説明

FGF受容体の選択的抑制剤

【課題】FGF19によるFGF受容体活性化作用の選択的な増強又は抑制方法、特にFGF受容体4(FGFR4)活性化作用のみを選択的に抑制する方法、及びFGF19のFGFR4活性化作用のみの選択的抑制剤を提供すること。
【解決手段】ヘパラン硫酸などのグリコサミノグリカンをFGF19と併用することで、FGF19のFGFR4への活性化作用のみを選択的に抑制する方法、さらにbetaKlotho非存在下でのFGF19のFGFR4への活性化作用のみを選択的に抑制する方法を提供する。FGF19の抗高血糖作用、抗メタボリックシンドローム活性作用を利用した医薬組成物において、これらグルコサミノグルカンを併用することで、腫瘍誘導作用等の副作用の心配のない医薬組成物の提供が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF19のFGF受容体を介した生物活性における選択的抑制剤に関する。FGF19によるFGF受容体を介した生物活性を増強又は抑制する物質のスクリーニング方法、特にFGF受容体4の選択的抑制剤のスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病で問題とされる高い血糖レベルに対しては、健康な体の中で血糖レベルが調節される仕組みを理解し、その知識を活用して、正常な値に制御することが必要であるが、未だ体内の血糖レベルの制御機構は解明できていない。現在実践的に用いられている唯一の積極的治療法は、糖尿病患者に対しインスリンを投与し、インスリンの血糖値低下作用を利用して、血糖値を正常範囲にまで低下させる方法のみである。しかし、この方法は、インスリンの分泌量が不足していることが原因の患者にとっては極めて効果的な治療法ではあるが、患者の中にはインスリンを投与しても血糖値の低下しない患者もいる。このような、所謂インスリン抵抗性の患者に対しても有効な、糖尿病薬の開発は急務であり、そのためにも体内における血糖値の制御機構を解明し、この問題を解決することが、当技術分野において大きな課題となっている。
【0003】
ところで、線維芽細胞増殖因子(FGF)とよばれるFGFファミリーの分子群は、アミノ酸配列の相同性と構造的類似性から、現在ヒト及びマウスにおいては22種類存在することが知られている。すべてのFGFファミリーメンバーの活性機能が明らかにされているわけではないが、すでに機能に関する研究が進んでいるメンバーは、いずれも線維芽細胞の増殖活性のみならず、広範な細胞に対する増殖や分化の制御活性を有することが知られ、形態形成、血管形成、神経生存維持、代謝調節などといった多様な生命現象に深く関わっている因子群である(非特許文献1)。このメンバーの中で比較的最近FGFファミリーメンバーに加わったFGF19、FGF21及びFGF23は、ドメイン構造からもアミノ酸配列の相同性の観点からも類似したサブグループを形成している。最近の研究により、FGF19サブファミリーに属する増殖因子は生体の様々な代謝制御を調節する作用を有することが次第に明らかになってきた。FGF23はリン酸の代謝制御因子、FGF21は血糖調節、中性脂肪の調節、飢餓時の代謝応答などに関わる因子、FGF19は胆汁酸・コレステロールの調節因子、また抗肥満作用、抗糖尿病作用を有する因子であることが示されてきている(非特許文献,2,3,4、特許文献1)。またこれらの代謝調節FGFは作用の発揮において、従来考えられてきたFGFリガンドの作用機構とは異なり、細胞膜表面のFGF受容体に加えて、Klothoファミリータンパク質が共存することが必須であることが示されてきている(非特許文献5,6,7)。
本発明者らは、以前、FGF23がFGF受容体を介して活性を発揮するにはKlothoタンパク質が必須であるのに対して、FGF21とFGF19がFGF受容体を介して活性を発揮するためには、betaKlothoタンパク質が補助受容体として必須であることを見出し、特許出願している(特願2007−100865、特願2007−182848、特願2007−218588、特願2008−99837、非特許文献7)。本発明者らは、その際、同時にFGF21については、補助受容体としてのbetaKlothoタンパク質による顕著な活性化効果を利用して、FGF21の血糖調節作用、抗肥満作用の増強が可能であることを見出しており、抗糖尿病(特に2型糖尿病)、抗メタボリックシンドローム用の医薬組成物への利用も現実的となってきている。しかしながら、同じbetaKlothoタンパク質を補助受容体とするFGF19については抗メタボリックシンドローム因子として名前は挙がってはいる(非特許文献8,9,10、特許文献2,3)が、FGF21ほどには積極的に医薬組成物開発への気運が高まっていない。FGF19はFGF21とは異なり、FGF受容体4も活性化することがわかっており、FGF19を発現するトランスジェニックマウスにおいて肝細胞癌が発症すること、肝癌、肺癌、大腸癌の例において、FGF19とFGF受容体4が共発現していることが報告されており(非特許文献11,12,13,14、特許文献4)、FGF19の有する抗メタボリックシンドロームを利用する上では重大な問題となっていた。
したがって、FGF19の抗メタボリックシンドローム活性を存分に発揮させた医薬組成物の開発に繋げるためには、FGF受容体の選択性を高めることにより、FGF19によるFGF受容体4の活性化を阻止して、FGF19の腫瘍誘導活性を抑制し、同時にFGF19本来の抗メタボリックシンドローム活性を選択的に発揮させる手法を確立することが必須であり、この分野における重要な課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2003011213
【特許文献2】WO200118210
【特許文献3】US2002155543
【特許文献4】US2007248604
【特許文献5】特開2006-158339号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Itoh, N. and Ornitz, D.M. (2004) Evolution of the Fgf and Fgfr gene families. Trends Genet, 20, 563-569.
【非特許文献2】Yu, X. and White, K.E. (2005) FGF23 and disorders of phosphate homeostasis. Cytokine Growth Factor Rev, 16, 221-232.
【非特許文献3】Kharitonenkov, A., Shiyanova, T. L., Koester, A., Ford, A. M., Micanovic, R., Galbreath, E. J., Sandusky, G. E., Hammond, L. J., Moyers, J. S., Owens, R. A., Gromada, J., Brozinick, J. T., Hawkins, E. D., Wroblewski, V. J., Li, D. S., Mehrbod, F., Jaskunas, S. R., and Shanafelt, A. B. (2005) J Clin Invest 115(6), 1627-1635
【非特許文献4】Inagaki, T., Choi, M., Moschetta, A., Peng, L., Cummins, C.L., McDonald, J.G., Luo, G., Jones, S.A., Goodwin, B., Richardson, J.A., Gerard, R.D., Repa, J.J., Mangelsdorf, D.J. and Kliewer, S.A. (2005) Fibroblast growth factor 15 functions as an enterohepatic signal to regulate bile acid homeostasis. Cell Metab, 2, 217-225.
【非特許文献5】M. Kuro-o, Trends Endocrinol Metab 19 (7), 239 (2008).
【非特許文献6】H. Kurosu, M. Choi, Y. Ogawa, A. S. Dickson, R. Goetz, A. V. Eliseenkova, M. Mohammadi, K. P. Rosenblatt, S. A. Kliewer, and M. Kuro-o, J Biol Chem 282 (37), 26687 (2007).
【非特許文献7】M. Suzuki, Y. Uehara, K. Motomura-Matsuzaka, J. Oki, Y. Koyama, M. Kimura, M. Asada, A. Komi-Kuramochi, S. Oka, and T. Imamura, Mol Endocrinol 22 (4), 1006 (2008).
【非特許文献8】E. Tomlinson, L. Fu, L. John, B. Hultgren, X. Huang, M. Renz, J. P. Stephan, S. P. Tsai, L. Powell-Braxton, D. French, and T. A. Stewart, Endocrinology 143 (5), 1741 (2002).
【非特許文献9】L. Fu, L. M. John, S. H. Adams, X. X. Yu, E. Tomlinson, M. Renz, P. M. Williams, R. Soriano, R. Corpuz, B. Moffat, R. Vandlen, L. Simmons, J. Foster, J. P. Stephan, S. P. Tsai, and T. A. Stewart, Endocrinology 145 (6), 2594 (2004).
【非特許文献10】A. M. Strack and R. W. Myers, Endocrinology 145 (6), 2591 (2004).
【非特許文献11】K. Nicholes, S. Guillet, E. Tomlinson, K. Hillan, B. Wright, G. D. Frantz, T. A. Pham, L. Dillard-Telm, S. P. Tsai, J. P. Stephan, J. Stinson, T. Stewart, and D. M. French, Am J Pathol 160 (6), 2295 (2002).
【非特許文献12】L. R. Desnoyers, R. Pai, R. E. Ferrando, K. Hotzel, T. Le, J. Ross, R. Carano, A. D'Souza, J. Qing, I. Mohtashemi, A. Ashkenazi, and D. M. French, Oncogene 27 (1), 85 (2008).
【非特許文献13】R. Pai, D. Dunlap, J. Qing, I.Mohtashemi, K. Hotzel, and D. M. French, Cancer Res 68 (13), 5086 (2008).
【非特許文献14】S. Jones, Mol Pharm 5 (1), 42 (2008).
【非特許文献15】J. R. McWhirter, M. Goulding, J. A. Weiner, J. Chun, and C. Murre, Development 124 (17), 3221 (1997).
【非特許文献16】T. Nishimura, Y. Utsunomiya, M. Hoshikawa, N. Itoh, Biochim Biophys Acta 1444 (1), 148 (1999).
【非特許文献17】S. Yu, L. Zheng, S. L. Asa, and S. Ezzat, Am J Endcrinol Metab 283 (3), E490 (2002).
【非特許文献18】Ito, S., Kinoshita, S., Shiraishi, N., Nakagawa, S., Sekine, S., Fujimori, T. and Nabeshima, Y.I. (2000) Molecular cloning and expression analyses of mouse betaklotho, which encodes a novel Klotho family protein. Mech Dev, 98, 115-119.
【非特許文献19】Ito, S., Fujimori, T., Furuya, A., Satoh, J., Nabeshima, Y., and Nabeshima, Y. (2005) J Clin Invest 115(8), 2202-2208
【非特許文献20】X. Wu, H. Ge, B. Lemon, J. Weiszmann, J. Gupte, N. Hawkins, X. Li, J. Tang, R. Lindberg, Y. Li, Proc Natl Acad Sci U S A 106(34), 14379 (2009).
【非特許文献21】A. Beenken, M. Mohammadi, The FGF family: biology, pathophysiology and therapy, Nat Rev Drug Discov 8(3), 235 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、FGF19が活性化するFGF受容体のうちで、FGF受容体4(FGFR4)を選択的に抑制する制御物質を提供することを目的とする。具体的には、FGF19によるFGF受容体4(FGFR4)活性化により引き起こされる造腫瘍作用を抑制する物質を提供することを目的とする。
また、この選択的抑制機能を利用して、FGF19を用いた高血糖症、高脂血症、高コレステロール症などのメタボリズム異常に関連した疾患の治療又は予防用医薬組成物において、その副作用として懸念される腫瘍誘導作用を抑制することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した目的を達成するために鋭意検討を行った結果、グリコサミノグリカンが、FGF19が活性化する特定のFGF受容体に対して選択的に作用することを見出し、特にFGF受容体のうちでも、FGF受容体4(FGFR4)に対する活性化作用のみを選択的に抑制する効果を有するという知見を得た。
具体的には、本発明者らは、まず、FGF19がFGF受容体をbetaKlotho共存下で選択的に活性化又は抑制する物質をスクリーニングするために、本来FGF受容体を有していない細胞の表面に補助受容体betaKlothoと共に各FGF受容体(R1c、R2c、R3c、R4)を発現している複数の細胞を用意した。通常のFGFリガンドが各FGF受容体と結合する際には、受容体補助因子としてのヘパリンが必須であるため、まず上記の系にさらにヘパリンを添加して観察したところ、FGF19はいずれの受容体も活性化させた。そこでFGF19とヘパリン以外の各種グリコサミノグリカンを組み合わせ反応させたところ、驚くべきことにコンドロイチン硫酸(特にB、およびE)を作用させた場合に、FGF19はbetaKlothoの共存下FGF受容体のうちR4は活性化せず、R2cのみを選択的に活性化することを見出した。次いで、betaKlothoの共存下でFGF19をヘパラン硫酸(ウシ腎臓由来)と組み合わせて作用させた場合には、FGF受容体R1c、R2c、R3cは活性化するものの、FGF受容体R4は全く活性化しないことを見出した。
以上のように、本発明者らは、グリコサミノグリカンを用いることで、FGF19によるFGF受容体活性化作用の選択性を制御できることを見出し、FGF19によるFGF受容体4への選択的な活性化作用の抑制剤として、また、FGF19を有効成分とする高血糖症、高脂血症、高コレステロール症などのメタボリズム異常に関連した疾患の治療又は予防用医薬組成物における副作用としての腫瘍誘導作用抑制剤についての本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
〔1〕 FGF19のFGF受容体活性化作用のうちで特定のFGF受容体への活性化作用のみを選択的に増強又は抑制する方法であって、多糖類を用いることを特徴とする、特定のFGF受容体への活性化作用のみを選択的に増強又は抑制する方法。
〔2〕 FGF19のFGF受容体活性化作用のうちFGF受容体4への活性化作用のみを選択的に抑制する方法であって、グリコサミノグリカンを用いることを特徴とする、FGF受容体4への活性化作用のみを選択的に抑制する方法。
〔3〕 FGF19のFGF受容体活性化作用がbetaKlothoの非共存下でのFGF受容体4の活性化作用である、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕 グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、前記〔2〕又は〔3〕に記載の方法。
〔5〕 FGF19のFGF受容体を介した生物活性の選択的抑制剤であって、グリコサミノグリカンを有効成分として含む、FGF受容体4の活性化作用に対する選択的抑制剤。
〔6〕 グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、前記〔5〕に記載の選択的抑制剤。
〔7〕グリコサミノグリカンを有効成分として含む、FGF19の投与により引き起こされる腫瘍誘導活性化作用の抑制剤。
〔8〕グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、前記〔7〕に記載の抑制剤。
〔9〕 FGF19を有効成分として含む医薬組成物であって、さらにグリコサミノグリカンを有効量含むことを特徴とする、FGF19の投与による腫瘍誘導活性化作用が抑制された医薬組成物。
〔10〕 グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、前記〔9〕に記載の医薬組成物。
〔11〕 前記医薬組成物が、グルコース取り込み昂進、血糖値低下、血中中性脂肪の低下、血中コレステロールの低下、及びメタボリズム制御のいずれかを治療又は予防するための医薬組成物である、前記〔9〕又は〔10〕に記載の医薬組成物。
〔12〕 FGF19によるFGF受容体を介した生物活性を増強又は抑制する物質のスクリーニング方法であって、
(1)FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない細胞を宿主としてFGF受容体遺伝子及びbetaKlotho遺伝子を導入し、細胞表面にFGF受容体及びbetaKlothoを発現させた形質転換細胞の系に対して披検物質と共にFGF19を作用させる工程、又は
(2)FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない細胞を宿主としてFGF受容体遺伝子及びbetaKlotho遺伝子と共に披検物質遺伝子を導入して、FGF受容体及びbetaKlothoと同時に披検物質も細胞表面に発現させた形質転換細胞の系に対してFGF19を作用させる工程、
を含むスクリーニング方法であって、FGF19の作用により特定のFGF受容体のみの生物活性を増加又は減少させる被検物質を選択する方法。
〔13〕 前記〔12〕に記載のスクリーニング方法において、FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない宿主細胞を複数用意し、それぞれの細胞にbetaKlotho遺伝子と共に、又はbetaKlotho遺伝子と披検物質遺伝子と共にFGF受容体遺伝子を導入する際に、FGF受容体4遺伝子を含む異なる種類のFGF受容体遺伝子を、各宿主細胞にそれぞれ導入し、異なる種類のFGF受容体がbetaKlotho又はbetaKlothoと披検物質と共に発現している形質転換細胞系を構築し、各形質転換細胞系においてFGF19を被検物質存在下で作用させてFGF19によるFGF受容体活性化作用を比較し、FGF受容体4活性化作用のみを選択的に抑制する被検物質を選択する工程を含む、FGF19によるFGF受容体4を介した生物活性の活性化作用のみを選択的に抑制する物質をスクリーニングするための前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕 前記方法が、FGF19の投与に基づく腫瘍誘導活性化作用の抑制物質のスクリーニング方法である、前記〔13〕に記載のスクリーニング方法。
〔15〕 FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない宿主細胞にFGF受容体遺伝子及びbetaKlotho遺伝子を導入し、細胞表面にFGF受容体及びbetaKlothoを発現させた形質転換細胞の系、及びFGF19を組み合わせてなる、FGF19によるFGF受容体を介した生物活性を増強又は抑制する物質のスクリーニング用のキット。
〔16〕 FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない複数の宿主細胞に、betaKlotho遺伝子と共に、FGF受容体4遺伝子を含む異なる種類のFGF受容体遺伝子が別々に導入され、各々の形質転換細胞表面で異なるFGF受容体及びbetaKlothoが発現している複数の形質転換細胞系、及びFGF19を組み合わせてなる、FGF19によるFGF受容体4を介した生物活性の活性化作用のみを選択的に抑制する物質のスクリーニング用のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリコサミノグリカンもしくはその関連物質を用いることで、FGF19によるFGF受容体活性化作用の選択性を制御できるので、FGF19によるFGF受容体4への活性化作用のみを選択的に抑制でき、FGF受容体4の活性化に基づく腫瘍誘導作用など、FGF19の望ましくない生物活性のみを防止できる。
したがって、FGF19を有効成分とする血糖値の異常に関連した疾患、たとえば糖尿病の治療又は予防用医薬組成物において、グリコサミノグリカンもしくはその関連物質を併用することにより、腫瘍誘導作用等の副作用のない医薬組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】FGF19の活性発揮においてbetaKlothoとともに存在するFGF受容体の特異性がグリコサミノグリカンによってどのように変化するか解析した結果を示す図である。 FGFR(FGFR1c、R2c、R3c、R4)を発現しているBaF3細胞にbetaKlothoの発現ベクターを導入し、各FGFR/betaKlotho発現細胞を各種グリコサミノグリカン(ヘパリン□、ヘパラン硫酸■、コンドロイチン硫酸B○、D●、E▼)の存在下(終濃度5μg/ml)に種々の濃度のFGF19で刺激して、チミジンの取り込み能を測定した。▲は5μg/ml のヘパリン存在下にFGF1で刺激した結果を表す。 FGF19はヘパラン硫酸の存在下で、FGFR4とのみ反応しない。コンドロイチン硫酸B あるいはEの存在下ではFGFR2c と反応がみられる。FGFR4とは反応しない。FGFR1cとFGFR3cに対しては極僅かに反応する。
【図2】FGF19の活性発揮においてbetaKlotho存在下でのFGF受容体の特異性がグリコサミノグリカンによってどのように変化するかを解析した図1を追試した結果の図である。
【図3】FGF21の活性発揮においてbetaKlothoとともに存在するFGF受容体の特異性がグリコサミノグリカンによってどのように変化するか解析した結果を示す図である。 図1の通りに作成した各FGFR/betaKlotho発現細胞を各種グリコサミノグリカン(ヘパリン□、ヘパラン硫酸■、コンドロイチン硫酸B○、D●、E▼)の存在下(終濃度5μg/ml)に種々の濃度のFGF21で刺激して、チミジンの取り込み能を測定した。▲は5μg/mlのヘパリン存在下にFGF1で刺激した結果を表す。 FGF21はいずれのグリコサミノグリカンの存在下でも、FGFR4と反応しない。FGFR1cではグリコサミノグリカン非存在下でも添加するリガンドの量に従って反応がみられる。ヘパリンの添加でのみFGF21作用は増強される。FGFR3cに対してはヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸B、Eの順でFGF21の作用が増強される。FGFR2cはヘパリンあるいはヘパラン硫酸の存在下でのみFGF21により反応する。
【図4】FGF受容体4がbetaKlothoとともに存在する場合と単独で存在する場合に、FGF19によるFGF受容体4の活性化に対するヘパラン硫酸、あるいはヘパリンの影響を解析した結果を示す図である。 FGFR4のみを発現しているBaF3細胞および図1の通りに作成したFGFR4/betaKlotho発現細胞を、2種類のヘパラン硫酸(生化学工業株式会社 製品番号400700●、イズロン社 製品番号GAG-HS01 ○)、および2種類のヘパリン(シグマ社 製品番号H3393 □、イズロン社 製品番号H030 ■)の存在下(終濃度5μg/ml)に種々の濃度のFGF19で刺激して、チミジンの取り込み能を測定した。▲は5μg/mlのヘパリン(シグマ社 製品番号H3393)存在下にFGF1で刺激した結果を表す。いずれのヘパリンの存在下でもFGF19は、FGFR4単独、betaKlotho共存下のFGFR4ともに反応する。生化学工業株式会社製のヘパラン硫酸の存在下ではbetaKlothoの有無にかかわらずFGF19は、FGFR4に反応しない。一方、イズロン社製のヘパラン硫酸ではbetaKlotho共存下のFGFR4に対してのみFGF19が反応する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
〔1〕FGF19の作用について
1.FGF19とその抗メタボリックシンドローム作用について
FGF19は、FGF15をコードするDNAの塩基配列(非特許文献15)に基づいて設計されたプローブの配列を基にその相同因子として発見された物質である(非特許文献16)。FGF19はシグナル配列の22アミノ酸を含む216アミノ酸からなり、当初は脳での発現が報告された。その後小腸にて発現し、胆汁酸の合成の制御に重要な役割を有することが明らかにされた。ヒトのFGF19はマウスのFGF15に相当すると考えられている。FGF19を発現するトランスジェニックマウスの観察から、FGF19の長期発現により、体重、脂肪が減少し、エネルギー消費が増大することが報告された。さらに食餌による肥満やインシュリン抵抗性が軽減されることが示された(非特許文献8)。またレプチン欠損マウスや、エネルギーを熱に変える褐色脂肪組織が欠落しているマウスに対しても抗肥満作用があることから、これらに依存しない機構を有するものとして期待された。さらにリコンビナントFGF19タンパク質を投与したマウスで、前述のFGF19トランスジェニックマウスと同様な抗肥満、抗メタボリックシンドローム作用を示すことが報告されていた(非特許文献9)。脂肪細胞によるグルコースの取り込みを上昇させる活性があることも報告されている(非特許文献6)。また、FGF19のFGF受容体活性化作用のうち、FGFR4にのみ選択的に作用する人工的バリアントによっては血糖値低下作用などの機能の抗メタボリックシンドローム作用はみとめられないことが報告されている(非特許文献20)。
本発明において「FGF19によるFGF受容体活性化作用」というとき、FGF19の作用によってFGF受容体を介して細胞内に引き起こされる活性をいうが、「FGF受容体を介したFGF19活性」又は「FGF受容体を介したFGF19の生物活性」ともいい、単にFGF19活性ということもある。好ましい生物活性の例としては、脂肪細胞内でグルコーストランスポーター(GLUT)の発現を上昇させる活性が典型的ではあるが、後述のように、FGF19の場合は、FGFR4を介した腫瘍誘導活性も指す。本発明では、FGF19のFGF受容体活性化作用のうち、望ましい受容体に対する活性化作用を増強し、望ましくない受容体に対する活性化作用のみを選択的に抑制しようというものであるので、後者に着目すれば、特定の受容体活性化作用抑制剤であるが、前者に着目すれば、特定の受容体活性化作用増強剤、又は「特定のFGF受容体を介したFGF19活性」の増強作用と表現することもできる。
また、本発明におけるFGF19としては、ヒト由来のFGF19(例えば、GenBankアクセッション番号:NM_005117参照)やマウスFGF15(例えば、GenBankアクセッション番号:NM_008003参照)が好ましいが、これに限られるものでなく、天然タンパク質のみならず、組換えFGF19であってもよく、さらに上記FGF19活性を有していれば、そのアミノ酸配列の一部が改変されたものであってもよい。組換えFGF19を作製するためには、大腸菌や哺乳動物細胞などの通常の形質転換宿主/ベクター系を適宜用いることができる。
【0012】
2.FGF受容体について
FGF受容体(FGFR)は細胞表面に存在する膜一回貫通型のタンパク質である。現在ではFGFR1〜5の5種類が同定されている。そのうちFGFR1〜4はチロシンキナーゼ型受容体であり、FGFが結合することにより二量体化・自己リン酸化により活性化される。活性化されたFGFRは細胞内のシグナリング分子と相互作用し、複数のシグナル伝達経路を活性化させる。FGFR1〜3には選択的スプライシングにより主に2種類のアイソフォーム(FGFR1b、FGFR1c、FGFR2b、FGFR2c、FGFR3b、FGFR3c)が存在する。
それぞれの受容体の特異的な機能、活性は完全には解明されていないが、R1は主に間葉系、神経外胚葉の組織、R2は加えて外胚葉由来の組織での発現が報告されている。R3は骨や軟骨、中枢神経系での発現が多く見られる。R4は肝臓、筋肉、肺、膵臓等での発現が高い。R1からR3までのスプライシングフォームのうち、“c”フォームは、間葉系組織で、“b”フォームは上皮系組織でそれぞれ特異的に発現される。
本発明者らは、先の特許出願(特願2007−100865など)において、血糖値の抑制作用をはじめとする抗メタボリックシンドローム活性を有するFGF21がbetaKlothoの存在下、7種のうちR1c、R3cを活性化することを示しており(非特許文献7)、またFGF21が脂肪細胞に働く際に、R2cも活性化されるとの報告がある(非特許文献3)。したがって、今回の具体的な実施態様として、FGF19によるFGF受容体活性化作用の選択性を観察するにあたり、抗メタボリックシンドローム活性に関係があると考えられるR1c、R2c、R3cと、上述の通りFGF19の腫瘍誘導活性と関連性が高いと考えられているR4を典型的な4種類のFGF受容体として用いた。
【0013】
3.補助受容体betaKlothoについて
FGF21が作用を発揮するためにはFGF受容体のみでは不十分で、一回膜貫通型タンパク質であるbetaKlothoが補助受容体として機能することが必須であることが報告されている(非特許文献5,6,7)。またbetaKlothoが存在してもFGF21はFGFR4を活性化することはない。一方FGF19が作用を発揮するためにもbetaKlothoが補助受容体として機能することが必要であることが報告されている(非特許文献6)。FGF21とは異なりFGF19はFGFR4も活性化する。ノックアウトマウスを用いた解析などから、FGF19/FGF15がFGFR4を活性化することにより胆汁酸の合成を抑制的に制御するという生理的機能を発揮するためにはbetaKlothoが必須であることが報告されている(非特許文献21)。またbetaKlotho非依存的にもFGFR4を活性化しうるとの報告もある(非特許文献17、20)。FGF21もFGF19と類似の抗メタボリックシンドローム作用を示すこと、また前述のようにFGFR4のみを選択的に活性化するFGF19バリアントは抗メタボリックシンドローム作用を持たないとの報告から、FGF19の持つ抗メタボリックシンドローム作用はFGFR4とは異なるFGF受容体を介して発揮されていると考えられる。つまり、FGF19によるFGFR4活性化作用のみを選択的に抑制することができれば、FGF19活性のうちで好ましい抗メタボリックシンドローム作用を損なうことなく、FGF19活性のうちで最も除きたい腫瘍誘導活性を抑制することができることが期待できる。
betaKlothoは、Klothoのホモログとしてクローニングされた物質であり(非特許文献18)、マウス由来betaKlotho遺伝子の塩基配列は例えばGenBankアクセッション番号:NM_031180に、対応するアミノ酸配列は例えばGenBankアクセッション番号:NP_112457に示され、ヒトbetaKlothoの塩基配列は例えばGenBankアクセッション番号:NM_175737に、対応するアミノ酸配列は例えばGenBankアクセッション番号:NP_783864に示される。発達中のマウス胎児の脂肪組織などで発現していることが知られており、他生物種からの遺伝子取得方法と共に、種々の改変体、変異体などの製造方法も記載されている(非特許文献18,19、特許文献5)。そして、先の本発明者らの出願(特願2007−100865など)において初めて、betaKlothoが、FGF21がFGF受容体と結合してFGF受容体を活性化させ、そのシグナル伝達を引き起こすために必須の物質であることが解明され、FGF21のグルコーストランスポーターの発現量の昂進、グルコース取り込み上昇、血糖値の低下、インスリンの合成量増加などの作用において重要な調節機能を果たす因子であることが見出されたものである。
本発明において、「betaKlotho」というとき、典型的にはマウス又はヒトなどの哺乳類由来のbetaKlotho及びその可溶性部分蛋白質をさすが、他の生物種由来のものであってもよい。
【0014】
3.FGF受容体を介したFGF19活性の測定
一般に、各FGFは、細胞表面のFGF受容体に結合し、FGF受容体を活性化させ、細胞内での各種シグナル伝達機構を活性させることで、当該細胞に何らかの作用・機能を引き起こすことになるため、当該観察された作用・機能をFGF活性として測定することになる。
汎用的な測定法としては、Ornitz,D.M.,Xu,J.,Colvin,J.S.,McEwen,D.G.,MacArthur,C.A.,Coulier,F.,Gao,G.and Goldfarb,M.(1996) Receptor specificity of the fibroblast growth factor family.J Biol Chem,271,15292-15297.に記載されている細胞増殖刺激活性測定法が挙げられる。その概要は以下の通りである。表面にFGF受容体を有する培養細胞の培養液内に測定対象のFGFを加え、一定時間培養後標記チミジンを培養液中に添加しさらに一定時間培養を行う。この間の標識チミジンの高分子DNAへの取り込みを測定することで、FGFによるDNA合成の活性化程度を評価する。(本発明でも、実施例1及び2においてFGF19およびFGF21の活性を測定する際にこの手法を採用した。)
FGF19は細胞表面のFGF受容体を介して細胞内のグルコーストランスポーター(GLUT)1の発現を上昇させる活性を有しているので、本発明に係るFGF19活性の解析において、FGF19活性の披検細胞内でのGLUT1の発現の上昇能をGLUT1のmRNAの発現量として測定することができる。
ここで、FGF19を様々な濃度で細胞培養液に添加することにより、細胞に作用させて一定時間細胞培養を継続した後、細胞からmRNAを抽出し、GLUT1のmRNAの発現量を測定する。このmRNA発現量が増加していれば、FGF19が活性を発揮していることが示される。
GLUT1の発現上昇を解析する目的には、GLUT1抗体などを用いたウェスタンブロット法等の公知の方法によりGLUT1タンパク質発現量を測定することもできる。また、実験動物などの場合、GLUT1の転写を制御する制御領域(例えば、プロモーター領域)と、その下流に転写制御されうる形で連結されたリポーター遺伝子と組み込んだトランスジェニック動物を作製することにより、リポーター遺伝子の発現量によってFGF19活性を測定できるようにしてもよい。
なお、FGF19活性を測定するためには、これらの手法に限られることはなく、定量的な測定が可能な手法であればどのような手法でも用いることができる。たとえばFGF受容体の活性化やその下流のシグナル伝達分子の活性化をFGF受容体やシグナル伝達分子のリン酸化の増加として測定し評価する手法も用いることができる。
そして、本発明のFGF19活性のGLUT1mRNA発現量の測定の好ましい態様として、培養脂肪細胞を披検細胞として用いることができる。
培養脂肪細胞としては、ヒト、ラット初代培養細胞など各種の培養脂肪細胞を用いることができるが、本発明の実施の態様では、培養条件を操作することにより脂肪細胞に分化する能力を有する繊維芽細胞として広く当該研究領域で使用されている3T3-L1細胞を用いた。3T3-L1細胞は、分化誘導前には繊維芽細胞としての性質を有し、誘導後には脂肪細胞としての性質を有するので、FGF19を作用させた場合の効果を対比させて解析することができる。ここで「脂肪細胞の性質をもつ細胞」とは、脂肪細胞特有の細胞内代謝を行い、脂肪滴を多量に蓄積した細胞質を有する細胞を示す。3T3-L1細胞を脂肪細胞に誘導する実験系は、例えば、Kharitonenkov,A.,Shiyanova,T.L.,Koester,A.,Ford,A.M.,Micanovic,R.,Galbreath,E.J.,Sandusky,G.E.,Hammond,L.J.,Moyers,J.S.,Owens,R.A.,Gromada,J.,Brozinick,J.T.,Hawkins,E.D.,Wroblewski,V.J.,Li,D.S.,Mehrbod,F.,Jaskunas,S.R.,and Shanafelt,A.B.(2005) J Clin Invest 115(6),1627-1635に開示されている。
【0015】
4.FGF19の腫瘍誘導作用について
前述のFGF19発現トランスジェニックマウスでは10ヶ月程度で肝細胞癌が形成されることも報告されている(非特許文献14)。またリコンビナントFGF19タンパク質を投与したマウスでは肝細胞の増殖が認められている(非特許文献9)。FGFR4はヒトで大腸癌、肝癌、乳癌、膵臓癌など様々なタイプの癌において高発現がみられる。またFGF19とFGFR4が共に発現が見られることもある(非特許文献12,14)。またFGFR4の発現をRNA干渉法や、抗体で抑制すると、癌の増殖が抑制されることなどから、FGF19がFGFR4を活性化することで、腫瘍が誘導される可能性が考えられている(非特許文献12,13,14)。
以上のことから、FGF19の持つ造腫瘍性を排除して、抗メタボリックシンドローム作用のみを利用して、メタボリックシンドロームの予防あるいは治療に用いるためには、FGF19の受容体特性を制御して、選択的にFGFR4に作用させない制御物質を見出すことが課題となっていた。またFGF19には肝臓でのbetaKlothoの存在下におけるFGFR4の活性化を通じて胆汁酸の合成に対して抑制的に作用する機能もあることから、さらにFGF19のbetaKlotho非依存的なFGFR4活性化作用のみを選択的に抑制する手段の開発も望まれていた。
【0016】
通常のFGFリガンドが各FGF受容体と結合する際には、受容体補助因子としてのヘパリンが必須であるため、まず上記の系にさらにヘパリンを添加して観察したところ、FGF19はいずれの受容体も活性化させた。そこでFGF19とヘパリン以外の各種グリコサミノグリカンを組み合わせ反応させたところ、驚くべきことにコンドロイチン硫酸(特にB、およびE)を作用させた場合に、FGF19はbetaKlothoの共存下FGF受容体のうちR4は活性化せず、R2cのみを選択的に活性化することを見出した。次いで、betaKlothoの共存下でFGF19をヘパラン硫酸(ウシ腎臓由来)と組み合わせて作用させた場合には、FGF受容体R1c、R2c、R3cは活性化するものの、FGF受容体R4は全く活性化しないことを見出した。またヘパラン硫酸は由来によって構成糖の含量、硫酸化修飾の位置や程度、糖鎖の長さなどがが若干異なるので、由来の異なるヘパラン硫酸(イズロン社製、ブタ腸粘膜由来)を用いて同様の実験を行ったところ、FGF19を作用させた際に、betaKlothoの存在下ではFGFR4を活性化してしまうが、betaKlothoの非存在下ではFGFR4をほとんど活性化しないというウシ腎臓由来の場合とは異なる活性化抑制作用を示すことを見出した(図4)。このことは、由来の異なるヘパラン硫酸を組み合わせることで、FGF19によるFGF4活性化作用程度を制御することができることでもある。
以上のように、本発明によってグリコサミノグリカンの共存下で、FGF19のFGF受容体選択的な生物活性が制御できることが明らかとなり、FGF19の有する腫瘍誘導活性を排除して、抗メタボリックシンドローム作用のみを発揮させることが可能となった。
【0017】
〔2〕グリコサミノグリカンについて
糖鎖のなかで、最も構造的多様性を有し、種々の細胞活動に多大な影響を与える物質の一つがグリコサミノグリカンである。この分子として、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。
ヘパリンおよびヘパラン硫酸は、ウロン酸残基とグルコサミン残基を含んだ、二糖単位の繰り返し構造によって出来ている。ウロン酸はC−5の立体配置により、α−D−グルクロン酸(GlcUA)とβ−L−イズロン酸(IdoA)とに区別され、IdoAの一部は2−O−硫酸基(IdoA(2S))を有する。グルコサミン残基は、N−アセチル基(GlcNAc)あるいはN−硫酸基(GlcNS)を有する。グルコサミン残基は、C−6に硫酸基を有しているものもある。これらに比較して、含量は低いが2−O−硫酸化 α−D−グルクロン酸(GlcUA(2S))および3−O−硫酸化GlcNS(GlcNS(3S))あるいは3−O,6−O−ジ硫酸化GlcNS(GlcNS(3,6S)が存在する。これらの残基から構成される数十から数百からを越える二糖の繰り返し構造を、ヘパリンおよびヘパラン硫酸は有している。従って、上記の様々な二糖単位の組合せにより、ヘパリンおよびヘパラン硫酸の構造的多様性が形成されている。
ヘパラン硫酸は、これを生合成するための糖転移酵素、糖鎖修飾に関わるエピメラーゼや硫酸転移酵素のなどの含量の違いにより、由来動物、及び/又は由来臓器ごとに構成糖の含量、硫酸化修飾の位置や程度、糖鎖の長さなどが異なる。ひとつの典型的なヘパラン硫酸はウシ腎臓由来(生化学工業社製など)であるが、ブタ腸粘膜由来(イズロン社製など)のものも広く用いられている。
一方コンドロイチン硫酸はウロン酸とガラクトサミン残基を含んだ、二糖単位の繰り返し構造によって出来ている。硫酸化される位置によって以下の異なる型が存在する。
A型:ガラクトサミンの4位が硫酸化されている。
B型:ガラクトサミンの4位が硫酸化され、グルクロン酸がエピマー化してイズロン酸になっている(デルマタン硫酸とも呼称する)。
C型:ガラクトサミンの6位が硫酸化されている。
D型:ガラクトサミンの6位とグルクロン酸の2 位が硫酸化されている。
E型:ガラクトサミンの4位と6位が硫酸化されている。
これらの残基から構成される数十から数百からを越える2糖の繰り返し構造を有する。(なお、均一にすべての2糖単位が同じ構造で繰り返されているわけではない。)
本発明におけるヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸は二糖の繰り返しが1回である低分子のものから数百の高分子の構造を持つものを含む。
グリコサミノグリカンはその薬学的に許容される塩であってもよい。例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩のうち、薬学的に許容される塩を用いることができる。なかでもナトリウム塩であることが好ましい。
同じグリコサミノグリカンであっても、ヘパリンにはFGF19によるFGF受容体を介した生物活性の活性化作用をすべて増強してしまい、特定のFGF受容体のみを選択的に活性化若しくは抑制するという特異性はないが、ヘパラン硫酸にはFGFR4の活性化作用のみをほぼゼロにするほどの抑制作用があり、コンドロイチン硫酸にはFGFR2cのみを活性化させるという特異性がある。この特異性には、ヘパラン硫酸及びコンドロイチン硫酸のような硫酸基が重要であると考えられる。すなわち、本発明のグリコサミノグリカンとしては、「硫酸基を有するグリコサミノグリカン」であることが好ましい。
【0018】
〔3〕本発明の高血糖症、高脂血症、高コレステロール症血糖値の予防および治療にかかわる医薬組成物について:
本発明の剤は、FGF19およびFGF19の活性を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0019】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口的な投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0020】
〔4〕FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない細胞の系を用いたスクリーニング方法及びキット
本発明者らは先の出願(特願2007−100865など)において、FGF21の生物活性、もしくはFGF21に対するbetaKlotho活性を増強、抑制する物質、又はFGF21様物質のスクリーニング系を開発したが、当該スクリーニング系は本発明においてFGF19の生物活性、もしくはFGF19に対するbetaKlotho活性を増強、抑制する物質のスクリーニングに用いることができる。詳細には、上記出願明細書中に詳細に記載されているので当該明細書の記載は本明細書の記載として援用するものであるが、具体的には以下の通りの系を構築すればよい。
FGF受容体及びbetaKlothoを内在的に発現していない細胞としては、典型的にはマウス白血病ProB細胞であるBaF3細胞が用いられるので、以下BaF3細胞を用いて説明する。ただし、他の細胞でもこれらいずれの遺伝子も細胞表面に発現しておらず、かつこれら遺伝子で形質転換された場合に細胞表面に発現することができる細胞であれば、同様に用いることができるので、BaF3細胞には限られない。
各FGF受容体と共にbetaKlothoも発現しているBaF3細胞の系は、FGF19活性を増強もしくは抑制する物質のスクリーニングに用いることができる。またこの系によりFGF受容体選択的にFGF19の作用を発揮させる物質のスクリーニングすることができる。
具体的には、まず、FGF受容体と共にbetaKlothoを細胞表面に発現しているBaF3細胞の系に対して披検物質と共にFGF19を作用させる方法を用いることができる。その際、披検物質とFGF19の添加順序は、同時でも、何れが先でもよい。
なお、実際のスクリーニングに際しては、BaF3細胞の増殖能を、披検物質を添加しない系などのコントロールの系と比較して評価することができる。BaF3細胞の増殖能は、標識チミジンの取り込み量の測定など常法により測定する。他のスクリーニング方法においても同様である。
また、実際のスクリーニングに際しては、BaF3細胞の増殖シグナル伝達の活性化を、披検物質を添加しない系などのコントロールの系と比較して評価することもできる。BaF3細胞の増殖シグナル伝達の活性化は、FGF受容体のチロシンリン酸化、FGF 受容体基質2(FRS2)のチロシンリン酸化、マップキナーゼ(ERK1/2)のリン酸化など常法により測定する。他のスクリーニング方法においても同様であった。
各FGF受容体及びbetaKlothoを細胞表面に発現しているBaF3細胞の系をFGF19と組み合わせることで、FGF19活性の調節作用に係る昂進物質もしくは阻害物質のスクリーニング用のキットとすることができる。またこの系によりFGF受容体選択的にFGF19の作用を発揮させる物質のスクリーニング用のキットとすることができる。
そして、これらスクリーニングにより得られた物質は、いずれもFGF受容体とbetaKlothoの共存下で発揮されるFGF19活性の調節剤及び当該FGF19活性を調節するための医薬組成物として用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〕BaF3細胞を用いたスクリーニング系の構築
元来はFGF受容体を持たない細胞であるBaF3細胞にFGF受容体とbetaKlothoを強制発現させた細胞を作出し、FGF19の反応性とそれを増強あるいは抑制する物質を検出する系を構築した。
各FGFR及びbetaKlotho発現BaF3細胞は以下のように調製した。まず各FGFR(FGFR1c、R2c、R3c、R4)の発現ベクター(Ornitz,D.M.,Xu,J.,Colvin,J.S.,McEwen,D.G.,MacArthur,C.A.,Coulier,F.,Gao,G.and Goldfarb,M.(1996) Receptor specificity of the fibroblast growth factor family.J Biol Chem,271,15292-15297.に記載されている)をエレクトロポレーション法によりマウスBaF3細胞に導入した。G418存在下で約2週間培養を行い、薬剤耐性クローンを得た後、FGF1刺激により増殖させることができるクローンとして取得した。各FGFRとbetaKlothoを共に発現するBaF3細胞は、動物細胞用発現ベクターにマウスbetaKlothoの全長cDNAをクローニングし、これを各FGFR発現BaF3細胞に導入した後、Puromycin及びG418存在下で約2週間培養を行い、耐性クローンとして取得した。これらの遺伝子導入したBaF3細胞は10%FBSとインターロイキン3(IL3、WEHI-3細胞のコンディションメディウムを10%加えることにより供給)、Puromycin及びG418を含むRPMI1640培地で維持した。スクリーニングにおける増殖刺激実験時は細胞をRPMI1640培地で洗浄後10%FBSを含むRPMI1640培地に懸濁し培養プレートに播種して用いた。
【0023】
〔実施例2〕グリコサミノグリカンの存在によるFGF19のFGF受容体に対する選択的活性化作用の解析
〔2−1〕
〔実施例1〕で作成した4種類のFGF受容体(FGFR1c、FGFR2c、FGFR3cあるいはFGFR4)のそれぞれをbetaKlothoとともに強制発現させた4種類のBaF3細胞を用い、これらの細胞に対するFGF19の反応性が、各種グリコサミノグリカンの存在下でどのように変わるかを解析した。まず細胞をRPMI1640培地で洗浄後10%FBSを含むRPMI1640培地に懸濁し培養プレートに播種し、各種グリコサミノグリカン(ヘパリン、シグマ 製品番号H3393;ヘパラン硫酸、生化学工業株式会社 製品番号400700;コンドロイチン硫酸B、生化学工業株式会社 製品番号400660;コンドロイチン硫酸D、生化学工業株式会社 製品番号400676;コンドロイチン硫酸E、生化学工業株式会社 製品番号400678)存在下で、FGF19の量を図のように変化させて刺激し、DNA合成を測定した。解析結果を、図1に示す。図に示されるように、ヘパリンの存在下でFGF19はいずれのFGFRを発現している細胞に対しても活性を示すのに対して、ヘパラン硫酸存在下ではR4/betaKlotho発現細胞のみが活性化されないことが明らかとなった。
またコンドロイチン硫酸Bあるいはコンドロイチン硫酸Eの存在下では、R2c/betaKlotho発現細胞のみが活性化されることが明らかとなった。
以上のことから、各種グリコサミノグリカンを共存させることによりFGF19が活性化させるFGF受容体の選択性を賦与できることが明らかになった。特に、ヘパラン硫酸存在下において、R4/betaKlotho発現細胞のみの活性がゼロであることは驚くべきことであり、ヘパラン硫酸にはFGF19によるFGFR4活性化作用のみを完全に抑制する効果があることを示すものであるといえる。
〔2−2〕
前記〔2−1〕で行った実験について、同様に作成して別途培養した細胞を用いて再現実験を行った。その結果を図2に示す。図1と比べてヘパリンの存在下でのR1c/betaKlotho、R2c/betaKlotho、R3c/betaKlothoに対するFGF19の活性の程度は高い傾向を示したものの、〔2−1〕で示された結果と同じく、ヘパリンの存在下でFGF19はいずれのFGFRを発現している細胞に対しても活性を示すのに対して、ヘパラン硫酸存在下ではR4/betaKlotho発現細胞のみが活性化されないことがわかった。またコンドロイチン硫酸Bあるいはコンドロイチン硫酸Eの存在下では、R2c/betaKlotho発現細胞のみが活性化されることがより明確となった。
【0024】
〔実施例3〕FGF21によるFGF受容体の活性化に対するグリコサミノグリカンの効果
〔実施例1〕で作成した4種類のBaF3細胞を用いて、〔実施例2〕と同様の手順で、各種グリコサミノグリカン存在下でFGF21の量を図のように変化させて刺激し、DNA合成を測定した。解析結果を、図3に示す。図に示されるように、いずれのグリコサミノグリカンの存在下でも、FGF21はR4/betaKlotho発現細胞を活性化しないことが明らかとなった。このことからも、FGF21の場合はFGF19とは異なりFGFR4を介した腫瘍形成作用の心配がないことが裏付けられる。またFGF21はグリコサミノグリカン非存在下でも、R1c/betaKlotho発現細胞を活性化するがヘパリンによりその作用は増強されることがわかった。またR3c/betaKlotho発現細胞に対してFGF21はグリコサミノグリカン非存在下でも作用するが、コンドロイチン硫酸E<コンドロイチン硫酸B<ヘパラン硫酸<ヘパリンの順でその活性は増強された。R2c/betaKlotho発現細胞に対してFGF21は、ヘパリン以外はヘパラン硫酸の存在下でのみ、活性化される。つまり、FGF21の場合は、FGF19を作用させる際にヘパラン硫酸で観察されたFGFR4の活性化作用を特異的に抑制する作用はない。しかし、ヘパラン硫酸にはFGF19のみならずFGF21に対してもFGFR1c、FGFR2c及びFGFR3cのいずれの活性化作用を増大させる作用がある。一方、コンドロイチン硫酸の場合は、FGF19に対してはFGFR2cの活性化作用のみを増大させる作用があったがFGF21に対しては、FGFR2cの活性化作用の増大効果は全く発揮せず、むしろわずかながらFGFR3c活性を増加させる。以上のことから、FGF21の場合は、betaKlothoの存在如何に関わらずFGFR4を介した活性化作用がないので、そもそもFGFR4を介した活性化作用を抑制するという課題がないが、ヘパラン硫酸などグリコサミノグリカンを共存させることによりFGF21の活性を増強できること、またコンドロイチン硫酸がFGF21によるFGFR2cの活性化を選択的に抑制しうることが示された。
【0025】
〔実施例4〕ヘパラン硫酸による、betaKlothoの共存および非共存下におけるFGF受容体4に対するFGF19の選択的活性化作用の解析
〔実施例1〕で作成した、FGFR4強制発現させたBaF3細胞とFGFR4とbetaKlothoを共発現させたBaF3細胞を用いて、これらの細胞に対するFGF19の反応性が、ヘパラン硫酸の存在下でどのように変わるかを〔実施例2〕と同様な手順により解析した。細胞をRPMI1640培地で洗浄後10%FBSを含むRPMI1640培地に懸濁し培養プレートに播種し、ウシ腎臓由来のヘパラン硫酸(生化学工業株式会社 製品番号400700)及びブタ腸粘膜由来のヘパラン硫酸(イズロン社 製品番号GAG-HS01)と共に、同様にヘパリンについてもウシ腎臓由来のヘパリン(シグマ社 製品番号H3393)およびブタ腸粘膜由来ヘパリン(イズロン社 製品番号H030)の2種類のヘパリンを用いた。各ヘパラン硫酸及び各ヘパリンの存在下、図の横軸に示す各濃度のFGF19で刺激し、DNA合成を測定した。解析結果を、図4に示す。まずウシ腎臓由来ヘパリン、ブタ腸粘膜由来ヘパリンはいずれもFGF19によるR4発現細胞、R4/betaKlotho共発現細胞の活性化を増強した。これに対して、ひとつの典型的なヘパラン硫酸であるウシ腎臓由来のヘパラン硫酸(生化学工業株式会社製)は、R4単独発現細胞、R4/betaKlotho共発現細胞のいずれの細胞のFGF19による活性化も増強しないことが明らかとなった。しかし、ブタ腸粘膜由来のヘパラン硫酸(イズロン社製)は、FGF19のR4/betaKlotho共発現細胞に対する活性化作用を、ヘパリンとほぼ同程度に増強したが、FGF19によるR4単独の発現細胞の活性化はほとんど増強しないことがわかった。以上のことから、ヘパラン硫酸はその由来によって異なる効果があり、各種ヘパラン硫酸を用いて、FGF19によるR4の活性化をbetaKlothoとの非共存下でのみ抑制できること、あるいは共存下でも抑制できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF19のFGF受容体活性化作用のうちで特定のFGF受容体への活性化作用のみを選択的に増強又は抑制する方法であって、多糖類を用いることを特徴とする、特定のFGF受容体への活性化作用のみを選択的に増強又は抑制する方法。
【請求項2】
FGF19のFGF受容体活性化作用のうちFGF受容体4への活性化作用のみを選択的に抑制する方法であって、グリコサミノグリカンを用いることを特徴とする、FGF受容体4への活性化作用のみを選択的に抑制する方法。
【請求項3】
FGF19のFGF受容体活性化作用がbetaKlothoの非共存下でのFGF受容体4の活性化作用である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
FGF19のFGF受容体を介した生物活性の選択的抑制剤であって、グリコサミノグリカンを有効成分として含む、FGF受容体4の活性化作用に対する選択的抑制剤。
【請求項6】
グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、請求項5に記載の選択的抑制剤。
【請求項7】
グリコサミノグリカンを有効成分として含む、FGF19の投与により引き起こされる腫瘍誘導活性化作用の抑制剤。
【請求項8】
グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、請求項7に記載の抑制剤。
【請求項9】
FGF19を有効成分として含む医薬組成物であって、さらにグリコサミノグリカンを有効量含むことを特徴とする、FGF19の投与による腫瘍誘導活性化作用が抑制された医薬組成物。
【請求項10】
グリコサミノグリカンがヘパラン硫酸である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、グルコース取り込み昂進、血糖値低下、血中中性脂肪の低下、血中コレステロールの低下、及びメタボリズム制御のいずれかを治療又は予防するための医薬組成物である、請求項9又は10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
FGF19によるFGF受容体を介した生物活性を増強又は抑制する物質のスクリーニング方法であって、
(1)FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない細胞を宿主としてFGF受容体遺伝子及びbetaKlotho遺伝子を導入し、細胞表面にFGF受容体及びbetaKlothoを発現させた形質転換細胞の系に対して披検物質と共にFGF19を作用させる工程、又は
(2)FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない細胞を宿主としてFGF受容体遺伝子及びbetaKlotho遺伝子と共に披検物質遺伝子を導入して、FGF受容体及びbetaKlothoと同時に披検物質も細胞表面に発現させた形質転換細胞の系に対してFGF19を作用させる工程、
を含むスクリーニング方法であって、FGF19の作用により特定のFGF受容体のみの生物活性を増加又は減少させる被検物質を選択する方法。
【請求項13】
請求項12に記載のスクリーニング方法において、FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない宿主細胞を複数用意し、それぞれの細胞にbetaKlotho遺伝子と共に、又はbetaKlotho遺伝子と披検物質遺伝子と共にFGF受容体遺伝子を導入する際に、FGF受容体4遺伝子を含む異なる種類のFGF受容体遺伝子を、各宿主細胞にそれぞれ導入し、異なる種類のFGF受容体がbetaKlotho又はbetaKlothoと披検物質と共に発現している形質転換細胞系を構築し、各形質転換細胞系においてFGF19を被検物質存在下で作用させてFGF19によるFGF受容体活性化作用を比較し、FGF受容体4活性化作用のみを選択的に抑制する被検物質を選択する工程を含む、FGF19によるFGF受容体4を介した生物活性の活性化作用のみを選択的に抑制する物質をスクリーニングするための請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、FGF19の投与に基づく腫瘍誘導活性化作用の抑制物質のスクリーニング方法である、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない宿主細胞にFGF受容体遺伝子及びbetaKlotho遺伝子を導入し、細胞表面にFGF受容体及びbetaKlothoを発現させた形質転換細胞の系、及びFGF19を組み合わせてなる、FGF19によるFGF受容体を介した生物活性を増強又は抑制する物質のスクリーニング用のキット。
【請求項16】
FGF受容体及びbetaKlothoのいずれをも内在的に発現していない複数の宿主細胞に、betaKlotho遺伝子と共にFGF受容体4遺伝子を含む異なる種類のFGF受容体遺伝子が別々に導入され、各々の形質転換細胞表面で異なるFGF受容体及びbetaKlothoが発現している複数の形質転換細胞系、及びFGF19を組み合わせてなる、FGF19によるFGF受容体4を介した生物活性の活性化作用のみを選択的に抑制する物質のスクリーニング用のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−150232(P2010−150232A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205650(P2009−205650)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】