説明

Eg5遺伝子発現の抑制のための組成物および方法

本発明は30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜25ヌクレオチド長であり、そしてEg5遺伝子の少なくとも一部分に実質的に相補であるヌクレオチド配列を有するアンチセンス鎖を含む、Eg5遺伝子の発現(Eg5遺伝子)を抑制するための2本鎖リボ核酸(dsRNA)に関する。本発明は又製薬上許容しうる担体と共にdsRNAを含む医薬組成物;医薬組成物を用いたEg5発現及びEg5遺伝子の発現により誘発される疾患を治療するための方法;及び、細胞におけるEg5遺伝子の発現を抑制するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2006年3月31日に出願された米国仮特許出願第60/787,762号および2006年12月15日に出願された米国仮特許出願第60/870,259号の利益を主張する。先願は両方とも、本明細書中にその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は2本鎖リボ核酸(dsRNA)及びEg5遺伝子の発現を抑制するためにRNA干渉を媒介する場合におけるその使用、及び、単独又はdsRNAターゲティング血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と組み合わせた、Eg5発現により媒介される病理学的プロセス、例えば癌を治療するためのdsRNAの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
生物内部の細胞集団の維持は細胞分裂及びプログラムされた細胞死の細胞プロセスにより支配されている。正常細胞内部では各プロセスの開始及び終了に関連する細胞事象は高度に調節される。癌のような増殖性疾患においては、これらのプロセスの一方又は両方が混乱している場合がある。例えば癌細胞は、正の調節物質の過剰発現、又は恐らくは突然変異による負の調節物質の喪失の何れかを介して細胞分裂周期のその調節(チェックポイント制御)を喪失していると考えられる。
【0004】
或いは、癌細胞は負の調節物質の過剰発現を介してプログラムされた細胞死を起こす能力を喪失していると考えられる。従って、チェックポイント制御及びプログラムされた細胞死のプロセスを癌細胞に復活させる新しい化学療法剤の開発が必要とされている。
【0005】
ヒトの癌の治療の1つのアプローチは細胞周期の進行のために必須な蛋白をターゲティングすることである。細胞周期が1つの期から次に進行するためには、特定の要件事象が完了されなければならない。細胞周期には事象及び期の適切な順番を強制させるチェックポイントが存在する。そのようなチェックポイントの1つは有糸分裂の中期の段階に起こる紡錘体チェックポイントである。有糸分裂において必須の機能を有する蛋白をターゲティングする小分子は紡錘体チェックポイントを開始することにより有糸分裂における細胞を停止させる。有糸分裂において細胞を停止させる小分子のうち、臨床において抗腫瘍活性を示すものは、プログラムされた細胞死に関連する形態学的変化であるアポトーシスも誘導する。即ち癌の治療のための有効な化学療法剤はチェックポイント制御及びプログラムされた細胞死を誘導するものであってよい。残念なことに、細胞内でこれらのプロセスを制御するために使用できる化合物はほとんど存在しない。有糸分裂停止およびアポトーシス活性を引き起こすことが知られている大半の化合物は、チューブリン結合剤として作用する。これらの化合物は微小管の動的不安定性を改編し、そして有糸分裂紡錘体の機能/構造を間接的に改変することにより有糸分裂を停止させる。これらの化合物の大部分はすべての微小管の成分であるチューブリン蛋白を特異的にターゲティングするため、それらは又、微小管が役割を果たしている多くの正常な細胞プロセスの1つ以上にも影響する場合がある。従ってまた、増殖中の細胞に関連する蛋白をより特異的にターゲティングする小分子が必要とされている。
【0006】
Eg5は有糸分裂紡錘体に局在し、双極性の有糸分裂紡錘体の形成及び/又は機能のために必要であることが分かっている数種のカイネシン様モーター蛋白の1つである。最近、有糸分裂紡錘体の双極性をかく乱する小分子が報告されている(非特許文献1、参照により本明細書に組み込まれる)。より詳細には、小分子は異常な有糸分裂紡錘体の形成を誘導し、その場合、中心体の中央の対から微小管のモノアストラル型のアレイが発生し、染色体は微小管の遠位の末端に連結している。小分子はモノアストラルアレイにちなんで「モナストロール」と称されている。このモノアストラルアレイの表現型はEg5のモーター蛋白が免疫枯渇している有糸分裂細胞において以前に観察されている。この区別可能な固有のモノアストラルアレイの表現型がEg5の潜在的抑制剤としてのモナストロールの同定を促進している。実際、モナストロールは更に、インビトロの試験において微小管のEg5モーター駆動運動性を抑制することが分かっている。Eg5抑制剤モナストロールは関連するカイネシンモーターに対して、又は、細胞内のゴルジ体の運動を担っているモーターに対しても明らかな作用を有していない。Eg5の免疫枯渇又はEg5のモナストロール抑制の何れかを介してモノアストラルアレイ表現型を示す細胞は細胞周期のM期において停止する。しかしながら、Eg5の免疫枯渇又は抑制の何れかにより誘導された有糸分裂停止は一過性である(非特許文献2)。モノアストラルアレイ表現型及びモナストロールにより誘導された有糸分裂における細胞周期の停止は共に可逆である。細胞は回復して正常な双極性有糸分裂紡錘体を形成し、有糸分裂を完了し、そして細胞周期を通過して正常な細胞増殖に到る。これらのデータは一過性の有糸分裂停止を誘導したEg5の小分子抑制剤が癌細胞の増殖の治療のために有効ではないかもしれないことを示唆している。しかしなお、モナストロールが有糸分裂停止を誘発するという発見は興味深いものであり、従って、ヒトの癌の治療において有効である態様においてEg5モーター蛋白をモジュレートするために使用できる化合物を更に研究して同定する必要性がある。他の抗新生物剤と組み合わせたこれらの化合物の使用を研究する必要性もある。
【0007】
VEGF(血管透過性因子VPFとしても知られている)は血管形成、上皮細胞増殖及び内皮細胞生存を刺激する多機能性サイトカインである。VEGFは多くの種類の組織により生産され、そしてその過剰発現又は異常な発現は種々の障害、例えば癌及び網膜障害、例えば加齢関連黄斑変性及び他の血管形成障害をもたらす場合がある。
【0008】
最近、2本鎖RNA分子(dsRNA)がRNA干渉(RNAi)として知られている高度に保存された調節機序において遺伝子発現をブロックすることがわかった。WO99/32619(Fireら)はC.elegansにおける遺伝子発現を抑制するための少なくとも25ヌクレオチド長のdsRNAの使用を開示している。dsRNAは又他の生物、例えば植物(特許文献1、Waterhouseら;及び特許文献2、Heifetzら参照)、ショウジョウバエ(例えば非特許文献3参照)、及び哺乳類(特許文献3、Limmer;及び特許文献4、Kreutzerら参照)においても標的RNAを分解することが分かっている。この天然の機序は現在では遺伝子の異常又は望ましくない調節により誘発される障害を治療するための新しいクラスの医薬品の開発のために注目されている。
【0009】
RNAiの分野における顕著な進歩及びEg5発現により媒介される病理学的プロセスの治療における進歩にもかかわらず、高い生物学的活性及びインビボの安定性の両方を有する細胞自身のRNAi機序を用いてEg5遺伝子を選択的及び効率的にサイレント化することができる、そして、Eg5発現により媒介される病理学的プロセスを治療する場合に使用するための標的Eg5遺伝子の発現を効果的に抑制することができる薬剤の必要性が残存している。
【特許文献1】国際公開第99/53050号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/61631号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/44895号パンフレット
【特許文献4】独国特許第10100586.5号明細書
【非特許文献1】Mayer,T.U.ら、1999、Science286(5441)971−4
【非特許文献2】Kapoor,T.M.,2000、J Cell Biol 150(5)975−80
【非特許文献3】Yang,D.ら、Curr.Biol.(2000)10:1191−1200
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は2本鎖リボ核酸(dsRNA)、並びにそのようなdsRNAを単独又はdsRNAターゲティングVEGFと組み合わせて使用することにより細胞又は哺乳類におけるEg5遺伝子の発現を抑制するための組成物及び方法を提供する。本発明は又、癌のようなEg5遺伝子の発現により誘発される病理学的状態および疾患を治療するための組成物及び方法を提供する。本発明のdsRNAは30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜24ヌクレオチド長であり、そしてEg5遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部分に実質的に相補である領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。
【0011】
1つの実施形態において、本発明はEg5遺伝子の発現を抑制するための2本鎖リボ核酸(dsRNA)分子を提供する。dsRNAは相互に相補である少なくとも2つの配列を含む。dsRNAは第1の配列を含むセンス鎖及び第2の配列を含むアンチセンス鎖を含む。アンチセンス鎖はEg5をコードするmRNAの少なくとも一部分に実質的に相補であるヌクレオチド配列を含み、そして相補性の領域は30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜24ヌクレオチド長である。dsRNAはEg5を発現する細胞に接触すると少なくとも40%Eg5遺伝子の発現を抑制する。
【0012】
例えば本発明のdsRNA分子は表1〜3のセンス配列よりなる群から選択されるdsRNAの第1の配列、及び、表1〜3のアンチセンス配列よりなる群から選択されるdsRNAの第2の配列を含むことができる。本発明のdsRNA分子は天然に存在するヌクレオチドを含むことができるか、又は、少なくとも1つの修飾されたヌクレオチド、例えば2’−O−メチル修飾ヌクレオチド、5’−ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、及びコレステリル誘導体に連結された末端ヌクレオチドを含むことができる。或いは、修飾されたヌクレオチドは2’−デオキシ−2’−フルオロ修飾ヌクレオチド、2’−デオキシ−修飾ヌクレオチド、ロックドヌクレオチド、無塩基ヌクレオチド、2’−アミノ修飾ヌクレオチド、2’−アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミデート及び非天然塩基含有ヌクレオチドの群から選択してよい。一般的にそのような修飾配列は表1〜3のセンス配列よりなる群から選択される該dsRNAの第1の配列、及び、表1〜3のアンチセンス配列よりなる群から選択される第2の配列に基づくことになる。
【0013】
別の実施形態においては、本発明は本発明のdsRNAの1つを含む細胞を提供する。細胞は一般的に哺乳類細胞、例えばヒト細胞である。
【0014】
別の実施形態においては、本発明は本発明のdsRNA1つ以上、及び、製薬上許容しうる担体又は送達ベヒクルを含む、生物、一般的にヒト対象におけるEg5遺伝子の発現を抑制するための医薬組成物を提供する。
【0015】
別の実施形態において、本発明は下記工程:
(a)2本鎖リボ核酸(dsRNA)を細胞内に導入すること、ここでdsRNAは相互に相補である配列少なくとも2つを含むものであること。dsRNAは第1の配列を含むセンス鎖及び第2の配列を含むアンチセンス鎖を含む。アンチセンス鎖はEg5をコードするmRNAの少なくとも一部分に実質的に相補的な相補性領域を含み、そしてここで、相補性領域は30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜24ヌクレオチド長であり、そしてここでdsRNAは、該Eg5を発現する細胞に接触すると、Eg5遺伝子の発現を少なくとも40%抑制するものであること;そして、
(b)Eg5遺伝子のmRNA転写物の分解を達成するために十分な時間、工程(a)で生成した細胞を維持することにより、細胞におけるEg5遺伝子の発現を抑制すること、
を含む細胞におけるEg5の発現を抑制するための方法を提供する。
【0016】
別の実施形態においては、本発明はEg5の発現により媒介される病理学的プロセス、例えば癌を治療、予防又は管理する方法であって、本発明のdsRNA1つ以上の治療又は予防有効量をそのような治療、予防又は管理を必要とする患者に投与することを含む上記方法を提供する。
【0017】
別の実施形態においては、本発明は、本発明のdsRNA1つの鎖少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結した調節配列を含む、細胞におけるEg5遺伝子の発現を抑制するためのベクターを提供する。
【0018】
別の実施形態においては、本発明は細胞中のEg5遺伝子の発現を抑制するためのベクターを含む細胞を提供する。ベクターは本発明のdsRNAの1つの鎖少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結した調節配列を含む。
【0019】
別の実施形態においては、本発明はVEGFmRNAをターゲティングする第2のdsRNAと組み合わせた上記Eg5dsRNA及びその使用を提供する。Eg5をターゲティングするdsRNA及びVEGFをターゲティングする第2のdsRNAの組み合わせは過剰増殖性障害、特に肝臓癌を治療するための補足的及び相乗作用的な活性を提供する。
【0020】
(図面の簡単な説明)
図面なし。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明はdsRNAを用いた細胞又は哺乳類におけるEg5遺伝子の発現を抑制するための2本鎖リボ核酸(dsRNA)並びに組成物及び方法を提供する。本発明は又dsRNAを使用したEg5遺伝子の発現により誘導される哺乳類における病理学的状態及び疾患を治療するための組成物及び方法を提供する。dsRNAはRNA干渉(RNAi)として知られているプロセスを介してmRNAの配列特異的分解を指向する。本発明は更にVEGF遺伝子の発現を抑制する第2のdsRNAと組み合わせた本dsRNAを提供する。
【0022】
本発明のdsRNAは30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜24ヌクレオチド長であり、Eg5遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部分に実質的に相補である領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。これらのdsRNAの使用は哺乳類における癌細胞の複製及び/又は維持において関与が示唆されている遺伝子のmRNAのターゲティングされた分解を可能とする。細胞系及び動物試験を用いた場合、本発明は、これらのdsRNAの極めて低い用量がRNAiを特異的及び効率的に媒介し、Eg5遺伝子の発現の顕著な抑制をもたらすことを明らかにしている。即ち、これらのdsRNAを含む本発明の方法及び組成物は、有糸分裂に関与する遺伝子をターゲティングすることにより例えば癌のようなEg5発現により媒介される病理学的プロセスを治療するために有用である。
【0023】
以下の詳細な説明はEg5遺伝子の発現を抑制するためのdsRNA及びdsRNAを含有する組成物の作成及び使用の方法、並びに、単独又はVEGF遺伝子をターゲティングする第2のdsRNAと組み合わせた、癌のようなEg5の発現により誘発される疾患及び障害を治療するための組成物及び方法を開示する。本発明の医薬組成物は、製薬上許容しうる担体と共に、30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜24ヌクレオチド長であり、Eg5遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部分に実質的に相補である相補性領域を含むアンチセンス鎖を有するdsRNA、および製薬上許容しうる担体を含む。上記した通り、そのような組成物はさらにVEGFをターゲティングする第2のdsRNAを更に包含することができる。
【0024】
従って、本発明の特定の特徴は製薬上許容しうる担体と共に本発明のdsRNAを含む医薬組成物、Eg5遺伝子の発現を抑制するための組成物の使用方法、及び、Eg5遺伝子の発現により誘発される疾患を治療するために医薬組成物を使用する方法を提供する。本発明は更にVEGFの発現を抑制するように設計された第2のdsRNAを更に含有する上記医薬組成物を提供する。
【0025】
I.定義
便宜上、本明細書、実施例及び添付の請求項において使用する特定の用語及び表現の意味を以下に提示する。本明細書の他の部分におけるある用語の用法と、本セクションにおいて提示されるその定義の間に明らかな不一致がある場合は、本セクションにおける定義が優先する。
【0026】
「G」、「C」、「A」及び「U」は各々一般的にグアニン、シトシン、アデニン及びウラシルをそれぞれ塩基として含有するヌクレオチドを表す。しかしながら、「リボヌクレオチド」又は「ヌクレオチド」という用語はまた、後に詳述する通り、修飾されたヌクレオチド又は代理置き換え部分を指すこともできる。当業者の知る通り、グアニン、シトシン、アデニン及びウラシルは他の部分で置き換えられてもよく、その際、そのような置き換え部分を担持するヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドの塩基対形成特性は大きく改変されないものとする。例えば、限定しないが、イノシンを自身の塩基として含むヌクレオチドは、アデニン、シトシン又はウラシルを含有するヌクレオチドと塩基対形成してよい。従って、ウラシル、グアニン又はアデニンを含有するヌクレオチドは、例えばイノシンを含有するヌクレオチドにより、本発明のヌクレオチド配列において置き換えられてよい。その様な置き換え部分を含む配列は本発明の実施形態である。
【0027】
本明細書においては、「Eg5」とは、ヒトカイネシンのファミリーメンバー11を指し、これは又KIF11、Eg5、HKSP、KNSL1又はTRIP5としても知られている。Eg5の配列はNCBIGeneID:3832、HGNCID:HGNC:6388及び参考配列ID番号:NM_004523として記載されている。
【0028】
本明細書においては、「標的配列」とは一次転写産物のRNAプロセシングの産物であるmRNAを包含するEg5遺伝子の転写の間に形成されるmRNA分子のヌクレオチド配列の隣接部分を指す。
【0029】
本明細書においては、血管透過性因子としても知られているVEGFは血管形成成長因子である。VEGFは、少なくとも3つの異なるアイソフォームで存在する、ホモ二量体45kDa糖タンパク質である。VEGFアイソフォームは内皮細胞中で発現される。VEGF遺伝子は189アミノ酸蛋白アイソフォームを発現する8エクソンを含有する。165アミノ酸アイソフォームはエクソン6によりコードされる残基を欠いており、121アミノ酸アイソフォームはエクソン6及び7によりコードされる残基を欠いている。VEGF145は145アミノ酸を含有し、エクソン7を欠いていると予測されるアイソフォームである。VEGFはFlt−1(VEGFR−1)又はKDR/flk−1(VEGFR−2)のような内皮チロシンキナーゼ受容体への結合により内皮細胞に対して作用できる。VEGFR−2は内皮細胞中で発現され、そして内皮細胞の分化および脈管形成に関与している。第3の受容体VEGFR−3はリンパ形成に関与しているとされている。
【0030】
種々のアイソフォームが異なる生物学的活性及び臨床的意義を有している。例えばVEGF145は血管形成を誘導し、そしてVEGF189と同様(しかしVEGF165とは異なり)VEGF145は細胞外のマトリックス関連ヘパリンスルフェートに依存しない機序により細胞外マトリックスに効率的に結合する。VEGFは内皮細胞有糸分裂及びインビトロの化学誘引剤としての活性を示し、そして血管の透過性及び血管形成をインビボで誘導する。VEGFは広範な種類の癌細胞型により分泌され、そして腫瘍関連脈管形成の発生を誘導することにより腫瘍の生育を増進する。VEGF機能の抑制は免疫無防備状態のマウスにおいて原発実験的腫瘍の生育と転移の発生率の両方を制限することが分かっている。VEGFに指向された種々のdsRNAが参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の米国特許出願11/078,073及び11/340,080に記載されている。
【0031】
本明細書においては、「配列を含む鎖」という用語は標準的なヌクレオチドの命名法を用いて言及される配列により説明されるヌクレオチドの鎖を含むオリゴヌクレオチドを指す。
【0032】
本明細書においては、そして特段の記載が無い限り、「相補」という用語は第1のヌクレオチド配列を第2のヌクレオチド配列との関連において説明するために使用する場合、当業者に知られる通り、第2のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドと、特定の条件下、ハイブリダイズしてデュプレックスを形成する第1のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの能力を指す。そのような条件は、ストリンジェントな条件であることができ、その場合ストリンジェントな条件は400mMNaCl、40mMPIPESpH6.4、1mMEDTA、50℃又は70℃12〜16時間の後洗浄を包含してよい。他の条件、例えば生物体内で遭遇する場合がある生理学的に該当する条件も適用できる。当業者であれば、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終的用途に従って2つの配列の相補性の試験のために最も適切な条件のセットを決定できる。
【0033】
これは第1及び第2のヌクレオチド配列の全長に渡る第2のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドへの第1のヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドの塩基対形成を包含する。そのような配列は本明細書においては相互に関して「完全に相補」と称される。しかしながら、本明細書においては第1の配列が第2の配列に関して「実質的に相補」と称される場合、2つの配列は完全に相補であることができるか、又は、それらはハイブリダイズにより1つ以上、一般的には4、3又は2つ以下のミスマッチの塩基対を形成してよいが、それらの最終的な用途に最も該当する条件下ではハイブリダイズする能力を保持している。しかしながら2つのオリゴヌクレオチドがハイブリダイゼーションにより1つ以上の1本鎖オーバーハングを形成するように設計される場合は、そのようなオーバーハングは相補性の決定に関してはミスマッチと見なしてはならない。例えば、21ヌクレオチド長の1つのオリゴヌクレオチド及び23ヌクレオチド長の別のオリゴヌクレオチドを含むdsRNAは、より長いオリゴヌクレオチドがより短いオリゴヌクレオチドに対して完全に相補である21ヌクレオチドの配列を含む場合、本発明の目的のためにはなお「完全に相補」と称してよい。
【0034】
「相補」な配列は本明細書においては、ハイブリダイズするそれらの能力に関する上記要件が満足される限り、非ワトソンクリック型塩基対及び/又は非天然の修飾されたヌクレオチドから形成された塩基対を包含するか、又はそれから完全に形成されてよい。
【0035】
「相補」、「完全に相補」及び「実質的に相補」という用語は、本明細書においては、それらの使用の内容から理解される通り、dsRNAのセンス及びアンチセンス鎖の間、又はdsRNAのアンチセンス鎖と標的配列の間の塩基のマッチングに関して使用してよい。
【0036】
本明細書においては、メッセンジャーRNA(mRNA)の「少なくとも一部分に対して実質的に相補」であるポリヌクレオチドは、目的の(例えばEg5をコードしている)mRNAの隣接部分に対して実質的に相補であるポリヌクレオチドを指す。例えばポリヌクレオチドは、配列がEg5をコードするmRNAの非中断部分に実質的に相補である場合に、Eg5mRNAの少なくとも一部分に相補となる。
【0037】
「2本鎖RNA」又は「dsRNA」という用語は本明細書においては、2つの非平行の、上記した通り実質的に相補的な核酸鎖を含むデュプレックス構造を有するリボ核酸分子の複合体を指す。デュプレックス構造を形成する2つの鎖は1つのより大きいRNA分子の異なる部分であってよく、或いは、それらは別個のRNA分子であってよい。2つの鎖が1つのより大きい分子の部分であり、そしてそのため、ある鎖の3’末端とデュプレックス構造を形成する対応するもう一方の鎖の5’末端との間のヌクレオチドの非中断鎖により連結されている場合、連結するRNA鎖は「ヘアピンループ」と称される。2つの鎖が、ある鎖の3’末端とデュプレックス構造を形成する対応するもう一方の鎖の5’末端との間のヌクレオチドの非中断鎖以外の集団により共有結合的に連結されている場合、連結する構造は「リンカー」と称される。RNA鎖は同じか又は異なるヌクレオチドの数量を有してよい。塩基対の最大数はdsRNAの最も短い鎖中ヌクレオチドの数−デュプレックス中に存在する何れかのオーバーハングである。デュプレックス構造以外に、dsRNAはヌクレオチドオーバーハング1つ以上を含んでよい。
【0038】
本明細書においては、「ヌクレオチドオーバーハング」とは、dsRNAの一方の鎖の3’末端はもう一方の鎖の5’末端を超えて伸長しているか又はその逆の場合の、未対形成のヌクレオチド又はdsRNAのデュプレックス構造から突出しているヌクレオチドを指す。「平滑」又は「平滑末端」とは、dsRNAのその末端において未対形成のヌクレオチドが存在しない、即ちヌクレオチドオーバーハングがないことを意味する。「平滑末端」dsRNAはその完全長に渡って2本鎖である、即ち分子の何れの末端にもヌクレオチドオーバーハングがないdsRNAである。
【0039】
「アンチセンス鎖」という用語は標的配列に実質的に相補である領域を包含するdsRNAの鎖を指す。本明細書においては、「相補性の領域」という用語は本明細書において定義するとおり、配列、例えば標的配列に実質的に相補であるアンチセンス鎖上の領域を指す。相補性の領域が標的配列に完全に相補でない場合は、ミスマッチは末端領域において最も耐容され、そして存在する場合は、一般的に、末端領域、又は例えば5’及び/又は3’末端の6、5、4、3又は2ヌクレオチド内の領域にある。
【0040】
「センス鎖」という用語はアンチセンス鎖の領域に実質的に相補である領域を包含するdsRNAの鎖を指す。
【0041】
「細胞内に導入する」とは、dsRNAに言及している場合、当該分野で知られる通り、細胞内への取り込み又は吸収を促進することを意味する。dsRNAの吸収又は取り込みは未支援の拡散性又は能動性の細胞プロセスを介するか、又は、副次的な薬剤又は装置により生じることができる。この用語の意味はインビトロの細胞に限定されず;dsRNAは、細胞が生体の一部である場合に「細胞内に導入」されてもよい。そのような場合、細胞内への導入は生物への送達を包含する。例えば、インビボの送達においては、dsRNAは組織部位内に注射されるか、全身投与されることができる。インビトロの細胞内への導入はエレクトロポレーション及びリポフェクションのような当該分野で知られた方法を包含する。
【0042】
「サイレント化する」及び「発現を抑制する」という用語は、それらがEg5遺伝子に言及している限り、本明細書においては、内部でEg5遺伝子が転写され、そしてEg5遺伝子の発現が抑制されるように処理されている第1の細胞又は細胞群から単離されてよいEg5遺伝子から転写されたmRNAの量が、第1の細胞又は細胞群と実質的に同一であるがそのように処理されていない第2の細胞又は細胞群(対照細胞)と比較した場合に低減されていることにより顕在化される、Eg5遺伝子の発現の少なくとも部分的な抑制を指す。抑制の程度は通常は以下:
{[(対照細胞中のmRNA)−(処理細胞中のmRNA)]/(対照細胞中のmRNA)}*100%
を用いて表される。
【0043】
或いは、抑制の程度は、Eg5遺伝子転写に関数として関連付けられているパラメーターの低減に関して、例えば細胞により分泌されたEg5遺伝子によりコードされる蛋白の量、又は、特定の表現型、例えばアポトーシスを呈する細胞の数として示してもよい。原則として、Eg5遺伝子のサイレント化は、構成的に、又はゲノム操作により標的を発現している何れかの細胞内において、又は何れかの適切な試験により、測定してよい。しかしながら、あるdsRNAが特定の程度までEg5遺伝子の発現を抑制しており、そのために本発明の範囲内に包含されるかどうかを決定するためにレファレンスが必要である場合は、後述する実施例に記載する試験をそのようなレファレンスとして使用できる。
【0044】
例えば、特定の例においては、Eg5遺伝子(又はVEGF遺伝子)の発現は本発明の2本鎖オリゴヌクレオチドの投与により少なくとも約20%、25%、35%、又は50%抑制される。一部の実施形態においては、Eg5遺伝子は本発明の2本鎖オリゴヌクレオチドの投与により少なくとも約60%、70%、又は80%抑制される。一部の実施形態においては、Eg5遺伝子は本発明の2本鎖オリゴヌクレオチドの投与により少なくとも約85%、90%、又は95%抑制される。表1〜3は種々の濃度において種々のEg5dsRNA分子を用いた場合の発現の抑制に関する数値を示す。
【0045】
Eg5の発現に関連して本明細書において用いる場合、「治療する」、「治療」等の用語は、Eg5発現により媒介される病理学的プロセスからの緩解又は軽減を指す。本発明の関連においては、後に記載する他の状態の何れか(Eg5発現により媒介される病理学的プロセス以外)に関連する限りにおいて、「治療する」、「治療」等の用語は、そのような状態に関連する症状少なくとも1つを緩解又は軽減すること、又は、そのような状態の進行を緩徐化又は逆行させること、例えば肝臓癌の進行を緩徐化させることを意味する。
【0046】
本明細書においては、「治療有効量」及び「予防有効量」という表現は、(単独又はVEGF発現と組み合わせた)Eg5発現により媒介される病理学的プロセス、又はEg5発現により媒介される病理学的プロセスの明らかな症状の治療、予防又は管理において治療上の利益をもたらす量を指す。治療上有効な特定の量は通常の医療従事者により容易に決定できるものであり、そして当該分野で知られた要因、例えばEg5発現により媒介される病理学的プロセスの型、患者の病歴及び年齢、Eg5発現により媒介される病理学的プロセスの段階、及び、他の抗Eg5発現媒介非病理学的プロセス剤の投与に応じて変動してよい。
【0047】
本明細書においては、「医薬組成物」はdsRNAの薬理学的有効量及び製薬上許容しうる担体を含む。本明細書においては、「薬理学的有効量」、「治療有効量」又は単に「有効量」とは、意図される薬理学的、治療的又は予防的な結果をもたらすために有効なRNAの量を指す。例えば、疾患又は障害に関連する測定可能なパラメーターの少なくとも25%低減があった場合に所定の臨床的処置が有効とみなされるとすれば、その疾患又は障害の治療のための薬剤の治療有効量はそのパラメーターの少なくとも25%低減を起こすために必要な量である。
【0048】
「製薬上許容しうる担体」という用語は治療薬の投与のための担体を指す。そのような担体は限定しないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びこれらの組み合わせを包含する。用語は典型的には細胞培養用の培地は除外する。薬剤を経口投与する場合は、製薬上許容しうる担体は限定しないが、製薬上許容しうる賦形剤、例えば不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、甘味剤、フレーバー剤、着色剤及び保存料を包含する。適当な不活性希釈剤は、ナトリウム及びカルシウムの炭酸塩、ナトリウム及びカルシウムのリン酸塩、及び乳糖を包含し、コーンスターチ及びアルギン酸が適当な崩壊剤である。結合剤は澱粉及びゼラチンを包含し、潤滑剤を存在させる場合は、それは一般的にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクである。所望により、錠剤は胃腸管における吸収を遅延させるためにグリセリルモノステアレート又はグリセリルジステアレートのような物質でコーティングしてよい。
【0049】
本明細書においては、「形質転換細胞」とはdsRNA分子の発現元となってよいベクターが導入されている細胞である。
【0050】
II.2本鎖リボ核酸(dsRNA)
1つの実施形態において、本発明は細胞又は哺乳類においてEg5遺伝子の発現を抑制するための2本鎖リボ核酸(dsRNA)分子を(単独又はVEGFの発現を抑制するための第2のdsRNAと組み合わせて)提供し、この場合、dsRNAはEg5遺伝子の発現において形成されたmRNAの少なくとも一部分に相補である相補性の領域を含むアンチセンス鎖を含み、そしてここで相補性の領域は30ヌクレオチド長未満、一般的に19〜24ヌクレオチド長であり、そしてここで該dsRNAは該Eg5遺伝子を発現する細胞と接触すると、該Eg5遺伝子の発現を少なくとも40%抑制する。dsRNAはハイブリダイズしてデュプレックス構造を形成するために十分相補である2つのRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)はEg5遺伝子の発現の間に形成されたmRNAの配列から誘導された標的配列に対して実質的に相補、そして一般的に完全に相補である相補性の領域を含み、もう一方の鎖(センス鎖)は、適当な条件下で組み合わせられた場合に2つの鎖がハイブリダイズしてデュプレックス構造を形成するように、アンチセンス鎖に対して相補である領域を含む。一般的にデュプレックス構造は15〜30、より一般的には18〜25、更に一般的には19〜24、そして最も一般的には19〜21塩基対長である。同様に、標的配列に対して相補性の領域は15〜30、より一般的には18〜25、更に一般的には19〜24、そして最も一般的には19〜21ヌクレオチド長である。本発明のdsRNAは更に1つ以上の1本鎖ヌクレオチドオーバーハングを含んでよい。dsRNAは後述するような当該分野で知られた標準的な方法により、例えば自動DNA合成装置、例えばBiosearch,Applied Biosystems,Inc.より販売されているものを用いることにより合成できる。好ましい実施形態においては、Eg5遺伝子はヒトEg5遺伝子である。特定の実施形態においては、dsRNAのアンチセンス鎖は表1〜3のセンス鎖を含み、そして第2の配列は表1〜3のアンチセンス配列よりなる群から選択される。表1〜3に示す標的配列中の何所かをターゲティングする代替のアンチセンス剤は、標的配列及びフランキングしたEg5配列を用いながら容易に決定できる。VEGFをターゲティングする第2のdsRNAを使用する実施形態においては、そのような薬剤は実施例及び参照により本明細書に組み込まれる同時係属中の米国特許出願11/078,073及び11/340,080において例示されている。
【0051】
dsRNAは表1〜3に示した配列の群から選択されるヌクレオチド配列少なくとも2つを含むことになる。2配列の一方は2配列のもう一方に相補的であり、配列の一方はEg5遺伝子の発現において形成されたmRNAの配列に実質的に相補である。即ち、dsRNAは2オリゴヌクレオチドを含むことになり、その場合、一方のオリゴヌクレオチドは表1〜3においてセンス鎖として記載され、そして第2のオリゴヌクレオチドは表1〜3においてアンチセンス鎖として記載される。
【0052】
当業者の知る通り、20〜23、特に21塩基対のデュプレックス構造を含むdsRNAは、RNA干渉の誘導において特に有効であるものとして認められている(Elbashirら、EMBO2001,20:6877−6888)。しかしながら、より短い、又は長いdsRNAも同様に有効であり得ることを発見している者もある。上記した実施形態においては、表1〜3に示したオリゴヌクレオチド配列の性質のために、本発明のdsRNAは最低限でも21ntの長さの鎖少なくとも1つを含むことができる。表1〜3の配列の1つから一端又は両端上のヌクレオチド僅か数個を減らしたものを含むより短いdsRNAは、上記したdsRNAと比較して同様に有効であると期待することは合理的である。従って、表1〜3の配列の1つに由来する少なくとも15、16、17、18、19、20以上の隣接ヌクレオチドの部分配列を含み、そして完全配列を含むdsRNAとは、5、10、15、20、25、又は30%抑制以下の分だけ、下記のFACS試験においてEg5遺伝子の発現を抑制するその能力において異なっているdsRNAは、本発明の意図するものである。表1〜3に示した標的配列内で切断する別のdsRNAは、Eg5配列及び提供された標的配列を用いながら容易に作成できる。
【0053】
更に又、表1〜3に示したRNAi剤はRNAi系の切断に感受性のEg5mRNAにおける部位を発見する。即ち、本発明は本発明の薬剤の1つによりターゲティングされる配列内でターゲティングするRNAi剤を更に包含する。本明細書においては、第2のRNAi剤は第2のRNAi剤が、第1のRNAi剤のアンチセンス鎖に相補であるmRNA内の何れかの場所のメッセージを切断する場合に第1のRNAi剤の配列内でターゲティングすると言える。そのような第2の薬剤は一般的にEg5遺伝子における選択された配列に隣接する領域から取った、追加的ヌクレオチド配列にカップリングされた表1〜3に示した配列の1つに由来する少なくとも15隣接ヌクレオチドよりなる。例えば、配列番号:1の最後の15ヌクレオチドを標的Eg5遺伝子に由来する次の6ヌクレオチドと組み合わせたものは、表1〜3に示す配列の1つに基づいた21ヌクレオチドの1本鎖の薬剤を生成する。
【0054】
本発明のdsRNAは標的配列に対してミスマッチ1つ以上を含有できる。好ましい実施形態においては、本発明のdsRNAは3つを超えるミスマッチは含有しない。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対するミスマッチを含有する場合、ミスマッチの区域は相補性の領域の中心には位置しないことが好ましい。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対するミスマッチを含有する場合、ミスマッチは各末端から5ヌクレオチド、例えば相補性領域の5’又は3’末端の何れかから5、4、3、2、又は1ヌクレオチドに制限されることが好ましい。例えば、Eg5遺伝子のある領域に相補である23ヌクレオチドのdsRNA鎖の場合、dsRNAは一般的に中央の13ヌクレオチド内には如何なるミスマッチも含有しない。本発明に記載した方法は、標的配列に対するミスマッチを含有するdsRNAがEg5遺伝子の発現を抑制する場合に有効であるかどうかを調べるために使用できる。Eg5遺伝子の発現を抑制する場合にミスマッチを有するdsRNAの薬効を考慮することは、特にEg5遺伝子の相補性の特定の領域が集団内の多形配列変動を有することが分かっている場合に、重要となる。
【0055】
1つの実施形態において、dsRNAの少なくとも1つの末端は1〜4、一般的に1または2ヌクレオチドの1本鎖ヌクレオチドオーバーハングを有する。少なくとも1つのヌクレオチドオーバーハングを有するdsRNAはその平滑末端の対応物よりも予想外に優れた抑制特性を有する。更に又、本発明者等は、僅か1つのヌクレオチドオーバーハングの存在が、その全体的な安定性に影響することなく、dsRNAの干渉活性を強力化することを発見した。僅か1つのオーバーハングを有するdsRNAはインビボにおいて、並びに種々の細胞、細胞培養用培地、血液および血清中において特に安定であり有効であることが明らかにされた。一般的に、1本鎖オーバーハングはアンチセンス鎖の3’末端、或いはセンス鎖の3’末端に位置する。dsRNAは又、一般的にはアンチセンス鎖の5’末端に位置する平滑末端を有してよい。そのようなdsRNAは向上した安定性及び抑制活性を有するため、低い用量において、即ち一日当たりレシピエントの体重kg当たり5mg未満において、投与可能とする。一般的に、dsRNAのアンチセンス鎖は3’末端にヌクレオチドオーバーハングを有し、そして5’末端は平滑である。別の実施形態においては、オーバーハングのヌクレオチド1つ以上がヌクレオシドチオホスフェートにより置き換えられている。
【0056】
更に別の実施形態においては、dsRNAは安定性を向上させるために化学的に修飾される。本発明の核酸は例えば参照により本明細書に組み込まれる「Current protocols in nucleic acid chemistry」,Beaucage,S.I.ら(編)、John Wiley & Sons,Inc.,New York,NY,USAに記載されているもののような、当該分野でよく知られている方法により合成及び/又は修飾してよい。本発明において有用な好ましいdsRNA化合物の特定の例は、修飾された骨格を含有するか、天然のヌクレオシド間連結を有さないdsRNAを包含する。本明細書において定義した通り、修飾された骨格を有するdsRNAは骨格中にリン原子を保持しているもの、及び、骨格中にリン原子を有さないものを包含する。本明細書の目的のため、そして当該分野で場合により参照される通り、自身のヌクレオシド間骨格にリン原子を有さない修飾されたdsRNAも又、オリゴヌクレオシドと見なすことができる。
【0057】
好ましい修飾されたdsRNA骨格は、例えばホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチル及び他のアルキルホスホネート、例えば3’−アルキレンホスホネート及びキラルホスホネート、ホスフィネート、ホスホロアミデート、例えば3’−アミノホスホロアミデート、及びアミノアルキルホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、及び3’−5’通常連結部を有するボラノホスフェート、これらの2’−5’連結類縁体、及びヌクレオシド単位の隣接対が3’−5’〜5’−3’又は2’−5’〜5’−2’で連結している反転極性を有するものを包含する。種々の塩、混合塩、及び遊離の酸の形態も包含される。
【0058】
上記したリン含有連結部の製造を教示している代表的な米国特許は、限定しないが、米国特許3,687,808;4,469,863;4,476,301;5,023,243;5,177,195;5,188,897;5,264,423;5,276,019;5,278,302;5,286,717;5,321,131;5,399,676;5,405,939;5,453,496;5,455,233;5,466,677;5,476,925;5,519,126;5,536,821;5,541,316;5,550,111;5,563,253;5,571,799;5,587,361;及び5,625,050を包含し、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
リン原子を自身に包含しない好ましい修飾されたdsRNA骨格は、短鎖アルキル又はシクロアルキルヌクレオシド間連結、混合型のヘテロ原子及びアルキル又はシクロアルキルヌクレオシド間連結、又は1つ以上の短鎖ヘテロ原子又は複素環ヌクレオシド間連結により形成された骨格を有する。これらにはモルホリノ連結部を有するもの(ヌクレオシドの糖部分から部分的には形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシド及びスルホン骨格;ホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ骨格;スルホネート及びスルホンアミド骨格;アミド骨格;及び混合型のN、O、S及びCH2成分の部分を有する他のものが包含される。
【0060】
上記したオリゴヌクレオシドの製造を教示している代表的な米国特許は、限定しないが、米国特許5,034,506;5,166,315;5,185,444;5,214,134;5,216,141;5,235,033;5,64,562;5,264,564;5,405,938;5,434,257;5,466,677;5,470,967;5,489,677;5,541,307;5,561,225;5,596,086;5,602,240;5,608,046;5,610,289;5,618,704;5,623,070;5,663,312;5,633,360;5,677,437;及び5,677,439を包含し、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
他の好ましいdsRNAミメティックにおいて、ヌクレオチド単位の糖及びヌクレオシド間連結部の両方、即ち骨格が新しい基により置き換えられる。塩基単位は適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。そのようなオリゴマー化合物の1つである、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが分かっているdsRNAミメティックはペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物においては、dsRNAの糖骨格はアミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格により置き換えられる。ヌクレオ塩基は保持されており、そして骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接又は間接的に結合している。PNA化合物の製造を教示している代表的な米国特許は、限定しないが、米国特許5,539,082;5,714,331;及び5,719,262を包含し、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。PNA化合物の別の教示はNielsenら、Science,1991,254,1497−1500に記載されている。
【0062】
本発明の最も好ましい実施形態はホスホロチオエート骨格を有するdsRNA、及びヘテロ原子骨格、そして特に上記参照した米国特許5,489,677の−CH−NH−CH−、−CH−N(CH)−O−CH−[メチレン(メチルイミノ)又はMMI骨格として知られている]、−CH−O−N(CH)−O−CH−、−CH−N(CH)−N(CH)−CH−、及び−N(CH)−CH−CH−[ここでネイティブのホスホジエステル骨格は−O−P−O−CH−として示される]、そして上記参照した米国特許5,602,240のアミド骨格を有するオリゴヌクレオシドである。同様に好ましいものは上気参照した米国特許5,034,506のモルホリノ骨格構造を有するdsRNAである。
【0063】
修飾されたdsRNAは又置換された糖部分1つ以上を含有してよい。好ましいdsRNAは2’位に以下のもの:即ち、OH;F;O−、S−又はN−アルキル;O−、S−又はN−アルケニル;O−、S−又はN−アルキニル;又はO−アルキル−O−アルキル、ここでアルキル、アルケニル及びアルキニルは置換又は未置換のC〜C10アルキル、又はC〜C10アルケニル及びアルキニルであるもの、の1つを含んでいる。特に好ましいものはO[(CHO]CH、O(CHOCH、O(CHNH、O(CHCH、O(CHONH、及びO(CHON[(CHCH)]、ここでn及びmは1〜約10であるもの、である。他の好ましいdsRNAは2’位に以下のもの:即ち、C〜C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O−アルカリル又はO−アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、dsRNAの薬物動態特性を向上させるための基、又はdsRNAの薬力学的特性を向上させる基、及び他の同様の特性を有する置換基の1つを含んでいる。好ましい修飾は2’−メトキシエトキシ(2’−O−CHCHOCH、2’−O−(2−メトキシエチル)又は2’−MOEとしても知られている)(Martinら、Helv.Chim.Acta,1995,78,486−504)、即ちアルコキシ−アルコキシ基を包含する。別の好ましい修飾は2’−ジメチルアミノオキシエトキシ、即ち後述する実施例に記載の2’−DMAOEとしても知られている即ちO(CHON(CH基、及び2’−ジメチルアミノエトキシエトキシ(当該分野では2’−O−ジメチルアミノエトキシエチル又は2’−DMAEOEとしても知られている)、即ちやはり後述する実施例に記載の2’−O−CH−O−CH−N(CHを包含する。
【0064】
他の好ましい修飾は2’−メトキシ(2’−OCH)、2’−アミノプロポキシ(2’−OCHCHCHNH)及び2’−フルオロ(2’−F)を包含する。同様の修飾は又dsRNAの他の位置、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位上において、又は2’−5’連結dsRNA及び5’末端ヌクレオチドの5’位において行ってもよい。dsRNAは又ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分のような糖ミメティックを有してもよい。そのような修飾された糖構造の製造を教示している代表的な米国特許は、限定しないが、米国特許4,981,957;5,118,800;5,319,080;5,359,044;5,393,878;5,446,137;5,466,786;5,514,785;5,519,134;5,567,811;5,576,427;5,591,722;5,597,909;5,610,300;5,627,053;5,639,873;5,646,265;5,658,873;5,670,633;及び5,700,920を包含し、その特定の者は本出願と共通して保有されており、そしてその各々は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0065】
dsRNAは又、ヌクレオ塩基(当該分野では単に「塩基」と称される場合が多い)の修飾又は置換を包含してよい。本明細書においては、「未修飾」又は「天然」のヌクレオ塩基はプリン塩基アデニン(A)及びグアニン(G)、及びピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)を包含する。修飾されたヌクレオ塩基は他の合成及び天然のヌクレオ塩基、例えば5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニン及びグアニンの6−メチル及び他のアルキル誘導体、アデニン及びグアニンの2−プロピル及び他のアルキル誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミン及び2−チオシトシン、5−ハロウラシル及びシトシン、5−プロピニルウラシル及びシトシン、6−アゾウラシル、シトシン及びチミン、5−ウラシル(シュードウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシル及び他の8−置換されたアデニン及びグアニン、5−ハロ特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチル及び他の5−置換されたウラシル及びシトシン、7−メチルグアニン及び7−メチルアデニン、8−アザグアニン及び8−アザアデニン、7−デアザグアニン及び7−デアザアデニン及び3−デアザグアニン及び3−デアザアデニンを包含する。他のヌクレオ塩基は米国特許3,687,808に開示されているもの、The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering,p.858−859,Kroschwitz,J.L.編、John Wiley & Sons,1990に開示されているもの、Englischら、Angewandte Chemie,International Edition,1991,30,613に開示されているもの、及び、Sanghvi,Y.S.,Chapter 15,DsRNA Research and Applications,p.289−302,Crooke,S.T.and Lebleu,B.編、CRC Press,1993に開示されているものを包含する。これらのヌクレオ塩基の特定のものは本発明のオリゴマー化合物の結合親和性を増大させるために特に有用である。それらは5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン及びN−2、N−6及び0−6置換プリン、例えばアミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシル及び5−プロピニルシトシンを包含する。5−メチルシトシン置換は0.6〜1.2℃まで核酸デュプレックスの安定性を増大させることが分かっており(Sanghvi,Y.S.,Crooke,S.T.andLebleu,B編,DsRNA Research and Applications,CRC Press,Boea Raton,1993,p.276−278)、そして現在では、2’−O−メトキシエチル糖修飾と組み合わせた場合に尚更特に好ましい塩基置換である。
【0066】
上記した修飾されたヌクレオ塩基及び他の修飾されたヌクレオ塩基の製造を教示している代表的な米国特許は、限定しないが、上記した米国特許3,687,808、並びに各々が参照により本明細書に組み込まれる米国特許4,845,205;5,130,30;5,134,066;5,175,273;5,367,066;5,432,272;5,457,187;5,459,255;5,484,908;5,502,177;5,525,711;5,552,540;5,587,469;5,594,121,5,596,091;5,614,617;及び5,681,941、及びやはり参照により本明細書に組み込まれる米国特許5,750,692を包含する。
【0067】
本発明のdsRNAの他の修飾はdsRNAの活性、細胞分布又は細胞取り込みを増強する部分又はコンジュゲート1つ以上をdsRNAに化学的に連結することを包含する。そのような部分は、限定しないが、脂質部分、例えばコレステロール部分(Letsinger等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,199,86,6553−6556)、コール酸(Manoharanら、Bioorg.Med.Chem.Let.,1994,4,1053−1060)、チオエーテル、例えばベリル−S−トリチルチオール(Manoharanら、Ann.N.Y.Acad.Sci.,1992,660,306−309;Manoharanら、Biorg.Med.Chem.Let.,1993,3,2765−2770)、チオコレステロール(Oberhauserら、Nucl.Acids Res.,1992,20,533−538)、脂肪族鎖、例えばドデカンジオール又はウンデシル残基(Saison−Behmoarasら、EMBO J.,1991,10,1111−1118;Kabanovら、FEBS Lett.,1990,259,327−330;Svinarchukら、Biochimie,1993,75,49−54)、リン脂質、例えばジヘキサデシル−rac−グリセロール又はトリエチル−アンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−ホスホナート(Manoharanら、Tetrahedron Lett.,1995,36,3651−3654;Sheaら、Nucl.Acids Res.,1990,18,3777−3783)、ポリアミン又はポリエチレングリコール鎖(Manoharanら、Nucleosides & Nucleotides,1995,14,969−973)、又はアダマンタン酢酸(Manoharanら、Tetrahedron Lett.,1995,36,3651−3654)、パルミチル部分(Mishraら、Biochim.Biophys.Acta,1995,1264,229−237)、又はオクタデシルアミン又はヘキシルアミノカルボニルオキシコレステロール部分(Crookeら、J.Pharmacol.Exp.Ther.,1996,277,923−937)を包含する。
【0068】
そのようなdsRNAコンジュゲートの製造を教示している代表的な米国特許は、限定しないが、米国特許4,828,979;4,948,882;5,218,105;5,525,465;5,541,313;5,545,730;5,552,538;5,578,717,5,580,731;5,591,584;5,109,124;5,118,802;5,138,045;5,414,077;5,486,603;5,512,439;5,578,718;5,608,046;4,587,044;4,605,735;4,667,025;4,762,779;4,789,737;4,824,941;4,835,263;4,876,335;4,904,582;4,958,013;5,082,830;5,112,963;5,214,136;5,082,830;5,112,963;5,214,136;5,245,022;5,254,469;5,258,506;5,262,536;5,272,250;5,292,873;5,317,098;5,371,241;5,391,723;5,416,203;5,451,463;5,510,475;5,512,667;5,514,785;5,565,552;5,567,810;5,574,142;5,585,481;5,587,371;5,595,726;5,597,696;5,599,923;5,599,928及び5,688,941を包含し、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
所定の化合物のすべての位置が均一に修飾される必要はなく、そして実際は、上記した修飾の1つより多くが単一の化合物中に、又はdsRNA内の単一のヌクレオシドにおいてさえも、取り込まれてよい。本発明は又キメラ化合物であるdsRNA化合物も包含する。「キメラ」dsRNA化合物又は「キメラ」とは、本発明に関する場合、dsRNA化合物、特に、少なくとも1つの単量体単位、即ちdsRNA化合物の場合はヌクレオチドから各々が形成された化学的に別々の領域2つ以上を含有するdsRNAである。これらのdsRNAは典型的には、ヌクレアーゼ分解に対する増大した耐性、増大した細胞取り込み、及び/又は標的核酸に対する増大した結合親和性をdsRNAに付与できるようにdsRNAが修飾されている領域少なくとも1つを含有する。dsRNAの別の領域はRNA:DNA又はRNA:RNAハイブリッドを切断することが可能な酵素のための基質として作用してよい。例示すればRNaseHはRNA:DNAデュプレックスのRNA鎖を切断する細胞エンドヌクレアーゼである。従ってRNaseHの活性化はRNA標的の切断をもたらし、これにより遺伝子発現のdsRNA抑制の効率を大きく増大させる。結果として、キメラdsRNAを使用する場合は、同じ標的領域にハイブリダイズするホスホロチオエートデオキシdsRNAと比較した場合に、より短いdsRNAで同等な結果を得ることができる場合が多い。RNA標的の切断はゲル電気泳動、及び必要に応じて当該分野で知られた関連の核酸ハイブリダイゼーション手法により定型的に検出することができる。
【0070】
特定の例においては、dsRNAは非リガンド基により修飾されてよい。多くの非リガンド分子がdsRNAの活性、細胞分布又は細胞取り込みを増大させるためにdsRNAにコンジュゲートされており、そのようなコンジュゲーションを行うための操作法は学術文献に記載されている。そのような非リガンド部分は脂質部分、例えばコレステロール(Letsingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86,6553)、コール酸(Manoharanら、Bioorg.Med.Chem.Lett.,1994,4:1053)、チオエーテル、例えばヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharanら、Ann.N.Y.Acad.Sci.,1992,660,306;Manoharanら、Bioorg.Med.Chem.Let.,1993,3,2765)、チオコレステロール(Oberhauser等、Nucl.Acids Res.,1992,20,533)、脂肪族鎖、例えばドデカンジオール又はウンデシル残基(Saison−Behmoaras等、EMBO J.,1991,10,111;Kabanovら、FEBS Lett.,1990,259,327;Svinarchukら、Biochimie,1993,75:49)、リン脂質、例えばジヘキサデシル−rac−グリセロール又はトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホナート(Manoharanら、Tetrahedron Lett.,1995,36,3651;Sheaら、Nucl.Acids Res.,1990,18:3777)、ポリアミン又はポリエチレングリコール鎖(Manoharanら、Nucleosides & Nucleotides,1995,14,969)、又はアダマンタン酢酸(Manoharanら、Tetrahedron Lett.,1995,36,3651)、パルミチル部分(Mishraら、Biochim.Biophys.Acta,1995,1264,229)、又はオクタデシルアミン又はヘキシルアミノカルボニルオキシコレステロール部分(Crooke等、J.Pharmacol.Exp.Ther.,1996,277,923)を包含する。そのようなdsRNAコンジュゲートの製造を教示している代表的な米国特許は上記した通りである。典型的なコンジュゲーションプロトコルでは配列の位置1つ以上においてアミノリンカーを担持しているdsRNAの合成を行う。次にアミノ基を適切なカップリング又は活性化試薬を用いてコンジュゲートされた分子と反応させる。コンジュゲーション反応は固体支持体になお結合しているdsRNAを用いるか、又は溶液相におけるdsRNAの切断の後に実施してよい。HPLCによるdsRNAコンジュゲートの精製は典型的には純粋なコンジュゲートを与える。
【0071】
ベクターコードRNAi剤
本発明のdsRNAは又インビボの細胞内で組み換えウィルスベクターから発現させることができる。本発明の組み換えウィルスベクターは本発明のdsRNAをコードする配列及びdsRNA配列を発現するための何れかの適当なプロモーターを含む。適当なプロモーターは例えばU6又はH1RNApolIIIプロモーター配列及びサイトメガロウィルスプロモーターを包含する。他の適当なプロモーターの選択は当該分野の技術の範囲内である。本発明の組み換えウィルスベクターは又特定の組織において、又は特定の細胞内環境においてdsRNAの発現のための誘導又は調節可能なプロモーターを含むことができる。インビボで細胞に本発明のdsRNAを送達するための組み換えウィルスベクターの使用は後により詳細に考察する。
【0072】
本発明のdsRNAは2つの別個の相補のRNA分子として、又は、2つの相補領域を有する単一のRNA分子として、組み換えウィルスベクターから発現させることができる。
【0073】
発現すべきdsRNA分子のためのコーディング配列を受容することができる何れかのウィルスベクターを使用することができ、例えば、アデノウィルス(AV)、アデノ関連ウィルス(AAV);レトロウィルス(例えばレンチウィルス(LV)、ラブドウィルス、ネズミ白血病ウィルス);ヘルペスウィルス等から誘導したベクターが挙げられる。ウィルスベクターの向性は、エンベロープ蛋白又は他のウィルス由来の他の表面抗原を用いてベクターを偽型化することにより、又は、異なるウィルスキャプシド蛋白で適切に置換することにより、修飾できる。
【0074】
例えば本発明のレンチウィルスベクターは水疱性口内炎ウィルス(VSV)、狂犬病、エボラ、モコラなどに由来する表面蛋白を用いて偽型化できる。本発明のAAVベクターは異なるキャプシド蛋白血清型を発現するようにベクターを操作することにより異なる細胞をターゲティングするように作成できる。例えば血清型2ゲノム上に血清型2キャプシドを発現するAAVベクターはAAV2/2と称される。AAV2/2ベクターにおけるこの血清型2キャプシド遺伝子を血清型5キャプシド遺伝子で置き換えることによりAAV2/5ベクターを作成できる。異なるキャプシド蛋白血清型を発現するAAVベクターを構築するための手法は当該分野の技術の範囲内であり;例えば参照により全体が本明細書に組み込まれる(Rabinowitz J Eら(2002)、J Virol 76:791−801)を参照されたい。
【0075】
本発明における使用に適する組み換えウィルスベクターの選択、ベクター内にdsRNAを発現させるための核酸配列を挿入するための方法、及び目的の細胞にウィルスベクターを送達する方法は当該分野の技術の範囲内である。例えば参照により開示全体が本明細書に組み込まれる、Domburg R(1995),Gene Therap.2:301−310;Eglitis M A(1988),Biotechniques 6:608−614;Miller A D(1990),Hum Gene Therap.1:5−14;Anderson W F(1998),Nature392:25−30;及びRubinson D Aら、Nat.Genet.33:401−406を参照されたい。
【0076】
好ましいウィルスベクターはAVおよびAAVから誘導されたものである。特に好ましい実施形態においては、本発明のdsRNAは、例えばU6又はH1RNAプロモーター又はサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターのいずれかを含む組み換えAAVベクターから2つの別個の相補の1本鎖RNA分子として発現される。
【0077】
本発明のdsRNAを発現するための適当なAVベクター、組み換えAVベクターを構築するための方法、及び標的細胞内にベクターを送達するための方法は、Xia Hら(2002)、Nat.Biotech.20:1006−1010に記載されている。
【0078】
本発明のdsRNAを発現するための適当なAAVベクター、組み換えAVベクターを構築するための方法、及び標的細胞内にベクターを送達するための方法は、参照により開示全体が本明細書に組み込まれるSamulski Rら、(1987),J.Virol.61:3096−3101;Fisher K Jら、(1996),J.Virol.,70:520−532;Samulski Rら、(1989),J.Virol.63:3822−3826;米国特許5,252,479;米国特許5,139,941;国際特許出願WO94/13788;及び国際特許出願WO 93/24641に記載されている。
【0079】
III.dsRNAを含む医薬組成物
1つの実施形態において、本発明は本明細書に記載したdsRNA及び製薬上許容しうる担体を含む医薬組成物を提供する。dsRNAを含む医薬組成物はEg5遺伝子の発現又は活性の関連する疾患又は障害、例えばEg5発現により媒介される病理学的プロセスを治療するために有用である。そのような医薬組成物は送達の様式に基づいて製剤する。一例は非経口送達を介した全身投与のために製剤される組成物である。
【0080】
別の実施形態においては、そのような組成物は更にVEGF発現を抑制する第2のdsRNAを含む。VEGFに指向されたdsRNAは実施例及び同時係属中の米国特許出願11/078,073及び11/340,080に記載されている。
【0081】
本発明の医薬組成物はEg5遺伝子の発現(及び第2のdsRNAを包含させる場合はVEGF発現)を抑制するために十分な用量で投与される。一般的に、dsRNAの適当な用量は一日当たりレシピエントの体重キログラム当たり0.01〜5.0ミリグラムの範囲、一般的に一日当たり体重キログラム当たり1マイクログラム〜1mgの範囲となる。医薬組成物は1日1回投与してよく、或いは、dsRNAは一日に渡って適切な間隔において2、3又はそれより多いサブ用量として、更には、連続注入又は制御放出製剤を介した送達を用いながら、投与してよい。そのような場合、各サブ用量に含有されるdsRNAは総量の一日当たり投薬量を達成するためには相応により少量となるはずである。投薬単位は、例えば数日間の期間に渡ってdsRNAの持続放出をもたらす従来の持続放出製剤を用いながら、数日間に渡る送達のために調整することができる。持続放出製剤は当該分野でよく知られており、そして、例えば本発明の薬剤と共に使用される場合のように、特定の部位における薬剤の送達のために特に有用である。本実施形態においては、投薬単位は一日当たり用量の相当する倍数量を含有する。
【0082】
当業者の知る通り、特定の要因、例えば限定しないが、疾患又は障害の重症度、以前の治療、対象の全身健康状態及び/又は年齢、及び存在する他の疾患が、対象を効果的に治療するために必要な用量及び時期に影響する。更に又、組成物の治療有効量を用いた対象の治療は単回の治療又は一連の治療を包含できる。本発明に含まれる個々のdsRNAに関する有効用量及びインビボの半減期の推定は、従来の方法を用いて、又は、適切な動物モデルを用いたインビボの試験に基づいて、本明細書の何れかの個所に記載した通り行うことができる。
【0083】
マウス遺伝子学の進歩は種々のヒトの疾患、例えばEg5発現により媒介される病理学的プロセスの研究のための多くのマウスモデルを発生させている。そのようなモデルはdsRNAのインビボの試験のため、並びに、治療有効量を決定するために使用される。
【0084】
本発明は又本発明のdsRNA化合物を包含する医薬組成物及び製剤を包含する。本発明の医薬組成物は局所又は全身治療の何れが望まれるかに応じて、そして治療すべき箇所に応じて、多くの態様において投与してよい。投与は局所、肺、例えば粉末又はエアロゾルの吸入又は通気により、例えばネブライザーにより;気管内、鼻内、上皮及び経皮、経口又は非経口であってよい。非経口投与は静脈内、動脈内、皮下、腹腔内又は筋肉内注射又は注入;又は頭蓋内、例えば髄腔内又は脳室内投与を包含する。
【0085】
局所投与用の医薬組成物及び製剤は経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、座薬、スプレー、液体及び粉末を包含してよい。従来の薬学的担体、水性、粉末又は油性の基剤、増粘剤等が必要又は望ましい場合がある。コーティングされたコンドーム剤、グローブ剤等も有用である。好ましい局所用製剤は本発明のdsRNAが局所用送達剤、例えば脂質、リポソーム、脂肪酸、脂肪酸エステル、ステロイド、キレート形成剤および界面活性剤との添加混合物となっているものを包含する。好ましい脂質及びリポソームは中性(例えばジオレオイルホスファチジルDOPEエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPC、ジステアロリルホスファチジルコリン)陰性(例えばジミリストイルホスファチジルグリセロールDMPC)及びカチオン性(例えばジオレオイルテトラメチルアミノプロピルDOTAP及びジオレオイルホスファチジルエタノールアミンDOTMA)を包含する。本発明のdsRNAはリポソーム内にカプセル化してよく、或いは、それとの、特にカチオン性リポソームとの複合体を形成してよい。或いはdsRNAは脂質、特にカチオン性脂質との複合体を形成してよい。好ましい脂肪酸及びエステルは限定しないが、アラキドン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン、ジラウリン、グリセロール1−モノカプレート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、アシルカルニチン、アシルコリン、又はC1−10アルキルエステル(例えばイソプロピルミリステートIPM)、モノグリセリド、ジグリセリド又はその製薬上許容しうる塩を包含する。局所用製剤は、参照により全体が本明細書に組み込まれる1999年5月20日出願の米国特許出願09/315,298において詳細に説明されている。
【0086】
経口投与のための組成物及び製剤は粉末又は顆粒、微粒子、ナノ粒子、水又は非水性の媒体中の懸濁液又は溶液、カプセル、ゲルカプセル、サシェ剤、錠剤又はミニ錠剤を包含する。増粘剤、フレーバー剤、希釈剤、乳化剤、分散補助剤又は結合剤が望ましい場合がある。好ましい経口用製剤は、浸透性増強界面活性剤及びキレート形成剤の1つ以上と組み合わせて本発明のdsRNAを投与するものである。好ましい界面活性剤は脂肪酸及び/又はそのエステル又は塩、胆汁酸及び/又はその塩を包含する。好ましい胆汁酸/塩はケノデオキシコール酸(CDCA)及びウルソデオキシケノデオキシコール酸(UDCA)、コール酸、デヒドロコール酸、デオキシコール酸、グルコール酸、グリコール酸、グリコデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、ナトリウムタウロ−24,25−ジヒドロフシデート、及びナトリウムグリコジヒドロフシデートを包含する。好ましい脂肪酸はアラキドン酸、ウンデカン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン、ジラウリン、グリセリル1−モノカプレート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、アシルカルニチン、アシルコリン、モノグリセリド、ジグリセリド又はその製薬上許容しうる塩(例えば、ナトリウム)を包含する。同様に好ましいものは浸透性増強剤の組み合わせ、例えば胆汁酸/塩と組み合わせた脂肪酸/塩である。特に好ましい組み合わせはラウリン酸のナトリウム塩、カプリン酸、及びUDCAである。その他の浸透性増強剤はポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−20−セチルエーテルを包含する。本発明のdsRNAは顆粒形態、例えば噴霧乾燥粒子中で経口送達してよく、或いは、複合体化してマイクロ又はナノ粒子を形成してよい。dsRNA複合体化剤はポリアミノ酸;ポリイミン;ポリアクリレート;ポリアルキルアクリレート、ポリオキセタン、ポリアルキルシアノアクリレート;カチオン化ゼラチン、アルブミン、澱粉、アクリレート、ポリエチレングリコール類(PEG)及び澱粉;ポリアルキルシアノアクリレート;DEAE誘導ポリイミン、プルラン、セルロース及び澱粉を包含する。特に好ましい複合体化剤は、キトサン、N−トリメチルキトサン、ポリ−L−リジン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリスペルミン、プロタミン、ポリビニルピリジン、ポリチオジエチルアミノメチルエチレンP(TDAE)、ポリアミノスチレン(例えばp−アミノ)、ポリ(メチルシアノアクリレート)、ポリ(エチルシアノアクリレート)、ポリ(ブチルシアノアクリレート)、ポリ(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(イソヘキシルシアノアクリレート)、DEAE−メタクリレート、DEAE−ヘキシルアクリレート、DEAE−アクリルアミド、DEAE−アルブミン及びDEAE−デキストラン、ポリメチルアクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリ(D,L−ラクト酸)、ポリ(D,L−ラクト−コグリコール酸(PLGA)、アルギネート、及びポリエチレングリコール(PEG)を包含する。dsRNAの経口用製剤及びその製造は、各々が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願08/886,829(1997年7月1日出願)、09/108,673(1998年7月1日出願)、09/256,515(1999年2月23日出願)、09/082,624(1998年5月21日出願)、及び09/315,298(1999年5月20日出願)に詳細に記載されている。
【0087】
非経口、髄腔内、脳室内又は肝臓内の投与のための組成物及び製剤は、緩衝剤、希釈剤および他の適当な添加剤、例えば限定しないが、透過性増強剤、担体化合物及び他の製薬上許容しうる担体又は賦形剤も含有してよい滅菌された水溶液を包含してよい。
【0088】
本発明の医薬組成物は限定しないが、溶液、乳液及びリポソーム含有製剤を包含する。これらの組成物は種々の成分、例えば限定しないが、予め作成された液体、自己乳化型固体及び自己乳化型半固体から形成してよい。特に好ましいものは肝臓癌のような肝臓障害を治療する場合に肝臓をターゲティングする製剤である。
【0089】
単位剤型で好都合に提示してよい本発明の医薬品製剤は医薬品産業においてよく知られた従来の手法に従って製造してよい。そのような手法は製薬上許容しうる担体又は賦形剤と活性成分を会合させる工程を包含する。一般的に製剤は、液体担体又は微細分割固体担体又は両方を活性成分と均一及び緊密に会合させること、そして次に必要に応じて製品を形状化することにより製造される。
【0090】
本発明の組成物は多くの可能な剤型の何れか、例えば限定しないが、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、液体シロップ、ソフトジェル、座薬及び浣腸剤に製剤してよい。本発明の組成物は又、水性、非水性又は混合媒体中の懸濁液として製剤してよい。水性懸濁液は更に、懸濁液の粘度を増大させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール及び/又はデキストランを含有してよい。懸濁液は又安定化剤を含有してよい。
【0091】
乳液
本発明の組成物は乳液として調製及び製剤してよい。乳液は典型的には1つの液体がもう1つの中に、通常は直径0.1μm超の液滴の形態において分散した不均質な系である(Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.199;Rosoff,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Volume1,p.245;Block,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume 2,p.335;Higuchiら、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1985,p.301)。乳液は相互に緊密に混合され分散し合った2つの非混和性の液相を含む二相系である場合が多い。一般的に乳液は油中水(w/o)又は水中油(o/w)の種類の何れかであってよい。塊状の油相内に微小な液滴として水相を細密分割して分散させる場合、得られる組成物は油中水(w/o)乳液と称される。或いは塊状の水相内に微小な液滴として油相を細密分割して分散させる場合、得られる組成物は水中油(o/w)乳液と称される。乳液は分散相、及び水相、油相の何れかの溶液として、又は自身別個の相として存在してよい活性薬に加えて、追加的な成分を含有してよい。乳化剤、安定化剤、染料及び抗酸化剤のような医薬品賦形剤も又、必要に応じて乳液中に存在してよい。医薬品乳液は例えば油中水中油(o/w/o)及び水中油中水(w/o/w)乳液の場合のように2相より多くを含む多重乳液であってもよい。そのような複雑な製剤は単なる二元の乳液が与えない特定の利点を与える場合が多い。o/w乳液の個々の油液滴が小水滴を封入している多重乳液はw/o/w乳液を構成する。同様に、油性の連続相中に安定化された水の小球内に封入された油液滴の系はo/w/o乳液を与える。
【0092】
乳液は熱力学的安定性が殆ど又は全くないことを特徴とする。頻繁には乳液の分散又は不連続の相は外部又は連続相の内部に十分分散され、そして乳化剤又は製剤の粘度という手段を介してその形態に維持される。乳液の相の何れかは乳液型の軟膏基剤及びクリームの場合のように、半固体又は固体であってよい。乳液を安定化するための他の手段は乳液の何れかの相内に取り込まれてよい乳化剤の使用を包含する。乳化剤は大きくは以下の4カテゴリー、即ち合成界面活性剤、天然に存在する乳化剤、吸収基剤、及び微細分散固体に分類してよい(Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.199)。
【0093】
表面活性物質としても知られている合成の界面活性剤は乳液製剤において広範な用途を有しており、そして文献でも考察されている(Rieger,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.285;Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,1988,volume1,p.199)。界面活性剤は典型的には両親媒性であり、親水性及び疎水性の部分を含む。界面活性剤の親水性の疎水性に対する比は親水性/親油性バランス(HLB)と称されており、そして製剤の製造における界面活性剤を分類及び選択する場合の価値ある手段となっている。界面活性剤は親水性の基の性質に基づいて異なるクラス:即ちノニオン性、アニオン性、カチオン性及び両性に分類される(Rieger,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.285)。
【0094】
乳液製剤中で使用される天然に存在する乳化剤はラノリン、蜜蝋、ホスファチド、レシチン及びアカシアを包含する。吸収基剤は、それらが水を吸収してw/o乳液を形成することができるが、なお半固体のコンシステンシーを保持するような親水性を保有しており、例えば無水ラノリン及び親水性のワセリンが挙げられる。微細分割固体も又、良好な乳化剤として、特に界面活性剤と組み合わせて、そして粘稠な調製品中において使用されている。これらには極性の無機固体、例えば重金属の水酸化物、非膨潤性の粘土、例えばベントナイト、アタプルガイト、ヘクトライト、カオリン、モンモリロナイト、コロイド状ケイ酸アルミニウム、及びコロイド状ケイ酸アルミニウムマグネシウム、顔料及び非極性の固体、例えば炭素又はトリステアリン酸グリセリルが包含される。
【0095】
広範な種類の非乳化性物質も又、乳液製剤中に包含され、乳液の性質に寄与する。これらには脂肪、油脂、ワックス、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エステル、湿潤剤、親水性コロイド、保存料及び抗酸化剤が包含される(Block,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.335;Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.199)。
【0096】
親水性コロイド、即ちヒドロコロイドは天然に存在するガム類、及び合成の重合体、例えば多糖類(例えばアカシア、寒天、アルギン酸、カラギーナン、グアガム、カラヤガム、及びトラガカント)、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、及びカルボキシプロピルセルロース)、及び合成重合体(例えばカーボマー、セルロースエーテル及びカルボキシビニル重合体)を包含する。これらが水中で分散又は膨潤することによりコロイド状溶液を形成し、これは分散相の液滴の周囲に強力な界面フィルムを形成することにより、そして、外部の相の粘度を増大させることにより、乳液を安定化させる。
【0097】
乳液は頻繁には微生物の生育を容易に支援し得る炭水化物、蛋白、ステロール及びホスファチドのような多くの成分を含有するため、これらの製剤には保存料を配合する場合が多い。乳液製剤中に一般的に使用されている保存料はメチルパラベン、プロピルパラベン、第4級アンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、p−ヒドロキシ安息香酸のエステル、及びホウ酸を包含する。抗酸化剤も又、乳液製剤の劣化を防止するために製剤中に一般的に添加される。使用される抗酸化剤はフリーラジカルスカベンジャー、例えばトコフェロール、没食子酸アルキル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、又は還元剤、例えばアスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、及び抗酸化剤相乗作用物質、例えばクエン酸、酒石酸及びレシチンであってよい。
【0098】
皮膚科用、口腔及び非経口の経路を介した乳液製剤の適用及びそれらの製造方法は文献において考察されている(Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.199)。経口送達用の乳液製剤は製剤が容易であること、並びに吸収及び生体利用性の見地からの効能のために、極めて広範に使用されている(Rosoff,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Volume1,p.245;Idson,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.199)。鉱物油の緩下剤、脂溶性ビタミン、及び高脂肪栄養調製品が、一般的にo/w乳液として経口投与される物質として挙げられる。
【0099】
本発明の1つの実施形態において、dsRNA及び核酸の組成物はマイクロエマルジョンとして製剤される。マイクロエマルジョンは単光学的等方性であり熱力学的に安定な液体溶液である水、油及び両親媒性の系として定義される場合がある(Rosoff,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Volume1,p.245)。典型的には、マイクロエマルジョンは、先ず水性の界面活性剤溶液中に油脂を分散させ、そして次に第4の成分、一般的には中鎖長のアルコールの十分な量を添加して透明な系を形成することにより製造される。従って、マイクロエマルジョンは表面活性の分子の界面フィルムにより安定化されている2つの非混和性の液体の熱力学的に安定で、等方性的には透明な分散体としても説明されている(Leung and Shah,Controlled Release of Drugs:Polymers and Aggregate Systems,Rosoff,M.,編,1989,VCH Publishers,New York,p185−215)。マイクロエマルジョンは一般的に油脂、水、界面活性剤、共界面活性剤及び電解質を包含する3〜5種の成分の組み合わせを介して製造される。マイクロエマルジョンが油中水(w/o)又は水中油(w/o)の型の何れであるかは、使用される油脂及び界面活性剤の特性に応じて、そして、界面活性剤分子の極性のヘッド部及び炭化水素のテール部の構造及び幾何学的充填状態に応じて決定される(Schott,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1985,p.271)。
【0100】
相ダイアグラムを利用した現象学的なアプローチが広汎に研究されており、そしてどのようにしてマイクロエマルジョンを製剤するかに関する当該分野の包括的知見が得られている(Rosoff,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.245;Block,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.335)。従来の乳液と比較して、マイクロエマルジョンは自発的に形成される熱力学的に安定な液滴の製剤において水不溶性の薬剤を可溶化することの利点を与えるものである。
【0101】
マイクロエマルジョンの調製品において使用される界面活性剤は、限定しないが、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、Brij96、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリグリコール脂肪酸エステル、テトラグリセロールモノラウレート(ML310)、テトラグリセロールモノオレエート(MO310)、ヘキサグリセロールモノオレエート(PO310)、ヘキサグリセロールペンタオレエート(PO500)、デカグリセロールモノカプレート(MCA750)、デカグリセロールモノオレエート(MO750)、デカグリセロールセキオレエート(SO750)、デカグリセロールデカオレエート(DAO750)を包含し、単独又は共界面活性剤と組み合わせて使用される。共界面活性剤、通常は短鎖アルコール、例えばエタノール、1−プロパノール、及び1−ブタノール等は界面活性剤のフィルムを貫通して結果的には界面活性剤分子内に形成された空隙により無秩序化されたフィルムを生じさせることにより、界面の流動性を増大させる作用を有する。しかしながらマイクロエマルジョンは共界面活性剤を使用することなく製造してよく、そしてアルコール非含有自己乳化型マイクロエマルジョン系は当該分野で知られている。水相は典型的には、限定しないが、水、薬剤の水溶液、グリセロール、PEG300、PEG400、ポリグリセロール、プロピレングリコール及びエチレングリコールの誘導体であってよい。油相は、限定しないが、Captex300、Captex355、CapmulMCM、脂肪酸エステル、中鎖(C8−C12)モノ、ジ、及びトリグリセリド、ポリオキシエチル化グリセリル脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、ポリグリコール化グリセリド、飽和ポリグリコール化C8−C10グリセリド、植物油及びシリコーンオイルを包含してよい。
【0102】
マイクロエマルジョンは薬剤可溶化及び薬剤の増強された吸収の観点から特に有利である。脂質系のマイクロエマルジョン(o/w及びw/oの両方)がペプチドを包含する薬剤の経口生体利用性を増強することが提案されている(Constantinidesら、Pharmaceutical Research,1994,11,1385−1390;Ritschel,Meth.Find.Exp.Clin.Pharmacol.,1993,13,205)。マイクロエマルジョンは進歩した薬剤の可溶化、酵素的加水分解からの薬剤の保護、膜の流動性及び透過性における界面活性剤誘導改編に起因する薬剤吸収の増強の可能性、製造の容易さ、固体剤型よりも経口投与が容易であること、向上した臨床的効能、及び低下した毒性という利点を与える(Constantinidesら、Pharmaceutical Research,1994,11,1385;Hoら、J.Pharm.Sci.,1996,85,138−143)。マイクロエマルジョンはその成分が周囲温度において混合された場合に自発的に形成される場合が多い。このことは熱不安定性の薬剤、ペプチド又はdsRNAを製剤する場合に特に好都合となる。マイクロエマルジョンは又化粧品及び医薬品の用途の両方において活性化合物の経皮送達において有効とされている。本発明のマイクロエマルジョン組成物及び製剤は胃腸管からのdsRNA及び核酸の増大した全身吸収を促進し、同時に、dsRNA及び核酸の局所的細胞取り込みも向上させることが期待される。
【0103】
本発明のマイクロエマルジョンは又、追加的な成分及び添加剤、例えばソルビタンモノステアレート(Grill3)、Labrasol及び浸透性増強剤を含有することにより製剤の特性を向上させたり、本発明のdsRNA及び核酸の吸収を増強してよい。本発明のマイクロエマルジョンにおいて使用される浸透性増強剤は5種の広範なカテゴリー:即ち、界面活性剤、脂肪酸、胆汁酸塩、キレート形成剤、及び非キレート形成性非界面活性剤のうちの1つに属するものとして分類してよい(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92)。これらのクラスの各々は上記考察した通りである。
【0104】
リポソーム
薬剤の製剤のために研究及び使用されているマイクロエマルジョン以外の多くの組織化された界面活性剤の構造が存在する。これらには単層、ミセル、2相及び小胞が包含される。小胞、例えばリポソームは薬剤送達の見地から、それらの特異性及びそれらが示す作用持続時間のために、多大な関心を持たれている。本発明において使用する場合は、「リポソーム」という用語は球状の2相内に配置された両親媒性の脂質を含む小胞を意味する。
【0105】
リポソームは単層又は多層の小胞であり、親油性物質から形成された膜及び水性の内部を有する。水性の部分は送達すべき組成物を含有する。カチオン性リポソームは細胞壁に融合することができるという利点を保有している。非カチオン性リポソームは細胞壁に効率的に融合できないがインビボでマクロファージにより取り込まれる。
【0106】
未損傷の哺乳類の皮膚を通過するためには、脂質小胞は適当な経皮勾配の影響下に各々50nm未満の直径の一連の微小な細孔を通過することが必要である。従って、高度に変形可能であり、このような微小な細孔を通過できるリポソームを使用することが望ましい。
【0107】
リポソームの他の利点として、天然のリン脂質から得られたリポソームは生体適合性及び生体分解性であり;リポソームは広範な種類の水溶性及び脂溶性薬剤を取り込むことができ;リポソームはその内部のコンパートメント中にカプセル化された薬剤を代謝及び分解から保護することができる(Rosoff,Pharmaceutical Dosage Forms,Lieberman,Rieger and Banker(編),1988,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,volume1,p.245)。リポソーム製剤の製造における注意事項は脂質表面の電荷、小胞の大きさ及びリポソームの水性の容量である。
【0108】
リポソームは作用部位への活性成分の転移及び送達のために有用である。リポソーム膜は構造的に生体膜と同様であるため、リポソームを組織に適用すると、リポソームは細胞膜に併合し始め、そしてリポソームと細胞の併合が進行するに従って、リポソームの内容物は細胞内に吐出され、そこで活性剤が作用できるようになる。
【0109】
リポソーム製剤は多くの薬剤の送達の様式として広範な研究の対象となっている。局所投与の場合、リポソームは他の製剤よりも有利な点を幾つか呈することを示す証拠が増えつつある。そのような利点は、投与された薬剤の高い全身吸収に関連する副作用の低減、所望の標的における投与された薬剤の蓄積の増大、及び皮膚内に親水性及び疎水性の両方の種々の薬剤を投与する能力を包含する。
【0110】
数文献が皮膚内に高分子量DNAを包含する薬剤を送達するリポソームの能力を詳述している。鎮痛剤、抗体、ホルモン及び高分子量DNAを包含する化合物が皮膚に投与されている。適用の大多数は上部表皮のターゲティングをもたらしている。
【0111】
リポソームは概ね2種類に分類される。カチオン性リポソームは負荷電のDNA分子と相互作用して安定な複合体を形成する正荷電のリポソームである。正荷電DNA/リポソーム複合体は負荷電の細胞表面に結合し、エンドソーム内に内在化される。エンドソーム内は酸性pHであるため、リポソームは破壊され、その内容物を細胞の細胞質内に放出する(Wangら、Biochem.Biophys.Res.Commun.,1987,147,980−985)。
【0112】
pH感受性又は負荷電のリポソームはDNAと複合体形成するよりもむしろDNAを捕獲する。DNA及び脂質の両方が同様に荷電するため、複合体形成よりもむしろ反発が生じる。しかしなお一部のDNAはこれらのリポソームの水性の内部に捕獲される。pH感受性リポソームは培養物中の細胞単層にチミジンキナーゼ遺伝子をコードするDNAを送達するために使用されている。外因性遺伝子の発現が標的細胞において検出されている(Zhouら、Journal of Controlled Release,1992,19,269−274)。
【0113】
他の主要なリポソーム組成物は天然由来のホスファチジルコリン以外のリン脂質を包含する。例えば中性のリポソーム組成物はジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)又はジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)から形成することができる。アニオン性リポソーム組成物は一般的に、ジミリストイルホスファチジルグリセロールから形成されるが、アニオン性融合誘導性リポソームは主にジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)から形成される。別の型のリポソーム組成物はホスファチジルコリン(PC)、例えば大豆PC及び卵PCから形成される。別の型はリン脂質及び/又はホスファチジルコリン及び/又はコレステロールの混合物から形成される。
【0114】
いくつかの試験が皮膚へのリポソーム薬剤製剤の局所送達を評価している。モルモット皮膚へのインターフェロン含有リポソームの適用は皮膚ヘルペスの炎症を低減させたのに対し、他の手段(例えば溶液又は乳液)を介したインターフェロンの送達は無効であった(Weinerら、Journal of Drug Targeting,1992,2,405−410)。更に又、別の試験が水性の系を用いたインターフェロンの投与に対して、リポソーム製剤の部分として投与されるインターフェロンの効果を試験しており、その結果、リポソーム製剤は水性の投与より優れていた(du Plessisら、Antiviral Research,1992,18,259−265)。
【0115】
非イオン性リポソーム系は又、特に非イオン性界面活性剤及びコレステロールを含む系において、皮膚への薬剤の送達におけるそれらの有用性を測定するために検討されている。NovasomeTMI(グリセリルジラウレート/コレステロール/ポリオキシエチレン−10−ステアリルエーテル)及びNovasomeTMII(グリセリルジステアレート/コレステロール/ポリオキシエチレン−10−ステアリルエーテル)を含む非イオン性リポソーム製剤はマウス皮膚の真皮にシクロスポリンAを送達するために使用されている。結果によれば、このような非イオン性リポソーム系は皮膚の種々の層内へのシクロスポリンAの付着を促進する場合に有効であることがわかった(Huら、S.T.P.Pharma.Sci.,1994,4,6,466)。
【0116】
リポソームは又本明細書においてはリポソーム内に取り込まれた場合に特殊化された脂質を欠いているリポソームと相対比較して増強された循環系中寿命を与えるそのような特殊化された脂質1つ以上を含むリポソームを指す用語である、「立体的に安定化された」リポソームも包含する。立体的に安定化されたリポソームの例は、リポソームの小胞形成性脂質部分の一部が(A)モノシアロガングリオシドGM1のような糖脂質1つ以上を含む、又は(B)ポリエチレングリコール(PEG)部分のような親水性重合体1つ以上で誘導体化されているものである。如何なる特定の理論にも制約されないが、当該分野においては、少なくともガングリオシド、スフィンゴミエリン又はPEG誘導体化脂質を含有する立体的に安定化されたリポソームのためには、これらの立体的に安定化されたリポソームの増強された循環系中半減期は網内皮細胞系(RES)の細胞への低減された取り込みに起因していると考えられている(Allenら、FEBS Letters,1987,223,42;Wuら、Cancer Research,1993,53,3765)。
【0117】
糖脂質1つ以上を含む種々のリポソームが当該分野で知られている。Papahadjopoulosら(Ann.N.Y.Acad.Sci.,1987,507,64)はリポソームの血中半減期を向上させるモノシアロガングリオシドGM1、ガラクトセレブロシドスルフェート及びホスファチジルイノシトールの能力を報告している。これらの発見は、Gabizonらによって詳説されている(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1988,85,6949)。ともにAllenらへの米国特許4,837,028及びWO88/04924は(1)スフィンゴミエリン及び(2)ガングリオシドGM1又はガラクトセレブロシドスルフェートエステルを含むリポソームを開示している。米国特許5,543,152(Webbら)はスフィンゴミエリンを含むリポソームを開示している。1,2−sn−ジミリストイルホスファチジルコリンを含むリポソームがWO97/13499(Limら)において開示されている。
【0118】
親水性重合体1つ以上で誘導体化された脂質を含む多くのリポソーム及びその製造方法が当該分野で知られている。Sunamotoら(Bull.Chem.Soc.Jpn.,1980,53,2778)はPEG部分を含有する非イオン性洗剤2C1215Gを含むリポソームを記載している。Illumら(FEBS Lett.,1984,167,79)は重合体グリコールによるポリスチレン粒子の親水性コーティングが有意に増強された血中半減期をもたらすことを記載している。ポリアルキレングリコール(例えばPEG)のカルボキシル基の結合により修飾された合成リン脂質がSears(米国特許4,426,330及び4,534,899)により記載されている。Klibanovら(FEBS Lett.,1990,268,235)はPEG又はPEGステアレートで誘導体化されたホスファチジルエタノールアミン(PE)を含むリポソームが血中循環系半減期の有意な増大を有することを示す実験を記載している。Blumeら(Biochimica et Biophysica Acta,1990,1029,91)はそのような観察結果を他のPEG誘導体化リン脂質、例えばジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)及びPEGの組み合わせから形成したDSPE−PEGに延長している。自身の外部表面に共有結合PEG部分を有するリポソームがFisherへの欧州特許EP0445131B1及びWO90/04384に記載されている。PEGにより誘導体化されたPE1〜20モルパーセントを含有するリポソーム組成物及びその使用方法がWoodleら(米国特許5,013,556及び5,356,633)及びMartinら(米国特許5,213,804及び欧州特許EP0496813B1)に記載されている。他の脂質重合体コンジュゲートの多くを含むリポソームはWO91/05545及び米国特許5,225,212(共にMartinら)及びWO94/20073(Zalipskyら)に開示されている。PEG修飾セラミド脂質を含むリポソームがWO96/10391(Choiら)に記載されている。米国特許5,540,935(Miyazakiら)及び5,556,948(Tagawaら)は自身の表面上の機能的部分で更に誘導体化することができるPEG含有リポソームを記載している。
【0119】
核酸を含むリポソームの限定された数は当該分野で周知である。ThierryらへのWO96/40062はリポソーム内に高分子量核酸をカプセル化するための方法を開示している。TagawaらへのUS5,264,221は蛋白結合リポソームを開示しており、そしてそのようなリポソームの内容物はdsRNARNAを包含してよいことを明示している。Rahmanらへの米国特許5,665,710はリポソーム内にオリゴデオキシヌクレオチドをカプセル化する特定の方法を記載している。LoveらへのWO97/04787はraf遺伝子にターゲティングされたdsRNAdsRNAを含むリポソームを開示している。
【0120】
トランスフェルソーム(transfersome)は別の型のリポソームであり、そして薬剤送達ビヒクルの興味深い候補である高度に変形可能な脂質凝集塊である。トランスフェルソームは液滴よりも小型である細孔を容易に通過できるほど高度に変形可能な脂質液滴として説明することができる。トランスフェルソームはそれらが使用される環境に適合することができ、例えばそれらは自己最適化(皮膚中の細孔の形状に適合できる)、自己修復性であり、頻繁にはフラグメント化することなくその標的に到達し、そして自己積載性である場合が多い。トランスファソー無を作成するためには標準的なリポソーム組成物に通常は界面活性剤である表面端部活性化剤を添加することが可能である。トランスフェルソームは皮膚への血清アルブミンの送達のために使用されている。血清アルブミンのトランスフェルソーム媒介送達は血清アルブミンを含有する溶液の皮下注射として有効であることがわかっている。
【0121】
界面活性剤は乳液(マイクロエマルジョンを含む)及びリポソームのような製剤において広範な用途を有する。天然及び合成の両方の界面活性剤の多くの異なる型の特性を分類及び順位付けする最も一般的な方法は親水性/親油性バランス(HLB)の使用による。親水性の基(「ヘッド部」としても知られている)の性質は製剤中に使用される種々の界面活性剤を分類するもっとも有用な手段を提供する(Rieger,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,1988,p.285)。
【0122】
界面活性剤分子をイオン化しない場合は、それは非イオン性界面活性剤として分類される。非イオン性界面活性剤は医薬品及び化粧品中に広範な用途を有し、そして広範な範囲のpH値に渡って使用可能である。一般的に、それらのHLB値はそれらの構造に従って2〜約18の範囲となる。非イオン性界面活性剤は非イオン性エステル、例えばエチレングリコールエステル、プロピレングリコールエステル、グリセリルエステル、ポリグリセリルエステル、ソルビタンエステル、スクロースエステル、及びエトキシル化エステルを包含する。非イオン性のアルカノールアミド及びエーテル、例えば脂肪族アルコールエトキシレート、プロポキシル化アルコール、及びエトキシル化/プロポキシル化ブロック重合体も又、このクラスに包含される。ポリオキシエチレン界面活性剤は非イオン性界面活性剤クラスの最も良く知られたメンバーである。
【0123】
界面活性剤分子が水中に溶解又は分散されると負電荷を担持する場合、界面活性剤はアニオン性と分類される。アニオン性界面活性剤は、カルボキシレート、例えば石鹸、アシルラクチレート、アミノ酸のアシルアミド、硫酸のエステル、例えばアルキルスルフェートおよびエトキシル化アルキルスルフェート、スルホネート、例えばアルキルベンゼンスルホネート、アシルイセチオネート、アシルタウレートおよびスルホスクシネート及びホスフェートを包含する。アニオン性界面活性剤クラスの最も重要なメンバーはアルキルスルフェート及び石鹸である。
【0124】
界面活性剤分子が水中に溶解又は分散されると正電荷を担持する場合、界面活性剤はカチオン性と分類される。カチオン性界面活性剤は、第4級アンモニウム塩及びエトキシル化アミンを包含する。第4級アンモニウム塩はこのクラスの最も使用されているメンバーである。
【0125】
界面活性剤分子が正電荷又は負電荷の何れかを担持する能力を有する場合、界面活性剤は両親媒性に分類される。両親媒性界面活性剤はアクリル酸誘導体、置換アルキルアミド、N−アルキルベタイン及びホスファチドを包含する。
【0126】
薬剤製品、製剤中、及び乳液中の界面活性剤の使用は検討されている(Rieger,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,1988,p.285)。
【0127】
浸透性増強剤
1つの実施形態において、本発明は動物の皮膚への核酸、特にdsRNAの効率的送達を行うために種々の浸透性増強剤を使用する。大部分の薬剤はイオン化又は非イオン化の形態の両方において溶液中に存在する。しかしながら、通常は脂溶性又は親油性の薬剤のみが容易に細胞膜を通過できる。非親油性の薬剤であっても、通過すべき膜が浸透性増強剤で処理されていれば、細胞膜を通過する場合があることがわかっている。細胞膜を通過する非親油性薬剤の拡散を支援することに加えて、浸透性増強剤は親油性薬剤の透過性も増強する。
【0128】
浸透性増強剤は5種の広範なカテゴリー、即ち、界面活性剤、脂肪酸、胆汁酸塩、キレート形成剤、及び非キレート形成性非界面活性剤のうちの1つに属するものとして分類してよい(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92)。浸透性増強剤の上記クラスの各々は以下により詳細に考察する。
【0129】
界面活性剤:本発明との関連においては、界面活性剤(又は「表面活性剤」)は水溶液中に溶解した場合溶液の表面張力又は水溶液と他の液体との間の界面の張力を低減し、これにより粘膜を通過するdsRNAの吸収を増強する化学的実体である。胆汁酸塩及び脂肪酸のほかに、これらの浸透性増強剤は例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル及びポリオキシエチレン−20−セチルエーテル(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92);及びパーフルオロ化学乳液、例えばFC−43(Takahashiら、J.Pharm.Pharmacol.,1988,40,252)を包含する。
【0130】
脂肪酸:浸透性増強剤として作用する種々の脂肪酸及びその誘導体は、例えばオレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸(n−デカン酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン(1−モノオレオイル−rac−グリセロール)、ジラウリン、カプリル酸、アラキドン酸、グリセロール1−モノカプレート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、アシルカルニチン、アシルコリン、それらのC1−10アルキルエステル(例えばメチル、イソプロピル、及びt−ブチル)及びそのモノ及びジグリセリド(即ちオレエート、ラウレート、カプレート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、リノリエート等)を包含する(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92;Muranishi,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1990,7,1−33;El Haririら、J.Pharm.Pharmacol.,1992,44,651−654)。
【0131】
胆汁酸塩:胆汁の生理学的役割は脂質及び脂溶性ビタミンの分散及び吸収の促進を包含する(Brunton,Chapter 38:Goodman&Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,9th Ed.,Hardmanら編、McGraw−Hill,New York,1996,pp.934−935)。種々の天然の胆汁酸塩及びその合成誘導体が浸透性増強剤として作用する。即ち、「胆汁酸塩」という用語は胆汁の天然に存在する成分並びにそれらの合成誘導体の何れも包含する。本発明の胆汁酸塩は例えばコール酸(又は製薬上許容しうるナトリウム塩、コール酸ナトリウム)、デヒドロコール酸(デヒドロコール酸ナトリウム)、デオキシコール酸(デオキシコール酸ナトリウム)、グルコール酸(グルコール酸ナトリウム)、グリコール酸(グリコール酸ナトリウム)、グリコデオキシコール酸(グリコデオキシコール酸ナトリウム)、タウロコール酸(タウロコール酸ナトリウム)、タウロデオキシコール酸(タウロデオキシコール酸ナトリウム)、ケノデオキシコール酸(ケノデオキシコール酸ナトリウム)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、ナトリウムタウロ−24,25−ジヒドロフシデート(STDHF)、ナトリウムグリコジヒドロフシデート及びポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル(POE)を包含する(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92;Swinyard,Chapter 39,Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Gennaro,編、Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990,p.782−783;Muranishi,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1990,7,1−33;Yamamotoら、J.Pharm.Exp.Ther.,1992,263,25;Yamashitaら、J.Pharm.Sci.,1990,79,579−583)。
【0132】
キレート形成剤:キレート形成剤は、本発明との関連において使用する場合、金属イオンを溶液からそれとの複合体形成により除去し、これにより粘膜を通過するdsRNAの吸収を増強する化合物として定義される。本発明における浸透性増強剤としてのそれらの使用に関しては、キレート形成剤はDNase阻害剤としても作用するという追加的利点を有しているが、その理由は大部分の特性化されたDNAヌクレアーゼは触媒作用のために2価の金属イオンを必要とし、このため、キレート形成剤により阻害されるためである(Jarrett,J.Chromatogr.,1993,618,315−339)。本発明のキレート形成剤は限定しないが、エチレンジアミン4酢酸二ナトリウム(EDTA)、クエン酸、サリシレート(例えばナトリウムサリシレート、5−メトキシサリシレート及びホモバニレート)、コラーゲンのN−アシル誘導体、ラウレス−9及びベータ−ジケトンのN−アミノアシル誘導体(エナミン)を包含する(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92;Muranishi,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1990,7,1−33;Buurら、J.Control Rel.,1990,14,43−51)。
【0133】
非キレート形成性非界面活性剤:本明細書においては、非キレート形成性非界面活性剤の浸透性増強化合物はキレート形成剤として、又は界面活性剤としては僅かな活性しか示さないが、しかしなお、栄養粘膜を通過するdsRNAの吸収を増強する化合物として定義できる(Muranishi,Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1990,7,1−33)。浸透性増強剤のこのクラスは例えば不飽和環状尿素、1−アルキル−及び1−アルケニルアザシクロアルカノン誘導体(Leeら、Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,1991,p.92);及び非ステロイド抗炎症剤、例えばジクロフェナックナトリウム、インドメタシン及びフェニルブタゾン(Yamashitaら、J.Pharm.Pharmacol.,1987,39,621−626)を包含する。
【0134】
細胞レベルにおいてdsRNAの取り込みを増強する薬剤も又、本発明の医薬組成物又は他の組成物に添加してよい。例えばカチオン性脂質、例えばリポフェクチン(Junichiら、米国特許5,705,188)、カチオン性グリセロール誘導体、及びポリカチオン性分子、例えばポリリジン(Lolloら、PCT出願WO97/30731)も又、dsRNAの細胞取り込みを増強することが分かっている。
【0135】
他の薬剤、例えばグリコール類、例えばエチレングリコール及びプロピレングリコール、ピロール類、例えば2−ピロール、アゾン類及びテルペン類、例えばリモネン及びメントンも投与された核酸の浸透性を増強するために利用してよい。
【0136】
担体
本発明の特定の組成物はまた製剤中に担体化合物を配合する。本明細書においては、「担体化合物」又は「担体」とは、不活性である(即ち自体生物学的活性を有さない)が例えば生物学的に活性な核酸を分解するか、又は循環系からのその除去を増進することにより生物学的活性を有する核酸の生体利用性を低減するインビボのプロセスにより核酸として認識される核酸又はその類縁体を指す場合がある。核酸および担体化合物、典型的には後者の物質を過剰量とする同時投与は、恐らくは共通の受容体に対する担体化合物及び核酸の間の競合のため、肝臓、腎臓又は他の循環系外の貯留場所において回収される核酸の量を実質的に低減することができる。例えば、肝臓組織中の部分的にホスホロチオエートのdsRNAの回収はそれがポリイノシン酸、デキストランスルフェート、ポリシチジン酸、又は4−アセトアミド−4’イソチオシアノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸と同時投与されれば低減することができる(Miyaoら、DsRNA Res.Dev.,1995,5,115−121;Takakuraら、DsRNA & Nucl.Acid Drug Dev.,1996,6,177−183)。
【0137】
賦形剤
担体化合物とは対照的に、「医薬品用担体」又は「賦形剤」とは製薬上許容しうる溶媒、懸濁剤又は動物に核酸1個以上を送達するための何れかの他の薬理学的に不活性なビヒクルである。賦形剤は液体又は固体であってよく、そして所定の医薬組成物の核酸及び他の成分と組み合わせた場合に所望の嵩、コンシステンシー等を与えるように、予定される投与様式のものを選択する。典型的な医薬品用担体は限定しないが、結合剤(例えば予備ゼラチン化されたトウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドン又はヒトドキシプロピルメチルセルロース等);充填剤(例えば乳糖及び他の糖類、微結晶セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリレート、又はリン酸水素カルシウムなど);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸、金属ステアリン酸塩、水素化植物油、コーンスターチ、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等);崩壊剤(例えば澱粉、ナトリウム澱粉グリコレート等);及び水和剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム等)を包含する。
【0138】
核酸と望ましくない反応を起こさない非経口投与以外に適する製薬上許容しうる有機又は無機の賦形剤も又、本発明の組成物を製剤するために使用してよい。適当な製薬上許容しうる担体は限定しないが、水、塩溶液、アルコール類、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を包含する。
【0139】
核酸の局所投与のための製剤は、滅菌及び非滅菌の水溶液、アルコールのような一般的溶媒中の非水溶液、又は液体又は固体の油脂基剤中の核酸の溶液を包含してよい。溶液は又緩衝液、希釈剤及び他の適当な添加剤を含有してよい。核酸と望ましくない反応を起こさない非経口投与以外に適する製薬上許容しうる有機又は無機の賦形剤も使用できる。
【0140】
適当な製薬上許容しうる賦形剤は限定しないが、水、塩溶液、アルコール類、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を包含する。
【0141】
他の成分
本発明の組成物は更に医薬組成物中従来存在している他の副次的成分を、それらの当該分野で確立されている使用レベルにおいて含有してよい。即ち、組成物は追加的な、適合性のある、薬学的に活性な物質、例えば痒み止め、収斂剤、局所麻酔剤又は抗炎症剤を含有してよく、或いは、本発明の組成物の種々の剤型を物理的に製剤する場合に有用な他の物質、例えば染料、フレーバー剤、保存料、抗酸化剤、不透明化剤、増粘剤及び安定化剤を含有してよい。しかしながらこれらの物質を添加する場合は、本発明の組成物の成分の生物学的活性を不用意に妨害してはならない。製剤は滅菌することができ、そして所望により、補助剤、例えば潤滑剤、保存料、安定化剤、水和剤、乳化剤、浸透圧調整のための塩、緩衝液、着色料、フレーバー剤、及び/又は芳香性物質等、製剤の核酸と有害な相互作用を示さないものと混合することができる。
【0142】
水性懸濁液は懸濁液の粘度を増大させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール及び/又はデキストランを含有してよい。懸濁液は安定化剤も含有してよい。
【0143】
本発明の特定の実施形態は(a)アンチセンス化合物1つ以上、及び(b)非アンチセンス機序により機能する他の化学療法剤1つ以上を含有する医薬組成物を提供する。そのような化学療法剤の例は限定しないが、ダウノルビシン、ダウノマイシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、エソルビシン、ブレオマイシン、マホスファミド、イホスファミド、シトシンアラビノシド、ビスクロロエチルニトロソ尿素、ブスルファン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ミトラマイシン、プレドニソン、ヒドロキシプロゲステロン、テストステロン、タモキシフェン、デカルバジン、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミン、ペンタメチルメラミン、マイトキサントロン、アムサクリン、クロランブシル、メチルシクロヘキシルニトロソ尿素、窒素マスタード、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−アザシチジン、ヒドロキシ尿素、デオキシコホルマイシン、4−ヒドロキシパーオキシシクロホスファミド、5−フルオロウラシル(5−FU)、5−フルオロデオキシウリジン(5−FUdR)、メトトレキセート(MTX)、コルヒチン、タキソール、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド(VP−16)、トリメトレキセート、イリノテカン、トポテカン、ゲムシタビン、テニポシド、シスプラチン及びジエチルスチルベストロール(DES)を包含する。一般的にThe Merck Manual of Diagnosis and Therapy,15th Ed.,1987,pp.1206−1228,Berkowら編、Rahway,N.J.を参照されたい。本発明の化合物と共に使用する場合、そのような化学療法剤は個々に(例えば5−FU及びオリゴヌクレオチド)、逐次的に(例えば5−FU及びオリゴヌクレオチドをある期間、その後、MTX及びオリゴヌクレオチド)、又は別のそのような化学療法剤1つ以上と組み合わせて(例えば5−FU、MTX及びオリゴヌクレオチド、又は5−FU、放射線療法及びオリゴヌクレオチド)使用してよい。抗炎症剤、例えば限定しないが、非ステロイド抗炎症剤及びコルチコステロイド、及び抗ウィルス剤、例えば限定しないが、リビビリン、ビダラビン、アシクロビル及びゲンシクロビルも又、本発明の組成物中に組み合わせてよい。一般的にそれぞれThe Merck Manual of Diagnosis and Therapy,15th Ed.,Berkowら編、1987,Rahway,N.J.,p.2499−2506及び46−49を参照されたい。他の非アンチセンス化学療法剤も又本発明の範囲に包含される。2つ以上の組み合わせられる化合物は共に、又は逐次的に使用してよい。
【0144】
そのような化合物の毒性及び治療効果は例えばLD50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED50(集団の50%に対して治療上有効な用量)を測定するための細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的操作法により測定することができる。毒性及び治療効果の間の用量比は治療指数であり、そしてそれは比LD50/ED50として表示できる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0145】
細胞培養試験及び動物実験から得られたデータを人における使用のための用量の範囲として製剤中で使用できる。本発明の組成物の用量は一般的に毒性が殆ど、又は全くないED50を包含する循環系中濃度の範囲内にある。投薬量は使用する投薬形態及び使用する投与経路に応じてこの範囲内で変動してよい。本発明の方法において使用される何れの化合物に関しても、治療有効用量は細胞培養試験から最初は推定できる。用量は、細胞培養において決定されたIC50(即ち症状の半最大抑制を達成するための被験化合物の濃度)を包含する化合物の、或いは、適宜、標的配列のポリペプチド産物(例えばポリペプチドの低下した濃度を達成する)の循環血漿中濃度範囲を達成するために動物モデルにおいて製剤してよい。そのような情報を使用して更に正確にヒトにおける有用用量を決定することができる。血漿中のレベルは例えば高速液体クロマトグラフィーにより測定してよい。
【0146】
上記した個別又は複数で投与することの他に、本発明のdsRNAはEg5発現により媒介される病理学的プロセスの治療において効果的な他の知られた薬剤と組み合わせて投与できる。何れの場合も、担当医は、当該分野で知られた、又は本明細書に記載した薬効の標準的尺度を用いながら観察された結果に基づいてdsRNA投与の量及び時期を調節することができる。
【0147】
Eg5の発現により誘発される疾患を治療するための方法
本発明は特に癌の治療のため、例えば腫瘍の生育及び腫瘍の転移を抑制するための、dsRNA又はそれから製造した医薬組成物の使用に関する。例えば、dsRNA又はそれから製造した医薬組成物は固形腫瘍、例えば乳癌、肺癌、頭部頚部癌、脳の癌、腹部の癌、結腸癌、結腸直腸癌、食道癌、胃腸の癌、神経膠腫、肝臓癌、舌癌、神経芽腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽腫、ウイルムス腫瘍、多発性骨髄腫の治療のため、及び、皮膚癌、例えば黒色腫の治療のため、リンパ腫及び血液の癌の治療のために使用してよい。本発明は更に、Eg5発現を抑制するため、及び/又は種々の癌、例えば乳癌、肺癌、頭部の癌、頚部の癌、脳の癌、腹部の癌、結腸癌、結腸直腸癌、食道癌、胃腸の癌、神経膠腫、肝臓癌、舌癌、神経芽腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、網膜芽腫、ウイルムス腫瘍、多発性骨髄腫、皮膚癌、黒色腫、リンパ腫及び血液の癌において腹水及び胸水の蓄積を抑制するための本発明のdsRNA又はそれから製造した医薬組成物の使用に関する。Eg5発現に対する抑制作用のために、本発明のdsRNA又はそれから製造した医薬組成物はクオリティーオブライフを向上させることができる。
【0148】
本発明は更に、他の医薬品及び/又は治療方法と、例えば知られた医薬品及び/又は知られた治療方法、例えば癌を治療するため、及び/又は腫瘍転移を予防するために現在使用されているものと組み合わせた、例えば癌の治療のため、又は腫瘍転移を予防するためのdsRNA又はその医薬組成物の使用に関する。放射線療法と化学療法剤、例えばシスプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン又はタモキシフェンとの組み合わせが好ましい。他の実施形態はVEGFの発現を抑制するために使用される第2のdsRNAの使用を包含する。
【0149】
本発明は又、別の抗癌化学療法剤、例えば何れかの従来の化学療法剤又はVEGF発現を抑制するために使用される別のdsRNAと組み合わせて、特定のRNAi剤と共に包含することにより実施することができる。そのような他の薬剤との特定の結合剤の組み合わせは化学療法プロトコルを強化することができる。多くの化学療法プロトコルは本発明の方法に組み込むことができるものとして当業者が想到するものである。何れかの化学療法剤、例えばアルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモン及び拮抗剤、放射性同位体並びに天然産物を使用することができる。例えば、本発明の化合物は抗生物質、例えばドキソルビシン、及び他のアントラサイクリン類縁体、窒素マスタード、例えばシクロホスファミド、ピリミジン類縁体、例えば5−フルオロウラシル、シスプラチン、ヒドロキシ尿素、タキソール及びその天然および合成の誘導体等と共に投与することができる。別の例として、腫瘍がゴナドトロピン依存性及びゴナドトロピン非依存性の細胞を包含する乳房の腺癌のような混合型の腫瘍の場合は、化合物はロイプロリド又はゴセレリン(LH−RHの合成ペプチド類縁体)と組み合わせて投与することができる。他の抗新生物剤のプロトコルはテトラサイクリン化合物を他の治療モダリティ、例えば手術、放射線等と共に使用することを包含し、これは本明細書においては「付随的抗新生物モダリティ」とも称する。即ち、本発明の方法は副作用を低減し、薬効を増強するという利点を有するこのような従来の治療法と共に使用できる。
【0150】
Eg5遺伝子の発現を抑制するための方法
別の特徴において、本発明は哺乳類におけるEg5遺伝子の発現を抑制するための方法を提供する。方法は標的Eg5遺伝子の発現がサイレント化されるように哺乳類に本発明の組成物を投与することを含む。その高い特異性のため、本発明のdsRNAは標的Eg5遺伝子のRNA(一次又はプロセシング後)を特異的にターゲティングする。dsRNAを用いたこれらのEg5遺伝子の発現を抑制するための組成物及び方法は本明細書に記載の通り実施できる。
【0151】
1つの実施形態において、方法はdsRNAを含む組成物を投与することを含み、ここでdsRNAは治療すべき哺乳類のEg5遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部分に相補であるヌクレオチド配列を含む。治療すべき生物が哺乳類、例えばヒトである場合、組成物は当該分野で知られた何れかの手段により、例えば限定しないが、経口又は非経口の経路、例えば静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、経鼻、直腸及び局所(口内及び舌下を包含)の投与により投与してよい。好ましい実施形態において、組成物は静脈内の注入又は注射により投与される。
【0152】
特段の記載が無い限り、本明細書において使用する全ての専門技術用語は本発明が属する分野の当業者により共通に理解されているものと同様の意味を有する。本明細書に記載した方法及び材料と同様又は等価であるものを本発明の実施及び試験において使用できるが、適当な方法及び材料を以下に記載する。本明細書において言及した全ての出版物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。矛盾が生じる場合は、定義を含む本明細書が優先する。更に又、材料、方法及び実施例は説明目的のみであり、限定する意図はない。
【実施例】
【0153】
Eg5遺伝子の遺伝子ウォーキング
初期スクリーニングセット
siRNA設計はEg5をターゲティングするsiRNAを同定するために実施した(KIF11、HSKP、KNSL1及びTRIP5としても知られている)。Eg5に対するヒトmRNA配列、参考配列番号:NM_004523を使用した。
【0154】
ヒト及びマウスのEg5に対して交差反応性のsiRNAデュプレックスを設計した。24デュプレックスをスクリーニング用に合成した(表1)。
【0155】
増殖スクリーニングセット
第2のスクリーニングセットはヒトEG5をターゲティングする266siRNA並びにそのアカゲザルオーソログを用いて定義した(表2)。増殖させたスクリーニングセットはヒトEG5をターゲティングする328siRNAを用いて選択し、他の種の何れかのEG5mRNAをヒットする必要はないものとした(表3)。
【0156】
ヒト及び部分的アカゲザルのEG5mRNAの配列をNCBIヌクレオチドデータベースからダウンロードし、ヒト配列は更にレファレンス配列として使用した(ヒトEG5:NM_004523.2、4908bp及びアカゲザルEG5:XM_001087644.1、878bp(ヒトEG5の5’部分のみ))。
【0157】
別のアカゲザルEG5配列の同定のために、ヒト配列のメガブラスト検索をアガゲザルのレファレンスゲノムに対してNCBIにおいて実施した。ダウンロードしたアガゲザルの配列及びブラストヒットのヒット領域を組み立てて完全長に渡ってヒトEG5に対して〜92%の同一性を有するアガゲザルコンセンサス配列とした。
【0158】
全ての可能な19量体をヒトmRNA配列から抽出し、ヒト反応性EG5siRNAの4890(センス鎖)配列に相当する候補標的部位のプールを得た。
【0159】
ヒト−アカゲザルの交差反応性は本候補プールから生じる最初のスクリーニングセットに関するsiRNAのインシリコの選択のための前提条件とした。アカゲザル反応性siRNAを調べるために、各候補のsiRNA標的部位を組み立てられたアカゲザル配列内の存在に関して検索した。更に又、siRNAの予測された特異性を、他のヒトmRNAではなくヒトEG5mRNA配列をターゲティングすることにより顕在化するヒト−アカゲザル交差反応性siRNAのプールからの選択基準とした。
【0160】
siRNAの特異性は「オフターゲット遺伝子」と称される他の遺伝子をターゲティングするその潜在性を介して表示することができる。
【0161】
siRNAのオフターゲット潜在性を予測するために、以下の仮定を立てた。
1)鎖のオフターゲット潜在性はオフターゲットに対するミスマッチの数及び分布から推定することができる。
2)最も関連するオフターゲット、すなわちミスマッチの耐容性のためにサイレント化される可能性が最も高いと予測される遺伝子が、鎖のオフターゲット潜在性を決定する。
3)鎖の2〜9位(5’から3’の方向に数える)(シード領域)は残りの配列(即ちノンシード及び切断部位の領域)よりもオフターゲット潜在性により高度に寄与する場合がある。
4)鎖の10及び11位(5’から3’の方向に数える)(切断部位領域)はノンシード領域(即ち5’から3’の方向に数えて12〜18位)よりもオフターゲット潜在性により高度に寄与する場合がある。
5)各鎖の1〜19位はオフターゲット相互作用に関連しない。
6)オフターゲット潜在性は仮定3)〜5)を考慮しながらオフターゲット遺伝子における最も相同である領域に対する鎖のミスマッチの数及び位置に基づいて計算された最も関連するオフターゲットのオフターゲット評点により表示することができる。
7)アンチセンス及びセンス鎖のオフターゲット潜在性は関連することになるが、導入された内部の修飾によるセンス鎖活性の潜在的削減があり得る。
【0162】
低いオフターゲット潜在性を有するsiRNAが好ましいものとして定義され、そしてより特異的であるものと仮定される。
【0163】
ヒトEG5特異的siRNAを発見するために、全て潜在的オフターゲットであるとみなされた全ての他のヒト転写物を、ヒト−アカゲザル交差反応性19量体センス鎖配列並びに相補のアンチセンス鎖に関する潜在的標的領域があるものを得るべく検索した。このために、ファーストAアルゴリズムを用いてヒト参照配列データベースの各配列における最も相同なヒット領域を決定し、これを本発明者等は包括的ヒトトランスクリプトームを表すものと仮定した。
【0164】
仮定3)〜5)に従って全ての潜在的オフターゲットを順位付けするために、そしてこれにより最も関連するオフターゲット遺伝子及びそのオフターゲット評点を同定するために、ファーストAアウトプットファイルをパールスクリプトにより更に分析した。
【0165】
スクリプトは各19量体のインプット配列及び各オフターゲット遺伝子について以下のオフターゲット特性を抽出することによりオフターゲット評点を計算した。
【0166】
ノンシード領域におけるミスマッチの数。
【0167】
シード領域におけるミスマッチの数。
【0168】
切断部位の領域におけるミスマッチの数。
【0169】
オフターゲット評点は以下の通り仮定3)〜5)を考慮することにより計算した。
【0170】
オフターゲット評点=シードミスマッチ数*10
+切断部位ミスマッチ数*1.2
+ノンシードミスマッチ数*1
各19量体の配列に関する最も関連するオフターゲット遺伝子は最低オフターゲット評点を有する遺伝子として定義した。従って、最低オフターゲット評点は鎖のオフターゲット潜在性を代表するものとして定義した。
【0171】
表2に示すスクリーニングセットについて、アンチセンス鎖に対する3以上、及び、センス鎖に対する2以上のオフターゲット評点をsiRNAの選択のための前提条件として選択し、4つ以上の連続するGを含有する配列(ポリG配列)の全てを除外した。特異性の基準をパスした266ヒト−アカゲザル交差反応性配列をこのカットオフに基づいて選択した(表2参照)。
【0172】
増殖したスクリーニングセットの定義に関しては、アカゲザルに対する交差反応性を無視し、新しく入手するヒト参照配列データベースに基づいて予測される特異性を再計算し、そして、アンチセンス及びセンス鎖に対して2.2以上のオフターゲット評点を有する328非ポリGsiRNAのみを選択した(表3参照)。
【0173】
表について:符号:A、G、C、U−リボヌクレオチド:T−デオキシチミジン:u,c−2’−O−メチルヌクレオチド:s−ホスホロチオエート連結部。
【0174】
dsRNA合成
試薬入手元
本明細書において試薬の入手元を特定しない場合は、その試薬は分子生物学における用途のための標準的な品質/純度における分子生物学のための試薬の何れかの供給元から入手してよい。
【0175】
siRNA合成
1本鎖RNAはExpedite8909合成装置(Applied Biosystems,Applera Deutschland GmbH,Darmstadt,Germany)及び固体支持体としてのコントロールされた細孔のガラス(CPG、500Å、Proligo Biochemie GmbH,Hamburg,Germany)を用いて1μモルのスケールにおける固相合成により製造した。RNA及び2’−O−メチルヌクレオチドを含有するRNAは、相当するホスホロアミダイト及び2’−O−メチルホスホロアミダイトをそれぞれ用いながら固相合成により形成した(Proligo Biochemie GmbH,Hamburg,Germany)。これらのビルディングブロックを、Current protocols in nucleic acid chemistry,Beaucage,S.L.ら(編),John Wiley & Sons,Inc.,New York,NY,USAに記載のもののような標準的なヌクレオシドホスホロアミダイト化学を用いてオリゴヌクレオチド鎖の配列内の選択された部位に取り込んだ。ホスホロチオエート連結部はアセトニトリル中のBeaucage試薬(Chruachem,Ltd,Glasgow,UK)の溶液(1%)でヨウ素酸化剤溶液を置き換えることにより導入した。その他の副次的試薬はMallinckrodt Baker(Griesheim,Germany)より入手した。
【0176】
アニオン交換HPLCによる粗製オリゴリボヌクレオチドの脱保護及び精製は確立された操作法に従って実施した。収率及び濃度は分光光度計(DU640B,Beckman Coulter GmbH,Unterschleissheim,Germany)を用いて260nmの波長においてそれぞれのRNAの溶液のUV吸光度により測定した。2本鎖RNAはアニーリング緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、pH6.8;100mM塩化ナトリウム)中の相補鎖の等モル溶液を混合することにより形成し、これは3分間85〜90℃のウォーターバス中で加熱し、そして3〜4時間かけて室温に冷却した。アニーリングされたRNA溶液は使用時まで−20℃で保存した。
【0177】
3’−コレステロールコンジュゲートsiRNA(本明細書においてはChol−3’と称する)の合成のためには、適切に修飾された固体支持体をRNA合成のために使用した。修飾された固体支持体は以下の通り製造した。
【0178】
ジエチル−2−アザブタン−1,4−ジカルボキシレートAA
【0179】
【化1】

水酸化ナトリウムの4.7M水溶液(50mL)を水(50ml)中の塩酸エチルグリシネート(32.19g、0.23モル)の攪拌氷冷溶液内に添加した。次に、エチルアクリレート(23.1g、0.23モル)を添加し、反応終了がTLCにより確認されるまで混合物を室温で攪拌した。19時間後、溶液をジクロロメタン(3×100ml)とに分配した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、蒸発させた。残留物を蒸留してAA(28.8g,61%)を得た。
【0180】
3−{エトキシカルボニルメチル−[6−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−ヘキサノイル]−アミノ}−プロピオン酸エチルエステルAB
【0181】
【化2】

Fmoc−6−アミノヘキサン酸(9.12g、25.83ミリモル)をジクロロメタン(50mL)中に溶解し、氷冷した。ジイソプロピルカルボジイミド(3.25g、399mL、25.83ミリモル)を0℃で溶液に添加した。次にジエチル−アザブタン−1,4−ジカルボキシレート(5g、24.6ミリモル)及びジメチルアミノピリジン(0.305gm、2.5ミリモル)を添加した。溶液を室温とし、更に6時間攪拌した。反応終了はTLCにより確認した。反応混合物を真空下に濃縮し、酢酸エチルを添加することによりジイソプロピル尿素を沈殿させた。懸濁液を濾過した。濾液を5%水性塩酸、5%重炭酸ナトリウム及び水で洗浄した。合わせた有機層を硫酸ナトリウム上に乾燥し、濃縮して得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィー(50%EtOAc/ヘキサン)により精製し、AB11.87g(88%)を得た。
【0182】
3−[(6−アミノヘキサノイル)−エトキシカルボニルメチルアミノ]−プロピオン酸エチルエステルAC
【0183】
【化3】

3−{エトキシカルボニルメチル−[6−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−ヘキサノイル]−アミノ}−プロピオン酸エチルエステルAB(11.5g、21.3ミリモル)を0℃でジメチルホルムミド中20%ピペリジンに溶解した。溶液を1時間攪拌した。反応混合物を真空下に濃縮し、水を残留物に添加し、そして生成物を酢酸エチルで抽出した。粗生成物をその塩酸塩に変換することにより精製した。
3−({6−[17−(1,5−ジメチルヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}エトキシカルボニルメチル−アミノ)−プロピオン酸エチルエステルAD
【0184】
【化4】

3−[(6−アミノヘキサノイル)−エトキシカルボニルメチルアミノ]−プロピオン酸エチルエステルAC(4.7g、14.8ミリモル)の塩酸塩をジクロロメタン中に取り上げた。懸濁液を氷上で0℃まで冷却した。懸濁液にジイソプロピルエチルアミン(3.87g、5.2mL,30ミリモル)を添加した。得られた溶液にコレステリルクロロホルメート(6.675g、14.8ミリモル)を添加した。反応混合物を一夜攪拌した。反応混合物をジクロロメタンで希釈し、10%塩酸で洗浄した。生成物をフラッシュクロマトグラフィーで精製した(10.3g、92%)。
1−{6−[17−(1,5−ジメチルヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}−4−オキソ−ピロリジン−3−カルボン酸エチルエステルAE
【0185】
【化5】

カリウムt−ブトキシド(1.1g、9.8ミリモル)を乾燥トルエン30mL中にスラリー化した。混合物を氷上で0℃に冷却し、そしてジエステルAD5g(6.6ミリモル)を20分以内に攪拌しながら緩徐に添加した。添加中の温度は5℃未満に維持した。攪拌を0℃で30分間継続し、そして氷酢酸1mlを添加し、その直後に水40ml中の
NaHPO・HO4gを添加した。得られた混合物を各々ジクロロメタン100mlで2回抽出し、そして合わせた有機抽出液を各々リン酸塩緩衝液10mLで2回洗浄し、乾燥し、蒸発乾固させた。残留物をトルエン60mLに溶解し、0℃に冷却し、各50mLの冷pH9.5炭酸塩緩衝液で3回抽出した。水性抽出液をリン酸でpH3に調節し、各40mlのクロロホルムで5回抽出し、これらを合わせ、乾燥し、蒸発乾固させた。残留物を25%酢酸エチル/ヘキサンを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、b−ケトエステル1.9gを得た(39%)。
[6−(3−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルピロリジン−1−イル)−6−オキソヘキシル]−カルバミン酸17−(1,5−ジメチルヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルエステルAF
【0186】
【化6】

メタノール(2ml)をテトラヒドロフラン(10ml)中のb−ケトエステルAE(1.5g、2.2ミリモル)及びナトリウムボロハイドライド(0.226g、6ミリモル)の還流混合物に1時間かけて滴下した。攪拌を1時間還流温度で継続した。室温に冷却したのち、1NHCl(12.5ml)を添加し、混合物を酢酸エチル(3×40ml)で抽出した。合わせた酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウム上に乾燥し、真空下に濃縮し、得られた生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した(10%MeOH/CHCl)(89%)。
(6−{3−[ビス−(4−メトキシフェニル)−フェニルメトキシメチル]−4−ヒドロキシピロリジン−1−イル}−6−オキソヘキシル)−カルバミン酸17−(1,5−ジメチルヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルエステルAG
【0187】
【化7】

ジオールAF(1.25gm、1.994ミリモル)を真空下にピリジン(2×5mL)と共に蒸発させることにより乾燥させた。無水ピリジン(10mL)及び4,4’−ジメトキシトリチルクロリド(0.724g、2.13ミリモル)を攪拌しながら添加した。反応は一夜室温で実施した。メタノールを添加することにより反応をクエンチングした。反応混合物を真空下に濃縮し、残留物にジクロロメタン(50mL)を添加した。有機層を1M水性重炭酸ナトリウムで洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウム上に乾燥し、濾過し、濃縮した。残留物のピリジンをトルエンと共に蒸発させることにより回収した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(2%MeOH/クロロホルム、5%MeOH/CHCl中でRf=0.5)で精製した(1.75g、95%)。
【0188】
コハク酸モノ−(4−[ビス−(4−メトキシ−フェニル)−フェニル−メトキシメチル]−1−{6−[17−(1,5−ジメチルヘキシル)−10,13−ジメチル−2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17−テトラデカヒドロ−1H−シクロペンタ[a]フェナントレン−3−イルオキシカルボニルアミノ]−ヘキサノイル}−ピロリジン−3−イル)エステルAH
【0189】
【化8】

化合物AG(1.0g、1.05ミリモル)を無水コハク酸(0.150g、1.5ミリモル)及びDMAP(0.073g、0.6ミリモル)と混合し、一夜40℃で真空下に乾燥した。混合物を無水ジクロロエタン(3mL)中に溶解し、トリエチルアミン(0.318g、0.440mL、3.15ミリモル)を添加し、そして溶液を16時間アルゴン雰囲気下室温で攪拌した。次にこれをジクロロメタン(40mL)で希釈し、氷冷水性クエン酸(5wt%、30mL)及び水(2×20mL)で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上に乾燥し、濃縮乾固した。残留物をそのまま次の工程に使用した。
コレステロール誘導体化CPGAI
【0190】
【化9】

スクシネートAH(0.254g、0.242ミリモル)をジクロロメタン/アセトニトリル(3:2、3ml)の混合物中に溶解した。この溶液に、アセトニトリル(1.25mL)中のDMAP(0.0296g,0.242ミリモル)、アセトニトリル/ジクロロエタン(3:1、1.25mL)中の2,2’−ジチオ−ビス(5−ニトロピリジン)(0.075g、0.242ミリモル)を順次添加した。得られた溶液に、アセトニトリル(0.6ml)中のトリフェニルホスフィン(0.064g、0.242ミリモル)を添加した。反応混合物は明橙色に変色した。溶液は手首動作型振とう器を用いて短時間攪拌した(5分)。長鎖アルキルアミン−CPG(LCAA−CPG)(1.5g、61mM)を添加した。懸濁液を2時間攪拌した。CPGを焼結漏斗を通して濾過し、アセトニトリル、ジクロロメタン及びエーテルで順次洗浄した。未反応のアミノ基を無水酢酸/ピリジンを用いてマスキングした。達成されたCPG負荷はUV測定により測定した(37mM/g)。
【0191】
5’−12−ドデカン酸ビスデシルアミド基(本明細書においては5’−C32−と称する)又は5’−コレステリル誘導体基(本明細書においては5’−Chol−と称する)を担持したsiRNAの合成は、コレステリル誘導体に関して酸化工程をBeaucage試薬を用いながら実施することにより核酸オリゴマーの5’末端においてホスホロチオエート連結部を導入した以外は、WO2004/065601に記載の通り実施した。
【0192】
核酸配列は標準的命名法及び特に表4の略記法を用いて以下の通り示した。
【0193】
【表4】

dsRNA発現ベクター
本発明の別の特徴において、Eg5遺伝子発現活性をモジュレートするEg5特異的dsRNA分子はDNA又はRNAベクター内に挿入された転写ユニットから発現される(例えばCouture,A,ら、TIG.(1996),12:5−10;Skillern,A.,ら、国際PCT公開WO00/22113,Conrad,国際PCT公開WO00/22114及びConrad,米国特許6,054,299参照)。これらのトランスジーンは宿主ゲノム内に取り込まれ、そして組み込まれたトランスジーンとして受け継がれることができる線状コンストラクト、環状プラスミド、又はウィルスベクターとして導入することができる。トランスジーンは又それが染色体外プラスミドとして受け継がれることができるように構築することもできる(Gassmann,ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:1292)。
【0194】
dsRNAの個々の鎖は2つの別個の発現ベクター上のプロモーターにより転写され、そして標的細胞内に同時トランスフェクトされることができる。或いはdsRNAの各々個々の鎖は同じ発現プラスミド上に両方が位置するプロモーターにより転写されることができる。好ましい実施形態においては、dsRNAはdsRNAがステムアンドループ構造を有するようにリンカーポリヌクレオチド配列により連結された反転リピートとして発現される。
【0195】
組み換えdsRNA発現ベクターは一般的にはDNAプラスミド又はウィルスベクターである。dsRNA発現ウィルスベクターは、限定しないが、アデノ関連ウィルス(参照文献はMuzyczka,ら、Curr.Topics Micro.Immunol.(1992)158:97−129));アデノウィルス(例えばBerkner,ら、BioTechniques(1998)6:616,Rosenfeldら(1991,Science 252:431−434),及びRosenfeldら(1992),Cell 68:143−155)参照);又はアルファウィルス並びに当該分野で知られる他のものに基づいて構築することができる。レトロウィルスはインビトロ及び/又はインビボで上皮細胞を包含する多種の異なる細胞型内に種々の遺伝子を導入するために使用されている(例えばEglitis,ら、Science(1985)230:1395−1398;Danos and Mulligan,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1998)85:6460−6464;Wilsonら、1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:3014−3018;Armentanoら、1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:61416145;Huberら、1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:8039−8043;Ferryら、1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:8377−8381;Chowdhuryら、1991,Science 254:1802−1805;van Beusechem.ら、1992,Proc.Nad.Acad.Sci.USA89:7640−19;Kayら、1992,Human Gene Therapy 3:641−647;Daiら、1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10892−10895;Hwuら、1993,J.Immunol.150:4104−4115;米国特許4,868,116;米国特許4,980,286;PCT出願WO89/07136;PCT出願WO89/02468;PCT出願WO89/05345;及びPCT出願WO92/07573参照)。細胞のゲノムに挿入された遺伝子を形質導入して発現できる組み換えレトロウィルスベクターはPA317及びPsi−CRIPのような適当なパッケージング細胞系統内に組み換えレトロウィルスゲノムをトランスフェクトすることにより製造できる(Cometteら、1991,Human Gene Therapy 2:5−10;Coneら、1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:6349)。組み換えアデノウィルスベクターは感受性宿主(例えばラット、ハムスター、イヌ、及びチンパンジー)における広範な種類の細胞及び組織を感染させるために使用でき(Hsuら、1992,J.Infectious Disease,166:769)、そして又感染のために有糸分裂的に活動性の細胞を必要としないという利点も有する。
【0196】
本発明のDNAプラスミド又はウィルスベクターの何れかにおけるdsRNA発現を駆動するプロモーターは真核生物RNAポリメラーゼI(例えばリボソームRNAプロモーター)、RNAポリメラーゼII(例えばCMV初期プロモーター又はアクチンプロモーター又はU1snRNAプロモーター)又は一般的にはRNAポリメラーゼIIIプロモーター(例えばU6snRNA又は7SKRNAプロモーター)又は原核生物プロモーター、例えばT7プロモーターであってよいが、ただし発現プラスミドはT7プロモーターからの転写に必要なT7RNAポリメラーゼもコードするものとする。プロモーターは又トランスジーン発現を膵臓に指向させることができる(例えば膵臓に関するインスリン調節配列参照(Bucchiniら、1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA83:2511−2515)))。
【0197】
更に又、トランスジーンの発現は例えば誘導調節配列及び発現系、例えば特定の生理学的調節物質、例えば循環系中グルコース濃度又はホルモンに対して感受性の調節配列を用いることにより厳密に調節できる(Dochertyら、1994,FASEBJ.8:20−24)。細胞における、又は哺乳類におけるトランスジーン発現の制御のために適するそのような誘導発現系は、エクジソンによる、エストロゲン、プロゲステロン、テトラサイクリン、2量化の化学的誘導物質、及びイソプロピル−ベータ−D1−チオガラクトピラノシド(EPTG)による調節を包含する。当業者はdsRNAトランスジーンの意図する使用に基づいて適切な調節/プロモーター配列を選択することができる。
【0198】
一般的に、dsRNA分子を発現することができる組み換えベクターは後述する通り送達され、そして標的細胞内に定着する。或いは、dsRNA分子の一過性発現をもたらすウィルスベクターを使用できる。そのようなベクターは必要に応じて反復して投与できる。発現後、dsRNAは標的RNAに結合し、そしてその機能又は発現を調節する。dsRNA発現ベクターの送達は、全身、例えば静脈内又は筋肉内投与によるか、患者から移出した標的細胞への投与とその後の患者内への再導入によるか、又は所望の標的細胞内への導入を可能にする何れかの他の手段により行うことができる。
【0199】
dsRNA発現DNAプラスミドは典型的にはカチオン性脂質担体(例えばオリゴフェクタミン)又は非カチオン性脂質系担体(例えばTransit−TKOTM)との複合体として標的細胞内にトランスフェクトされる。1週間以上の期間に渡る単一のEg5遺伝子の異なる領域又は多数のEg5遺伝子をターゲティングするdsRNA媒介ノックダウンのための多重脂質トランスフェクションも又、本発明の意図するものである。宿主細胞内への本発明のベクターの良好な導入は種々の周知の方法を用いてモニタリングできる。例えば一過性のトランスフェクションは緑色蛍光蛋白(GFP)のような蛍光マーカーのようなレポーターを用いてシグナル化できる。エクスビボの細胞の安定なトランスフェクションは特定の環境因子(例えば抗生物質及び薬剤)に対する耐性、例えばハイグロマイシンB耐性を有するトランスフェクトされた細胞を与えるマーカーを使用しながら確保することができる。
【0200】
Eg5特異的dsRNA分子はまたベクター内に挿入してヒト患者のための遺伝子療法ベクターとして使用することもできる。遺伝子療法ベクターは例えば静脈内注射、局所投与により(米国特許5,328,470参照)、或いは定位注射により(例えばChenら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:3054−3057参照)対象に送達することができる。遺伝子療法ベクターの薬学的調製品は許容される希釈剤中に遺伝子療法ベクターを包含することができ、或いは、遺伝子送達ビヒクルが包埋された緩徐放出マトリックスを含むことができる。或いは、完全遺伝子送達ベクターを組み換え細胞から未損傷で製造できる場合、例えばレトロウィルスベクターの場合は、薬学的調製品は遺伝子送達系を生産する細胞1個以上を包含できる。
【0201】
細胞増殖を介したEg5siRNAインビトロスクリーニング
Eg5のサイレント化は有糸分裂停止を誘発することがわかっている(Weil,D.ら、[2002]Biotechniques33:1244−8)ため、細胞生存性試験をsiRNA活性スクリーニングのために使用した。HeLa細胞(ウェル当たり14000[スクリーン1及び3]又はウェル当たり10000[スクリーン2])を96穴プレートに播種し、そして30nMのウェル中最終siRNA濃度において、そして50nM(第1スクリーン)及び25nM(第2スクリーン)の終濃度において、リポフェクタミン2000(Invitrogen)で同時トランスフェクトした。デュプレックスのサブセットを第3のスクリーン中25nMで試験した(表5)。
【0202】
トランスフェクション後72時間において、培地にWST−1試薬(Roche)を添加し、その後450nmにおける吸光度を測定することにより細胞増殖を試験した。対照(非トランスフェクト)細胞に関する吸光度値を100パーセントとみなし、siRNAでトランスフェクトしたウェルの吸光度を対照値と比較した。試験は3スクリーンの各々について6連で実施した。siRNAのサブセットを更に、所定の範囲のsiRNA濃度において試験した。試験はHeLa細胞において実施した(ウェル当たり14000;方法は上記と同様、表5)。
【0203】
【表5−1】

【0204】
【表5−2】

表5において最大の生育抑制を示した9種のsiRNAデュプレックスをHeLa細胞においてある範囲のsiRNA濃度において再試験した。試験したsiRNA濃度は100nM、33.3nM、11.1nM、3.70nM、1.23nM、0.41nM、0.14nM及び0.046nMであった。試験は6連で実施し、細胞増殖の50%抑制をもたらす各siRNA濃度(IC50)を計算した。この用量応答分析は各デュプレックスに関して2〜4回実施した。平均のIC50値(nM)を表6に示す。
【0205】
【表6】

細胞増殖を介したEg5siRNAインビトロスクリーニング
トランスフェクションの直前において、HelaS3(ATCC番号:CCL−2.2,LCG Promochem GmbH,Wesel,Germany)細胞を生育培地(Ham’sF12、10%ウシ胎児血清、100uペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン、全てBiochem AG,Berlin,Germanyより入手)75μl中、96穴プレート(Greiner Bio−One GmbH,Frickenhausen,Germany)上において1.5×10個/ウェルの細胞密度で播種した。トランスフェクションは4連で実施した。各ウェルにつき、0.5μlリポフェクタミン2000(Invitrogen,GmbH,Karlsruhe,Germany)を12μlのOpti−MEM(Invitrogen)と混合し、室温で15分間インキュベートした。siRNA濃度が100μlのトランスフェクション容量中50nMとなるために、5μMsiRNA1μlをウェル当たりOpti−MEM11.5μlと混合し、リポフェクタミン2000−Opti−MEM混合物と合わせ、そして再度室温で15分間インキュベートした。siRNA−リポフェクタミン2000複合物を完全に(ウェル当たり25μl)細胞に適用し、そして細胞を湿潤インキュベーター中37℃及び5%COにおいて24時間インキュベートした(Heracus GmbH,Hanau)。単用量スクリーンをそれぞれ50nM及び25nMにおいて実施した。
【0206】
細胞は溶解混合物(Genospectra,Fremont,USAより入手したQuantiGene bDNAキットの内容物)50μlを生育培地100μlの入った各ウェルに適用することにより採取し、そして30分間53℃において溶解した。その後、溶解物50μlをヒトEg5及びヒトGAPDHに特異的なプローブセットと共にインキュベートし、そしてQuantiGeneに関する製造元のプロトコルに従って処理した。終了時において、ケミルミネセンスをVictor2−Light(Perkin Elmer,Wiesbaden,Germany)中でRLU(相対光単位)として測定し、そしてhEg5プローブセットを用いて得られた値を各ウェルにつき対応するGAPDH値に対して規格化した。Eg5に対して指向されたsiRNAを用いて得られた値を100%に設定した非特異的siRNA(HCVに対して指向)を用いて得られた値と関連付けた(表1、2及び3)。
【0207】
スクリーンに由来する有効なsiRNAを用量応答曲線により更に特性化した。用量応答曲線のトランスフェクションは以下の濃度:即ち、100nM、16.7nM、2.8nM、0.46nM、77ピコM、12.8ピコM、2.1ピコM、0.35ピコM、59.5fM、9.9fM及びブランク(siRNA非含有)において実施し、そして上記プロトコルに従ってOpti−MEMで終濃度12.5μlに希釈した。データ分析はマイクロソフトエクセルアドインソフトウエアXL−フィット4.2(IDBS,Guildford,surrey,UK)を用いながら、そして用量応答モデル205番を適用しながら実施した(表1、2及び3)。
【0208】
主要なsiRNAであるAD12115を更にRocheのWST増殖試験を適用しながら分析した(前述)。
【0209】
最大活性を示した表2の34デュプレックスのサブセットを100nM〜10fMの範囲の終濃度におけるHeLa細胞におけるトランスフェクションにより試験した。トランスフェクションは4連で実施した。2つの用量応答試験を各デュプレックスについて実施した。KSPmRNAの20%(IC20)、50%(IC50)及び80%(IC80)低下を与える濃度を各デュプレックスについて計算した(表7)。
【0210】
【表7−1】

【0211】
【表7−2】

LNP01製剤siRNAの単回瞬時投与後の幼若ラットにおける肝Eg5/KSPのサイレント化
出生時〜約23日齢において、成長中のラット肝臓においてEg5/KSP発現を検出することができる。製剤化されたEg5/KSPsiRNAを用いた標的のサイレント化を幼若ラットにおいて評価した。
【0212】
試験したKSPデュプレックス
【0213】
【化10】

方法
動物の投薬:雄性幼若Sprague−Dawleyラット(19日齢)に尾静脈注射によりリピドイド(LNP01)製剤化siRNAの単回用量を投与した。10匹の群にAD6248又は非特異的siRNAの何れかを体重キログラム当たり10ミリグラム(mg/kg)の用量で投与した。用量レベルは製剤中において投与されたsiRNAデュプレックスの量を指す。第3の群にはリン酸塩緩衝食塩水を投与した。siRNA投与後2日に動物を屠殺した。肝臓を摘出し、液体窒素中に急速冷凍し、粉砕して粉末とした。
【0214】
mRNA測定。Eg5/KSPmRNAのレベルを全治療群由来の肝臓において測定した。各肝臓粉末の試料(約10ミリグラム)を、プロテイナーゼKを含有する組織溶解緩衝液中でホモゲナイズした。Eg5/KSP及びGAPDHmRNAのレベルはQuantigene分枝鎖DNA試験(GenoSpectra)を用いて各試料について3連で測定した。Eg5/KSPの平均値を各試料について平均のGAPDH値に対して規格化した。群平均を求め、各実験についてPBS群に対して規格化した。
【0215】
統計学的分析。ANOVA、次いでTukey post−hoc試験により有意性を求めた。
【0216】
結果
データのまとめ
Eg5/KSPmRNAに関する平均値(±標準偏差)を示す。PBS群に対する統計学的有意性(p値)を示す(ns、有意差無し[p>0.05])。
【0217】
【化11】

肝臓Eg5/KSPmRNAの統計学的に有意な低減は10mg/kgの用量における製剤化AD6248での治療後に観察された。
LNP01製剤化siRNAデュプレックスの静脈内注入後のラット肝VEGFのサイレント化
2種のsiRNAの等モル量混合物を含む「リピドイド」製剤をラットに投与した。1つのsiRNA(AD3133)はVEGFに対して指向させた。もう一方のsiRNA(AD12115)はEg5/KSPに対して指向させた。Eg5/KSP発現は成熟ラット肝臓では殆ど検出できないため、VEGFレベルのみがsiRNA治療後に測定された。
【0218】
投与したsiRNAデュプレックス
【0219】
【化12】

符号:A、G、C、U−リボヌクレオチド;c、u−2’−O−Meリボヌクレオチド;s−ホスホロチオエート
方法
動物の投薬。成熟雌性Sprague−Dawleyラットの大腿動脈内への2時間の注入によりリピドイド(LNP01)製剤化siRNAを投与した。4匹の群に製剤化siRNAの体重キログラム当たり5、10及び15ミリグラム(mg/kg)の用量を投与した。用量レベルは製剤中において投与されたsiRNAデュプレックスの総量を指す。第4の群にはリン酸塩緩衝食塩水を投与した。siRNA注入終了後72時間に動物を屠殺した。肝臓を摘出し、液体窒素中に急速冷凍し、粉砕して粉末とした。
製剤手順
リピドイドND98:4HCl(MW1487)(式1)、コレステロール(Sigma−Aldrich)及びPEG−セラミドC16(Avanti Polar Lipids)を用いて脂質siRNAナノ粒子を製造した。エタノール中の各々の保存溶液をND98、133mg/mL;コレステロール、25mg/mL、PEG−セラミドC16、100mg/mLとなるように製造した。次にND98、コレステロール及びPEGセラミドC16保存溶液を42:48:10モルの比において合わせた。合わせた脂質溶液は、最終エタノール濃度35〜45%、最終酢酸ナトリウム濃度100〜300mMとなるように、水性siRNA(酢酸ナトリウムpH5中)と急速混合した。形成された脂質−siRNAナノ粒子は混合により自発的に形成された。所望の粒径分布に応じて、得られたナノ粒子混合物を場合によりサーモバレル押出器を用いてポリカーボネート膜(100nmカットオフ)を通して押し出した(Lipex,Extruder,Northern Lipids,Inc)。他の場合においては、押し出し工程を省略した。エタノール除去及び同時緩衝液交換を透析又は接線流動濾過の何れかにより行った。緩衝液はリン酸塩緩衝食塩水(PBS)pH7.2に交換した。
【0220】
【化13】

製剤の特性化
標準的又は押し出しを行わない方法の何れかにより製造された製剤を同様の態様において特性化した。製剤はまず目視による検査により特性化した。凝集塊又は沈降物質を含有しない白色系の透明溶液であるべきとした。脂質ナノ粒子の粒径及び粒径分布はMalvern Zetasizer NanoZS(Malvern,USA)を用いた動的光散乱法により測定した。粒子は20〜300nm、理想的には40〜100nmのサイズであるべきとした。粒径分布は単モードであるべきとした。製剤中の総siRNA濃度、並びに捕獲された画分は染料排出試験を用いて推定される。製剤化されたsiRNAの試料をRNA結合染料リボグリーン(Molecular Probes)と共に製剤崩壊性界面活性剤0.5%Triton−X100の存在下及び非存在下においてインキュベートする。製剤中の総siRNAは標準曲線と相対比較した場合の界面活性剤含有試料からのシグナルにより測定される。捕獲された画分は総siRNA含有量から「遊離の」siRNA含有量(界面活性剤非存在下におけるシグナルにより測定される)を差し引くことにより求められる。パーセント捕獲siRNAは典型的には>85%である。
【0221】
mRNA測定。各肝臓粉末の試料(約10ミリグラム)をプロテイナーゼKを含有する組織溶解緩衝液中でホモゲナイズした。VEGF及びGAPDHmRNAのレベルはQuantigene分枝鎖DNA試験(GenoSpectra)を用いて各試料について3連で測定した。VEGFの平均値を各試料について平均のGAPDH値に対して規格化した。群平均を求め、各実験についてPBS群に対して規格化した。
【0222】
蛋白の測定。各肝臓粉末の試料(約60ミリグラム)を1mlのRIPA緩衝液中でホモゲナイズした。MicroBCA蛋白試験キット(Pierce)を用いながら総蛋白濃度を測定した。各動物の総蛋白の試料を用いながら、VEGF ELISA試験(R&Dシステムズ)を使用してVEGF蛋白レベルを測定した。群平均を求め、各実験についてPBS群に対して規格化した。
統計学的分析。ANOVA、次いでTukey post−hoc試験により有意性を求めた。
【0223】
結果
データのまとめ
mRNA(VEGF/GAPDH)及び蛋白(rel.VEGF)に関する平均値(±標準偏差)を各治療群について示す。各実験に関するPBS群に対する統計学的有意性(p値)を示す)。
【0224】
【化14】

肝VEGFmRNA及び蛋白の統計学的に有意な低減が全3段階のsiRNA用量レベルにおいて測定された。
【0225】
【表1】

【0226】
【表2−1】

【0227】
【表2−2】

【0228】
【表2−3】

【0229】
【表2−4】

【0230】
【表2−5】

【0231】
【表2−6】

【0232】
【表2−7】

【0233】
【表2−8】

【0234】
【表2−9】

【0235】
【表3−1】

【0236】
【表3−2】

【0237】
【表3−3】

【0238】
【表3−4】

【0239】
【表3−5】

【0240】
【表3−6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるヒトEg5遺伝子の発現を抑制するための2本鎖リボ核酸(dsRNA)であって、ここで、該dsRNAは相互に相補的な配列少なくとも2つを含み、そしてここでセンス鎖は第1の配列を含み、そしてアンチセンス鎖はEg5をコードするmRNAの少なくとも一部分に実質的に相補的な相補性の領域を含む第2の配列を含み、そしてここで該相補性の領域は30ヌクレオチド長未満であり、そして、該dsRNAは該Eg5を発現する細胞に接触すると該Eg5遺伝子の発現を抑制する上記2本鎖リボ核酸。
【請求項2】
前記第1の配列が表1〜3のアンチセンス鎖配列よりなる群から選択され、そして前記第2の配列が表1〜3のセンス鎖配列よりなる群から選択される請求項1記載のdsRNA。
【請求項3】
前記dsRNAが修飾されたヌクレオチド少なくとも1つを含む請求項1記載のdsRNA。
【請求項4】
前記dsRNAが修飾されたヌクレオチド少なくとも1つを含む請求項2記載のdsRNA。
【請求項5】
前記修飾されたヌクレオチドが2’−O−メチル修飾ヌクレオチド、5’−ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、及びコレステリル誘導体又はドデカン酸ビスデシルアミド基に連結された末端ヌクレオチドの群から選択される請求項4記載のdsRNA。
【請求項6】
前記修飾されたヌクレオチドが2’−デオキシ−2’−フルオロ修飾ヌクレオチド、2’−デオキシ−修飾ヌクレオチド、ロックドヌクレオチド、無塩基ヌクレオチド、2’−アミノ修飾ヌクレオチド、2’−アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミデート及び非天然塩基含有ヌクレオチドの群から選択される請求項4記載のdsRNA。
【請求項7】
前記第1の配列が表1〜3よりなる群から選択され、そして前記第2の配列が表1〜3よりなる群から選択される請求項4記載のdsRNA。
【請求項8】
請求項1記載のdsRNAを含む細胞。
【請求項9】
請求項2記載のdsRNAを含むEg5遺伝子の発現を抑制するための医薬組成物。
【請求項10】
前記dsRNAの該第1の配列が表1〜3のセンス鎖配列よりなる群から選択され、そして前記dsRNAの該第2の配列が表1〜3のアンチセンス鎖配列よりなる群から選択される請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
VEGF遺伝子の発現を抑制するdsRNAを更に含む請求項10記載の医薬組成物。
【請求項12】
細胞におけるEg5遺伝子の発現を抑制するための方法であって、該方法が下記工程:
(a)請求項2記載のdsRNAを該細胞に導入すること;及び、
(b)Eg5遺伝子のmRNA転写物の分解を達成するために十分な時間、工程(a)で生成した細胞を維持することにより、該細胞におけるEg5遺伝子の発現を抑制すること、
を含む方法。
【請求項13】
VEGFの発現を抑制する第2のdsRNAが前記細胞に導入される請求項12記載の方法。
【請求項14】
Eg5の発現により媒介される病理学的プロセスを治療、予防又は管理する方法であって、請求項2記載のdsRNAの治療又は予防有効量をそのような治療、予防又は管理を必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項15】
VEGFの発現を抑制する第2のdsRNAを投与することを更に含む請求項14記載の方法。
【請求項16】
細胞におけるEg5遺伝子の発現を抑制するためのベクターであって、該ベクターはdsRNAの鎖少なくとも1つをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結した調節配列を含み、ここで該dsRNAの鎖の1つはEg5をコードするmRNAの少なくとも一部分に実質的に相補的であり、そしてここで該dsRNAは30塩基対長未満であり、そしてここで該dsRNAは該Eg5を発現する細胞に接触すると該Eg5遺伝子の発現を少なくとも40%抑制する上記ベクター。
【請求項17】
請求項16記載のベクターを含む細胞。

【公表番号】特表2009−532036(P2009−532036A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503309(P2009−503309)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/065636
【国際公開番号】WO2007/115168
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508290910)アルニラム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】