説明

FBG光スペクトラム解析装置

【課題】関数近似によるピーク波長算出に先だってピーク検出演算対象を適切に限定することにより高速かつ高精度にピークを検出する。
【解決手段】複数のFBG19の反射光のサンプリングデータ(23)からピーク波長λP を求めるデジタル演算部20が、外部制御装置8から設定しうる下限波長λL と上限波長λU と下側強度IL と上側強度IU とを含むパラメータ群を複数保持していて(24)、波長区間パラメータ値λL,λU に基づいて波長区間を選定し(S12)、下限波長λL 未満を除外し(S13)、最大値から上側強度IU 以内に絞り込み(S14,S15)、こうしてピーク検出演算対象を限定してから、関数近似にてピーク波長λP を算出する(S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、FBG(FiberBraggGrating,ファイバブラッググレーティング,ブラッグ回折格子)を形成した光ファイバを接続して使用するFBG光スペクトラム解析装置に関し、詳しくは、光ファイバに送光してFBGからの反射光を測りそのサンプリングデータから関数近似にてピーク波長を求めるFBG光スペクトラム解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバに複数のFBGを形成しておき、それらの各位置における温度や歪みといった物理量を計測するために、光ファイバをセンサとして接続したFBG光スペクトラム解析装置が用いられる。
このようなFBG光スペクトラム解析装置には、複数のFBGを形成した光ファイバに光を送り込むための送光手段と、その反射光について波長毎の光量を測るための測光手段と、その光量測定結果からピーク波長を求めるピーク検出回路とが具備されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、ピーク検出回路については、光量測定値をサンプリングしてデジタル演算を行うことによりピーク波長を求めるようになっており、その演算手法として、ピークを含む光スペクトラムの指定区間のデータを対象にして最小二乗法による二次関数の近似を行うことによりピーク波長を算出する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
さらに、散乱光のスペクトル中心(ピーク波長)を求めるデジタル演算部は、プログラマブルなコンピュータやデジタルシグナルプロセッサ等で構成され、必要であればハードディスク等の二次記憶装置の付設もなされる(例えば特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−116059号公報
【特許文献2】特開平9−297090号公報
【特許文献3】特願2007−183034号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FBG反射光の光量測定値のサンプリングデータから関数近似にてピーク波長を算出する手法は、デジタル演算に適しているばかりか、サンプリングピッチ波長(離散化の波長幅)よりも細かな分解能および高い精度でピーク波長を求めることができるので、プログラマブルなデジタル回路と共にピーク検出回路の具体化に役立つ。
しかしながら、関数近似によるピーク波長算出には、ピーク検出演算対象のサンプリングデータが多いと演算に時間がかかる一方、ピーク検出演算対象のサンプリングデータが少ないと精度を高く保つのが難しいという性質がある。
【0006】
このため、光ファイバにFBGが多数形成されている場合、総てのFBGについてピーク波長を精度良く求めようとすると、測光時間に比べて不所望なまで演算に時間のかかることがあり、それでは、振動状態の観測など高速処理を要する応用には適さない。
そこで、関数近似によるピーク波長算出に先だってピーク検出演算対象を適切に限定することにより高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を実現するために、FBG反射光のサンプリングデータに係るピーク検出演算対象の絞り込み方に工夫を凝らすことが、基本的な技術課題となる。
【0007】
また、FBG光スペクトラム解析装置は種々の応用に用いられFBGの動作環境や要求性能も多様であり例えば高速かつ高精度なピーク検出機能が優先する時もあれば簡便な使用の方が優先する時もある。そこで、それらの要求に単体でも応えられるよう、改良を重ねるが次なる技術課題となる。
さらに、FBG光スペクトラム解析装置に接続される光ファイバにおけるFBGの形成状況も多様なので、高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を多様なFBG形成状態にも容易に適応できるよう、更に改良することが更なる技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のFBG光スペクトラム解析装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、複数のFBG(ファイバブラッググレーティング)を形成した光ファイバに光を送り込む送光手段と、その反射光について波長毎の光量を測る測光手段と、その光量測定値をサンプリングしてデジタル演算を行うことによりピーク波長を求めるピーク検出回路とを備えたFBG光スペクトラム解析装置において、前記ピーク検出回路のデジタル演算部が、波長区間パラメータ値と下側強度パラメータ値と上側強度パラメータ値とを含んだパラメータ群を複数保持していて、前記波長区間パラメータ値に基づいて前記光量測定値のサンプリングデータからピーク検出演算に供する波長区間を選定し、この選定区間において光量測定値が前記下側強度パラメータ値を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外し、この最大値探索対象から光量測定値の最大値を探索し、この最大値から前記上側強度パラメータ値以内に光量測定値が収まっているサンプリングデータにピーク検出演算対象を絞り込み、それからピーク検出演算対象のサンプリングデータに対する関数近似を行ってピーク波長を算出するものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置は(解決手段2)、上記解決手段1のFBG光スペクトラム解析装置であって、前記デジタル演算部が、前記下側強度パラメータ値に代えて連続個数パラメータ値を前記パラメータ群に含んでおり、前記選定区間において光量測定値が前記下側強度パラメータ値を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外すことに代えて、前記選定区間において前記連続個数パラメータ値以上続く連続上昇波形部分および連続下降波形部分を探索して両波形部分の間に属するサンプリングデータに最大値探索対象を絞り込むようになっていることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明のFBG光スペクトラム解析装置は(解決手段3)、上記解決手段1のFBG光スペクトラム解析装置であって、前記デジタル演算部が、前記パラメータ群に連続個数パラメータ値も含んでおり、前記下側強度パラメータ値に基づいて最大値探索対象を限定した後、前記最大値を探索するに先立って、この時点での最大値探索対象について前記連続個数パラメータ値以上続く連続上昇波形部分および連続下降波形部分を探索して両波形部分の間に属するサンプリングデータに最大値探索対象を絞り込むことにより最大値探索対象を更に限定するようになっていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置は(解決手段4)、上記解決手段2,3のFBG光スペクトラム解析装置であって、前記デジタル演算部が、前記パラメータ群に含まれていた複数の連続個数パラメータ値に代えて一の共通連続個数パラメータ値を保持しており、前記連続上昇波形部分および前記連続下降波形部分の探索に際してはどの波長区間についても前記連続個数パラメータ値に代えて前記共通連続個数パラメータ値を用いるようになっていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置は(解決手段5)、上記解決手段1〜4のFBG光スペクトラム解析装置であって、前記デジタル演算部が、前記パラメータ群とは別に共通下側強度パラメータ値を保持しており、前記光量測定値のサンプリングデータについて前記波長区間パラメータ値に基づく波長区間の選定を行なってから関数近似を行ってピーク波長を算出する前記ピーク検出手段に加えて、前記光量測定値のサンプリングデータについて前記波長区間パラメータ値に基づく波長区間の選定は行わずに光量測定値が前記共通下側強度パラメータ値を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外すことでピーク検出演算対象を限定してから関数近似を行ってピーク波長を算出する他のピーク検出手段も具備していて、両ピーク検出手段の何れかを選択実行できるようになっていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置は(解決手段6)、上記解決手段1〜5のFBG光スペクトラム解析装置であって、前記パラメータ値が総て又は一部は外部から設定しうるようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明のFBG光スペクトラム解析装置にあっては(解決手段1)、デジタル演算部が、関数近似によるピーク波長の算出に先立ってピーク検出演算対象のサンプリングデータを限定するが、その限定処理は異質のものが多段階に行われる。具体的には、波長区間パラメータ値に基づく波長区間の選定と、下側強度パラメータ値に基づくデータ除外と、最大値と上側強度パラメータ値に基づくデータ絞り込みとが行われる。FBGは形成時のピーク波長が特定されているので、波長区間選定により各FBGに対応したピーク波形が一つだけ選定区間に含まれることとなる。そして、下側強度パラメータ値に基づくデータ除外によりピーク波形の裾野部分が取り除かれるので、ピーク近傍にあるはずの最大値が効率良く探索され、その最大値と上側強度パラメータ値に基づくデータ絞り込みにより、ピーク検出演算対象のサンプリングデータが迅速かつ的確に限定される。
【0015】
このようにして、関数近似によるピーク波長算出に先だってピーク検出演算対象が適切に限定されるので、高速かつ高精度にピークが検出される。
しかも、波長区間と下側強度と上側強度といったパラメータ値をパラメータ群として、複数のパラメータ群が保持されているので、各FBGに一群ずつパラメータ群を割り当てて、それぞれのFBGの特性に対応したパラメータ値を該当パラメータ群に設定することにより、容易かつ適切にピーク検出演算対象を限定することができる。
したがって、この発明によれば、高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を実現することができ、基本的な技術課題が解決される。
【0016】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置にあっては(解決手段2)、下側強度パラメータ値に基づくデータ除外に代えて、連続上昇波形部分と連続下降波形部分との間へ最大値探索対象が絞り込まれるので、連続上昇や連続下降といった単調傾斜の波形部分から外れたところで単発的に或いは散発的に大きな値が発現するノイズがFBG光スペクトラムに重畳してサンプリングデータに入り込んでしまった場合でも、そのようなノイズ成分は最大値探索対象から取り除かれる。
【0017】
これにより、ピーク値を超えるノイズが発生したときでも、それが単発的や散発的なものであれば的確に除外されて、以後の最大値探索に不所望な影響が及ぶのを回避できるので、ピーク検出演算対象の限定を高速に行うために最大値探索を採用していても、精度は高く維持される。
したがって、この発明によれば、単発的・散発的ノイズの発現する状況下で使用しても高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を実現することができる。
【0018】
さらに、本発明のFBG光スペクトラム解析装置にあっては(解決手段3)、波長区間選定後、最大値探索に先立ち、下側強度パラメータ値に基づく最大値探索対象の除外に加えて、連続上昇波形部分と連続下降波形部分との間への最大値探索対象の絞込みも、行われる。そのため、上述した両者の利点を同時に享受することができる。
したがって、この発明によれば、単発的・散発的ノイズの発現する状況下で使用してもより高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を実現することができる。
【0019】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置にあっては(解決手段4)、一の共通連続個数パラメータ値が複数FBGのピーク検出に共用されるので、各FBG毎に連続個数パラメータ値を決めるよりも、パラメータ値の決定が容易になる。一方、単発的・散発的なノイズの発現状況は、光ファイバ全体に亘って似た傾向を示すことが多く、個々のFBGで大きく異なることがあまりないので、波長区間パラメータ値と異なり連続個数パラメータ値は共通化しても、予備的な測定などあまり高い精度が必要とされない場合には不都合はない。
したがって、この発明によれば、単発的・散発的ノイズの発現する状況下で使用しても高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を容易に実現することができる。
【0020】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置にあっては(解決手段5)、複数のパラメータ群を用いて高速かつ高精度にピークを検出する上述のピーク検出手段と、少数の共通パラメータ値を用いてピークを検出する簡便な他のピーク検出手段とを、使い分けることが可能になっている。例えば装置セッティング後の動作確認時や良好な環境下での動作時には、少数のパラメータ値を決めて他のピーク検出手段を選択実行させることで、簡便かつ迅速に装置を動作させることができる。一方、装置の本稼働や長期稼働に備えるときには複数FBG対応の複数パラメータ群を決定してから上述のピーク検出手段を選択実行させることで、高速かつ高精度にピークを検出することができる。
したがって、この発明によれば、高速かつ高精度なピーク検出機能と簡便な使用とを選択できて種々の応用に適うFBG光スペクトラム解析装置を実現することができ、基本的な技術課題に加えて上述の次なる技術課題まで解決される。
【0021】
また、本発明のFBG光スペクトラム解析装置にあっては(解決手段6)、パラメータ値を外部から設定できるので、パラメータ値の初期設定や変更が容易に行える。そのため、例えばFBGの形成条件を反映したパラメータ値の各種の組み合わせを外部制御装置に持たせておき適宜なものを選択して設定させる等のことにより、高速かつ高精度にピークを検出するFBG光スペクトラム解析装置を多様なFBG形成状態にも容易に適応させることができる。その結果、本発明によれば、基本的な技術課題に加えて、上述の更なる技術課題まで解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
このような本発明のFBG光スペクトラム解析装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜5により説明する。
図1〜2に示した実施例1は、上述した解決手段1,6(出願当初の請求項1,6)を具現化したものであり、図3に示した実施例2は、上述した解決手段2,6(出願当初の請求項2,6)を具現化したものであり、図4に示した実施例3は、上述した解決手段3,6(出願当初の請求項3,6)を具現化したものであり、図5に示した実施例4は、上述した解決手段4,6(出願当初の請求項4,6)を具現化したものであり、図6〜7に示した実施例5は、上述した解決手段5,6(出願当初の請求項5,6)を具現化したものである。
【実施例1】
【0023】
本発明のFBG光スペクトラム解析装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)がFBG光スペクトラム解析装置10に光ファイバ18と外部制御装置8を接続したものの全体ブロック図、(b)がFBG光スペクトラム解析装置10のデジタル演算部20のブロック図である。
【0024】
この実施例のFBG光スペクトラム解析装置10は(図1(a)参照)、複数たとえば10個といった多数のFBG19を形成した光ファイバ18に一端から送光しながら反射光を測定してピーク波長を求めるものであり、光ファイバ18に対する送受光を可能にすべく、光ファイバ18の一端を光コネクタ17にて接続できるようになっている。
また、このFBG光スペクトラム解析装置10は、外部から動作を制御したりパラメータ値を設定するとき、あるいは測光にて得た光スペクトラムデータや検出結果のピーク波長を本装置10の外で更にデータ処理したり画面表示するときなど、必要に応じて所望の付加機能を具備した外部制御装置8を接続することもできるようになっている。
【0025】
さらに、このFBG光スペクトラム解析装置10は、光ファイバ18に光を送り込む送光手段として例えばASE光源からなる広帯域光源11と、その反射光について波長毎の光量を測る測光手段として、広帯域光源11と光コネクタ17とに及ぶ送光ラインに介挿された光分岐器12と、その分岐ラインに接続された波長可変フィルタ13と、その出力側に接続された例えばフォトダイオード(PD)からなる光電変換器14とを備えている。もちろん、光電変換器14の出力する光量測定結果からピーク波長を求めるピーク検出回路15も備えている。このようなハードウェアは従来技術を踏襲したもので足り(例えば特許文献1参照)、波長掃引を送光側で行って良いことも従来通りである。
【0026】
ピーク検出回路15は(図1(a)参照)、光量測定値をサンプリングしてデジタル化するために例えばサイクルタイム1μsでアナログデジタル変換を行うA/D変換器16と、そのサンプリングデータ(光スペクトラム)を入力してデジタル演算を行うことによりピーク波長(反射光のスペクトル中心)を求めるデジタル演算部20とを具えている。デジタル演算部20は、例えばマイクロプロセッサシステム(MPU)といったプログラマブルな演算回路で構成され、サンプリングデータ等を蓄積保持する記憶手段として十分な容量の内部メモリか外部メモリも具備している(例えば特許文献2,3参照)。
【0027】
デジタル演算部20には(図1(b)参照)、入力プログラム21と通信プログラム22とピーク検出プログラム26とがインストールされており、デジタル演算部20のメモリには入力データ領域23とパラメータ領域24と出力データ領域25とが割り付けられている。入力データ領域23は、波長可変フィルタ13の掃引範囲における各波長λで測定された光量Iのサンプリングデータ(光スペクトル・光スペクトラム)を保持するものであり、例えば一組のサンプリングデータを保持しうる一次元配列が確保されている。そのような配列は一個だけでも良いが、この例では、処理速度向上のため、入力プログラム21によるデータ更新とピーク検出プログラム26によるデータ処理とを並行に実行できるよう、配列が書込用と待機用と読出用とに三個ほど確保されている。
【0028】
入力プログラム21は、波長可変フィルタ13の波長掃引に同期してA/D変換器16からサンプリングデータを取り込んで入力データ領域23に書き込んで蓄積するものであるが、その書込は三個の配列のうち書込用のものに行う。そして、書込用の配列に一組のサンプリングデータを蓄積し終えると、書込用だった配列を待機用の配列に切り替えるとともに待機用だった配列を書込用の配列に切り替えて役割を交代させる。そして、ピーク検出プログラム26からサンプリングデータを要求されると、待機用の配列に未処理データが蓄積保持されていれば直ちに、そうでなければデータ蓄積の完了を待った後に、待機用の配列のアドレスかポインタをピーク検出プログラム26に渡す。このような入力プログラム21は、最新データを最小待ち時間で確実にピーク検出プログラム26へ供給することができるものとなっている。
【0029】
通信プログラム22は、初期設定や再設定したいパラメータ値が一個であれ多数であれ外部制御装置8から適宜な伝文で送信されて来ると、そのパラメータ値をパラメータ領域24の該当箇所に書き込むようになっている。また、ピーク検出プログラム26から結果出力の指示を受けると、出力データ領域25に保持されていた一群のピーク波長λP を読み出してそれらの値を適宜な伝文にて一括で又は小分けして外部制御装置8へ送信するようになっている。なお、デジタル演算部20と外部制御装置8との通信は、専用ケーブルを用いた一対一通信でも良く、有線LANや無線LANを用いたネット通信でも良い。
【0030】
パラメータ領域24には、波長区間パラメータ値と下側強度パラメータ値と上側強度パラメータ値とからなるパラメータ群を単位として、パラメータ群を複数保持するため、例えば二次元配列が確保されている。この例では、各パラメータ群において、波長区間パラメータとして下限波長λL と上限波長λU とが採用され、下側強度パラメータには下側強度IL が採用され、上側強度パラメータには上側強度IU が採用されている。パラメータ領域24に確保されているパラメータ群の個数は、光ファイバ18に形成された又は形成されるFBG19の個数と同じかそれを上回るようになっている。
【0031】
出力データ領域25には、サンプリングデータから検出されたピーク波長λP を外部制御装置8へ送信し終えるまで一時記憶しておくため、例えば一次元配列が確保されている。随時送信や小分け送信であれば配列は小さめでも良いが、この例では一括送信を採用しているので、一組のサンプリングデータから検出されたピーク波長λP を総て保持しておけるよう、出力データ領域25に確保されている配列のサイズは、光ファイバ18に形成された又は形成されるFBG19の個数と同じかそれを上回るようになっている。
【0032】
ピーク検出プログラム26は、入力プログラム21にサンプリングデータを要求し(ステップS11)、渡されたサンプリングデータから光ファイバ18のFBG19のピーク波長λP を総て検出し(ステップS12〜S17)、その後、結果出力の指示を通信プログラム22に出すようになっている(ステップS18)。この一連の演算処理は繰り返して行われ、その度に、入力データ領域23から新たな一組のサンプリングデータが供給され、全FBG19のピーク波長λP が次々に検出されて出力データ領域25に蓄積された後で外部制御装置8へ送信されるようになっている。
【0033】
一組のサンプリングデータから光ファイバ18のFBG19のピーク波長λP を総て検出するのは(ステップS12〜S17)、サンプリングデータの一部に波長区間を選定してその選定区間内からピーク波長λP を一つ検出する演算処理を(ステップS12〜S16)、パラメータ領域24に設定されたパラメータ群の数だけ、より具体的には波長区間パラメータとして設定されている下限波長λL と上限波長λU との対データの個数だけ、繰り返すことで(ステップS17)、成し遂げられるようになっている。
波長区間選定からピーク波長λP を一つ検出する演算処理(ステップS12〜S16)の詳細は、以下の動作説明において例示する。
【0034】
この実施例1のFBG光スペクトラム解析装置について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図1(b)の右側部分はピーク検出プログラム26の処理内容を示すフローチャートであり、図2(a)は光ファイバ18におけるFBG19の形成例、同図(b)はサンプリングデータと各パラメータの例である。また、図2(c)〜(e)は、何れもピーク波形を一つ含んだサンプリングデータの例であり、ピーク検出時のデータ処理過程を示している。
【0035】
FBG光スペクトラム解析装置10の使用に先立って、それと共に使用される光ファイバ18が光コネクタ17で接続されて送受光が可能になる(図2(a)参照)。
この光ファイバ18に形成されているFBG19には、標準温度かつ無歪み状態でピーク波長(反射光のスペクトル中心波長)が1535nmのFBGaと1540nmのFBGbと1545nmのFBGcとが含まれているものとする。他のFBG19は、ピーク波形が重ならないよう、ピーク波長が適宜ずらされているものとする。
【0036】
この場合、FBG光スペクトラム解析装置10の使用に先立って更に、外部制御装置8を介してデジタル演算部20のパラメータ領域24にパラメータ群の設定も行っておく。パラメータ群の設定は一つのFBG19について一群が設定される(図2(b)参照)。多数あるFBG19のうち例えばFBGaについては、波長λ軸上で1535nmを含むFBGa区間を画する下限波長λL 及び上限波長λU と、ピーク波形の余分な裾野部分を除外するための下側強度IL と、ピーク近傍に演算対象データを絞り込むための上側強度IU との四値が設定される。
【0037】
同様に、FBGbについては1540nmを含むFBGb区間画定用の下限波長λL 及び上限波長λU と裾野部分除外用の下側強度IL とピーク近傍絞込用の上側強度IU との四値が別群で設定され、FBGcについては1545nmを含むFBGc区間画定用の下限波長λL 及び上限波長λU と裾野部分除外用の下側強度IL とピーク近傍絞込用の上側強度IU との四値が更に別群で設定される。他のパラメータ群についても、同様に、それぞれ該当するFBG19に係る下限波長λL と上限波長λU と下側強度IL と上側強度IU との四値が設定される。
【0038】
これらのパラメータ値λL,λU,IL,IU の設定に当たって、最初は、例えば、FBG19形成時のピーク波長の設計値から一定値を引いて下限波長λL を決め、同じ設計値に一定値を足して上限波長λU を決め、同じ設計値における広帯域光源11の出力強度に一定値を掛けて下側強度IL を決め、単に一定値を採用して上側強度IU を決める、といった単純な決定手法を用いても良いが、実際にサンプリングしたデータの光スペクトラムを観察する時間がある場合や、設置現場の状況とか過去の測定実績なども参照できる場合は、それによって得られた各FBG19の特質を反映させるよう個々のパラメータ値λL,λU,IL,IU を調整しながら決定するのが良い。
【0039】
パラメータ領域24へのパラメータ群の設定が総てのFBG19について完了したら、FBG光スペクトラム解析装置10を作動させる。すると、波長可変フィルタ13による波長掃引の度に、反射光について波長毎の光量が光電変換器14等によって測定され、その光量測定値がA/D変換器16によってサンプリングされて、新たな一組のサンプリングデータが入力プログラム21によって入力データ領域23に取り込まれる(図2(b)参照)。そして、それがデータ要求に応じてピーク検出プログラム26の処理に供されると(図1ステップS11)、一組のサンプリングデータからピーク波長λP が光ファイバ18におけるFBG19の形成数すなわちパラメータ領域24におけるパラメータ群の設定数だけ検出される(ステップS12〜S17)。一つのパラメータ群についてピーク波長λP を一つ検出する演算処理(ステップS12〜S16)がパラメータ群の設定数だけ繰り返されるのである(ステップS17)。
【0040】
ピーク波長λP を一つ検出する演算処理(ステップS12〜S16)を詳述すると、パラメータ群が順に一つ選択されて、そのパラメータ群に含まれているパラメータ値λL,λU,IL,IU に基づいてピーク波形の探索とピーク波長の算出とが行われる。具体的には、ピーク検出プログラム26によって、波長区間パラメータ値である下限波長λL と上限波長λU とに基づいてサンプリングデータからピーク検出演算に供する波長区間として両波長λL,λU の間に属する波長区間が選定され(ステップS12,図2(c)参照)、この選定区間において光量測定値Iが下側強度IL を下回るサンプリングデータが最大値探索対象から外される(図1ステップS13,図2(c)参照)。
【0041】
さらに、この時点で最大値探索対象に残っているサンプリングデータ部分から光量測定値Iの最大値IP が探索され(図1ステップS14,図2(d)参照)、この最大値IP を含めてそこから上側強度IU 以内に光量測定値Iが収まっているサンプリングデータにピーク検出演算対象が絞り込まれる(図1ステップS15,図2(d)参照)。このような度重なる限定処理によって、ピーク検出演算対象のサンプリングデータ個数が十分に限定されたところで、ピーク検出演算対象のサンプリングデータに対する関数近似が行われてピーク波長λP が算出され出力データ領域25に書き込まれる(図1ステップS16,図2(e)参照)。関数近似によるピーク波長算出の演算は、既述した最小二乗法による二次関数の近似を行うものでも良く(特許文献2参照)、他の公知の演算手法であっても良く、何れにしても、演算対象データが十分に絞り込まれているので、高い精度を維持しながらも高速に遂行される。
【実施例2】
【0042】
本発明のFBG光スペクトラム解析装置の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図3は、(a)がデジタル演算部30のブロック図、(b)がピーク波形を一つ含んだサンプリングデータの例である。
【0043】
このFBG光スペクトラム解析装置が上述した実施例1のものと相違するのは(図3(a)参照)、デジタル演算部20がデジタル演算部30になった点であり、デジタル演算部30がデジタル演算部20と相違するのは、パラメータ領域24に設定されている各パラメータ群について下側強度IL が無くなってその代わりに連続個数CN(連続個数パラメータ値)が入っている点と、ピーク検出プログラム26が一部改造されてピーク検出プログラム36になった点である。ピーク検出プログラム36がピーク検出プログラム26と相違する点は、選定区間において光量測定値Iが下側強度IL を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外す演算処理(ステップS13)が無くなってその代わりに同じタイミングで連続限定処理(ステップS33)が行われるようになった点である。
【0044】
この連続限定処理では(図3(b)参照)、サンプリングデータのうち下限波長λL と上限波長λU との間の選定区間に属している範囲を対象として、下限波長λL 側から上限波長λU 側へ、先ず連続個数CN 以上続く連続上昇波形部分が探索され、次いで連続個数CN 以上続く連続下降波形部分が探索される。そして、両波形部分の間すなわち波長CL 〜波長CU の小区間に属するサンプリングデータだけに最大値探索対象が絞り込まれる。その左側部分(下限波長λL 〜波長CL)も、右側部分(波長CU 〜上限波長λU )も、最大値探索対象から除外される。
【0045】
この場合、ピーク波形に属する適正な最大値38を超える不適切な最大値37がピーク波形の外側に発現したとしても、それが単発的や散発的なものであれば最大値探索対象から的確に除外される。そのため、連続限定処理(ステップS33)に続く最大値探索(ステップS14)では、光量測定値Iのうち最大値IP を示すものとして、不適切な最大値37でなく、適正な最大値38が探しだされる。その後は、最大値IP と上側強度IU とに基づいてピーク検出演算対象が絞り込まれ(ステップS15)、ピーク検出演算対象のサンプリングデータ個数が十分に限定されてからピーク波長λP が算出されるので(ステップS16)、ピーク波長算出の演算が、関数近似によるものであっても、高い精度で高速に遂行される。
【実施例3】
【0046】
本発明のFBG光スペクトラム解析装置の実施例3について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図4は、(a)がデジタル演算部40のブロック図、(b)がピーク波形を一つ含んだサンプリングデータの例である。
【0047】
このFBG光スペクトラム解析装置が上述した実施例1,2のものと相違するのは(図4(a)参照)、デジタル演算部20,30がデジタル演算部40になった点であり、デジタル演算部40がデジタル演算部20,30と相違するのは、パラメータ領域24に設定されている各パラメータ群について下限波長λL と上限波長λU と下側強度IL と連続個数CN と上側強度IU との五値が入っている点と、ピーク検出プログラム26,36が一部改造されてピーク検出プログラム46になった点である。
ピーク検出プログラム46がピーク検出プログラム26,36と相違する点は、上述の波長区間選定処理(ステップS12)の後、上述の下側強度限定処理(ステップS13)と上述の連続限定処理(ステップS33)とがその順で何れも行われ、それから上述の最大値探索(ステップS14)が行われるようになった点である。
【0048】
この場合(図4(b)参照)、サンプリングデータからピーク検出演算に供する波長区間として下限波長λL と上限波長λU の間に属する波長区間が選定された後(ステップS12)、この選定区間において光量測定値Iが下側強度IL を下回るサンプリングデータが最大値探索対象から外される(ステップS13)。それから、この時点での最大値探索対象として残っているサンプリングデータ部分について、下限波長λL 側から上限波長λU 側へ、先ず連続個数CN 以上続く連続上昇波形部分が探索され、次いで連続個数CN 以上続く連続下降波形部分が探索されて、両波形部分の間すなわち波長CL 〜波長CU の小区間に属するサンプリングデータだけに最大値探索対象が絞り込まれ、その外側部分(λL 〜CL ,CU 〜λU )は最大値探索対象から除外される(ステップS33)。
【0049】
この場合も、ピーク波形に属する適正な最大値38を超える不適切な最大値37がピーク波形の外側に発現したとしても、それが単発的や散発的なものであれば連続限定処理(ステップS33)によって最大値探索対象から的確に除外される。しかも、連続限定処理に先立つ下側強度限定(ステップS13)によって、連続限定処理の対象でもある最大値探索対象が限定されているので、連続限定処理(ステップS33)も最大値探索処理(ステップS14)も迅速かつ的確に行われる。そのため、続く上側強度限定処理も(ステップS15)、関数近似によるピーク波長算出の演算も(ステップS16)、高い精度で高速に遂行される。
【実施例4】
【0050】
図5にデジタル演算部50のブロック図を示した本発明のFBG光スペクトラム解析装置が上述した実施例3のものと相違するのは、デジタル演算部40がデジタル演算部50になった点であり、デジタル演算部50がデジタル演算部40と相違するのは、パラメータ領域24に設定されている各パラメータ群について連続個数CN が無くなって下限波長λL と上限波長λU と下側強度IL と上側強度IU との四値が残っている点と、メモリにパラメータ領域54が確保されてそこに共通連続個数パラメータとして単調傾斜部分探索用の共通連続個数CA が保持されるようになった点と、ピーク検出プログラム46が一部改造されてピーク検出プログラム56になった点である。
【0051】
ピーク検出プログラム56がピーク検出プログラム46と相違する点は、連続個数CN を参照する連続限定処理(ステップS33)が、共通連続個数CA を参照する連続限定処理(ステップS53)になったことである。
この連続限定処理(ステップS53)では、最大値探索対象として残っているサンプリングデータ部分について、下限波長λL 側から上限波長λU 側へ、先ず共通連続個数CA 以上続く連続上昇波形部分が探索され、次いで共通連続個数CA 以上続く連続下降波形部分が探索されて、両波形部分の間の小区間に属するサンプリングデータだけに最大値探索対象が絞り込まれ、その外側部分は最大値探索対象から除外される
【0052】
この場合、装置使用に先立ってパラメータ領域24だけでなくパラメータ領域54にも外部制御装置8を介してパラメータ値が設定されるが、パラメータ領域54におけるパラメータは単一の共通連続個数CA だけである。
そして、サンプリングデータに対する波長区間選定ごの連続限定処理(ステップS53)では、どの波長区間が選定されたときでも同じ共通連続個数CA が用いられる。
このようにして、共通連続個数CA が多数のFBG19のピーク検出に共用されるので、各FBG毎に連続個数CN を決めるよりも、該当するパラメータ値の決定が容易になる。なお、上述したように連続個数CN は共通連続個数CA に一本化しても問題ない。
【実施例5】
【0053】
本発明のFBG光スペクトラム解析装置の実施例5について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図6は、デジタル演算部60のブロック図である。
【0054】
このFBG光スペクトラム解析装置(図6)が上述した実施例3のもの(図4)と相違するのは、デジタル演算部40がデジタル演算部60になった点であり、デジタル演算部60がデジタル演算部40と相違するのは、メモリにパラメータ領域64が追加確保されてそこに共通下側強度IB(共通下側強度パラメータ)と共通連続個数CA(共通連続個数パラメータ)と共通上側強度IA(共通上側強度パラメータ)とが設定されるようになった点と、ピーク検出プログラム66が追加インストールされた点と、通信プログラム22が機能拡張されて通信プログラム62になった点である。
【0055】
パラメータ値λL,λU,IL,CN,IU を含んだパラメータ群がFBG19の個数以上保持されるパラメータ領域24がメモりに確保されていることや、光量測定値Iのサンプリングデータについて波長区間パラメータλL,λU に基づく波長区間の選定を行ってから関数近似を行ってピーク波長λP を算出するピーク検出プログラム46がインストールされていることは、そのままデジタル演算部40から引き継がれている。入力プログラム21や、サンプリングデータ保持用の入力データ領域23、多数のピーク波長λP を保持する出力データ領域25もそのまま引き継がれている。
【0056】
パラメータ領域64に設定される裾野部分除外用の共通下側強度IB と単調傾斜部分探索用の共通連続個数CA とピーク近傍絞込用の共通上側強度IA は一つずつであり、何れも外部制御装置8を介して設定されるようになっている。なお、外部からの設定が省かれたとき、共通連続個数CA と共通上側強度IA には、デフォルト値が設定されるようにもなっている。
ピーク検出プログラム66は、ピーク検出プログラム46とは別に追加された他のピーク検出手段であり、要するに、光量測定値Iのサンプリングデータについて波長区間パラメータλL,λU に基づく波長区間の選定は行わずに光量測定値Iが共通下側強度IB を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外すことでピーク検出演算対象を限定してから関数近似を行ってピーク波長を算出するようになっている。
【0057】
具体的には、上述の処理S11と同様のデータ要求処理S61と、上述の処理S13とはデータ範囲および参照パラメータの異なる下側強度限定処理S62と、上述の処理S33とは参照パラメータの異なる連続限定処理S63と、上述の処理S14と同様の最大値探索処理S64と、上述の処理S15とは参照パラメータの異なる上側強度限定処理S65と、上述の処理S16と同様のピーク波長算出処理S66と、上述の処理S17とは判定対象の異なる終了判定処理S67と、上述の処理S18と同様の結果出力処理S68とを行うようになっている。なお、各演算処理の詳細な内容は後の動作説明時に述べる。
【0058】
通信プログラム62は、上述した通信プログラム22の機能に加えて、外部制御装置8から選択指示を受けてピーク検出プログラム46,66の何れか一方だけを実行させるという指令中継機能も発揮するようになっている。ピーク検出プログラム46が選択されたときには選択指示Saだけを有効にしてピーク検出プログラム46は実行させるがピーク検出プログラム66は停止させ、ピーク検出プログラム66が選択されたときには選択指示Sbだけを有効にしてピーク検出プログラム66は実行させるがピーク検出プログラム46は停止させるようになっている。
【0059】
この実施例5のFBG光スペクトラム解析装置について、ピーク検出プログラム66が選択されて実行したときの動作を、図面を引用して説明する。図7(a)〜(c)は、何れも複数のピーク波形を含んだサンプリングデータの例であり、一番目のピーク検出時のデータ処理過程を示している。また、図8(a)〜(c)は、何れも複数のピーク波形を含んだサンプリングデータの例であり、二番目のピーク検出時のデータ処理過程を示している。さらに、図9(a)〜(c)は、何れも複数のピーク波形を含んだサンプリングデータの例であり、三番目のピーク検出時のデータ処理過程を示している。
【0060】
ピーク検出プログラム66から入力プログラム21にデータ要求が出され(ステップS61)、それに応じて新たな一組のサンプリングデータがピーク検出プログラム66の処理に供されると、このサンプリングデータ全域において光量測定値Iが下側強度IL を下回るサンプリングデータが最大値探索対象から外される(図6ステップS62,図7(a)参照)。それから、連続限定処理(S63)によってピーク波形が一つ検出される度に、最大値探索処理(S64)と上側強度限定処理(S65)とピーク波長算出処理(S66)とによってピーク波長λP が一つ算出される。このピーク波形検出とピーク波長算出は、短波長側から長波長側へ波長域を移行しながら繰り返され、サンプリングデータの全波長について行われる(ステップS67)。
【0061】
詳述すると、裾野部分の無いサンプリングデータを対象として、短波長側から長波長側へ、先ず共通連続個数CA 以上続く連続上昇波形部分が探索され、次いで共通連続個数CA 以上続く連続下降波形部分が探索される(図6ステップS63,図7(a)参照)。そして、両波形部分の間の小区間に属するサンプリングデータから最大値IP が探索される(図6ステップS64,図7(a)参照)。また、この最大値IP を含めてそこから共通上側強度IA 以内に光量測定値Iが収まっているサンプリングデータにピーク検出演算対象が絞り込まれる(図6ステップS65,図7(b)参照)。それからピーク検出演算対象のサンプリングデータに対する関数近似が行われてピーク波長λP が算出され出力データ領域25に書き込まれる(図6ステップS66,図7(c)参照)。
【0062】
こうして一番目のピークが検出されそのピーク波長λP が得られる。それから、未だ探索していないサンプリングデータを対象として、短波長側から長波長側へ共通連続個数CA 以上続く連続上昇波形部分と連続下降波形部分とが探索され、両波形間の小区間から最大値IP が探索され(図8(a)参照)、この最大値IP から共通上側強度IA 以内にピーク検出演算対象が絞り込まれ(図8(b)参照)、それから関数近似にてピーク波長λP が算出され出力データ領域25に書き込まれる(図8(c)参照)。こうして二番目のピークも検出されそのピーク波長λP が得られる。そして、同様の処理が繰り返されて三番目のピークが検出されそのピーク波長λP が得られる(図9(a)〜(c)参照)。さらに、同様の処理がサンプリングデータの全波長について繰り返されて、総てのピーク波長λP が求められる。
【0063】
この実施例5のFBG光スペクトラム解析装置の使用態様を説明する。このFBG光スペクトラム解析装置は、デジタル演算部60にピーク検出プログラム46,66の何れを実行させるか選択してそれを外部制御装置8経由で指定できるので、ピーク検出プログラム46だけ実行させる場合は使用に先立って上述したようにしてパラメータ領域24にFBG19の数だけパラメータ値λL,λU,IL,CN,IU を設定しておく。ピーク検出プログラム66だけ実行させる場合は、使用に先立ち、外部制御装置8を介して、パラメータ領域64に共通下側強度IB と共通連続個数CA と共通上側強度IA を一つずつ設定するが、共通連続個数CA と共通上側強度IA はデフォルト値で良ければ設定しなくても良く、何れにしてもパラメータ数が少ないので、決定も設定も容易である。
【0064】
ピーク検出プログラム46,66を切り替えて実行させる場合は、使用に先立ってパラメータ領域24にもパラメータ領域64にもパラメータ値を設定しておかなければならないが、大抵は、パラメータ設定負担の軽いピーク検出プログラム66を先行させ、多数のパラメータ値が準備できたらその後でピーク検出プログラム46に切り替えるので、当初は共通下側強度IB さえ決めれば速やかにFBG光スペクトラム解析装置を動作させることが可能となる。その後は、FBG光スペクトラム解析装置を使用しながら、プログラム切替えとパラメータ更新とを適宜行って、測定精度を向上させることができる。
【0065】
例えば、FBG光スペクトラム解析装置と光ファイバ18とを現場へ搬入しても、無試験で光ファイバ18を最終設置することは滅多になく、設置前に装置の動作確認が行われる。そのような動作確認は光ファイバ18を比較的良好な環境下に仮置きして行われるので、その段階では、ピーク検出プログラム66を選択実行させる。光ファイバ18の周囲環境が良ければ、サンプリングデータが明瞭なうえ、ノイズが少ないので、少数のパラメータ値を共用しても、総てのピーク波長λP が的確に得られる。そして、装置の動作確認をしながらパラメータ値λL,λU,IL,CN,IU の決定を進める。
【0066】
動作確認が済んだら光ファイバ18も最終目的箇所に設置し、パラメータ値λL,λU,IL,CN,IU の決定を更に進める。そして、総てのFBG19についてパラメータ値λL,λU,IL,CN,IU の決定を一応終えたら、それらをデジタル演算部60のパラメータ領域24に設定し、それからピーク検出プログラム66を停止させてピーク検出プログラム46を実行させる。そうすると、光ファイバ18設置箇所の環境が厳しいこと等に起因してサンプリングデータが不明瞭になっていたりノイズが増えていたりしても、そのデータ悪化が極端でなければ、総てのFBG19に対応したピーク波長λP が高い精度で高速に求められる。
【0067】
また、実際にサンプリングしたデータの光スペクトラムの観察を行って各FBG19の特質を把握し直し、把握内容に応じて個々のパラメータ値λL,λU,IL,CN,IU が微調整されるようパラメータ領域24のパラメータ群のうち該当部分を再設定すると良い。そうすれば、FBG光スペクトラム解析装置を使用しながら、パラメータ更新という簡便な作業によって、FBG光スペクトラム解析装置の性能を向上させることができる。
【0068】
[その他]
上記実施例では、最大値探索に先立つ連続限定処理が短波長側から長波長側へ行われたが、連続限定処理は長波長側から短波長側へ行われるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例1について、FBG光スペクトラム解析装置の構造を示し、(a)が全体ブロック図、(b)がデジタル演算部のブロック図である。
【図2】(a)がFBGの形成例、(b)がサンプリングデータと各パラメータの例である。(c)〜(e)は、何れもピーク波形を一つ含んだサンプリングデータの例であり、ピーク検出時のデータ処理過程を示している。
【図3】本発明の実施例2について、FBG光スペクトラム解析装置の構造を示し、(a)がデジタル演算部のブロック図、(b)がピーク波形を一つ含んだサンプリングデータの例である。
【図4】本発明の実施例3について、FBG光スペクトラム解析装置の構造を示し、(a)がデジタル演算部のブロック図、(b)がピーク波形を一つ含んだサンプリングデータの例である。
【図5】本発明の実施例4について、FBG光スペクトラム解析装置のデジタル演算部のブロック図である。
【図6】本発明の実施例5について、FBG光スペクトラム解析装置のデジタル演算部のブロック図である。
【図7】(a)〜(c)は、何れも複数のピーク波形を含んだサンプリングデータの例であり、一番目のピーク検出時のデータ処理過程を示している。
【図8】(a)〜(c)は、何れも複数のピーク波形を含んだサンプリングデータの例であり、二番目のピーク検出時のデータ処理過程を示している。
【図9】(a)〜(c)は、何れも複数のピーク波形を含んだサンプリングデータの例であり、三番目のピーク検出時のデータ処理過程を示している。
【符号の説明】
【0070】
8…外部制御装置、
10…FBG光スペクトラム解析装置、
11…広帯域光源、12…光分岐器、
13…波長可変フィルタ、14…光電変換器(PD)、
15…ピーク検出回路、16…A/D変換器、
17…光コネクタ、18…光ファイバ、
19…FBG(FiberBraggGrating,ブラッグ回折格子)、
20…デジタル演算部(MPU)、
21…入力プログラム、22…通信プログラム、
23…入力データ領域、24…パラメータ領域、
25…出力データ領域、26…ピーク検出プログラム、
30…デジタル演算部、36…ピーク検出プログラム、
37…不適切な最大値、38…適正な最大値、
40…デジタル演算部、46…ピーク検出プログラム、
50…デジタル演算部、
54…パラメータ領域、56…ピーク検出プログラム、
60…デジタル演算部、62…通信プログラム、
64…パラメータ領域、66…ピーク検出プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のFBG(ファイバブラッググレーティング)を形成した光ファイバに光を送り込む送光手段と、その反射光について波長毎の光量を測る測光手段と、その光量測定値をサンプリングしてデジタル演算を行うことによりピーク波長を求めるピーク検出回路とを備えたFBG光スペクトラム解析装置において、前記ピーク検出回路のデジタル演算部が、波長区間パラメータ値と下側強度パラメータ値と上側強度パラメータ値とを含んだパラメータ群を複数保持していて、前記波長区間パラメータ値に基づいて前記光量測定値のサンプリングデータからピーク検出演算に供する波長区間を選定し、この選定区間において光量測定値が前記下側強度パラメータ値を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外し、この最大値探索対象から光量測定値の最大値を探索し、この最大値から前記上側強度パラメータ値以内に光量測定値が収まっているサンプリングデータにピーク検出演算対象を絞り込み、それからピーク検出演算対象のサンプリングデータに対する関数近似を行ってピーク波長を算出するものであることを特徴とするFBG光スペクトラム解析装置。
【請求項2】
前記デジタル演算部が、前記下側強度パラメータ値に代えて連続個数パラメータ値を前記パラメータ群に含んでおり、前記選定区間において光量測定値が前記下側強度パラメータ値を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外すことに代えて、前記選定区間において前記連続個数パラメータ値以上続く連続上昇波形部分および連続下降波形部分を探索して両波形部分の間に属するサンプリングデータに最大値探索対象を絞り込むようになっていることを特徴とする請求項1記載のFBG光スペクトラム解析装置。
【請求項3】
前記デジタル演算部が、前記パラメータ群に連続個数パラメータ値も含んでおり、前記下側強度パラメータ値に基づいて最大値探索対象を限定した後、前記最大値を探索するに先立って、この時点での最大値探索対象について前記連続個数パラメータ値以上続く連続上昇波形部分および連続下降波形部分を探索して両波形部分の間に属するサンプリングデータに最大値探索対象を絞り込むことにより最大値探索対象を更に限定するようになっていることを特徴とする請求項1記載のFBG光スペクトラム解析装置。
【請求項4】
前記デジタル演算部が、前記パラメータ群に含まれていた複数の連続個数パラメータ値に代えて一の共通連続個数パラメータ値を保持しており、前記連続上昇波形部分および前記連続下降波形部分の探索に際してはどの波長区間についても前記連続個数パラメータ値に代えて前記共通連続個数パラメータ値を用いるようになっていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載されたFBG光スペクトラム解析装置。
【請求項5】
前記デジタル演算部が、前記パラメータ群とは別に共通下側強度パラメータ値を保持しており、前記光量測定値のサンプリングデータについて前記波長区間パラメータ値に基づく波長区間の選定を行なってから関数近似を行ってピーク波長を算出する前記ピーク検出手段に加えて、前記光量測定値のサンプリングデータについて前記波長区間パラメータ値に基づく波長区間の選定は行わずに光量測定値が前記共通下側強度パラメータ値を下回るサンプリングデータを最大値探索対象から外すことでピーク検出演算対象を限定してから関数近似を行ってピーク波長を算出する他のピーク検出手段も具備していて、両ピーク検出手段の何れかを選択実行できるようになっていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載されたFBG光スペクトラム解析装置。
【請求項6】
前記パラメータ値が総て又は一部は外部から設定しうるようになっていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載されたFBG光スペクトラム解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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