチュハイブリダイゼーションによる非定量的RNA検出のために慣習的に使用されている。しかし、最近の方法は、RT−PCRを用いた、固定組織におけるRNA定量を確立した。この技術の基礎はまた、多重分析アッセイについての基礎を形成し得る。
【0004】
近年、いくつかのグループが、発表した。近年、いくつかのグループが、マイクロアレイ遺伝子発現分析による種々の癌の型の分類に関する研究を発表した(例えば、Golubら、Science 286:531−537(1999);Bhattacharjaeら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 98:13790−13795(2001);Chen−Hsiangら、Bioinformatics 17(Suppl 1):S316−S322(2001);Ramaswamyら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 98:15149−15154(2001)を参照のこと)。遺伝子発現パターンに基づくヒト乳癌の特定の分類もまた、報告されている(Martinら、Cancer Res.60:2232−2238(2000);Westら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 98:11462−11467(2001);Sorlieら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 98:10869−10874(2001);Yanら、Cancer Res.61:8375−8380(2001))。しかし、これらの研究は主に、種々の型の癌(乳癌が挙げられる)の既に確立された分類を改善および精緻化することに焦点を当てており、そして全般的に、癌治療の臨床結果を改善するための処理戦略に対する知見に結び付いていない。
【0005】
現代の分子生物学および生化学は、その活性が腫瘍細胞の挙動、腫瘍細胞の分化の状態、ならびに腫瘍細胞の特定の治療薬に対する感受性および抵抗性に影響を及ぼす何百もの遺伝子を明らかにしたが、いくつかの例外を除いて、これらの遺伝子の状態は、薬物治療についての臨床的判断を慣習的に行う目的のために開発されてこなかった。1つの明らかな例外は、乳癌における、抗エストロゲン薬(例えば、タモキシフェン)による処置に供する患者を選択するための、エストロゲンレセプター(ER)タンパク質発現の使用である。他の例外は、乳癌における、Her2アンタゴニスト薬Herceptin(登録商標)(Genentech,Inc.,South San Francisco,CA)を用いる患者を選択するための、ErbB2(Her2)タンパク質発現の使用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の進歩にもかかわらず、癌処置への課題は、病原によって区別された腫瘍型に対する特異的処置レジメンを目標とすること、および最大の結果を得るために、腫瘍処置を最終的に個人化することにとどまっている。ゆえに、種々の処置選択肢に対する患者の応答についての予測情報を同時に提供する試験に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、EGFRインヒビターによる処置に応答するかまたは応答しない、非小細胞肺癌(NSCLC)を有するヒト患者から得られた組織サンプルにおける、遺伝子発現の第II相臨床研究知見に基づく。
【0008】
一局面において、本発明は、治療用EGFRインヒビターによる処置の候補者である癌患者がEGFRインヒビターによる処置に応答する可能性を予測するための方法に関し、本方法は以下を包含する:患者から得られた腫瘍組織を含む生物学的サンプル(例えば、腫瘍組織標本)における、予後診断用RNA転写物の1つ以上もしくはその発現産物の発現レベルを決定する工程。ここで、上記予後診断用転写物は、以下からなる群より選択される1つ以上の遺伝子の転写物であって:
【0009】
【化1】

ここで、
(a)以下の1つ以上:
【0010】
【化2】

またはその対応する発現産物の発現の増加が、上記患者がEGFRインヒビターによる処置に良好に応答しない可能性があることを示し、そして、
(b)以下の1つ以上:
【0011】
【化3】

またはその対応する発現産物の発現の増加が、上記患者がEGFRインヒビターによる処置に良好に応答する可能性があることを示す。
【0012】
上記組織サンプルは、好ましくは、固定パラフィン包埋組織である。組織は、種々の方法(細針生検、吸引、気管洗浄、経気管生検が挙げられる)によって得ることができる。
【0013】
特定の実施形態において、上記予後診断用RNA転写物の発現レベルは、RT−PCRによって決定される。この場合、そして上記組織が固定されてパラフィン包埋されている場合、上記RT−PCRアンプリコン(PCRプライマーによってスキャンされるポリヌクレオチド配列として定義される)は、好ましくは、長さ100塩基未満である。他の実施形態においては、上記予後診断用RNA転写物の発現産物のレベルは、当該分野で公知の他の方法(例えば、免疫組織化学、またはプロテオミクス技術)によって決定される。予後診断用RNA転写物またはその発現産物を測定するためのアッセイは、キットの形態で入手され得る。
【0014】
別の局面において、本発明は、固体表面上に固定された以下の遺伝子の1つ以上にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、アレイに関する:
【0015】
【化4】

。上記ポリヌクレオチドは、cDNAまたはオリゴヌクレオチドであり得る。このcDNAは、代表的に約500〜5000塩基長であり、一方このオリゴヌクレオチドは、代表的に約20〜80塩基長である。アレイは、非常に多数のcDNAまたはオリゴヌクレオチドを含み得る(例えば、約330,000オリゴヌクレオチドまで)。上記アレイを提示する上記固体表面は、例えば、ガラスであり得る。遺伝子転写物の産物のレベルは、当該分野で公知の任意の技術(例えば、免疫組織化学またはプロテオミクス)で測定され得る。
【0016】
種々の実施形態において、上記アレイは、上記に列挙された遺伝子のうちの、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25、少なくとも26、または少なくとも27全てにハイブリダイズしたポリヌクレオチドを含む。特定に実施形態において、ハイブリダイゼーションは、ストリンジェント条件下で行われる。
【0017】
他の実施形態において、上記アレイは、同じ遺伝子にハイブリダイズする1つ以上のポリヌクレオチドを含み得る。
【0018】
なお別の実施形態において、上記アレイは、イントロンベースの配列を含み得る。この配列の発現は、対応するエクソンの発現に対応する。このようなイントロンベースの配列を含みアレイは例えば、以下に開示される(2004年2月19日出願の出願番号10/783,884、および2004年2月19日に出願されたそのPCT出願PCT/US04/05287)。
【0019】
本発明は、患者に関する個人化されたゲノムプロフィールを作成する方法にさらに関する。この方法は、以下の工程を包含する:
(a)上記患者から得られた癌細胞から抽出されたRNAを、遺伝子発現分析に供する工程;
(b)以下からなる群より選択される遺伝子うちの一つ以上の、組織における発現レベルを決定する工程:
【0020】
【化5】

ここで、上記発現レベルは、対照遺伝子(単数もしくは複数)に対して正規化され、そして必要に応じて、対応する癌参照組織セットにおいて見出された量と比較される。
そして、
(c)上記遺伝子発現分析によって得られたデータをまとめた報告を作成する工程。
【0021】
上記報告は、処置の推奨を含み得、そして上記方法は、このような処置の推奨にしたがって患者を処置する工程を包含し得る。
【0022】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、以下からなる群より選択される遺伝子を増幅するための方法にさらに関する:
【0023】
【化6】

この方法は、表3に列挙された対応するアンプリコン、および表4に列挙されるプライマー−プローブセットを用いて上記PCRを実施する工程を包含する。
【0024】
本発明は、表4に列挙された任意のプライマー−プローブセット、および表3に列挙されたPCRアンプリコンをさらに包含する。
【0025】
(図面の簡単な説明)
表1は、遺伝子のリストである。この遺伝子の発現は、EGFRインヒビターによる処置に対する患者の応答と正および負の相関がある。
【0026】
表2は、リストの遺伝子の二元的統計解析の結果を示す。この遺伝子の発現は、EGFRインヒビターによる処置に対する患者の応答と相関する。
【0027】
表3は、遺伝子のリストである。この遺伝子の発現は、EGFRインヒビターによる処置に対する患者の応答を予測する。この表は、遺伝子についての受託番号、そしてPCR増幅に使用されたフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列(それぞれ、「f」および「r」で示される)ならびにプローブの配列(「p」で示される)を含む。
【0028】
表4は、表示された遺伝子のPCR増幅に使用されたアンプリコン配列を示す。
【0029】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
(A.定義)
他に定義されない限り、本明細書において使用される科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。Singtonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版),J.Wiliey&Sons(NewYork,NY 1994)、およびMarch,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure(第4版),John Wiley&Sons(NewYork,NY 1992)は、本出願に使用される多くの用語に対する一般的指針を当業者に提供する。
【0030】
当業者は、本発明の実施に使用され得る、本明細書において記載される方法および材料と類似もしくは等価な、多くの方法および材料を認識する。実際、本発明は、記載された方法および材料に決して制限されない。本発明の目的のために、以下の用語が、下記で定義される。
【0031】
用語「マイクロアレイ」とは、基材上の、ハイブリダイゼーション可能なアレイ要素(好ましくはポリヌクレオチドプローブ)の秩序正しい配列を指す。
【0032】
用語「ポリヌクレオチド」とは、単数もしくは複数で使用される場合、一般的に、ポリリボヌクレオチドもしくはポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これらは、非改変RNAもしくは非改変DNA、または改変RNAもしくは改変DNAであり得る。したがって、例えば本明細書において定義される場合、ポリヌクレオチドとしては、1本鎖および2本鎖DNA、1本鎖領域および2本鎖領域を含むDNA、1本鎖および2本鎖RNA、ならびに1本鎖領域および2本鎖領域を含むRNA、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子(これは、1本鎖であり得、より代表的には2本鎖であり得、または1本鎖領域および2本鎖領域を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、用語「ポリヌクレオチド」とは、本明細書中で使用される場合、DNAもしくはRNA、またはDNAおよびRNAの両方を含む3本鎖領域を指す。このような領域中の鎖は、同じ分子由来であり得るか、または異なる分子由来であり得る。この領域は、上記分子の一つ以上の全てを含み得るが、より代表的には、その分子の一部の領域のみを含む。3重螺旋領域の分子の1つは、多くの場合、オリゴヌクレオチドである。用語「ポリヌクレオチド」としては、具体的には、cDNAが挙げられる。この用語は、1つ以上の改変された塩基を含むDNA(cDNAを含む)およびRNAを包含する。したがって、安定性または他の理由のために改変された骨格を有するDNAまたはRNAは、本明細書において意図される用語としての「ポリヌクレオチド」である。さらに、通常でない塩基(例えば、イノシンもしくはトリチウム化塩基のような改変塩基)を含有するDNAまたはRNAは、本明細書において定義される用語「ポリヌクレオチド」のうちに含まれる。一般的に、用語「ポリヌクレオチド」は、非改変ポリヌクレオチドの化学的、酵素的、および/または代謝性に改変された形態の全て、ならびにウイルスおよび細胞(単純細胞および複雑細胞を含む)に特有のDNAおよびRNAの化学形態を包含する。
【0033】
用語「オリゴヌクレオチド」とは、比較的短いポリヌクレオチドを指し、これらとしては、1本鎖デオキシリボヌクレオチド、1本鎖もしくは2本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッド、ならびに2本鎖DNAが挙げられるが、これらに限定されない。オリゴヌクレオチド(例えば、1本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチド)は、多くの場合、化学的方法(例えば、市販の自動オリゴヌクレオチド合成機)によって合成される。しかし、オリゴヌクレオチドは、他の種々の方法(インビトロ組み換えDNAを介した技術が挙げられる)ならびに細胞および生体中におけるDNA発現によって合成され得る。
【0034】
用語「差次的に発現される遺伝子」、「差次的遺伝子発現」およびそれらの同義語は、本明細書において交換可能に使用されて、その発現が、正常被験体もしくは対照被験体における発現と比較して、疾患(特に、癌、例えば乳癌)に罹患する被験体内においてより高いレベルもしくはより低いレベルへと活性化される遺伝子を指す。この用語はまた、その発現が、同じ疾患の異なる病期においてより高いレベルもしくはより低いレベルへと活性化される遺伝子を指す。差次的に発現される遺伝子が、核酸レベルもしくはタンパク質レベルで活性化されるか阻害されるかのいずれかであり得、また異なるポリペプチド産物を生じる代替的スプライシングに供され得ることもまた理解される。このような差は、例えば、mRNAレベル、ポリペプチドの表面発現、分泌、または他の区分の変化によって証明され得る。差次的遺伝子発現は、2以上の遺伝子間もしくはそれらの遺伝子産物間での発現の比較、または2以上の遺伝子間もしくはそれらの遺伝子産物間での発現の比の比較、さらに同じ遺伝子の、異なる処理をされた2つの産物の比較を包含し得る。これらは、正常被験体と疾患(特に、癌)に罹患した被験体との間、または同じ疾患の異なる病期の間で異なる。差次的発現は、例えば、正常細胞と疾患細胞との間、または異なる疾患事象もしくは疾患の病期にある細胞間での、遺伝子もしくはその発現産物における定量的および定性的な、時間的もしくは細胞の発現パターンにおける差を包含する。本発明の目的に関して、「差次的遺伝子発現」は、正常被験体と疾患被験体における所与の遺伝子の発現の間、または疾患被験体の疾患発症の種々の病期において、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約4倍、より好ましくは少なくとも約6倍、最も好ましくは少なくとも約10倍の差が存在することであるとみなされる。
【0035】
RNA転写物に関する用語「過剰発現」は、参照mRNA(標本中で測定された転写物の全て、またはmRNAの特定の参照セットであり得る)のレベルに対して正規化することで決定される転写物のレベルを指すために使用される
語句「遺伝子増幅」とは、複数の遺伝子もしくは遺伝子フラグメントのコピーが特定の細胞もしくは細胞株中で形成されるプロセスを指す。重複領域(増幅されたDNAの伸長部分)は、多くの場合、「アンプリコン」と呼ばれる。通常、生成されたメッセンジャーRNA(mRNA)の量(すなわち、遺伝子発現のレベル)もまた、発現された特定の遺伝子からなるコピーの数に比例して、増加する。
【0036】
用語「予後判定」とは、本明細書中では、新生物疾患(例えば、非小細胞肺癌、または頭部癌および頸部癌)の再発、転移性拡散および薬物耐性を含む癌に起因する死または経過の可能性の予測をいう。用語「予測」とは、本明細書中では、患者が薬物または一連の薬物に対して、好都合に、または好ましくなく、応答する可能性をいうため、およびその応答の程度をいうためか、または初期腫瘍の外科的除去および/もしくは化学治療の後、特定の期間癌の再発がなく、患者が生存する可能性をいうために使用される。本発明の予測方法は、任意の特定の患者に対する最も適切な処置様式を選択することにより処置判断を行うために臨床的に使用され得る。本発明の予測方法は、患者が、処置レジメン(例えば、外科的介入、所定の薬物もしくは薬物の組合せを用いた化学療法および/または放射線療法)に好都合に応答するか否かを予測するのに、あるいは、外科手術後および/または化学療法もしくは他の処置様式の終結後、患者の長期生存が有望か否かを予測するのに有用なツールである。
【0037】
用語「長期」生存とは、本明細書中では、外科手術または他の処置後、少なくとも1年間、好ましくは少なくとも2年間、最も好ましくは少なくとも5年間生存することをいう。
【0038】
特定の薬物または処置選択枝に対する、用語「増加した耐性」とは、本発明に従って使用される場合、標準的な薬物の用量または標準的な処置プロトコルに対する減少した応答を意味する。
【0039】
特定の薬物または処置選択枝に対する、用語「減少した感受性」とは、本発明に従って使用される場合、標準的な薬物の用量または標準的な処置プロトコルに対する減少した応答を意味し、ここで、減少した応答は、薬物の用量または処置の強度を増加することにより、(少なくとも一部は)補われ得る。
【0040】
「患者の応答」は、患者に対して利益を示す任意の終点を用いて評価され得、これらとしては、限定せずに、以下:(1)成長の遅延および完全な停止を示すことを含む腫瘍成長のある程度までの阻害;(2)腫瘍細胞の数の減少;(3)腫瘍の大きさの減少;(4)隣接する周辺器官および/または組織への腫瘍細胞の浸潤の阻害(すなわち、減少、遅延または完全な停止);(5)転移の阻害(すなわち、減少、遅延または完全な停止);(6)抗腫瘍免疫応答の増強、これは、そうでなくてもよいが、腫瘍の後退または排除を生じ得る;(7)腫瘍と関連する一種異常の症状のある程度までの軽減;(8)処置後の生存の長さの増加;および/または(9)処置後所定の時点での死亡率の減少が挙げられる。
【0041】
用語「処置」とは、治療処置および予防(prophylactic)手段または予防(preventative)手段の療法をいい、その目的は、標的とされた病理的な状態または障害を防止するかまたはその進行を低下させる(減少させる)ことである。処置の必要なものとしては、既に障害を有するもの、および障害を有する傾向があるものまたはその障害が予防されるべきものである。腫瘍(例えば、癌)処置において、治療剤は、腫瘍細胞の症状を直接低減させ得るか、または腫瘍細胞を、他の治療剤による処置(例えば、放射線療法および/または化学療法)に対してより感受性にする。
【0042】
用語「腫瘍」とは、本明細書中で使用される場合、悪性であっても良性であってもよいが、全ての新生物細胞成長および細胞増殖、ならびに、全ての前癌および癌の細胞および組織をいう。
【0043】
用語「癌」および「癌性」とは、調節されていない細胞成長によって代表的に特徴付けられる哺乳動物における生理学的条件をいうか、またはそれらを記載する。癌の例としては、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫、および脳癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
癌の「病理」は、患者の健康を損なう全ての減少を含む。これらとしては、限定せずに、異常な細胞成長もしくは制御されていない細胞成長、転移、周辺の細胞の正常な機能の妨害、異常なレベルでのサイトカインまたは他の分泌産物の放出、炎症反応または免疫応答の抑制または悪化、腫瘍形成、前悪性、悪性、周囲もしくは離れた組織もしくは器官(例えば、リンパ節など)への浸潤が挙げられる。
【0045】
用語「EGFRインヒビター」とは、本明細書中で使用される場合、天然の上皮成長因子レセプター(EGFR)の生物学的機能を阻害する能力を有する分子をいう。従って、用語「インヒビター」は、EGFRの生物学的役割の文脈で定義される。本明細書中の好ましいインヒビターが、EGFRと特異的に相互作用する(例えば、結合する)場合、EGFRシグナル伝達経路の他のメンバーと相互作用することによってEGFRの生物学的活性を阻害する分子もまた、この定義に明確に包含される。EGFRインヒビターによって阻害される好ましいEGFR生物学的活性は、腫瘍の発生、増殖または拡散と関連する。EGFRインヒビターとしては、制限なく、ペプチド、非ペプチド低分子、抗体、抗体フラグメント、アンチセンス分子およびオリゴヌクレオチドデコイが挙げられる。
【0046】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定可能であり、概して、プローブの長さ、洗浄温度および塩濃度に依存する経験的な計算である。概して、より長いプローブは、適切なアニーリングのためにより高い温度を必要とするのに対して、より短いプローブは、より低い温度を必要とする。ハイブリダイゼーションは概して、その融解温度以下の環境で、相補的な鎖が存在する場合、変性したDNAの再アニーリングする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の程度が高ければ、使用され得る相対的な温度はより高くなる。結果として、相対的に高い温度は、反応条件をよりストリンジェントにする傾向があり、相対的に低い温度は、あまりそうではない傾向がある。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細および説明については、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley Interscience Publishers(1985)を参照のこと。
【0047】
本明細書中で定義される「ストリンジェントな条件」または「高いストリンジェンシーの条件」は代表的に、以下:(1)洗浄に低イオン強度および高温を使用する(例えば、50℃で、0.015M 塩化ナトリウム/0.0015M クエン酸ナトリウム/0.1% ドデシル硫酸ナトリウム);(2)ハイブリダイゼーションの間に、変性剤(例えば、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1% Ficoll/0.1%ポリビニルピロリドン/750mM塩化ナトリウムでpH6.5にした50mMリン酸ナトリウム緩衝液、含む50%(v/v)ホルムアミドなどのホルムアミド)、75mMクエン酸ナトリウムを42℃で使用する;または(3)50% ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075M クエン酸ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1% ピロリン酸ナトリウム、5×Denhardt溶液、超音波処理したサケ精子DNA(50μg/ml)、0.1% SDSおよび10% 硫酸デキストランを42℃で使用し、42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)および55℃で50%ホルムアミドで洗浄し、その後、55℃で、EDTAを含有する0.1×SSCからなる高ストリンジェンシーの洗浄を行なう。
【0048】
「中程度のストリンジェントな条件」は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、New York:Cold Spring Harbor Press、1989に記載されるとおりに特定され、上記よりストリンジェントではない洗浄溶液およびハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、イオン強度およびSDS%)の使用を包含する。中程度のストリンジェントな条件の例は、以下:20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardt溶液、10%硫酸デキストランおよび20mg/mlの変性し、剪断したサケ精子DNAを含有する溶液中での37℃での一晩のインキュベーション、その後、約37〜50℃での1×SSC中でのフィルターの洗浄である。当業者は、プローブ長などのような因子を適応させるために必要な温度、イオン強度などをどのように調節するかを理解する。
【0049】
本発明の文脈において、任意の特定の遺伝子セットに列挙した遺伝子の「少なくとも1つ」、「少なくとも2つ」、「少なくとも5つ」などの言及は、列挙した遺伝子の任意の一つ、または任意の数および全ての組合せを意味する。
【0050】
遺伝子転写産物または遺伝子発現産物に関して、用語「正規化された」とは、一連の参照遺伝子の転写産物/発現産物の平均レベルに比較した転写産物または遺伝子発現産物のレベルをいい、ここで、参照遺伝子は、患者、組織または処置を通した最小限の変化に基づいて選択される(「ハウスキーピング遺伝子」)か、または参照遺伝子は、試験した遺伝子の全体である。後者の場合、それは、一般に「全体的正規化」といわれ、試験した遺伝子の総数が、比較的大きいこと、好ましくは50より大きいことが重要である。特に、RNA転写産物に関して用語「正規化された」とは、一連の参照遺伝子の転写レベルの平均に対する転写レベルをいう。より詳細には、TaqMan(登録商標)RT−PCRにより測定したRNA転写産物の平均レベルは、Ct値から一連の参照遺伝子転写産物の平均Ct値を引いたものをいう。
【0051】
用語「発現閾値」および「規定された発現閾値」は、相互変換可能に使用され、どの遺伝子または遺伝子産物が、患者の薬物に対する応答または耐性についての予測マーカーとして役立つかという上記問題における遺伝子または遺伝子産物のレベルをいう。閾値は、代表的に、臨床研究から実験的に定義される。発現閾値は、最大感受性(例えば、薬物に対する全ての応答者を検出するため)または最大選択性(例えば、薬物に対する応答者のみを検出するため)または最少誤差のいずれかについて選択され得る。
【0052】
(B.詳細な説明)
本発明の実施は、他に示されない限り、従来の分子生物学の技術(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学および生化学を使用し、これらは、当業者の範囲内である。このような技術は、文献、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版(Sambroolら、1989);「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編、1984);「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編、1987);「Methods in Enzymology」(Academic Press,Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」、第4版(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編、Blackwell Science Inc.,1987);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編、1987)および「PCR:The Polymerase Chain Reaction」(Mullisら編、1994)中に十分に説明される。
【0053】
(1.遺伝子発現プロファイリング)
遺伝子発現プロファイリングの方法としては、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション分析に基づいた方法、ポリヌクレオチドの配列決定に基づいた方法、およびプロテオミクスに基づいた方法が挙げられる。サンプル中のmRNA発現の定量についての当該分野で公知の最も一般的に使用される方法としては、ノーザンブロッティングおよびインサイチュハイブリダイゼーション(ParkerおよびBarnes、Methods in Molecular Biology 106:247〜283(1999));RNAse保護アッセイ(Hod、Biotechniques 13:852〜854(1992));およびPCRに基づいた方法(例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(Weisら、Trends in Genetics 8:263〜264(1992))が挙げられる。あるいは、特定の2本鎖(DNA2本鎖、RNA2本鎖およびDNA−RNAハイブリッド2本鎖またはDNA−タンパク質2本鎖を含む)を認識し得る抗体が使用され得る。配列決定に基づいた遺伝子発現分析のための代表的な方法としては、遺伝子発現の連続分析(Serial Analysis of Gene Expression)(SAGE)、および大規模平行シグネチャー配列決定(massively parallel signature sequencing)(MPSS)による遺伝子発現分析が挙げられる。
【0054】
(2.PCRに基づいた遺伝子発現プロファイル法)
(a.逆転写PCR(RT−PCR))
最も感度が良く、最も適応性のある定量的PCRベースの遺伝子発現プロファイル法の一つは、RT−PCRであり、この方法は、遺伝子発現のパターンを特徴付けるために、密接に関連したmRNA間を識別するために、およびRNA構造を分析するために、異なるサンプル集団(正常組織と腫瘍組織、薬物処理ありまたはなし)におけるmRNAレベルを比較して使用され得る。
【0055】
第一の工程は、標的サンプルからのmRNAの単離である。出発物質は、代表的に、ヒト腫瘍または腫瘍細胞株、およびそれぞれに対応する正常組織または正常細胞株から単離された総RNAである。従って、RNAは、健常なドナーからプールしたDNAを有する種々の一次腫瘍(乳房、肺、結腸、前立腺、脳、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、精巣、卵巣、子宮、頭部および頸部などの腫瘍または腫瘍細胞株を含む)から単離され得る。mRNAの源が、一次腫瘍である場合、mRNAは、例えば、凍結するか、保管したパラフィン包埋して固定した(例えば、ホルマリン固定した)組織サンプルから抽出され得る。
【0056】
mRNA抽出に対する一般的方法は、当該分野で周知であって、分子生物学の標準的な教科書(Ausubelら、Current Protocols of Molecular Biology、John Wiley and Sons(1997))に開示される。パラフィン包埋組織からRNAを抽出するための方法は、例えば、RuppおよびLocker、Lab Invest.56:A67(1987)およびDe Andresら、BioTechniques 18:42044(1995)に開示される。特に、RNA単離は、例えば、Qiagenから市販される精製キット、緩衝液セットおよびプロテアーゼを使用して、製造者の指示書に従って行われ得る。例えば、培養した細胞由来の前RNAは、Qiagen RNeasyミニカラムを使用して単離され得る。他の市販の利用可能なRNA単離キットとしては、MasterPureTM Complete DNA and RNA Purification Kit(EPICENTRE(登録商標)、Madison、WI)およびParaffin Block RNA Isolation Kit(Ambion、Inc.)が挙げられる。組織サンプル由来の総RNAは、RNA Stat−60(Tel−Test)を使用して単離され得る。腫瘍から調製したRNAは、例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって単離され得る。
【0057】
RNAは、PCRのためのテンプレートとしての役目を果たし得ないので、RT−PCRによる遺伝子発現プロファイリングにおける第一工程は、RNAテンプレートのcDNAへの逆転写、その後のPCR反応におけるその指数関数的な増加である。2つの最も一般的に使用される逆転写酵素は、avilo myeloblastosisウイルス逆転写酵素(AMV−RT)およびMoloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)である。逆転写工程は、代表的に、発言プロファイリングの状況および目的に依存して、特定のプライマー、ランダムヘキサマーまたはオリゴdTプライマーを用いてプライミングされる。例えば、抽出されたRNAは、製造者の指示書に従って、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer、CA、USA)を使用して逆転写され得る。次いで、生成されたcDNAは、その後のPCR反応においてテンプレートとして使用され得る。
【0058】
PCR工程は、種々の熱安定性のDNA依存性DNAポリメラーゼを使用し得るが、代表的にTaq DNAポリメラーゼを使用する。これは、5’−3’ヌクレアーゼ活性を有するが、3’−5’校正エンドヌクレアーゼ活性は欠如する。従って、TaqMan(登録商標)PCRは、代表的に、その標的アンプリコンに結合したハイブリダイゼーションプローブにハイブリダイズするTaqポリメラーゼまたはTthポリメラーゼまたはTthポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性を利用するが、等価な5’ヌクレアーゼ活性を有する任意の酵素が使用され得る。PCR反応の代表的なアンプリコンを生成するために、2つのオリゴヌクレオチドプライマーが使用される。第3のオリゴヌクレオチドまたはプローブは、2つのPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出するように設計される。このプローブは、Taq DNAポリメラーゼ酵素により伸長されず、レポーター蛍光色素およびクエンチャー蛍光色素で標識される。レポーター色素からの任意のレーザー誘導性発光は、2つの色素が、それらがプローブ上に存在し、近接して位置する場合、色素をクエンチすることによりクエンチされる。増幅反応の間、Taq DNAポリメラーゼ酵素は、テンプレート依存様式でプローブを切断する。生じたプローブフラグメントは、溶液中で解離し、放出されたレポーター色素からのシグナルは、第2のフルオロフォアのクエンチ効果を受けない。レポーター色素の一分子は、合成された各新規分子を解放し、クエンチされていないリポーター色素の検出は、データの定量的解釈のための根拠を提供する。
【0059】
Taqman(登録商標)RT−PCRは、市販の装置(例えば、ABI PRISM7700TMSequence Detection SystemTM(Perkin−Elmer−Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)またはLightcycler(Roche Molecular Biochemicals、Mannheim、Germany))を使用して行われ得る。好ましい実施形態において、5’ヌクレアーゼ手順を、リアルタイム定量PCRデバイス(例えば、ABI PRISM 7700TMSequence Detection SystemTM)で行なう。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)カメラおよびコンピュータからなる。このシステムは、サーモサイクラー上で、96ウェル形式でサンプルを増幅する。増幅の間、レーザー誘導性蛍光シグナルは、光ファイバーケーブルを通して、96個の全てのウェルに対してリアルタイムで収集され、CCDで検出される。このシステムは、機器を作動させ、データを分析するためのソフトウェアを備える。
【0060】
5’ヌクレアーゼアッセイデータは、最初にCt、すなわち閾値周期として表される。上で議論されたように、蛍光値は、全ての周期の間記録され、増幅反応のその時点までに増幅された生成物の量を表す。蛍光シグナルが、統計的に有意として最初に記録される点は、閾値周期(Ct)である。
【0061】
誤差およびサンプル−サンプルの偏差の効果を最少化するために、RT−PCRは通常内標を用いて実施される。同一の内標は、異なる組織の間で比較的一定のレベルで発現され、実験処理によって影響を受けない。遺伝子発現のパターンを正規化するために最も頻繁に使用されるRNAは、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびβ−アクチンに対するmRNAである。
【0062】
RT−PCR技術のより最近の変化は、リアルタイム定量PCRであり、これは、二重標識蛍光(fluorigenic)プローブ(すなわち、TaqMan(登録商標)プローブ)を介してPCR産物蓄積を測定する。リアルタイムPCRは、定量的拮抗PCRに適合性であり、ここで、各標的配列に対する内部コンペティターは正規化のために使用され、そして、定量的比較PCRに適合性であり、定量的比較PCRは、サンプル中に含まれる正規化遺伝子またはRT−PCRのためのハウスキーピング遺伝子を使用する。さらなる詳細については、例えば、Heldら、Genome Research 6:986〜994(1996)を参照のこと。
【0063】
mRNA単離、精製、プライマー伸長および増幅を含む、固定したパラフィン包埋した組織をRNA供給源として使用する遺伝子発現を増幅するための代表的なプロトコルの工程は、種々の公開された雑誌論文に示されている{例えば、T.E.Godfreyら、J.Molec.Diagnostics 2:84〜91[2000];K.Spechtら、Am.J.Pathol.158:419〜29[2001]}。手短にいうと、代表的なプロセスは、パラフィン包埋腫瘍組織サンプルの約10μmの厚さの切片への切断で開始する。次いで、RNAを抽出し、タンパク質およびDNAを除去する。RNA濃度の分析後、RNA修復および/または増幅工程が含まれ得、必要な場合、遺伝子特異的プロモーターを使用して逆転写され、RT−PCRされる。
【0064】
(b.MassARRAYシステム)
Sequenom,Inc.(San Diego、CA)によって開発されたMassARRAYベースの遺伝子発現プロファイリング方法において、RNAの単離および逆転写の後に、得られたcDNAを合成DNA分子(コンペティター)でスパイク(spike)する。この合成DNA分子は、一つの塩基を除いて全ての位置で標的化cDNA領域に適合し、内標として役立つ。cDNA/コンペティター混合物をPCR増幅し、PCR後シュリンプアルカリホスファターゼ(SAP)酵素処理に供し、それにより、残るヌクレオチドの脱リン酸化を生じる。アルカリホスファターゼの不活性化後、コンペティター由来のPCR産物およびcDNAをプライマー伸長に供し、それにより、コンペティターに由来するPCR産物およびcDNAに由来するPCR産物に対する異なる量のシグナルが生じる。精製後、これらのサンプルを、チップアレイに分配し、これを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)を用いた分析に必要な成分で前処理する。次いで、この反応に存在するcDNAは、生成した質量分析におけるピーク面積の比を分析することにより定量化される。さらなる詳細については、例えば、DingおよびCantor、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:3059〜3064(2003)を参照のこと。
【0065】
(c.他のPCRに基づいた方法)
さらなるPCRに基づいた技術としては、例えば、ディファレンシャルディスプレイ(LiangおよびPardee、Science 257:967〜971(1992);増幅断片長多型(iAFLP)(Kawamotoら、Genome Res.12:1305〜1312(1999));BeadArrayTM技術(Illumina、San Diego、CA;Oliphantら、Discovery of Markers for Disease(Biotechniquesに対する補遺)、2002年6月;Fergusonら、Analytical Chemistry 72:5618(2000));遺伝子発現のための迅速なアッセイにおいて市販のLuminex100LabMAPシステムおよび多色でコードされたミクロスフェアを使用する遺伝子発現の検出のためのビーズアレイ(BADGE)(Yangら、Genome Res.11:1888〜1898(2001);ならびに広範囲発現プロファイリング(HiCEP)分析(Fukumuraら、Nucl.Acids.Res.31(16)e94(2003))が挙げられる。
【0066】
(3.マイクロアレイ)
差次的遺伝子発現はまた、マイクロアレイ技術を使用して同定され、確認され得る。従って、乳癌関連遺伝子の発現プロフィールは、新鮮な腫瘍組織またはパラフィン包埋腫瘍組織において、マイクロアレイ技術を使用して測定され得る。この方法において、目的のポリヌクレオチド配列(cDNAおよびオリゴヌクレオチドを含む)は、マイクロチップ基材上に配置され、整列される。次いで、この整列された配列は、目的の細胞または組織由来の特異的なDNAプローブとハイブリダイズされる。RT−PCR法と同様に、mRNAの源は代表的に、ヒト腫瘍または腫瘍細胞株および対応する正常組織または正常細胞株から単離された全RNAである。従って、RNAは、種々の一次腫瘍または腫瘍細胞株から単離され得る。mRNAの源が一次腫瘍である場合、mRNAは、例えば、凍結するか、保管したパラフィン包埋して固定した(例えば、ホルマリン固定した)組織サンプルから抽出され得る。これらの組織サンプルは、日常的に調製され、毎日の臨床業務において保存される。
【0067】
マイクロアレイ技術の特定の実施形態において、cDNAクローンのPCR増幅した挿入部分は、密度の高いアレイの基材に適用される。好ましくは、少なくとも約10,000個のヌクレオチド配列が、その基材に適用される。10,000個の各要素でマイクロチップ上に固定されたマイクロアレイ化された遺伝子は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションに適している。蛍光標識したcDNAプローブは、目的の組織からのRNA抽出物の逆転写により、蛍光ヌクレオチドの組込みを介して作製され得る。チップに適用された標識されたcDNAプローブは、アレイ上のDNAの各スポットに対して特異性を伴ってハイブリダイズする。非特異的な結合プローブを除去するためのストリンジェントな洗浄の後、そのチップは、共焦点レーザー顕微鏡または別の検出方法(例えば、CCDカメラ)により走査される。整列したそれぞれの要素のハイブリダイゼーションの定量は、対応するmRNAの量の評価を可能にする。2色蛍光を用いて、RNAの2つの源から作製した別々に標識したcDNAプローブは、2つ一組でアレイにハイブリダイズされる。従って、それぞれの特定の遺伝子に対応する2つの源からの転写産物の相対量は、同時に決定される。小型化した規模のハイブリダイゼーションは、簡便性および多数の遺伝子に対する発現パターンの迅速な評価を提供する。このような方法は、稀な転写残物(これは、細胞あたり数コピーで発現され、発現レベルの少なくとも約2倍の差で再現性を持って検出される。)を検出するために必要とされる感度を有することが示されている(Schenaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA93(2):106〜149(1996))。マイクロアレイ分析は、例えば、Affimetrix GenChip技術またはIncyteのマイクロアレイ技術を使用して製造者のプロトコルに従って、市販の装置により実施され得る。
【0068】
遺伝子発現の大規模な分析のためのマイクロアレイ方法の開発は、癌分類の分子マーカーについての体系的な探索を可能にさせ、種々の腫瘍型の結果予測を可能にさせる。
【0069】
(4.遺伝子発現の連続分析(SAGE))
遺伝子発現の連続分析(SAGE)は、各転写産物に対する個々のハイブリダイゼーションプローブを提供する必要がなく、多数の遺伝子転写産物の同時かつ定量的分析を可能にする方法である。第一に、転写産物を独自に同定するための十分な情報を含む短い配列タグ(約10〜14bp)を生成し、但し、タグは、各転写産物内の固有の位置から得られる。次いで、多くの転写産物が、一緒に連結され、長い連続する分子を形成し、それは、配列決定され得、複数のタグの同一性を同時に明らかにする。転写産物の任意の集団の発現パターンは、個々のタグの量を決定し、各タグに対応する遺伝子を同定することにより定量的に評価され得る。より詳細については、例えば、Velculescuら、Science 270:484〜487(1995)およびVelculescuら、Cell 88:243〜51(1997)を参照のこと。
【0070】
(5.大規模平行シグネチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現分析)
この方法(Brennerら、Nature Biotechnology 18:630〜634(2000)に記載される)は、非ゲルベースのシグネチャー配列決定を、別個の直径5μmのマイクロビーズ上の数百万のテンプレートのインビトロクローニングと合わせる配列決定アプローチである。第一に、DNAテンプレートのミクロビーズライブラリーは、インビトロクローニングにより構築される。これに続いて、フローセル中に高密度(代表的には、3×10マイクロビーズ/cmより大きい)でテンプレートを含むマイクロビーズのプレーナーアレイのアセンブリが構築される。各マイクロビーズ上のクローニングしたテンプレートの遊離末端は、DNAフラグメント分離を必要としない蛍光に基づいたシグネチャー配列決定方法を用いて同時に分析される。この方法は、一回の操作で、酵母cDNAライブラリー由来の数百から数千の遺伝子シグネチャー配列を同時かつ性格に提供することが示されている。
【0071】
(免疫組織化学)
免疫組織化学法はまた、本発明の予後判定マーカーの発現レベルを検出するのに適している。従って、発現を検出するために、抗体または抗血清、好ましくはポリクローナル抗血清、および最も好ましくは各マーカーに特異的なモノクローナル抗体が、使用され得る。この抗体は、抗体自体を、例えば、放射性標識、蛍光標識、ハプテン標識(例えば、ビオチン)または酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)で直接標識することにより検出され得る。あるいは、標識していない一次抗体は、標識した二次抗体と結合して使用され、この二次抗体は、一次抗体に特異的な抗血清、ポリクローナル抗血清またはモノクローナル抗体を含む。免疫組織化学プロトコルおよびキットは、当該分野で周知であり、市販されている。
【0072】
(プロテオミクス)
用語「プロテオーム」は、特定の時点におけるサンプル(例えば、組織、生体または細胞培養物)に存在するタンパク質の全体として定義される。プロテオミクスとしては、特に、サンプルにおけるタンパク質発現の全体的な変化の研究(「発現プロテオミクス」とも呼ばれる)が挙げられる。プロテオミクスは、代表的には、以下の工程を包含する:(1)サンプル中の個々のタンパク質の2−Dゲル電気泳動(2−D PAGE)による分離;(2)上記ゲルから回収された個々のタンパク質の同定(例えば、質量分析またはN末端配列決定による)、および(3)バイオインフォマティクスを使用してのデータの分析。プロテオミクス法は、他の遺伝子発現プロファイリング方法に対する有用な補完であり、単独かまたは他の方法と組み合わせて使用され、本発明の予後マーカーの産物を検出し得る。
【0073】
(8.mRNAの単離、精製および増幅の一般的説明)
RNA供給源としての固定パラフィン包埋組織を使用して遺伝子発現をプロファイリングするための代表的なプロトコルの工程(mRNAの単離、精製、プライマー伸長および増幅を含む)は、種々の刊行された雑誌文献(例えば:T.E.Godfreyら J.Molec.Diagnostics 2:84−91[2000];K.Spechtら,Am.J.Pathol.158:419−29[2001])に提供されている。手短に言うと、代表的なプロセスは、パラフィン包埋腫瘍組織サンプルの約10μmの厚さの切片を切り出す工程により開始する。次いで、RNAが抽出され、そしてタンパク質およびDNAが取り除かれる。RNA濃度の分析の後、必要な場合、RNAの修復および/または増幅工程が包含され得、そしてRNAは、遺伝子特異的プロモーターを使用して逆転写され、これにRT−PCRが続く。最後に、このデータを分析して、試験された腫瘍サンプルにおいて同定された特徴的な遺伝子発現パターンに基づいて、患者に利用可能な最良の処置選択肢を同定する。
【0074】
(9.EGFRインヒビター)
上皮成長因子レセプター(EGFR)ファミリー(これは、EGFR、erb−B2、erb−B3、およびerb−B4を含む)は、上皮悪性腫瘍で頻繁に活性化される成長因子レセプターのファミリーである。従って、上皮成長因子レセプター(EGFR)は、いくつかの腫瘍型(例えば、卵巣癌、膵癌、非小細胞肺癌{NSCLC}、乳癌、ならびに頭部癌および頚部癌が挙げられる)で活性であることが公知である。いくつかのEGFRインヒビター(例えば、ZD1839(ゲフィチニブ(gefitinib)またはIressaとしても公知);およびOSI774(Erlotinib,TarcevaTM))は、癌の処置のための有望な薬物候補である。
【0075】
Iressa(小さな合成キナゾリン)は、EGFRのATP結合部位(成長促進レセプターチロシンキナーゼ)を、競合的に阻害し、非小細胞肺癌の処置のための、第III段階の臨床試験において試験された。別のEGFRインヒビター([agr]シアノ−[bgr]メチル−N−[(トリフルオロメトキシ)フェニル]−プロペンアミド(LFM−A12)は、ヒト乳癌細胞の増殖および浸潤性を阻害すると示された。
【0076】
セテュキシマブ(Cetuximab)は、EGFRおよびEGFR依存性の細胞増殖をブロックするモノクローナル抗体である。これは、現在、第III段階の臨床試験において試験されている。
【0077】
TarcevaTMは、進行した卵巣癌、ならびに非小細胞肺癌および頭部癌および頚部癌を有する患者において、抗癌活性の有望な徴候を示した。
【0078】
本発明は、EGFRインヒビター薬での処置のための候補である患者が、EGFRインヒビターでの処置に応答するか否かを予測する、価値のある分子マーカーを提供する。
【0079】
EGFRインヒビターの列挙された例は、有機低分子の薬物および抗EGFR抗体クラスの薬物の両方を表す。本発明の知見は、他のEGFRインヒビター(アンチセンス分子、小ペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない)に等しく適合する。
【0080】
本発明のさらなる詳細は、以下の非限定的な実施例から明らかである。
【実施例】
【0081】
(非小細胞肺癌(NSCL)における遺伝子発現の第II段階の研究)
遺伝子発現研究を、EGFRインヒビターでの処置に応答するか、または応答しない、NSCLC患者のパラフィン包埋固定組織サンプルにおける遺伝子発現を分子的に特徴付けることを第1の目標として、設計して行った。その結果は、1つのEGFRインヒビターの使用に基づく。
【0082】
(研究設計)
分子アッセイを、NSCLCと診断された39人の個々の患者から得られたパラフィン包埋したホルマリン固定腫瘍組織について行った。材料および方法の節に記載されるように実行した組織病理学的評価が、適切な量の腫瘍組織を示した場合にのみ、患者を研究に含めた。全ての患者が、NSCLCの以前の処置の経歴を有し、前処置の性質は変化した。
【0083】
(材料および方法)
各代表的な腫瘍ブロックを、腫瘍の量および腫瘍の程度の、診断用の半定量的な評価のための標準的な組織病理学によって特徴付けた。全部で6個の切片(各々、厚さが10ミクロン)を作製して、2つのCostar Brand Microcentrifuge Tube(ポリプロピレン、1.7mLチューブ、透明;各チューブ中に3個の切片)中に配置した。腫瘍が、標本面積全体の30%未満を構成した場合、サンプルは、病理学者によって、腫瘍組織をCostarチューブに直接入れて粗く解剖された。
【0084】
1個以上の腫瘍ブロックが外科手術的手順の一部として得られた場合、その病理を最も代表するブロックを、分析のために使用した。
【0085】
(遺伝子発現分析)
mRNAを、固定パラフィン包埋組織サンプルから抽出して精製し、そして上記のような遺伝子発現分析のために調製した。
【0086】
定量的遺伝子発現の分子アッセイを、RT−PCRによって、ABI PRISM 7900TM Sequence Detection SystemTM(Perkin−Elmer−Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を使用して行った。ABI PRISM 7900TMは、サーモサイクラー、レーザー電荷結合素子(CCD)、カメラおよびコンピュータから構成される。このシステムは、384ウェル形式のサンプルを、サーモサイクラーで増幅する。増幅の間、レーザー誘導蛍光シグナルは、384ウェルの全てについて光ファイバーケーブルを通ってリアルタイムで収集され、そしてCCDにおいて検出される。上記システムは、機器を稼動するため、およびデータを分析するためのソフトウエアを備える。
【0087】
(分析および結果)
腫瘍組織を、187個の癌関連遺伝子および5個の参照遺伝子について分析した。各患者についての閾値周期(CT)値を、特定の患者についての全ての参照遺伝子の平均値に基づいて正規化した。臨床結果データは、全ての患者について利用可能であった。
【0088】
結果を、2つの方法で評価し、患者を、応答に対して2つの群に各々わけた。
【0089】
1つの分析は、完全寛解または部分寛解[RES]を1つの群として分類し、そして安定な疾患(最短で3ヶ月)または進行性疾患をもう1つの群[NR]として分類した。2番目の分析は、患者を臨床的恩恵に対して群にわけ、ここで、臨床的恩恵とは、部分寛解、完全寛解、または3ヶ月の安定な疾患と定義された。
【0090】
寛解(部分寛解および完全寛解)を、固体腫瘍における寛解評価基準(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors(RECIST診断基準)によって決定した。安定な疾患を、3ヶ月以上の進行性疾患がないことと指定した。
【0091】
(t検定による患者の分析)
分析を、39人の処置した患者全てに対して行い、正規化遺伝子発現とRES(寛解)またはNR(非寛解)の二元結果との間の関係を決定した。t検定を、RESまたはNRと分類された患者の群に対して行い、各遺伝子についての群間の差異についてのp値を計算した。以下の表は、群間の差異についてのp値が<0.15であった39個の遺伝子を列挙する。この場合において、寛解は、腫瘍が>50%収縮した場合は部分寛解と定義し、そして腫瘍が消失した場合は完全寛解と定義した。示したように、寛解を、7人の患者において同定した。
【0092】
【表1】

上記の表1において、より低い平均発現C値は、患者の遺伝子のより低い発現を示し、そして反対に、より高い平均発現値は、患者の遺伝子のより高い発現を示す。従って、例えば、STAT5B遺伝子の発現は、処理に対して応答した患者よりも、EGFRインヒビター処置に対して応答しなかった患者において、より高かった。従って、STAT5Bの発現の増加は、EGFRインヒビターでの処置の結果が乏しかったことの指標である。別なように表現すると、STAT5B遺伝子がNSCLC患者の癌から得られた組織サンプルにおいて過剰発現される場合、EGFRインヒビターでの処置は、機能する可能性がなく、従って、医者は、代替的な処置選択肢を探すことが十分に勧められる。
【0093】
従って、腫瘍における以下の発現の増加は、患者がEGFRインヒビターでの処置に良好に応答する可能性がないことの指標である:Furin;STAT5B;KRT17;PDGFRa;TIMP2;GPX2;LAMC2;IGF1R;WISP1;cdc25A;RPLPO;TAGLN;YB−1;CKAP4;またはhCRA。一方、以下の発現の増加は、患者がEGFRインヒビターでの処置に応答する可能性があることの指標である:DHFR;TITF1;B2M;MUC1;XIAP;RRM;DPYD;EPHX1;Hepsin;E2F1;HNF3A;mGSTl;STAT3;p53R2;EGFR;Kitlng;HER2;Surfact A;LMYC;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1,またはClaudin 4。
【0094】
以下の表2において、二元分析を、臨床的恩恵に対して行い、部分寛解、完全寛解、または安定な疾患のいずれかと定義した。示したように、12人の患者が、臨床的恩恵についてのこれらの診断基準を満たす。
【0095】
【表2−1】

【0096】
【表2−2】

上の表2に示したように、6個の遺伝子が、p<0.1で臨床的恩恵と相関した。hCRA a;LAMC2;STAT5B;CKAP4;TAGLN;Furin;FUS;FLT1;TIMP2;RASSF1;WISP1;VEGFC;GPX2;AKAP12;RPL19;IGFBP6;MMP2;STMY3;PDGFRb;GSTp;IGFBP3;またはMMP9の発現は、抗EGFR処置に応答しなかった患者においてより高かった。従って、これらの遺伝子のより高い発現は、患者が抗EGFR処置から恩恵を受ける可能性がないことの指標である。反対に、B2M;LMYC;DHFR;CCND3;TITF1;CTSH;APC;Bak;CyclinG1;Hepsin1;XIAP;MUC1;p53R2;またはDPYDの発現は、抗EGFR処置に応答しなかった患者においてより高かった。これらの遺伝子のより大きな発現は、患者が抗EGFR処置から恩恵を受ける可能性があることを示唆している。
【0097】
上記の分析に加えて、ロバストロジスティック回帰(David W.Hosmer,Jr.およびStanley Lameshow[2000]Applied Logistic Regression Wiley,N.Y;Peter J.Huber[1981]Robust Statistics,John Wiley & Sons,N.Y.)を行って、応答とEMP1参照正規化遺伝子発現レベルとの間の関係を評価した。EMP1の機能が得られた場合、Hubers M−estimateに基づくロバストロジスティック見積り手順を、応答の可能性の見積りを得るために使用した。この分析に基づいて、患者は、−1.43より大きな参照正規化EMP1遺伝子発現レベルについての応答の10%未満の可能性を有することが見積もられる。従って、遺伝子EMP1の発現の増加は、化学療法に対する応答の可能性を減少させる。
【0098】
本明細書中に表されるデータは、NSCLC由来の組織サンプルを使用して得られたが、組織発現プロファイルから得られる結論は、他の癌(例えば、結腸癌、卵巣癌、膵臓癌、乳癌、ならびに頭部癌および頚部癌)に等しく適合可能であることが強調される。
【0099】
本明細書全体にわたって記載された全ての参考文献は、本明細書中で明確に参考として援用される。
【0100】
本発明は、ある特定の実施形態について強調して記載されたが、特定の方法および技術において改変および変更が可能であることは、当業者に明らかである。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような、本発明の精神および範囲内に包含される変更の全てを含む。
【0101】
【表3−1】

【0102】
【表3−2】

【0103】
【表4−1】

【0104】
【表4−2】

【0105】
【表4−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体がEGFRインヒビターを用いる処置に応答する可能性を予測するための方法であって、該方法は、患者から得られる癌細胞を含む生物学的サンプルにおいて、1種以上の予後RNA転写物またはそれらの発現産物の発現レベルを決定する工程を包含し、ここで該予後転写物は、以下、:hCRA a;LAMC2;B2M;STAT5B;LMYC;CKAP4;TAGLN;Furin;DHFR;CCND3;TITF1;FUS;FLT1;TIMP2;RASSF1;WISP1;VEGFC;GPX2;CTSH;AKAP12;APC;RPL19;IGFBP6;Bak;CyclinG1;Hepsin1;MMP2;XIAP;MUC1;STMY3;PDGFRb;GSTp;p53R2;DPYD;IGFBP3;MMP9;RRM;KRT17;PDGFRa;EPHX1;E2F1;HNF3A;mGST1;STAT3;IGF1R;EGFR;cdc25A;RPLPO;YB−1;CKAP4;Kitlng;HER2;Surfact A;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1;Claudin 4;EMP1からなる群より選択される、1種以上の遺伝子の転写物であって、ここで、
(a)hCRA a;LAMC2;STAT5B;CKAP4;TAGLN;Furin;FUS;FLT1;TIMP2;RASSF1;WISP1;VEGFC;GPX2;AKAP12;RPL19;IGFBP6;MMP2;STMY3;PDGFRb;GSTp;IGFBP3;MMP9;KRT17;PDGFRa;IGF1R;cdc25A;RPLPO;YB−1;CKAP4、EMP1または対応する発現産物の1種以上の上昇した発現の全ての単位について、該被験体は、EGFRインヒビターを用いる処置に応答する可能性が減少することが予期される方法であって、そして、
(b)B2M;LMYC;DHFR;CCND3;TITF1;CTSH;APC;Bak;CyclinG1;Hepsin1;XIAP;MUC1;p53R2;DPYD;RRM;EPHX1;E2F1;HNF3A;mGST1;STAT3;EGFR;Kitlng;HER2;Surfact A;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1;Claudin 4または対応する発現産物の1種以上の上昇した発現の全ての単位について、該被験体は、EGFRインヒビターを用いる処置に応答する可能性が増加することが予期される、方法。
【請求項2】
前記被験体が、ヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予後転写物またはそれらの発現産物のうちの少なくとも2種の発現レベルを決定する工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記予後転写物またはそれらの発現産物のうちの少なくとも5種の発現レベルを決定する工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記予後転写物またはそれらの発現産物のすべての発現レベルを決定する工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記癌が、卵巣癌、結腸癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、乳癌、ならびに頭部癌および頸部癌からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的サンプルが、癌細胞を含む組織サンプルである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記組織が、固定組織、パラフィン包埋組織、または新鮮な組織、または凍結組織である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記組織が、細針生検、針生検、または他の型の生検に由来する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組織サンプルが、細針吸引、気管支洗浄、または経気管支生検によって得られる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記予後RNA転写物の発現レベルが、RT−PCRによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記発現産物の発現レベルが、免疫組織化学によって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記発現産物の発現レベルが、プロテオミクス技術によって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
予後RNA転写物またはそれらの発現産物を測定するためのアッセイが、キットの形態で提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記EGFRインヒビターが、抗体または抗体フラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記EGFRインヒビターが、低分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
固体表面上に固定化された、以下:hCRA a;LAMC2;B2M;STAT5B;LMYC;CKAP4;TAGLN;Furin;DHFR;CCND3;TITF1;FUS;FLT1;TIMP2;RASSF1;WISP1;VEGFC;GPX2;CTSH;AKAP12;APC;RPL19;IGFBP6;Bak;CyclinG1;Hepsin1;MMP2;XIAP;MUC1;STMY3;PDGFRb;GSTp;p53R2;DPYD;IGFBP3;MMP9;RRM;KRT17;PDGFRa;EPHX1;E2F1;HNF3A;mGST1;STAT3;IGF1R;EGFR;cdc25A;RPLPO;YB−1;CKAP4;Kitlng;HER2;Surfact A;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1;Claudin 4;EMP1の1種以上の遺伝子に対してハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、アレイ。
【請求項18】
複数の前記遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項17に記載のアレイ。
【請求項19】
前記遺伝子のうちの少なくとも5種にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項18に記載のアレイ。
【請求項20】
前記遺伝子のうちの少なくとも10種にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項18に記載のアレイ。
【請求項21】
前記遺伝子のうちの少なくとも15種にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項18に記載のアレイ。
【請求項22】
前記遺伝子の全てにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、請求項18に記載のアレイ。
【請求項23】
同一の遺伝子にハイブリダイズする2種以上のポリヌクレオチドを含む、請求項18に記載のアレイ。
【請求項24】
前記ポリヌクレオチドのうちの少なくとも1種が、イントロンベースの配列を含み、その発現は、対応するエクソン配列の発現と関連する、請求項18に記載のアレイ。
【請求項25】
前記ポリヌクレオチドが、cDNAである、請求項17に記載のアレイ。
【請求項26】
前記cDNAが、約500〜約5000塩基長である、請求項25に記載のアレイ。
【請求項27】
前記ポリヌクレオチドが、オリゴヌクレオチドである、請求項17に記載のアレイ。
【請求項28】
前記オリゴヌクレオチドが、約20〜約80塩基長である、請求項27に記載のアレイ。
【請求項29】
約330,000オリゴヌクレオチドを含む、請求項28に記載のアレイ。
【請求項30】
前記固体表面が、ガラスである、請求項17に記載のアレイ。
【請求項31】
患者についての個別のゲノムプロファイルを調製する方法であって、以下:
(a)該患者から得られた癌細胞から抽出されたRNAを、遺伝子発現分析に供する工程:
(b)以下、:hCRA a;LAMC2;B2M;STAT5B;LMYC;CKAP4;TAGLN;Furin;DHFR;CCND3;TITF1;FUS;FLT1;TIMP2;RASSF1;WISP1;VEGFC;GPX2;CTSH;AKAP12;APC;RPL19;IGFBP6;Bak;CyclinG1;Hepsin1;MMP2;XIAP;MUC1;STMY3;PDGFRb;GSTp;p53R2;DPYD;IGFBP3;MMP9;RRM;KRT17;PDGFRa;EPHX1;E2F1;HNF3A;mGST1;STAT3;IGF1R;EGFR;cdc25A;RPLPO;YB−1;CKAP4;Kitlng;HER2;Surfact A;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1、EMP1からなる群より選択される1種以上の遺伝子の、組織における発現レベルを決定する工程であって、ここで、該発現レベルは、コントロール遺伝子(単数または複数)に対して標準化され、そして必要に応じて、対応する癌関連組織セットにおいて見出される量と比較される、工程:ならびに
(c)該遺伝子発現分析によって得られたデータを要約する報告を作成する工程、を包含する方法。
【請求項32】
前記癌細胞が、固形腫瘍から得られる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
上記固形腫瘍が、乳癌、卵巣癌、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、および肺癌からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記癌細胞が、固定サンプル、パラフィン包埋生検サンプルから得られる、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記RNAが、フラグメント化されている、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記報告が、前記患者が、EGFRインヒビターを用いる処置に応答する可能性の予想を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記報告が、前記患者の処置様式についての推奨を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
以下、B2M;LMYC;DHFR;CCND3;TITF1;CTSH;APC;Bak;CyclinG1;Hepsin1;XIAP;MUC1;p53R2;DPYD;RRM;EPHX1;E2F1;HNF3A;mGST1;STAT3;EGFR;Kitlng;HER2;Surfact A;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1;Claudin 4または対応する発現産物の1種以上の発現の上昇が決定される場合、前記報告が、前記被験体は、EGFRインヒビターを用いる処置に応答する可能性が増加するという予測を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記患者を、EGFRインヒビターを用いて処置する工程をさらに包含する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
以下、hCRA a;LAMC2;B2M;STAT5B;LMYC;CKAP4;TAGLN;Furin;DHFR;CCND3;TITF1;FUS;FLT1;TIMP2;RASSF1;WISP1;VEGFC;GPX2;CTSH;AKAP12;APC;RPL19;IGFBP6;Bak;CyclinG1;Hepsin1;MMP2;XIAP;MUC1;STMY3;PDGFRb;GSTp;p53R2;DPYD;IGFBP3;MMP9;RRM;KRT17;PDGFRa;EPHX1;E2F1;HNF3A;mGST1;STAT3;IGF1R;EGFR;cdc25A;RPLPO;YB−1;CKAP4;Kitlng;HER2;Surfact A;BTC;PGK1;MTA1;FOLR1;Claudin 4;EMP1からなる群より選択される遺伝子を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅するための方法であって、表3に列挙される対応するアンプリコン、および表4に列挙される対応するプライマープローブセットを使用して、該PCRを実行する工程を包含する、方法。
【請求項41】
表4に列挙される、PCRプライマープローブセット。
【請求項42】
表3に列挙される、PCRアンプリコン。

【公表番号】特表2007−506442(P2007−506442A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533538(P2006−533538)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/017215
【国際公開番号】WO2004/111273
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(505175858)ゲノミック ヘルス, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】